説明

光変調素子およびこれを用いた空間光変調器

【課題】透明電極を適用する必要がなく、また、開口率を増大、効率的な偏光変調を行なうことができ、さらに、磁化反転動作を正確に検知できる光変調素子およびこれを用いた空間光変調器を提供する。
【解決手段】基板7上に、磁化自由層3、上部中間層21、22、上部磁化固定層11、12とがこの順序で積層された上部素子1Aと、基板7と磁化自由層3との間に形成される下部素子1Bとを備える光変調素子1であって、上部磁化固定層は分離した2つの上部磁化固定層からなり、上部磁化固定層は、互いに反平行な磁化に固定され、かつ磁化自由層よりも保磁力の大きい磁性体であり、下部素子1Bは、補助電極53、下部磁化固定層13、下部中間層23とがこの順序で基板側から積層され、透過した光を磁化自由層3に入射させるための窓部54が形成され、駆動電極の一方と補助電極53との間の電気抵抗は、駆動電極間の電気抵抗に比べて大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光を磁気光学効果により光の位相や振幅等を空間的に変調して出射する光変調素子およびこれを用いた空間光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光変調器は、画素として光学素子(光変調素子)を用い、これを2次元アレイ状に配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ホログラフィ装置等の露光装置、ディスプレイ技術、記録技術等の分野で広く利用されている。また、2次元で並列に光情報を処理することができることから光情報処理技術への応用も研究されている。空間光変調器として、従来より液晶が用いられ、表示装置として広く利用されているが、ホログラフィや光情報処理用としては、応答速度や画素の高精細性が不十分であるため、近年では、高速処理かつ画素の微細化の可能性が期待される磁気光学材料を用いた磁気光学式空間光変調器の開発が進められている。
【0003】
磁気光学式空間光変調器(以下、空間光変調器)においては、磁気光学材料すなわち磁性体に入射した光が透過または回折する際にその偏光の向きを変化(旋光)させて出射する、ファラデー効果(回折の場合はカー効果)を利用している。すなわち、選択された画素(選択画素)における光変調素子の磁化方向とそれ以外の画素(非選択画素)における光変調素子の磁化方向を異なるものとして、選択画素から出射した光と非選択画素から出射した光で、その偏光の回転角(旋光角)に差を生じさせる。このような光変調素子の磁化方向を変化させる方法として、光変調素子に磁界を印加する磁界印加方式の他に、近年では光変調素子に電流を供給することでスピンを注入するスピン注入方式(例えば、特許文献1)、磁壁を駆動する磁壁駆動方式(例えば、特許文献2)がある。
【0004】
図12に示すように、スピン注入方式を用いたスピン注入型の空間光変調器100は、基板107上に設けられた光変調素子101の上下に一対の駆動電極(上部電極102および下部電極103)を接続して膜面に垂直に電流を供給することにより、スピンが注入されて積層された磁性膜の一部の層(磁化自由層)の磁化方向が変化(反転)する。そして磁気カー効果により磁化自由層の磁化の向きに応じて出射光(出射偏光)の偏光状態を、θと、−θの2値に変調することができる。このような空間光変調器100においては、入射偏光側と出射偏光側にそれぞれ偏光子PFi,PFoを設け、これら偏光子PFi,PFoの偏光面を互いに所定角度に設定したクロスニコル配置とする。そして、光変調素子101によって偏光面が角度−θ回転すると、出射偏光は偏光子PFoを透過できず暗状態となり、角度θだけ回転すると、その分、出射偏光は偏光子PFoを透過し、明状態となる。
【0005】
図13に示すように、磁壁駆動方式を用いた磁壁駆動型の空間光変調器200は、基板207上に設けられた磁性細線(磁化自由層)201の一方の端部にその中央部の磁化と反平行となる磁化を固定し、磁性細線201の端部に設けた電極202に電流を供給することにより、磁性細線201の一方の端部と中央部との間に生じた磁壁201aを他方の端部側に駆動(移動)して、磁性細線201の中央部の磁化方向を変化(反転)させるものである。そして磁気カー効果により磁性細線201の磁化の向きに応じて出射光(出射偏光)の偏光状態を、θと、−θの2値に変調することができる。このような空間光変調器200においては、入射偏光側と出射偏光側にそれぞれ偏光子PFi,PFoを設け、これら偏光子PFi,PFoの偏光面を互いに所定角度に設定したクロスニコル配置とする。そして、磁性細線201によって偏光面が角度−θ回転すると、出射偏光は偏光子PFoを透過できず暗状態となり、角度θだけ回転すると、その分、出射偏光は偏光子PFoを透過し、明状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−83686号公報
【特許文献2】特開2010−20114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された空間光変調器においては、以下のような問題がある。
スピン注入磁化反転素子には上下に電流を供給するための駆動電極を設けるため、スピン注入磁化反転素子に光を入射するためには、回折型の空間光変調器の光変調素子であれば上または下の一方に、あるいは透過型の空間光変調器の光変調素子であれば上下共に、光を透過する透明電極を適用しなくてはならない。透明電極は、金属電極と比べて導電性が大きく劣るため、複数の画素に均一な電流を供給することが困難であるという問題がある。特により多数の光変調素子を2次元アレイ状に配列した高精細の空間光変調器になるほど中央部で動作が遅れる虞がある。これを防止するためには、駆動電極を厚膜化したり、大電流を供給して空間光変調器を動作させたりする必要があり、省電力化の点で改良の余地がある。
【0008】
また、光変調される有効領域の面積率(開口率)を大きくするためには、素子サイズ(面積)を大きくする必要がある。一方でスピン注入磁化反転素子は、好適に磁化反転させるために一辺が300nm以下程度の微小な素子サイズとする必要がある。そのため、素子サイズを大きくして開口率の増大を図ると共に、効率的な磁化反転を行なうことができる空間光変調器の開発が望まれている。
【0009】
特許文献2に記載された空間光変調器においては、駆動電極にCuなどの金属電極を用いることができ、特許文献1で用いられていた比抵抗の高いIZOやITOなどの透明電極(比抵抗はCu電極の200倍程度)を用いる必要がないため、複数の画素に均一な電流を供給することができるが、以下のような問題がある。
【0010】
磁性細線の端部に反平行磁化が常に存在しているために、磁性細線(光変調素子)の開口率が低下する。また、一般的に磁壁の生成は磁性細線の形状、材料に強く依存し、磁性細線の端部に所望の反平行磁化を安定して形成することが困難であるため、効率的な磁化反転を行うことは困難である。さらに、電極が2つしかないため、磁性細線(光変調素子)の磁化反転動作を正確に知るには、磁性細線の両端に配置された電極間の磁壁抵抗を測定するほかない。なお、磁壁抵抗は、その変化率が小さいため、光変調素子の磁化反転動作を正確に検知することが困難である。
【0011】
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、駆動電極に透明電極を適用する必要がなく、また、開口率を増大させることができると共に、効率的な偏光変調を行なうことができ、さらに、空間光変調器に使用する場合に、磁化反転動作を正確に検知することができる光変調素子およびこの光変調素子を用いた空間光変調器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明者らは、既に発明したデュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子を適用した光変調素子(特開2010−60748号公報参照)について、その積層の配置を変え、磁化自由層の上下に配置していた磁化固定層を、両方共、磁化自由層の上に積層することで、磁化自由層を底部としたU字型に電流経路を形成し、磁化自由層の下に電極を要しない構成とすることに至った。また、この構成により、開口率を大きくすると共に、効率的な磁化反転を行なうことを可能とした。さらに、基板と磁化自由層との間に補助電極を有する下部素子を備えることにより、磁化自由層の磁化反転動作を正確に検知することを可能とした。
【0013】
すなわち、本発明に係る光変調素子は、光を透過させる基板上に形成され、磁化自由層と、上部中間層と、上部磁化固定層とがこの順序で積層された上部素子と、前記基板と前記磁化自由層との間に形成される下部素子とを備えるスピン注入磁化反転素子構造を有し、前記上部素子の上部磁化固定層上に接続した一対の駆動電極間に電流が供給され、前記磁化自由層の磁化方向を変化させることによって前記基板を透過して入射した光をその偏光方向を変化させて回折して出射する光変調素子であって、前記上部素子の上部磁化固定層は、同一平面上に分離した2つの上部磁化固定層からなり、前記2つの上部磁化固定層は、互いに反平行な磁化に固定され、かつ前記磁化自由層よりも保磁力の大きい磁性体であり、前記下部素子は、補助電極と、下部磁化固定層と、下部中間層とがこの順序で前記基板側から積層されたものであり、前記基板側に当該基板を透過した光を前記磁化自由層に入射させるための窓部が形成され、前記駆動電極の一方と前記補助電極との間の電気抵抗は、前記駆動電極間の電気抵抗に比べて大きいことを特徴とする。
【0014】
かかる構成によれば、同一平面上に分離した2つの上部磁化固定層を備えることで、一対の駆動電極の両方を光変調素子の上側に設けることができるため、基板側から光変調素子に入射した光は、駆動電極を介さずに磁化自由層へ到達して回折する。したがって、駆動電極は光を透過させる必要がなく、導電性に優れた金属電極を駆動電極に適用できる。また、2つの上部磁化固定層を備え、これらが互いに反平行な磁化に固定されていることで、一種の二重スピン注入方式となり、スピントルクが2倍となる。そのため、スピン注入の効率が向上する。また、光の入射面(出射面)の面積を広くしても磁化自由層の磁化反転が効率よく起きるため、画素の開口率を増大させることができる。さらに、上部素子の磁化自由層の下に形成される下部素子が、補助電極と、下部磁化固定層と、下部中間層とからなり、駆動電極の一方と補助電極との間の電気抵抗が、駆動電極間の電気抵抗に比べて大きいことで、磁化自由層の磁化反転動作を電気的に測定することが容易となる。
【0015】
また、本発明に係る光変調素子は、前記2つの上部磁化固定層のうちの一方が、磁気交換結合膜を備えた多層構造であることが好ましい。
かかる構成によれば、上部磁化固定層が多層構造であることで、容易に2つの上部磁化固定層を互いに反平行な磁化に固定することができる。
【0016】
本発明に係る空間光変調器は、前記の光変調素子を用いた空間光変調器であって、光を透過させる基板と、この基板上に2次元配列された複数の画素と、この複数の画素から1以上の画素を選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に所定の電流を供給する電流供給手段と、を備え、前記画素は、前記光変調素子と、前記2つの上部磁化固定層上にそれぞれ接続され、前記光変調素子に電流を供給する一対の前記駆動電極と、を有し、さらに、前記選択された画素における前記一対のうちの一方の駆動電極と、前記光変調素子の補助電極との間の電圧値を測定する測定部を備え、前記画素選択手段は、前記測定部で測定された電圧値から電気抵抗値を算出する算出部と、前記選択された画素において予め設定された磁化方向に応じて定められた標準電気抵抗値の設定範囲を記憶する記憶部と、前記算出された電気抵抗値が前記標準電気抵抗値の設定範囲内の値である場合に磁化反転が良好と判断し、前記設定範囲外の値である場合に磁化反転が不良と判断する判断部と、前記磁化反転が不良と判断された場合に前記駆動電極への電流の再供給を指令する指令部と、を有することを特徴とする。
【0017】
かかる構成によれば、前記の光変調素子を用いることで、基板側から入射する光を回折する回折型空間光変調器として一対の電極に透明電極を適用する必要がなくなる。また、前記の光変調素子を用いることで、効率的なスピン注入磁化反転により偏光変調の効率が向上し、画素の開口率が増大する。さらに、測定部、画素選択部を備え、画素選択部が算出部と、記憶部と、判断部と、指令部とを有することで、配列された複数の画素全面の磁化反転動作を電気的に測定することが容易となると共に、磁化状態を制御できる。
【0018】
また、本発明に係る空間光変調器は、前記配列された複数の画素において、前記2つの上部磁化固定層が同一平面上に並んだ方向に隣り合う2つの前記光変調素子の下部素子が一体化されていることが好ましい。
【0019】
かかる構成によれば、光変調素子の下部素子が一体化されていることで、下部素子による過剰な抵抗増大が緩和されるため、2次元アレイ状に並べた複数の画素間における補助電極抵抗の差を小さくすることができ、磁化反転動作を電気的に測定することがさらに容易となる。
【0020】
また、本発明に係る空間光変調器は、前記配列された複数の画素において、前記2つの上部磁化固定層が同一平面上に並んだ方向に隣り合う2つの前記光変調素子の補助電極の間、および、それぞれの補助電極に形成された窓部を塞ぐように形成された透明電極を有することが好ましい。
【0021】
かかる構成によれば、透明電極を有することで、下部素子による過剰な抵抗増大が緩和されるため、2次元アレイ状に並べた複数の画素間における補助電極抵抗の差を小さくすることができ、磁化反転動作を電気的に測定することがさらに容易となる。また、透明電極での多重回折の効果を利用して、上部素子の磁化自由層におけるカー回転角を増進させることが可能となる。
【0022】
さらに、本発明に係る空間光変調器は、前記複数の画素のそれぞれが複数の光変調素子を有することが好ましい。
かかる構成によれば、1つの画素の複数の光変調素子において、磁化自由層の磁化方向を、それぞれ異なる方向とすることができる。これにより、画素の多段階表示が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る光変調素子によれば、空間光変調器に用いる場合に、一対の駆動電極に透明電極を適用する必要がないため、空間光変調器の省電力化を図ることができる。また、2つの上部磁化固定層を備えることで、スピン注入の効率が向上し、効率的なスピン注入磁化反転を行なうことができるため、効率的な偏光変調を可能とする。また、光の入射面(出射面)の面積を通常のスピン注入磁化反転素子の2倍以上とすることができるため、開口率を増大させた画素とすることができる。さらに、下部素子を形成することで、上部素子での磁化反転動作を正確に検知することができる。
【0024】
本発明に係る空間光変調器によれば、前記光変調素子を用いることで、金属電極で一対の駆動電極を形成することができ、効率的なスピン注入磁化反転による偏光変調が可能となり、画素の開口率が増大したものとなる。また、配列された複数の画素全面の磁化反転動作を正確に検知することができ、磁化状態が所望の状態になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る光変調素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す基板側から見た底面図である。
【図3】画素選択部の構成を模式的に示すブロック図である。
【図4】空間光変調器の駆動および磁化反転動作の検知動作の手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明に係る光変調素子の動作を説明するための説明図である。
【図7】本発明に係る光変調素子における磁化方向の2値状態を説明するための説明図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す基板側から見た底面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す断面図である。
【図11】本発明の第4実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す基板側から見た底面図である。
【図12】従来の空間光変調器を模式的に示す断面図である。
【図13】従来の空間光変調器を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る光変調素子およびこれを用いた空間光変調器の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
≪光変調素子≫
図1に示すように、本発明の光変調素子1は、光を透過させる基板7上に形成され、上部素子1Aと、下部素子1Bとを備える。そして、上部素子1Aは、磁化自由層3と、第1上部中間層21および第2上部中間層22(以下、適宜、上部中間層21,22という)と、第1上部磁化固定層11および第2上部磁化固定層12(以下、適宜、上部磁化固定層11,12という)と、がこの順序で基板7側から積層されたものである。また、下部素子1Bは、基板7と磁化自由層3との間に形成され、補助電極53と、下部磁化固定層13と、下部中間層23と、がこの順序で基板7側から積層されたものである。
【0027】
光変調素子1では、上部素子1Aの上面に駆動電極としてのX電極51およびY電極52(以下、適宜、駆動電極51,52という)が接続されている。具体的には、第1上部磁化固定層11の上面にはX電極51が、第2上部磁化固定層12の上面にはY電極52が接続されている。そして、光変調素子1は、上部素子1A上に接続した一対の駆動電極51、52との間に電流が供給され、上部素子1A、具体的には磁化自由層3の磁化方向を変化させることによって、下方から基板7を透過して入射した光をその偏光方向を変化させて回折し、異なる2値の光(偏光成分)に変調して下方へ出射するものである。なお、反射光は0次回折光と表現できるので、回折には反射も含むものである。また、光変調素子1では、下部素子1B、具体的には補助電極53を用いて光変調素子1の電気抵抗を測定することによって、上部素子1A(磁化自由層3)における磁化反転動作を正確に知ることができる。
【0028】
光変調素子1としては、所謂、CPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)型またはTMR(Tunneling MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)型の素子構造を有すると共に、スピン注入磁化反転素子構造を有するものである。なお、本実施形態では、光変調素子1の磁化方向、具体的には上部磁化固定層11,12、磁化自由層3、下部磁化固定層13の磁化方向が垂直方向(層表面と直交する方向)の場合について説明する。以下、光変調素子1の構成について説明する。
【0029】
<上部素子>
上部素子1Aは、前記したように磁化自由層3、上部磁化固定層11,12および上部中間層21,22から構成される。
(磁化自由層)
磁化自由層3は、2つの上部磁化固定層11,12上にそれぞれ接続したX電極51およびY電極52を一対の駆動電極として電流が供給されることにより、磁化方向が変化するものである。すなわち、X電極51とY電極52との間に供給される電流の向きに応じて、注入される電子のスピンと磁化自由層3内の電子スピンとの相互作用により磁化自由層3内の磁化の向きが反転する。
【0030】
磁化自由層3は、上部磁化固定層11,12と共に、垂直磁気異方性を有する材料を使用する。具体的には、CoFeB、CoFe、Co、Fe、CoFeSi、CoFeGe等の遷移金属系材料を主に用いることができる。また、遷移金属からなる薄膜層と貴金属からなる薄膜層とが交互に積層した多層膜や、遷移金属と貴金属との合金や、希土類金属と遷移金属との合金等、磁気光学効果の大きな材料を用いることができる。
【0031】
前記多層膜としては、Co/Pt(左側から記載の材料から順に積層)多層膜、Co/Pd多層膜、Fe/Pd多層膜、CoFe/Pd多層膜、Fe/Pt多層膜等が挙げられる。遷移金属と貴金属との合金としては、CoPt合金、CoPd合金、FePd合金、FePt合金等が挙げられる。希土類金属と遷移金属との合金としては、GdFe合金、GdCoFe合金、GdCo合金、TbFeCo合金等が挙げられる。その他、MnBi合金、Mn/Bi多層膜、PtMnSb合金、Pt/MnSb多層膜等の磁気光学効果の大きな材料を用いることができる。
【0032】
また、磁化自由層3は、入射した光の波長における磁気光学効果が2つの上部磁化固定層11,12よりも大きい磁性体であることが好ましい。かかる構成により、光変調素子1は、入射した光が磁化自由層3を透過して2つの上部磁化固定層11,12に到達した場合に、互いに反平行な磁化による旋光角のばらつきを抑制することができる。
【0033】
磁化自由層3の厚さは特に限定されるものではないが、磁化自由層3が薄すぎると保磁力が低下し、一方、厚すぎると垂直磁気異方性が劣化する。したがって、磁化自由層3の厚さは、1.5〜15nmが好ましい。
【0034】
(上部磁化固定層)
上部磁化固定層11,12は、同一平面上に分離した2つの上部磁化固定層、すなわち、第1上部磁化固定層11および第2上部磁化固定層12からなり、この2つの上部磁化固定層11,12のそれぞれが、1つの磁化自由層3上に、上部中間層21,22を挟んで積層されている。上部磁化固定層11,12は、磁化方向が所定方向、すなわち、高さ方向と平行な方向(垂直な方向)の一方の向きに固定されており、第1上部磁化固定層11および第2上部磁化固定層12は、互いに反平行な磁化に固定されている。また、上部磁化固定層11,12は強磁性材料からなり、磁化自由層3よりも保磁力の大きい磁性体である。
【0035】
第1上部磁化固定層11および第2上部磁化固定層12の磁化を、互いに反平行な状態とするためには、上部磁化固定層11,12にCoFe/TbFeCo等の積層膜を用い、一方の膜厚を厚くしたり、一方の上部磁化固定層11(12)の形状を変えたりすることで、第1上部磁化固定層11および第2上部磁化固定層12がそれぞれ異なる保磁力HC1,HC2を有するようにすればよい。あるいは、それぞれ異なる材料を用いることで、それぞれ異なる保磁力HC1,HC2を有するようにすればよい。ただし、磁化自由層3の保磁力をHCfとすると、HCf<HC1<HC2とする必要がある。そして、HC2より大きな磁界Hmaxを印加した後、HC1とHC2の中間の大きさとなる負の磁界−Hmid(HC1<Hmid<HC2)を印加することによって、2つの上部磁化固定層11,12の磁化を反平行な状態に初期設定することができる。なお、この磁界の印加は、駆動電極51,52を形成する前でもよく、形成した後でもよい。
【0036】
上部磁化固定層11,12に用いる材料としては、希土類金属と遷移金属との合金(例えば、TbFeCo、TbFe、TbCo、DyCo、DyCoFe、GdFe、GdCo、GdFeCo等)の上に遷移金属薄膜を積層したものや、遷移金属/貴金属系多層膜(例えば、Co/Pd多層膜、Fe/Pt多層膜、Co/Pt多層膜等)や、遷移金属と貴金属との合金(例えば、CoPt合金、FePt合金等)等が挙げられる。その他,Co/Ni多層膜、CoNi合金/Pt多層膜等がある。なお、前記遷移金属としては、Fe、Co、Ni等、前記貴金属としては、Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等が挙げられる。
【0037】
また、上部磁化固定層11,12のうちの一方を、Ru等の磁気交換結合膜を備えた多層構造、例えば、CoFe/Ru/CoFe/TbFeCo等とすることが好ましい。このような構成により、前記のHmaxやHmid等の磁界を印加することなく、2つの上部磁化固定層11,12の磁化を反平行な状態に初期設定することができる。
【0038】
上部磁化固定層11,12の厚さは特に限定されるものではないが、上部磁化固定層11,12が薄すぎると保磁力が低下し、一方、厚すぎると垂直磁気異方性が劣化する。したがって、上部磁化固定層11,12の厚さは、3〜50nmが好ましい。また、第1上部磁化固定層11と第2上部磁化固定層12との間隔は、開口率の増大および加工性等の観点から、10〜300nmが好ましい。なお、磁化自由層3の膜厚が通常素子(すなわち、従来の光変調素子)と同じである場合を想定すると、スピン注入磁化反転のスピントルクを与える上部磁化固定層11,12が、磁化自由層3に対して2枚あると考えられるので、光変調素子1のサイズは、通常素子の2倍(例えば、300nm×100nm×2素子)程度まで大きくすることができる。
【0039】
(上部中間層)
第1上部中間層21および第2上部中間層22は、それぞれ、磁化自由層3と第1上部磁化固定層11との間、および、磁化自由層3と第2上部磁化固定層12との間に配置される層である。上部中間層21,22は、磁化自由層3の磁化状態と上部磁化固定層11,12の磁化状態とを分離するために必要であり、後記する「光変調素子の磁区状態の変移」で説明するとおり、磁化自由層3と上部磁化固定層11,12との間でスピン偏極した電子をやり取りする際の通路として機能する。このように、上部中間層21、22はスピンの通路として機能するため、上部中間層21、22には、スピン軌道相互作用が小さく、スピン拡散長(スピンを保持する距離)の長い材料を用いることが好ましい。
【0040】
光変調素子1がCPP−GMR型の磁気抵抗効果素子の場合には、上部中間層21、22として、非磁性金属が用いられる。この場合、非磁性金属材料としてはCu、Al、Ag、Au等が好ましく、ZnO等の半導体材料を用いてもよい。また、その厚さは、スピン偏極した電子がスピン状態を十分に保ったまま流れるように、2〜6nmが好ましい。
また、TMR型の磁気抵抗効果素子の場合には、上部中間層21、22として、マグネシア(MgO)、アルミナ(Al)、MgF等の絶縁材料が用いられる。上部中間層21、22を絶縁体層とすることにより、光変調素子1の磁気抵抗効果比(MR比)を改善することができ、MR比に反比例する磁化反転電流を低減することができる。また、TMR型の場合には、上部中間層21、22の厚さは、0.6〜2nm程度が好ましい。
【0041】
また、上部素子1Aは、光変調素子1をTMR型の素子とする場合には、図示しないが、上部中間層21,22に絶縁材料を用いるため、同一平面上に分離したものとせず、磁化自由層3と同様に1つの上部中間層として形成してもよい。このような構成とすることで、後記する光変調器の製造方法において、素子膜をエッチングやミリング加工等により掘り下げる際に、上部素子膜の中央を上部中間層の上面または途中まで除去すればよいため、過度なエッチング等が行なわれた場合であっても、磁化自由層3が損傷することを防止できる。
【0042】
さらに、上部素子1Aは、図示しないが、第1上部磁化固定層11とX電極51との間、および、第2上部磁化固定層12とY電極52との間に保護層を設けてもよい。保護層は、上部磁化固定層11,12の酸化や現像処理時のアルカリ性薬品等によるダメージを防止する役割を担う層であり、特に、光変調素子1を形成する際の熱処理における上部磁化固定層11,12の酸化を防止する。また、保護層を構成する材料には、熱処理の際に上部磁化固定層11,12を構成する材料と反応しない性質が求められる。このような要求を満たす材料として、Ta、Ru等を用いることができる。特にRuは、それ自体が酸化されても抵抗率が増大しないため本発明の光変調素子1に用いることが好ましい。
【0043】
<下部素子>
下部素子1Bは、前記したように補助電極53、下部磁化固定層13および下部中間層23で構成される。また、下部素子1Bには、基板7を透過した光を上部素子1Aの磁化自由層3に入射させるための窓部54が形成されている(図5参照)。そのため、下部素子1Bは、光入射側から見た断面形状が中央部に窓部54を有する枠形状に形成され、その枠の幅は50〜200nmである。また、窓部54の形状は、光が入射できれば特に限定されないが、製造が容易なことから矩形状であることが好ましい。
【0044】
(補助電極)
補助電極53は、上部素子1A(磁化自由層3)の磁化反転動作を検知する際に用いられる電極であって、光入射側(基板7側)から見た断面形状が中央部に窓部54を有する枠形状に形成される。そして、補助電極53には、銅(Cu)、金(At)、Pt(白金)等の金属からなる金属電極、または、IZO、ITO等の透明材料からなる透明電極が用いられる。なお、補助電極53の厚さは、20〜500nm程度が好ましい。
【0045】
(下部磁化固定層)
下部磁化固定層13は、補助電極53の上に積層されるもので、光入射側(基板7側)から見た断面形状が中央部に窓部54を有する枠形状に形成される。そして、下部磁化固定層13は、前記した上部素子1Aの上部磁化固定層11,12と同様に、強磁性材料からなり、上部素子1Aの磁化自由層3よりも保磁力が大きい磁性体である。また、下部磁化固定層13の磁化方向は、光変調素子1の駆動前における磁化自由層3の磁化方向と平行、または、反平行のいずれでもよい。なお、下部磁化固定層13の厚さは、3〜50nm程度が好ましい。
【0046】
(下部中間層)
下部中間層23は、下部磁化固定層13の上に積層され、上部素子1Aの磁化自由層3と下部素子1Bの下部磁化固定層13との間に配置される層である。また、下部中間層23は、光入射側(基板7側)から見た断面形状が中央部に窓部54を有する枠形状に形成される。なお、下部中間層23としてMgO等の透明材料を用いる場合には、前記した窓部54を形成した枠形状の下部中間層23でなく、平面状の下部中間層23(図1に示す破線部分に相当)であってもよい。
【0047】
上部素子1A(磁化自由層3)に対して下部素子1BがCPP−GMR構造を取る場合には、下部中間層23として、非磁性金属が用いられる。この場合、非磁性金属材料としてはCu、Al、Ag、Au等が好ましく、ZnO等の半導体材料を用いてもよい。また、その厚さは、2〜6nmが好ましい。
【0048】
上部素子1A(磁化自由層3)に対して下部素子1BがTMR構造を取る場合には、下部中間層23として、マグネシア(MgO)、アルミナ(Al)、MgF等の絶縁材料が用いられる。また、TMR型の場合には、上部中間層21、22の厚さ:0.6〜2nm程度に対して、下部中間層の厚さは2〜3nm程度とするのが好ましい。
【0049】
このように、下部中間層23を非磁性金属(半導体材料)または絶縁材料で構成し、下部素子1BがCPP−GMR構造またはTMR構造となることによって、光変調素子1のMR比が大きくなり、駆動電極(X電極51)と補助電極53との間の電気抵抗R2H、R2Lも大きくなり、その変化率も大きくなる。その結果、磁化自由層3の磁化方向の反転前後での電気抵抗R2H、電気抵抗R2Lを測定、比較することによって、磁化自由層3の磁化反転動作を正確に検知することが可能となる(図7参照)。
なお、電気抵抗変化はCPP−GMR構造に比べてTMR構造のほうが大きいため、下部中間層23を絶縁材料で構成することが好ましい。
【0050】
また、本発明に係る光変調素子1は、X電極51と補助電極53との間の電気抵抗Rが、X電極51とY電極52との間の電気抵抗Rに比べて大きいことが特徴である(図7参照)。これにより、光変調素子1では、X電極51と補助電極53との間の電気抵抗Rの変化を確認することによって、上部素子1A(磁化自由層3)における磁化反転動作を正確に知ることができる。
【0051】
以上、本発明に係る光変調素子1の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することができる。例えば、前記実施形態では、垂直磁化の場合について説明したが、磁化方向が層表面と平行な方向である面内磁化であってもよい。面内磁化の場合には、磁化自由層3、上部磁化固定層11,12および下部磁化固定層13には、面内磁気異方性を有する材料を使用する。なお、上部磁化固定層11,12のうちの一方を磁気交換結合膜を備えた多層構造とする場合、面内磁化であれば、CoFe/Ru/CoFe/IrMn(IrMnの代わりに、FeMn、PtMn等の反強磁性材料を用いることも可能)等とすることが好ましい。
【0052】
≪空間光変調器≫
[第1実施形態]
図2に示すように、空間光変調器10は、前記記載の光変調素子1を用いたものであり、光を透過させる基板7(図1参照)と、この基板7上に2次元配列された複数の画素4と、複数の画素4から1以上の画素4を選択する画素選択手段(画素選択部94)と、この画素選択手段が選択した画素4に所定の電流を供給する電流供給手段(電源93)と、を備える。また、空間変調器10は、選択された画素4におけるX電極51と補助電極53との間の電圧値を測定する測定部96を備えている。さらに、画素選択部94と電源93は、電流制御部90に備えられている。そして、空間光変調器10は、基板7を透過して画素選択手段が選択した画素4に入射した光の偏光の向きを特定の方向に変化させて回折して出射する。
以下、各構成について説明する。
【0053】
(基板)
基板7は、光変調素子1、駆動電極51,52を形成するための土台となるものである。空間光変調器10では、後記するように、基板7を透過して光変調素子1に入射した後に回折される光を利用するため、基板7としては、SiO、MgO、サファイア、石英ガラス等の透過性に優れた透明基板を用いる。
【0054】
(画素)
画素4は、空間光変調器10の光の入射面に、2次元アレイ状に配列されて画素アレイ40を構成する。すなわち、画素アレイ40は、平面視で複数のX電極51と、平面視でX電極51と直交する複数のY電極52と、を備え、X電極51とY電極52との交点毎に1つの画素4を設ける。本実施形態では、画素アレイ40は、3行×3列の9個の画素4からなる構成で例示される。
【0055】
画素4は、光変調素子1と、2つの上部磁化固定層11,12上にそれぞれ接続され、光変調素子1に電流を供給する一対の駆動電極51,52と、を有している。また、光変調素子1の溝部(上部磁化固定層11,12間、上部中間層21,22間:図1参照)や、隣り合うX電極51,51間、光変調素子1,1間、およびY電極52,52間等、すなわち、図2の空白部分は、絶縁部材6で埋められている。
【0056】
〈光変調素子〉
光変調素子1は、X電極51とY電極52との間に一定の電流を供給したときに、光変調素子1に入射した入射光の偏光面をカー効果により一定角度回転させて回折する役割を担う。光変調素子1の平面視での大きさは、一例として、磁化自由層3の幅(横方向の長さ)(ここでの幅とは、2つの上部磁化固定層11,12が同一平面上に並んだ方向、以下同じ)が300nm、長さ(縦方向の長さ)が300nm、あるいは、幅が400nm、長さが300nm等である。また、第1上部磁化固定層11および第2上部磁化固定層12の幅がそれぞれ150nm、第1上部磁化固定層11と第2上部磁化固定層12との間隔が100nm等である。ただし、光変調素子1等の大きさは、これに限定されるものではない。
【0057】
また、空間光変調器10では、光変調素子1は、二次元マトリックス状(縦横に一定間隔で二次元配置された状態)に配置されており、ここでは、1個の光変調素子1が1画素となっている。また、光変調素子1の形状は、例えば正方形や長方形(矩形)が挙げられるが、その他の形状であってもよい。光変調素子1同士のピッチは、駆動電極(X電極51およびY電極52)および光変調素子1の成膜技術(半導体製造プロセスが好適に用いられる)の精度に依存し、適宜定められ、例えば、1μm以下である。この光変調素子1は、第1上部磁化固定層11と第2上部磁化固定層12が、それぞれ一対の電極であるX電極51とY電極52に接続されて、層面に垂直に電流が供給される(図1参照)。
【0058】
〈駆動電極:X電極およびY電極〉
X電極51は、光変調素子1に電流を供給するための一対の電極のうち、片方の電極であり、Y電極52は、もう一方の電極である。X電極51およびY電極52を構成する材料としては、安価で導電性に優れた銅(Cu)が好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、金(Au)や白金(Pt)等の貴金属を用いてもよい。そして後記するように、入射偏光は基板7側から光変調素子1に入射し、磁化自由層3で回折されるため、駆動電極51,52は光を透過させる必要がない。そのため、駆動電極51,52を、透明材料で構成する必要はない。駆動電極51,52の幅は、基板7上に形成する光変調素子1の形状に合わせて、適宜定められ、例えば、100nm以下である。空間光変調器10では、光変調素子1を縦横に一定間隔で二次元配置する構成としているため、X電極51は、帯状の形状を有し、一定幅かつ一定間隔で第1上部磁化固定層11上に設けられている。また、Y電極52も、その長手方向がX電極51の長手方向と直交するように、一定間隔で平行に配置されて、第2上部磁化固定層12上に設けられている。
【0059】
〈絶縁部材〉
絶縁部材6は、X電極51およびY電極52の電極間や、光変調素子1,1間等を絶縁するための部材である。絶縁部材6としては、SiO2やAl23等の従来公知の絶縁材料を用いればよい。
【0060】
(測定部)
測定部96は、後記する画素選択部94で選択された画素4における一対の駆動電極51,52のうちの一方の駆動電極であるX電極51と、光変調素子1の補助電極53との間の電圧値を測定するものである。ここで、X電極51、補助電極53の選択は、画素選択部94の指令を受けるX電極選択部91、補助電極選択部95とで行われる。後記するように、測定部96で測定された電圧値は画素選択部94に送られ、電気抵抗値が算出される。
【0061】
(電源および画素選択部)
電源93および画素選択部94の駆動動作は、電流制御部90により制御される。
(電流制御部)
図2に示すように、電流制御部90は、空間光変調器10の駆動動作、および、空間変調器10(光変調素子1)の磁化反転動作の検知動作を制御する。
そして、電流制御部90は、画素選択部94(画素選択手段)と、画素選択部94によって制御される電源93(電源供給手段)とを備える。また、画素選択部94は、図3に示すように、X電極51、Y電極52、補助電極53を選択し、かつ電源93の駆動を制御する電極選択部94aと、測定部96で測定された電圧値から電気抵抗値を算出する算出部94bと、予め設定された磁化方向に応じて定められた標準電気抵抗値の設定範囲を記憶する記憶部94cと、算出された電気抵抗値と標準電気抵抗値を比較して、前記電気抵抗値が前記設定範囲内である場合に磁化反転が良好とし、前記設定範囲外である場合に不良として磁化反転の良好または不良を判断する判断部94dと、磁化反転が不良の場合に駆動電極(X電極51およびY電極52)への電流の再供給を指令する指令部94eとを備えている。ここで、標準電気抵抗値とは、図7(a)、(b)で示された2値の磁化方向における電気抵抗値R2H、R2Lを意味する。
【0062】
〈空間光変調器の駆動および磁化反転動作の検知動作〉
次に、空間光変調器10の駆動および磁化反転動作の検知動作について、図3、図4を参照して、説明する。なお、標準電気抵抗値R2H、R2Lについては、後記する。
図3、図4に示すように、まず、画素選択部94に備えられた電極選択部94aからの指令を受けたX電極選択部91によって複数のX電極51の中から電流を供給するX電極51が選択され、電極選択部94aからの指令を受けたY電極選択部92によって複数のY電極52の中から電流を供給するY電極52が選択される。さらに、電極選択部94aからの指令を受けた補助電極選択部95によって複数の補助電極53の中からX電極51との間の電圧値を測定する補助電極53が選択される(S1)。これにより、所定の画素4が選択される。ここで、画素選択部94に備えられた記憶部94cには、予め設定された磁化方向に応じて定められた標準電気抵抗値の設定範囲が記憶されている(S101)。そして、所定の画素4の選択と共に、この画素4に対応する標準電気抵抗値の設定範囲が選択される。次に、画素選択部94からの指令を受けた電源93によって、選択されたX電極51とY電極52とに電流が供給される(S2)。
【0063】
次に、測定部96により、前記S1で選択されたX電極51と補助電極53との間の電圧値が測定され(S3)、測定部96で測定された電圧値は画素選択部94に送られる。次に、画素選択部94に備えられた算出部94bによって、電圧値から電気抵抗値が算出される(S4)。算出された電気抵抗値は、判断部94dによって、予め記憶部94cに記憶され、選択された画素4において予め設定された磁化方向に応じて定められた標準電気抵抗値(R2H、R2L)のうちの一方の値の設定範囲と比較される(S5)。標準抵抗値は、磁化自由層3の磁化方向が下向きの場合(R2H)は、所定の範囲内の値であるものとし、磁化方向が上向きの場合(R2L)は、下向きの場合(R2H)よりも低い所定範囲内の値であるものとする。そして、算出された電気抵抗値が、所望の範囲内に一致するか否かを判断する(S6)。例えば、設定された磁化反転に対応する一方の値がR2Hの場合、算出された電気抵抗値をRとすると、「RがR2Hの設定範囲の範囲内」であれば、磁化反転が良好と判断し、一方、「RがR2Lの設定範囲の範囲内、すなわち、R2Hの設定範囲の範囲外」であれば、磁化反転が不良と判断する(図7参照:詳細は、後記する「磁化方向の2値状態について」で説明する)。すなわち、所望の範囲内にある場合(Yes)は、磁化反転が良好とし、次のステップに進む。一方、所望の範囲内にない場合(No)は、磁化反転が不良とし、指令部94eによって、駆動電極51,52への電流の再供給が指令され、電源93から駆動電極51,52へ電流が供給される。そして、すべての画素4において、処理が終了したか否かを判断し、終了していれば(Yes)、処理を終了し、終了していなければ(No)、次の電極を選択する。
これにより、空間変調器10が駆動すると共に、空間光変調器10(光変調素子1の磁化自由層3)の磁化方向が検知され、所望の磁化状態に反転する。
【0064】
X電極選択部91は、複数のX電極51にそれぞれ対応して設けられた複数のスイッチング素子から構成される。Y電極選択部92もこれと同様に、複数のY電極52にそれぞれ対応して設けられた複数のスイッチング素子から構成される。各スイッチング素子へは電源93から一定電流が供給されており、駆動対象となる光変調素子1にX電極51を介して接続されているスイッチング素子、および、Y電極52を介して接続されているスイッチング素子が、画素選択部94からの指令(動作信号)を受けて導通動作を行うことにより、その光変調素子1に電流が供給される。
【0065】
補助電極選択部95は、X電極選択部91およびY電極選択部92と同様に、複数の光変調素子1の補助電極53にそれぞれ対応して設けられた複数のスイッチング素子から構成される。検知対象となる光変調素子1に補助電極53を介して接続されるスイッチング素子が、画素選択部94からの指令(動作信号)を受けて導通動作を行うことにより、光変調素子1の電気抵抗の測定が行われ、光変調素子1の磁化反転動作の検知が行われる。駆動対象または検知対象となっている光変調素子1の選択と、この光変調素子1の駆動、および、磁化反転動作の検知を行うためのスイッチング素子の動作制御は、画素選択部94によって行われる。
【0066】
電源93は電流反転機能を備えている。つまり、X電極51に正電流を供給すると共に、Y電極52に負電流を供給することができ、逆に、X電極51に負電流を供給すると共に、Y電極52に正電流を供給することもできるようになっている。この電源93の電流反転機能の制御もまた画素選択部94により行われる。
【0067】
画素選択部94は、所謂、コンピュータであり、図示しない中央演算装置がROMに格納されたプログラムを実行することにより、X電極選択部91、Y電極選択部92、補助電極選択部95および電源93の動作制御が行われる。また、X電極選択部91、Y電極選択部92、補助電極選択部95による各選択は、画素選択部94に、人為的に予め所望のプログラムを設定し、このプログラムを実行することで行われる。なお、図2においては、紙面上、上下に2つあるX電極選択部91は、本来同一の1つのX電極選択部91であり、また、紙面上、左右に2つある画素選択部94は、本来同一の1つの画素選択部94であるが、ここでは、便宜上、2つに分けて図示している。
【0068】
<空間光変調器の動作>
次に、空間光変調器10の動作について、図5を参照して説明する。
まず、光源である光学系OPSから、レーザー光が照射される。この光学系OPSから照射されたレーザー光は様々な偏光成分を含んでいるので、これを基板7の下方の偏光子PFiを透過させて、1つの偏光成分の光とする。以下、1つの偏光成分の光を偏光と称する。この偏光(入射偏光)は、画素アレイ40(図2参照)のすべての画素4に所定の入射角で入射する。入射偏光は、それぞれの画素4において、基板7を透過して光変調素子1に入射し、当該光変調素子1の磁化自由層3によるカー効果により、偏光方向が所定角度回転した出射偏光として光変調素子1から出射し、再び基板7を透過して画素4から出射する。それぞれの画素4から出射したすべての出射偏光は、偏光子PFoに到達する。偏光子PFoは、特定の偏光、ここでは入射偏光に対して角度θ旋光した偏光のみを透過させ、この透過した出射偏光が検出器PDに入射する。一方、角度−θ旋光した偏光は、偏光子PFoを透過できない。なお、偏光子PFi,PFoはそれぞれ偏光板等であり、検出器PDはスクリーン等の画像表示手段やカメラ等である。
【0069】
このように、角度θ旋光した場合の回折光(出射偏光)は偏光子PFoを通過することができるが、角度−θ旋光した場合の回折光は偏光子PFoを通過することができない状態を作り出すことができる。空間光変調器10は、前記の通りX電極51とY電極52とを選択的に駆動(電流供給)して所望の光変調素子1に電流を流すことができるようになっているため、光変調素子1毎に(画素4毎に)磁化自由層3の磁化の向きを電流の向きや大きさによって制御し、偏光子PFoを通過可能な回折光とするか通過不能な回折光とするかによって、回折光の強弱(コントラスト)を制御することができる。
【0070】
また、この制御の際、光変調素子1の補助電極53を用いて、光変調素子1の電気抵抗、具体的にはX電極51と補助電極53との間の電気抵抗を測定し、その値で光変調素子1(磁化自由層3)の磁化反転動作が良好に行われているかどうかを検知する。そして、磁化反転動作が不良の場合には、再度、電流供給を行う。
【0071】
また、磁化自由層3によるカー効果の大きさ(カー回転角の大きさ)によって回折光のコントラストの強弱比が決まる。図5に示すように、角度θ旋光して回折光を透過するか、または、角度−θ旋光して遮光するかの状態の場合、カー回転角(θ,−θ)が一定角度以上ある場合には、高いコントラストを得ることができるが、カー回転角が小さい場合には、低コントラストとなる。なお、図5のように磁化自由層3の磁化の向きが下向きである場合に光検出器の出力が「明状態」となり、逆に磁化自由層3の磁化の向きが上向きである場合には「暗状態」となる。
【0072】
<光変調素子の磁区状態の変移>
次に、光変調素子1の磁区状態の変移について、図6を参照して説明する。
図6(a)に示すように、初期状態として、磁化の方向は、磁化自由層3では下向き、第1上部磁化固定層11では上向き、第2上部磁化固定層12では下向きであるとする。
【0073】
この状態から、図6(b)に示すように、X電極51を負、Y電極52を正としてパルス電流を供給すると、X電極51から注入された電子において、上向きスピンの電子d1は第1上部磁化固定層11を通過するが、下向きスピンの電子d2は第1上部磁化固定層11を通過することができない。すなわち、X電極51から注入された電子は第1上部磁化固定層11によって弁別され、第1上部磁化固定層11の内部で第1上部磁化固定層11の磁化方向にスピンを揃え(スピン偏極)、そのスピン偏極した電子(上向きスピンの電子d1)が第1上部中間層21内をスピンを保持したまま通過し、磁化自由層3に注入される。そして、磁化自由層3の内部では、磁化自由層3の磁化方向を決定づける内部電子と注入されたスピン偏極電子との相互作用により、局所的なスピントルクという力が生じて磁化自由層3内の磁化方向を決定づける内部電子のスピンを反転させる。そのために、結果として第1上部磁化固定層11の直下付近の磁化自由層3から磁化反転が生ずる。
【0074】
同時に、第2上部磁化固定層12の直下付近の磁化自由層3内の電子において、下向きスピンの電子d2は第2上部磁化固定層12を通過するが、上向きスピンの電子d1は第2上部磁化固定層12を通過することができない。すなわち、磁化自由層3内の電子は、下向きスピンの電子d2のみが第2上部磁化固定層12内をスピンを保持したまま通過することで第2上部磁化固定層12によって弁別される。これにより、第2上部磁化固定層12の直下付近の磁化自由層3には上向きスピンの電子d1が留まり、この上向きスピンによるトルクのため、第2上部磁化固定層12の直下付近の磁化自由層3からも磁化反転が生じる。このように、適当な幅のパルス電流を供給することにより、磁化自由層3の磁化が反転し、結果的に図6(b)から図6(c)の状態に移行する。なお、このとき、下部素子1Bと磁化自由層3との間には膜厚2nm以上の絶縁層である下部中間層23が形成されているため,その比抵抗RA(抵抗×面積)は数100kΩμm以上となり、下部素子1Bに流れる電流はほぼゼロである。したがって、下部磁化固定層13は磁化自由層3の磁化反転に寄与しない。
【0075】
そして、図6(c)に示すように、この状態では、磁化自由層3の磁化の方向は、上向きとなる。この状態から、図6(d)に示すように、X電極51を正、Y電極52を負としてパルス電流を供給すると、第2上部磁化固定層12によって弁別された下向きスピンの電子d2が磁化自由層3に注入され、下向きスピンによるトルクのため、第2上部磁化固定層12の直下付近の磁化自由層3から磁化反転が生じる。同時に、第1上部磁化固定層11によって弁別された下向きスピンの電子d2の下向きスピンによるトルクのため、第1上部磁化固定層11の直下付近の磁化自由層3からも磁化反転が生じる。このように、適当な幅のパルス電流を供給することにより、磁化自由層3の磁化方向が反転し、結果的に図6(d)から図6(a)の状態に移行する。なお、このとき、下部素子1Bと磁化自由層3との間には膜厚2nm以上の絶縁層である下部中間層23が形成されているため,その比抵抗RA(抵抗×面積)は数100kΩμm以上となり、下部素子1Bに流れる電流はほぼゼロである。したがって、下部磁化固定層13は磁化自由層3の磁化反転に寄与しない。
【0076】
このように、磁化自由層3の磁化の向きは、パルス電流を流す向きによって制御することができるため、パルス電流によって回折する光の偏光面を制御する光変調素子1として動作させることができる。なお、パルス電流の大きさを大きくすることでも、磁化自由層3の磁化方向を反転させることができる。そして、パルス電流ではなく、直流電流であってもよい。また、ここでは電流を供給するものとして説明したが、電圧を印加するものであってもよい。なお、パルス供給後の磁化の向きはそのまま保持され、別途電流を流す必要はない。すなわち、本発明の光変調素子1は自らメモリ機能を有する。
そして、2つの上部磁化固定層11,12を備えることで、スピン注入の効率を向上させることができ、また、光の入射面(出射面)の面積を広くしても磁化自由層3の磁化反転が効率よく起きるため、画素4の開口率を増大させることができる。
【0077】
<磁化方向の2値状態について>
本発明では、磁化自由層3の磁化反転動作を電気的に測定することが可能である。これについて、図7を参照して説明する。図7(a)は磁化自由層3の磁化方向が下向きの状態、(b)は磁化自由層3の磁化方向が上向きの状態を示す図である。
図7(a)、(b)に示すように、例えば、第1上部磁化固定層11、および、第2上部磁化固定層12の材料が同一で、第1上部中間層21、および、第2上部中間層22の材料と膜厚とが同一であるとすると、上部磁化固定層11,12と磁化自由層3との間の抵抗は、それぞれの磁化方向の組み合わせにより、R0H,R0Lのいずれかとなる。また、磁化自由層3と下部磁化固定層13との間の抵抗も、それぞれの磁化方向の組合せにより、R3H,R3Lのいずれかとなる。ここで、「H」は抵抗値が高く、「L」は抵抗値が低いことを表している。
【0078】
したがって、X電極51とY電極52との間の抵抗をRとすると、図7(a)、(b)の状態において、共に「R=R0H+R0L」となり、磁化自由層3の磁化反転を検知できない。しかしながら、X電極51と補助電極53との間の抵抗をRとすると、Rは、磁化自由層3の磁化の方向が下向きである図7(a)の状態ではR2H=R0H+R3H/2、磁化自由層3の磁化の方向が上向きである図7(b)の状態ではR2L=R0L+R2L/2となり、値が異なる(R2HまたはR2L)。ここで、「2」は、「定数」である。図7(a)、(b)では、下部素子1Bの2つの部分が磁化自由層3に並列に接続する断面形状を有するため、定数=2としたが、断面形状によって「2」以外の定数であることもある。そして、前記したとおり、選択された画素4において予め設定された磁化方向に応じて定められ、記憶された標準電気抵抗値(例えばR2H)の設定範囲と算出された電気抵抗値Rを比較して、電気抵抗値Rが設定範囲の範囲内の場合に光変調素子1の磁化反転が良好とし、範囲外である場合に不良として磁化反転の良好または不良を判断することができる。また、R3H,R3Lは、R0H,R0Lに比べて大きい値をとるため、R2H,R2Lの測定が容易となる。そのため、下部素子1B(補助電極53)を備えることで磁化自由層3の磁化反転動作を正確に検知できる。
【0079】
これにより、磁化自由層3の磁化反転動作が正確に行われていないと判断した場合には、再度電流を供給して、所望の磁化状態に反転させればよい。このようにすることで、例えば、所望の磁化反転が起きないエラーが生じた場合のエラー訂正に利用することができる。
【0080】
<光変調器の製造方法>
次に、空間光変調器10の製造方法の一例について、図1、2を適宜参照して説明する。
【0081】
まず、基板7上に補助電極53、下部磁化固定層13、下部中間層23の順に、スパッタリング法(例えば、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング)等、公知の技術を用いて、真空中で一貫して製膜し、下部素子膜を形成する。また、基板7上に形成された下部素子膜に対して、必要に応じて、熱処理を施す。この熱処理は、下部素子1Bの特性を向上させ、また、後に行われるフォトリソグラフィプロセス中における光変調素子1の特性変化を抑制するために行われる。熱処理条件としては、例えば190〜500℃で1時間の真空熱処理を行う。
【0082】
次に、下部素子膜の層上に、窓部サイズのレジストを形成し、レジストパターンを形成する。レジストの形成は、例えば、250nm×350nmの孔パターンとなるように、EB(電子ビーム)露光法等により形成する。そして、レジストパターンのレジストが形成されていない孔の部位について、下部素子膜の膜厚方向に、基板7の上面まで(表面が露出するまで)除去する。除去については、エッチング、あるいはArイオン等を用いたイオンビームミリング法によるミリング加工等により行うことができる。
その後、レジストを剥離せずにアルミナや酸化珪素などの絶縁材料を全面に堆積し、窓部54をこの絶縁材料で埋める。このとき、レジスト上部にも絶縁材料が堆積される。
【0083】
その後、レジスト剥離液に浸して、リフトオフ(レジストの剥離)して下部素子1Bを作製する。あるいは、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)法により、レジストを除去してもよい。なお、CMP処理等を行う場合には、最上部に形成されている下部中間層23の厚さが所定値となるように、成膜時に研磨厚さ分だけ厚く形成しておいてもよい。
【0084】
次に、下部素子1B(下部中間層23)上に磁化自由層3、上部中間層21,22、上部磁化固定層11,12の順に、スパッタリング法(例えば、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング)等、公知の技術を用いて、真空中で一貫して製膜し、上部素子膜を形成する。また、下部素子1B上に形成された上部素子膜に対して、必要に応じて、熱処理を施す。この熱処理は、光変調素子1の特性を向上させ、また、後に行われるフォトリソグラフィプロセス中における光変調素子1の特性変化を抑制するために行われる。熱処理条件としては、例えば190〜500℃で1時間の真空熱処理を行う。
【0085】
次に、上部素子膜の層上に、画素サイズのレジストを形成し、レジストパターンを形成する。レジストの形成は、例えば、300nm×400nmのレジストパターンをメサパターンとなるように、EB(電子ビーム)露光法等により形成する。そして、レジストパターンのレジストが形成されていない部位について、上部素子膜の膜厚方向に、基板7の上面まで(表面が露出するまで)除去する。除去については、エッチング、あるいはArイオン等を用いたイオンビームミリング法によるミリング加工等により行なうことができる。
【0086】
その後、レジストを剥離せずに、アルミナや酸化珪素等の絶縁材料(絶縁部材6)を全面に堆積し、ミリング加工等により形成された溝を絶縁部材6で埋める。絶縁部材6の形成は、反応性スパッタ法やCVD法、ゾル−ゲル法等により行うことができる。溝に堆積する絶縁部材6の厚さは、溝深さと同程度か、それ以上厚くする。また、レジストを除去する前に堆積するため、レジスト上にも絶縁部材6が堆積する。
【0087】
絶縁部材6を堆積した後、レジスト剥離液に浸して、リフトオフ(レジストの剥離)する。あるいは、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)法により、レジストを除去してもよい。なお、CMP処理等を行う場合には、最上部に形成されている上部磁化固定層11,12の厚さが所定値となるように、成膜時に研磨厚さ分だけ厚く形成しておいてもよい。
次に、上部素子膜の中央付近を分断するようにレジストの孔パターンを形成し、孔の部位について、上部素子膜の膜厚方向に磁化自由層3の上面が露出するまで除去する。除去については、エッチング、あるいはArイオン等を用いたイオンビームミリング法によるミリング加工等により行なうことができる。
その後、レジストを剥離せずにアルミナや酸化珪素などの絶縁材料を全面に堆積し、この孔を絶縁材料で埋める。このとき、レジスト上部にも絶縁材料が堆積される。レジストを除去し、下部素子1B上に上部素子1Aが作製された光変調素子1とする。
そして、第1上部磁化固定層11上にX電極51、第2上部磁化固定層12上にY電極52を、これらが直交するように所定間隔で形成して空間光変調器10とする。この電極の形成は、素子膜の形成方法と同様にして行うことができる。そして、X電極51間、Y電極52間には、絶縁部材6が充填される。
【0088】
以上、本発明に係る空間光変調器10の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することができる。例えば、以下の構成としてもよい。
【0089】
[第2実施形態]
図8、9に示すように、空間光変調器10Aは、配列された複数の画素4(画素アレイ40)において、上部素子1Aの2つの上部磁化固定層11,12が同一平面上に並んだ方向に隣り合う2つの光変調素子1の下部素子1Bが一体化されていることが好ましい。ここで、下部素子1Bの一体化とは、隣り合う光変調素子1同士が下部中間層23、下部磁化固定層13、補助電極53を互いに共有している構成を意味する。その他の構成については、前記第1実施形態の空間光変調器10と同様である。
【0090】
このような構成とすることで、空間光変調器10Aは、光変調素子1の下部素子1Bによる過剰な抵抗増大が緩和されるため、X電極51と補助電極53との間の電気抵抗を容易に測定することができ、磁化自由層3磁化反転動作を正確に検知することができる。
【0091】
[第3実施形態]
図10に示すように、空間光変調器10Bは、配列された複数の画素4(画素アレイ)において、上部素子1Aの2つの上部磁化固定層11,12が同一平面上に並んだ方向に隣り合う2つの光変調素子1の補助電極53の間、および、それぞれの補助電極53に形成された窓部54を塞ぐように形成された透明電極55を有することが好ましい。透明電極55は、IZO、ITO等の透明電極材料から構成されることが好ましい。その他の構成については、前記第1実施形態の空間光変調器10と同様である。
【0092】
空間光変調器10Bは、図10では透明電極55は2つの補助電極53間に形成されているが、空間光変調器10Bは、透明電極55が基板7と補助電極53との間に形成されるものであってもよい(図示せず)。
【0093】
このような構成とすることで、空間光変調器10Bは、光変調素子1の下部素子1Bによる過剰な抵抗増大が緩和されるため、X電極51と補助電極53との間の電気抵抗を容易に測定することができ、磁化自由層3の磁化反転動作を正確に検知することができる。また、透明電極55での多重回折の効果を利用して、磁化自由層3におけるカー回転角を増進することが可能となり、磁気光学効果が向上する。
【0094】
[第4実施形態]
図11に示すように、空間光変調器10Cは、1つの画素4が3つの光変調素子1から構成されている。そして、3つの光変調素子1は、下部素子1B(下部中間層、下部磁化固定層および補助電極53)を共有し、X電極51およびY電極52も共有している。その他の構成については、前記第1実施形態の空間光変調器10と同様である。また、空間光変調器10Cは、下部素子1Bを3つの光変調素子1同士で一体として形成したが、光変調素子1毎に分断して構成したものであってもよい(図示せず)。
【0095】
このような構成とすることで、複数の光変調素子1を1つの画素4とするため、画素4の多段階表示を可能とすることができる。すなわち、1つの光変調素子1で1画素を構成する場合、1画素は磁化方向の向きに対応した2状態しか取ることができず、1画素の光の階調が例えば「1」で示す明状態と「0」で示す暗状態との2階調となる。しかし、3つの光変調素子1で1画素を構成する場合には、明状態と暗状態との間にある状態、すなわち、明状態よりも暗く、暗状態よりも明るい状態である中間状態を作り出すことができる。具体的には、3つの光変調素子1の磁化の向きが、それぞれ、(1)「上,上,上」、(2)「上,上,下」、「上,下,上」、または、「下,上,上」、(3)「上,下,下」、「下,上,下」、または、「下,下,上」、(4)「下,下,下」である4状態を形成することができる。この4状態に応じて、明暗状態も4段階に変化させることができる。このように、1画素が3つの光変調素子1を備えると、各画素4を、光変調素子1に流す電流の向きや大きさにしたがって、明状態から暗状態(又は暗状態から明状態)へと段階的に変化させることで、複数の異なる中間状態を作り出すことが可能となる。そのため、例えば、この空間光変調器10Cを用いて映像や画像を表示する場合に、精密な階調表現が可能になる。
【0096】
[その他]
その他、前記各実施形態においては、1つの画素4が、1つまたは3つの光変調素子1を備える場合について説明したが、1つの画素4が備える光変調素子1は、2つでも、4つ以上であってもよい。なお、2つの場合は、前記した中間状態は1つとなる。すなわち、複数の画素4のそれぞれが複数の光変調素子1を有するものとしてもよい。また、光変調素子1を磁気抵抗効果素子として、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)に用いてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 光変調素子
1A 上部素子
1B 下部素子
3 磁化自由層
4 画素
6 絶縁部材
7 基板
10、10A、10B、10C 空間光変調器
11 第1上部磁化固定層
12 第2上部磁化固定層
13 下部磁化固定層
21 第1上部中間層
22 第2上部中間層
23 下部中間層
40 画素アレイ
51 X電極(駆動電極)
52 Y電極(駆動電極)
53 補助電極
54 窓部
55 透明電極
90 電流制御部(電流制御手段)
91 X電極選択部
92 Y電極選択部
93 電源(電流供給手段)
94 画素選択部(画素選択手段)
95 補助電極選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過させる基板上に形成され、磁化自由層と、上部中間層と、上部磁化固定層とがこの順序で積層された上部素子と、前記基板と前記磁化自由層との間に形成される下部素子とを備えるスピン注入磁化反転素子構造を有し、前記上部素子の上部磁化固定層上に接続した一対の駆動電極間に電流が供給され、前記磁化自由層の磁化方向を変化させることによって前記基板を透過して入射した光をその偏光方向を変化させて回折して出射する光変調素子であって、
前記上部素子の上部磁化固定層は、同一平面上に分離した2つの上部磁化固定層からなり、前記2つの上部磁化固定層は、互いに反平行な磁化に固定され、かつ前記磁化自由層よりも保磁力の大きい磁性体であり、
前記下部素子は、補助電極と、下部磁化固定層と、下部中間層とがこの順序で前記基板側から積層されたものであり、前記基板側に当該基板を透過した光を前記磁化自由層に入射させるための窓部が形成され、
前記駆動電極の一方と前記補助電極との間の電気抵抗は、前記駆動電極間の電気抵抗に比べて大きいことを特徴とする光変調素子。
【請求項2】
前記2つの上部磁化固定層のうちの一方が、磁気交換結合膜を備えた多層構造であることを特徴とする請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光変調素子を用いた空間光変調器であって、
光を透過させる基板と、この基板上に2次元配列された複数の画素と、この複数の画素から1以上の画素を選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に所定の電流を供給する電流供給手段と、を備え、
前記画素は、前記光変調素子と、前記2つの上部磁化固定層上にそれぞれ接続され、前記光変調素子に電流を供給する一対の前記駆動電極と、を有し、
さらに、前記選択された画素における前記一対のうちの一方の駆動電極と、前記光変調素子の補助電極との間の電圧値を測定する測定部を備え、
前記画素選択手段は、前記測定部で測定された電圧値から電気抵抗値を算出する算出部と、前記選択された画素において予め設定された磁化方向に応じて定められた標準電気抵抗値の設定範囲を記憶する記憶部と、前記算出された電気抵抗値が前記標準電気抵抗値の設定範囲内の値である場合に磁化反転が良好と判断し、前記設定範囲外の値である場合に磁化反転が不良と判断する判断部と、前記磁化反転が不良と判断された場合に前記駆動電極への電流の再供給を指令する指令部と、を有することを特徴とする空間光変調器。
【請求項4】
前記配列された複数の画素において、前記2つの上部磁化固定層が同一平面上に並んだ方向に隣り合う2つの前記光変調素子の下部素子が一体化されていることを特徴とする請求項3に記載の空間光変調器。
【請求項5】
前記配列された複数の画素において、前記2つの上部磁化固定層が同一平面上に並んだ方向に隣り合う2つの前記光変調素子の補助電極の間、および、それぞれの補助電極に形成された窓部を塞ぐように形成された透明電極を有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の空間光変調器。
【請求項6】
前記複数の画素のそれぞれが複数の光変調素子を有することを特徴とする請求項3ないし請求項5のいずれか一項に記載の空間光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−88667(P2012−88667A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237786(P2010−237786)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人情報通信研究機構「革新的三次元映像表示のためのデバイス技術」に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】