説明

中間製品および中間製品複合体

【課題】金属板に代用でき、利用範囲が広い繊維強化プラスチック中間製品及び中間複合体を提供する。
【解決手段】中間製品は熱可塑性プラスチックの2つの層10、11の間に強化繊維3が配置された構成からなる。強化繊維3は単一方向に配向しており、上下の熱可塑性プラスチックは強化繊維3の間の空隙18を通じて互いに接合されている。中間複合体は少なくとも2つの中間製品を重ねて接合することにより得られ、用いられる中間製品の強化繊維はそれぞれ配向方向が異なるように配置するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックと強化繊維とを有する中間製品に関する。
【0002】
本発明はさらに中間製品複合体に関する。
【背景技術】
【0003】
繊維強化プラスチックから成る部材は多くの技術分野で利用されている。繊維強化プラスチックから成る部材は金属製部材に比べて特定の機械的性質が優れているという利点を有する。さらに、金属を腐食させるような分野でもプラスチックは利用することができる。
【0004】
繊維強化プラスチックから成る部材を製造するには普通、強化繊維が型に挿入され、次にプラスチックが挿入される。このプラスチックは次に、強化繊維によって強化されたマトリックスを形成する。こうして確かに多くの部材を製造することができるが、しかし一般にこのような部材の後の塑性加工は大きな困難を伴ってのみ可能である。
【0005】
この理由から、特定の部材を作製するために依然として金属板が中間製品として使用される。このような金属板は例えば深絞りによって成形することができる。金属板から成る深絞り部品、例えば車体の構成要素はかなりの支出を伴ってのみプラスチック製の当該部品によって複製することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、十分に広く利用可能な繊維強化プラスチック中間製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、冒頭に指摘した種類の中間製品において、前記強化繊維が熱可塑性プラスチックから成る2つの層の間に配置されていることによって解決される。
【0008】
このような中間製品は金属板と同様に成形することができ、つまり特定事例において金属板の代用物となる。熱可塑性プラスチックは、場合によっては加熱下で、例えば深絞りによって成形することができる。このような成形時に強化繊維は熱可塑性プラスチックから成る層の間に留まる。つまり強化繊維は周囲環境からの諸影響に曝されていないので保護される。プラスチック層は強化繊維をやはり所定位置で保持する。繊維破断は出現せず、または少なくとも僅かに出現するだけであり、こうして強化繊維の延びる主方向で引張強さが維持され、しかも成形後でも維持される。熱可塑性プラスチックが冷却されたなら、塑性加工された中間製品は再び形状安定性を有する。
【0009】
好ましくは前記層がフィルムとして形成されている。それゆえにこれらのプラスチック層は比較的薄くすることができる。フィルムは厚さを0.01〜2mmの範囲内とすることができる。強化繊維の割合が比較的大きくなるようにフィルムを過度に厚く選択しないことがしばしば好ましい。これにより質量と引張強さとの間に良好な関係を達成することができる。
【0010】
好ましくは、前記層が前記繊維の間の空隙によって互いに接合されている。こうして結合がなお改善される。中間製品を製造するには基本的に上層と強化繊維との接合、そして下層と強化繊維との接合で間に合う。しかし繊維間の空隙によって両方の層を互いに接合できる場合、より強い結合が得られる。さらに、強化繊維は横方向に変位しないようなお一層良好に保護される。
【0011】
好ましくは、プラスチックから成る前記2つの層の間に、単一配向を有する前記強化繊維が配置されている。その場合、この配向の方向で特別良好な引張強さが得られる。中間製品はこの方向において特別に耐荷性を有する。
【0012】
好ましくは、前記強化繊維がガラス繊維、カーボン繊維、鉱物繊維、セラミック繊維、プラスチック繊維または天然繊維として、またはこれら繊維の混合物として形成されている。このような強化繊維は、希望する用途に依存して、中間製品から作製される部材の十分な引張強さおよび形状安定性をもたらすことができる。
【0013】
好ましくは、前記強化繊維が熱可塑性プラスチックと同じ材料で形成されており、前記強化繊維が前記層の前記プラスチックよりも高い融点および/または高い引張強さを有する。そのことから中間製品の再利用またはリサイクルが容易となる。その場合例えば中間製品は再び溶かすことができ、強化繊維は溶融体内に沈み込むので邪魔とはならない。
【0014】
好ましくは、前記プラスチックはポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニルスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリエチレンを含むプラスチック群から選択されている。このようなプラスチックは安価に入手可能であり、多くの部材分野で利用するための前提条件を満たす。
【0015】
本発明は、重ねて互いに接合された少なくとも2つのこのような中間製品を有する中間製品複合体にも関する。単一の中間製品は比較的僅かな例えば0.2mm以下の厚さを有する。幾つかの事例ではこのような中間製品は耐荷性が十分でない。その場合、2つ以上の中間製品を上下に重ねて互いに接合することができ、例えば熱を加えながら互いに加圧することができる。これにより個々の中間製品の強度特性が加算される。
【0016】
その際好ましくは、複数の前記中間製品の強化繊維が異なる方向を有する。その場合、中間製品複合体の引張強さは複数の方向で高めることができる。
【0017】
前記課題は、プラスチックと強化繊維とから中間製品を製造するための方法において、熱可塑性プラスチックから成る2つの層の間に強化繊維を配置することによっても解決される。
【0018】
このような処理方式は比較的簡単に自動化可能であり、中間製品は安価に製造することもできる。
【0019】
その際好ましくは、繊維ストランドがその長手方向を横切る方向に幅出しされて前記熱可塑性プラスチック層の間に挿入される。多くの繊維、例えばカーボン繊維は、数千本の単繊維をまとめた繊維ストランドとして販売される。1つの繊維ストランドは例えば12000本、24000本、48000本の単繊維を含み、または240000本の単繊維さえ含むことがある。1つの繊維ストランドが多くの繊維を含んでいればいるほど、繊維ストランドは一般に一層安価である。繊維ストランドは普通横断面が円形または楕円形である。つまり繊維をプラスチック層の間に挿入できる前に繊維ストランドはその長手方向を横切って幅出しされ、いわゆる繊維帯が形成される。この繊維帯は次に並べて配置され、一方向繊維層(UD繊維層)が形成される。この一方向繊維層が次にプラスチック層の間に挿入される。一方向繊維層の製造はいわば連続的に行うことができる。
【0020】
一方向繊維層の製造時、個々の繊維ストランドは好ましくは一方向繊維ウェブの層厚および坪量に対する所要の表面特性に相応して幅出しされる。一方向繊維ウェブの坪量の調整は好ましくはプラスチック層の表面特性、特にフィルム厚に合せて調節され、後の繊維強化プラスチック中間製品内で規定された繊維質量含有率もしくは繊維体積含有率が達成されるようにされる。このため個別繊維ロービングまたは個別繊維ストランドは特に、含有する単繊維の本数に相応して所定幅に幅出しされ、次にやはり規定された幅の平面的一方向繊維ウェブへとまとめられねばならない。生産方向に延びる一方向繊維ウェブは個々の繊維ストランドの幅出しによって予め規定された表面特性を有して、一方向繊維ウェブの両側から到来するプラスチック層の間に埋め込まれる。
【0021】
好ましくは、前記プラスチック層がロールから繰り出される。こうして本方法はいわば連続的に行うことができる。幅出しされた繊維ストランドから成る一方向繊維層はエンドレスで供給することができる。プラスチック層もエンドレスで供給することができる。
【0022】
好ましくは、一方向繊維層に接している前記プラスチック層は圧力および/または高い温度が付加される。この付加は例えばプレスロール対によって行うことができ、プレスロール対のロールは一定の力で相互に加圧される。このようなプレスロール対のロール間隙またはニップ内で中間製品の厚さは所定限界内に調整することができる。高められた温度によってプラスチック層の軟化が生じ、強化繊維はプラスチック内に多少入り込むことができ、プラスチックは強化繊維間の隙間または開口部を通して別の層のプラスチックと接合することができる。
【0023】
好ましくは、製造された中間製品、つまり接合された前記プラスチック層とその間にある前記強化繊維は巻き取って巻取体とされる。これにより中間製品は巻取体の態様で得られ、この巻取体から事実上任意の長さに切断し、これから部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】中間製品を製造するための装置の略図である。
【図2】中間製品の構造を説明するための略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明は好ましい実施例に基づいて図面と合せて説明される。
【0026】
図1は、繊維強化プラスチックとして形成される中間製品1を製造するための装置を概略示す。
【0027】
このため、貯蔵装置5から個々の繊維ストランドを引き出し、幅出装置6において、規定された幅および坪量の一方向繊維層へと幅出ししかつまとめることによって、強化繊維から一方向繊維層2が製造される。一方向層またはUD層内ですべての強化繊維3は同じ配向を有する(図2参照)。この配向は中間製品の長手方向に延びている。この一方向層2を製造するために複数の個別繊維ストランド4が貯蔵装置5から引き出される。貯蔵装置5は例えばクリールによって形成され、このクリールが複数のボビンを含み、これらのボビンに個別繊維ストランド4が巻き取られている。
【0028】
繊維ストランド4は供給装置7から繰り出され、幅出機構6を介して案内され、この幅出機構内で繊維ストランドは一定の引張応力のもとで装置8を介してロッド9によって引っ張られる。個別繊維ストランド4における各ロッド9から遠く離れた繊維は幅出機構6を通過するときロッド9に一層接近しようとし、そのことが当該ロッド9に近接して配置される繊維を横方向外方に押しのける。これにより個別繊維ストランド4が帯状に幅出しされる。並置された帯が次に一方向繊維層2を形成する。
【0029】
一方向繊維層2は2つのフィルム10、11と一緒に、ロール13、14の間に形成されるロール間隙12(ニップ12)に通される。ニップ12内で高い温度が生成される。このため例えば両方のロール13、14の一方は、または両方のロール13、14も、加熱しておくことができる。両方のロール13、14が所定の圧力で相互に加圧され、両方のフィルム10、11は一方向繊維層2を介装して接合されてガラス繊維強化中間製品とされる。
【0030】
フィルム10、11は貯蔵ローラ15、16から繰り出される。中間製品1はニップ12を通過後にローラ17に巻き取られる。
【0031】
フィルム10、11は熱可塑性プラスチックから形成されている。熱可塑性プラスチックとして考慮に値するのは例えばポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニルスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンまたはポリエチレンである。これらのプラスチックは温度が高くなると軟化し、温度が低下すると再び堅くなる。それに応じて中間製品1は、それが必要とされるときローラ17から繰り出して所要長さに切断することができる。その後、中間製品は型に挿入し、熱と圧力を加えながら成形することができる。このような成形は金属板の深絞りに類似しており、中間製品1は金属板と同様に塑性加工することができる。
【0032】
一方向繊維層2は貯蔵ローラから直接繰り出すこともできる。
【0033】
強化繊維として考慮に値するのはガラス繊維、カーボン繊維、鉱物繊維、セラミック繊維、アラミド繊維または天然繊維である。フィルム10、11と同じ材料から成るプラスチック繊維も使用することができ、但しこれらのプラスチック繊維は高い融点および/または高い引張強さを有する。このような構成がリサイクルを容易とする。
【0034】
最終効果として得られる中間製品1では強化繊維3が熱可塑性プラスチックから成る2つのフィルム10、11の間に埋め込まれている。繊維3の間に小さな空隙18が存在し、これらの空隙を通して両方のフィルム10、11は互いに接合することができる。これによりフィルム10、11と強化繊維3との間の接合は事実上分離不可能となる。
【0035】
1つの層を有する中間製品1の強度が十分でない場合、中間製品1の複数の層を上下に配置し、高めた圧力と高めた温度の作用下に互いに接合し、中間製品複合体を形成することが問題なく可能である。このため例えばプレス機を使用することができる。
【0036】
中間製品1の複数の層を上下に配置する場合、異なる繊維方向を有する中間製品1の異なる層を使用すると望ましいことがある。その場合、複数の方向において引張強さを改善された中間製品複合体が得られる。
【0037】
上記製造方法はいわば連続的に行うことができる。中断が生じるのは、ローラ15、16が空になるとき、または個別繊維ストランド4を巻き取ったボビンを更新しなければならないときだけである。
【0038】
フィルム10、11および繊維ストランド4の所要長さは予め推定することができ、ローラ15、16の大きさと繊維ストランド4を有するローラの大きさはそれらがほぼ同時に空になるように相互に調整することができる。その場合、すべての貯蔵ローラを取り替えるために1回の中断が必要であるにすぎない。
【0039】
熱可塑性プラスチックから成る2つの層の間に強化繊維3を配置した中間製品1の層状構造によって、強化繊維3に対する優れた保護が得られる。特に、繊維破断の虞が比較的少ない。これにより、強化繊維の方向で所定の引張強さは幾つかの塑性加工過程後でも維持することができる。
【0040】
中間製品を塑性加工するための塑性加工温度は、後に中間製品1から製造される部材の使用温度よりも上、例えば200℃〜400℃の範囲内である。それに応じて、中間製品1から作製される部材が使用温度以下で温度作用の結果として機能不全を起こす虞はない。
【符号の説明】
【0041】
3 強化繊維
4 繊維ストランド
10 フィルム
11 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックと強化繊維とを有する中間製品において、前記強化繊維(3)が熱可塑性プラスチックから成る2つの層(10、11)の間に配置されていることを特徴とする中間製品。
【請求項2】
前記層(10、11)がフィルムとして形成されていることを特徴とする、請求項1記載の中間製品。
【請求項3】
前記層(10、11)が前記強化繊維(3)の間の空隙(18)を通じて互いに接合されていることを特徴とする、請求項1または2記載の中間製品。
【請求項4】
プラスチックから成る前記2つの層(10、11)の間に、単一配向を有する前記強化繊維(3)が配置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の中間製品。
【請求項5】
前記強化繊維(3)がガラス繊維、カーボン繊維、鉱物繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、プラスチック繊維および天然繊維のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の中間製品。
【請求項6】
前記強化繊維(3)が前記熱可塑性プラスチックと同じ材料で形成されており、前記強化繊維(3)が前記層(10、11)の前記プラスチックよりも高い融点および/または高い引張強さを有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の中間製品。
【請求項7】
前記プラスチックが、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニルスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリエチレンのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の中間製品。
【請求項8】
重ねて接合された少なくとも2つの中間製品を備えた中間製品複合体であって、前記中間製品の各々が請求項1〜7のいずれか1項記載の中間製品である、中間製品複合体。
【請求項9】
前記少なくとも2つの中間製品は、その強化繊維(3)の方向が異なる方向となるように配置されていることを特徴とする、請求項8記載の中間製品複合体。
【請求項10】
プラスチックと強化繊維とから中間製品を製造するための方法において、熱可塑性プラスチックから成る2つの層(10、11)の間に強化繊維(3)を配置することを特徴とする方法。
【請求項11】
繊維ストランド(4)がその長手方向を横切る方向に幅出しされて前記層(10、11)の間に挿入されることを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記熱可塑性プラスチック層(10、11)がロール(15、16)から繰り出されることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
一方向繊維層(2)とそれに接する前記層(10、11)とに圧力および/または高い温度が付加されることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記熱可塑性プラスチック層(10、11)とその間にある前記強化繊維(3)が巻き取られることを特徴とする、請求項10〜13のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−73436(P2011−73436A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147914(P2010−147914)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(505091695)カール マイヤー マリモ テクスティルマシーネンファブリーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフツング (7)
【Fターム(参考)】