説明

二輪車のステアリング用軸受装置

【課題】玉軸受を用いたステアリング用軸受装置の組み立て性を確保した上で、転動体と軌道面との接触面圧を低減し、さらに、異物の噛み込みによる表面剥離を防止して、軸受寿命を延長することである。
【解決手段】アンギュラ玉軸受1の内輪2と外輪3の軌道面2a、3a間に配列されたボール4を保持器5に保持し、内輪2の軌道面2aの軸方向断面における曲率半径ρ2をボール4の直径Dの53%以下として、内輪2をSUJ2またはSUJ3を素材として焼入れ、焼戻し処理を施し、軌道面2aの表層部の残留オーステナイト量を20体積%以上、ビッカース硬さHvを680以上とすることにより、ステアリング用軸受装置の組み立て性を確保した上で、ボール4と軌道面2aとの接触面圧を低減し、さらに、異物の噛み込みによる表面剥離を防止して、軸受寿命を延長できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車のステアリング用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車のステアリングステムをステアリング支持部に回転自在に支持する二輪車のステアリング用軸受装置の転がり軸受には、大型車では円錐ころ軸受や円筒ころ軸受が用いられているが(例えば、特許文献1参照)、中小型車では、転動体としてのボールを、保持器を用いずに内外輪の軌道面間に密に配列した総ボール形式の玉軸受が用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−217056号公報
【特許文献2】特開平8−74861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載されたように、総ボール形式の玉軸受を用いた二輪車のステアリング用軸受装置は、組み立て時に、内外輪の軌道面間に配列される転動体としてのボールが抜け落ちやすく、組み立て性が悪い問題がある。特に、内外輪の少なくとも一方の軌道面の片側にカウンタ部が設けられたアンギュラ玉軸受は、このカウンタ部から転動体が抜け落ちやすい。
【0005】
このような転動体の抜け落ちを防止するためには、保持器を用いて内外輪の軌道面間に配列される転動体を保持すればよいが、保持器を用いると、その柱部で転動体を隔てる間隔分だけ転動体の配列個数が少なくなるので、転動体と軌道面との接触面圧が高くなって、フレッティングや焼き付き等の表面損傷が発生しやすくなる。特に、内輪の軌道面は、軸直交方向断面が凸形状で曲率半径も小さいので、軸直交方向断面が凹形状で曲率半径も大きい外輪の軌道面よりも、軸直交方向断面での転動体との接触長が短くなり、転動体との接触面圧が高くなる。このような軌道面と転動体との接触面圧を低減するには、軌道面の軸方向断面における曲率半径を転動体の半径に近づけるように小さくし、軸方向断面における軌道面と転動体との接触長を長くして、これらの接触面積を拡げることが考えられる。
【0006】
また、二輪車のステアリング用軸受装置は、道路事情の悪い地域での走行時や洗車時に、泥水や洗浄水に混じって、路面や車体に付着する砂利等の細かい異物が軸受内部に侵入する。縦向きのステアリングステムを支持する二輪車のステアリング用軸受装置は、軸受の端面が上下に向けられるので、横向きの軸を支持して端面が左右に向けられる軸受に較べると、内部に侵入した異物は外部に落下して排出されやすいが、軌道面の軸方向断面における曲率半径を転動体の半径に近づけると、この軸方向断面の軌道面と転動体との間に形成される楔空間の楔角が小さくなる。このように楔空間の楔角が小さくなると、楔空間に異物が引っ掛かりやすくなるとともに、楔空間から異物を排斥する反力が小さくなり、異物が軌道面と転動体との間に噛み込まれやすくなる。
【0007】
このように砂利等の硬い異物が軌道面と転動体との間に噛み込まれると、軌道面や転動体の表面に圧痕が形成され、この圧痕のエッジ部が応力集中源となって、圧痕を起点とする表面剥離が早期に生じ、軸受寿命が短くなる問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、玉軸受を用いたステアリング用軸受装置の組み立て性を確保した上で、転動体と軌道面との接触面圧を低減し、さらに、異物の噛み込みによる表面剥離を防止して、軸受寿命を延長することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、二輪車のステアリング支持部に内挿されるステアリングステムを、内輪と外輪の軌道面間の軸受空間に複数の転動体を配列した玉軸受で回転自在に支持した二輪車のステアリング用軸受装置において、前記内輪と外輪の軌道面間に配列される転動体を保持器に保持し、前記内輪と外輪の軌道輪のうちの少なくとも内輪の軌道面の軸方向断面における曲率半径を、前記転動体の直径の53%以下として、この軌道面の曲率半径を転動体の直径の53%以下とした小曲率半径軌道輪を、合金元素としてC:0.95〜1.10質量%、Si:0.15〜0.70質量%、Mn:1.15質量%以下、Cr:0.90〜1.60質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を素材として、焼入れ、焼戻し処理を施し、前記軌道面の表層部における残留オーステナイト量を20体積%以上、ビッカース硬さHvを680以上とした構成を採用した。
【0010】
すなわち、内輪と外輪の軌道面間に配列される転動体を保持器に保持し、内輪と外輪のうちの少なくとも内輪の軌道面の軸方向断面における曲率半径を、転動体の直径の53%以下、好ましくは52%以下とすることにより、ステアリング用軸受装置の組み立て性を確保した上で、軸方向断面における転動体と少なくとも内輪の軌道面との接触長を長くし、これらの接触面積を拡げてその接触面圧を低減し、さらに、軌道面の曲率半径を転動体の直径の53%以下、好ましくは52%以下とした小曲率半径軌道輪を、合金元素としてC:0.95〜1.10質量%、Si:0.15〜0.70質量%、Mn:1.15質量%以下、Cr:0.90〜1.60質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を素材として、焼入れ、焼戻し処理を施し、軌道面の表層部における残留オーステナイト量を20体積%以上、ビッカース硬さHvを680以上とすることにより、異物の噛み込みによる表面剥離を防止して、軸受寿命を延長できるようにした。
【0011】
前記小曲率半径軌道輪の素材とする鋼は、高炭素クロム軸受鋼SUJ2またはSUJ3に相当する鋼であり、このような鋼素材に焼入れ、焼戻し処理を施し、軌道面の表層部における残留オーステナイト量を20体積%以上、ビッカース硬さHvを680以上とすることにより、異物の噛み込みで生じる圧痕のエッジ部での応力集中を緩和できるとともに、圧痕を起点とする亀裂の伝播を抑制して、表面剥離を防止することができる。
【0012】
前記軌道面の表層部の旧オーステナイト結晶粒度を、JIS G0551に規定される10番以上とすることにより、軌道面の表層部の靭性を高めることができる。旧オーステナイト結晶粒度を10番以上とするためには、焼入れ処理時の加熱温度をAcm点以上で低くすればよい。なお、旧オーステナイト結晶粒は、焼入れ開始時の相変態したオーステナイトの結晶粒であり、冷却によりマルテンサイトへ変態した後も、過去の履歴として残存する。
【0013】
前記小曲率半径軌道輪を形成する鋼素材に窒化処理を施すことにより、軌道面の表層部を強化して、圧痕の生成を緩和できるとともに、圧痕部での応力集中をより緩和することができる。また、フレッティングや焼き付き等の表面損傷の発生も防止することができる。
【0014】
前記窒化処理を施した小曲率半径軌道輪の前記軌道面の表層部における表面から100μmの深さでの窒素濃度を0.1質量%以上とするのが好ましい。砂利等の異物は、直径が100μm程度のものが多いからである。
【0015】
前記軸受空間は接触式のシール部材でシールすることにより、軸受内部への異物の侵入を抑制することができる。
【0016】
前記軸受空間は非接触式のシールド部材でシールすることによっても、軸受内部への異物の侵入を抑制することができる。
【0017】
前記軸受空間に封入するグリースを、増ちょう剤としてウレア化合物を含むウレア系グリースとすることにより、転動体と軌道面との間に安定して油膜を形成し、フレッティングや焼き付き等の表面損傷の発生をより確実に防止することができる。また、ウレア系グリースは、耐酸化性、耐水性、耐熱性に優れているので、軸受内部を長期間安定して潤滑することができる。
【0018】
上述した各二輪車のステアリング用軸受装置は、前記玉軸受を、前記内輪と外輪の少なくとも一方の軌道面の片側にカウンタ部が設けられたアンギュラ玉軸受としたものに好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の二輪車のステアリング用軸受装置は、内輪と外輪の軌道面間に配列される転動体を保持器に保持し、内輪と外輪の軌道輪のうちの少なくとも内輪の軌道面の軸方向断面における曲率半径を、転動体の直径の53%以下、好ましくは52%以下として、この軌道面の曲率半径を転動体の直径の53%以下、好ましくは52%以下とした小曲率半径軌道輪を、合金元素としてC:0.95〜1.10質量%、Si:0.15〜0.70質量%、Mn:1.15質量%以下、Cr:0.90〜1.60質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を素材として、焼入れ、焼戻し処理を施し、軌道面の表層部における残留オーステナイト量を20体積%以上、ビッカース硬さHvを680以上としたので、玉軸受を用いたステアリング用軸受装置の組み立て性を確保した上で、転動体と軌道面との接触面圧を低減でき、さらに、異物の噛み込みによる表面剥離を防止して、軸受寿命を延長することができる。
【0020】
前記軌道面の表層部の旧オーステナイト結晶粒度を、JIS G0551に規定される10番以上とすることにより、軌道面の表層部の靭性を高めることができる。
【0021】
前記小曲率半径軌道輪を形成する鋼素材に窒化処理を施すことにより、軌道面の表層部を強化して、圧痕の生成を緩和できるとともに、圧痕部での応力集中をより緩和することができる。また、フレッティングや焼き付き等の表面損傷の発生も防止することができる。
【0022】
前記軸受空間は接触式のシール部材でシールすることにより、軸受内部への異物の侵入を抑制することができる。
【0023】
前記軸受空間は非接触式のシールド部材でシールすることによっても、軸受内部への異物の侵入を抑制することができる。
【0024】
前記軸受空間に封入するグリースを、増ちょう剤としてウレア化合物を含むウレア系グリースとすることにより、転動体と軌道面との間に安定して油膜を形成し、フレッティングや焼き付き等の表面損傷の発生をより確実に防止することができる。また、ウレア系グリースは、耐酸化性、耐水性、耐熱性に優れているので、軸受内部を長期間安定して潤滑することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に基づき、この発明の実施形態を説明する。この二輪車のステアリング用軸受装置は、図1に示すように、ステアリング支持部としてのステアリングパイプ11に内挿されたステアリングステム12を、上下一対のアンギュラ玉軸受1で回転自在に支持したものであり、ステアリングステム12には、左右のフロントフォーク13を連結するアッパブラケット14を介してハンドル15が取り付けられている。
【0026】
前記アンギュラ玉軸受1は、図2に示すように、内輪2と外輪3の軌道面2a、3a間に、転動体としての複数のボール4を保持器5で保持して配列し、対向する各軌道面2a、3aの互いに反対側の片側にカウンタ部2b、3bを設けたものであり、ボール4が配列された軸受空間にはウレア系グリース(図示省略)が封入され、軸受空間の両側は接触式のシール部材6aでシールされている。
【0027】
前記内輪2の軌道面2aの軸方向断面における曲率半径ρ2はボール4の直径Dの51%、外輪3の軌道面3aの軸方向断面における曲率半径ρ3はボール4の直径Dの53%とされており、軸方向断面におけるボール4と各軌道面2a、3aの接触長が長くなっている。したがって、保持器5を用いた分だけボール4の配列個数が少なくなっても、各ボール4と各軌道面2a、3aとの接触面積を拡げて、これらの間の接触圧力を低減することができる。
【0028】
前記内輪2および外輪3は、いずれも表1に示す高炭素クロム軸受鋼SUJ2またはSUJ3を素材として、焼入れ、焼戻し処理を施したものであり、一部のものは窒化処理も施され、内輪2と外輪3の各軌道面2a、3aの表層部における残留オーステナイト量が20体積%以上、ビッカース硬さHvが680以上とされている。また、JIS G0551に規定される旧オーステナイト結晶粒度は10番以上と細かくされている。なお、SUJ2、SUJ3とも、不可避的不純物としてのPおよびSは、いずれも0.025質量%以下とされている。Pはほぼ全てが旧オーステナイト粒界に析出して、靭性を低下させ、SはMnと化合してMnSとなり、MnSが大きくなると靭性が低下するからである。
【0029】
【表1】

【0030】
図3は、前記アンギュラ玉軸受1の変形例を示す。この変形例は、前記軸受空間の両側が非接触式のシールド部材6bでシールされている点が異なる。その他の部分は実施形態のものと同じであり、内輪2の軌道面2aの曲率半径ρ2は、ボール4の直径Dの51%、外輪3の軌道面3aの曲率半径ρ3はボール4の直径Dの53%とされている。
【0031】
上述した実施形態では、内外輪の軌道面の表層部における残留オーステナイト量を20体積%以上、ビッカース硬さHvを680以上としたが、内輪の軌道面の表層部のみを、このような残留オーステナイト量とビッカース硬さとしてもよい。
【0032】
また、上述した実施形態では、ステアリングステムを支持する玉軸受をアンギュラ玉軸受とし、その内輪と外輪の両方の軌道面の片側にカウンタ部を設けたが、アンギュラ玉軸受は、内輪と外輪のいずれか一方の軌道面の片側にカウンタ部を設けたものとしてもよく、玉軸受は深溝玉軸受としてもよい。
【実施例】
【0033】
実施例として、内輪の軌道面の軸方向断面における曲率半径をボールの直径の51%、外輪の軌道面の軸方向断面における曲率半径をボールの直径の53%とし、表2に示すように、内外輪をSUJ2またはSUJ3を素材として焼入れ、焼戻し処理を施し、各軌道面の表層部における残留オーステナイト量を20体積%以上、ビッカース硬さHvを680以上とした深溝玉軸受(実施例1〜4)を用意した。実施例1、2および4のものは、窒化処理も施され、表面から100μmの深さでの窒素濃度が0.1質量%以上とされている。また、比較例として、軌道面の曲率半径が実施例のものと同じ内外輪を、SUJ2またはSUJ3を素材として焼入れ、焼戻し処理を施し、各軌道面の表層部における残留オーステナイト量とビッカース硬さHvの少なくともいずれかが本発明で規定する範囲を外れた深溝玉軸受(比較例1〜4)も用意した。比較例2および4のものは窒化処理も施した。なお、各実施例と比較例の深溝玉軸受の寸法は、外径62mm、内径30mm、幅16mmとした。
【0034】
【表2】

【0035】
上記各実施例と比較例の深溝玉軸受を、異物が混入された潤滑油浴に配置された回転軸に取り付け、ラジアル荷重を負荷する異物混入寿命試験を行った。試験条件は以下の通りである。
・ラジアル荷重:6.86kN
・最大接触面圧:3.2GPa
・回転速度 :3000rpm
・潤滑油 :タービン油VG56
・異物 :ガスアトマイズ粉(粒径100〜180μm、硬さHv700〜800、混入量0.4g/リットル)
【0036】
上記異物混入寿命試験の結果を、表2に併せて示す。表中の寿命比は、SUJ2を素材とし、表層部の残留オーステナイト量を12体積%、ビッカース硬さHvを750とした比較例1の軸受寿命を基準値1としたものであり、軸受寿命はL10寿命(ワイブル分布に当てはめた90%のサンプルが破損しないで使える時間)で評価した。
【0037】
各実施例のものは、いずれも寿命比が2以上の長い軸受寿命を有し、特に、窒化処理を施した実施例1、2および4は、寿命比が3以上の長い軸受寿命を有している。これに対して、比較例のものは、窒化処理を施した比較例2および4は寿命比が1を上回るが、いずれも寿命比が2には遥かに及ばす、各実施例のものに較べると、軸受寿命が著しく短い。なお、各実施例と比較例のL10寿命を決定した要因は、ほとんどのものが内輪の軌道面の表面剥離であった。以上の試験結果より、少なくとも内輪の軌道面の表層部における残留オーステナイト量を20体積%以上、ビッカース硬さHvを680以上としたものは、内輪の軌道面の曲率半径をボールの直径の52%以下としても、異物の噛み込みに起因する表面剥離を防止して、軸受寿命を大幅に延長できることが確認された。
【0038】
つぎに、前記実施例1の内外輪と同様に、SUJ2を素材として窒化処理と焼入れ、焼戻し処理を施し、表層部における残留オーステナイト量を20体積%以上、ビッカース硬さHvを680以上としたものについて、表3に示すように、焼入れ処理時の加熱温度を変えて、表層部の旧オーステナイト結晶粒度を変化させた円筒試験片(実施例11〜14)を用意した。なお、各円筒試験片の焼戻し処理は180℃×2時間とし、その円筒面を内外輪の軌道面と同等に超仕上げした。
【0039】
【表3】

【0040】
上記各円筒試験片について、円筒面を2個の相手鋼球と転接させる転動疲労試験を行った。この鋼球を相手とする転動疲労試験は、鋼ローラを相手とする転動疲労試験よりも最大接触面圧を高くして、円筒試験片表層部の靭性を厳しく評価するものである。試験条件は以下の通りである。
・円筒試験片寸法:外径12mm、長さ22mm
・相手鋼球寸法 :直径19.05mm
・最大接触面圧 :5.88GPa
・負荷速度 :46240サイクル/分
・潤滑油 :タービン油VG68(油浴飛沫給油)
【0041】
上記転動疲労試験の結果を、表3に併せて示す。表中には、L10寿命の寿命比と併せてL50寿命(ワイブル分布に当てはめた50%のサンプルが破損しないで使える時間)の寿命比も示す。各寿命比は、それぞれ実施例11のL10寿命とL50寿命を基準値1としたものである。この試験結果より、旧オーステナイト結晶粒度をJIS G0551の10番以上と細かくした実施例13、14は、旧オーステナイト結晶粒度を10番よりも小さくした実施例11、12と較べて、L50寿命比は顕著な差が認められないが、L10寿命比が2倍程度に延長されている。このことから、旧オーステナイト結晶粒度を10番以上とすることにより、表層部の靭性を向上させて、転動疲労寿命を安定して延長し、短寿命となる確率を低減できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】二輪車のステアリング用軸受装置の実施形態を示す切欠き縦断面図
【図2】図1のアンギュラ玉軸受を示す縦断面図
【図3】図2のアンギュラ玉軸受の変形例を示す縦断面図
【符号の説明】
【0043】
1 アンギュラ玉軸受
2 内輪
3 外輪
2a、3a 軌道面
2b、3b カウンタ部
4 ボール
5 保持器
6a シール部材
6b シールド部材
11 ステアリングパイプ
12 ステアリングステム
13 フロントフォーク
14 アッパブラケット
15 ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二輪車のステアリング支持部に内挿されるステアリングステムを、内輪と外輪の軌道面間の軸受空間に複数の転動体を配列した玉軸受で回転自在に支持した二輪車のステアリング用軸受装置において、前記内輪と外輪の軌道面間に配列される転動体を保持器に保持し、前記内輪と外輪の軌道輪のうちの少なくとも内輪の軌道面の軸方向断面における曲率半径を、前記転動体の直径の53%以下として、この軌道面の曲率半径を転動体の直径の53%以下とした小曲率半径軌道輪を、合金元素としてC:0.95〜1.10質量%、Si:0.15〜0.70質量%、Mn:1.15質量%以下、Cr:0.90〜1.60質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を素材として、焼入れ、焼戻し処理を施し、前記軌道面の表層部における残留オーステナイト量を20体積%以上、ビッカース硬さHvを680以上としたことを特徴とする二輪車のステアリング用軸受装置。
【請求項2】
前記軌道面の表層部の旧オーステナイト結晶粒度を、JIS G0551に規定される10番以上とした請求項1に記載の二輪車のステアリング用軸受装置。
【請求項3】
前記小曲率半径軌道輪を形成する鋼素材に窒化処理を施した請求項1または2に記載の二輪車のステアリング用軸受装置。
【請求項4】
前記窒化処理を施した小曲率半径軌道輪の前記軌道面の表層部における表面から100μmの深さでの窒素濃度を0.1質量%以上とした請求項3に記載の二輪車のステアリング用軸受装置。
【請求項5】
前記軸受空間を接触式のシール部材でシールした請求項1乃至4のいずれかに記載の二輪車のステアリング用軸受装置。
【請求項6】
前記軸受空間を非接触式のシールド部材でシールした請求項1乃至4のいずれかに記載の二輪車のステアリング用軸受装置。
【請求項7】
前記シール部材またはシールド部材でシールした軸受空間に、増ちょう剤としてウレア化合物を含むウレア系グリースを封入した請求項5または6に記載の二輪車のステアリング用軸受装置。
【請求項8】
前記玉軸受を、前記内輪と外輪の少なくとも一方の軌道面の片側にカウンタ部が設けられたアンギュラ玉軸受とした請求項1乃至7のいずれかに記載の二輪車のステアリング用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−62581(P2009−62581A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231378(P2007−231378)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】