説明

半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及び薄型半導体装置

【課題】ICカード等に適した半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた薄型半導体装置の提供。
【解決手段】下記(A)、(C)、(D)、(E)、(F)及び(G)成分を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。(A)エポキシ樹脂、(C)無機充填材、(D)特定構造のリン含有有機化合物系硬化促進剤、(E)ラジカル開始剤、(F)分子中に2個以上のマレイミド基を有する化合物:(A)、(D)、(E)及び(F)成分の合計100質量部中30〜60質量部、(G)分子中に1個以上のアルケニル基を有するフェノール化合物:(F)マレイミド基1モルに対するアルケニル基のモル数が0.1〜1.0モル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性、特に酸や石油系溶剤に対する耐性が高く、自動車エンジン周りやセキュリティー性が必要とされるICカード等に適した薄型半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体デバイスは樹脂封止型のダイオード、トランジスター、IC、LSI、超LSIが主流であるが、エポキシ樹脂が他の熱硬化性樹脂に比べ成形性、接着性、電気特性、機械特性、耐湿性等に優れているため、エポキシ樹脂組成物で半導体装置を封止することが一般的である。
【0003】
しかしながら、これまで以上に半導体デバイスの作動環境も厳しくなってきている。自動車用電子部品分野においては、ガソリン漏れを検知する内圧センサー、エンジン周りの電子制御化が検討されており、更なる高耐熱性、高耐溶剤性の向上が要求されている。
【0004】
1970年代に開発されたICカードは情報の記録や演算をするために半導体装置(ICチップ)を組み込んだカードであり、従来の磁気ストライプカードに比べ、情報量が数千倍になり、カード内で情報処理も可能であることから、公衆電話のプリペイドカード、デジタル放送の視聴制限カードなどの通信分野、クレジットカードやキャッシュカードのような決済手段、JR東日本の「suica」やJHのETCカードのような交通分野等、市場でも一般的に使用されるようになってきた。また行政分野でも市民カード、住民基本台帳カード、パスポート等への採用が進められてきた。
【0005】
このように磁気カードからICカードへの置き換えが進められている理由としては、偽造対策に優れている点が挙げられる。磁気ストライプ上の情報には不正な読み書きを防止する仕組みはないため、比較的安価な装置で改ざんやコピーができるのに対し、ICカードの場合には半導体素子でアクセス制御を行うため、偽造を行うにはICカードを分解し、専用のIC故障解析装置を用いて内部を解析しなければならないため、その手間やコストがかかる分だけ安全であるといわれている。
【0006】
しかしながら、1990年代以降、秘密鍵と呼ばれる暗号解読に必要な情報の読み出しに成功した例や、LSI故障解析装置を用いて市販ICカード内に使用している半導体素子を露出させ、回路構成、内部動作、物理的構造をほとんど解明した例も報告されている。
【0007】
半導体故障解析手段としては、半導体素子を覆っている封止樹脂を物理的ないし化学的にいかなるダメージも与えないように半導体素子表面を露出させる必要がある。物理的な手法とはグラインダー、ドリル等を用いて半導体素子上の封止樹脂を掘削、研磨する方法が挙げられるが、露出する手前で停止する必要がある。その後、有機溶剤あるいは無機酸等に浸し、残りの封止樹脂を溶解、除去させる方法、いわゆる化学的方法による手法がある。これらは手作業によるものであり、職人的技術を有する。一般的には半導体故障解析用に市販されている開封装置を使う方法が用いられる。例えば、酸を使用するタイプ、例えば日本サイエンティフィック社製PS−103A、PS102W/PS102S、活性イオンガスでエッチングする日本サイエンティフィック社製ES312が挙げられる。酸としては発煙硝酸、濃硫酸、硫酸と硝酸の混酸が一般的である。
【0008】
今後ICカードの普及を考えると、耐薬品性、とりわけ耐酸性の高い封止樹脂を使用したセキュリティー性の向上が不可欠であるといえる。
【0009】
なおICカードとは、ISO/IEC7816もしくはJIS6300−Xで規定された外部端子付きICカード、ISO/IEC10536もしくはJIS6321で規定された密着型外部端子無しICカード、ISO/EC14443もしくはJIS6322で規定された近接型外部端子無しICカード、ISO/IEC15693もしくはJIS6323で規定された近傍型外部端子無しICカードを意味する。ICカードの厚みとしては0.76mmが標準であり、使用されている半導体装置の厚みとしては0.58mm以下が一般的である。
【0010】
また、一般的な半導体装置も薄型化が進んでおり、TQFP(Thin Quad Flat Package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TSSOP(Thin Shrink Small Outline Package)のようなデバイスは1.1mm、BGA(Ball Grid Array)、QFN(Quad Flat Non Lead)のような片面のみ封止されたデバイスも1.2mm以下が主流となっている。
【0011】
これら薄型パッケージは、内部の半導体素子を保護している封止樹脂部の厚みも薄くなるため、従来の厚型デバイスにくらべ、薬品の影響を受けやすい。例えば、ガソリン、エンジンオイルといった石油系溶剤によって樹脂が膨潤し、電気的、機械的に不良を引き起こすこともある。また酸を用いた半導体開封装置による開封が容易となり、ICカード内に使用している半導体素子を露出させ、回路構成、内部動作、物理的構造を解明し、不正に利用するケースも考えられる。
【0012】
従来、一般的に用いられているエポキシ封止樹脂のガラス転移温度としては200〜220℃程度が限界であった。ガラス転移温度の高い樹脂としては、ポリフェニレンサルファイト、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエーテルのようなスーパーエンプラがあるが、熱可塑樹脂であり、高温、高圧でのインジェクション成形が必要である。これは直径30μm未満の金ワイヤーを使用している半導体装置の封止には不適である。またポリイミドも高いガラス転移温度を有するが、溶剤に溶解したワニスを数10μmの厚さに塗布する使用法が一般的であり、100μm以上の厚みで封止することは困難である。
【0013】
なお、本発明に関連する公知文献としては、下記のものがある。
【特許文献1】特許第3295643号公報
【特許文献2】特開2000−17052号公報
【特許文献3】特開2003−212958号公報
【特許文献4】特開2003−128757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、耐薬品性、特に酸や石油系溶剤に対する耐性が高く、自動車エンジン周りやセキュリティー性が必要とされるICカード等に適した半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた薄型半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、下記の組成物を硬化させてなるガラス転移温度が250℃以上のエポキシ封止樹脂であれば、開封装置を使って半導体素子表面を露出させるまでの時間が指数関数的に延ばせることを見出した。また、ガソリンやオイル等に長時間浸漬した際の膨潤も抑えられることを見出した。即ち、封止樹脂のガラス転移温度が高い、好ましくは250℃以上である半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物で封止された薄型半導体装置が耐薬品性に優れることを見出し、本発明に至った。
【0016】
従って、本発明は、下記(A)、(C)、(D)、(E)、(F)及び(G)成分を必須成分とすることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供する。
(A)エポキシ樹脂、
(C)無機充填材、
(D)下記一般式(1)で示される硬化促進剤、
【化1】

(但し、R1、R2、R3は互いに独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基又はヒドロキシル基、R4〜R18は互いに独立に水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基もしくはアルコキシ基である。)
(E)ラジカル開始剤、
(F)分子中に2個以上のマレイミド基を有する化合物:(A)、(D)、(E)及び(F)成分の合計100質量部中30〜60質量部、
(G)分子中に1個以上のアルケニル基を有するフェノール化合物:(F)マレイミド基1モルに対するアルケニル基のモル数が0.1〜1.0モル。
【0017】
この場合、このエポキシ樹脂組成物は、(B)成分としてフェノール樹脂硬化剤を含むことができる。また、この組成物を硬化させることによって得られた封止樹脂のガラス転移温度が250℃以上であることが好ましい。
本発明は、更に、半導体素子が上記の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物からなる封止樹脂によって封止された半導体装置であって、半導体装置の厚みが1.2mm以下、半導体素子上の封止樹脂層の厚みが0.10mm以上0.40mm以下であることを特徴とする薄型半導体装置を提供する。
【0018】
上記半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、成形性に優れると共に、ガラス転移温度(Tg)が高く、低誘電率の硬化物を得ることができ、また該エポキシ樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置が、高温信頼性、耐湿信頼性、耐熱衝撃性に優れるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の組成物は、従来エポキシ樹脂組成物では達成困難であった、ガラス転移温度が250℃以上の硬化物を得ることができ、耐熱特性に優れるのみならず、酸、石油系溶剤等耐薬品性にも優れる。従って、該組成物の硬化物(封止樹脂)で封止された半導体装置、とりわけ車載用途やICカード用途の薄型半導体装置において、産業上有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に用いられ、好ましくはガラス転移温度が250℃以上の封止樹脂を与えるエポキシ樹脂組成物に関して更に詳しく説明する。
[(A)エポキシ樹脂]
本発明のエポキシ樹脂組成物を構成する(A)成分のエポキシ樹脂は特に限定されない。一般的なエポキシ樹脂としては、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格含有アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、スチルベン型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を併用することができる。これらのうちでは、芳香環を含むエポキシ樹脂が好ましく、更に好ましくはトリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のようなエポキシ官能基を多く含む多官能型のエポキシ樹脂が好ましい。
【0021】
上記エポキシ樹脂は、加水分解性塩素が1,000ppm以下、特に500ppm以下であり、ナトリウム及びカリウムはそれぞれ10ppm以下とすることが好ましい。加水分解性塩素が1,000ppmを超えたり、ナトリウム又はカリウムが10ppmを超える場合は、長時間高温高湿下に半導体装置を放置すると、耐湿性が劣化する場合がある。
【0022】
[(B)硬化剤]
(B)硬化剤成分は、本発明では必須成分ではないが、発明の目的を損なわない範囲において、一般的な硬化剤を使用することは差し支えない。かかる硬化剤成分としては、フェノール樹脂が好ましく、フェノールノボラック樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、トリフェノールアルカン型フェノール樹脂、ビフェニル骨格含有アラルキル型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、脂環式フェノール樹脂、複素環型フェノール樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を併用することができる。
【0023】
上記硬化剤は、エポキシ樹脂と同様に、ナトリウム及びカリウムをそれぞれ10ppm以下とすることが好ましい。ナトリウム又はカリウムが10ppmを超える場合は、長時間高温高湿下に半導体装置を放置すると、耐湿性が劣化する場合がある。
【0024】
(A)成分に対する(B)成分の配合割合については特に制限されず、従来より一般的に採用されているエポキシ樹脂を硬化し得る有効量とすればよいが、硬化剤としてフェノール樹脂を用いる場合、(A)成分中に含まれるエポキシ基1モルに対して、硬化剤中に含まれるフェノール性水酸基のモル比を、通常0.5〜1.5モル、特に0.8〜1.2モルの範囲とすることが好ましい。
【0025】
[(C)無機充填材]
本発明のエポキシ樹脂組成物中に配合される(C)無機充填材としては、通常エポキシ樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。例えば、溶融シリカ、結晶性シリカクリストバライト等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化チタン、ガラス繊維等が挙げられる。
【0026】
これら無機充填材の平均粒径や形状及び無機充填材の充填量は特に限定されないが、平均粒径5〜30μm、充填量は、(A)、(F)、(G)成分及び(B)成分を配合した場合は(B)成分を加えた総量100質量部に対し、400〜1,200質量部、特に500〜1,000質量部とすることが好ましい。
【0027】
なお、無機充填剤は、樹脂との結合強度を強くするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤で予め表面処理したものを配合することが好ましい。このカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類;N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン類等のシランカップリング剤を用いることが好ましい。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。また、表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については、特に制限されるものではない。
【0028】
[(D)硬化促進剤]
また、本発明において、エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を促進させるため、下記式(1)で表される化合物を用いる。
【0029】
【化2】

(但し、R1、R2、R3は互いに独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜12のフェニル基等のアリール基、又はヒドロキシル基、R4〜R18は互いに独立に水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基もしくはアルコキシ基である。)
【0030】
即ち、エポキシ樹脂組成物に硬化促進剤として通常使用されるトリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等のリン系化合物では十分な硬化性が得られず、良好な成形性が得られない。
【0031】
また、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7などの第3級アミン化合物、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物等アミン系の硬化促進剤は耐湿信頼性を低下させる。
これに対し、上記式(1)の化合物を用いた場合、成形性、耐湿信頼性に優れた成形物を与えることができる。
【0032】
かかる式(1)で示される3級ホスフィンとベンゾキノン類の付加化合物の製造方法として、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル系溶媒を用いた場合、10μm程度の柱状結晶が得られ、残存溶媒が非常に少ない。また純度よく目的の3級ホスフィンとベンゾキノン類の付加化合物が得られるため、硬化促進剤の揮発成分による外観不良がなく、連続成形性に優れた、硬化物を与えることができるので好ましい。この場合の製造条件としては、反応温度が40℃〜90℃、好ましくは60℃〜80℃で、0.5〜3時間付加反応させた後、得られた析出物を濾過し、(エステル)溶媒にて洗浄後、80℃で減圧乾燥することにより、純度98〜100%の付加反応物が得られる。
【0033】
(D)成分の硬化促進剤の配合量は有効量であるが、上記式(1)の化合物は、(A)、(F)、(G)成分の総量100質量部に対し0.1〜5質量部、特に0.5〜3質量部とすることが好ましい。0.1質量部未満では、硬化反応が遅くなり、生産性が低下する可能性が高く、5質量部を超えると、硬化反応が早すぎてワイヤー流れ、未充填など成形不良を引き起こす可能性が高い。
【0034】
[(E)ラジカル開始剤]
式(1)の化合物がエポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を促進するが、後述する(F)、(G)成分のマレイミド化合物とアルケニルフェノール化合物の硬化反応の促進剤としては効果が不十分である。従って、(F)、(G)成分のマレイミド化合物とアルケニルフェノール化合物の硬化促進剤としては、ラジカル開始剤を併用することが必要である。かかるラジカル開始剤としては、例えば過酸化ベンゾイル、ジクミルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物、アゾイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられるが、なかでもジクミルパーオキサイドが1分間の半減期を得るための温度がトランスファー成形温度に近く、成形性に優れるので好ましい。
【0035】
ラジカル開始剤の配合量は、(A)、(F)、(G)成分の総量100質量部に対し0.05〜3質量部が好ましく、特に好ましくは0.1〜1質量部である。0.05質量部未満では、成形時間内に十分な重合反応が得られない場合が多く、3質量部を超えると、増粘によるワイヤー流れ、未充填など成形不良を引き起こす可能性が高く、保存性も低下するおそれがある。
また、式(1)の化合物とラジカル開始剤との併用比率は、式(1)の化合物/ラジカル開始剤が質量比で0.5〜6、好ましくは2〜3である。
【0036】
[(F)マレイミド基を有する化合物]
本発明に用いる(F)分子中に2個以上のマレイミド基を有する化合物の構造としては特に限定されるものではなく、N,N’−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド等が挙げられる。かかるマレイミド基含有化合物としては、下記式で示されるビスマレイミド:BMI(ケイアイ化成(株)商品名)が好ましい。
【0037】
【化3】

【0038】
マレイミド化合物の添加量としては成分は、(A)、(D)、(E)及び(F)成分の合計量100質量部に対し、30〜60質量部、特に40〜50質量部が好ましい。30質量部未満だと、エポキシ基とフェノール性水酸基のマトリックス由来のガラス転移温度が劣り、60質量部より多くなると流動性が低下し、ワイヤー流れ等成形不良を起こす。半導体封止材特性のバランス面から30〜60質量部、特に40〜50質量部付近が好ましい。
【0039】
[(G)分子中に1個以上のアルケニル基を有するフェノール化合物]
(G)分子中に1個以上のアルケニル基を有するフェノール化合物としては、o,o’−ジアリル−ビスフェノールA、o,o’−ジ(1−プロペニル)−ビスフェノールA、o−アリルフェノールノボラック樹脂、o−(1−プロペニル)フェノールノボラック樹脂、トリスo−アリルフェノールアルカン型フェノール樹脂、トリスo−(1−プロペニル)フェノールアルカン型フェノール樹脂等が挙げられる。マレイミド基を含む化合物との反応性を考慮すると、o,o’−ジ(1−プロペニル)−ビスフェノールA、o−(1−プロペニル)フェノールノボラック樹脂、o−(1−プロペニル)フェノールアルカン型フェノール樹脂等、1−プロペニル基を含有することが望ましい。これは前述のビスマレイミド基とDiels−Alder反応による付加反応により耐熱、耐薬品性に優れる環化が起こるためである。
【0040】
かかるアルケニル基含有フェノール化合物としては、下記式で示されるo−(1−プロペニル)フェノールノボラック樹脂(商品名1PP−2:群栄化学工業(株)製)が挙げられる。
【0041】
【化4】

(但し、m=1〜100、n=1〜100、m+n=2〜200である。)
【0042】
アルケニル基を有するフェノール化合物の添加量としては特に限定されないが、高いガラス転移温度を得るためには、(F)成分のマレイミド基1モルに対してアルケニル基が0.1〜1.0モル、特に好ましくは0.2〜0.5モルであることが望ましい。
【0043】
[(H)他の配合成分]
【0044】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、本発明の目的及び効果を発現できる範囲内に限って、上記(A)〜(G)成分に加えて、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、シリコーン系等の低応力剤、カルナバワックス、高級脂肪酸、合成ワックス等のワックス類、カーボンブラック等の着色剤、ハロゲントラップ剤、ホスファゼン化合物、モリブデン酸亜鉛化合物等の難燃剤、添加剤を添加配合することができる。
【0045】
離型剤成分としては、例えばカルナバワックス、ライスワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、モンタン酸、モンタン酸と飽和アルコール、2−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−エタノール、エチレングリコール、グリセリン等とのエステル化合物であるモンタンワックス;ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体等が挙げられ、これらの1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0046】
離型剤の配合比率としては(A)及び(B)成分の総量100質量部に対して、0.1〜5質量部、更に好ましくは0.3〜4質量部であることが望ましい。
【0047】
[エポキシ樹脂組成物の調製等]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、例えば、上記(A)〜(G)成分及びその他の添加物を所定の組成比で配合し、これをミキサー、ボールミル等によって十分均一に混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等を用いて、溶融混合処理を行い、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕して成形材料として得ることができる。
【0048】
なお、組成物をミキサー等によって十分均一に混合するに際して、保存安定性をよくするために、あるいはウエッターとしてシランカップリング剤等で予め表面処理等を行うことが好ましい。
【0049】
ここで、シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシプロピル)テトラスルフィド、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。ここで、表面処理に用いるシランカップリング剤量及び表面処理方法については、特に制限されるものではない。
【0050】
このようにして得られる本発明のエポキシ樹脂組成物は、各種の半導体装置の封止用として有効に利用できる。封止方法としては、例えば、低圧トランスファー成形法が挙げられる。なお、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化・成形に際しては、例えば、150〜200℃で30〜300秒間処理し、後硬化(ポストキュア)を180〜260℃で2〜16時間の条件で行うことが望ましく、高いガラス転移温度を得るためには高い温度で長時間後硬化を行うことが望ましい。
【0051】
本発明の半導体封止用樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置において、封止樹脂(硬化物)のガラス転移温度(Tg)は250℃以上、好ましくは280℃以上であることが有効である。図1に示される半導体装置(半導体装置厚0.58mm、封止材厚み0.30mm)を、半導体開封装置PS−103A(日本サイエンティフィック(株)製)を用いて、65℃に加熱した発煙硝酸(d=1.52)で封止された半導体素子の表面が露出するまでの時間を測定した結果を図2に示す。これによると、封止樹脂のガラス転移温度と共に開封時間(半導体素子の表面が露出するまでの時間)は、指数関数的に増大することがわかる。
なお、図1において、1はガラス繊維強化エポキシ樹脂基板、2は半導体素子、3は接着剤、4はボンドワイヤー、5は封止樹脂である。
以上のように、封止樹脂のガラス転移温度(Tg)が250℃以上の本発明に係る半導体装置は、封止樹脂の耐薬品性が高いため、車載用途、セキュリティーカードの用途に好適である。
【0052】
なお、本発明におけるガラス転移温度とは、試験片を熱膨張計にセットし、昇温5℃/分、荷重19.6mNで300℃まで測定した。寸法変化と温度のグラフを作成し、変曲点の温度以下で寸法変化―温度曲線の接線が得られる任意の温度2点 A1、A2、変曲点の温度以上で接線が得られる任意の2点B1,B2を選択し、A1,A2を結ぶ直線とB1,B2を結ぶ直線の交点をガラス転移温度とした。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0054】
[実施例1〜4、比較例1〜6]
表1,2に示す成分を熱2本ロールにて均一に溶融混合し、冷却、粉砕してエポキシ樹脂組成物を得た。これらの組成物を175℃、6.9N/mm2、成形時間120秒の条件で成形し、5×5×15mmの試験片を得た。各試験片につき各条件でポストキュアを行った後、ガラス転移温度、耐酸性、耐ガソリン性を測定した。
【0055】
<ガラス転移温度>
試験片を熱膨張計(Rigaku TMA8140C)にセットし、昇温5℃/分、荷重19.6mNで300℃まで測定した。寸法変化と温度のグラフを作成し、変曲点の温度以下で寸法変化―温度曲線の接線が得られる任意の温度2点A1、A2、変曲点の温度以上で接線が得られる任意の2点B1、B2を選択し、A1、A2を結ぶ直線とB1、B2を結ぶ直線の交点をガラス転移温度とした。図3に代表的な寸法変化と温度のグラフを示す。
【0056】
<耐酸性>
図1に示される半導体装置(半導体装置厚0.58mm、封止材厚み0.30mm)を、半導体開封装置PS−103A(日本サイエンティフィック(株)製)を用いて酸による半導体装置開封時間を測定した。条件は65℃に加熱した発煙硝酸(d=1.52)、開封エリア5×5mmで封止された半導体素子の表面が露出するまでの時間を測定した。
【0057】
<耐ガソリン性>
100×10×0.8mmの成形片を175℃で90秒成形し、所定時間ポストキュアした後、ガソリンに浸漬し、30℃で1週間放置した。1週間後重量の変化量を測定した。
【0058】
(A)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂a:o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN1020−65、日本化薬(株)製、エポキシ当量200)
エポキシ樹脂b:ビフェニル型エポキシ樹脂(YX−4000K、ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量190)
エポキシ樹脂c:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC−3000、日本化薬(株)製、エポキシ当量272)
エポキシ樹脂d:トリフェノ−ルアルカン型エポキシ樹脂(EPPN−502H、日本化薬(株)製、エポキシ当量168)
【0059】
(B)硬化剤
硬化剤a:フェノールノボラック樹脂(DL−92、明和化成(株)製、フェノール性水酸基当量110)
硬化剤b:フェノールアラルキル樹脂(MEH−7800SS、明和化成(株)製、フェノール性水酸基当量175)
硬化剤c:トリフェノールアルカン型フェノール樹脂(MEH−7500、明和化成(株)製、フェノール性水酸基当量97)
【0060】
(C)無機充填剤:球状溶融シリカ(龍森(株)製、平均粒径15μm)
(D)硬化促進剤
硬化促進剤a:下記式で示される化合物
【0061】
【化5】

(硬化促進剤aの製造方法)
トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)832.0gを酢酸ブチル1800.0gに溶解させ、80℃で30分撹拌する。1,4−ベンゾキノン352.0g/酢酸ブチル1800g中溶液を145g/分で滴下し、滴下終了後、1時間撹拌し、熟成する。その後、室温まで冷却し、析出物を濾過、洗浄、減圧乾燥し、トリフェニルホスフィンと1,4−ベンゾキノンの付加物982.7gを得た。
硬化促進剤b:トリフェニルホスフィン(TPP、北興化学(株)製)
硬化促進剤c:イミダゾール化合物(2PZ、四国化成(株)製)
【0062】
(E)ラジカル開始剤:ジクミルパーオキサイド(パークミルD、日本油脂(株)製)
(F)マレイミド基含有化合物:下記式で示されるビスマレイミド(BMI、ケイアイ化成(株)製)
【0063】
【化6】

(G)アルケニル基含有フェノール化合物:下記式で示されるo−(1−プロペニル)フェノールノボラック樹脂(1PP−2、群栄化学(株)製)
【0064】
【化7】

m/n=1/1
【0065】
(H)その他の添加剤
離型剤:カルナバワックス(日興ファインプロダクツ(株)製)
カーボンブラック:デンカブラック(電気化学工業(株)製)
シランカップリング剤:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403、信越化学工業(株)製)
【0066】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例で用いた半導体装置図の概念図を示す。
【図2】ガラス転移温度と半導体素子が露出するまでの開封時間を示す。
【図3】温度−寸法変化グラフ(ガラス転移温度の求め方)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)、(C)、(D)、(E)、(F)及び(G)成分を必須成分とすることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
(A)エポキシ樹脂、
(C)無機充填材、
(D)下記一般式(1)で示される硬化促進剤、
【化1】

(但し、R1、R2、R3は互いに独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基又はヒドロキシル基、R4〜R18は互いに独立に水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基もしくはアルコキシ基である。)
(E)ラジカル開始剤、
(F)分子中に2個以上のマレイミド基を有する化合物:(A)、(D)、(E)及び(F)成分の合計100質量部中30〜60質量部、
(G)分子中に1個以上のアルケニル基を有するフェノール化合物:(F)マレイミド基1モルに対するアルケニル基のモル数が0.1〜1.0モル。
【請求項2】
(B)成分としてフェノール樹脂硬化剤を含むことを特徴とする請求項1記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
硬化剤としての封止樹脂のガラス転移温度が250℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
半導体素子が請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物からなる封止樹脂によって封止された半導体装置であって、半導体装置の厚みが1.2mm以下、半導体素子上の封止樹脂層の厚みが0.10mm以上0.40mm以下であることを特徴とする薄型半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−111111(P2008−111111A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252822(P2007−252822)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】