説明

内包体、内包体の製造方法および製造装置

【課題】外壁に付着した制御物質の除去が可能であり、安定した電気的特性を維持できる内包体等を提供する。
【解決手段】単層カーボンナノチューブと、該単層カーボンナノチューブのチューブ内に含まれた制御物質(フラーレンを除く)およびフラーレンを有し、前記制御物質は、前記単層カーボンナノチューブの電気特性を制御可能な物質であり、前記フラーレンは、前記制御物質よりも、前記単層カーボンナノチューブの開口部により近い側にそれぞれ設けられている、内包体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に種々の制御物質(特に、制御分子)を導入し、かつ、該SWCNTの開口部により近い側(特に、両端)にフラーレンを導入してなる内包体およびその製造方法および製造装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
SWCNTは、理想的な一次元量子細線であり、ユニークな輸送特性を持つ。この輸送特性を利用して、電界効果トランジスタ(FET)、分子配線、フィールドエミッタなどとして利用する研究が広く行われている(非特許文献1)。そして、SWCNTをこれらの応用に用いるには、目的に合わせて電気伝導特性を制御する必要がある。このためには、SWCNTに制御分子を内包させることで、自由電荷キャリアを増加させ、電気伝導特性を変化させることが有効であると考えられている。
内部をクリーニングしたSWCNTは、様々な分子を内包することができる。すでに、種々の制御分子を内包した例が報告がされており、内包するものの性質により、光特性、電子物性が大きくなり、かつ本質的に変化することが知られている(非特許文献2)。
しかしながら、上記の方法で得られたものは、制御分子がSWCNTの内部のみならず、外壁にも付着する。そして、SWCNTの外壁に付着した制御分子を取り除くため、過熱や溶媒洗浄を行うと、内包した制御分子も取り除かれてしまう。一方、SWCNTの外壁に付着した制御分子をそのままにしておくと、分光測定や電気測定において定量性を失わせ、例えば、FETに用いる場合、ヒステリシスが現れるといった問題も生ずる。
【0003】
【非特許文献1】Physical properties of carbon nanotubes, R.Saito ed., World Scientific Publishing Company,1998
【非特許文献2】Y.Iwasa et al. Nature Materials 2, p683, (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決することを目的とするものであって、外壁に付着した制御物質の除去が可能であり、安定した電気的特性を維持できる内包体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の下、発明者が鋭意検討を行った結果、下記手段により上記課題を解決しうることを見出した。
(1)単層カーボンナノチューブ、および、該単層カーボンナノチューブのチューブ内に含まれた、制御物質(フラーレンを除く)とフラーレンとを有し、前記制御物質は、前記単層カーボンナノチューブの電気特性を制御可能な物質であり、前記フラーレンは、前記制御物質よりも、前記単層カーボンナノチューブの開口部により近い側にそれぞれ設けられている、内包体。
(2)前記制御物質は、前記単層カーボンナノチューブに電子を注入する機能を有する物質である、(1)に記載の内包体。
(3)前記制御物質は、前記単層カーボンナノチューブにホールを注入する機能を有する物質である、(1)に記載の内包体。
(4)前記フラーレンは、C60である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の内包体。
(5)前記単層カーボンナノチューブの外壁に前記制御物質が付着していない、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の内包体。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の内包体を含む半導体材料。
(7)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の内包体を用いた電子素子。
(8)単層カーボンナノチューブ内に電子またはホールを注入する機能を有する物質を導入し、フラーレンを、前記単層カーボンナノチューブ内であって制御物質よりも開口部により近い側にそれぞれ導入することにより、単層カーボンナノチューブの電気的特性を制御する方法。
(9)気相状態の制御物質を単層カーボンナノチューブに導入して該気相状態の制御物質を固化する工程と、気相状態のフラーレンを前記単層カーボンナノチューブの前記制御物質よりもより開口部に近い側に導入して固化する工程とを含む、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の内包体の製造方法。
(10) 1つの真空空間内に、固体のフラーレン、固体の制御物質および単層カーボンナノチューブを配し、前記固体のフラーレンおよび前記固体の制御物質が配された箇所から、それぞれ、前記単層カーボンナノチューブが配された箇所へ前記固体のフラーレンが気化したフラーレンおよび前記固体の制御物質が気化した制御物質が移動可能な温度勾配が生じるように加熱する工程を含み、前記加熱は、前記固体のフラーレンが気化せず前記固体の制御物質が気化する温度で加熱した後、前記固体のフラーレンが気化する温度で加熱する、(9)に記載の製造方法。
(11)前記気化したフラーレン、前記気化した制御物質および前記単層カーボンナノチューブが、該順に温度勾配が生じるように配する、(10)に記載の製造方法。
(12)前記温度勾配において、前記単層カーボンナノチューブの制御物質より低い温度の側を冷却する工程を含む、(11)に記載の製造方法。
(13)前記冷却する工程により、不純物を固化して回収する工程を含む、(12)に記載の製造方法。
(14)前記内包体をさらに、前記フラーレンおよび/または前記制御物質が溶解する溶媒中で洗浄する、(9)〜(13)のいずれか1項に記載の製造方法。
(15)1つの空間内に、加熱部、該加熱部の熱により気化される試料が配される第1の配設部、単層カーボンナノチューブが配される第2の配設部が、前記第1の配設部から前記第2の配設部へ、前記熱により気化された試料が移動できるように温度勾配が生じるように設けられており、前記第1の配設部は、フラーレンが配設されるフラーレン配設部と、該フラーレンよりも低い温度で気化する制御物質が配設される制御物質配設部とを有する、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の内包体の製造装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、SWCNTの内部に制御物質を内包させ、かつ、外壁に付着した制御物質を除去することが可能になった。そのため、種々の電気的特性を制御しつつ、その電気的特性を安定に維持することが可能になった。
【0007】
さらに、本発明の内包体を採用することにより、SWCNTと内包された制御物質の相互作用についての基礎的な情報も得られることになる。
そして、光材料や電子材料等としての用途がさらに広がることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
尚、本発明における気化とは、液体が気体状態になるもののほか、固体が直接に気体状態になるものも含む趣旨である。
【0009】
本発明の内包体は、例えば、図1に例示されるように、SWCNT11内に、SWCNTの電気特性を制御可能な制御物質12とフラーレン13とが含まれている。さらに、フラーレンは、制御物質よりもSWCNTの開口部により近い側にそれぞれ設けられている。すなわち、フラーレン13によって、制御物質12がSWCNT11から流出しないように蓋の役割をしているのである。制御物質12は、SWCNT11の内壁に付着していてもよいし、中空にのみ存在していてもよい。
本発明の内包体では、制御物質は、制御物質に基づく影響が無い限り、脱離、酸化などによる劣化が起こらず、安定に存在する。従って、本発明の内包体は、電気特性の制御を行ったSWCNTとして、また、長期間にわたって安定性を保持したSWCNTとして利用することができる。
【0010】
SWCNT
本発明におけるSWCNTは、炭素を主成分とし、例えば、直径が0.7〜2nmの筒状の物質をいう。キャップ状の部分を有するものの場合、該キャップ状の部分は、取り除かれたものを採用する。
SWCNTは、半導体SWCNTであってもよいし、金属SWCNTであってもよい。本発明では、目的とする用途に応じて、SWCNTの種類を適宜定めることができる。
【0011】
本発明で使用するSWCNTは、直径が1〜1.7nmのものがより好ましく、1.2〜1.4nmのものがさらに好ましい。さらに、単層のグラファイトシートが円柱状に巻かれたものが好ましく使用される。
具体的には、High Pressure Cobalt Catalist(Carbon Nanotechnologies Inc.製)、CoMoCAT(Sowthweff Nanotechnogoly Inc.製)等を挙げることができる。
SWCNTは1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0012】
制御物質
本発明では、SWCNT内に導入可能であって、かつ、該SWCNTの電気特性を制御可能な物質であれば、特に制限なく広く採用することができる。
SWCNT内に導入可能な物質としては、SWCNTの径(長手方向に垂直な方向の径)の70%以下の大きさの物質が好ましい。一般的にSWCNTの径は、1.0〜1.4nmぐらいであるため、通常の分子であれば、殆どの分子がこれよりはるかに小さいため該当する。
また、制御物質は、好ましくは、常温で固体または液体であり、より好ましくは、常温で固体である。
【0013】
一方、SWCNTの電気特性を制御可能な物質とは、例えば、SWCNTに電子を注入する機能を有する物質やSWCNTにホールを注入する機能を有する物質が例示される。
例えば、半導体SWCNTに電子を注入する機能を有する物質を導入することで、フェルミレベルをひき上げ、半導体SWCNTに金属伝導性を持たせることができる。また、金属SWCNTと半導体SWCNTとが混合している試料について、電子を注入する機能を有する物質を導入することにより、伝導性を向上させることができる。さらにまた、半導体SWCNTに電子またはホールを注入する機能を有する物質を不純物として注入することで、pまたはn型半導体として利用することができる。すなわち、半導体SWCNTは、内包する制御物質によって、p型にもn型にも変えることが可能である。
【0014】
SWCNTに電子を注入する機能を有する物質としては、具体的には、有機金属錯体形成物質(例えば、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ))、含ベンゼン環化合物(例えば、ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン)等の電子供与性分子を用いることができる。
SWCNTにホールを注入する機能を有する物質としては、具体的には、ハロゲン(例えば、Br2、I2)、ジアゾニウム化合物(例えば、アゾベンゼン)等の電子吸引性分子を用いることができる。
制御物質は1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0015】
さらに、本発明では、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、上記制御物質に加えて、他の物質を内包させてよい。このような物質として色素が挙げられ、エレクトロクロルミネッセンス色素(EL色素)が好ましく、蛍光色素およびりん光色素がより好ましい。このような色素を内包させることにより、色素自体の空気酸化や熱分解を防げるといった利点もある。
蛍光色素としては、ポルフィリン、アルミキノリン錯体、ローダミン、クマリン、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(4-dimethlyaminostryl)-4H-pyran)等が挙げられ、りん光色素としては、イリジウムポリプロピレン錯体が挙げられる。
【0016】
フラーレン
本発明では、フラーレンは、SWCNTのチューブ内であって、制御物質よりも、SWCNTの開口部により近い側にそれぞれ設けられている。すなわち、フラーレンがSWCNTの開口部に蓋をする役割を果たしている。
フラーレンは、SWCNT内に導入されている場合、該フラーレンが導入されたSWCNTを加熱したり、溶媒で洗浄したりしても、容易にSWCNTから流出しないことが知られている。そのため、フラーレンを蓋として、SWCNT内に導入することにより、制御物質がSWCNTから流出してしまうのを抑止できる。その結果、制御物質により付与されたSWCNTの性質が安定して保持されるのである。
従って、本発明におけるフラーレンは、SWCNT内の制御物質より開口部に近い側にそれぞれ設けられていればよいが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他の部分、例えば制御物質の間等にも含まれていてもよい。
【0017】
本発明におけるフラーレンは、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に制限なく用いることができる。すなわち、SWCNT内に存在可能であって、加熱(例えば、800℃以下の加熱)や溶媒洗浄(例えば、有機溶媒による洗浄)によってSWCNT外へ流出しないフラーレンであれば特に定めるものではない。
ここで、SWCNT内に存在可能とは、SWCNT内に入れることができるものをいい、具体的には、SWCNTの径の70%以下の大きさの物質が好ましい。一般的にSWCNTの径は、1.0〜1.4nmぐらいであるため、通常のフラーレンであれば、これに該当する。
フラーレンとしては、具体的には、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96等を採用でき、C60が好ましい。フラーレンは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0018】
内包体の製造方法
本発明の内包体の製造方法は特に定めるものではないが、例えば、下記の方法により製造できる。
【0019】
気相中で行う方法
該方法は、0〜50℃で固体であり、気化する温度(例えば、昇華点等)がフラーレンより低い制御物質を用いる場合に好ましい。
この方法では、真空中で、気相状態の制御物質および気相状態のフラーレンをSWCNT内に導入する。好ましくは、気相状態の制御物質をSWCNT内に導入した後、気相状態のフラーレンをSWCNT内に導入する。特に、気相状態の制御物質がSWCNT内で固化した後、気相状態のフラーレンを導入して固化することが好ましい。
もちろん、フラーレンに比して、制御物質の量が多い場合等には、同時に気化して導入しても、本発明の内包体を製造できる。
制御物質およびフラーレンは、特定の部位で加熱して気化させ、その後該部位から温度勾配によりSWCNTに移動させて内包させることが好ましい。ここで、フラーレン、固体の制御物質、SWCNTをそれぞれ交じり合わないように配することが好ましい。特に、フラーレン、制御物質、SWCNTの順に温度勾配が生じて、気体が流れるように配すると、装置の簡略化が図れるとともに、制御物質とフラーレンが混合しにくくなり好ましい。
【0020】
具体的には、1つの真空空間内に、固体のフラーレン、固体の制御物質、SWCNTをそれぞれ固体状態で交じり合わないように配し、フラーレンおよび制御物質が配された箇所から、それぞれ、SWCNTが配された箇所へ気化したフラーレンおよび気化した制御物質が移動可能な温度勾配が生じるように加熱する。
気化は加熱により行うことが好ましく、最初に、制御物質が気化しフラーレンが気化しない温度で加熱し、その後フラーレンが気化する温度で加熱することが好ましい。このような手段を採用することにより、フラーレンと制御物質とがほとんど交じり合わずに内包できる。すなわち、気化した制御物質は、温度が低い方であるSWCNTの方向へ向かって移動し、SWCNT内に内包され、その後、気化したフラーレンが移動して、SWCNT内に内包される。この結果、SWCNT内であって、制御物質より外側、すなわち、開口部により近い側に含まれ、本発明の内包体が形成される。
温度勾配は、フラーレンおよび制御物質を気化するための熱によって形成されるが、後述するように冷却部(冷却装置)を設けて温度勾配が生じるようにしてもよい。
尚、ここでいう温度勾配とは、加熱部が加熱されることによりフラーレンおよび気化された制御物質がそれぞれSWCNT側に移動するように温度が変化していることをいい、必ずしも一定の割合で温度が変化していることを必須の要件とするものではない。
また、本発明でいう気化する温度は、対象となる物質が完全に気化する温度のみをさすのではなく、本発明の趣旨を達成できる範囲内であれば、対象となる物質の一部が気化する温度であってもよい。特に、制御物質が混合物の場合等は、昇華点がはっきりしない場合も多いが、このような場合、一部気化が始まる温度であってもよい。
【0021】
以下、図2を参考に詳細に説明する。
本実施形態では、図2(a)に示すように、真空中に、加熱部21、フラーレン22、制御物質23、SWCNT24、冷却部25が順に並んでいる。そして、制御物質23は、該真空中でSWCNT24側に開口部を有する空間(例えば、ガラス管)によってフラーレン22との間が隔てられている。これは、フラーレン22と制御物質23が混じりあわないよう、また、SWCNT側により移動しやすいよう、このようにされたものである。従って、このような隔てを設けなくてもよい。
また、真空は、例えば、ガラス管をゲージボートに接続して開閉バルブに挟んで真空装置と連結することにより作製することができる。もちろん、公知の他の方法を用いてもよい。真空度としては、10-5〜10-6Torrが好ましい。
さらにまた、真空状態にする前に、SWCNT24をリボンヒーター等で加熱(例えば、100〜200℃)しておき、真空状態にすることが好ましい。このような手段を採用することにより、SWCNT内に含まれている水や不純物を除去できるため好ましい。
【0022】
次に加熱を行う。加熱を行う部位は、図2(a)では、フラーレンおよび制御物質が存在する部位の周辺が加熱されている。本実施形態では、真空管の上下から、ガラス管を挟み込むような形状の加熱部を採用しているが、一方のみから加熱するようなで加熱部であってもよい。すなわち、真空空間内で温度勾配が生じ、SWCNTまで、フラーレンおよび気化した制御物質が移動できるように加熱することが必要である。従って、上記温度勾配が生ずる限り、必ずしも、フラーレン、制御物質、SWCNTの順に配されている必要はない。例えば、フラーレンと制御物質が固体状態で交じり合わないように分離しておけば、図2(b)のように、配することも可能である。
加熱は、まず、制御物質23が気化し、フラーレンが気化しない温度で加熱した後、フラーレンが気化する温度で加熱することが好ましい。このとき、SWCNT24自身の温度が、制御物質23が気化する温度より低くなっていることが好ましい。このような手段を採用することにより、よりスムーズに制御物質の固化が進むという利点がある。この場合の温度の差は、2℃以上であることが好ましい。この後、フラーレンが気化する温度で加熱し、気化したフラーレンがSWCNTのところまで移動し、SWCNT内に導入される。この一連の加熱は、フラーレンが気化しない温度で加熱した後、徐々に温度を上げてフラーレンが気化する温度としてもよいし、フラーレンが気化しない温度で加熱した後、一気に温度をフラーレンが気化する温度としてもよい。
【0023】
冷却部(冷却装置)は、公知の技術を採用できる。冷却部は、真空状態にする場合の真空バルブが痛まないように冷却したり、上記フラーレン、制御物質、SWCNTの一連の温度勾配を助けたりする役割を果たす。さらに、冷却部は、余分な物質(SWCNT内に含まれなかった残存物)が集まってくるため、冷却部が余分物質の回収部を兼ねていてもよい。回収部を兼ねる場合、例えば、水でひたしたガーゼを接触させて、蒸発した余分な制御物質を回収することが好ましい。
【0024】
さらに一連の操作の後、洗浄を行ってもよい。すなわち、SWCNTの外壁に付着した制御物質やフラーレンを除去する。洗浄は、制御物質および/またはフラーレンを溶解する溶媒中で、得られた内包体(フラーレンおよび制御物質が含まれたSWCNT)を超音波洗浄することが好ましい。制御物質とフラーレンの両方を溶解する溶媒の場合、同時に両方を除去する洗浄を行ってもよい。また、別々の溶媒に溶解して洗浄を行ってもよい。
従来の制御物質が含まれたSWCNTでは、このような洗浄を行うと、SWCNT内の制御物質も取り除かれてしまったが、本発明の内包体では、SWCNTの外壁に付着した制御物質だけを除去できるため、極めて好ましい。
【0025】
液相中で行う方法
0〜200℃で液体の制御物質を用いる場合に好ましく用いられる。本方法を採用することにより、液体状態の制御物質を内包した内包体が得られる。
例えば、図3に示す装置において、行うことができる。ここで、図3中、31は混合液を、32はスターラーを兼ねたヒーターを、33は冷却管を、34は冷却水の入り口を、35は冷却水の出口を、それぞれ示している。
混合液31は、制御物質、フラーレン、SWCNTを混合し、スターラーを兼ねたヒーター32上で、前記混合液を撹拌しながら、還流を行う。このときの温度は、制御物質の沸点よりやや上の温度(例えば、5〜10℃上の温度)とすることが好ましい。ここで、フラーレンの濃度を十分に低くしておくことにより、得られる内包体中の制御物質の割合が高くなる。
得られた内包体は、濾過して濾紙等の上に回収する。回収した内包体は、洗浄することが好ましい。この場合の洗浄も、上記気相中で行う方法の洗浄と同様の洗浄を行うことが好ましい。
【0026】
超臨界流体を用いた方法制御物質として、昇華させるとすぐに壊れてしまう分子(アゾベンゼン、DR1(poly-disperse-red 1 methacrylate)等)や蒸発させることが不可能な物質(直径1nm以下程度の金コロイド等)を導入する場合に特に有効である。
例えば、図4に示すような装置を用いて行うことができる。図4中、41は加圧ポンプを、42は圧力計を、43は超臨界セルを、44は窓を、45は恒温槽を、46は補集器をそれぞれ示している。
CO2の超臨界流体セルに、制御物質とフラーレンとSWCNTを入れて、CO2を注入しながら徐々に超臨界点まで加圧ポンプで圧力を上昇させる。超臨界セルは恒温槽に入れて、CO2の超臨界点よりやや上の温度に保つ。超臨界セルの出口には、得られた内包体を回収するための捕集器を設ける。得られた内包体は、濾過して濾紙等の上に回収する。回収した内包体は、洗浄することが好ましい。この場合の洗浄も、上記気相中で行う方法の洗浄と同様の洗浄を行うことが好ましい。
【0027】
用途
本発明の内包体は、SWCNTであって、種々の電気特性が制御されたものである。従って、従来から採用されているSWCNTの用途にさらに好ましく用いられる。
また、SWCNTは、シリコンや化合物半導体と比べて、結晶の構造欠陥に起因する局在順位がトランジスタ動作を妨げることがないために、非常に容易にトランジスタ動作を行うことが知られている。従って、本発明の内包体を用いることにより、すなわち、制御物質によりSWCNTのバンド構造を制御することによって、これまでにない新しい機能を有する高速トランジスタを実現できる可能性もある。
また、制御物質として、光異性化するもの、光によって大きなダイポールモーメントを誘起するものを用いることによって、これらのトランジスタに光制御機能を持たせることも可能になる。
【0028】
また、SWCNT内であって、中空だけに、制御物質を内包することによって、SWCNTと制御物質の相互作用について基礎的な情報が明らかになり、SWCNTの電気特性の制御の指針とすることができる。
以下、より具体的に本発明の内包体の利用について述べる。
【0029】
電子素子への利用
本発明の内包体は、金属または半導体のいずれとすることもできる。従って本発明の内包体は、電子素子として好ましく用いることができる。
特に、半導体的内包体は、電界効果トランジスター(FET)として用いることができる。図5はアンダーゲート型のFETの一例であって、酸化シリコン50の下のシリコン基板51をゲート電極として使っている。1本の内包体52が2つの電極(ソース電極53、ドレイン電極54)の上に張られていて、電流の流れるチャネルとして使われている。また、内包体にp型とn型の部分を設けて、これを論理回路に使うことも可能である。また、SWCNTの上に薄い絶縁層をつけたトップゲート型のFETとしても利用できる。
金属的内包体については、集積回路内の配線、1個の電子の出入りで動作する単一電子トランジスターなどへの応用が考えられる。
【0030】
ナノ電子機械
本発明の内包体は、SWCNTと同様の形状と機械的特性をうまく生かして、ナノ電子機械に用いることができる。
具体的には、走査型トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)などの探針型(プローブ)である。本発明の内包体はこれらの走査型プローブ顕微鏡の探針として用いるにあたり、直径がナノメートルの桁の細長い針であるという形状、機械的強度、表面の安定性(酸化や分子の吸着が起きにくい)等の利点を有している。本発明の内包体を、探針として用いることにより、従来の金属やシリコンで作製された探針では困難であった深い溝の観察が可能となり、さらに、DNAやタンパク質などの生物試料や無機物の表面の観察においても、従来の探針では得られない安定した高分解能像が得られる。特に、本発明の内包体は、SWCNTの特性を制御できるので、極めて好ましい。
【0031】
また、本発明の内包体は、メモリー素子としての利用可能性もある。2本の内包体を適当な間隔をあけて交差させると、内包体のチューブの間のファン・デル・ワールス力と弾性エネルギーの兼ね合いで、接触状態と非接触状態の双安定状態がつくり出される。2本の内包体の間に電圧をかけることにより、2つの安定状態(すなわちオンとオフ)を切り替えることで、不揮発メモリーとして使うことができる。
【0032】
電界放出の針(エミッター)
本発明の内包体は、電界放出の針(エミッター)としての利用可能性がある。特に、本発明の内包体を陰極材料として使うことにより、電界放出ディスプレイ(FED)として用いることが期待できる。
【0033】
水素貯蔵
また、本発明の内包体の束(集合体)には、内包体の内側と外側に細孔が存在するため、1枚のグラフェンの両面に気体分子を吸着することができる。特に、SWCNTとして単層SWCNTを用いた場合、該単層SWCNT自身が軽元素の炭素のみからできていて比重が小さいので、単位質量および体積当り多量のガスを貯蔵する。
特に、本発明の内包体は、制御物質を調整することにより、表面への水素分子の吸着力を高め、室温での吸着量を増すことが期待できる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
単層SWCNTとしてバッキーペーパーを、フラーレンとしてC60(マツボー製、C60>99.98%)を、制御物質としてp−ニトロアニリン(PNA)を用いた。
【0036】
図6に示す装置を用いて行った。石英管(1)61内にC60のパウダー62を入れた。更に、一回り小さい石英管(2)63にp−ニトロアニリン64を入れた。石英管(1)61に、該石英管(1)と開口部が同じ方向となるように、石英管(2)63を入れた。
さらに、石英管(2)を入れた石英管(1)中で、開口部により近い側に、バッキーペーパー65を置いた。
石英管(1)の開口部に真空バルブを装着し、真空ポンプ等で排気をした(図6の矢印の方向)。排気中、バッキーペーパーは石英管(1)の外側からリボンヒーターで200℃、2時間熱した。このことにより、SWCNTに吸着していた気体等の分子(水蒸気等)が取り除かれ、クリーニングされた。真空度が10-4Paオーダーになるまで排気した。排気後、真空バルブを閉め、電気炉66を設置した。この際、石英管(1)の先が、電気炉の中心に来るように設置した。これは、蒸気が全て一方向に流れるようにする為である。真空バルブの手前の冷却部67にて冷却した。
まず、120℃(p−ニトロアニリンが該気圧下で気化する温度)に、30分かけて昇温した。その後、この状態を2時間保った。この間にp−ニトロアニリンの蒸気がバッキーペーパーを包み、SWCNTのチューブ内に内包された。
次に、550℃(C60が該気圧下で気化する温度)に、30分かけて昇温した。その後、この状態を5時間保った。この間にC60の蒸気がバッキーペーパーを包み、SWCNTのチューブ内に内包され、内包体を得た。
自然冷却の後、得られた内包体を洗浄した。具体的には、SWCNTの外壁に付着しているp−ニトロアニリンを取り除くために、エタノール中で、その後アセトン中で、超音波洗浄をした。洗浄したものを、フィルターに回収し再び溶液に分散し、洗浄工程を数回繰り返した。その後、SWCNTの外壁に付着しているC60を取り除くために、トルエン中で超音波洗浄をした。洗浄後、濾過によって洗浄液と得られた内包体を分離した。
さらに、内包体を110℃の炉で過熱し、SWCNTの表面に付着している溶媒を蒸発させた。
【0037】
得られた内包体についてラマンスペクトルを測定した。その結果を図7に示す。図7中、(1)は本発明の内包体の、(2)は上記に記載の方法において、SWCNTにC60を導入する工程を行わなかったものの、(3)は上記に記載の方法において、p−ニトロアニリンを導入する工程を行わなかったものの、(4)はSWCNTのラマンスペクトルをそれぞれ示している。
ここで、図7(a)から明らかなとおり、(1)本発明の内包体のみに、1110cm-1〜1190cm-1の領域および1320cm-1あたりに、ピークが認められた。このピークは、p−ニトロアニリンのものであることが確認された。(2)について、p−ニトロアニリンが認められたかったのは、上記洗浄工程において、流れ出てしまったためである。
また、図7(b)から明らかなとおり、(1)本発明の内包体および(3)p−ニトロアニリンを導入していないものについては、1460cm-1〜1470cm-1の領域に、ピークが認められた。このピークは、C60のピークであることが認められた。
以上より、本発明の内包体は、SWCNT内に、p−ニトロアニリンが導入され、さらに、SWCNTに蓋をするように、C60がされていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の内包体の一例を示す図である。
【図2】本発明の内包体を気相中で製造する場合の装置を示した概略図である。
【図3】本発明の内包体を液相中で製造する場合の装置を示した概略図である。
【図4】本発明の内包体を、超臨界流体を用いて製造する場合の装置を示した概略図である。
【図5】本発明の内包体を電界効果トランジスタに利用した例を示す概略図である。
【図6】本願実施例1で用いた内包体の製造装置の概略図である。
【図7】本願実施例1で作製した内包体のラマンスペクトルである。
【符号の説明】
【0039】
11 SWCNT
12 制御物質
13 フラーレン
21 加熱部
22 フラーレン
23 制御物質
24 SWCNT
25 冷却部
31 混合液
32 スターラーを兼ねたヒーター
33 冷却管
34 冷却水の入り口
35 冷却水の出口
41 加圧ポンプ
42 圧力計
43 超臨界セル
44 窓
45 恒温槽
46 補集器
50 酸化シリコン
51 シリコン基板
52 内包体
53 ソース電極
54 ドレイン電極
61 石英管(1)
62 C60のパウダー
63 石英管(2)
64 p−ニトロアニリン
65 バッキーペーパー
66 電気炉
67 冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブ、および、該単層カーボンナノチューブのチューブ内に含まれた、制御物質(フラーレンを除く)とフラーレンとを有し、前記制御物質は、前記単層カーボンナノチューブの電気特性を制御可能な物質であり、前記フラーレンは、前記制御物質よりも、前記単層カーボンナノチューブの開口部により近い側にそれぞれ設けられている、内包体。
【請求項2】
前記制御物質は、前記単層カーボンナノチューブに電子を注入する機能を有する物質である、請求項1に記載の内包体。
【請求項3】
前記制御物質は、前記単層カーボンナノチューブにホールを注入する機能を有する物質である、請求項1に記載の内包体。
【請求項4】
前記フラーレンは、C60である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内包体。
【請求項5】
前記単層カーボンナノチューブの外壁に前記制御物質が付着していない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内包体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の内包体を含む半導体材料。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の内包体を用いた電子素子。
【請求項8】
単層カーボンナノチューブ内に電子またはホールを注入する機能を有する物質を導入し、フラーレンを、前記単層カーボンナノチューブ内であって制御物質よりも開口部により近い側にそれぞれ導入することにより、単層カーボンナノチューブの電気的特性を制御する方法。
【請求項9】
気相状態の制御物質を単層カーボンナノチューブに導入して該気相状態の制御物質を固化する工程と、気相状態のフラーレンを前記単層カーボンナノチューブの前記制御物質よりもより開口部に近い側に導入して固化する工程とを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の内包体の製造方法。
【請求項10】
1つの真空空間内に、固体のフラーレン、固体の制御物質および単層カーボンナノチューブを配し、前記固体のフラーレンおよび前記固体の制御物質が配された箇所から、それぞれ、前記単層カーボンナノチューブが配された箇所へ前記固体のフラーレンが気化したフラーレンおよび前記固体の制御物質が気化した制御物質が移動可能な温度勾配が生じるように加熱する工程を含み、前記加熱は、前記固体のフラーレンが気化せず前記固体の制御物質が気化する温度で加熱した後、前記固体のフラーレンが気化する温度で加熱する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記気化したフラーレン、前記気化した制御物質および前記単層カーボンナノチューブが、該順に温度勾配が生じるように配する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記温度勾配において、前記単層カーボンナノチューブの制御物質より低い温度の側を冷却する工程を含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記冷却する工程により、不純物を固化して回収する工程を含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記内包体をさらに、前記フラーレンおよび/または前記制御物質が溶解する溶媒中で洗浄する、請求項9〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
1つの空間内に、加熱部、該加熱部の熱により気化される試料が配される第1の配設部、単層カーボンナノチューブが配される第2の配設部が、前記第1の配設部から前記第2の配設部へ、前記熱により気化された試料が移動できるように温度勾配が生じるように設けられており、前記第1の配設部は、フラーレンが配設されるフラーレン配設部と、該フラーレンよりも低い温度で気化する制御物質が配設される制御物質配設部とを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の内包体の製造装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−70155(P2007−70155A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258403(P2005−258403)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】