説明

光学センサー及び電子機器

【課題】入射光の入射制限角度を高精度に制御可能な光学センサー及び電子機器等を提供すること。
【解決手段】光学センサーは、受光素子(例えばフォトダイオード30)と、受光素子の受光領域に対する入射光の入射角度を制限する角度制限フィルター40と、を含む。入射光の波長をλとし、角度制限フィルターの高さをRとし、角度制限フィルターの開口の幅をdとする場合に、d/λR≧2を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学センサー及び電子機器等に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の分野において光学センサーによる測定が応用されている。例えば、対象物の診断や検査をするために分光センサーが用いられる。分光センサーには、ヘモグロビンの光吸収を利用して血中酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターや、糖分の光吸収を使用して果実の糖度を測定する糖度計がある。また、照度を測定するための照度センサー等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−129908号公報
【特許文献2】特開2006−351800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような光学センサーには、角度制限フィルターを用いて入射光の入射角度を制限するものがある(例えば特許文献1)。しかしながら、角度制限フィルターの開口幅や高さの条件によっては、入射角度の制御性が劣化するという課題がある。例えば分光センサーでは、角度制御性が劣化すると所望の波長分解能が得られなくなってしまう。
【0005】
なお特許文献2には、センサー毎に膜厚の異なる多層膜フィルターを用いて複数波長帯域の光をセンシングする手法が開示されている。
【0006】
本発明の幾つかの態様によれば、入射光の入射制限角度を高精度に制御可能な光学センサー及び電子機器等を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、受光素子と、前記受光素子の受光領域に対する入射光の入射角度を制限する角度制限フィルターと、を含み、前記入射光の波長をλとし、前記角度制限フィルターの高さをRとし、前記角度制限フィルターの開口の幅をdとする場合に、d/λR≧2を満たす光学センサーに関係する。
【0008】
本発明の一態様によれば、角度制限フィルターがd/λR≧2の条件を満たすサイズで形成され、その角度制限フィルターにより受光領域に対する入射光の入射角度が制限される。これにより、入射光の入射制限角度を高精度に制御することが可能になる。
【0009】
また本発明の一態様では、前記角度制限フィルターは、tan−1(d/R)<60°を満たしてもよい。
【0010】
角度制限フィルターが無い場合であっても60°の制限角度が得られるため、制限角度がtan−1(d/R)<60°を満たすことで角度制限フィルターの角度制限を有効にできる。
【0011】
また本発明の一態様では、前記受光素子は、半導体基板上に形成された、フォトダイオード用の不純物領域により形成されてもよい。
【0012】
また本発明の一態様では、前記角度制限フィルターは、前記フォトダイオード用の不純物領域の上に半導体プロセスによって形成された遮光物質によって形成されてもよい。
【0013】
このようにすれば、光学センサーの各構成要素を半導体プロセスにより形成できるため、光学センサーを小型化できる。
【0014】
また本発明の一態様では、前記角度制限フィルターは、前記半導体基板の上に積層された絶縁膜に空けられたコンタクトホールの導電性プラグにより形成されてもよい。
【0015】
このようにすれば、角度制限フィルターを導電性プラグにより形成できる。例えば導電性プラグがタングステンプラグである場合、タングステンは光を吸収する性質であるため遮光性を向上できる。
【0016】
また本発明の一態様では、前記受光素子の出力信号を処理する処理回路を含み、前記角度制限フィルターは、前記処理回路の配線を形成する配線形成工程により形成されてもよい。
【0017】
このようにすれば、角度制限フィルターを配線形成工程によって形成できるため、通常の半導体プロセスを利用して角度制限フィルターを形成できる。また、フォトダイオードと処理回路を集積できるため、光学センサーを小型化できる。
【0018】
また本発明の一態様では、前記入射光のうちの特定波長の光を透過する光バンドパスフィルターを含んでもよい。
【0019】
このようにすれば、入射光のうちの特定波長の光を角度制限フィルター及びフォトダイオードの受光領域に入射させることができる。
【0020】
また本発明の一態様では、前記光バンドパスフィルターは、前記受光素子の受光面に対して、透過波長に応じた角度で傾斜する多層薄膜により形成されてもよい。
【0021】
また本発明の一態様では、前記光バンドパスフィルターは、透過波長が異なる複数組の多層薄膜により形成され、前記複数組の多層薄膜は、前記受光面に対する傾斜角度が透過波長に応じて異なり、同時の薄膜形成工程で形成されてもよい。
【0022】
このようにすれば、光バンドパスフィルターを多層薄膜により形成し、その多層薄膜の傾斜角度により透過波長を設定できる。また、透過波長が異なる複数の多層薄膜を同時に形成できる。
【0023】
また本発明の一態様では、前記角度制限フィルターを通って前記受光領域に到達する前記入射光の到達率特性は、前記開口の幅に対する前記到達率特性の傾きが第1の傾きである第1の特性領域と、前記開口の幅に対する前記到達率特性の傾きが前記第1の傾きよりも小さい第2の傾きである第2の特性領域と、を有する場合に、前記開口の幅は、前記到達率特性が前記第1の傾きから前記第2の傾きに変化する変化点における開口の幅以上に形成されてもよい。
【0024】
このようにすれば、開口の幅に対する光到達率特性に基づいて角度制限フィルターの開口幅や高さを設定でき、角度制御性や光到達率を向上できる。
【0025】
また、本発明の一態様では、光学センサーは、入射光を分光するための分光センサーであってもよい。
【0026】
また、本発明の一態様では、光学センサーは、入射光の照度を測定するための照度センサーであってもよい。
【0027】
また、本発明の一態様では、光学センサーは、光源の仰角を測定するための仰角センサーであってもよい。
【0028】
また、本発明の他の態様は、受光素子の受光領域に対する入射光の入射角度を制限するための角度制限フィルターを含み、前記入射光の波長をλとし、前記角度制限フィルターの高さをRとし、前記角度制限フィルターの開口の幅をdとする場合に、d/λR≧2を満たす光学センサーに関係する。
【0029】
また、本発明の他の態様は、受光素子と、前記受光素子の受光領域に対する入射光の入射角度を制限する角度制限フィルターと、を含み、前記角度制限フィルターを通って前記受光領域に到達する前記入射光の到達率特性は、前記開口の幅に対する前記到達率特性の傾きが第1の傾きである第1の特性領域と、前記開口の幅に対する前記到達率特性の傾きが前記第1の傾きよりも小さい第2の傾きである第2の特性領域と、を有する場合に、前記開口の幅は、前記到達率特性が前記第1の傾きから前記第2の傾きに変化する変化点における開口の幅以上に形成される光学センサーに関係する。
【0030】
また、本発明の他の態様は、上記のいずれかに記載された光学センサーを含む電子機器に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1(A)、図1(B)は、本実施形態の光学センサーの構成例。
【図2】図2(A)〜図2(C)は、比較例における光到達率の角度特性例。
【図3】図3(A)〜図3(C)は、本実施形態における光到達率の角度特性例。
【図4】図4(A)、図4(B)は、本実施形態における光到達率の開口幅特性例。
【図5】d/(λ×R)≧2の条件式についての原理的な説明図。
【図6】図6(A)〜図6(E)は、d/(λ×R)≧2の条件式についての原理的な説明図。
【図7】d/(λ×R)≧2の条件式についての原理的な説明図。
【図8】制限角度の上限についての説明図。
【図9】分光センサーの構成例の平面視図。
【図10】分光センサーの構成例の断面図。
【図11】図11(A)、図11(B)は、光バンドパスフィルターの透過波長帯域についての説明図。
【図12】光学センサーの製造方法例。
【図13】光学センサーの製造方法例。
【図14】光学センサーの製造方法例。
【図15】光学センサーの製造方法の変形例。
【図16】電子機器の構成例。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。なお以下では光学センサーが分光センサーである場合を例にとり説明するが、後述するように本実施形態の光学センサーは分光センサーには限定されない。
【0033】
1.構成
図1(A)、図1(B)に本実施形態の分光センサー(広義には光学センサー)の構成例を示す。なお以下では、簡単のために本実施形態の構成を模式的に図示し、図中の寸法や比率は実際のものとは異なる。
【0034】
図1(A)には、半導体基板10の平面に垂直な方向から見た平面視における角度制限フィルター40の平面視図を示す。図1(B)には、角度制限フィルター40を含む分光センサーの断面図を示す。この分光センサーは、半導体基板10、フォトダイオード30(広義にはフォトセンサー、フォトダイオード用の不純物領域)、角度制限フィルター40、光バンドパスフィルター60(多層膜フィルター、誘電体フィルター)を含む。
【0035】
フォトダイオード30と角度制限フィルター40は、後述するように半導体プロセスにより半導体基板10の上に形成される。ここで、半導体基板10の上とは、半導体基板10の平面に垂直な方向のうち、角度制限フィルター40等が形成される側の方向を表す。
【0036】
角度制限フィルター40は、例えば平面視において格子状に形成され、フォトダイオード30に対する入射光の入射角度を制限する。具体的には、角度制限フィルター40は、フォトダイオード30により検出される波長に対して遮光性のある物質(例えばタングステンプラグ)により形成され、入射角度が制限角度θ[°]より大きい光がフォトダイオード30に入射しないように遮光する。
【0037】
角度制限フィルター40は、下式(1)を満たすように形成される。下式(1)に示す条件式の詳細については後述する。ここで、d[μm]は角度制限フィルター40の開口幅であり、R[μm]は角度制限フィルター40の高さであり、λ[μm]は入射光の波長である。
【0038】
/(λ×R)≧2,
60°>θ=tan−1(d/R) (1)
光バンドパスフィルター60は、角度制限フィルター40の上に積層された多層薄膜により形成される。後述するように、角度制限フィルター40により入射角度が制限されることで光バンドパスフィルター60の透過波長帯域が制限され、所望の波長分解能の分光特性を得ることができる。
【0039】
以上の本実施形態によれば、半導体プロセスにより角度制限フィルターを形成することで光学センサーを小型化できる。しかしながら、小型化により角度制限フィルターの開口が小さくなり、開口幅dや高さRの条件によっては入射角度の制御性が劣化するという課題がある。この点について、d/(λ×R)<2の角度制限フィルターを比較例として説明する。
【0040】
図2(A)〜図2(C)に比較例の角度特性の測定値を示す。図2(A)〜図2(C)には、波長λ=0.5μm、高さR=5μmにおける測定値を示す。なお以下では制限角度θを、光到達率が、入射角度0°における光到達率の1/2になる場合の入射角度とする。なお本実施形態ではこれに限定されず、光到達率が他の比になる場合の入射角度によりθを定義してもよい。
【0041】
図2(A)には、角度制限フィルターが無い場合における入射角度0°の光到達率を1とした光到達率特性を示す。光到達率とは、角度制限フィルターの開口に入射する光量と、フォトダイオードに到達する光量との比率である。
【0042】
図2(A)のA1に示すように、角度制限フィルターが無い場合には、入射角度が増加するに従って光到達率が緩やかに減衰する。A2に示すように、制限角度θ=15°、開口幅d=1.34μmの場合には、光到達率の最大値は0.23である。A3に示すように、制限角度θ=20°、開口幅d=1.82μmの場合には、光到達率の最大値は0.45である。このように、比較例の角度制限フィルターでは光到達率が50%を切っており、入射光が暗いときにはセンサー感度が不足する可能性がある。
【0043】
図2(B)には、図2(A)の光到達率特性を、入射角度0°において1に正規化したものを示す。図2(B)のB1に角度制限フィルターが無い場合の測定値を示し、B2にθ=15°の場合の測定値を示し、B3にはθ=20°の場合の測定値を示す。B2、B3に示すように、実際に測定された制限角度はいずれも22°程度であり、所望の角度制御性が得られていない。
【0044】
図2(C)は、上記の測定値をまとめたものである。図2(C)に示すように、θ=15°、20°いずれの場合もd/(λ×R)<2であり、この範囲では角度制御性や光到達率が十分に得られないことがわかる。
【0045】
この点本実施形態によれば、上式(1)に示すようにd/(λ×R)≧2を満たすように角度制限フィルターを形成することで、角度制御性や光到達率を向上できる。図3(A)〜図3(C)を用いて詳細に説明する。図3(A)〜図3(C)には、波長λ=0.5μm、高さR=5μmにおける測定値を示す。
【0046】
図3(A)には、角度制限フィルターが無い場合における入射角度0°の光到達率を1とした光到達率特性を示す。図3(A)のC1に示すように、角度制限フィルターが無い場合の特性は比較例と変わりがない。C2に示すように、制限角度θ=25°、開口幅d=2.33μmの場合には、光到達率の最大値は0.54である。C3に示すように、制限角度θ=30°、開口幅d=2.89μmの場合には、光到達率の最大値は0.64である。このように、本実施形態では光到達率が50%よりも大きい。
【0047】
図3(B)には、図3(A)の光到達率特性を、入射角度0°において1に正規化したものを示す。図3(B)のD1に角度制限フィルターが無い場合の測定値を示し、D2にθ=25°の場合の測定値を示し、D3にはθ=30°の場合の測定値を示す。D2、D3に示すように、実際に測定された制限角度はそれぞれ24°〜25°、28°〜29°であり、所望の角度制御性が得られている。
【0048】
図3(C)は、上記の測定値をまとめたものである。図3(C)に示すように、θ=25°、30°いずれの場合もd/(λ×R)≧2の条件を満たしており、この範囲では角度制御性や光到達率が十分に得られていることが分かる。このように、角度制御性が向上することで、例えば分光センサーでは所望の波長分解能が実現できる。また比較例に比べて光到達率が大きくなることで、光量が少なくても高感度にセンシング可能になる。
【0049】
例えば、上述した比較例のθ=15°の角度制限フィルターをd/(λ×R)≧2の範囲で設計すれば、下式(2)に示すようにd=4.02μm、R=15μmとすればよい。またθ=20°の角度制限フィルターは、下式(3)に示すようにd=3.64μm、R=10μmとすればよい。
【0050】
/(λ×R)=4.02/(0.5×15)=2.15≧2 (2)
/(λ×R)=3.64/(0.5×10)=2.65≧2 (3)
2.光到達率の開口幅特性
図4(A)に、開口幅dに対する光到達率特性を示す。図4(A)のE1には、λ=0.5μm、高さR=5μmにおける測定値を示す。E2には、λ=0.9μm、高さR=5μmにおける測定値を示す。
【0051】
E1に示す特性では、d=2.3μm近傍において接線の傾きが急激に変化する。以下ではこの点を境界点と呼ぶ。境界点までのd≦2.3μmの範囲を第1の特性領域R1とすると、第1の特性領域R1では一定(ほぼ一定)の第1の傾きで光到達率が上昇する。境界点以降の2.3μm≦d≦8μmの範囲を第2の特性領域R2とすると、第2の特性領域R2では第1の傾きよりも小さい一定(ほぼ一定)の第2の傾きで光到達率が変化する。
【0052】
E2に示す特性では、境界点はd=3μmであり、第1の特性領域はd≦3μmであり、第2の特性領域は3μm≦d≦8μmである。
【0053】
図4(B)に示すように、上記の境界点は、d/(λ×R)=2とした場合のdの値に一致(ほぼ一致)する。即ち、境界点よりも開口幅dが大きくなるように角度制限フィルターを形成することでd/(λ×R)≧2の条件を満たし、角度制御性や光到達率を向上できることがわかる。このように、本実施形態では開口幅dに対する光到達率特性からも角度制限フィルターのサイズを決定することができる。
【0054】
なお本実施形態では、境界点であるd/(λ×R)=2の近傍となるように角度制限フィルターを構成することが望ましい。境界点では角度制限フィルターの高さRを最小限にして光学センサーを小型化できる。即ち、制限角度θ=tan−1(d/R)であるためθが決まればアスペクト比d/Rは固定される。従って、d/(λ×R)≧2を満たす範囲でdが最小となる境界点ではRも最小にすることができる。
【0055】
以上の実施形態によれば、図1(B)に示すように光学センサーは受光素子と、角度制限フィルター40を含む。角度制限フィルター40は、受光素子の受光領域に対する入射光の入射角度を制限する。上式(1)に示すように、入射光の波長をλとし、角度制限フィルターの高さをRとし、角度制限フィルターの開口の幅をdとする場合に、d/λR≧2を満たす。
【0056】
これにより、入射光の入射制限角度θを高精度に制御することが可能になる。また、光到達率を向上することが可能になる。即ち、図2(C)に示すd/λR<2での測定値に比べて、図3(C)に示すd/λR≧2での測定値では所望の制限角度が実現され、光到達率が高くなっている。これは、図5で説明したように角度制限フィルター40内での光の伝搬特性によると考えられる。
【0057】
ここで、受光素子は図1(B)のフォトダイオード30(フォトダイオード用の不純物領域)に対応するが、本実施形態ではこれに限定されない。例えば、受光素子は光電変換素子であればよい。
【0058】
ここで、制限角度θとは、角度制限フィルター40に対して入射光が入射角度0°で入射する場合に受光面に到達する光量と、角度制限フィルター40に対して入射光が入射角度θで入射する場合に受光面に到達する光量との比が、所定の減衰率となる場合の角度θである。例えば所定の減衰率は1/2である。
【0059】
また、角度制限フィルター40の高さRとは、半導体基板10の平面に垂直な方向における高さであり、例えば角度制限フィルター40を形成する遮光物質の下端から上端までの高さである。
【0060】
また、角度制限フィルター40の開口とは、入射光が入射する側の面において遮光物質が存在しない領域であり、角度制限フィルター40に対して入射光が入射する領域である。なお開口の外周は必ずしも遮光物質で閉じている必要はなく、開口の外周に沿って断続的に遮光物質が配されてもよい。
【0061】
また、開口の開口幅dとは、制限角度θ(開口幅dと高さRのアスペクト比)を規定する長さであり、例えば正方形の開口の場合にはその正方形の一辺の長さである。あるいは、長方形の開口の場合にはその長方形の最長辺の長さであり、円の開口の場合にはその円の直径であり、楕円の開口の場合にはその楕円の長径である。
【0062】
また本実施形態では、上式(1)に示すように角度制限フィルター40はtan−1(d/R)<60°を満たす。
【0063】
図8で後述するように、角度制限フィルター40が無くても入射角度60°で光到達率が1/2になる。そのため、制限角度θ=tan−1(d/R)<60°に設定することで角度制限フィルター40の角度制限が有効になる。
【0064】
また本実施形態では、図4(A)に示すように、角度制限フィルター40を通って受光領域に到達する入射光の到達率特性は、第1の特性領域R1と第2の特性領域R2を有する。第1の特性領域R1では、開口の幅dに対する到達率特性の傾きが第1の傾きである。第2の特性領域R2では、開口の幅dに対する到達率特性の傾きが第1の傾きよりも小さい第2の傾きである。この場合に、開口の幅dは、到達率特性が第1の傾きから第2の傾きに変化する変化点(境界点)における開口の幅以上に形成される。
【0065】
このようにすれば、開口幅dに対する光到達率特性に基づいて、角度制御性や光到達率が高い角度制限フィルターの開口幅dや高さRを決定できる。また上述のように、変化点近傍となるように角度制限フィルターを構成することで、高さRを最小限にして光学センサーを小型化できる。
【0066】
以上では、本実施形態の光学センサーが分光センサーである場合について説明したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、光バンドパスフィルター60を省略し、本実施形態の光学センサーを照度センサーや、仰角センサーに適用してもよい。
【0067】
ここで、照度センサーとは、自然光や照明光の照度(ルクス、またはルーメン/平方メートル)を測定する光学センサーである。本実施形態では、角度制限フィルターにより入射角度が制限されるため、測定対象以外からの不要な光の入射を制限できる。例えば、自動車の前照灯を進行方向の明るさに応じて自動的に点灯するシステムに本実施形態を適用することが考えられる。例えばトンネル進入時に、不要な光に反応しなくなるため、適切な自動点灯が可能になる。
【0068】
また、仰角センサーとは、太陽や照明光源の方向と基準面との間の成す角度である仰角を測定する光学センサーである。基準面は、例えば水平面である。本実施形態では、角度制限フィルターにより入射角度が制限されるため、仰角の測定ができる。例えば、太陽光発電システムに本実施形態を適用することが考えられる。この場合、太陽の方向を高精度に測定し、その方向に太陽電池パネルを向けることで高効率な発電が可能になる。
【0069】
3.光強度分布と角度制御性の関係
図5を用いて、d/(λ×R)≧2の条件式について原理的に説明する。図5に示すように、半導体基板に向かう垂直方向をZ軸とし、開口の一辺に平行でZ軸に垂直な方向をx軸とし、角度制限フィルター内の任意の面内でx軸に平行な方向をx軸とする。なお以下では簡単のため、2次元での計算を行い、角度制限フィルター側壁の影響は無いものと仮定する。また入射光は、Z軸に平行に伝搬する波数kの平面波であるものとする。
【0070】
軸における光強度I(x)を求める。x軸上の点Pにおける光Up(x)は、開口を通る光の重ね合わせであり、下式(4)で表される。ここで、iは虚数を表し、k(k=2π/λ)は入射光の波数を表し、rはx軸上の点から点Pまでの距離を表す。
【0071】
【数1】

【0072】
距離rが開口幅dよりも十分大きい場合、上式(4)の分母のrをRとして積分の外に出すことができ、下式(5)となる。
【0073】
【数2】

【0074】
図5に示す角度φが十分小さく、cosφ≒1を仮定できる場合、下式(6)が成り立つ。下式(6)を上式(5)に代入すると下式(7)となる。
【0075】
【数3】

【0076】
【数4】

【0077】
上式(7)を積分すると下式(8)となる。光強度I(x)は光Up(x)の大きさの二乗であるため、k=2π/λを用いて下式(9)となる。
【0078】
【数5】

【0079】
【数6】

【0080】
図6(A)〜図6(E)に上式(9)の光強度I(x)の特性例を示す。図6(A)〜図6(E)は、波長λ=0.5μm、高さR=5μmにおける計算値であり、それぞれ開口幅d=1μm、1.5μm、2μm、2.5μm、3μmにおける計算値である。
【0081】
図6(A)〜図6(C)に示すように、d<2.25μmの範囲ではdが小さいほど開口内での光強度分布が平坦であり、角度制限フィルターの側壁面で光強度がゼロではない。実際には側壁面で光強度がゼロになるという境界条件があるため、このような光強度分布は実現しないと考えられる。この場合、図7に示すように側壁面に対して斜めに反射して境界条件を満たしながら光が進むと予想される。入射角度が0°であっても光が側壁面に反射しながら進むため、側壁面で光が吸収されてしまい光到達率は低いと考えられる。また、入射角度が0°でも角度が付いても同じように光が側壁面に反射しながら進むため、光到達率の角度依存性が低下して角度制御性が劣化すると考えられる。
【0082】
一方、図6(D)、図6(E)に示すように、d≧2.25μmの範囲では側壁面で光強度がゼロ(ほぼゼロ)であり、光が側壁面に触れずに中央付近を進む。そのため、入射角度が0°の場合には側壁面で光が吸収されず、光到達率が高いと予想される。また、入射角度が大きくなるに従って光が側壁面に当たって吸収されるようになるため、光到達率の角度依存性が高くなり角度制御性が向上すると考えられる。
【0083】
なおd=2.25μmは、上式(9)において側壁面での光強度がゼロとなる条件I(x=d/2)=0におけるdの値である。即ち、πxd/λR=πであり、x=d/2を代入して変形するとd=√(2λR)=√(2×0.5×5)≒2.25μmである。
【0084】
4.制限角度の上限
上式(1)に示す制限角度の上限θ<60°について、図8を用いて詳細に説明する。図8に示すように、角度制限フィルターが無く、強度Liの入射光が入射角度αでフォトダイオードに入射したとする。この場合、フォトダイオードの受光面における光強度Lpは下式(10)で表される。
【0085】
Lp=Li×cosα (10)
上式(10)より、α=60°においてLp/Li=1/2であり、制限角度が60°であることに等しい。即ち、光到達率が1/2となる入射角度を制限角度θと定義する場合には、角度制限フィルターがなくても制限角度θ=60°となるため、角度制限フィルターの角度制御性を発揮させるためにはθ<60°に設定する必要がある。
【0086】
5.分光センサー
上述した本実施形態の分光センサーの詳細な構成例について説明する。
【0087】
図9に、分光センサーが形成される半導体基板10に対する平面視図を示す。図9は、半導体基板10の平面に垂直な方向から見た平面視において、回路20や角度制限フィルター41等が形成される表面側から見た平面視図である。後述のように角度制限フィルター41、42の上には多層膜フィルターが形成されるが、図9では、簡単のために図示を省略する。
【0088】
図9に示す分光センサーは、半導体基板10、回路20、第1のフォトダイオード31(広義には、第1のフォトセンサー、第1のフォトダイオード用の不純物領域)、第2のフォトダイオード32(広義には、第2のフォトセンサー、第2のフォトダイオード用の不純物領域)、第1の角度制限フィルター41、第2の角度制限フィルター42を含む。
【0089】
半導体基板10は、例えばP型やN型のシリコン基板(シリコンウエハ)により構成される。この半導体基板10の上には、回路20、フォトダイオード31、32、角度制限フィルター41、42が半導体プロセスにより形成される。
【0090】
角度制限フィルター41、42は、例えば平面視において格子状に形成され、フォトダイオード31、32に対する入射光の入射角度を制限する。回路20は、例えばフォトダイオード31、32からの出力信号を処理するアンプ、A/D変換回路等により構成される。
【0091】
なお、本実施形態の分光センサーは図9の構成に限定されず、その構成要素の一部(回路20)を省略したり、他の構成要素を追加したりする等の種々の変形実施が可能である。例えば、フォトダイオードや角度制限フィルターは、上述のように2つであってもよく、1または複数個形成されてもよい。また、角度制限フィルター41、42は、上述のように平面視において格子状であってもよく、他の形状であってもよい。
【0092】
図10に、分光センサーの断面図を示す。図10は、図9に示すAA断面における断面図である。図10に示す分光センサーは、半導体基板10、フォトダイオード31、32、角度制限フィルター41、42、傾斜構造体50(角度構造体)、第1の光バンドパスフィルター61(第1の多層膜フィルター、第1の誘電体フィルター)、第2の光バンドパスフィルター62(第2の多層膜フィルター、第2の誘電体フィルター)、を含む。
【0093】
半導体基板10にフォトダイオード31、32が形成される。後述するように、このフォトダイオード31、32は、イオン注入等により不純物領域が形成されることで形成される。例えば、フォトダイオード31、32は、P基板上に形成されたN型不純物領域と、P基板との間のPN接合により実現される。あるいは、ディープNウェル(N型不純物領域)上に形成されたP型不純物領域と、ディープNウェルとの間のPN接合により実現される。
【0094】
角度制限フィルター41、42は、フォトダイオード31、32により検出される波長に対して遮光性のある遮光物質(例えば、光吸収物質または光反射物質)により形成される。具体的には、角度制限フィルター41、42は、半導体プロセスの配線形成工程により形成され、例えばタングステン(広義には光吸収物質)プラグ等の導電性プラグにより形成される。また、角度制限フィルター41、42は、アルミ(広義には光反射物質)配線層等の導電層を含んで形成されてもよい。
【0095】
角度制限フィルター41、42の底辺の開口幅と高さのアスペクト比は、光バンドパスフィルター61、62の透過波長帯域(例えば図11(B)で後述するBW1、BW2)に応じて設定される。角度制限フィルター41、42の開口部(中空部)は、フォトダイオード31、32により検出される波長に対して透明な物質により形成され、例えば、SiO(シリコン酸化膜)等の絶縁層により形成(充填)される。
【0096】
傾斜構造体50は、角度制限フィルター41、42の上に形成され、光バンドパスフィルター61、62の透過波長に応じて異なる傾斜角の傾斜面を有する。具体的には、フォトダイオード31の上には、半導体基板10の平面に対する傾斜角θ1の傾斜面が複数形成され、フォトダイオード32の上には、θ1とは異なる傾斜角θ2の傾斜面が複数形成
される。後述するように、この傾斜構造体50は、例えばSiO等の絶縁膜をエッチングまたはCMP、グレースケールリソグラフィー技術等により加工することで形成される。
【0097】
光バンドパスフィルター61、62は、傾斜構造体50の上に積層された多層薄膜70により形成される。光バンドパスフィルター61、62の透過波長帯域は、傾斜構造体50の傾斜角θ1、θ2と、角度制限フィルター41、42の入射光制限角度(アスペクト比)により決まる。光バンドパスフィルター61、62は、傾斜角度に応じて透過波長が異なる構成のため、透過波長毎に別個の工程で積層するのではなく、同一の多層膜形成工程により積層される。
【0098】
さて従来の光学センサーでは、小型化が困難であるという課題がある。例えば、連続スペクトルを取得する分光センサーでは、連続スペクトルを生成するためのプリズム等を設けたり、光路長を確保する必要があるため、装置が大型化してしまう。そのため、多数のセンサーを設置したり、センサーを検査対象物に常時設置しておくこと等が困難となってしまう。
【0099】
この点本実施形態によれば、受光素子は、半導体基板10上に形成された、フォトダイオード用の不純物領域31、32により形成される。
【0100】
また本実施形態では、角度制限フィルター41、42は、フォトダイオード用の不純物領域31、32の上に半導体プロセスによって形成された遮光物質によって形成される。
【0101】
このようにすれば、光学センサーの各構成要素を半導体プロセスにより構成できるため、光学センサーの小型化等が可能になる。即ち、フォトダイオード31、32や角度制限フィルター41、42を半導体プロセスにより形成することで、容易に微細加工を行い、小型化することができる。また、部材を貼り合わせて構成する場合と比べて、透過波長選択性を向上できる。また、角度制限フィルターとして光ファイバーを用いた場合に比べて、制限角度(開口数)の減少による透過光の減少を抑制し、波長選択性を向上できる。
【0102】
ここで、半導体プロセスとは、半導体基板にトランジスターや、抵抗素子、キャパシター、絶縁層、配線層等を形成するプロセスである。例えば、半導体プロセスは、不純物導入プロセスや、薄膜形成プロセス、フォトリソグラフィープロセス、エッチングプロセス、平坦化プロセス、熱処理プロセスを含むプロセスである。
【0103】
また、フォトダイオードの受光領域とは、角度制限フィルター41、42を通過した入射光が入射される、フォトダイオード用の不純物領域31、32上の領域である。例えば図9において、格子状の角度制限フィルター41、42の各開口に対応する領域である。あるいは、図10において、角度制限フィルター41、42を形成する遮光物質に囲まれた領域(例えば、領域LRA)である。
【0104】
また、遮光物質とは、光吸収物質または光反射物質である。光吸収物質は例えばタングステンであり、光反射物質は例えばアルミである。
【0105】
なお、角度制限フィルター41、42は、受光領域の外周に沿って閉じている場合に限らず、外周に沿って非連続的な部分があったり、外周に沿って断続的に配置されたりしてもよい。
【0106】
また本実施形態では、後述する図12に示すように、角度制限フィルター41、42は、半導体基板10の上に積層された絶縁膜に空けられたコンタクトホールの導電性プラグにより形成される。即ち、アルミ配線等の金属配線層を用いず、SiO等の絶縁膜に形成されたタングステンプラグ等の導電性プラグのみにより形成される。
【0107】
このようにすれば、角度制限フィルター41、42を導電性プラグにより形成することができる。具体的には、光吸収物質であるタングステンプラグにより形成できるため、遮光性を向上できる。
【0108】
ここで、コンタクトホールとは、配線層と半導体基板を導通するコンタクトのために空けられるコンタクトホール、または配線層と配線層を導通するビアコンタクトのために空けられるコンタクトホールである。
【0109】
また本実施形態の光学センサーは、受光素子の出力信号を処理する処理回路(図9の回路20)を含む。角度制限フィルター41、42は、処理回路の配線を形成する配線形成工程により形成される。具体的には、角度制限フィルター41、42は、処理回路の配線層形成と同時に形成され、その配線層形成工程の全部または一部により形成される。例えば、角度制限フィルター41、42は、SiOデポジションによる絶縁膜形成、タングステンデポジションによるコンタクト形成等により形成される。
【0110】
このようにすれば、角度制限フィルター41、42を、フォトダイオード用の不純物領域31、32の上に半導体プロセスによって形成できる。これにより、角度制限フィルター形成のための別個のプロセスを設ける必要が無く、通常の半導体プロセスを利用して角
度制限フィルターを形成できる。
【0111】
また、フォトダイオード31、32と同じチップ上に、フォトダイオード31、32の出力信号を処理する処理回路を集積できる。これにより、分光センサーのより一層の小型化を図ることができる。
【0112】
なお、角度制限フィルター41、42は、光反射物質のアルミ配線層や、光吸収物質のタングステンコンタクトに限らず、光吸収物質から成る配線層や、光反射物質から成るコンタクトにより形成されてもよい。ただし、光吸収物質から成る程遮光性は高まる。
【0113】
また、角度制限フィルター41、42は、光吸収物質である窒化チタン(TiN)等の膜付きのアルミ配線層や、タングステンコンタクトにより形成されてもよい。アルミ配線層が光吸収に変わり、タングステンより窒化チタン(TiN)の方が光吸収性が高いためコンタクトの光吸収性も上がる。これにより遮光性をより高めることができる。
【0114】
また本実施形態では、角度制限フィルター41、42は、半導体プロセスにより形成される導電層または導電性プラグにより形成され、フォトダイオード31、32用の不純物領域からの信号を取得する電極であってもよい。例えば、フォトダイオード31、32用の不純物領域がP型不純物領域である場合、そのP型不純物領域に導通する角度制限フィルター41、42が、フォトダイオード31、32のアノード電極を兼ねてもよい。
【0115】
このようにすれば、導電層または導電性プラグにより形成される角度制限フィルター41、42を、フォトダイオード31、32の電極として用いることができる。これにより、角度制限フィルター41、42以外に電極を設ける必要が無くなり、電極による入射光量の低下を避けることができる。
【0116】
また本実施形態の光学センサーは、入射光のうちの特定波長の光を透過する光バンドパスフィルター61、62を含む。例えば本実施形態では、半導体基板10、角度制限フィルター41、42、光バンドパスフィルター61、62の順に半導体プロセスにより順次積層される。
【0117】
このようにすれば、入射光のうちの特定波長の光を角度制限フィルター41、42やフォトダイオード31、32用の不純物領域に入射できる。図11(A)等で後述のように、光バンドパスフィルター61、62の透過波長は入射角度によって変化するが、角度制限フィルター41、42により透過波長帯域を制限することができる。
【0118】
また本実施形態では、光バンドパスフィルター61、62は、半導体基板10に対して、透過波長に応じた角度θ1、θ2で傾斜する多層薄膜により形成される。より具体的には、光バンドパスフィルター61、62は、透過波長が異なる複数組の多層薄膜により形成される。そして、その複数組の多層薄膜は、半導体基板10に対する傾斜角度θ1、θ2が透過波長に応じて異なり、同時の薄膜形成工程で形成される。例えば、図10に示すように、傾斜角θ1の複数の多層薄膜が連続して配列されることで1組の多層薄膜が形成される。あるいは、異なる傾斜角θ1〜θ3の多層薄膜が隣接して配置され、この傾斜角θ1〜θ3の多層薄膜が繰り返し配置される場合に、同じ傾斜角の複数の多層薄膜により1組の多層薄膜が形成されてもよい。
【0119】
このようにすれば、透過波長に応じた角度θ1、θ2で傾斜する多層薄膜により光バンドパスフィルター61、62を形成できる。これにより、透過波長に応じた膜厚の多層薄膜を透過波長毎に別個の工程で積層する必要がなくなり、多層薄膜の形成工程を簡素化できる。
【0120】
ここで、同時の薄膜形成工程とは、第1組の多層薄膜を形成した後に第2組の多層薄膜を形成するといった同一工程を順次繰り返す工程ではなく、複数組の多層薄膜を同じ(1回の)薄膜形成工程で形成することをいう。
【0121】
また本実施形態では、角度制限フィルター41、42の上に設けられた傾斜構造体50を含む。そして、傾斜構造体50は、半導体基板10に対して、光バンドパスフィルター61、62の透過波長に応じた角度θ1、θ2で傾斜する傾斜面を有し、多層薄膜がその傾斜面の上に形成される。
【0122】
このようにすれば、傾斜構造体50の傾斜面に多層薄膜を形成することで、光バンドパスフィルター61、62の透過波長に応じた角度θ1、θ2で傾斜する多層薄膜を形成できる。
【0123】
また本実施形態では、傾斜構造体50は、角度制限フィルター41、42の上に半導体プロセスにより形成される。例えば図13等で後述するように、傾斜構造体50は、半導体プロセスにより積層された透明膜(絶縁膜)に段差または粗密パターンが形成され、その段差または粗密パターンに対して研磨(例えばCMP)及びエッチングの少なくとも一方が行われることで形成される。
【0124】
このようにすれば、傾斜構造体を半導体プロセスにより形成できる。これにより、傾斜構造体の形成工程を簡素化できる。また、傾斜構造体を別部材で構成する場合と比べてコストを削減できる。また、別部材の傾斜構造体との接着面での光量減少を避けることができる。
【0125】
ここで、絶縁膜の段差とは、例えば、半導体基板の断面における半導体基板表面からの絶縁膜表面の高低差である。また、絶縁膜の粗密パターンとは、例えば、半導体基板の断面における半導体基板表面からの絶縁膜表面の高低のパターンであり、高い部分と低い部分の比率により絶縁膜の粗密が形成される。
【0126】
なお、傾斜構造体50は、段差または粗密パターンの研磨またはエッチングによる形成に限らず、グレースケールリソグラフィー技術により形成されてもよい。グレースケールリソグラフィー技術では、濃淡を持ったグレースケールマスクを用いてレジストを露光、露光レジストを使ってエッチングし傾斜構造体を形成する。
【0127】
6.光バンドパスフィルターの透過波長帯域
上述のように、光バンドパスフィルターの透過波長帯域は、多層薄膜の傾斜角度と角度制限フィルターの制限角度により設定される。この点について、図11(A)、図11(B)を用いて具体的に説明する。なお、説明を簡単にするために、以下では光バンドパスフィルター61、62の多層薄膜の膜厚が同じ場合を例に説明するが、本実施形態では、光バンドパスフィルター61、62の多層薄膜の膜厚が傾斜角θ1、θ2に応じて異なってもよい。例えば、薄膜のデポジションにおいて、半導体基板に対して垂直な方向に薄膜を成長させた場合、光バンドパスフィルター61、62の多層薄膜の膜厚がcosθ1、cosθ2に比例してもよい。
【0128】
図11(A)に示すように、光バンドパスフィルター61、62の多層薄膜は、厚さd1〜d3(d2<d1、d3<d1)の薄膜により形成される。厚さd1の薄膜の上下に、厚さd2、d3の薄膜が交互に複数層積層される。厚さd2の薄膜は、厚さd1、d3の薄膜とは異なる屈折率の物質により形成される。なお、図11(A)では、簡単のために、厚さd2、d3の薄膜の層数を省略したが、実際には、厚さd1の薄膜の上下に数十層〜数百層の薄膜が積層される。また、図11(A)では、簡単のために厚さd1の薄膜を1層としたが、実際には複数層形成される場合が多い。
【0129】
光バンドパスフィルター61の多層薄膜は、フォトダイオード31の受光面に対して傾斜角θ1を有するため、受光面に対して垂直な光線は、光バンドパスフィルター61の多層薄膜に対してθ1の角度で入射する。そして、角度制限フィルター41の制限角度をΔθとすると、光バンドパスフィルター61の多層薄膜に対してθ1−Δθ〜θ1+Δθで入射する光線がフォトダイオード31の受光面に到達する。同様に、フォトダイオード32の受光面には、光バンドパスフィルター62の多層薄膜に対してθ2−Δθ〜θ2+Δθで入射する光線が到達する。
【0130】
図11(B)に示すように、光バンドパスフィルター61の透過波長帯域BW1は、λ1−Δλ〜λ1+Δλである。このとき、入射角度θ1の光線に対する透過波長λ1=2×n×d1×cosθ1である。ここで、nは厚さd1の薄膜の屈折率である。また、λ1−Δλ=2×n×d1×cos(θ1+Δθ)、λ1+Δλ=2×n×d1×cos(θ1−Δθ)である。入射角度θ1の光線に対する透過波長の半値幅HW(例えばHW<BW1)は、多層膜の積層数により決まる。フォトダイオード31の受光量は、受光面に垂直となる入射角θ1で最大であり、制限角度でゼロとなるため、入射光全体での受光量は点線でしめす曲線により表されることとなる。光バンドパスフィルター62の透過波長帯域BW2も同様に、λ2−Δλ〜λ2+Δλである。例えばθ2>θ1の場合、λ2=2×n×d1×cosθ2<λ1=2×n×d1×cosθ1である。
【0131】
上記実施形態によれば、角度制限フィルター41、42は、入射光の入射角度をθ1−Δθ〜θ1+Δθ、θ2−Δθ〜θ2+Δθに制限して、透過波長の変化範囲をλ1−Δλ〜λ1+Δλ、λ2−Δλ〜λ2+Δλに制限する。光バンドパスフィルターは、角度制限フィルター41、42により制限された透過波長の変化範囲λ1−Δλ〜λ1+Δλ、λ2−Δλ〜λ2+Δλにより、透過する特定波長の帯域BW1、BW2が設定される。
【0132】
このようにすれば、角度制限フィルター41、42により光バンドパスフィルターの透過波長帯域BW1、BW2を制限し、測定対象の波長帯域の光だけをセンシングすることができる。例えば、角度制限フィルター41、42の制限角度はΔθ≦30°に設定される。望ましくは、角度制限フィルター41、42の制限角度はΔθ≦20°である。
【0133】
7.製造方法
図12〜図14を用いて、傾斜構造体を半導体プロセスにより形成する場合の本実施形態の分光センサーの製造方法の例について説明する。
【0134】
まず図12のS1に示すように、フォトリソグラフィー、イオン注入、フォトレジスト剥離の工程により、P型基板上にN型拡散層(フォトダイオードの不純物領域)を形成する。S2に示すように、フォトリソグラフィー、イオン注入、フォトレジスト剥離、熱処理の工程により、P型基板上にP型拡散層を形成する。このN型拡散層がフォトダイオードのカソードとなり、P型拡散層(P型基板)がアノードとなる。
【0135】
次にS3に示すように、SiOのデポジション、CMPによる平坦化の工程により、絶縁膜を形成する。S4に示すように、フォトリソグラフィー、SiOの異方性ドライエッチング、フォトレジスト剥離の工程により、コンタクトホールを形成する。S5に示すように、TiNのスパッタリング、W(タングステン)のデポジション、Wのエッチバックの工程により、コンタクトホールの埋め込みを行う。S6に示すように、AL(アルミ)のスパッタリング、TiNのスパッタリング、フォトリソグラフィー、ALとTiNの異方性ドライエッチング、フォトレジスト剥離の工程により、第1AL配線を形成する。
【0136】
次にS7に示すように、上記S3〜S6と同様の工程によりビアコンタクトと第2AL配線を形成する。S7の工程を必要回数繰り返す。図12には、第3AL配線まで形成した場合を図示する。S8に示すように、SiOのデポジションを行い、絶縁膜を形成する。S8’に示すように、CMPによる平坦化の工程を行う。以上の配線形成工程により、角度制限フィルターを構成するAL配線やタングステンプラグが積層される。
【0137】
次に図13のS9に示すように、SiOのデポジション、フォトリソグラフィー、S
iOの異方性ドライエッチング、フォトレジスト剥離の工程により、絶縁膜の段差(S9’)または粗密パターン(S9”)を形成する。
【0138】
次に図14のS10に示すように、CMPによる研磨の工程により、傾斜構造体の傾斜面を形成する。このとき、傾斜構造体の傾斜面は、絶縁膜の段差や粗密パターンの形状に応じた傾斜角度に加工される。
【0139】
次にS11に示すように、TiO(チタン酸化膜)のスパッタリングとSiOのスパッタリングを交互に行い、傾斜面に多層薄膜を形成する。TiO膜は高屈折率の薄膜であり、SiO膜は低屈折率の薄膜である。
【0140】
8.製造方法の変形例
図15を用いて、傾斜構造体を別部材で形成する第1の変形例の製造方法の例について説明する。
【0141】
まず図15のS101に示すように、加熱して溶融した低融点ガラスを金型に注入し、傾斜面のついた金型で低融点ガラスをプレス成形することで傾斜構造体を形成する。
【0142】
次にS102に示すように、TiOのスパッタリングとSiOのスパッタリングを交互に行い、低融点ガラスの傾斜構造体に多層薄膜を形成する。
【0143】
次にS103に示すように、多層薄膜が形成された傾斜構造体を、角度制限フィルターの絶縁層に接着剤(分光対象波長に対して透明な接着剤)で接着する。なお、フォトダイオードや角度制限フィルターは、図12で上述したS1〜S8の工程により形成される。
【0144】
9.電子機器
図16に、本実施形態の光学センサーを含む電子機器の構成例を示す。例えば、電子機器として、脈拍計、パルスオキシメーター、血糖値測定器、果実糖度計などが想定される。なお本実施形態は図16の構成に限定されず、例えばLED950を省略して仰角測定装置や照度計等に用いてもよい。
【0145】
図16に示す電子機器は、光学センサー装置900、マイクロコンピューター970(CPU)、記憶装置980、表示装置990を含む。光学センサー装置900は、LED950(光源)、LEDドライバー960、光学センサー910を含む。光学センサー910は、例えば1チップのICに集積され、フォトダイオード920、検出回路930、A/D変換回路940を含む。
【0146】
LED950は、例えば白色光を観察対象に照射する。光学センサー装置900は、観察対象からの反射光や透過光を分光し、各波長の信号を取得する。マイクロコンピューター970は、LEDドライバー960の制御や、光学センサー910からの信号の取得を行う。マイクロコンピューター970は、取得した信号に基づく表示を表示装置990(例えば液晶表示装置)に表示したり、取得した信号に基づくデータを記憶装置980(例えばメモリーや、磁気ディスク)に記憶する。
【0147】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また光学センサー、電子機器等の構成、動作も本実施形態で説明したものに限定に限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0148】
10 半導体基板、20 回路、30,31,32 フォトダイオード、
40,41,42 角度制限フィルター、50 傾斜構造体、
60,61,62 光バンドパスフィルター、70 多層薄膜、
900 光学センサー装置、910 光学センサー、920 フォトダイオード、
930 検出回路、940 A/D変換回路、950 LED、
960 LEDドライバー、970 マイクロコンピューター、980 記憶装置、
990 表示装置、
BW1,BW2 透過波長帯域、d 開口幅、HW 半値幅、k 波数、
Li 入射光強度、Lp 受光面光強度、r 距離、R1 第1の領域、
R2 第2の領域、α 入射角度、θ,Δθ 制限角度、θ1,θ2 傾斜角度、
λ 入射光波長、λ1,λ2 透過波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光素子と、
前記受光素子の受光領域に対する入射光の入射角度を制限する角度制限フィルターと、
を含み、
前記入射光の波長をλとし、前記角度制限フィルターの高さをRとし、前記角度制限フィルターの開口の幅をdとする場合に、
/λR≧2
を満たすことを特徴とする光学センサー。
【請求項2】
請求項1において、
前記角度制限フィルターは、
tan−1(d/R)<60°
を満たすことを特徴とする光学センサー。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記受光素子は、
半導体基板上に形成された、フォトダイオード用の不純物領域により形成されることを特徴とする光学センサー。
【請求項4】
請求項3において、
前記角度制限フィルターは、
前記フォトダイオード用の不純物領域の上に半導体プロセスによって形成された遮光物質によって形成されることを特徴とする光学センサー。
【請求項5】
請求項3又は4において、
前記角度制限フィルターは、
前記半導体基板の上に積層された絶縁膜に空けられたコンタクトホールの導電性プラグにより形成されることを特徴とする光学センサー。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記受光素子の出力信号を処理する処理回路を含み、
前記角度制限フィルターは、
前記処理回路の配線を形成する配線形成工程により形成されることを特徴とする光学センサー。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記入射光のうちの特定波長の光を透過する光バンドパスフィルターを含むことを特徴とする光学センサー。
【請求項8】
請求項7において、
前記光バンドパスフィルターは、
前記受光素子の受光面に対して、透過波長に応じた角度で傾斜する多層薄膜により形成されることを特徴とする光学センサー。
【請求項9】
請求項8において、
前記光バンドパスフィルターは、
透過波長が異なる複数組の多層薄膜により形成され、
前記複数組の多層薄膜は、
前記受光面に対する傾斜角度が透過波長に応じて異なり、同時の薄膜形成工程で形成されることを特徴とする光学センサー。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかにおいて、
前記角度制限フィルターを通って前記受光領域に到達する前記入射光の到達率特性は、
前記開口の幅に対する前記到達率特性の傾きが第1の傾きである第1の特性領域と、
前記開口の幅に対する前記到達率特性の傾きが前記第1の傾きよりも小さい第2の傾きである第2の特性領域と、
を有する場合に、
前記開口の幅は、
前記到達率特性が前記第1の傾きから前記第2の傾きに変化する変化点における開口の幅以上に形成されることを特徴とする光学センサー。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
前記入射光を分光するための分光センサーであることを特徴とする光学センサー。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
前記入射光の照度を測定するための照度センサーであることを特徴とする光学センサー。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
光源の仰角を測定するための仰角センサーであることを特徴とする光学センサー。
【請求項14】
受光素子の受光領域に対する入射光の入射角度を制限する角度制限フィルターを含み、
前記入射光の波長をλとし、前記角度制限フィルターの高さをRとし、前記角度制限フィルターの開口の幅をdとする場合に、
/λR≧2
を満たすことを特徴とする光学センサー。
【請求項15】
受光素子と、
前記受光素子の受光領域に対する入射光の入射角度を制限する角度制限フィルターと、
を含み、
前記角度制限フィルターを通って前記受光領域に到達する前記入射光の到達率特性は、
前記開口の幅に対する前記到達率特性の傾きが第1の傾きである第1の特性領域と、
前記開口の幅に対する前記到達率特性の傾きが前記第1の傾きよりも小さい第2の傾きである第2の特性領域と、
を有する場合に、
前記開口の幅は、
前記到達率特性が前記第1の傾きから前記第2の傾きに変化する変化点における開口の幅以上に形成されることを特徴とする光学センサー。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれかに記載の光学センサーを含むことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−194054(P2012−194054A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58181(P2011−58181)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】