動力伝達装置
【課題】負荷の駆動条件に関係なくエンジンの始動を可能にする。
【解決手段】エンジン36を始動する場合には、電子制御ユニット50は、出力側ロータ18をエンジン回転方向に回転駆動するようにステータ16から出力側ロータ18にトルクを作用させるとともに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用するように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御する。さらに、車輪38の要求トルクに基づいてクラッチ47により出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容するときは、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクと、車輪38の要求トルクとに基づいて、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクを制御する。
【解決手段】エンジン36を始動する場合には、電子制御ユニット50は、出力側ロータ18をエンジン回転方向に回転駆動するようにステータ16から出力側ロータ18にトルクを作用させるとともに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用するように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御する。さらに、車輪38の要求トルクに基づいてクラッチ47により出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容するときは、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクと、車輪38の要求トルクとに基づいて、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクを制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、原動機からの動力を回転子同士の電磁気結合を利用して負荷へ伝達することで負荷を駆動することが可能であり、さらに、固定子導体への電力供給によっても負荷を駆動することが可能な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1による動力伝達装置は、磁石が配設され駆動輪に機械的に連結された第1ロータと、第1ロータの磁石と電磁気的に結合する巻線が配設されエンジン(原動機)に機械的に連結された第2ロータと、第1ロータの磁石と電磁気的に結合する巻線が配設されたステータと、第2ロータの巻線に電気的に接続された巻線が配設され第2ロータに機械的に連結されたトランスロータと、トランスロータの巻線と電磁気的に結合する巻線が配設されたトランスステータと、を備える。特許文献1においては、第2ロータに伝達されたエンジンからの動力は、第2ロータの巻線と第1ロータの磁石との電磁気結合によって第1ロータに伝達されるため、エンジンの動力により駆動輪を駆動することができる。さらに、バッテリーからインバータを介してトランスステータの巻線に供給された電力を、トランスステータの巻線とトランスロータの巻線との電磁気結合によってトランスロータの巻線及び第2ロータの巻線に供給することができるため、トランスステータの巻線への電力供給を制御することで、駆動輪の回転速度を制御することができる。さらに、ステータの巻線と第1ロータの磁石との電磁気結合によって、バッテリーからインバータを介してステータの巻線に供給された電力を用いて第1ロータに動力を発生させて駆動輪を駆動することができるため、ステータの巻線への電力供給を制御することで、駆動輪に伝達されるトルクを制御することができる。また、バッテリーからインバータを介してステータの巻線に供給された電力を用いて第1ロータに動力を発生させることで、エンジンが動力を発生していなくても駆動輪を駆動することができる。このように、特許文献1においては、エンジンの動力とバッテリーからステータの巻線への供給電力とのいずれかを選択的に用いて駆動輪を駆動することができる。
【0003】
【特許文献1】特許第3067594号公報
【特許文献2】特開2007−116837号公報
【特許文献3】特開平9−46815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、エンジンの動力とバッテリーからステータの巻線への供給電力とのいずれかを選択的に用いて駆動輪を駆動する際には、駆動輪の駆動条件に関係なくエンジンの始動を行えることが望ましい。ただし、駆動輪の回転が停止している状態でエンジンの始動を行う場合は、駆動輪を駆動することなくバッテリーからの電力を用いてエンジンのクランキングを行う必要がある。また、バッテリーからステータの巻線への供給電力を用いて駆動輪を駆動している状態でエンジンの始動を行う場合は、駆動輪を駆動するトルクを低下させることなくバッテリーからの電力を用いてエンジンのクランキングを行う必要がある。
【0005】
本発明は、エンジンからの動力を回転子同士の電磁気結合を利用して負荷へ伝達することで負荷を駆動することが可能であるとともに、固定子導体への電力供給によっても負荷を駆動することが可能な動力伝達装置において、負荷の駆動条件に関係なくエンジンの始動を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る動力伝達装置は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明に係る動力伝達装置は、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、第1回転子に対し相対回転可能な第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、を備え、回転子導体は、第1回転子と第2回転子との間に回転差が発生するのに起因して誘導電流が流れることで回転磁界を発生し、第1回転子にエンジンからの動力が伝達され、第2回転子から負荷へ動力が伝達される動力伝達装置であって、第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容または遮断する第1クラッチと、電気エネルギーを蓄える蓄電装置からの直流電力を交流に変換して固定子導体へ供給することが可能なインバータと、回転子導体の交流電力を取り出すための電力伝達部と、電力伝達部と蓄電装置またはインバータとの間で電力変換を行う電力変換部と、インバータから固定子導体に流れる交流電流を制御することで、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、電力変換部で行われる電力変換を制御して回転子導体に流れる交流電流を制御することで、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、を備え、制御装置は、エンジンを始動する場合には、負荷の要求トルクに基づいて、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、第2回転子をエンジン回転方向に回転駆動するように固定子から第2回転子にトルクを作用させるとともに、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように電力変換部で行われる電力変換を制御し、さらに、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するときは、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクと、負荷の要求トルクとに基づいて、固定子から第2回転子に作用するトルクを制御することを要旨とする。
【0008】
本発明の一態様では、電力変換部は、電力伝達部で取り出された交流電力を整流する整流器と、整流器で整流された電力を電圧変換して蓄電装置またはインバータへ供給するDC−DCコンバータと、を含み、制御装置は、DC−DCコンバータにおける電圧変換比を制御して回転子導体に流れる交流電流を制御することで、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、さらに、エンジンを始動する場合には、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するようにDC−DCコンバータにおける電圧変換比を制御することが好適である。この態様では、第1クラッチは、第2回転子側の回転部材と負荷側の回転部材との回転速度差を許容しながら第2回転子と負荷との間でトルク伝達を行うことが可能であり、制御装置は、エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が所定のクランキング回転速度以下であるときは、第1クラッチにより第2回転子側の回転部材と負荷側の回転部材との回転速度差を許容しながら第2回転子と負荷との間でトルク伝達を行うとともに、第2回転子の回転速度を前記所定のクランキング回転速度よりも高くなるように制御することが好適である。
【0009】
本発明の一態様では、制御装置は、エンジンを始動する場合には、第1回転子に発生する回転磁界が第2回転子と同期して回転するように回転子導体に流れる交流電流を制御することが好適である。この態様では、制御装置は、エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が第1回転子の回転速度よりも低いときは、蓄電装置からの直流電力を交流に変換して電力伝達部を介して回転子導体へ供給するように電力変換部で行われる電力変換を制御し、エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が第1回転子の回転速度よりも高いときは、電力伝達部で取り出された回転子導体の交流電力を直流に変換して蓄電装置またはインバータへ供給するように電力変換部で行われる電力変換を制御することにより、第1回転子の回転速度を所定のクランキング回転速度とすることが好適である。
【0010】
本発明の一態様では、制御装置は、エンジンを始動する場合に負荷の要求トルクが所定値より大きいときは、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容し、エンジンを始動する場合に負荷の要求トルクが前記所定値以下であるときは、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を遮断することが好適である。
【0011】
本発明の一態様では、第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させてそれらの間のトルク伝達を許容することが可能な第2クラッチをさらに備え、制御装置は、エンジンを始動する場合には、第2クラッチにより第1回転子と第2回転子との間のトルク伝達を許容することが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、電力伝達部は、電力変換部に接続されたブラシと、第1回転子の回転子導体に接続され、ブラシに対し摺動しながら第1回転子とともに回転するスリップリングと、を含むことが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第2回転子をエンジン回転方向に回転駆動するように固定子から第2回転子にトルクを作用させるとともに、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように電力変換部で行われる電力変換を制御することで、エンジンのクランキングを行うことができる。さらに、負荷の要求トルクに基づいて、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するときは、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクと、負荷の要求トルクとに基づいて、固定子から第2回転子に作用するトルクを制御することで、負荷の駆動条件に関係なくエンジンの始動が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0015】
図1〜3は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の構成の概略を示す図であり、図1は全体構成の概略を示し、図2,3は回転電機10の構成の概略を示す。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置は、動力(機械的動力)を発生可能な原動機として設けられたエンジン(内燃機関)36と、エンジン36と車輪38との間に設けられた変速機44と、エンジン36と変速機44との間に設けられた回転電機10と、を備える。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置については、例えば車両を駆動するための動力出力装置として用いることができる。
【0016】
回転電機10は、図示しないケーシングに固定されたステータ16と、ステータ16の径方向内側に配置されステータ16に対し相対回転可能な第1ロータ28と、ステータ16と第1ロータ28との間に配置されステータ16及び第1ロータ28に対し相対回転可能な第2ロータ18と、を有する。第1ロータ28は回転電機10の入力軸34と機械的に連結され、入力軸34はエンジン36と機械的に連結されていることで、第1ロータ28にはエンジン36からの動力が伝達される。一方、第2ロータ18は回転電機10の出力軸24と機械的に連結されており、出力軸24はクラッチ47及び変速機44を介して車輪38に機械的に連結可能であり、第2ロータ18からの動力が変速機44で変速されて車輪38へ伝達可能である。なお、以下の説明では、第1ロータ28を入力側ロータとし、第2ロータ18を出力側ロータとする。
【0017】
ステータ16は、ステータコア(固定子鉄心)51と、ステータコア51にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線(固定子導体)20と、を含む。複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0018】
入力側ロータ28は、ロータコア(第1回転子鉄心)52と、ロータコア52にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線(回転子導体)30と、を含む。複数相のロータ巻線30に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線30は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0019】
出力側ロータ18は、ロータコア(第2回転子鉄心)53と、ロータコア53にその周方向に沿って配設され界磁束を発生する永久磁石32,33と、を含む。永久磁石32は、ロータコア53の外周部にステータ16(ステータコア51)と対向して配設されており、永久磁石33は、ロータコア53の内周部に入力側ロータ28(ロータコア52)と対向して配設されている。ここでは、永久磁石32,33を一体化することも可能である。
【0020】
入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16のより詳細な構成例を図4に示す。図4に示す例では、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16が同心円状に配置されている。ステータ16のステータコア51には、径方向内側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース51aがステータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ステータ巻線20がこれらのティース51aに巻回されていることで、磁極が構成される。入力側ロータ28のロータコア52には、径方向外側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース52aがロータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ロータ巻線30がこれらのティース52aに巻回されていることで、磁極が構成される。ステータ16のティース51aと出力側ロータ18の永久磁石32とが出力側ロータ18の回転中心軸(入力側ロータ28の回転中心軸と一致する)に直交する径方向に対向配置されており、入力側ロータ28のティース52aと出力側ロータ18の永久磁石33とがこの径方向に対向配置されている。ステータ巻線20の巻回軸及びロータ巻線30の巻回軸は、この径方向(入力側ロータ28と出力側ロータ18が対向する方向)に一致している。永久磁石32,33はロータ周方向に間隔をおいて配列されており、さらに、永久磁石32はロータコア53内にV字状に埋設されている。ただし、永久磁石32,33については、出力側ロータ18の表面(外周面または内周面)に露出していてもよいし、出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されていてもよい。
【0021】
クラッチ47は、出力軸24(出力側ロータ18)に連結されたクラッチ板47aと変速機44(車輪38)に連結されたクラッチ板47bとの係合/解放により、出力側ロータ18と車輪38との機械的係合及びその解除を選択的に行うことが可能である。出力軸24側のクラッチ板47aと変速機44側のクラッチ板47bとを係合させて、出力側ロータ18と車輪38とを機械的に係合させることで、出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達が許容される。一方、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを解放して、出力側ロータ18と車輪38との機械的係合を解除することで、出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達が遮断される。ここでのクラッチ47は、例えば油圧や電磁力を利用してクラッチ板47aとクラッチ板47bとの係合/解放を切り替えることが可能である。さらに、クラッチ47に供給する油圧力や電磁力を調整することで、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの締結力を調整することもできる。クラッチ板47aとクラッチ板47bとの締結力を調整することで、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの回転速度差を許容しながら、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの間のトルク伝達(出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達)を許容することが可能となる。
【0022】
クラッチ48は、入力軸34(入力側ロータ28)に連結されたクラッチ板48aと出力軸24(出力側ロータ18)に連結されたクラッチ板48bとの係合/解放により、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合及びその解除を選択的に行うことが可能である。入力軸34側のクラッチ板48aと出力軸24側のクラッチ板48bとを係合させて、入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に係合させることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のトルク伝達が許容され、入力側ロータ28と出力側ロータ18とが一体となって等しい回転速度で回転する。一方、クラッチ板48aとクラッチ板48bとを解放して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合を解除することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転速度差が許容される。ここでのクラッチ48も、例えば油圧や電磁力を利用してクラッチ板48aとクラッチ板48bとの係合/解放を切り替えることが可能であり、さらに、クラッチ48に供給する油圧力や電磁力を調整することで、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を調整することもできる。クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を調整することで、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの回転速度差を許容しながら、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの間のトルク伝達(入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のトルク伝達)を許容することが可能となる。
【0023】
直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置42は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。インバータ40は、スイッチング素子(図示せず)を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線20の各相に供給することが可能である。
【0024】
スリップリング95は、入力側ロータ28と機械的に連結されており、ロータ巻線30の各相及びブラシ96とそれぞれ電気的に接続されている。スリップリング95は、回転が固定されたブラシ96に対し摺動しながら(ブラシ96との電気的接続を維持しながら)、入力側ロータ28とともに回転する。ブラシ96は、整流器93と電気的に接続されており、ブラシ96からの電力は整流器93へ供給される。このスリップリング95及びブラシ96により、入力側ロータ28のロータ巻線30の電力(交流電力)を取り出すための電力伝達部を構成することができ、取り出された交流電力は整流器93へ供給される。
【0025】
整流器93は、スリップリング95及びブラシ96により取り出されたロータ巻線30からの交流電力を整流して直流に変換する。昇圧コンバータ(DC−DCコンバータ)94は、スイッチング素子を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により整流器93で整流された直流電力を昇圧(電圧変換)して出力する。昇圧コンバータ94で昇圧(電圧変換)された直流電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。このように、整流器93及び昇圧コンバータ94を含んで、スリップリング95(ロータ巻線30)とインバータ40または蓄電装置42との間で電力変換を行う電力変換部を構成することができる。ここでの整流器93は、スリップリング95側から昇圧コンバータ94側への一方向のみの電力変換を行い、昇圧コンバータ94は、整流器93側から蓄電装置42側(あるいはインバータ40側)への一方向のみの電力変換を行う。そのため、整流器93及び昇圧コンバータ94を含む電力変換部は、スリップリング95側から蓄電装置42側(あるいはインバータ40側)への一方向のみの電力変換を行う。
【0026】
電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング素子のスイッチング動作を制御することで、インバータ40からステータ巻線20の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94内のスイッチング素子をスイッチング動作するときのデューティ比を制御することで、昇圧コンバータ94での昇圧比(電圧変換比)を制御する。これによって、スリップリング95(ロータ巻線30)とインバータ40または蓄電装置42との間で行われる電力変換を制御して、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御する。さらに、電子制御ユニット50は、エンジン36の運転状態の制御、及び変速機44の変速比の制御も行う。さらに、電子制御ユニット50は、クラッチ47の係合/解放を切り替えることで出力側ロータ18と車輪38との機械的係合/その解除を切り替える制御、及びクラッチ48の係合/解放を切り替えることで入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合/その解除を切り替える制御も行う。
【0027】
インバータ40のスイッチング動作により複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ステータ巻線20で発生した回転磁界と永久磁石32で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、出力側ロータ18にトルク(磁石トルク)を作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。つまり、蓄電装置42からステータ巻線20に供給された電力を出力側ロータ18の動力(機械的動力)に変換することができる。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の変換も可能である。その場合は、出力側ロータ18の動力がステータ巻線20の電力に変換されて蓄電装置42に回収される。このように、ステータ16のステータ巻線20と出力側ロータ18の永久磁石32とが電磁気的に結合されていることで、ステータ巻線20で発生する回転磁界を出力側ロータ18に作用させて、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)を作用させることができる。さらに、例えば図4に示すように、永久磁石32間に突極部として磁性体(強磁性体)がステータ16(ティース51a)と対向して配置されている例や、永久磁石32が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、ステータ16の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクもステータ16と出力側ロータ18との間に作用する。そして、インバータ40は双方向の電力変換が可能であり、蓄電装置42はステータ巻線20に対して電力の送受が可能である。
【0028】
また、入力側ロータ28が出力側ロータ18に対し相対回転して入力側ロータ28(ロータ巻線30)と出力側ロータ18(永久磁石33)との間に回転差が生じるのに伴ってロータ巻線30に誘導起電力が発生し、この誘導起電力に起因してロータ巻線30に誘導電流が流れることで回転磁界が生じる。そして、ロータ巻線30の誘導電流により生じる回転磁界と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。このように、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33とが電磁気的に結合されていることで、ロータ巻線30で発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)が作用する。そのため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力(機械的動力)を伝達することができ、電磁カップリング機能を実現することができる。さらに、永久磁石33間に突極部として磁性体(強磁性体)が入力側ロータ28(ティース52a)と対向して配置されている例や、永久磁石33が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、入力側ロータ28の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクも入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する。
【0029】
ロータ巻線30の誘導電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを発生させる際には、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御する。これによって、昇圧コンバータ94から蓄電装置42とインバータ40間の配線へ電流が流れ、ロータ巻線30に誘導電流が流れるため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用する。一方、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を行わない状態で昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも低くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が生じてもロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。また、昇圧コンバータ94内のスイッチング素子をオフ状態に維持して昇圧コンバータ94による昇圧(電圧変換)を停止させることによっても、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。
【0030】
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の動作について説明する。
【0031】
エンジン36が動力を発生している場合は、エンジン36の動力が入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28がエンジン回転方向に回転駆動する。入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高くなると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、ロータ巻線30に誘導電流が流れ、この誘導電流と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用により出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクが作用して出力側ロータ18がエンジン回転方向に回転駆動する。このように、入力側ロータ28に伝達されたエンジン36からの動力は、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33との電磁気結合によって、出力側ロータ18へ伝達される。出力側ロータ18に伝達された動力は、変速機44で変速されてから車輪38へ伝達されることで、車両の前進駆動等、負荷の正転駆動に用いられる。したがって、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動することができ、車両を前進方向に駆動することができる。さらに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、車輪38の回転が停止してもエンジン36がストールすることはない。そのため、回転電機10を発進装置として機能させることができ、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置を別に設ける必要がなくなる。
【0032】
さらに、ロータ巻線30に発生した交流電力は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出される。取り出された交流電力は整流器93で直流に整流され、整流された直流電力は昇圧コンバータ94で昇圧される。そして、昇圧コンバータ94からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20に供給されることで、ステータ16に回転磁界が形成される。このステータ16の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石32の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクを作用させることができる。これによって、出力側ロータ18のエンジン回転方向のトルクを増幅させるトルク増幅機能を実現することができる。また、昇圧コンバータ94からの直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。
【0033】
さらに、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動するとともに、ステータ巻線20への供給電力を用いて発生させた出力側ロータ18の動力により車輪38の正転方向の回転駆動をアシストすることができる。また、負荷の減速運転時には、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20から蓄電装置42へ電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の動力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によってステータ巻線20の電力に変換して蓄電装置42に回収することができる。
【0034】
また、車速(車輪38の回転速度)がある一定速度以上となり、(出力側ロータ18の回転速度)>(入力側ロータ28の回転速度)が成立する場合には、クラッチ48を係合して入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に連結することもできる。これによって、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のすべりに伴ってロータ巻線30に誘導電流が流れることで生じるジュール損失を抑えることができる。また、クラッチ48を係合する場合は、クラッチ48の締結力を調整することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で伝達されるトルクを制限することができる。したがって、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で衝撃トルクの伝達を抑制することができる。
【0035】
エンジン36の動力を用いて車輪38を回転駆動する場合に、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94における昇圧比(電圧変換比)を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクを制御することができ、エンジン36のトルクを制御することができる。以下、その理由について説明する。
【0036】
入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルク(以下、電磁カップリングトルクとする)は、入力側ロータ28と出力側ロータ18との相対回転速度に応じて変化し、一般に図5に示すような相対回転速度−トルク特性で表される。さらに、相対回転速度−トルク特性は負荷抵抗に応じて変化し、図6に示すように、負荷抵抗の増加に対して電磁カップリングトルクのピーク値が相対回転速度の高い側へ推移する(比例推移)。そのため、負荷抵抗の調整により相対回転速度−トルク特性を制御することができ、負荷抵抗を大きい値に調整すると電磁カップリングトルクのピーク値が相対回転速度の高い側へ調整され、負荷抵抗を小さい値に調整すると電磁カップリングトルクのピーク値が相対回転速度の低い側へ調整される。ここでの負荷抵抗は、図7に示すロータ巻線30の外部回路97における等価抵抗を表し、この外部回路97には、スリップリング95、ブラシ96、整流器93、昇圧コンバータ94、インバータ40、及びステータ巻線20等が含まれる。これらの中で、昇圧コンバータ94及びインバータ40が等価抵抗(負荷抵抗)の可調整要素である。
【0037】
外部回路97のうち、昇圧コンバータ94に着目した等価回路を図8に示す。図8における外部回路98には、インバータ40及びステータ巻線20等が含まれる。昇圧コンバータ94は、リアクトルLとダイオードDとスイッチング素子Sと平滑コンデンサCとを含んで構成され、スイッチング素子Sをオンオフさせるスイッチング動作によりa−a’端子間電圧E1とb−b’端子間電圧E2との昇圧比E2/E1を制御する。スイッチング素子Sのオン期間をTon、スイッチング素子Sのオフ期間をToff、スイッチング素子Sのスイッチング周期をT=Ton+Toffとし、スイッチング動作のデューティ比dを以下の(1)式のように定義すると、昇圧比E2/E1は以下の(2)式で表される。
【0038】
d=Ton/(Ton+Toff) (1)
E2/E1=1/(1−d) (2)
【0039】
スイッチング素子Sのオン状態での等価回路を図9に、スイッチング素子Sのオフ状態での等価回路を図10に示す。スイッチング素子Sのオン状態(短絡状態)では、ロータ巻線30側から見た負荷抵抗は低くなり、スイッチング素子Sのオフ状態では、ロータ巻線30側から見た負荷抵抗は(スイッチング素子Sのオン状態よりも)高くなる。そのため、スイッチング素子Sのオン状態の割合を高くする(デューティ比dを大きくして昇圧比を増加させる)と負荷側の等価抵抗は低い値となり、スイッチング素子Sのオフ状態の割合を高くする(デューティ比dを小さくして昇圧比を減少させる)と負荷側の等価抵抗は高い値となる。さらに、インバータ40のスイッチング素子をオフ状態に維持することで、負荷側の等価抵抗をさらに高い値に制御することができる。したがって、昇圧コンバータ94での昇圧比を増加させることで、ロータ巻線30側から見た負荷抵抗を低くして、電磁カップリングトルクのピーク値を相対回転速度の低い側へ推移させることができる。一方、昇圧コンバータ94での昇圧比を減少させることで、ロータ巻線30側から見た負荷抵抗を高くして、電磁カップリングトルクのピーク値を相対回転速度の高い側へ推移させることができる。
【0040】
また、エンジン36のトルクをTe、電磁カップリングトルクをTc、エンジン軸慣性をJeとすると、エンジン36の回転角速度ωeは以下の(3)式で表される。
【0041】
【数1】
【0042】
ここで、エンジン36のトルクTeと出力軸24(出力側ロータ18)の回転角速度ωoutがともに一定であり、且つエンジン36のトルクTeと電磁カップリングトルクTcがエンジン36の回転角速度ωe0でほぼ釣り合った平衡状態を仮定する。この場合、図11,12から、回転角速度ωe0近傍において(3)式で表されるエンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが安定となる条件は以下の(4)式で表される。このためには、以下の(5)式が満たされる範囲で本実施形態に係る動力伝達装置を動作させる必要がある。ここで、図11はエンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが安定となる場合を示し、図12はエンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが不安定となる場合を示す。したがって、エンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが安定となるためには、図13に示すように、電磁カップリングトルクがピーク値となる相対回転速度(図13中の破線で示す)よりも低い範囲で本実施形態に係る動力伝達装置を動作させる必要がある。
【0043】
【数2】
【0044】
以上のことから、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、電磁カップリングトルクTcを制御することができ、エンジン36のトルクTeを制御することができる。例えば、昇圧コンバータ94での昇圧比を増大させることで、電磁カップリングトルクのピーク値を相対回転速度の低い側へ推移させて電磁カップリングトルクTc(エンジン36のトルクTe)を増大させることができる。一方、昇圧コンバータ94での昇圧比を減少させることで、電磁カップリングトルクのピーク値を相対回転速度の高い側へ推移させて電磁カップリングトルクTc(エンジン36のトルクTe)を減少させることができる。さらに、インバータ40のスイッチング素子をオフ状態に維持することで、電磁カップリングトルクTcをさらに減少させることができる。
【0045】
また、エンジン36の動力を用いずに回転電機10の動力を用いて負荷を駆動する(車輪38を回転駆動する)EV(Electric Vehicle)走行を行う場合は、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の駆動制御を行う。例えば、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によって出力側ロータ18の動力に変換し、車輪38を回転駆動する。このように、エンジン36が動力を発生していなくても、ステータ巻線20への電力供給により車輪38を回転駆動することができる。
【0046】
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置において、停止状態のエンジン36を始動する場合の動作について説明する。
【0047】
エンジン36を始動する場合に、車両が停止しており(車輪38の回転速度が0であり)、車両の要求駆動力(車輪38の要求トルク)Ttvが所定値以下(例えば0)であるときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを解放して、クラッチ47による出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を遮断する。ここでの車両の要求駆動力(車輪38の要求トルク)Ttvについては、例えば図示しないセンサで検出されたアクセル開度から演算することができる。そして、図14のパワーフローに示すように、電子制御ユニット50は、出力側ロータ18をエンジン回転方向に回転駆動するようインバータ40のスイッチング動作により蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給してステータ巻線20に交流電流を流すことで、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクTMGを作用させる。図14における電力変換部には、整流器93及び昇圧コンバータ94が含まれる。出力側ロータ18が回転駆動すると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるよう昇圧コンバータ94での昇圧比(電力変換)を制御することで、ロータ巻線30に誘導電流を流して入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクTcoilを作用させる。その際には、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの回転速度差を許容するようクラッチ板48aとクラッチ板48bとを滑らせながら係合させて、クラッチ48により入力側ロータ28(クラッチ板48a)と出力側ロータ18(クラッチ板48b)との間のトルクTCの伝達を許容することも可能である。入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクTcoilを作用させることで、図14のパワーフローに示すように、出力側ロータ18の動力が永久磁石33とロータ巻線30との電磁気結合により入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28がエンジン回転方向に回転駆動する。これによって、入力側ロータ28に連結されたエンジン36のクランキングが行われる。その際には、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28の回転速度Nengがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以上になるように、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMG、及び入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoil(あるいはTcoil+TC)を制御する。この場合は、入力側ロータ28及び出力側ロータ18は誘導機として機能する。なお、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGの制御については、インバータ40のスイッチング動作により例えばステータ巻線20に流す交流電流の振幅や位相角を制御することで行うことができる。また、永久磁石33とロータ巻線30との電磁気結合により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルク(電磁カップリングトルク)Tcoilの制御については、前述のように、昇圧コンバータ94における昇圧比(電圧変換比)を制御してロータ巻線30に流す交流電流を制御することで行うことができる。また、クラッチ48により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルク(クラッチトルク)TCの制御については、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を制御することで行うことができる。
【0048】
図14に示す車両停止時に(車両の要求駆動力Ttvが0であるときに)エンジン36を始動する場合のパワーフローにおいては、ステータ16から出力側ロータ18に伝達されるトルクTMG、出力側ロータ18から変速機44(車輪38)に伝達されるトルクTout、出力側ロータ18から入力側ロータ28に伝達される電磁カップリングトルクTcoil、出力側ロータ18から入力側ロータ28に伝達されるクラッチトルクTC、入力側ロータ28からエンジン36に伝達されるトルクTeng、出力側ロータ18(クラッチ板47a)の回転速度NMG、変速機44の入力軸(クラッチ板47b)の回転速度Nout、及び入力側ロータ28の回転速度Nengに関して、以下の(6)〜(9)式が成立する。ただし、各トルクTMG、Tout、Tcoil、TC、Tengについては、エンジン回転方向を正としている。
【0049】
Tout=0 (6)
Teng=Tcoil+TC=TMG (7)
Neng≦NMG (8)
Nout=0 (9)
【0050】
一方、エンジン36を始動する場合に、EV走行により車両が走行しており(車輪38の回転速度が0でなく)、車両の要求駆動力(車輪38の要求トルク)Ttvが所定値より大きい(例えば0でない)ときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを係合させた状態に制御し、クラッチ47による出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を許容する。そして、図15のパワーフローに示すように、電子制御ユニット50は、出力側ロータ18をエンジン回転方向に回転駆動するようインバータ40のスイッチング動作により蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給してステータ巻線20に交流電流を流すことで、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクTMGを作用させる。それとともに、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるよう昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoilを作用させる。これによって、図15のパワーフローに示すように、出力側ロータ18の動力が永久磁石33とロータ巻線30との電磁気結合により入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28に連結されたエンジン36のクランキングが行われる。その際には、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの回転速度差を許容するようクラッチ板48aとクラッチ板48bとを滑らせながら係合させて、クラッチ48により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のトルクTCの伝達を許容することも可能である。さらに、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoil(あるいはTcoil+TC)と、車両の要求駆動力(車輪38の要求トルク)Ttvとに基づいて、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを制御する。ここでは、以下の(10)式が成立するように、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを制御することで、エンジン36のクランキング時にステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを電磁カップリングトルクTcoil分増大させる。これによって、エンジン36のクランキングに必要なトルクと車輪38の要求トルクTtvとをステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGで賄うことができ、エンジン36のクランキング時に出力側ロータ18から変速機44(車輪38)に伝達されるトルクToutが低下するのを防ぐことができる。(10)式において、γは変速機44の変速比である。なお、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoilについては、出力側ロータ18の回転速度NMGと入力側ロータ28の回転速度Nengとの差と、ロータ巻線30の外部回路97における等価抵抗R(昇圧コンバータ94での昇圧比)とに基づいて演算可能である。
【0051】
TMG=Tcoil+Ttv/γ (10)
【0052】
EV走行状態でエンジン36を始動する場合に、出力側ロータ18の回転速度NMGがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0よりも高いときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの回転速度差を許容しないで出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を許容するように、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを滑らせずに係合させた状態に制御する。そして、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28の回転速度Nengがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以上になるように、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoil(あるいはTcoil+TC)を制御する。この場合は、図15のパワーフローにおいて、以下の(11)〜(13)式が成立する。
【0053】
Tout=TMG−Tcoil (11)
Teng=Tcoil+TC (12)
Neng≦NMG=Nout (13)
【0054】
一方、EV走行状態でエンジン36を始動する場合に、出力側ロータ18の回転速度NMGがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以下であるときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの回転速度差を許容しながら出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を許容するように、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを滑らせながら係合させた状態に制御する。その際には、電子制御ユニット50は、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを増大させるとともに、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの締結力を低下させる。これによって、出力側ロータ18の回転速度NMGをエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0より高くなるように制御する。そして、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28の回転速度Nengがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以上になるように、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoil(あるいはTcoil+TC)を制御する。この場合は、図15のパワーフローにおいて、以下の(14)〜(16)式が成立する。
【0055】
Tout=TMG−Tcoil (14)
Teng=Tcoil+TC (15)
Neng≦NMG≠Nout (16)
【0056】
以上説明した本実施形態では、エンジン36を始動する場合には、出力側ロータ18をエンジン回転方向に回転駆動するようにステータ16から出力側ロータ18にトルクTMGを作用させるとともに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクTcoilを作用させるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、エンジン36のクランキングを行うことができる。さらに、車輪38の要求トルクTtvに基づいてクラッチ47により出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、車輪38の要求トルクTtvが0であるときには、出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を遮断することで、エンジン36のクランキング時に車輪38にトルクが伝達されるのを防ぐことができる。さらに、車輪38の要求トルクTtvが0でなく、クラッチ47により出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容するときには、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoil分増大させることで、エンジン36のクランキング時に車輪38に伝達されるトルクが低下するのを防止することができる。したがって、本実施形態によれば、車両停止時とEV走行時の両方において、車輪38のトルクに影響を与えずにエンジン36のクランキングを行うことができ、車両の駆動条件に関係なくエンジン36を始動することができる。その結果、ハイブリッド車用の高出力なスタータ及びドライブプレートが不要になる。さらに、車両駆動トルク並の高トルクによりエンジン36の始動性が向上する。
【0057】
さらに、本実施形態では、蓄電装置42からスリップリング95を介してロータ巻線30へ電力を供給することなく、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクTcoilを作用させることができる。そのため、蓄電装置42とスリップリング95(ロータ巻線30)との間の電力変換については、ロータ巻線30の交流電力を直流に変換して蓄電装置42(またはインバータ40)へ供給する方向の電力変換のみが行えればよく、蓄電装置42からの直流電力を交流に変換してスリップリング95(ロータ巻線30)へ供給する方向の電力変換を行う必要がなくなる。その結果、蓄電装置42とスリップリング95との間には、一方向の(スリップリング95側から蓄電装置42側への)電力変換を行うための整流器93と昇圧コンバータ(DC−DCコンバータ)94を設ければよく、双方向の電力変換を行うためのインバータが不要となる。したがって、動力伝達装置の構成の簡略化及び低コスト化を図ることができる。
【0058】
さらに、本実施形態では、EV走行状態でエンジン36を始動する場合に、出力側ロータ18の回転速度NMGがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以下であるときは、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの回転速度差を許容しながら出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容することで、車輪38の回転速度を増大させることなく出力側ロータ18の回転速度NMGをエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0より高くすることができる。したがって、低車速時においてもエンジン36を始動することができる。
【0059】
以上の実施形態の説明では、整流器93で整流された電力を電圧変換して出力するDC−DCコンバータとして昇圧コンバータ94を設けた場合について説明した。ただし、本実施形態では、DC−DCコンバータとして降圧コンバータや昇降圧コンバータを設けることも可能である。その場合でも、DC−DCコンバータにおける電圧変換比(スイッチング素子をスイッチング動作させるときのデューティ比)を制御することで、ロータ巻線30側から見た負荷抵抗を調整することができるため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoilを制御することができる。
【0060】
次に、本実施形態の他の構成例について説明する。図16に示す構成例では、図2に示す構成例と比較して、スリップリング95(ロータ巻線30)とインバータ40または蓄電装置42との間で電力変換を行う電力変換部として、整流器93及び昇圧コンバータ94の代わりにインバータ41が設けられている。インバータ41は、スイッチング素子(図示せず)を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ41は、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を直流に変換する方向の電力変換も可能である。インバータ41からの直流電力は、インバータ40または蓄電装置42へ供給可能である。このように、インバータ41は、スリップリング95(ロータ巻線30)とインバータ40または蓄電装置42との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子のスイッチング動作によりインバータ41で行われる電力変換を制御することで、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御することができ、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoilを制御することができる。
【0061】
図16に示す構成例において、エンジン36を始動する場合には、電子制御ユニット50は、出力側ロータ18をエンジン回転方向に回転駆動するようインバータ40のスイッチング動作により蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給してステータ巻線20に交流電流を流すことで、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクTMGを作用させる。それとともに、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング動作によりロータ巻線30に交流電流を流すことで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoilを作用させる。これによって、出力側ロータ18の動力が永久磁石33とロータ巻線30との電磁気結合により入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28に連結されたエンジン36のクランキングが行われる。その際には、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28に形成される回転磁界が出力側ロータ18の永久磁石33と同期して回転するようにロータ巻線30に流す交流電流の周波数を制御する。ここでは、入力側ロータ28の極数をP1、入力側ロータ28の回転速度をNeng[rpm]、出力側ロータ18の回転速度をNMG[rpm]とすると、入力側ロータ28の回転速度Nengと出力側ロータ18の回転速度NMGとに基づいて以下の(17)式または(18)式が成立するようにロータ巻線30に流す交流電流の周波数f1[Hz]を制御することで、ロータ巻線30で発生する回転磁界を出力側ロータ18の永久磁石33と同期させることができる。この場合は、入力側ロータ28及び出力側ロータ18は同期機として機能する。
【0062】
f1=P1×(NMG−Neng)/120 (NMG>Nengの場合) (17)
f1=P1×(Neng−NMG)/120 (NMG<Nengの場合) (18)
【0063】
エンジン36のクランキング時には、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28の回転速度Nengがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以上になるように、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoilを制御する。出力側ロータ18の回転速度NMGがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0よりも低いときは、図17のパワーフローに示すように、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力をインバータ41で交流に変換してブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相へ供給するようインバータ41のスイッチング動作(インバータ41で行われる電力変換)を制御する。この場合は、入力側ロータ28は力行運転を行う。一方、出力側ロータ18の回転速度NMGがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0よりも高いときは、図18のパワーフローに示すように、電子制御ユニット50は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出されたロータ巻線30の交流電力をインバータ41で直流に変換して蓄電装置42またはインバータ40へ供給するようインバータ41のスイッチング動作(インバータ41で行われる電力変換)を制御する。この場合は、入力側ロータ28は回生運転(発電運転)を行う。また、電子制御ユニット50は、エンジン36のクランキング時に出力側ロータ18の回転速度NMGが入力側ロータ28の回転速度Nengよりも低い場合は、蓄電装置42からの直流電力をインバータ41で交流に変換してブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相へ供給するようインバータ41で行われる電力変換を制御し、エンジン36のクランキング時に出力側ロータ18の回転速度NMGが入力側ロータ28の回転速度Nengよりも高い場合は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出されたロータ巻線30の交流電力をインバータ41で直流に変換して蓄電装置42またはインバータ40へ供給するようインバータ41で行われる電力変換を制御することもできる。これによって、入力側ロータ28の回転速度Nengをエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0とすることができる。
【0064】
なお、図16に示す構成例においても、エンジン36を始動する場合に、車両が停止しており(車輪38の回転速度が0であり)、車両の要求駆動力Ttvが所定値以下(例えば0)であるときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを解放して、クラッチ47による出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を遮断する。一方、エンジン36を始動する場合に、EV走行により車両が走行しており(車輪38の回転速度が0でなく)、車両の要求駆動力Ttvが所定値より大きい(例えば0でない)ときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを係合させた状態に制御し、クラッチ47による出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を許容する。
【0065】
さらに、エンジン36を始動する場合に、EV走行時でクラッチ47による出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容するときは、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoilと、車両の要求駆動力Ttvとに基づいて、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを制御する。ここでも、前述の(10)式が成立するようにステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを制御し、エンジン36のクランキング時にステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを電磁カップリングトルクTcoil分増大させることで、エンジン36のクランキングに必要なトルクと車輪38の要求トルクTtvとをステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGで賄うことができる。なお、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoilについては、ロータ巻線30の各相に流れる電流に基づいて演算可能である。また、図17,18に示すパワーフローにおいて、以下の(19)〜(21)式が成立する。
【0066】
Tout=TMG−Tcoil (19)
Teng=Tcoil (20)
NMG=Nout (21)
【0067】
以上説明した図16に示す構成例でも、車両停止時とEV走行時の両方において、車輪38のトルクに影響を与えずにエンジン36のクランキングを行うことができ、車両の駆動条件に関係なくエンジン36を始動することができる。さらに、図16に示す構成例では、エンジン36のクランキング時に、入力側ロータ28に発生する回転磁界が出力側ロータ18と同期して回転するようにインバータ41のスイッチング動作によりロータ巻線30に流れる交流電流を制御することで、出力側ロータ18の回転速度NMGに関係なく入力側ロータ28の回転速度Nengをエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以上に制御することができる。したがって、低車速時においても、クラッチ47を滑らせることなくエンジン36を始動することができる。
【0068】
以上の実施形態の説明では、ロータ巻線30の交流電力を取り出すための電力伝達部としてスリップリング95及びブラシ96を設けた場合について説明した。ただし、本実施形態では、ロータ巻線30の交流電力を取り出すための電力伝達部として、特許文献1のように、ロータ巻線30に電気的に接続された巻線が配設され入力側ロータ28に機械的に連結されたトランスロータと、整流器93またはインバータ41に電気的に接続され且つトランスロータの巻線と電磁気的に結合する巻線が配設されたトランスステータとを設けることも可能である。
【0069】
また、以上の実施形態の説明では、入力側ロータ28に回転子導体としてロータ巻線30を設けた場合について説明した。ただし、本実施形態では、入力側ロータ28に回転子導体としてかご型導体を出力側ロータ18(永久磁石33)と対向させて設けることも可能である。
【0070】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【図4】入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16の構成例を示す図である。
【図5】入力側ロータ28と出力側ロータ18の相対回転速度−トルク特性の一例を示す図である。
【図6】入力側ロータ28と出力側ロータ18の相対回転速度−トルク特性の一例を示す図である。
【図7】ロータ巻線30及びその外部回路97の等価回路を示す図である。
【図8】昇圧コンバータ94の構成例を示す図である。
【図9】スイッチング素子Sのオン状態での等価回路を示す図である。
【図10】スイッチング素子Sのオフ状態での等価回路を示す図である。
【図11】エンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが安定となる条件を説明する図である。
【図12】エンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが不安定となる条件を説明する図である。
【図13】エンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが安定となる条件を説明する図である。
【図14】車両停止時にエンジン36を始動する場合のパワーフローを示す図である。
【図15】EV走行時にエンジン36を始動する場合のパワーフローを示す図である。
【図16】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の他の概略構成を示す図である。
【図17】エンジン36を始動する場合に入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高いときのパワーフローを示す図である。
【図18】エンジン36を始動する場合に入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より低いときのパワーフローを示す図である。
【符号の説明】
【0072】
10 回転電機、16 ステータ、18 出力側ロータ(第2ロータ)、20 ステータ巻線、24 出力軸、28 入力側ロータ(第1ロータ)、30 ロータ巻線、32,33 永久磁石、34 入力軸、36 エンジン、38 車輪、40,41 インバータ、42 蓄電装置、44 変速機、47,48 クラッチ、47a,47b,48a,48b クラッチ板、50 電子制御ユニット、93 整流器、94 昇圧コンバータ、95 スリップリング、96 ブラシ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、原動機からの動力を回転子同士の電磁気結合を利用して負荷へ伝達することで負荷を駆動することが可能であり、さらに、固定子導体への電力供給によっても負荷を駆動することが可能な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1による動力伝達装置は、磁石が配設され駆動輪に機械的に連結された第1ロータと、第1ロータの磁石と電磁気的に結合する巻線が配設されエンジン(原動機)に機械的に連結された第2ロータと、第1ロータの磁石と電磁気的に結合する巻線が配設されたステータと、第2ロータの巻線に電気的に接続された巻線が配設され第2ロータに機械的に連結されたトランスロータと、トランスロータの巻線と電磁気的に結合する巻線が配設されたトランスステータと、を備える。特許文献1においては、第2ロータに伝達されたエンジンからの動力は、第2ロータの巻線と第1ロータの磁石との電磁気結合によって第1ロータに伝達されるため、エンジンの動力により駆動輪を駆動することができる。さらに、バッテリーからインバータを介してトランスステータの巻線に供給された電力を、トランスステータの巻線とトランスロータの巻線との電磁気結合によってトランスロータの巻線及び第2ロータの巻線に供給することができるため、トランスステータの巻線への電力供給を制御することで、駆動輪の回転速度を制御することができる。さらに、ステータの巻線と第1ロータの磁石との電磁気結合によって、バッテリーからインバータを介してステータの巻線に供給された電力を用いて第1ロータに動力を発生させて駆動輪を駆動することができるため、ステータの巻線への電力供給を制御することで、駆動輪に伝達されるトルクを制御することができる。また、バッテリーからインバータを介してステータの巻線に供給された電力を用いて第1ロータに動力を発生させることで、エンジンが動力を発生していなくても駆動輪を駆動することができる。このように、特許文献1においては、エンジンの動力とバッテリーからステータの巻線への供給電力とのいずれかを選択的に用いて駆動輪を駆動することができる。
【0003】
【特許文献1】特許第3067594号公報
【特許文献2】特開2007−116837号公報
【特許文献3】特開平9−46815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、エンジンの動力とバッテリーからステータの巻線への供給電力とのいずれかを選択的に用いて駆動輪を駆動する際には、駆動輪の駆動条件に関係なくエンジンの始動を行えることが望ましい。ただし、駆動輪の回転が停止している状態でエンジンの始動を行う場合は、駆動輪を駆動することなくバッテリーからの電力を用いてエンジンのクランキングを行う必要がある。また、バッテリーからステータの巻線への供給電力を用いて駆動輪を駆動している状態でエンジンの始動を行う場合は、駆動輪を駆動するトルクを低下させることなくバッテリーからの電力を用いてエンジンのクランキングを行う必要がある。
【0005】
本発明は、エンジンからの動力を回転子同士の電磁気結合を利用して負荷へ伝達することで負荷を駆動することが可能であるとともに、固定子導体への電力供給によっても負荷を駆動することが可能な動力伝達装置において、負荷の駆動条件に関係なくエンジンの始動を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る動力伝達装置は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明に係る動力伝達装置は、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、第1回転子に対し相対回転可能な第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、を備え、回転子導体は、第1回転子と第2回転子との間に回転差が発生するのに起因して誘導電流が流れることで回転磁界を発生し、第1回転子にエンジンからの動力が伝達され、第2回転子から負荷へ動力が伝達される動力伝達装置であって、第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容または遮断する第1クラッチと、電気エネルギーを蓄える蓄電装置からの直流電力を交流に変換して固定子導体へ供給することが可能なインバータと、回転子導体の交流電力を取り出すための電力伝達部と、電力伝達部と蓄電装置またはインバータとの間で電力変換を行う電力変換部と、インバータから固定子導体に流れる交流電流を制御することで、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、電力変換部で行われる電力変換を制御して回転子導体に流れる交流電流を制御することで、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、を備え、制御装置は、エンジンを始動する場合には、負荷の要求トルクに基づいて、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、第2回転子をエンジン回転方向に回転駆動するように固定子から第2回転子にトルクを作用させるとともに、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように電力変換部で行われる電力変換を制御し、さらに、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するときは、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクと、負荷の要求トルクとに基づいて、固定子から第2回転子に作用するトルクを制御することを要旨とする。
【0008】
本発明の一態様では、電力変換部は、電力伝達部で取り出された交流電力を整流する整流器と、整流器で整流された電力を電圧変換して蓄電装置またはインバータへ供給するDC−DCコンバータと、を含み、制御装置は、DC−DCコンバータにおける電圧変換比を制御して回転子導体に流れる交流電流を制御することで、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、さらに、エンジンを始動する場合には、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するようにDC−DCコンバータにおける電圧変換比を制御することが好適である。この態様では、第1クラッチは、第2回転子側の回転部材と負荷側の回転部材との回転速度差を許容しながら第2回転子と負荷との間でトルク伝達を行うことが可能であり、制御装置は、エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が所定のクランキング回転速度以下であるときは、第1クラッチにより第2回転子側の回転部材と負荷側の回転部材との回転速度差を許容しながら第2回転子と負荷との間でトルク伝達を行うとともに、第2回転子の回転速度を前記所定のクランキング回転速度よりも高くなるように制御することが好適である。
【0009】
本発明の一態様では、制御装置は、エンジンを始動する場合には、第1回転子に発生する回転磁界が第2回転子と同期して回転するように回転子導体に流れる交流電流を制御することが好適である。この態様では、制御装置は、エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が第1回転子の回転速度よりも低いときは、蓄電装置からの直流電力を交流に変換して電力伝達部を介して回転子導体へ供給するように電力変換部で行われる電力変換を制御し、エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が第1回転子の回転速度よりも高いときは、電力伝達部で取り出された回転子導体の交流電力を直流に変換して蓄電装置またはインバータへ供給するように電力変換部で行われる電力変換を制御することにより、第1回転子の回転速度を所定のクランキング回転速度とすることが好適である。
【0010】
本発明の一態様では、制御装置は、エンジンを始動する場合に負荷の要求トルクが所定値より大きいときは、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容し、エンジンを始動する場合に負荷の要求トルクが前記所定値以下であるときは、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を遮断することが好適である。
【0011】
本発明の一態様では、第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させてそれらの間のトルク伝達を許容することが可能な第2クラッチをさらに備え、制御装置は、エンジンを始動する場合には、第2クラッチにより第1回転子と第2回転子との間のトルク伝達を許容することが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、電力伝達部は、電力変換部に接続されたブラシと、第1回転子の回転子導体に接続され、ブラシに対し摺動しながら第1回転子とともに回転するスリップリングと、を含むことが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第2回転子をエンジン回転方向に回転駆動するように固定子から第2回転子にトルクを作用させるとともに、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように電力変換部で行われる電力変換を制御することで、エンジンのクランキングを行うことができる。さらに、負荷の要求トルクに基づいて、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するときは、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクと、負荷の要求トルクとに基づいて、固定子から第2回転子に作用するトルクを制御することで、負荷の駆動条件に関係なくエンジンの始動が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0015】
図1〜3は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の構成の概略を示す図であり、図1は全体構成の概略を示し、図2,3は回転電機10の構成の概略を示す。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置は、動力(機械的動力)を発生可能な原動機として設けられたエンジン(内燃機関)36と、エンジン36と車輪38との間に設けられた変速機44と、エンジン36と変速機44との間に設けられた回転電機10と、を備える。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置については、例えば車両を駆動するための動力出力装置として用いることができる。
【0016】
回転電機10は、図示しないケーシングに固定されたステータ16と、ステータ16の径方向内側に配置されステータ16に対し相対回転可能な第1ロータ28と、ステータ16と第1ロータ28との間に配置されステータ16及び第1ロータ28に対し相対回転可能な第2ロータ18と、を有する。第1ロータ28は回転電機10の入力軸34と機械的に連結され、入力軸34はエンジン36と機械的に連結されていることで、第1ロータ28にはエンジン36からの動力が伝達される。一方、第2ロータ18は回転電機10の出力軸24と機械的に連結されており、出力軸24はクラッチ47及び変速機44を介して車輪38に機械的に連結可能であり、第2ロータ18からの動力が変速機44で変速されて車輪38へ伝達可能である。なお、以下の説明では、第1ロータ28を入力側ロータとし、第2ロータ18を出力側ロータとする。
【0017】
ステータ16は、ステータコア(固定子鉄心)51と、ステータコア51にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線(固定子導体)20と、を含む。複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0018】
入力側ロータ28は、ロータコア(第1回転子鉄心)52と、ロータコア52にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線(回転子導体)30と、を含む。複数相のロータ巻線30に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線30は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0019】
出力側ロータ18は、ロータコア(第2回転子鉄心)53と、ロータコア53にその周方向に沿って配設され界磁束を発生する永久磁石32,33と、を含む。永久磁石32は、ロータコア53の外周部にステータ16(ステータコア51)と対向して配設されており、永久磁石33は、ロータコア53の内周部に入力側ロータ28(ロータコア52)と対向して配設されている。ここでは、永久磁石32,33を一体化することも可能である。
【0020】
入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16のより詳細な構成例を図4に示す。図4に示す例では、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16が同心円状に配置されている。ステータ16のステータコア51には、径方向内側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース51aがステータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ステータ巻線20がこれらのティース51aに巻回されていることで、磁極が構成される。入力側ロータ28のロータコア52には、径方向外側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース52aがロータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ロータ巻線30がこれらのティース52aに巻回されていることで、磁極が構成される。ステータ16のティース51aと出力側ロータ18の永久磁石32とが出力側ロータ18の回転中心軸(入力側ロータ28の回転中心軸と一致する)に直交する径方向に対向配置されており、入力側ロータ28のティース52aと出力側ロータ18の永久磁石33とがこの径方向に対向配置されている。ステータ巻線20の巻回軸及びロータ巻線30の巻回軸は、この径方向(入力側ロータ28と出力側ロータ18が対向する方向)に一致している。永久磁石32,33はロータ周方向に間隔をおいて配列されており、さらに、永久磁石32はロータコア53内にV字状に埋設されている。ただし、永久磁石32,33については、出力側ロータ18の表面(外周面または内周面)に露出していてもよいし、出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されていてもよい。
【0021】
クラッチ47は、出力軸24(出力側ロータ18)に連結されたクラッチ板47aと変速機44(車輪38)に連結されたクラッチ板47bとの係合/解放により、出力側ロータ18と車輪38との機械的係合及びその解除を選択的に行うことが可能である。出力軸24側のクラッチ板47aと変速機44側のクラッチ板47bとを係合させて、出力側ロータ18と車輪38とを機械的に係合させることで、出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達が許容される。一方、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを解放して、出力側ロータ18と車輪38との機械的係合を解除することで、出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達が遮断される。ここでのクラッチ47は、例えば油圧や電磁力を利用してクラッチ板47aとクラッチ板47bとの係合/解放を切り替えることが可能である。さらに、クラッチ47に供給する油圧力や電磁力を調整することで、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの締結力を調整することもできる。クラッチ板47aとクラッチ板47bとの締結力を調整することで、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの回転速度差を許容しながら、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの間のトルク伝達(出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達)を許容することが可能となる。
【0022】
クラッチ48は、入力軸34(入力側ロータ28)に連結されたクラッチ板48aと出力軸24(出力側ロータ18)に連結されたクラッチ板48bとの係合/解放により、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合及びその解除を選択的に行うことが可能である。入力軸34側のクラッチ板48aと出力軸24側のクラッチ板48bとを係合させて、入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に係合させることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のトルク伝達が許容され、入力側ロータ28と出力側ロータ18とが一体となって等しい回転速度で回転する。一方、クラッチ板48aとクラッチ板48bとを解放して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合を解除することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転速度差が許容される。ここでのクラッチ48も、例えば油圧や電磁力を利用してクラッチ板48aとクラッチ板48bとの係合/解放を切り替えることが可能であり、さらに、クラッチ48に供給する油圧力や電磁力を調整することで、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を調整することもできる。クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を調整することで、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの回転速度差を許容しながら、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの間のトルク伝達(入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のトルク伝達)を許容することが可能となる。
【0023】
直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置42は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。インバータ40は、スイッチング素子(図示せず)を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線20の各相に供給することが可能である。
【0024】
スリップリング95は、入力側ロータ28と機械的に連結されており、ロータ巻線30の各相及びブラシ96とそれぞれ電気的に接続されている。スリップリング95は、回転が固定されたブラシ96に対し摺動しながら(ブラシ96との電気的接続を維持しながら)、入力側ロータ28とともに回転する。ブラシ96は、整流器93と電気的に接続されており、ブラシ96からの電力は整流器93へ供給される。このスリップリング95及びブラシ96により、入力側ロータ28のロータ巻線30の電力(交流電力)を取り出すための電力伝達部を構成することができ、取り出された交流電力は整流器93へ供給される。
【0025】
整流器93は、スリップリング95及びブラシ96により取り出されたロータ巻線30からの交流電力を整流して直流に変換する。昇圧コンバータ(DC−DCコンバータ)94は、スイッチング素子を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により整流器93で整流された直流電力を昇圧(電圧変換)して出力する。昇圧コンバータ94で昇圧(電圧変換)された直流電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。このように、整流器93及び昇圧コンバータ94を含んで、スリップリング95(ロータ巻線30)とインバータ40または蓄電装置42との間で電力変換を行う電力変換部を構成することができる。ここでの整流器93は、スリップリング95側から昇圧コンバータ94側への一方向のみの電力変換を行い、昇圧コンバータ94は、整流器93側から蓄電装置42側(あるいはインバータ40側)への一方向のみの電力変換を行う。そのため、整流器93及び昇圧コンバータ94を含む電力変換部は、スリップリング95側から蓄電装置42側(あるいはインバータ40側)への一方向のみの電力変換を行う。
【0026】
電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング素子のスイッチング動作を制御することで、インバータ40からステータ巻線20の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94内のスイッチング素子をスイッチング動作するときのデューティ比を制御することで、昇圧コンバータ94での昇圧比(電圧変換比)を制御する。これによって、スリップリング95(ロータ巻線30)とインバータ40または蓄電装置42との間で行われる電力変換を制御して、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御する。さらに、電子制御ユニット50は、エンジン36の運転状態の制御、及び変速機44の変速比の制御も行う。さらに、電子制御ユニット50は、クラッチ47の係合/解放を切り替えることで出力側ロータ18と車輪38との機械的係合/その解除を切り替える制御、及びクラッチ48の係合/解放を切り替えることで入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合/その解除を切り替える制御も行う。
【0027】
インバータ40のスイッチング動作により複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ステータ巻線20で発生した回転磁界と永久磁石32で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、出力側ロータ18にトルク(磁石トルク)を作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。つまり、蓄電装置42からステータ巻線20に供給された電力を出力側ロータ18の動力(機械的動力)に変換することができる。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の変換も可能である。その場合は、出力側ロータ18の動力がステータ巻線20の電力に変換されて蓄電装置42に回収される。このように、ステータ16のステータ巻線20と出力側ロータ18の永久磁石32とが電磁気的に結合されていることで、ステータ巻線20で発生する回転磁界を出力側ロータ18に作用させて、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)を作用させることができる。さらに、例えば図4に示すように、永久磁石32間に突極部として磁性体(強磁性体)がステータ16(ティース51a)と対向して配置されている例や、永久磁石32が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、ステータ16の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクもステータ16と出力側ロータ18との間に作用する。そして、インバータ40は双方向の電力変換が可能であり、蓄電装置42はステータ巻線20に対して電力の送受が可能である。
【0028】
また、入力側ロータ28が出力側ロータ18に対し相対回転して入力側ロータ28(ロータ巻線30)と出力側ロータ18(永久磁石33)との間に回転差が生じるのに伴ってロータ巻線30に誘導起電力が発生し、この誘導起電力に起因してロータ巻線30に誘導電流が流れることで回転磁界が生じる。そして、ロータ巻線30の誘導電流により生じる回転磁界と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。このように、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33とが電磁気的に結合されていることで、ロータ巻線30で発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)が作用する。そのため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力(機械的動力)を伝達することができ、電磁カップリング機能を実現することができる。さらに、永久磁石33間に突極部として磁性体(強磁性体)が入力側ロータ28(ティース52a)と対向して配置されている例や、永久磁石33が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、入力側ロータ28の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクも入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する。
【0029】
ロータ巻線30の誘導電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを発生させる際には、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御する。これによって、昇圧コンバータ94から蓄電装置42とインバータ40間の配線へ電流が流れ、ロータ巻線30に誘導電流が流れるため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用する。一方、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を行わない状態で昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも低くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が生じてもロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。また、昇圧コンバータ94内のスイッチング素子をオフ状態に維持して昇圧コンバータ94による昇圧(電圧変換)を停止させることによっても、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。
【0030】
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の動作について説明する。
【0031】
エンジン36が動力を発生している場合は、エンジン36の動力が入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28がエンジン回転方向に回転駆動する。入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高くなると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、ロータ巻線30に誘導電流が流れ、この誘導電流と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用により出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクが作用して出力側ロータ18がエンジン回転方向に回転駆動する。このように、入力側ロータ28に伝達されたエンジン36からの動力は、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33との電磁気結合によって、出力側ロータ18へ伝達される。出力側ロータ18に伝達された動力は、変速機44で変速されてから車輪38へ伝達されることで、車両の前進駆動等、負荷の正転駆動に用いられる。したがって、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動することができ、車両を前進方向に駆動することができる。さらに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、車輪38の回転が停止してもエンジン36がストールすることはない。そのため、回転電機10を発進装置として機能させることができ、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置を別に設ける必要がなくなる。
【0032】
さらに、ロータ巻線30に発生した交流電力は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出される。取り出された交流電力は整流器93で直流に整流され、整流された直流電力は昇圧コンバータ94で昇圧される。そして、昇圧コンバータ94からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20に供給されることで、ステータ16に回転磁界が形成される。このステータ16の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石32の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクを作用させることができる。これによって、出力側ロータ18のエンジン回転方向のトルクを増幅させるトルク増幅機能を実現することができる。また、昇圧コンバータ94からの直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。
【0033】
さらに、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動するとともに、ステータ巻線20への供給電力を用いて発生させた出力側ロータ18の動力により車輪38の正転方向の回転駆動をアシストすることができる。また、負荷の減速運転時には、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20から蓄電装置42へ電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の動力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によってステータ巻線20の電力に変換して蓄電装置42に回収することができる。
【0034】
また、車速(車輪38の回転速度)がある一定速度以上となり、(出力側ロータ18の回転速度)>(入力側ロータ28の回転速度)が成立する場合には、クラッチ48を係合して入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に連結することもできる。これによって、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のすべりに伴ってロータ巻線30に誘導電流が流れることで生じるジュール損失を抑えることができる。また、クラッチ48を係合する場合は、クラッチ48の締結力を調整することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で伝達されるトルクを制限することができる。したがって、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で衝撃トルクの伝達を抑制することができる。
【0035】
エンジン36の動力を用いて車輪38を回転駆動する場合に、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94における昇圧比(電圧変換比)を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクを制御することができ、エンジン36のトルクを制御することができる。以下、その理由について説明する。
【0036】
入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルク(以下、電磁カップリングトルクとする)は、入力側ロータ28と出力側ロータ18との相対回転速度に応じて変化し、一般に図5に示すような相対回転速度−トルク特性で表される。さらに、相対回転速度−トルク特性は負荷抵抗に応じて変化し、図6に示すように、負荷抵抗の増加に対して電磁カップリングトルクのピーク値が相対回転速度の高い側へ推移する(比例推移)。そのため、負荷抵抗の調整により相対回転速度−トルク特性を制御することができ、負荷抵抗を大きい値に調整すると電磁カップリングトルクのピーク値が相対回転速度の高い側へ調整され、負荷抵抗を小さい値に調整すると電磁カップリングトルクのピーク値が相対回転速度の低い側へ調整される。ここでの負荷抵抗は、図7に示すロータ巻線30の外部回路97における等価抵抗を表し、この外部回路97には、スリップリング95、ブラシ96、整流器93、昇圧コンバータ94、インバータ40、及びステータ巻線20等が含まれる。これらの中で、昇圧コンバータ94及びインバータ40が等価抵抗(負荷抵抗)の可調整要素である。
【0037】
外部回路97のうち、昇圧コンバータ94に着目した等価回路を図8に示す。図8における外部回路98には、インバータ40及びステータ巻線20等が含まれる。昇圧コンバータ94は、リアクトルLとダイオードDとスイッチング素子Sと平滑コンデンサCとを含んで構成され、スイッチング素子Sをオンオフさせるスイッチング動作によりa−a’端子間電圧E1とb−b’端子間電圧E2との昇圧比E2/E1を制御する。スイッチング素子Sのオン期間をTon、スイッチング素子Sのオフ期間をToff、スイッチング素子Sのスイッチング周期をT=Ton+Toffとし、スイッチング動作のデューティ比dを以下の(1)式のように定義すると、昇圧比E2/E1は以下の(2)式で表される。
【0038】
d=Ton/(Ton+Toff) (1)
E2/E1=1/(1−d) (2)
【0039】
スイッチング素子Sのオン状態での等価回路を図9に、スイッチング素子Sのオフ状態での等価回路を図10に示す。スイッチング素子Sのオン状態(短絡状態)では、ロータ巻線30側から見た負荷抵抗は低くなり、スイッチング素子Sのオフ状態では、ロータ巻線30側から見た負荷抵抗は(スイッチング素子Sのオン状態よりも)高くなる。そのため、スイッチング素子Sのオン状態の割合を高くする(デューティ比dを大きくして昇圧比を増加させる)と負荷側の等価抵抗は低い値となり、スイッチング素子Sのオフ状態の割合を高くする(デューティ比dを小さくして昇圧比を減少させる)と負荷側の等価抵抗は高い値となる。さらに、インバータ40のスイッチング素子をオフ状態に維持することで、負荷側の等価抵抗をさらに高い値に制御することができる。したがって、昇圧コンバータ94での昇圧比を増加させることで、ロータ巻線30側から見た負荷抵抗を低くして、電磁カップリングトルクのピーク値を相対回転速度の低い側へ推移させることができる。一方、昇圧コンバータ94での昇圧比を減少させることで、ロータ巻線30側から見た負荷抵抗を高くして、電磁カップリングトルクのピーク値を相対回転速度の高い側へ推移させることができる。
【0040】
また、エンジン36のトルクをTe、電磁カップリングトルクをTc、エンジン軸慣性をJeとすると、エンジン36の回転角速度ωeは以下の(3)式で表される。
【0041】
【数1】
【0042】
ここで、エンジン36のトルクTeと出力軸24(出力側ロータ18)の回転角速度ωoutがともに一定であり、且つエンジン36のトルクTeと電磁カップリングトルクTcがエンジン36の回転角速度ωe0でほぼ釣り合った平衡状態を仮定する。この場合、図11,12から、回転角速度ωe0近傍において(3)式で表されるエンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが安定となる条件は以下の(4)式で表される。このためには、以下の(5)式が満たされる範囲で本実施形態に係る動力伝達装置を動作させる必要がある。ここで、図11はエンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが安定となる場合を示し、図12はエンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが不安定となる場合を示す。したがって、エンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが安定となるためには、図13に示すように、電磁カップリングトルクがピーク値となる相対回転速度(図13中の破線で示す)よりも低い範囲で本実施形態に係る動力伝達装置を動作させる必要がある。
【0043】
【数2】
【0044】
以上のことから、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、電磁カップリングトルクTcを制御することができ、エンジン36のトルクTeを制御することができる。例えば、昇圧コンバータ94での昇圧比を増大させることで、電磁カップリングトルクのピーク値を相対回転速度の低い側へ推移させて電磁カップリングトルクTc(エンジン36のトルクTe)を増大させることができる。一方、昇圧コンバータ94での昇圧比を減少させることで、電磁カップリングトルクのピーク値を相対回転速度の高い側へ推移させて電磁カップリングトルクTc(エンジン36のトルクTe)を減少させることができる。さらに、インバータ40のスイッチング素子をオフ状態に維持することで、電磁カップリングトルクTcをさらに減少させることができる。
【0045】
また、エンジン36の動力を用いずに回転電機10の動力を用いて負荷を駆動する(車輪38を回転駆動する)EV(Electric Vehicle)走行を行う場合は、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の駆動制御を行う。例えば、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によって出力側ロータ18の動力に変換し、車輪38を回転駆動する。このように、エンジン36が動力を発生していなくても、ステータ巻線20への電力供給により車輪38を回転駆動することができる。
【0046】
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置において、停止状態のエンジン36を始動する場合の動作について説明する。
【0047】
エンジン36を始動する場合に、車両が停止しており(車輪38の回転速度が0であり)、車両の要求駆動力(車輪38の要求トルク)Ttvが所定値以下(例えば0)であるときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを解放して、クラッチ47による出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を遮断する。ここでの車両の要求駆動力(車輪38の要求トルク)Ttvについては、例えば図示しないセンサで検出されたアクセル開度から演算することができる。そして、図14のパワーフローに示すように、電子制御ユニット50は、出力側ロータ18をエンジン回転方向に回転駆動するようインバータ40のスイッチング動作により蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給してステータ巻線20に交流電流を流すことで、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクTMGを作用させる。図14における電力変換部には、整流器93及び昇圧コンバータ94が含まれる。出力側ロータ18が回転駆動すると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるよう昇圧コンバータ94での昇圧比(電力変換)を制御することで、ロータ巻線30に誘導電流を流して入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクTcoilを作用させる。その際には、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの回転速度差を許容するようクラッチ板48aとクラッチ板48bとを滑らせながら係合させて、クラッチ48により入力側ロータ28(クラッチ板48a)と出力側ロータ18(クラッチ板48b)との間のトルクTCの伝達を許容することも可能である。入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクTcoilを作用させることで、図14のパワーフローに示すように、出力側ロータ18の動力が永久磁石33とロータ巻線30との電磁気結合により入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28がエンジン回転方向に回転駆動する。これによって、入力側ロータ28に連結されたエンジン36のクランキングが行われる。その際には、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28の回転速度Nengがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以上になるように、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMG、及び入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoil(あるいはTcoil+TC)を制御する。この場合は、入力側ロータ28及び出力側ロータ18は誘導機として機能する。なお、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGの制御については、インバータ40のスイッチング動作により例えばステータ巻線20に流す交流電流の振幅や位相角を制御することで行うことができる。また、永久磁石33とロータ巻線30との電磁気結合により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルク(電磁カップリングトルク)Tcoilの制御については、前述のように、昇圧コンバータ94における昇圧比(電圧変換比)を制御してロータ巻線30に流す交流電流を制御することで行うことができる。また、クラッチ48により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルク(クラッチトルク)TCの制御については、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を制御することで行うことができる。
【0048】
図14に示す車両停止時に(車両の要求駆動力Ttvが0であるときに)エンジン36を始動する場合のパワーフローにおいては、ステータ16から出力側ロータ18に伝達されるトルクTMG、出力側ロータ18から変速機44(車輪38)に伝達されるトルクTout、出力側ロータ18から入力側ロータ28に伝達される電磁カップリングトルクTcoil、出力側ロータ18から入力側ロータ28に伝達されるクラッチトルクTC、入力側ロータ28からエンジン36に伝達されるトルクTeng、出力側ロータ18(クラッチ板47a)の回転速度NMG、変速機44の入力軸(クラッチ板47b)の回転速度Nout、及び入力側ロータ28の回転速度Nengに関して、以下の(6)〜(9)式が成立する。ただし、各トルクTMG、Tout、Tcoil、TC、Tengについては、エンジン回転方向を正としている。
【0049】
Tout=0 (6)
Teng=Tcoil+TC=TMG (7)
Neng≦NMG (8)
Nout=0 (9)
【0050】
一方、エンジン36を始動する場合に、EV走行により車両が走行しており(車輪38の回転速度が0でなく)、車両の要求駆動力(車輪38の要求トルク)Ttvが所定値より大きい(例えば0でない)ときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを係合させた状態に制御し、クラッチ47による出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を許容する。そして、図15のパワーフローに示すように、電子制御ユニット50は、出力側ロータ18をエンジン回転方向に回転駆動するようインバータ40のスイッチング動作により蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給してステータ巻線20に交流電流を流すことで、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクTMGを作用させる。それとともに、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるよう昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoilを作用させる。これによって、図15のパワーフローに示すように、出力側ロータ18の動力が永久磁石33とロータ巻線30との電磁気結合により入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28に連結されたエンジン36のクランキングが行われる。その際には、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの回転速度差を許容するようクラッチ板48aとクラッチ板48bとを滑らせながら係合させて、クラッチ48により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のトルクTCの伝達を許容することも可能である。さらに、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoil(あるいはTcoil+TC)と、車両の要求駆動力(車輪38の要求トルク)Ttvとに基づいて、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを制御する。ここでは、以下の(10)式が成立するように、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを制御することで、エンジン36のクランキング時にステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを電磁カップリングトルクTcoil分増大させる。これによって、エンジン36のクランキングに必要なトルクと車輪38の要求トルクTtvとをステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGで賄うことができ、エンジン36のクランキング時に出力側ロータ18から変速機44(車輪38)に伝達されるトルクToutが低下するのを防ぐことができる。(10)式において、γは変速機44の変速比である。なお、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoilについては、出力側ロータ18の回転速度NMGと入力側ロータ28の回転速度Nengとの差と、ロータ巻線30の外部回路97における等価抵抗R(昇圧コンバータ94での昇圧比)とに基づいて演算可能である。
【0051】
TMG=Tcoil+Ttv/γ (10)
【0052】
EV走行状態でエンジン36を始動する場合に、出力側ロータ18の回転速度NMGがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0よりも高いときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの回転速度差を許容しないで出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を許容するように、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを滑らせずに係合させた状態に制御する。そして、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28の回転速度Nengがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以上になるように、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoil(あるいはTcoil+TC)を制御する。この場合は、図15のパワーフローにおいて、以下の(11)〜(13)式が成立する。
【0053】
Tout=TMG−Tcoil (11)
Teng=Tcoil+TC (12)
Neng≦NMG=Nout (13)
【0054】
一方、EV走行状態でエンジン36を始動する場合に、出力側ロータ18の回転速度NMGがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以下であるときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの回転速度差を許容しながら出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を許容するように、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを滑らせながら係合させた状態に制御する。その際には、電子制御ユニット50は、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを増大させるとともに、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの締結力を低下させる。これによって、出力側ロータ18の回転速度NMGをエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0より高くなるように制御する。そして、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28の回転速度Nengがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以上になるように、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoil(あるいはTcoil+TC)を制御する。この場合は、図15のパワーフローにおいて、以下の(14)〜(16)式が成立する。
【0055】
Tout=TMG−Tcoil (14)
Teng=Tcoil+TC (15)
Neng≦NMG≠Nout (16)
【0056】
以上説明した本実施形態では、エンジン36を始動する場合には、出力側ロータ18をエンジン回転方向に回転駆動するようにステータ16から出力側ロータ18にトルクTMGを作用させるとともに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクTcoilを作用させるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、エンジン36のクランキングを行うことができる。さらに、車輪38の要求トルクTtvに基づいてクラッチ47により出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、車輪38の要求トルクTtvが0であるときには、出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を遮断することで、エンジン36のクランキング時に車輪38にトルクが伝達されるのを防ぐことができる。さらに、車輪38の要求トルクTtvが0でなく、クラッチ47により出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容するときには、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoil分増大させることで、エンジン36のクランキング時に車輪38に伝達されるトルクが低下するのを防止することができる。したがって、本実施形態によれば、車両停止時とEV走行時の両方において、車輪38のトルクに影響を与えずにエンジン36のクランキングを行うことができ、車両の駆動条件に関係なくエンジン36を始動することができる。その結果、ハイブリッド車用の高出力なスタータ及びドライブプレートが不要になる。さらに、車両駆動トルク並の高トルクによりエンジン36の始動性が向上する。
【0057】
さらに、本実施形態では、蓄電装置42からスリップリング95を介してロータ巻線30へ電力を供給することなく、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクTcoilを作用させることができる。そのため、蓄電装置42とスリップリング95(ロータ巻線30)との間の電力変換については、ロータ巻線30の交流電力を直流に変換して蓄電装置42(またはインバータ40)へ供給する方向の電力変換のみが行えればよく、蓄電装置42からの直流電力を交流に変換してスリップリング95(ロータ巻線30)へ供給する方向の電力変換を行う必要がなくなる。その結果、蓄電装置42とスリップリング95との間には、一方向の(スリップリング95側から蓄電装置42側への)電力変換を行うための整流器93と昇圧コンバータ(DC−DCコンバータ)94を設ければよく、双方向の電力変換を行うためのインバータが不要となる。したがって、動力伝達装置の構成の簡略化及び低コスト化を図ることができる。
【0058】
さらに、本実施形態では、EV走行状態でエンジン36を始動する場合に、出力側ロータ18の回転速度NMGがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以下であるときは、クラッチ板47aとクラッチ板47bとの回転速度差を許容しながら出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容することで、車輪38の回転速度を増大させることなく出力側ロータ18の回転速度NMGをエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0より高くすることができる。したがって、低車速時においてもエンジン36を始動することができる。
【0059】
以上の実施形態の説明では、整流器93で整流された電力を電圧変換して出力するDC−DCコンバータとして昇圧コンバータ94を設けた場合について説明した。ただし、本実施形態では、DC−DCコンバータとして降圧コンバータや昇降圧コンバータを設けることも可能である。その場合でも、DC−DCコンバータにおける電圧変換比(スイッチング素子をスイッチング動作させるときのデューティ比)を制御することで、ロータ巻線30側から見た負荷抵抗を調整することができるため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoilを制御することができる。
【0060】
次に、本実施形態の他の構成例について説明する。図16に示す構成例では、図2に示す構成例と比較して、スリップリング95(ロータ巻線30)とインバータ40または蓄電装置42との間で電力変換を行う電力変換部として、整流器93及び昇圧コンバータ94の代わりにインバータ41が設けられている。インバータ41は、スイッチング素子(図示せず)を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ41は、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を直流に変換する方向の電力変換も可能である。インバータ41からの直流電力は、インバータ40または蓄電装置42へ供給可能である。このように、インバータ41は、スリップリング95(ロータ巻線30)とインバータ40または蓄電装置42との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子のスイッチング動作によりインバータ41で行われる電力変換を制御することで、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御することができ、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoilを制御することができる。
【0061】
図16に示す構成例において、エンジン36を始動する場合には、電子制御ユニット50は、出力側ロータ18をエンジン回転方向に回転駆動するようインバータ40のスイッチング動作により蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給してステータ巻線20に交流電流を流すことで、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクTMGを作用させる。それとともに、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング動作によりロータ巻線30に交流電流を流すことで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoilを作用させる。これによって、出力側ロータ18の動力が永久磁石33とロータ巻線30との電磁気結合により入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28に連結されたエンジン36のクランキングが行われる。その際には、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28に形成される回転磁界が出力側ロータ18の永久磁石33と同期して回転するようにロータ巻線30に流す交流電流の周波数を制御する。ここでは、入力側ロータ28の極数をP1、入力側ロータ28の回転速度をNeng[rpm]、出力側ロータ18の回転速度をNMG[rpm]とすると、入力側ロータ28の回転速度Nengと出力側ロータ18の回転速度NMGとに基づいて以下の(17)式または(18)式が成立するようにロータ巻線30に流す交流電流の周波数f1[Hz]を制御することで、ロータ巻線30で発生する回転磁界を出力側ロータ18の永久磁石33と同期させることができる。この場合は、入力側ロータ28及び出力側ロータ18は同期機として機能する。
【0062】
f1=P1×(NMG−Neng)/120 (NMG>Nengの場合) (17)
f1=P1×(Neng−NMG)/120 (NMG<Nengの場合) (18)
【0063】
エンジン36のクランキング時には、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28の回転速度Nengがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以上になるように、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoilを制御する。出力側ロータ18の回転速度NMGがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0よりも低いときは、図17のパワーフローに示すように、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力をインバータ41で交流に変換してブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相へ供給するようインバータ41のスイッチング動作(インバータ41で行われる電力変換)を制御する。この場合は、入力側ロータ28は力行運転を行う。一方、出力側ロータ18の回転速度NMGがエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0よりも高いときは、図18のパワーフローに示すように、電子制御ユニット50は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出されたロータ巻線30の交流電力をインバータ41で直流に変換して蓄電装置42またはインバータ40へ供給するようインバータ41のスイッチング動作(インバータ41で行われる電力変換)を制御する。この場合は、入力側ロータ28は回生運転(発電運転)を行う。また、電子制御ユニット50は、エンジン36のクランキング時に出力側ロータ18の回転速度NMGが入力側ロータ28の回転速度Nengよりも低い場合は、蓄電装置42からの直流電力をインバータ41で交流に変換してブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相へ供給するようインバータ41で行われる電力変換を制御し、エンジン36のクランキング時に出力側ロータ18の回転速度NMGが入力側ロータ28の回転速度Nengよりも高い場合は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出されたロータ巻線30の交流電力をインバータ41で直流に変換して蓄電装置42またはインバータ40へ供給するようインバータ41で行われる電力変換を制御することもできる。これによって、入力側ロータ28の回転速度Nengをエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0とすることができる。
【0064】
なお、図16に示す構成例においても、エンジン36を始動する場合に、車両が停止しており(車輪38の回転速度が0であり)、車両の要求駆動力Ttvが所定値以下(例えば0)であるときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを解放して、クラッチ47による出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を遮断する。一方、エンジン36を始動する場合に、EV走行により車両が走行しており(車輪38の回転速度が0でなく)、車両の要求駆動力Ttvが所定値より大きい(例えば0でない)ときは、電子制御ユニット50は、クラッチ板47aとクラッチ板47bとを係合させた状態に制御し、クラッチ47による出力側ロータ18と変速機44(車輪38)との間のトルク伝達を許容する。
【0065】
さらに、エンジン36を始動する場合に、EV走行時でクラッチ47による出力側ロータ18と車輪38との間のトルク伝達を許容するときは、電子制御ユニット50は、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクTcoilと、車両の要求駆動力Ttvとに基づいて、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを制御する。ここでも、前述の(10)式が成立するようにステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを制御し、エンジン36のクランキング時にステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGを電磁カップリングトルクTcoil分増大させることで、エンジン36のクランキングに必要なトルクと車輪38の要求トルクTtvとをステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクTMGで賄うことができる。なお、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoilについては、ロータ巻線30の各相に流れる電流に基づいて演算可能である。また、図17,18に示すパワーフローにおいて、以下の(19)〜(21)式が成立する。
【0066】
Tout=TMG−Tcoil (19)
Teng=Tcoil (20)
NMG=Nout (21)
【0067】
以上説明した図16に示す構成例でも、車両停止時とEV走行時の両方において、車輪38のトルクに影響を与えずにエンジン36のクランキングを行うことができ、車両の駆動条件に関係なくエンジン36を始動することができる。さらに、図16に示す構成例では、エンジン36のクランキング時に、入力側ロータ28に発生する回転磁界が出力側ロータ18と同期して回転するようにインバータ41のスイッチング動作によりロータ巻線30に流れる交流電流を制御することで、出力側ロータ18の回転速度NMGに関係なく入力側ロータ28の回転速度Nengをエンジン始動可能な所定のクランキング回転速度N0以上に制御することができる。したがって、低車速時においても、クラッチ47を滑らせることなくエンジン36を始動することができる。
【0068】
以上の実施形態の説明では、ロータ巻線30の交流電力を取り出すための電力伝達部としてスリップリング95及びブラシ96を設けた場合について説明した。ただし、本実施形態では、ロータ巻線30の交流電力を取り出すための電力伝達部として、特許文献1のように、ロータ巻線30に電気的に接続された巻線が配設され入力側ロータ28に機械的に連結されたトランスロータと、整流器93またはインバータ41に電気的に接続され且つトランスロータの巻線と電磁気的に結合する巻線が配設されたトランスステータとを設けることも可能である。
【0069】
また、以上の実施形態の説明では、入力側ロータ28に回転子導体としてロータ巻線30を設けた場合について説明した。ただし、本実施形態では、入力側ロータ28に回転子導体としてかご型導体を出力側ロータ18(永久磁石33)と対向させて設けることも可能である。
【0070】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【図4】入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16の構成例を示す図である。
【図5】入力側ロータ28と出力側ロータ18の相対回転速度−トルク特性の一例を示す図である。
【図6】入力側ロータ28と出力側ロータ18の相対回転速度−トルク特性の一例を示す図である。
【図7】ロータ巻線30及びその外部回路97の等価回路を示す図である。
【図8】昇圧コンバータ94の構成例を示す図である。
【図9】スイッチング素子Sのオン状態での等価回路を示す図である。
【図10】スイッチング素子Sのオフ状態での等価回路を示す図である。
【図11】エンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが安定となる条件を説明する図である。
【図12】エンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが不安定となる条件を説明する図である。
【図13】エンジン36の回転角速度ωeの振る舞いが安定となる条件を説明する図である。
【図14】車両停止時にエンジン36を始動する場合のパワーフローを示す図である。
【図15】EV走行時にエンジン36を始動する場合のパワーフローを示す図である。
【図16】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の他の概略構成を示す図である。
【図17】エンジン36を始動する場合に入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高いときのパワーフローを示す図である。
【図18】エンジン36を始動する場合に入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より低いときのパワーフローを示す図である。
【符号の説明】
【0072】
10 回転電機、16 ステータ、18 出力側ロータ(第2ロータ)、20 ステータ巻線、24 出力軸、28 入力側ロータ(第1ロータ)、30 ロータ巻線、32,33 永久磁石、34 入力軸、36 エンジン、38 車輪、40,41 インバータ、42 蓄電装置、44 変速機、47,48 クラッチ、47a,47b,48a,48b クラッチ板、50 電子制御ユニット、93 整流器、94 昇圧コンバータ、95 スリップリング、96 ブラシ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、
第1回転子に対し相対回転可能な第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、
を備え、
回転子導体は、第1回転子と第2回転子との間に回転差が発生するのに起因して誘導電流が流れることで回転磁界を発生し、
第1回転子にエンジンからの動力が伝達され、第2回転子から負荷へ動力が伝達される動力伝達装置であって、
第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容または遮断する第1クラッチと、
電気エネルギーを蓄える蓄電装置からの直流電力を交流に変換して固定子導体へ供給することが可能なインバータと、
回転子導体の交流電力を取り出すための電力伝達部と、
電力伝達部と蓄電装置またはインバータとの間で電力変換を行う電力変換部と、
インバータから固定子導体に流れる交流電流を制御することで、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、電力変換部で行われる電力変換を制御して回転子導体に流れる交流電流を制御することで、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、
を備え、
制御装置は、
エンジンを始動する場合には、
負荷の要求トルクに基づいて、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、
第2回転子をエンジン回転方向に回転駆動するように固定子から第2回転子にトルクを作用させるとともに、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように電力変換部で行われる電力変換を制御し、
さらに、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するときは、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクと、負荷の要求トルクとに基づいて、固定子から第2回転子に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
電力変換部は、
電力伝達部で取り出された交流電力を整流する整流器と、
整流器で整流された電力を電圧変換して蓄電装置またはインバータへ供給するDC−DCコンバータと、
を含み、
制御装置は、
DC−DCコンバータにおける電圧変換比を制御して回転子導体に流れる交流電流を制御することで、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、
さらに、エンジンを始動する場合には、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するようにDC−DCコンバータにおける電圧変換比を制御する、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動力伝達装置であって、
第1クラッチは、第2回転子側の回転部材と負荷側の回転部材との回転速度差を許容しながら第2回転子と負荷との間でトルク伝達を行うことが可能であり、
制御装置は、エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が所定のクランキング回転速度以下であるときは、第1クラッチにより第2回転子側の回転部材と負荷側の回転部材との回転速度差を許容しながら第2回転子と負荷との間でトルク伝達を行うとともに、第2回転子の回転速度を前記所定のクランキング回転速度よりも高くなるように制御する、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、エンジンを始動する場合には、第1回転子に発生する回転磁界が第2回転子と同期して回転するように回転子導体に流れる交流電流を制御する、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、
エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が所定のクランキング回転速度よりも低いときは、蓄電装置からの直流電力を交流に変換して電力伝達部を介して回転子導体へ供給するように電力変換部で行われる電力変換を制御し、
エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が前記所定のクランキング回転速度よりも高いときは、電力伝達部で取り出された回転子導体の交流電力を直流に変換して蓄電装置またはインバータへ供給するように電力変換部で行われる電力変換を制御する、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、
エンジンを始動する場合に負荷の要求トルクが所定値より大きいときは、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容し、
エンジンを始動する場合に負荷の要求トルクが前記所定値以下であるときは、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を遮断する、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させてそれらの間のトルク伝達を許容することが可能な第2クラッチをさらに備え、
制御装置は、エンジンを始動する場合には、第2クラッチにより第1回転子と第2回転子との間のトルク伝達を許容する、動力伝達装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
電力伝達部は、
電力変換部に接続されたブラシと、
第1回転子の回転子導体に接続され、ブラシに対し摺動しながら第1回転子とともに回転するスリップリングと、
を含む、動力伝達装置。
【請求項1】
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、
第1回転子に対し相対回転可能な第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、
を備え、
回転子導体は、第1回転子と第2回転子との間に回転差が発生するのに起因して誘導電流が流れることで回転磁界を発生し、
第1回転子にエンジンからの動力が伝達され、第2回転子から負荷へ動力が伝達される動力伝達装置であって、
第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容または遮断する第1クラッチと、
電気エネルギーを蓄える蓄電装置からの直流電力を交流に変換して固定子導体へ供給することが可能なインバータと、
回転子導体の交流電力を取り出すための電力伝達部と、
電力伝達部と蓄電装置またはインバータとの間で電力変換を行う電力変換部と、
インバータから固定子導体に流れる交流電流を制御することで、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、電力変換部で行われる電力変換を制御して回転子導体に流れる交流電流を制御することで、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、
を備え、
制御装置は、
エンジンを始動する場合には、
負荷の要求トルクに基づいて、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するか否かを決定し、
第2回転子をエンジン回転方向に回転駆動するように固定子から第2回転子にトルクを作用させるとともに、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように電力変換部で行われる電力変換を制御し、
さらに、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容するときは、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクと、負荷の要求トルクとに基づいて、固定子から第2回転子に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
電力変換部は、
電力伝達部で取り出された交流電力を整流する整流器と、
整流器で整流された電力を電圧変換して蓄電装置またはインバータへ供給するDC−DCコンバータと、
を含み、
制御装置は、
DC−DCコンバータにおける電圧変換比を制御して回転子導体に流れる交流電流を制御することで、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、
さらに、エンジンを始動する場合には、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するようにDC−DCコンバータにおける電圧変換比を制御する、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動力伝達装置であって、
第1クラッチは、第2回転子側の回転部材と負荷側の回転部材との回転速度差を許容しながら第2回転子と負荷との間でトルク伝達を行うことが可能であり、
制御装置は、エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が所定のクランキング回転速度以下であるときは、第1クラッチにより第2回転子側の回転部材と負荷側の回転部材との回転速度差を許容しながら第2回転子と負荷との間でトルク伝達を行うとともに、第2回転子の回転速度を前記所定のクランキング回転速度よりも高くなるように制御する、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、エンジンを始動する場合には、第1回転子に発生する回転磁界が第2回転子と同期して回転するように回転子導体に流れる交流電流を制御する、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、
エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が所定のクランキング回転速度よりも低いときは、蓄電装置からの直流電力を交流に変換して電力伝達部を介して回転子導体へ供給するように電力変換部で行われる電力変換を制御し、
エンジンを始動する場合に第2回転子の回転速度が前記所定のクランキング回転速度よりも高いときは、電力伝達部で取り出された回転子導体の交流電力を直流に変換して蓄電装置またはインバータへ供給するように電力変換部で行われる電力変換を制御する、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、
エンジンを始動する場合に負荷の要求トルクが所定値より大きいときは、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を許容し、
エンジンを始動する場合に負荷の要求トルクが前記所定値以下であるときは、第1クラッチにより第2回転子と負荷との間のトルク伝達を遮断する、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させてそれらの間のトルク伝達を許容することが可能な第2クラッチをさらに備え、
制御装置は、エンジンを始動する場合には、第2クラッチにより第1回転子と第2回転子との間のトルク伝達を許容する、動力伝達装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
電力伝達部は、
電力変換部に接続されたブラシと、
第1回転子の回転子導体に接続され、ブラシに対し摺動しながら第1回転子とともに回転するスリップリングと、
を含む、動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−12937(P2010−12937A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174725(P2008−174725)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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