説明

反射電極、および反射電極を備えた表示デバイス

【課題】高い反射率および低い接触抵抗を有しており、しかも、ヒロックなどの欠陥を生じることのない耐熱性にも優れた反射電極を提供する。
【解決手段】基板1上に形成される表示デバイス用の反射電極2であって、前記反射電極は、0.05〜2原子%のNi及び/又はCo、並びに0.1〜2原子%のNdを含有する第1のAl−(Ni/Co)−Nd合金層2aとAlとO(酸素)を含有する第2のAl酸化物層2bと、を有している。上記Al酸化物層は透明画素電極3と直接接続しており、前記Al酸化物層中のO原子数とAl原子数との比である[O]/[Al]が、0.30以下であり、前記Al酸化物層の最も薄い部分の厚みが、10nm以下である。上記反射電極は、前記Al酸化物層と前記透明画素電極とが直接接続する領域において、前記透明画素電極と前記基板との間に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどに代表される表示デバイスに使用される反射電極、および上記反射電極を備えた表示デバイスに関するものである。以下では、液晶ディスプレイを代表例として挙げて説明するが、これに限定する趣旨ではない。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、液晶パネルの背後に設置された照明装置(バックライト)からの光を光源として用いる透過型表示デバイスと、周囲光を用いる反射型表示デバイスと、透過型と反射型の両タイプを兼ね備えた半透過型表示デバイスと、に大別される。
【0003】
このうち、透過型表示デバイスは、液晶パネルの後面から照射されたバックライトを液晶パネルやカラーフィルターに通過させて表示を行なうものであり、使用環境に左右されずに高コントラスト比の表示を行なうことができるという利点があり、テレビやパソコンモニタなどのような大型で輝度が必要な電子機器に汎用されている。しかし、バックライトの電力が必要になるため、携帯電話などの小型機器にはやや不向きである。
【0004】
一方、反射型表示デバイスは、自然光や人工光などを液晶パネル内で反射させ、その反射光を液晶パネルやカラーフィルターを通して表示を行なうものであり、バックライトを必要としないために消費電力が小さく、電卓や時計などを中心に汎用されている。しかし、反射型表示デバイスは、使用環境によって表示の明るさやコントラスト比が大きく左右され、特に、暗くなると見え難くなるという欠点がある。
【0005】
これに対し、半透過型表示デバイスは、昼間は反射電極を利用して消費電力を節約し、室内や夜間では必要に応じてライトを点灯して使用して表示を行なうなど、使用環境に応じて、透過モードによる表示デバイスと反射モードによる表示を行なうことができるため、周辺環境に制約されずに消費電力を節約でき、しかも明るい高コントラスト比の表示が得られるという利点がある。半透過型表示デバイスは、モバイル機器に最適に用いられ、特に、カラー化された携帯電話などに汎用されている。
【0006】
図1および図2を参照しながら、代表的な半透過型液晶表示装置の構成および動作原理を説明する。図1および図2は、後記する特許文献3に開示された図1および図2に対応する。
【0007】
図1に示すように、半透過型液晶表示装置11は、薄膜トランジスタ(Thin Film Transitor、以下、TFTと呼ぶ。)基板21と、TFT基板21に対向して配置された対向基板15と、TFT基板21と対向基板15との間に配置され、光変調層として機能する液晶層23とを備えている。対向基板15は、ブラックマトリックスを含むカラーフィルター17を含み、カラーフィルター17上には、透明な共通電極13が形成されている。一方、TFT基板21は、画素電極19、スイッチング素子T、および走査線や信号線を含む配線部を有している。配線部には、複数個のゲート配線5と複数個のデータ配線7とが互いに垂直に配列されており、ゲート配線5とデータ配線7とが交差する部分にはスイッチング素子のTFT(図中、T)がマトリックス状に配置されている。
【0008】
図2に詳しく示すように、画素電極19の画素領域Pは、透過領域Aと反射領域Cとから構成されており、透過領域Aは透明電極(画素電極)19aを、反射領域Cは透明電極19aと反射電極19bを備えている。透明電極19aと反射電極19bとの間には、Mo、Cr、Ti、Wなどの高融点金属からなるバリアメタル層51が形成されている(詳細は後述する。)。
【0009】
図1に示す半透過型液晶表示装置11について、図2を参照しながら、透過モードおよび反射モードの動作原理を説明する。
【0010】
まず、透過モードの動作原理を説明する。
透過モードでは、TFT基板21の下部に配置されたバックライト41の光Fを光源として使用する。バックライト41から出射した光は、透明電極19aおよび透過領域Aを介して液晶層23に入射し、透明電極19aと共通電極13との間に形成される電界によって液晶層23における液晶分子の配列方向が制御され、液晶層23を通過するバックライト41からの入射光Fが変調される。これにより、対向基板15を透過する光の透過量が制御されて画像が表示される。
【0011】
一方、反射モードでは、外部の自然光または人工光Bが光源として利用される。対向基板15に入射した光Bは、反射電極19bに反射され、反射電極19bと共通電極13との間に形成される電界によって液晶層23における液晶分子の配列方向が制御され、液晶層23を通過する光Bが変調される。これにより、対向基板15を透過する光の透過量が制御されて画像が表示される。
【0012】
画素電極19は、透明電極19aと反射電極19bとから構成されている。このうち、透明電極19aは、代表的には、酸化インジウム(In)中に酸化錫(SnO)を10質量%程度含む酸化インジウム錫(ITO)や、酸化インジウムに酸化亜鉛を10質量%程度含む酸化インジウム亜鉛(IZO)などの酸化物導電膜から形成されている。
【0013】
また、反射電極19bは、反射率の高い金属材料で構成されており、代表的には、純AlやAl−NdなどのAl合金(以下、これらをまとめてAl系合金と呼ぶ。)が用いられている。Alは、電気抵抗率も低いため、配線材料として極めて有用である。
【0014】
ここで、図2に示すように、反射電極19bを構成するAl系合金薄膜と、透明電極を構成するITOやIZOなどの酸化物導電膜との間にMoなどの高融点金属バリアメタル層51を形成する理由は、これらを直接接続して反射領域を形成すると、ガルバニック腐食などによって接触抵抗が上昇し、画面の表示品位が低下するからである。すなわち、Alは非常に酸化され易く、且つ、純Alと酸化物導電膜とは、アルカリ電解質液(現像液)中における電極電位の差が大きい(純Alの電極電位は−1.9Vであるのに対し、ITOの電極電位は−0.17Vである。)ため、Al系合金薄膜を酸化物導電膜に直接接続すると、液晶パネルの成膜過程で生じる酸素や成膜時に添加する酸素などにより、その界面にAl酸化物の絶縁層が生成し、上記の問題を招くと考えられる。
【0015】
例えば特許文献1〜特許文献3では、このような観点に基づき、Al系合金層と透明画素電極(ITOなど)との間にMoやCrなどのバリアメタル層を介在させており、これにより、接触抵抗値の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2004−144826号公報
【特許文献2】特開2005−91477号公報
【特許文献3】特開2005−196172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
反射電極を構成する配線材料に要求される特性としては、反射率が高いこと、および配線材料自体の電気抵抗率が低いことが挙げられる。しかしながら、MoやCrなどの高融点金属の反射率は、非常に低い。そのため、例えば反射領域が、透明画素電極とAl系合金層との界面の反射によって構成されている場合、反射モードによる表示を行なうためには、わざわざ、バリアメタル層を除去してAl系合金層をむき出しにする必要があった。
【0018】
更に、生産性や製造コストなどの観点から、バリアメタル層の形成を省略しても、接触抵抗値を低減することができる反射電極用配線材料の開発が切望されている。なぜなら、バリアメタル層を形成するためには、透明画素電極の形成に必要な成膜用スパッタ装置に加えて、バリアメタル形成用の成膜チャンバーを余分に装備しなければならないからである。液晶パネルの大量生産に伴って低コスト化が進むにつれて、バリアメタル層の形成に伴う製造コストの上昇や生産性の低下は軽視できなくなっている。
【0019】
また、バリアメタル層とAl系合金層との積層配線をウェットエッチング処理法でテーパー加工するためには、バリアメタル用およびAl系合金用のエッチャント(エッチング液)をそれぞれ用意しなければならず、更に、それぞれに適したエッチング用バスが必要になるなど、コストが上昇する。
【0020】
更に、反射電極を構成する配線材料には、最近の成膜温度の低温化に伴い、例えば、約100〜300℃程度の低い熱処理下で成膜を行なったとしても、熱処理後の上記特性に優れており(高い反射率、低い電気抵抗率、低い接触抵抗)、配線表面にヒロック(コブ状の突起物)が発生しない優れた耐熱性を有していることも要求される。表示デバイスを製造する際のプロセス温度は、歩留まりの改善や生産性などの観点から、益々低温化する傾向にあり、最近の成膜技術の向上により、例えば、250℃程度での成膜も可能になっているためである。
【0021】
しかしながら、これらの要求特性をすべて兼ね備えた、透明画素電極と直接接続し得る反射電極用配線材料は、未だ提供されていない。
【0022】
上記では、半透過型表示デバイスを例にして説明したが、前述した要求は、これに限定されず、反射モードで表示を行なう反射領域を備えた表示デバイス全般に要求されるものである。
【0023】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、その目的は、反射電極を構成する金属層(Al合金薄膜)が、バリアメタル層を介さずに、透明電極を構成する酸化物導電膜と直接接続された反射電極であって、例えば、約100℃以上300℃以下の低い熱処理を施しても、高い反射率および低い接触抵抗値を有しており、しかも、ヒロックなどの欠陥を生じることのない耐熱性にも優れた反射電極を提供すること、並びに当該反射電極を備えた表示デバイスおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決し得た本発明の反射電極は、基板上に形成される表示デバイス用の反射電極であって、前記反射電極は、0.05〜2原子%のNi及び/又はCo、並びに0.1〜2原子%のNdを含有する第1のAl−(Ni/Co)−Nd合金層と;AlとO(酸素)を含有する第2のAl酸化物層と、を有し、前記第2のAl酸化物層が、透明画素電極と直接接続しており、前記第2のAl酸化物層中のO原子数とAl原子数との比である[O]/[Al]が、0.30以下であり、前記第2のAl酸化物層の最も薄い部分の厚みが、10nm以下であり、前記反射電極が、前記第2のAl酸化物層と前記透明画素電極とが直接接続する領域において、前記透明画素電極と前記基板との間に形成されているところに要旨を有するものである。
【0025】
好ましい実施形態において、上記第1のAl−(Ni/Co)−Nd合金層は、更に0.1〜2原子%のGeおよび/またはCuを含有する。
【0026】
上述した透明画素電極は、酸化インジウム錫(ITO)および/または酸化インジウム亜鉛(IZO)であることが好ましい。
【0027】
本発明には、上記いずれかに記載の反射電極を備えた表示デバイスも包含される。
【発明の効果】
【0028】
本発明の反射電極は、透明画素電極との接触領域に、O(酸素)が少なく、且つ薄いAl酸化物層が存在するため、従来のようにバリアメタル層を介在させずに、上記反射電極を構成するAl酸化物層を、透明電極を構成する酸化物導電膜と直接接続しても、反射特性、接触抵抗、電気抵抗率、耐熱性などのすべての特性に優れている。具体的には、例えば、約100℃以上300℃以下の低い熱処理を施しても、高い反射率と低い接触抵抗を有しており、且つ、ヒロックなどの欠陥を生じることもない。そのため、本発明の反射電極を用いれば、生産性に優れ、安価で、且つ高性能の表示デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、代表的な半透過型液晶表示装置の構成を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、代表的な半透過型液晶表示装置の断面を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の反射電極を備えた表示デバイスの要部断面図である。
【図4】図4は、実施例2において、成膜直後における各種反射電極の反射率の推移を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例2において、200℃の真空加熱後における各種反射電極の反射率の推移を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例2において、220℃の真空加熱後における各種反射電極の反射率の推移を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例2において、250℃の真空加熱後における各種反射電極の反射率の推移を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例3の表3の試料No.27(本発明例、熱処理有り)の反射電極とITO膜との界面を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、実施例3の表3の試料No.2(比較例、熱処理無し)の反射電極とITO膜との界面を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、実施例6において、成膜直後における各種反射電極の反射率の推移を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例6において、200℃の真空加熱後における各種反射電極の反射率の推移を示すグラフである。
【図12】図12は、実施例6において、220℃の真空加熱後における各種反射電極の反射率の推移を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例6において、250℃の真空加熱後における各種反射電極の反射率の推移を示すグラフである。
【図14】図14は、実施例9において、成膜直後における反射電極(Cu添加例)の反射率の推移を示すグラフである。
【図15】図15は、実施例9において、200℃の真空加熱後における反射電極(Cu添加例)の反射率の推移を示すグラフである。
【図16】図16は、実施例9において、220℃の真空加熱後における反射電極(Cu添加例)の反射率の推移を示すグラフである。
【図17】図17は、実施例9において、250℃の真空加熱後における反射電極(Cu添加例)の反射率の推移を示すグラフである。
【図18】図18は、実施例9において、成膜直後における反射電極(Ge添加例)の反射率の推移を示すグラフである。
【図19】図19は、実施例9において、200℃の真空加熱後における反射電極(Ge添加例)の反射率の推移を示すグラフである。
【図20】図20は、実施例9において、220℃の真空加熱後における反射電極(Ge添加例)の反射率の推移を示すグラフである。
【図21】図21は、実施例9において、250℃の真空加熱後における反射電極(Ge添加例)の反射率の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、透明画素電極を構成する酸化物導電膜と反射電極を構成する金属薄膜との間に、従来のようにバリアメタル層を介在させなくても、優れた反射特性を発揮し得、更には、低温熱処理を施した場合でも、良好な反射特性を維持することは勿論のこと、接触抵抗や電気抵抗率などの特性にも優れた反射電極を提供するため、鋭意検討してきた。
【0031】
その結果、Al−Ni系を中心とした多元合金材を用いることによって、バリアメタル層を介在させなくても低い接触抵抗値などを有する反射電極が得られることを見出し、先に出願をしている(特願2007−268313)。詳細には、(ア)Al合金として、Niを0.1〜2原子%含有するAl−Ni合金を用いれば、上記の目的が達成されること、(イ)更に、上記のAl−Ni合金に、La,Mg,Cr,Mn,Ru,Rh,Pt,Pd,Ir,Ce,Pr,Gd,Tb,Dy,Nd,Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Y,Fe,Co,Sm,Eu,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuよりなる群(以下、説明の便宜のため、グループXと呼ぶ場合がある。)から選択される少なくとも一種の元素を0.1〜2原子%含有するAl−Ni−X合金を用いれば、耐熱性が高められること、(ウ)あるいは、Al−Ni−X合金に、Siおよび/またはGeの元素(以下、説明の便宜のため、グループZと呼ぶ場合がある。)を0.1〜2原子%含有するAl−Ni−X−Z合金を用いると、反射率、接触抵抗、耐熱性などの特性が一層高められることを見出した。
【0032】
上記の出願後も、本発明者らは、さらなる接触抵抗値の低減を目指してさらに鋭意検討を続けた。その結果、Al23(AlO1.5)と比べて酸素が少ないAl酸化物層(AlOx、x≦0.30)であって、厚みが薄いもの(最薄部の厚み≦10nm)を、Al−Ni−Nd合金層上に形成させることによって、従来のAl合金層よりも一層接触抵抗値が低減された反射電極が得られることを見出し、本発明を完成した。更に、上記Al−Ni−Nd合金層において、Niの代わりにCoを用いても良く、CoはNiと同様の作用を有する同効元素であることも判明した。NiとCoは、単独で用いても良いし、併用しても良い。また、上記合金層において、NdとLaは同効元素であり、Ndの代わりに、La単独またはNdとLaの両方を用いることもできる。また、上記合金層は、Geおよび/またはCuを更に含んでいても良くこれにより、接触抵抗低減作用などが一層高められることも見出した。
【0033】
以下では、Ni及び/又はCoと、Nd及び/又はLaと、を含むAl合金を、Al−(Ni/Co)−(Nd/La)合金と呼ぶ場合がある。また、上記Al−(Ni/Co)−(Nd/La)合金中に、Ge及び/又はCuを更に含むAl合金を、Al−(Ni/Co)−(Nd/La)−(Ge/Cu)合金と呼ぶ場合がある。
【0034】
以下の実施例で示されるように、酸素が少なく、且つ最薄部が薄いAl酸化物層(AlOx、x≦0.30、最薄部の厚み≦10nm)を、上記のAl合金層上に形成させることによって、接触抵抗値を低減することができる。この推定メカニズムとして、酸素が少ないAl酸化物層が予め形成されると、透明画素電極(例えばITOなど)と反射電極とが接触する界面において、AlやO(酸素)の相互拡散が抑制されるためであると考えられる。その結果、酸素が多く、且つ膜厚が厚いために接触抵抗値が高いAl酸化物層(AlOx、x>0.30、最薄部の厚み>10nm)の形成が阻害されると考えられる。但し本発明は、このような推定メカニズムに限定されない。
【0035】
本明細書において、「高い反射率」または「反射特性に優れている」とは、後記する実施例に記載の方法で成膜直後および加熱処理後の反射率を測定したとき、いずれにおいても、550nmでの反射率が90%以上のものを意味する。
【0036】
更に、本明細書において、「接触抵抗が低い」とは、後記する実施例に記載の方法で成膜直後および加熱処理後の接触抵抗を測定したとき(100μ角コンタクトホール)、いずれにおいても、接触抵抗が1kΩ以下のものを意味する。接触抵抗は低い程よく、好ましい接触抵抗は約500Ω以下であり、より好ましくは約100Ω以下である。
【0037】
以下、図3を参照しながら、本発明の反射電極について詳しく説明する。
【0038】
上述したとおり、本発明の反射電極は、第1のAl−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層2aと、AlとO(酸素)を含有する第2のAl酸化物層2bとを有している。第2のAl酸化物層2bは、透明画素電極3と直接接続している。本発明の反射電極は、第2のAl酸化物層2bと透明画素電極3とが直接接続する領域において、透明画素電極3と基板1との間に形成されている。
【0039】
本発明の反射電極は、Al−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層(第1の層)上に、酸素が少なく且つ最薄部が薄いAl酸化物層(第2の層)を有していることを特徴とする。すなわち、透明画素電極と直接接続する反射電極の層は、第1の層であるAl−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層ではなく、第2の層であるAl酸化物層である。
【0040】
詳細には、上記第2のAl酸化物層は、当該Al酸化物層中のO原子数とAl原子数との比である[O]/[Al]が0.30以下であり、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.20以下である。また、上記Al酸化物層の最薄部の厚みは10nm以下であり、好ましくは8nm以下、より好ましくは6nm以下である。
【0041】
また、上記第1のAl−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層において、NiおよびCoは、接触抵抗値の低減に有用である。これらの元素(Ni、Co)は単独で含んでいても良いし、両方を含んでいても良い。しかし、これら元素の合計量(単独で含む場合は単独の量)が過剰になると、Al合金層の反射率が低下する。そこで本発明では、Al−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層中の(Ni、Co)の合計量(または単独のNi量若しくはCo量)を、0.05原子%以上(好ましくは0.1原子%以上、より好ましくは0.3原子%以上、更に好ましくは0.5原子%以上)、2原子%以下(好ましくは1.5原子%以下、より好ましくは1.0原子%以下)と定めた。
【0042】
上記第1のAl−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層におけるNd及びLaは、耐熱性向上元素として有用であり、Al系合金薄膜表面のヒロック(コブ状の突起物)の形成が有効に防止されるようになる。これらは単独で添加しても良いし、併用しても良い。
【0043】
上記Nd及び/又はLaの含有量(単独で含む場合は単独の量であり、両方を含む場合は合計量である。)が0.1原子%未満の場合、耐熱性向上作用を有効に発揮することができない。耐熱性の観点のみからすれば、上記Nd及び/又はLaの含有量は多い程好ましいが、上限が2原子%を超えると、Al−(Ni/Co)−(Nd/La)合金膜自体の電気抵抗率が上昇してしまう。従って、電気抵抗率の低減化と耐熱性向上作用を勘案すれば、Nd及び/又はLaの含有量は、0.2原子%以上0.8原子%以下であることが好ましい。
【0044】
本発明において、Al−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層の残部は、実質的にAlおよび不可避不純物からなる。
【0045】
上記のAl−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層は、更に、0.1〜2原子%のGe及び/又はCuを含有しても良く、これにより、接触抵抗、電気抵抗率、および耐熱性が一層向上するようになる。これらは単独で添加しても良いし、併用しても良い。
【0046】
上記Ge及び/又はCuの含有量(単独で含む場合は単独の量であり、両方を含む場合は合計量である。)が0.1原子%未満の場合、上記作用を有効に発揮することができない。一方、Ge及び/又はCuの含有量が2原子%を超えると、上記作用は向上する反面、反射率の低下や電気抵抗率の増大を招く。Ge及び/又はCuの含有量は、0.2原子%以上0.8原子%以下であることが好ましい。
【0047】
本発明の好ましい実施態様において、透明画素電極は、酸化インジウム錫(ITO)(例えば酸化インジウム(In23)中に酸化錫(SnO)を10質量%程度含むもの)、および/または酸化インジウム亜鉛(IZO)(例えば酸化インジウムに酸化亜鉛を10質量%程度含むもの)である。特にITOが好ましい。
【0048】
本発明の反射電極は、以下に詳述する第1〜第3の方法によって製造することができる。いずれの方法も、基本的に、スパッタ蒸着によってAl−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層を形成する工程(工程I)と、スパッタ蒸着によって透明画素電極を形成する工程(工程II)と、を包含しているが、第1の製造方法は、Al−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層の形成(工程I)後で透明画素電極の形成(工程II)前に、形成したAl−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層を熱処理する工程を別途設けた(工程A)ところに特徴がある。これに対し、第2および第3の製造方法は、前述した第1の製造方法と異なって上記の熱処理(工程A)を行わないものであり、第2の製造方法では、透明画素電極形成時の蒸着雰囲気を制御した(工程IIa)ところに特徴があり、第3の製造方法では、Al−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層の形成(工程I)後で透明画素電極の形成(工程II)前に、形成したAl−(Ni/Co)−NdNd合金層を逆スパッタ(工程B)したところに特徴がある。なお、上記のAl−(Ni/Co)−(Nd/La)合金層は、前述したAl−(Ni/Co)−(Nd/La)−(Ge/Cu)合金層であっても良い。以下の製造方法の説明では、本発明に用いられるこれらのAl合金層を、まとめて、「Al系合金層」と略記する。
【0049】
以下、各製造方法について詳細に説明する。
【0050】
(1)第1の製造方法
本発明に用いられる第1の製造方法は、
基板上に、スパッタ蒸着によってAl系合金層を形成する工程(工程I)と、
形成したAl系合金層を、真空または不活性ガス雰囲気下で200℃以上の温度で熱処理する工程(工程A)と、
スパッタ蒸着によって透明画素電極を形成する工程(工程II)と、
を包含している。
【0051】
(工程I)
まず、スパッタ蒸着によってAl系合金層(第1の層)を形成する。スパッタ蒸着による成膜方法は特に限定されず、Al合金膜などの成膜に通常用いられる方法であれば特に限定されないが、例えば、真空雰囲気や不活性雰囲気下にて、圧力をおおむね、2mmTorr程度、基板温度を室温〜約250℃の範囲内に制御することが好ましい。Al合金膜の厚さは、おおむね、50〜300nmの程度にすることが好ましい。
【0052】
(工程A)
次に、上記の工程Iによって形成したAl系合金層(第1の層)を、真空または不活性ガス雰囲気下で200℃以上の温度で熱処理する。この熱処理は、本発明の第1の製造方法を特徴付ける工程であり、これにより、所望とする第2のAl酸化物層(酸素が少なく、最薄部の厚みが薄いAl酸化物層)が得られる。後記する実施例で実証したように、熱処理を省略したり熱処理温度が外れると、所望とする第2の層が得られず、接触抵抗が低下する。
【0053】
熱処理に用いる不活性ガスとしては、例えばN2およびArガスなどが挙げられる。不活性ガスは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
【0054】
また、熱処理温度は、200℃以上(好ましくは250℃以上)、400℃以下(好ましくは350℃以下)であり、熱処理時間は、0.5時間以上(好ましくは1時間以上)、3.5時間以下(好ましくは3時間以下)である。熱処理温度が低すぎたり、時間が少なすぎると、Al酸化物層の酸素量およびその最薄部の厚みが増大する。一方、熱処理温度が高すぎたり、時間が長すぎると、Al系合金薄膜表面の(コブ状突起物)形成が増大する。
【0055】
(工程II)
最後に、スパッタ蒸着によって透明画素電極を形成する。スパッタ蒸着の条件は使用する透明画素電極の種類に応じ、公知の適切な方法を採用すれば良い。例えばITOを成膜する場合は、真空雰囲気やArなどの不活性雰囲気下にて、圧力をおおむね、1mmTorr程度、基板温度をおおむね室温〜250℃に制御し、おおむね、50〜300nm程度のITO膜を成膜することが好ましい。
【0056】
(2)第2の製造方法
本発明に用いられる第2の製造方法は、
基板上に、スパッタ蒸着によってAl系合金層を形成する工程(工程I)と、
形成したAl系合金層上にスパッタ蒸着によって透明画素電極を形成する工程であって、前記スパッタ蒸着の初期段階において、窒素成分を含有する蒸着雰囲気中でスパッタ蒸着を行う工程(工程IIa)と、
を包含している。
【0057】
第2の製造方法を前述した第1の製造方法と対比すると、第2の製造方法では、第1の製造方法を特徴付ける熱処理工程(工程A)を行なわない代わりに、スパッタ蒸着によって透明画素電極を形成する工程(工程II)における蒸着雰囲気(特に、スパッタ蒸着の初期段階の雰囲気)を制御したところに特徴がある。
【0058】
第2の製造方法において、スパッタ蒸着によってAl系合金層を形成する工程(工程I)の詳細は、前述した第1の製造方法と同じである。
【0059】
(工程IIa)
次に、工程Iによって形成したAl系合金層上にスパッタ蒸着によって透明画素電極を形成するが、ここでは、スパッタ蒸着の初期段階において、窒素成分(好ましくはN2ガス)を含有する蒸着雰囲気中でスパッタ蒸着を行う。第2の製造方法では、スパッタ蒸着による透明画素電極の形成工程を、蒸着雰囲気を適切に制御して実施したところに特徴があり、上記蒸着雰囲気以外の条件は、通常用いられるスパッタ蒸着条件を採用すれば良い。
【0060】
上記のように蒸着雰囲気中に窒素成分を含有させることにより、Al酸化物層(第2の層)中の酸素量を低下させることができる。通常は、第1の製造方法における(工程II)の項でも記載したように、Arなどの不活性ガス雰囲気で行なって透明画素電極を構成するITO膜などを成膜しているが、不活性ガス雰囲気下で透明画素電極を形成すると、所望とする第2の層が得られず、接触抵抗が低下する(後記する実施例を参照)。その理由は詳細には不明であるが、本発明によれば、初期の成膜段階に形成される窒素成分含有ITO膜(ITO−N膜)が、いわばバリヤ層となって、成膜後の熱処理時のAlとO(酸素)の相互拡散を抑制すると推察される。
【0061】
ここで、「スパッタ蒸着の初期段階」とは、透明画素電極を構成する酸化物透明導電膜の厚さが約1/5〜1/2程度まで成膜される段階を意味する。例えば、ITO膜の厚さを約50nmとすると、おおむね、10〜25nm程度が成膜される段階を意味する。好ましくは、スパッタ蒸着の全段階について、窒素成分を含有した蒸着雰囲気で行う。また、「窒素成分」としてはN2ガスが好ましい。N2ガスを使用する場合、その量は、スパッタガスのArに対する体積流量比で、好ましくは5〜25%(より好ましくは12〜18%)である。
【0062】
(3)第3の製造方法
本発明に用いられる第3の製造方法は、
基板上に、スパッタ蒸着によってAl系合金層を形成する工程(工程I)と、
形成したAl系合金層を逆スパッタする工程(工程B)と、
スパッタ蒸着によって透明画素電極を形成する工程(工程II)と、
を包含している。
【0063】
第3の製造方法も、前述した第2の製造方法と同様、第1の製造方法を特徴付ける熱処理工程(工程A)を行なわない。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と異なり、Al系合金層の形成(工程I)後で透明画素電極の形成(工程II)前に、形成したAl系合金層を逆スパッタ(工程B)したところに特徴がある。
【0064】
第3の製造方法において、スパッタ蒸着によってAl系合金層を形成する工程(工程I)、およびスパッタ蒸着によって透明画素電極を形成する工程(工程II)の詳細は、前述した第1の製造方法と同じである。
【0065】
(工程B)
ここでは、工程Iによって得られたAl系合金層(第1の層)を逆スパッタする。本発明において逆スパッタとは、通常のスパッタ蒸着におけるターゲット側電極および基板側電極に印加する電圧を逆にして、イオン化された不活性ガス(例えばArイオン)を、ターゲットに衝突させるのではなく、基板上のAl系合金層に衝突させることを意味する。このような逆スパッタによってAl系合金層上に形成されたAl酸化物層が除去され、清浄なAl系合金層が形成される。そして清浄なAl系合金層上に透明画素電極をスパッタ蒸着によって成膜することによって、Al酸化物層(第2の層)中の酸素量を低下させることができる。これにより、界面でのAlとO(酸素)の相互拡散を防止できるほか、合金層表面のコンタミも除去することができる。
【0066】
本発明の第3の製造方法において、逆スパッタの条件は、例えば、真空雰囲気やArなどの不活性雰囲気下にて、圧力をおおむね、1mmTorr程度、パワーをおおむね、10〜100Wの範囲、基板温度をおおむね室温〜250℃に制御することが好ましい。
【0067】
本発明には、上記の反射電極を備えた表示デバイスも包含される。図3に、本発明の反射電極2を備えた表示デバイスの要部断面図の一例を示す。図3に示されるように、本発明の反射電極2は、第2のAl酸化物層2bと透明画素電極3とが直接接続する領域において、透明画素電極3と基板1との間に形成されている。反射電極2と基板1との間には、絶縁膜等が存在していても良い。なお図3は、本発明の1つの実施態様として示すものであり、本発明の表示デバイスは、図3の態様に限定されない。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0069】
<実施例1>
本実施例は、前述した第1の製造方法を適用して得られたAl−(Ni/Co)−Nd−(Ge/Cu)合金層(Ge、Cuは0原子%を含む)について検討したものである。
【0070】
具体的には、まず、無アルカリ硝子板(板厚0.7mm)を基板として、その表面に反射電極材であるAl−(Ni/Co)−Nd−(Ge/Cu)合金層をスパッタ蒸着によって成膜した。スパッタ蒸着条件は、Ar雰囲気下、圧力:1mTorr、パワー:100Wとした。各試料において、上記Al合金層の厚みは、約100nmとした。上記Al合金層中の(Ni/Co)量、Nd量、(Ge/Cu)量を表1に示す。
【0071】
次いで上記のAl合金層を、熱処理を施すものと、熱処理を施さないものに分割した。熱処理は、真空雰囲気(真空度≦3×10-4Pa)またはN2雰囲気で、表1、2に示す温度で1時間行った。
【0072】
次に、無処理および熱処理の上記Al合金層に、フォトリソグラフィーおよびエッチングによってパターニングした後、その上にITO膜をスパッタ蒸着によって成膜した。スパッタ蒸着条件は、Ar雰囲気下、圧力:1mTorr、パワー:100Wとした。各試料において、ITO膜(透明画素電極)の厚みは、約50nmとした。
【0073】
(接触抵抗値)
上記のようにして形成した反射電極の試料に、フォトリソグラフィーおよびエッチングによって、接触抵抗測定パターン(接触エリア:20、40、80μm□)を形成した後、窒素雰囲気で177℃(450K)×1時間の熱処理を行った後、接触抵抗値を四端子ケルビン法で測定した。結果を表1に示す。
【0074】
(Al酸化物層の[O]/[Al]比および最薄部の厚み)
(1)上記試料の第1の層(Al合金層)とITO膜との界面を、透過型電子顕微鏡(日立製作所製、型名:HF2000)で観察し、X線光電子分光法(XPS)を用いてAl酸化物層の最薄部の厚み、およびAl酸化物層の組成([O]/[Al]比)を求めた(観察領域:約10μm、観察倍率:15万倍)。これらの結果を、表1および表2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
これらの表中、「−」は元素を添加していないことを意味する(以下の表も同じ。)。また、上記表中、「Ni/Co」は、NiまたはCoのいずれかを添加したことを示す。これは、上記表に示す実験結果(酸化物層の[O]/[Al]および最薄部の厚み、並びに接触抵抗値)に限っていえば、NiまたはCoのいずれを用いても上記実験結果は変わらなかったからである。
【0078】
表1および表2の結果から明らかなように、真空(表1)または不活性ガス(窒素)雰囲気下(表2)で200℃以上の温度で熱処理したものは、いずれも、[O]/[Al]比が0.30以下、且つ最薄部の厚みが10nm以下であるAl酸化物層が形成されており、100μΩ/cm2以下(実施例1の本発明例では、おおむね、80μΩ/cm2以下)という良好な接触抵抗値を示した。
【0079】
また、上記表より、Geの添加によって接触抵抗値が一層低減されることも確認された。例えば、表1(真空下)の試料No.19(Ge添加)は、表1のNo.23(Ge添加なし)にGeを添加した例であるが、No.23に比べて接触抵抗値が低減した。同様の傾向は表2(窒素雰囲気下)でも見られ、表2の試料No.19(Ge添加)は、表2のNo.23(Ge添加なし)に比べて接触抵抗値が低減した。
【0080】
Ge添加による接触抵抗値低減化作用は、Cuを用いた場合にも同様に認められた。例えば、表2(窒素雰囲気下)の試料No.27(Cu添加)は、表2のNo.23(Cu添加なし)にCuを添加した例であるが、No.23に比べて接触抵抗値が低減した。
【0081】
これに対し、熱処理温度が低いものは、いずれも、酸化物層の[O]/[Al]比および最薄部の厚みが過剰であり、おおむね、300μΩ/cm2以上という高い接触抵抗値を示した。
【0082】
<実施例2>
本実施例では、表2(窒素雰囲気下)の試料のうち、Al−0.1%Ni−0.50%Ge−0.5%Nd、Al−0.1%Ni−0.50%Ge−0.2%Nd、Al−0.1%Ni−0.30%Ge−0.2%Ndの3種類の試料を用い、成膜直後(加熱処理前)の反射率と、真空加熱後(200℃、220℃、250℃において30分間加熱)の反射率を比較検討した。反射率は、日本分光株式会社製の可視・紫外分光光度計「V−570」を用い、測定波長:1000〜250nmの範囲における分光反射率を測定した。具体的には、基準ミラーの反射光強度に対して、試料の反射光高度を測定した値を「分光反射率」とした。
【0083】
図4〜図7は、それぞれ、成膜直後、200℃の真空加熱後、220℃の真空加熱後、250℃の真空加熱後における各試料の反射率の推移(波長:850〜250nm)を示すグラフである。550nmでの反射率を基準としてみると、本発明の要件を満たす上記の試料はすべて、成膜直後および真空加熱後のいずれにおいても、550nmでの反射率は85%超〜90%近傍と、良好な反射特性を有していた。
【0084】
<実施例3>
本実施例は、前述した第1の製造方法を適用して得られたAl−(Ni/Co)−La合金層について検討したものである。本実施例の製造方法は、Al合金層の種類が異なること以外は、前述した実施例1と実質的に同じである。
【0085】
具体的には、まず、無アルカリ硝子板(板厚0.7mm)を基板として、その表面に反射電極材であるAl−(Ni/Co)−La合金層をスパッタ蒸着によって成膜した。スパッタ蒸着条件は、Ar雰囲気下、圧力:1mTorr、パワー:100Wとした。各試料において、Al−(Ni/Co)−La合金層の厚みは、約100nmとした。Al−(Ni/Co)−La合金層中の(Ni/Co)量およびLa量を表1に示す。
【0086】
次いで上記のAl−(Ni/Co)−La合金層を、熱処理を施すものと、熱処理を施さないものに分割した。熱処理は、真空雰囲気(真空度≦3×10-4Pa)またはN2雰囲気で、表1に示す温度で1時間行った。
【0087】
次に、無処理および熱処理のAl−(Ni/Co)−La合金層に、フォトリソグラフィーおよびエッチングによってパターニングした後、その上にITO膜をスパッタ蒸着によって成膜した。スパッタ蒸着条件は、Ar雰囲気下、圧力:1mTorr、パワー:100Wとした。各試料において、ITO膜(透明画素電極)の厚みは、約50nmとした。
【0088】
上記のようにして形成した反射電極の試料に、前述した実施例1と同様にして、接触抵抗値、Al酸化物層の[O]/[Al]比および最薄部の厚みを測定した。これらの結果を表3に示す。また、表3の試料No.2(熱処理無し)およびNo.27(N2雰囲気下200℃で熱処理)の第1の層(Al−2.0原子%Ni−0.35原子%La合金層)とITO膜との界面を、透過型電子顕微鏡(日立製作所製、型名:HF2000)で観察した写真を、それぞれ図8および9に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
これらの表中、「Ni/Co」は、NiまたはCoのいずれかを添加したことを示す。これは、上記表に示す実験結果(酸化物層の[O]/[Al]および最薄部の厚み、並びに接触抵抗値)に限っていえば、NiまたはCoのいずれを用いても上記実験結果は変わらなかったからである。
【0091】
表3の結果から明らかなように、真空または不活性ガス(窒素)雰囲気下で200℃以上の温度で熱処理した試料No.13〜21および25〜33では、[O]/[Al]比が0.30以下、且つ最薄部の厚みが10nm以下であるAl酸化物層が形成されており、100μΩ/cm2以下(実施例3の本発明例では70μΩ/cm2以下)という良好な接触抵抗値を示した。
【0092】
一方、熱処理をしていない試料No.1〜9、並びに熱処理温度が低い試料No.10〜12および22〜24では、酸化物層の[O]/[Al]比および最薄部の厚みが過剰であり、200μΩ/cm2以上という高い接触抵抗値を示した。
【0093】
透過型電子顕微鏡写真において、熱処理した試料No.27(本発明例、図8)は、熱処理をしていない試料No.2(比較例、図9)のものと比べて、Al酸化物層(AlOx)が平滑である。これは、[O]/[Al]比が0.30以下であるAl酸化物層が形成されることによって、ITO成膜時のAlおよびO(酸素)の相互拡散が阻害されたためであると考えられる。
【0094】
<実施例4>
本実施例は、前述した第2の製造方法を適用して得られたAl−(Ni/Co)−La合金層について検討したものである。
【0095】
具体的には、実施例1と同様の方法で、無アルカリ硝子板(板厚0.7mm)上に、Al−Ni−La合金層(厚み:約100nm)およびITO膜(厚み:約50nm)を形成した。但し実施例1と異なり、熱処理は行わなかった。その代わりに、スパッタガスのArに対して体積流量比で12%のN2ガスを添加してITOを成膜し、本発明例の試料
を得た。比較のため、ITOの成膜をArガス雰囲気のみで行った比較例の試料も用意した。
【0096】
これらの本発明例および比較例の試料を用い、実施例1と同様にして接触抵抗値およびAl酸化物層の[O]/[Al]比および最薄部の厚みを測定した。
【0097】
その結果、N2ガスを添加してITOを成膜した本発明例の試料では、酸化物層(第2
の層)の最薄部の厚みは8nmであり、[O]/[Al]比は0.15であり、接触抵抗値は50〜70μΩ/cm2であった。これに対してN2ガスを添加せずにITOを成膜した比較例の試料では、酸化物層(第2の層)の最薄部の厚みは18nmであり、[O]/[Al]比は0.35であり、接触抵抗値は500〜800μΩ/cm2であった。
【0098】
<実施例5>
本実施例は、前述した第3の製造方法を適用して得られたAl−(Ni/Co)−La合金層について検討したものである。
【0099】
具体的には、実施例1と同様の方法で、無アルカリ硝子板(板厚0.7mm)上に、Al−Ni−La合金層(厚み:約100nm)およびITO膜(厚み:約50nm)を形成した。但し実施例1と異なり、熱処理は行わなかった。その代わりにITO膜のスパッタ蒸着装置内に試料を設置した後、Arガスを導入し、スパッタの極性を変えて試料表面を10秒間、Arで逆スパッタした。逆スパッタの条件は、Ar雰囲気下、圧力:1mmTorr、パワー:100Wとした。その後、スパッタの極性を戻して、実施例1と同様にしてITOを成膜し、本発明例の試料を得た。比較のため、逆スパッタを行わなかった比較例の試料も用意した。
【0100】
これらの本発明例および比較例の試料を用い、実施例1と同様にして接触抵抗値およびAl酸化物層の[O]/[Al]比および最薄部の厚みを測定した。
【0101】
逆スパッタを行った本発明例の試料では、酸化物層(第2の層)の最薄部の厚みは7nmであり、[O]/[Al]比は0.17であり、接触抵抗値は40〜80μΩ/cm2であった。これに対して逆スパッタを行わなかった比較例の試料では、酸化物層(第2の層)の最薄部の厚みは18nmであり、[O]/[Al]比は0.55であり、接触抵抗値は2000〜2800μΩ/cm2であった。
【0102】
<実施例6>
本実施例では、Ni量とLa量のみが異なる表3の下記試料を用いた。これらは全て、本発明に用いられる第1の製造方法で製造した本発明例である。
・Al−0.5%Ni−0.10%Laの例として、No.22(熱処理温度150℃)、No.25(熱処理温度200℃)、No.28(熱処理温度250℃)
・Al−1.0%Ni−0.35%Laの例として、No.23(熱処理温度150℃)、No.26(熱処理温度200℃)、No.29(熱処理温度250℃)
・Al−2.0%Ni−0.35%Laの例として、No.24(熱処理温度150℃)、No.27(熱処理温度200℃)、No.30(熱処理温度250℃)
【0103】
上記の試料を用い、成膜直後(加熱処理前)の反射率と、真空加熱後(200℃、220℃、250℃において30分間加熱)の反射率を比較検討した。反射率の測定は、前述した実施例2と同様にして行なった。
【0104】
図10〜図13は、それぞれ、成膜直後、200℃の真空加熱後、220℃の真空加熱後、250℃の真空加熱後における各試料の反射率の推移(波長:850〜250nm)を示すグラフである。550nmでの反射率を基準としてみると、本発明の要件を満たす上記の試料はすべて、成膜直後および真空加熱後のいずれにおいても、550nmでの反射率は85%超〜90%近傍と、良好な反射特性を有していた。
【0105】
<実施例7>
本実施例は、上記実施例3の改変例であり、Al合金層として、Al−(Ni/Co)−La−Cu合金層を用いた例である。詳細には、上記実施例3における表3に示す組成のAl−(Ni/Co)−La合金層を用いる代わりに、表4に示す組成のAl−(Ni/Co)−La−Cu合金層を用い、表4に示す熱処理を行なったこと以外は、実施例3と同様にして反射電極の各試料を作製した。次いで、上記実施例1と同様にして、接触抵抗値、Al酸化物層の最薄部の厚み、および酸素とAlの比([O]/[Al]比)を求めた。これらの結果を表4にまとめて示す。
【0106】
【表4】

【0107】
表4の結果から明らかなように、真空または不活性ガス(窒素)雰囲気下で200℃以上の温度で熱処理した試料No.4〜12およびNo.16〜24では、[O]/[Al]比が0.30以下、且つ最薄部の厚みが10nm以下であるAl酸化物層が形成されていた。また、いずれの試料も、接触抵抗値は約60μΩ/cm2以下であり、接触抵抗を低く抑えることができた。
【0108】
一方、熱処理温度が低い試料No.1〜3およびNo.13〜15では、酸化物層の[O]/[Al]比および最薄部の厚みが過剰であった。また、いずれの試料も、接触抵抗値は100μΩ/cm2以上であり、適切な熱処理を行った上記試料に比べて高くなった。
【0109】
<実施例8>
本実施例は、上記実施例3の更なる改変例であり、Al合金層として、Al−(Ni/Co)−La−Ge合金層(Geは0原子%を含む)を用いた例である。本実施例では、特にGeの添加効果を示すためにAl合金の組成を設定しており、(Ni/Co)の含有量が0.2原子%と、本発明の範囲内(0.1〜2原子%)ではあるが低めに設定した場合における、Geの添加効果(具体的には、接触抵抗値の更なる低減作用)を調べた。
【0110】
詳細には、上記実施例3における表3に示す組成のAl−(Ni/Co)−La合金層を用いる代わりに、表5に示す組成のAl−Ni−La−Ge合金層またはAl−Co−La−Ge合金層(いずれの合金層においても、Geは0原子%を含む)を用い、表5に示す熱処理を行なったこと以外は、実施例3と同様にして反射電極の各試料を作製した。表3中、「Ni/Co」は、NiまたはCoのいずれかを添加したことを示す。
【0111】
次いで、上記実施例1と同様にして、接触抵抗値、Al酸化物層の最薄部の厚み、および酸素とAlの比([O]/[Al]比)を求めた。これらの結果を表5にまとめて示す。
【0112】
【表5】

【0113】
前述したように、本実施例では、Geの添加効果を実証するため、Geを含まないAl合金についても実験を行なっており(例えば、表5の試料No.1など)、これらの一部は、前述した表3の試料と、組成および熱処理温度が重複している。例えば表5のNo.2は、前述した表3のNo.10と、Al合金の組成および熱処理温度は同じである。従って、Al合金の組成および熱処理温度が同じ試料を用いた場合には、得られる実験結果(表中の酸化物層および接触抵抗値)も、本来なら全く同じである筈だが、一部の試料については、接触抵抗値の範囲が若干ずれて完全に一致しないものもある。例えば、表3のNo.11と、表5のNo.4とは、接触抵抗値の範囲の上限が相違している。これは、本実施例の測定条件では、接触抵抗値の範囲が若干ずれる場合があり得るからである。しかし、上記の実験誤差などを考慮したとしても、本発明の要件を満足するものは良好な特性が必ず得られることを、実験により確認している。
【0114】
また、表5には、Al−Ni−La−Ge合金層またはAl−Co−La−Ge合金層の実験結果を別々に示さずに、まとめて「Ni/Co」で示した。これは、表5に示す実験結果(酸化物層の[O]/[Al]および最薄部の厚み、並びに接触抵抗値)に限っていえば、NiまたはCoのいずれを用いても上記実験結果は変わらなかったからである。
【0115】
表5より、真空または不活性ガス(窒素)雰囲気下で200℃以上の温度で熱処理した試料No.6〜20およびNo.26〜40では、[O]/[Al]比が0.30以下、且つ最薄部の厚みが10nm以下であるAl酸化物層が形成されている。また、これらの接触抵抗値は、最大でも1000μΩ/cm2以下であり、低い接触抵抗値を示した。
【0116】
上記例のうち、特に「Ni/Co」の含有量に着目して、接触抵抗値に及ぼすGeの添加効果を検討する。表5の試料No.6、11、16(以上、真空雰囲気の例)、No.26、31、36(以上、N2雰囲気の例)は、いずれも「Ni/Co」の含有量が0.2原子%と、本発明で規定する範囲内のなかでも少なめに制御し、且つ、Geを含まないAl合金を用いて、熱処理条件を適切に制御した例である。これら試料の接触抵抗値は、表5に示すように、本実施例の合格基準を満たすものの、接触抵抗値の下限は、最も低いもので約200μΩ/cm2であった。これに対し、上記試料のそれぞれについて、0.5原子%のGeを添加したAl合金を用いたこと以外は同じ熱処理条件を施した表5の試料No.8、13、18(以上、真空雰囲気の例)、No.28、33、38(以上、N2雰囲気の例)は、Geを含まない上記の各試料に比べると、それぞれの接触抵抗値は著しく低減されており、いずれの試料も、接触抵抗値は60μΩ/cm2と以下に非常に低く抑えられた。
【0117】
上記の実験結果により、Ge添加による接触抵抗低減作用は、特に、Ni/Coの含有量が少ない場合に効果的に発揮されることが実証された。
【0118】
<実施例9>
本実施例では、下記(1)または(2)の試料を用い、成膜直後(加熱処理前)の反射率と、真空加熱後(200℃、220℃、250℃において30分間加熱)の反射率を比較検討した。反射率の測定は、前述した実施例2と同様にして行なった。これらは全て、本発明に用いられる第1の製造方法で製造した本発明例である。
(1)Al−1.0%Ni−0.30%La−0.5%Cu
(2)Al−0.2%Co−0.20%La−0.5%Ge
【0119】
図14〜図17は、上記(1)の試料について、成膜直後、200℃の真空加熱後、220℃の真空加熱後、250℃の真空加熱後における反射率の推移(波長:800〜400nm)を示すグラフである。また、図18〜図21は、上記(2)の試料について、成膜直後、200℃の真空加熱後、220℃の真空加熱後、250℃の真空加熱後における反射率の推移(波長:800〜400nm)を示すグラフである。550nmでの反射率を基準としてみると、本発明の要件を満たす上記(1)および(2)の試料はいずれも、成膜直後および真空加熱後のいずれにおいても、550nmでの反射率は85%超〜90%近傍と、良好な反射特性を有していた。
【符号の説明】
【0120】
1 基板
2a 第1の層(Al系合金層)
2b 第2の層(Al酸化物層:AlOx、x≦0.30)
2 反射電極
3 透明画素電極(ITOなど)
5 ゲート配線
7 データ配線
8 ゲート電極
9 ソース電極
10 ドレイン電極
11 半透過型液晶表示装置
13 共通電極
15 対向基板
17 カラーフィルター
19 画素電極
19a 透明電極(画素電極)
19b 反射電極
21 TFT基板
23 液晶層
24 ソース領域
25 ドレイン領域
26 チャネル層
27 ゲート絶縁膜
51 バリアメタル層
T スイッチング素子(TFT)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される表示デバイス用の反射電極であって、
前記反射電極は、
0.05〜2原子%のNi及び/又はCo、並びに0.1〜2原子%のNdを含有する第1のAl−(Ni/Co)−Nd合金層と;
AlとO(酸素)を含有する第2のAl酸化物層と、を有し、
前記第2のAl酸化物層が、透明画素電極と直接接続しており、
前記第2のAl酸化物層中のO原子数とAl原子数との比である[O]/[Al]が、0.30以下であり、
前記第2のAl酸化物層の最も薄い部分の厚みが、10nm以下であり、
前記反射電極が、前記第2のAl酸化物層と前記透明画素電極とが直接接続する領域において、前記透明画素電極と前記基板との間に形成されていることを特徴とする反射電極。
【請求項2】
前記第1のAl−(Ni/Co)−Nd合金層は、更に0.1〜2原子%のGeおよび/またはCuを含有するものである請求項1に記載の反射電極。
【請求項3】
前記透明画素電極が、酸化インジウム錫(ITO)および/または酸化インジウム亜鉛(IZO)である請求項1または2に記載の反射電極。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の反射電極を備えた表示デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−33816(P2011−33816A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179795(P2009−179795)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】