説明

内燃機関の制御装置

【課題】 2つの気筒群と、それらに対応する2つの吸気系とを備える内燃機関の、車両減速時における出力増加制御を適切に実行し、ブレーキブースタの操作力を得るために必要な負圧が不足することを防止できる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 車両減速中に機関出力の増加要求(ブリッピング制御または車両安定化制御の要求)が行われた場合において、ブレーキブースタの操作力を示す負圧PBNが第1閾値PBN1以下であるときは、車両安定化制御では1つのスロットル弁の開弁させることで機関出力を増加させ、ブリッピング制御では負圧PBNに応じて1つまたは2つのスロットル弁を開弁させることで機関出力を増加させる。他方のスロットル弁は閉弁状態が維持されるので、ブレーキブースタへ負圧を供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に2つ以上の気筒群からなる複数の気筒と、気筒群のそれぞれに対応する吸気系とを備える内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の吸気系に発生する負圧(大気圧より低い圧力)が導入され、自動車のブレーキ操作力を補助するアシスト力を発生するブレーキブースタは広く使用されている。特許文献1には、2つの気筒群に対応する2つの吸気系を備え、その2つの吸気系からブレーキブースタへ負圧を供給するように構成された内燃機関の制御装置が示されている。
【0003】
この制御装置は、機関のリーン燃焼運転を行うとブレーキブースタの負圧が不足する傾向があることに着目して提案されたものであり、ブレーキブースタの負圧が不足していないときは、2つ吸気系を連通する通路に設けられた仕切り弁が開弁される一方、ブレーキブースタの負圧が不足しているときは、仕切り弁が閉弁されるとともに、第1の吸気系のスロットル弁が若干閉じ側に制御される一方、第2の吸気系のスロットル弁はリーン燃焼運転に適した開度に制御される。これにより、第1の吸気系によってブレーキブースタの負圧が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−120474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用の機関では、ブレーキが操作されて車両が減速するときに、車両の走行安定性確保のために機関出力を増加させる制御が行われる場合がある。車両減速時においては、通常はスロットル弁がほぼ全閉状態となり十分な負圧が確保できるが、上記出力増加制御を行う場合には、ブレーキブースタの負圧が不足する可能性がある。また車両減速時において変速機のシフトダウンを行うときは、一時的に機関回転数を増加させるために機関出力を増加させるブリッピング制御が行われる。そのようなブリッピング制御もブレーキブースタの負圧を不足させる要因となる。
【0006】
上記特許文献1に示された制御装置は、リーン燃焼運転を実行するときに負圧を確保するための技術であり、上述した車両減速時の機関出力増加制御にともなう課題を解決することはできない。
【0007】
本発明は上述した点を考慮してなされたものであり、2つ以上の気筒群のそれぞれに対応する吸気系を備える内燃機関の、車両減速時における出力増加制御を適切に実行し、ブレーキブースタのアシスト力を得るために必要な負圧が不足することを防止できる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、第1気筒群(2A)及び第2気筒群(2B)を含む複数の気筒と、前記第1及び第2気筒群に対応する第1吸気系及び第2吸気系と、前記第1及び第2吸気系に設けられた第1スロットル弁(5A)及び第2スロットル弁(5B)とを備える内燃機関の制御装置において、前記機関により駆動される車両の減速時に前記機関の出力を増加させる出力増加制御を行う出力増加制御手段と、前記第1及び第2吸気系から吸気負圧が供給されるブレーキブースタ(11)が発生するアシスト力を示す圧力パラメータ(PBN)を検出する圧力パラメータ検出手段(12)とを備え、前記出力増加制御手段は、前記圧力パラメータ(PBN)が第1閾値(PBN1)以下であって前記ブレーキブースタのアシスト力が低下しているときは、前記第1スロットル弁(5A)及び第2スロットル弁(5B)の何れか一方のスロットル弁を開弁することにより前記機関出力を増加させる単一スロットル弁制御手段を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記車両の駆動輪速度(VDW)を検出する駆動輪速度検出手段(34)を備え、前記出力増加制御手段は、前記車両の減速時に前記駆動輪速度(VDW)に基づいて前記機関出力を増加させる車両安定化制御を実行することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、前記車両は前記機関の出力軸に接続された自動変速機(31)を備え、前記出力増加制御手段は、前記第1及び第2スロットル弁(5A,5B)をともに開弁することにより前記機関出力を増加させる双スロットル弁制御手段をさらに備え、前記車両安定化制御を実行するときは前記単一スロットル弁制御手段を使用し、前記自動変速機(31)のシフトダウンを行うときに前記機関の回転数を増加させるために前記機関出力を増加させるブリッピング制御を実行するときは、前記単一スロットル弁制御手段及び双スロットル弁制御手段の何れか一方を前記圧力パラメータに応じて選択し、選択したスロットル弁制御手段を使用することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、前記出力増加制御手段は、前記圧力パラメータ(PBN)が前記第1閾値(PBN1)より小さい第2閾値(PBN2)以下であるときは、前記車両安定化制御及びブリッピング制御を前記単一スロットル弁制御手段を使用して実行し、前記圧力パラメータ(PBN)が前記第2閾値(PBN2)より大きくかつ前記第1閾値(PBN1)以下であるときは、前記単一スロットル弁制御手段を使用して前記車両安定化制御を実行するとともに、前記双スロットル弁制御手段を使用して前記ブリッピング制御を実行し、前記圧力パラメータ(PBN)が前記第1閾値(PBN1)より大きいときは、前記車両安定化制御及びブリッピング制御を前記双スロットル弁制御手段を使用して実行することを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記自動変速機(31)は2つのクラッチを有するクラッチ機構(42)を備え、該クラッチ機構による駆動力の伝達を維持しつつ変速動作を行うことができる変速機であり、前記自動変速機(31)のシフトアップを行うときは、前記車両の運転者の要求出力(AP)に応じて前記第1及び第2スロットル弁(5A,5B)の開度を制御するシフトアップ制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、車両減速時に機関の出力を増加させる出力増加制御を行う際に、第1及び第2吸気系から吸気負圧が供給されるブレーキブースタのアシスト力を示す圧力パラメータが検出され、圧力パラメータが第1閾値以下であってブレーキブースタのアシスト力が低下しているときは、第1吸気系に設けられた第1スロットル弁及び第2吸気系に設けられた第2スロットル弁の何れか一方のスロットル弁を開弁する単一スロットル弁開弁制御が行われる。したがって、スロットル弁が開弁されない吸気系からブレーキブースタに負圧が供給され、ブレーキブースタのアシスト力を確保することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、車両の減速時に駆動輪速度に基づいて機関出力を増加させる車両安定化制御が実行される。車両減速時に駆動輪がブレーキでロックされた状態となると駆動輪速度が極端に低下するので、そのときに一方の吸気系のスロットル弁を開弁して機関出力を増加させる車両安定化制御を行うことにより、車両走行を安定化しつつブレーキブースタの負圧を確保することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、車両安定化制御を実行するときは単一スロットル弁制御が行われ、ブリッピング制御を実行するときは、第1及び第2スロットル弁をともに開弁することにより機関出力を増加させる双スロットル弁開弁制御または単一スロットル弁開弁制御が、圧力パラメータに応じて選択される。圧力パラメータが比較的大きく、ブレーキブースタのアシスト力の不足度合が小さいときは、出力増加制御の一部を双スロットル弁開弁制御によって行うことも可能である。よって、圧力パラメータが比較的大きいときは、車両安定化制御については単一スロットル弁制御を適用し、ブリッピング制御については双スロットル弁開弁制御を適用することにより、シフトダウン実行時に機関出力を迅速に増加させ、シフトダウンを迅速に完了させることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、圧力パラメータが第1閾値より小さい第2閾値以下であるときは、車両安定化制御及びブリッピング制御が単一スロットル弁開弁制御によって実行され、圧力パラメータが第2閾値より大きくかつ第1閾値以下であるときは、単一スロットル弁開弁制御によって車両安定化制御が実行されるとともに、双スロットル弁開弁制御によりブリッピング制御が実行され、圧力パラメータが第1閾値より大きいときは、車両安定化制御及びブリッピング制御が双スロットル弁開弁制御によって実行される。したがって、圧力パラメータの値、すなわちブレーキブースタのアシスト力の不足度合に応じて適切な機関出力増加制御を行うことができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、クラッチ機構による駆動力の伝達を維持しつつシフトアップが行われ、車両運転者の要求機関出力に応じて第1及び第2スロットル弁の開度が制御される。2重クラッチ機構を備える自動変速機では、シフトアップを行うときも運転者の機関要求出力に応じてスロットル弁が開弁されるので、圧力パラメータの減少要因となる。よって、車両減速時の制御において適宜単一スロットル弁開弁制御による出力増加制御を実行することにより、ブレーキブースタの負圧を確実に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両を駆動する内燃機関及び変速機構と、それらの制御装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す変速機の構成を説明するための図である。
【図3】車両減速時の制御を説明するためのタイムチャートである。
【図4】車両安定化制御を説明するためのタイムチャートである。
【図5】内燃機関の出力トルク制御を行う処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる車両を駆動する内燃機関及び変速機構と、それらの制御装置の構成を示す図である。V型6気筒の内燃機関(以下「エンジン」という)1は、#1〜#3気筒(第1気筒群)が設けられた第1バンク2Aと、#4〜#6気筒(第2気筒群)が設けられた第2バンク2Bとを備えている。
【0020】
第1バンク2Aに対応する吸気系は、第1チャンバ3A、第1吸気通路4A、及び第1チャンバ3Aと#1〜#3気筒とを接続する分岐通路とを備えており、第1吸気通路4Aには第1スロットル弁5Aが設けられている。第1スロットル弁5Aには、その開度を検出する第1スロットル弁開度センサ7Aが設けられており、その検出信号がエンジン制御用電子制御ユニット(以下「EG−ECU」という)20に供給される。第1スロットル弁5Aには、該スロットル弁5Aを駆動する第1アクチュエータ6Aが接続されており、第1アクチュエータ6Aは、EG−ECU20によりその作動が制御される。
【0021】
第2バンク2Bに対応する吸気系は、第2チャンバ3B、第2吸気通路4B、及び第2チャンバ3Bと#4〜#6気筒とを接続する分岐通路とを備えており、第2吸気通路4Bには第2スロットル弁5Bが設けられている。第2スロットル弁5Bには、その開度を検出するスロットル弁開度センサ7Bが設けられており、その検出信号がEG−ECU20に供給される。第2スロットル弁5Bには、該スロットル弁5Bを駆動する第2アクチュエータ6Bが接続されており、第2アクチュエータ6Bは、EG−ECU20によりその作動が制御される。第2アクチュエータ6B及び第2スロットル弁開度センサ7Bと、EG−ECU20との接続線は図示が省略されている。
【0022】
各気筒に連通する分岐通路にはそれぞれ燃料噴射弁(図示せず)が設けられており、各燃料噴射弁はEG−ECU20により燃料噴射時期及び燃料噴射時間が制御される。
【0023】
第1及び第2チャンバ3A,3Bは、第1及び第2接続通路8A,8Bと、第3接続通路10を介してブレーキブースタ11の負圧室と連通している。第1及び第2接続通路8A,8Bには、第1及び第2チェック弁9A,9Bが設けられている。第1チェック弁9Aは、ブレーキブースタ11の負圧室内の圧力(以下「BRB絶対圧」という)PBNAが、第1チャンバ3A内の吸気圧PBA1より高いとき開弁し、第1チャンバ3A内の負圧がブレーキブースタ11の負圧室に導入される。第2チェック弁9Bは、BRB絶対圧PBNAが、第2チャンバ3B内の吸気圧PBA2より高いとき開弁し、第2チャンバ3B内の負圧がブレーキブースタ11の負圧室に導入される。
【0024】
ブレーキブースタ11には、その負圧室内の圧力PBNAと大気圧PAとの差圧(以下「BRB負圧」という)PBNを検出する負圧センサ12が設けられており、その検出信号がEG−ECU20に供給される。BRB負圧PBNは、(PA−PBNA)に相当する値をとり、BRB絶対圧PBNAが低下するほど増加する。
【0025】
ブレーキブースタ11は、当該車両のブレーキペダル(図示せず)の踏み込み量に応じて負圧をダイヤフラムに作用させ、ブレーキ操作力を増加させるように構成されている。
【0026】
EG−ECU20には、エンジン1により駆動される当該車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ21、当該車両の車速VPを検出する車速センサ22、及びエンジン1の回転数NEを検出するエンジン回転数センサ23が接続されており、その検出信号がEG−ECU20に供給される。
【0027】
EG−ECU20には、自動変速機31を油圧制御ユニット32を介して制御する変速制御用電子制御ユニット(以下「TM−ECU」という)30と、車両安定化制御を行う安定化制御用電子制御ユニット(以下「VC−ECU」という)33が接続されており、これらのECU20,30,及び33は、相互に必要なデータ及び指令信号の伝達を行う。
【0028】
TM−ECU30は、変速時に必要とされるエンジン要求トルクを示す信号をEG−ECU20に伝達する。例えば、シフトダウンを行うときには、TM−ECU30は、エンジン回転数NEを一時的に増加させるためにエンジン出力を増加させるブリッピング制御を要求する信号をEG−ECU20に伝達する。
【0029】
VC−ECU33には、当該車両の駆動輪速度VDWを検出する駆動輪速度センサ34が接続されており、駆動輪速度VDWが急激に減少したときに、一時的にエンジン出力トルクを増加させる車両安定化制御を要求する信号をEG−ECU20に伝達する。
【0030】
EG−ECU20は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理回路(以下「CPU」という)、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、アクチュエータ6A,6B、燃料噴射弁などに駆動信号を供給する出力回路から構成される。なお、TM−ECU30及びVC−ECU33の基本的な構成は、EG−ECU20と同様である。
【0031】
EG−ECU20は、上述したセンサの検出信号に基づいて、燃料噴射弁の開弁時間の制御、及び点火時期制御を行うとともに、エンジン要求トルクに応じてスロットル弁5A,5Bの目標開度THCMDA,THCMDBを算出し、検出したスロットル弁開度THA,THBがそれぞれ目標開度THCMDA,THCMDBと一致するようにアクチュエータ6A,6Bを駆動するスロットル弁開度制御を行う。目標開度THCMDA,THCMDBは、エンジン1の要求トルクTRQCMDに応じて算出され、エンジン1の出力トルクが要求トルクTRQCMDと一致するように、スロットル弁開度THA,THBが制御される。
【0032】
エンジン1のクランク軸は自動変速機31に接続されており、自動変速機31の出力軸は図示しない動力伝達機構を介して当該車両の駆動輪を駆動する。
本実施形態では、自動変速機31は2つのクラッチを備える2重クラッチ変速機構(Dual Clutch Transmission)であり、以下「DCT31」という。
【0033】
TM−ECU20には、シフトレバースイッチ、パドルスイッチなどが接続されており、TM−ECU20は、これらのスイッチの設定にしたがって、アクセルペダル操作量AP、車速VP、エンジン回転数NEなどに基づく自動変速制御、あるいは運転者の指示に応じた変速制御を行う。
【0034】
図2は、DCT31の一部の構成を模式的に示す図であり、1速〜4速の変速ギヤが示されている。エンジン1のクランク軸40は、クラッチ機構41に接続されており、クラッチ機構41は、第1メインシャフト44に接続された第1クラッチ42と、第2メインシャフト45に接続された第2クラッチ43とを備えている。
【0035】
第1メインシャフト44には、1速ドライブギヤ46及び3速ドライブギヤ47が支持されており、第2メインシャフト45には、2速ドライブギヤ48及び4速ドライブギヤ49が支持されている。また出力軸55には1速ドリブンギヤ51、2速ドリブンギヤ52、3速ドリブンギヤ53、及び4速ドリブンギヤ54が支持されている。
【0036】
上述した第1及び第2クラッチ42,43の開放/係合、及び変速段の切換は、油圧制御ユニット32によって行われる。
【0037】
本実施形態では、DCT31におけるシフトダウンを2つのモードで実行する。4速から3速へのシフトダウンを例にとって説明すると、第1シフトダウンモードでは、第2クラッチ43を開放し(4速が選択されているとき第1クラッチは開放されている)、4速ドライブギヤ49と4速ドリブンギヤの歯合を解除するとともに、3速ドライブギヤ47と3速ドリブンギヤ53を歯合させ、次いで第1クラッチ42を係合する。なお、4速が選択されているときは、第1クラッチ42は開放されているので、3速ドライブギヤ47と3速ドリブンギヤ53を、シフトダウンの開始前または開始直後に歯合させるようにしてもよい。第1シフトダウンモードでは、クラッチ機構41を介した動力伝達が一定時間遮断される。クラッチ機構41の動力伝達が遮断されている期間に、上述したブリッピング制御を要求する信号が、TM−ECU30からEG−ECU20に伝達される。
【0038】
第2シフトダウンモードでは、4速が選択されているときに、3速ドライブギヤ47と3速ドリブンギヤ53をシフトダウン開始前または開始直後に歯合させて、第1クラッチ42の係合力を徐々に増加させる係合動作と、第2クラッチ43の係合力を徐々に減少させる開放動作と並行して実行する。第2シフトダウンモードでは、シフトダウン実行中においてもクラッチ機構41を介した動力伝達を維持しつつシフトダウンを行うことができる。
【0039】
またDCT31においてシフトアップ(例えば3速から4速へのシフトアップ)を実行するときは、3速が選択されているときに、4速ドライブギヤ49と4速ドリブンギヤ54をシフトアップ開始時に歯合させて、第1クラッチ42の係合力を徐々に減少させる開放動作と、第2クラッチ43の係合力を徐々に増加させる係合動作と並行して実行する。これにより、シフトアップ実行中においてもクラッチ機構41を介した動力伝達を維持しつつシフトアップを行うことができる。したがって、当該車両の運転者の要求トルク(アクセルペダル操作量AP)に応じてスロットル弁5A,5Bが開弁された状態でシフトアップが実行される。
【0040】
図3及び図4は、本実施形態におけるエンジン1の出力トルク制御を説明するためのタイムチャートである。図3には、時刻t1及びt2においてシフトアップが行われ、時刻t3にアクセルペダルが戻され、直後の時刻t4においてブレーキペダルが踏み込まれて急減速が開始され、時刻t14までその急減速状態が継続し、時刻t14においてブレーキペダルが戻されるとともにアクセルペダルが踏み込まれ、再度加速が開始された状態が示されている。急減速期間TRDEC(t4〜t14)では、3回のシフトダウン(t6,t9,t12)が行われ、加速開始後の時刻t15及びt16においてシフトアップが行われている。
【0041】
図4は、急減速期間TRDEC内の時刻t5において、左右の駆動輪速度の平均値(以下単に「駆動輪速度」という)VDWAが急激に低下し、直ぐに元の状態(破線で示す)に復帰する変化が示されている。本実施形態では、駆動輪速度VDWAが急激に低下すると、図3(f)に示すように安定化要求トルクTRQSTがVC−ECU33からEG−ECU20に伝達され、出力トルクを増加させる車両安定化制御が行われる。これによって、駆動輪速度VDWAが急減速した直後に元の状態に復帰している。なお、駆動輪速度VDWAの急低下が再発生した場合には車両安定化制御が再実施される(図5のt5’参照)。
【0042】
図3に示す例では、同図(h)に示すように、時刻t5〜t6,t7〜t8,及びt10〜t11の期間において車両安定化制御が実行される。
また同図(g)に示すように、時刻t6〜t7,t9〜t10,及びt12〜t13の期間では、ブリッピング制御が行われ、エンジン出力トルクが一時的に増加するように制御される。
【0043】
車両減速時は、通常はスロットル弁5A,5Bが全閉状態とされ、ブレーキブースタ11に負圧が供給されるが、上述したブリッピング制御または車両安定化制御が実行されると、スロットル弁5A,5Bが開弁される。急減速期間TRDECでは、ブレーキペダルが強く踏み込まれるため、ブレーキブースタ11内の負圧は減少する一方、上記スロットル弁5A,5Bの開弁により負圧の供給が不足し、ブレーキブースタ11のブレーキ操作アシスト力が不足する可能性がある。
【0044】
また本実施形態では、シフトアップ時においても上記したようにスロットル弁5A,5Bの開弁状態が維持されるので、この点もブレーキブースタ11の負圧を不足させる要因となる。
【0045】
そこで本実施形態では、図5に示す処理によりエンジン1の出力トルク制御を行い、ブレーキブースタ11の負圧を確保するようにしている。図5に示す処理は、EG−ECU20のCPUで所定時間毎に実行される。
【0046】
ステップS11では当該車両が減速中であるか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは通常の出力トルク制御を実行する(ステップS13)。ステップS11の答が肯定(YES)であるときは、トルク増加フラグFTINCが「1」であるか否を判別する(ステップS14)。トルク増加フラグFTINCは、ブリッピング制御または車両安定化制御の要求が伝達されると「1」に設定される。トルク増加フラグFTINCが「0」であるときは、ステップS13に進む。
【0047】
トルク増加フラグFTINCが「1」であるときは、BRB負圧PBNが第1閾値PBN1(例えば65kPa)以下であるか否かを判別する(ステップS14)。この答が否定(NO)であるときは、ブレーブースタ内の負圧は十分に確保されていると判定し、第1及び第2スロットル弁5A,5Bを共に開弁することによるブリッピング制御または車両安定化制御を実行する(ステップS15,S16)。図5には、ステップS15及びS16が直列的に示されているが、いずれか要求された制御が実行される。
【0048】
ステップS14の答が肯定(YES)、すなわちBRB負圧PBNが第1閾値PBN1以下であるときは、BRB負圧PBNが第1閾値PBN1より小さい第2閾値PBN2(例えば50kPa)以下であるか否かを判別する(ステップS17)。
【0049】
ステップS17の答が否定(NO)、すなわちBRB負圧PBNが第2閾値PBN2より大きく、かつ第1閾値PBN1以下であるときは、第1及び第2スロットル弁5A,5Bを共に開弁することによるブリッピング制御、または第1スロットル弁5Aのみを開弁することによる車両安定化制御を実行する(ステップS18,S19)。図5には、ステップS18及びS19が直列的に示されているが、いずれか要求された制御が実行される。
【0050】
ステップS17の答が肯定(YES)、すなわちBRB負圧PBNが第2閾値PBN2以下であるときは、第1スロットル弁5Aのみを開弁することによるブリッピング制御または車両安定化制御を実行する(ステップS20,S21)。図5には、ステップS20及びS21が直列的に示されているが、いずれか要求された制御が実行される。
【0051】
なお、ブリッピング制御の要求及び車両安定化制御の要求がともに伝達されることもあるが、その場合には例えば本実施形態では、要求トルクの大きい方の制御が選択されるようにしている。
【0052】
図5の処理によれば、車両減速時にエンジン出力を増加させるトルク増加制御を行う際に、BRP負圧PBNが第1閾値PBN1以下であってブレーキブースタのアシスト力が低下しているときは、第1スロットル弁5Aのみを開弁することによる車両安定化制御が行われる。したがって、第2スロットル弁5Bは閉弁状態が維持されるので、第2吸気系からブレーキブースタ11に負圧が供給され、ブレーキブースタ11のアシスト力を確保することができる。
【0053】
また1)BRB負圧PBNが第2閾値PBN2以下であるときは、車両安定化制御及びブリッピング制御が第1スロットル弁5Aのみを開弁することによって実行され、2)BRB負圧PBNが第2閾値PBN2より大きくかつ第1閾値PBN1以下であるときは、第2スロットル弁5Aのみを開弁することによって車両安定化制御が実行されるとともに、第1及び第2スロットル弁5A,5Bを開弁することによりブリッピング制御が実行され、3)BRB負圧PBNが第1閾値PBN1より大きいときは、車両安定化制御及びブリッピング制御が第1及び第2スロットル弁5A,5Bを開弁することにより実行される。したがって、車両減速時において、BRB負圧PBN、すなわちブレーキブースタ11のアシスト力の不足度合に応じて適切な出力トルク増加制御を行うことができる。BRB負圧PBNが比較的大きく(PBN≧PBN2)、ブレーキブースタのアシスト力の不足度合が小さいときは、ブリッピング制御を2つのスロットル弁を開弁することによって行うことにより、シフトダウン実行時にエンジン出力トルクを迅速に増加させ、シフトダウンを迅速に完了させることができる。
【0054】
さらに本実施形態では、クラッチ機構41による駆動力の伝達を維持しつつシフトアップが行われ、運転者の要求出力(アクセルペダル操作量AP)に応じて第1及び第2スロットル弁5A,5Bの開度が制御される。すなわち、クラッチ機構41を備えるDCT31では、シフトアップを行うときもスロットル弁5A,5Bが開弁されるので、BRB負圧PBNの減少要因となる。よって、車両減速時の制御において適宜、第1スロットル弁5Aのみの開弁による出力トルク増加制御を実行することにより、ブレーキブースタ11の負圧を確実に確保することが可能となる。
【0055】
本実施形態では、負圧センサ12が圧力パラメータ検出手段に相当し、駆動輪速度センサ34が駆動輪速度検出手段に相当する。また、第1アクチュエータ6Aが単一スロットル弁制御手段の一部、及び双スロットル弁制御手段の一部を構成し、第2アクチュエータ6Bが双スロットル弁制御手段の一部を構成し、EG−ECU20が、出力増加制御手段、単一スロットル弁制御手段の一部、双スロットル弁制御手段の一部、及びシフトアップ制御手段を構成する。具体的には、図5のステップS14〜S21が出力増加制御手段に相当し、ステップS19〜S21が単一スロットル弁制御手段に相当し、ステップS15,S16,及びS18が双スロットル弁制御手段に相当する。
【0056】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、車両減速時のエンジン出力トルク増加制御として、ブリッピング制御及び車両安定化制御を実行する制御装置を示したが、本発明は何れか一方のみを実行する制御装置にも適用可能である。
また一方のスロットル弁のみを開弁する場合、第1スロットル弁5Aに代えて第2スロットル弁5Bを開弁してもよい。
【0057】
またブレーキブースタの負圧室内の絶対圧であるBRB絶対圧PBNAを検出し、例えば1気圧(101.3kPa)に相当する大気圧PA0と、BRB絶対圧PBNAとの差圧(PA0−PBNA)を、ブレーキブースタのアシスト力を示す圧力パラメータとして用いてもよい。
【0058】
また上述した実施形態では、自動変速機としてDCT31を示したが、請求項1〜4に記載の発明は、単一のクラッチを有する自動化手動変速機(Automated Manual Transmission)またはトルクコンバータを有する自動変速機を備える車両を駆動する内燃機関の制御装置にも適用可能である。
【0059】
また本発明は、V型6気筒内燃機関に限らず、独立した2つ以上の吸気系(スロットル弁)を備える内燃機関の制御装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 内燃機関
2A 第1バンク(第1気筒群)、2B 第2バンク(第2気筒群)
3A 第1チャンバ、3B 第2チャンバ
4A 第1吸気通路、4B 第2吸気通路
5A 第1スロットル弁、5B 第2スロットル弁
6A 第1アクチュエータ(単一スロットル弁制御手段、双スロットル弁制御手段)、6B 第2アクチュエータ(双スロットル弁制御手段)
8A 第1接続通路、8B 第2接続通路、10 第3接続通路
12 負圧センサ(圧力パラメータ検出手段)
20 エンジン制御用電子制御ユニット(出力増加制御手段、単一スロットル弁制御手段、双スロットル弁制御手段、シフトアップ制御手段)
34 駆動輪速度センサ(駆動輪速度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1気筒群及び第2気筒群を含む複数の気筒と、前記第1及び第2気筒群に対応する第1吸気系及び第2吸気系と、前記第1及び第2吸気系に設けられた第1スロットル弁及び第2スロットル弁とを備える内燃機関の制御装置において、
前記機関により駆動される車両の減速時に前記機関の出力を増加させる出力増加制御を行う出力増加制御手段と、
前記第1及び第2吸気系から吸気負圧が供給されるブレーキブースタが発生するアシスト力を示す圧力パラメータを検出する圧力パラメータ検出手段とを備え、
前記出力増加制御手段は、前記圧力パラメータが第1閾値以下であって前記ブレーキブースタのアシスト力が低下しているときは、前記第1スロットル弁及び第2スロットル弁の何れか一方のスロットル弁を開弁することにより前記機関出力を増加させる単一スロットル弁制御手段を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記車両の駆動輪速度を検出する駆動輪速度検出手段を備え、
前記出力増加制御手段は、前記車両の減速時に前記駆動輪速度に基づいて前記機関出力を増加させる車両安定化制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記車両は前記機関の出力軸に接続された自動変速機を備え、
前記出力増加制御手段は、
前記第1及び第2スロットル弁をともに開弁することにより前記機関出力を増加させる双スロットル弁制御手段をさらに備え、
前記車両安定化制御を実行するときは前記単一スロットル弁制御手段を使用し、
前記自動変速機のシフトダウンを行うときに前記機関の回転数を増加させるために前記機関出力を増加させるブリッピング制御を実行するときは、前記単一スロットル弁制御手段及び双スロットル弁制御手段の何れか一方を前記圧力パラメータに応じて選択し、選択したスロットル弁制御手段を使用することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記出力増加制御手段は、
前記圧力パラメータが前記第1閾値より小さい第2閾値以下であるときは、前記車両安定化制御及びブリッピング制御を前記単一スロットル弁制御手段を使用して実行し、
前記圧力パラメータが前記第2閾値より大きくかつ前記第1閾値以下であるときは、前記単一スロットル弁制御手段を使用して前記車両安定化制御を実行するとともに、前記双スロットル弁制御手段を使用して前記ブリッピング制御を実行し、
前記圧力パラメータが前記第1閾値より大きいときは、前記車両安定化制御及びブリッピング制御を前記双スロットル弁制御手段を使用して実行することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記自動変速機は2つのクラッチを有するクラッチ機構を備え、該クラッチ機構による駆動力の伝達を維持しつつ変速動作を行うことができる変速機であり、
前記自動変速機のシフトアップを行うときは、前記車両の運転者の要求出力に応じて前記第1及び第2スロットル弁の開度を制御するシフトアップ制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−26975(P2011−26975A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170992(P2009−170992)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】