説明

内燃機関の排気再循環制御装置

【課題】 排気再循環回路を有する内燃機関において、NO低減と黒煙低減とエンジン出力と燃費とのバランスをとって排気の還流率を制御する。
【解決手段】 内燃機関の排気再循環制御装置において、検出手段(31)で検出した回転速度、負荷、吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度に応じて、EGR率と空燃比とが記憶手段(32)の記憶するそれぞれの目標の値となるように、排気再循環回路を開閉する第1開閉弁(15c) 及び吸気バイパス回路(12c) を開閉する第2開閉弁(12d)を制御する制御部(33)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気再循環制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全の見地から、内燃機関の排出する有害物質に対する規制強化が各地で進んでいる昨今、内燃機関の排気に含まれる有害物質を低減させる方法として排気再循環(通称EGR)が広く知られ、用いられている。燃焼室から排出される排気の一部を排気マニホルドから吸気マニホルドへ還流し吸気に混合させて再度燃焼室に送り込むことで、燃焼を緩慢にし、燃焼最高温度を下げる作用があり、排気に含まれる有害物質特に窒素酸化物(以下NOと略記)の発生を抑える効果が大きい。
【0003】
図8に従来の形態として、実開平6−1759号公報に記載された、排気再循環装置を有するターボチャージャー付エンジン114の給排気回路図を示す。エンジン114は、ターボチャージャー111と、吸気回路112と、コントローラ113と、排気再循環回路115と、排気回路116とを有する。ターボチャージャー111のコンプレッサ111aで圧縮された吸気は吸気回路112を経てエンジン本体114aに導入される。エンジン本体114aから排出された排気は排気回路116を経てターボチャージャー111に流れ込み、タービン111bを駆動して排出される。排気再循環回路115は、一端を排気回路116のタービン111bの上流側に分岐接続され、他端を吸気回路112のコンプレッサ111aの下流側に分岐接続される。排気再循環回路115中には、第1アクチュエータ115aによって駆動され排気再循環回路115を開閉自在とするEGR弁115cが設けられている。吸気回路112には、吸気バイパス回路112aと、第2アクチュエータ112bによって駆動されこの吸気バイパス回路112aへの吸気の流入を選択自在とする三方弁112cとが設けられている。吸気バイパス回路112aにはベンチュリ112dが設けられ、このベンチュリ112dの狭隘部112eに前記排気再循環回路115が接続している。
【0004】
排気の還流を行うとき、コントローラ113は第1アクチュエータ115aを駆動してEGR弁115cを開く。しかし、タービン111b入口の圧力がコンプレッサ111a出口の圧力よりも低い場合にはEGR弁115cを開くだけでは排気を還流できない。そこで図示しない検出手段によりタービン111b入口の圧力がコンプレッサ111a出口の圧力よりも低いことを検出すると、コントローラ113が第2アクチュエータ112bを駆動して三方弁112cを切換え、吸気の大部分を吸気バイパス回路112aに流す。するとベンチュリ112dの狭隘部112eで流速が高まり局所的に圧力が下がるので、タービン111b入口の圧力がコンプレッサ111a出口の圧力よりも低くとも、排気の還流が可能となりNOの発生を抑えられる。
【0005】
【特許文献1】実開平6−1759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題がある。従来技術のベンチュリ付排気還流システムでは、エンジンの運転条件が変わった場合に不都合が生じる。例えば、急加速時はターボラグのため吸入空気量が過渡的に不足する上に、タービン111b入口の圧力がコンプレッサ111a出口の圧力よりも過渡的に高くなって還流する排気の流量が増大するため、燃焼が緩慢になり、黒煙の排出量が増加するとともに加速性が悪化する。また、エンジン劣化や気圧の変化などによってNOまたは黒煙の排出量が増加した場合、これを補正するように排気の還流を制御する機能がないので、こういった排気成分の悪化を救済することができない。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決すべくなされたものであり、NOの排出量、黒煙の排出量、エンジン出力及び燃費のバランスを考慮して排気の還流の制御を行う内燃機関の排気再循環制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、吸気回路上に配したコンプレッサと排気回路上に配したタービンとを有するターボチャージャと、排気回路のタービン−内燃機関本体間と吸気回路のコンプレッサ−内燃機関本体間とを接続して第1開閉弁によって開閉自在とした排気再循環回路とを設けるとともに、コンプレッサ−内燃機関本体間の吸気の流れを絞る狭隘部を有する絞りを吸気回路に設けて排気再循環回路の接続位置をこの狭隘部略中央とし、この絞りの直上流と直下流とをバイパス接続するとともに第2開閉弁によって開閉自在とされる吸気バイパス回路を設けた内燃機関の排気再循環制御装置において、回転速度、負荷、吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度を検出する検出手段と、内燃機関の回転速度及び負荷に対する目標の空燃比及びEGR率を予め記憶する記憶手段と、前記検出手段の検出した排気中の酸素濃度から空燃比を求め、吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度からEGR率を求め、前記求めた空燃比及びEGR率を前記記憶手段の記憶するそれぞれの目標値に近づけるように前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁の開度を微調整する制御を行う制御手段とを設けたことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、吸気回路上に配したコンプレッサと排気回路上に配したタービンとを有するターボチャージャと、排気回路のタービン−内燃機関本体間と吸気回路のコンプレッサ−内燃機関本体間とを接続して第1開閉弁によって開閉自在とした排気再循環回路とを設けるとともに、コンプレッサ−内燃機関本体間の吸気の流れを絞る狭隘部を有する絞りを吸気回路に設けて排気再循環回路の接続位置をこの狭隘部略中央とし、この絞りの直上流と直下流とをバイパス接続するとともに第2開閉弁によって開閉自在とされる吸気バイパス回路を設けた内燃機関の排気再循環制御装置において、回転速度、負荷、吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度を検出する検出手段と、内燃機関の回転速度及び負荷に対する目標の、前記第1開閉弁の開度、前記第2開閉弁の開度、空燃比及びEGR率を予め記憶する記憶手段と、前記検出手段の検出した回転速度及び負荷に対する前記記憶手段の記憶する目標の開度となるように前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁の開度を制御するとともに、検出手段の検出した排気中の酸素濃度から空燃比を求め、吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度からEGR率を求め、前記求めた空燃比及びEGR率を前記記憶手段の記憶するそれぞれの目標値に近づけるように前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁の開度を微調整する制御を行う制御手段とを設けたことを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第1又は第2発明の内燃機関の排気再循環制御装置において、前記制御手段は、前記検出手段の検出した運転状態から急加速中と判断したときに、前記第1開閉弁を閉じる制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度から求まるEGR率と、排気中の酸素濃度から求まる空燃比との両方の値をフィードバックして、内燃機関の回転速度と負荷とに対するEGR率及び空燃比の目標値に近づけるように、第1開閉弁と第2開閉弁との開度を制御することにより、エンジンの運転状態に最適な値となるようにEGR率及び空燃比を制御できるので、NOと黒煙との両方の排出量を内燃機関の回転速度と負荷とに応じてバランスよく低減できる。さらに、内燃機関の回転速度と負荷とに対するNOと黒煙との排出量が内燃機関の劣化や気圧の変化などにより変動しても、上記フィードバック制御によりこれらの変動を補正する制御ができる。しかも、酸素濃度を検出する検出手段は、NO濃度を検出する検出手段よりも安価なので、NOと黒煙との両方の排出量を内燃機関の回転速度と負荷とに応じてバランスよく低減できる内燃機関の排気再循環制御装置を安価に構成できる。
【0012】
第2の発明によれば、第1の発明と同じ効果を奏するのに加えて、内燃機関の回転速度及び負荷に対する目標の第1開閉弁と第2開閉弁との開度を初期設定するとともに、内燃機関の回転速度と負荷とに対するEGR率及び空燃比の目標値に近づけるように、第1開閉弁と第2開閉弁との開度を微調整する制御を行うことにより、内燃機関の回転速度と負荷との変動に対する制御系の応答性が向上する。
【0013】
第3の発明によれば、急加速時に排気の還流を中止することで、排気の還流による吸気中の酸素濃度の低下を避け、急加速時における出力の低下と排気中の黒煙増加とを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態について、図1、図2を参照して説明する。図1に第1実施形態の排気再循環装置を有するターボチャージャー付エンジン14の給排気回路図を示す。エンジン14は、ターボチャージャー11と、吸気回路12と、コントローラ13と、排気再循環回路15と、排気回路16とを有する。ターボチャージャー11のコンプレッサ11aで圧縮された吸気は吸気回路12を経てエンジン本体14aに導入される。エンジン本体14aから排出された排気は排気回路16を経てターボチャージャー11に流れ込み、タービン11bを駆動して排出される。
【0015】
排気再循環回路15は、一端を排気回路16の排気マニホルド16a近傍に分岐接続され、他端を吸気回路12の吸気マニホルド12a近傍に分岐接続される。排気再循環回路15中には、図示しないアクチュエータ15aによって駆動され排気再循環回路15を開閉自在とするEGR弁15cが設けられている。EGR弁15cの開度が増加するほど還流する排気の流量は増加し、すなわちEGR率も増加する。吸気回路12には、ベンチュリ12bと、このベンチュリ12bの直上流と直下流とをバイパス接続する吸気バイパス回路12cと、図示しないアクチュエータによって駆動されこの吸気バイパス回路12cを開閉自在とする吸気バイパス弁12dとが設けられている。ベンチュリ12bの狭隘部にはベンチュリ12b内の上流から下流への流れに合流する接続口が設けられ、この接続口に排気再循環回路15が分岐接続している。吸気バイパス弁12dを絞ると吸気バイパス回路12cの通過流量が減少し、その分ベンチュリ12bの通過流量が増大するので、狭隘部の流速が増大して圧力が下がり、還流する排気の流量は増加し、すなわちEGR率も増加する。吸気回路12のコンプレッサ11a出口近傍と排気回路16のタービン11b入口近傍との間には、これらを連通する給排気バイパス回路20が設けられ、給排気バイパス回路20には、これを吸気回路12側から排気回路16側への一方向のみ導通自在とする逆止弁20aが設けられている。
【0016】
エンジン14は更に、エンジン14の回転速度を検出する回転速度センサ31a、エンジン14の冷却水の水温を検出する水温センサ31b、出力トルクを検出するトルクメータ31c、排気中の酸素濃度を検出する排気酸素濃度センサ31d、及び排気中のNO濃度を検出するNOセンサ31eなどといったエンジン14の運転状態を検出する検出手段31を有する。また、吸気バイパス弁12dの開度の目標値B、EGR弁15cの開度の目標値E、NO濃度の目標値NOXT及び空燃比の目標値R(A/F)を制御マップとして記憶した記憶手段32を有し、検出手段31の検出した各状態に応じた検出信号と記憶手段32に記憶された制御マップの各目標値データとを入力して後述する演算処理を行い、吸気バイパス弁12d及びEGR弁15cの開度を制御する制御部33を有する。なお、前記制御マップは、検出手段31が検出する回転速度Nを横の座標、出力トルクTを縦の座標とする座標平面を設定し、この座標平面を格子状に細分し、細分した各領域毎に前記の各目標値を設定するように構成されている。したがって、回転速度及び出力トルクの値が定まれば、これらに対応する前記の各目標値が前記制御マップから一義的に決まる。
【0017】
第1実施形態における制御部33の処理手順を図2に示す制御フローチャート例に基づいて説明する。初期状態となるステップS1では、EGR弁15cは完全に閉じられ、吸気バイパス弁12dは完全に開ききっている。まず制御部33は、ステップS2で、記憶手段32が記憶する制御マップ上において回転速度センサ31aが検出した回転速度Nとトルクメータ31cが検出した出力トルクTとから選択される目標の開度になるように、EGR弁15cを開き吸気バイパス弁12dを閉じる制御を行う。これにより吸気バイパス弁12dの開度は前記目標値Bとなり、EGR弁15cの開度は前記目標値Eとなる。次にステップS3で、記憶手段32が記憶する制御マップ上において回転速度センサ31aが検出した回転速度N及びトルクメータ31cが検出した出力トルクTに基づいて選択した目標のNO濃度NOXTと、NOセンサ31eが検出したNO濃度NOXOとを比較し、数式「NOXO≧NOXT」が真ならばステップS4へ移行し、偽ならばステップS6へ移行する。
【0018】
ステップS4では、記憶手段32が記憶する制御マップ上において回転速度センサ31aが検出した回転速度N及びトルクメータ31cが検出した出力トルクTから選択した目標の空燃比R(A/F)と、排気酸素濃度センサ31dが検出した排気中の酸素濃度から算定した空燃比R(A/F)とを比較し、数式「R(A/F)≧R(A/F)」が真ならばステップS5へ移行する。ステップS5ではEGR弁15cの開度を所定値ΔE1だけ増加させるとともに吸気バイパス弁12dの開度を所定値ΔB1だけ減少させ、すなわちEGR率を増加させてステップS3へ戻る。数式「R(A/F)≧R(A/F)」が偽ならばステップS7へ移行する。ステップS6では、記憶手段32が記憶する制御マップ上において回転速度センサ31aが検出した回転速度N及びトルクメータ31cが検出した出力トルクTから選択した目標の空燃比R(A/F)と、排気酸素濃度センサ31dが検出した排気中の酸素濃度から算定した空燃比R(A/F)とを比較し、数式「R(A/F)≧R(A/F)」が偽ならばステップS8へ移行する。ステップS8では、EGR弁15cの開度を所定値ΔE2だけ減少させるとともに吸気バイパス弁12dの開度を所定値ΔB2だけ増加させ、すなわちEGR率を減少させてステップS3へ戻る。前記ステップS6で数式「R(A/F)≧R(A/F)」が真ならばステップS7へ移行する。ステップS7ではEGR弁15c及び吸気バイパス弁12dの開度を現在値のまま、所定時間保持し、この経過後、S3に戻って以上の処理を繰り返す。なお、上記処理で、微小開度制御量ΔE1とΔE2、及びΔB1とΔB2は等しい値でも異なった値でもよい。
【0019】
第1実施形態によれば、以上の制御フローチャートにより、まずEGR弁15c及び吸気バイパス弁12dの開度を、エンジン14の回転速度Nと出力トルクTとに対する目標値となるように制御する。通常の運転条件ならば、これだけでもエンジン14の運転状態に最適な値となるようにEGR率を制御できる。さらに排気中のNO濃度NOXOと空燃比R(A/F)との両方の値をフィードバックしてエンジン14の回転速度Nと出力トルクTとに対する目標値に近づけるように制御する。これにより、エンジン14の劣化や気圧の変化などによるNOと黒煙との排出量の変化を補正するようにEGR率を制御できる。したがって、NOと黒煙との両方の排出量をエンジン14の回転速度と負荷とに応じてバランスよく低減できる。
【0020】
本発明の第2実施形態について、図3、図4を参照して説明する。図3に第2実施形態の排気再循環装置を有するターボチャージャー付エンジン14の給排気回路図を示す。第1実施形態との相違は、NO濃度の替わりにEGR率を状態量として用いることである。このためNOセンサ31eの替わりに吸気中の酸素濃度を検出する吸気酸素濃度センサ31gを有する。また、記憶手段32の替わりに記憶手段32aを有しており、この記憶手段32aは吸気バイパス弁12dの開度の目標値B、EGR弁15cの開度の目標値E、EGR率の目標値EGR及び空燃比の目標値R(A/F)を、第1実施形態と同様に制御マップとして記憶する。他のハード構成については第1実施形態と同様である。
【0021】
ここで、実際のEGR率EGRは、排気酸素濃度センサ31dで検出した排気中の酸素濃度と吸気酸素濃度センサ31gで検出した吸気中の酸素濃度とから一義的に求められる。運転状態が決まれば、目標となるNO排出量NOXTに対応するEGR率EGRは、一義的に決まるので、EGR率でNO濃度の代用ができる。したがって第2実施形態の上記構成によって第1実施形態と等価の制御ができる。
【0022】
第2実施形態における制御部33の処理手順について、図4に示す制御フローチャートに基づいて説明する。ステップS1及びステップS2の処理までは第1実施形態と同様である(記憶手段32は記憶手段32aに置き換える)。次にステップS2からステップS3aに進み、記憶手段32aが記憶する制御マップ上において回転速度センサ31aが検出した回転速度N及びトルクメータ31cが検出した出力トルクTに基づいて選択した目標のEGR率EGRと、実際のEGR率EGRとを比較し、数式「EGR≧EGR」が真ならばステップS4へ移行し、偽ならばステップS6へ移行する。この先の制御フローチャートは、第1実施形態と同様である(記憶手段32は記憶手段32aに置き換える)。
【0023】
第2実施形態によれば、以上の制御フローチャートにより、まずEGR弁15c及び吸気バイパス弁12dの開度を、エンジン14の回転速度Nと出力トルクTとに対する目標値となるように制御する。さらに吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度から算定したEGR率EGRと排気中の酸素濃度から算定した空燃比R(A/F)との両方の値をフィードバックしてエンジン14の回転速度Nと出力トルクTとに対する目標のEGR率EGR及び空燃比R(A/F)の値に近づけるように制御する。これにより、エンジン14の運転状態に最適な値となるようにEGR率を制御する。したがって、第1実施形態の効果に加えて、NO濃度を直接検出する必要がなく、これをEGR率で代用するので、高価なNOセンサ31eが不要になり、製造コストを低減できる。
【0024】
本発明の第3実施形態について、図5を参照して説明する。第1実施形態または第2実施形態との相違は、暖機運転時及び急加速時に排気の還流を停止する制御が加わることであり、ハード構成については第1実施形態または第2実施形態と同一である。
【0025】
第3実施形態における制御部33の処理手順について、図5に示す制御フローチャートに基づいて説明する。ステップS1及びステップS2の処理までは第1実施形態または第2実施形態と同様であり、ステップS2からはステップS9へ移行する。ステップS9では、予め設定した温度値Tと水温センサ31bが検出した冷却水の水温Tとを比較し、数式「T≦T」が真ならばステップS12へ移行する。ステップS12ではEGR弁15cを閉じ切るとともに吸気バイパス弁12dを開き切り、すなわちEGR率をゼロにしてステップS9へ戻る。前記ステップS9で数式「T≦T」が偽ならばステップS10へ移行する。ステップS10では、予め設定されたエンジンの回転速度の単位時間当りの増加量dNと、回転速度センサ31aが検出した実際の回転速度Nより得られるエンジンの回転速度の単位時間当り増加量dNとを比較し、数式「dN≧dN」が真ならばステップS13へ移行する。ステップS13ではEGR弁15cを閉じ切るとともに吸気バイパス弁12dを開き切り、すなわちEGR率をゼロにしてステップS10へ戻る。前記ステップS10で数式「dN≧dN」が偽ならばステップS11へ移行する。ステップS11ではEGR弁15c及び吸気バイパス弁12dの開度を現在値のまま、所定時間保持し、この経過後ステップS3またはステップS3aへ移行する。この先の制御フローチャートは、第1実施形態または第2実施形態と同様であり、ステップS5,S7及びS8の処理後はステップS9に戻って以上の処理を繰り返す。
【0026】
第3実施形態によれば、第1実施形態または第2実施形態の制御に加えて以下の制御を行う。
(1)エンジン14の回転速度の単位時間当りの増加量dNが所定値dN以上の場合、EGR率をゼロにして排気の還流を停止する。
(2)エンジン14の冷却水の水温Tが所定値T以下の場合、EGR率をゼロにして排気の還流を停止する。
したがって第1実施形態または第2実施形態の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(1)エンジン14の回転速度の単位時間当りの増加量dNが所定値dN以上の場合すなわち加速時に、排気の還流で吸気中の酸素濃度が低下することによる出力低下と不完全燃焼とを避けられる。したがって、加速時の出力低下を防止して加速性を向上できるとともに、不完全燃焼を防止して黒煙の発生をも抑えられる。
(2)エンジン14の冷却水の水温Tが所定値T以下の場合すなわち寒冷時に排気の還流を行うと、排気中の水蒸気が排気再循環回路15中で凝結して水になり、各部の腐食作用を招く。特に排気再循環回路15中にEGRクーラが設けてあれば水の凝結量が増え、腐食作用が顕著になる。したがって、寒冷時の排気再循環回路15中での水の凝結を抑えることで、エンジン14各部の腐食を防止できる。
【0027】
本発明の第4実施形態について、図6、図7を参照して説明する。第4実施形態は、第3実施形態における加速時に排気の還流を停止する制御処理を、ルーツ形に代表される容積形スーパチャージャで加速時に過給を行う制御処理に置き換えたものである。したがって説明は第3実施形態と相違する箇所に限り、重複する箇所については省略する。図6に第4実施形態の、排気再循環装置を有するターボチャージャー付エンジン14の給排気回路図を示す。吸気回路12のコンプレッサ11aの直上流に、制御部33からの指令により起動停止自在なスーパチャージャ40と、このスーパチャージャ40の直上流とこのスーパチャージャ40の直下流すなわちコンプレッサ11aの直上流とをバイパスする逆止弁41とが設けられている。制御部33からの指令によりスーパチャージャ40を起動すると、コンプレッサ11aに導入される吸気に過給圧力を与えることができる。スーパチャージャ40を停止しているときは、吸気は逆止弁41を通ってコンプレッサ11aに導入される。
【0028】
第4実施形態における制御部33の処理手順について、図7に示す制御フローチャートに基づいて説明する。第3実施形態との相違は、ステップS11及びS13の制御処理を、以下に説明するステップS11a及びS13aの制御処理に置き換えたことである。ステップS10では、予め設定されたエンジンの回転速度の単位時間当りの増加量dNと、回転速度センサ31aが検出した実際の回転速度より得られるエンジンの回転速度の単位時間当り増加量dNとを第3実施形態と同様に比較する。そして数式「dN≧dN」が真ならばステップS13aへ移行する。ステップS13aではスーパチャージャ40を起動してステップS10へ戻る。前記ステップS10で数式「dN≧dN」が偽ならばステップS11aへ移行する。ステップS11aではスーパチャージャ40を停止して、ステップS3またはS3aへ移行する。この先の制御フローチャートは、第1実施形態または第2実施形態と同様であり、ステップS5,S7,S8の処理後はステップS9に戻って以上の処理を繰り返す。
【0029】
第4実施形態によれば、第1実施形態または第2実施形態の制御に加えて、以下の制御を行う。
(1)エンジン14の回転速度の単位時間当りの増加量dNが所定値dN以上の場合、スーパチャージャ40を起動して過給を行う。
(2)エンジン14の冷却水の水温Tが所定値T以下の場合、EGR率をゼロにして排気の還流を停止する。
したがって、第1実施形態または第2実施形態の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(1)エンジン14の回転速度の単位時間当りの増加量dNが所定値dN以上の場合すなわち加速時に、スーパチャージャ40の過給作用で、排気の還流による吸気中の酸素濃度の低下を補い、出力の低下と不完全燃焼とを防止できる。したがって、排気の還流を停止することなく加速時の出力低下を防止して加速性を向上できるとともに黒煙の発生も抑えられる。
(2)エンジン14の冷却水の水温Tが所定値T以下の場合すなわち寒冷時に排気の還流を行うと、排気中の水蒸気が排気再循環回路15中で凝結して水になり、各部の腐食作用を招く。特に排気再循環回路15中にEGRクーラが設けてあれば水の凝結量が増え、腐食作用が顕著になる。したがって、寒冷時の排気再循環回路15中での水の凝結を抑えることで、エンジン14各部の腐食を防止できる。
【0030】
なお、本発明は以上に例示した実施形態に限定されるものではない。例えば前述の給排気バイパス回路20は、吸気の一部を排気回路16に逃がすことで吸気回路12の圧力を下げるとともに排気回路16の圧力を上げて排気の還流を容易にするものであり、本発明にとって必須の構成要件ではない。また、エンジン14の負荷に相当する状態量として、出力トルクTの替わりに例えば燃料噴射量を用いてもよい。燃料噴射量の検出方法としては、燃料の流量を直接測定してもよいし、コントロールラックの位置から求めてもよい。さらに、EGR率を求める方法として、例えば吸気中の二酸化炭素濃度と排気中の二酸化炭素濃度とをそれぞれセンサを設けて検出し、各々の二酸化炭素濃度の比率からEGR率を求める方法を用いてもよい。また空燃比を求める他の方法として、吸気流量を直接測定、または吸気回路の圧力及び温度からの演算によって求めるとともに、燃料流量を直接測定、またはコントロールラックの位置からの演算によって求め、この吸気流量と燃料流量とから空燃比を求める方法をとってもよい。加えて各実施形態の制御フローチャートにおいて、ステップS2の処理を省略し、ステップS1から次のステップに移行する制御を行ってもよい。
【0031】
以上実施形態を例示して説明した通り、本発明によれば、以下の効果が得られる。
(1)排気中のNO濃度(またはEGR率)と空燃比との両方の値をフィードバックしてエンジンの回転速度と負荷とに対する目標値に近づけるように、第1開閉弁と吸気バイパス弁との開度を制御することでEGR率を制御している。したがって、NOと黒煙との両方の排出量をエンジンの回転速度と負荷とに応じてバランスよく低減できる。しかも、エンジンの劣化や気圧の変化などによってNOと黒煙との排出量が変化しても、この変化を補正して排出量を低減するようにEGR率を制御できる。
(2)急加速時に排気の還流を中止することで、排気の還流による吸気中の酸素濃度の低下を避け、急加速時における出力の低下と排気中の黒煙増加とを防止できる。
(3)急加速時に、排気の還流を中止する替わりに、スーパチャージャにより吸気の過給を行うので、排気の還流による吸気中の酸素濃度の低下を補い、出力の低下と不完全燃焼とを防止する。これにより、急加速時における加速性を向上させ、かつ排気中の黒煙を低減できる。しかも急加速時も排気の還流ができるのでNOの排出量を抑えたまま加速できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
建設機械、農林機械、産業車両、一般車両等の、内燃機関を使用する機械全般に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態の給排気回路図である。
【図2】本発明の第1実施形態の制御フローチャート例である。
【図3】本発明の第2実施形態の給排気回路図である。
【図4】本発明の第2実施形態の制御フローチャート例である。
【図5】本発明の第3実施形態の制御フローチャート例である。
【図6】本発明の第4実施形態の給排気回路図である。
【図7】本発明の第4実施形態の制御フローチャート例である。
【図8】従来技術の給排気回路図である。
【符号の説明】
【0034】
11…ターボチャージャ、11a…コンプレッサ、11b…タービン、12…吸気回路、12b…ベンチュリ、12c…吸気バイパス回路、12d…吸気バイパス弁、15…排気再循環回路、15c…EGR弁、31…検出手段、32…記憶手段、33…制御部、40…スーパチャージャ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気回路(12)上に配したコンプレッサ(11a) と排気回路(16)上に配したタービン(11b) とを有するターボチャージャ(11)と、排気回路(16)のタービン(11b)
−内燃機関本体(14a) 間と吸気回路(12)のコンプレッサ(11a) −内燃機関本体(14a) 間とを接続して第1開閉弁(15c) によって開閉自在とした排気再循環回路(15)とを設けるとともに、コンプレッサ(11a)
−内燃機関本体(14a) 間の吸気の流れを絞る狭隘部を有する絞り(12b) を吸気回路(12)に設けて排気再循環回路(15)の接続位置をこの狭隘部略中央とし、この絞り(12b)
の直上流と直下流とをバイパス接続するとともに第2開閉弁(12d) によって開閉自在とされる吸気バイパス回路(12c) を設けた内燃機関の排気再循環制御装置において、
回転速度、負荷、吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度を検出する検出手段(31)と、
内燃機関の回転速度及び負荷に対する目標の空燃比及びEGR率を予め記憶する記憶手段(32)と、
前記検出手段(31)の検出した排気中の酸素濃度から空燃比を求め、吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度からEGR率を求め、前記求めた空燃比及びEGR率を前記記憶手段(32)の記憶するそれぞれの目標値に近づけるように前記第1開閉弁(15c)
及び前記第2開閉弁(12d) の開度を微調整する制御を行う制御手段(33)とを設けた
ことを特徴とする内燃機関の排気再循環制御装置。
【請求項2】
吸気回路(12)上に配したコンプレッサ(11a) と排気回路(16)上に配したタービン(11b) とを有するターボチャージャ(11)と、排気回路(16)のタービン(11b)
−内燃機関本体(14a) 間と吸気回路(12)のコンプレッサ(11a) −内燃機関本体(14a) 間とを接続して第1開閉弁(15c) によって開閉自在とした排気再循環回路(15)とを設けるとともに、コンプレッサ(11a)
−内燃機関本体(14a) 間の吸気の流れを絞る狭隘部を有する絞り(12b) を吸気回路(12)に設けて排気再循環回路(15)の接続位置をこの狭隘部略中央とし、この絞り(12b)
の直上流と直下流とをバイパス接続するとともに第2開閉弁(12d) によって開閉自在とされる吸気バイパス回路(12c) を設けた内燃機関の排気再循環制御装置において、
回転速度、負荷、吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度を検出する検出手段(31)と、
内燃機関の回転速度及び負荷に対する目標の、前記第1開閉弁(15c) の開度、前記第2開閉弁(12d) の開度、空燃比及びEGR率を予め記憶する記憶手段(32)と、
前記検出手段(31)の検出した回転速度及び負荷に対する前記記憶手段(32)の記憶する目標の開度となるように前記第1開閉弁(15c) 及び前記第2開閉弁(12d)
の開度を制御するとともに、検出手段(31)の検出した排気中の酸素濃度から空燃比を求め、吸気中の酸素濃度及び排気中の酸素濃度からEGR率を求め、前記求めた空燃比及びEGR率を前記記憶手段(32)の記憶するそれぞれの目標値に近づけるように前記第1開閉弁(15c)
及び前記第2開閉弁(12d) の開度を微調整する制御を行う制御手段(33)とを設けた
ことを特徴とする内燃機関の排気再循環制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内燃機関の排気再循環制御装置において、
前記制御手段(33)は、前記検出手段(31)の検出した運転状態から急加速中と判断したときに、前記第1開閉弁(15c) を閉じる制御を行う
ことを特徴とする内燃機関の排気再循環制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−248888(P2008−248888A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148876(P2008−148876)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【分割の表示】特願2000−182540(P2000−182540)の分割
【原出願日】平成12年6月19日(2000.6.19)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】