説明

切り替え弁および車両用懸架装置

【課題】ショックアブソーバなどの油圧緩衝機構内にショックアブソーバの長さ調節のために液体の流通方向を切り替える切り替え弁を内蔵し、外部より遠隔操作によりショックアブソーバの長さ調節を可能とする車両用懸架装置を提供する。
【解決手段】車両用懸架装置におけるショックアブソーバのピストンロッド4の下端部の内周面内に軸方向両端部に弁部30を備えた切り替え弁体27を配置し、ピストンロッド4の軸孔21内に挿通された弁操作部材25を軸方向に移動することで、切り替え弁体27のいずれか一方の弁部30を開放し、閉じた他方の弁部の流通孔34と開放した弁部30とを、切り替え弁体27内から径方向流通孔36、切り替え弁体27の外周部の周囲の液路33を通って連通させるが、逆方向の流通は逆止弁を構成するボール体38により阻止される。これにより切り替え弁が切り替えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の流れ方向を切り替える切り替え弁と、この切り替え弁を備えた車両用懸架装置に係り、特にショックアブソーバの長さを調整を可能とする車両用懸架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用懸架装置として、積載荷重の大小に関係なく自動的に一定の車高を保持できる懸架装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
この特許文献1に記載の懸架装置は、セルフポンピング動作を行なう油圧緩衝機構と、この油圧緩衝機構とは別構成の蓄圧機構とを備え、該油圧緩衝機構を構成するピストンロッドが荷重の変化により伸縮すると、所定の位置に戻すように該ピストンロッドに油圧が作用し、特にピストンロッドを伸長させる場合には車両の走行の際に油圧緩衝機構に生じる振動を利用してセルフポンピング動作が行われる。その際前記油圧緩衝機構と前記蓄圧機構との間で作動油の補給と戻し動作が行われるようになっている。また、前記油圧機構には複数の逆止弁が設けられ、ピストンロッドが所定位置に戻れるように油圧が作用するようにしている。
【0004】
また、他の車両用懸架装置として、例えば油圧緩衝機構であるショックアブソーバをショックアブソーバ本体と、このショックアブソーバ本体を長さ方向に螺進可能に取付ける筒部とにより構成し、該ショックアブソーバ本体と該筒部との相対長さを調整することにより懸架装置の長さを変更したものが提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平09−310731号公報
【特許文献2】特開2004−338490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に示すような車両用懸架装置において、ショックアブソーバの長さ調節手段として例えば電動駆動によりショックアブソーバ本体を筒部に対して回動させる方式が提案されているが、駆動モータなどの部品が必要となる。このため、懸架装置の設置される狭いスペース等の点より、前記駆動モータなどの配置位置が制限を受けることも考えられる。また、駆動モータなどは比較的重く、車両全体の重量が増えることにもなる。
【0006】
これに対し、特許文献1に示すように、懸架装置に油圧を利用してショックアブソーバの長さ調節を行うと駆動モータは不要となるが、蓄圧機構を別に必要とする。また、特許文献1の懸架装置にあっては、複数の逆止弁を必要としており、油圧経路の複雑化を招いている。特に、ショックアブソーバなどの油圧緩衝機構内に液体の流通方向を切り替える切り替え弁を配置しようとする場合、コンパクトな構成で、外部からの切り替えができることが要求される。
【0007】
本発明は、斯かる観点に鑑みなされたもので、細長い管路内に配置されて液体の流通方向を遠隔操作により切り替えできる切り替え弁を提供することを目的とするものである。
【0008】
また、本発明は、ショックアブソーバなどの油圧緩衝機構内にショックアブソーバの長さ調節のために液体の流通方向を切り替える切り替え弁を内蔵し、外部より遠隔操作によりショックアブソーバの長さ調節を可能とする車両用懸架装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を実現する切り替え弁の構成は、請求項1に記載のように、軸方向一端部内に弁本体部が収容され、軸方向に沿って軸孔が形成されると共に、該軸孔に連通する液孔を径方向に形成した棒状部材と、前記棒状部材の軸孔に軸方向移動可能に挿通された弁操作棒と、を有し、前記棒状部材内を通り、前記棒状部材の周壁部に形成された液孔と前記棒状部材の一端側との間における液体の流通方向を切り替え可能とする切り替え弁であって、前記弁本体部は、軸方向両端部に第1弁体部および第2弁体部が形成され、軸方向他端部側が前記弁操作棒の一端側に接続された切り替え弁体と、前記切り替え弁体を軸方向移動可能に収容し、前記第1弁体部および第2弁体部がそれぞれ当接する第1弁座部および第2弁座部を軸方向両端部に対向配置した弁座部材と、を有し、前記切り替え弁体は、前記第1弁体部側及び前記第2弁体部側にそれぞれ形成した第1通液孔及び第2通液孔を有すると共に、該第1通液孔及び第2通液孔と連通する径方向に形成された径方向通液孔を有し、前記第1通液孔及び前記第2通液孔の外側から内側への液体の流通のみを許容する逆止弁機構を備え、前記径方向通液孔と連通する弁液路を切り替え弁体の外周と前記弁座部材の内周との間に形成し、前記切り替え弁体の軸方向移動により、前記弁液路を前記棒状部材の周壁部に形成された液孔と連通する状態と、前記棒状部材の一端側と連通する状態に切り替え可能とすることを特徴とする。
【0010】
本発明の目的を実現する車両用懸架装置の構成は、請求項2に記載のように、インナーチューブ内にピストンロッドが軸方向に相対移動自在に収容され、アウターチューブ内に該インナーチューブを配置したショックアブソーバを車体側と車輪側との間に取り付け、前記ピストンロッドの先端部に設けたバネ座と前記アウターチューブに設けたバネ座との間にコイルスプリングを配置し、該バネ座の軸方向位置を変更可能とした車両用懸架装置において、上記した構成の切り替え弁における前記棒状部材を前記ピストンロッドとし、該ピストンロッドの下端部に前記切り替え弁体を配置し、前記インナーチューブ内に挿入されている前記ピストンロッドの外周にシール部材を固定し、該インナーチューブ内を該シール部材を境にして該ピストンロッドの液孔に連通する第1液室と、第2液室とに区分けし、前記弁操作棒を操作して前記切り替え弁体を軸方向に移動させることにより、前記第1液室から前記第2液室へ向かう作動油の流れと、前記第2液室から前記第1液室へ向かう作動油の流れとを切り替え可能とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明による切り替え弁によれば、棒状部材の軸方向一端部に弁本体部を収容しているので、例えば細長いパイプの先端部で、パイプの先端側からパイプ内を通って該パイプの周壁部に形成された液孔から排出される液体の流れ方向と、逆に該液孔から該パイプ内を通ってパイプの先端側から排出させる液体の流れ方向とを、弁操作棒を軸方向移動させるだけで切り替え可能とする。このため、液体の流通方向を切り替えて使用される装置等において、前記棒状部材自体を当該装置を構成する部品に適用することにより、別に切り替え弁を用意することがなく、当該装置のコンパクト化を図ることができる。
【0012】
本発明による自動車用懸架装置において、車高調整のためにバネ座の軸方向位置を変更して例えば低い車高にした場合、ショックアブソーバの全長が長いままであるとコイルスプリングに遊びが生じ異音の発生やサスペンションの破損を招いたり、車両がコーナーを曲がるときに車両内側のサスペンションが必要以上に伸びてしまい操縦安定性が低下するといった不具合が生じ、また逆に高い車高にした場合、ショックアブソーバの全長が短いままであると、車両の走行時における路面の凹凸に対する追従性が悪くなって乗り心地の悪化や走破性の低下を招いたり、コーナーを曲がるときに車両内側のサスペンションが伸びず、車両の挙動が機敏になりすぎてしまうといった不具合が生じる。
【0013】
しかし、ショックアブソーバの全長を調整ピストンロッドの高さ位置を調整することでこれらの不具合を解消できるが、本発明によれば、第1液室と第2液室との間における作動油の流通方向を切り替える切り替え弁体をピストンロッドの下端部内に配置することにより、ピストンロッド自体の外径を変更せずに済み、ショックアブソーバの外径に変更を加えることなくセルフポンピング動作によりピストンロッドを油圧により任意の位置に移動させることが可能となった。
【0014】
また、切り替え弁の切り替え操作は、ピストンロッド内に挿通されている弁操作棒を例えば軸方向に移動させることで行えるので、簡単に切り替え弁の切り替え操作を行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1および図2は本発明による車両用懸架装置の実施例を示す図、図3および図4は図1および図2に示す逆止弁構成の切り替え弁である。
【0016】
図1はショックアブソーバとコイルスプリングとの組合せからなる乗用車などの車両用懸架装置の一部切欠断面図で、車高を低く調整したのに伴いショックアブソーバの全長を短くした状態を示し、図2は車高を高く調整したのに伴いショックアブソーバの全長を長くした状態を示す。図3はショックアブソーバの全長を長くする方向に切り替え弁を切り替えた状態を示す断面図、図4はショックアブソーバの全長を短くする方向に切り替え弁を切り替えた状態を示す断面図である。
【0017】
本実施例の車両用懸架装置1は、油圧式のショックアブソーバ2と、ショックアブソーバ2のアウターチューブ3とショックアブソーバ2のピストンロッド4との間に配置したコイルスプリング5とにより構成されている。
【0018】
本実施例のショックアブソーバ2は、インナーチューブ6内に中空のピストンロッド4を軸方向に移動可能に配置した構成で、アウターチューブ3内にインナーチューブ6が液密性を保持して固定されている。アウターチューブ3の内面とインナーチューブ6の外面との間には外液室7が形成されている。また、インナーチューブ6内は、ピストンロッド4の外周部に固定した第1シール部材8を境にして、該シール部材8の上部側に第1液室9と、第1シール部材8の下部側に第2液室10とが区分けされ、第2液室10と外液室7とがインナーチューブ6の下端部に取り付けた振動の減衰作用を行うバルブ機構11を介して連通している。この第1シール部材8は、後記する切り替え弁20を構成するピストンロッド4に形成した油孔24が第1液室9に臨む位置に固定されている。なお、ピストンロッド4の下端部(図中右端部)には、インナーチューブ6の内周面に摺動する支持部材15が固定され、ピストンロッド4が軸方向に沿って滑らかに移動できるようにしている。
【0019】
アウターチューブ3の外周面にはネジ部3aが形成され、ナット部材で構成されたばね受座12がネジ結合により取り付けられており、同様にネジ結合している回り止用ナット部材13によりばね受座12が図中右側に移動するのを阻止している。
【0020】
ショックアブソーバ2のピストンロッド4の先端部(図中左端部)には、車体側取付ユニット42が取り付けられ、この車体側取り付けユニット42の若干下側に車高調整装置であるバネ受装置14が取り付けられており、このバネ受装置14とバネ受座12との間にコイルスプリング5が装着されている。なお、コイルスプリング5の長さを図2の状態としている。
【0021】
車高調整装置であるバネ受装置14は、リング状の筒部14a内にバネ受座をなすリング状のピストン14bを配置し、不図示の油圧回路からリング状の筒部14aとリング状のピストン14bとの間に油圧を加えると、リング状の筒部14aとの相対距離が長くなって車高を高く調整することができる(図2)。
【0022】
逆に、リング状の筒部14aとリング状のピストン14bとの間の作動油を前記油圧回路に戻すと、リング状の筒部14aとピストン14bとの相対距離が短くなって車高を低く調整することができる(図1)。
【0023】
図2に示す車高が高い位置において、リング状のピストン14bとリング状の筒部14aとの相対距離を短くして車高を低く調整しようとした場合、ショックアブソーバ2の全長が長いままであると、リング状のピストン14bが上方に移動するだけであるため、リング状のピストン14bに対してコイルスプリング5の上端が離れ、コイルスプリング5が遊んでしまう。また、コーナーを曲がるとき、外側の懸架装置に車両の荷重が移動し、内側の懸架装置の荷重が抜けたときにショックアブソーバ2の長さ分だけ伸びるので、車両内側の懸架装置が必要以上に伸びてしまい、操縦安定性の低下を招くという不具合が生じる。
【0024】
逆に、図1に示す車高が低い位置において、リング状のピストン14bとリング状の筒部14aとの相対距離を長くして車高を高く調整しようとした場合、ショックアブソーバ2の全長が短いままであると、ショックアブソーバ2の可動範囲が短いので、路面の凹凸に対する追従性が悪くなる。また、コーナーを曲がるとき、加わった荷重が開放されたときに車両内側の懸架装置の伸びが少なく、車両の挙動が機敏になりすぎてしますという不具合を生じる。
【0025】
そこで、ショックアブソーバ2の全長を調節可能とすることにより、車高調整に合わせてショックアブソーバ2の全長も調節できるようにしている。
【0026】
本実施例におけるショックアブソーバ2の全長調節機構を以下に説明する。
【0027】
図1、図2において、第1液室9内の作動油を第2液室10内に送り出すと、第2液室10に臨むピストンロッド4の端面が液圧作動面となり、ピストンロッド4は図中左側に移動し、ピストンロッド4はアウターチューブ3に対して伸長し、図1の状態から図2の状態へ切り替わる。ピストンロッド4をアウターチューブ3に対して伸長させるには、ピストンロッド4に車体の重量が加わっているため、何らかの力が必要となるが、本実施例では後述するが車両走行時に懸架装置1のショックアブソーバ2とアウターチューブ3との相対的な上下動を利用したセルフポンピング動作により、第1液室9内の作動油を第2液室10内に送り出すようにしている。
【0028】
また図1、図2において、第2液室10内の作動油を第1液室9内に送り出せるように液路を切り替えると、車体の重量を受けて第2液室10内の作動油が第1液室9内に入り込み、ピストンロッド4が下方に移動してピストンロッド4はアウターチューブ3内に入り、図2の状態から図1の状態となってショックアブソーバ2の全長が短くなる。
【0029】
ここで、第1液室9は、ピストンロッド4の外周面に固定された第1シール部材8と、インナーチューブ6の内周面に固定される筒状の第2シール部材16とにより構成され、この第2シール部材16は上端がピストンロッド4の外周面に摺動し、内周面に第1シール部材8の外周面が摺動する。そして、第2シール部材16の内周面に第1液室9が形成される。
【0030】
このような液路の切り替えは、図3および図4に示す逆止弁構成の切り替え弁20により行っている。
【0031】
本実施例の切り替え弁20は、軸心部に軸方向に沿って軸孔21が形成された中空構造のピストンロッド4の下端部に、該軸孔21と連通する大径の内径部22を形成し、この内径部22内に切り替え弁20の弁本体部23を軸方向に移動可能に配置した構成としている。
【0032】
切り替え弁20は、図3に示すように、ピストンロッド4の軸孔21に挿通された弁操作棒25の下端部が弁本体部23に固定され、弁操作棒25を軸方向に上下動させることにより、弁本体部23を上下方向に移動させるようにしている。本実施例では、ピストンロッド4の上端部において、軸孔21にねじ込み部材26を螺合させ、このねじ込み部材26に弁操作棒25を固定しており、ねじ込み部材26をねじ込むと弁操作棒25か軸回りに回転しながら下方に移動し、またねじ込み部材26を逆方向に回すと弁操作棒25が軸回りに逆回転しながら上方へ移動する。なお、ねじ込み部材26はオイルシール部材26aにより軸孔21に対して油密性を有して取付けられており、後記する液路21aから作動油が漏れ出ることが防止されている。
【0033】
弁操作棒25の外径は、軸孔21の内径よりも小径に形成され、弁操作棒25の外周面と軸孔21の内周面との間に作動油が流れる液路21aを形成している。なお、ねじ込み部材26の内端面と弁操作棒25の外周面との間にはリング状シール部材26bが配置され、液路21a内の作動油が弁操作棒25の外周面とねじ込み部材26との間の隙間を通って外部に漏出するのを防止している。
【0034】
弁本体部23は、両端部がテーパ面に形成された円筒形状に形成された切り替え弁体27が内径部22の内周面に設けられた弁座部材28に対して上下方向に移動可能としており、切り替え弁体27はテーパ面に形成された上下方向両端部を第1弁体部29と第2弁体部30とし、弁座部材28には、第1弁体部29と当接する第1弁座部31、第2弁体部30と当接する第2弁座部32が形成されている。切り替え弁体27の全長は、弁座部材28における第1弁座部31と第2弁座部32との距離よりも短く形成されている。
【0035】
そして、図3に示すように、第1弁体部29が第1弁座部31に当接している状態では、第2弁体部30と第2弁座部32とは離れており、図4に示すように、第2弁体部30が第2弁座部32に当接している状態では、第1弁体部29と第1弁座部31とは離れている。なお、切り替え弁体27の外径は、弁座部材28の内径よりも小径に形成され、切り替え弁体27の胴部の外周面と弁座部材28の内周面との間に作動油の液路33が形成される。
【0036】
切り替え弁体27は、第1弁体部29側と第2弁体部30側にそれぞれ端面に臨む第1通液孔34と第2通液孔35とが軸方向に沿って形成され、また液路33と常時連通状態にある第3通液孔36と第4通液孔37が径方向に沿って形成されている。
【0037】
本実施例では、第1通液孔34と第2通液孔35とは同一軸線上に形成し、切り替え弁体27の内部側から第1通液孔34の内端に第1ボール体38を当接可能とし、同様に第2通液孔35の内端に第2ボール体39を当接可能としており、連絡孔40内に配置した圧縮コイルバネ41の両端に第1ボール体38と第2ボール体39が当接し、第1ボール体38と第2ボール体39がそれぞれ第1通液孔34と第2通液孔35の内端面に押圧されている。
【0038】
切り替え弁体27は、第1通液孔34および第2通液孔35とは、それぞれ第3通液孔36と第4通液孔37に連通可能となっており、第1ボール体38と第2ボール体39とは、それぞれ第1通液孔34から第3通液孔36へ、第2通液孔35から第4通液孔37の作動油の移動は許容するがその逆は阻止するという逆止弁としての機能を有している。
【0039】
また、弁操作棒25の下端部には、切り替え弁体27の第1通液孔34と連通する軸孔部25aと、この軸孔部25aと通じ、弁操作棒25の外周面と軸孔21の内周面との間に形成された液路21aに連通する径方向に延びる径方向孔部25bとが形成されている。
【0040】
そして、切り替え弁20の切り替え弁体27を図3に示すように、上方へ移動させて切り替え弁体27の第1弁体部29を第1弁座部31に当接させると、第1液室9内の作動油が油孔24を通して液路21aから径方向孔部25b、軸孔部25a、第1通液孔34を通り、第1ボール体38を圧縮コイルバネ41のバネ力に抗して押しのけ、第3通液孔36を通して液路33に出て、第2液室10に送り出される。その際、第2液室10内の作動油が逆流しようとしても、第1ボール体38を上方に向けて押圧する圧力が第1ボール体38に作用するので、第1ボール体38が第1通液孔34の内端面に押圧されてこの第1通液孔34を塞ぎ、作動油の逆流が阻止される。勿論、第1弁体部29が第1弁座部31に当接していることにより、液路33と液路21aとが直接に連通し、第2液室10と第1液室9とが連通することはない。
【0041】
本実施例において、切り替え弁体27を上方へ移動させるのは、ショックアブソーバ2の全長を長くする場合で、図1に示す第1液室9内の作動油を第2液室10側へ排出し、その際第2液室10内の油圧によりピストンロッド4を上昇させる。具体的には、車両の走行時にピストンロッド4はアウターチューブ3に対して上下振動を繰り返すが、ピストンロッド4が上方へ移動すると、第1液室9の容積が強制的に減容する方向となるので、その減容分の作動油が第1液室9から第2液室10に供給され、図2に示すように第1液室9の容積が略ゼロとなるまでこの動作が繰り返し行われ。なお、切替え弁体27が図3に示す上方位置に切り替えられている状態において、第2液室10内が高圧となっても、第1ボール体38が逆止弁として機能し、第2液室10内の作動油が第1液室9に戻されることがなく、長くしたピストンロッド4が下がることがない。
【0042】
次に、ショックアブソーバ2の全長を短くする場合には、図4に示すように切り替え弁体27を下方へ移動させ、図2に示す略ゼロの容積となっている第1液室9内へ第2液室10内の作動油を排出させることにより、第2液室10の容積減少に伴ってピストンロッド4が下降する。
【0043】
図4に示すように、切り替え弁体27を下方へ移動させて切り替え弁体27の第2弁体部30を第2弁座部32に当接させると、第2液室10内の作動油が第2通液孔35を通して第2ボール体39を圧縮コイルバネ41のバネ力に抗して押し上げるので、第2通液孔35を通った作動油が第4通液孔37から液路33に達する。切り替え弁体27が下方に移動することにより第1弁体部29と第1弁座部31とが離れ、液路33と液路21aとの連通状態が維持されるため、第2液室10から液路33に達した作動油は液路21aから油孔24を通して第1液室9に送出される。
【0044】
その際、第1液室9内の作動油が逆流しようとしても、第2ボール体39を下方に向けて押圧する圧力が第2ボール体39に作用するので、第2ボール体39が第2通液孔35の内端面に押圧されてこの第2通液孔35を塞ぎ、作動油の逆流が阻止される。勿論、第2弁体部30が第2弁座部32に当接していることにより、液路33と液路21aとが直接に連通し、第2液室10と第1液室9とが連通することはない。
【0045】
本実施例において、切り替え弁体27を下方へ移動させるのは、ショックアブソーバ2の全長を短くする場合で、図2に示す第2液室10内の作動油を第1液室9側へ排出し、その際第2液室10の容積減少によりピストンロッド4を降下させる。具体的には、前述した車両走行時に懸架装置1のショックアブソーバ2とアウターチューブ3との相対的な上下動を利用したセルフポンピング動作により、第2液室10内の作動油を第1液室9に送り出すようにしている。
【0046】
すなわち、ピストンロッド4の下向きの動作により第2液室10が高圧となるため、第2液室10内の作動油が第1液室9内に送り込まれる。そして、一旦第1液室9内に送り込まれた作動油は、切り替え弁体27が図4に示す下方位置に下げられていると、第2ボール体39の逆止弁としての作用により第2液室10に戻る事が無いため、ピストンロッド4が短くなった状態が維持される。
【0047】
このように、ねじ込み部材26を正逆方向に回すことにより、細長いパイプであるアウターチューブ3内の深い位置に配置した切り替え弁20の切り替え弁体27を弁操作棒25の上下方向の移動に伴って軸方向に移動させ、第1液室9から第2液室10に向けた作動油の一方向の流れと、逆の第2液室10から第1液室9に向けた作動油の一方向の流れを切り替えるようにしているので、ピストンロッド4内に切り替え弁を配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による車両用懸架装置の実施例を示し、ショックアブソーバの全長が短い状態を示す一部切欠断面図。
【図2】本発明による車両用懸架装置の実施例を示し、ショックアブソーバの全長が長い状態を示す一部切欠断面図。
【図3】図1、図2に設けた逆止弁構成の切り替え弁の断面図で、第1液室から第2液室へ作動油を流す切り替え状態を示す。
【図4】図1、図2に設けた逆止弁構成の切り替え弁の断面図で、第2液室から第1液室へ作動油を流す切り替え状態を示す。
【符号の説明】
【0049】
1 車両用懸架装置
2 ショックアブソーバ
3 アウターチューブ 3a ネジ部
4 ピストンロッド
5 コイルスプリング
6 インナーチューブ
7 外液室
8 第1シール部材
9 第1液室
10 第2液室
11 バルブ機構
12 ばね受座
13 回り止用ナット部材
14 バネ受装置 14a 筒部 14b ピストン
15 支持部材
16 第2シール部材
20 切り替え弁
21 軸孔 21a 液路
22 内径部
23 弁本体部
24 油孔
25 弁操作棒 25a 軸孔部 25b 径方向孔部
26 ねじ込み部材
27 切り替え弁体
28 弁座部材
29 第1弁体部
30 第2弁体部
31 第1弁座部
32 第2弁座部
33 液路
34 第1通液孔
35 第2通液孔
36 第3通液孔
37 第4通液孔
38 第1ボール体
39 第2ボール体
40 連絡孔
41 圧縮コイルバネ





【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端部内に弁本体部が収容され、軸方向に沿って軸孔が形成されると共に、該軸孔に連通する液孔を径方向に形成した棒状部材と、前記棒状部材の軸孔に軸方向移動可能に挿通された弁操作棒と、を有し、前記棒状部材内を通り、前記棒状部材の周壁部に形成された液孔と前記棒状部材の一端側との間における液体の流通方向を切り替え可能とする切り替え弁であって、
前記弁本体部は、軸方向両端部に第1弁体部および第2弁体部が形成され、軸方向他端部側が前記弁操作棒の一端側に接続された切り替え弁体と、前記切り替え弁体を軸方向移動可能に収容し、前記第1弁体部および第2弁体部がそれぞれ当接する第1弁座部および第2弁座部を軸方向両端部に対向配置した弁座部材と、を有し、
前記切り替え弁体は、前記第1弁体部側及び前記第2弁体部側にそれぞれ形成した第1通液孔及び第2通液孔を有すると共に、該第1通液孔及び第2通液孔と連通する径方向に形成された径方向通液孔を有し、前記第1通液孔及び前記第2通液孔の外側から内側への液体の流通のみを許容する逆止弁機構を備え、前記径方向通液孔と連通する弁液路を切り替え弁体の外周と前記弁座部材の内周との間に形成し、前記切り替え弁体の軸方向移動により、前記弁液路を前記棒状部材の周壁部に形成された液孔と連通する状態と、前記棒状部材の一端側と連通する状態に切り替え可能とすることを特徴とする切り替え弁。
【請求項2】
インナーチューブ内にピストンロッドが軸方向に相対移動自在に収容され、アウターチューブ内に該インナーチューブを配置したショックアブソーバを車体側と車輪側との間に取り付け、前記ピストンロッドの先端部に設けたバネ座と前記アウターチューブに設けたバネ座との間にコイルスプリングを配置した車両用懸架装置において、
請求項1に記載の切り替え弁における前記棒状部材を前記ピストンロッドとし、該ピストンロッドの下端部に前記切り替え弁体を配置し、
前記インナーチューブ内に挿入されている前記ピストンロッドの外周にシール部材を固定し、該インナーチューブ内を該シール部材を境にして該ピストンロッドの液孔に連通する第1液室と、第2液室とに区分けし、前記弁操作棒を操作して前記切り替え弁体を軸方向に移動させることにより、前記第1液室から前記第2液室へ向かう作動油の流れと、前記第2液室から前記第1液室へ向かう作動油の流れとを切り替え可能とすることを特徴とする車両用懸架装置。
【請求項3】
前記コイルスプリングを受けるバネ座の軸方向位置を変更可能とすることにより車高を調整可能とする車高調整装置を構成していることを特徴とする請求項2に記載の車両用懸架装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−127150(P2007−127150A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318298(P2005−318298)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(394016106)株式会社キャロッセ (18)
【Fターム(参考)】