説明

光断層画像表示システム

【課題】モードロックレーザを用い高速で波長を掃引しても高コヒーレンス性を保つ光源を用いて光断層画像表示システムの分解能、および深達度を向上させること。
【解決手段】波長走査型レーザ光源10に一対の回折格子32,33を対向して配置し、これを分散素子として用いる。この分散素子に半導体光増幅器35を接続し、モードロック信号発生部38よりクロック信号を与えて光信号を増幅する。このクロック信号のクロック周波数を変化させることによってクロック周波数に応じて発振波長を走査することで、高速で波長を可変でき、この光源を用いることで光断層画像表示システムの分解能、および深達度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモードロックレーザ発振器を用いた光断層画像表示システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年内視鏡治療などの医療技術の進歩に伴って、病理組織の診断を非深襲かつリアルタイムに行う診断方法が望まれている。従来例えばCCDを用いた電子内視鏡や、CT、MRI、超音波による画像化が診断方法として用いられている。電子内視鏡は生体の表面の観察に限定され、また後者の画像診断システムはミクロンオーダーの分解能で観察するには技術的な限界があった。このような方法を補完する技術として、光断層画像表示システム(光コヒーレンストモグラフィーシステム,OCTともいう)が注目されている。
【0003】
OCTの中には、時間領域OCT(TD−OCT)と周波数領域OCT(FD−OCT)の2種類があり、またFD−OCTの中にもスペクトロメータタイプ(SD−OCT)と波長走査型光源タイプ(SS−OCT)の2つがある。時間領域OCTの場合には、広帯域の光を生体に当てて、そこからの反射光の干渉成分を抽出していたが、この方法だと干渉光の中に異なる深さからの反射光も重なりあうために、ある特定の深さからの信号光だけを感度良く検出できなかった。
【0004】
一方波長走査型OCTは、生体に狭スペルトルの波長の光を照射し、照射光の波長を連続的に変化させ、参照光と生体内の異なる深さから戻ってくる反射光とを干渉計で干渉させ、その干渉信号の周波数成分を分析することによって、断層画像を得るシステムである。この技術は物体内部からの信号の周波数分析から極めて高分解能の断層画像を構築することができるため、高度なシステムとして期待されている。波長走査型光源を用いたSS−OCTは測定感度も高く、動的ノイズに強いという点で内視鏡などの実使用に好適である。ここで照射する光の波長走査の帯域が広いほど周波数分析の帯域が上がるので、深さ方向の分解能が上がる。
【0005】
特にSS−OCTは波長1μmの以上の赤外光が必要な部位の断層撮影や、光ファイバを使用する内視鏡でのアプリケーションに有利である。一方で、眼科や心臓血管の断層撮影では、生体の動きによる影響を除去するため、あるいは短時間で大きなエリアを撮影する必要から、より高速に撮影することが要求される。そのため高速の走査速度を有する光源が要求される。
【0006】
従来の波長走査型光源は、ポリゴンミラーやMEMSミラーなどを用いて光を機械的に偏向させて外部共振器内のフィルタ波長選択特性を変化させることで波長を走査していた。このような光源では、100kHz以上の高速走査は複雑な機構を用いなければならず、低価格で実現するのは困難であった。また、機械的な動作を伴うため信頼性が低いという欠点があった。
【0007】
特許文献1,2には、分散素子を外部共振器内に入れることで、モードロック用のクロック信号の周波数を変化させることによって発振波長を変化させることができる波長可変モードロックレーザが提案されている。モードロックレーザは、外部共振器モードの周波数間隔と同じあるいはその整数倍の周波数でレーザを変調して、その周波数でレーザを繰り返しパルス発振させるレーザである。外部共振器型レーザに波長分散を用いた波長可変方式を利用することにより、機械的な機構をなくし100kHz以上の高速走査を実現することができる。これは構成が単純で、高速の波長可変が可能である。
【0008】
次にモードロック発振をする条件と波長可変の原理について説明する。まず、一般的には、共振器内部の光強度を変調するためのクロック信号の周波数(以下、クロック周波数あるいはモードロック周波数という)fcと、光が外部共振器内を伝搬する時間に対応する繰り返し周波数Fとが一致した場合に、安定したモードロック発振が実現される。クロック周波数fcは、波形シンセサイザー、ファンクションジェネレータなどから、自由に変化させることができる。一方繰り返し周波数Fは、光がレーザの外部共振器内を1周あるいは1往復伝搬する伝搬時間TLに対応する周波数である。伝搬時間TLは、外部共振器の共振器長をLとすると、
L=nL/c ・・・(1)
ただし、n:屈折率
c:光速
として表される。
また、FとTLとの関係は、
F=m/TL ・・・(2)
ただし、m(整数)>0
の関係がある。通常のモードロックレーザでは、図1(a)において外部共振器内に挿入される半導体光増幅器などのゲイン媒体のゲイン特性を曲線Aで示し、外部共振器長によって決まるスペクトルを同時に示すものとすると、fcとFが一致したときに図1(b)に示すようにゲイン特性の範囲内で広帯域の発振が想定される。尚このスペクトルのモード間隔はFSR(=c/L)により決定される。
【0009】
次に波長可変の原理について説明する。モードロックレーザにおいて、外部共振器内に分散素子を内包した場合には、外部共振器長Lが発振波長λに依存し、伝搬時間TLも波長λに依存することとなる。このため外部共振器長L及び伝搬時間TLは、以下のように波長λの関数となる。
L=L(λ)
L=TL(λ)
従って繰り返し周波数Fも発振波長λに依存する。図2(a)はこの場合の発振可能なスペクトルを示し、同時に半導体光増幅器のゲイン特性を曲線Aとして示している。この場合、あるクロック周波数fcで変調駆動した際、
fc=F(λ) ・・・(3)
が満足される波長λで安定なモードロック発振が起こる。他の波長λでは、式(3)の条件が満足されていないため、発振が起きない。よって、クロック周波数fcを例えばfc1とすると、図2(b)に示すスペクトルの光のみが発振する。クロック周波数を変化させfc2とすると、図2(c)に示すスペクトルの光を発振させることができる。更に、クロック周波数fcを連続的に変化させることによって、レーザ光の発振周波数を連続して変化させることが可能となる。この場合、縦モードの間隔はFSR(=c/L(f))により決定される。
【0010】
非特許文献1では、この原理に基づき分散素子として分散光ファイバを用いて高速で波長を掃引することができるレーザ光源が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】日本特許3432457号
【特許文献2】日本特許3814495号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Yuichi Nakazaki and Shinji Yamashita, "Fast and wide tuning range wavelength-swept fiber laser based on dispersion tuning and its application to dynamic FBG sensing,"11 May 2009 / Vol. 17, No. 10 / OPTICS EXPRESS 8310
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし非特許文献1の波長掃引レーザは分散素子として、例えば100mの長い分散補償光ファイバを用いている。しかし外部共振器長が長い場合、共振器モードが密になり発振可能なスペクトルは図3(a)となる。従ってクロック周波数fcを変化させた場合に図3(b),(c)に示すように、波長掃引中のモードロックされる共振器モードの選択性が落ち、結果的に隣接する複数のモード、即ち多モードで発振してしまう。また共振器長が長い場合、波長掃引中にその波長を発振している間の光が共振器中を周回する回数が減り、レーザの共振増幅が弱くなり、これによっても発振スペクトルが拡がる要因となる。従ってモードロックレーザの波長を高速走査させた場合には、波長走査型光コヒーレンストモグラフィで必要とされる高コヒーレンス性つまり狭発振スペクトル線幅が維持できず、スペクトルが太くなってしまうという問題があった。さらに前述のように波長選択性が劣化したり共振増幅が弱くなると、波長掃引範囲を狭くする要因ともなる。従ってこのレーザ光源を光断層画像表示システムに適用した場合には、画像の深達度、分解能が低下するという欠点があった。
【0014】
本発明はこのような従来の分散型モードロックレーザの問題点に鑑みてなされたものであって、波長を変化させることができ、高速で高コヒーレンスのレーザ光源を実現し、これを用いて高深達、高分解能の光断層画像表示システムを提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題を解決するために、本発明の光断層画像表示システムは、波長可変型レーザを含み、周期的に光の発振波長を走査する波長走査型光源と、前記波長走査型光源からの光を参照光と物体への照射光とに分岐し、物体からの反射光と参照光との干渉光を発生する干渉光学計と、前記干渉光学計より得られる干渉光を受光し、ビート信号を得る受光素子と、前記受光素子からの出力をA/D変換するA/D変換部を有し、干渉信号をフーリエ変換することにより、前記物体の断層画像を形成する信号処理部と、を具備し、前記波長走査型光源は、外部共振器と、前記外部共振器の内部に設けられ、対向する一対の回折格子を有する波長分散素子と、前記外部共振器内の光を増幅する半導体光増幅器と、前記半導体光増幅器に加えるモードロック信号の周波数を変化させるモードロック信号発生部と、を有し、モードロック信号を変調することによって波長を可変するものである。
【0016】
ここで前記波長走査型光源の外部共振器の共振器長は、10m以下としてもよい。
【0017】
ここで前記信号処理部のA/D変換部は、モードロック信号の周波数の整数倍及び整数分の1のいずれかのサンプリング周波数でA/D変換するものとしてもよい。
【0018】
ここで前記信号処理部は、モードロック信号を外部クロックとして用いて前記A/D変換部にてサンプリングするようにしてもよい。
【0019】
ここで前記モードロック信号発生部は、前記波長走査型光源のレーザ発振周波数が時間的に直線的に掃引するよう補正した関数でモードロック信号の周波数を変化させるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
このような特徴を有する本発明によれば、モードロックのためゲイン媒体である半導体光増幅器に電流を注入する際にその注入電流のクロック信号周波数を連続的に掃引することにより、波長走査が可能となる。本発明では分散補償用のファイバを使う場合に比較して、短い外部共振器長で相対的に大きな分散値を得ることができる。従って外部共振器長を短くすることによって、レーザ発振するスペクトルの隣接モード数を減らし、狭スペクトルのレーザ光を発振させることができる。この光源を用いることによって断層画像の深達度を向上させることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1はモードロックレーザの発振原理を示す図である。
【図2】図2はモードロックレーザの分散素子を用いてクロック周波数を変化させた場合のレーザ発振状態を示す図である。
【図3】図3は分散素子の共振器長が長い場合の分散素子を用いたモードロックレーザの発振状態を示す図である。
【図4】図4は本発明の第1実施の形態による光断層画像表示システムの全体構成を示す図である。
【図5】図5は本実施の形態に用いる波長走査型光源の構成を示す図である。
【図6】図6は波長走査型光源の光学部分を示す図である。
【図7】図7は本実施の形態の変調信号と、モードロック信号の波形を示す図である。
【図8】図8は時刻t1,t3と時刻t2,t4のタイミングでのレーザ発振のスペクトルを示す図である。
【図9】図9はレーザ光源の光パルスと干渉信号及びサンプリングのタイミングとの関係を示す図である。
【図10】図10はレーザ光源の光パルスと干渉信号及びサンプリングのタイミングとの関係を示す図である。
【図11】図11は本発明の第2実施の形態による光断層画像表示システムの全体構成を示す図である。
【図12】図12は時間軸に対する発振周波数の変化を示す図である。
【図13】図13は変調信号とモードロック信号との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施の形態)
図4は本発明の第1の実施の形態による波長走査型光源を用いた光断層表示システムの全体構成を示すブロック図である。本図において波長走査型光源10には一定の周波数範囲の光信号を発振する波長可変型のモードロック型のレーザ光源を用いる。この波長走査型光源10の出力は光ファイバ11の一端に与えられる。光ファイバ11の他端にはコリメートレンズ12及び参照ミラー13が設けられている。又光ファイバ11の中間部分には、他の光ファイバ15を接近させて干渉させる結合部14が設けられる。光ファイバ15の一端には、波長走査型光源10から結合部14を介して得られた光信号を平行光とするコリメートレンズ16、光をスキャニングするスキャニングミラー17が設けられる。スキャニングミラー17は紙面に垂直な軸を中心にして一定範囲で回動することによって平行光の反射角度を変化させるものである。集束レンズ18はこの反射光を受光する位置に配置し、測定部位へ光を集束すると共に水平方向にスキャニング(走査)する。ここで結合部14から参照ミラー13までの光学距離L1と、結合部14から測定部位の表面までの光学距離L2とを等しくしておく。さて光ファイバ15の他端にはレンズ19を介してフォトダイオード20を接続する。フォトダイオード20は、参照ミラー13からの反射光と測定部位で反射された光の干渉光を受光することによって、そのビート信号を電気信号として得る受光素子である。ここで光ファイバ11,15と結合部14、コリメートレンズ12、参照ミラー13、コリメートレンズ16、スキャニングミラー17、集束レンズ18は干渉光学計を構成している。
【0023】
さてフォトダイオード20の出力は増幅器21を介して信号処理部22に入力される。信号処理部22は後述するように干渉計から得られる受光信号をフーリエ変換することによって、断層画像信号を得るものである。
【0024】
次に本発明の第1の実施の形態で用いる波長走査型光源10について更に説明する。図5はこの波長走査型光源10の全体構成を示す図である。図5においてミラー31の側方には一対の回折格子32,33が回折面を対向させて平行に図示のように傾斜して配置されている。本実施の形態では波長分散素子を回折格子32,33の対により構成し、波長走査範囲の短波側と長波側での共振器長に差をつけ、波長に応じた遅延量を発生させている。そしてこの回折格子33の側方には外部共振器内を通過する光を集束させるレンズ34と半導体光増幅器(以下、SOAという)35が設けられる。SOA35はその図示の右端が反射面として構成されており、ミラー31とSOA35の右端との間が外部共振器を構成する。SOA35の端面を反射面とせず、SOA35の外側に更にミラーを設けて外部共振器をすることもできる。そしてこのSOA35からは一部の光がレーザ光としてレンズ36を介して外部に出力される。
【0025】
さて変調信号部37は所定ののこぎり波状の信号を変調信号としてモードロック信号発生部38に与えるものである。モードロック信号発生部38は変調信号に基づいて周波数が連続的に変化する信号をモードロック信号としてバイアスティ39に加えるものである。バイアスティ39には電流源40も接続され、注入電流が変調されて強度変調信号としてSOA35に与えられる。
【0026】
次に分散デバイスを構成する一対の回折格子32,33とミラー31との位置関係について図6を用いて説明する。ここで回折格子32,33の格子ピッチをaとし、回折格子33への入射角と反射角をθ1,θ2とすると、これらの間には次式の関係が成り立つ。
λ=a(sinθ1+sinθ2) ・・・(4)
ここで波長走査型光源の発振波長が最も短い波長をλ1、最も長い波長をλ2とする。ここで入射角θ1は一定であるが、反射角θ2は波長によって異なるので、波長λ1,λ2のときの反射角θ2を夫々θ2(λ1),θ2(λ2)とする。又最も短い波長の場合にミラー31と回折格子32との間の長さをL4とし、図5に示すように回折格子33とSOA35の反射面との距離をL5とする。このとき最も短い波長λ1の外部共振器長L(λ1)は次式で示される。
L(λ1)=L3/cosθ21)+L4+L5 ・・・(5)
又最も長い波長λ2の場合には外部共振器長L(λ2)は次式で示される。
L(λ2)=L3/cosθ2(λ2)+L4+L3sinθ1(tanθ2(λ2
−tanθ2(λ1))+L5 ・・・(6)
そして外部共振器長の往復分の差は次式で示される。
2ΔL=L(λ1)−L(λ2
=2L3{(1/cosθ2(λ1)−1/cosθ2(λ2))
−sinθ1(tanθ2(λ2)−tanθ2(λ1))} ・・・(7)
【0027】
ここで回折格子32,33の格子ピッチaを0.74μm、波長λ1を1260nm、λ2を1360nm、L3を100mm、θ1を72degとする。図示のようにx軸に平行な光が回折格子33に入射し、その入射角をθ1とすると、波長λ1,λ2の光ビームに対する回折格子33の反射角(回折角度)θ2(λ1),θ2(λ2)は以下のようになる。
θ2(λ1)=49deg
θ2(λ2)=62deg
又外部共振器長の変化分ΔLについては
2ΔL=−270mm
と求められる。
【0028】
この分散値から遅延量Δτは次式で示される。
Δτ=ΔL/c=-900psec
遅延量Δτを発振波長1260nmから1360nmへの変化分Δλ(100nm)で割ると、分散値Dとして-9psec/nmが求められる。これは非特許文献1に示されている分散型光ファイバの分散値、即ち単位長さ当たりの分散が-100psec/nm/km程度の光ファイバを100m用いた場合の分散値とほぼ等しい。例えば、非特許文献1で言及されている分散可変に必要な|-90ps/nm/kmx100m|=10ps/nmを得るのに、本実施の形態のように一対の回折格子を用いた場合は、そのおよそ千分の1程度の長さで同程度の分散値の分散素子を得ることができる。従って下記構成では、発振波長が1260nmから1360nmまでの100nmの可変範囲のレーザ光源を例えば5m以下の共振器長で実現できる。
【0029】
さて図4において信号処理部22は増幅器21からの出力をA/D変換するA/D変換部51、A/D変換出力をフーリエ変換するフーリエ変換回路52と、フーリエ変換した信号を画像情報とするCPU53によって構成されている。CPU53の出力は画像を表示するモニタ54に与えられる。
【0030】
次に本実施の形態の動作について説明する。信号変調部37は図7(a)に示すように時刻t1〜t2,t3〜t4・・・の間に連続的に変化するのこぎり波状の波形をモードロック信号発生部38に出力する。モードロック信号発生部38はこの変調信号に応じて周波数fc1〜fc2までのサイン波状のクロック周波数を連続的に変化させつつ連続的に変化させたモードロック信号を発生させる。この信号は電流信号として一定のバイアス電流に重畳するようにバイアスティ39に加えられる。これによって図8(a)に示すように、クロック信号の周波数fcがfc1では1260nmのレーザ光がパルス発振し、クロック周波数がfc2では1360nmのレーザ光がパルス発振する。パルス発振繰り返し周波数は夫々fc1(240MHz),fc2(231MHz)の周波数に対応している。図8(a)は時刻t1,t3でのレーザ光の発振スペクトル、図8(b)は時刻t2,t4でのレーザ光の発振スペクトルである。ここで図7(a)に示す変調信号の繰り返し周期は任意に選択することができ、機械的な動作部分がないので周期を短くしたとしてもレーザのパルス発振波長がこれに追従して高速に発振波長を掃引することができる。
【0031】
さて図6に示す分散素子の分散が一次分散だけであると仮定すると、クロック周波数fcを線形に掃引する場合、発振波長λは線形に変化する。しかし、レーザ発振はクロック周波数fcに応じたパルス発振であるため、A/D変換部51のサンプリング周波数とタイミングを合わせる必要がある。つまり、A/D変換部51のサンプリング周波数はモードロック周波数の整数倍あるいは整数分の1とする必要がある。
【0032】
図9,図10はこの干渉信号とサンプリング列及び光パルスの夫々異なる例を示している。図9(a)〜(c)はフォトダイオード20に得られる干渉信号、サンプリング列、及びレーザ発振によって得られる光パルスの関係を示している。本図に示すように光パルスに同期させて干渉信号をサンプリングすることによって情報の漏れなく干渉信号をサンプリングすることができる。又図10に示すように、サンプリング周波数をモードロック周波数の1/2とした場合にも漏れなくデータを収集することができる。図示していないが、整数倍及び整数分の1の場合も同様に情報の漏れなくデータを得ることができる。
【0033】
ここで分散可変型の波長掃引レーザでは、波長可変範囲Δλは、繰り返し周波数の可変範囲をΔF、共振器内の分散素子の分散値をD、次数をmとすると、次のように表される。
Δλ=−(n0/cDmFSR)・ΔF
=−(L/Dm)・ΔF
【0034】
ここで係数であるL/Dmは、繰り返し周波数Fに対する波長可変の感度(傾斜)を表す。そして感度L/Dmが小さいほど波長の選択性が高くなる。逆に感度L/Dmが高すぎると、モード間隔が近い成分が多いということなので波長選択性が悪くなり、その結果発振時のスペクトル幅が拡がる。共振器長Lが小さいか、分散Dが大きいか、次数mが大きい(Fが高い)ほど、感度値が小さくなる。分散補償ファイバでは分散値Dを大きくするためにはファイバの長さを長くしなければならないので、共振器長Lが長くなり、逆に共振器長Lを短くするためには分散値Dが小さくなり、感度を小さく設定できる条件の範囲に制約がある。
【0035】
一方本発明では分散D、共振器長Lを夫々独立に設定できるため、Dは大きくとれ、共振器長Lも短くして、感度を小さくすることが可能となる。これにより波長選択性の高い条件を設定することができる。
【0036】
例えば前述のように、同じ分散を得るのに、分散補償ファイバでは100mファイバ長が必要であるのに対して、本発明では共振器長Lを従来より短く、10m以下、好ましくは1m以下とすることができ、感度を小さくするように設計可能となる。更に感度が小さくなることによって選択性が上がる効果に合わせて、共振器長が短い場合、共振器内の光が周回する回数が増えるので、共振効果も高まり、発振スペクトルを更に狭線化できる。つまり結果的にコヒーレンス長を大きく改善することができる。
【0037】
(第2の実施の形態)
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態においてモードロック周波数は掃引された周波数分変化するので、A/D変換部51のサンプリングのタイミングが等時間間隔である場合、一走査の間に、光源の発振パルスのタイミングとA/D変換のタイミングとがずれてくる場合があり得る。このためモードロック信号の掃引範囲が大きければ見掛け上、非線形特性が重畳され、光断層画像の深さ方向の分解能が劣化する可能性がある。第2の実施の形態では、この問題点を解消するものである。
【0038】
図11は第2の実施の形態の全体構成を示すブロック図であり、前述した実施の形態と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略する。この実施の形態では図4に示す波長走査型光源10のモードロック信号発生部38からの信号を整形し外部クロックとして信号処理部22のA/D変換部51に与えている。A/D変換部51はモードロック信号のタイミングに応じてサンプリングを行うものである。こうすることによって、A/D変換のサンプリングのタイミングが一致し、この問題を解決することができる。
【0039】
(第3の実施の形態)
次に本発明の第3の実施の形態について説明する。この実施の形態も光源の発振パルスのタイミングとA/D変換のサンプリングのタイミングとのいずれに基づく時間に応じた光周波数が非線形に変化する場合に、逆関数で補正した時間応答でクロック周波数を掃引することによって非線形性を相殺するものである。
【0040】
前述したように図7(a)に示すようにモードロック信号を時間軸に対して直線的なのこぎり波とすると、共振器内に高次の分散成分がある場合図12に示すように時間軸に対してレーザ光の発振周波数fが非線形に変化する。ここで等時間間隔でレーザ光の発振周波数を検出し、その変化をf=g(t)とした関数を得る。そしてこの時間に対する周波数の変化が直線的となるように、即ちf=−at+bとなるように、逆関数となる変調信号を生成する。即ち次式
t=g-1(f)
を満たすようにモードロック周波数を変化させる。これは図13(a)に示すように非線形の変調信号を用いてモードロック信号を変調することに相当する。こうすれば発振周波数を直線的に変化させることができ、光断層画像の深さ方向の分解能を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は狭帯域で発振し、高速走査が実現できる波長走査型光源を用いることにより、物体の表面、および内部構造や生体組織の表皮下層断面の画像を観察する光断層画像表示システムに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 波長走査型光源
11,15 光ファイバ
12,16,19 コリメートレンズ
13 ミラー
14 結合部
17 スキャニングミラー
18 集束レンズ
20 フォトダイオード
21 増幅器
22 信号処理部
31 ミラー
32,33 回折格子
34 レンズ
35 半導体光増幅器
37 変調信号部
38 モードロック信号発生部
39 バイアスティ
40 電流源
51 A/D変換器
52 フーリエ変換回路
53 CPU
55 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長可変型レーザを含み、周期的に光の発振波長を走査する波長走査型光源と、
前記波長走査型光源からの光を参照光と物体への照射光とに分岐し、物体からの反射光と参照光との干渉光を発生する干渉光学計と、
前記干渉光学計より得られる干渉光を受光し、ビート信号を得る受光素子と、
前記受光素子からの出力をA/D変換するA/D変換部を有し、干渉信号をフーリエ変換することにより、前記物体の断層画像を形成する信号処理部と、を具備し、
前記波長走査型光源は、
外部共振器と、
前記外部共振器の内部に設けられ、対向する一対の回折格子を有する波長分散素子と、
前記外部共振器内の光を増幅する半導体光増幅器と、
前記半導体光増幅器に加えるモードロック信号の周波数を変化させるモードロック信号発生部と、を有し、モードロック信号を変調することによって波長を可変するものである光断層画像表示システム。
【請求項2】
前記波長走査型光源の外部共振器の共振器長は、10m以下である請求項1記載の光断層画像表示システム。
【請求項3】
前記信号処理部のA/D変換部は、モードロック信号の周波数の整数倍及び整数分の1のいずれかのサンプリング周波数でA/D変換するものである請求項1記載の光断層画像表示システム。
【請求項4】
前記信号処理部は、モードロック信号を外部クロックとして用いて前記A/D変換部にてサンプリングする請求項1記載の光断層画像表示システム。
【請求項5】
前記モードロック信号発生部は、前記波長走査型光源のレーザ発振周波数が時間的に直線的に掃引するよう補正した関数でモードロック信号の周波数を変化させるものである請求項1記載の光断層画像表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−196769(P2011−196769A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62521(P2010−62521)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(591102693)サンテック株式会社 (57)
【Fターム(参考)】