説明

処理液供給機構、処理液供給方法、液処理装置、および記憶媒体

【課題】供給しようとする液体に対する不都合を生じさせずに、流量制御器における気泡の発生を確実に防止することができる液供給機構を提供すること。
【解決手段】処理液供給機構3は、処理液タンク21と、処理液供給配管22と、処理液の通流断面積を変化させる可変オリフィス部を有する流量制御器27と、可変オリフィス部より前段の一次側の液圧および後段の二次側の液圧を求める圧力検出器26,28と、予め記憶された、処理液の液圧と対応する液圧における溶存可能な気体成分の量との関係から、処理液から気泡が発生し始める一次側の液圧と二次側の液圧との差圧ΔPsを求め、このΔPsの値以下の閾値ΔPtを設定し、実際に求められた一次側の液圧と二次側の液圧との差圧ΔPeの値がΔPtに達したか否かを判断し、ΔPeの値がΔPtに達したと判断した場合に、処理液の気泡の発生を抑制するように処理液の状態を制御する制御機構30とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の液体を流量制御して供給する液供給機構および液供給方法、そのような液供給機構を備えた液処理装置、ならびに記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスやフラットパネルディスプレー(FPD)の製造プロセスにおいては、洗浄処理、レジスト塗布処理、現像処理等の液処理が施される。このような液処理を行う液処理装置においては、処理液供給機構により処理チャンバ内に処理液を供給して半導体ウエハ等の被処理基板に所定の液処理を施す。
【0003】
このような処理液供給機構は、処理液を所定の圧力で配管内に通流させて処理チャンバに供給するものであり、その配管には処理液を所定の流量に制御する流量制御器が設けられている。流量制御器としては、流路の断面積を変化させることにより流量を制御するものが一般的である。
【0004】
ところで、流量制御範囲を大きくするために流路の断面積変化量を大きくとると、流量制御器前後の圧力差が大きくなって、処理液中に溶存している成分が気化することがあり、これにより処理液中に気泡が発生する。
【0005】
この種の流量制御器においては、処理液を送液中に気泡が発生すると、処理液と気泡とが合わさったものが所定の体積に制御されることとなり、処理液流量は制御したい量よりも少なくなってしまい、正しい流量制御を行うことが困難である。
【0006】
このような不都合を防止する技術としては、特許文献1に開示されているように、処理液供給配管に脱気装置を設け、供給する処理液を脱気して気泡自体の発生を抑制するものを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−49945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、処理液を常時脱気すると、処理液によっては脱気の際に所定の成分が気化する等の不都合が生じる。また、脱気処理によってある程度気泡成分を除去できたとしても、流量制御器の前後の圧力変動の度合いによっては気泡の発生を完全に防止することができない場合がある。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、供給しようとする液体に対する不都合を生じさせずに、流量制御器における気泡の発生を確実に防止することができる液供給機構および液供給方法、ならびにこのような液供給機構を備えた液処理装置を提供することを目的とする。
また、上記液供給方法を実施するためのプログラムを記憶した記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点では、基板に対して液処理を行う際に、基板に処理液を供給する処理液供給機構であって、処理液供給源と、前記処理液供給源から処理液を供給する処理液供給配管と、前記処理液供給配管に設けられ、前記処理液の通流断面積を変化させる可変オリフィス部を有する流量制御器と、前記可変オリフィス部より前段の一次側の液圧および前記可変オリフィス部より後段の二次側の液圧を求める圧力検出機構と、予め記憶された、処理液の液圧とその液圧の処理液に溶存可能な気体成分の量との関係から、前記処理液から気泡が発生し始める前記一次側の液圧と前記二次側の液圧との差圧ΔPsを求め、この差圧ΔPsの値以下の閾値ΔPtを設定し、実際に求められた前記一次側の液圧と前記二次側の液圧との差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したか否かを判断し、実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記処理液の気泡の発生を抑制するように制御する制御機構とを具備することを特徴とする処理液供給機構を提供する。
【0011】
上記第1の観点において、前記一次側の処理液の圧力を調節する調圧機構をさらに具備し、前記制御機構は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記差圧の値が前記閾値ΔPtより低くなるように、前記調圧機構の圧力調節を制御することにより処理液の状態を制御する構成とすることができる。
【0012】
また、前記一次側の処理液を脱気する脱気機構をさらに具備し、前記制御機構は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記差圧の値が前記閾値ΔPtより低くなるように、前記脱気機構による脱気を制御することにより処理液の状態を制御構成とすることができる。
【0013】
さらに、前記一次側の処理液の圧力を調節する調圧機構と、前記一次側の処理液を脱気する脱気機構をさらに具備し、前記制御機構は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記調圧機構の圧力調節を制御することにより処理液の状態を制御し、前記調圧機構の制御だけでは前記差圧が前記閾値ΔPtより低くならない場合に、前記脱気機構を作動させて前記差圧の値が前記閾値ΔPtより低くなるように制御することにより処理液の状態を制御する構成とすることができる。
【0014】
前記調圧機構は、前記処理液供給配管の一次側に設けられた、処理液の圧力を制御する圧力制御バルブを有する構成とすることができる。また、前記調圧機構は、前記処理液供給配管の一次側に設けられ、前記処理液が一旦貯留され、処理液の送出圧力を変化させることが可能な中間タンクを有する構成とすることもできる。この場合に、前記中間タンクは、その中を脱気する脱気機構を有するものとすることができる。
【0015】
本発明の第2の観点では、被処理体に対して液処理を行う際に、被処理体に処理液を供給する処理液供給方法であって、処理液供給源から配管を介して基板に供給される処理液の通流断面積を変化させる可変オリフィス部を有する流量制御器により流量を制御しつつ処理液を供給する工程と、前記可変オリフィス部より前段の一次側の液圧および前記可変オリフィス部より後段の二次側の液圧を求める工程と、処理液の液圧とその液圧の処理液に溶存可能な気体成分の量との関係から、前記処理液から気泡が発生し始める前記一次側の液圧と前記二次側の液圧との差圧ΔPsを求め、この差圧ΔPsの値以下の閾値ΔPtを設定する工程と、実際に求められた前記一次側の液圧と前記二次側の液圧との差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したか否かを判断する工程と、実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記処理液の気泡の発生を抑制するように制御する工程と
を有することを特徴とする処理液供給方法を提供する。
【0016】
上記第2の観点において、前記制御する工程は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記差圧の値が前記閾値ΔPtより低くなるように、前記一次側の処理液の圧力を調節するものとすることができる。
【0017】
また、前記制御する工程は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記差圧の値が前記閾値ΔPtより低くなるように、前記一次側の処理液を脱気するものとすることができる。
【0018】
さらに、前記制御する工程は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記一次側の処理液の圧力を調節し、それだけでは前記差圧が前記閾値ΔPtより低くならない場合に、前記一次側の処理液を脱気して前記差圧が前記閾値ΔPtより低くなるようにするものとすることができる。
【0019】
本発明の第3の観点では、基板に液処理を施す基板処理部と、前記基板処理部に処理液を供給する処理液供給機構とを具備し、前記処理液供給機構は、上記第1の観点のものであることを特徴とする液処理装置を提供する。
【0020】
本発明の第4の観点では、コンピュータ上で動作し、処理液供給機構を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、上記第2の観点の処理液供給方法が行われるようにコンピュータに処理装置を制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、予め記憶された、処理液の液圧とその液圧の処理液に溶存可能な気体成分の量との関係から、前記処理液から気泡が発生し始める前記一次側の液圧と前記二次側の液圧との差圧ΔPsを求め、この差圧ΔPsの値以下の閾値ΔPtを設定し、実際に求められた前記一次側の液圧と前記二次側の液圧との差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したか否かを判断し、実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記処理液の気泡の発生を抑制するように処理液の状態を制御するので、常時処理液を脱気する際のような不都合を生じさせることがなく、常に流量制御器において気泡が発生しない状態として、流量制御器における気泡の発生を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る液処理装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の液処理装置の処理液供給機構における流量制御器の概略構成を示す断面図である。
【図3】図1の液処理装置に設けられた全体制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】処理液の液圧と気体成分の溶存可能量との関係を示すグラフである。
【図5】処理液供給の制御シーケンスを示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態における種々の差圧値の関係をまとめて示す図である。
【図7】処理液供給の制御シーケンスの他の例を示すフローチャートである。
【図8】処理液供給の制御シーケンスのさらに他の例を示すフローチャートである。
【図9】本発明の他の実施形態における処理液供給機構を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について具体的に説明する。図1は本発明の一実施形態に係る液処理装置を示す概略構成図である。
【0024】
この液処理装置1は、被処理基板である半導体ウエハ(以下単にウエハと記す)Wに対して洗浄処理等の枚葉式の液処理を施すものであり、ウエハWに対して液処理が行われる処理部2と、処理部2へ処理液を供給する処理液供給機構3とを備えている。
【0025】
処理部2は、処理チャンバ11と、処理チャンバ11内でウエハWを回転可能に保持するスピンチャック12と、スピンチャック12を回転させるモータ13と、スピンチャック12に保持されたウエハWに処理液を吐出する処理液吐出ノズル14と、処理チャンバ11から処理液を排出する処理液排出部15とを有している。処理液吐出ノズル14は駆動機構16により駆動可能となっている。
【0026】
処理液供給機構3は、処理液を貯留する処理液タンク21と、処理液タンク21に貯留された処理液を処理部2へ供給する処理液供給配管22とを有している。処理液供給配管22には、処理液タンク21側から順に、調圧機構としての圧力制御バルブ24、脱気機構25、一次側圧力検出器26、流量制御器27、二次側圧力検出器28、開閉バルブ29が設けられている。また、処理液供給機構3は、圧力制御バルブ24、脱気機構25および流量制御器27等の制御を行うコントローラ30を有している。
【0027】
処理液タンク21には圧送ガスライン31が接続されており、圧送ガスライン31から圧送ガスを処理液タンク21内に供給することにより、処理液供給配管22に処理液が通流されるようになっている。また、処理液タンク21には排液ライン32が接続されている。圧送ガスライン31および排液ライン32には、それぞれ、開閉バルブ33および34が設けられている。
【0028】
処理液供給配管22は、処理部2の処理チャンバ11内に延び、処理液吐出ノズル14へ処理液を供給するようになっている。圧力制御バルブ24は、処理液タンク21から所定の圧力で処理液供給配管22に送出された処理液の圧力を所定の圧力に制御可能となっている。
【0029】
脱気機構25は、処理液流路と、処理液流路に接続された排気管とを有し(いずれも図示せず)、排気管を介してポンプ35により流路内を排気することにより処理液を真空脱気できるようになっている。
【0030】
流量制御器27は、図2に示すように、本体41と、本体41に設けられた流路42と、流路42に設けられた可変オリフィス45と、可変オリフィス45の断面積を変化させて流量を調節する流量調節部材46と、流量調節部材46を上下動させるアクチュエータ47とを有している。そして、導入口43から流路42に導入された処理液が、流量調節部材46により可変オリフィス45の断面積を調節することにより流量制御され、流出口44から流出されるようになっている。
【0031】
コントローラ30は、一次側圧力検出器26からの流量制御器27上流側(一次側)の圧力検出値と、二次側圧力検出器28からの流量制御器27下流側(二次側)の圧力検出値とからこれらの差圧を求める。二次側圧力検出器28により二次側の圧力を検出する代わりに、一次側の圧力と流量調節器27の流量の値から二次側の圧力を算出し、差圧を計算するようにしてもよい。この差圧に基づいて流量制御器27のアクチュエータ47に制御信号を送り、流量調節部材46による可変オリフィス45の断面積を制御して処理液の流量を制御する。また、コントローラ30には、予め、処理液の液圧とその液圧の処理液に溶存可能な気体成分の量との関係が、処理液の種類毎に記憶されており、コントローラ30は、その関係から気泡が発生し始める一次側液圧と二次側液圧との差圧値ΔPsを求め、ΔPs以下の値(ΔPsまたはその近傍の値)を閾値ΔPtとして設定しておき、実際の差圧ΔPeが閾値ΔPtに達したか否かを判断する。そして、その実際に求められた差圧の値が閾値に達したと判断した場合に、処理液の気泡の発生を抑制するように処理液の状態を制御するようになっている。具体的には、圧力制御バルブ24に信号を送って一次側の液圧を低下させ、ΔPeを閾値ΔPtよりも小さくすることにより、処理液の気泡の発生を抑制する。この場合に、一次側液圧と二次側液圧との差圧が小さすぎると流量制御ができないことから、ΔPeが流量制御可能な範囲内になるような範囲で一次側の液圧を低下させる。また、脱気機構25を作動させて、処理液を脱気することにより処理液からの気泡の発生を抑制するように制御することもできる。
【0032】
液処理装置1は全体を制御する全体制御部50を備えている。この全体制御部50は、図3のブロック図に示すように、プロセスコントローラ51と、ユーザーインターフェース52と、記憶部53とを有している。プロセスコントローラ51は、液処理装置1の全体のプロセスを制御するものであり、例えば、コントローラ30やバルブ29、33、34、圧送ガスの供給、モータ13、ノズル駆動機構16等を制御する。ユーザーインターフェース52はプロセスコントローラ51に接続され、オペレータが液処理装置1を管理するためにコマンド等の入力操作を行うキーボードや、液処理装置1の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなる。記憶部53もプロセスコントローラ51に接続され、その中に液処理装置1の制御対象を制御するための制御プログラムや、液処理装置1に所定の処理を行わせるためのプログラムすなわち処理レシピが格納されている。処理レシピは記憶部53の中の記憶媒体(図示せず)に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスクのような固定的なものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。そして、プロセスコントローラ51は、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて任意の処理レシピを記憶部53から呼び出して実行させることで、コントローラ51の制御下で、所定の処理が行われる。
【0033】
次に、このような液処理装置1によりウエハWの液処理を行う際の処理動作について説明する。なお、以下の処理動作は、全体制御部50の記憶部53における記憶媒体に記憶された所定の処理レシピに基づいて、プロセスコントローラ51が装置の各構成部を制御することにより行われる。
【0034】
まず、図示しない搬送アームにより処理チャンバ11内にウエハWを搬入し、スピンチャック12に保持させる。次いで、モータ13によりスピンチャック12とともにウエハWを所定の回転数で回転させながら、処理液供給機構3の処理液タンク21から処理液供給配管22を介して、処理部2の処理チャンバ11内に処理液を供給し、処理液吐出ノズル14からウエハW上に処理液を供給する。
【0035】
このとき、コントローラ30は、所定の流量で処理液が供給されるように、一次側液圧と二次側液圧との差圧値に基づいて流量制御器27に流量制御信号を送り、アクチュエータ47により流量調節部材46の位置を調節して可変オリフィス45の断面積を制御し、処理液の流量を制御させる。
【0036】
この場合に、流量制御器27により処理液の流量を制御するに際し、流量制御範囲を大きくする場合、オリフィス45の断面積の変化量、すなわち流路の断面積の変化量を大きくとる必要がある。しかし、流路の断面積変化量を大きくとると、流量制御器27前後の圧力差が大きくなって、処理液中に溶存している成分が気化することがあり、これにより処理液中に気泡が発生する。
【0037】
すなわち、流量制御器27のオリフィス45の断面積は処理液供給配管22の断面積よりも小さいから、処理液の圧力は流量制御器27の上流側よりも下流側のほうが低くなり、これらの間には差圧が存在するが、流量制御器27の流路の断面積を減少させて処理液の流量を少なくする場合、下流側の圧力は一層低くなって差圧が増加する。一方、ヘンリーの法則により、液体に溶存し得る気体成分の量は液体の圧力にほぼ比例する。すなわち、図4は、横軸に処理液の液圧をとり、縦軸に気体成分の溶存可能量をとったグラフ(つまり蒸気圧曲線)であるが、この図に示すように、圧力が増加するに従って、気体成分の溶存可能量が直線的に増加する。ここで、流量制御器27の上流側の処理液の液圧(一次側液圧)をP1とし、流量制御器27の下流側の処理液の液圧(二次側液圧)をP2とすると、上述したようにP1>P2となるから、図4に示すように、P2のときの気体成分の溶存可能量はP1のときの溶存可能量よりも減少する。このため、一次側液圧P1のとき溶存気体成分が例えば図中G1であって気泡が発生しない量であっても、二次側液圧P2では気体成分が溶存しきれなくなって気泡が発生することがあり得る。そして、流量制御器27で制御する流量値が小さいほど、P2が低下してP1とP2との差圧ΔPが大きくなり、気泡が発生しやすくなる。
【0038】
そこで、本実施形態では、以下の制御フローにより、処理液からの気泡の発生を抑制する。
以下、図5のフローチャートに基づいて説明する。
まず、コントローラ30に、予め、処理液の液圧とその液圧の処理液に溶存可能な気体成分の量との関係を、処理液の種類毎に記憶しておく(ステップ1)、コントローラ30は、その関係から気泡が発生し始めるP1とP2との差圧値ΔPsを求め、ΔPs以下の値(ΔPsまたはその近傍の値)を閾値ΔPtとして設定する(ステップ2)。なお、閾値ΔPtをΔPs以下としたのは、ΔPsで制御した場合には、実際に気泡が発生することが起こり得るので、確実に気泡の発生を防止できる安全率の分ΔPsよりも低く設定することを考慮したものである。そして実際の差圧ΔPeを求め、その値が閾値ΔPtに達したか否かを判断する(ステップ3)。ΔPeがΔPtに達していないと判断した場合には、初期条件のまま流量制御器27により流量を制御しつつ処理液を供給する(ステップ4)。
【0039】
一方、ΔPeがΔPtに達したと判断した場合には、処理液の気泡の発生を抑制するように制御する。具体的には、ΔPeがΔPtに達したと判断した場合に、圧力制御バルブ24に信号を送って一次側の液圧を低下させ、流量制御可能な範囲でΔPeを減少させる(ステップ5)。そして再びステップ3の判断を行い、ΔPeがΔPtに達しなくなるまでステップ5を繰り返す。ΔPeがΔPtに達しない状態となった場合には、ステップ5によりその変更した条件で流量制御器27により流量を制御しつつ処理液を供給する。
【0040】
ΔPeを減少させすぎて流量制御可能な範囲を外れると流量制御が行えないので、流量制御可能な最小限の値であるΔPmin以上の所定の値であるΔPn以上の範囲にΔPeが減少するようにする。なお、ΔPnをΔPmin以上としたのは、ΔPminで制御した場合には、実際に流量制御ができないことが起こり得るので、確実に流量制御が行える安全率の分ΔPminよりも高く設定することを考慮したものである。実際には、流量制御できないことが生じ難くなるようにΔPnから十分マージンをもってΔPeの減少量を設定することが好ましい。
【0041】
このときの差圧の関係を図6に示す。図6のΔPmaxは流量制御可能な最大の差圧値を示すものであり、ΔPsからΔPmaxの範囲は気泡が発生する範囲である。
【0042】
なお、流量制御の過程で、差圧PeがΔPminより小さくなると流量制御が行えなくなるので、ΔPeが所定の安全率を加えたΔPnに減少した際に、ΔPeをΔPtより小さい所定の値に増加させるように制御することが好ましい。
【0043】
上記図5の手順では十分に一次側の液圧を低下させることができず、差圧がΔPtより低くなり難い場合が存在するときには、図7に示すような制御を行う。ここでは、図5のステップ1、2と同様のステップ11、12を行った後、ステップ3と同様に、ΔPeがΔPtに達したか否かを判断する(ステップ13)。ΔPeがΔPtに達していないと判断した場合には、ステップ4と同様、初期条件のまま流量制御器27により流量を制御しつつ処理液を供給する(ステップ14)。ΔPeがΔPtに達したと判断した場合には、圧力制御バルブ24に信号を送って一次側の液圧を低下させ、流量制御可能な範囲でΔPeを減少させる(ステップ15)。これを所定回数繰り返したか否かを判断し(ステップ16)、その繰り返し数が所定回数に達してもΔPeがΔPtよりも低くならない場合には、脱気機構25を作動させ、処理液中の気体成分自体を減少させて気泡の発生を抑制するように制御する(ステップ17)。
【0044】
また、図8に示す制御を行うこともできる。図8の制御においては、図5のステップ1、2と同様のステップ21、22を行った後、ステップ3と同様に、ΔPeがΔPtに達したか否かを判断する(ステップ23)。ΔPeがΔPtに達していないと判断した場合には、ステップ4と同様、初期条件のまま流量制御器27により流量を制御しつつ処理液を供給する(ステップ24)。ステップ23において、ΔPeがΔPtに達したと判断した場合に、脱気機構25を作動させ、処理液中の気体成分自体を減少させて気泡の発生を抑制するように制御する(ステップ25)。
【0045】
以上のように、本実施形態では、処理液の液圧と溶存可能な気体成分の量との関係を予め記憶しておき、処理液から気泡が発生し始める一次側液圧P1と二次側液圧P2との差圧ΔPsを求め、この差圧ΔPsの値以下の閾値ΔPtを設定し、実際に求められた差圧ΔPeの値が閾値ΔPtに達したか否かを判断し、実際に求められた差圧ΔPeの値が閾値ΔPtに達したと判断した場合に、処理液の気泡の発生を抑制する処理を行うので、常時処理液を脱気する際のような不都合を生じさせることがなく、常に流量制御器において気泡が発生しない状態として、流量制御器における気泡の発生を確実に防止することができる。このため、流量制御に誤差が発生することを防止することができ、正確な流量制御を行うことができる。
【0046】
なお、図7、図8の場合には、従来と同様、脱気機構25を作動させるが、従来とは異なり常時作動しているわけではないので、処理液への悪影響はほとんど生じない。
【0047】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図9は、本発明の他の実施形態に係る液処理装置の処理液供給機構を示す概略構成図である。ここでは、一次側の調圧機構として、圧力制御バルブ24を設ける代わりに、調圧可能な加圧式中間タンク61を設ける。この中間タンク61は、加圧配管62が挿入されており、圧力調節器63により加圧配管62からの加圧ガスのガス圧を変化させることにより、流量制御器27の上流側の一次側液圧P1を調節することができる。また、中間タンク61には減圧配管64が挿入されており、それに接続された真空ポンプ65を作動させることにより、処理液の真空脱気も可能となっている。したがって、このような加圧式中間タンク61を設けることにより、一次側液圧P1を低下させて差圧を低下させることによる気泡発生の防止、および処理液を脱気することによる気泡発生の防止、およびこれらの併用による気泡発生の防止のいずれかを行うことができる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、1つの処理液を供給する処理液供給機構を示したが、処理液の種類は2つ以上であってもよく、その場合には、例えば処理液タンクおよび処理液供給配管を複数設ければよい。
【0049】
さらに、上記実施形態では、被処理基板として半導体ウエハを適用した場合について示したが、これに限るものではなく、例えば液晶表示装置用ガラス基板に代表されるフラットパネル表示装置用基板等、他の基板にも適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1;液処理装置
2;処理部
3;処理液供給機構
11;処理チャンバ
12;スピンチャック
13;モータ
14;ノズル
21;処理液タンク
22;処理液供給配管
24;圧力制御バルブ(調圧機構)
25;脱気機構
26;一次側圧力検出器
27;流量制御器
28;二次側圧力検出器
30;コントローラ
35;ポンプ
41;本体
42;流路
45;可変オリフィス
46;流量調節部材
47;アクチュエータ
50;全体制御部
51;プロセスコントローラ
52;ユーザーインターフェース
53;記憶部(記憶媒体)
61;加圧式中間タンク
62;加圧配管
63;圧力調整器
64;減圧配管
65;真空ポンプ
W;半導体ウエハ(被処理基板)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体に対して液処理を行う際に、被処理体に処理液を供給する処理液供給機構であって、
処理液供給源と、
前記処理液供給源から処理液を供給する処理液供給配管と、
前記処理液供給配管に設けられ、前記処理液の通流断面積を変化させる可変オリフィス部を有する流量制御器と、
前記可変オリフィス部より前段の一次側の液圧および前記可変オリフィス部より後段の二次側の液圧を求める圧力検出機構と、
予め記憶された、処理液の液圧とその液圧の処理液に溶存可能な気体成分の量との関係から、前記処理液から気泡が発生し始める前記一次側の液圧と前記二次側の液圧との差圧ΔPsを求め、この差圧ΔPsの値以下の閾値ΔPtを設定し、実際に求められた前記一次側の液圧と前記二次側の液圧との差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したか否かを判断し、実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記処理液の気泡の発生を抑制するように処理液の状態を制御する制御機構と
を具備することを特徴とする処理液供給機構。
【請求項2】
前記一次側の処理液の圧力を調節する調圧機構をさらに具備し、前記制御機構は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記差圧の値が前記閾値ΔPtより低くなるように、前記調圧機構の圧力調節を制御することにより処理液の状態を制御することを特徴とする請求項1に記載の処理液供給機構。
【請求項3】
前記一次側の処理液を脱気する脱気機構をさらに具備し、前記制御機構は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記差圧の値が前記閾値ΔPtより低くなるように、前記脱気機構による脱気を制御することにより処理液の状態を制御することを特徴とする請求項1に記載の処理液供給機構。
【請求項4】
前記一次側の処理液の圧力を調節する調圧機構と、前記一次側の処理液を脱気する脱気機構をさらに具備し、前記制御機構は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記調圧機構の圧力調節を制御することにより処理液の状態を制御し、前記調圧機構の制御だけでは前記差圧が前記閾値ΔPtより低くならない場合に、前記脱気機構を作動させて前記差圧の値が前記閾値ΔPtより低くなるように制御することにより処理液の状態を制御することを特徴とする請求項1に記載の処理液供給機構。
【請求項5】
前記調圧機構は、前記処理液供給配管の一次側に設けられた、処理液の圧力を制御する圧力制御バルブを有することを特徴とする請求項2または請求項4に記載の処理液供給機構。
【請求項6】
前記調圧機構は、前記処理液供給配管の一次側に設けられ、前記処理液が一旦貯留され、処理液の送出圧力を変化させることが可能な中間タンクを有することを特徴とする請求項2に記載の処理液供給機構。
【請求項7】
前記中間タンクは、その中を脱気する脱気機構を有することを特徴とする請求項6に記載の処理液供給機構。
【請求項8】
被処理体に対して液処理を行う際に、被処理体に処理液を供給する処理液供給方法であって、
処理液供給源から配管を介して基板に供給される処理液の通流断面積を変化させる可変オリフィス部を有する流量制御器により流量を制御しつつ処理液を供給する工程と、
前記可変オリフィス部より前段の一次側の液圧および前記可変オリフィス部より後段の二次側の液圧を求める工程と、
処理液の液圧とその液圧の処理液に溶存可能な気体成分の量との関係から、前記処理液から気泡が発生し始める前記一次側の液圧と前記二次側の液圧との差圧ΔPsを求め、この差圧ΔPsの値以下の閾値ΔPtを設定する工程と、
実際に求められた前記一次側の液圧と前記二次側の液圧との差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したか否かを判断する工程と、
実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記処理液の気泡の発生を抑制するように処理液の状態を制御する工程と
を有することを特徴とする処理液供給方法。
【請求項9】
前記制御する工程は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記差圧の値が前記閾値ΔPtより低くなるように、前記一次側の処理液の圧力を調節することを特徴とする請求項8に記載の処理液供給方法。
【請求項10】
前記制御する工程は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記差圧の値が前記閾値ΔPtより低くなるように、前記一次側の処理液を脱気することを特徴とする請求項8に記載の処理液供給方法。
【請求項11】
前記制御する工程は、前記実際に求められた差圧ΔPeの値が前記閾値ΔPtに達したと判断した場合に、前記一次側の処理液の圧力を調節し、それだけでは前記差圧が前記閾値ΔPtより低くならない場合に、前記一次側の処理液を脱気して前記差圧が前記閾値ΔPtより低くなるようにすることを特徴とする請求項8に記載の処理液供給方法。
【請求項12】
基板に液処理を施す基板処理部と、
前記基板処理部に処理液を供給する処理液供給機構と
を具備し、
前記処理液供給機構は、請求項1から請求項7のいずれかに記載されたものであることを特徴とする液処理装置。
【請求項13】
コンピュータ上で動作し、処理液供給機構を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項8から請求項11のいずれか1項の処理液供給方法が行われるようにコンピュータに処理装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−212598(P2010−212598A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59573(P2009−59573)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】