説明

二層ベローズの欠陥評価方法及びこれに用いる渦流探傷装置

【課題】 2層構造のベローズであっても、迅速且つ簡便にベローズの腐食や傷等の欠陥を評価することが可能なベローズの欠陥評価方法及びこれに用いる渦流探傷装置を提供すること。
【解決手段】 二層の金属薄板を成形してなるベローズの欠陥を評価する二層ベローズ100の欠陥を評価する。薄板のうち外側である第一層側の凸部表面104aに沿ってセンサ20を走査させて渦流探傷を行うと共に、第一層側の凸部表面104aに沿って送受信子を走査させて超音波探傷を行う。渦流探傷及び超音波探傷の受信信号に基づいて欠陥を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二層ベローズの欠陥評価方法及びこれに用いる渦流探傷装置に関する。さらに詳しくは、二層の金属薄板を成形してなるベローズの腐食や傷等の欠陥を評価する二層ベローズの欠陥評価方法及びこれに用いる渦流探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベローズの腐食や傷等の欠陥を非破壊試験する方法として、例えば渦流探傷や超音波探傷等が知られている。しかし、渦流探傷では、腐食や傷等の欠陥を定量的に評価することが困難であった。超音波探傷では、2層構造のベローズにおいて、層間の境界面により超音波が反射されるため、探傷面より内部の層の欠陥を検出することができなかった。そのため、定期的にベローズを開放して、内面からの目視及び浸透探傷試験が適用されていた。
【0003】
また、ベローズの欠陥評価方法としては、例えば特許文献1に記載の如きものが知られている。同文献記載の超音波探傷方法は、ベローズ部材内側の凹部に探触子を挿入し、その凹部に超音波を送信するものである。しかし、ベローズ部材内側からの探傷であるため、ベローズ部材を取り外さなければならず、検査作業が煩雑となっていた。また、超音波探傷であるため、上述の問題が解決されず、探傷側の表層側に存在する欠陥のみしか検出することができない。
【0004】
一方、超音波探傷と渦流探傷とを併用して欠陥を検出する方法として、例えば特許文献2に記載の如き欠陥検出方法が知られている。しかし、この欠陥検出方法は、鋳造部品を検査対象物とし、対象物が多層構造の場合について詳細は記載されておらず、2層構造のベローズにおける欠陥評価について、具体的に解決手段は何ら開示されていない。
【特許文献1】特開2000−266735号公報
【特許文献2】特開2006−133031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、2層構造のベローズであっても、迅速且つ簡便にベローズの腐食や傷等の欠陥を評価することが可能なベローズの欠陥評価方法及びこれに用いる渦流探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らの研究の結果、ベローズの伸縮等に伴う応力は、ベローズの凸部に集中し易く、それにより、ベローズの凸部に欠陥が生じ易いことが判明した。また、ベローズを水平に配置した場合、下側の凸部に内部を流れる流体の一部が滞留しやすく、それにより凸部の内面側が腐食を受け易いことが判明した。
【0007】
この点を鑑み、上記目的を達成するため、本発明に係る二層ベローズの欠陥評価方法の特徴は、二層の金属薄板を成形してなるベローズの欠陥を評価する二層ベローズの欠陥を評価する方法であって、前記薄板のうち外側である第一層側の凸部表面に沿ってセンサを走査させて渦流探傷を行うと共に、前記第一層側の凸部表面に沿って送受信子を走査させて超音波探傷を行い、前記渦流探傷及び前記超音波探傷の受信信号に基づいて前記欠陥を評価することにある。
【0008】
同構成により、欠陥が発生しやすい凸部表面に沿って探傷を行うことで、効率よくベローズの欠陥を評価することが可能となる。また、外部と接する第一層側を走査するので、ベローズを取り外すことなく稼働させた状態で簡便に欠陥評価を行うことができる。さらに、渦流探傷及び超音波探傷双方の受信信号により欠陥を評価するので、2層構造のベローズであっても確実に欠陥評価することが可能となる。
【0009】
前記渦流探傷による欠陥検査結果と前記超音波探傷による欠陥検査結果とを比較することにより第二層の欠陥の有無を評価するようにしても構わない。前記センサは走査方向に沿って少なくとも一対の車輪を有し、前記車輪の外周部には幅方向中央部が凹む凹部を有してもよい。係る場合、前記センサは前記車輪との相対的高さを調整可能であることが望ましい。
【0010】
前記送受信子は前記渦流探傷により特定された欠陥位置の近傍において走査するようにしてもよい。また、前記薄板はステンレス鋼より構成されていても構わない。
【0011】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る渦流探傷装置の特徴は、上記のいずれかに記載の二層ベローズの欠陥評価方法に用いられる渦流探傷装置において、プローブは本体部と走査方向に沿って少なくとも一対の車輪とコイルを備え、前記車輪の外周部には幅方向中央部が凹む凹部を有し、前記コイルは前記車輪との相対的高さが調整可能であることにある。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明に係る二層ベローズの欠陥評価方法及びこれに用いる渦流探傷装置の特徴によれば、2層構造のベローズであっても、迅速且つ簡便にベローズの腐食や傷等の欠陥を確実に評価することが可能となった。
【0013】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、適宜添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明は配管等に用いられるベローズ100に発生する割れや腐食等の欠陥を検出するためのものである。本実施形態では、図1に示す渦流探傷装置2と、図5に示す超音波探傷装置3との双方を含む検査装置1を用い、渦流探傷試験と超音波探傷試験とを併用して探傷試験を行う。
【0015】
検査対象であるベローズ100は、図2,5,6に示すように、ステンレス鋼材よりなる第一層101及び第二層102の二層の薄板を成型したものであり、円筒状又はスパイラル状の蛇腹として形成されている。第一層101はベローズ100の外部Oと接する外側の層をいい、第二層102はベローズ100内部Iを流れる流体が接する内側層をいう。これらの探傷試験においては、外部Oに露出している第一層101側の山部表面104aに沿って走査を行う。
【0016】
渦流探傷装置2を用いて行う渦流探傷試験について説明する。渦流探傷試験では、まず検査対象であるベローズ100にコイル21を内蔵したセンサ20を近づけ、そのコイル21を励磁することで、ベローズ100内部に渦電流を発生させる。そして、渦電流により生成される磁束の変化に伴うコイル21のインピーダンス変化を測定し、亀裂や腐食等の損傷を検出する。
【0017】
図7に示すように、渦流探傷装置2は、大略、センサ20を支持するプローブ10、発振器22、ブリッジ23、移相器24、自動平衡器25、増幅器26、同期検波器27及び表示器29を備える。コイル21は同様に構成された第一、第二コイル21a,21bよりなり、ブリッジ23は、これら一対のコイル21a,21bと図示しない可変抵抗器により構成されるブリッジ回路である。
【0018】
発振器22からの交流出力はコイル21に加えられてベローズ100を励磁し、渦電流に伴う磁束を検出する。自動平衡器25は健全部でのブリッジ23出力を零とするものである。第一、第二コイル21a,21b間の不平衡出力が増幅器26で増幅され、同期検波器27に送られて、移相器24の出力とあいまって検波される。そして、受信信号の波形をパーソナルコンピューター28に取り込むと共に表示器29に例えば図8に示す如き波形を表示する。
【0019】
渦流探傷においては、図5に示すように、第一層101及び第二層102に跨って存在する欠陥D1が可能であると共に、符号20’に示すセンサにおいて第二層102内にのみ存在する欠陥D2をも検出することが可能である。よって、渦流探傷によりベローズの山部104内全体の欠陥を検出する。
【0020】
続いて、超音波探傷装置3について説明する。この装置は、主として上述の渦流探傷試験により欠陥信号を検出した箇所に対し試験を行う。
【0021】
図7に示すように、超音波探傷装置3は、第一層101の表面101aを走査する一対の送信子30a及び受信子30bよりなる送受信子30と、送信子30aを励起するためのパルサー31と、受信子30bで受信した波形を処理するレシーバー32とを備えている。また、送受信子30にはワイヤーエンコーダー33が取り付けられており、送受信子30の移動位置が記録される。レシーバー32の出力はパーソナルコンピュータ34に取り込まれてエンコーダー33により記録された位置情報と共に処理され、その結果を例えば図9に示す如きBスコープ画像として表示器35に表示する。
【0022】
超音波探傷においては、図6に示すように、第一層101及び第二層102に跨って存在する欠陥D1は、欠陥D1からの反射信号により検出し、欠陥D1の深さを測定することが可能である。しかし、第二層102内にのみ存在する欠陥D2は、符号30’に示す送受信子において第一層101と第二層102との境界面103で超音波が反射するため、欠陥D2を検出することができない。
【0023】
そこで、渦流探傷と超音波探傷を組み合わせて検査することにより、山部104の欠陥を渦流探傷で検出すると共に、第一層101及び第二層102に跨って存在する欠陥D1の深さを超音波探傷により測定することができる。また、渦流探傷により欠陥を検出したが、超音波探傷により欠陥が検出できない箇所は、欠陥D2が存在している箇所であることが分かり、少なくとも第一層101の健全性を評価することができる。
【0024】
次に、図1,3を参照しながら、渦流探傷装置2のプローブ10について説明する。
プローブ10は、大略、樹脂等により形成される本体部11と、一対の車輪12とセンサ20のリフトオフ距離を調整する調整機構15とよりなる。センサ20のコイル21は、プローブ進行方向Yに一対の第一、第二コイル21a,21bを備えており、ベローズ100に渦電流を発生させる。図4に示すように、コイル21は全体を棒状に形成してあり、第一、第二コイル21a,21bをセンサ20の筐体20aに支持した芯材21cに巻き付けてある。
【0025】
一対の車輪12はプローブ10の進行方向Y前後にセンサ20を挟んで設けられている。この車輪12の周方向には凹部となるV溝12aが形成され、その両側端部がベローズ100の山部表面104aと接触する接触部12bとなる。よって、前後一対の車輪12,12の各接触部12bによりプローブ10が支持されるので、プローブの横ずれが防止され、走査を安定して行うことができる。また、図3に示すように、符号104’で示す如く山部表面の曲率が変化しても、凹部によって一対の接触部が生じるので、曲率が変化した場合であってもプローブの横ずれを防止できる。
【0026】
また、調整機構15は、大略、センサ20を取り付ける固定板16と本体部11aと螺合するねじ17とナット18とよりなる。ねじ17は、固定板16と連結しており、このねじ17により、センサ20と車輪12との相対高さ、すなわち、センサ20と山部表面104aとのリフトオフ距離Hを調整することができる。図3に示すように、この調整機構15により、山部104の走査位置の相違により符号104’で示す如く山部表面の曲率が変化しても、一定のリフトオフ距離Hにより検査することができる。また、曲率の異なるベローズに対してもこのプローブ10を適用させることができる。
【0027】
次に、ベローズ100の探傷試験手順について説明する。
まず、渦流探傷装置2を用いて渦流探傷試験を行う。プローブ10にセンサ20を取り付けると共に調整機構15によりセンサ20と山部104の第一層表面101aとのリフトオフ距離を調整する。そして、ベローズ100の山部表面104aに沿って、山部104の長手方向Y(ベローズ100の管周方向)にプローブ10を走行させて走査を行う。
【0028】
そして、表示器29に表示された受信信号の波形を確認しながら、検査員がベローズ100に欠陥信号箇所をマーキングしていく。次に先の走査方向Yに対し直交する方向Xへ間隔をおいて、その走査方向と平行に山部表面104aに沿って走査を行い、欠陥信号箇所をマーキングしていく。この手順を繰り返し行い、山部104の面探傷を行う。
【0029】
次に、その山部104に対して超音波探傷装置3を用いて超音波探傷試験を行う。まず、山部104に送信子30a及び受信子30bを配置する。次に、送信子30aから超音波を山部表面104aに向けて送信すると共に、反射する反射波を受信子30bで受信する。この送受信を行いながら先の走査と同一経路を走査する。そして、受信した受信信号とエンコーダー33により取得した位置情報により、Bスコープ画像を表示される。
【0030】
上述のマーキングを施した箇所において、超音波探傷により欠陥が検出された場合は、第一、第二層101,102共に侵されているときであり、その欠陥深さを測定することが可能である。一方、マーキング箇所において、超音波探傷により欠陥が検出されなかった場合、第二層102に存在する欠陥D2であると判定し、第一層101に欠陥は存在せず少なくとも第一層101は健全であると評価する。
【0031】
最後に、本発明の他の実施形態の可能性について言及する。
上記実施形態において、センサ20には自己誘導自己比較方式のコイルを用いた。しかし、コイルの態様は自己誘導自己比較方式に限らず、種々の方式のコイルを適用しても構わない。
【0032】
上記実施形態において、センサ20のリフトオフ距離の調整をねじ17により行ったが、ねじに限らず、各種調整手段が適用可能である。また、車輪に形成した凹部はV字形状であったが、一対の接触部が形成される形状であれば円弧状であってもよく、用途に応じて改変が可能である。
【0033】
また、上記実施形態において、渦流探傷の結果を検査員がマーキングするようにしていた。しかし、渦流探傷において欠陥位置情報を記録させ、その欠陥位置情報に基づいて超音波探傷を行うようにしても構わない。上記実施形態において、超音波探傷結果をBスコープ画像として表示した。しかし、二軸スキャナーを用いCスコープ画像を表示させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、2層構造のベローズの欠陥評価方法及びこれに用いる欠陥評価装置として利用することができる。なお、2層構造に限定されるわけではなく、単一層のベローズにおいても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ベローズと渦流探傷装置との関係を示す側面図である。
【図2】ベローズの構造を模式的に表した図である。
【図3】プローブの正面図である。
【図4】コイルの断面図である。
【図5】渦流探傷試験での欠陥検出を説明する模式図である。
【図6】超音波探傷試験での欠陥検出を説明する模式図である。
【図7】検査装置のブロック図である。
【図8】渦流探傷の走査結果例の波形例を示すグラフである。
【図9】超音波探傷の走査結果例のBスコープ画像である。
【符号の説明】
【0036】
1:欠陥検出装置、2:渦流探傷装置、3:超音波探傷装置、10:プローブ、11:本体部、12:車輪、12a:V溝(凹部)、12b:接触部、13:軸、15:調整機構、16:固定板、17:ねじ、18:ナット、20:センサ、21a:第一コイル、21b:第二コイル、21c:芯材、22:発振器、23:ブリッジ、24:移相器、25:自動平衡器、26:増幅器、27:同期検波器、28:パーソナルコンピューター、29:表示器、30:送受信子、30a:送信子、30b:受信子、31:パルサー、32:レシーバー、33:ワイヤーエンコーダー、34:PC、35:表示器、100:ベローズ、100a:ひだ、101:第一層、102:第二層、103:境界面、104:山部、D1,2:欠陥、I:内部、O:外部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二層の金属薄板を成形してなるベローズの腐食や傷等の欠陥を評価する二層ベローズの欠陥評価方法であって、
前記薄板のうち外側である第一層側の凸部表面に沿ってセンサを走査させて渦流探傷を行うと共に、前記第一層側の凸部表面に沿って送受信子を走査させて超音波探傷を行い、前記渦流探傷及び前記超音波探傷の受信信号に基づいて前記欠陥を評価することを特徴とする二層ベローズの欠陥評価方法。
【請求項2】
前記渦流探傷による欠陥検査結果と前記超音波探傷による欠陥検査結果とを比較することにより第二層の欠陥の有無を評価することを特徴とする請求項1記載の二層ベローズの欠陥評価方法。
【請求項3】
前記センサは走査方向に沿って少なくとも一対の車輪を有し、前記車輪の外周部には幅方向中央部が凹む凹部を有していることを特徴とする請求項1又は2記載の二層ベローズの欠陥評価方法。
【請求項4】
前記センサは前記車輪との相対的高さを調整可能であることを特徴とする請求項3に記載の二層ベローズの欠陥評価方法。
【請求項5】
前記送受信子は前記渦流探傷により特定された欠陥位置の近傍において走査されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二層ベローズの欠陥評価方法。
【請求項6】
前記薄板はステンレス鋼よりなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の二層ベローズの欠陥評価方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の二層ベローズの欠陥評価方法に用いられる渦流探傷装置であって、
プローブは本体部と走査方向に沿って少なくとも一対の車輪とコイルを備え、前記車輪の外周部には幅方向中央部が凹む凹部を有し、前記コイルは前記車輪との相対的高さが調整可能であることを特徴とする渦流探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−151588(P2008−151588A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338636(P2006−338636)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000183624)出光エンジニアリング株式会社 (18)
【出願人】(000235532)非破壊検査株式会社 (49)
【Fターム(参考)】