説明

光断層画像表示方法

【課題】歯牙の齲蝕部分や歯周ポケットの断面画像を鮮明に表示すること。
【解決手段】歯の表面や散乱抑制剤をあらかじめ塗布し、その後光干渉断層画像診断装置によって歯とその周辺部分の断層画像を表示する。あらかじめ散乱抑制薬剤を塗布しておくことにより、歯の表面での散乱が防止され光が内部に浸透する。そのため鮮明な断面画像を表示することができる。又歯周ポケットや齲蝕部分も他の部分の間とでコントラストが大きくなり、鮮明な画像を得ることができる。これにより正確な歯牙齲蝕領域や歯周ポケットの判定を客観的、非侵襲、非破壊に実現でき、そのことによって正確な治療や予防策を講じることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯周組織及び歯牙、歯牙齲蝕の診断又は検診のため薬液を応用した歯科用光断層画像表示方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
健康に関する現在の国民的な課題としてメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の克服が挙げられている。その克服には、生活習慣病の客観的な検診・検査による予防や早期診断・早期治療が不可欠である。口腔機能の低下の原因となり、その有病率が90%を越える歯牙齲蝕は生活習慣病と考えられている。現在の齲蝕診断技術の多くは視診や触診、X線診断が主体で歯科医師の技量や経験により診断が左右される傾向にある。また齲蝕検知液なども使用されているが、正確な歯牙齲蝕領域の検出は困難である。CO,C1等初期歯牙齲蝕において早期かつ適切な診断が求められているにもかかわらず、現状では歯牙齲蝕を早期診断するための検査値を画像化・数値化する客観的な診断技術はほとんど進んでいない。
【0003】
OCTは90年代初頭に開発され、断層画像診断法としては極めて安全な近赤外光と光学干渉計を応用した技術である。欧米諸国で眼科領域での臨床応用がなされ、現在日本でも広く普及している。OCTについては例えば非特許文献1に原理が記載されている。近い将来、OCTは口腔領域の新たな診断機器となるのみならず、消化器癌、肺癌の診断など臨床分野全般に渡る汎用診断技術として利用される可能性を有している分野である。
【0004】
一方、歯肉部周辺を観察するため、レーザ励起による蛍光計測やX線撮影等が行われる場合もある。蛍光計測の場合はポケットの深さや内部の状態を正確に把握するのが難しい。X線撮影では透過画像であるため断層が検出できず分解能も低いので、正確な歯槽骨の診断には不適切であり、被爆の危険性があるため、経過観察や治療処置の場合の同時診断等に頻繁に活用することができないという欠点があった。そこで客観的、非接触、非侵襲式で歯周ポケットの深さを測定することが求められている。現在、光干渉断層画像診断装置(OCT装置)が研究されており、歯科分野でも応用が期待されている。
【非特許文献1】Handbook of Optical Coherence Tomography,p41-43, Mercel Dekker, Inc. 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のOCT装置では、歯牙齲蝕によってできた歯牙欠損部位や軟化・変質した表層歯質などは画像化できるが、歯牙齲蝕や歯面表層下部の状態の正確な観察ができない。歯牙齲蝕の進行によって脱灰した部分の散乱が表面部分で非常に強く、そのためプローブ光が深部まで到達せず画像情報として乏しいので、歯牙齲蝕によって変化した領域の判別が困難であった。また、歯肉層に覆われた歯肉縁下部の歯牙齲蝕はとくに歯肉で光が吸収されその下の歯部の断層画像を鮮明に得られないという問題があった。
【0006】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであって、本発明の歯科用光断層画像表示方法は、歯面、歯牙齲蝕あるいは歯周組織に、歯牙齲蝕部位での光の散乱や正反射、複屈折、などの特性を制御する、あるいは歯牙齲蝕内部にも浸透しうる薬液を塗布することによって、光の深達度を改善し、また歯牙齲蝕領域を明確にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明の光断層画像表示方法は、歯の表面に反射、散乱抑制薬剤を塗布し、OCT装置により光源から光を分岐しその一部を歯槽骨の周辺に照射すると共に、分岐した他方の光を参照鏡に入射し、反射光を干渉させて差分信号を光検出器で検出し、前記OCT装置により取得した前記OCT信号を測定対象に対して光の照射位置を連続的に変化させ、取得した連続した2次元断層画像を抽出し、前記抽出された画像を表示するものである。
【0008】
この課題を解決するために、本発明の光断層画像表示方法は、歯牙の齲蝕部分に浸透し、非歯牙齲蝕部分とでコントラストが増すよう屈折率などを調整した薬液を塗布し、OCT装置により光源から光を分岐しその一部を歯槽骨の周辺に照射すると共に、分岐した他方の光を参照鏡に入射し、反射光を干渉させて差分信号を光検出器で検出し、前記OCT装置により取得した前記OCT信号を測定対象に対して光の照射位置を連続的に変化させ、取得した連続した2次元断層画像を抽出し、歯牙齲蝕領域を測定、表示するものである。
【0009】
この課題を解決するために、本発明の光断層画像表示方法は、歯牙の齲蝕罹患部分にOCTで画像検出のために増感物質を塗布し、OCT装置により光源から光を分岐しその一部を歯槽骨の周辺に照射すると共に、分岐した他方の光を参照鏡に入射し、反射光を干渉させて差分信号を光検出器で検出し、前記OCT装置により取得した前記OCT信号を測定対象に対して光の照射位置を連続的に変化させ、取得した連続した2次元断層画像を抽出し、画像の3次元処理を行い立体画像として描出し、齲蝕罹患部位を明確化するものである。
【0010】
この課題を解決するために、本発明の光断層画像表示方法は、OCT装置により歯部の断層画像を取得する際、歯部に光を照射した際、蛍光などを発生する薬液を塗布し、OCT装置により光源から光を分岐しその一部を歯槽骨の周辺に照射すると共に、分岐した他方の光を参照鏡に入射し、反射光を干渉させて差分信号を光検出器で検出し、前記OCT装置により取得した前記OCT信号を測定対象に対して光の照射位置を連続的に変化させ、取得した連続した2次元断層画像を抽出し、その蛍光分布をOCT断層画像と重ねて、測定、表示するものである。
【0011】
この課題を解決するために、本発明の光断層画像表示方法は、歯周ポケットに、歯肉部あるいは歯部と屈折率の近い薬液を注入し、OCT装置により光源から光を分岐しその一部を歯槽骨の周辺に照射すると共に、分岐した他方の光を参照鏡に入射し、反射光を干渉させて差分信号を光検出器で検出し、前記OCT装置により取得した前記OCT信号を測定対象に対して光の照射位置を連続的に変化させ、取得した連続した2次元断層画像を抽出し、歯肉部と歯周ポケットでの境界、あるいは歯と歯周ポケットでの境界での正反射を抑庄し、歯部の深部まで光を到達させ、歯肉に覆われた部分でも歯部の断層を測定、表示するものである。
【発明の効果】
【0012】
このような特徴を有する本発明によれば、OCTの非侵襲性、高空間分解能、客観性、同時性などの特性を生かし、歯牙齲蝕の診断へのOCTの臨床応用を行うことが可能となりより正確な歯牙齲蝕領域や歯周ポケットの判定を客観的、非侵襲、非破壊に実現でき、そのことによって正確な治療や予防策を講じることができる。
1.診断面においては、非侵襲下にて、齲蝕が画像化・数値化でき客観性のある適切な診断が可能となる。
2.診療面においては、偽害作用がなく診療中に同時に頻繁に診断に利用できるので、治療精度の向上が期待できる。
3.健診面においては、口腔内診査を行う歯科医師の主観に頼る歯科健診ではなく、CO,C1等初期歯牙齲蝕の画像診断が可能となり、客観性のある口腔検診システムを構築することができる。患者にも画像情報を的確に提供できインフォームドコンセントにも有効に利用することができる。齲蝕の早期客観的診断により早期治療が可能となり医療費の適正化にも寄与することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の実施の形態1による波長走査型光断層表示システムの全体構成を示すブロック図である。本図において波長走査型光源には一定の周波数範囲の光信号を発振する低コヒーレントのレーザ光源10を用いる。このレーザ光源10の出力は光ファイバ11に与えられる。この光ファイバ11の中間部分には、他の光ファイバ12を接近させて干渉させる結合部13が設けられる。光ファイバ12の一端には、レーザ光源10から結合部13を介して得られた光信号を平行光とするコリメートレンズ14、光をスキャニングするスキャニングミラー15が設けられる。スキャニングミラー15は紙面に垂直な軸を中心にして一定範囲で回動することによって平行光の反射角度を変化させるものである。対物レンズ16はこの反射光を受光する位置に配置し、測定部位へ光を集束すると共に水平方向にスキャニング(走査)する。又光ファイバ11の他端には、コリメートレンズ17を介して参照ミラー18が光軸に垂直に設けられている。ここで結合部13から参照ミラー18までの光学距離L1と、結合部13から測定部位の表面までの光学距離L2とを等しくしておく。さて光ファイバ12の他端にはレンズ20を介してフォトダイオード21を接続する。フォトダイオード21は、参照ミラー18からの反射光と測定部位で反射された光の干渉光を受光することによって、そのビート信号を電気信号として得る受光素子である。ここで光ファイバ11,12と結合部13、コリメートレンズ14、スキャニングミラー15、対物レンズ16、コリメートレンズ17、参照ミラー18は干渉光学計を構成している。
【0014】
さてフォトダイオード21の出力は増幅器22を介して信号処理部23に入力される。信号処理部25は後述するように干渉計から得られる受光信号をフーリエ変換することによって、断層画像信号を得るものである。
【0015】
又信号処理部23からの出力は画像処理部24に与えられる。画像処理部24は後述するように2次元画像から歯周ポケットや歯槽骨の高さレベルを検出し、表示画像を検出するものである。こうして生成された表示画像は表示部25によって表示される。
【0016】
次に本実施の形態の動作について説明する。この実施の形態では測定前にあらかじめ歯面に光の散乱を抑える散乱抑制薬液を塗布しておく。この薬剤としては、例えば5%メタクリル酸メチル−p−スチレンスルホン酸共重合体の水性マルジョンの(A)液と2.13%シュウ酸(B)液を使用時に等量混合するMSコートを用いる。こうして前述したようにレーザ光源10を駆動し、これによって光ファイバ11を介して信号光が参照ミラー18及び物体にまで照射され、その反射光が結合部13を介して得られる。そのビート周波数がフォトダイオード21に得られる。これを増幅することによって信号処理部23に得られる。又信号処理部23ではフォトダイオード21の出力をフーリエ変換することにより断層画像が得られる。そしてスキャニングミラー15を回動させることによって光の入射位置を変化させ、これによって2次元の断面画像を得ることができる。
【0017】
このように適切な薬剤を塗布しておくことによって、表面での散乱が少なくなり光が深部まで到達し、より深い領域までのOCT画像を鮮明に表示することができる。又、この干渉計自体又は測定対象をスキャニングミラー15による光の走査方向と垂直に移動させることにより、3次元断面画像を得ることができる。
【0018】
また歯牙齲蝕に前述したMSコートを塗布するようにしてもよい。この薬液は、軟化した歯牙齲蝕部により浸透しやすく健常部には浸透しにくい。つまり、意図的に屈折率差の大きい境界を作れば、正反射により歯牙齲蝕領域の境界が鮮明に画像化される。
【0019】
次に図2Aは齲蝕のない状態での薬剤を塗布しない状態での歯牙の断層画像の一例を示す図、図2Bは前述したMSコートを塗布した場合の歯牙の断層画像を示す図である。これらの図に示すように、物質を塗布した場合には、表面の反射を抑えることができ、その内部の状態をより明確に認識することもできる。
【0020】
又図3Aは初期の齲蝕C1の状態にある歯牙の、物質を塗布しない場合の断層画像を示す図、図3BはMSコートを塗布した状態での同一部分での断層画像を示す図である。これらの図に示すように、物質を塗布することにより、表面の反射を抑えることができる。又齲蝕部分での光の散乱を防止することができ、内部の状態を的確に把握することもできる。
【0021】
塗布する物質は前述したMSコートに限らず種々の物質を用いることもできる。例えば塗布物質として歯周組織と屈折率の近い薬液を選択してもよい。そして歯周ポケットに塗布・注入することによって、歯肉部と歯周ポケットでの境界、歯と歯周ポケットでの境界での正反射を抑圧し、歯部の深部まで光を到達させ、歯肉に覆われた部分でも歯の断層を鮮明に画像化することができる。
【0022】
更に塗布物質として屈折率の低い薬液を選択し、歯周ポケットに塗布・注入することによって、歯と歯肉部の境界を明瞭化し、歯周ポケット全体およびポケット底部のアタッチメント部位をOCT画像上でより鮮明に描出することができる。
【0023】
ここで塗布物質として光に作用し蛍光などを発生する効果をもつ薬液などであれば、その蛍光の発光分布をOCT画像と筒時に記録することによって、歯牙齲蝕を検出することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態による光断層画像表示装置を示すブロック図である。
【図2A】齲蝕のない状態での薬剤を塗布しない状態での歯牙の断層画像の一例を示す図である。
【図2B】MSコートを塗布した場合の歯牙の断層画像を示す図本実施の形態による2次元画像の一例を示す図である。
【図3A】初期の齲蝕C1の状態にある歯牙の、物質を塗布しない場合の断層画像を示す図である。
【図3B】初期の齲蝕C1の状態にある歯牙の、MSコートを塗布した状態での断層画像を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 レーザ光源
11,12 光ファイバ
13 分岐部
14,17 コリメートレンズ
15 可動ミラー
16 対物レンズ
18 参照ミラー
21 フォトダイオード
23 信号処理部
24 画像処理部
25 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯の表面に反射、散乱抑制薬剤を塗布し、
OCT装置により光源から光を分岐しその一部を歯槽骨の周辺に照射すると共に、分岐した他方の光を参照鏡に入射し、反射光を干渉させて差分信号を光検出器で検出し、
前記OCT装置により取得した前記OCT信号を測定対象に対して光の照射位置を連続的に変化させ、取得した連続した2次元断層画像を抽出し、
前記抽出された画像を表示する光断層画像表示方法。
【請求項2】
歯牙の齲蝕部分に浸透し、非歯牙齲蝕部分とでコントラストが増すよう屈折率などを調整した薬液を塗布し、
OCT装置により光源から光を分岐しその一部を歯槽骨の周辺に照射すると共に、分岐した他方の光を参照鏡に入射し、反射光を干渉させて差分信号を光検出器で検出し、
前記OCT装置により取得した前記OCT信号を測定対象に対して光の照射位置を連続的に変化させ、取得した連続した2次元断層画像を抽出し、
歯牙齲蝕領域を測定、表示する光断層画像表示方法。
【請求項3】
歯牙の齲蝕罹患部分にOCTで画像検出のために増感物質を塗布し、
OCT装置により光源から光を分岐しその一部を歯槽骨の周辺に照射すると共に、分岐した他方の光を参照鏡に入射し、反射光を干渉させて差分信号を光検出器で検出し、
前記OCT装置により取得した前記OCT信号を測定対象に対して光の照射位置を連続的に変化させ、取得した連続した2次元断層画像を抽出し、
画像の3次元処理を行い立体画像として描出し、齲蝕罹患部位を明確化する光断層画像表示方法。
【請求項4】
OCT装置により歯部の断層画像を取得する際、歯部に光を照射した際、蛍光などを発生する薬液を塗布し、
OCT装置により光源から光を分岐しその一部を歯槽骨の周辺に照射すると共に、分岐した他方の光を参照鏡に入射し、反射光を干渉させて差分信号を光検出器で検出し、
前記OCT装置により取得した前記OCT信号を測定対象に対して光の照射位置を連続的に変化させ、取得した連続した2次元断層画像を抽出し、
その蛍光分布をOCT断層画像と重ねて、測定、表示する光断層画像表示方法。
【請求項5】
歯周ポケットに、歯肉部あるいは歯部と屈折率の近い薬液を注入し、
OCT装置により光源から光を分岐しその一部を歯槽骨の周辺に照射すると共に、分岐した他方の光を参照鏡に入射し、反射光を干渉させて差分信号を光検出器で検出し、
前記OCT装置により取得した前記OCT信号を測定対象に対して光の照射位置を連続的に変化させ、取得した連続した2次元断層画像を抽出し、
歯肉部と歯周ポケットでの境界、あるいは歯と歯周ポケットでの境界での正反射を抑庄し、歯部の深部まで光を到達させ、歯肉に覆われた部分でも歯部の断層を測定、表示する光断層画像表示方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2009−148337(P2009−148337A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326886(P2007−326886)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(591102693)サンテック株式会社 (57)
【出願人】(501304319)国立長寿医療センター総長 (9)
【Fターム(参考)】