説明

リアユニット及びその制御装置

【課題】本願発明は、バッテリ冷却と熱回収の相乗効果を達成し、効率の良いコンパクトで安価なリアユニット及びその制御装置を提供する。
【解決手段】本願発明は、バッテリを収納するバッテリ収納室と、該バッテリ収納室と室内を連通する吸気通路と、前記バッテリ収納室と車外とを連通する排気通路と、前記吸気通路上に配され、前記室内から空気を吸引して前記バッテリ収納室に供給する送風機とを少なくとも具備するリアユニットにおいて、前記バッテリ収納室の上流側に配置される熱回収用コアと、前記吸気通路と前記排気通路とを連通する循環通路と、前記吸気通路及び前記循環通路から吸引される空気の比率を可変する第1のドアと、前記排気通路から循環通路及び室外へ排気される空気の比率を可変する第2のドアとを具備することにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車の動力源としてのバッテリの冷却を行うと共に電気自動車の暖房時の熱源の不足を解消するリアユニットとその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリの排熱を室内暖房の熱源として利用する装置においては、バッテリ自体が十分な暖房熱源となりうる反面、「高価である」、「作動中は常時バッテリを冷却する必要がある」、「バッテリの作動温度が高いため、一旦常温に戻ると作動温度になるまでに長時間加熱する必要がある」等の問題点があり、そのため、特許文献1に開示される発明は、最適作動温度が常温付近のバッテリの発生する熱を利用しながら車室内を十分に暖房すると共に、バッテリの温度が常に最適作動温度となるように制御してバッテリの出力、容量、寿命の低下を防ぐことのできるバッテリ温度制御装置にある。このため、このバッテリ温度制御装置は、バッテリと熱交換するバッテリ保温槽を備え、保温槽を流れる冷却水は、ラジエータ内を流れて外気と熱交換して放熱すると共に、ヒータコア内を流れて車内に吹き出される空気と熱交換して放熱する。また、バッテリの温度が低い時には、インバータやモータの排熱によってバッテリを加熱するようになっている。
【0003】
ハイブリッド自動車等の車両におけるバッテリ又は高圧電装部品の冷却装置において、インストルメントパネル内に冷却ファンを配置した場合、冷却ファンとフロアパネル上のバッテリ等とが遠ざかるため、圧力損失及び冷却風漏れが増加し、バッテリ等の冷却効率が低下するため、特許文献2に係る発明は、バッテリ又は高圧電装部品を冷却するための冷却ファンを車室外に配置したことを特徴とするものである。特に冷却ファンはバッテリ等の近傍又はフロアパネルの下方に配置されることが開示されている。さらに、温度の安定した車室内の空気を用いてバッテリ等を冷却すること、バッテリ等の廃熱をヒータとして利用することが開示されている。
【0004】
また、従来の電気自動車において、冬時期のように外気温度が低い場合には、バッテリを加熱して速やかに最適温度にする必要があり、このバッテリ加熱用の熱源の確保に改善の余地があった。このため、特許文献3では、例えば室内用空調装置である温風発生手段と、バッテリと、回転電機と、バッテリからの電気エネルギーを交流に変化して回転電機を駆動するインバータと、温風発生装置から回転電気又はインバータを経由してバッテリに至る第1の送風経路とを備えるバッテリ温度管理装置を開示する。
【0005】
特許文献4は、構成の複雑化を抑止しつつ少ない消費電力でバッテリの高温劣化の抑止を実現した電気自動車用バッテリの強制冷却装置を開示する。この強制冷却装置は、バッテリに外気冷却風を送風してバッテリの冷却を実現するもので、バッテリの温度を検出し、その温度が冷却停止用設定温度値以下となった場合に、バッテリ冷却ファンの運転を停止するようにしたものである。
【特許文献1】特開平6−24238号公報
【特許文献2】特開2005−306239号公報
【特許文献3】特開2006−120334号公報
【特許文献4】特開2001−130268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気自動車の課題として、暖房時の能力不足とバッテリの冷却が挙げられる。このため、上述した特許文献1〜3では、バッテリの熱を利用して暖房の能力不足を解消使用とする試みがなされているが、いずれの場合も構造が複雑であるという不具合を有している。また、特許文献4に開示されるように、簡単な構造のバッテリ冷却構造では、冷却後の空気は外部に排出される。
【0007】
このため、本願発明は、バッテリ冷却と熱回収の相乗効果を達成し、効率の良いコンパクトで安価なリアユニット及びその制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本願発明は、バッテリを収納するバッテリ収納室と、該バッテリ収納室と室内を連通する吸気通路と、前記バッテリ収納室と車外とを連通する排気通路と、前記吸気通路上に配され、前記室内から空気を吸引して前記バッテリ収納室に供給する送風機とを少なくとも具備するリアユニットにおいて、前記バッテリ収納室の上流側に配置される熱回収用コアと、前記吸気通路と前記排気通路とを連通する循環通路と、前記吸気通路及び前記循環通路から吸引される空気の比率を可変する第1のドアと、前記排気通路から循環通路及び室外へ排気される空気の比率を可変する第2のドアとを具備することにある。
【0009】
また、前記吸気通路の室内側端部近傍には、フィルタが配されることが望ましい。これにより、室内空気に含まれる塵埃から、リアユニットの各部機構を保護できるものである。
【0010】
さらに、前記熱回収用コアは、室内の空気を温調する空気調和装置と接続されることが望ましい。これにより、回収された熱は、空気調和装置の熱源の不足を補うことができるものである。
【0011】
上述したリアユニットは、前記バッテリ収納室の温度を検出するバッテリ温度検出手段と、前記室内の温度を検出する室内空気温度検出手段と、前記バッテリ温度検出手段によって検出されたバッテリ温度及び前記室内空気温度検出手段によって検出された室内温度に基づいて、前記熱回収用コア、前記第1のドア及び前記第2のドアを制御する制御手段とを具備する制御装置によって制御されることが望ましい。
【0012】
また、前記制御手段は、室内の空調を司る室内空調装置の作動信号及び前記バッテリ温度に基づいて、前記送風機の制御を行うことが望ましい。さらに、バッテリ温度検出手段によって検出されたバッテリ温度が所定値以上の場合に、バッテリの急冷制御を実行することが望ましい。
【0013】
さらにまた、前記バッテリ収納室には、有毒ガスの有無を検出する有毒ガス検出手段が設けられ、前記制御手段は、該有毒ガス検出手段によって有毒ガスの存在が検出された場合に、強制排気制御を実行することが望ましい。これにより、バッテリ異常により発生した有毒ガスが室内へ流入するのを防止することができるものである。
【発明の効果】
【0014】
本願発明に係るリアユニットによれば、バッテリ収納室の上流側に配置される熱回収用コアを設けると共に、前記バッテリ収納室と室内とを連通する吸気通路と前記バッテリ収納室と室外とを連通する前記排気通路とを連通する循環通路を設け、前記吸気通路及び前記循環通路から吸引される空気の比率を可変する第1のドアと、前記排気通路から循環通路及び室外へ排気される空気の比率を可変する第2のドアとを具備したことによって、必要に応じて熱回収が可能となるため暖房効率を向上させることができると共に、バッテリ収納室内に配置されるバッテリを効率よく冷却することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施例について図面により説明する。
【実施例】
【0016】
本願発明に係るリアユニット1は、図1に示すように、基本的に図示しない電気自動車、ハイブリッド車、特殊自動車等の動力源となるバッテリを収納するバッテリ収納室6に車室2内の空気を供給し、バッテリ冷却後の空気を室外3へ放出する。バッテリ収納室6は、この実施例では、床部4と底板部5との間の空間に配置されるもので、車室2に開口した吸入側開口部9と連通する吸気通路7と、室外3に開口する排気口21とを連通する排気通路11を具備する。さらに、前記吸気通路7上には、車室2に開口した吸気開口部9から室内空気を吸引して、前記バッテリ収納室6へ送風する送風機8が配され、さらに前記吸気開口部9の近傍にはフィルタ10が配される。
【0017】
さらに本願発明に係る前記リアユニット1は、前記送風機8の上流側に車室内の温調を司る空気調和装置(HVAC)15と配管22で接続される熱回収用コア23を具備し、さらに前記排気通路11と前記熱回収用コア23の上流側に位置する吸気通路7の上流側吸気通路7aとを連通する循環通路12を具備する。またこの循環通路12と上流側吸気通路7aと合流点には、熱回収用コア23を通過する空気の割合を調節するための第1のドア13が設けられ、さらに循環通路12と排気通路11の合流点には循環通路12へ流入する空気量と室外へ放出される空気量を調節するための第2のドア14が設けられる。
【0018】
さらに、前記送風機8、前記第1のドア13を駆動するアクチュエータ19、前記第2のドア14を駆動するアクチュエータ20は、それぞれコントロールユニット16によって制御される。また、このコントロールユニット16には、室内温度を検出する温度センサ17及びバッテリ温度を検出する温度センサ18からの信号が少なくとも入力され、さらに車室内を空調する空気調和装置15の制御信号が入力される。同様に、コントロールユニット16の制御信号が空気調和装置15へ出力される。尚、前記温度センサ18の近傍に有毒ガス検出センサを設けても良いものである。
【0019】
さらにまた、前記空気調和装置15と配管22によって接続される前記熱回収用コア23によって回収された熱は、前記空気調和装置15の熱源の一部として使用されるものである。尚、配管22内には熱交換媒体として、この実施例では水が流れるものであるが、ガスその他の媒体であっても良いものである。
【0020】
前記コントロールユニット16で実行される制御の一例が、図2に示される。以下、ステップ100より開始されるフローチャートに従って説明する。
【0021】
ステップ100から開始されるリアユニット1の制御は、ステップ110において、バッテリ温度Tbが第1の所定値α以上か否かの判定が行われる。このステップ100において、有毒ガス検出センサを用いた場合には、有毒ガスの有無を判定するものである。このステップ100の判定においてバッテリに異常がないと判定された場合(N)には、ステップ120に進んで、室内温度Trが所定値β以上であるか否かの判定を行う。ステップ120の判定において室内温度Trが所定値β以上である場合(Y)にはステップ130へ進み、所定値βより小さい場合にはステップ140に進む。そしてそれぞれのステップ130又はステップ140において、バッテリ温度Tbが第2の所定値γより小さいか否かの判定を行う。尚、第1の所定値αは第2の所定値γよりかなり大きな値となる(α>γ)。
【0022】
以上のステップ110〜140の判定によって、室内温度Trが所定値β以上(高)、バッテリ温度Tbが第2の所定値より低い(低)場合には、ステップ150に進んで制御Aが選択され、室内温度Trが所定値βより低く(低)、バッテリ温度Tbが第2の所定値より高い(高)場合には、ステップ160に進んで制御Bが選択され、室内温度Trが所定値β以上(高)、バッテリ温度Tbが第2の所定値より高い(高)場合には、ステップ170に進んで制御Dが選択され、室内温度Trが所定値βより低く(低)、バッテリ温度Tbが第2の所定値より低い(低)場合には、ステップ180に進んで制御Eが選択される。また、ステップ110の判定においてバッテリの異常が検出された場合(Y)には、ステップ190に進んで制御Cが選択される。
【0023】
前記ステップ150における制御Aは、室内温度Trが高くバッテリ温度Tbが低い場合に選択されるもので、図3(a)で示すように、第1のドア13は、吸入側開口部9からの空気の割合を大きく、循環通路12からの空気の割合を小さくするように制御され、さらに第2のドア14は、排気口21から排出される空気の割合が大きく、循環通路12に至る空気の割合を小さくするように設定される。具体的には、循環される空気量を小さくするように制御される。また、室内温度Trが高いことから、熱回収用コア23を作動させて室内2からの空気の熱を回収して空気調和装置15の熱源の一部とすることもできるし、熱回収用コア23の作動を停止させ、高い温度の室内空気によってバッテリ温度を、作動に最適な温度まで上昇させるようにしてもよいものである。
【0024】
前記ステップ160における制御Bは、室内温度Trが低くバッテリ温度Tbが高い場合に選択されるもので、図3(b)で示すように、第1のドア13は、吸入側開口部9からの空気の割合を小さく、循環通路12からの空気の割合を大きくするように制御され、さらに第2のドア14は、排気口21から排出される空気の割合が小さく、循環通路12に至る空気の割合を大きくするように設定される。具体的には、循環される空気量が多くなるように制御される。この場合は、バッテリによって加熱された空気の熱を熱回収用コア23によって回収できる。さらに、熱回収用コア23によって冷却された空気によってバッテリ温度を下げるようにようにできる。
【0025】
前記ステップ170における制御Dは、室内温度Trが高くバッテリ温度Tbも高い場合に選択されるもので、第1のドア13及び第2のドア14は、図3(a)に示される前記制御Aと同様の位置に設定される。この制御Dの場合、室内温度Trもバッテリ温度Tbも高いため、熱回収用コア23によって室内空気の熱を回収して冷却し、この冷却された空気によってバッテリの冷却を行い、暖まった空気は排気口21から排出するようにしたものである。尚、場合によって循環率を0%とするようにしても良いものである。
【0026】
前記ステップ180における制御Eは、室内温度Trが低くバッテリ温度Tbも低い場合に選択されるもので、第1のドア13及び第2のドア14は、図3(b)に示される制御Bと同様の位置に設定される。この制御Eの場合、室内温度Tr及びバッテリ温度Tbが共に低いため、熱回収用コア23による熱回収は停止される。尚、この場合、100%循環モードとすることも可能である。
【0027】
前記ステップ190における制御Cは、バッテリ温度が異常に高い場合又は有害ガスが発生した場合に選択されるもので、第1のドア13及び第2のドア14は図3(c)で示されるように設定され、車室内から吸引された空気によってバッテリを冷却するか、バッテリ収納室6内に発生した有害ガスを室外に排出するようにしたものである。
【0028】
また、前記制御A〜Eにおいて、前記第1のドア13及び第2のドア14の開度と送風機8の駆動状態も、それぞれの場合に適するように変化可能であり、さらに空気調和装置15の稼働状態に合わせて調節することも可能である。具体的には、送風機8の回転速度Fsを、空気調和装置15の稼働状態を示す因子(例えば、作動信号)Dsとバッテリ温度Tbとによって決定するものである(例えば、Fs=F(Ds,Tb)+C)。
【0029】
さらに、作動タイマを設け、この作動タイマの信号によってドア位置を選択するようにしても良いものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本願発明の実施例に係るリアユニットの概略構成図である。
【図2】本願発明の実施例に係るリアユニットの制御例を示したフローチャート図である。
【図3】(a)〜(c)は、本願発明のリアユニットの作動状態を例を示した概略図である。
【符号の説明】
【0031】
1 リアユニット
2 室内
3 室外
4 床部
5 底板部
6 バッテリ収納室
7 吸気通路
8 送風機
9 吸気開口部
10 フィルタ
11 排気通路
12 循環通路
13 第1のドア
14 第2のドア
15 空気調和装置
16 コントロールユニット
17 室内温度センサ
18 バッテリ温度センサ
19、20 アクチュエータ
21 排気口
22 配管
23 熱回収用コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリを収納するバッテリ収納室と、該バッテリ収納室と室内を連通する吸気通路と、前記バッテリ収納室と車外とを連通する排気通路と、前記吸気通路上に配され、前記室内から空気を吸引して前記バッテリ収納室に供給する送風機とを少なくとも具備するリアユニットにおいて、
前記バッテリ収納室の上流側に配置される熱回収用コアと、
前記吸気通路と前記排気通路とを連通する循環通路と、
前記吸気通路及び前記循環通路から吸引される空気の比率を可変する第1のドアと、
前記排気通路から循環通路及び室外へ排気される空気の比率を可変する第2のドアとを具備することを特徴とするリアユニット。
【請求項2】
前記吸気通路の室内側端部近傍には、フィルタが配されることを特徴とする請求項1記載のリアユニット。
【請求項3】
前記熱回収用コアは、室内の空気を温調する空気調和装置と接続されることを特徴とする請求項1又は2記載のリアユニット。
【請求項4】
前記バッテリ収納室の温度を検出するバッテリ温度検出手段と、
前記室内の温度を検出する室内空気温度検出手段と、
前記バッテリ温度検出手段によって検出されたバッテリ温度及び前記室内空気温度検出手段によって検出された室内温度に基づいて、前記熱回収用コア、前記第1のドア及び前記第2のドアを制御する制御手段とを具備することを特徴とする請求項1,2又は3記載のリアユニットの制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、室内の空調を司る室内空調装置の作動信号及び前記バッテリ温度に基づいて、前記送風機の制御を行うことを特徴とする請求項4記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、バッテリ温度検出手段によって検出されたバッテリ温度が所定値以上の場合に、バッテリの急冷制御を実行することを特徴とする請求項4又は5記載の制御装置。
【請求項7】
前記バッテリ収納室には、有毒ガスの有無を検出する有毒ガス検出手段が設けられ、
前記制御手段は、該有毒ガス検出手段によって有毒ガスの存在が検出された場合に、強制排気制御を実行することを特徴とする請求項4,5又は6記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−23482(P2009−23482A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187941(P2007−187941)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(500309126)株式会社ヴァレオサーマルシステムズ (282)
【Fターム(参考)】