説明

乗用走行車両の制御方法及び装置

【課題】 操縦者の運転中の状態をモニターして、安全に走行制御する乗用走行車両の制御方法と装置を提供すること。
【解決手段】 走行制御手段を備えた乗用走行車両において、その車両に脳活動計測手段を搭載し操縦者に装着させて、操縦者の運転中の脳活動をリアルタイムで計測し、その脳活動計測手段によって得られた信号から、脳機能判定手段によって、操縦者の脳機能に異常があるかを検知し、その脳機能判定手段によって得られた判定結果に応じて、走行制御手段によって、制御信号を出力し、脳機能判定手段により異常が検知された場合には、走行制御手段により安全操作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動スクーターや電動車椅子など低速度の乗用走行車両の運転を補助する制御方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動することは、人間にとって最も基本的で意味ある行動である。働く、運動する、買い物に行く、友人を訪ねるなど、生活の中の大部分の活動は、移動に頼っている。まさに「移動」は、よりよい生活を考える上でのキーワードとも言える。
現在、私達は、自転車、自動車、電車、飛行機、そして歩行も含めて、数多くの移動手段に囲まれている。それらの大部分は、20世紀以降に急速に発展した工学技術に負うものである。更に、ITS(IntelligentTransport System)に代表される先端情報技術により、自動化と情報化を取入れた便利で快適な移動が可能になりつつある。「移動」に携わる技術の進歩が、幅広い分野での社会的サービスを向上させ、私達の日々の生活の基盤を支えてくれている。
【0003】
ところが、多くの人々がこのような便利な移動を享受する一方で、体の障害をもつ方々や高齢者は、移動に必要な状況把握や情報へのアクセス、身体機能が十分でないために、不安をもって生活し、自由な外出を阻まれてしまっている。最近では、バリアフリーを考慮した駅や公共の建物も増え、皆が快適に共存する場としての都市空間の構築が目指されるようになっているが、まだ数多くの側面が見直されないまま残っている。
【0004】
また、近年、少子化や核家族化の傾向が益々顕著なものとなり、また、社会の急激な高齢化が確実視されている。このような状況を反映し、高齢者が自立的な生活を送るための補助手段としての福祉機器の重要性が強く認識され、実用化が進められている。
高齢者が自立的な生活を送るための補助手段としての代表的なものとして、電動スクーターや電動車椅子が挙げられる。操縦者が、特別の訓練を要することなく容易に運転でき、快適な操縦感覚も得られ、更に、安全な走行制御を備えた電動スクーターや電動車椅子が望まれている。
【0005】
電動スクーターや電動車椅子など、10km/h以下の低速度で走行する乗用走行車両は、既に公知である。
その安全な走行に対する配慮も開発されつつある。そのような従来技術には、例えば、次のような特許文献がある。
【特許文献1】特開平6−190007「対物センサーを利用した電動車椅子用安全停止装置」
【特許文献2】特開平8−66431「コンピュータを内臓するなど知的判断力を持った電動車椅子」
【0006】
従来技術には、安全性確保のために、赤外線センサーや超音波センサー等を備えたものはあるが、操縦者の運転時の健康状態を配慮したものはなかった。
例えば、運転中に、発作を起こしたり、眠ってしまったりした場合、低速度の車両であっても、大きな事故に結び付きかねない。
これは、自動運転等の操縦補助手段が進むほど、重要な問題となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、操縦者の運転中の状態をモニターして、安全に走行制御する乗用走行車両の制御方法と、その方法を実施する装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の乗用走行車両の制御方法は、走行制御手段を備えた乗用走行車両において、その車両に脳活動計測手段を搭載し操縦者に装着させて、操縦者の運転中の脳活動をリアルタイムで計測し、その脳活動計測手段によって得られた信号から、脳機能判定手段によって、操縦者の脳機能に異常があるかを検知し、その脳機能判定手段によって得られた判定結果に応じて、走行制御手段によって、制御信号を出力し、脳機能判定手段により異常が検知された場合には、走行制御手段により安全操作を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明の乗用走行車両の制御装置は、走行制御手段を備えた乗用走行車両において、その車両に搭載され操縦者に装着させて、操縦者の脳活動を計測する脳活動計測手段と、その脳活動計測手段によって得られた信号から、操縦者の脳機能に異常があるかを検知する脳機能判定手段と、その脳機能判定手段によって得られた判定結果に応じて、制御信号を出力する走行制御手段とを備え、脳機能判定手段により異常が検知された場合には、走行制御手段により安全操作を行うことを特徴とする。
【0010】
ここで、乗用走行車両としては、約10km/h以下の低速度車両が好適である。
【0011】
脳活動計測手段としては、操縦者の頭部に装着され、頭部に光を照射すると共に頭部からの反射光を受光して、脳におけるヘモグロビン量に関係したデータを計測する光計測装置が有効である。
【0012】
脳活動計測手段は、操縦者の頭部に装着される脳波計も有効である。
【0013】
走行制御手段による安全操作としては、車両の走行速度の減速が有効である。
【0014】
乗用走行車両の少なくとも前部に、赤外線センサー及び超音波センサーを装備し、赤外線センサーによって障害物の存在を検知し、超音波センサーによって障害物との距離を測定して走行制御を行って、危険回避に寄与させてもよい。
【0015】
乗用走行車両に、無線通信手段、演算手段、記録手段を有するコンピューターとモニターを装備し、操縦者の使用に供し、安全のための情報入手に寄与させてもよい。
【0016】
乗用走行車両にモニターを装備し、操縦者への情報を画像として提示することで、聴覚に不都合のある人に対応させてもよい。
【0017】
同様に、乗用走行車両に骨伝導型のレシーバーを搭載し、操縦者に装着させて、操縦者への情報を振動として提示してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、乗用走行車両の操縦者が脳活動計測手段を装着して運転するので、運転時に脳機能に異常があれば、それを検知して安全な走行に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を基にして本発明の実施形態を説明する。
本実施例では、乗用走行車両として、電動スクーターや電動車椅子に類する約10km/h以下の低速度車両を例示するが、本発明は、自転車や自動車、鉄道車両、船舶、飛翔体などにも適用可能である。
【0020】
図1は、本発明による乗用走行車両の制御システムの概要を示す説明図である。
本システムには、環境端末、ユーザー携帯型移動端末、ユーザー搭乗型移動端末の3つの情報端末が根幹として備わる。
相互補完的な役割をもつこれらの端末は、互いにほぼ常時インターネット等の通信回線を介して情報を送受信しながら、利用者の認知・駆動・情報入手等の機能を総合的に補助し、安全で快適な移動を可能にしている。
それにより、利用者は、例えば、目的地までの経路、周囲のバリアフリー情報、自転車や自動車、他の歩行者についての情報を、視覚・聴覚・触覚などのうちそれぞれに適したメディアを通して知ることができ、障害をもつ方々や高齢者も、自由に市街地を移動できるよう支援される。
【0021】
環境端末は、道路や駅の要所等に設置される監視カメラに相当する機能をもつ情報通信端末である。それぞれの環境端末は、設置場所周辺をモニターし、工事現場や段差などの障害物や移動物体など環境についての状態を検出し、通信回線を介して、その近くに存在するユーザー携帯型移動端末やユーザー搭乗型移動端末へ環境に関する情報を送信する。また、ユーザー携帯型移動端末やユーザ搭乗型移動端末からの要求に応じたモニターを行ない、その情報を送信したりする。
【0022】
ユーザー携帯型移動端末は、従来公知の携帯電話、PDAや、小型PC等に相当する機能をもつ情報通信端末である。
図2は、ユーザー携帯型移動端末の例を示す斜視図である。
図示の例は、利用者の頭部に装着する骨伝導型のレシーバーであり、環境端末から赤外線等で送信された情報を受信するものである。
ユーザー携帯型移動端末は、ユーザー搭乗型移動端末に設置することも可能である。
【0023】
図3は、ユーザー搭乗型移動端末の例を示す斜視図である。
ユーザー搭乗型移動端末は、障害を持つ方々や高齢者のための電動スクーターに相当するものであり、操縦通りに運転できる通常の乗り物としての機能の他に、通信端末の機能が付設されている。
乗用走行車両としての走行速度は、約10km/h以下、好ましくは、4〜7km/h以下の低速度である
操縦系には、利用者の具合に合わせて設計されたハンドルまたはジョイスティックが装備される。
【0024】
この車両には、無線通信手段、演算手段、記録手段を有するコンピューター(11)と、タッチパネル式のモニター(12)が装備され、操縦者の使用に供している。通信手段としては、無線LAN(13)が設けられている。他に、位置検知のためのGPS(14)や、前方を撮影するCCDカメラ(15)も備わる。
【0025】
また、前部には、赤外線センサー(16)と超音波センサー(17)が装備され、赤外線センサー(16)によって障害物の存在を検知し、超音波センサー(17)によって障害物との距離を測定して、障害物に衝突しないように危険回避制御される。
タッチパネル式のモニター(12)に入力された要求や、環境端末から送られた情報などによって、目的地まで安全かつ効率よくナビゲートする走行支援制御も行える。
【0026】
コンピューター(11)には脳機能判定手段が格納され、脳活動計測手段に接続されている。
脳活動計測手段は、後述の近赤外線を利用する光計測装置など、車両に搭載され操縦者に装着させて、操縦者の脳活動を計測する機能を有する装置である。
その脳活動計測手段によって得られた信号から、操縦者の脳機能に異常があるかを脳機能判定手段によって検知し、得られた判定結果に応じて、走行制御手段によって制御信号を出力して操縦を制御する。
【0027】
操縦者は、頭部に脳活動計測手段を装着した状態で運転を行ない、リアルタイムで得られる脳機能情報をモニターされ、脳機能判定手段により異常が検知された場合には、走行制御手段により安全操作が行われる。
安全操作としては、車両の走行速度の減速や停止や、赤外線センサー(16)によって検知された障害物から離れることなどが挙げられる。また、ハザードランプの点滅や、スピーカーによる音声出力や、無線LAN(13)を介しての外部との緊急通信なども利用できる。
【0028】
操縦者の脳機能の異常としては、脳発作やてんかん、心停止などの病変の他に、睡眠などが挙げられる。
【0029】
図4は、光計測手段のヘッドギアを示す説明図である。
近赤外線を用いた脳活動計測(近赤外分光法(NIRS))では、脳組織の光散乱特性の変化がもたらす情報を、簡便かつ無侵襲に得ることができる。近赤外線は、赤外線の中でも可視光領域(約400〜700nm)に最も近い波長域(約700〜3000nm)であり、特に800nm付近の近赤外線は高い生体透過性を示す。そのため、頭皮上から照射した近赤外線は、脳組織を通過し、更に頭皮上から反射または散乱された光を受光することが可能である。
近赤外分光法は、この波長領域において血液中のヘモグロビンが特徴的な吸収バンドをもつことを利用して、生体組織中の血液の酸素化Hb(oxy-Hb)、脱酸素化Hb(deoxy-Hb)、並びに、総Hb(total-Hb)の変化を、連続的に検出できる特徴を有する。また、局所脳血液量(rCBV)の変化を扱える計測法としても確立されている。
生体内で酸素を運搬しているのは殆どヘモグロビンなので,生体内における酸素の需要供給の状態を知ることができる。そのため、心臓の異常なども検知できる利点がある。
【0030】
この装置では、光ファイバー等のケーブル(21)を介して、近赤外線が発光素子(22)より頭部に照射され、その反射光が受光素子(23)によって検出される。この発光素子(22)及び受光素子(23)は、頭部を覆って固定する固定器具に配置される。その配置位置は、測定したい脳の部位に応じて、適宜選定される。
なお、実施例装置としては、光照射部一つと光検出部二つを用いる空間分解分光法も利用可能であるが、光照射部一つと光検出部一つを用いるmodified Lambert-Beer則から導出される3パラメータ(ΔoxyHb、ΔdeoxyHb、ΔtotalHb)を利用する装置が有効に利用できる。
modified Lambert-Beer則では、光の信号変化量を対数変換したものと、吸収体濃度変化との間に線形関係が成立することとし、ある波長の光吸収変化は、酸素化Hb量変化と脱酸素化Hb量変化、並びに、散乱などその他の原因による変化の線形和で示される。複数波長の計測値によって、酸素化Hbと脱酸素化Hbに関する2つの未知数が計算される。
【0031】
脳活動計測手段としては、ポータブルな脳波計なども利用できる。
【0032】
それらで得られた信号から、脳機能に異常があり危険と判定する基準としては、信号値がある閾値を超えるか否か、またその状態がある一定時間以上続くか否かなどが挙げられる。
例えば、光計測でヘモグロビン量が徐々に低下していっていたり、脳波計測でアルファ波が増加していっていれば、睡眠の可能性が認められる。
より簡単に判定するには、安全な状態の通常の信号プロファイルを予め登録しておき、そのプロファイルと大きく異なった信号が得られた場合に危険と判定することもできる。また、頭部の複数部位における脳活動の相関などから、高次の解釈を施して、操縦者が運転に注力している度合いなどを判定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によると、操縦者に異変が生じた場合にも、乗用走行車両に安全策がとられる。そのため、高齢者などの社会的弱者に、移動の安全性を高め、普段の外出への心理的な抵抗を少なくし、社会的活動の機会を増やし、より自立した自由な生活を支援できる。また、高度に発展した情報通信システムにアクセスしその恩恵を享受する機会も提供できる。
高齢化社会を見据えて、健康や福祉などの分野に幅広く応用の可能性があり、産業上利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による乗用走行車両の制御システムの概要を示す説明図
【図2】ユーザー携帯型移動端末の例を示す斜視図
【図3】ユーザー搭乗型移動端末の例を示す斜視図
【図4】光計測装置のヘッドギアを示す説明図
【符号の説明】
【0035】
11 コンピューター
12 モニター
13 無線LAN
14 GPS
15 CCDカメラ
16 赤外線センサー
17 超音波センサー
21 ケーブル
22 発光素子
23 受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行制御手段を備えた乗用走行車両において、
その車両に搭載され操縦者に装着させて、操縦者の脳活動を計測する脳活動計測手段と、
その脳活動計測手段によって得られた信号から、操縦者の脳機能に異常があるかを検知する脳機能判定手段と、
その脳機能判定手段によって得られた判定結果に応じて、制御信号を出力する走行制御手段とを備え、
脳機能判定手段により異常が検知された場合には、走行制御手段により安全操作を行う
ことを特徴とする乗用走行車両の制御装置。
【請求項2】
乗用走行車両が、約10km/h以下の低速度車両である
請求項1に記載の乗用走行車両の制御装置。
【請求項3】
脳活動計測手段が、操縦者の頭部に装着され、頭部に光を照射すると共に頭部からの反射光を受光して、脳におけるヘモグロビン量に関係したデータを計測する光計測装置である
請求項1または2に記載の乗用走行車両の制御装置。
【請求項4】
脳活動計測手段が、操縦者の頭部に装着される脳波計である
請求項1または2に記載の乗用走行車両の制御装置。
【請求項5】
走行制御手段による安全操作が、車両の走行速度の減速である
請求項1ないし4に記載の乗用走行車両の制御装置。
【請求項6】
乗用走行車両の少なくとも前部に赤外線センサー及び超音波センサーが装備され、赤外線センサーによって障害物の存在を検知し、超音波センサーによって障害物との距離を測定して走行制御を行う
請求項1ないし5に記載の乗用走行車両の制御装置。
【請求項7】
乗用走行車両に、無線通信手段、演算手段、記録手段を有するコンピューターとモニターが装備され、操縦者の使用に供する
請求項1ないし6に記載の乗用走行車両の制御装置。
【請求項8】
乗用走行車両にモニターが装備され、操縦者への情報を画像として提示する
請求項1ないし7に記載の乗用走行車両の制御装置。
【請求項9】
乗用走行車両に骨伝導型のレシーバーが搭載され、操縦者に装着させて、操縦者への情報を振動として提示する
請求項1ないし7に記載の乗用走行車両の制御装置。
【請求項10】
走行制御手段を備えた乗用走行車両において、
その車両に脳活動計測手段を搭載し操縦者に装着させて、操縦者の運転中の脳活動をリアルタイムで計測し、
その脳活動計測手段によって得られた信号から、脳機能判定手段によって、操縦者の脳機能に異常があるかを検知し、
その脳機能判定手段によって得られた判定結果に応じて、走行制御手段によって、制御信号を出力し、
脳機能判定手段により異常が検知された場合には、走行制御手段により安全操作を行う
ことを特徴とする乗用走行車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−281923(P2006−281923A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102621(P2005−102621)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】