説明

光学式物理量測定方法および装置

【課題】 簡単な構成で測定精度の高い光学式物理量測定装置とすることができる。
【解決手段】 光源11からの光をスラント型グレーティング13で受光して波長が長くなるのに応じて傾斜波長範囲内で透過光強度が傾斜状に変化するようにし、スラント型グレーティング13からの光をブラッググレーティング15で受光して傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過特性が1つある光を透過させ、ブラッググレーティング15からの光を受光部17で受光して受光強度に変換することで、ブラッググレーティング15に加わる物理量の変動を受光部17により受光強度に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式物理量測定装置に関するものであり、特に簡単な構造で物理量を測定することが可能な光学式物理量測定装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
光導波路は、所定の経路に沿って光を伝搬させる構造を有する光部品であり、通常、屈折率が高いコアの外周をコアよりも屈折率が低いクラッドで覆った構造をしており、コア中を光が伝搬していくような構造を有している。光導波路の材料としては、石英系ガラスやポリマーなどがあり、特に、石英系ガラスからなる光導波路は伝搬損失が小さいため、大容量通信や長距離通信に広く用いられている。これら、光導波路の代表的な例として、光ファイバや基板型光導波路などが挙げられる。
【0003】
この光導波路に周期的な摂動を加えると、その周期に従って光を導波路の外へ放出したり、特定の波長の光のみを反射したりする光フィルタとして使用することができ、このような光部品はグレーティング型光部品と呼ばれている。
【0004】
導波路中の周期的な摂動のうち、屈折率変化によるものの場合、光導波路に光感受性を有する物質を添加しておき、光導波路に光感受性物質に対応した光を照射(露光)することにより作製する方法が広く用いられている。ただし、ここで言う光感受性とは、光の照射により物質の屈折率が変化する特性のことである。
【0005】
このグレーティング型の光フィルタのうち、導波してきた特定波長の光を逆方向に反射させる特性を有するのはブラッググレーティングと呼ばれている。このブラッググレーティングの反射波長は、グレーティングの周期と光導波路の屈折率などで決まる。このため、温度変化や歪みの印加による周期変動および屈折率変化で、ブラッググレーティングの反射中心波長も変化する。そこで、この中心波長変化を測定することにより、グレーティング部での温度や歪み量などの物理量を測定する光学式物理量測定装置として用いることができる。
【0006】
このような光学式物理量測定装置として、例えば特許文献1、特許文献2および特許文献3には、ブラッググレーティングからの反射波長により歪みを測定するセンサの例が開示してある。また、特許文献4には、二つのファイバブラッググレーティングからの反射光強度を測定することにより歪みを測定するセンサが開示されている。
【0007】
特許文献1、特許文献2および特許文献3に示されている方法では、グレーティングから反射されてきた光強度波長依存性の中心波長の変動を測定するために、反射光の波長スペクトルを測定している。
【0008】
一方、特許文献4には、ファイバブラッググレーティングを2つ組み合わせ、反射光の強度を測定する方法が示されている。これは、2つのブラッググレーティングを作製し、その反射スペクトルの重なり具合、つまり波長変動量に応じて反射光強度が変化することを利用している。この方法を用いることで波長スペクトル測定が必要なくなり安価な構成とすることが可能となる。
【特許文献1】特開2000−221085号公報
【特許文献2】特開2001−183248号公報
【特許文献3】特開2003−65730号公報
【特許文献4】特開2000−346722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、特許文献2および特許文献3に示されている方法では、波長スペクトルを測定するには、光スペクトラムアナライザや波長可変光源と光パワーメータを組み合わせた装置などを使用するが、これらの装置は非常に高価であり、また測定したスペクトル形状から中心波長を求める演算が必要になるため、高価な演算装置および演算に要する時間も必要であった。
【0010】
また、グレーティング特性は、温度および歪みの2つの変化に対して特性が変化してしまうため、歪みを測定する場合、温度による変化と歪みによる変化を切り分けるために温度補償が必要であった。通常、温度補償は、2つのグレーティングからの反射スペクトル中心波長を測定し、それら2つの値から温度と歪みを演算により求める方法が用いられる。この結果、温度補償をするために演算処理が必要であることに加え、測定精度を高めるのが難しかった。
【0011】
一方、特許文献4に示された方法では、反射光強度が一番小さくなる条件である2つのグレーティングの反射スペクトルが完全に重なった状態でも、グレーティングからの反射光があるため、受光部での測定範囲が小さくなってしまう。加えて、常にブラッググレーティングからの反射光があるため、小さな光強度変動を精度良く測定できないといった問題があった。
【0012】
また、波長変動と光強度を線形関係にすることも難しかった。さらに、グレーティング部での歪み測定範囲を大きくするためには、ブラッググレーティングの反射スペクトル帯域を広くする必要があるが、広くするほど精度良く測定できないといった問題もあった。
【0013】
さらに、2つのグレーティングによる反射が大きいため、グレーティング間で多重反射が生じ、この多重反射による強度変化により、微少な波長変動による強度変化を精度良く測定することが難しかった。
【0014】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的としては、簡単な構成で測定精度の高い光学式物理量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の発明は、上記課題を解決するため、所定波長範囲で光を発光する光源と、前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過特性を1つ有するブラッググレーティングと、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタおよび前記ブラッググレーティングを透過した光を受光強度に変換する受光部とを備え、前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記受光部により受光強度に変換することを要旨とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、上記課題を解決するため、所定波長範囲で光を発光する光源と、前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の反射特性を1つ有するブラッググレーティングとを備え、前記光源と傾斜フィルタとの間に設けられ、前記光源からの光を前記傾斜フィルタに分岐するとともに、前記傾斜フィルタからの光を他方に分岐する分岐部と、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する受光部とを備え、前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記受光部により受光強度に変換することを要旨とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、上記課題を解決するため、所定波長範囲で光を発光する光源と、前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過・反射特性を1つ有するブラッググレーティングと、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタおよび前記ブラッググレーティングを透過した光を受光強度に変換する第1受光部とを備え、前記光源と傾斜フィルタとの間に設けられ、前記光源からの光を前記傾斜フィルタに分岐するとともに、前記傾斜フィルタからの光を他方に分岐する分岐部と、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第2受光部とを備え、前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記第1及び第2受光部により受光強度に変換することを要旨とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、上記課題を解決するため、所定波長範囲で光を発光する光源と、前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過特性を1つ有するブラッググレーティングと、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記ブラッググレーティングから受光した光を受光強度に変換する第1受光部とを備え、前記光源と傾斜フィルタとの間に設けられ、前記光源からの光の一部を前記傾斜フィルタに分岐するとともに、前記光源からの光を他方に分岐する分岐部と、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記光源から前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第2受光部とを備え、前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記第1及び第2受光部により受光強度に変換することを要旨とする。
【0019】
請求項5記載の発明は、上記課題を解決するため、所定波長範囲で光を発光する光源と、前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過・反射特性を1つ有するブラッググレーティングとを備え、前記傾斜フィルタと前記ブラッググレーティングの間に設けられ、前記傾斜フィルタからの光を前記ブラッググレーティングに分岐するとともに、前記傾斜フィルタからの光を他方に分岐する第1分岐部と、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記第1分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第1受光部と、前記光源と傾斜フィルタとの間に設けられ、前記光源からの光を前記傾斜フィルタに分岐するとともに、前記傾斜フィルタからの光を他方に分岐する第2分岐部と、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記第2分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第2受光部とを備え、前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記第1及び第2受光部により受光強度に変換することを要旨とする。
【0020】
請求項6記載の発明は、上記課題を解決するため、所定波長範囲で光を発光する光源と、前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過・反射特性を1つ有するブラッググレーティングとを備え、前記光源と傾斜フィルタとの間に設けられ、前記光源からの光を前記傾斜フィルタと他方に分岐するとともに、前記傾斜フィルタからの光を別の他方に分岐する分岐部と、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記光源から前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第1受光部と、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第2受光部とを備え、前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記第1及び第2受光部により受光強度に変換することを要旨とする。
【0021】
請求項7記載の発明は、上記課題を解決するため、前記第1及び第2受光部からそれぞれの受光強度を入力し、両者から受光強度比を算出する演算部を備えることを要旨とする。
【0022】
請求項8記載の発明は、上記課題を解決するため、所定波長範囲で光を発光する光源と、前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の反射特性を1つ有するブラッググレーティングと、前記傾斜フィルタの長手方向の両端を固定するとともに、前記傾斜フィルタに近い側の前記ブラッググレーティングの長手方向の片端を固定する固定基材と、前記ブラッググレーティングの他端を長手方向に移動自在に固定する移動基材とを備え、前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する受光部とを備え、前記固定基材と前記移動基材から前記ブラッググレーティングに加わる変位量を前記受光部により受光強度に変換することを要旨とする。
【0023】
請求項9記載の発明は、上記課題を解決するため、所定波長範囲で光を発光する光源と、前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の反射特性を1つ有するブラッググレーティングと、前記傾斜フィルタの長手方向の両端を固定する第1固定基材と、前記ブラッググレーティングの長手方向の両端を固定する第2固定基材と、前記傾斜波長範囲内で感度を有する受光部とを備え、前記第2固定基材の両端から前記ブラッググレーティングに加わる温度の変動を前記受光部により受光強度に変換することを要旨とする。
【0024】
請求項10記載の発明は、上記課題を解決するため、前記光源と前記受光部の間の光路途中に、前記光源と前記受光部による測定系の波長依存性を補正する補正フィルタを備えたことを要旨とする。
【0025】
請求項11記載の発明は、上記課題を解決するため、前記傾斜フィルタは、スラント角度が1度から15度の範囲を有し、反射率が5%以下を有するスラント型グレーティングからなることを要旨とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡単な構成で測定精度の高い光学式物理量測定装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0028】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る透過型の光学式物理量測定装置10の構成例を示す図である。
【0029】
図1に示すように、透過型の光学式物理量測定装置10は、後述するスラント型グレーティングの傾斜波長範囲21内で発光する光源11と、光源11から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に大きくなる傾斜波長範囲を有する傾斜フィルタを構成するスラント型グレーティング13と、スラント型グレーティング13から受光した光の傾斜波長範囲21内である波長幅の透過特性を1つ有するブラッググレーティング15と、スラント型グレーティング13の傾斜波長範囲21内でほぼ平坦な受光感度を有しブラッググレーティング15から受光した光を受光強度に変換する受光部17と、これらの光部品を光学的に連結する光導波路19a,19b,19cとから構成されている。
【0030】
ここで、スラント型グレーティングとは図1の13に示すように、ブラッググレーティングの格子が光伝送方向に対して垂直な面から特定のスラント角θで傾斜しているフィルタである。
【0031】
なお、使用するブラッググレーティングの半値全幅(FWHM)で傾斜フィルタのスペクトルの移動平均を計算したとき、使用する波長範囲で、単調減少あるいは単調増加する形態が存在し、いずれの形態でもこの測定系に対応できる。
【0032】
図2において、(a)は光源11の波長特性として傾斜波長範囲21内で発光することを示すグラフであり、(b)はスラント型グレーティング13の波長特性として傾斜波長範囲21内で透過光の強度が傾斜することを示すグラフであり、(c)はブラッググレーティング15の波長特性としてある波長を中心にピークを有することを示すグラフであり、(d)は受光部17の波長特性として傾斜波長範囲21内でほぼ平坦なことを示すグラフである。
【0033】
図3において、(a)は測定する物理量の変化に応じて変動する波長変動を示すグラフであり、(b)は受光部17で測定された受光強度を示すグラフである。
【0034】
次に、図2,図3を参照して、透過型の光学式物理量測定装置10により物理量を測定する原理について説明する。
【0035】
光源11から出射された光は、図2(a)に示すように傾斜波長範囲21内でほぼ平坦な波長特性を有しており、この光がスラント型グレーティング13を透過することにより、図2(b)に示すように、光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に大きくなる。
【0036】
さらに、スラント型グレーティング13を透過した光がある波長幅の透過特性を1つ有するバンドパスフィルタの役割を果たすブラッググレーティング15を透過することにより、図2(c)に示すように、特定の波長のみが透過し、図2(d)に示すように、傾斜波長範囲21内で略平坦な波長特性を有する受光部17に入射される。この光を受光部17で検出することにより、ブラッググレーティング15の波長帯域内での光強度を測定することができる。
【0037】
この時、測定する物理量の変化に応じてスラント型グレーティング13あるいはブラッググレーティング15の波長特性がずれると、スラント型グレーティング13の透過損失の波長特性に従って透過光の光量が変化する。これによって、測定する物理量を光強度に変換でき、センサとして適用することができる。
【0038】
例えば、図3(a)に示すように、スラント型グレーティング13の波長特性が長波長になるに従って透過する光強度が大きくなる傾斜特性になっており、測定する物理量の変化に応じてブラッググレーティング15の波長が、λa からλb に変化したとする。この時、図3(b)に示すように、受光部17において測定された光強度が波長変動量を示している。
【0039】
もちろん、ブラッググレーティング15とスラント型グレーティング13の相対的な波長関係が変化すれば、その波長変化を受光部17で測定される光強度の変化に変換できる。このため、ブラッググレーティング15の波長λが固定され、スラント型グレーティング13の波長特性が変化する場合、あるいは測定する物理量の変化によりブラッググレーティング15とスラント型グレーティング13が異なる波長変動を示す場合も、同様の結果が得られる。
【0040】
第1の実施の形態のような構成とすることで、前述した特許文献1、特許文献2、特許文献3に示されている方法で必要とされた波長スペクトルを測定する機器が不必要となり、簡単に装置を構成することが可能となる。
【0041】
さらに、傾斜フィルタにスラント型グレーティング13を用いることで、傾斜フィルタとブラッググレーティング15の温度変化による波長変動がほぼ同じ特性を示すため、スラント型グレーティング13とブラッググレーティング15の温度が変化しても、2つのグレーティングの相対的な波長関係は変化しない。このため特別な温度補償構造にしなくても、温度変化による受光部17での光強度が変化しない構造とすることができる。
【0042】
このため、測定する物理量がグレーティングの歪みとして伝わる歪みセンサとして用いた場合、特許文献1、特許文献2、特許文献3に示されている方法で必要とされた温度補償するためのブラッググレーティングを別途用意する必要が無くなり、装置構成が簡潔で安く高精度のセンサを構成することができる。
【0043】
本発明によれば、傾斜フィルタをスラント型グレーティングとすることで、傾斜フィルタでの反射を小さくすることが可能となる。これにより、特許文献4に示されているファイバブラッググレーティングを2つ組み合わせる方法では不可能であった波長変動による光強度変化の変化量の範囲を広くとることが可能となり、測定精度を向上することができる構成を得られる。
【0044】
また、グレーティング間での多重反射の影響も小さくできることも本構成による測定精度向上に寄与することができる。
【0045】
なお、多重反射とは、グレーティングの間で何度も反射するような現象を意味しており、通常のFBG(光ファイバグレーティング)を二つ直列につなげると、それぞれのグレーティングで反射があるため、繰り返し反射が起こる。一方、スラント型グレーティングの場合、FBGに比べ反射が小さいため、FBGと組み合わせてもそのような現象は起きにくくなる。
【0046】
本発明の光学式物理量測定装置により測定が可能な物理量としては、その物理量の変化によりグレーティングの波長特性が変化すればよく、例えば、温度、圧力、歪み、距離などが挙げられる。
【0047】
[第2の実施の形態]
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る反射型の光学式物理量測定装置30の構成例を示す図である。
【0048】
図4に示すように、反射型の光学式物理量測定装置30の特徴は、図1に示す第1の実施の形態に加えて、光源11とスラント型グレーティング13との間に、光の進行方向を分岐するビームスプリッタ31を設け、スラント型グレーティング13を一回透過した後にブラッググレーティング15で反射された光が再びスラント型グレーティング13を透過し、スラント型グレーティング13から出射されビームスプリッタ31で分岐した光を受光部33で受光して受光部33において測定された光強度を波長変動量とすることにある。なお、それらの部品は、光導波路35a,35b,35c,35d,35eにより光学的に連結されている。
【0049】
図5において、(a)は光源11の波長特性を示すグラフであり、(b)はスラント型グレーティング13の波長特性を示すグラフであり、(c)はブラッググレーティング15の波長特性を示すグラフであり、スラント型グレーティング13から受光した光の傾斜波長範囲内で所定波長幅の反射特性を1つ有しており、(d)は受光部33の波長特性を示すグラフである。
【0050】
次に、図4,図5を参照して、この光学式物理量測定装置30により物理量を測定する原理について説明する。
【0051】
光源11から出射された光は、図5(a)に示すように傾斜波長範囲37内でほぼ平坦な波長特性を有しており、この光がビームスプリッタ31でスラント型グレーティング13の方向に分岐され、ビームスプリッタ31で分岐された光がスラント型グレーティング13を透過することにより、図5(b)に示すように、波長によって異なる損失が発生して波長に依存した光強度となる。
【0052】
さらに、この光がある波長幅の反射特性を1つ有するバンドパスフィルタの役割を果たすブラッググレーティング15の内部で反射されることにより、図5(c)に示すように、特定の波長のみが反射される一方、ブラッググレーティング15の内部で反射されなかった波長の光はそのまま透過して光導波路35dから外部に出射される。
【0053】
そして、ブラッググレーティング15の内部で反射された特定波長の光は、再度、スラント型グレーティング13を透過してビームスプリッタ31に入射され、ビームスプリッタ31で受光部33の方向に分岐されて受光部33に入射される。すなわち、図5(d)に示すように、傾斜波長範囲37内で略平坦な波長特性を有する受光部33に入射される。この光を受光部33で検出することにより、ブラッググレーティング15の波長帯域内での光強度を測定することができる。
【0054】
この時、測定する物理量の変化に応じてスラント型グレーティング13あるいはブラッググレーティング15の波長特性がずれると、スラント型グレーティング13の透過損失の波長特性に従って透過光の光量が変化する。これによって、測定する物理量を光強度に変換でき、センサとして適用することができる。
【0055】
例えば、図3(a)に示すように、スラント型グレーティング13の波長特性が傾斜特性になっており、測定する物理量の変化に応じてブラッググレーティング15の波長が、λa からλb に変化したとする。この時、図3(b)に示すように、受光部33において測定された光強度が波長変動量を示している。
【0056】
もちろん、ブラッググレーティング15とスラント型グレーティング13の相対的な波長関係が変化すれば、その波長変化を受光部33で測定される光強度の変化に変換できる。このため、ブラッググレーティング15の波長λが固定され、スラント型グレーティング13の波長特性が変化する場合、あるいは測定する物理量の変化によりブラッググレーティング15とスラント型グレーティング13が異なる波長変動を示す場合も、同様の結果が得られる。
【0057】
第2の実施の形態のような構成とすることで、前述した特許文献1、特許文献2、特許文献3に示されている方法で必要とされた波長スペクトルを測定する機器が不必要となり、簡単に装置を構成することが可能となる。さらに、傾斜フィルタにスラント型グレーティング13を用いることで、傾斜フィルタとブラッググレーティング15の温度変化による波長変動がほぼ同じ特性を示すため、スラント型グレーティング13とブラッググレーティング15の温度が変化しても、2つのグレーティングの相対的な波長関係は変化しない。このため、特別な温度補償構造にしなくても、温度変化による受光部33での光強度が変化しない構造とすることができる。
【0058】
このため、測定する物理量がグレーティングの歪みとして伝わる歪みセンサとして用いた場合、特許文献1、特許文献2、特許文献3に示されている方法で必要とされた温度補償するためのブラッググレーティングを別途用意する必要が無くなり、装置構成が簡潔で安く高精度のセンサとすることができる。
【0059】
本発明によれば、傾斜フィルタをスラント型グレーティングとすることで、傾斜フィルタでの反射を小さくすることが可能となる。これにより、特許文献4に示されているファイバブラッググレーティングを2つ組み合わせる方法では不可能であった波長変動による光強度変化の変化量の範囲を広くとることが可能となり、測定精度が上がる構成とできる。また、グレーティング間での多重反射の影響も小さくできることも本方法による測定精度向上に寄与する。
【0060】
本発明を用い測定する物理量としては、その物理量の変化によりグレーティングの波長特性が変化する構造とすることで様々な物理量を測定することが可能となるが、例えば、温度、圧力、歪み、距離などが挙げられる。
【0061】
[光導波路について]
上述した第1および第2の実施の形態において、光導波路19a〜19c,35a〜35eの一部あるいは全部が光ファイバであってもよい。
【0062】
光導波路を光ファイバとすることで、光を長距離伝送することが可能となり、遠隔点でのセンシングが可能となる。特に、光源11や受光部17,33は電源を必要とし、また電磁ノイズにも弱い。これに対して、スラント型グレーティング13やブラッググレーティング15は電源が必要でなく、電磁ノイズにも強いため、実際に物理量を測定する点にグレーティング部のみを設置することで、周囲の状態によらず安定した測定が可能となる。
【0063】
例えば、センシング部分つまりグレーティング部分と光源11および受光部品の距離を1メートル以上離すことができ、センシング部分で発生するノイズによる光源11や受光部17,33およびそれらを解析する電子回路部への影響を小さくすることができる。
【0064】
また、光ファイバは光通信用として広く普及していることから、価格も安く調達も容易であるという利点もある。
【0065】
この様な例としては、トンネル内や崖などの歪みを測定する場合や、建物の歪みを測定する場合や、水位を測定するために圧力センサとして用いる場合や、大型発電機の歪みを測定する場合などが挙げられる。
【0066】
使用する光ファイバは、石英系ガラスやポリマー系など様々な材料の光ファイバを用いることが可能であるが、使用する波長帯域においてシングルモードであることが望ましい。これは、マルチモードファイバであると異なるモードで異なる波長特性を有するため、測定精度が安定しないからである。
【0067】
[スラント型グレーティングおよびブラッググレーティングについて]
上述した第1および第2の実施の形態において、スラント型グレーティング13およびブラッググレーティング15が作製されている光導波路が、光ファイバであってもよい。
【0068】
スラント型グレーティングおよびブラッググレーティングを通信用として広く普及している光ファイバを用いて作製することにより、安価な光部品とすることができる。また、光ファイバは通常直径約125μmφと細いため、ファイバの張力変化による変形量が大きくできることから、感度の良いセンサとすることが容易である。また、各部品をつなぐ光導波路も光ファイバで作製することにより、接続による損失なども低減できるという利点がある。
【0069】
[スラント型グレーティングおよびブラッググレーティングの基材について]
上述した第1および第2の実施の形態において、スラント型グレーティング13およびブラッググレーティング15が作製されている光ファイバが異なる線膨張係数を有する基材に固定されていてもよい。
【0070】
スラント型グレーティングとブラッググレーティングを線膨張係数の異なる基材に固定することにより、温度変化による各グレーティングの波長変動量を変えることが可能となる。このため、温度センサへの応用が容易に可能である。
【0071】
[スラント型グレーティングの反射率]
上述した第1および第2の実施の形態において、使用する傾斜波長範囲21でのスラント型グレーティングの反射率は、5%以下であることが好ましい。
【0072】
回折格子が光の伝搬方向に対して垂直な通常のブラッググレーティングと比較し、回折格子が傾斜しているスラント型グレーティング13は、反射光強度を小さくすることができる。特に、スラント角θを適切に設定してその反射率を5%以下にすることで、スラント型グレーティング13からの反射光による測定精度への影響をほとんどなくすことができ、精度のよい測定が可能となる。
【0073】
また、ブラッググレーティング15とスラント型グレーティング13との間での多重反射の影響も小さくできる。なお、反射率を5%以下とするために必要なスラント角度θは、使用する光導波路の形状にもよるが、1度から15度程度の範囲であり、この範囲を逸脱すると、反射率が5%以上になってしまう。
【0074】
[第3の実施の形態]
図6は、本発明の第3の実施の形態に係る透過反射型の光学式物理量測定装置40の構成例を示す図である。
【0075】
図6に示すように、透過反射型の光学式物理量測定装置40の特徴は、図4に示す第2の実施の形態に加えて、ブラッググレーティング15を透過した光を光導波路35dを介して受光部17で受光し、受光部17,33からそれぞれの受光強度を演算部41に入力して両者からの受光強度比を算出することにある。なお、演算部41には内部にA/D変換器が2つ設けられており、受光部17,33から入力したそれぞれの受光強度を表す電圧信号をA/D変換器により電圧データに変換し、両者の電圧データの比を演算することで受光強度比を算出している。
【0076】
特に、ブラッググレーティング15は、スラント型グレーティング13から受光した光の傾斜波長範囲内である波長幅の透過・反射特性を1つ有しており、スラント型グレーティング13およびブラッググレーティング15を透過した光を受光部17で受光する一方、ブラッググレーティング15で反射されスラント型グレーティング13からビームスプリッタ31で分岐された反射光を受光部33で受光し、演算部41では、受光部17,33での二つの光強度から受光強度比を算出して光源11の光強度を補正するものである。
【0077】
透過光により光源11の強度変化を受光部17で測定しているので、反射光の強度変化のうち光源11での光強度変化を補正することが可能となり、精度良く安定した測定が可能となる。
【0078】
ここで、ビームスプリッタ31の透過率をbT(λ)、分岐率をbR(λ)、スラント型グレーティング13での損失をS(λ)、ブラッググレーティング15での反射率をfR(λ)、光源11のパワーをP(λ)とすると、受光部17,33でのそれぞれの光強度P1 ,P2 は、
【数1】

【数2】

【0079】
と書くことができる。ここで、bT(λ),bR(λ)は定数であり、予め測定しておくことで積分の外に出すことができる。
【0080】
また、使用波長帯域内において光源11の波長依存性が無視できる場合、パワーP(λ)も積分の外に出せる。従って、光強度P1 ,P2 の比をとることにより、
【数3】

【0081】
となり、パワーP(λ)を式から消去することができることから、光源11の強度変動による影響を補正することが可能となる。
【0082】
[第4の実施の形態]
図7は、本発明の第4の実施の形態に係る透過型の光学式物理量測定装置50の構成例を示す図である。
【0083】
図7に示すように、透過型の光学式物理量測定装置50の特徴は、図6に示す第3の実施の形態に対して、ビームスプリッタ31の内部にある透過・反射面の異なるビームスプリッタ51を設けたことにある。特に、光源11からスラント型グレーティング13およびブラッググレーティング15へ光を入射するための光導波路35a,35bの途中に導波光の一部を分岐するビームスプリッタ51を挿入し、分岐した光の強度を受光部33で測定することにより光源11の強度に変換することにある。
【0084】
ここで、ビームスプリッタ51の透過率をbT(λ)、分岐率をbR(λ)、スラント型グレーティング13での損失をS(λ)、ブラッググレーティング15での反射率をfR(λ)とし、光源11のパワーをP(λ)とすると、受光部17,33でのそれぞれの光強度P1 ,P2 は、
【数4】

【数5】

【0085】
と書くことができる。
【0086】
ここで、透過率bT(λ),bR(λ)は定数であり、予め測定しておくことで積分の外に出すことができる。
【0087】
また、使用波長帯域内において光源11の波長依存性が無視できる場合、パワーP(λ)も積分の外に出せる。従って、光強度P1 ,P2 の比をとることにより、
【数6】

【0088】
となり、パワーPを式から消去することができることから、光源11の強度変動による影響を補正することが可能となる。
【0089】
[第5の実施の形態]
図8は、本発明の第5の実施の形態に係る反射型の光学式物理量測定装置55の構成例を示す図である。
【0090】
図8に示すように、反射型の光学式物理量測定装置55の特徴は、図6に示す第3の実施の形態に対して、光導波路35cの途中にビームスプリッタ57を設け、ビームスプリッタ57で分岐した光を受光部59で計測することにある。
【0091】
特に、光源11からスラント型グレーティング13を介してブラッググレーティング15へ光を入射するための光導波路35c,35dの途中に導波光の一部を分岐するビームスプリッタ57を挿入し、ビームスプリッタ57で分岐した光の強度を受光部59で測定することにより光源11の強度に変換することにある。
【0092】
ここで、最初のビームスプリッタ31の透過率をbT1(λ)、分岐率をbR1(λ)、二つ目のビームスプリッタ57の透過率をbT2(λ)、分岐率をbR2(λ)、スラント型グレーティング13での損失をS(λ)、ブラッググレーティング15での反射率をfR(λ)とし、光源11のパワーをP(λ)とすると、受光部33,59でのそれぞれの光強度P1 ,P2 は、
【数7】

【数8】

【0093】
と書くことができる。
【0094】
ここで、bT1(λ),bR1(λ),bT2(λ),bR2(λ)は定数であり、予め測定しておくことで積分の外に出すことができる。また、使用波長帯域内において光源11の波長依存性が無視できる場合、パワーP(λ)も積分の外に出せる。従って、光強度P1 ,P2 の比をとることにより、
【数9】

【0095】
となり、パワーPを式から消去することができることから、光源の強度変動による影響を補正することが可能となる。
【0096】
なお、光分岐に用いるビームスプリッタ57としては、光ファイバを溶融延伸した方向性結合器型の光カップラなどが使用できる。
【0097】
[第6の実施の形態]
図9は、本発明の第6の実施の形態に係る透過反射型の光学式物理量測定装置60の構成例を示す図である。
【0098】
図9に示すように、透過反射型の光学式物理量測定装置60の特徴は、図4に示す第2の実施の形態に対して、光導波路35a,35bの途中に光カプラ61を設け、光カプラ61で分岐した光を受光部63,65で計測することにある。特に、光源11からの光を分岐する光カプラ61を用い、ブラッググレーティング15からの反射光も分岐し反射光強度を受光部63で測定することにある。
【0099】
ここで、光カプラ61の透過率をT(λ)、スラント型グレーティング13での損失をS(λ)、ブラッググレーティング15での反射率をfR(λ)とし、光源11のパワーをP(λ)とすると、受光部63,65でのそれぞれの光強度P1 ,P2 は、
【数10】

【数11】

【0100】
と書くことができる。
【0101】
ここで、T(λ)は定数であり、予め測定しておくことで積分の外に出すことができる。また、使用波長帯域内において光源11の波長依存性が無視できる場合、パワーP(λ)も積分の外に出せる。従って、光強度P1 ,P2 の比をとることにより、
【数12】

【0102】
となり、パワーPを式から消去することができることから、光源11の強度変動による影響を補正することが可能となる。
【0103】
この様な光カプラ61としては、光ファイバを溶融延伸した方向性結合器型光カプラなどが使用できる。
【0104】
透過光および反射光を同時に分岐する光カプラ61を用いることで、光源11の光強度の変化を、物理量の変化による光強度変化を一つの部品で同時に分岐することが可能となるため、部品点数が少なくなり安価でしかも精度の良い構成とすることができる。
【0105】
[第7の実施の形態]
図10は、本発明の第7の実施の形態に係る透過型の光学式物理量測定装置70の構成例を示す図である。
【0106】
図10に示すように、透過型の光学式物理量測定装置70の特徴は、図1に示す第1の実施の形態に対して、光源11の直後の光導波路19a,19bの途中に、使用する光学部品の波長依存性を補正する補正フィルタ71を挿入することにある。
【0107】
ここで、図11に示す補正フィルタの波長特性を参照して、補正フィルタ71を挿入したことによる効果を説明する。
【0108】
図11(a)は光源11の強度が波長依存性を有することを示しており、図11(b)は受光部17の感度が波長依存性を有することを示している。ここで、光源11の強度の波長依存性と、受光部17の感度の波長依存性を掛け合わせると、図11(c)に示すように、測定系の波長依存性となる。
【0109】
このような測定系の波長依存性がほぼ平坦な波長特性に補正するには、図11(c)に示すよな測定系の波長依存性を打ち消すことが可能な損失特性を有する補正フィルタ71を光導波路19a,19bの途中に挿入ればよい。
【0110】
すなわち、補正フィルタ71は図11(d)に示すような透過率の波長依存性を有していればよく、このような補正フィルタ71を光導波路19a,19bの途中に挿入すれば、図11(e)に示すように、使用範囲内での波長依存性を小さくほぼ平坦にすることができる。
【0111】
これによりスラント型グレーティング13とブラッググレーティング15の波長が同時に変化するような外乱が生じた場合でも、受光部17での測定強度を一定に保つことができるため、精度のよい測定が可能となる。使用帯域内での波長依存性は、小さいほど望ましく、特に、補正後の波長依存性が10%(0.5dB)以下に抑えられていることが測定精度上望ましい。
【0112】
なお、このような補正フィルタ71を光導波路の途中に挿入して光学式物理量測定装置を組み立てることにより、スペクトラムアナライザーのような波長特性を測定する機器が不必要なことから、光学式物理量測定装置の構成が簡単になり、安価で精度の良い光学式物理量測定装置を提供することができる。
【0113】
[第8の実施の形態]
図12は、本発明の第8の実施の形態に係る反射型の光学式物理量測定装置80の構成例を示す図である。
【0114】
図12に示すように、反射型の光学式物理量測定装置80の特徴は、図4に示す第2の実施の形態に対して、光源11の直後の光導波路35a,35bの途中に、使用する光学部品の波長依存性を補正する補正フィルタ81を挿入することにある。
【0115】
なお、補正フィルタ81の波長特性は、図11と同様であり、補正フィルタ81を挿入したことによる効果も、図11に示す補正フィルタの波長特性を参照して説明することができるので、その説明を省略する。
【0116】
また、このような補正フィルタ81を第3乃至第6の実施の形態に対して、光導波路上に挿入すれば同様の効果を得られることは言うまでもない。
【0117】
[実施例1]
図13は、本発明の実施例1に係る反射型の変位測定センサ90の構成例を示す図である。
【0118】
光源11には、発光波長範囲が1550nm〜1555nmのいわゆる1550nm帯で発光するエルビウムドープファイバを用いたASE光源を用い、受光部33にはフォトダイオードを用いている。
【0119】
スラント型グレーティング13は、波長帯域が1550nmから1555nmの間で連続的に透過損失が変化するように光ファイバ35中に作製してある。この時のスラント角度θは5度であり、最大反射強度は3%であった。ブラッググレーティング15は、同じ光ファイバに反射中心波長1551nm、半値全幅0.5nmを作製してある。
【0120】
スラント型ファイバグレーティング13の両端とブラッググレーティング15の片端を同じ固定基材91の上に接着剤93を用いて固定し、ブラッググレーティング15の他端は独立して長手方向に移動自在な別の基材95に接着剤93を用いて固定した。
【0121】
この固定基材91に石英ガラスを用いることで、使用した光ファイバ35とほぼ同じ熱膨張係数を有するため、温度の変化により光ファイバに張力が印加されないようにすることができる。
【0122】
このような状態で、ブラッググレーティング15の他端が接着された基材95の位置が長手方向Aに変化すると、ブラッググレーティング15に張力fが印加され、その結果、ファイバグレーティング15の反射波長が長波長側にシフトする。
【0123】
図14は、実際の変位量dとその時に測定された受光部33での電圧Vを示す。図14に示すように、変位量dの増大に応じて測定電圧Vが増加していることが確認され、変位量dを電圧量Vに変換して測定できることが確認された。
【0124】
また、図14には、同様の測定を10℃、25℃、40℃の3種類の温度で行った結果を示してあるが、どの温度条件でも同じ特性が得られ、本構成のように、スラント型ファイバグレーティング13の両端を同じ固定基材91の上に接着剤93を用いて固定することで、周囲の温度変化による影響が補償できていることが確認できた。
【0125】
[実施例2]
図15は、本発明の実施例2に係る反射型の温度測定センサ100の構成例を示す図である。
【0126】
光源11には、1550nm帯で発光するエルビウムドープファイバを用いたASE光源を用い、受光部33には、フォトダイオードを用いた。
【0127】
スラント型グレーティング13は、1550nmから1555nmの間で連続的に透過損失が変化するように光ファイバ35中に作製した。この時のスラント角度θは5度であり、最大反射強度は3%であった。
【0128】
また、同じ光ファイバ35上に反射中心波長1551nm、半値全幅0.8nmのブラッググレーティング15を作製した。スラント型ファイバグレーティング13の両端は接着剤93を用いて固定基材91に固定されており、ブラッググレーティング15の両端は固定基材101に接着剤93を用いて固定した。
【0129】
ここでは、固定基材91として石英ガラス、固定基材101としてアルミニウムを用いた。石英ガラスは線膨張係数が0.5×10-6[1/℃]であり、使用した光ファイバ35とほぼ同じ熱膨張係数を有するが、アルミニウムは線膨張係数が23.1×10-6[1/℃]であり、石英ガラスの50倍近い線膨張係数を有している。
【0130】
このため、温度上昇に従ってアルミニウムからなる固定基材101が膨張することにより、固定基材101の上部に固定されているブラッググレーティング15が作られた光ファイバ35に張力が印加され、石英からなる固定基材91に固定されているスラント型グレーティング13よりもより波長特性が長波長側にシフトする。すなわち、例えば図3(a)に示す波長λaが波長λbの方向にシフトする。
【0131】
このため、温度変化によりスラント型グレーティング13とブラッググレーティング15の相対波長位置が変化し、温度の変化が反射波長の強度変化として観測される。
【0132】
図16に実際の温度とその時に測定された受光部33での電圧を示しており、温度の変化に従って測定電圧が変化していることが確認され、温度変化を電圧量の変化に変換して測定できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る透過型の光学式物理量測定装置10の構成例を示す図である。
【図2】(a)は光源11の波長特性を示す図であり、(b)はスラント型グレーティング13の波長特性を示す図であり、(c)はブラッググレーティング15の波長特性を示す図であり、(d)は受光部17の波長特性を示す図である。
【図3】(a)は測定する物理量の変化に応じて変動する波長変動を示すグラフであり、(b)は受光部17で測定された受光強度を示すグラフである。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る反射型の光学式物理量測定装置30の構成例を示す図である。
【図5】(a)は光源11の波長特性を示す図であり、(b)はスラント型グレーティング13の波長特性を示す図であり、(c)はブラッググレーティング15の波長特性を示す図であり、(d)は受光部33の波長特性を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る透過反射型の光学式物理量測定装置40の構成例を示す図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係る透過型の光学式物理量測定装置50の構成例を示す図である。
【図8】本発明の第5の実施の形態に係る反射型の光学式物理量測定装置55の構成例を示す図である。
【図9】本発明の第6の実施の形態に係る透過反射型の光学式物理量測定装置60の構成例を示す図である。
【図10】本発明の第7の実施の形態に係る透過型の光学式物理量測定装置70の構成例を示す図である。
【図11】(a)は光源11の波長依存性を示す図であり、(b)は受光部17の波長依存性を示す図であり、(c)は測定系の波長依存性を示す図であり、(d)は補正フィルタ71の波長依存性を示す図であり、(e)は補正フィルタ71を挿入した結果現れる受光部17での波長依存性を示す図である。
【図12】本発明の第8の実施の形態に係る反射型の光学式物理量測定装置80の構成例を示す図である。
【図13】本発明の実施例1に係る反射型の変位測定センサ90の構成例を示す図である。
【図14】実際の変位量dとその時に測定された受光部33での電圧Vを示す図である。
【図15】本発明の実施例2に係る反射型の温度測定センサ100の構成例を示す図である。
【図16】実際の温度とその時に測定された受光部33での電圧を示す図である。
【符号の説明】
【0134】
11 光源
13 スラント型グレーティング
15 ブラッググレーティング
17,33,59,63,65 受光部
19,35 光導波路
31,51,57 ビームスプリッタ
61 光カプラ
71,81 補正フィルタ
91,101 固定基材
93 接着剤
95 移動基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定波長範囲で光を発光する光源と、
前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、
前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過特性を1つ有するブラッググレーティングと、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタおよび前記ブラッググレーティングを透過した光を受光強度に変換する受光部とを備え、
前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記受光部により受光強度に変換することを特徴とする光学式物理量測定装置。
【請求項2】
所定波長範囲で光を発光する光源と、
前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、
前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の反射特性を1つ有するブラッググレーティングとを備え、
前記光源と傾斜フィルタとの間に設けられ、前記光源からの光を前記傾斜フィルタに分岐するとともに、前記傾斜フィルタからの光を他方に分岐する分岐部と、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する受光部とを備え、
前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記受光部により受光強度に変換することを特徴とする光学式物理量測定装置。
【請求項3】
所定波長範囲で光を発光する光源と、
前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、
前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過・反射特性を1つ有するブラッググレーティングと、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタおよび前記ブラッググレーティングを透過した光を受光強度に変換する第1受光部とを備え、
前記光源と傾斜フィルタとの間に設けられ、前記光源からの光を前記傾斜フィルタに分岐するとともに、前記傾斜フィルタからの光を他方に分岐する分岐部と、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第2受光部とを備え、
前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記第1及び第2受光部により受光強度に変換することを特徴とする光学式物理量測定装置。
【請求項4】
所定波長範囲で光を発光する光源と、
前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、
前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過特性を1つ有するブラッググレーティングと、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記ブラッググレーティングから受光した光を受光強度に変換する第1受光部とを備え、
前記光源と傾斜フィルタとの間に設けられ、前記光源からの光の一部を前記傾斜フィルタに分岐するとともに、前記光源からの光を他方に分岐する分岐部と、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記光源から前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第2受光部とを備え、
前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記第1及び第2受光部により受光強度に変換することを特徴とする光学式物理量測定装置。
【請求項5】
所定波長範囲で光を発光する光源と、
前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、
前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過・反射特性を1つ有するブラッググレーティングとを備え、
前記傾斜フィルタと前記ブラッググレーティングの間に設けられ、前記傾斜フィルタからの光を前記ブラッググレーティングに分岐するとともに、前記傾斜フィルタからの光を他方に分岐する第1分岐部と、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記第1分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第1受光部と、
前記光源と傾斜フィルタとの間に設けられ、前記光源からの光を前記傾斜フィルタに分岐するとともに、前記傾斜フィルタからの光を他方に分岐する第2分岐部と、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記第2分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第2受光部とを備え、
前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記第1及び第2受光部により受光強度に変換することを特徴とする光学式物理量測定装置。
【請求項6】
所定波長範囲で光を発光する光源と、
前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、
前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の透過・反射特性を1つ有するブラッググレーティングとを備え、
前記光源と傾斜フィルタとの間に設けられ、前記光源からの光を前記傾斜フィルタと他方に分岐するとともに、前記傾斜フィルタからの光を別の他方に分岐する分岐部と、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記光源から前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第1受光部と、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する第2受光部とを備え、
前記ブラッググレーティングに加わる物理量の変動を前記第1及び第2受光部により受光強度に変換することを特徴とする光学式物理量測定装置。
【請求項7】
前記第1及び第2受光部からそれぞれの受光強度を入力し、両者から受光強度比を算出する演算部を備えることを特徴とする請求項3,4,5,6項の何れか1つに記載の光学式物理量測定装置。
【請求項8】
所定波長範囲で光を発光する光源と、
前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、
前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の反射特性を1つ有するブラッググレーティングと、
前記傾斜フィルタの長手方向の両端を固定するとともに、前記傾斜フィルタに近い側の前記ブラッググレーティングの長手方向の片端を固定する固定基材と、
前記ブラッググレーティングの他端を長手方向に移動自在に固定する移動基材とを備え、
前記傾斜波長範囲内で感度を有し、前記傾斜フィルタから前記分岐部を経由して受光した光を受光強度に変換する受光部とを備え、
前記固定基材と前記移動基材から前記ブラッググレーティングに加わる変位量を前記受光部により受光強度に変換することを特徴とする請求項1乃至7項の何れか1つに記載の光学式物理量測定装置。
【請求項9】
所定波長範囲で光を発光する光源と、
前記光源から受光した光の波長が長くなるのに応じて透過光強度が傾斜状に変化する傾斜波長範囲を有するスラント型グレーティングを用いた傾斜フィルタと、
前記傾斜フィルタの傾斜波長範囲内で所定波長幅の反射特性を1つ有するブラッググレーティングと、
前記傾斜フィルタの長手方向の両端を固定する第1固定基材と、
前記ブラッググレーティングの長手方向の両端を固定する第2固定基材と、
前記傾斜波長範囲内で感度を有する受光部とを備え、
前記第2固定基材の両端から前記ブラッググレーティングに加わる温度の変動を前記受光部により受光強度に変換することを特徴とする請求項1乃至7項の何れか1つに記載の光学式物理量測定装置。
【請求項10】
前記光源と前記受光部の間の光路途中に、前記光源と前記受光部による測定系の波長依存性を補正する補正フィルタを備えたことを特徴とする請求項1乃至9項の何れか1つに記載の光学式物理量測定装置。
【請求項11】
前記傾斜フィルタは、スラント角度が1度から15度の範囲を有し、反射率が5%以下を有するスラント型グレーティングからなることを特徴とする請求項1乃至10項の何れか1つに記載の光学式物理量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−29995(P2006−29995A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209546(P2004−209546)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】