説明

半導体装置及びその作製方法

【課題】酸化物半導体を用いたトランジスタにおいて、ノーマリーオフの特性を有し、かつ電気的特性の変動が小さく、信頼性の高い半導体装置を作製する。
【解決手段】基板に第1の熱処理を行い、次に基板上に下地絶縁層を形成し、次に下地絶縁層上に酸化物半導体層を形成し、第1の熱処理から酸化物半導体層の形成までを大気に暴露せずに行う。次に、酸化物半導体層を成膜した後、第2の熱処理を行う。下地絶縁層には、加熱により酸素を放出する絶縁層を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体装置及び半導体装置の作製方法に関する。
【0002】
なお、本明細書中において半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能し得る装置全般をいい、電気光学装置、半導体回路及び電子機器は全て半導体装置である。
【背景技術】
【0003】
絶縁表面を有する基板上に形成された半導体薄膜を用いてトランジスタを構成する技術が注目されている。該トランジスタは集積回路(IC)や画像表示装置(表示装置)のような電子デバイスに広く応用されている。トランジスタに適用可能な半導体薄膜の材料としてシリコン系半導体材料が広く知られているが、その他の材料として酸化物半導体が注目されている。
【0004】
例えば、トランジスタの活性層として、電子キャリア濃度が1018/cm未満であるインジウム(In)、ガリウム(Ga)、及び亜鉛(Zn)を含む非晶質酸化物を用いたトランジスタが開示されている(特許文献1参照。)。
【0005】
酸化物半導体を用いたトランジスタは、アモルファスシリコンを用いたトランジスタよりも動作が速く、多結晶シリコンを用いたトランジスタよりも製造が容易であるものの、電気的特性が変動しやすく信頼性が低いという問題点が知られている。例えば、バイアス−熱ストレス試験(BT試験)前後において、トランジスタのしきい値電圧は変動してしまう。なお、本明細書において、しきい値電圧とは、トランジスタを「オン状態」にするために必要なゲートの電圧をいう。そして、ゲート電圧とは、ソースの電位を基準としたゲートの電位との電位差をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−165528号公報
【特許文献2】特開2009−141002号公報
【特許文献3】特開2009−295997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化物半導体を用いたトランジスタのBT試験によるしきい値電圧の変動があると、酸化物半導体を用いたトランジスタの信頼性を著しく低下させる。そこで、本発明の一態様は、酸化物半導体を用いた半導体装置の信頼性を向上することを目的とする。
【0008】
また、酸化物半導体を用いたトランジスタはノーマリーオンの特性になりやすく、駆動回路内に適切に動作する論理回路を設けることが難しいという問題がある。そこで、本発明の一態様は、酸化物半導体を用いたトランジスタにおいて、ノーマリーオフの特性を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、基板を被覆する下地絶縁層と、下地絶縁層上に設けられた酸化物半導体層を有し、基板及び下地絶縁層の界面において水素濃度が1.1×1020atoms/cm以下の半導体装置である。
【0010】
なお、本発明において、単に「水素」という場合、水素原子を指す。例えば、「水素を含む」という場合、水素分子に限らず、ヒドロキシル基や水、炭化水素なども含まれる。
【0011】
本発明の一態様は、酸化物半導体を用いるトランジスタにおいて、下地絶縁層を介して基板から酸化物半導体層に拡散する水素の影響を小さくする半導体装置の作製方法である。
【0012】
酸化物半導体層と水素の結合に起因して電荷が生じる場合がある。一般に酸化物半導体に水素が結合すると、一部がドナーとなりキャリアである電子を生じる。この結果、トランジスタのしきい値電圧がマイナス方向にシフトしてしまう。本発明の一態様により、基板及び下地絶縁層から拡散する水素の影響が小さくなり、しきい値電圧がマイナス方向へシフトすることを低減できる。この傾向は、酸化物半導体層のバックチャネル側で顕著に起こる。
【0013】
本発明の一態様は、基板に第1の熱処理を行い、次に基板上に下地絶縁層を成膜し、次に下地絶縁層上に酸化物半導体層を成膜し、第1の熱処理から酸化物半導体層の成膜までを大気に暴露せずに行う半導体装置の作製方法である。
【0014】
ここで、第1の熱処理の温度は、基板に吸着または含有される水素を脱離させることが可能な温度で行う。具体的には、第1の熱処理の温度は、100℃以上基板歪み点未満、好ましくは300℃以上600℃以下とする。第1の熱処理は、極力水素を含まない雰囲気で行う。好ましくは1×10−4Pa以下の高真空中で行う。このようにすることで、基板表面に吸着する水素を効率よく低減できる。
【0015】
好ましくは、第1の熱処理から酸化物半導体層の成膜までを真空連続で行う。第1の熱処理から酸化物半導体層の成膜までを真空連続で行うことによって、大気暴露時に起こり得る基板表面の汚染及び水素の吸着を抑制できる。
【0016】
基板と下地絶縁層の界面に存在する水素を低減することで、後の工程における酸化物半導体層への水素の拡散を抑制することができる。この結果、トランジスタのしきい値電圧がマイナス方向へシフトすることを低減でき、かつ信頼性を高めることができる。
【0017】
なお、本明細書では、nチャネル型トランジスタにおいて、しきい値電圧の値がプラスであるトランジスタをノーマリオフのトランジスタと定義する。pチャネル型トランジスタにおいて、しきい値電圧の値がマイナスであるトランジスタをノーマリオフのトランジスタと定義する。また、nチャネル型トランジスタにおいて、しきい値電圧の値がマイナスであるトランジスタをノーマリオンのトランジスタと定義する。pチャネル型トランジスタにおいて、しきい値電圧の値がプラスであるトランジスタをノーマリオンのトランジスタと定義する。
【0018】
真空連続とは、処理と処理との間で真空(減圧状態、例えば10Pa以下、好ましくは1Pa以下)を破ることがないことをいう。
【0019】
下地絶縁層は、加熱により酸素を放出する絶縁層を用いる。また、下地絶縁層は、水素濃度が1.1×1020atoms/cm以下の絶縁層を用いる。
【0020】
「加熱により酸素を放出する」とは、TDS(Thermal Desorption Spectroscopy:昇温脱離ガス分光法)分析にて、酸素原子に換算しての酸素の放出量が1.0×1018atoms/cm以上、好ましくは3.0×1020atoms/cm以上であることをいう。
【0021】
上記構成において、加熱により酸素を放出する絶縁層は、酸素が過剰な酸化シリコン(SiO(X>2))であってもよい。酸素が過剰な酸化シリコン(SiO(X>2))とは、シリコン原子数の2倍より多い酸素原子を単位体積当たりに含むものである。単位体積当たりのシリコン原子数及び酸素原子数は、ラザフォード後方散乱法(RBS:Rutherford Backscattering Spectrometry)により測定した値である。
【0022】
下地絶縁層から酸化物半導体層に酸素が供給されることで、下地絶縁層及び酸化物半導体層における界面準位を低減できる。この結果、半導体装置の動作などに起因して生じうる電荷などが、上述の下地絶縁層及び酸化物半導体層における界面に捕獲されることを十分に抑制することができる。
【0023】
さらに、酸化物半導体層の酸素欠損に起因して電荷が生じる場合がある。一般に酸化物半導体層中の酸素欠損は、一部がドナーとなりキャリアである電子を生じる。この結果、トランジスタのしきい値電圧がマイナス方向にシフトしてしまう。この傾向はバックチャネル側に生じた酸素欠損において顕著である。なお、本明細書におけるバックチャネルとは、下地絶縁層側の酸化物半導体層の領域を指す。具体的には、酸化物半導体層における下地絶縁層に接する領域近傍をいう。下地絶縁層から酸化物半導体層に酸素が十分に供給されることにより、しきい値電圧がマイナス方向へシフトする要因である酸化物半導体層の酸素欠損を低減することができる。
【0024】
即ち、酸化物半導体層に酸素欠損が生じると、下地絶縁層と酸化物半導体層との界面における電荷の捕獲を抑制することが困難になるが、下地絶縁層に、加熱により酸素を放出する絶縁層を設けることで、酸化物半導体層及び下地絶縁層における界面準位、並びに酸化物半導体層の酸素欠損を低減し、酸化物半導体層と下地絶縁層との界面における電荷捕獲の影響を小さくすることができる。
【0025】
ここで、酸化物半導体層に下地絶縁層から酸素を十分に供給するためには、熱処理を長時間行うことまたは高温で熱処理を行うことが有効である。
【0026】
そこで、酸化物半導体層を成膜した後、第2の熱処理を行う。
【0027】
第2の熱処理の温度は、下地絶縁層から酸化物半導体層に酸素を供給する温度で行う。具体的には、150℃以上基板の歪み点未満、好ましくは250℃以上450℃以下とする。第2の熱処理によって、下地絶縁層から酸素が放出され、該酸素によって下地絶縁層及び酸化物半導体層における界面準位、並びに酸化物半導体層の酸素欠損を低減することができる。なお、第2の熱処理は、酸化物半導体層の成膜後であればどのタイミングで行ってもよい。また、複数回行ってもよい。
【0028】
なお、第2の熱処理を行うことにより、基板表面に存在する水素が下地絶縁層を介して酸化物半導体層まで拡散してしまう。また、第2の熱処理を長時間化または高温化することにより水素の拡散量が増大する傾向となる。このように、基板及び下地絶縁層において界面の水素濃度が高い場合、下地絶縁層及び酸化物半導体層における界面準位、並びに酸化物半導体層の酸素欠損を低減するために十分な量の酸素を供給する温度または時間で第2の熱処理を行うことが困難となる。そのため、下地絶縁層から酸化物半導体層へ、加熱により酸素の十分な供給を行うためには、基板及び下地絶縁層における界面の水素濃度を低減する必要がある。
【0029】
このように、本発明の一態様は、基板及び下地絶縁層の界面における水素濃度の低減、並びに下地絶縁層から酸化物半導体層へ十分な量の酸素を供給することに起因する。
【0030】
なお、加熱により酸素を放出する下地絶縁層は、酸化物半導体層に対して十分な厚みを有していることが好ましい。加熱により酸素を放出する下地絶縁層が酸化物半導体層に対して十分な厚みを有さない場合、酸化物半導体層への酸素供給が十分でなくなる場合があるためである。あるいは、下地絶縁層が酸化物半導体層に対して十分な厚みを有さない場合、基板表面からの水素の拡散の影響が大きくなってしまうためである。
【0031】
例えば、下地絶縁層は、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム及びこれらの積層で構成する。
【0032】
ここで、酸化窒化シリコンとは、その組成において、窒素よりも酸素の含有量が多いものを示し、例えば、酸素が50原子%以上70原子%以下、窒素が0.5原子%以上15原子%以下、珪素が25原子%以上35原子%以下、水素が0原子%以上10原子%以下の範囲で含まれるものをいう。また、窒化酸化シリコンとは、その組成において、酸素よりも窒素の含有量が多いものを示し、例えば、酸素が5原子%以上30原子%以下、窒素が20原子%以上55原子%以下、珪素が25原子%以上35原子%以下、水素が10原子%以上25原子%以下の範囲で含まれるものをいう。但し、上記範囲は、ラザフォード後方散乱法や、水素前方散乱法(HFS:Hydrogen Forward Scattering)を用いて測定した場合のものである。また、構成元素の含有比率は、その合計が100原子%を超えない値をとる。
【0033】
上述の通り、基板と下地絶縁層の界面に存在する水素の酸化物半導体層への拡散を抑制し、かつ下地絶縁層から供給される酸素で酸化物半導体層の酸素欠損を低減することにより、ノーマリーオフの特性を有し、かつ信頼性の高いトランジスタを作製することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一態様により、信頼性の高い酸化物半導体を用いたトランジスタが提供される。
【0035】
また、本発明の一態様により、酸化物半導体を用いたトランジスタにおいて、しきい値電圧の変動を抑制し、ノーマリーオフの特性を有し、かつゲート電圧の印加がないときのソース−ドレイン電流値を小さくすることができる。
【0036】
また、本発明の一態様により、半導体装置におけるトランジスタのゲート電圧が0Vのときのソース−ドレイン間のリーク電流が低減し、消費電力の小さい半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一態様である半導体装置の一例を示す上面図及び断面図。
【図2】本発明の一態様である半導体装置の一例を示す上面図及び断面図。
【図3】本発明の一態様である半導体装置の一例を示す上面図及び断面図。
【図4】本発明の一態様である半導体装置の作製工程の一例を示す断面図。
【図5】本発明の一態様である半導体装置の作製工程の一例を示す断面図。
【図6】本発明の一態様である半導体装置の作製工程の一例を示す断面図。
【図7】本発明の一態様である半導体装置の一形態を説明する図。
【図8】本発明の一態様である半導体装置の一形態を説明する図。
【図9】本発明の一態様である半導体装置の一形態を説明する図。
【図10】本発明の一態様である半導体装置の一形態を説明する図。
【図11】本発明の一態様である半導体装置としての電子機器を示す図。
【図12】本発明の一態様を用いて作製した半導体装置の電気特性について説明する図。
【図13】本発明の一態様を用いて作製した半導体装置の電気特性について説明する図。
【図14】本発明の一態様を用いて作製した半導体装置の電気特性について説明する図。
【図15】実施例で作製した試料を二次イオン質量分析した結果について説明する図。
【図16】実施例で作製した試料を二次イオン質量分析した結果について説明する図。
【図17】実施例で作製した試料を二次イオン質量分析した結果について説明する図。
【図18】実施例で作製した試料を二次イオン質量分析した結果について説明する図。
【図19】実施例で作製した試料の酸素の拡散について説明する図。
【図20】実施例で作製した試料の酸素の拡散を解析するための図。
【図21】実施例で作製した試料の酸素の拡散係数から活性化エネルギーを導出するために用いた図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、図面を用いて発明の構成を説明するにあたり、同じものを指す符号は異なる図面間でも共通して用いる。なお、同様のものを指す際にはハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0039】
なお、第1、第2として付される序数詞は便宜上用いるものであり、工程順または積層順を示すものではない。また、本明細書において発明を特定するための事項として固有の名称を示すものではない。
【0040】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様である半導体装置及び半導体装置の作製方法の一形態を、図1乃至図6を用いて説明する。
【0041】
図1には、本発明の一態様の半導体装置の例として、トップゲートトップコンタクト型であるトランジスタ151の上面図及び断面図を示す。ここで、図1(A)は上面図であり、図1(B)及び図1(C)はそれぞれ、図1(A)におけるA−B及びC−Dにおける断面図である。なお、図1(A)では、煩雑になることを避けるため、トランジスタ151の構成要素の一部(例えば、ゲート絶縁層112など)を省略している。
【0042】
図1に示すトランジスタ151は、基板100と、基板100上の下地絶縁層102と、下地絶縁層102上の酸化物半導体層106と、酸化物半導体層106上に設けられた一対のソース電極108a及びドレイン電極108bと、ソース電極108a及びドレイン電極108bを覆い、酸化物半導体層106と一部が接するゲート絶縁層112と、酸化物半導体層106上にゲート絶縁層112を介して設けられたゲート電極114とを含む。
【0043】
下地絶縁層102は、例えば、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン及び酸化アルミニウムの少なくともいずれかを単層、または積層で用いればよい。下地絶縁層102を窒化シリコン層と酸化シリコン層の積層構造とすると、基板などからトランジスタ151への水分の混入を防ぐことができる。なお、下地絶縁層102はトランジスタ151の下地層として機能する。なお、下地絶縁層102において、酸化物半導体層と接する層は、加熱により酸素を放出する絶縁層を用いることが好ましい。
【0044】
例えば、下地絶縁層102の材料には、シリコン原子数の2倍より多い酸素原子を単位体積当たりに含む酸化シリコン(SiO(X>2))を用いてもよい。
【0045】
このとき、基板及び下地絶縁層における界面の水素濃度が1.1×1020atoms/cm以下である。基板及び下地絶縁層における界面の水素濃度が1.1×1020atoms/cm以下であることによって、基板及び下地絶縁層における界面の水素が、酸化物半導体層まで拡散する影響を小さくできる。この結果、トランジスタのしきい値電圧のマイナス方向へのシフトを低減でき、かつ信頼性を高めることができる。
【0046】
酸化物半導体層106に用いる材料としては、四元系金属酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系の材料や、三元系金属酸化物であるIn−Ga−Zn−O系の材料、In−Sn−Zn−O系の材料、In−Al−Zn−O系の材料、Sn−Ga−Zn−O系の材料、Al−Ga−Zn−O系の材料、Sn−Al−Zn−O系の材料や、二元系金属酸化物であるIn−Zn−O系の材料、Sn−Zn−O系の材料、Al−Zn−O系の材料、Zn−Mg−O系の材料、Sn−Mg−O系の材料、In−Mg−O系の材料、In−Ga−O系の材料や、In−O系の材料、Sn−O系の材料、Zn−O系の材料などを用いてもよい。また、上記の材料に酸化シリコンを含ませてもよい。ここで、例えば、In−Ga−Zn−O系の材料とは、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)を有する酸化物層、という意味であり、その組成比は特に問わない。また、InとGaとZn以外の元素を含んでいてもよい。
【0047】
酸化物半導体層106としてIn−Zn−O系の材料を用いる場合、原子数比で、In/Zn=0.5以上50以下、好ましくはIn/Zn=1以上20以下、さらに好ましくはIn/Zn=1.5以上15以下とする。Znの原子数比を前述の範囲とすることで、トランジスタの電界効果移動度を向上させることができる。ここで、化合物の原子数比がIn:Zn:O=X:Y:Zのとき、Z>1.5X+Yとすると好ましい。
【0048】
また、酸化物半導体層106は、化学式InMO(ZnO)(m>0)で表記される材料を用いた薄膜により形成する。ここで、Mは、Ga、Al、Mn及びCoから選ばれた一または複数の金属元素を示す。例えば、Mとして、Ga、Ga及びAl、Ga及びMnまたはGa及びCoなどを用いてもよい。
【0049】
また、酸化物半導体層106中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の濃度は2×1016atoms/cm以下、あるいは1×1018atoms/cm以下であることが好ましい。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、酸化物半導体と結合すると一部がキャリアを生成し、しきい値電圧をマイナス方向にシフトさせる原因となる。
【0050】
さらに、酸化物半導体層と下地絶縁層とが接することで、下地絶縁層102及び酸化物半導体層106における界面準位、並びに酸化物半導体層106の酸素欠損を低減することができる。界面準位の低減により、BT試験後のしきい値電圧の変動を小さくすることができる。また、酸素欠損の低減により、しきい値電圧のマイナス方向へのシフト量が低減し、ノーマリーオフの特性が得られる。
【0051】
ソース電極108a及びドレイン電極108bに用いる導電層としては、例えば、Al、Cr、Cu、Ta、Ti、Mo、Wから選ばれた元素を含む金属層または上述した元素を成分とする金属窒化物層(窒化チタン層、窒化モリブデン層、窒化タングステン層)などを用いる。また、Al、Cuなどの金属層の下側及び上側の一方または双方にTi、Mo、Wなどの高融点金属層またはこれらの金属窒化物層(窒化チタン層、窒化モリブデン層、窒化タングステン層)を積層させた構成を用いてもよい。なお、本明細書において、ソース電極及びドレイン電極には特に区別はなく、トランジスタの動作における便宜的な呼び名である。
【0052】
また、ソース電極108a及びドレイン電極108bに用いる導電層は、導電性の金属酸化物としてもよい。導電性の金属酸化物としては、酸化インジウム(In等)、酸化スズ(SnO等)、酸化亜鉛(ZnO等)、酸化インジウム酸化スズ(In―SnO等、ITOと略記する)、酸化インジウム酸化亜鉛(In―ZnO等)またはこれらの金属酸化物材料に酸化シリコンを含ませたものを用いる。
【0053】
ここで、ソース電極108a及びドレイン電極108bと酸化物半導体層106の間にソース電極108a及びドレイン電極108bよりも高抵抗、かつ酸化物半導体層106よりも低抵抗な導電層を設けてもよい。該導電層は、ソース電極108a及びドレイン電極108bと酸化物半導体層106の接触抵抗を低減できる材料で形成する。または、導電層は酸化物半導体層からほとんど酸素を引き抜かない材料を用いる。該導電層を設けることで、酸化物半導体層106から酸素が引き抜かれることによる酸化物半導体層の低抵抗化を抑制し、かつソース電極108a及びドレイン電極108bの酸化物が形成されることによる接触抵抗の増大を抑制できる。あるいは、ソース電極108a及びドレイン電極108bとして、酸化物半導体層からほとんど酸素を引き抜かない材料を用いる場合、上述の導電層を省略しても構わない。
【0054】
ゲート絶縁層112は、下地絶縁層102と同様の構成としてもよく、加熱により酸素を放出する絶縁層であることが好ましい。このとき、トランジスタのゲート絶縁層として機能することを考慮して、イットリア安定化ジルコニア、酸化ハフニウムまたは酸化アルミニウムなどの比誘電率が高い材料を採用してもよい。また、ゲート耐圧や酸化物半導体との界面状態などを考慮し、酸化シリコン、酸化窒化シリコンまたは窒化シリコンに、イットリア安定化ジルコニア、酸化ハフニウムまたは酸化アルミニウムなどの比誘電率の高い材料を積層してもよい。
【0055】
ゲート電極114は、例えば、モリブデン、チタン、タンタル、タングステン、アルミニウム、銅、ネオジム、スカンジウムなどの金属材料、これらの窒化物、またはこれらを主成分とする合金材料を用いる。なお、ゲート電極114は、単層構造としてもよいし、積層構造としてもよい。
【0056】
トランジスタ151上には、さらに保護絶縁層及び配線が設けられていてもよい。保護絶縁層は、下地絶縁層102と同様の構成としてもよい。また、ソース電極108aやドレイン電極108bと配線とを電気的に接続させるために、下地絶縁層102、ゲート絶縁層112などには開口部が設けられていてもよい。また、酸化物半導体層106の下方に、さらに、第2のゲート電極を有していてもよい。なお、酸化物半導体層106は島状に加工されていることが好ましいが、島状に加工されていなくてもよい。
【0057】
図2には、トランジスタ151と異なる半導体装置の例として、トップゲートボトムコンタクト型であるトランジスタ152の上面図及び断面図を示す。ここで、図2(A)は上面図であり、図2(B)及び図2(C)はそれぞれ、図2(A)におけるA−B及びC−Dにおける断面図である。なお、図2(A)では、煩雑になることを避けるため、トランジスタ152の構成要素の一部(例えば、ゲート絶縁層112など)を省略している。
【0058】
図2に示すトランジスタ152は、基板100、下地絶縁層102、酸化物半導体層106、ソース電極108a、ドレイン電極108b、ゲート絶縁層112、ゲート電極114を含む点で、トランジスタ151と共通している。トランジスタ152とトランジスタ151との相違は、酸化物半導体層106と、ソース電極108aやドレイン電極108bが接続する位置である。即ち、トランジスタ152では、酸化物半導体層106の下部において、酸化物半導体層106と、ソース電極108a及びドレイン電極108bとが接している。その他の構成要素については、図1のトランジスタ151と同様である。
【0059】
図3には、トランジスタ151及びトランジスタ152と異なる半導体装置の例として、コプラナー構造のトップゲートトップコンタクト型であるトランジスタ153の上面図及び断面図を示す。ここで、図3(A)は上面図であり、図3(B)及び図3(C)はそれぞれ、図3(A)におけるA−B及びC−Dにおける断面図である。なお、図3(A)では、煩雑になることを避けるため、トランジスタ153の構成要素の一部(例えば、ゲート絶縁層112など)を省略している。
【0060】
図3に示すトランジスタ153は、下地絶縁層102、ゲート絶縁層112、ゲート電極114を含む点で、トランジスタ151及びトランジスタ152と共通している。トランジスタ153は、酸化物半導体層中の同一平面上にチャネル領域126、ソース領域122a及びドレイン領域122bを有し、ソース領域122a及びドレイン領域122bは、それぞれ層間絶縁層124に設けられたコンタクトホール130a及びコンタクトホール130bを介して配線116a及び配線116bと接続する点でトランジスタ151及びトランジスタ152との相違がある。
【0061】
トランジスタ153において、下地絶縁層102は、トランジスタ151と同様の構成としてもよい。酸化物半導体層106が形成された後、ゲート絶縁層112及びゲート電極114を形成する。ゲート電極114とゲート絶縁層112は同一のマスクを使用して加工することができる。あるいは、ゲート電極114を加工した後、ゲート電極114をマスクに用いてゲート絶縁層112を加工してもよい。なお、説明された構造とは異なるが、ゲート絶縁層112は、ゲート電極114の形成後に加工されていなくてもよい。即ち、ゲート絶縁層112が、下地絶縁層102、ソース領域122a、ドレイン領域122bおよびチャネル領域126上に設けられている構造としてもよい。
【0062】
次に、ゲート電極114をマスクに用い、酸化物半導体層に対して低抵抗化処理を行い、ソース領域122a及びドレイン領域122bを形成する。ゲート電極114下に位置する酸化物半導体層の領域はチャネル領域126となる。
【0063】
低抵抗化処理には、例えば、アルゴンプラズマ処理、アンモニアプラズマ処理または水素プラズマ処理などが挙げられる。
【0064】
以下、図4(A)乃至図4(E)を用いて、図1に示すトランジスタ151の作製工程の一例について説明する。
【0065】
まず、基板100に第1の熱処理を行う。第1の熱処理の温度は、基板に吸着または含有される水素を脱離させることが可能な温度で行う。具体的には、第1の熱処理の温度は、100℃以上基板歪み点未満、好ましくは300℃以上600℃以下とする。第1の熱処理の時間は、1分以上72時間以下である。第1の熱処理によって、基板表面に吸着する水素を含む分子などを低減できる。第1の熱処理は、水素を含まない雰囲気で行う。好ましくは1×10−4Pa以下の高真空中で行う。
【0066】
基板100の材質などに大きな制限はないが、少なくとも、後の熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有している必要がある。例えば、ガラス基板、セラミック基板、石英基板、サファイア基板などを、基板100として用いてもよい。また、シリコンや炭化シリコンなどの単結晶半導体基板、多結晶半導体基板、シリコンゲルマニウムなどの化合物半導体基板、SOI基板などを適用することも可能であり、これらの基板上に半導体素子が設けられたものを、基板100として用いてもよい。
【0067】
また、基板100として、可撓性基板を用いてもよい。可撓性基板上にトランジスタを設ける場合、可撓性基板上に直接的にトランジスタを作製してもよいし、他の基板にトランジスタを作製した後、これを剥離し、可撓性基板に転置してもよい。なお、トランジスタを剥離し、可撓性基板に転置するためには、上記他の基板とトランジスタとの間に剥離層を設けるとよい。
【0068】
次に、基板100上に下地絶縁層102を成膜する。
【0069】
下地絶縁層102の成膜方法は、例えば、プラズマCVD法やスパッタリング法などを用いる。加熱により酸素を放出する下地絶縁層の成膜にはスパッタリング法を用いることが好ましい。下地絶縁層102は、例えば、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン及び酸化アルミニウムの少なくともいずれかを単層、または積層で用いればよい。下地絶縁層102の合計の膜厚は、50nm以上、好ましくは200nm以上とする。下地絶縁層102を厚く設けることにより、下地絶縁層102の酸素放出量を増加させることができる。または、下地絶縁層102を厚く設けることにより、基板100と下地絶縁層102の界面からチャネル領域である酸化物半導体層までの物理的な距離が長くなるため、基板及び下地絶縁層における界面の吸着水素の拡散による影響を低減できる。
【0070】
スパッタリング法を用いて加熱により酸素を放出する絶縁層を成膜するには、成膜ガスとして、酸素または、酸素と希ガス(アルゴンなど)の混合ガスを用いる場合、希ガスに対して酸素の混合割合を高めるとよい。例えば、全ガス中の酸素の濃度を6%以上100%未満にするとよい。
【0071】
例えば、石英(好ましくは合成石英)をターゲットに用い、基板温度30℃以上450℃以下(好ましくは70℃以上200℃以下)、基板とターゲットの間の距離(T−S間距離)を20mm以上400mm以下(好ましくは40mm以上200mm以下)、圧力を0.1Pa以上4Pa以下(好ましくは0.2Pa以上1.2Pa以下)、高周波電源を0.5kW以上12kW以下(好ましくは1kW以上5kW以下)、成膜ガス中のO/(O+Ar)割合を1%以上100%以下(好ましくは6%以上100%以下)として、RFスパッタリング法により酸化シリコン層を成膜する。なお、石英(好ましくは合成石英)ターゲットに代えてシリコンターゲットを用いることもできる。なお、成膜ガスとしては、酸素または、酸素及びアルゴンの混合ガスを用いて行う。
【0072】
下地絶縁層102を積層構造とする場合、例えば、1層目として基板温度が450℃以上600℃以下の酸化シリコン膜を成膜し、2層目として基板温度が150℃以上350℃以下の酸化シリコン膜を成膜すると好ましい。1層目を450℃以上の高温下で成膜することにより、第1の熱処理で低減しきれなかった基板表面に吸着する水素を含む分子など、または第1の熱処理後に基板表面に吸着した水素を含む分子などを低減できる。また、2層目を150℃以上350℃以下で成膜することにより、加熱により酸素を放出する酸化シリコン膜とすることができる。1層目と2層目の酸化シリコン膜は真空連続で成膜する。
【0073】
次に、下地絶縁層102上に酸化物半導体層104を成膜する(図4(A)参照。)。
【0074】
なお、第1の熱処理から酸化物半導体層104の成膜までを大気暴露せずに行う。好ましくは、真空連続で行う。第1の熱処理から酸化物半導体層104の成膜までを大気暴露せずに行うことによって、基板表面の汚染及び水素を含む分子の吸着を抑制でき、その後の熱処理による酸化物半導体層への水素の拡散を低減できる。
【0075】
次に、第2の熱処理を行う。第2の熱処理の温度は、下地絶縁層から酸化物半導体層に酸素を供給する温度で行う。具体的には、150℃以上基板の歪み点未満、好ましくは250℃以上450℃以下とする。第2の熱処理によって、下地絶縁層102から酸素が放出され、下地絶縁層102及び酸化物半導体層104の界面準位、並びに酸化物半導体層104の酸素欠損を低減させることができる。なお、第2の熱処理は、酸化物半導体層104の成膜後であればどのタイミングで行ってもよい。また、複数回行ってもよい。第2の熱処理は、酸化性ガス雰囲気下、もしくは不活性ガス雰囲気下とする。処理時間は1分以上72時間以下とする。
【0076】
第2の熱処理によって、酸化物半導体層の酸素欠損が低減する。また、基板表面に存在する水素の拡散の影響を低減することができるため、作製するトランジスタはノーマリーオフの特性となる。
【0077】
熱処理装置は電気炉に限られず、加熱されたガスなどの媒体からの熱伝導または熱輻射によって、被処理物を加熱する装置を用いてもよい。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置などのRTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いる。LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は、高温のガスを用いて熱処理を行う装置である。ガスとしては、アルゴンなどの希ガスまたは窒素のような、熱処理によって被処理物と反応しない不活性ガスが用いられる。
【0078】
なお、不活性ガスとは、窒素または希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴンなど)を主成分とする雰囲気であって、水、水素などが含まれないことが好ましい。例えば、熱処理装置に導入する窒素や、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上(即ち、不純物濃度が1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とする。不活性ガス雰囲気とは、不活性ガスを主成分とする雰囲気で、反応性ガスが10ppm未満である雰囲気のことである。反応性ガスとは、半導体や金属などと反応するガスのことをいう。
【0079】
なお、酸化性ガスとは、酸素、オゾンまたは亜酸化窒素などであって、水、水素などが含まれないことが好ましい。例えば、熱処理装置に導入する酸素、オゾン、亜酸化窒素の純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上(即ち、不純物濃度が1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とする。酸化性ガス雰囲気には、酸化性ガスを不活性ガスと混合して用いてもよく、酸化性ガスが少なくとも10ppm以上含まれるものとする。
【0080】
酸化物半導体層は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、パルスレーザ堆積法、CVD法などを用いて成膜する。また、酸化物半導体層の厚さは、3nm以上50nm以下とすることが好ましい。酸化物半導体層を厚くしすぎると(例えば、厚さを100nm以上)、短チャネル効果の影響が大きくなり、サイズの小さなトランジスタでノーマリーオンの特性になるおそれがあるためである。
【0081】
本実施の形態では、酸化物半導体層104を、In−Ga−Zn−O系の酸化物ターゲットを用いたスパッタリング法により成膜する。
【0082】
In−Ga−Zn−O系の酸化物ターゲットとしては、例えば、組成比として、In:Ga:ZnO=1:1:1[mol数比]の酸化物ターゲットを用いる。なお、ターゲットの材料及び組成を上述したものに限定する必要はない。例えば、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比の酸化物ターゲットを用いることもできる。
【0083】
酸化物ターゲットの相対密度は、90%以上100%以下、好ましくは95%以上100%以下とする。相対密度の高い金属酸化物ターゲットを用いることにより、成膜した酸化物半導体層を緻密な層とすることができるためである。
【0084】
成膜は、希ガス(代表的にはアルゴン)雰囲気下、酸素雰囲気下または希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下などで行えばよい。また、酸化物半導体層への水素の混入を防ぐために、水素が十分に除去された高純度ガスを用いた雰囲気とすることが好ましい。
【0085】
酸化物半導体層に対して、酸素を含むプラズマ処理を行ってもよい。酸化物半導体層に酸素を含むプラズマ処理を行うことにより、酸化物半導体層中、酸化物半導体層界面近傍、または、酸化物半導体層中および該界面近傍に酸素を含有させることができる。この場合、酸素の含有量は、酸化物半導体層の化学量論比を超える程度、好ましくは、化学量論比の1倍を超えて2倍まで(1倍より大きく2倍未満)、とする。あるいは、酸素の含有量は、単結晶の場合の酸素の量をYとして、Yを超える程度、好ましくは、Yを超えて2Yまでとすることもできる。あるいは、酸素の含有量は、酸素ドープ処理を行わない場合の絶縁層中の酸素の量Zを基準として、Zを超える程度、好ましくは、Zを超えて2Zまでとすることもできる。なお、上述の好ましい範囲に上限が存在するのは、酸素の含有量を多くしすぎると、水素吸蔵合金(水素貯蔵合金)のように、かえって酸化物半導体層が水素を取り込んでしまう恐れがあるためである。なお、酸化物半導体膜において酸素の含有量は水素の含有量より大きくなる。
【0086】
例えば、酸化物半導体層104は、次のように成膜する。
【0087】
成膜条件の一例として、基板とターゲットの間との距離を60mm、圧力を0.4Pa、直流(DC)電源を0.5kW、成膜雰囲気をアルゴンと酸素の混合雰囲気(酸素流量比率33%)とする。なお、パルスDCスパッタリング法を用いると、成膜時に発生する粉状物質(パーティクル、ごみともいう)が軽減でき、厚さの分布も均一となるため好ましい。
【0088】
次に、酸化物半導体層104を加工して島状の酸化物半導体層106を形成する(図4(B)参照。)。
【0089】
酸化物半導体層104の加工は、所望の形状のマスクを酸化物半導体層上に形成した後、当該酸化物半導体層をエッチングすることによって行う。上述のマスクは、フォトリソグラフィなどの方法を用いて形成する。または、インクジェット法などの方法を用いてマスクを形成してもよい。
【0090】
なお、酸化物半導体層のエッチングは、ドライエッチングでもウェットエッチングでもよい。もちろん、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0091】
次いで、下地絶縁層102及び酸化物半導体層106上に、ソース電極及びドレイン電極(これと同じ層で形成される配線を含む)を形成するための導電層を成膜し、当該導電層を加工して、ソース電極108a及びドレイン電極108bを形成する(図4(C)参照。)。なお、ここで形成されるソース電極108aの端部とドレイン電極108bの端部との間隔によって、トランジスタのチャネル長Lが決定されることになる。
【0092】
導電層の加工は、レジストマスクを用いたエッチングによって行う。当該エッチングに用いるレジストマスク形成時の露光には、紫外線やKrFレーザ光やArFレーザ光などを用いるとよい。
【0093】
なお、チャネル長L=25nm未満となるように露光を行う場合には、例えば、数nm〜数十nmと極めて波長が短い超紫外線(Extreme Ultraviolet)を用いて、レジストマスク形成時の露光を行うとよい。超紫外線による露光は、解像度が高く焦点深度も大きい。したがって、後に作製されるトランジスタのチャネル長Lを短くできるため、回路の動作の高速化が可能となる。
【0094】
また、いわゆる多階調マスクによって形成されたレジストマスクを用いてエッチングを行ってもよい。多階調マスクを用いて形成されたレジストマスクは、複数の厚さを有する形状となり、アッシングによってさらに形状を変形させることができるため、異なるパターンに加工する複数のエッチング工程に用いることが可能である。このため、一枚の多階調マスクによって、少なくとも二種類以上の異なるパターンに対応するレジストマスクを形成することができる。つまり、工程の簡略化が可能となる。
【0095】
なお、導電層のエッチングの際に、酸化物半導体層106の一部がエッチングされ、溝部(凹部)を有する酸化物半導体層となることもある。
【0096】
その後、酸素、オゾン、亜酸化窒素などのガスを用いたプラズマ処理を行い、露出している酸化物半導体層106の表面を酸化し、酸素欠損を低減してもよい。プラズマ処理を行った場合、当該プラズマ処理に続けて大気に触れさせることなく、酸化物半導体層106の一部に接するゲート絶縁層112を成膜することが好ましい。
【0097】
次に、ソース電極108a及びドレイン電極108bを覆い、かつ、酸化物半導体層106の一部と接するように、ゲート絶縁層112を設ける(図4(D)参照。)。
【0098】
ゲート絶縁層112は、例えば、スパッタリング法またはプラズマCVD法などにより成膜する。ゲート絶縁層112の合計の膜厚は、好ましくは1nm以上300nm以下、より好ましくは5nm以上50nm以下とする。ゲート絶縁層が厚いほど短チャネル効果が顕著となり、しきい値電圧がマイナス方向にシフトしやすい傾向となる。また、ゲート絶縁層が5nm以下となるとトンネル電流によるリーク電流が増大することがわかっている。
【0099】
その後、ゲート電極114を形成する(図4(E)参照。)。ゲート電極114は、例えば、スパッタリング法、蒸着法または塗布法などでゲート電極114となる導電層を成膜し、該導電層の加工は、レジストマスクを用いたエッチングによって行う。
【0100】
以上の工程でトランジスタ151を作製することができる。
【0101】
次に、図5(A)乃至図5(E)を用いて、図2に示すトランジスタ152の作製工程の一例について説明する。
【0102】
まず、基板100に第1の熱処理を行う。
【0103】
次に、第1の熱処理後、大気暴露せずに基板100上に下地絶縁層102を成膜する(図5(A)参照。)。好ましくは、第1の熱処理と下地絶縁層102の成膜は、真空連続で行う。
【0104】
次に、下地絶縁層102上に、ソース電極及びドレイン電極(これと同じ層で形成される配線を含む)を形成するための導電層を成膜し、当該導電層を加工して、ソース電極108a及びドレイン電極108bを形成する(図5(B)参照。)。
【0105】
次に、下地絶縁層102、ソース電極108a及びドレイン電極108bの表面に吸着する水素を低減するために第1の熱処理と同様の熱処理を行う。その後、大気に暴露せずに酸化物半導体層104を成膜する(図5(C)参照。)。好ましくは、熱処理と酸化物半導体層104の成膜を真空連続で行う。
【0106】
次に、第2の熱処理を行う。
【0107】
次に、酸化物半導体層104を加工して、酸化物半導体層106を形成する。
【0108】
次に、酸化物半導体層106を覆い、かつ、ソース電極108a及びドレイン電極108bの一部と接するように、ゲート絶縁層112を設ける(図5(D)参照。)。
【0109】
その後、ゲート電極114を形成する(図5(E)参照。)。
【0110】
以上の工程でトランジスタ152を作製することができる。
【0111】
図6(A)乃至図6(E)を用いて、図3に示すトランジスタ153の作製工程の一例について説明する。
【0112】
まず、基板100に第1の熱処理を行う。
【0113】
次に、基板100上に下地絶縁層102を成膜する。
【0114】
次に、下地絶縁層102上に、酸化物半導体層104を成膜する(図6(A)参照。)。
【0115】
なお、第1の熱処理から酸化物半導体層104の成膜までを大気暴露せずに行う。好ましくは、真空連続で行う。
【0116】
次に、第2の熱処理を行う。
【0117】
次に、酸化物半導体層104を加工して島状の酸化物半導体層106を形成する(図6(B)参照。)。
【0118】
次に、絶縁層及び導電層を成膜し、フォトリソグラフィにより同様のパターンに加工して、ゲート絶縁層112及びゲート電極114を形成する(図6(C)参照。)。このとき、ゲート電極114を形成し、その後、ゲート電極114をマスクに用いて、ゲート絶縁層112を形成してもよい。なお、説明された構造とは異なるが、ゲート絶縁層112は、ゲート電極114の形成後に加工されなくてもよい。
【0119】
次に、ゲート電極114をマスクに酸化物半導体層106に対して低抵抗化処理を行い、導電性を有するソース領域122a及びドレイン領域122bを形成する。ゲート電極下の領域はチャネル領域126となる(図6(D)参照。)。このとき、ゲート電極の幅によってトランジスタのチャネル長Lが決定されることになる。このように、ゲート電極をマスクに用いてパターニングすることで、ゲート電極と、ソース領域及びドレイン領域との重なりが生じず、この領域における寄生容量が生じないため、トランジスタの動作を高速化することができる。
【0120】
次に、層間絶縁層124を成膜し、ソース領域122a及びドレイン領域122bと重畳する部分の層間絶縁層124に開口部を設ける。ソース領域及びドレイン領域と接続するように導電層を成膜し、当該導電層を加工して、配線116a及び配線116bを形成する(図6(E)参照。)。
【0121】
以上の工程でトランジスタ153を作製することができる。
【0122】
本実施の形態を適用することにより、酸化物半導体層へ拡散する水素を排除し、酸素を下地絶縁層及び酸化物半導体層における界面、並びに酸化物半導体層へ供給することができるため、ノーマリーオフの特性で、ゲート電圧の印加がないときに流れる電流値が小さく、かつ信頼性の高いトランジスタを提供することができる。
【0123】
以上、本実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態に示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いてもよい。
【0124】
(実施の形態2)
実施の形態1で例示したトランジスタを用いて表示機能を有する半導体装置(表示装置ともいう。)を作製することができる。また、トランジスタを含む駆動回路の一部または全体を、画素部と同じ基板上に一体形成し、システムオンパネルを作製することができる。
【0125】
図7(A)において、第1の基板201上に設けられた画素部202を囲むようにして、シール材205が設けられ、第2の基板206によって封止されている。図7(A)においては、第1の基板201上のシール材205によって囲まれている領域とは異なる領域に、別途用意された基板上に単結晶半導体層または多結晶半導体層で形成された走査線駆動回路204、信号線駆動回路203が実装されている。また別途設けられた信号線駆動回路203と、走査線駆動回路204または画素部202に与えられる各種信号及び電位は、FPC(Flexible printed circuit)であるFPC218a、FPC218bから供給されている。
【0126】
図7(B)及び図7(C)において、第1の基板201上に設けられた画素部202と、走査線駆動回路204とを囲むようにして、シール材205が設けられている。また画素部202と、走査線駆動回路204の上に第2の基板206が設けられている。よって画素部202と、走査線駆動回路204とは、第1の基板201とシール材205と第2の基板206とによって、表示素子と共に封止されている。図7(B)及び図7(C)においては、第1の基板201上のシール材205によって囲まれている領域とは異なる領域に、別途用意された基板上に単結晶半導体層または多結晶半導体層で形成された信号線駆動回路203が実装されている。図7(B)及び図7(C)においては、別途設けられた信号線駆動回路203と、走査線駆動回路204または画素部202に与えられる各種信号及び電位は、FPC218から供給されている。
【0127】
また図7(B)及び図7(C)においては、信号線駆動回路203を別途設け、第1の基板201に実装している例を示しているが、この構成に限定されない。走査線駆動回路を別途設けて実装してもよいし、信号線駆動回路の一部または走査線駆動回路の一部のみを別途設けて実装してもよい。
【0128】
なお、別途設けた駆動回路の接続方法は、特に限定されるものではなく、COG(Chip On Glass)法、ワイヤボンディング法、或いはTAB(Tape Automated Bonding)法などを用いてもよい。図7(A)は、COG法により信号線駆動回路203、走査線駆動回路204を実装する例であり、図7(B)は、COG法により信号線駆動回路203を実装する例であり、図7(C)は、TAB法により信号線駆動回路203を実装する例である。
【0129】
また、表示装置は、表示素子が封止された状態にあるパネルと、該パネルにコントローラを含むICなどを実装した状態にあるモジュールとを含む。
【0130】
なお、本明細書中における表示装置とは、画像表示デバイス、表示デバイス、もしくは光源(照明装置含む)を指す。また、コネクター、例えばFPCもしくはTABテープもしくはTCPが取り付けられたモジュール、TABテープやTCPの先にプリント配線板が設けられたモジュールまたは表示素子にCOG方式によりIC(集積回路)が直接実装されたモジュールも全て表示装置に含むものとする。
【0131】
また第1の基板201上に設けられた画素部及び走査線駆動回路は、トランジスタを複数有しており、実施の形態1で一例を示したトランジスタを適用することができる。
【0132】
表示装置に設けられる表示素子としては液晶素子(液晶表示素子ともいう。)、発光素子(発光表示素子ともいう。)、を用いることができる。発光素子は、電流または電圧によって輝度が制御される素子をその範疇に含んでおり、具体的には無機EL(Electro Luminescence)、有機ELなどを含む。また、電子インクなど、電気的作用によりコントラストが変化する表示媒体も適用することができる。
【0133】
半導体装置の一形態について、図8乃至図10を用いて説明する。図8乃至図10は、図7(B)のM−Nにおける断面図に相当する。
【0134】
図8乃至図10で示すように、半導体装置は接続端子電極215及び端子電極216を有しており、接続端子電極215及び端子電極216はFPC218が有する端子と異方性導電層219を介して、電気的に接続されている。
【0135】
接続端子電極215は、第1の電極230と同じ導電層から形成され、端子電極216は、トランジスタ210、トランジスタ211のソース電極及びドレイン電極と同じ導電層から形成されている。
【0136】
また第1の基板201上に設けられた画素部202と、走査線駆動回路204は、トランジスタを複数有しており、図8乃至図10では、画素部202に含まれるトランジスタ210と、走査線駆動回路204に含まれるトランジスタ211とを例示している。
【0137】
本実施の形態では、トランジスタ210、トランジスタ211として、実施の形態1で示したトランジスタを適用することができる。トランジスタ210、トランジスタ211は、電気的特性変動が抑制されており、電気的に安定である。よって、図8乃至図10で示す本実施の形態の半導体装置として信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0138】
画素部202に設けられたトランジスタ210は表示素子と電気的に接続し、表示パネルを構成する。表示素子は表示を行うことができれば特に限定されず、様々な表示素子を用いることができる。
【0139】
図8に表示素子として液晶素子を用いた液晶表示装置の例を示す。図8において、表示素子である液晶素子213は、第1の電極230、第2の電極231、及び液晶層208を含む。なお、液晶層208を挟持するように配向層として機能する絶縁層232、233が設けられている。第2の電極231は第2の基板206側に設けられ、第1の電極230と第2の電極231とは液晶層208を介して積層する構成となっている。
【0140】
また、スペーサ235は絶縁層を選択的にエッチングすることで得られる柱状のスペーサであり、液晶層208の厚さ(セルギャップ)を制御するために設けられている。なお球状のスペーサを用いていてもよい。
【0141】
表示素子として、液晶素子を用いる場合、サーモトロピック液晶、低分子液晶、高分子液晶、高分子分散型液晶、強誘電性液晶、反強誘電性液晶などを用いる。これらの液晶材料は、条件により、コレステリック相、スメクチック相、キュービック相、カイラルネマチック相、等方相などを示す。
【0142】
また、配向層が不要であるブルー相を示す液晶を用いてもよい。ブルー相は液晶相の一つであり、コレステリック液晶を昇温していくと、コレステリック相から等方相へ転移する直前に発現する相である。ブルー相は狭い温度範囲でしか発現しないため、温度範囲を改善するためにカイラル剤を混合させた液晶組成物を液晶層に用いる。ブルー相を示す液晶とカイラル剤とを含む液晶組成物は、応答速度が1msec以下と短く、光学的等方性であるため配向処理が不要であり、視野角依存性が小さい。また配向層を設けなくてもよいのでラビング処理も不要となるため、ラビング処理によって引き起こされる静電破壊を防止することができ、作製工程中の液晶表示装置の不良や破損を軽減することができる。よって液晶表示装置の生産性を向上させることが可能となる。
【0143】
また、液晶材料の固有抵抗率は、1×10Ω・cm以上であり、好ましくは1×1011Ω・cm以上であり、さらに好ましくは1×1012Ω・cm以上である。なお、本明細書における固有抵抗率の値は、20℃で測定した値とする。
【0144】
液晶表示装置に設けられる保持容量の大きさは、画素部に配置されるトランジスタのリーク電流などを考慮して、所定の期間の間電荷を保持できるように設定される。高純度の酸化物半導体層を有するトランジスタを用いることにより、各画素における液晶容量に対して1/3以下、好ましくは1/5以下の容量の大きさを有する保持容量を設ければ充分である。
【0145】
本実施の形態で用いる高純度化された酸化物半導体層を用いたトランジスタは、オフ状態における電流値(オフ電流値)を低くすることができる。よって、画像信号などの電気信号の保持時間を長くすることができ、電源オン状態では書き込み間隔も長く設定できる。よって、リフレッシュ動作の頻度を少なくできるため、消費電力を抑制する効果を奏する。
【0146】
また、本実施の形態で用いる高純度化された酸化物半導体層を用いたトランジスタは、比較的高い電界効果移動度が得られるため、高速駆動が可能である。よって、液晶表示装置の画素部に上記トランジスタを用いることで、高画質な画像を提供することができる。また、上記トランジスタは、同一基板上に駆動回路部または画素部に作り分けて作製することができるため、液晶表示装置の部品点数を削減することができる。
【0147】
液晶表示装置には、TN(Twisted Nematic)モード、IPS(In−Plane−Switching)モード、FFS(Fringe Field Switching)モード、ASM(Axially Symmetric aligned Micro−cell)モード、OCB(Optical Compensated Birefringence)モード、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)モード、AFLC(AntiFerroelectric Liquid Crystal)モードなどを用いる。
【0148】
また、ノーマリーブラック型の液晶表示装置、例えば垂直配向(VA)モードを採用した透過型の液晶表示装置としてもよい。ここで、垂直配向モードとは、液晶表示パネルの液晶分子の配列を制御する方式の一種であり、電圧が印加されていないときにパネル面に対して液晶分子が垂直方向を向く方式である。垂直配向モードとしては、いくつか挙げられるが、例えば、MVA(Multi−Domain Vertical Alignment)モード、PVA(Patterned Vertical Alignment)モード、ASVモードなどを用いる。また、画素(ピクセル)をいくつかの領域(サブピクセル)に分け、それぞれ別の方向に分子を倒すよう工夫されているマルチドメイン化あるいはマルチドメイン設計といわれる方法を用いる。
【0149】
また、表示装置において、ブラックマトリクス(遮光層)、偏光部材、位相差部材、反射防止部材などの光学部材(光学基板)などは適宜設ける。例えば、偏光基板及び位相差基板による円偏光を用いてもよい。また、光源としてバックライト、サイドライトなどを用いてもよい。
【0150】
また、バックライトとして複数の発光ダイオード(LED)を用いて、時間分割表示方式(フィールドシーケンシャル駆動方式)を行うことも可能である。フィールドシーケンシャル駆動方式を適用することで、カラーフィルタを用いることなく、カラー表示を行うことができる。
【0151】
また、画素部における表示方式は、プログレッシブ方式やインターレース方式などを用いる。また、カラー表示する際に画素で制御する色要素としては、RGB(Rは赤、Gは緑、Bは青を表す)の三色に限定されない。例えば、RGBW(Wは白を表す)、またはRGBに、イエロー、シアン、マゼンタなどを一色以上追加したものがある。なお、色要素のドット毎にその表示領域の大きさが異なっていてもよい。ただし、本発明はカラー表示の表示装置に限定されるものではなく、モノクロ表示の表示装置に適用することもできる。
【0152】
また、表示装置に含まれる表示素子として、エレクトロルミネッセンスを利用する発光素子を適用してもよい。エレクトロルミネッセンスを利用する発光素子は、発光材料が有機化合物であるか、無機化合物であるかによって区別され、一般的に、前者は有機EL素子、後者は無機EL素子と呼ばれている。
【0153】
有機EL素子は、発光素子に電圧を印加することにより、一対の電極から電子及び正孔がそれぞれ発光性の有機化合物を含む層に注入され、電流が流れる。そして、これらキャリア(電子及び正孔)が再結合することにより、発光する。このようなメカニズムから、このような発光素子は、電流励起型の発光素子と呼ばれる。
【0154】
無機EL素子は、その素子構成により、分散型無機EL素子と薄膜型無機EL素子とに分類される。分散型無機EL素子は、発光材料の粒子をバインダ中に分散させた発光層を有するものであり、発光メカニズムはドナー準位とアクセプター準位を利用するドナー−アクセプター再結合型発光である。薄膜型無機EL素子は、発光層を誘電体層で挟み込み、さらにそれを電極で挟んだ構造であり、発光メカニズムは金属イオンの内殻電子遷移を利用する局在型発光である。なお、ここでは、発光素子として有機EL素子を用いて説明する。
【0155】
発光素子は光を取り出すために少なくとも一対の電極の一方が透明であればよい。そして、基板上にトランジスタ及び発光素子を作製し、基板とは逆側の面から光を取り出す上面射出や、基板側の面から光を取り出す下面射出や、基板側及び基板とは反対側の面から光を取り出す両面射出構造の発光素子があり、どの射出構造の発光素子を適用してもよい。
【0156】
図9に表示素子として発光素子を用いた発光装置の例を示す。表示素子である発光素子243は、画素部202に設けられたトランジスタ210と電気的に接続している。なお発光素子243の構成は、第1の電極230、電界発光層241、第2の電極231の積層構造であるが、示した構成に限定されない。発光素子243から取り出す光の方向などに合わせて、発光素子243の構成は適宜変えてもよい。
【0157】
隔壁240は、有機絶縁材料、または無機絶縁材料を用いて形成する。特に感光性の樹脂材料を用い、第1の電極230上に開口部を設け、その開口部の側壁を連続した曲率を持つ傾斜面とすることが好ましい。
【0158】
電界発光層241は、単数の層で構成されていても、複数の層が積層されるように構成されていてもどちらでもよい。
【0159】
発光素子243に酸素、水素、水分、二酸化炭素などが侵入しないように、第2の電極231及び隔壁240上に保護層を設けてもよい。保護層としては、窒化シリコン層、窒化酸化シリコン層、DLC(Diamond Lile Carbon)層などが挙げられる。また、第1の基板201、第2の基板206、及びシール材205によって封止された空間には充填材244が設けられ密封されている。このように外気に曝されないように気密性が高く、脱ガスの少ない保護フィルム(貼り合わせフィルム、紫外線硬化樹脂フィルムなど)やカバー材でパッケージング(封入)することが好ましい。
【0160】
充填材244としては窒素やアルゴンなどの不活性ガスの他に、紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂を用いてもよい。例えば、PVC(ポリビニルクロライド)、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、PVB(ポリビニルブチラル)またはEVA(エチレンビニルアセテート)を用いる。
【0161】
また、必要であれば、発光素子の射出面に偏光板、または円偏光板(楕円偏光板を含む)、位相差板(λ/4板、λ/2板)、カラーフィルタなどの光学フィルムを適宜設けてもよい。また、偏光板または円偏光板に反射防止層を設けてもよい。例えば、表面の凹凸により反射光を拡散し、映り込みを低減できるアンチグレア処理を施してもよい。
【0162】
また、表示装置として、電子インクを駆動させる電子ペーパーを提供することも可能である。電子ペーパーは、電気泳動表示装置(電気泳動ディスプレイ)とも呼ばれており、紙と同じ読みやすさ、他の表示装置に比べ低消費電力、薄くて軽い形状とすることが可能という利点を有している。
【0163】
電気泳動表示装置は、様々な形態が考えられ得るが、プラスの電荷を有する第1の粒子と、マイナスの電荷を有する第2の粒子とを含むマイクロカプセルが溶媒または溶質に複数分散されたものであり、マイクロカプセルに電界を印加することによって、マイクロカプセル中の粒子を互いに反対方向に移動させて一方側に集合した粒子の色のみを表示するものである。なお、第1の粒子または第2の粒子は染料を含み、電界がない場合において移動しないものである。また、第1の粒子の色と第2の粒子の色は異なるもの(無色を含む)とする。
【0164】
このように、電気泳動表示装置は、誘電定数の高い物質が高い電界領域に移動する、いわゆる誘電泳動的効果を利用したディスプレイである。
【0165】
上記マイクロカプセルを溶媒中に分散させたものが電子インクと呼ばれるものであり、この電子インクはガラス、プラスチック、布、紙などの表面に印刷することができる。また、カラーフィルタや色素を有する粒子を用いることによってカラー表示も可能である。
【0166】
なお、マイクロカプセル中の第1の粒子及び第2の粒子は、導電体材料、絶縁体材料、半導体材料、磁性材料、液晶材料、強誘電性材料、エレクトロルミネセント材料、エレクトロクロミック材料、磁気泳動材料から選ばれた一種の材料またはこれらの複合材料を用いればよい。
【0167】
また、電子ペーパーとして、ツイストボール表示方式を用いる表示装置を適用してもよい。ツイストボール表示方式とは、白と黒に塗り分けられた球形粒子を表示素子に用いる電極である第1の電極及び第2の電極の間に配置し、第1の電極及び第2の電極に電位差を生じさせて球形粒子の向きを制御することにより、表示を行う方法である。
【0168】
図10に、半導体装置の一形態としてアクティブマトリクス型の電子ペーパーを示す。図10の電子ペーパーは、ツイストボール表示方式を用いた表示装置の例である。
【0169】
トランジスタ210と接続する第1の電極230と、第2の基板206に設けられた第2の電極231との間には、黒色領域255a及び白色領域255bを有し、周りに液体で満たされているキャビティ252を含む球形粒子253が設けられており、球形粒子253の周囲は樹脂などの充填材254で充填されている。第2の電極231が共通電極(対向電極)に相当する。第2の電極231は、共通電位線と電気的に接続される。
【0170】
なお、図8乃至図10において、第1の基板201、第2の基板206としては、ガラス基板の他、可撓性を有する基板も用いてもよく、例えば透光性を有するプラスチック基板などを用いる。プラスチックとしては、FRP(Fiberglass−Reinforced Plastics)板、PVF(ポリビニルフルオライド)フィルム、ポリエステルフィルムまたはアクリル樹脂フィルムを用いる。また、アルミニウムホイルをPVFフィルムやポリエステルフィルムで挟んだ構造のシートを用いてもよい。
【0171】
絶縁層221は、無機絶縁材料または有機絶縁材料を用いて形成する。なお、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などの、耐熱性を有する有機絶縁材料を用いると、平坦化絶縁層として好適である。また上記有機絶縁材料の他に、低誘電率材料(low−k材料)、シロキサン系樹脂、PSG(リンガラス)、BPSG(リンボロンガラス)などを用いる。なお、これらの材料で構成される絶縁層を複数積層し、絶縁層221としてもよい。
【0172】
絶縁層221の成膜法は、特に限定されず、その材料に応じて、スパッタリング法、スピンコート法、ディッピング法、スプレー塗布、液滴吐出法(インクジェット法、スクリーン印刷、オフセット印刷など)、ロールコーティング、カーテンコーティング、ナイフコーティングなどを用いる。
【0173】
表示装置は光源または表示素子からの光を透過させて表示を行う。よって光が透過する画素部に設けられる基板、絶縁層、導電層などの薄膜はすべて可視光の波長領域の光に対して透光性とする。
【0174】
表示素子に電圧を印加する第1の電極及び第2の電極(画素電極、共通電極、対向電極などともいう)においては、取り出す光の方向、電極が設けられる場所、及び電極のパターン構造によって透光性、反射性を選択すればよい。
【0175】
第1の電極230、第2の電極231には、酸化タングステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チタンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム錫酸化物(以下、ITOと示す。)、インジウム亜鉛酸化物、酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物などの透光性を有する導電性材料を用いる。
【0176】
また、第1の電極230、第2の電極231はタングステン(W)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)などの金属、またはその合金、もしくはその窒化物から一つ、または複数種を用いる。
【0177】
また、第1の電極230、第2の電極231として、導電性高分子(導電性ポリマーともいう)を含む導電性組成物を用いる。導電性高分子としては、いわゆるπ電子共役系導電性高分子を用いてもよい。例えば、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、またはアニリン、ピロールおよびチオフェンの2種以上からなる共重合体もしくはその誘導体などがあげられる。
【0178】
また、トランジスタは静電気などにより破壊されやすいため、駆動回路保護用の保護回路を設けることが好ましい。保護回路は、非線形素子を用いて構成することが好ましい。
【0179】
以上のように実施の形態1で例示したトランジスタを適用することで、消費電力が小さく、かつ信頼性の高い半導体装置を提供することができる。なお、実施の形態1で例示したトランジスタは上述の表示機能を有する半導体装置のみでなく、電源回路に搭載されるパワーデバイス、LSIなどの半導体集積回路、対象物の情報を読み取るイメージセンサ機能を有する半導体装置など様々な機能を有する半導体装置に適用することが可能である。
【0180】
以上、本実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態に示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いてもよい。
【0181】
(実施の形態3)
本発明の一態様である半導体装置は、さまざまな電子機器(遊技機も含む)に適用することができる。電子機器としては、例えば、テレビジョン装置(テレビまたはテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラなどのカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。上記実施の形態で説明した半導体装置を具備する電子機器の例について説明する。
【0182】
図11(A)は、ノート型のパーソナルコンピュータであり、本体301、筐体302、表示部303、キーボード304などによって構成されている。実施の形態1または2で示した半導体装置を適用することにより、信頼性の高いノート型のパーソナルコンピュータとすることができる。
【0183】
図11(B)は、携帯情報端末(PDA)であり、本体311には表示部313と、外部インターフェイス315と、操作ボタン314などが設けられている。また操作用の付属品としてスタイラス312がある。実施の形態1または2で示した半導体装置を適用することにより、より信頼性の高い携帯情報端末(PDA)とすることができる。
【0184】
図11(C)は、電子書籍の一例を示している。例えば、電子書籍320は、筐体321及び筐体322の2つの筐体で構成されている。筐体321及び筐体322は、軸部325により一体とされており、該軸部325を軸として開閉動作を行うことができる。このような構成により、紙の書籍のような動作を行うことが可能となる。
【0185】
筐体321には表示部323が組み込まれ、筐体322には表示部324が組み込まれている。表示部323及び表示部324は、続き画面を表示する構成としてもよいし、異なる画面を表示する構成としてもよい。異なる画面を表示する構成とすることで、例えば右側の表示部(図11(C)では表示部323)に文章を表示し、左側の表示部(図11(C)では表示部324)に画像を表示することができる。実施の形態1または2で示した半導体装置を適用することにより、信頼性の高い電子書籍320とすることができる。
【0186】
また、図11(C)では、筐体321に操作部などを備えた例を示している。例えば、筐体321において、電源326、操作キー327、スピーカー328などを備えている。操作キー327により、頁を送ることができる。なお、筐体の表示部と同一面にキーボードやポインティングデバイスなどを備える構成としてもよい。また、筐体の裏面や側面に、外部接続用端子(イヤホン端子、USB端子など)、記録媒体挿入部などを備える構成としてもよい。さらに、電子書籍320は、電子辞書としての機能を持たせた構成としてもよい。
【0187】
また、電子書籍320は、無線で情報を送受信できる構成としてもよい。無線により、電子書籍サーバから、所望の書籍データなどを購入し、ダウンロードする構成とすることも可能である。
【0188】
図11(D)は、携帯電話であり、筐体330及び筐体331の二つの筐体で構成されている。筐体331には、表示パネル332、スピーカー333、マイクロフォン334、ポインティングデバイス336、カメラ用レンズ337、外部接続端子338などを備えている。また、筐体330には、携帯型情報端末の充電を行う太陽電池セル340、外部メモリスロット341などを備えている。また、アンテナは筐体331内部に内蔵されている。実施の形態1または2で示した半導体装置を適用することにより、信頼性の高い携帯電話とすることができる。
【0189】
また、表示パネル332はタッチパネルを備えており、図11(D)には映像表示されている複数の操作キー335を点線で示している。なお、太陽電池セル340で出力される電圧を各回路に必要な電圧に昇圧するための昇圧回路も実装している。
【0190】
表示パネル332は、使用形態に応じて表示の方向が適宜変化する。また、表示パネル332と同一面上にカメラ用レンズ337を備えているため、テレビ電話が可能である。スピーカー333及びマイクロフォン334は音声通話に限らず、テレビ電話、録音、再生などが可能である。さらに、筐体330と筐体331は、スライドし、図11(D)のように展開している状態から重なり合った状態とすることができ、携帯に適した小型化が可能である。
【0191】
外部接続端子338はACアダプタ及びUSBケーブルなどの各種ケーブルと接続可能であり、充電及びパーソナルコンピュータなどとのデータ通信が可能である。また、外部メモリスロット341に記録媒体を挿入し、より大量のデータ保存及び移動に対応できる。
【0192】
また、上記機能に加えて、赤外線通信機能、テレビ受信機能などを備えたものであってもよい。
【0193】
図11(E)は、テレビジョン装置の一例を示している。テレビジョン装置360は、筐体361に表示部363が組み込まれている。表示部363により、映像を表示することが可能である。また、ここでは、スタンド365により筐体361を支持した構成を示している。実施の形態1または2で示した半導体装置を適用することにより、信頼性の高いテレビジョン装置360とすることができる。
【0194】
テレビジョン装置360の操作は、筐体361が備える操作スイッチや、別体のリモコン操作機により行うことができる。また、リモコン操作機に、当該リモコン操作機から出力する情報を表示する表示部を設ける構成としてもよい。
【0195】
なお、テレビジョン装置360は、受信機やモデムなどを備えた構成とする。受信機により一般のテレビ放送の受信を行うことができ、さらにモデムを介して有線または無線による通信ネットワークに接続することにより、一方向(送信者から受信者)または双方向(送信者と受信者間、あるいは受信者間同士など)の情報通信を行うことも可能である。
【0196】
以上、本実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態に示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いてもよい。
【実施例1】
【0197】
本実施例では、基板から下地絶縁層を介して酸化物半導体層へ拡散する水素について説明する。
【0198】
本実施例では、ガラス基板と、ガラス基板上の下地絶縁層と、下地絶縁層上の酸化物半導体層において二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)によって、水素濃度の深さ方向分析を行った。
【0199】
本実施例では、試料4乃至試料7における質量数が1の水素濃度の深さ方向分析を行った。
【0200】
試料4の作製方法を示す。
【0201】
まず、ガラス基板上に第1の酸化シリコン層を成膜した。第1の酸化シリコン層は、本明細書における下地絶縁層に該当する。なお、第1の酸化シリコン層の成膜条件は以下に示す通りである。
【0202】
・成膜法:RFスパッタリング法
・ターゲット:石英ターゲット
・成膜ガス:Ar(25sccm)、O(25sccm)
・電力:1.5kW(13.56MHz)
・圧力:0.4Pa
・T−S間距離:60mm
・成膜時基板温度:100℃
・厚さ:300nm
【0203】
次に、第1の酸化シリコン層上に酸化物半導体層を成膜した。
【0204】
酸化物半導体層の成膜条件を以下に示す。
【0205】
・成膜法:DCスパッタリング法
・ターゲット:In−Ga−Zn−O(In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比])ターゲット
・成膜ガス:Ar(30sccm)、O(15sccm)
・電力:0.5kW(DC)
・圧力:0.4Pa
・T−S間距離:60mm
・成膜時基板温度:200℃
・厚さ:100nm
【0206】
次に、酸化物半導体層上に第2の酸化シリコン層を成膜した。なお、第2の酸化シリコン層の成膜条件は以下に示す通りである。
【0207】
・成膜法:RFスパッタリング法
・ターゲット:石英ターゲット
・成膜ガス:Ar(25sccm)、O(25sccm)
・電力:1.5kW(13.56MHz)
・圧力:0.4Pa
・T−S間距離:60mm
・成膜時基板温度:100℃
・厚さ:100nm
【0208】
なお、第1の酸化シリコン層から第2の酸化シリコン層の成膜までを真空連続で行った。以上を以て試料4とした。
【0209】
続いて、試料5について説明する。各層の成膜方法については試料4を参酌する。
【0210】
まず、第1の酸化シリコン層を成膜する前のガラス基板に対し、第1の熱処理を行った。第1の熱処理は、1×10−5Paの真空中において、基板温度を400℃、時間を10分とした。
【0211】
次に、第1の熱処理後、第1の酸化シリコン層を成膜した。
【0212】
次に、第1の酸化シリコン層上に酸化物半導体層を成膜した。
【0213】
次に、酸化物半導体層上に第2の酸化シリコン層を成膜した。
【0214】
第1の熱処理から第2の酸化シリコン層の成膜までを真空連続で行った。以上を以て試料5とした。
【0215】
ここで、試料4、試料5に対し第2の熱処理を行い、それぞれ試料6、試料7とする。第2の熱処理は、温度を450℃、時間を1時間、窒素雰囲気中で行った。
【0216】
試料4乃至試料7における第1の熱処理及び第2の熱処理の有無について、表1に示す。
【0217】
【表1】

【0218】
試料4乃至試料7のSIMSの結果をそれぞれ図15乃至図18に示す。
【0219】
図15は試料4のSIMSの結果である。実線1001は質量数1の水素濃度を、実線1003は質量数30のシリコンの二次イオン強度を、実線1005は質量数16の酸素の二次イオン強度を示す。
【0220】
図16は試料5のSIMSの結果である。実線1101は質量数1の水素濃度を、実線1103は質量数30のシリコンの二次イオン強度を、実線1105は質量数16の酸素の二次イオン強度を示す。
【0221】
図17は試料6のSIMSの結果である。実線1201は質量数1の水素濃度を、実線1203は質量数30のシリコンの二次イオン強度を、実線1205は質量数16の酸素の二次イオン強度を示す。
【0222】
図18は試料7のSIMSの結果である。実線1301は質量数1の水素濃度を、実線1303は質量数30のシリコンの二次イオン強度を、実線1305は質量数16の酸素の二次イオン強度を示す。
【0223】
なお、範囲1011は、第2の酸化シリコン層を、範囲1012は酸化物半導体層を、範囲1013は第1の酸化シリコン層を、範囲1014はガラス基板を示す。ここで、酸化シリコンの標準サンプルを使用して定量化したため、質量数1の水素濃度の定量範囲は、範囲1011及び範囲1013である。
【0224】
試料4と試料5を比較すると、いずれの試料もガラス基板付近における第1の酸化シリコン層中に水素濃度のピークを有することがわかった。ピークにおける水素濃度は、試料4で3.7×1020atoms/cm、試料5で1.1×1020atoms/cmであった。
【0225】
試料4と試料6を比較すると、試料6では、第1の酸化シリコン層中である深さ500nmから深さ400nmの範囲に水素濃度の高い領域があることがわかる。これは、第2の熱処理により、水素が拡散することに起因する。
【0226】
同様に、試料5と試料7を比較すると、試料7では、第1の酸化シリコン層中である深さ500nmから深さ450nmの範囲に水素濃度の高い領域があることがわかる。
【0227】
試料6と比較して試料7は、前記第1の酸化シリコン層の水素の拡散量が少ないことがわかる。
【0228】
また、第1の酸化シリコン層を厚く成膜することでも、前記第1の酸化シリコン層の水素の拡散量を少なくする効果が得られることが示された。
【0229】
本実施例から、基板表面にある水素を第1の熱処理によって予め低減しておくことで、第2の熱処理による酸化物半導体層への水素の拡散の影響を低減できることがわかる。
【実施例2】
【0230】
本実施例では、図1に示す構造の、酸化物半導体層を有するトランジスタの作製方法と諸特性について説明する。本実施例では、試料1乃至試料3を作製し、それぞれの諸特性を測定した。
【0231】
基板として、ガラス基板を用いた。
【0232】
ガラス基板に対し、第1の熱処理を行った。第1の熱処理は、1×10−5Paの真空中において、基板温度を400℃、時間を10分として行った。
【0233】
その後、真空連続で、下地絶縁層及び酸化物半導体層を形成した。
【0234】
下地絶縁層の成膜条件を以下に示す。
【0235】
・成膜法:RFスパッタリング法
・ターゲット:石英ターゲット
・成膜ガス:Ar(25sccm)、O(25sccm)
・電力:1.5kW(13.56MHz)
・圧力:0.4Pa
・T−S間距離:60mm
・成膜時基板温度:100℃
・厚さ:300nm
【0236】
酸化物半導体層の成膜条件を以下に示す。
【0237】
・成膜法:DCスパッタリング法
・ターゲット:In−Ga−Zn−O(In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比])ターゲット
・成膜ガス:Ar(30sccm)、O(15sccm)
・電力:0.5kW(DC)
・圧力:0.4Pa
・T−S間距離:60mm
・成膜時基板温度:200℃
・厚さ:30nm
【0238】
次に、酸化物半導体層を加工し、島状の酸化物半導体層を形成した。
【0239】
次に、DCスパッタリング法を用いて、導電層であるタングステン層を100nmの厚さで成膜し、ソース電極及びドレイン電極の形状に加工した。
【0240】
次に、プラズマCVD法を用いて、ゲート絶縁層として酸化窒化シリコン層を15nmの厚さで成膜した。
【0241】
次に、DCスパッタリング法を用いて、導電層である窒化タンタル層及びタングステン層をそれぞれ15nm及び135nmの厚さで成膜し、加工してゲート電極を形成した。
【0242】
次に、第2の熱処理を行った。第2の熱処理は、窒素雰囲気において、温度を250℃、300℃または350℃とし、時間を1時間として行った。このとき、試料1の加熱温度を250℃とし、試料2の加熱温度を300℃とし、試料3の加熱温度を350℃とした。
【0243】
以上の工程により、本実施例のトランジスタを作製した。
【0244】
本実施例のトランジスタにおけるドレイン電流(Ids)−ゲート電圧(Vgs)測定結果について図12乃至図14に示す。測定は、基板面内で25点行っており、重ねて表示している。チャネル長Lは0.8μm及び3μmであり、チャネル幅Wは10μmである。なお、トランジスタのソース電極とドレイン電極の間の電圧Vdsは3Vとした。
【0245】
図12は試料1のIds−Vgs測定結果である。図12(A)及び図12(B)は、それぞれチャネル長Lが0.8μm及び3μmのトランジスタの測定結果を示す。図13は試料2のIds−Vgs測定結果である。図13(A)及び図13(B)は、それぞれチャネル長Lが0.8μm及び3μmのトランジスタの測定結果を示す。図14は試料3のIds−Vgs測定結果である。図14(A)及び図14(B)は、それぞれチャネル長Lが0.8μm及び3μmのトランジスタの測定結果を示す。
【0246】
図12乃至図14から導出した各トランジスタの諸特性を表2に示す。表2には、しきい値電圧及びVgs=0Vにおける電流値を示す。
【0247】
【表2】

【0248】
表2から、しきい値電圧は試料3>試料2>試料1となった。この傾向は、チャネル長Lが小さい方が顕著であった。
【0249】
また、表2から、Vgs=0Vにおける電流値は試料1>試料2>試料3となった。特に、試料3のチャネル長が3μmの結果では、電流値が1.0×10−13A以下の非常に小さい値となった。この傾向は、チャネル長Lが小さい方が顕著であった。
【0250】
このように、本実施例において、ノーマリーオフの特性及び非常に小さいVgs=0Vにおける電流値を有するトランジスタを得ることができた。
【実施例3】
【0251】
本実施例では、下地絶縁層から酸化物半導体層へ拡散する酸素について説明する。
【0252】
なお、酸化物半導体層への酸素の拡散を評価するために、下地絶縁層中に18Oを含有させている。18Oとは、酸素の安定同位体の一つであり、質量数が18の酸素のことである。18Oは天然にも0.2%程度存在する。本実施例では、特に断りのある場合のみ18Oを用いる。
【0253】
本実施例では、試料8乃至試料11の18Oの深さ方向分析をSIMSを用いて行った。
【0254】
各試料の作製方法を示す。
【0255】
まず、石英基板に下地絶縁層として酸化シリコン層を成膜した。酸化シリコン層の成膜条件を以下に示す。
【0256】
・成膜法:RFスパッタリング法
・ターゲット:石英ターゲット
・成膜ガス:Ar(25sccm)、O(25sccm)
・電力:1.5kW(13.56MHz)
・圧力:0.4Pa
・T−S間距離:60mm
・成膜時基板温度:100℃
・厚さ:300nm
ただし、成膜ガスである酸素には18Oを用いた。
【0257】
次に、酸化シリコン層上に酸化物半導体層を成膜した。
【0258】
酸化物半導体層の成膜条件を以下に示す。
【0259】
・成膜法:DCスパッタリング法
・ターゲット:In−Ga−Zn−O(In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比])ターゲット
・成膜ガス:Ar(30sccm)、O(15sccm)
・電力:0.5kW(DC)
・圧力:0.4Pa
・T−S間距離:60mm
・成膜時基板温度:200℃
・厚さ:100nm
【0260】
次に、熱処理を行う。熱処理の条件は、温度を450℃、550℃または650℃、時間を1時間、窒素雰囲気中とした。ここで、試料8は熱処理を行わないとし、試料9は加熱温度を450℃とし、試料10は加熱温度を550℃とし、試料11は加熱温度を650℃とした。
【0261】
図19に試料8乃至試料11の18Oの深さ方向分析の結果を示す。シンボル2001は試料8、シンボル2003は試料9、シンボル2005は試料10、シンボル2007は試料11を示す。また、範囲2011は酸化物半導体層、範囲2013は酸化シリコン層を示す。ここで、質量数が18の酸素の定量範囲は範囲2011である。なお、破線2015は18Oの、酸化物半導体層における定量下限を示す。
【0262】
試料8では18Oがほとんど酸化物半導体層へ拡散しないことがわかった。また、試料9、試料10、試料11と熱処理温度を上げるに伴い、18Oの酸化物半導体層への拡散距離が長くなることがわかった。
【0263】
ここで、18Oの拡散源である酸化シリコン層における18Oの表面濃度を一定、無限遠における18Oの濃度はゼロと仮定して拡散係数を見積もった。上記の仮定において、18Oの深さ方向の濃度分布は以下に示す数式1で表される。
【0264】
【数1】

ここで、Cは酸化物半導体層における18Oの表面濃度、xは表面からの距離(ここでは酸化シリコン層及び酸化物半導体層の界面から酸化物半導体層方向への距離)、Dは酸化物半導体層における18Oの拡散係数、tは時間である。
【0265】
数式1を用いてフィッティングを行った結果を図20に示す。シンボル2101は試料9、シンボル2103は試料10、シンボル2105は試料11の18Oの濃度分布を示す。また、実線2111は試料9、実線2113は試料10、実線2115は試料11のフィッティングカーブを示す。ここで、範囲2121は酸化物半導体層、範囲2123は酸化シリコン層を示す。ここで、18Oの定量範囲は範囲2121である。なお、破線2125は酸化シリコン層と酸化物半導体層の界面、破線2127は、酸化物半導体層の表面を示す。なお、試料8は、図19から拡散が確認できなかったためフィッティングを行っていない。
【0266】
図20のフィッティングの結果から試料9における18Oの拡散係数は1.2×10−17cm/秒、試料10における18Oの拡散係数は1.0×10−15cm/秒、試料11における18Oの拡散係数は1.0×10−14cm/秒であった。
【0267】
ここで、酸化物半導体層の温度Tにおける18Oの拡散係数Dは数式2のように表せる。
【0268】
【数2】

は頻度因子、Eは活性化エネルギー、kはボルツマン定数である。
【0269】
数式2の両辺の自然対数をとると、数式3になる。
【0270】
【数3】

つまり、Tの逆数に対してlnDをプロットした直線の傾きは−(E/k)、切片はlnDとなる。
【0271】
ここで、図20から得られた試料9乃至試料11におけるDの自然対数とTの逆数をプロットし、図21に示す。図21のプロットを近似すると、lnD=−7.4864、−(E/k)=−22624が得られた。つまり、D=5.607×10−4cm/秒である。また、kは1.3807×10−23J/Kであるから、E=3.124×10−19Jとなる。単位換算すると、E=1.95eVが得られる。
【0272】
本実施例によって、酸化シリコン層から酸化物半導体層への酸素の拡散が確認できた。
【0273】
また、熱処理温度が高いほど、酸化シリコン層から酸化物半導体層へ酸素が拡散し、酸化物半導体層及び酸化シリコン層の界面準位、並びに酸化物半導体層の酸素欠損の低減が実現できることがわかった。
【符号の説明】
【0274】
100 基板
102 下地絶縁層
104 酸化物半導体層
106 酸化物半導体層
108a ソース電極
108b ドレイン電極
112 ゲート絶縁層
114 ゲート電極
116a 配線
116b 配線
122a ソース領域
122b ドレイン領域
124 層間絶縁層
126 チャネル領域
130a コンタクトホール
130b コンタクトホール
151 トランジスタ
152 トランジスタ
153 トランジスタ
201 第1の基板
202 画素部
203 信号線駆動回路
204 走査線駆動回路
205 シール材
206 第2の基板
208 液晶層
210 トランジスタ
211 トランジスタ
213 液晶素子
215 接続端子電極
216 端子電極
218 FPC
218a FPC
218b FPC
219 異方性導電層
221 絶縁層
230 第1の電極
231 第2の電極
232 絶縁層
233 絶縁層
235 スペーサ
240 隔壁
241 電界発光層
243 発光素子
244 充填材
252 キャビティ
253 球形粒子
254 充填材
255a 黒色領域
255b 白色領域
301 本体
302 筐体
303 表示部
304 キーボード
311 本体
312 スタイラス
313 表示部
314 操作ボタン
315 外部インターフェイス
320 電子書籍
321 筐体
322 筐体
323 表示部
324 表示部
325 軸部
326 電源
327 操作キー
328 スピーカー
330 筐体
331 筐体
332 表示パネル
333 スピーカー
334 マイクロフォン
335 操作キー
336 ポインティングデバイス
337 カメラ用レンズ
338 外部接続端子
340 太陽電池セル
341 外部メモリスロット
360 テレビジョン装置
361 筐体
363 表示部
365 スタンド
1001 実線
1003 実線
1005 実線
1011 範囲
1012 範囲
1013 範囲
1014 範囲
1101 実線
1103 実線
1105 実線
1201 実線
1203 実線
1205 実線
1301 実線
1303 実線
1305 実線
2001 シンボル
2003 シンボル
2005 シンボル
2007 シンボル
2011 範囲
2013 範囲
2015 破線
2101 シンボル
2103 シンボル
2105 シンボル
2111 実線
2113 実線
2115 実線
2121 範囲
2123 範囲
2125 破線
2127 破線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた下地絶縁層と、
前記下地絶縁層上に設けられた酸化物半導体層とを有し、
前記基板及び前記下地絶縁層の界面における水素濃度が1.1×1020atoms/cm以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記下地絶縁層は、昇温脱離ガス分光法分析にて、酸素原子に換算しての酸素の放出量が1.0×1018atoms/cm以上であることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記下地絶縁層は、シリコン原子数の2倍より多い酸素原子を単位体積当たりに含む酸化シリコンであることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
基板に第1の熱処理を行い、
前記基板上に下地絶縁層を成膜し、
前記下地絶縁層上に酸化物半導体層を成膜し、
前記第1の熱処理から前記酸化物半導体層の形成まで大気に暴露せずに行うことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記第1の熱処理の温度が、100℃以上基板歪み点未満であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5において、
前記第1の熱処理から前記酸化物半導体層の成膜まで真空にて行うことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれか一において
前記下地絶縁層が、昇温脱離ガス分光法分析にて、酸素原子に換算しての酸素の放出量が1.0×1018atoms/cm以上であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7のいずれか一において、
前記下地絶縁層は、シリコン原子数の2倍より多い酸素原子を単位体積当たりに含む酸化シリコンであることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
請求項4乃至請求項8のいずれか一において、
前記酸化物半導体層を島状に加工し、
前記島状に加工された酸化物半導体層を被覆するゲート絶縁層を成膜し、
前記ゲート絶縁層の成膜からトランジスタの作製に至る間に、前記基板に第2の熱処理を一回以上行うことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記第2の熱処理の温度が、150℃以上基板の歪み点未満であることを特徴とする半導体装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−49516(P2012−49516A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159563(P2011−159563)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】