説明

光偏向器及びその製造方法

【課題】反射面を備える可動板の有効面積を確保しつつ、可動板の慣性モーメントを低減させた光偏向器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】反射面と側面を備える可動板と、所定の軸の周りに可動板を回動可能に支持する支持部とを有し、可動板の側面が軸に向かって窪んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いた光偏向器及びその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS技術を用いたマイクロアクチュエータの開発が盛んである。例えば、一対の弾性支持部(トーションバー)でねじり回動可能に支持されたミラーを備えた光偏向器は、簡便な構成で画像表示装置を形成することが可能なデバイスとして開発が進んでいる。
【0003】
近時のミラーの大面積化に伴い、ミラーの慣性モーメントが増大しつつあり、これによる駆動トルクが上昇するという問題がある。特許文献1には、ミラーの裏面に肉抜き部を設けた光走査装置の構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−37886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているようにミラーの裏面に肉抜き部を設けた場合には、確かに慣性モーメントが低減されるものの、ミラーの裏面に磁石、コイル、センサ等の素子を配置することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、反射面を備える可動板の有効面積を確保しつつ、可動板の慣性モーメントを低減させた光偏向器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の光偏向器は、反射面と側面を備える可動板と、所定の軸の周りに可動板を回動可能に支持する支持部とを有し、可動板の側面が、軸に向かって窪んでいる。
【0008】
上記構成によれば、可動板の側面が軸に向かって窪んでいることから、慣性モーメントが低減される。ここで、可動板の側面は可動板の外縁に相当することから、可動板の内側に比べて、回転軸からの距離が遠いといえる。慣性モーメントは、その物体の微小部分の質量と、その部分の軸からの距離の2乗との積の総和であることから、窪みを回転軸から離れた可動板の側面に設けることにより、同一質量で可動板の表面又は裏面に窪みが設けられた可動板と比較して、慣性モーメントは格段と小さくなる。また、可動板の表面又は裏面に窪みを設けないことにより、可動板の表面又は裏面は、反射面や他の素子の搭載面として最大限に利用可能となる。
【0009】
好ましくは、可動板の側面に、所定の結晶面が現われている。これにより、可動板の側面形状が高精度に制御可能となり、可動板の慣性モーメントの低減量の明確化に繋がることから、可動板の回動動作が精度良く制御可能となる。
【0010】
好ましくは、可動板の側面は、支持部との連結部を有しており、連結部付近の角部は、軸に向かって窪んでいる部分に形成された凸部を有する。このように、可動板と支持部との連結部における可動板の側面については、窪ませないようにすることにより、連結部への応力集中による支持部の破損が防止される。また、この連結部は、回転軸からの距離が近いことから、この部位において窪みが形成されなくても、回転モーメントの低減効果にそれほど影響はない。
【0011】
また、可動板の側面は、支持部との連結部を有しており、連結部付近の角部は、軸に垂直な方向に窪んでいる部分に形成された凸部を有するようにしてもよい。このように、可動板と支持部との連結部における可動板の側面については、窪ませないようにすることにより、連結部への応力集中による支持部の破損が防止される。また、この連結部は、回転軸からの距離が近いことから、この部位において窪みが形成されなくても、回転モーメントの低減効果にそれほど影響はない。
【0012】
可動板の厚さをaとし、可動板の反射面の外形寸法をbとした場合に、a/bが0.01以上1.4以下である。1.4以下としたのは、横方向への貫通を防止し、ミラー面を確保するためである。0.01以上としたのは、可動板の側面の窪みによる、可動板の慣性モーメントの低減効果を得るためである。
【0013】
さらに、上記の目的を達成するため、本発明の光偏向器の製造方法は、基板の両面に所定のパターンをもつマスクを形成する工程と、マスクを用いて基板を両面からエッチングして、可動板、及び可動板を両側から支持する支持部を形成する工程と、を有し、可動板及び支持部を形成する工程において、ウェットエッチングを用いて基板をオーバーエッチングすることにより、少なくとも可動板となる部位における基板の側面を窪ませる。
【0014】
上記構成によれば、ウェットエッチングを用いて基板をオーバーエッチングして、少なくとも可動板となる部位における基板の側面を窪ませることにより、製造プロセスを追加することなく、可動板の慣性モーメントを低減させた可動板が製造される。
【0015】
好ましくは、基板の両面に所定のパターンをもつマスクを形成する工程において、可動板に対応する第1マスクパターンと、支持部に対応する第2マスクパターンと、可動板と支持部との連結部の断面積が他の部位に比べて小さくなることを防止するための補正マスクパターンとを有するマスクを形成する。これにより、連結部における支持部の断面積が一定値以上に確保される。
【0016】
好ましくは、基板の両面に所定のパターンをもつマスクを形成する工程において、可動板に対応する第1マスクパターンと、支持部に対応する第2マスクパターンと、可動板と支持部との連結部に対応し、かつ第2マスクパターンより幅の広い補正マスクパターンとを有するマスクを形成する。これにより、連結部における支持部の断面積が一定値以上に確保される。
【0017】
また、前記可動板及び前記支持部を形成する工程の後に、前記基板に等方性エッチングを施すことにより、前記基板の所定の結晶面の稜線部に丸みをつける工程を有することが望ましい。
これにより、前記可動板及び前記支持部を形成する工程における異方性エッチングによって基板に生じた結晶面の稜線部に丸みを付けることができるので、稜線部への応力集中を緩和することができる。特に、可動板と支持部の連結部位への応力集中による破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る光偏向器の平面図である。
【図2】図1のII-II線の断面図である。
【図3】可動板の詳細な構成を示す断面図である。
【図4】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図5】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図6】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図7】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図8】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図9】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図10】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図11】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図12】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図13】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図14】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図15】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図16】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図17】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図18】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図19】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図20】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図21】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図22】第1実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図23】第2実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図24】第2実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図25】第2実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図26】第2実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図27】第2実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図28】第2実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図29】第2実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す工程断面図である。
【図30】第3実施形態に係る、光偏向器を用いた表示装置の概略構成図である。
【図31】図31(A)は、第4実施形態による光偏向器1の概略構成を示す上面図、図31(B)は、図31(A)のB−B断面図である。
【図32】第4実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す図である。
【図33】第4実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す図である。
【図34】第4実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す図である。
【図35】第4実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す図である。
【図36】第4実施形態に係る光偏向器の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る光偏向器の構成を示す平面図である。図2は、図1のII−II線における断面図である。
【0020】
光偏向器1は、可動板11と、支持枠12と、可動板11を支持枠12に対してねじり回動可能に支持する一対の弾性支持部13とを有する。可動板11、支持枠12、及び弾性支持部13は、例えば、シリコン基板をエッチング加工することにより一体形成される。可動板11の表面には、反射膜21が形成されている。これにより、可動板11及び反射膜21からなるミラー2が構成される。
【0021】
また、可動板11の裏面には、不図示の接着剤を介して磁石22が接合されている。磁石22は、可動板11を平面視したときに、可動板11の回転中心軸である軸線Xに直交する方向に磁化されている。すなわち、磁石22は、軸線Xを介して対向する互いに極性の異なる一対の磁極を有している。支持枠12は、ホルダ50に接合されており、ホルダ50上には、可動板11を駆動させるためのコイル51が配置されている。
【0022】
上記の振動ミラー1では、周期的に変化する電流(交流)がコイル51に供給される。これにより、コイル51は上方(可動板11側)に向く磁界と、下方に向く磁界とを交互に発生させる。これにより、コイル51に対し磁石22の一対の磁極のうち一方の磁極が接近し他方の磁極が離間するようにして、弾性支持部13を捩れ変形させながら、可動板11がX軸回りに回動させられる。
【0023】
図2では、磁石22とコイル51間の電磁力を利用した駆動方式の振動ミラーを示している。しかしながら、本発明は、静電引力を利用した方式や、圧電素子を利用した方式を採用してもよい。例えば、静電引力を利用した方式の場合には、磁石22は不要であり、コイル51の代わりに可動板11に対向する1つ又は複数の電極が設置される。そして、可動板11と電極との間に周期的に変化する交流電圧を印加することにより、可動板11と電極との間に静電引力を作用させて、弾性支持部13を捩れ変形させながら、可動板11をX軸回りに回動させる。
【0024】
図3は、可動板11の詳細な構成を示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態では、可動板11の側面14が、回転軸X側に窪んでいる。具体的には、主面が(100)面のSiウェハを用いて可動板11を形成した場合には、可動板11の側面14は、Siの(111)面で構成される。Siの(111)面と主面とのなす角度θは、54.73°である。
【0025】
上記構成によれば、可動板11の側面14が軸に向かってに窪んでいることから、慣性モーメントが低減される。ここで、可動板11の外縁となる側面14は、可動板11の内側に比べて、回転軸Xからの距離が遠いといえる。慣性モーメントは、その物体の微小部分の質量と、その部分の軸からの距離の2乗との積の総和であることから、窪みを回転軸Xから離れた可動板11の側面14に設けることにより、同一質量で可動板11の表面又は裏面に窪みが設けられた場合と比較して、慣性モーメントは格段と小さくなる。また、可動板11の表面又は裏面に窪みを設けないことにより、可動板11の表面又は裏面は、反射面や他の素子の搭載面として最大限に利用可能となる。図2に示すように、例えば、この可動板11の裏面に磁石22が固定される。
【0026】
ここで、可動板の厚さをaとし、可動板の反射面の外形寸法をbとした場合に、a/bが0.01以上1.4以下であることが好ましい。a/bを1.4以下としたのは、横方向への貫通を防いでミラー面を確保するためには、a/bが1.4以下である必要があるからである。例えば、ミラーの外形寸法b、厚さaのとき、横方向へのエッチング量をcとし、θを54.73°とする。このとき、横方向の貫通を防ぐためには、下記式(1)の条件を満たす必要があり、また、図3に示すようにcは下記式(2)で示される。下記式(1)が成立する。下記式(1)及び(2)により、下記式(3)に示すように、a/bは1.4以下となる。
b≧2c (1)
(a/2)/c=tan54.73 (2)
a/b≦1.4 (3)
【0027】
a/bを0.01以上としたのは、このような寸法の可動板の側面を窪ませることにより、可動板の慣性モーメントの低減効果が大きくなるからである。例えば、厚さa=150μm、外形寸法b=2000μmのミラーにおいて、側面が窪んでいない可動板を比較例とし、側面に(111)面が現われて窪んでいる可動板を実施例とする。上記の条件で慣性モーメントをシミュレーションした結果、比較例の慣性モーメントが2.97×10-13kgm2であったのに対し、本実施例の慣性モーメントは2.40×10-13kgm2であった。この結果、(実施例の慣性モーメント/比較例の慣性モーメント)×100=81%となり、慣性モーメントが約20%減少することが確認された。
【0028】
次に、上記の本実施形態に係る光偏向器1の製造方法について、図4〜図18を参照して説明する。
【0029】
図4に示すように、例えば、シリコンからなる基板10を用意する。そして、図5に示すように、熱酸化により、基板10の両面に酸化シリコンからなるマスク31,32を形成する。
【0030】
次に、図6に示すように、基板10の表面側のマスク31上にレジスト41を形成する。レジストは、ポジ型であってもネガ型であってもよい。そして、続いて、図7に示すように、基板10の裏面側のマスク32上にレジスト42を形成する。
【0031】
次に、図8に示すように、基板10の裏面側のレジスト42を露光及び現像して、レジスト42に所定の開口パターンP2を形成する。開口パターンP2は、例えば、可動板11、支持枠12、弾性支持部13以外の領域を開口するパターンである。
【0032】
次に、図9に示すように、レジスト42をマスクとして裏面側のマスク32をエッチングする。これにより、レジスト42の開口パターンP2が、マスク32に転写される。マスク32のエッチングには、例えばバッファードフッ酸(BHF)が用いられる。
【0033】
次に、図10に示すように、基板両面のレジスト41,42を除去する。レジスト41,42の除去には、硫酸洗浄又はアッシングが用いられる。
【0034】
次に、図11に示すように、基板10の裏面側に再度、レジスト43を形成する。さらに、図12に示すように、基板10の表面側に再度、レジスト44を形成する。
【0035】
次に、図13に示すように、基板10の表面側のレジスト44を露光及び現像して、レジスト44に所定の開口パターンP1を形成する。開口パターンP1は、例えば、開口パターンP2と同一のパターンとする。
【0036】
次に、図14に示すように、レジスト44をマスクとして表面側のマスク31をエッチングする。これにより、レジスト44の開口パターンP1が、マスク31に転写される。マスク31のエッチングには、例えばバッファードフッ酸(BHF)が用いられる。
【0037】
次に、図15に示すように、基板両面のレジスト43,44を除去する。レジスト43,44の除去には、硫酸洗浄又はアッシングが用いられる。
【0038】
次に、図16に示すように、マスク31,32を用いて、基板10をエッチングする。これにより、基板10に貫通孔が形成されて、可動板11、支持枠12、弾性支持部13のパターンが形成される。基板10のエッチングには、例えば、KOHを用いたウェットエッチングを用いる。
【0039】
次に、図17に示すように、マスク31,32を除去した後、さらに、基板10の表面に金属膜を成膜しパターニングすることにより、可動板11上に反射膜21を形成する。金属膜の成膜方法としては、真空蒸着、スパッタリング、電気メッキ、無電解メッキ、金属箔の接合等が挙げられる。なお、マスク31及びマスク32を除去せずに、残しておいてもよい。
【0040】
次に、図18に示すように、可動板11の裏面に、図示しない接着剤を介して磁石22
を固定する。
【0041】
以降の工程としては、このようにして一枚の基板を用いて作製された可動板11、支持枠12、弾性支持部13を含む構造体を、ホルダ50に取り付けることにより、光偏向器1が製造される。
【0042】
以上が本実施形態に係る光偏向器1の製造方法の全体的な製造工程であるが、以下では、可動板11の側面11aを窪ませる方法の詳細について、図19〜図22を参照して説明する。図19〜図22において、(A)は基板10の断面図であり、(B)は基板10の表面図である。
【0043】
図19は、基板10の表裏面に、所望のパターンのマスク31及びマスク32を形成した後の断面図及び表面図である。図19(A)の断面図は、図15に対応する。以下の説明では、例えば主面が(100)面のSiウェハからなる基板10を用いる場合である。
図20に示すように、基板10にKOHを用いたウェットエッチングを施すと、基板10の両面からエッチングが進行し始める。ウェットエッチングを用いた場合には、例えば、開口パターンP1,P2に露出した基板10の部位は、テーパー状にエッチングされる。
【0044】
図21に示すように、基板10の表面からのエッチングにより形成された孔と、基板10の裏面からのエッチングにより形成された孔の底同士が接触することにより、基板10を貫通する1つの孔が形成される。このとき、KOHなどのウェットエッチングでは、Siの結晶面方位(111)面がエッチングストッパとして機能するため、表面との角度θ=54.73°の面で構成された側面形状が自動的に形成される。図21に示すように、通常、ウェットエッチングで基板10を加工した場合には、基板10の側面14aは,軸とは反対に向かって凸状に形成される。
【0045】
本実施形態では、図22に示すように、基板10をオーバーエッチングして、ミラーの反射面の有効面積を保ったまま、基板10の側面を内側の(111)面までエッチングする。これにより、図22に示すように、軸に向かって窪んだ側面14が得られる。この側面14は、ウェットエッチング液の温度、濃度、エッチング時間を管理することによって自動的に形成される。
【0046】
上記の本実施形態に係る光偏向器1では、可動板11の側面14が窪んでいることにより、同一質量で可動板11の表面又は裏面に窪みが設けられた場合と比較して、大きな慣性モーメントの低減効果が得られる。また、可動板11の表面又は裏面に窪みを設けないことにより、可動板11の表面又は裏面は、反射面や他の素子の搭載面として最大限に利用可能となる。
【0047】
このように、ミラー2の有効面積を変えることなく、ミラー2の慣性モーメントを減少できることから、回動時にばね(弾性支持部13)にかかる応力を小さくすることができ、弾性支持部13の破損を防止することができる。
【0048】
また、慣性モーメントの減少により、同じ共振周波数を実現する弾性支持部13の長さを短くでき、小型化を図ることができるとともに、駆動周波数付近での捻り以外のモードの出現を抑えることができる。また、大偏向角を実現することができる。
【0049】
さらに、本実施形態に係る光偏向器1の製造方法によれば、ウェットエッチングを用いて基板10をオーバーエッチングして、少なくとも可動板11となる部位における基板10の側面を窪ませることにより、製造プロセスを追加することなく、慣性モーメントを低減させた可動板11を製造することができる。
【0050】
さらに、上記のようにして基板10にウェットエッチングを施した後に、基板10に等方性エッチングを施し、基板10の結晶面の稜線部に丸みをつけるようにしてもよい。基板10にウェットエッチング(異方性エッチング)を施すことにより出現する(111)面は、隣り合う面同士のなす角度が109.47°になるように形成される。可動板11と支持枠12の連結部位においては、この角部(稜線部)に応力集中が生じることにより連結部位が破損する恐れがある。基板10に等方性エッチングを施すことにより、この角部に丸みを付けることができるので、角部への応力集中を緩和することができる。これにより、応力集中による可動板11と支持枠12の連結部位の破損を防止することができる。
【0051】
なお、基板10に等方性エッチングを施す場合には、等方性エッチングによる基板10全体の縮小を調整するため、予め、ウェットエッチングの際に、可動板11、支持枠12、弾性支持部13の各パターンが少し大きめに形成されるようにマスク31,32を調整しておくことが望ましい。
【0052】
(第2実施形態)
基板10のウェットエッチングにおいて、可動板11に対応する部分と、弾性支持部13に対応する部分の連結部は角部を有しており、この角部のエッチングが、他の領域におけるエッチングに比べて速く進行する場合がある。第2実施形態は、この角部における過剰なエッチングを防止することを企図したものである。
【0053】
第2実施形態に係る光偏向器1及びその製造方法について、図23〜図28を参照して説明する。図23〜図28は、基板10のエッチング工程における表面図である。
【0054】
図23に示すように、本実施形態では、基板10の表面に可動板11に対応する第1マスクパターン31aと、弾性支持部13に対応する第2マスクパターン31bと、可動板11と弾性支持部13の連結部の回転軸に垂直な断面積が他の部位に比べて小さくなることを防止するための補正マスクパターン31cとを有するマスク31を形成する。なお、基板10の裏面側にも、表面側のマスク31と同じパターンをもつマスク32を形成する。図に示すように、補正マスクパターン31cは、回転軸に直交する方向の幅が第2マスクパターン31bよりも広く、第1マスクパターン31aよりも狭く形成されている。
【0055】
図24は、可動板および弾性支持部の連結部におけるマスクの拡大図であり、図25は、マスク31下における基板の拡大表面図である。図26〜図28は、エッチングの進行に伴う基板10の連結部の拡大図であり、図26はエッチングの開始時、図27はエッチングによる基板貫通時、図28はオーバーエッチング後の状態を示している。
【0056】
図29(A)は、図28のA−A断面を示している。また、図29(B)は、図29(A)のB−B断面を示している。すなわち、図29(B)は、図28が示す平面と平行な断面を示している。また、図29(C)は、図28のC−C断面を示している。図22に示したように、基板10をオーバーエッチングすることにより軸に向かって窪んだ側面14が形成されるが、補正マスクパターン31cを設けてエッチングを行うことにより、図29(A)、29(B)、29(C)に示すように、側面14は軸に向かって窪みつつも、可動板11と弾性支持部13の連結部19付近の角部15においては、その窪みの中に凸部16が形成される。
【0057】
このように、予め補正マスクパターン31cを設けておくことにより、可動板11と弾性支持部13との連結部19の断面積が他の部位に比べて小さくなることを防止することができる。したがって、慣性モーメントを低減しつつ、弾性支持部13の剛性を維持することができる。なお、凸部16には、シリコンの(111)面の他、エッチング条件や補正マスクパターン31cの形状によって(110)面、(100)面、(212)面、(331)面、(311)面、(131)面、(411)面、(141)面等が出現する場合もある。また、これらと等価な面が出現する場合もある。
【0058】
以上のように、可動板11と弾性支持部13の連結部19付近の角部15に補正マスクパターン31cを備えるマスク31を形成することにより、角部15のエッチングが他の部位に比べて速く進行しても、可動板11と弾性支持部13の連結部19の断面積を確保することができる。また、補正マスクパターン31cを設けることにより、基板10の側面14は軸に向かって窪みつつも、連結部19においてはその窪みの中に凸部16が形成されることから、連結部19への応力集中を抑制でき、これによる弾性支持部13の破損が防止される。また、この連結部19は、回転軸からの距離が近いことから、連結部19が軸に向かって窪んでいなくても、回転モーメントの低減効果にそれほど影響はない。
【0059】
(第3実施形態)
本実施形態に係る光偏向器1の応用例として、投射型の表示装置を説明する。図30は、投射型の表示装置の概略構成を示す図である。図30に示す光走査装置は、水平走査ミラーとして図1に示す光偏向器1を用いている。
【0060】
図30に示す光走査装置は、光偏向器1の他に、レーザ光源101と、ダイクロイックミラー102と、フォトダイオード103と、垂直ミラー104とを備える。
【0061】
レーザ光源101は、赤色レーザ光を出射する赤色レーザ光源101Rと、青色レーザ光を出射する青色レーザ光源101Bと、緑色レーザ光を出射する緑色レーザ光源101Gとを有する。ただし、2色以下又は4色以上のレーザ光源を用いてもよい。
【0062】
ダイクロイックミラー102は、赤色レーザ光源101Rからの赤色レーザ光を反射するダイクロイックミラー102Rと、青色レーザ光を反射し赤色レーザ光を透過させるダイクロイックミラー102Bと、緑色レーザ光を反射し青色レーザ光及び赤色レーザ光を透過させるダイクロイックミラー102Gとを有する。この3種のダイクロイックミラー102により、赤色レーザ光、青色レーザ光、及び緑色レーザ光の合成光が振動ミラー1に入射する。
【0063】
フォトダイオード103は、各ダイクロイックミラー102R,102G,102Bに反射されずに透過した赤色レーザ光、緑色レーザ光、青色レーザ光の光量を検出する。
【0064】
光偏向器1は、ダイクロイックミラー102から送られたレーザ光を水平方向(軸線Xの垂直方向)に走査する。光偏向器1は、上述したように、MEMSにより形成された、共振型ミラーである。
【0065】
垂直ミラー104は、光偏向器1により反射されたレーザ光を垂直方向に走査する。垂直ミラー104は、例えば、ガルバノミラーにより構成される。ガルバノミラーとはミラーに軸を付け、電気振動に応じてミラーの回動角を変えられるようにした偏向器である。光偏向器1によるレーザ光の水平走査、及び垂直ミラー104によるレーザ光の垂直走査により画像が表示される。
【0066】
本実施形態に係る光走査装置は、上記のレーザ光源101、振動ミラー1、垂直ミラー104の駆動制御系として、さらに、レーザ光源101を駆動するレーザ駆動手段110と、光偏向器1を駆動する水平ミラー駆動手段111と、垂直ミラー104を駆動する垂直ミラー駆動手段112と、全体の動作の制御を担う制御手段113と、記憶手段114とを有する。
【0067】
制御手段113は、パーソナルコンピュータや携帯電話等の各種の映像ソース115から送られた画像情報に基づいて、これらの画像を表示すべく、レーザ駆動手段110、水平ミラー駆動手段111、垂直ミラー駆動手段112の動作を制御する。
【0068】
記憶手段114は、例えば、各種のプログラムを収納するROMと、変数等を収納するRAMと、不揮発性メモリとにより構成される。
【0069】
本実施形態に係る光偏向器1を表示装置に適用することにより、表示性能の良好な表示装置を実現できる。
【0070】
(第4実施形態)
図31(A)は、第4実施形態による光偏向器1の概略構成を示す上面図、図31(B)は、図31(A)のB−B断面図である。ただし、図31(B)は、光偏向器1の支持枠12、及び弾性支持部17のみを示している。図に示すように、本実施形態では、各々の弾性支持部17は2本の棒17aで形成されている。棒17aは断面が平行四辺形であり、上面側に向かうに従って2本の棒17aの間隔が広がるように配置されている。また、ここでは図中θ=54.73°である。
【0071】
第4実施形態による光偏向器1の製造方法について図32、33を用いて説明する。図32、33は、図31(B)と同様の断面を示している。まず、基板10の表裏面に、可動板11、支持枠12、及び弾性支持部17に対応するパターンのエッチング用マスクを形成する。図32には、支持枠12に対応するマスクパターン31gと弾性支持部17に対応するマスクパターン31bが示されている。
【0072】
次に、基板10にKOHを用いたウェットエッチングを施す。基板10の表裏面からのエッチングにより形成されたそれぞれの孔が繋がることにより、基板10を貫通する1つの孔が形成される。KOHなどのウェットエッチングでは、Siの結晶面方位(111)面がエッチングストッパとして機能するため、表面との角度θ=54.73°の面で構成された側面形状が自動的に形成される。図33に示すように、支持枠12の側面14bは、軸とは反対に向かって凸状に形成されている。また、弾性支持部17の棒17aの外側の側面14cは、基板10の表面側に凸部が残されている。弾性支持部17の棒17aの内側の側面14dは、基板10の裏面側に凸部が残され、2本の棒17aの間はまだ貫通していない状態である。このように、基板10の表裏面に形成されたマスクパターンに従って、エッチングにより孔が形成される。
【0073】
さらに、基板10をオーバーエッチングして、基板10の側面を内側の(111)面までエッチングすると、図31(b)に示すように、支持枠12の側面14bは軸に向かって窪んだ状態となる。また、棒17aの外側の側面14cと内側の側面14dの凸部もエッチングされ、2本の棒17aの間が貫通する。
【0074】
また、第2実施形態と同様に、可動板11と弾性支持部17の2本の棒17aとの連結部の断面積が他の部位に比べて小さくなることを防止するための補正マスクパターンを含むエッチング用マスクを形成してエッチングを行ってもよい。図34(A)は、基板10の表面の補正マスクパターンを含むマスクパターンを示す図、図34(B)は、基板10の裏面の補正マスクパターンを含むマスクパターンを示す図である。なお、図34(A)、(B)は、可動板11と弾性支持部17の2本の棒17aの連結部19の周辺のみを拡大して示している。基板10の表面に設けられた補正マスクパターン31dは、連結部19付近の内側の角部15aに対応する領域に設けられている。基板10の表面に設けられた補正マスクパターン31eは、連結部19付近の外側の角部15bに対応する領域に設けられている。基板10の裏面に設けられた補正マスクパターン31fは、連結部19付近の外側の角部15bに対応する領域に設けられている。補正マスクパターン31d、31e、31fは、それぞれ矩形形状であるが、縦横の辺の長さの比は異なっている。
【0075】
図34(A),(B)に示すような補正マスクパターン31d、31e、31fを設けて基板10をオーバーエッチングした状態を図35に示す。図35は図31(B)と同様の断面を示している。図35に示すように、弾性支持部17の2本の棒17aの外側の側面14cの裏面側と、弾性支持部17の2本の棒17aの内側の側面14dの表面側に凸部18が形成される。また、図36は、図31(A)のC−C断面を示している。図36に示すように、可動板11の側面14は、回転軸(図31のX軸)に垂直な軸(Y軸)に向かって窪みつつも、可動板11と弾性支持部17の2本の棒17aとの連結部19付近の角部15においては、その窪みの中に凸部16が形成される。
【0076】
このように、予め補正マスクパターン31d、31e、31fを設けておくことにより、可動板11と弾性支持部17の2本の棒17aとの連結部19の断面積が他の部位に比べて小さくなることを防止することができる。したがって、慣性モーメントを低減しつつ、弾性支持部17の剛性を維持することができる。なお、凸部18には、シリコンの(111)面の他、エッチング条件や補正マスクパターン31cの形状によって(110)面、(100)面、(212)面、(331)面、(311)面、(131)面、(411)面、(141)面等が出現する場合もある。また、これらと等価な面が出現する場合もある。
【0077】
以上のように、可動板11と、弾性支持部17の2本の棒17aとの連結部19付近の角部15に補正マスクパターン31d、31e、31fを備えるマスクを形成して基板10をエッチングすることにより、連結部19付近の角部15のエッチングが他の部位に比べて速く進行しても、可動板11と棒17aとの連結部19の断面積を確保することができる。また、補正マスクパターン31d、31e、31fを設けることにより、基板10の側面14は軸に向かって窪みつつも、連結部19においては凸部18が形成されることから、連結部19への応力集中を抑制でき、これによる弾性支持部17の破損が防止される。また、この連結部19は、回転軸からの距離が近いことから、連結部19が軸に向かって窪んでいなくても、回転モーメントの低減効果にそれほど影響はない。
【0078】
本発明は、上記の実施形態の説明に限定されない。
例えば、可動板11は円形以外の多角形でもよい。また、本実施形態では、1次元1自由度で駆動するタイプの可動板11を例示したが、2次元に駆動するタイプの可動板11であってもよく、また、1次元2自由度で駆動するタイプの可動板11であってもよい。2次元に駆動するタイプの振動ミラーを用いた場合には、垂直ミラー104は不要である。
また、光偏向器1は、表示装置以外にもレーザプリンタ等に適用可能である。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1…光偏向器、2…ミラー、10…基板、11…可動板、12…支持枠、13,17…弾性支持部、14…側面、15,15a,15b…角部、16,18…凸部、棒17a、連結部19、50…ホルダ、21…反射膜、22…磁石、31,32…マスク、41,42,43,44…レジスト、50…ホルダ、51…コイル、100…表示装置、101…レーザ光源、101R…赤色レーザ光源、101G…緑色レーザ光源、101B…青色レーザ光源、102,102R,102G,102B…ダイクロイックミラー、103,103R,103G,103B…フォトダイオード、104…垂直ミラー、110…レーザ駆動手段、111…水平ミラー駆動手段、112…垂直ミラー駆動手段、113…制御手段、114…記憶手段、115…映像ソース、P1、P2…開口パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射面と側面を備える可動板と、
所定の軸の周りに前記可動板を回動可能に支持する支持部と、を有し、
前記可動板の前記側面が、前記軸に向かって窪んでいる、光偏向器。
【請求項2】
前記可動板の前記側面に、所定の結晶面が現われている、
請求項1記載の光偏向器。
【請求項3】
前記可動板の前記側面は、前記支持部との連結部を有しており、前記連結部付近の角部は、前記軸に向かって窪んでいる部分に形成された凸部を有する、請求項1記載の光偏向器。
【請求項4】
前記可動板の前記側面は、前記支持部との連結部を有しており、前記連結部付近の角部は、前記軸に垂直な方向に窪んでいる部分に形成された凸部を有する、請求項1記載の光偏向器。
【請求項5】
前記可動板の厚さをaとし、前記可動板の反射面の外形寸法をbとした場合に、a/bが0.01以上1.4以下である、請求項1記載の光偏向器。
【請求項6】
基板の両面に所定のパターンをもつマスクを形成する工程と、
前記マスクを用いて前記基板を両面からエッチングして、可動板、及び前記可動板を両側から支持する支持部を形成する工程と、を有し、
前記可動板及び前記支持部を形成する工程において、ウェットエッチングを用いて前記基板をオーバーエッチングすることにより、少なくとも前記可動板となる部位における前記基板の側面を窪ませる、光偏向器の製造方法。
【請求項7】
前記基板の両面に所定のパターンをもつマスクを形成する工程において、前記可動板に対応する第1マスクパターンと、前記支持部に対応する第2マスクパターンと、前記可動板と前記支持部との連結部の断面積が他の部位に比べて小さくなることを防止するための補正マスクパターンとを有するマスクを形成する、請求項6記載の光偏向器の製造方法。
【請求項8】
前記基板の両面に所定のパターンをもつマスクを形成する工程において、前記可動板に対応する第1マスクパターンと、前記支持部に対応する第2マスクパターンと、前記可動板と前記支持部との連結部に対応し、かつ前記第2マスクパターンより幅の広い補正マスクパターンとを有するマスクを形成する、請求項6記載の光偏向器の製造方法。
【請求項9】
前記可動板及び前記支持部を形成する工程の後に、前記基板に等方性エッチングを施すことにより、前記基板の所定の結晶面の稜線部に丸みをつける工程を有することを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載の光偏向器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2010−79243(P2010−79243A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53350(P2009−53350)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】