説明

光発生装置、及び光発生装置の製造方法

【課題】良好な透明性を有する電子放出用素子を含んでなる光発生装置、並びに、その製造方法を提供する。
【解決手段】透明な電子放出用素子を含んでなる光発生装置であって、前記透明な電子放出用素子が、透明基材、及び前記透明基材上に配置された突起、を備えること、前記突起が、可視光を散乱させない大きさを有すること、並びに前記透明基材と前記突起とからなる部材上の、少なくとも前記突起が配置されている領域の露出面である突起配置面が導電性を有すること、を特徴とする光発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光発生装置に関する。より詳細には、本発明は、透明な電子放出用素子を含んでなる光発生装置に関する。また、本発明は、容易に実施可能な光発生装置の製造方法に関する。更に、本発明は、透明な電子放出用素子を含んでなる光発生装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会の進展等を背景として、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)等において電子放出用素子(エミッタ)として用いられる、微細な突起を表面に有するカソード電極の開発が益々盛んになってきている。かかる微細突起を表面に有するカソード電極の材料としては、従前より微細加工シリコンやダイヤモンド膜等の不透明な基材が使用されている。
【0003】
その後、カーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nanotube)やカーボンナノファイバー(CNF:Carbon Nanofiber)等を基材上に成長させる手法も開発されたものの、これらの手法においてもシリコン基板等の不透明な基材が使用されている。
【0004】
しかしながら、当該技術分野においては、両面ディスプレイやヘッドアップディスプレイ等、様々な用途への適用が期待されており、透明な電子放出用素子に対する需要が潜在的に存在している。
【0005】
本発明に関連する先行技術文献情報としては次のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−131475号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Applied Physics Letters 90 (2007) 143103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、良好な透明性を有する電子放出用素子を含んでなる光発生装置を提供することである。また、本発明のもう1つの目的は、容易に実施可能な光発生装置の製造方法を提供することである。本発明の更にもう1つの目的は、良好な透明性を有する電子放出用素子を含んでなる光発生装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、
透明な電子放出用素子を含んでなる光発生装置であって、
前記透明な電子放出用素子が、
透明基材、及び
前記透明基材上に配置された突起、
を備えること、
前記突起が、可視光を散乱させない大きさを有すること、並びに
前記透明基材と前記突起とからなる部材上の、少なくとも前記突起が配置されている領域の露出面である突起配置面が導電性を有すること、
を特徴とする光発生装置によって達成される。
【0010】
上記更にもう1つの目的は、
透明基材及び前記透明基材上に配置された突起を備え、前記突起が可視光を散乱させない大きさを有すると共に、前記透明基材と前記突起とからなる部材上の、少なくとも前記突起が配置されている領域の露出面である突起配置面が導電性を有する、透明な電子放出素子を含んでなる光発生装置の製造方法であって、
前記透明基材として有機高分子からなる材料を用いること、及び
前記透明基材に対してエネルギービーム照射を行うことによって前記透明基材上に前記突起を形成させる突起形成エネルギービーム照射ステップを含むことを特徴とする、光発生装置の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、良好な透明性を有する電子放出用素子を含んでなる光発生装置を提供することができる。また、本発明により、容易に実施可能な光発生装置の製造方法を提供することができる。更に、本発明により、良好な透明性を有する電子放出用素子を含んでなる光発生装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施態様に係る光発生装置において用いられる透明な電子放出用素子の表面上に形成された突起の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】本発明の一実施態様に係る光発生装置において用いられる透明な電子放出用素子をエミッタとして備える電界電子放出特性測定用試験片における、電界に対する放出発光電流密度のプロットを示すグラフである。差し込み図は、所謂「F−Nプロット」を示す(詳細については後述)。
【図3】本発明の一実施態様に係る、透明な電子放出用素子をエミッタとして備える電界放出ディスプレイの構成を示す概略図である。
【図4】本発明の一実施態様に係る、透明な電子放出用素子を陰極として備えるエレクトロルミネセンス素子の構成を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施態様に係る、透明な電子放出用素子を陰極として備える発光ダイオードの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、可視光を散乱させない大きさを有する微細な突起を透明な基材の表面上に配置すること、並びに前記透明基材と前記突起とからなる部材上の、少なくとも前記突起が配置されている領域の露出面(以降「突起配置面」と称する)に導電性を付与することにより、良好な透明性を有する電子放出用素子を得ることが可能であることを見出したことに基づくものである。前記突起が可視光を散乱させる大きさを有する場合は、透明な基材を使用した場合であっても、光散乱により前記電子放出用素子の透明性が損なわれるので好ましくない。
【0014】
より具体的には、本発明に係る光発生装置は、
透明な電子放出用素子を含んでなる光発生装置であって、
前記透明な電子放出用素子が、
透明基材、及び
前記透明基材上に配置された突起、
を備えること、
前記突起が、可視光を散乱させない大きさを有すること、並びに
前記透明基材と前記突起とからなる部材上の、少なくとも前記突起が配置されている領域の露出面である突起配置面が導電性を有すること、
を特徴とする光発生装置である。
【0015】
前記透明基材上に配置される前記突起の形状は錐形であることが望ましい。ここで言う「錐形」とは、底面の形状がほぼ円形のものから、底面の形状が三角形、四角形等の多角形であるものをも包含する。
【0016】
また、前記透明基材上に配置される前記突起の底面の最大幅は50〜380nm、好ましくは200〜300nmであることが望ましい。底面の最大幅が50nm未満である場合、かかる突起の形成が非常に困難となるので好ましくない。一方、底面の最大幅が380nmを超えると、可視光の散乱を招き、当該電子放出用素子の透明性が低下するので好ましくない。
【0017】
更に、前記透明基材上に配置される前記突起の底面から頂点までの高さは50〜380nm、好ましくは200〜300nmであることが望ましい。高さが50nm未満である場合、突起先端への電界の集中が減少し、電子放出素子におけるエミッタとしての機能が不十分となるので好ましくない。一方、高さが380nmを超えると、可視光の散乱を招き、当該電子放出用素子の透明性が低下するので好ましくない。尚、かかる突起の先端には、例えば、CNF等の細線が更に設けられていてもよく、かかる細線としては、直径が1〜100nm、長さが10〜300nmであるものが望ましい。
【0018】
次に、前記透明基材上に配置される前記突起の密度は、1×10〜4×10個/mm、好ましくは5×10〜1×10個/mmであることが望ましい。前記突起の配置密度が1×10個/mm未満である場合、電子放出点が少なく、光発生装置としての安定性、信頼性が低下するため好ましくない。一方、前記突起の密度が4×10個/mmを超えると、電界の遮蔽効果のため、却って電子放出特性が低下するので好ましくない。
【0019】
また、前記透明基材の形状はシート状であることが望ましい。この場合、本発明に係る光発生装置を、前述のFED等のパネル状の表示デバイス等の用途において利用することができる。尚、加工上の理由またはその他に理由により、シート状の形状を有する前記透明基材が、その一方の表面から他方の表面に通じる貫通孔を1個以上有していてもよい。例えば、シート状の形状を有する前記透明基材は、網目状もしくはメッシュ状の構造を有していてもよく、又は不織布もしくは多孔質材料等からなっていてもよい。
【0020】
更に、前記透明基材は可撓性を有することが望ましい。この場合、本発明に係る光発生装置を、湾曲面等を含む様々な形状の発光デバイスや表示デバイス等の用途において利用することができる。
【0021】
上述の如く、本発明に係る光発生装置において用いられる透明な電子放出用素子の基材としては、当然のことながら、透明な材料が使用される。かかる透明基材用の材料としては、有機高分子からなる材料を使用するのが望ましい。この場合、本発明に係る光発生装置の形状、大きさ(厚み、面積等)等に合わせて、透明な電子放出用素子の基材を柔軟に設計することができる。尚、かかる有機高分子材料としては、例えば、全フッ素化イオノマー、スチレン、ポリエチレン等が含まれる。尚、全フッ素化イオノマーの具体例としては、例えば、全フッ素化スルホン酸イオノマー、より具体的には、ナフィオン(Nafion)(登録商標)が挙げられる。
【0022】
好ましくは、上述の如き突起は、
前記透明基材として有機高分子からなる材料を用いること、及び
前記透明基材に対してエネルギービーム照射を行うことによって前記透明基材上に前記突起を形成させる突起形成エネルギービーム照射ステップを含むことを特徴とする、光発生装置の製造方法によって得ることができる。
【0023】
上記有機高分子材料としては、上記突起形成エネルギービーム照射ステップにおける室温でのエネルギービーム照射によって、その透明性を失わず、かつ突起を形成することが可能な、比較的低融点の有機高分子材料が望ましい。かかる有機高分子としては、例えば、前述と同様に、全フッ素化イオノマー、スチレン、ポリエチレン等を使用することができる。尚、全フッ素化イオノマーの具体例としては、例えば、全フッ素化スルホン酸イオノマー、より具体的には、ナフィオン(Nafion)(登録商標)が挙げられる。
【0024】
上記突起形成エネルギービーム照射ステップにおけるエネルギービーム照射の条件の一例として、イオンビーム照射を用いた場合の条件を以下に述べる。先ず、前述のようにイオンビーム照射時の基材温度は室温で差し支えないが、基材の透明性を維持する等の目的のために、透明基材として使用される有機高分子材料の熱特性に応じて加熱又は冷却が施されてもよい。次に、真空チャンバー内の到達圧力及び作動圧力は、それぞれ1×10−7〜1×10−2Pa及び5×10−3〜1Paとすることができる。
【0025】
イオンビーム照射に使用されるイオン銃としては、当該技術分野において一般的に使用されている市販のものを使用することができる。一例としては、米国Veeco Instruments社製カウフマン(Kaufman)式イオン銃(モデル:3−1500−100FC)を挙げることができる。照射にはArイオンを用いたが、他のイオンを使用することもできる。イオンビームの直径及び照射エネルギーは、それぞれ2〜50cm及び200〜2000eVとすることができる。また、イオンビームの照射時間は、5〜600秒の範囲で調整することができる。
【0026】
尚、上記条件はあくまでも一例であり、前記透明基材として使用される有機高分子材料の特性に応じて個々の条件を適宜調整することにより、透明性を維持しつつ、前述の形状、大きさ、配置密度を有する突起を形成することができる。
【0027】
あるいは、前記透明基材上に配置される前記突起は、エッチング技法、リソグラフィー技法、ナノプリンティング技法等の当業者に周知の様々な方法によって形成することができる。但し、これらの突起形成方法において使用される突起形成条件及び突起形成材料は、本発明に係る光発生装置において用いられる電子放出用素子の透明性を損なうものであってはならない。
【0028】
次に、本発明に係る光発生装置において用いられる透明な電子放出用素子が良好な電子放出特性を具備するためには、前述の「突起配置面」が導電性を有することが必要である。尚、ここでいう「電子放出特性」とは、具体的には、基材への電圧印加によって連続的に電子を放出する性質を指し、電流−電圧特性の測定によって評価・測定することができる。
【0029】
本発明に係る光発生装置において用いられる透明な電子放出用素子の製造方法が前述の「突起形成エネルギービーム照射ステップ」を含む場合は、突起形成エネルギービーム照射ステップにおいて、例えば、前記真空チャンバー内に設置された前記透明基材の近傍に、電気伝導体(例えば、銅、銀、金、黒鉛等)の粒子または蒸気が供給された雰囲気中でエネルギービームを照射することにより、前記透明基材の表面に前記突起を形成させるのと同時に、突起配置面の表面近傍に電気伝導体の微粒子を(混入・分散等によって)含有させたり、あるいは突起配置面の表面に電気伝導体の膜(導電性膜)を形成させたりして、これにより、上記導電性を達成することもできる。
【0030】
尚、前記真空チャンバー内に設置された前記透明基材の近傍に、電気伝導体(例えば、銅、銀、金、黒鉛等)の粒子または蒸気が供給された雰囲気中でエネルギービームを照射することにより、前記透明基材の表面に前記突起を形成させるのと同時に、突起配置面の表面近傍に電気伝導体の微粒子を(混入・分散等によって)含有させる上記方法は、突起配置面の表面に電気伝導体の膜(導電性膜)を形成させる上記方法と比較して、電気伝導体の微粒子が前記基材から脱離し難く、かつ前記突起先端の先鋭さ(シャープさ)を低下させ難いので、より好ましい。
【0031】
言うまでも無く、本発明に係る光発生装置において用いられる透明な電子放出用素子の突起配置面への導電性の付与方法は、上記に限定されるものではなく、突起配置面(又は前記透明基材と前記突起とからなる部材における、少なくとも突起配置面を含む部分)に導電性を付与することができる限り、当業者に周知の何れの方法であってもよい。但し、何れの方法によって導電性を付与する場合であっても、電子放出用素子の透明性を損ねるものであってはならない。
【0032】
例えば、上記導電性は、突起配置面上に導電層(導電性膜)を別途設けることによっても達成され得る。かかる導電性膜は、例えば、ITO(酸化インジウム・スズ)、酸化亜鉛、酸化スズ等の導電性物質を、例えば、塗布、蒸着、スパッタリング等、当業者に周知の方法によって設けることができる。尚、かかる導電性膜の厚みは0.2〜20nm、より好ましくは0.4〜10nmであることが望ましい。導電性膜の厚みが0.2nm未満である場合、導電性膜の連続性を保つのが困難となり、電子放出素子におけるエミッタとしての機能が不十分となるので好ましくない。一方、導電性膜の厚みが20nmを超えると、突起によって形成された凹凸が導電性膜によって埋められることにより突起先端のシャープさが低下したり、突起の高さが小さくなったりすることに伴い、突起先端への電界の集中が減少し、やはり電子放出素子におけるエミッタとしての機能が不十分となるので好ましくない。
【0033】
また、上記導電性は、例えば、前記透明基材及び前記突起を構成する材料として、導電性材料を選択することによっても達成され得る。かかる導電性材料としては、鎖状共役系導電性高分子(種々のドナーあるいはアクセプターを添加することによって導電性を向上させたものを含む)(例えば、ポリアセチレン等)等の導電性高分子や、高分子材料に導体(例えば、銅、銀、金、黒鉛等)を分散したもの(電気伝導性樹脂)を使用してもよい。
【0034】
本発明に係る光発生装置は、電界放出ディスプレイ用途に用いることができる。具体的には、本発明に係る光発生装置は、前記透明な電子放出用素子をエミッタとして備える電界放出ディスプレイとして利用することができる。より具体的には、図3に示されているように、透明な電子放出用素子をエミッタ301とし、その上にゲート電極302を設け、これらと所定の間隔を置きつつ、発光体層(蛍光体層や燐光体層)303及びアノード電極304をその上に積層されたアノード基板305を真空気密中に対向するように配置することにより、本発明に係る光発生装置を電界放出ディスプレイ300として構成することができる。
電界放出ディスプレイの動作原理やより詳細な製造方法等については当業者に周知であるので本明細書中での説明は割愛するが、上述のように本発明に係る光発生装置を利用することにより、透明な電界放出ディスプレイを得ることができるので、裏表の両側から観察可能なディスプレイ、ヘッドアップディスプレイ等、これまでに無い様々な用途への適用が可能となる。
【0035】
また、本発明に係る光発生装置は、エレクトロルミネッセンス素子用途に用いることもできる。具体的には、本発明に係る光発生装置は、前記透明な電子放出用素子を陰極として備えるエレクトロルミネッセンス素子として利用することができる。より具体的には、図4に示されているように、透明な電子放出用素子を陰極401とし、その上に発光体層402を設け、更にその上に、透明基板404上に金、沃化銅、酸化錫、又はITO等からなる導電層が形成されてなる陽極403を設けることにより、本発明に係る光発生装置をエレクトロルミネッセンス素子400として構成することができる。
エレクトロルミネッセンス素子の動作原理やより詳細な製造方法等については、当業者に周知であるので、本明細書中での説明は割愛するが、従前のエレクトロルミネッセンス素子においては、マグネシウム合金(例えば、銀・マグネシウム合金等)、アルカリ金属、ガリウム、インジウム、アルミニウム、カルシウム等が陰極に用いられることから、エレクトロルミネッセンス素子が不透明であったのに対し、本発明に係る光発生装置をエレクトロルミネッセンス素子として利用する場合は、透明な電子放出用素子が陰極として利用されるので、透明なエレクトロルミネッセンス素子を得ることができ、これまでに無い様々な用途への適用が可能となる。
【0036】
更に、本発明に係る光発生装置をエレクトロルミネッセンス素子として利用する場合は、陰極として利用される透明な電子放出用素子の表面上に前述の突起が多数配置されており、これらの突起の先端から効率よく電子を注入することができることから、エレクトロルミネッセンス素子における発光開始電圧(陰極からの電子放出が開始する閾値電圧)を下げることができる。尚、陰極からの電子注入が突起の先端に集中することに伴うエレクトロルミネッセンス素子全体としての輝度の低下については、発光点に対応する突起の配置密度が十分に高いこと、及び上述のように発光開始電圧が低いことに起因して、同じ発光電圧における輝度が従前のエレクトロルミネッセンス素子よりも高くなること等の理由により、結果として懸念に及ばない。
【0037】
同様に、本発明に係る光発生装置は、発光ダイオード用途に用いることもできる。具体的には、本発明に係る透明な光発生装置は、前記透明な電子放出用素子を陰極として備える発光ダイオードとして利用することができる。より具体的には、図5に示されているように、透明な電子放出用素子を陰極501とし、基板506上に設けられた陽極505との間に、pn接合503(p型半導体502とn型半導体504との接合部)を設けることにより、本発明に係る光発生装置を発光ダイオード500として構成することができる。
【0038】
発光ダイオードの動作原理やより詳細な製造方法等については、当業者に周知であるので、本明細書中での説明は割愛するが、発光ダイオードの陽極としては、(例えば、透明基板上に透明導電層を形成することによって得られる)透明な陽極が従前から使用されている。また、本発明に係る光発生装置を発光ダイオードとして利用する場合は、透明な電子放出用素子が陰極として利用される。従って、透明な半導体を使用してpn接合を設けることにより、透明な発光ダイオードを得ることができるので、これまでに無い様々な用途への適用が可能となる。尚、上述のような透明な半導体としては、例えば、ZnO系半導体が望ましい。
【0039】
また、図5に示されているように、本実施態様に係る光発生装置において用いられる透明な電子放出用素子は、その表面上に前述の突起が多数配置されていることから、かかる透明な電子放出用素子を陰極501として利用した場合、この陰極の上に設けられるpn接合503の形状も、これらの突起の存在に起因して凹凸の多いものとなり、その結果、発光部分の面積が著しく増大し、従前の発光ダイオードよりも高い輝度を実現することができる。
【0040】
以上のように、本発明によれば、良好な透明性を有する電子放出用素子を含んでなる光発生装置を得ることができる。
【0041】
以下に記載する実施例によって本発明を更に詳しく説明するけれども、本発明の技術的範囲は、これらの例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
1.透明な電子放出用素子の製造
本実施態様に係る透明な電子放出素子用の透明基材として、市販のナフィオン(Nafion)(登録商標)フィルム(厚み:約50μm、製品番号:NR−212、デュポン株式会社製)を10×10mmの大きさの正方形に切り出し、当該透明基材を、ターボ分子ポンプによって排気されている真空チャンバー内の水冷されている試料ホルダー上に置いた。当該透明基材に対して、前述のように、米国Veeco Instruments社製カウフマン(Kaufman)式イオン銃(モデル:3−1500−100FC)を用いてArイオンビームを照射することにより、当該透明基材上に微細な突起を形成した。イオンビームの直径及び照射エネルギーは、それぞれ6cm及び600eVとした。また、イオンビームの照射時間は30秒とした。更に、イオンビームの照射角度は、基材表面の法線方向とした。尚、上記真空チャンバー内の到達圧力及び作動圧力は、それぞれ1×10−5Pa及び5×10−2Paであった。すべての処理は室温において行った。
【0043】
尚、上記の如き微細な突起を形成するための技法として、プラズマ化学気相成長法(PECVD:Plasma Enhanced CVD)、レーザーアブレーション(Laser Ablation)、有機化合物の熱分解等の方法により、CNTやCNF等を基材上に成長させる手法も見出されている。しかしながら、これらの手法においては、例えば数百℃もの高い成長温度が必要とされるため、高い耐熱性を有する基材が必須であり、本発明の本実施態様において使用したような有機高分子材料からなる基材を使用することは困難である。
【0044】
仮に上記手法において有機高分子材料からなる基材を使用した場合、結果として、上記の如き高い成長温度に基材が耐えることができず、基材の寸法安定性のみならず透明性をも損ねることになる場合が多い。これに対し、本発明においては、本実施態様におけるように、室温前後でのイオンビーム照射によって基材上に突起を形成することができるので、有機高分子材料からなる基材を使用した場合であっても、基材の透明性を損なうことは無い。従って、この場合、良好な透明性及び可撓性を兼備する電子放出用素子を得ることができる。
【0045】
前述のようにして得られた本実施態様に係る透明電子放出素子は良好な透明性を有しており、上記イオンビーム照射の前後での透明性における差異は、目視では認められなかった。これは、上記イオンビーム照射によって形成された突起の大きさが、可視光の波長よりも小さいことに起因する。
【0046】
上記イオンビーム照射後の透明基材の表面上に、金の非常に薄い層を設け、上記イオンビーム照射によって形成された突起の形態を、走査電子顕微鏡(製品番号:JEM−5600、日本電子株式会社製)によって観察した。図1に示されているように、底面の直径が約200nm、高さが約300nmの円錐形の形状を有する突起が上記イオンビームの照射方向(基材表面の法線方向)を向いて形成されており、それらが当該透明基材の表面上に均一に配置されていることが確認された。また、SEM写真イメージから突起の配置密度を算出したところ、およそ6×10個/mmであった。更に、上記のように金の層の厚みを非常に薄くしたので、金の層を設けた後も十分な透明性が維持された。
【0047】
尚、本実施例においては金蒸着によって導電層を設けることによって、本実施態様に係る透明な電子放出用素子の突起配置面に導電性を付与したが、前述のように、ITO等を含む導電性材料を突起配置面に塗布したり、又は透明基材及び突起を構成する材料として導電性材料を選択したりすることによって、導電性を付与してもよい。あるいは、上記イオンビーム照射の際に、真空チャンバー内に設置された透明基材の近傍に電気伝導体製のターゲットを併置して同時スパッタリングを行う等、透明基材に電気伝導体の粒子または蒸気が供給された雰囲気中でスパッタリングを行うことにより、突起配置面の表面近傍に当該電気伝導体の微粒子を混入・分散させることによって、突起配置面に導電性を付与してもよい。
【0048】
更に、透明基材に対してエネルギービーム照射を行うことによって透明基材上に突起を形成させる工程(突起形成エネルギービーム照射ステップ)において、電気伝導体の粒子または蒸気が供給された雰囲気中で、レーザービーム照射、電子ビーム照射、イオンビーム照射等のエネルギービーム照射を行うことによって、突起配置面の表面近傍に電気伝導体の粒子を(混入・分散等によって)含有させることにより、突起配置面に導電性を付与してもよい。
【0049】
尚、上記雰囲気中への電気伝導体の粒子または蒸気の供給は、例えば、本実施例におけるように、エネルギービーム照射の際に、真空チャンバー内に設置された透明基材の近傍に電気伝導体製のターゲットを併置して同時スパッタリングを行うことによって達成してもよく、あるいは、電気伝導体の粒子または蒸気の供給源を別途設け、当該供給源において加熱やエネルギービーム照射(例えば、レーザービーム照射、電子ビーム照射、イオンビーム照射等)によって発生させた電気伝導体の粒子または蒸気を、透明基材上に突起を形成させるためのエネルギービーム照射が行われる真空チャンバー内に導入することによって達成してもよい。
2.透明な電子放出用素子の電界電子放出特性の評価
次に、上記のように製造された、本実施態様に係る透明な電子放出用素子の電界電子放出特性を評価した。上記のように製造された透明な電子放出用素子の上に、スペーサーによって100μmの間隔を空けて、当該透明な電子放出用素子に対向するように、アノード電極を配置した。尚、本実施例においては、市販のナフィオン(Nafion)(登録商標)フィルムに非常に薄い金コーティングを施したものをアノード電極として使用した。このように、本実施態様に係る透明な電子放出用素子の基材として可撓性を有する透明な有機高分子材料を使用し、かつアノード電極においても可撓性を有する透明な基材を使用することにより、全体として可撓性を有する透明な電子放出用素子を提供することができ、例えば、曲げることができる電界放出ディスプレイ等への応用が期待される。
【0050】
上記のようにして調製された試験片は、平行平板構成を有しており、図4に示されている電界放出ディスプレイの構成から、ゲート電極及び絶縁層を割愛した構成に該当する。当該試験片を、前述と同様の真空チャンバー内に設置し、真空チャンバー内の圧力を電界放出ディスプレイの典型的な作動圧力である3.0×10−4Paに調節した状態で、0〜1200Vの範囲の印加電圧における電界電子放出特性を測定した。
【0051】
図2は、上記測定の結果として、電界に対する放射電流密度のプロットを示すグラフである。10nA/cmの電流密度に対応するターンオン電界は、6.1V/μmであった。また、10μA/cmの電流密度を得るのに必要な電界として定義される閾値電場は、9.5V/μmであることが認められた。12V/μmにおける電流密度は、148μA/cmであった。
【0052】
図2の差し込み図は、上記測定結果に基づいて導かれた、所謂「ファウラー−ノルドハイム(Fowler−Nordheim)(F−N)」プロットを示す。F−Nプロットが直線に乗ることから、上記試験片の電子放射挙動は、F−Nモデルに従う事が示されている。尚、以下の式1(F−N式)を使用することによって、電界増大因子(β)を算出することができる。
【0053】
J=A(β/φ)exp(−Bφ3/2/βE) … 式1
上式中、Jは発光電流密度であり、βは電界増大因子であり、φは仕事関数であり、Eは電界であり、A及びBは定数であって、Aは電子放射面積、Bの値は6.83×10eV−3/2Vm−1である。ここで、上記試験片における仕事関数はグラファイトの仕事関数(5.0eV)と同等であるものと仮定した。その結果、上記試験片における電界増大因子(β)は約1000であることが判明し、本実施態様に係る透明な電子放出用素子が、高い電界電子放出特性を有することが確認された。
3.透明な電子放出用素子を備えた電界放出ディスプレイの表示実験
非常に薄い金コーティングを施した市販のナフィオン(Nafion)(登録商標)フィルムの代わりに、ITOを塗布したガラス基板をアノード電極として使用し、かつ当該アノード電極の上に、発光体層(燐光体層)として透明な酸化亜鉛(ZnO)を蒸着したことを除き、前述の電界電子放出特性評価用の試験片と同様にして、電界放出ディスプレイとしての表示実験用の試験片を作製した。
【0054】
上記のようにして調製された試験片を、前述と同様の真空チャンバー内に設置し、真空チャンバー内の圧力を電界放出ディスプレイの典型的な作動圧力である3.0×10−4Paに調節した状態で、1000Vの電圧を印加したところ、酸化亜鉛からなる発光体層に基づく緑色の発光が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明は、良好な透明性を有する電子放出用素子を含んでなる光発生装置提供する。また、本発明は、容易に実施可能な光発生装置の製造方法を提供する。更に、本発明は、良好な透明性を有する電子放出用素子を含んでなる光発生装置の製造方法を提供する。
【符号の説明】
【0056】
301…透明な電子放出用素子(エミッタ)、
302…ゲート電極、
303…発光体、
304…アノード電極、
305…アノード基板、
401…透明な電子放出用素子(陰極)、
402…発光体、
403…陽極、
404…陽極基板、
501…透明な電子放出用素子(陰極)、
502…p型半導体、
503…pn接合、
504…n型半導体
505…陽極、
506…陽極基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な電子放出用素子を含んでなる光発生装置であって、
前記透明な電子放出用素子が、
透明基材、及び
前記透明基材上に配置された突起、
を備えること、
前記突起が、可視光を散乱させない大きさを有すること、並びに
前記透明基材と前記突起とからなる部材上の、少なくとも前記突起が配置されている領域の露出面である突起配置面が導電性を有すること、
を特徴とする光発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光発生装置であって、前記突起の形状が、底面の最大幅が50〜380nm、底面から頂点までの高さが50〜380nmの錐形であることを特徴とする、光発生装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光発生装置であって、前記突起の配置密度が、1×10〜4×10個/mmであることを特徴とする、光発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光発生装置であって、前記透明基材の形状がシート状であることを特徴とする、光発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光発生装置であって、前記透明基材が可撓性を有することを特徴とする、光発生装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光発生装置であって、前記透明基材が有機高分子からなることを特徴とする、光発生装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光発生装置であって、前記透明基材が全フッ素化スルホン酸イオノマーからなることを特徴とする、光発生装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光発生装置であって、少なくとも前記突起配置面の表面近傍に電気伝導体の粒子が分散されていることを特徴とする、光発生装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光発生装置であって、導電性を有する前記突起配置面が、その表面に設けられた導電性膜を含んでなり、前記導電性膜の厚みが0.2〜20nmであることを特徴とする、光発生装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光発生装置であって、前記突起が、前記透明基材に対してエネルギービーム照射を行うことによって前記透明基材上に形成されたことを特徴とする、光発生装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光発生装置であって、前記光発生装置が、前記透明な電子放出用素子をエミッタとして備える電界放出ディスプレイであることを特徴とする、光発生装置。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光発生装置であって、前記光発生装置が、前記透明な電子放出用素子を陰極として備えるエレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする、光発生装置。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光発生装置であって、前記光発生装置が、前記透明な電子放出用素子を陰極として備える発光ダイオードであることを特徴とする、光発生装置。
【請求項14】
電子放出用素子を含んでなる光発生装置であって、
前記電子放出用素子が、
全フッ素化スルホン酸イオノマーからなる基材、及び
前記基材上に配置された突起、
を備えること、並びに
前記突起が、前記基材に対してエネルギービーム照射を行うことによって前記基材上に形成されたこと、
を特徴とする光発生装置。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載の光発生装置の製造方法であって、
前記透明基材として有機高分子からなる材料を用いること、及び
前記透明基材に対してエネルギービーム照射を行うことによって前記透明基材上に前記突起を形成させる突起形成エネルギービーム照射ステップを含むことを特徴とする、光発生装置の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の光発生装置の製造方法において、前記突起形成エネルギービーム照射ステップにおいて、電気伝導体の粒子または蒸気が供給された雰囲気中で前記エネルギービーム照射を行うことによって、前記突起配置面の表面近傍に当該電気伝導体の粒子を含有させることにより、前記突起配置面に導電性を付与することを特徴とする、光発生装置の製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載の光発生装置の製造方法において、前記突起形成エネルギービーム照射ステップの後に、前記突起配置面に導電性膜を形成させる導電性膜形成ステップを更に含むことを特徴とする、光発生装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−175850(P2011−175850A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38922(P2010−38922)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】