説明

光学材料及び光学素子

【課題】高温高湿環境下での屈折率の変動を低減することが光学樹脂材料を得る。
【解決手段】分子中に少なくとも1つの水酸基を有する金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物と、揮発性の低分子成分と、有機重合体を含む光学樹脂材料であって、揮発性の低分子成分が、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物の水酸基と、結合可能な極性基(例えば、カルボン酸基、カルボニル基、及び水酸基など)を有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品などに用いることができる光学樹脂材料及びそれを用いた光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料は、ガラス材料に比べ低コストで量産性も高いことから、光学部品用材料として広く使用されている。しかしながら、携帯電話用部品や光通信用部品においては、温度85℃、湿度85%の高温高湿保存試験に耐えることが求められており、光学部品用材料においては、破壊や変形のないことは当然のことながら、屈折率などの光学特性の変化が小さいことが求められている。アクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタン系樹脂などの一般的な光学樹脂の多くは、85℃、85%の高温高湿環境下で劣化が進み、屈折率が徐々に低下する。このような屈折率の低下は、光学樹脂材料の携帯電話用部品や光通信用部品への応用の障害となる。
【0003】
このような屈折率の低下を抑制するため、従来においては、材料自体を強化することにより特性を維持する方法が提案されている。例えば、特許文献1においては、チオール基含有ポリマーにおいて、硫黄含有率や粘度等を最適化することにより信頼性の向上を図っている。しかしながら、このような方法では、材料及び作製条件に制約が大きく、光学設計上からの屈折率やアッベ数などの光学特性の安定化を図ることができない。
【特許文献1】特開平11−322864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高温高湿環境下での屈折率の変動を低減することができる光学樹脂材料及びそれを用いた光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、分子中に少なくとも1つの水酸基を有する金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物と、揮発性の低分子成分とを含む光学樹脂材料であって、揮発性の低分子成分が、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物の水酸基と結合可能な基を有することを特徴としている。なお、ここで言う金属アルコキシドとは、加水分解によりOH基となる基を少なくとも1つ有する有機金属化合物である。
【0006】
本発明者らは、従来より光学樹脂材料として用いられているアクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、及びウレタン系樹脂の屈折率が、高温高湿環境下において低下することに着目した。高温高湿環境下で、屈折率が低下する原因としては、以下のように考えられる。
【0007】
一般に高分子材料の屈折率は式(1)で表される。式(1)より、右辺の値が大きくなれば屈折率が大きくなることがわかる。
【0008】
【数1】

【0009】
(式中、nD:高分子材料の屈折率、〔R〕:原子屈折の和、V=M/ρ(M:モノマー分子量、ρ:ポリマー密度)式1は「透明ポリマーの屈折率制御」季刊 化学総説No.39,1998 日本化学会編より引用。)
上記式(1)より、原子屈折の小さい結合が増えるか、あるいは密度が小さくなることにより、屈折率が低下することがわかる。温度85℃、湿度85%の高温高湿環境下では、以下のような変化が進行する。
【0010】
(1)高湿のため、加水分解・重縮合が進み、高分子化することにより原子屈折の大きいOH基が減少する。
【0011】
(2)分子鎖間の架橋が切れ、原子屈折の大きい炭素一重結合が原子屈折の小さい二重結合になる。
【0012】
(3)樹脂を構成する構成物が揮発することにより、密度が低下する。
【0013】
また、上記の高分子の状態における変化以外に、以下のような屈折率低下の要因が考えられる。
【0014】
(4)吸湿することにより、屈折率の小さい水が取り込まれる。
【0015】
以上のように、従来より光学樹脂材料として用いられている樹脂は、高温高湿環境下において、種々の要因で屈折率が低下する。
【0016】
上記金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物と、上記揮発性の低分子成分とを含む本発明の光学樹脂材料は、高温高湿の環境下において、屈折率が上昇する特性を有する。従って、本発明の光学樹脂材料を、アクリレート系などの従来の光学樹脂と混合して用いることにより、従来の光学樹脂の屈折率低下を、本発明の光学樹脂材料の屈折率上昇で相殺することができ、高温高湿環境下における屈折率の変動を抑制することができる。
【0017】
従って、本発明に従う他の局面の光学樹脂材料は、上記金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物と、上記揮発性の低分子成分とを含み、さらに有機重合体を含むことを特徴としている。
【0018】
本発明の光学樹脂材料において、揮発性の低分子成分が、揮発することにより、屈折率が上昇する。本発明における揮発性の低分子成分は、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物の水酸基と結合可能な基を有している。金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物の水酸基と、低分子成分の基との間で、水素結合または重縮合などの結合が形成され、低分子成分の揮発性が制御され、長期間にわたって屈折率の安定化を図ることができる。
【0019】
低分子成分の基としては、極性を有するカルボン酸基、カルボニル基、及び水酸基などが挙げられる。
【0020】
本発明における低分子成分としては、金属アルコキシドから生成されるモノマーやオリゴマー、有機酸、アルコール類、ケトン類などが挙げられる。好ましくは、金属アルコキシドから生成されるモノマーやオリゴマー、有機酸が用いられる。また、低分子成分としては、分子屈折の低いフッ素原子を含有する化合物が好ましく用いられる。従って、好ましい低分子成分としては、フッ素原子を含む、金属アルコキシド、有機酸、アルコール、及びケトンなどが挙げられる。
【0021】
本発明における金属アルコキシドとしては、アルコキシシランが特に好ましく用いられる。金属アルコキシドとしては、メタクリロキシ基及び/またはアクリロキシ基、またはスチリル基を有するものが好ましく用いられる。このような二重結合を有する金属アルコキシドを用いることにより、エネルギー線の照射により該二重結合を重合して硬化させることができる。
【0022】
本発明において用いる有機重合体としては、アクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、及びこれらの混合物が挙げられる。また、上記金属アルコキシドを加水分解して生成した有機金属ポリマー材料が挙げられる。また、これらの樹脂にSiO2、TiO2、ZrO2、Nb25などの金属酸化物微粒子を分散させたものであってもよい。また、本発明における有機重合体は、メタクリロキシ基及びアクリロキシ基などの二重結合を有するものであってもよい。有機重合体がこのような二重結合を有することにより、エネルギー線を照射して、二重結合を重合させて硬化させることができる。また、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物が二重結合を有する場合、それらの二重結合と結合して架橋させることができる。
【0023】
有機重合体を含有する本発明の光学樹脂材料は、温度85℃、湿度85%の高温高湿環境下での屈折率の変動が、500時間当たり±0.001以下であることが好ましい。
【0024】
本発明の光学樹脂材料において、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物と、低分子成分と、有機重合体の配合割合は、屈折率を安定に制御するため適宜調整されるものであり、特に限定されるものではないが、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物が4〜95重量%、有機重合体が4〜95重量%、低分子成分が1〜30重量%であることが好ましい。
【0025】
本発明の光学素子は、上記本発明の光学樹脂材料を用いることを特徴としている。
【0026】
本発明の複合型光学素子は、母材の表面上に上記本発明の光学樹脂材料からなる光学樹脂層を形成したことを特徴としている。
【0027】
本発明の複合型光学素子に従う好ましい実施形態においては、母材がレンズであり、光学樹脂層がレンズの光学面の上に形成されていることを特徴としている。
【0028】
母材としては、ガラス、プラスチック、透光性セラミック、または光学結晶からなるものを挙げることができる。
【0029】
ガラスとしては、一般的な光学ガラスや、高屈折率ガラスなどが挙げられる。
【0030】
また、プラスチック材料としては、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0031】
透光性セラミックとしては、アルミナ、MgF、CaF、スピネル焼結体、(PbLa)(ZrTi)O(PLZT)、イットリウムアルミニウムガーネット焼結体、村田製作所製商品名「ルミセラ」などが挙げられる。
【0032】
光学結晶としては、水晶、ルチル、スピネル、サファイア、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛、チタン酸リン酸カリウム、チタン酸バリウム、イットリウムアルミニウムガーネット、イットリウム鉄ガーネット、β−バリウムボレート、リチウムトリボレート;シリコン、ゲルマニウムなどの半導体;セレン化硫黄、セレン化亜鉛などのII−VI族化合物半導体及びその混晶;ガリウム砒素、ガリウム燐、インジウム燐、アルミニウム砒素、窒化ガリウム、窒化アルミニウムなどのIII−V族化合物半導体及びその混晶などが挙げられる。
【0033】
本発明の光学装置は、上記本発明の複合型光学素子を備えることを特徴としている。
【0034】
本発明の光学装置としては、例えば、光スイッチ、光送受信モジュール、光カプラなどの光通信デバイス;液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、プロジェクター、映写機などの表示装置;マイクロレンズアレイ、インテグレータ、導光板などの光学部品;デジタルカメラ等の写真機;ビデオカメラなどの撮像装置;CCDカメラモジュール、CMOSカメラモジュールなどの撮像モジュール;望遠鏡、顕微鏡、虫眼鏡などの光学機器などが挙げられる。
【発明の効果】
【0035】
有機重合体を含む本発明の光学樹脂材料を用いることにより、高温高湿環境下での屈折率の変動を低減し、安定した屈折率を示す光学樹脂材料とすることができる。
【0036】
本発明の光学樹脂は、上記本発明の光学材料を用いているので、高温高湿環境下でも安定した屈折率を示す光学素子とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(比較例1)
ウレタンアクリレート系樹脂としては、トリレンジイソシアネートを含むポリウレタン末端メタクリレートオリゴマー約55重量%と、トリメチロールプロパントリアクリレート約25重量%と、ベンジルメタクリレート約18重量%と、光重合開始剤としての1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン約2重量%からなる硬化前の粘稠液を用い、この硬化前粘稠液に照度500mW/cm2の水銀ランプ光を4分間照射して硬化させた。この硬化物を、温度85℃、湿度85%の高温高湿環境下で500時間エイジングした。初期の屈折率は1.5350であり、エイジング後の屈折率は1.5338であった。従って、屈折率は、−0.0012変化した。なお、ノーランド社製のアクリル系樹脂「NOA60」でも同様に屈折率は同条件のエイジングにより低下する。
【0039】
(比較例2)
金属アルコキシドとして、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(MPTES)6.0mlをエタノール15.0mlに添加し、攪拌しながら2Nの塩酸を1.2ml滴下した。これを2日間放置し、加水分解して重縮合させた。次に、重合開始剤1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを1.5mg加えた後、これを100℃で加熱し、エタノールを除去して金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物を得た。
【0040】
これに、照度500mW/cm2の水銀ランプ光を4分間照射して硬化させた。
【0041】
この硬化物について比較例1と同様にして、温度85℃、湿度85%の高温高湿環境下で100時間エイジングを行なった。初期の屈折率は1.4845であったのに対し、100時間エイジングした後の屈折率は1.4868であり、+0.0023の屈折率の変化が認められた。
【0042】
上記試料について、赤外吸収分光分析を行なった結果、エイジング後においてOH基の増加が認められた。これは、本来安定であるSi−O−Si結合が高温高湿状態で加水分解され、分子屈折の大きいSi−OHが生成したことによるものと考えられ、その結果として屈折率が上昇したと考えられる。
【0043】
この金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物を、アクリレート系、エポキシ系、ウレタン系などの有機重合体と混合し硬化することにより、高温高湿環境下での屈折率の変化を抑制することができる。しかしながら、この方法では、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物の混合比率により、屈折率の安定度が変わる。混合比率は、硬度や耐熱性など他の特性にも影響するため、この方法だけでは屈折率を安定させるには不十分である。
【0044】
本発明においては、揮発性の低分子成分をさらに添加することにより、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物と有機重合体との混合比率を大きく変化させることなく、屈折率を安定に保つことができる。
【0045】
(比較例3)
ここでは、揮発性の低分子成分を有機重合体に混合し、その添加による効果を評価した。揮発性の低分子成分としてトリフルオロ酢酸を用い、有機重合体として比較例1と同じウレタンアクリレート系樹脂を用いた。ウレタンアクリレート系樹脂10gに、トリフルオロ酢酸20mgを加え、添加後、上記と同様に紫外線を照射して硬化した。得られた硬化物を、上記と同様に高温高湿環境下に放置し、屈折率の変化を測定した。100時間後では、屈折率の変化が−0.0001と非常に小さくすることができたが、500時間後には−0.0010となり、低分子成分を加えていない試料と同程度の屈折率になった。
【0046】
以上の結果から明らかなように、有機重合体に揮発性の低分子成分を添加しただけでは、比較的早い段階で低分子成分が揮発してしまい、長期間にわたって屈折率を安定にすることができない。本発明においては、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物の水酸基と結合可能な基を有する低分子成分を用い、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物の水酸基と、低分子成分の基との間で結合を形成することにより、揮発性の低分子成分の揮発速度を制御し、長期間にわたって屈折率の安定性を確保している。
【0047】
また、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物と、有機重合体の間においても、アクリル基の重合による結合、水素結合、π電子の重なりによる結合などの何らかの結合が形成されていることが好ましい。
【0048】
(実施例1)
本実施例では、金属アルコキシドとしてMPTES、揮発性低分子成分としてトリフルオロ酢酸、有機重合体として比較例1と同じウレタンアクリレート系光学樹脂を用いた。試料の作製方法を以下に示す。
【0049】
(1)エタノール15.0mlにMPTESを6.0ml加え、攪拌しながら2Nの塩酸を1.2ml滴下する。これを2日間放置して、加水分解・重縮合反応させる。
【0050】
(2)上記の加水分解・重縮合反応物を100℃で加熱し、エタノールを除去する。これにより、金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物が得られる。
【0051】
(3)比較例1と同じ硬化前粘稠液10gに上記の金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物1g、トリフルオロ酢酸20mgを加え、攪拌する。
【0052】
(4)得られた混合物に、照度500mW/cm2の水銀ランプ光を4分間照射し硬化させる。
【0053】
MPTESは、以下の(1)に示すように、ケイ素に3つのエトキシ基と1つのメタクリロキシ基が結合している。
【0054】
【化1】

【0055】
エトキシ基は、上記の(1)の工程で塩酸を加えることにより、塩酸中の水と反応して分離し、(化2)に示すように、同様にしてエトキシ基が分離した別のMPTES分子と結合する。
【0056】
【化2】

【0057】
この反応が連続することにより分子鎖を形成するが、(化2)に示すように、エトキシ基の一部は水と反応してOH基となる。
【0058】
トリフルオロ酢酸は、(化3)に示すように、このOH基との間に水素結合を形成する。
【0059】
【化3】

【0060】
さらに紫外線を照射すると、(化4)に示すように、MPTES分子鎖に結合しているメタクリロキシ基の二重結合が切れ、同じく二重結合が切れた別の分子鎖のメタクリロキシ基と結合する。
【0061】
【化4】

【0062】
このようにして分子鎖同士が結合することにより、樹脂の硬化が起こる。なお、ウレタンアクリレート系樹脂も、メタクリロキシ基またはアクリルロキシ基を有するため、これらの二重結合との間においても同様の結合が生じる。
【0063】
上記のようにして紫外線を照射して硬化させた試料を、温度85℃、湿度85%の高温高湿環境下において500時間エイジングし、エイジング後の屈折率を測定した。結果を表1に示す。なお、表1には比較例1の結果も併せて示す。
【0064】
表1に示すように、初期の屈折率は1.5304であり、500時間エイジング後の屈折率は1.5303であり、屈折率の変化は−0.0001であった。ウレタンアクリレート系樹脂単独の場合の屈折率の変化−0.0012に比べ、屈折率の変化が大幅に抑制されている。
【0065】
なお、MPTESに代えて、金属アルコキシドとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)を用いた場合にも同様の効果を得ることができる。また、MPTES及びMPTMS以外のものであってもメタクリロキシ基を有する他の金属アルコキシド、例えば、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランや3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、あるいはスチリル基を有するp−スチリルトリメトキシシランであっても同様の効果を得ることができる。また、メタクリロキシ基の代わりにアクリロキシ基を有する3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなども使用することができる。また、これらのメタクリロキシ基またはアクリロキシ基を有する金属アルコキシドの一部を、フェニルトリメトキシシラン(PhTMS)やジフェニルジメトキシシラン(DPhDMS)などのメタクリロキシ基を有しない金属アルコキシドで置き換えることも可能である。
【0066】
また、揮発性低分子成分として、トリフルオロ酢酸の代わりにトリフルオロエタノールまたはトリフルオロアセトンを混合しても同様の効果が得られた。また、トリフルオロ安息香酸、トリフルオロアセトフェノン、ジフルオロ酢酸、ジフルオロ安息香酸などの極性を有する有機フッ素化合物であってもよい。
【0067】
また、有機重合体としては、金属アルコキシドを加水分解して生成した有機金属ポリマー材料、アクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、及びこれらの混合物、これらの樹脂にSiO2、TiO2、ZrO2、Nb25などの金属酸化物微粒子を分散させたものであってもよい。
【0068】
(実施例2)
本実施例では、金属アルコキシドとしてMPTES、揮発性低分子成分として、金属アルコキシドであるトリフルオロプロピルトリメトキシシラン(TFPTMS)、有機重合体として比較例1と同じウレタンアクリレート系樹脂を用いた。試料の作製方法を以下に示す。
【0069】
(1)エタノール15.0mlにMPTESを6.0ml加え、攪拌しながら2Nの塩酸を1.2ml滴下する。これを2日間放置して加水分解・重縮合反応させる。
【0070】
(2)さらに、TFPTMSを2.0ml加え、攪拌する。
【0071】
(3)上記混合物を100℃で加熱し、エタノールを除去して金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物が得られる。
【0072】
(4)比較例1と同じ硬化前粘稠液と、上記の金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物を20:1の割合で混合して攪拌する。
【0073】
(5)得られた混合物に照度500mW/cm2の水銀ランプ光を4分間照射し硬化させる。
【0074】
本実施例においては、(化5)に示すように、MPTESの分子鎖にさらにTFPTMSの分子鎖が結合する。TFPTMSはメタクリロキシ基及びアクリロキシ基を有しないため、MPTESやウレタンアクリレート系樹脂に比べ結合が切れやすい。
【0075】
【化5】

【0076】
上記の試料を温度85℃、湿度85%の高温高湿環境下で500時間エイジングし、エイジング後の屈折率を測定した。結果を表1に示す。表1に示すように、初期の屈折率は1.5314であり、エイジング後は1.5315となり、屈折率の変化は+0.0001であり、ウレタンアクリレート系樹脂単独の場合に比べ、屈折率の変化を大幅に抑制することができた。なお、本実施例においても、金属アルコキシド及び有機重合体として上記実施例1で示したものを同様に用いることができる。
【0077】
重合開始剤は有機重合体に含有されるものだけで硬化には十分であるが、必要に応じて1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどの重合開始剤を金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物に添加することにより、硬化時間を短縮することも可能である。
【0078】
(実施例3)
本実施例では、金属アルコキシドとしてMPTES及びDPhDMSを用い、揮発性低分子成分としてトリフルオロ酢酸を用い、有機重合体として比較例1と同じウレタンアクリレート系樹脂を用いた。実施例1との違いは、無水トリフルオロ酢酸を加え、加熱することにより、トリフルオロ酢酸と金属アルコキシドとの分子鎖の結合を促進したことである。試料の作製方法を以下に示す。
【0079】
(1)エタノール15.0mlにMPTESを4.0ml、DPhDMSを3.3ml加え、攪拌しながら2Nの塩酸を1.2ml滴下する。これを2日間放置し、加水分解・重縮合反応させた後、100℃で加熱し、エタノールを除去する。
【0080】
(2)次に、1mlの無水トリフルオロ酢酸と3.75mlのトリメチルエトキシシランを添加し、分離しなくなるまで攪拌する。
【0081】
(3)24時間放置後、100℃で加熱し、無水トリフルオロ酢酸とトリメチルエトキシシランを乾燥除去する。
【0082】
(4)再びトリメチルエトキシシランに溶解させ、これに水を加えて攪拌する。
【0083】
(5)しばらく放置し分離した後、上澄みを取り出し、加熱してトリメチルエトキシシランを除去する。
【0084】
(6)比較例1と同じ硬化前粘稠液と上記生成物を3:7の割合で混合し、攪拌する。
【0085】
(7)得られた混合物に照度500mW/cm2の水銀ランプ光を4分間照射し硬化する。
【0086】
(化6)に示すように、MPTESのエトキシ基は分離して分子鎖を形成するだけでなく、一部は水と反応してOH基に置き換わる。本実施例では、(化6)に示すように、(2)〜(3)の工程で無水トリフルオロ酢酸の強力な脱水作用を利用して処理することにより、このOH基をさらにトリフルオロ酢酸に置き換える。この分子鎖に結合したトリフルオロ酢酸が、本実施例における低屈折率成分となる。
【0087】
【化6】

【0088】
上記試料を、温度85℃、湿度85%の高温高湿環境下で500時間エイジングし、エイジング後の屈折率を測定した。測定結果を表1に示す。表1に示すように、初期の屈折率は1.5295であり、500時間エイジング後の屈折率は1.5293であり、屈折率の変化は−0.0002であった。ウレタンアクリレート系樹脂の屈折率変化に比べ、大幅に屈折率の変化を抑制することができた。
【0089】
本実施例においては(6)及び(7)の工程で、未硬化樹脂中の反応残留物が水の中に溶け出すので、実施例1のように金属アルコキシドの分子鎖に水素結合したトリフルオロ酢酸はほとんど残っていない。従って、分子鎖と結合したトリフルオロ酢酸が、高温高湿環境において、(化6)に示すのと逆の過程で加水分解して離れ揮発したことにより、屈折率が上昇したと考えられる。なお、本実施例においても、金属アルコキシド及び有機重合体として上記実施例1で示したものを同様に用いることができる。
【0090】
重合開始剤は有機重合体に含有されるものだけで硬化には十分であるが、必要に応じて1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどの重合開始剤を金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物に添加することにより、硬化時間を短縮することも可能である。
【0091】
次に、有機重合体の混合比を変化させて、得られる硬化物の屈折率に与える影響について検討した。上記の(6)の工程において、比較例1と同じ硬化前の粘稠液(有機重合体)と上記生成物の混合割合を、表2に示すように有機重合体の混合比が10重量%、20重量%及び40重量%となるように混合し、この混合物に、照度30mW/cmの水銀ランプ光を4分間照射し硬化させて、硬化物を得た。得られた硬化物について、上記と同様にして温度85℃、湿度85%の高温高湿環境下で500時間エイジングし、エイジング前とエイジング後の屈折率を測定し、屈折率の変化を求めた。測定結果を表2に示す。
【0092】
また、比較例1と同じ硬化前の粘稠液(有機重合体)のみを、上記と同様に硬化させたものについても同様に評価し、評価結果を有機重合体混合比100%として示した。
【0093】
表2に示す結果から明らかなように、有機重合体の混合比を20〜40重量%の範囲とすることにより、屈折率の変化を小さくすることができ、安定化することができることがわかる。
【0094】
上記(6)の工程では、比較例1と同じ硬化前の粘稠液と上記生成物を3:7の割合で混合しており、有機重合体の混合比を上記の範囲内である30重量%にしている。
【0095】
(実施例4)
本実施例においては、MPTESとDPhDMSから合成した樹脂に、無水トリフルオロ酢酸を添加し、さらに比較例1と同じウレタンアクリレート系樹脂を混合し、硬化した。その構造は、(化7)及び図1に示す通りである。
【0096】
【化7】

【0097】
試料の作製方法は以下の通りである。
【0098】
(1)エタノール40mlに、MPTES15.3ml及びDPhDMS6.34mlを加え、攪拌しながら2Nの塩酸を3.8ml滴下する。
【0099】
(2)次に、1mlの無水トリフルオロ酢酸と3.75mlのトリメチルエトキシシランを添加し、分離しなくなるまで攪拌する。
【0100】
(3)24時間放置後、100℃で加熱し、無水トリフルオロ酢酸とトリメチルエトキシシランを乾燥除去する。
【0101】
(4)比較例1と同じ硬化前粘稠液と上記混合物を、4:6の割合で混合する。
【0102】
(5)以上のようにして得られた組成物に照度500mW/cm2の水銀ランプ光を4分間照射し硬化する。
【0103】
本実施例においては、水による反応残量物を除去する工程を省いたため、無水トリフルオロ酢酸が加水分解して生成したトリフルオロ酢酸の大半は金属アルコキシドの分子鎖と水素結合し、残りの一部は共有結合した形で樹脂中に存在している。
【0104】
上記試料を、温度85℃、湿度85%の高温高湿環境下で500時間エイジングし、エイジング後の屈折率を測定した。測定結果を表1に示す。表1に示すように、初期の屈折率は、1.5308であり、エイジング後の屈折率は1.5312であり、屈折率の変化は+0.0004であった。従って、ウレタンアクリレート系単独の場合に比べ、大幅に屈折率の変化を抑制することができた。なお、本実施例においても、金属アルコキシド及び有機重合体として上記実施例1で示したものを同様に用いることができる。
【0105】
重合開始剤は有機重合体に含有されるものだけで硬化には十分であるが、必要に応じて1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどの重合開始剤を金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物に添加することにより、硬化時間を短縮することも可能である。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
(実施例5)
図2は、本実施例のレンズを示す断面図である。図2に示すように、本実施例においては、母材球面レンズ1の球面1aの上に、非球面を有する光学樹脂層2を設けている。母材球面レンズ1は、BK7ガラス製であり、曲率半径5mm、直径5mm、焦点距離9mmの球面1aを有している。この球面1aの上に非球面を有する光学樹脂層2を設けることにより、複合型非球面レンズとしている。
【0109】
非球面の形状は、一般に次式で表すことができる。
【0110】
【数2】

【0111】
上記の式において、Aはコーニック定数と呼ばれるものであり、非球面の形状を決める主要なパラメーターである。また、Rは曲率半径を示している。本実施例では、球面収差の補正を目的として非球面を設計しており、曲率半径Rは母材球面レンズと同じ5mmであり、コーニック定数Kは−0.55である。なお、高次項は省略した。光学樹脂層2の厚みはレンズ中心部で0.1mmとした。なお、光学樹脂層2の材料としては、上記実施例3の樹脂を使用した。
【0112】
図3は、非球面の光学樹脂層を形成する前の母材球面レンズ1を用いて波長633nmのHeNeレーザーのビームを集光し、集光スポットの光強度分布をビームプロファイラにより測定した結果を示している。図3に示すように、球面レンズ1を用いた場合には球面収差により、1点に集光することができなかった。
【0113】
図4は、図2に示すように、球面レンズ1の上に非球面の光学樹脂層2を形成した複合型非球面レンズを用いて、上記と同様にして集光スポットの光強度分布をビームプロファイラにより測定した結果を示している。図4に示すように、本実施例の複合型非球面レンズを用いることにより、微細なスポットに集光することができた。
【0114】
本発明の光学素子は、上記実施例のものに限定されるものではなく、例えば、平板ガラスやレンズ表面に回折格子を形成した回折光学素子や、光学樹脂のみで形成したレンズ、プリズム、回折光学素子等にも応用することができるものである。また平板ガラスやレンズの材質として、本実施例のBK7ガラス以外のBKガラス、F系ガラス、SF系ガラスなどの一般的な光学ガラスや、例えばオハラ社製のS−TIH系、S−LAH系、S−LAL系、S−YGH系などの光学ガラスなど、あるいはプラスチックや高屈折率透光性セラミックなども使用できる。
【0115】
また、本発明の光学材料は、反射防止膜などの各種コーティング用樹脂材料;LED、光センサ、フォトカプラ、フォトインタラプタ、フォトリフレクタなどの光部品モールド用樹脂材料;光スイッチ、光送受信モジュール、光カプラなどの光通信デバイスに使用されるレンズ、光ファイバー、光導波路、フィルタなどの光学部品用樹脂材料;液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、プロジェクター、映写機などの表示装置に使用されるレンズ、マイクロレンズアレイ、インテグレーター、導光板などの光学部品用樹脂材料;デジタルカメラ等を含む写真機、ビデオカメラなどの撮像装置や、CCDカメラモジュール、CMOSカメラモジュールなどの撮像モジュールに使用されるプラスチックレンズや複合型非球面レンズなどの光学部品用樹脂材料;その他、望遠鏡、顕微鏡、コンタクトレンズ、眼鏡、虫眼鏡などの光学機器に使用されるプラスチックレンズや複合型非球面レンズなどの光学部品用樹脂材料に用いることができる。
【0116】
(実施例6)
本実施例では、実施例5における母材レンズの材料を、BK7ガラスから光学プラスチックに変更した。プラスチック材料としては、環状オレフィン樹脂(日本ゼオン社製、商品名「ZEONEX」)を使用した。母材のレンズ形状及び光学樹脂層の非球面形状は、実施例5と同様であり、光学樹脂層の材料も実施例5と同様に実施例3の樹脂を使用した。母材の屈折率が違うため、焦点距離は8.7mmであった。
【0117】
本実施例においても、実施例5と同様に、図3及び図4に示すようなビームプロファイルを得ることができ、微細なスポットに集光することができた。
【0118】
上記の樹脂に代えて、環状オレフィン樹脂(JSR社製商品名「ARTON」、三井化学社製商品名「APEL」、及びポリプラスチックス社製商品名「TOPAS」)及びフルオレン系ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名「OKP4」)を用いて光学樹脂層を形成した場合も、上記と同様の結果が得られた。
【0119】
(実施例7)
本実施例においては、実施例5と同様に、母材球面ガラスレンズの上に、非球面形状の光学樹脂層を形成したが、球面収差を補正するだけでなく、1個の複合型レンズでアクロマートレンズ系を構成し、色収差も低減している。
【0120】
図5は、本実施例のアクロマートレンズ系の複合型レンズ5を示す断面図である。ガラスレンズ母材3は、両面が凸状球面であり、レンズ直径は3mm、第1の面3aの曲率半径は3mm、第2の面3bの曲率半径は1.6mmである。光学樹脂層4は、第2の面3bの上に実施例3の樹脂材料を用いて形成されている。光学樹脂層4の非球面4aの曲率半径は5.6mmであり、コーニック定数は5.95である。光学樹脂層4の厚みは、レンズ中央部で0.05mmである。
【0121】
なお、比較例として、光学樹脂層4を比較例1の樹脂材料を用いて形成した複合型レンズを作製した。形状及び寸法は上記本実施例の複合型レンズとほぼ同じであるが、光学樹脂層4の屈折率が異なるため、コーニック定数は5.45である。
【0122】
上記のように作製した本実施例及び比較例の複合型レンズの集光性能を評価するため、図6に示すカメラモジュールを作製した。金属フレーム6の底部に撮像素子(CCD)8を取り付け、その上方の開口部6aに、複合型レンズ5を固定部材7により取り付けてカメラモジュールを作製した。
【0123】
以上のようにして作製した本実施例及び比較例のカメラモジュールを用いて、遠方に設置した白色点光源の光を撮像し、CCDの出力像を見ながらスポットが最小になるようにレンズの位置を調整し、固定した。
【0124】
次に、これらのカメラモジュールを、85℃85%の試験器内に導入し、500時間放置した後、再び遠方に設置した白色点光源の光を撮像し、CCDの出力像を観測した。
【0125】
本実施例の複合型レンズを用いたカメラモジュールにおいては、試験導入前と同様に良好に集光されていたが、比較例の複合型レンズを用いたカメラモジュールにおいては、集光が不十分であり、ピントがズレていた。
【0126】
本実施例の複合型レンズと比較例の複合型レンズにおける上記の高温高湿試験における違いを明確にするため、試験前後の集光スポットのプロファイルをシミュレーションにより求めた。具体的には、光線追跡法により、複合型レンズの母材レンズ及び光学樹脂層の面形状とそれらの屈折率からシミュレーションした。
【0127】
図7は本実施例の集光スポットのプロファイルを示しており、(a)は高温高湿試験前のプロファイルであり、(b)は高温高湿試験後のプロファイルである。また、図8は、比較例のプロファイルを示しており、(a)は高温高湿試験前のプロファイルであり、(b)は高温高湿試験後のプロファイルである。
【0128】
図7及び図8に示す結果からも明らかなように、本実施例の複合型レンズは、比較例の複合型レンズに比べ高温高湿環境下での集光性能の低下が抑制されている。
【0129】
(実施例8)
図9は、上記実施例7のカメラモジュールを用いたデジタルカメラを示す構成図である。カメラモジュール9の撮像素子8からのアナログ信号は、AD変換器10によりデジタル信号に変換され、デジタルシグナルプロセッサ11に送られる。デジタルシグナルプロセッサ11からのデジタル信号はディスプレイ12に与えられ画像表示がなされる。また、内部メモリ14に送られ記憶される。また、デジタルシグナルプロセッサ11には外部に接続するための外部インターフェイス13が接続されている。
【0130】
(実施例9)
図10は、本発明の複合型光学素子を用いたプロジェクターを示す概略構成図である。プロジェクター20内には、照明用ランプ21が設けられており、照明用ランプ21の光出射方向には照明用レンズ22、液晶ディスプレイ(LCD)23が設けられており、液晶ディスプレイ23の前方に複合型レンズ5が取り付けられている。
【0131】
本実施例において用いられている複合型レンズ5は、ガラスレンズ母材としてオハラ社製S−FPL51を用いており、レンズ直径は50mmであり、第1の面の曲率半径は60mm、第2の面の曲率半径は32mmである。複合型レンズ5の光学樹脂層は、実施例3の樹脂を用いて第2の面の上に形成されており、曲率半径は112mm、コーニック定数は−2.5である。また光学樹脂層の厚みはレンズ中央部で2mmである。
【0132】
本実施例のプロジェクターは、本発明の複合型レンズを用いているので、高温高湿環境下でのレンズ特性の低下を抑制することができる。
【0133】
(実施例10)
図11は、本発明の複合型光学素子を用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図である。
【0134】
光送受信モジュール30内には、光ファイバー31の一方端31aが挿入されており、光ファイバー31の一方端31aと対向する位置に発光素子33が設けられている。発光素子33の前方には本発明に従う複合型レンズ5が設けられており、複合型レンズ5と光ファイバー31の端部31aの間に、45°傾斜させて波長選択フィルタ32が設けられている。波長選択フィルタ32の下方には、レンズ34を介して受光素子35が設けられている。
【0135】
発光素子33から出射された光は、複合型レンズ5を通り、波長選択フィルタ32を通過して端部31aから光ファイバー31内に入り伝送される。
【0136】
また、光ファイバー31から送られてきた光は、端部31aを通り、波長選択フィルタ32で反射され、レンズ34を通り、受光素子35を受光される。
【0137】
本実施例において、発光素子33としては、発振波長1.3μmの半導体レーザーを用いた。発光素子33からの出力光が、効率良く光ファイバー31に出射されるように本発明に従う複合型レンズ5が用いられている。複合型レンズ5のガラスレンズ母材としては、BK7ガラスを用いた。ガラスレンズ母材のレンズ直径は2mmであり、第1の面及び第2の面並びに光学樹脂層の非球面の曲率半径はいずれも1.2mmである。光学樹脂層の非球面のコーニック定数は−3.5である。光学樹脂層の厚みはレンズ中央部で0.1mmである。
【0138】
なお、比較として、比較例1の樹脂を用いて光学樹脂層を形成した比較の複合型レンズを用いた以外は、本実施例と同様の光送受信モジュールを作製した。
【0139】
モジュールを作製した直後においては、本実施例及び比較例の光送受信モジュールのいずれにおいても、半導体レーザーの出力光の光ファイバーへの結合効率は約60%であった。これらの光送受信モジュールを85℃85%の試験機に投入し、500時間放置した後、再び上記と同様にして半導体レーザーの出力光の結合効率を測定した。本実施例においては約60%であり、ほとんど変化がなかったのに対し、比較例の光送受信モジュールにおいては、約45%に結合効率が低下していた。このことから、本発明に従う複合型レンズを用いることにより、高温高湿条件下でも安定した光送受信特性を示す光送受信モジュールが得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明に従う一実施例における光学樹脂材料中の状態を示す模式図。
【図2】本発明に従う実施例において作製した複合型非球面レンズを示す断面図。
【図3】球面レンズを用いて集光した場合の集光スポットの光強度分布を示す図。
【図4】複合型非球面レンズを用いて集光した場合の集光スポットの光強度分布を示す図。
【図5】実施例7において作製した複合型レンズを示す断面図。
【図6】本発明に従う実施例のカメラモジュールを示す模式的断面図。
【図7】本発明に従う実施例の複合型レンズの高温高湿試験前(a)及び試験後(b)の集光スポットのプロファイル(シミュレーション)を示す図。
【図8】比較例の複合型レンズの高温高湿試験前(a)及び試験後(b)の集光スポットのプロファイル(シミュレーション)を示す図。
【図9】本発明に従う実施例のカメラモジュールを用いたデジタルカメラを示す構成図。
【図10】本発明に従う複合型レンズを用いたプロジェクターを示す概略構成図。
【図11】本発明に従う複合型レンズを用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図。
【符号の説明】
【0141】
1…母材球面レンズ
1a…球面レンズの球面
2…光学樹脂層
3…ガラスレンズ母材
3a…ガラスレンズ母材の第1の面
3b…ガラスレンズ母材の第2の面
4…光学樹脂層
4a…光学樹脂層の光学面
5…複合型レンズ
6…金属フレーム
6a…金属フレームの開口部
7…固定部材
8…撮像素子(CCD)
9…カメラモジュール
10…AD変換器
11…デジタルシグナルプロセッサ
12…ディスプレイ
13…外部インターフェイス
14…内部メモリ
20…プロジェクター
21…照明用ランプ
22…照明用レンズ
23…液晶ディスプレイ
30…光送受信モジュール
31…光ファイバー
31a…光ファイバーへの端部
32…波長選択フィルタ
33…発光素子
34…レンズ
35…受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に少なくとも1つの水酸基を有する金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物と、揮発性の低分子成分とを含む光学樹脂材料であって、前記揮発性の低分子成分が、前記金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物の水酸基と結合可能な基を有することを特徴とする光学樹脂材料。
【請求項2】
さらに有機重合体を含むことを特徴とする請求項1に記載の光学樹脂材料。
【請求項3】
前記低分子成分の基が、カルボン酸基、カルボニル基、または水酸基であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学樹脂材料。
【請求項4】
前記金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物の水酸基と、前記低分子成分の基との結合が、水素結合または重縮合により形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学樹脂材料。
【請求項5】
前記低分子成分が、フッ素原子を含む、金属アルコキシド、有機酸、アルコールまたはケトンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学樹脂材料。
【請求項6】
前記有機重合体が、アクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、及びウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の光学樹脂材料。
【請求項7】
前記金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物が、二重結合を有しており、エネルギー線の照射により、該二重結合が重合して硬化していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学樹脂材料。
【請求項8】
前記有機重合体が、二重結合を有しており、エネルギー線の照射により、該二重結合が重合して硬化していることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の光学樹脂材料。
【請求項9】
前記金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物が、二重結合を有しており、エネルギー線を照射する前の未硬化の状態であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学樹脂材料。
【請求項10】
前記有機重合体が、二重結合を有しており、エネルギー線を照射する前の未硬化の状態であることを特徴とする請求項2〜6及び9のいずれか1項に記載の光学樹脂材料。
【請求項11】
温度85℃、湿度85%の高温高湿環境下での屈折率の変動が、500時間当たり±0.001以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学樹脂材料。
【請求項12】
請求項1〜8及び11のいずれか1項に記載の光学樹脂材料を用いたことを特徴とする光学素子。
【請求項13】
母材の表面に、請求項1〜8及び11のいずれか1項に記載の光学樹脂材料からなる光学樹脂層を形成したことを特徴とする複合型光学素子。
【請求項14】
前記母材がレンズであり、前記光学樹脂層が前記レンズの光学面の上に形成されていることを特徴とする請求項13に記載の複合型光学素子。
【請求項15】
前記母材が、ガラス、プラスチック、透光性セラミック、または光学結晶からなることを特徴とする請求項13または14に記載の複合型光学素子。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか1項に記載の複合型光学素子を備えることを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−122016(P2007−122016A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208326(P2006−208326)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】