説明

半導体発光素子およびその製造方法

【課題】開口を有する電極が半導体層上に設けられ、その開口に誘電体層が設けられた構造の半導体発光素子において、半導体層と電極の開口側端部との界面近傍の半導体層に歪が生じるのを抑制する。
【解決手段】活性層106と、活性層に電流を注入する第1の電極121および第2の電極131と、活性層と第1の電極との間の半導体層115と、半導体層上に設けられ、活性層からの光が通る誘電体層141と、を備え、第1の電極は半導体層上に設けられ、共に活性層からの光が通る開口125を有し、半導体層と接触して設けられた第1の電極層122と、第1の電極層上に設けられた第2の電極層123とを備え、第1の電極層は第2の電極層よりも半導体層との反応性が小さく、誘電体層は開口内に設けられ、第1の電極層の開口側端部が、半導体層115上から誘電体層141上に延在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子およびその製造方法に関し、特に、垂直共振器型の面発光型半導体レーザ(VCSEL: Vertical Cavity Surface Emitting LASER、以下、単に面発光レーザと称する)素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の面発光レーザ素子は、例えば、特許文献1、2に開示されており、量子井戸構造を有する活性層を有し、活性層との間にp型スペーサ層を介して設けられたp型コンタクト層上にp側円環状電極が設けられ、p側円環状電極の開口には、位相を調整するための誘電体層が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6916672号明細書
【特許文献2】米国特許第6750071号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
活性層と、活性層に電流を注入する2つの電極とを有し、2つの電極のうちの一方の電極が半導体層上に設けられ、当該電極には活性層からの光を通すための開口が設けられ、その開口に誘電体層が設けられた構造の半導体発光素子では、電極の開口側端部において、電極の構成物質の少なくとも一つが半導体層に拡散して半導体層と反応し、その結果、半導体層と電極との界面近傍の半導体層に歪が生じてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、開口を有する電極が半導体層上に設けられ、その開口に誘電体層が設けられた構造の半導体発光素子において、半導体層と電極の開口側端部との界面近傍の半導体層に歪が生じるのを抑制できる半導体発光素子およびその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
活性層と、
前記活性層に電流を注入する第1の電極および第2の電極と、
前記活性層と前記第1の電極との間の半導体層と、
前記半導体層上に設けられ、前記活性層からの光が通る誘電体層と、を備える半導体発光素子であって、
前記第1の電極は前記半導体層上に設けられ、前記活性層からの光が通る開口を有し、前記半導体層と接触して設けられた第1の電極層と、前記第1の電極層上に設けられた第2の電極層とを備え、前記第1の電極層は前記第2の電極層よりも前記半導体層との反応性が小さく、
前記誘電体層は前記開口内に設けられ、前記第1の電極層の前記開口側の端部が、前記半導体層上から前記誘電体層上に延在している半導体発光素子が提供される。
【0007】
好ましくは、前記誘電体層は円板状であり、前記第1の電極は円環状である。
【0008】
好ましくは、前記誘電体層の端部がテーパー状であり、前記誘電体層の端部の上面は、前記誘電体層の外側から内側に向かうにつれて前記半導体層から離間している。
【0009】
好ましくは、前記第1の電極層の前記開口側の端部が前記第2の電極層の前記開口側の端部によって覆われ、前記第1の電極層の前記開口側の端部が前記開口に露出していない。
【0010】
好ましくは、前記第1の電極層は、前記誘電体層上に100nm乃至1μm延在している。
【0011】
好ましくは、前記誘電体層の端部がテーパー状であり、前記誘電体層の端部の上面は、前記誘電体層の外側から内側に向かうにつれて前記半導体層から離間しており、前記第1の電極層の前記開口側の端部は前記テーパー状の前記誘電体層の端部上で終端している。
【0012】
好ましくは、前記第2の電極層の前記開口側の端部は前記テーパー状の前記誘電体層の端部上で終端し、前記第1の電極層の前記開口側の端部は前記第2の電極層の前記開口側の端部によって覆われ、前記第1の電極層の前記開口側の端部が前記開口に露出していない。
【0013】
好ましくは、前記第1の電極の外側の端部と、前記半導体層との間に設けられた第2の誘電体層をさらに備え、前記第1の電極の前記外側の端部が、前記半導体層上から前記第2の誘電体層上に延在している。
【0014】
好ましくは、前記第1の電極層は、Ti、W、Mo、Ta、Cr、TiNおよびTaNからなる群より選ばれる少なくとも1以上の物質からなる。
【0015】
好ましくは、前記第2の電極層は、Au、Pt、Ni、PdおよびGeからなる群より選ばれる少なくとも1以上の物質からなる。
【0016】
好ましくは、前記第1の電極層の膜厚は、10乃至200nmである。
【0017】
好ましくは、前記第2の電極層上の第3の電極層をさらに備え、前記第3の電極層は、前記第2の電極層とは異なる物質からなり、前記第3の電極層は、Au、Pt、Ni、Pd、TiおよびGeからなる群より選ばれる少なくとも1以上の物質からなる。
【0018】
好ましくは、前記第1の電極層と前記半導体層との間には、前記第1の電極層の構成物質の少なくとも一つと前記半導体層の構成物質の少なくとも一つを含み、厚さが10nm以上、60nm以下の物質層が存在する。
【0019】
本発明の他の態様によれば、
活性層と、
前記活性層に電流を注入する第1の電極および第2の電極と、
前記活性層と前記第1の電極との間の半導体層と
前記半導体層上に設けられ、前記活性層からの光が通る誘電体層と、を備える発光素子であって、
前記第1の電極は、前記半導体層上に設けられ、前記活性層からの光が通る開口を有し、前記半導体層と接触して設けられた第1の電極層と、前記第1の電極層上に設けられた第2の電極層とを備え、前記第1の電極層は前記第2の電極層よりも前記半導体層との反応性が小さく、
前記誘電体層は前記開口内に設けられ、前記誘電体層の端部が、前記第1の電極の前記開口側の端部と前記第2の電極の前記開口側の端部との間に介在している半導体発光素子が提供される。
【0020】
好ましくは、前記第1の電極層と前記半導体層との間には、前記第1の電極層の構成物質の少なくとも一つと前記半導体層の構成物質の少なくとも一つを含み、厚さが10nm以上、60nm以下の物質層が存在する。
【0021】
好ましくは、前記発光素子は、面発光レーザである。
【0022】
好ましくは、前記発光素子は、第1の反射鏡と、第2の反射鏡と、前記第1の反射鏡および前記第2の反射鏡との間に設けられた共振器とをさらに備え、前記共振器は少なくとも、前記活性層、前記半導体層前記誘電体層および電流経路制限層を有し、前記第1の電極および前記誘電体層上に、前記第1の反射鏡が設けられ、前記誘電体層は、前記共振器内の定在波の位相を調整するための位相調整層であり、前記電流経路制限層は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流の経路を制限し、前記電流が流れる第1の領域と前記電流の流れを制限する第2の領域とを有する。
【0023】
また、好ましくは、前記発光素子は、第1の反射鏡と、第2の反射鏡と、前記第1の反射鏡および前記第2の反射鏡との間に設けられた共振器と、電流経路制限層とをさらに備え、前記共振器は少なくとも前記活性層を有し、前記第1の反射鏡は半導体多層膜からなる反射鏡であり、前記半導体層は前記半導体多層膜であり、前記電流経路制限層は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流の経路を制限し、前記電流が流れる第1の領域と前記電流の流れを制限する第2の領域とを有する。
【0024】
好ましくは、前記発光素子は、面発光LEDである。
【0025】
本発明のさらに他の態様によれば、上記各半導体発光素子を複数備える半導体発光素子アレイが提供される。
【0026】
本発明のさらに他の態様によれば、上記各半導体発光素子を複数備えるレーザアレイが提供される。
【0027】
本発明のさらに他の態様によれば、上記各半導体発光素子を備える光学機器が提供される。
【0028】
本発明のさらに他の態様によれば、上記各半導体発光素子を備える通信システムが提供される。
【0029】
本発明のさらに他の態様によれば、
基板上に活性層と半導体層とを形成する工程と、
前記半導体層上に選択的に誘電体層を形成する工程と、
前記半導体層上に選択的に電極を形成する工程であって、前記電極は、第1の電極層と、前記第1の電極層上に設けられた第2の電極層と、開口とを有し、前記第1の電極層は前記半導体層と接触して設けられ、前記第1の電極層は前記第2の電極層よりも前記半導体層との反応性が小さく、前記開口内に前記誘電体層が位置し、前記第1の電極層の前記開口側の端部が、前記半導体層上から前記誘電体層上に延在している前記電極を形成する工程と、
前記活性層に前記電極から流れるまたは前記活性層から前記電極に流れる電流の経路を制限する電流経路制限層であって前記電流が流れる領域と前記電流の流れを制限する酸化物領域とを有する前記電流経路制限層の前記酸化物領域を作成する酸化工程であって、前記酸化工程中の加熱によって、前記第1の電極層と前記半導体層との間に、前記第1の電極層の構成物質の少なくとも一つと前記半導体層の構成物質の少なくとも一つを含む物質層を形成する酸化工程と、を備える半導体発光素子の製造方法が提供される。
【0030】
好ましくは、前記半導体発光素子の製造方法は、少なくとも前記活性層と前記半導体層とを含む凸部を前記電極に対して自己整合的に前記基板上に形成する工程をさらに備え、前記電流経路制限層の前記酸化物領域は、前記凸部の側面からの酸化によって作成する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、開口を有する電極が半導体層上に設けられ、その開口に誘電体層が設けられた構造の半導体発光素子において、半導体層と電極の開口側端部との界面近傍の半導体層に歪が生じるのを抑制できる半導体発光素子およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を説明するための概略縦断面図である。
【図2】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子の製造方法を説明するための概略縦断面図である。
【図3】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子の製造方法を説明するための概略縦断面図である。
【図4】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子の製造方法を説明するための概略縦断面図である。
【図5】図1のA部の部分拡大概略縦断面図である。
【図6】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子の変形例を説明するための部分拡大概略縦断面図である。
【図7】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子の他の変形例を説明するための部分拡大概略縦断面図である。
【図8】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子のさらに他の変形例を説明するための部分拡大概略縦断面図である。
【図9】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子のさらに他の変形例を説明するための部分拡大概略縦断面図である。
【図10】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子のさらに他の変形例を説明するための部分拡大概略縦断面図である。
【図11】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子のさらに他の変形例を説明するための部分拡大概略縦断面図である。
【図12】本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を説明するための部分拡大概略縦断面図である。
【図13】比較のための面発光型半導体レーザ素子を説明するための概略縦断面図である。
【図14】図13のB部の部分拡大概略縦断面図である。
【図15】本発明の好ましい第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を説明するための概略縦断面図である。
【図16】本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を複数用いた面発光レーザアレイを説明するための概略斜視図である。
【図17】本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を複数用いた面発光レーザアレイチップを説明するための概略平面図である。
【図18】本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を用いた面発光レーザパッケージを説明するための概略縦断面図である。
【図19】本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を用いた光ディスク用ピックアップを説明するための概略縦断面図である。
【図20】本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を用いた光送受信モジュールを説明するための概略平面図である。
【図21】本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子と光導波路との光結合構造、または本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を複数用いた面発光レーザアレイと光導波路との光結合構造を説明するための概略縦断面図である。
【図22】本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子と光導波路との光結合構造、または本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を複数用いた面発光レーザアレイと光導波路との光結合構造を説明するための概略縦断面図である。
【図23】本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子と光導波路との光結合構造、または本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を複数用いた面発光レーザアレイと光導波路との光結合構造を説明するための概略縦断面図である。
【図24】本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を用いた通信システム、または本発明の好ましい第1および第2の実施の形態の面発光型半導体レーザ素子を複数用いた面発光レーザアレイを用いた通信システムを説明するための概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態に係る面発光型半導体レーザ素子および製造方法を詳細に説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0034】
本発明の好ましい実施の形態を説明する前に、まず、比較例について説明する。図13を参照すれば、比較例の面発光レーザ300は、GaAs基板101と、その表面上に積層され且つ一部がメサポスト130に形成された積層構造とを有する。積層構造は、GaAs基板101の側から見て順次に、半導体多層膜から成る下部DBRミラー102、バッファ層103、n型コンタクト層104、n型スペーサ層105、量子井戸構造を有する活性層106、下部傾斜組成層109、電流狭窄層110、上部傾斜組成層111、p型スペーサ層112、p型電流経路層113、p型スペーサ層114、及び、p型コンタクト層115を含む。p型コンタクト層115上には、p側円環状電極(リング電極)121が形成され、p側円環状電極121の開口125内には、窒化珪素からなり、位相調整層として機能する円板状の誘電体層141誘電体層141が形成されている。p側円環状電極121と誘電体層141との間には隙間が存在する。p側円環状電極121と誘電体層141上には、誘電体多層膜からなる上部DBRミラー150が形成されている。電流狭窄層110は、外周に位置する電流狭窄部110aと、電流狭窄部110aの内側に位置する円形の電流注入部110bとを含む。この例では、n型スペーサ層105からp型コンタクト層115までの半導体積層構造が、円柱状のメサポスト130として形成されている。
【0035】
p側円環状電極121から注入された電流は、電流狭窄層110を介して活性層106に注入され、レーザー光が発振する。
【0036】
この比較例の面発光レーザ300では、p側円環状電極121の内縁であるエッジ部分(開口側端部126)において、形成される電極層の層厚が薄くなる、あるいは開口側端部126に凹凸が生じるという問題がある。電極材料としてはAuやPtのような電気抵抗の小さい金属を用いることが好ましいが、GaAs等の化合物半導体との反応性や、GaAs等の化合物半導体との接着性、あるいはGaAs等の化合物半導体とのオーミック接触の形成などの観点から、Ti等をバリア金属として用いた複数の層からなる多層金属電極が用いられている。
【0037】
例えば、図14に示すように、Ti/Pt(下側がTi層122、上側がPt層123)の多層金属をp側円環状電極121の電極材料として用いると、p側円環状電極121の開口側端部126ではバリア層であるTi層122の厚みが薄くなったり、厚みにばらつきが生じたりし、Pt層123のPtがp型コンタクト層115のGaAsと直接接触あるいはTi層122の薄い部分をPtが通過して、p型コンタクト層115のGaAsとPtが反応する現象が発生する。
【0038】
Ptは、GaAsのような化合物半導体と200℃程度の低温から反応して、化合物半導体のそれぞれの構成元素と化合物を形成する。例えば、PtとGaAsが完全に反応すると、PtGa/PtAs/GaAsの順番で化合物が多層化した構造が形成される。
【0039】
Pt層123のPtがp型コンタクト層115のGaAsと直接接触あるいはTi層122の薄い部分を通過してp型コンタクト層115のGaAsと接触した後に、加熱されると、PtはGaAs中に深く拡散して突出部152を形成し、突出部152ではPtとGaAsが反応して、上記の化合物を形成する。
【0040】
このように、PtがGaAs中に拡散して突出部152を形成し、PtとGaAsが反応すると、p型コンタクト層212とp側円環状電極121との界面近傍のp型コンタクト層115に局所的な歪を発生させ、これを起点として半導体積層内に転位(欠陥)を引き起こす。半導体積層内の転位は発光部近傍で生じるために、レーザ特性を劣化させ、レーザの素子寿命に影響を及ぼすという問題が生じる。
【0041】
上記p側円環状電極121とp型コンタクト層115の反応は、メサポスト形成後に行う酸化狭窄膜の酸化工程で、特に約400℃程度の高温に曝されることにより促進される。また、AsとPtが反応するとPtAs化合物が生成して大幅に電極の抵抗が上昇してレーザの特性、特に高周波動作時のRF特性を大幅に悪化させるという問題も生じる。
【0042】
なお、上記では、Ptについて説明したが、NiやPdなどの遷移金属と化合物半導体の各構成元素とも化合物を形成することが知られている。
【0043】
また、レーザの使用環境に依存するものの、高い周囲温度下で且つ高駆動電流を用いる
レーザの駆動では、一見して上述した反応が起こっていないような場合にも、エレクトロマイグレーション等によって、レーザ運転中に上記反応が進行する可能性もある。特に、p側円環状電極121の開口側端部126は、電流が最も集中しやすい場所であるため、この部分に反応に起因する応力が加わることで、長期通電時には特に劣化が進行する原因になる。
【0044】
更に、例えば上部DBRミラー150が誘電体膜で形成されるような、イントラ・キャビティー構造の面発光レーザでは、上部クラッド層(上部傾斜組成層111、p型スペーサ層112、p型電流経路層113、p型スペーサ層114、及びp型コンタクト層115)上にp側円環状電極121が形成されるため、p側円環状電極121と活性層106との距離が、例えば約1μm以下と極めて近い。また、上部クラッド層上のp側円環状電極121と上部DBRミラー150の境界部では歪が生じやすい。したがって、この構造では、p側円環状電極121と上部クラッド層の最上層であるp型コンタクト層115との反応による構造劣化の影響を活性層106がより受けやすくなり、上記問題が更に顕著になる。
【0045】
なお、酸化狭窄層を形成する酸化工程等で、Tiがp型コンタクト層115のGaAsに拡散して、あるいはTiとp型コンタクト層115のGaAsが相互拡散して、Tiとp型コンタクト層115のGaAsの構成成分の少なくとも一つ、すなわち、GaおよびAsの少なくとも一つとTiとを含む物質層151が形成されるが、この物質層151については、後述する。
【0046】
(好ましい実施の形態)
次に、本発明の好ましい実施の形態に係る面発光型半導体レーザ素子構造および製造方法について説明する。
【0047】
垂直共振器型面発光半導体レーザ素子(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)は、その名の通り、光の共振する方向が基板面に対して垂直であり、光インターコネクションをはじめ、通信用光源として、また、センサー用途などの様々なアプリケーション用デバイスとして注目されている。その理由として、面発光レーザは、従来の端面発光型半導体レーザと比較して、レーザ素子の2次元配列を容易に形成できること、ミラー形成のための劈開が必要でないためウエハレベルでテストできること、活性層体積が格段に小さいので極低しきい値で発振できること、及び、消費電力が小さいことなどの種々の利点を有していることが挙げられる。
【0048】
(第1の実施の形態)
図1を参照すれば、本発明の好ましい第1の実施の形態の面発光レーザ100は、基板101と、基板101上に順次に形成された、下部DBR102、バッファ層103、n型コンタクト層104、n型スペーサ層105、活性層106、下部傾斜組成層109、電流狭窄層110、上部傾斜組成層111、p型スペーサ層112、p型電流経路層113、p型スペーサ層114、及び、p型コンタクト層115を含む積層構造とを有する。
【0049】
積層構造のうちで、少なくともn型スペーサ層105からp型コンタクト層112までが、円柱状のメサポスト130を構成している。電流狭窄層110は、メサポスト130の外周側に位置する電流狭窄部110aと、電流狭窄部110aの内側に位置する円形の電流注入部110bとを有する。
【0050】
基板101は、アンドープのGaAsからなる。下部DBR102は、GaAs/Al0.9Ga0.1As層の34ペアからなる。バッファ層103は、n型GaAsからなる。n型コンタクト層104は、セレン(Se)、シリコン(Si)などのn型ドーパントをドープした、n型のGaAsからなる。n型スペーサ層105はn型ドーパントをドープしたn型GaAsからなる。活性層106は、層数が3のGaInNAs井戸層と、層数が4のGaAs障壁層とをそれぞれ交互に積層した構造を有し、最下層のGaAs障壁層はn型クラッド層としても機能する多重量子井戸構造を有する。電流狭窄層110のうち、電流狭窄部110aはAlからなり、電流注入部110bはAlAsからなる。電流注入部110bの直径は5〜7μmである。電流狭窄部110aによって、p側円環電極121とn側電極131との間に流れる電流の経路を制限して、電流注入部110bに電流の流れを集中させており、電流狭窄層110は、電流経路制限層として機能している。なお、下部DBR102は、誘電体多層膜で形成してもよい。
【0051】
下部傾斜組成層109及び上部傾斜組成層111は、AlGaAsからなり、積層方向に見て電流狭窄層110に近づくにつれて、Al組成が段階的に増加する。また、p型スペーサ層112、114、p型電流経路層113、p型コンタクト層115は、それぞれ炭素(C)、亜鉛(Zn)あるいはベリリウム(Be)などのp型ドーパントをドープしたp型、p型のGaAsからなる。各p型又はn型層のアクセプタ又はドナー濃度は、例えば1×1018cm−3程度であり、各p型又はn型層のアクセプタまたはドナー濃度は、例えば3×1019cm−3以上である。
【0052】
型コンタクト層115上には、p側円環状電極121が形成されている。図5に示すように、p側円環状電極121は、電気伝導に寄与するPt層123と、p型コンタクト層115との密着性の改善のため、およびPtと半導体材料の相互拡散をブロックするためのTi層122とを有するPt/Ti層(下側がTi層122、上側がPt層123)の多層構造からなる。Ti層122はPt層123よりもp型コンタクト層115との反応性は小さい。p側円環状電極121は、中心にレーザー光を通過させるための開口125を有し、円筒状のメサポスト130の外周とほぼ一致する外周を有する。
【0053】
p側円環状電極121の開口125内には、p側円環状電極121のPtと反応性が低い材料、ここでは窒化珪素(SiN)からなる円板状の誘電体層141が形成されている。
【0054】
面発光レーザにおいては、レーザ発振させるべき波長の光が上部DBRミラー150と、下部DBRミラー102との間で定在波を形成する必要がある。この定在波では、下部DBRミラー102の最上面、及び上部DBRミラー150の最下面がその定在波の腹の位置になる。上述した電流狭窄層110、p型電流経路層113、及びp型コンタクト層115は、その電気的特性が優先的に設計され、ドーパントが導入されるため、レーザ発振光を吸収、散乱するおそれがある。そのため、電流狭窄層110、p型電流経路層113、及びp型コンタクト層115は、光の定在波の節の位置に配置されるように設計される。
【0055】
本実施の形態では、p側円環状電極121の開口125内のp型コンタクト層115上に、誘電体層141が形成されている。この誘電体層141は、共振器の光学長を調整する、リフェイズ層と呼ばれる位相調整層として機能する。誘電体層141は、p型コンタクト層115と上部DBRミラー150との間に形成される。この誘電体層141の上面からバッファ層103の底面までの部分が共振器120を構成している。
【0056】
型コンタクト層115が定在波の節に位置するように設計されるので、誘電体層141は、誘電体層141の上面、すなわち、上部DBRミラー150の最下面が定在波の腹に位置するように、その光学厚さがλ/4程度に調整される。ここで、ある層の光学厚さは、その層厚とその層の屈折率との積で示される。誘電体層141の層厚は発振波長に応じて、例えば、100nm〜180nmである。誘電体層141の外径は、例えば5〜14μmである。
【0057】
p側円環状電極121の外径は、例えば30μmである。図5に示すように、p側円環状電極121の膜厚は、位相調整層141の層厚よりも大きく、p側円環状電極121の開口側端部126は、p型コンタクト層115上から誘電体膜141上に延在し、誘電体膜141の外縁部148を約250nmの幅aで覆っている。本実施の形態では、Ti層122の膜厚は50nm、Pt層123の膜厚は200nmとして多層電極を形成したが、Ti層122の膜厚は10〜200nm、好ましくは10〜50nmの範囲で選択され、Pt層123の膜厚は用途に応じて適宜設定することができる。また、当分野で電極形成に用いられる蒸着、あるいはスパッタリング等の一般的な条件下で、いくつかの適切なバリア材料(Ti、Ta、Mo、Cr)を用いた実験から、100nm乃至1μm、好ましくは250nm乃至1μm、さらに好ましくは450nm乃至1μmの幅aで、p側円環状電極121の開口側端部126を誘電体膜141の外縁部148に乗り上げるように設計することによって、p側円環状電極121と誘電体膜141との境界149の位置で十分に均質なバリア層(本実施の形態ではTi層122)の膜厚が得られることがわかった。
【0058】
p側円環状電極121及び誘電体層141の上から、メサポスト130の側面及びその周囲にわたって、誘電体多層膜からなる上部DBR150が形成されている。上部DBR150は、例えばSiN/SiOの10〜12ペアからなる。また、表面保護のためにSiO143とその上のSiN144からなるパッシベーション膜145が全面に形成されている。このパッシベーション膜145のSiO143とSiN144は、DBRミラー150の最下層のSiOとSiNを兼ねている。従って、SiN/SiOからなる上部DBRミラー150は、その最下層は、パッシベーション膜145のSiOであり、その上に、パッシベーション膜145のSiNがあり、その上にSiOとSiNが交互に積層され、最上層がSiNである構造となっている。なお、これに代えて、上部DBR150は、例えばα−Si/SiO又はα−Si/Alのペア層から形成されることもできる。ここで、上部DBRミラー150および下部DBRミラー102のペア層の層数は、材料の屈折率に応じて適切な反射率が得られる層数に設定される。
【0059】
型コンタクト層104は、メサポスト130の下部から半径方向外側に延びており、そのメサポスト130の基部の周囲の表面上には、例えばAuGeNi/Au(下層がAuGeNi、上層がAu)からなる半円環状のn側電極131が形成されている。n側電極131は、例えば外径が90μm、内径が50μmである。
【0060】
n側電極131上には、パッシベーション膜145に形成された開口(図示せず)を介してn側電極131に接触する、Auからなるn側引出し電極(図示せず)が形成されている。一方、p側円環状電極121上にも、パッシベーション膜145に形成された開口(図示せず)を介してp側円環状電極121に接触する、Auからなるp側引出し電極(図示せず)が形成されている。さらに、n側引出し電極及びp側引出し電極は、n側電極131及びp側円環状電極121を、外部に設けた電流供給回路(図示せず)にそれぞれ接続している。
【0061】
上記構成の面発光レーザ100では、電流供給回路(図示せず)からそれぞれn側引出し電極(図示せず)及びp側引出し電極(図示せず)を介して、n側電極131及びp側円環状電極121間に電圧を印加し、駆動電流が注入される。注入された駆動電流は、主に低抵抗のp型コンタクト層115とp型電流経路層113とを流れ、さらに電流経路が電流狭窄層110によって電流注入部110b内に狭窄されて、高い電流密度で活性層106に供給される。この電流注入により、活性層106は自然放出光を発光する。自然放出光のうち、レーザ発振波長である波長λの光は、下部DBRミラー102と上部DBRミラー150との間の共振器120内で定在波を形成し、活性層106によって増幅される。注入電流がしきい値を越えると、定在波を形成する光がレーザ発振し、p側円環状電極121の開口125から上方に向って、1300nm帯のレーザ光が出力する。
【0062】
本実施の形態では活性層106を構成する井戸層/障壁層の組み合わせはGaInNAs(Sb)/GaAsとしたが、GaInNAs(Sb)井戸層とGaNAs(Sb)、あるいは、波長に応じて(基板やその他の層構成はこれらの井戸層と障壁層の組み合わせに応じて適宜選択される)、940〜1200nm帯レーザの場合はInGaAs/GaAsやInGaAs/GaAsP、850nm帯のレーザの場合GaAs/AlGaAsなど(井戸層と障壁層の組み合わせについてはこれらに限られない)を選択することもできる。量子井戸層及びバリア層は、発振させたい所望の波長に合わせてその量子井戸幅などを任意に設計作成することができる。
【0063】
本実施の形態によれば、反応性を有する電極材料であるPtと、この電極材料と反応し得る半導体層115との間に十分な厚みのバリア層(Ti層122)の存在が保証されるので、上記構成の面発光レーザ100では、p側円環状電極121の電流が集中しがちなp側円環状電極121と誘電体層141との境界149近傍におけるp側円環状電極121のTi層122の厚み不足を防止することによって、p側円環状電極121のPt層123とその下層のp型コンタクト層115との間の反応を防止または抑制し、p型コンタクト層115に不均一な歪みが発生することを防止または抑制できる。このため、エレクトロ・マイグレーションの発生の有無に拘わらず、レーザ駆動電流の集中部分における歪や応力の発生を防止または抑制し、面発光レーザ100の製造時の歩留まりを改善し、さらに長時間の運用での信頼性を向上している。特に、本実施の形態のイントラキャビティ構造ではメサポスト130の上部DBRミラー150と基板側積層構造との間の応力歪のかかりやすい上部DBRミラー150の基部においてPtの進入による欠陥が生じないので非常に有効である。また、p側円環状電極121の開口側端部126が、位相調整層を成す誘電体層141の外縁部148を覆うことで、p側円環状電極121と誘電体層141との間の隙間からエッチング液などが侵入することを防止している。
【0064】
以下、上記実施形態の面発光レーザ100の製造方法について、図2〜図4を参照して説明する。
【0065】
まず、エピタキシャル成長法によって、図2に示すように、基板101上に、下部DBRミラー102、バッファ層103、n型コンタクト層104、n型スペーサ層105活性層106、下部傾斜組成層109、AlAs層110’、上部傾斜組成層111、p型スペーサ層112、p型電流経路層113、p型スペーサ層114、及びp型コンタクト層115を順次に積層する。次いで、CVD法及びフォトリソグラフィー法を用い、p型コンタクト層115の一部領域に、SiNからなる円板状の誘電体層141を選択的に形成する。
【0066】
つぎに、リフトオフ法を用いて、p型コンタクト層115上に、p側円環状電極121を選択的に形成する。具体的には、図3に示すように、誘電体層141の外縁部148を幅約250nm除いた内側の領域上と、p型コンタクト層115上の誘電体層141の周囲の一定の幅の領域を除いた領域とに、フォトレジスト128を選択的に形成し、p側円環電極121の形状の空隙128aを形成する。次いで、全面にTiを50nm、続いてPtを200nmの厚みで蒸着し、Pt/Ti層121aを形成し、フォトレジスト128を除去することで、フォトレジスト膜128上のPt/Ti層121aを除去し、残された空隙128a部分のPt/Ti層121aをp側円環状電極121として形成する。この工程により、誘電体層141の外縁部148を覆う開口側端部126を有するp側円環状電極121が形成される。
【0067】
つぎに、p側円環状電極121を金属マスクとして、酸エッチング液等を用いてn型コンタクト層104に到る深さまでの半導体積層をエッチングして、円柱状のメサポスト130を形成する。次いで、別のマスクを形成し、バッファ層103に到る深さまでn型コンタクト層104をエッチングする。その結果、図4に示す形状のメサポスト130が得られる。これらエッチング工程においては、p側円環状電極121の開口側端部126が誘電体層141の外縁部148を覆っているので、p側円環状電極121と誘電体層141との間に酸エッチング液が進入するおそれが除かれ、酸エッチング液がp側円環状電極121の下層側のp型コンタクト層115を侵食することはない。また、メサポスト130をp側円環状電極121と自己整合的に形成しているので、メサポスト130が寸法精度高く形成できる。
【0068】
次に、水蒸気雰囲気中において約400℃で約1時間の熱処理を行うと、AlAs層110’がメサポスト130の外周側から選択的に酸化されてAlを主成分とする酸化膜に変化し、電流狭窄部110aが形成される。化学反応は、AlAs層110’の外周側から均一に進行し、中心部にはAlAsからなる電流注入部110bが残される。選択酸化における処理時間などを調整し、電流注入部110bの直径を5〜7μmにする。この選択酸化により、メサポスト130の中心と、電流注入部110bの中心と、p側円環状電極121の開口125の中心とを、精度高く一致させることが出来る。
【0069】
上記選択酸化のための熱処理と、後述するパッシベーション膜145や上部DBR150の形成時の加熱と、レーザの駆動時の発熱等によって、図12に示すように、p側円環状電極121とp型コンタクト層115のGaAs層の界面に、p側円環状電極121(下層のTi層122、上層のPt層123)の構成要素(TiおよびPt)のうちの一つであるTiがp型コンタクト層115のGaAsに拡散して、あるいはTiとp型コンタクト層115のGaAsが相互拡散して、Tiとp型コンタクト層115のGaAsの構成成分(GaおよびAs)の少なくとも一つとTiとを含む厚さ10〜60nmの物質層151が形成される。
【0070】
物質層151の厚さdが10〜60nmの時にはTi層122がバリア層として機能しており、Ptがp型コンタクト層115のGaAs中に拡散しておらず、p型コンタクト層115に局所的な歪は生じないことがわかった。これに対して、p側円環状電極121とp型コンタクト層115のGaAs層の界面に形成される物質層151の厚さdが60nmを超えるような場合は、図14に示すように、p側円環状電極121の構成要素(TiおよびPt)のうちの一つであるPtがバリア層であるTi層122を局所的に突き抜けてしまったことを示しており、突き抜けた箇所では著しくp型コンタクト層115のGaAs層へのPtの侵入が生じて、突出部152を生じ、局所的な歪みを生じさせる。このように、p側円環状電極121の構成物質(TiおよびPt)の少なくとも一つと、p型コンタクト層115の構成成分(GaおよびAs)の少なくとも一つとを含む物質層の厚さが10〜60nmのときは、Ptがp型コンタクト層115のGaAs中に拡散しておらず、p型コンタクト層115に局所的な歪は生じないが、60nmを超える場合には、p型コンタクト層115にPtが著しく侵入して、局所的な歪みを生じさせている。
【0071】
さらに、本発明者達による層厚を変えた複数の実験から、20nm以上のTi含有層、特に、10nm以上のTi層122と10nm以上の物質層151の合わせて20nm以上のTi含有層が、p側円環状電極121の開口側端部126とp型コンタクト層115とが接触している領域にあれば開口側端部126下部のp型コンタクト層115で歪が発生するのを効果的に抑止できることがわかった。なお、新たな歪みを生じさせないために物質層151の厚さは60nm以下であると都合が良い。Ti層122の膜厚の上限値は電極設計に応じて当業者によって適宜選択されるが、200nm、さらに好適には50nm以下に設定される。
【0072】
その後、図1に示すように、メサポスト130の外周側のn型コンタクト層104の表面に、半円環状のn側電極131を形成する。次いで、CVD法により全面にパッシベーション膜145を形成した後、n側電極131及びp側円環状電極121上のパッシベーション膜145に開口(図示せず)を形成する。更に、これら開口(図示せず)を介して、n側電極131に接触するn側引出し電極(図示せず)と、p側円環状電極121に接触するp側引出し電極(図示せず)とを形成する。
【0073】
つぎに、CVD法を用いて誘電体から成る上部DBR150を形成した後に、基板101の裏面を研磨し、基板101の厚さを例えば150μmに調整する。その後、素子分離を行い、図1に示す面発光レーザ100が完成する。
【0074】
また、上記実施形態では、リフトオフ法を用いてp側円環状電極121を形成しているが、p側円環状電極121の形成方法については特に限定されない。また、p側円環状電極121の内側に形成する誘電体層141は、必ずしも位相調整層に限らず、他の目的で上部DBRの下方に挿入される誘電体層でもよい。
【0075】
更に、メサポスト130上の円環状電極は、p側円環状電極に限らず、n側円環状電極としてもよい。この場合には、本実施の形態の構成から、半導体積層のp側とn側とを入れ替える。さらに、本実施の形態では、p側円環状電極121の開口側端部126は、p型コンタクト層115上から誘電体膜141上に延在し、誘電体膜141の外縁部148を覆う構成をとっているが、n型電極においても直下の半導体層と反応性のある金属材料を用いた場合には同様にn型電極の端部を半導体層上から誘電体膜上に延在させ、誘電体膜の外縁部を覆う構成をとることが好ましい。
【0076】
(第1の変形例)
位相調整層となる誘電体層141を作製する際に、図6に示すように、メサポスト130の外縁部となる部分、すなわち、p型コンタクト層115の外側の端部116上にもSiNからなる誘電体層142を残し、図3に示すフォトレジスト128を形成する際には、この誘電体層142を露出するように形成することによって、形成されるp側円環状電極121の内側の開口側端部126がp型コンタクト層115上から誘電体膜141上に延在し、誘電体膜141の外縁部148上に乗り上げて誘電体膜141の外縁部148を覆い、外側端部127がp型コンタクト層115上から誘電体膜142上に延在し、誘電体膜142上に乗り上げて誘電体膜142を覆うように形成することができる。このようにして、p側円環状電極121の内側の開口側端部126および外側端部127のPt層123のPtがp型コンタクト層115のGaAsと接するのを防止でき、p型コンタクト層115に歪が発生するのを防止できる。メサポスト状構造を有する半導体レーザにおいては、発光部近傍のみでなく、メサポストの外周近傍の構造的欠陥も信頼性に影響を及ぼすために、メサポストの外周部においてもこの電極乗り上げ構造を設けるのは効果的である。特に、1μm帯以下の発振波長のレーザにおいてこの効果が顕著である。
【0077】
(第2〜第6の変形例)
以下の変形例では、誘電体層141の外縁部148とp側円環状電極121の開口側端部126との境界部構成について説明する。なお、図示しない部位の構成については上記実施の形態と同様の構成とすることが可能であるがそれに限られない。
【0078】
(第2の変形例)
図7は、p側円環状電極121の膜厚が誘電体層141の層厚よりも小さい場合の構成例を示す。この例では誘電体層141の外縁部148に、下層のTi層122と上層のPt層123とがp型コンタクト層115との界面からこの順に積層されたp側円環状電極121の開口側端部126がp型コンタクト層115上から誘電体膜141上に延在し、誘電体膜141の外縁部148上に乗り上げて誘電体膜141の外縁部148を覆っている。p側円環状電極121の内側の開口側端部126のPt層123のPtがp型コンタクト層115と接することを防止でき、p型コンタクト層115に歪が発生するのを防止できる。なお、下層のTi層122は、誘電体膜141の外縁部148上を150nm以上の幅aで覆っている。Ti層122の開口側端122bがPt層123の開口側端123bによって覆われ、Ti層122の開口側端122bが開口125に露出していない。従って、例えば、酸化狭窄層を作成する際の酸化工程等でTi層122が酸化されるのを防止または抑制することができ、抵抗値の増加やTi層122の構造変化を防止または抑制できる。
【0079】
(第3の変形例)
図8は、p側円環状電極121が、最下層のTi層122、その上のPt層123および最上層のAu層124の3層からなる構成の例を示す。この例では、誘電体層141の外縁部148に、Ti/Pt/Auの多層金属からなるp側円環状電極121の開口側端部126がp型コンタクト層115上から誘電体膜141上に延在し、誘電体膜141の外縁部148上に乗り上げて誘電体膜141の外縁部148を覆っている。p側円環状電極121の内側の開口側端部126のPt層123のPtおよびAu層124のAuがp型コンタクト層115と接することを防止でき、p型コンタクト層115に歪が発生するのを防止できる。なお、下層のTi層122は、誘電体膜141の外縁部148上を150nm以上の幅aで覆っている。Ti層122の開口側端122bがPt層123の開口側端123bおよびAu層124の開口側端124bによって覆われ、Ti層122の開口側端122bが開口125に露出していない。従って、例えば、酸化狭窄層を作成する際の酸化工程等でTi層122が酸化されるのを防止または抑制することができ、抵抗値の増加やTi層122の構造変化を防止または抑制できる。
【0080】
本変形例では、p型コンタクト層115は、p型コンタクト層115との界面から順にTi層122、Pt層123、Au層124の3層から構成されているが、材料はこれに限られず、Pt層123に代えて、Au、Ni、Pd、Geのいずれかからなる層を使用し、Au層124に代えて、Pt、Ni、Pd、、Ti、Geのいずれかからなる層を使用することもできる。また、層数も、たとえば、p型コンタクト層115との界面から順にTi、Pt、Au、Ptの4層などの複数層とすることもできる。
【0081】
(第4の変形例)
図9は、誘電体層141の外縁部148が傾斜した構成の例を示す。誘電体層141の外縁部148がテーパー状であり、誘電体層141の外縁部148の上面は、誘電体層141の外側から内側に向かうにつれてp型コンタクト層115から離間している。p側円環状電極121の開口側端部126がp型コンタクト層115上から誘電体膜141上に延在し、誘電体膜141の外縁部148上に乗り上げて誘電体膜141の外縁部148を覆っている。p側円環状電極121の内側の開口側端部126のPt層123のPtがp型コンタクト層115と接することを防止でき、p型コンタクト層115に歪が発生するのを防止できる。なお、p側円環状電極121の開口側端部126は、テーパー状の外縁部148上で終端している。また、下層のTi層122は、誘電体膜141の外縁部148上を150nm以上の幅aで覆っている。
【0082】
この変形例の構成によれば誘電体層141の外縁部148にp側円環状電極121の段差ができないために、p側円環状電極121の不連続が生じにくく、堆積時のバリア層(Ti層122)の厚みが比較的薄い、例えば20nmであっても誘電体層141の外縁部148では比較的均一で十分な厚みを確保することができる。また、この変形例は、誘電体層141の厚さが120nmを超える厚い場合に境界部での段差が生じることなく、特に都合がよい。
【0083】
誘電体層141の外縁部148をテーパー状にして誘電体層141を断面台形形状にし、さらに、p側円環状電極121の開口側端部126がテーパー状の外縁部148上で終端するようにすることによって、p側円環状電極121の開口側端部126の頂部の高さを抑えられるので、その上に形成される積層構造の平坦性を向上することができる。イントラキャビティ構造においては積層構造には上部DBRが用いられるので、この平坦化は開口部での均一な反射率をもたらし有利である。また、この形状を持つ層を用いることによって、実質的にレーザーの横方向の閉じ込めを電極を用いて形成した開口部よりも狭くすることができ、台形形状のスロープ角度等を適宜設計することにより所望のビーム径や発振モードを制御することができる。
【0084】
(第5の変形例)
図10は、誘電体層141がp側円環状電極121内に突出した構成の例を示す。誘電体層141の外縁部148が、p側円環状電極121の開口側端部126において、p側円環状電極121のTi層122の端部と、Pt層123の端部との間に介在している。この構造は、誘電体層141の周囲にp側円環状電極121の下側の層(Ti層122)を形成し、続いて誘電体層141の端部をなまし、さらに残りの金属層(Pt層123)を堆積させることによって形成される。この構造によっても、p型コンタクト層115の半導体層と反応し得るPtとp型コンタクト層115との間に十分な膜厚の誘電体層141あるいはTi層122が存在するため、p側円環状電極121の開口側端部126のPt層123のPtがp型コンタクト層115と接することを防止でき、p型コンタクト層115に歪が発生するのを防止できる。
【0085】
(第6の変形例)
図11は、誘電体層141の外縁部148をテーパ状に形成し、テーパ状のスロープの途中で下層のTi層122が終端し、さらに上層のPt層123がTi層122の端部を被覆し、かつ、スロープ上で終端するように形成した例を示す。誘電体層141の外縁部148がテーパー状であり、誘電体層141の外縁部148の上面は、誘電体層141の外側から内側に向かうにつれてp型コンタクト層115から離間している。p側円環状電極121の開口側端部126がp型コンタクト層115上から誘電体膜141上に延在し、誘電体膜141の外縁部148上に乗り上げて誘電体膜141の外縁部148を覆っている。p側円環状電極121の内側の開口側端部126のPt層123のPtがp型コンタクト層115と接することを防止でき、p型コンタクト層115に歪が発生するのを防止できる。なお、下層のTi層122は、誘電体膜141の外縁部148上を150nm以上の幅aで覆っている。
【0086】
p側円環状電極121の開口側端部126は、テーパー状の外縁部148上で終端している。Ti層122の開口側端122bがPt層123の開口側端123bによって覆われ、Ti層122の開口側端122bが開口125に露出していない。従って、例えば、酸化狭窄層を作成する際の酸化工程等でTi層122が酸化されるのを防止または抑制することができ、抵抗値の増加やTi層122の構造変化を防止または抑制できる。
【0087】
いずれの変形例においても、誘電体層141の外縁部148に所望のモード光の放出に顕著に影響しない程度までp側円環状電極121が乗り上げていれば、p側円環状電極121の開口側端部126のPt層123のPtがp型コンタクト層115と接することを防止でき、p型コンタクト層115に歪が発生するのを防止できるが、好ましくは誘電体層141の端から100nm乃至1μmの範囲までp側円環状電極121が乗り上げていると都合がよい。また、多層電極の全ての層が誘電体層141に乗り上げていることが最も好ましいが、電極層のバリア層(Ti層122)だけが所定量、乗り上げているように構成しても、p側円環状電極121と誘電体層141の境界部分において十分に均一なバリア層が得られるので、p側円環状電極121を構成する反応性の金属Ptがp型コンタクト層115と接することを防止でき、p型コンタクト層1に局所的な歪が発生するのを防止または抑制できる。
【0088】
(第2の実施の形態)
次に、図15を参照して、本発明の好ましい第2の実施の形態の半導体レーザ素子200を説明する。本実施形態の面発光レーザ200は、n側電極230、n型半導体基板201、下部半導体DBRミラー202、n型クラッド層203、量子井戸構造を有する活性層204、p型クラッド層205、上部半導体DBRミラー206、電流狭窄部207aと電流注入部207bとを有する酸化電流狭窄層207、p側円環状電極221、保護層240を備える。n型クラッド層203、活性層204およびp型クラッド層205により共振器210を構成している。上部半導体DBRミラー206の、活性層204に近い側の一層が、外周に位置する電流狭窄部207aと電流狭窄部207aの中央に位置する電流注入部207bとを有する電流狭窄層207となっている。
【0089】
基板201は、n−GaAsからなる。また、下部DBRミラー202は、それぞれの層の厚さがλ/4n(λは発振波長、nは屈折率)のn−Al0.9Ga0.1As/n−Al0.2 Ga0.8Asの35ペアからなる。n型クラッド層203は、n−Al0.4Ga0.6Asからなる。活性層204は、GaAs井戸層およびAl0.2Ga0.8Asバリア層からなる量子井戸構造である。p型クラッド層205は、p−Al0.4Ga0.6Asからなる。
【0090】
上部半導体DBRミラー206は、それぞれの層の厚さがλ/4n(λは発振波長、nは屈折率)のp−Al0.9Ga0.1As/p−Al0.2Ga0.8Asの25ペアからなる。上部半導体DBRミラー206の活性層204に近い側の一層が、Al0.9Ga0.1As層に代えて、AlAs層で形成され、周囲領域のAlAsが選択的に酸化され、Alからなる電流狭窄部207aとなっている。電流狭窄部207aの中心に位置する電流注入部207bはAlAsからなっている。
【0091】
上部半導体DBRミラー206の上面に円環状のp側円環状電極221が設けられている。p側円環状電極221は、例えば、Ti/Pt(下層のTi層と上層のPt層)からなる。基板201の下面のn側電極230は、例えば、AuGeNi/Au(上層のAuGeNi層と下層のAu層)からなる。p側円環状電極221の開口225内の上部半導体DBRミラー206の上面にSiNからなる誘電体の保護層240が設けられている。
【0092】
p側円環状電極221の開口側端部223が上部半導体DBRミラー206上から保護層240上に延在し、保護層240の外縁部242上に乗り上げて保護層240の外縁部242を覆っている。このように、保護層240がp側円環状電極221の開口側端部223と上部半導体DBRミラー206の半導体層との間に介在しているので、p側円環状電極221を構成するPt等の金属と上部半導体DBRミラー206半導体層が反応することを避けることができる。
【0093】
電流狭窄層を有する面発光レーザ素子は上部電極の開口部側端部の電流密度が大きいので端部における破損が避けられることにより、信頼性の向上の効果が大きい。共振器内または近傍に電極(コンタクト層)を持つ面発光レーザの場合は、位相調整層あるいはミラーの一部を保護層として兼用することができ、新たな保護層を設ける必要がないため特に都合が良い。
【0094】
上述してきた実施の形態では反応性および汎用性の観点から最も好ましい電極層の組み合わせとしてTi/Ptからなる電極を中心に説明を行ったが、半導体層との界面に配置される下地層(バリア層)の金属としてTiが最も都合が良いが、下地層(バリア層)としてTi、W、Mo、TiN、Ta、TaN、Crあるいはこの組み合わせからなる電極層を用い、また、この下地層金属と組み合わされその上層に配置される金属としてPtが最も都合が良いが、上層としてPt、Au、Ni、Pd、Geあるいはこれらの組み合わせから選択した複数の金属からなる電極層を用いることもできる。
【0095】
下地金属層は、半導体層と反応する金属を通過させない金属から選択されると特に都合が良い。
【0096】
下地金属層は、半導体層を構成する原子(特にAs)を通過させない金属から選択されると特に都合が良い。
【0097】
誘電体層は、電極金属あるいは半導体を構成する原子を通過させない材料から選択され選択されると特に都合が良い。また誘電体層は、電極金属あるいは半導体と反応しない材料から選択されると特に都合が良い。
【0098】
なお、上記の実施の形態では、面発光レーザ、特にイントラキャビティ型のレーザが最も好適として説明されたが、本発明の適用はレーザに限られるものではなく、光の通過する開口部を有する電極を持つ発光素子、例えば面発光LEDなどにも本発明を好適に適用することができる。
【0099】
次に、上記本発明の好ましい実施の形態の面発光型半導体レーザ素子100、200を複数用いた面発光レーザアレイの例を図16、17を参照して説明する。一例として、図16に示したように、面発光レーザアレイチップ700がCLCC(Ceramic Leaded chip carrier)と呼ばれる周知のフラットパッケージ710に実装されたものを用いている。図では煩雑さを避けるために、金属キャスター(電極)714と面発光レーザアレイチップ700との接続は省略してある。面発光レーザアレイチップ700は図17に示したように、中央部に設けられた複数の面発光型半導体レーザ素子100(200)からなる素子部702、及び周囲に設けられ、素子部702の複数の発光部と接続(図示せず)された複数の電極パッド706を有している。さらに、各電極パッド706はフラットパッケージ712の金属キャスター714と接続(図示せず)されている。各発光部は、フラットパッケージ712と接続された(図示しない)外部制御回路によって発光制御され、所定の波長のレーザ光を射出する。
【0100】
次に、上記本発明の好ましい実施の形態の面発光型半導体レーザ素子100、200を光学機器に適用した例について図面を参照して説明する。図18は、上記本発明の好ましい実施の形態の面発光型半導体レーザ素子100、200を発光素子のパッケージに適応したときの構成を示す概略縦断面図である。面発光レーザパッケージ300は、面発光型半導体レーザ素子100、200、基板304および電極306からなる面発光レーザモジュール、レンズ316、ハウジング310、光ファイバマウント312、光ファイバ314とからなる。電極306は、外部の制御回路(図示せず)に電気的に接続され、面発光レーザパッケージの発光が制御されている。面発光型半導体レーザ素子100、200から出射したレーザー光はレンズ316で集光され光ファイバ314に結合される。
【0101】
図19は、上記本発明の好ましい実施の形態の面発光型半導体レーザ素子100、200を光記憶媒体への書き込み/読み出し装置のピックアップに適応したときの構成を示す概略縦断面図である。ピックアップ350は、面発光型半導体レーザ素子100、200、基板354、電極356、駆動IC358、およびこれらの要素を封止する樹脂360からなる面発光レーザモジュールと、レンズ376、ハーフミラー370、回折格子374、光センサー380、光記憶媒体372とからなる。樹脂360の出射面は凸状に加工されレンズ362を構成している。電極3546は、外部の制御回路(図示せず)に電気的に接続され、レーザピックアップの発光が制御されている。面発光型半導体レーザ素子100、200から出射したレーザ光は、レンズ362で平行光とされ、ハーフミラー370で反射された後、レンズ376によって集光され光記憶媒体372の所定の箇所に集光される。また、光媒体で反射された光は光センサー380に入射される。ここでは、上記本発明の好ましい実施の形態の面発光型半導体レーザ素子100、200、あるいは面発光型半導体レーザ素子100、200を複数有する面発光レーザ素子アレイを通信用の発光素子パッケージ、あるいは光ディスク用ピックアップに適用した例を示したがこれに限られず、測量機器、レーザーポインター、光学マウス、あるいは、プリンタ、フォトレジストの走査露光用光源、レーザポンピング用光源や、加工用ファイバレーザの光源等の光学機器として用いることもできる。
【0102】
図20は、上記本発明の好ましい実施の形態の面発光型半導体レーザ素子100、200を適用した光送受信モジュールの概略構成図である。図20に示すように、光送受信モジュール400は、保持部材402、光導波路(光ファイバ)412と、保持部材402上で光導波路(光ファイバ)412の位置決め用のスペーサ410、光導波路(光ファイバ)412を介して光信号を送信する面発光型半導体レーザ素子100、200、あるいは面発光型半導体レーザ素子100、200を複数有する面発光レーザ素子アレイ及び光信号を受信する受光素子404、面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイの発光状態を制御する駆動回路406、受光素子404で受信された信号を増幅する増幅回路408とで構成されている。面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイは外部の制御部(図示せず)からの制御信号によって駆動回路406を介して発光制御され、受光素子404で受信された信号が増幅回路408を介して制御部へ送信される。煩雑さを避けるために、駆動回路406と面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイおよび増幅回路408と受光素子404のワイヤボンディングは省略している。
【0103】
図21〜図23は図20における面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイと、光導波路412との光結合部分の概略構成図であり、基板500、面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイ、光導波路412は図21〜図23で共通している。図21では、導波路412の端面が光軸に対してほぼ45度に傾斜するように加工されており、さらにこの傾斜面が反射面504として、反射膜のコーティング等による鏡面加工が施され、面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイから出射した光は、導波路412の下面から導波路に入射され、傾斜面504で反射されて光導波路412内を伝播する。図22では、面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイ上、光導波路412の端面側方に内部に反射面504の設けられたミラーアセンブリ506が設置されて、面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイから出射した光は、ミラーアセンブリ506の下面から入射され、反射面504で反射され、ミラーアセンブリ506から出射された光が光導波路412に結合されて光導波路412内を伝播する。ミラーアセンブリ506の入射面あるいは/および出射面にはマイクロレンズ(アレイ)が設けられてもよい。図23は、コネクタハウジング512内に光ファイバ412が配置され、さらに光ファイバ心線の曲部514の端部が面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイに対向するように配置され、面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイから出射した光が光ファイバ412に結合される。
【0104】
次に、上記本発明の好ましい実施の形態の面発光型半導体レーザ素子100、200、あるいは面発光型半導体レーザ素子100、200を複数有する面発光レーザ素子アレイを通信システムに適用した例を示す。図24には、面発光型半導体レーザ素子100、200あるいは面発光レーザ素子アレイを用いた波長多重伝送システムの構成例が示されている。図24の波長多重伝送システムはコンピュータ、ボードあるいはチップ602、通信制御回路(CPU,MPU、光―電気変換回路、電気―光変換回路、波長制御回路)604、面発光型半導体レーザ素子100、200を複数有する面発光レーザ素子アレイ606、受光素子集積部608、合波器610、分波器612、電気配線616、光ファイバ617、618、通信対象のネットワーク、PC、ボード、チップなど614からなる。図24の波長多重伝送システムでは、発振波長の異なる複数の面発光レーザ素子を配列して面発光レーザアレイ606を構成し、面発光レーザアレイ606の各面発光レーザ素子からの各発振光を合波器を通して1本の光ファイバに結合させるように構成されている。このような構成では、1本のファイバで、高スループットに大容量の信号伝送ができる。このように、本発明の好ましい実施の形態の面発光レーザアレイは、モードが安定しており、且つ、各発振波長が安定しているので、高い信頼性で高密度大容量の波長多重伝送が可能になる。なお、本実施形態では各面発光レーザアレイ606あるいは受光素子集積部608からの出力用光ファイバあるいは入力用光ファイバは合波器610あるいは分波器612を用いて1本の光ファイバに結合されているが、用途に応じては出力用光ファイバあるいは入力用光ファイバをそのまま通信対象のネットワーク、PC、ボード、チップなど614に接続して並列伝送システムとすることもできる。この場合、本発明の好ましい実施の形態の面発光レーザアレイは、モードが安定しており、且つ、各波長が安定しているので、複数の光源をもつ信頼性の高い並列伝送システムの構築が容易になる。
【0105】
以上、本発明の種々の典型的な実施の形態を説明してきたが、本発明はそれらの実施の形態に限定されない。従って、本発明の範囲は、次の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0106】
100 面発光型半導体レーザ素子
101 基板
102 下部DBRミラー
103 バッファ層
104 n型コンタクト層
105 n型スペーサ層
106 活性層
109 下部傾斜組成層
110 電流狭窄層
110a 電流狭窄部
110b 電流注入部
110’ AlAs層
111 上部傾斜組成層
112、114 p型スペーサ層
113 p型電流経路層
115 p型コンタクト層
116 外側端部
120 共振器
121 p側円環状電極
121a Pt/Ti層
122 Ti層
122b 開口側端
123 Pt層
123b 開口側端
124 Au層
124b 開口側端
125 開口
126 開口側端部
127 外側端部
128 フォトレジスト層
128a 空隙
130 メサポスト
131 n側電極
141、142 誘電体層
143 SiO
144 SiN
145 パッシベーション膜
148 外縁部
149 境界
150 上部DBRミラー
151 物質層(TiとGaAsの反応層)
152 突出部(PtとGaAsの反応突出領域)
200 面発光型半導体レーザ素子
201 基板
202 下部半導体DBRミラー
203 n型クラッド層
204 活性層
205 p型クラッド層
206 上部半導体DBRミラー
207 電流狭窄層
207a 電流狭窄部
207b 電流注入部
210 共振器
221 p側円環状電極
223 開口側端部
225 開口
230 n側電極
240 保護層
242 外縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層と、
前記活性層に電流を注入する第1の電極および第2の電極と、
前記活性層と前記第1の電極との間の半導体層と、
前記半導体層上に設けられ、前記活性層からの光が通る誘電体層と、を備える半導体発光素子であって、
前記第1の電極は前記半導体層上に設けられ、前記活性層からの光が通る開口を有し、前記半導体層と接触して設けられた第1の電極層と、前記第1の電極層上に設けられた第2の電極層とを備え、前記第1の電極層は前記第2の電極層よりも前記半導体層との反応性が小さく、
前記誘電体層は前記開口内に設けられ、前記第1の電極層の前記開口側の端部が、前記半導体層上から前記誘電体層上に延在している半導体発光素子。
【請求項2】
前記誘電体層は円板状であり、前記第1の電極は円環状である請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記誘電体層の端部がテーパー状であり、前記誘電体層の端部の上面は、前記誘電体層の外側から内側に向かうにつれて前記半導体層から離間している請求項1または2記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第1の電極層の前記開口側の端部が前記第2の電極層の前記開口側の端部によって覆われ、前記第1の電極層の前記開口側の端部が前記開口に露出していない請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記第1の電極層は、前記誘電体層上に100nm乃至1μm延在している請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記誘電体層の端部がテーパー状であり、前記誘電体層の端部の上面は、前記誘電体層の外側から内側に向かうにつれて前記半導体層から離間しており、前記第1の電極層の前記開口側の端部は前記テーパー状の前記誘電体層の端部上で終端している請求項1乃至5のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記第2の電極層の前記開口側の端部は前記テーパー状の前記誘電体層の端部上で終端し、前記第1の電極層の前記開口側の端部は前記第2の電極層の前記開口側の端部によって覆われ、前記第1の電極層の前記開口側の端部が前記開口に露出していない請求項6記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記第1の電極の外側の端部と、前記半導体層との間に設けられた第2の誘電体層をさらに備え、前記第1の電極の前記外側の端部が、前記半導体層上から前記第2の誘電体層上に延在している請求項1乃至7のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記第1の電極層は、Ti、W、Mo、Ta、Cr、TiNおよびTaNからなる群より選ばれる少なくとも1以上の物質からなる請求項1乃至8のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記第2の電極層は、Au、Pt、Ni、PdおよびGeからなる群より選ばれる少なくとも1以上の物質からなる請求項9記載の半導体発光素子。
【請求項11】
前記第1の電極層の膜厚は、10乃至200nmである請求項1乃至10のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項12】
前記第2の電極層上の第3の電極層をさらに備え、前記第3の電極層は、前記第2の電極層とは異なる物質からなり、前記第3の電極層は、Au、Pt、Ni、Pd、TiおよびGeからなる群より選ばれる少なくとも1以上の物質からなる請求項10記載の半導体発光素子。
【請求項13】
前記第1の電極層と前記半導体層との間には、前記第1の電極層の構成物質の少なくとも一つと前記半導体層の構成物質の少なくとも一つを含み、厚さが10nm以上、60nm以下の物質層が存在する請求項1乃至12のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項14】
活性層と、
前記活性層に電流を注入する第1の電極および第2の電極と、
前記活性層と前記第1の電極との間の半導体層と
前記半導体層上に設けられ、前記活性層からの光が通る誘電体層と、を備える発光素子であって、
前記第1の電極は、前記半導体層上に設けられ、前記活性層からの光が通る開口を有し、前記半導体層と接触して設けられた第1の電極層と、前記第1の電極層上に設けられた第2の電極層とを備え、前記第1の電極層は前記第2の電極層よりも前記半導体層との反応性が小さく、
前記誘電体層は前記開口内に設けられ、前記誘電体層の端部が、前記第1の電極の前記開口側の端部と前記第2の電極の前記開口側の端部との間に介在している半導体発光素子。
【請求項15】
前記第1の電極層と前記半導体層との間には、前記第1の電極層の構成物質の少なくとも一つと前記半導体層の構成物質の少なくとも一つを含み、厚さが10nm以上、60nm以下の物質層が存在する請求項14記載の半導体発光素子。
【請求項16】
前記発光素子は、面発光レーザである請求項1乃至15のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項17】
第1の反射鏡と、第2の反射鏡と、前記第1の反射鏡および前記第2の反射鏡との間に設けられた共振器とをさらに備え、前記共振器は少なくとも、前記活性層、前記半導体層前記誘電体層および電流経路制限層を有し、前記第1の電極および前記誘電体層上に、前記第1の反射鏡が設けられ、前記誘電体層は、前記共振器内の定在波の位相を調整するための位相調整層であり、前記電流経路制限層は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流の経路を制限し、前記電流が流れる第1の領域と前記電流の流れを制限する第2の領域とを有する請求項16記載の半導体発光素子。
【請求項18】
第1の反射鏡と、第2の反射鏡と、前記第1の反射鏡および前記第2の反射鏡との間に設けられた共振器と、電流経路制限層とをさらに備え、前記共振器は少なくとも前記活性層を有し、前記第1の反射鏡は半導体多層膜からなる反射鏡であり、前記半導体層は前記半導体多層膜であり、前記電流経路制限層は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流の経路を制限し、前記電流が流れる第1の領域と前記電流の流れを制限する第2の領域とを有する請求項16記載の半導体発光素子。
【請求項19】
前記発光素子は、面発光LEDである請求項1乃至15のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項20】
請求項1乃至19のいずれかに記載の半導体発光素子を複数備える半導体発光素子アレイ。
【請求項21】
請求項16乃至18のいずれかに記載の半導体発光素子を複数備えるレーザアレイ。
【請求項22】
請求項1乃至19のいずれかに記載の半導体発光素子を備える光学機器。
【請求項23】
請求項1乃至19のいずれかに記載の半導体発光素子を備える通信システム。
【請求項24】
基板上に活性層と半導体層とを形成する工程と、
前記半導体層上に選択的に誘電体層を形成する工程と、
前記半導体層上に選択的に電極を形成する工程であって、前記電極は、第1の電極層と、前記第1の電極層上に設けられた第2の電極層と、開口とを有し、前記第1の電極層は前記半導体層と接触して設けられ、前記第1の電極層は前記第2の電極層よりも前記半導体層との反応性が小さく、前記開口内に前記誘電体層が位置し、前記第1の電極層の前記開口側の端部が、前記半導体層上から前記誘電体層上に延在している前記電極を形成する工程と、
前記活性層に前記電極から流れるまたは前記活性層から前記電極に流れる電流の経路を制限する電流経路制限層であって前記電流が流れる領域と前記電流の流れを制限する酸化物領域とを有する前記電流経路制限層の前記酸化物領域を作成する酸化工程であって、前記酸化工程中の加熱によって、前記第1の電極層と前記半導体層との間に、前記第1の電極層の構成物質の少なくとも一つと前記半導体層の構成物質の少なくとも一つを含む物質層を形成する酸化工程と、を備える半導体発光素子の製造方法。
【請求項25】
少なくとも前記活性層と前記半導体層とを含む凸部を前記電極に対して自己整合的に前記基板上に形成する工程をさらに備え、前記電流経路制限層の前記酸化物領域は、前記凸部の側面からの酸化によって作成する請求項24記載の半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−183071(P2010−183071A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2399(P2010−2399)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】