説明

半導体封止材用着色剤及び樹脂組成物

【課題】インナーリード間やワイヤー間などの電気的導通による電気的不良を抑止し、更に成形性、信頼性、レーザ−マーキング性などに優れた半導体封止材用の着色剤および樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】セラックを不活性雰囲気中、200〜600℃の温度で熱処理して高分子化し、粉砕した黒色顔料からなることを特徴とする半導体封止材用着色剤、及び、セラックを不活性雰囲気中、200〜600℃の温度で熱処理して高分子化し、粉砕して得られた黒色顔料、及び、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤を必須成分とすることを特徴とする半導体封止材用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止材用の黒色顔料からなる着色剤、及び、該着色剤を含む半導体封止材用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスは、多機能化、高集積化、高速化の市場要求と設計技術、製造技術の進歩により、年々微細化が進んでいる。そして、複雑なデバイスを空気中の塵や湿気あるいは外力から保護するための封止材にも多機能化が求められている。
【0003】
一般に、チップを接着し、ワイヤーボンディングしたフレームを金型にセットし、熱硬化性樹脂を注入して硬化成形して封止することにより半導体チップを保護しているが、この樹脂封止材にはエポキシ樹脂が用いられ、他に硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤及び着色剤などを必須成分とする樹脂組成物が用いられている。
【0004】
そして、半導体樹脂封止材は半導体チップに光が当たって発生する光励起電流による電気的不具合を防止するために黒色に着色されており、黒色着色剤には黒色度が高く、遮光性に優れているカーボンブラックが有用されている。
【0005】
例えば、特許文献1にはエポキシ樹脂、フェノール樹脂硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤およびカーボンブラックを必須成分とする樹脂組成物において、該カーボンブラックの平均粒子径が10〜100nm、BET法による比表面積が50〜500m/g、pH値が6.5〜8.5であり、該カーボンブラックを全樹脂組成物中に0.05〜1.0重量%含む半導体封止用樹脂組成物が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)無機充填材、(D)硬化促進剤、(E)45μm以上が500ppm以下で、かつその最大粒径が500μm以下であるカーボンブラックを必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、全エポキシ樹脂組成物中に該カーボンブラックを0.1〜1.0重量%含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0007】
更に、特許文献3には、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)無機質充填剤、(D)カーボンブラックを必須成分とするエポキシ樹脂組成物において、(D)成分のカーボンブラックとして 粒子径45μm以上の粒子含有率が30ppm以下であるカーボンブラックを用いる半導体封止用エポキシ樹脂組成物が開示されている。
【特許文献1】特開平08−081544号公報
【特許文献2】特開2000−007894号公報
【特許文献3】特開2001−019833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
カーボンブラックは導電性が高いために静電防止のためには有効であるが、近年の高集積化と微細化によりインナーリード間(リードフレーム)やパッド(ICの台座)とフレーム間あるいはワイヤー間(金線でのボンディング)などを電気的に接続するための配線間が狭小化してきているので、配線間にカーボンブラックが介在すると配線間が電気的に導通するため、配線間にリークやショートが発生して半導体デバイスの誤作動を起こす問題点がある。
【0009】
そこで、本発明者はこの問題点を解消するためにカーボンブラックに代わる黒色顔料について鋭意研究を行った結果、セラックを不活性雰囲気中で熱処理し、高分子化して得られた黒色顔料により上記問題を解消でき、更に該黒色顔料はエポキシ樹脂に高分散することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明はこの知見に基づいて完成したもので、その目的はインナーリード間(リードフレーム)やパッド(ICの台座)とフレーム間あるいはワイヤー間(金線でのボンディング)などの電気的導通により発生する電気的不良を抑止し、更に成形性、信頼性、レーザ−マーキング性などに優れた半導体封止材用着色剤、及び、半導体封止材用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明による半導体封止材用着色剤は、セラックを不活性雰囲気中、200〜600℃の温度で熱処理して高分子化し、粉砕した黒色顔料からなることを構成上の特徴とする。
【0012】
また、本発明による半導体封止材用樹脂組成物は、セラックを不活性雰囲気中、200〜600℃の温度で熱処理して高分子化し、粉砕して得られた黒色顔料、及び、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤を必須成分とすることを構成上の特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
セラックを不活性雰囲気中、200〜600℃の温度で熱処理して高分子化し、粉砕した黒色顔料からなる本発明の半導体封止材用着色剤は黒色度が高く、導電性が小さく、またエポキシ樹脂などへの樹脂分散性にも優れ、この着色剤を必須成分とする半導体封止材用樹脂組成物によれば、遮光性に優れ、更に、インナーリード間、パッドとフレーム間、ワイヤー間などの電気的導通による電気的不良の発生を抑止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
セラックは、Laccifer Lacca Kerr と言われる体長0.6〜0.7mmのラックカイガラ虫の体を覆っている樹脂状の分泌物質を精製したものであり、天然樹脂の中で唯一の熱硬化性を有する樹脂である。このラックカイガラ虫の成育条件は亜熱帯の一部に限られ、インド、タイが二大産地となっている。日本では、日本シェラック工業(株)と(株)岐阜セラック製作所において製造されている。なお、セラックの推定構造式は化1によって表されると言われている。
【0015】
【化1】

【0016】
セラックの主成分はアレウリ酸2モルとセロン酸2モルとセラック樹脂酸4モルとの混合ラクチッドであり、淡黄褐色ないし褐色のりん片状細片で、堅くて脆く、つやがあり、匂いはないか又は僅かに特異な匂いがある。水、エーテル、ヘキサン、イソオクタンには不溶であるが、エタノール、プロピレングリコールには可溶であり、溶解性は、例えばプロピレングリコールには25℃において100mg/ml、37℃において500mg/mlである。
【0017】
本発明は、このセラックを不活性雰囲気中200〜600℃の温度で熱処理して高分子化し、粉砕した黒色顔料を半導体封止材用着色剤とするものである。熱処理温度が低く、200℃未満では、半導体を封止する際の温度域においてセラック中に含まれる成分が溶出する場合があり、一方、熱処理温度が高く、600℃を越えると電気抵抗が低くなるために、インナーリード間、パッドとフレーム間、ワイヤー間などに電気的導通を生じ易くなるためである。
【0018】
なお、熱処理したセラックは、ジェットミル、カッターミキサー、ボールミルなどの粉砕機で粉砕し、更に必要に応じ分級して黒色顔料とする。
【0019】
本発明の半導体封止材用樹脂組成物は、このセラックを不活性雰囲気中で熱処理し、粉砕した黒色顔料と、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤を必須成分として、混合して樹脂組成物としたものである。
【0020】
エポキシ樹脂としては特に制限はなく、封止用として一般に用いられているエポキシ樹脂を使用することができる。例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール類とアルデヒド類から合成されるノボラック樹脂をエポキシ化したエポキシ樹脂、アルキル置換又は非置換のビフェノール型エポキシ樹脂、アルキル置換又は非置換のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、イソシアヌル酸などのポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンとフェノール類及び/又はナフトール類の共縮合樹脂のエポキシ化物、ナフタレン環を有するエポキシ樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂などのアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸などの過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂などが挙げられ、これらは単独で用いても2種類以上を組み合わせてもよい。なお、これらの樹脂はデバイスの信頼性を確保するため、樹脂中に含まれる塩素が1500ppm以下であることが望ましい。
【0021】
硬化剤も特に制限はなく、一般に使用される、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのフェノール類及び/又はα−ナフトール、βナフトール、ジシドロキシナフタレンなどのナフトール類とホルムアルデヒドなどのアルデヒド類とをとを酸性触媒下で縮合または共縮合させて得られる樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂などのアラルキル型フェノール樹脂などが例示でき、単独あるいは2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0022】
硬化促進剤としては、エポキシ樹脂と硬化剤との反応を促進させる触媒機能をもつ化合物であれば特に制限はなく使用することができる。例えば、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0) ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ(4,4,0) ノネン、5,6-ジブチルアミノ-1,8- ジアザビシクロ(5,4,0) ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類およびこれらの誘導体、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4- メチルイミダゾールなどのイミダゾール類およびこれらの誘導体、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類およびこれらのホスフィン類に無水マレイン酸、ベンゾキノン、ジアゾフェニルメタンなどのπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有するリン化合物、テトラフェニルホスホニウム、テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、2-エチル-4- メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N-メチルテトラフェニルホスホニウム- テトラフェニルボレート、トリフェニルホスホニウム- トリフェニルボランなどが挙げられ、これらは単独で用いても2種類以上を組み合わせてもよい。
【0023】
吸湿性低減および強度向上の観点から用いる無機充填剤としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニアなどの粉体またはこれらを球形化したビーズ、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、アルミナなどの単結晶繊維、ガラス繊維などがあり、これらを1種類以上配合することができる。更に、難燃効果のある無機充填剤として水酸化アルミニウム、硼酸亜鉛などを用いることができる。
【0024】
なお、本発明の半導体封止材用樹脂組成物は、上記の必須成分に加えて必要に応じてシリコーンゴムなどの可撓化剤、各種カップリング剤、カルナバワックスやポリエチレンワックスなどの離型剤、表面処理剤、難燃剤、難燃助剤などの添加剤を適宜配合することもできる。
【0025】
本発明の半導体封止材用樹脂組成物は、セラックを不活性雰囲気中、200〜600℃の温度で熱処理して高分子化し、粉砕した黒色顔料と、上記のエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤などとともに所定の割合で、擂潰機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサーなどを用いて十分に混合した後、熱ロールやニーダーなどによる溶融混合処理し、次いで冷却固化した後、適当な大きさに粉砕して作製される。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に制限されるものではない。
【0027】
実施例1
セラック(岐阜セラック製作所社製、セラックGSN)1000gを窒素雰囲気中、400℃で1時間熱処理を行って高分子化し、得られた黒色リン片状物をシングルトラック・ジェットミル(セイシン企業社製、STJ−200)で粉砕して、着色剤1を製造した。
【0028】
比較例1
熱処理温度を180℃に変えた他は、実施例1と同じ方法で着色剤2を製造した。
【0029】
比較例2
熱処理温度を600℃に変えた他は、実施例1と同じ方法で着色剤3を製造した。
【0030】
比較例3
チタン粉末(Ti)と酸化チタン(TiO)とを混合し、真空中で1600℃の温度で黒色度が一定になるまで熱処理して酸化チタンの黒色粉体を着色剤4として製造した。なお、X線解析の結果より、着色剤4は主にTiOとTiからなるものであることを確認した。
【0031】
比較例4
フタロシアニン系染料(山本化成社製、YKR−3080)をそのまま着色剤5として用いた。
【0032】
これらの着色剤1〜5を、表1に示す割合(重量部)で混合し、二軸ロール(ロール表面温度80℃)で10分間混合した後、冷却、粉砕して半導体封止材用の樹脂組成物を作製した。
【0033】
【表1】

【0034】
これらの樹脂組成物を用いてトランスファー成形機で金型温度180℃、成形圧力70kgf/cm、硬化時間90秒の条件で成形し、後硬化(ポストキュア)を175℃で6時間行い、封止材を作製した。得られた封止材について、下記の方法により測定試験を行った。
【0035】
スパイラルフロー;
EMM11−66に準じた金型をトランスファー成形機にセットし、上記の条件で樹脂組成物を成形し、流動距離(cm)を求めた。
【0036】
体積抵抗率;
円形金型をトランスファー成形機にセットして、樹脂組成物を上記の条件で直径100mm、厚さ3mmの円板に成形し、後硬化した後、体積抵抗計を用いて電圧500V、温度150℃で抵抗を測定して絶縁性を確認した。
【0037】
耐湿性;
樹脂封止型半導体装置(外形寸法、18×8.4×2.6mm)としてSOP(SmallOutlinePackage)−28ピンを使用し、リードフレームに42アロイ材(加工ディンプル)で9.6×5.1mmのTEGチップを用い、上記の条件でトランスファー成形および後硬化した。次に、85℃/85RH%の条件で72時間吸湿した後、240℃/10秒の前処理後、PCT(121℃/2気圧)に放置して、チップ上配線の断線の有無を判定した。
【0038】
半田耐熱性;
樹脂封止型半導体装置(外形寸法、20×14×2.0mm)としてQFP−80ピンを使用し、リードフレームに42アロイ材(加工なし)でチップサイズ8×10mmのチップを用い、上記条件でトランスファー成形および後硬化した。次に、85℃/85RH%の条件で所定の時間吸湿した後、240℃/10秒の処理を行った時のクラックの発生を観察し、外観クラック発生率を測定した。
【0039】
レーザーマーク性;
QFP−54ピンの樹脂封止型半導体装置を用いて、パッケージ表面をYAGレーザーマーキング装置で印字し、目視でマーク性を評価した。なお、YAGレーザーのマーキング条件は下記のとおりである。
YAGレーザーの波長;1064nm
レーザーパワー ;5J
パルス幅 ;50μsec
【0040】
電気特性;
LQFP(Lowprofile Quad Flat Package)176ピンの樹脂封止型半導体装置を用いてリーク電流の有無で評価した。
【0041】
黒色度;
円板金型をトランスファー成形機にセットして、樹脂組成物を上記条件で直径100mm、厚さ2mmの円板に成形し、後硬化した後、色差計にて測定した。この値が小さいほど黒色度が高いことを示す。
【0042】
得られた結果を表2に示した。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例と比較例とを対比すれば、実施例ではスパイラルフローが長く成形性に優れ、また体積抵抗率が高く、電気特性も優れており、レーザーマーク性および黒色度も優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラックを不活性雰囲気中、200〜600℃の温度で熱処理して高分子化し、粉砕した黒色顔料からなることを特徴とする半導体封止材用着色剤。
【請求項2】
セラックを不活性雰囲気中、200〜600℃の温度で熱処理して高分子化し、粉砕して得られた黒色顔料、及び、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤を必須成分とすることを特徴とする半導体封止材用樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−134361(P2007−134361A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323100(P2005−323100)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】