説明

不揮発性記憶素子、その製造方法及び不揮発性記憶装置

【課題】電気的性能及び耐プロセス性能が優れた不揮発性記憶素子、その製造方法及び不揮発性記憶装置を提供する。
【解決手段】セリウムと、3価を取り得る金属元素であってセリウムとは異なる金属元素と、を含む蛍石型構造の酸化物を含み、印加される電圧及び通電される電流の少なくともいずれかによって互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移可能な記録層を備えたことを特徴とする不揮発性記憶素子が提供される。また、上記の不揮発性記憶素子と、前記不揮発性記憶素子の前記記録層への電圧の印加、及び、前記記録層への電流の通電、の少なくともいずれかによって、前記記録層を前記互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移させて情報を記録する駆動部と、を備えたことを特徴とする不揮発性記憶装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不揮発性記憶素子、その製造方法及び不揮発性記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の電子機器の大いなる進歩と開発は、NAND型フラッシュメモリやHDD(Hard disk drive)等の記憶装置の小型化や省電力化、高速書き込みなどに依存するところが大きい。しかしながら、これらの記憶装置において、記憶容量の高密度化には限界があると言われている。
【0003】
これに対し、次の記憶装置として、相変化を利用するもの、磁気変化を用いるもの、強誘電体を利用するもの、抵抗変化を利用いるものなど、さまざまなメモリが提案されている。このなかで、抵抗変化型のメモリ、いわゆるReRAM(Resistive Random Access Memory)は、微細加工により消費電力が低減し、書き込み読み出し速度が従来よりも大幅に改善できるとして、期待が大きい。
【0004】
このReRAMにおいては、電圧を印加して通電されることによって抵抗値が変化する抵抗変化材料が記録層として用いられる。この抵抗変化材料として各種の材料が提案されているが、実用的な動作電圧や動作耐久性等の電気的性能や、記録装置の製造工程に耐え得る耐熱性、耐薬品性、他に用いられる材料との整合性等の各種の耐プロセス性能などに関する実用化のための要求を満たす材料は見出されていない。
【0005】
なお、記憶層としてCeOを用い、これとCu、Ag、Zn等の特定のイオン源層とを組み合わせた記憶素子に関する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−157941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電気的性能及び耐プロセス性能が優れた不揮発性記憶素子、その製造方法及び不揮発性記憶装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、セリウムと、3価を取り得る金属元素であってセリウムとは異なる金属元素と、を含む蛍石型構造の酸化物を含み、印加される電圧及び通電される電流の少なくともいずれかによって互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移可能な記録層を備えたことを特徴とする不揮発性記憶素子が提供される。
【0008】
また、本発明の他の一態様によれば、印加される電圧及び通電される電流の少なくともいずれかによって互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移可能な記録層を有する不揮発性記憶素子の製造方法であって、基板の上に設けられた導電層の上に、セリウムと、3価を取り得る金属元素であってセリウムとは異なる金属元素と、を含む蛍石型構造の酸化物を含む層を成膜することを特徴とする不揮発性記憶素子の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明の他の一態様によれば、印加される電圧及び通電される電流の少なくともいずれかによって互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移可能な記録層を有する不揮発性記憶素子の製造方法であって、基板の上に設けられた導電層の上に、セリウムと、3価を取り得る金属元素であってセリウムとは異なる金属元素と、のうちの一方を含む第1層を成膜し、前記第1層の上に、セリウム及び前記金属元素のうちの他方を含む第2層を成膜し、前記第1層と前記第2層との間で、セリウム及び前記金属元素のうちの少なくとも一方を拡散させて、セリウムと前記金属元素とを含む蛍石型構造の酸化物を生成することを特徴とする不揮発性記憶素子の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明の他の一態様によれば、上記の不揮発性記憶素子と、前記不揮発性記憶素子の前記記録層への電圧の印加、及び、前記記録層への電流の通電、の少なくともいずれかによって、前記記録層を前記互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移させて情報を記録する駆動部と、を備えたことを特徴とする不揮発性記憶装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気的性能及び耐プロセス性能が優れた不揮発性記憶素子、その製造方法及び不揮発性記憶装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
また、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0013】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子は、各種の構成の不揮発性記憶装置に応用できる。以下では、まず、不揮発性記憶素子が、クロスポイント型の不揮発性記憶装置に応用される例として説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子の構成を例示する模式図である。
すなわち、同図(a)は、不揮発性記憶素子の構成を例示する模式的斜視図であり、同図(b)は不揮発性記憶素子に用いられる酸化物の構成を例示する模式図である。
【0014】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子が適用される不揮発性記憶装置の構成を例示する模式図である。
すなわち、同図(a)は模式的斜視図であり、同図(b)は模式的平面図である。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子が適用される不揮発性記憶装置の構成を例示する模式的断面図である。
すなわち、同図(a)及び(b)は、それぞれ図2のA−A’線断面図及びB−B’線断面図である。
図4は、本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶装置が適用される別の不揮発性記憶素子の構成を例示する模式的断面図である。
図5は、本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子が適用される別の不揮発性記憶装置の構成を例示する模式的斜視図である。
【0015】
図1(a)に表したように、本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子140は、例えば、第1配線110と第2配線120との間に設けられる。そして、不揮発性記憶素子140は、第1配線110と第2配線120とによって印加される電圧及び通電される電流の少なくともいずれかによって互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移することによって情報を記録することが可能な記録層140Rを備える。すなわち、記録層140Rは抵抗変化層である。記録層140Rにおいては、互いに異なる抵抗を有する複数の状態が可逆的に遷移可能である。
【0016】
図1(b)に表したように、記録層140Rは、セリウム(Ce)元素50と、3価を取り得る金属元素55と、を含む蛍石型構造の酸化物70を含む。ここで、本願明細書において、3価を取り得る金属元素55を「3価金属元素55」と省略して呼ぶことにする。
すなわち、酸化物70は、セリウム元素50と3価金属元素55と酸素60とを含む化合物である。
【0017】
3価金属元素55としては、例えば、ランタノイド族の金属元素(Ceを除く)や、ランタノイド族ではないYや、Al等を用いることができる。ここで3価金属元素55は、3価を取ることができれば良く、例えば3価及び2価を取る元素を用いても良い。本具体例では、3価金属元素55として、ランタノイド族のSmが用いられている。
ここで、Ce元素50は4価を取るが、僅かながら3価も取ることができる。なお、3価金属元素55は、Ceを含まない。従って、酸化物70は、セリウムと、3価を取り得る金属元素であってセリウムを除く金属元素と、を含み、蛍石型構造を有する酸化物である。
すなわち、記録層140Rは、セリウム元素50と、Ce元素50とは異なる3価金属元素55と、を含む蛍石型構造の酸化物70を含む。
【0018】
このように、酸化物70は、蛍石型構造を有する。なお、Ce元素50の酸化物であるCeOは、蛍石型構造を有する。従って、酸化物70は、Ce元素50と、それとは別であり金属元素と、を含む酸化物でありながら、CeOの蛍石型構造が維持されている。従って、図1(b)に表したように、4価のCe元素50の一部が3価の3価金属元素55によって置換され、この時、電荷中性の条件を満たすため、酸化物70には酸素欠損61が生じる。
【0019】
本実施形態に係る不揮発性記憶素子140においては、この人工的に造られた酸素欠損61を用いた導電機構を採用することで、所望の動作電圧と高い動作耐久性を実現し、そして、耐熱性、耐薬品性、各種の材料との整合性等の高い耐プロセス性能を有する。
【0020】
なお、本具体例では、第2配線120と不揮発性記憶素子140との間には、電流の通電方向を制御するダイオード等からなる整流素子部150が設けられている。なお、後述するように、整流素子部150の配置に関しては任意であり、また整流素子部150は省略しても良い。
【0021】
以下、図2及び図3により、本実施形態の不揮発性記憶素子140が応用される不揮発性記憶装置の構成の一例を説明する。
図2に表したように、本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子140が応用される不揮発性記憶装置10においては、基板105の主面の上に、X軸方向に延在する帯状の第1配線110が設けられている。そして、基板105に平行な面内でX軸と直交するY軸方向に延在する帯状の第2配線120が、第1配線110に対向して設けられている。
なお、上記では、第1配線110と第2配線120が直交する例であるが、第1配線110と第2配線120とは交差していれば良く、すなわち非平行であれば良い。
なお、このように、基板105の主面に対して並行な平面をX−Y平面とし、第1配線110の延在する方向をX軸とし、X−Y平面内においてX軸と直交する軸をY軸とし、X軸及びY軸に対して垂直な方向をZ軸とする。
【0022】
なお、図2においては、第1配線110と第2配線120とは、それぞれ4本ずつ例示されているが、これには限らず、第1配線110と第2配線120の数は任意である。そして、例えば、第1配線110がビット配線BLとなり、第2配線120がワード配線WLとなる。ただし、この場合、第1配線110をワード配線WL、第2配線120をビット配線BLとしても良い。以下では、第1配線110がビット配線BLであり、第2配線120がワード配線WLであるとして説明する。
【0023】
そして、第1配線110と第2配線120との間に不揮発性記憶素子140(記録層140R)が挟まれている。すなわち、不揮発性記憶装置10では、ビット配線BLとワード配線WLが3次元的に交差して形成される交差部130(クロスポイント)に不揮発性記憶素子140(記録層140R)が設けられている。
【0024】
そして、第1配線110に与える電位と第2配線120に与える電位の組み合わせによって、各不揮発性記憶素子140に印加される電圧が変化し、その時の記録層140Rの特性によって、情報を記憶することができる。
【0025】
この時、記録層140Rに印加される電圧の極性に方向性を持たせるために、例えば整流特性を有する整流素子部150を設けることができる。整流素子部150には、例えば、PINダイオードやMIM(Metal-Insulator-Metal)素子などを用いることができる。なお、整流素子部150は、第1配線110と第2配線120とが対向する領域以外の領域に設けても良い。さらには、整流素子部150は、必要に応じて設ければ良く、場合によっては省略可能である。
【0026】
なお、第1配線110と第2配線120との間に、記録層140R及び整流素子部150を設ける場合において、記録層140R及び整流素子部150の積層順は任意である。そして、後述するように、第1配線110、記録層140R、整流素子部150及び第2配線120からなる積層構造が、さらに複数積層されて設けられる場合において、記録層140R及び整流素子部150の積層順は任意であり、例えば、それぞれの積層構造において、記録層140R及び整流素子部150の積層順を同一にしても良く、また、変えても良い。
【0027】
基板105には、例えばシリコン基板を用いることができ、そして、そのシリコン基板には不揮発性記憶装置を駆動する駆動回路を設けることもできる。
第1配線110及び第2配線120には、金属やポリシリコン等を含む各種の導電性材料を用いることができる。
【0028】
なお、図1(a)及び図2(a)に表したように、第1配線110と第2配線120とが、3次元的に交差して形成される両者間の領域に、不揮発性記憶素子140(記録層140R)は設けられ、1つの不揮発性記憶素子140が1つの記憶要素であり、メモリセルと言う。
【0029】
また、図3に表したように、第1配線110と、第2配線120と、記録層140Rとは、間隔を置いて設けられた複数の領域を有しており、その複数の領域に挟まれるように、絶縁部160が設けられている。なお、図2においては、絶縁部160は省略されて描かれている。
絶縁部160には、例えば、電気抵抗の高い酸化珪素(SiO)等を用いることができる。ただし、これに限らず、絶縁部160には、記録層140Rの電気抵抗より高い各種の材料を用いることができる。
【0030】
また、図4に表したように、記録層140Rの上下に、記録層140Rに電圧を印加するための下部電極141及び上部電極142を設けることができる。なお、下部電極141、記録層140R及び上部電極142はメモリセル148に含まれる。不揮発性記憶素子140は、メモリセル148を含み、すなわち、下部電極141、記録層140R及び上部電極142を含む。
【0031】
また、例えば、下部電極141と記録層140Rとの間、及び、上部電極142と記録層140Rとの間、に中間層141b及び中間層142bとを設けることができる。中間層141b及び142bは、バリア層としての機能を有することができる。不揮発性記憶素子140は、さらに中間層141b及び142bを含むことができる。ただし、これら中間層141b及び142bは、必要に応じて設けられるものであり、省略可能である。
【0032】
また、整流素子部150と第2配線120との間に、中間層150bを設けることもできる。中間層150bは、バリア層としての機能を有することができる。中間層150bは、必要に応じて設けられるものであり、省略可能である。
【0033】
なお、本具体例では、整流素子部150は、不揮発性記憶素子140、すなわち、メモリセル148とは別の要素とされているが、整流素子部150は不揮発性記憶素子140、すなわちメモリセル148の一部として見なしても良い。
【0034】
なお、下部電極141及び上部電極142の少なくともいずれかは、記録層140Rに隣接する、例えば、第1配線110、整流素子部150、第2配線120、及び各種のバリア層の少なくともいずれかと兼用されても良く、また省略することもできる。
以下では、中間層141b、142b及び150bがない場合として説明する。
【0035】
なお、図5(a)及び(b)に表したように、第1配線110、第2配線120、並びに、それらに挟まれた不揮発性記憶素子140(記録層140R)及び整流素子部150をさらに複数積み重ねて、3次元構造の不揮発性記憶装置20及び21を構成することもできる。すなわち、不揮発性記憶装置20及び21は、ワード配線WLと、ビット配線BLと、ワード配線WL及びビット配線BLとの間に設けられた不揮発性記憶素子140と、を含む積層構造体が複数積層される。
【0036】
既に説明したように、本実施形態に係る不揮発性記憶素子140は、セリウム元素50と、3価金属元素55と、を含み、蛍石型構造を有する酸化物70からなる記録層140Rを用いている。すなわち、酸化物70においては、耐熱性と耐薬品性にすぐれたCeOの蛍石型構造において、Ce元素50の一部が3価金属元素55によって置換された構造を有す。これにより、酸素欠損61を安定して形成することができ、所望の動作電圧と高い動作耐久性を実現しつつ、蛍石型構造に由来する高耐熱性、高耐薬品性、高プロセス整合性を有する。
【0037】
蛍石型構造を有するCeOは耐熱性が高い。例えば、800℃でTiN上にCeOを成膜した時も、CeOとTiNとの相互作用によって複合化合物がほとんど形成されない。また、CeOは、例えば固体電解質燃料電池の電極として用いられている材料であり、高い耐熱性を示す。また、CeOは、TFA−MOD(Metal Organic Deposition using trifluoroacetates)法における超電導成膜の中間層としても知られ、例えば750℃において水蒸気やフッ化水素ガスにも耐性がある。そして、CeOは耐薬品性も高く、化学的にも安定である。
【0038】
そして、図1(b)に表したように、Ce元素50は4価を取る金属元素であるが、本実施形態の不揮発性記憶素子140においては、Ce元素50のサイトの一部に3価金属元素55を置換して導入する。
【0039】
この時、3価金属元素55としては、原子半径がイオンの状態でもCeに近いランタノイド族の全元素(Ceを除く)を用いることができ、Ce元素50のサイトを置換することができる。また、3価金属元素55としては、Ceと同じ族のYや、3価を取り得るAlも、用いることができる。
【0040】
この時、3価金属元素55によってCe元素50のサイトを置換する際に、CeOの結晶構造である蛍石型構造が維持されるようにする。
【0041】
置換可能量は、3価金属元素55に用いられる元素の原子半径などにより異なってくる。
例えば、Ce元素50をランタノイド族の元素によって置換する際には、ランタノイド族の全ての元素で20モル%以下の置換において、蛍石型構造が維持される。また、例えば、SmやEuによってCe元素50を置換する際には、40モル%以下において、蛍石型構造が維持される。このように、ランタノイド族の1つであるCe元素50と原子半径が実質的に等しいランタノイド族の元素を3価金属元素55として用いる際には、その組成比における自由度が高く、比較的広い範囲の組成比で、Ce元素50を3価金属元素55で置換することができる。これにより、記録層140Rの電気的特性を所望の仕様に調整することがし易くなる。
【0042】
一方、3価金属元素55として、ランタノイド族以外の元素を用いる際には、Ce元素50と原子半径が実質的に異なる材料でCe元素50を置換することになる。この時は、3価金属元素55の組成比を高めると、結晶構造が変化してしまう。すなわち、良好な蛍石型構造が維持し難くなる。従って、3価金属元素55として、ランタノイド族以外の元素を用いる際には、高耐熱性の蛍石型構造を維持する状態の組成比とする。
【0043】
上記のように、ランタノイド族の元素を用いる場合には、酸化物70に含まれる金属元素の合計に対する3価金属元素55のモル比は20%以下とすることができる。また、その中でも、SmやEuを用いる場合には3価金属元素55のモル比は40%以下とすることができる。従って、酸化物70に含まれる金属元素の合計に対するセリウム元素50のモル比は、60%よりも高い。これにより蛍石型構造が維持される。
【0044】
酸化物70において、3価金属元素55によってCe元素50のサイトの一部を置換することによって、Ce元素50及び3価金属元素55の合計の価数の平均値は、Ce元素50の価数である4よりも小さな値を取ることになる。一方、酸素60は常に価数が2であるので、酸化物70の全体としては、酸素の2分の1倍以上のモル数の金属元素が存在することで電荷中立の法則が成り立つことになる。酸化物70の全体としての酸素60及び金属(Ce元素50及び3価金属元素55の合計)の欠損量は、温度などの条件により決まるが、この状態では、金属元素のサイトが埋まり、酸素60の側のサイトに欠損が集中することとなる。
【0045】
すなわち、Ce元素50のサイトの一部を3価金属元素55によって置換することで、酸化物70に酸素欠損61が生じる。
【0046】
このように、CeOにおいて、3価のみを取り得るか、または、2価及び3価を取り得る3価金属元素55によってCe元素50のサイトの一部を置換することにより、人為的な酸素欠損61を安定して作り出すことでき、この構造を安定して維持できることになる。例えば、CeOにおいて、Smを用いて、Ce元素50を20モル%置換してやれば、Sm0.2Ce0.81.9となり、CeOと比較して、5%の酸素欠損61を作り出せることになる。
【0047】
そして、3価金属元素55の組成比、すなわち、CeOの蛍石型構造においてCe元素50を3価金属元素55で置換する割合、を変えることで、酸素欠損61の量を任意に制御することができ、これを用いて、動作電圧等の電気的特性を実用的な所望な値に制御することができる。
【0048】
本実施形態に係る不揮発性記憶素子140においては、記録層140Rの酸化物70は、図1(b)に例示した蛍石型構造を持つ頑丈な構造を持ち、イオンの移動は比較的難しい構造である。しかし、酸化物70は、蛍石型構造をとったまま酸素欠損61を有している。この時、蛍石型構造において、酸素が欠損すると絶縁性が大きく崩れ、抵抗値が小さい方向へと変化する。すなわち、スイッチングのセット時において、酸素欠損61により低抵抗でエネルギー的に不安定な状態へと変化する。そして、リセット時には、熱によって安定な絶縁体に戻り、この時、高抵抗でエネルギー的に安定な状態へ戻る。このスイッチング機構を酸素欠損によるスイッチング機構と呼ぶことにする。
【0049】
本実施形態に係る不揮発性記憶素子140の記録層140Rでは、蛍石型構造のCeOにおいて、人為的に酸素欠損61が安定的に形成される。これにより、酸化物70において、安定的にスイッチすることになる。Ceは通常4価を取り易い金属元素であり、Ce元素50の一部を、Ce元素50と原子半径が類似し、化学的性質も類似し、3価を取り得る金属元素(3価金属元素55)で置換することが効果的である。
【0050】
4価を取るCe元素50のサイトの一部を3価金属元素55で置換すれば、電荷中立の法則が働くことから酸素欠損61が生じる。酸素欠損61が生じると抵抗値が小さくなるためにスイッチがし易くなると同時に、格子欠陥が酸素側サイトに集中することにより酸素欠損61とリセット時の酸素再結合を促進する効果がある。
【0051】
なお、CeOにおけるCe元素50のサイトの一部を3価金属元素55で置換する方法には、各種の方法を用いることでできる。例えば、金属有機物化学蒸着堆積法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition法)等の化学蒸着堆積法(CVD:Chemical Vapor Deposition法)やそれを応用した方法、スパッタ法及びパルスレーザ蒸着法(PLD:Pulsed Laser Deposition法)等の気相成膜方法や、溶液による成膜方法等の任意の方法を用いることができる。
【0052】
例えばCVD法においては、Ce元素50と3価金属元素55との原料組成を所望の比率に混合した材料を用いることにより、所望な組成比の均一な成膜が可能となる。
【0053】
また、スパッタ法やPLD法を用いる際には、Ce元素50と3価金属元素55の組成が所望となるターゲットを予め焼結して作製し、そのターゲットを用いて酸化物70の層を堆積することにより所望の組成の膜が得られる。
【0054】
また、溶液からゲル膜を通じて成膜を行うMOD法では、例えば、Ce元素50及び3価金属元素55をそれぞれ含む2種類の溶液を準備し、それらを所望の組成で混合したコーティング溶液を作製し、その溶液からスピンコート法やディップコート法によりゲル膜を成膜することにより原子レベルで均一な膜組成が実現する。そして、得られたゲル膜から、仮焼成及び本焼成の熱処理を通じて、酸化物70の薄膜が得られる。
【0055】
上記に例示した手法以外にも、例えば、Ce元素50と3価金属元素55とを混合する任意の方法により、最終的に成膜された膜において、所望の組成の膜が得られる。
【0056】
上記の記録層140Rは、例えば、シリコンウェーハ上に設けられた下部電極141の上に成膜することができる。下部電極141としては、例えば、TiN層やW層等を用いることができる。また、導電性を有する例えば中間層141bの上に成膜しても良い。
【0057】
CeO系材料は極性が比較的高い材料なので、記録層140Rの成膜の際の下地層、すなわち、記録層140Rと接触する下部電極141や中間層141bも、極性が強い材料を用いることが望ましい場合が多い。しかし、記録層140Rとなる酸化物70は、対称性が高い蛍石型構造を有することから、これらの下地層の極性が零または小さくても、蛍石型構造の酸化物70の成膜が可能であり、この場合においても良好な特性を得ることができる。
【0058】
一方、記録層140Rの上部には上部電極142を成膜することになるが、記録層140Rのスイッチング動作時に化学変化等を起こし難い物質であれば、任意の導電性材料を用いることができる。
【0059】
例えば、下部電極141及び上部電極142には、Pt等の貴金属材料を用いることもでき、また、Ti、TiN及びTiOなどを用いることもできる。また、上部電極142として、TiNやTiOに各種材料をドープした材料等も用いることができる。さらに、例えば、6価のW(タングステン)に、4価や5価のNb、Hf、Taなどをドープした材料を用いることができる。さらに、Zr、Mo、Ni、Mn、Co、Cu及びZn等の各種の金属材料及びそれからの元素を含む導電材料を用いることができる。
【0060】
以下、本実施形態に係る各種の実施例について、その製造方法と評価結果について説明する。
【0061】
(第1の実施例)
まず、シリコンウェーハ上に、下部電極141となるW層、Ti層及びTiN層を順次成膜した基板の上に、記録層140Rとなる酸化物70を成膜した。この時、上記の基板をPLDチャンバにセットし、CeOにおけるCe元素50の内の20%をSmで置換した材料からなるターゲットをセットした。すなわち、ターゲットの組成は、金属元素のモル比で20%のSmが含有されたものであり、残りはCeである。すなわち、本具体例では、3価金属元素55としてSmが用いられ、酸化物70に含まれる金属元素の合計に対するセリウム(Ce)のモル比は、80%である。なお、酸化物70に含まれる金属元素の合計に対する3価金属元素55のモル比は、20%である。
【0062】
そして、PLDチャンバにおける酸素分圧を1Paとし、基板を400℃に加熱し、レーザのエネルギー密度を200mJとし、レーザのパルス周波数を10Hzとして、成膜を行った。この時、膜厚が10nmとなるように成膜を行った。これにより得られた試料を「試料1FR1」(第1の実施例、Film、Resistive、試料1)とする。
この後、PLDチャンバの温度が40℃となるまで冷却した後、試料1FR1を取り出した。
【0063】
PLD成膜における成膜レートは、別途準備した膜を酸に溶解し、その溶液をICP測定により濃度を測定することにより平均膜厚を算出し、成膜レートを求めている。その成膜レートで0.84nm/sとなるように、試料1FR1の成膜を行っている。なお、試料1FR1においては、その端部に、W層と導通する部分を設けてあり、スイッチング特性を測定する場合の下部の電極として用いられる。
【0064】
得られた試料1FR1を、XRD(X-Ray Diffraction、X線回折)法により、2θ/θの測定を行った。その結果、試料1FR1においては、Sm0.2Ce0.81.9で同定されるJCPDS(Joint Committee for Power Diffraction Standards)カードと一致する28度付近にのみ強いピークが現れた。すなわち、試料1FR1は、蛍石型構造を有していた。
【0065】
試料1FR1の上に、直径50ミクロンの円形状の穴が多数設けられたメタルマスクを設置し、RFスパッタ装置により、上部電極142となるPtを、厚さ100nmで成膜した。この時、メタルマスクを設置した試料1FR1をスパッタのチャンバに入れ、減圧した後、アルゴンガスを流しながら100nmの膜厚となるようにPt膜の成膜を行った。これにより得られた試料を、「試料1FT1」(第1の実施例、Film、Top electrode、試料1)とする。試料1FT1は、表面に直径50ミクロンのパッド状のPt膜が多数並んでおり、Ptパッドは、電気測定時に上部の電極として用いられる。
【0066】
試料1FT1の抵抗変化を測定した。この時、セット電圧印加時もリセット電圧印加時も、下部の電極(W層、Ti層及びTiN層の積層膜からなる下部電極141)に対して、上部の電極(Ptバッド)を正極性として測定した。なお、この電位の配置を「+/+配置」ということにする。そして、セット電圧Vset及びリセット電圧Vresetの印加を1回のスイッチング動作として、スイッチング動作の回数Nごとに、高抵抗状態の抵抗値R1及び低抵抗状態の抵抗値R2を測定した。なお、抵抗値R1及び抵抗値R2の測定において印加した電圧は、微小電圧である0.1Vである。また、本具体例においては、スイッチング回数Nが8700サイクルまでの測定が行われた。
【0067】
図6は、本発明の第1の実施例に係る不揮発性記憶素子の特性を例示するグラフ図である。
すなわち、同図の横軸は、スイッチング動作の回数N(サイクル、cycle)であり、縦軸は、高抵抗状態の抵抗値R1及び低抵抗状態の抵抗値R2を示す。
【0068】
図6に表したように、本実施形態に係る不揮発性記憶素子140の試料1FT1においては、高抵抗状態の抵抗値R1と低抵抗状態の抵抗値R2とが明確に区別されている。すなわち、高抵抗状態の抵抗値R1は約10KΩであり、低抵抗状態の抵抗値R2は約100Ωであり、スイッチングにより100倍程度の抵抗値の変化を示した。また、スイッチング動作の回数Nによってもほとんど変化していない。そして、スイッチング回数Nが、今回測定した最大の回数である8700サイクルにおいても、初期とほとんど変わらない特性を示した。
【0069】
そして、セット電圧Vsetは約1.6Vであり、リセット電圧Vresetは約0.8Vであり、また、セット電圧Vsetとリセット電圧Vresetとの差である電圧マージンΔVは約0.8Vであり、実用的に使い易い電圧である。そして、スイッチング回数Nによって、セット電圧Vset、リセット電圧Vreset及び電圧マージンΔVはほとんど変化しなかった。
【0070】
このように、本実施形態に係る不揮発性記憶素子140は、実用的な動作電圧を有し、また、動作耐久性も良好であり、優れた電気的性能を発揮する。
【0071】
次に、不揮発性記憶素子140の耐熱性、及び、下部電極141や上部電極142に用いられる他の材料とのプロセス整合性に関して説明する。
【0072】
図7は、本発明の第1の実施例に係る不揮発性記憶素子の分析結果を例示する模式図である。
すなわち、同図は、第1の実施例に係る不揮発性記憶素子140の試料1FR1における元素の分布を、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometer:2次イオン質量分析)によって分析した結果を例示するグラフ図であり、横軸は深さ方向の距離tであり、縦軸は2次イオン強度Iを表す。そして、同図(a)は、熱処理前の特性であり、同図(b)は熱処理後の特性である。この時の熱処理は、RTA(Rapid Thermal Annealing)によるものであり、800℃で5秒の熱処理である。なお、同図には、試料1FR1に含まれるCe、Sm、Ti及びWに関する2次イオン強度Iが例示されている。
【0073】
図7に表したように、RTAの高温処理の前後で、Ce、Sm及びTiに関する2次イオン強度Iのピークが若干の変化を示しているが、その変化はあまり大きくはなく、実用的には問題ない程度である。このように、試料1FR1の酸化物70(Sm0.2Ce0.81.9)が高い耐熱性を有することが確認できる。そして、酸化物70と、下部電極141であるTiN層、Ti層及びW層との反応や、これらの間での拡散が実質的に生じず、酸化物70は電極材料との整合性が良好であり、プロセス整合性が良好であることも確認できた。
【0074】
例えば、整流素子部150となるダイオードの活性化のためのRTA処理を行っても、記録層140Rを構成する金属元素が、整流素子部150や電極となる層等に拡散することがなく、整流素子部150や電極となる層に含まれる各種の元素が、記録層140Rに拡散することもなく、記録層140R、整流素子部150及び電極としての特性が変化することが抑制される。
【0075】
そして、試料1FR1は、記録層140R(酸化物70)として、蛍石型構造のSm0.2Ce0.81.9を用いており、CeOと同様に耐薬品性も高く、化学的にも安定である。
【0076】
(第1の比較例)
第1の比較例の不揮発性記憶素子149p(図示せず)は、記録層140R(酸化物70)として、Mnを用いたものである。この他は、第1の実施例における試料1FR1の構成と同様である。
【0077】
図8は、第1の比較例の不揮発性記憶素子の特性に関する分析結果を例示する模式図である。
すなわち、同図は、第1の比較例の不揮発性記憶素子149pにおける元素の分布のSIMSによる分析結果を例示するグラフ図である。そして、同図(a)及び(b)は、それぞれ、800℃で5秒間のRTAの熱処理の前及び後の特性を例示している。なお、この場合も、下部電極141としては、W層、Ti層及びTiN層の積層膜が用いられている。なお、同図には、これらを構成する、Mn、O、TiN、Ti、NO及びWに関する2次イオン強度Iが例示されている。
【0078】
図8(a)に表したように、RTAの高温処理の前においては、深さ方向に対して、例えば、Mn及びTiに関する2次イオン強度Iのピークが相互に明確に分離しており、下部電極141と記録層140R(酸化物70)とが別の層として存在している。
【0079】
これに対し、図8(b)に表したように、RTAの高温処理の後は、例えばMn及びTiのピークは深さ方向に対して明確なピークを持たない広がった特性を有している。すなわち、例えばMnとTiとが相互拡散しており、高温処理の前後で記録層140R及び下部電極141の組成が変化している。このように、第1の比較例の不揮発性記憶素子149pにおいては、高温処理によって、記録層140Rは記録層として機能しなくなってしまう。
【0080】
例えば、整流素子部150となるダイオードの活性化のためのRTA処理を行うと、記録層140Rを構成する金属元素が電極となる層等に拡散する。これにより、スイッチング動作が異常となる。なお、拡散防止層などを設けることによりこの拡散を制御することも考えられるが、工程が増え、また、拡散防止層のピンホールなどによる不良のおそれもあり実用的でない。
【0081】
(第2の比較例)
第2の比較例の不揮発性記憶素子149qは、記録層140Rである酸化物70として、CeOを用いたものである。
図9は、第2の比較例の不揮発性記憶素子に用いられる酸化物の構成を例示する模式図である。
図9に表したように、第2の比較例の不揮発性記憶素子149qの場合、記録層140Rの酸化物70として、CeOが用いられ、酸化物70は蛍石型構造を有する。しかしながら、3価金属元素55が導入されておらず、酸素欠損61が設けられない。従って、不揮発性記憶素子149qは、耐熱性や耐薬品性、プロセス整合性は優れているものの、電気的特性が実用的でない。
【0082】
すなわち、不揮発性記憶素子149qにおいては、記録層140Rの絶縁性が強く、例えば抵抗が高すぎてしまう。このため、動作電圧が例えば20V以上になり、また、初期化のためのフォーミングの際に過大な電圧と過大な電流を必要とし、実用的でない。また、フォーミングの際に記録層140Rそのものを破壊する可能性があり問題である。
【0083】
例えば、CeOを用いた記録層140Rの場合、膜厚が20nmと非常に薄い膜であっても非常に高い抵抗値を示し、フォーミング電圧が高くなる。そして、フォーミングの直後に流れる大電流のために素子がショートして動作しなくことがある。また、たとえショートしないフォーミングが行えた場合にあっても、その後のオン・オフのスイッチング動作の回数Nは、30〜100回程度であり、動作不能となる。これは、フォーミング後も、高すぎる抵抗値が障害となり、高い電圧をかけて過剰な電流が流れるためと推測される。
【0084】
これに対し、既に説明したように、本実施形態に係る不揮発性記憶素子140においては、記録層140Rの酸化物70において、適切な量の3価金属元素55を導入することにより、酸素欠損61を所望の量で制御して人為的に生成することができ、これにより、実用的な電気的特性を実現する。
【0085】
なお、特許文献1においては、記録層140RとしてCeOを用い、これとCu、Ag、Zn等の特定のイオン源層とを組み合わせる技術が提案されているが、この場合には、CeOに3価金属元素55が導入されていないので酸素欠損61が生成されない。また、特許文献1において、記録層140Rとして、NiO、CoO、CeOから選ばれる1種類以上の酸化物を用いることも記載されているが、これらの複数の化合物は別の層として積層されることが前提であり、CeOの結晶構造のCeのサイトが他の元素によって置換されることは考慮されていない。さらに、この技術においては、蛍石型構造を維持することも言及されていない。すなわち、特許文献1においては、CeOが用いられるが、その際に上記のイオン源層が組み合わされるものである。従って、本発明は、特許文献1に記載されている技術とは全く異なる技術である。
【0086】
なお、抵抗変化型の材料として、NiO、CoO、ZnFeO等の酸化物の他、Pr0.7Ca0.3MnO等のように超電導材料として用いられているペロブスカイト構造を持つ複合酸化物、さらには、ZnCaSのような酸化物でないものも知られている。
【0087】
これらの各種の材料においては、動作電圧が実用的でないか、スイッチングの耐久性が低いかの問題がある。また、例えば、耐熱性の乏しい材料では、リセット時にショートし易い。さらには、例えば、整流素子部150となるダイオードの活性化処理であるRTA処理において、800℃前後の熱がかかった時に、酸化や還元の反応によって抵抗値が増大したり、また相互拡散や複合酸化物生成によりスイッチしなくなったりする問題が生じる。また、製造工程で用いられる強い化学薬品や処理条件などにより材料の劣化などが問題となる。
【0088】
なお、抵抗変化型材料として、複数の価数を取る元素が用いられるが、酸化や還元で価数が変わりスイッチしない状態になり易いことも問題である。その際、3族元素のような酸化にも還元にも強く、高耐熱性、高耐薬品性の材料としてAlがあるが、Alは通常単一の価数である3価しか取らず、酸化物が非常に抵抗の高い絶縁体であり、他の複合酸化物においても抵抗変化材料として実用的でない高いセット電圧Vsetなどを持つ。
【0089】
これに対し、本実施形態に係る不揮発性記憶素子140においては、記録層140Rの酸化物70として、酸化物が熱的及び化学的に非常に安定な蛍石型構造をとる各種の元素の中で、原子半径が実質的に近いランタノイド族の中で唯一4価を取るCeを採用し、蛍石型構造を維持しつつ、3価金属元素55によってCe元素50の一部を置換する構造が適用される。
【0090】
これにより、電気的性能及び耐プロセス性能が優れた不揮発性記憶素子が提供できる。 そして、その際に、Ce元素50と原子半径が実質的に同じランタノイド族の中の他の元素を3価金属元素55として用いることにより、蛍石型構造を安定化させ、比較的高い比率で3価金属元素55を導入することができる。これにより、動作電圧等の電気的特性の制御がやり易くなる。
【0091】
(第2の実施例)
第2の実施例は、第1の実施例において、3価金属元素55としてSmを用い、その組成比を変えたものである。それ以外は、第1の実施例と同じである。
すなわち、記録層140Rの酸化物70を成膜する際のターゲットとして、以下の15種類を用いた。すなわち、SmとCeとの合計の金属元素の量に対して、Smの比率を0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、5%、10%、30%、40%、50%、60%、70%と変えた。これらのターゲットのそれぞれを用いて、第1の実施例と同様の基板の上に酸化物70の膜をPLD法により成膜した。得られた試料を、試料2FR0.01(第2の実施例、Film Resistive、Sm量0.01モル%)、2FR0.02、2FR0.05、2FR0.1、2FR0.2、2FR0.5、2FR1、2FR2、2FR5、2FR10、2FR30、2FR40、2FR50、2FR60及び2FR70と呼ぶことにする。なお、これらの試料のそれぞれにおけるSmの組成比は、上記のターゲットのそれぞれにおけるSmの組成比と同じとなる。なお、この時も、膜厚は10nmとし、それぞれの成膜レートは0.84nm/sとした。
【0092】
これらの試料に関して、XRDによる2θ/θ測定を行った結果、Smの比率が0.01〜40%では蛍石型構造が維持されており、それ以外では蛍石型構造が一部存在していた。すなわち、試料2FR0.01、2FR0.02、2FR0.05、2FR0.1、2FR0.2、2FR0.5、2FR1、2FR2、2FR5、2FR10、2FR30及び2FR40は蛍石型構造を維持し、試料2FR50、2FR60及び2FR70では、蛍石型構造の一部が崩れた。
【0093】
そして、第1の実施例と同様にして、上部電極142となるPt膜を厚さ100nmで成膜した。そして、それぞれのSmの比率を有する試料を、試料2FT0.01(第2の実施例、Top electrode、Sm量0.01モル%)、2FT0.02、2FT0.05、2FT0.1、2FT0.2、2FT0.5、2FT1、2FT2、2FT5、2FT10、2FT30、2FT40、2FT50、2FT60及び2FT70と呼ぶことにする。
【0094】
そして、第1の実施例と同様にして、これらの試料の電気的特性をスイッチング回数Nを変えて測定した。なお、スイッチング回数Nの最大は1万回である。
【0095】
その結果、試料2FT0.05、2FT0.1、2FT0.2、2FT0.5、2FT1、2FT2、2FT5、2FT10、2FT30及び2FT40における抵抗変化は、第1の実施例の結果とほぼ一致し、すなわち、オン状態とオフ状態との抵抗の比が約100〜1000倍であった。
【0096】
そして、試料2FT0.05、2FT0.1、2FT0.2、2FT0.5、2FT1、2FT2、2FT5、2FT10、2FT30及び2FT40においては、スイッチング回数Nが1万回を超えるパッドが存在した。一方、試料2FT0.01及び2FT0.02においては、全てのパッドにおいてスイッチング回数Nが1000回以下と、特に悪かった。また、試料2FT50、2FT60及び2FT70では、スイッチング回数Nが1000回を超えるパッドがそれぞれ存在したが、1万回を超えるパッドは存在しなかった。
【0097】
既に説明した第1の実施例及び本実施例のように、SmによってCeを置換する量が40モル%以下であれば蛍石型構造を形成する。そして、良好なスイッチングを示したスイッチング回数Nが多かった試料は、Smの比率が0.05〜40モル%であった。Smの比率が50%以上の場合は、スイッチング回数Nが小さく、これは、蛍石型構造のCeOよりもSmが主体となり、蛍石型構造のピークが小さくなることが原因と推測された。また、Smの比率が0.01または0.02モル%の場合は、スイッチングの特性が悪かったが、これは、Smの導入量が少ないため、酸素欠損61の生成の効果が不十分であったことが原因と推測される。
【0098】
(第3の実施例)
第3の実施例は、第1の実施例において、記録層140Rとなる酸化物70の膜の膜厚を変えたものである。すなわち、第1の実施例では、記録層140Rの膜厚が10nmであったが、本実施例では、膜厚が1〜100nmの範囲において12種類で変えられた。
【0099】
すなわち、第1の実施例と同様の基板の上に、Smを20モル%で含むターゲットを用い、酸化物70の膜をPLD法により成膜した。この時、膜厚を1、2、3、5、7、15、20、30、40、50、70及び100nmとなるよう成膜を行った。そして、得られた試料を、それぞれの膜厚に対応させて、試料3FR1(第3の実施例、Film、Resistive、膜厚1nm)、3FR2、3FR3、3FR5、3FR7、3FR20、3FR30、3FR40、3FR50、3FR70及び3FR100と呼ぶことにする。なお、この時も成膜レートは0.84nm/sとし、それぞれの膜厚になるように成膜した。
【0100】
これらの試料に関して、XRDによる2θ/θ測定を行った結果、膜厚が3nm以上である試料3FR3、3FR5、3FR7、3FR20、3FR30、3FR40、3FR50、3FR70及び3FR100で蛍石型構造のピークが確認された。一方、膜厚が1nm及び2nmである試料3FR1及び3FR2においては蛍石型構造のピークが確認されなかったが、これは、蛍石型構造を持ちながらも膜厚が薄いためにXRDの回折ピークが得られなかった可能性がある。
【0101】
そして、第1の実施例と同様にして、上部電極142となるPt膜を厚さ100nmで成膜した。そして、それぞれの膜厚の試料を、試料3FT1(第3の実施例、Top electrode、膜厚1nm)、3FT2、3FT3、3FT5、3FT7、3FT20、3FT30、3FT40、3FT50、3FT70及び3FT100と呼ぶことにする。
【0102】
そして、第1の実施例と同様にして、これらの試料のスイッチング回数Nを変えて測定した。なお、スイッチング回数Nの最大は1万回である。
【0103】
その結果、試料3FT5、3FT7、3FT20、3FT30、3FT40及び3FT50における抵抗変化は、第1の実施例の結果とほぼ一致し、すなわち、オン状態とオフ状態との抵抗の比が約100倍であった。その他の試料、すなわち、試料3FT1、3FT2、3FT70及び3FT100では、スイッチングが確認できなかった。
【0104】
そして、試料3FR5、3FR7、3FR10、3FR20、3FR30、3FR40及び3FR50において、スイッチング回数Nが1万回を超えるパッドが確認できた。そして、試料3FR3はスイッチするものもあればそうでないものもあった。また、試料3FR1及び3FR2は膜厚が薄いためかリーク状態であった。また、膜厚が70nm以上である試料3FT70及び3FT100では、絶縁性が高く、スイッチするパッドが存在するものの、多数回のスイッチングを実現することはできなかった。
【0105】
既に説明した第1の実施例及び本実施例のように、SmによるCeの置換の比率が20モル%の記録層140Rにおいて、膜厚が5nm〜50nmであれば良好なスイッチング特性が得られた。それ以外の膜厚では良好なスイッチングを示すスイッチング回数Nが減少する傾向が見られた。このように、CeOにSmを20モル%で添加してCeをSmによって置換することにより抵抗が低下でき、良好なスイッチング動作が可能であるが、膜厚が50nmより厚い場合には、この添加量ではスイッチングが困難であった。
【0106】
(第4の実施例)
第4の実施例は、第2の実施例において、記録層140Rとなる酸化物70の3価金属元素55として、Smに換えてランタノイド族の別の金属元素であるNdを用いたものである。すなわち、3価金属元素55としてNdを用い、そしてその組成比を変えたものである。
【0107】
すなわち、記録層140Rの酸化物70を成膜する際のターゲットとして、以下の16種類を用いた。すなわち、NdとCeとの合計の金属元素の量に対して、Ndの比率を0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%と変えた。これらのターゲットのそれぞれを用いて、第1の実施例と同様の基板の上に酸化物70の膜をPLD法により成膜した。得られた試料を、試料4FR0.01(第4の実施例、Film、Resistive、Nd量0.01モル%)、4FR0.02、4FR0.05、4FR0.1、4FR0.2、4FR0.5、4FR1、4FR2、4FR5、4FR10、4FR20、4FR30、4FR40、4FR50、4FR60及び4FR70と呼ぶことにする。なお、これらの試料のそれぞれにおけるNdの組成比は、上記のターゲットのそれぞれにおけるNdの組成比と同じとなる。なお、この時も、膜厚は10nmとし、それぞれの成膜レートは0.84nm/sとした。
【0108】
これらの試料に関して、XRDによって2θ/θ測定を行った結果、Ndの比率が0.01〜40%では蛍石型構造が維持されることがわかり、それ以外では蛍石型構造が一部存在することがわかった。すなわち、試料4FR0.01、4FR0.02、4FR0.05、4FR0.1、4FR0.2、4FR0.5、4FR1、4FR2、4FR5、4FR10、4FR20、4FR30及び4FR40は蛍石型構造を維持し、試料4FR50、4FR60及び4FR70では、蛍石型構造の一部が崩れた。
【0109】
そして、第1の実施例と同様にして、上部電極142となるPt膜を厚さ100nmで成膜した。そして、それぞれのNdの比率を有する試料を、試料4FT0.01(第4の実施例、Top electrode、Nd量0.01モル%)、4FT0.02、4FT0.05、4FT0.1、4FT0.2、4FT0.5、4FT1、4FT2、4FT5、4FT10、4FT20、4FT30、4FT40、4FT50、4FT60及び4FT70と呼ぶことにする。
【0110】
そして、第1の実施例と同様にして、これらの試料の電気的特性をスイッチング回数Nを変えて測定した。なお、スイッチング回数Nの最大は1万回である。
【0111】
その結果、試料4FT0.05、4FT0.1、4FT0.2、4FT0.5、4FT1、4FT2、4FT5、4FT10、4FT20、4FT30及び4FT40において、オン状態とオフ状態との抵抗の比が約100倍であった。
【0112】
そして、試料4FT0.05、4FT0.1、4FT0.2、4FT0.5、4FT1、4FT2、4FT5、4FT10、4FT20、4FT30及び4FT40においては、スイッチング回数Nが1万回を超えるパッドが存在した。一方、試料4FT0.01及び4FT0.02においては、全てのパッドにおいてスイッチング回数Nが1000回以下、と特に悪かった。また、試料4FT50、4FT60及び4FT70では、スイッチング回数Nが1000回を超えるパッドがそれぞれ存在したが、1万回を超えるパッドは存在しなかった。
【0113】
このように、Smに変えてNdを用いても良好な特性が得られた。そして、NdによってCeを置換する量が40モル%以下であれば蛍石型構造が形成された。そして、良好なスイッチング動作を示すスイッチング回数Nが多かった試料は、Ndの比率が0.05〜40モル%であった。Ndの比率が50%以上の場合は、スイッチング回数Nが小さく、これは、蛍石型構造のCeOよりもNdが主体となり、蛍石型構造のピークが小さくなることが原因と推測された。また、Ndの比率が0.01または0.02モル%の場合は、スイッチングの特性が悪かったが、これは、Ndの導入量が少ないため、酸素欠損61の生成の効果が不十分であったことが原因と推測される。以上のように、3価金属元素55としてNdを用いた場合も、3価金属元素55としてSmを用いた第2の実施例と同様の結果が得られた。
【0114】
(第5の実施例)
第5の実施例は、第2の実施例において、記録層140Rとなる酸化物70の3価金属元素55として、Smに換えてランタノイド族のさらに別の金属元素であるLaを用いたものである。すなわち、3価金属元素55としてLaを用い、そしてその組成比を変えたものである。
【0115】
すなわち、記録層140Rの酸化物70を成膜する際のターゲットとして、以下の16種類を用いた。すなわち、LaとCeとの合計の金属元素の量に対して、Laの比率を0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%と変えた。これらのターゲットのそれぞれを用いて、第1の実施例と同様の基板の上に酸化物70の膜をPLD法により成膜した。得られた試料を、試料5FR0.01(第5の実施例、Film、Resistive、La量0.01モル%)、5FR0.02、5FR0.05、5FR0.1、5FR0.2、5FR0.5、5FR1、5FR2、5FR5、5FR10、5FR20、5FR30、5FR40、5FR50、5FR60及び5FR70と呼ぶことにする。なお、これらの試料のそれぞれにおけるLaの組成比は、上記のターゲットのそれぞれにおけるLaの組成比と同じとなる。なお、この時も、膜厚は10nmとし、それぞれの成膜レートは0.84nm/sとした。
【0116】
これらの試料に関して、XRDによって2θ/θ測定を行った結果、Laの比率が0.01〜30%では蛍石型構造が維持され、それ以外では蛍石型構造が一部存在した。すなわち、試料5FR0.01、5FR0.02、5FR0.05、5FR0.1、5FR0.2、5FR0.5、5FR1、5FR2、5FR5、5FR10及び5FR30は蛍石型構造を維持し、試料5FR40、5FR50、5FR60及び5FR70では、蛍石型構造の一部が崩れた。
【0117】
そして、第1の実施例と同様にして、上部電極142となるPt膜を厚さ100nmで成膜した。そして、それぞれのLaの比率を有する試料を、試料5FT0.01(第5の実施例、Top electrode、La量0.01モル%)、5FT0.02、5FT0.05、5FT0.1、5FT0.2、5FT0.5、5FT1、5FT2、5FT5、5FT10、5FT20、5FT30、5FT40、5FT50、5FT60及び5FT70と呼ぶことにする。
【0118】
そして、第1の実施例と同様にして、これらの試料の電気的特性をスイッチング回数Nを変えて測定した。なお、スイッチング回数Nの最大は1万回である。
【0119】
その結果、試料5FT0.05、5FT0.1、5FT0.2、5FT0.5、5FT1、5FT2、5FT5、5FT10及び5FT20において、オン状態とオフ状態との抵抗の比が約100倍であった。
【0120】
そして、試料5FT0.05、5FT0.1、5FT0.2、5FT0.5、5FT1、5FT2、5FT5、5FT10及び5FT20においては、スイッチング回数Nが1万回を超えるパッドが存在した。一方、試料5FT0.01及び5FT0.02においては、全てのパッドにおいてスイッチング回数Nが1000回以下、と特に悪かった。また、試料5FT30、5FT40、5FT50、5FT60及び5FT70では、スイッチング回数Nが1000回を超えるパッドがそれぞれ存在したが、1万回を超えるパッドは存在しなかった。
【0121】
このように、Smに変えてLaを用いても良好な特性が得られた。そして、LaによってCeを置換する量が30モル%以下であれば蛍石型構造が形成された。そして、良好なスイッチング動作を示すスイッチング回数Nが多かった試料は、Laの比率が0.05〜20モル%であった。Laの比率が30%以上の場合は、スイッチング回数Nが小さく、これは、蛍石型構造のCeOよりもLaが主体となり、蛍石型構造のピークが小さくなることが原因と推測された。また、Laの比率が0.01または0.02モル%の場合は、スイッチングの特性が悪かったが、これは、Laの導入量が少ないため、酸素欠損61の生成の効果が不十分であったことが原因と推測される。
【0122】
(第6の実施例)
第6の実施例は、第2の実施例において、記録層140Rとなる酸化物70の3価金属元素55として、Smに換えてランタノイド族のさらに別の金属元素であるGdを用いたものである。すなわち、3価金属元素55としてGdを用い、そしてその組成比を変えたものである。
【0123】
すなわち、記録層140Rの酸化物70を成膜する際のターゲットとして、以下の16種類を用いた。すなわち、GdとCeとの合計の金属元素の量に対して、Gdの比率を0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%と変えた。これらのターゲットのそれぞれを用いて、第1の実施例と同様の基板の上に酸化物70の膜をPLD法により成膜した。得られた試料を、試料6FR0.01(第6の実施例、Film、Resistive、Gd量0.01モル%)、6FR0.02、6FR0.05、6FR0.1、6FR0.2、6FR0.5、6FR1、6FR2、6FR5、6FR10、6FR30、6FR40、6FR50、6FR60及び6FR70と呼ぶことにする。なお、これらの試料のそれぞれにおけるGdの組成比は、上記のターゲットのそれぞれにおけるGdの組成比と同じとなる。なお、この時も、膜厚は10nmとし、それぞれの成膜レートは0.84nm/sとした。
【0124】
これらの試料に関して、XRDによって2θ/θ測定を行った結果、Gdの比率が0.01〜40%では蛍石型構造が維持され、それ以外では蛍石型構造が一部存在した。すなわち、試料6FR0.01、6FR0.02、6FR0.05、6FR0.1、6FR0.2、6FR0.5、6FR1、6FR2、6FR5、6FR10、6FR20、6FR30及び6FR40は蛍石型構造を維持し、試料6FR50、6FR60及び6FR70では、蛍石型構造の一部が崩れた。
【0125】
そして、第1の実施例と同様にして、上部電極142となるPt膜を厚さ100nmで成膜した。そして、それぞれのGdの比率を有する試料を、試料6FT0.01(第6の実施例、Top electrode、Gd量0.01モル%)、6FT0.02、6FT0.05、6FT0.1、6FT0.2、6FT0.5、6FT1、6FT2、6FT5、6FT10、6FT20、6FT30、6FT40、6FT50、6FT60及び6FT70と呼ぶことにする。
【0126】
そして、第1の実施例と同様にして、これらの試料の電気的特性をスイッチング回数Nを変えて測定した。なお、スイッチング回数Nの最大は1万回である。
【0127】
その結果、試料6FT0.05、6FT0.1、6FT0.2、6FT0.5、6FT1、6FT2、6FT5、6FT10、6FT20、6FT30及び6FT40において、オン状態とオフ状態との抵抗の比が約100倍〜500倍であった。
【0128】
そして、試料6FT0.05、6FT0.1、6FT0.2、6FT0.5、6FT1、6FT2、6FT5、6FT10、6FT20、6FT30及び6FT40においては、スイッチング回数Nが1万回を超えるパッドが存在した。一方、試料6FT0.01及び6FT0.02においては、全てのパッドにおいてスイッチング回数Nが1000回以下、と特に悪かった。また、試料6FT50、6FT60及び6FT70では、スイッチング回数Nが1000回を超えるパッドがそれぞれ存在したが、1万回を超えるパッドは存在しなかった。
【0129】
このように、Smに変えてGdを用いても良好な特性が得られた。そして、GdによってCeを置換する量が40モル%以下であれば蛍石型構造が形成された。そして、良好なスイッチング動作を示すスイッチング回数Nが多かった試料は、Gdの比率が0.05〜40モル%であった。Ndの比率が50%以上の場合は、スイッチング回数Nが小さく、これは、蛍石型構造のCeOよりもGdが主体となり、蛍石型構造のピークが小さくなることが原因と推測された。また、Gdの比率が0.01または0.02モル%の場合は、スイッチングの特性が悪かったが、これは、Gdの導入量が少ないため、酸素欠損61の生成の効果が不十分であったことが原因と推測される。以上のように、3価金属元素55としてGdを用いた場合も、3価金属元素55としてSmを用いた第2の実施例と同様の結果が得られた。
【0130】
(第7の実施例)
第7の実施例は、第2の実施例において、記録層140Rとなる酸化物70の3価金属元素55として、Smに換えてランタノイド族のさらに別の金属元素であるYbを用いたものである。すなわち、3価金属元素55としてYbを用い、そしてその組成比を変えたものである。
【0131】
すなわち、記録層140Rの酸化物70を成膜する際のターゲットとして、以下の16種類を用いた。すなわち、YbとCeとの合計の金属元素の量に対して、Ybの比率を0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%と変えた。これらのターゲットのそれぞれを用いて、第1の実施例と同様の基板の上に酸化物70の膜をPLD法により成膜した。得られた試料を、試料7FR0.01(第7の実施例、Film、Resistive、Yb量0.01モル%)、7FR0.02、7FR0.05、7FR0.1、7FR0.2、7FR0.5、7FR1、7FR2、7FR5、7FR10、7FR20、7FR30、7FR40、7FR50、7FR60及び7FR70と呼ぶことにする。なお、これらの試料のそれぞれにおけるYbの組成比は、上記のターゲットのそれぞれにおけるYbの組成比と同じとなる。なお、この時も、膜厚は10nmとし、それぞれの成膜レートは0.84nm/sとした。
【0132】
これらの試料に関して、XRDによって2θ/θ測定を行った結果、Ybの比率が0.01〜30%では蛍石型構造が維持され、それ以外では蛍石型構造が一部存在した。すなわち、試料7FR0.01、7FR0.02、7FR0.05、7FR0.1、7FR0.2、7FR0.5、7FR1、7FR2、7FR5、7FR10、7FR20及び7FR30は蛍石型構造を維持し、試料7FR40、7FR50、7FR60及び7FR70では、蛍石型構造の一部が崩れた。
【0133】
そして、第1の実施例と同様にして、上部電極142となるPt膜を厚さ100nmで成膜した。そして、それぞれのLaの比率を有する試料を、試料7FT0.01(第7の実施例、Top electrode、La量0.01モル%)、7FT0.02、7FT0.05、7FT0.1、7FT0.2、7FT0.5、7FT1、7FT2、7FT5、7FT10、7FT20、7FT30、7FT40、7FT50、7FT60及び7FT70と呼ぶことにする。
【0134】
そして、第1の実施例と同様にして、これらの試料の電気的特性をスイッチング回数Nを変えて測定した。なお、スイッチング回数Nの最大は1万回である。
【0135】
その結果、試料7FT0.05、7FT0.1、7FT0.2、7FT0.5、7FT1、7FT2、7FT5、7FT10及び7FT20において、オン状態とオフ状態との抵抗の比が約100倍であった。
【0136】
そして、試料7FT0.05、7FT0.1、7FT0.2、7FT0.5、7FT1、7FT2、7FT5、7FT10及び7FT20においては、スイッチング回数Nが1万回を超えるパッドが存在した。一方、試料7FT0.01及び7FT0.02においては、全てのパッドにおいてスイッチング回数Nが1000回以下、と特に悪かった。また、試料7FT30、7FT40、7FT50、7FT60及び7FT70では、スイッチング回数Nが1000回を超えるパッドがそれぞれ存在したが、1万回を超えるパッドは存在しなかった。
【0137】
このように、Smに変えてYbを用いても良好な特性が得られた。そして、YbによってCeを置換する量が30モル%以下であれば蛍石型構造が形成された。そして、良好なスイッチング動作を示すスイッチング回数Nが多かった試料は、Ybの比率が0.05〜20モル%であった。Ybの比率が30%以上の場合は、スイッチング回数Nが小さく、これは、蛍石型構造のCeOよりもYbが主体となり、蛍石型構造のピークが小さくなることが原因と推測された。また、Ybの比率が0.01または0.02モル%の場合は、スイッチングの特性が悪かったが、これは、Ybの導入量が少ないため、酸素欠損61の生成の効果が不十分であったことが原因と推測される。
【0138】
(第8の実施例)
第8の実施例は、第1の実施例において、記録層140Rとなる酸化物70の3価金属元素55として、Smに換えてランタノイド族のさらに別の金属元素であるPr、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びLuを用いたものである。この時、3価金属元素55の組成比は5モル%とした。
【0139】
すなわち、記録層140Rの酸化物70を成膜する際のターゲットとして、以下の8種類を用いた。すなわち、3価金属元素55とCeとの合計の金属元素の量に対して、3価金属元素55の比率を5%一定とし、3価金属元素55であるPr、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びLuをCeOにそれぞれドープしたターゲットを用いた。これらのターゲットのそれぞれを用いて、第1の実施例と同様の基板の上に酸化物70の膜をPLD法により成膜した。得られた試料を、試料8FR−Pr5(第8の実施例、Film、Resistive、Pr量5モル%)、8FR―Eu5、8FR―Tb5、8FR―Dy5、8FR―Ho5、8FR―Er5、8FR―Tm5及び8FR―Lu5と呼ぶことにする。なお、これらの試料のそれぞれにおいて導入された3価金属元素55の種類とその組成比は、上記のターゲットのそれぞれにおける3価金属元素55の種類とその組成比と同じとなる。なお、この時も、膜厚は10nmとし、それぞれの成膜レートは0.84nm/sとした。
【0140】
これらの試料に関して、XRDによって2θ/θ測定を行った結果、全ての試料で蛍石型構造が維持されることがわかった。
【0141】
そして、第1の実施例と同様にして、上部電極142となるPt膜を厚さ100nmで成膜した。そして、それぞれの3価金属元素55の種類の試料を、試料8FT−Pr5(第8の実施例、Top electrode、Pr量5モル%)、8FT―Eu5、8FT―Tb5、8FT―Dy5、8FT―Ho5、8FT―Er5、8FT―Tm5及び8FT―Lu5と呼ぶことにする。
【0142】
そして、第1の実施例と同様にして、これらの試料の電気的特性をスイッチング回数Nを変えて測定した。なお、スイッチング回数Nの最大は1万回である。
【0143】
その結果、試料8FT―Pr5、8FT―Eu5、8FT―Tb5、8FT―Dy5、8FT―Ho5、8FT―Er5、8FT―Tm5及び8FT―Lu5の全ての試料において、オン状態とオフ状態との抵抗の比が約100倍〜2000倍であった。
【0144】
そして、試料8FT―Pr5、8FT―Eu5、8FT―Tb5、8FT―Dy5、8FT―Ho5、8FT―Er5、8FT―Tm5及び8FT―Lu5の全ての試料において、スイッチング回数Nが1万回を超えるパッドが存在した。
【0145】
このように、3価金属元素55として、どのランタノイド族を用いても、5モル%の添加量であれば良好なスイッチング特性が得られることがわかった。
【0146】
(第9の実施例)
第9の実施例は、第1の実施例において、記録層140Rとなる酸化物70の3価金属元素55として、Smに換えて、ランタノイド族の中から選ばれた複数の金属元素が用いられる例である。具体的には、CeOに対して、Ndをモル比5%で添加し、さらに、Smを、添加量を0.5%〜40%で変えて添加したものである。
【0147】
すなわち、記録層140Rの酸化物70を成膜する際のターゲットとして、以下の8種類を用いた。以下では、3価金属元素55とCeとの合計の金属元素の量に対して、3価金属元素55の比率をモル%として説明する。
【0148】
すなわち、CeOにおいて、モル比5%でNdを添加し、さらにモル比0.5%、1%、2%、5%、10%、20%、30%及び40%でSmを添加したターゲットを用いた。これらのターゲットのそれぞれを用いて、第1の実施例と同様の基板の上に酸化物70の膜をPLD法により成膜した。得られた試料を、9FR−Nd5Sm0.5(第9の実施例、Film、Resistive、Nd量5モル%、Sm量0.5モル%)、9FR―Nd5Sm1、9FR―Nd5Sm2、9FR―Nd5Sm5、9FR―Nd5Sm10、9FR―Nd5Sm20、9FR―Nd5Sm30、9FR―Nd5Sm40と呼ぶことにする。なお、これらの試料のそれぞれにおいて導入された3価金属元素55の種類とその組成比は、上記のターゲットのそれぞれにおける3価金属元素55の種類とその組成比と同じとなる。なお、この時も、膜厚は10nmとし、それぞれの成膜レートは0.84nm/sとした。
【0149】
これらの試料に関して、XRDによって2θ/θ測定を行った結果、試料9FR−Nd5Sm40を除く全ての試料で蛍石型構造が維持された。
【0150】
そして、第1の実施例と同様にして、上部電極142となるPt膜を厚さ100nmで成膜した。そして、それぞれの3価金属元素55の種類とその組成比を有する試料を、試料9FT−Nd5Sm0.5(第9の実施例、Top electrode、Nd量5モル%、Sm量0.5モル%)、9FT―Nd5Sm1、9FT―Nd5Sm2、9FT―Nd5Sm5、9FT―Nd5Sm10、9FT―Nd5Sm20、9FT―Nd5Sm30、9FT―Nd5Sm40と呼ぶことにする。
【0151】
そして、第1の実施例と同様にして、これらの試料の電気的特性をスイッチング回数Nを変えて測定した。なお、スイッチング回数Nの最大は1万回である。
【0152】
その結果、試料9FT−Nd5Sm0.5、9FT―Nd5Sm1、9FT―Nd5Sm2、9FT―Nd5Sm5、9FT―Nd5Sm10、9FT―Nd5Sm20及び9FT―Nd5Sm30において、オン状態とオフ状態との抵抗の比が約100倍〜500倍であった。
【0153】
そして、試料9FT−Nd5Sm0.5、9FT―Nd5Sm1、9FT―Nd5Sm2、9FT―Nd5Sm5、9FT―Nd5Sm10及び9FT―Nd5Sm20において、スイッチング回数Nが1万回を超えるパッドが存在した。
【0154】
このように、3価金属元素55としてNdとSmとを用いた場合、合計の3価金属元素55の比率が35モル%以下の時に蛍石型構造が維持された。また、この範囲の組成比において、良好なスイッチング特性が得られる。
【0155】
(第10の実施例)
第10の実施例においても、記録層140Rとなる酸化物70の3価金属元素55として、ランタノイド族の中から選ばれた複数の金属元素が用いられる。ただし、この場合はNdとTmが用いられる。具体的には、CeOに対して、Ndをモル比5%で添加し、さらに、Tmを、添加量を0.5%〜40%で変えて添加したものである。
【0156】
すなわち、記録層140Rの酸化物70を成膜する際のターゲットとして、以下の8種類を用いた。以下では、3価金属元素55とCeとの合計の金属元素の量に対して、3価金属元素55の比率をモル%として説明する。
【0157】
すなわち、CeOにおいて、モル比5%でNdを添加し、さらにモル比0.5%、1%、2%、5%、10%、20%、30%及び40%でTmを添加したターゲットを用いた。これらのターゲットのそれぞれを用いて、第1の実施例と同様の基板の上に酸化物70の膜をPLD法により成膜した。得られた試料を、10FR−Nd5Tm0.5(第10の実施例、Film、Resistive、Nd量5モル%、Tm量0.5モル%)、10FR―Nd5Tm1、10FR―Nd5Tm2、10FR―Nd5Tm5、10FR―Nd5Tm10、10FR―Nd5Tm20、10FR―Nd5Tm30、10FR―Nd5Tm40と呼ぶことにする。なお、これらの試料のそれぞれにおいて導入された3価金属元素55の種類とその組成比は、上記のターゲットのそれぞれにおける3価金属元素55の種類とその組成比と同じとなる。なお、この時も、膜厚は10nmとし、それぞれの成膜レートは0.84nm/sとした。
【0158】
これらの試料に関して、XRDによって2θ/θ測定を行った結果、試料10FR−Nd5Tm40を除く全ての試料で蛍石型構造が維持された。
【0159】
そして、第1の実施例と同様にして、上部電極142となるPt膜を厚さ100nmで成膜した。そして、それぞれの3価金属元素55の種類とその組成比を有する試料を、試料10FT−Nd5Tm0.5(第10の実施例、Top electrode、Nd量5モル%、TT量0.5モル%)、10FT―Nd5Tm1、10FT―Nd5Tm2、10FT―Nd5Tm5、10FT―Nd5Tm10、10FT―Nd5Tm20、10FT―Nd5Tm30、10FT―Nd5Tm40と呼ぶことにする。
【0160】
そして、第1の実施例と同様にして、これらの試料の電気的特性をスイッチング回数Nを変えて測定した。なお、スイッチング回数Nの最大は1万回である。
【0161】
その結果、試料10FT−Nd5Tm0.5、10FT―Nd5Tm1、10FT―Nd5Tm2、10FT―Nd5Tm5、10FT―Nd5Tm10、10FT―Nd5Tm20及び10FT―Nd5Tm30において、オン状態とオフ状態との抵抗の比が100倍〜500倍であった。
【0162】
そして、試料10FT−Nd5Tm0.5、10FT―Nd5Tm1、10FT―Nd5Tm2、10FT―Nd5Tm5、10FT―Nd5Tm10及び10FT―Nd5Tm20において、スイッチング回数Nが1万回を超えるパッドが存在した。
【0163】
このように、3価金属元素55としてNdとTmとを用いた場合、合計の3価金属元素55の比率が35モル%以下の時に蛍石型構造が維持されていた。また元素によっては、3価金属元素55は40%までドープが可能である。
【0164】
すなわち、第10の実施例は、第9の実施例において、Smに替わってTmを導入したものであるが、これらはほぼ同一の結果となった。CeOのCe元素50のサイトの一部をランタノイド族の元素で置換する際、物理的な原子半径でその性質が決まっている可能性が高く、ランタノイド属の他の元素のドープでも同様の結果が得られると推定される。また3種類以上のランタノイド族においての実験でも合計のドープ量が20モル%を超えない場合は常に蛍石型構造を維持していることがXRD測定からわかっており、少なくともこの範囲の組成比において、任意のランタノイド族の元素を任意に組み合わせて、3価金属元素55として用いることで、電気的性能及び耐プロセス性能が優れた不揮発性記憶素子が提供できる。
【0165】
(第11の実施例)
第11の実施例は、第1の実施例において、上部電極142として、Ptに換えて、TiNを用いたものである。この他は第1の実施例と同様である。
すなわち、基板の上に、金属元素のモル比で20%のSmが含有されたCeO2のターゲットを用い、厚さ10nm、成膜レート0.84nm/sで成膜し、試料11FR1とした。この試料11FR1の上に、直径50ミクロンの円形状の穴が多数設けられたメタルマスクを設置し、RFスパッタ装置により、上部電極142となるTiNを、厚さ100nmで成膜し、試料11FT1とした。この時の成膜条件は、第1の実施例と同様である。 そして、第1の実施例と同様にして、これらの試料の電気的特性をスイッチング回数Nを変えて測定した。なお、スイッチング回数Nの最大は1000回である。
【0166】
その結果、試料11FT1においては、オン状態とオフ状態との抵抗の比が約100倍〜1000倍であり、第1の実施例とほぼ同じ結果であった。また、スイッチング回数Nに関しても、実験を行った1000回まで良好な結果を示した。
【0167】
このように、本発明の実施形態に係る不揮発性記憶素子140においては、記録層140Rと接触する電極として、Pt等の貴金属以外に、安価で使い易いTiNのような導電層を用いても良好な電気的特性を得ることができる。これは、本発明の実施形態においては、記録層140Rとして、化学的に安定で、電極等に用いられる各種の導電層とは化学的性質が大きく異なるCeOを含む蛍石型構造の酸化物70を用いていることが起因している。
【0168】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施形態に係る不揮発性記憶装置の製造方法は、印加される電圧及び通電される電流の少なくともいずれかによって互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移することによって情報を記録することが可能な記録層140Rを有する不揮発性記憶素子の製造方法である。
【0169】
図10は、第2の実施形態に係る不揮発性記憶素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図10に表したように、本実施形態に係る不揮発性記憶装置の製造方法では、基板の上に設けられた導電層の上に、セリウムと、3価を取り得る金属元素であってセリウムとは異なる金属元素と、を含む蛍石型構造の酸化物70を含む層を成膜する(ステップS110)。
【0170】
上記の基板には、例えばシリコン基板を用いることができ、そして、そのシリコン基板には不揮発性記憶装置を駆動する駆動回路を設けることもできる。また、上記の導電層には、例えば、既に説明した下部電極141及び上部電極142のいずれかを用いることができる。また、導電層は、第1配線110及び第2配線120のいずれかとしても良い。
【0171】
これにより、電気的性能及び耐プロセス性能が優れた不揮発性記憶素子が提供できる。
【0172】
上記において、酸化物70の層の成膜は、PLD法、スパッタ法、CVD法及びMOD法の少なくともいずれかを用いて行うことができる。
【0173】
以下、具体例について説明する。
図11は、第2の実施形態に係る不揮発性記憶素子の製造方法を例示する模式図である。
すなわち、同図は、3種類の製造方法を例示しており、同図(a)は、PLD法及びスパッタ法を用いる場合を例示しており、同図(b)は、CVD法を用いる場合を例示しており、同図(c)は、MOD法を用いる場合を例示している。
【0174】
図11(a)に表したように、PLD法及びスパッタ法を用いる場合は、記録層140Rとなる酸化物70の材料となるターゲット56tを用いて成膜し、酸化物70を得る。この時、このターゲット56tには、記録層140Rとなる酸化物70におけるCe元素50と3価金属元素55との組成比を有するターゲットを用いることができる。このため、組成比が安定した酸化物70を作製することができる。また、複数のターゲットを用いることができる例えば2元スパッタ装置などを用いる場合には、1つのターゲットに例えば3価金属元素55の組成比が低いターゲットを用い、もう一方には、3価金属元素55の組成比の高いターゲットを用い、これにより、組成比を調節することができ、製造上有利である。
【0175】
図11(b)に表したように、CVD法を用いる場合には、例えば、Ce元素50を含むCe原料50g(ガス)と、3価金属元素55を含むM原料55g(ガス)と、を用い酸化させつつ成膜し、記録層140Rとなる酸化物70が成膜される。この時、Ce原料50g及びM原料55gの例えば流量を制御し、そして、例えば、成膜されている膜の組成比を成膜中に検出してそれをフィードバックすることにより、高い精度の組成比を実現できる。なお、CVDにおける原料は、2種類に限られるわけではなく、3種類かあるいはそれ以上の種類を用いることも可能である。
【0176】
図11(c)に表したように、化学溶液法であるMOD法を用いる場合は、例えば、CeO用の溶液50lと、3価金属元素55用の溶液55lと、を用いる。このように、個別に溶液を調整することで、水等の不純物量を最小化することができる。目的とする酸化物70におけるCe元素50と3価金属元素55との組成比となるように、これらの溶液を混合して、混合コーティング溶液56lを得る。この混合コーティング溶液56lを、基板上に、例えば塗布する。塗布の方法は任意である。これにより、基板上にゲル膜57が形成される。その後、仮焼成を行い、仮焼成膜58が得られ、その後、本焼成を行い記録層140Rとなる酸化物70が得られる。すなわち、酸化物70におけるCe元素50と3価金属元素55との組成比は、混合コーティング溶液56lの混合比によって高精度で制御可能である。なお、この手法においては、ゲル膜57の成膜後に、主に急加熱急冷の仮焼成と、結晶化を促進する本焼成と、の熱処理を経て、良好な特性の酸化物70が得られる。
【0177】
なお、上記において、記録層140Rとなる酸化物70の成膜方法によっては、基板の上の導電層の成膜と酸化物70の成膜を連続して行うことができる。例えば、下部電極141となる導電膜の成膜と連続して、酸化物70の成膜を行うことができる。また、整流素子部150となる膜の成膜と連続して、酸化物70の成膜を行っても良い。また、既に説明した上部電極142となる導電膜や各種の中間層の成膜と連続して、酸化物70の成膜を行っても良い。なお、下部電極141及び上部電極142は、既に説明したように、例えば、不揮発性記憶素子140を駆動するためのビット配線やワード配線(例えば第1配線110及び第2配線120)と兼用されることができる。
【0178】
上記の製造方法においては、Ce元素50と3価金属元素55とが所望の組成比となるように、記録層140Rとなる酸化物70を直接作製する方法であるが、例えば、CeOからなる層と、3価金属元素55を含む層と、を設け、例えば熱拡散等の手法によって、CeOからなる層の中に3価金属元素55を拡散させても良い。以下この手法について説明する。
【0179】
図12は、第2の実施形態に係る不揮発性記憶素子の別の製造方法を例示するフローチャート図である。
図12に表したように、本実施形態に係る不揮発性記憶素子の別の製造方法においては、まず、基板の上に設けられた導電層の上に、セリウムと、3価を取り得る金属元素であってセリウムとは異なる金属元素(3価金属元素55)と、のうちの一方を含む第1層を成膜する(ステップS210)。ここでは、第1層をセリウムを含む層であるCeOの層とする。
【0180】
そして、第1層の上に、セリウム及び前記金属元素(3価金属元素55)のうちの他方を含む第2層を成膜する(ステップS220)。ここでは、例えば、第2層が、3価金属元素55を含む層とする。なお、第2層は、3価金属元素55の金属層であっても良いし、3価金属元素55を含む化合物の層であっても良い。
【0181】
そして、上記の第1層と第2層との間で、セリウム及び前記金属元素(3価金属元素55)の少なくとも一方を拡散させて、セリウムと前記金属元素とを含み蛍石型構造の酸化物70を生成する(ステップS230)。例えば、第1層と第2層とを加熱することにより、第2層に含まれる3価金属元素55が第1層中に拡散し、第1層のCeOのCe元素50の一部が3価金属元素55によって置換される。これにより、セリウム元素50と3価金属元素55とを含み蛍石型構造を有する酸化物70が生成される。
【0182】
この方法によれば、例えば記録層140Rの厚に方向において、Ce元素50と3価金属元素55との比率が変化するように制御することが容易となり、例えば、耐薬品性などのプロセス適合性と、動作電圧等の電気的特性とを、より高度に両立させることが容易になる。
【0183】
なお、上記において、ステップS210において3価金属元素55を含む層を成膜し、ステップS220でCe元素50を含む層を成膜しても良い。
【0184】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施形態に係る不揮発性記憶装置10は、本発明の実施形態に係る不揮発性記憶素子を用いたクロスポイント型の不揮発性記憶装置である。
不揮発性記憶装置10における不揮発性記憶素子140や配線等に関する構造的な構成に関しては、既に、図2〜5に関して説明したので説明を省略する。以下では、不揮発性記憶装置10の電気的な構成及びその動作に関して説明する。
【0185】
図13は、本発明の第3の実施形態に係る不揮発性記憶装置の構成を例示する模式的回路図である。
図13に表したように、本実施形態に係る不揮発性記憶装置10においては、基板105(図示しない)の主面の上に、X軸方向に延在する帯状の第1配線110、すなわち、ワード配線WL(ワード配線WLi−1、WL、WLi+1)が設けられる。そして、基板105(図示しない)の主面に平行な面内でX軸と直交するY軸方向に延在する帯状の第2配線120、すなわち、ビット配線BL(ビット配線BLj−1、BL、BLj+1)が、第1配線110(ワード配線WL)に対向して設けられる。
なお、上記では、第1配線と第2配線とが直交する例であるが、第1配線と第2配線とは交差(非平行)であれば良い。
なお、上記において添え字i及び添え字jは任意である。すなわち、同図においては、第1配線110と第2配線120とは、それぞれ3本ずつ設けられている例が示されているが、これには限らず、第1配線110と第2配線120の数は任意である。そして、本具体例では、第1配線110がワード配線WLとなり、第2配線120がビット配線BLとなる。ただし、第1配線110をビット配線BLとし、第2配線120をワード配線WLとしても良い。以下では、第1配線110がワード配線WLであり、第2配線120がビット配線BLであるとして説明する。
【0186】
そして、同図に表したように、第1配線110と第2配線120との間に不揮発性記憶素子140が挟まれている。なお、不揮発性記憶素子140は、本発明の実施形態及び実施例に係る不揮発性記憶素子のいずれかできる。
【0187】
そして、例えば、ワード配線WLi−1、WL、WLi+1の一端は、選択スイッチとしてのMOSトランジスタRSWを経由して、デコーダ機能を有するワード配線ドライバ110Dに接続され、ビット配線BLj−1、BL、BLj+1の一端は、選択スイッチとしてのMOSトランジスタCSWを経由して、デコーダ及び読み出し機能を有するビット配線ドライバ120Dに接続される。
【0188】
MOSトランジスタRSWのゲートには、1本のワード配線(ロウ)を選択するための選択信号Ri−1、R、Ri+1が入力され、MOSトランジスタCSWのゲートには、1本のビット配線(カラム)を選択するための選択信号Ci−1、C、Ci+1が入力される。
【0189】
不揮発性記憶素子140を有するメモリセル148は、ワード配線WLi−1、WL、WLi+1と、ビット配線BLj−1、BL、BLj+1と、の交差部に配置される。いわゆるクロスポイント型セルアレイ構造である。
【0190】
既に説明したように、第1配線110と第2配線120との交点のそれぞれの間には、記録/再生時における回り込み電流を防止するための整流素子部150を付加することができる。
【0191】
このように、本実施形態に係る不揮発性記憶装置10は、本発明の実施形態の不揮発性記憶素子140のいずれかと、不揮発性記憶素子140の記録層140Rへの電圧の印加、及び、記録層140Rへの電流の通電、の少なくともいずれかによって、記録層140Rを前記異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移させて情報を記録する駆動部600と、を備える。
【0192】
ここで、駆動部600は、例えば上記のMOSトランジスタRSW、ワード配線ドライバ110D、MOSトランジスタCSW、及びビット配線ドライバ120Dの少なくとも一部を含む。
【0193】
そして、不揮発性記憶装置10は、不揮発性記憶素子140を挟むようにして設けられたワード配線WL及びビット配線BLをさらに備え、駆動部600は、ワード配線WL及びビット配線BLを介して、不揮発性記憶素子140の記録層140Rへの電圧の印加、及び、前記記録層への電流の通電、の少なくともいずれかを行う。
【0194】
本実施形態に係る不揮発性記憶装置10は、本発明の実施形態及び実施例に係る不揮発性記憶素子のいずれかの不揮発性記憶素子を用いるので、電気的性能及び耐プロセス性能が優れた不揮発性記憶装置が提供できる。
【0195】
そして、図5に例示した不揮発性記憶装置20及び21のように、第1配線110、第2配線120、並びに、それらに挟まれた不揮発性記憶素子140(記録層140R)及び整流素子部150をさらに複数積み重ねた3次元構造の不揮発性記憶装置の場合、それぞれの層を形成する際に、各種の熱処理や化学的な処理が行われる。このため、先に形成される下の層における記録層140Rと、それよりも後に形成される上の層の記録層140Rと、で熱履歴や化学的な処理の履歴が異なる。
【0196】
この時、記録層140Rの耐熱性や耐薬品性が低く、また、他材料とのプロセス整合性が低い場合には、上記のそれぞれの層における記録層140Rの特性が異なってしまうので実用上大きな問題となる。この時、本発明の実施形態及び実施例に係る不揮発性記憶素子を用いることで、記録層140Rは耐熱性及び耐薬品性が高く、他材料とのプロセス整合性が高いので、それぞれの層における記録層140Rの特性が均一となり、実用的であり、さらに高密度の不揮発性記憶装置が提供できる。
【0197】
(第4の実施の形態)
第4の実施形態に係る不揮発性記憶装置は、プローブメモリ型の不揮発性記憶装置である。
図14は、本発明の第4の実施形態に係る不揮発性記憶装置の構成を例示する模式的斜視図である。
図15は、本発明の第4の実施形態に係る不揮発性記憶装置の構成を例示する模式的平面図である。
【0198】
図14及び図15に表したように、本発明の第4の実施形態に係る不揮発性記憶装置30においては、XYスキャナ516の上に、記憶媒体510が配置される。記憶媒体510においては、基板520の上に設けられた導電層521の上に、不揮発性記憶素子140の記録層140Rが配置されている。なお、記録層140Rの上には保護層540が設けられている。
【0199】
そして、この記録層140Rに対向してプローブアレイ528が配置される。
プローブアレイ528は、基板523と、基板523の主面にアレイ状に配置された複数のプローブ524と、を有する。複数のプローブ524の各々は、例えば、カンチレバーから構成され、マルチプレクスドライバ525及び526により駆動される。
複数のプローブ524は、それぞれ、基板523内のマイクロアクチュエータを用いて個別に動作可能であるが、全てをまとめて同じ動作をさせて記憶媒体510のデータエリア531に対してアクセスを行うこともできる。
【0200】
まず、マルチプレクスドライバ525及び526を用いて、全てのプローブ524を例えばX方向に一定周期で往復動作させ、記憶媒体510のサーボエリアからY方向の位置情報を読み出す。Y方向の位置情報は、ドライバ515に転送される。
ドライバ515は、この位置情報に基づいてXYスキャナ516を駆動し、記憶媒体510をY方向に移動させ、記憶媒体510とプローブ524との位置決めを行う。
両者の位置決めが完了したら、データエリア上のプローブ524の全てに対して、同時に、連続的に、データの読み出しまたは書き込みを行う。
【0201】
データの読み出し及び書き込みは、プローブ524がX方向に往復動作していることから連続的に行われる。また、データの読み出し及び書き込みは、不揮発性記憶素子140のY方向の位置を順次変えることにより、データエリアに対して、一行ずつ、実施される。
なお、記録層140RをX方向に一定周期で往復運動させて記憶媒体510から位置情報を読み出し、プローブ524をY方向に移動させるようにしても良い。
【0202】
記録層140Rとなる層は、複数のデータエリア531、並びに、複数のデータエリア531のX方向の両端にそれぞれ配置されるサーボエリア532を有する。複数のデータエリア531は、記録層140Rとなる層の主要部を占める。
【0203】
サーボエリア532内には、サーボバースト信号が記憶される。サーボバースト信号は、データエリア531内のY方向の位置情報を示している。
【0204】
記録層140R内には、これらの情報の他に、さらに、アドレスデータが記憶されるアドレスエリア(図示しない)及び同期をとるためのプリアンブルエリア(図示しない)が配置される。
【0205】
データ及びサーボバースト信号は、記憶ビット(電気抵抗変動)として記録層140Rに記憶される。記憶ビットの“1”及び“0”の情報は、記録層140Rの電気抵抗を検出することにより読み出す。
【0206】
本具体例では、1つのデータエリア531に対応して1つのプローブ524が設けられ、1つのサーボエリア532に対して1つのプローブ524が設けられる。
データエリア531は、複数のトラックから構成される。アドレスエリアから読み出されるアドレス信号によりデータエリア531のトラックが特定される。また、サーボエリア532から読み出されるサーボバースト信号は、プローブ524をトラックの中心に移動させ、記憶ビットの読み取り誤差を減少する。
【0207】
このような構成の不揮発性記憶装置30は、記録層140Rを有する不揮発性記憶素子140と、不揮発性記憶素子の記録層140Rへの電圧の印加、及び、記録層140Rへの電流の通電、の少なくともいずれかによって、記録層140Rを前記異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移させて情報を記録する駆動部600aと、を備える。上記において、不揮発性記憶素子140には、本発明の実施形態及び実施例に係るいずれかの不揮発性記憶素子を用いることができる。そして、駆動部600aには、上記のマルチプレクスドライバ525及び526を用いることができる。
【0208】
そして、不揮発性記憶装置30は、上記の不揮発性記憶素子140に併設されたプローブ524をさらに備え、駆動部600aは、プローブ524を介して、不揮発性記憶素子140の記録層140Rの記録単位に対して前記電圧の印加及び前記電流の通電の少なくともいずれかを行う。
【0209】
本具体例の不揮発性記憶装置30は、本発明の実施形態及び実施例に係る不揮発性記憶素子のいずれかの不揮発性記憶素子を用いるので、電気的性能及び耐プロセス性能が優れた不揮発性記憶装置が提供できる。
【0210】
(第5の実施の形態)
本発明の第5の実施形態に係る不揮発性記憶装置は、フラッシュメモリ型の不揮発性記憶装置である。
図16は、本発明の第5の実施形態に係る不揮発性記憶装置の要部の構成を例示する模式的断面図である。
図17は、本発明の第5の実施形態に係る不揮発性記憶装置の構成を例示する模式図である。
【0211】
図16に表したように、本実施形態に係る不揮発性記憶装置31においては、フラッシュメモリ型のメモリセル448を有し、このメモリセル448は、MIS(Metal-Insulator-Semiconductor)トランジスタ450の構造を有する。
【0212】
すなわち、半導体基板410の表面領域には、拡散層420a及び420bが形成される。これら拡散層420a及び420bの間のチャネル領域425の上には、ゲート絶縁膜430と、その上のゲート電極440と、が設けられ、さらに、ゲート絶縁膜430とゲート電極440との間に、不揮発性記憶素子140の記録層140Rが設けられる。不揮発性記憶素子140には、本発明の実施形態及び実施例に係る不揮発性記憶素子のいずれかが用いられる。
【0213】
半導体基板410は、ウェル領域でも良い。半導体基板410と、拡散層420a及び420bと、は、互いに逆の導電型を有する。ゲート電極440は、ワード配線となり、例えば、導電性ポリシリコンが用いられる。
【0214】
この場合、後述する駆動部600bが、ゲート電極440に接続されて設けられる。駆動部600bは、ゲート電極440を介して、記録層140Rへの電圧の印加、及び、記録層140Rへの電流の通電、の少なくともいずれかを行う。
【0215】
なお、上記において、不揮発性記憶素子140の記録層140Rに接して設けられる下部電極141及び上部電極142のいずれかは、例えばゲート電極440と兼用されても良い。
【0216】
このような構成を有するメモリセル448において、ゲート電極440に与える電位によって、記録層140Rの抵抗を変化させることで、MISトランジスタ450のしきい値を変化させることができる。例えば、記録層140Rが高抵抗状態である時には、MISトランジスタ450において実質的にゲート絶縁膜が相対的に厚くなったことに相当する。この時、MISトランジスタ450のしきい値は高くなる。一方、例えば、記録層140Rが低抵抗状態である時には、MISトランジスタ450において実質的にゲート絶縁膜が相対的に薄くなったことに相当する。この時、MISトランジスタ450のしきい値は低くなる。そして、このしきい値の変化を読み出すことにより情報の再生ができる。このように、不揮発性記憶装置31においては、フラッシュメモリと類似した原理により、メモリセルのしきい値を変え、不揮発性記憶装置31は不揮発性記憶装置として利用できる。
【0217】
図17に表したように、本実施形態に係る不揮発性記憶装置31は、例えばNAND型フラッシュメモリの構成とすることができる。すなわち、不揮発性記憶装置31は、NANDセルユニット460及びそれに接続された駆動部600bを備える。
【0218】
例えば、NANDセルユニット460は、直列接続される複数のメモリセル448からなるNANDストリングと、その両端に1つずつ接続される合計2つのセレクトゲートトランジスタ471及び472とから構成される。
【0219】
そして、各メモリセル448のゲート電極440は、ワード配線WLを介して駆動部600bに電気的に接続される。なお、駆動部600は、NANDセルユニット460が設けられる基板に設けられても良く、それとは別の基板に設けられても良い。
【0220】
セレクトゲートトランジスタ471はソース線SLに接続され、セレクトゲートトランジスタ472はビット配線BLに接続される。
そして、セレクトゲートトランジスタ471及び472のそれぞれのセレクトゲート471g及び472gと、ワード配線WLと、に与える電位を制御することによって、各メモリセル448に所望の情報を記録し、また、記録された情報を再生することができる。
【0221】
すなわち、本実施形態に係る不揮発性記憶装置31は、不揮発性記憶素子140と、不揮発性記憶素子140の記録層140Rへの電圧の印加、及び、記録層140Rへの電流の通電、の少なくともいずれかによって、記録層140Rを前記異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移させて情報を記録する駆動部600bとを備える。上記において、不揮発性記憶素子140には、本発明の実施形態及び実施例に係るいずれかの不揮発性記憶素子を用いることができる。
【0222】
本具体例では、不揮発性記憶装置31は、不揮発性記憶素子140を挟むゲート電極440とゲート絶縁膜430とを含むMISトランジスタ450をさらに備え、駆動部600bは、ゲート電極440を介して、不揮発性記憶素子140の記録層140Rへの電圧の印加、及び、記録層140Rへの電流の通電、の少なくともいずれかを行う。
【0223】
すなわち、不揮発性記憶装置31は、第1導電型半導体基板内(半導体基板410)に設けられた第1及び第2の第2導電型半導体領域(拡散層420a及び拡散層420b)と、第1及び第2の第2導電型半導体領域の間の第1導電型半導体領域(チャネル領域425)と、前記第1及び第2の第2導電型領域間における導通/非導通を制御するゲート電極440と、をさらに備え、前記不揮発性記憶素子140は、ゲート電極440と前記第1導電型半導体領域との間に配置され、前記駆動部600bは、ゲート電極440を介して、不揮発性記憶素子140の記録層140Rへの電圧の印加、及び、記録層140Rへの電流の通電、の少なくともいずれかを行う。
【0224】
これにより、フラッシュメモリと同様の動作により、情報の記録及び再生が可能となる。そして、不揮発性記憶装置31は、本発明の実施形態及び実施例に係る不揮発性記憶素子のいずれかの不揮発性記憶素子を用いるので、電気的性能及び耐プロセス性能が優れた不揮発性記憶装置が提供できる。
【0225】
なお、上記においては、NAND型の不揮発性記憶装置の例を説明したが、本発明はこれに限らず、NOR型や2トランジスタ型等の任意の構成の不揮発性記憶装置に応用できる。
【0226】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、不揮発性記憶素子、その製造方法及び不揮発性記憶装置を構成する各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0227】
その他、本発明の実施の形態として上述した不揮発性記憶素子、その製造方法及び不揮発性記憶装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての不揮発性記憶素子、その製造方法及び不揮発性記憶装置も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0228】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子の構成を例示する模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子が適用される不揮発性記憶装置の構成を例示する模式図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子が適用される不揮発性記憶装置の構成を例示する模式的断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶装置が適用される別の不揮発性記憶素子の構成を例示する模式的断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る不揮発性記憶素子が適用される別の不揮発性記憶装置の構成を例示する模式的斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係る不揮発性記憶素子の特性を例示するグラフ図である。
【図7】本発明の第1の実施例に係る不揮発性記憶素子の分析結果を例示する模式図である。
【図8】第1の比較例の不揮発性記憶素子の特性に関する分析結果を例示する模式図である。
【図9】第2の比較例の不揮発性記憶素子に用いられる酸化物の構成を例示する模式図である。
【図10】第2の実施形態に係る不揮発性記憶素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
【図11】第2の実施形態に係る不揮発性記憶素子の製造方法を例示する模式図である。
【図12】第2の実施形態に係る不揮発性記憶素子の別の製造方法を例示するフローチャート図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る不揮発性記憶装置の構成を例示する模式的回路図である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る不揮発性記憶装置の構成を例示する模式的斜視図である。
【図15】本発明の第4の実施形態に係る不揮発性記憶装置の構成を例示する模式的平面図である。
【図16】本発明の第5の実施形態に係る不揮発性記憶装置の要部の構成を例示する模式的断面図である。
【図17】本発明の第5の実施形態に係る不揮発性記憶装置の構成を例示する模式図である。
【符号の説明】
【0230】
10、20、21、30、31 不揮発性記憶装置
50 セリウム元素(Ce元素)
50g Ce原料
50l CeO用の溶液
55 3価を取る得る金属元素(3価金属元素)
55g 3価金属元素を含むM原料
55l 3価金属元素用の溶液
56l 混合コーティング溶液
56t ターゲット
57 ゲル膜
58 仮焼成膜
60 酸素
61 酸素欠損
70 酸化物
105 基板
110 第1配線
110D ワード配線ドライバ
120 第2配線
120D ビット配線ドライバ
130 交差部
140、149p、149q 不揮発性記憶素子
140R 記録層
141 下部電極
141b 中間層
142 上部電極
142b 中間層
148 メモリセル
150 整流素子部
150b 中間層
160 絶縁部
410 半導体基板
420a、420b 拡散層
425 チャネル領域
430 ゲート絶縁膜
440 ゲート電極
448 メモリセル
450 MISトランジスタ
460 NANDセルユニット
471、472 セレクトゲートトランジスタ
471g、472g セレクトゲート
510 記憶媒体
515 ドライバ
516 XYスキャナ
520、523 基板
521 導電層
524 プローブ
525、526 マルチプレクサドライバ
528 プローブアレイ
531 データエリア
532 サーボエリア
540 保護層
600、600a、600b 駆動部
BL、BLj−1、BL、BLj+1 ビット配線
SL ソース線
WL、WLi−1、WL、WLi+1 ワード配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウムと、3価を取り得る金属元素であってセリウムとは異なる金属元素と、を含む蛍石型構造の酸化物を含み、印加される電圧及び通電される電流の少なくともいずれかによって互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移可能な記録層を備えたことを特徴とする不揮発性記憶素子。
【請求項2】
前記酸化物に含まれる金属元素の合計に対するセリウムのモル比は、60%よりも高いことを特徴とする請求項1記載の不揮発性記憶素子。
【請求項3】
前記酸化物に含まれる金属元素の合計に対する前記3価を取り得る金属元素のモル比は、0.1%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項4】
前記3価を取り得る金属元素は、ランタノイド族元素の少なくともいずれかを含むことを特徴とする1〜3のいずれか1つに記載の不揮発性記憶素子。
【請求項5】
前記3価を取り得る金属元素は、La、Nd、Sm、Gd及びYbよりなる群から選択された少なくともいずれかを含むことを特徴とする1〜4のいずれか1つに記載の不揮発性記憶素子。
【請求項6】
前記酸化物に含まれる金属元素の合計に対する前記3価を取り得る金属元素のモル比は、20%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の不揮発性記憶素子。
【請求項7】
前記3価を取り得る金属元素は、Sm及びEuの少なくともいずれかを含むことを特徴とする1〜4のいずれか1つに記載の不揮発性記憶素子。
【請求項8】
前記酸化物に含まれる金属元素の合計に対する前記3価を取り得る金属元素のモル比は、40%以下であることを特徴とする請求項7記載の不揮発性記憶素子。
【請求項9】
前記記録層の厚さは、5nm〜50nmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の不揮発性記憶素子。
【請求項10】
前記記録層に前記電圧の印加及び前記電流の通電の少なくともいずれかを行う電極をさらに備え、前記電極は、Pt、Ti、N、W、Nb、Hf、Ta、Zr、Mo、Ni、Mn、Co、Cu及びZnよりなる群から選択された少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の不揮発性記憶素子。
【請求項11】
印加される電圧及び通電される電流の少なくともいずれかによって互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移可能な記録層を有する不揮発性記憶素子の製造方法であって、
基板の上に設けられた導電層の上に、セリウムと、3価を取り得る金属元素であってセリウムとは異なる金属元素と、を含む蛍石型構造の酸化物を含む層を成膜することを特徴とする不揮発性記憶素子の製造方法。
【請求項12】
前記酸化物の層の成膜は、パルスレーザ蒸着法、スパッタ法、化学蒸着堆積法及び金属有機物化学蒸着堆積法の少なくともいずれかを用いて行われることを特徴とする請求項11記載の不揮発性記憶素子の製造方法。
【請求項13】
印加される電圧及び通電される電流の少なくともいずれかによって互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移可能な記録層を有する不揮発性記憶素子の製造方法であって、
基板の上に設けられた導電層の上に、セリウムと、3価を取り得る金属元素であってセリウムとは異なる金属元素と、のうちの一方を含む第1層を成膜し、
前記第1層の上に、セリウム及び前記金属元素のうちの他方を含む第2層を成膜し、
前記第1層と前記第2層との間で、セリウム及び前記金属元素のうちの少なくとも一方を拡散させて、セリウムと前記金属元素とを含む蛍石型構造の酸化物を生成することを特徴とする不揮発性記憶素子の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の不揮発性記憶素子と、
前記不揮発性記憶素子の前記記録層への電圧の印加、及び、前記記録層への電流の通電、の少なくともいずれかによって、前記記録層を前記互いに異なる抵抗を有する複数の状態の間を遷移させて情報を記録する駆動部と、
を備えたことを特徴とする不揮発性記憶装置。
【請求項15】
前記不揮発性記憶素子を挟むようにして設けられたワード配線及びビット配線をさらに備え、
前記駆動部は、前記ワード配線及び前記ビット配線を介して、前記不揮発性記憶素子の前記記録層への電圧の印加、及び、前記記録層への電流の通電、の少なくともいずれかを行うことを特徴とする請求項14記載の不揮発性記憶装置。
【請求項16】
前記ワード配線及び前記ビット配線と、前記不揮発性記憶素子と、の間に設けられ、前記不揮発性記憶素子に印加される前記電圧の極性及び通電される前記電流の方向の少なくともいずれかを制御する整流素子部をさらに備えたことを特徴とする請求項15記載の不揮発性記憶装置。
【請求項17】
前記ワード配線と、前記ビット配線と、前記ワード配線及び前記ビット配線との間に設けられた前記不揮発性記憶素子と、を含む積層構造体が複数積層されることを特徴とする請求項15または16に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項18】
前記不揮発性記憶素子に併設されたプローブをさらに備え、
前記駆動部は、前記プローブを介して、前記不揮発性記憶素子の前記記録層の記録単位に対して前記電圧の印加及び前記電流の通電の少なくともいずれかを行うことを特徴とする請求項14記載の不揮発性記憶装置。
【請求項19】
前記不揮発性記憶素子を挟むゲート電極とゲート絶縁膜とを含むMISトランジスタをさらに備え、
前記駆動部は、前記ゲート電極を介して、前記不揮発性記憶素子の前記記録層への電圧の印加、及び、前記記録層への電流の通電、の少なくともいずれかを行うことを特徴とする請求項14記載の不揮発性記憶装置。
【請求項20】
第1導電型半導体基板内に設けられた第1及び第2の第2導電型半導体領域と、
前記第1及び第2の第2導電型半導体領域の間の第1導電型半導体領域と、
前記第1及び第2の第2導電型領域間における導通/非導通を制御するゲート電極と、
をさらに備え、
前記不揮発性記憶素子は、前記ゲート電極と前記第1導電型半導体領域との間に配置され、
前記駆動部は、前記ゲート電極を介して、前記不揮発性記憶素子の前記記録層への電圧の印加、及び、前記記録層への電流の通電、の少なくともいずれかを行うことを特徴とする請求項14記載の不揮発性記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−123808(P2010−123808A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297269(P2008−297269)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】