説明

内燃エンジンを備えた作業機

【課題】安全性を向上するために、アイドル運転時にエンジン回転数が不用意に上昇して刃物が回転してしまうのを防止する。
【解決手段】始動時、スロットルバルブ10はファーストアイドル位置にある。起動初期のエンジン2は運転状態が不安定であるためエンジン回転数が上昇しない。運転状態が安定し始めると回転数が急激に上昇する。エンジン回転数(Ne)が4,000rpm以上になった時点で失火制御モードに入る。失火制御モードでは、エンジン回転数が4,500rpm以上になると失火処理が実行される(S4)。遠心クラッチ6は5,000rpmで係合するように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンソーや刈り払い機などの内燃エンジンによって刃物を駆動する小型作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯して木の伐採や草刈りを行う作業機としてチェーンソーや刈り払い機が知られている。この種の小型作業機は、一部に電動モータを駆動源とするものも知られているが、多くの場合、内燃エンジン(典型的には単気筒2サイクルエンジン又は単気筒4サイクルエンジン)が搭載され、そして、一般的には遠心クラッチを介してエンジンの動力を刃物に伝達する方式が採用されている(特許文献1)。
【0003】
また、この種の作業機には、一般的に気化器が採用されている(特許文献2〜4)。特許文献2〜4は、冷間スタート時及び熱間スタート時のエンジン起動に関する技術を開示しており、特許文献2は、作業者がエンジン出力を制御するために操作するスロットルコントロールトリガ及びセレクター(実質的なチョークノブ)とスロットルバルブ及び手動チョークバルブとの間の機械的な連携機構を開示している。特許文献3は、スロットルバルブと手動チョークバルブとの間の機械的な連携機構を開示している。同様に、特許文献4もスロットルバルブと手動チョークバルブとの間の機械的な連携機構を開示している。
【0004】
冷間時にエンジンを起動するときの手順の一例を説明すると次の通りである。
(1)チョークノブを操作してチョークバルブを全閉位置にすると共に、これに連動してスロットルバルブが「ファーストアイドル位置」に位置決めされる。
(2) エンジンがその起爆装置であるリコイル・スタータを備えているときには、リコイル・スタータのスタータグリップを何回か引っ張ってシリンダ内にフュエルリッチな混合気を送り込むと共に、このスタータグリップの引っ張り操作をシリンダ内で爆発が発生するまで続ける。一般的には、この操作で送り込まれる混合気は爆発を継続するには燃料がリッチ過ぎるため、エンジン回転は継続せず、数サイクルの爆発でエンジンが停止する。
【0005】
(3)次いで、チョークノブを操作してチョークバルブを全開位置に戻す。スロットルバルブは「ファーストアイドル位置」の状態に維持される。この状態で、再度、リコイル・スタータのスタータグリップを引っ張る操作を行うと、エンジンが持続的に回転する。
(4)スロットルコントロールトリガを操作すると、スロットルバルブとチョークバルブとの連携が切断されて、スロットルバルブがスロットルコントロールトリガの操作に対応した開度になる。つまり、スロットルコントロールトリガとスロットルバルブとが機械的に連携され、スロットルコントロールトリガの操作に対応したエンジン出力が得られる。次いで、スロットルコントロールトリガを解放するとスロットルバルブは「常用アイドル位置」つまり、ほぼ全閉位置に位置決めされる。したがって、エンジン起動後のスロットルコントロールトリガの操作は、スロットルバルブとチョークバルブとの連携を切断するための操作と言うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】JP特開2006−118499号公報
【特許文献2】JP特開昭51−111999号公報
【特許文献3】JP特開平11−229966号公報
【特許文献4】JP特表2009−511801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンジンの起動性を高めるにはスロットルバルブをある程度開いた状態で起動操作をするのが良い、ということが知られている。この観点から上述した「ファーストアイドル位置」が設定される。具体的に説明すると、「ファーストアイドル位置」のスロットル開度として、例えば7,000rpmの回転数に相当する開度が設定される。
【0008】
他方、「常用アイドル位置」は、エンジンの動作を維持できる程度のエンジン回転数、つまりエンジンが運転を停止しない程度まで吸気有効断面積を絞り込んだスロットル開度位置が設定される。この「常用アイドル位置」は例えば2,500rpm乃至3,500rpmのエンジン回転数を維持できる程度のスロットル開度(ほぼ全閉状態)に設定される。
【0009】
エンジン起動の際には、スロットルバルブがファーストアイドル位置に設定されるため、エンジン回転数が約7,000rpmぐらいまで上昇する可能性がある。しかし、この回転数まで上昇すると、遠心クラッチが係合状態になってしまうため、作業機の取り扱い説明書には、エンジンを起動する際に、刃物の回転を強制的に停止するブレーキ操作(ブレーキレバーのON操作)を行うように注意書きが付される。ちなみに、遠心クラッチは、一般的には、約5,000rpmで係合するように設定される。
【0010】
作業者が取り扱い説明書に従ってブレーキレバーをON操作した後に、エンジンの起動操作を行ったときには、このエンジン起動に伴ってエンジン回転数が上昇しても、ブレーキが締結状態にあるため刃物が動き出すことはない。ただし、この状態では遠心クラッチの摩擦要素が擦動している状態であるため、この状態が長く続くと遠心クラッチが発熱し、また、摩擦要素が摩耗する原因になる。他方、ブレーキレバーのON操作を忘れてエンジンの起動操作を行ったときには、エンジン起動後にエンジン回転数が安定して、エンジン回転数が遠心クラッチの係合回転数よりも高くなると、遠心クラッチのONによって、作業者の意図に反して刃物が動き始める。
【0011】
このような問題点を解消するには、エンジンの起動時の制御として、エンジンを起動させようとする時点ではエンジン起動の確実性を高めることのできるスロットル位置つまりスロットルバルブがある程度開いた開度位置に設定し、エンジン起動後に安定した運転状態になったらスロットル開度を小さくする制御を行えばよい。エンジン起動時のこのようなスロットル開度の制御は、スロットルバルブにアクチュエータを組み込んでアクチュエータを電子制御すれば比較的簡単に実現することができる。しかし、携帯式の作業機では小型で且つ軽量であることが求められることから、スロットルバルブにアクチュエータを組み込むことは部品点数の増加やコストの観点から極力避けたい解決方法である。
【0012】
本願発明の目的は、エンジン起動時におけるエンジン起動の確実性の確保しつつ遠心クラッチの非係合状態を維持できる内燃エンジンを備えた作業機を提供することにある。
【0013】
本願発明の他の目的は、作業機の刃物が作業者の意図に反して不用意に動作するのを防止することのできる内燃エンジンを備えた作業機を提供することにある。
【0014】
本願発明の別の目的は、遠心クラッチの摩耗を防止することのできる内燃エンジンを備えた作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者らは、エンジン起動時のエンジンの運転状態の変化と、遠心クラッチが係合する回転数との関係に着目して本願発明を案出するに至ったものである。起動時のエンジンの運転状態は、これを3つに大別して考えることができる。先ず、エンジンが起動し始めたごく短い時間では、動き始めたエンジンの運転状態は未だ不安定であり、平均回転数はそれほど上昇しない(起動初期)。次いで、エンジンの運転状態が安定し始めるとエンジン回転数が急激に上昇する(過渡期)。そして、最終的には、スロットルバルブのファーストアイドル位置に対応した回転数(例えば約7,000rpm)で安定化する(安定期)。
【0016】
この起動時のエンジンの運転状態の変化と、遠心クラッチの摩擦要素が係合を開始する回転数とを対比して検討すると、エンジン起動の初期では、遠心クラッチが係合する回転数まで上昇しない。遠心クラッチが係合するのは、過渡期のエンジン回転数が急激に上昇している過程で発生する。
【0017】
上記の技術的課題は、本発明の第1の観点によれば、
スロットルバルブを含む気化器を備え、該気化器から供給される混合気を点火装置によって着火させることにより動力を発生する内燃エンジンと;
該内燃エンジンと刃物との間に介装された遠心クラッチと;を備え、
該遠心クラッチが係合することで前記内燃エンジンの動力が前記刃物に伝達される携帯型の作業機において、
前記内燃エンジンが起動時であることを検出するエンジン起動検出手段と、
前記内燃エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記内燃エンジンの起動時において、前記回転数検出手段からの信号に基づいて、前記内燃エンジンのエンジン回転数が第1の所定の回転数よりも高いときに、前記点火装置に対して失火処理を実行する点火制御手段とを有することを特徴とする内燃エンジンを備えた作業機を提供することにより達成される。
【0018】
前記エンジン起動検出手段について説明すると、例えば、エンジンによって駆動される発電機構から電源の供給を受けて制御手段が動作する作業機にあっては、この制御手段の起動によってエンジンが起動時であることを間接的に検出することができる。つまり、この場合には、エンジンの起動に伴う制御手段の起動がエンジン起動時となる。バッテリを搭載した作業機であれば、エンジンの起動動作に感応する例えば補機類のON信号、手動のリコイル・スタータに内蔵されてリコイリング操作に感応する各種のセンサの信号、エンジン回転数検出手段からの信号入力、電動式のスタータであればスタータスイッチのON信号、気化器内の圧力変動、インシュレータのパルス通路内の圧力変動などによって、エンジンが起動動作に入ったことを検出することができる。
【0019】
エンジンを起動するときに、作業者が、スロットルコントロールトリガを引き絞って起動操作を行うこともあるが、チョークノブを操作して起動操作を行うのが一般的である。チョークノブの操作によって前述したように、スロットルバルブは「ファーストアイドル位置」に位置決めされる。ここに「ファーストアイドル位置」とは、エンジンを起動するときに位置決めされるスロットルバルブの開度位置をいい、エンジン設計によって異なるが、エンジンの運転状態が安定したときのエンジン回転数で言うと7,000〜8,000rpmである。遠心クラッチの摩擦要素が係合を開始する回転数は、一般的には、4,000〜5,000rpmに設定される。
【0020】
失火処理を実行する閾値としての上記所定の回転数は、遠心クラッチの摩擦要素が係合を開始し始める回転数を基準に設定され、この遠心クラッチの摩擦要素が係合し始める回転数の近傍で且つこれよりも低い回転数が設定される。
【0021】
上記の第1の観点の本願発明によれば、エンジン起動直後の起動初期は、エンジンの運転状態が不安定であり、エンジン回転数は未だそれほど上昇しない。したがって、失火制御は実行されないので、スロットルバルブの開度を比較的大きく開いた例えばファーストアイドル位置のスロットル開度の下で、従来と同様に、エンジン起動の確実性を確保することができる。
【0022】
他方、起動後にエンジンの運転状態が安定し始めてエンジン回転数が急激に上昇する過渡期では、点火制御に失火処理を加えてもエンジンが回転停止してしまう虞は殆ど無い。失火処理を実行することでエンジン回転数の上限値を規定することができる。失火処理の例として、点火装置の点火をキャンセルする処理(点火装置に対する電源供給を停止する処理)の他に、通常はピストンストロークの上死点前30°前後に設定されている点火タイミングを極端に遅延させて(例えば下死点近傍で点火するように点火タイミングを設定)シリンダ内での燃焼を実質的に無効にする処理を挙げることができる。
【0023】
このエンジン起動時のエンジン回転数に関し、その上限値を実質的に規定するのは、閾値である上記第1の所定のエンジン回転数である。この第1の所定のエンジン回転数は、上述したように、遠心クラッチを非係合状態に維持できる回転数に設定される。これにより、エンジン起動直後にエンジンの運転状態が安定し始めてエンジン回転数が上昇しても、このエンジン回転数を、遠心クラッチが非係合状態を維持できる回転数に抑えることができる。勿論、遠心クラッチを非係合状態に維持することによって、エンジンから刃物への動力伝達を遮断した状態を維持できる。したがって、第1の観点による本願発明によれば、エンジン起動性の確実性の確保しつつ遠心クラッチの非係合状態を維持できる。
【0024】
通常の点火動作を実行する常用点火制御モードと、失火処理を行う失火制御モードとを備えているときには、回転数検出手段からの信号に基づいて、遠心クラッチが係合し始めるクラッチ係合回転数よりもエンジン回転数が高くなるか否かを推定して、エンジン回転数がクラッチ係合回転数よりも高くなると判断したときに、失火制御モードの下で失火処理を実行するようにすればよい。
【0025】
上記の推定は、実質的に、上述したエンジン起動時の過渡期であるか否かの推定であると言い換えることができる。したがって、クラッチ係合回転数の近傍で且つクラッチ係合回転数よりも低い第2の所定の回転数よりもエンジン回転数が大きくなったら、上記の過渡期であると判断して失火制御モードに入るようにしてもよいし、エンジン回転数の加速度の大小によって、加速度が所定の加速度よりも大きくなったら、上記の過渡期であると判断して失火制御モードに入るようにしてもよい。
【0026】
なお、エンジンの起動時に、起動初期から安定期に達するまでの時間は、一般的に、0.3〜0.5秒である。1回目の起爆から0.2〜0.3秒が経過するとエンジン回転数は急激な加速度で上昇する(過渡期)。
【0027】
作業者がスロットルコントロールトリガを操作してスロットルバルブを開いた状態で起動操作したときも、遠心クラッチの摩擦要素が係合を開始するエンジン回転数まで上昇する可能性があるが、この場合にも上述した失火処理を実行することで遠心クラッチの非係合状態を維持することができる。
【0028】
なお、上述した遠心クラッチの係合状態とは連続的に高速で刃物が動く状態を言うのであり、本願発明を把握するときに、刃物が少しずつ動いたり止まったりする瞬間的な係合状態は、遠心クラッチの非係合状態に含まれる。
【0029】
本願発明を別の観点から見ると、作業機の刃物が作業者の意図に反して不用意に動作するのを防止する解決手段を提供する発明として把握することができる。
【0030】
第2の観点の本発明の作業機は、
スロットルバルブを含む気化器を備え、該気化器から供給される混合気を点火装置によって着火させることにより動力を発生する内燃エンジンと、
前記スロットルバルブの開閉を制御する手動のスロットルコントロールトリガと、
前記内燃エンジンと刃物との間に介装された遠心クラッチとを備え、
前記スロットルコントロールトリガを操作してエンジン出力を上昇させると前記遠心クラッチが係合して前記内燃エンジンの動力が前記刃物に伝達される携帯型の作業機において、
前記内燃エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記スロットルバルブがアイドル位置にあるか否かを検出するアイドル位置検出手段と、
前記スロットルバルブが前記アイドル位置にあり且つ前記エンジン回転数が第1の所定の回転数よりも高いときに前記点火装置に対して失火処理を実行する点火制御手段とを有することを特徴とする。
【0031】
この第2の観点による本願発明にあっては、スロットルバルブがアイドル位置にあることを前提として、エンジン回転数が所定の値よりも高いときに失火処理が実行される。この閾値の上記所定の値は、遠心クラッチの摩擦要素が係合し始めるクラッチ係合回転数を基準に設定され、この遠心クラッチの摩擦要素が係合し始めるクラッチ係合回転数の近傍で且つこれよりも低い回転数が設定される。
【0032】
スロットルバルブがアイドル位置にあるか否かを検出するアイドル位置検出手段は、スロットルバルブの開度位置を検出するセンサであってもよいが、典型的には、スロットルコントロールトリガの操作の有無を検出するトリガ操作センサで構成される。
【0033】
上記の第2の観点の本願発明によれば、例えば作業の途中や一休みしている最中に、作業者がスロットルコントロールトリガから手を離しているにも拘わらず、何らかの原因でエンジン回転数が上昇したとしても、エンジン回転数が上記の所定の回転数以上となると失火制御が実行されるため、遠心クラッチの摩擦要素が係合すること、そして、その結果、遠心クラッチが係合状態になってしまうまでエンジン回転数が上昇することを防止できる。したがって、スロットルコントロールトリガを解放しているにも拘わらず、作業者の意図に反して不用意に刃物が動作するのを防止することができる。スロットルコントロールトリガが解放状態であるにも拘わらず、エンジン回転数が急激に上昇してしまう例として、作業機を姿勢変化させた時や、気化器の中の燃料が無くなる直前などを挙げることができる。
【0034】
本発明は、更に別の観点から、遠心クラッチの摩耗を防止するための解決手段を提供する発明として把握することができる。この第3の観点から本願発明を定義すると、次の構成となる。
【0035】
すなわち、本願発明の第3の観点によれば、
スロットルバルブを含む気化器を備え、該気化器から供給される混合気を点火装置によって着火させることにより動力を発生する内燃エンジンと、
該内燃エンジンと刃物との間に介装された遠心クラッチとを備え、
該遠心クラッチが係合することで前記内燃エンジンの動力が前記刃物に伝達される携帯型の作業機において、
前記内燃エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記刃物を制動するブレーキの締結状態を検出するブレーキ締結検出手段と、
該ブレーキ締結検出手段により前記ブレーキが締結状態にあることを前提として、前記エンジン回転数が所定の回転数よりも高いときに前記点火装置に対して失火処理を実行する失火制御手段とを有することを特徴とする内燃エンジンを備えた作業機が提供される。
【0036】
ここにブレーキ締結検出手段は、ブレーキの締結状態を直接的に検出してもよいし、間接的にブレーキレバーの操作位置を検出してもよい。また、ブレーキ締結検出手段として、遠心クラッチ又はその周辺の温度を検出することでブレーキ締結状態を間接的に検出することもできる。
【0037】
この第3の観点の本願発明にあっても、失火処理を実行する閾値である上記所定の回転数は、遠心クラッチの摩擦要素が係合し始めるクラッチ係合回転数を基準に設定され、この遠心クラッチの摩擦要素が係合し始めるクラッチ係合回転数の近傍の回転数が設定される。
【0038】
この第3の本願発明によれば、ブレーキが締結された状態で何らかの原因でエンジン回転数が上昇して遠心クラッチの摩擦要素が係合し始めて遠心クラッチがスリップした状態になると失火制御が実行される。これにより、遠心クラッチを非係合状態に維持することができる又は遠心クラッチのスリップ状態を初期段階で早期に解消することができるので、従来のようにブレーキ締結によって遠心クラッチをスリップさせて刃物を停止状態に維持することに伴う遠心クラッチの摩耗を防止することができる。
【0039】
本発明の他の目的及び作用効果は、後の実施例の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例のチェーンソーの全体構成図である。
【図2】点火制御に関連した要素の系統図である。
【図3】エンジン始動直後の点火制御を説明するためのフローチャートである。
【図4】エンジン始動直後の点火制御で実行される失火制御モードを解除する変形例を説明するためのフローチャートである。
【図5】エンジン始動直後の点火制御で実行される失火制御モードを解除する他の変形例を説明するためのフローチャートである。
【図6】エンジン始動直後の点火制御で実行される失火制御モードを解除する更に別の変形例を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6の失火制御モード解除の根拠となるエンジン回転数の変動及び失火処理の実測データを示し、スロットルバルブがファーストアイドル位置にあるときと常用アイドル位置にあるときの回転数変動波形を示す。
【図8】ブレーキ締結に関連した点火制御を説明するためのフローチャートである。
【図9】図8の制御例の変形例を説明するためのフローチャートである。
【図10】スロットルコントロールトリガの操作の有無に関連した点火制御を説明するためのフローチャートである。
【図11】エンジン起動時だけでなく、それ以降も実行される点火制御を説明するためのフローチャートである。
【図12】図11の制御例の変形例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0041】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0042】
図1は、実施例の作業機であるチェーンソー1の基本構成を示す図である。この構成は従来と同様である。図1を参照してチェーンソー1の概要を説明すると、チェーンソー1は、2サイクル単気筒エンジン2を有し、エンジン2の吸気系3は、上流端のエアクリーナ4と、エアクリーナ4とエンジン2との間に配設された気化器5とで構成されている。エンジン2の出力軸には遠心クラッチ6が連結され、そして、エンジン回転数が所定の回転数以上となったときに遠心クラッチ6を介して鋸刃チェーン7にエンジン2の動力が伝達される。
【0043】
遠心クラッチ6はエンジン2の回転数が約5,000rpmに達すると係合状態となるように設定されており、遠心クラッチ6が係合状態になることでエンジン2と鋸刃チェーン7とが機械的に連結される。なお、エンジン2の常用回転数は約8,000〜13,000rpmである。
【0044】
チェーンソー1はブレーキ8を有する。このブレーキ8は作業者が操作可能なブレーキレバー9に連結されており、作業者がブレーキレバー9を操作してブレーキ8を締結させることで鋸刃チェーン7の回転を停止状態に維持することができる。チェーンソー1に搭載されるブレーキ8及びブレーキレバー9は特開2001−47403号公報に詳しく説明されていることから、この特開2001−47403号公報の記載の全てをここに援用する。
【0045】
気化器5は、スロットルバルブ10とチョークバルブ11とを有し、スロットルバルブ10は、作業者が操作可能なスロットルコントロールトリガ12に連携されている。作業者がスロットルコントロールトリガ12を操作してスロットルバルブ10を開閉させることでエンジン2の出力を制御することができる。チョークバルブ11は、作業者が操作可能なチョークノブ13に連携されており、エンジンを起動するときに作業者がチョークノブ13を操作することでチョークバルブ11を全閉位置に位置決めすることができる。勿論、チョークバルブ11とスロットルバルブ10とが連携機構によって連動するのは従来と同じである。したがって、チョークノブ13を作業者が操作すると、チョークバルブ11が全閉位置に位置決めされると共にスロットルバルブ10がファーストアイドル位置に位置決めされる。
【0046】
エンジン2は手動のリコイル・スタータ20を有し、作業者がスタータグリップ21を引っ張ることでエンジン2を起動することができる。エンジン2は、更に、発電機構22を有する。発電機構22は、図2に示すように、発電コイル23とロータ24との組み合わせによって構成されており、ロータ24に磁極25が配設されている。ロータ24はエンジン出力によって駆動され、このロータ24の回転によって、発電コイル23は磁極25からの磁束を受けてパルス電圧を誘起する。そして、このパルス電圧のレベル及びタイミングはロータ24の回転速度つまりエンジン回転速度に対応したものとなる。勿論、発電機構22が生成した電圧を使って点火装置26の点火が行われる。
【0047】
図1に戻って、点火装置26の制御、具体的には点火装置26への電源供給のON/OFF及び点火タイミングはマイクロコンピュータからなる制御手段30によって実行される。この制御手段30は実質的にCDI型点火制御機能を発揮する。制御手段30には、発電機構22(ロータ24)からの点火タイミング信号、回転数センサ31からのエンジン回転数信号(Ne)、スロットルポジションセンサ32からのスロットルバルブ10の開度位置信号、スロットルコントロールトリガ12の操作の有無を検出するトリガ操作センサ33、ブレーキ操作センサ34からのブレーキレバー9のブレーキ締結操作信号、温度センサ35からの遠心クラッチ6又はその周辺の温度信号などが入力される。なお、トリガ操作センサ33は、スロットルコントロールトリガ12が解放状態にあることだけを検出するセンサであってもよいし、スロットルコントロールトリガ12の操作状態を検出するものであってもよい。
【0048】
回転数センサ31はクランクシャフト(図示せず)の回転数を直接的に検出するセンサであってもよいが、上述した発電機構22のロータ24の回転数を検出するものであってもよい(ロータ24を回転数センサ31として代用する)。また、図1に破線で示すように、遠心クラッチ6の入力軸の回転数を検出するクラッチ回転数センサ36によってエンジン回転数を間接的に検出するようにしてもよい。したがって、本発明に言うエンジン回転数センサは、クランクシャフトの回転を検出する以外にも、上記ロータ24の回転を検出する、又は、遠心クラッチ6の入力軸の回転を検出するものも含み、遠心クラッチ6の入力軸を含むその上流のエンジン2に関連した動力伝達経路の回転数を検出し、また、エンジン2に関連した補機の回転要素の回転数を検出するものを含むという意味で理解すべきである。
【0049】
図1の参照符号40はエンジン停止スイッチであり、作業者がエンジン停止スイッチ40を操作することで、点火装置26への電源供給が停止され、これによりエンジン2を停止させることができる。
【0050】
図3は、第1実施例の制御例を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、エンジン起動と共に発電を開始する発電機構22から電源の供給を受けて制御手段30のマイクロコンピュータが起動することを前提として作成してある。エンジン2は、その起動初期から後に説明する常用点火制御モードの下で点火制御が実行され、そして、エンジン起動後にエンジン2の回転数が所定の回転数よりも高いときに失火処理が実行される。
【0051】
例えばファーストアイドル位置にスロットルバルブ10を位置決めした状態でエンジン2の起動操作を行ったとき、起動初期ではエンジン回転数が低いため失火制御は実行されない。したがって、スロットルバルブ10が可成り開いた状態のバルブ開度(ファーストアイドル位置)の下でエンジン起動の確実性を確保できる。
【0052】
その一方で、エンジン2の運転状態が安定し始めてエンジン回転数が急激に上昇する過渡期に入ると失火処理が実行されるため、この失火処理によってエンジン回転数の上限値を抑え込むことができる。そして、この上限値を遠心クラッチ6の摩擦要素が係合し始めるクラッチ係合回転数よりも小さな回転数に設定することで、エンジン起動直後の過渡期で遠心クラッチ6が係合してしまうのを阻止することができる。
【0053】
図3のフローチャートを参照して、エンジン起動時の点火制御の一例を説明すると、前述したように、エンジンの起動操作に伴って制御手段30のマイクロコンピュータが起動する。なお、この実施例に含まれる遠心クラッチ6は、5,000rpmで、その摩擦要素が係合を開始するように設定されている。また、スロットルバルブ10のファーストアイドル位置は、約7,000rpmのエンジン回転数を実現できるスロットル開度に設定されている。また、常用アイドル位置は、平均エンジン回転数を約2,700rpmに維持できるスロットル開度に設定されている。
【0054】
先ず、ステップS1において、起動フラグFがセットされる(F=1)。次いで、ステップS2において、失火制御モードに入る条件が成立したか否かの判定が行われる。このステップS2は、実質的に、上述したエンジン起動の際の「過渡期」を推定する処理である。このことから、ステップS2は、エンジン回転数が、前記遠心クラッチが係合し始めるクラッチ係合回転数よりも高くなるか否かを推定する処理であると言い換えることができる。前述したように、「エンジン起動の過渡期」ではエンジン回転数が急激に上昇する。したがって、例えばエンジン回転数が4,000rpm以上になった時、これを放置しておいたときにはエンジン回転数がクラッチ係合回転数(5,000rpm)に達してしまうと予測できる。変形例として、エンジン回転数の加速度の大小を判定する閾値を設定してもよい。この加速度の演算は、今回の回転数と前回の回転数と間の差分値を時間で除算することによって行ってもよいし、今回のエンジン回転数と前回のエンジン回転数との間の差分値の大小によって間接的に加速度を求めるようにしてもよい。
【0055】
ブレーキレバー9のON操作を忘れたときの安全対策として失火制御するのであれば、失火制御モードに入る条件の一つとして、ブレーキ操作センサ34からのブレーキ締結操作信号がOFF(ブレーキ非締結)であることを加えてもよい。
【0056】
なお、回転数センサ31をクランクシャフト(図示せず)や発電機構22のロータ24に設置してエンジン回転数(Ne)を検出するときに、極めて短い時間間隔で回転数(Ne)を取り込むときには、所定時間の平均値を使って上記のステップS2の判定を行うのがよい。比較的長い時間間隔で回転数(Ne)を取り込むときには、この長い時間間隔の間のクランクシャフトやロータ24の実質的な平均速度を検出することになるため、上記のステップS2の判定において、回転数センサ31が取り込んだ回転数(Ne)を使ってもよい。このことは、以下の説明のエンジン回転数(Ne)においても同様である。
【0057】
失火制御モードに入る条件が成立(例えばエンジン回転数が4,000rpm以上)したときには、「YES」ということで失火制御モードに入る。
【0058】
失火制御モードについて説明すると、先ず、エンジン回転数(Ne)が4,500rpm以上であるか否かの判定が行われる(ステップS3)。ちなみに、遠心クラッチ6の係合回転数が5,000rpmに設定されているのは上述した通りである。したがって、ステップS3の閾値である4,500rpmは遠心クラッチ6の係合回転数よりも約10%低い値である。
【0059】
そして、このステップS3で「YES」(4,500rpm以上)と判定されたときにはステップS4に進んで失火処理が実行される。ここに、失火処理とは、点火装置26に対する電源供給を停止して気筒内での燃焼を阻止する処理をいうが、変形例として、通常はピストンストロークの上死点前30°前後に設定されている点火タイミングを例えば下死点に設定するというように大きく遅角させて実質的に気筒内での混合気の爆発を阻止するようにしてもよい。一般的な点火制御で行われる遅角制御から差別化するために、この大きく遅角させる制御を「失火遅角」と呼ぶことにする。この失火遅角は、気筒内での混合気の爆発を実質的に阻止することのできる遅角を言う。
【0060】
失火処理(ステップS4)は、上述したように、エンジン回転数(Ne)が4,500rpm以上であることを条件に実行されるが、この4,500rpmは、遠心クラッチ6の摩擦要素が係合し始める5,000rpm(クラッチ係合回転数)よりも低い回転数であることから、この失火処理により、エンジン回転数(Ne)の上限値を、遠心クラッチ6が係合回転数よりも低い値に抑えることができる。
【0061】
ステップS4の失火処理は、失火制御モード解除条件が成立するまで継続される(S5)。なお、ステップS4の失火処理が連続して所定回数実行されたときに、それ以降は通常の遅角処理に切り替えてもよい。例えば5回連続してステップS4で失火処理を実行したにも拘わらずエンジン回転数が4,500rpmを下回らなかったときには、通常のエンジン制御での遅角制御のうち最大の遅角量を設定してエンジン出力を低下させるようにしてもよい。
【0062】
失火制御モード解除条件を例示すると、(1)スロットルコントロールトリガ12の操作を検出するトリガ操作センサ33によって作業者がトリガ12の操作開始を検出したとき;(2)エンジン回転数(Ne)が例えば4,000rpm以下の時間が所定時間継続したとき;(3)失火処理(S4)の頻度が所定値よりも低くなったとき;(4)上記ステップS3で「NO」(4,500rpmより低い回転数)と判定される頻度が所定値よりも高くなったとき;(5)ブレーキ操作センサ34からブレーキ締結操作信号がONからOFF(ブレーキレバー9の解放)に変化したとき;等を例示することができる。
【0063】
なお、失火制御モードを実行している時間が所定時間よりも長くなったときや、失火処理回数が所定の回数よりも多くなったときに、上述した失火処理つまり点火装置26に対する電源供給停止又は失火遅角処理に代えて、通常の点火タイミング制御(常用点火制御モード)で実施される遅角制御の例えば最大遅角量に基づく遅角制御を行うことでエンジン出力を低下させるようにしてもよい。このことは、図11、図12の制御例についても同様である。
【0064】
上記の失火制御モード解除条件が成立したときには、ステップS5からS6に進んで起動フラグのリセット(F=0)を行った後に失火制御モードが解除される。つまり、その後は、通常の点火動作(CDIやTCIなど)を実行する常用点火制御モードに従う点火タイミングで点火装置26の点火が実行される(S7)。この失火制御モードから常用点火制御モードに移行する途中で、又は、失火制御モードを実行中に、後に図12を参照して説明する進角処理を実行してもよい(図12のS61)。
【0065】
なお、前述したステップS2において、失火制御モードに入る条件が成立していないと判定されたときには、ステップS8に進む。起動操作の開始から所定時間(例えば、0.5秒)経過しても未だに失火制御モードに入る条件が成立しないときには、上述したS6に進んで起動フラグのリセット(F=0)を行った後に失火制御モードが解除される(S7)。ここに、前述したように、エンジン起動時において、起動初期から過渡期、次いで安定期に至るのに必要とされる所要時間は、一般的に、0.5秒以内である。エンジン起動操作から0.5秒が経過したのに、未だに失火制御モードに入る条件が成立しないのであれば、スロットルバルブ10が常用アイドル位置に位置していると判断することができ、エンジン起動時の失火処理(S4)を必要とする局面が発生することは無いと予測できる。
【0066】
図4〜図6は、失火制御モードを解除して通常のの点火動作を実行する常用点火制御モード(図3のS7)に移行する際に、失火制御モードを解除する手順の変形例を説明するためのフローチャートである。
【0067】
図4を参照して、上記ステップS3、S4(図3)を実行している最中に、所定時間での平均エンジン回転数を求め(S10)、この平均エンジン回転数が所定の閾値(例えば、4,000rpm)以下か否かを判定して(S11)、4,000rpm以下になったら(S11で「YES」)、スロットルバルブ10がファーストアイドル位置から常用アイドル位置に変化したと判断して、失火制御モードが解除される(S6)。
【0068】
図5を参照して、上記ステップS3、S4(図3)を実行している最中に、エンジン回転数が所定の閾値(例えば4,000rpm)以下になったときにステップS12からステップS13に進んで、上記ステップS12の判定回数(m)をインクリメントする。そして、次のステップS14において、この判定回数mが所定の閾値よりも多くなったときには、スロットルバルブ10がファーストアイドル位置から常用アイドル位置に変化したと判断して、失火制御モードが解除される(S6)。
【0069】
図6のフローチャートは、上記図4、図5と同様に、失火制御モードを解除するか否かの判断処理に関し、特に常用アイドル位置でアイドル回転数(エンジン回転数)が高くなっている場合に、失火制御モードを解除して作業機を使った作業を開始可能な状態にするための制御例を示す。この図6の例を説明する前に、図7を参照して、スロットルバルブ10がファーストアイドル位置にあるときに失火制御モードによって失火処理(図3のステップS4)を実行したときと、常用アイドル位置にあるときに失火制御モードによって失火処理(図3のステップS4)を実行したときのエンジン回転数の変化を示す。この図7の横軸はクランクシャフトの回転回数(n)であり、四角の印は、ファーストアイドル位置での点火実施ポイントを示し、他方、三角の印は、常用アイドル位置での点火実施ポイントを示す。
【0070】
エンジン回転数が低下している過程では失火処理が実行されている。常用アイドル位置(三角の印)において、例えば左端の波形の減速過程では、連続して11回、失火処理が実行されたことが分かる。他方、ファーストアイドル位置(四角の印)において、同じ左端の波形の減速過程では、連続して8回、失火処理が実行されたことが分かる。
【0071】
図7の波形図を別の視点で見ると、エンジン回転数が上昇して下降する一つのサイクルの周期がファーストアイドル位置と常用アイドル位置とで異なっており、常用アイドル位置の方がファーストアイドル位置よりも一サイクルに要する時間が大きい。
【0072】
図7を参照して説明したように、ファーストアイドル位置と常用アイドル位置での失火処理特性が異なる場合には、連続失火回数やエンジン回転数の変動周期の違いによって、スロットルバルブ10がファーストアイドル位置に位置決めされているか、常用アイドル位置に位置決めされているかを判別することができる。
【0073】
図6を参照して、上記ステップS3、S4(図3)を実行している最中に、連続して失火処理を実行した回数(n)を求め(S15)、この連続失火処理実行回数(n)が閾値である所定値以上であるときには(「YES」のとき)(S16)、スロットルバルブ10が常用アイドル位置にあるとみなして、失火制御モードが解除される(S6)。
【0074】
他方、上記ステップS16において、連続失火処理実行回数(n)が閾値である所定値よりも小さいときには(「NO」のとき)、スロットルバルブ10がファーストアイドル位置にあるとみなして、失火制御モードが継続される。
【0075】
図6の制御例の変形例として、エンジン回転数の変動の周期を求め、閾値との対比で、閾値よりも大きな周期のときには、スロットルバルブ10が常用アイドル位置にあるとみなして失火制御モードを解除するようにしてもよい。
【0076】
上記図3はエンジン起動時の点火制御に関するものであったが、図8〜図12は、図3のエンジン起動時の点火制御が完了した後の点火時期制御に関する。
【0077】
図8は、ブレーキ8が締結された状態でありながら、何らかの原因でエンジン回転数が上昇した場合に失火制御を実行する手順を説明するためのフローチャートである。図8を参照して、ステップS21でブレーキ8が締結状態であるか否かの判定が行われる。この判定は、ブレーキレバー9がON位置(ブレーキ締結位置)にあることを検出するブレーキ操作センサ34からの信号に基づいて行われる。変形例として、ブレーキ8の摩擦要素が締結状態にあることを検出するセンサによって、ステップS21の判定を行ってもよい。
【0078】
ステップS21で「YES」のとき、つまり、ブレーキレバー9がON位置(ブレーキ締結位置)にあり、ブレーキ8が締結状態にあるとみなせるときには、ステップS22に進んで失火制御モードが設定される。この失火制御モードは、実質的に図3を参照して説明したのと同じであり、エンジン回転数が4,500rpm以上であるときに失火処理が実行される。したがって、ブレーキレバー9がON状態にある限り、失火制御によって、エンジン回転数(Ne)を、遠心クラッチ6が非係合状態に維持できる回転数に抑え込むことができる。これにより、遠心クラッチ6の摩擦要素が摩耗するのを防止することができる。
【0079】
ステップS21において、「NO」と判定されたときには、ブレーキレバー9がOFF状態にあることから、常用点火制御モードが設定され、通常の点火動作に基づく点火が実行される(S23)。したがって、作業者がスロットルコントロールトリガ12を操作すると、エンジン2は、スロットルコントロールトリガ12の操作量に応じた動力を出力する。勿論、ブレーキ8が解放状態にあることから、エンジン回転数(Ne)が5,000rpmを超えると遠心クラッチ6が係合状態となってエンジン2の出力が鋸刃チェーン7に伝達される。
【0080】
以上、起動時の点火制御(図3)を前提に図8の制御例を説明したが、起動時の点火制御(図3)とは別に、図8の制御例だけで実施するようにしてもよい。このことは、下記の図9、図10の制御例についても同様である。
【0081】
図9は、図8の制御の変形例である。図8の制御では、ブレーキレバー9がON操作されていることを検出するようにしたが、図9の制御例では、遠心クラッチ6又はその周辺の温度を検出して、遠心クラッチ6の摩擦要素が所定の温度よりも高くなったときには、遠心クラッチ6が摩耗してスリップが発生しているか又はブレーキ8が締結状態にあるにも拘わらず何らかの原因でエンジン回転数(Ne)が上昇して遠心クラッチ6が強制的にスリップしているとして、失火処理が実行される(S22)。この失火処理を実行するか否かを判定する閾値は、遠心クラッチ6の摩擦要素が係合を開始する5,000rpm又は5,000rpmの近傍で且つ5,000rpmよりも高いエンジン回転数が設定される。
【0082】
閾値の設定に関する変形例として、例えば4,800rpmというように5,000rpm(クラッチ係合回転数)よりも若干低い回転数を設定してもよい。これは、瞬間的なエンジン回転数の上昇によって、遠心クラッチ6がごく僅かな時間、係合する傾向になることをも回避したい場合に好適な設定であり、このようにすれば、遠心クラッチ6の回転要素の摩耗や遠心クラッチ6及びその周辺の温度が上昇してしまうのを、より確実に防ぐことができる。
【0083】
図9の制御で失火処理の頻度が高いときには、図示を省略したが例えば警報灯などを点灯又は点滅するなど作業者に警告する手段を設けて、作業者に注意を促すのがよい。
【0084】
図10は、スロットルコントロールトリガ12から手を離しているにも拘わらず、何らかの原因でエンジン回転数が上昇して鋸刃チェーン7が動き出すのを防止する制御例を示す。図10のフローチャートを参照して、スロットルコントロールトリガ12の操作を検出するトリガ操作センサ33からの信号に基づいて、スロットルコントロールトリガ12が解放状態にあるか否かを判定し(S41)、「YES」つまりスロットルコントロールトリガ12が解放状態であるときには失火制御モードが設定される。
【0085】
この失火制御モード22は、エンジン回転数(Ne)が4,500rpm以上になると失火処理が実行される。したがって、エンジン回転数(Ne)が上昇して遠心クラッチ6が係合状態になってしまうのを防止することができる。これにより、作業者がスロットルコントロールトリガ12から手を離しているにも拘わらず鋸刃チェーン7が動き出すのを防止することができる。
【0086】
なお、ステップS41で「NO」、つまりスロットルコントロールトリガ12が作業者によって操作されているときには、常用点火制御モードが設定され(S23)、通常の点火動作に基づく点火が実行される。したがって、スロットルコントロールトリガ12の操作量に応じた動力がエンジン2から出力される。
【0087】
図11は、エンジン起動時から作業中の一連の過程での安全性を向上するための制御例を説明するためのフローチャートである。
【0088】
エンジンの起動操作が開始される(S50)と、先ずステップS51でスロットルバルブ10がアイドル位置にあるか否かの判定が行われる。スロットルバルブ10のアイドル位置の判定は、スロットルポジションセンサ32からの信号に基づいて行われる。変形例として、スロットルコントロールトリガ12が解放状態にあることを検出して、スロットルコントロールトリガ12が解放状態にあるときにはスロットルバルブ10がアイドル位置にあると判定してもよい。ここに、アイドル位置は、前述した「常用アイドル位置」と「ファーストアイドル位置」とを含む。一般的には、エンジン起動はスロットルバルブ10をファーストアイドル位置に位置決めした状態で行われることから上記ステップS50から移行した段階では、このステップS51でスロットルバルブ10がファーストアイドル位置に位置しているか否かの判定が行われ、「YES」ということで、ステップS52に進む。
【0089】
ステップS52では、エンジンが減速中か否かの判定が行われるが、今は起動直後で減速中でないので、「NO」ということで次のステップS53に進んで、エンジン回転数(Ne)が4,500rpm以上であるか否かの判定が行われる。始めてこのステップS53に来たときには、未だエンジン起動の初期であることからエンジン回転数(Ne)は4,500rpmよりも低いのが通常であると考えられることから、「NO」ということで、ステップS54に進んで通常の点火動作により点火が実行される。
【0090】
以上の流れを続けていくと、エンジン起動の過渡期に入ってエンジン回転数が急激に上昇し、4,500rpmに達すると、ステップS53で「YES」と判定されて、ステップS55で失火処理が実行される。この失火処理によってもエンジン回転数(Ne)が4,000rpmを下回らなければ、ステップS56から再度ステップS55に戻って失火処理が実行される。そして、エンジン回転数(Ne)が4,000rpmよりも低い回転数になると、ステップS56から上記のステップS54に移行して通常の点火動作により点火が実行される。
【0091】
作業者が作業を行うためにスロットルコントロールトリガ12を操作するときは、チェーンソー1の場合には、一般的には、トリガ12を一杯に引き絞ったフルスロットルで作業することから、作業中はステップS54の通常の点火動作により点火が実行され、トリガ12を操作した量に応じたエンジン動力が出力される。
【0092】
作業に一区切りついて、作業者がスロットルコントロールトリガ12を解放すると、スロットルバルブ10は常用アイドル位置に位置決めされた状態となる。このときには、ステップS51からステップS52に移行して、減速状態にあるか否かの判定が行われる(S52)。この減速判定は、スロットルバルブ10の開度の変化をスロットルポジションセンサ32からの信号に基づいて判断してもよいし、スロットルコントロールトリガ12のトリガ操作信号に基づいて判断してもよい。勿論、エンジン回転数の変化に基づいて減速判定してもよい。
【0093】
今は減速状態にあることから、減速判定のステップ52で「YES」と判定され、ステップS57に進む。ステップS57で一定の遅れ時間(Δt)をおいてエンジン回転数が低くなるのを待ってステップS53に進む。このステップS53では上述したようにエンジン回転数(Ne)が4,500rpm以上であるか否かの判定が行われる。通常であれば、エンジン回転数(Ne)は常用アイドル位置のスロットルバルブ10の開度に対応した例えば2,700rpmに低下しているため、「NO」ということでステップS54に進んで、通常の点火動作により点火が実行され、常用アイドル回転数である平均2,700rpmの回転数が維持される。
【0094】
上記のステップS57の遅れ時間(Δt)が経過しても、何らかの原因でエンジン回転数が予定するほど低下しないでステップS53で「YES」、つまり4,500rpm以上であると判定されたときには、ステップS55に進んで失火処理が実行される。この失火処理は、エンジン回転数(Ne)が4,500rpm以上であると判定される毎に実行されるため、スロットルバルブ10が常用アイドル位置にあるにも拘わらず、何らかの原因でエンジン回転数が4,500rpm以上になろうとするときには失火処理(S55)によって、遠心クラッチ6を非係合状態にさせて鋸刃チェーン7の回転を休止させることができる。
【0095】
図12は、上述した図11の制御の変形例である。したがって、上記図11のステップと同じステップには同じステップ番号を付すことにより、その説明を省略する。この変形例の制御では、失火処理の後にステップS60が挿入されている。ステップS60では、エンジン回転数(Ne)が常用アイドル回転数又はそれよりも若干低い回転数であるか否かの判定が行われる。すなわち、失火処理(S55)によってエンジン回転数が低下しすぎてエンジン回転が停止する虞があるか否かの判定がステップS60で行われ、「YES」、つまりエンジン回転数(Ne)が低下し過ぎたときにはステップS61に進んで点火タイミングを進角させてエンジンの運転状態が復活する方向の制御が実行される。
【0096】
上記ステップS61において、失火制御から常用点火制御に移行する途中で上記の進角処理を加えることにより、失火制御に伴ってエンジン回転数が低下し過ぎてエンジン停止してしまう可能性を低減することができる。この進角処理に関し、図3の始動時の点火制御においても、この進角処理を加えるようにしてもよい。
【0097】
以上、本発明の実施例をチェーンソー1に基づいて説明したが、本発明は刈り払い機やヘッジトリマーなどの他の携帯式の作業機に対しても同様に適用可能であるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、典型的には単気筒小型エンジンを搭載した作業機の常用アイドル運転、エンジン起動直後のファーストアイドル運転のエンジン制御に好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 チェーンソー
2 エンジン
5 気化器
6 遠心クラッチ
7 鋸刃チェーン
8 ブレーキ
9 ブレーキレバー
10 スロットルバルブ
11 チョークバルブ
12 スロットルコントロールトリガ
13 チョークノブ
20 リコイル・スタータ
30 制御手段(マイコン)
31 エンジン回転数センサ
32 スロットルポジションセンサ
33 トリガ操作センサ
34 ブレーキ操作センサ
35 温度センサ(遠心クラッチ又はその周辺の温度を検出)
36 遠心クラッチの入力軸の回転数を検出するセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットルバルブを含む気化器を備え、該気化器から供給される混合気を点火装置によって着火させることにより動力を発生する内燃エンジンと;
該内燃エンジンと刃物との間に介装された遠心クラッチと;を備え、
該遠心クラッチが係合することで前記内燃エンジンの動力が前記刃物に伝達される携帯型の作業機において、
前記内燃エンジンが起動時であることを検出するエンジン起動検出手段と、
前記内燃エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記内燃エンジンの起動時において、前記回転数検出手段からの信号に基づいて、前記内燃エンジンのエンジン回転数が第1の所定の回転数よりも高いときに、前記点火装置に対して失火処理を実行する点火制御手段とを有することを特徴とする内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項2】
前記制御手段が、
前記失火処理を実行する失火制御モードと、
前記失火処理を行わない常用点火制御モードと、
前記回転数検出手段からの信号に基づいて、エンジン回転数が、前記遠心クラッチが係合し始めるクラッチ係合回転数よりも高くなるか否かを推定する推定手段とを有し、
前記エンジン回転数が前記クラッチ係合回転数よりも高くなると判断したときに前記失火制御モードに入り、所定の解除条件が成立したときに、前記失火制御モードが解除されて前記常用点火制御モードに入る、請求項1に記載の内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項3】
前記エンジン回転数が、前記クラッチ係合回転数の近傍で且つ前記クラッチ係合回転数よりも低い第2の所定の回転数になったときに、エンジン回転数が前記クラッチ係合回転数よりも高くなると判断して前記失火制御モードに入る、請求項2に記載の内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項4】
前記エンジン回転数の加速度が所定の加速度よりも大きくなったときに、エンジン回転数が、前記クラッチ係合回転数よりも高くなると判断して前記失火制御モードに入る、請求項2に記載の内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項5】
前記第1の所定の回転数よりも小さな値の第3の所定の回転数よりも低いエンジン回転数が所定時間継続したときに、前記所定の解除条件が成立したとして前記失火制御モードが解除されて前記常用点火制御モードが設定される、請求項2に記載の内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項6】
前記失火制御モードを実行している最中に、エンジン回転数が、前記第1の所定の回転数よりも小さな値の第4の所定の回転数よりも低いエンジン回転数になったときに、点火タイミングの進角処理を実行する、請求項2に記載の内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項7】
前記刃物を制動するブレーキと、
該ブレーキの締結状態を検出するブレーキ締結検出手段とを更に有し、
該ブレーキ締結検出手段からの信号を受けて、前記ブレーキの締結が解除されたことを検知したときに、前記所定の解除条件が成立したとして前記失火制御モードが解除されて前記常用点火制御モードに入る、請求項2〜4のいずれか一項に記載の内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項8】
スロットルバルブを含む気化器を備え、該気化器から供給される混合気を点火装置によって着火させることにより動力を発生する内燃エンジンと、
前記スロットルバルブの開閉を制御する手動のスロットルコントロールトリガと、
前記内燃エンジンと刃物との間に介装された遠心クラッチとを備え、
前記スロットルコントロールトリガを操作してエンジン出力を上昇させると前記遠心クラッチが係合して前記内燃エンジンの動力が前記刃物に伝達される携帯型の作業機において、
前記内燃エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記スロットルバルブがアイドル位置にあるか否かを検出するアイドル位置検出手段と、
前記スロットルバルブが前記アイドル位置にあり且つ前記エンジン回転数が第1の所定の回転数よりも高いときに前記点火装置に対して失火処理を実行する点火制御手段とを有することを特徴とする内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項9】
前記内燃エンジンの回転数が低下する減速状態を判定する減速判定手段を更に有し、
前記点火制御手段は、前記スロットルバルブが前記アイドル位置にあることを前提として、前記減速判定手段より前記内燃エンジンが減速状態を検知した後、所定時間経過した後の前記エンジン回転数が前記第1の所定の回転数よりも高いときに前記点火装置に対して失火処理を実行する、請求項11に記載の内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項10】
前記点火制御手段は、前記失火処理を実行した後に、前記第1の所定の回転数よりも小さな値の第2の所定の回転数よりも前記エンジン回転数が低くなったときに進角処理を実行する、請求項12に記載の内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項11】
スロットルバルブを含む気化器を備え、該気化器から供給される混合気を点火装置によって着火させることにより動力を発生する内燃エンジンと、
該内燃エンジンと刃物との間に介装された遠心クラッチとを備え、
該遠心クラッチが係合することで前記内燃エンジンの動力が前記刃物に伝達される携帯型の作業機において、
前記内燃エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記刃物を制動するブレーキの締結状態を検出するブレーキ締結検出手段と、
該ブレーキ締結検出手段により前記ブレーキが締結状態にあることを前提として、前記エンジン回転数が所定の回転数よりも高いときに前記点火装置に対して失火処理を実行する失火制御手段とを有することを特徴とする内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項12】
前記失火処理が、前記点火装置に電源を供給するのを停止することからなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の内燃エンジンを備えた作業機。
【請求項13】
前記失火処理が、前記点火装置の点火タイミングを遅角させて気筒内での爆発を実質的に阻止することからなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の内燃エンジンを備えた作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−151125(P2010−151125A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264960(P2009−264960)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000215187)追浜工業株式会社 (30)
【出願人】(509264132)株式会社やまびこ (65)
【Fターム(参考)】