説明

回転軸の回転角度検出装置

【課題】熱の影響、及び検出器やその取付部分と被検出部との線膨張係数の違いに起因する検出器と被検出部との間隔の変化を抑制すること。
【解決手段】この回転軸の回転角度検出装置100は、センサプレート5と、ポジションセンサ10と、第1及び第2潤滑油噴射ノズル9a、9bとを含む。センサプレート5はクランク軸4に取り付けられており、外周部に複数の歯5Gが設けられている。ポジションセンサ10は、磁気センサであり、センサプレート5の外周部に形成される歯5Gの数を非接触で計数する。第1潤滑油噴射ノズル9aからは、ポジションセンサ10やその取付部分に向かって潤滑油Lが噴射され、また、第2潤滑油噴射ノズル9bからは、センサプレート5に向かって潤滑油Lが噴射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸の回転角度を検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンがシリンダ内で往復運動するいわゆるレシプロ式であって、かつ火花点火式の内燃機関やディーゼル式の内燃機関では、点火時期や燃料噴射時期を決定するため、ピストンの位置を知ることが重要である。ピストンの位置は、ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク軸の回転角度(クランク角度)に基づいて判断することができる。特許文献1には、外周に複数の歯が形成されたクランクロータをクランク軸に一体かつ回転可能に取り付け、シリンダブロックに取り付けた磁気センサによって各歯の歯幅に応じた信号を出力させ、クランク角度を知る内燃機関のクランク角度検出装置が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−107842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、熱機関である内燃機関は、熱エネルギーを運動エネルギーに変換するものであり、運転中においては熱を発生する。熱機関が発生する熱の影響及びクランクロータと磁気センサとの間等で線膨張係数が異なることによって、熱機関の運転中においては、クランクロータと磁気センサとの間隔が変化する。その結果、両者が接触したり、両者の間隔が大きくなりすぎてクランク角度の検出精度が低下したりするという問題がある。
【0005】
特許文献1に開示されている内燃機関のクランク角度検出装置は、内燃機関に用いられるものであるが、クランクロータと、磁気センサあるいは磁気センサの取付部分であるシリンダブロックとの線膨張係数の違いは考慮されておらず、上記問題に対しては改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、回転軸の回転角度を検出するにあたって、熱の影響、及び検出器やその取付部分と被検出部との線膨張係数の違いに起因する、検出器と被検出部との間隔の変化を抑制できる回転軸の回転角度検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る回転軸の回転角度検出装置は、回転軸に設けられる被検出部と、前記被検出部とは非接触で前記披検知部の位置を検出することにより、前記回転軸の回転角度を判別するための信号を出力する検出器と、前記被検出部又は前記検出器又は前記検出器が取り付けられる部分のうち少なくとも一つに対して温度調整媒体を噴射して、前記検出器と前記被検出部との間隔を所定値に調整する、温度調整媒体噴射手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この回転軸の回転角度検出装置は、検出器、検出器が取り付けられる部分又は被検出部の少なくとも一つに、温度調整媒体を噴射する。これによって、検出器が取り付けられる部分あるいは被検出部等の熱膨張を制御して、検出器と被検出部との間隔を所定の大きさに制御する。その結果、熱の影響、及び検出器やこれが取り付けられる部分と被検出部との線膨張係数の違いに起因する、検出器と被検出部との間隔の変化を抑制できる。
【0009】
次の本発明に係る回転軸の回転角度検出装置は、前記回転軸の回転角度検出装置において、前記温度調整媒体の噴射時間を調整することによって、前記検出器と前記被検出部との間隔を所定の値に調整することを特徴とする。
【0010】
次の本発明に係る回転軸の回転角度検出装置は、前記回転軸の回転角度検出装置において、前記検出器の検出部と、前記検出器が取り付けられる部分との間には、前記検出器の検出部よりも線膨張係数の大きい異材部を設け、前記温度調整媒体噴射手段は、前記異材部に前記温度調整媒体を噴射することを特徴とする。
【0011】
次の本発明に係る回転軸の回転角度検出装置は、前記回転軸の回転角度検出装置において、なくとも前記検出器が取り付けられる部分は、前記被検出部と熱膨張係数が同じ材料で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る回転軸の回転角度検出装置によれば、回転軸の回転角度を検出するにあたって、熱の影響、及び検出器やその取付部分と被検出部との線膨張係数の違いに起因する、検出器と被検出部との間隔の変化を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)により、本発明が限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。本発明は、回転軸の回転角度を検出する際に適用できるが、特に内燃機関のような熱機関や電動機のように、運転中に発熱し温度が変化する機器が備える回転軸の回転角度を検出する場合に好適である。以下の説明においては、レシプロ式内燃機関のクランク軸の回転角度を検出する、いわゆるクランク角センサを例とするが、カムシャフトの回転角度を検出する、いわゆるカムセンサにも同様に適用できる。
【0014】
(実施形態1)
この実施形態は、検出器、検出器の取付部分又は被検出部の少なくとも一つに潤滑油等の温度調整媒体を噴射することにより熱膨張を制御して、検出器と被検出部との間隔を所定の大きさに制御する点に特徴がある。なお、次の説明では、検出器及び被検出部の両方に温度調整媒体を噴射する構成を例として説明する。
【0015】
図1は、実施形態1に係る回転軸の回転角度検出装置を備える内燃機関を示す説明図である。図2は、実施形態1に係る回転軸の回転角度検出装置を示す拡大図である。この実施形態において、熱機関である内燃機関1は、シリンダ2内に配置されるピストン3の往復運動をクランク軸4によって回転運動に変換する、いわゆるレシプロ式の内燃機関である。なお、この実施形態に係る熱機関はこのような内燃機関に限られず、いわゆるロータリーエンジンであってもよく、またスターリングエンジンのような外燃機関であってもよい。
【0016】
この実施形態に係る回転軸の回転角度検出装置100は、検出器であるポジションセンサ10と、被検出部であるセンサプレート5と、温度調整媒体噴射手段である第1及び第2潤滑油噴射ノズル9a、9bとを含んで構成される。回転軸であるクランク軸4には、被検出部である円板状のセンサプレート5が取り付けられており、クランク軸4とともに回転する。センサプレート5の材料は鉄(Fe)である。また、センサプレート5は、外周部に所定の間隔で設けられた複数の切り欠きによって複数の歯5Gが形成されるとともに、外周部の一部の領域には、他の領域よりも周方向長さの大きいクランク位置基準歯5GBが形成されている。
【0017】
シリンダブロック6には、ポジションセンサ10が取り付けられている。ポジションセンサ10は、取付台座(検出器側取付部)10sを締結手段であるボルト11によってシリンダブロック6に固定することによって取り付けてある。ここで、シリンダブロック6が、検出器であるポジションセンサ10が取り付けられる部分、すなわち検出器の取付部分となる。ポジションセンサ10は、磁気センサであり、センサプレート5の外周部に形成される歯5Gの数を非接触で計数する。ポジションセンサ10によって検出された信号からクランク位置基準歯5GBの位置が分かるので、クランク位置基準歯5GBの位置から計数される歯5Gの数によって、クランク軸4の回転角度(以下クランク角度という)を知ることができる。ポジションセンサ10で検出された信号は、機関ECU20に取り込まれ、ここで内燃機関1の点火時期や燃料噴射時期等の制御に用いられる。
【0018】
なお、この実施形態において、被検出部にはセンサプレート5を用いるが、例えば、検出器に非接触の光学式センサを用い、回転軸であるクランク軸4に光学式センサによる検出に用いる反射体を設けてもよい。この場合、クランク軸4に設けられる反射体が被検出部となる。
【0019】
内燃機関1の運転中においては、センサプレート5やこれが取り付けられているクランク軸4、あるいはポジションセンサ10が取り付けられているシリンダブロック6の周辺温度が変化する。そして、センサプレート5やこれの取付部品であるクランク軸4、あるいはポジションセンサ10の取付部分であるシリンダブロック6の温度に差が生ずると、仮にこれらの線膨張係数がすべて同じであっても、これらの熱膨張量が異なる結果、センサプレート5とポジションセンサ10との間隔(歯5Gと検出部10pとの間隔)tが変化し、ポジションセンサ10の検出精度が低下するおそれがある。また、センサプレート5とポジションセンサ10との間隔が小さくなって、センサプレート5とポジションセンサ10とが接触するおそれもある。
【0020】
また、例えば、センサプレート5及びクランク軸4は鉄で製造され、ポジションセンサ10の取付部分であるシリンダブロック6がアルミニウム合金やマグネシウム合金等で構成される場合、センサプレート5等とシリンダブロック6との線膨張係数は異なる。かかる場合も、内燃機関1の運転時における温度変化によってセンサプレート5やとシリンダブロック6等の熱膨張量が異なる結果、センサプレート5とポジションセンサ10との間隔が変化し、ポジションセンサ10の検出精度が低下するおそれがある。また、センサプレート5とポジションセンサ10との間隔が小さくなって、センサプレート5とポジションセンサ10とが接触するおそれもある。
【0021】
そこで、この実施形態においては、ポジションセンサ10やその取付部分、及びセンサプレート5に温度調整媒体を噴射することにより、ポジションセンサ10やその取付部分とセンサプレート5との温度差を低減できる。これによって、前記温度差に起因するセンサプレート5とポジションセンサ10との間隔の変化を抑えることができる。その結果、ポジションセンサ10の検出精度の低下を抑制でき、また、センサプレート5とポジションセンサ10との接触も抑えることができる。
【0022】
この実施形態においては、温度調整媒体に内燃機関1の潤滑油を用いる。そして、ポジションセンサ10やその取付部分、及びセンサプレート5に温度調整媒体である前記潤滑油を噴射する。次に、図1を用いて、この構成を説明する。図1に示すように、この内燃機関1は、ポジションセンサ10やその取付部分に潤滑油Lを噴射する第1潤滑油噴射ノズル9aと、センサプレート5に潤滑油Lを噴射する第2潤滑油噴射ノズル9bとを備える。なお、第1及び第2潤滑油噴射ノズル9a、9bを共通にしてもよい。このようにすれば、部品点数を少なくできる。
【0023】
第1及び第2潤滑油噴射ノズル9a、9bは、内燃機関1内に形成される潤滑油通路8に接続されている。潤滑油通路8には、オイルポンプ7から吐出される内燃機関1の潤滑油Lが送られる。そして、第1潤滑油噴射ノズル9aからは、ポジションセンサ10やその取付部分に向かって潤滑油Lが噴射され、また、第2潤滑油噴射ノズル9aからは、センサプレート5に向かって潤滑油Lが噴射される。
【0024】
第1及び第2潤滑油噴射ノズル9a、9bから噴射される潤滑油Lの温度はどちらもほぼ同じであるため、ポジションセンサ10やその取付部分、及びセンサプレート5周辺の温度もほぼ同じになる。これによって、温度差に起因して発生する、センサプレート5とポジションセンサ10との間隔tの変化を抑制できる。その結果、ポジションセンサ10の検出精度の低下を抑制でき、また、センサプレート5とポジションセンサ10とが接触するおそれも低減できる。
【0025】
ここで、ポジションセンサ10とシリンダブロック6との間に取付部品を介在させてポジションセンサ10を取り付ける場合、線膨張係数の異なる材料が介在することになるため、内燃機関1の運転中における温度変化によって、前記間隔tはより影響を受けやすくなる。この場合、取付部品及びセンサプレート5に潤滑油Lを噴射することで、内燃機関1の運転中における温度変化に起因するセンサプレート5とポジションセンサ10との間隔tの変化をより確実に抑制できる。
【0026】
また、内燃機関1を冷間始動してから暖機が終了するまでの間は、暖機終了後と比較して、内燃機関1の内部と外部(例えばシリンダブロック6の内側と外側)とで温度差が大きくなるが、このような構成によって、冷間時から暖機終了までの過渡時における前記温度差を小さくできる。これによって、冷間時から暖機終了までの過渡時においても、センサプレート5とポジションセンサ10との間隔tの変化を抑制して、ポジションセンサ10の検出精度の低下を抑制でき、また、センサプレート5とポジションセンサ10とが接触するおそれも低減できる。
【0027】
このように、この実施形態に係る内燃機関1では、ポジションセンサ10やその取付部分、及びセンサプレート5に温度調整媒体である前記潤滑油を噴射する。その結果、内燃機関1の運転時における温度変化によらず、センサプレート5とポジションセンサ10との間隔tの変化を抑制して、ポジションセンサ10の検出精度の低下を抑制できるとともに、センサプレート5とポジションセンサ10とが接触するおそれも低減できる。
【0028】
なお、ポジションセンサ10の取付部分とセンサプレート5とは、線膨張係数が同じ材料で構成してもよい。例えば、センサプレート5が鉄である場合、ポジションセンサ10の取付部分(この実施形態ではシリンダブロック6)を鉄(例えば鋳鉄)とする。すなわち、センサプレート5の材料に、ポジションセンサ10の取付部分の材料を合わせる。あるいは、ポジションセンサ10の取付部分の材料に、センサプレート5の材料を合わせてもよい。このようにすれば、ポジションセンサ10の取付部分の熱膨張と、センサプレート5の熱膨張とをほぼ等しい大きさにすることができる。その結果、内燃機関1の運転時における温度変化によらず、センサプレート5とポジションセンサ10との間隔tの変化をさらに効果的に抑制できる。ここで、線膨張係数が同じとは、完全に同じである場合の他、一方の線膨張係数が他方の線膨張係数の±10%の範囲にある場合も含む。
【0029】
以上、この実施形態では、検出器であるポジションセンサ、検出器の取付部分又は被検出部であるセンサプレートの少なくとも一つに、潤滑油等の温度調整媒体を噴射することにより熱膨張を制御して、検出器と被検出部との間隔を所定の大きさに制御する。これにより、熱機関や電動機のように、運転中に熱を発生する機器において回転軸の回転角度を検出する際には、熱の影響、及び検出器やその取付部分と被検出部との線膨張係数の違いに起因する、検出器と被検出部との間隔の変化を抑制できる。その結果、検出器による回転角度の検出精度低下を抑制でき、また、検出器と被検出部との接触のおそれも極めて低減できる。
【0030】
さらに、検出器による回転角度の検出精度低下を抑制できる分、被検出部であるセンサプレートの直径を小さくできるので、内燃機関においては、潤滑油の攪拌が低減でき、また、気筒間において潤滑油を連通させるための連通孔面積を大きくとることができる。その結果、内燃機関の内部摩擦を低減できる。ここで、この実施形態の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。また、この実施形態の構成は、以下の実施形態においても適用できる。
【0031】
(実施形態2)
実施形態2は、検出器側又は被検出部のいずれか一方に、温度調整媒体を噴射することにより熱膨張を制御して、検出器と信号生成部との間隔を所定の大きさに制御する点に特徴がある。ここで、検出器側には、検出器の取付部分、検出器自体の両方が含まれる。次の説明では、検出器に温度調整媒体を噴射する例を説明する。
【0032】
図3は、実施形態2に係る回転軸の回転角度検出装置を備える内燃機関を示す説明図である。この実施形態に係る回転軸の回転角度検出装置100aは、検出器であるポジションセンサ10aと、被検出部であるセンサプレート5と、温度調整媒体噴射手段である第1潤滑油噴射ノズル9aとを含んで構成される。
【0033】
この実施形態に係る内燃機関1aが備える回転軸の回転角度検出装置100aは、検出器あるポジションセンサ10a及びその取付部分に温度調整媒体である潤滑油を噴射する。このため、上記実施形態1に係る回転軸の回転角度検出装置100(図1)とは異なり、この回転軸の回転角度検出装置100aは、ポジションセンサ10aやその取付部分に潤滑油Lを噴射する第1潤滑油噴射ノズル(温度調整媒体噴射手段)9aのみを備える。第1潤滑油噴射ノズル9aは、内燃機関1内に形成される潤滑油通路8に接続されており、ポジションセンサ10aやその取付部分に向かって潤滑油Lを噴射する。
【0034】
図4は、実施形態2に係る回転軸の回転角度検出装置を示す拡大図である。この実施形態において、検出器であるポジションセンサ10aの検出部10apと、ポジションセンサ10aの取付部分であるシリンダブロック6との間には、検出部10apよりも線膨張係数の高い異材部12が設けられている。より具体的には、異材部12は、取付台座(取付部分)10asと検出部10apとの間に設けられ、ポジションセンサ10aの一部として構成されている。そして、このポジションセンサ10aは、主として異材部12の温度変化によって異材部12の長さが変化する。その結果、ポジションセンサ10aとセンサプレート5との間隔t(すなわち、検出部10apと歯5Gとの間隔)が変化する。
【0035】
この実施形態においては、内燃機関1aの運転中において、ポジションセンサ10aとセンサプレート5との間隔tが広がるようになっている。そして、ポジションセンサ10aに設けられる異材部12は、ポジションセンサ10aの検出部10apよりも線膨張係数が大きい材料で構成される。内燃機関1aの運転中にポジションセンサ10aとセンサプレート5との間隔tが広がった場合には、異材部12の温度を上昇させることで異材部12を熱膨張させる。すると、ポジションセンサ10aの検出部10apは、センサプレート5に接近する(図4の矢印B方向へ移動する)。これによって、ポジションセンサ10aの検出部10apとセンサプレート5との間隔tが小さくなり、前記間隔tは適正な大きさとなる。異材部12の温度を上昇させるには、例えば、第1潤滑油噴射ノズル9aからポジションセンサ10aの異材部12よりも高い温度の潤滑油Lを異材部12へ噴射する。
【0036】
図5は、実施形態2に係る他の回転軸の回転角度検出装置を示す拡大図である。この回転軸の回転角度検出装置100bは、ポジションセンサ10bの取付部分であるシリンダブロック6と、ポジションセンサ10bの取付台座(検出器側取付部)10bsとの間に、ポジションセンサ10bに対して線膨張係数が異なる材質で形成される異材部13が設けられる。この例において、異材部13は、ポジションセンサ10bよりも線膨張係数が大きい材料で構成される。
【0037】
例えば、内燃機関1aの運転中において、ポジションセンサ10bとセンサプレート5との間隔tが小さくなるように構成される場合に、この例に係るポジションセンサの取付構造を適用する。内燃機関1aの運転中にポジションセンサ10bとセンサプレート5との間隔tが小さくなった場合には、異材部13の温度を上昇させることで異材部13を熱膨張させる。すると、ポジションセンサ10bの検出部10bpは、センサプレート5から離れる(図5の矢印A方向へ移動する)。これによって、ポジションセンサ10bとセンサプレート5との間隔tは大きくなり、前記間隔tは適正な大きさになる。異材部13の温度を上昇させるには、例えば、第1潤滑油噴射ノズル9aから異材部13よりも高い温度の潤滑油Lを異材部13へ噴射する。
【0038】
図6は、実施形態2に係る内燃機関が備える温度調整媒体供給系の構成の一例を示す説明図である。オイルポンプ7から吐出された潤滑油Lは、温度調整媒体噴射制御手段である開閉弁50を通って第1潤滑油噴射ノズル9aから噴射される。開閉弁50は、この実施形態に係る熱膨張の制御装置によって制御される。なお、第1潤滑油噴射ノズル9aから噴射する潤滑油の流量を変化させる場合には、開閉弁50の代わりに流量調整弁を用いてもよいし、単位時間あたりにおける開閉弁の開弁時間を制御してもよい。次に、この実施形態に係る熱変形の制御を実現するための熱膨張の制御装置について説明する。
【0039】
図7は、実施形態2に係る熱膨張の制御装置の構成を示す説明図である。この熱膨張の制御装置30は、機関ECU20に組み込まれて構成されている(図1参照)。なお、機関ECU20とは別個に、この実施形態に係る熱膨張の制御装置30を用意し、これを機関ECU20に接続してもよい。そして、この実施形態に係る熱変形の制御(以下熱変形制御)を実現するにあたっては、機関ECU20が備える内燃機関1aの制御機能を、前記熱膨張の制御装置30が利用できるように構成してもよい。
【0040】
熱膨張の制御装置30は、処理部31と記憶部32とを含んで構成される。処理部31は、さらに判定部33と、噴射制御部34とを含んで構成される。これらが、この実施形態に係る熱変形制御を実行する部分となる。処理部31は、例えば、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)やメモリを組み合わせて構成される。
【0041】
記憶部32には、この実施形態に係る熱変形制御に用いるコンピュータプログラムや制御マップ等が格納されている。ここで、記憶部32は、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらを組み合わせることにより構成することができる。
【0042】
処理部31には、入力ポート35及び出力ポート36が接続されている。入力ポート35にはアクセル開度センサ41、エアフローセンサ42、外気温度センサ43、冷却水温度センサ(以下水温センサ)44、潤滑油温度センサ(以下油温センサ)45、ポジションセンサ用温度計46、その他のセンサ類が接続されており、処理部31がこの実施形態に係る熱変形制御を実行するときの情報を前記センサ類から取得する。
【0043】
出力ポート36には、処理部31がこの実施形態に係る熱変形制御を実行するときの制御対象である開閉弁50が接続されている。このような構成により、熱膨張の制御装置30は、水温センサ44、油温センサ45、ポジションセンサ用温度計46等から取得した情報に基づいて、開閉弁50を制御する。次に、この実施形態に係る熱変形制御の手順の一例を説明する。次の説明においては、適宜図3〜図7を参照されたい。
【0044】
図8は、実施形態2に係る熱膨張の制御の手順例を示すフローチャートである。図9−1、図9−2は、実施形態2に係る熱膨張の制御に用いる制御マップの一例を示す説明図である。この実施形態においては、図4に示すポジションセンサ10aの取付構造によってポジションセンサ10aが取り付けられる内燃機関1aの熱膨張の制御を説明する。図4に示す取付構造でポジションセンサ10aが取り付けられる内燃機関1aの運転中においては、ポジションセンサ10aとセンサプレート5との間隔tが大きくなるように構成されている。
【0045】
まず、熱膨張の制御装置30の判定部33は、水温センサ44、油温センサ45、ポジションセンサ用温度計46等のセンサ類の出力を取得する(ステップS101)。そして、判定部33は、前記センサ類の出力、すなわち前記センサ類が取得した内燃機関1aの運転状態に関する情報に基づき、ポジションセンサ10aとセンサプレート5との間隔(以下クリアランスという)tを算出する(ステップS102)。
【0046】
クリアランスtは、内燃機関1aの温度及びポジションセンサ10aの温度等によって決定される。このため、熱膨張の制御装置30の判定部33は、図9−1に示す制御マップ60にポジションセンサ10aの温度Tc及び内燃機関1aの温度Teを与え、対応するクリアランスtを取得する。ここで、内燃機関1aの温度Teは、内燃機関1aの冷却水温度や油温で代表させることができる。また、クリアランスtは、内燃機関1aの運転条件(負荷率や機関回転数等)や外気温度によっても変化する。このため、内燃機関1aの負荷率や機関回転数、外気温度によって、上記クリアランスtを補正することが好ましい。
【0047】
次に、判定部33は、算出したクリアランスtを、予め定めたクリアランス許容値tcと比較する(ステップS103)。t<tcである場合(ステップS103:No)、クリアランスtは許容範囲内であり、ポジションセンサ10aの検出精度は十分確保できる。このため、STARTに戻り、クリアランスtの監視を継続する。
【0048】
t≧tcである場合(ステップS103:Yes)、ポジションセンサ10aの検出精度が確保できないおそれが高くなるため、熱膨張の制御装置30は、潤滑油Lをポジションセンサ10aの異材部12へ噴射して、クリアランスtを調整する。この場合、判定部33は、ポジションセンサ用温度計46から取得したポジションセンサ10aの異材部12の温度Tcと、潤滑油Lの温度Tlとを比較する(ステップS104)。
【0049】
Tc≧Tlである場合(ステップS104:No)、ポジションセンサ10aの異材部12の長さは現状よりも小さくなるため、クリアランスtは現状よりもさらに大きくなってしまう。したがって、この場合はTc<Tlになるまで待機する。Tc<Tlである場合、噴射制御部34は、潤滑油Lの全噴射時間Θを算出する(ステップS105)。
【0050】
この実施形態において、潤滑油Lの全噴射時間Θは、制御マップ61に基づいて求める。ここで、この制御マップ61には、ポジションセンサ10aの異材部12を単位量(例えば1μm)長くするために要する単位噴射時間θが、異材部12の温度Tcと潤滑油Lの温度Tlとの関係で記述してある。すなわち、ある異材部12の温度Tcと、潤滑油Lの温度Tlとを制御マップ61に与えると、そのTcとTlとの場合において、異材部12を単位量(例えば1μm)長くするために要する単位噴射時間θ(秒)を求めることができる。すなわち、単位噴射時間θの単位は、秒/μmとなる。
【0051】
クリアランスtとクリアランス許容値tcとの差から、ポジションセンサ10aの異材部12を伸ばす量Δt(=t−tc)が分かるので、制御マップ61から求めた噴射時間θが分かれば、異材部12の温度及び潤滑油Lの温度がそれぞれTc及びTlである場合における潤滑油Lの全噴射時間Θは、Θ=θ×Δtで求めることができる。
【0052】
全噴射時間Θが算出されたら(ステップS105)、噴射制御部34は算出した全噴射時間Θだけ開閉弁50を開き、ポジションセンサ10aの異材部12へ潤滑油Lを噴射する(ステップS106)。これによって、クリアランスtを予め定めたクリアランス許容値tcよりも小さくすることができるので、ポジションセンサ10aの位置検出精度低下を抑制できる。また、ポジションセンサ10aとセンサプレート5との接触も抑制することができる。これによって、確実にクランク角度を検出できる。また、潤滑油Lの温度は制御しにくいが、潤滑油Lの全噴射時間を制御することにより、比較的容易にクリアランスtを調整できる。
【0053】
なお、この実施形態においては、ポジションセンサ10aに、検出部10apよりも線膨張係数の大きい材料で構成される異材部12を設けるが、異材部12を設けずにポジションセンサ10aの温度よりも高い温度の潤滑油Lを、ポジションセンサ10aに噴射するようにしてもよい。このようにしても、潤滑油Lが噴射された部分は他の部分よりも温度が高くなるため潤滑油Lが噴射された部分が熱膨張して、クリアランスtを小さくすることができる。なお、検出部10apよりも線膨張係数の大きい異材部12を設ければ、その部分の熱膨張は他の部分の熱膨張よりも大きくなるので、より迅速にクリアランスtを小さくすることができる。
【0054】
以上、この実施形態では、検出器側又は被検出部のいずれか一方に潤滑油等の温度調整媒体を噴射することにより熱膨張を制御して、検出器と被検出部との間隔を所定の大きさに制御する。これにより、運転中に熱を発生する機器において回転軸の回転角度を検出する際には、熱の影響、及び検出器やその取付部分と被検出部との線膨張係数の違いに起因する、検出器と被検出部との間隔の変化を抑制できる。その結果、検出器による回転角度の検出精度低下を抑制でき、また、検出器と被検出部との接触のおそれも極めて低減できる。
【0055】
さらに、検出器による回転角度の検出精度低下を抑制できる分、被検出部であるセンサプレートの直径を小さくできるので、内燃機関においては、潤滑油の攪拌が低減でき、また、気筒間において潤滑油を連通させるための連通孔面積を大きくとることができる。その結果、内燃機関の内部摩擦を低減できる。ここで、この実施形態の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。また、この実施形態の構成は、以下の実施形態においても適用できる。
【0056】
(実施形態3)
実施形態3は、上記実施形態とほぼ同様であるが、少なくとも検出器の取付部分は、被検出部と熱膨張係数が同じ材料で構成される点が異なる。図10は、実施形態3に係る回転軸の回転角度検出装置の構成を示す説明図である。この実施形態においては、カムシャフトの回転角度を検出する場合を説明するが、クランク軸や出力軸その他の回転軸に対しても同様に適用できる。
【0057】
この実施形態に係る回転軸の回転角度検出装置100cは、検出器であるポジションセンサ10cと、ヘッドカバー71内に格納されるカムシャフト74に取り付けられるセンサプレート(被検出部)75と、第1及び第2潤滑油噴射ノズル9a、9bとを含んで構成される。ポジションセンサ10c及びセンサプレート75は、上記実施形態1、2で説明したセンサプレート5と同様の構成である。ヘッドカバー71は、第1ヘッドカバー71Aと第2ヘッドカバー72Bとで構成されており、Sで一体化されている。すなわち、ヘッドカバー71は、で構成される。
【0058】
ここで、ポジションセンサ10cは、第1ヘッドカバー71Aに取り付けられる。そして、ポジションセンサ10cの取付部分となる第1ヘッドカバー71Aは、被検出部であるセンサプレート75と線膨張係数が同じ材料で構成される。すなわち、ポジションセンサ10cの取付部分であるヘッドカバー71は、少なくとも一部(この実施形態では第1ヘッドカバー71A)が、被検出部であるセンサプレート75と線膨張係数が同じ材料で構成される。
【0059】
例えば、センサプレート75が鉄である場合、第1ヘッドカバー71Aの材質も鉄とする。これによって、内燃機関の運転中においてヘッド周りの温度変化が発生した場合でも、ポジションセンサ10cの取付部分である第1ヘッドカバー71Aの熱膨張量と、センサプレート75の熱膨張量とをほぼ同じ量にできる。この実施形態においては、さらに、第1及び第2潤滑油噴射ノズル9a、9bからポジションセンサ10c及びセンサプレート75に潤滑油を噴射する。その結果、ポジションセンサ10cとセンサプレート75との間隔をほぼ一定に維持して、カムシャフト74の回転角度の検出精度を維持できる。また、ポジションセンサ10cとセンサプレート75とが接触するおそれを極めて低減できる。
【0060】
ここで、第2ヘッドカバー71Bも、第1ヘッドカバー71Aと同じ材料(この実施形態では鉄)で構成してもよいが、これとは異なる材料で構成してもよい。例えば、第2ヘッドカバー71Bを、アルミニウム合金やマグネシウム合金のような、いわゆる軽合金で構成する。これによって、ヘッドカバー71すべてを鉄で製造する必要はないので、その分軽量化できる。
【0061】
以上、この実施形態では、少なくとも検出器の取付部分は、被検出部と熱膨張係数が同じ材料で構成するとともに、検出器側又は被検出部の少なくとも一方に潤滑油等の温度調整媒体を噴射する。これによって、熱膨張をさらに効率よく制御して、検出器と被検出部との間隔を、より精度よく所定の大きさに維持できる。その結果その結果、検出器による回転角度の検出精度低下をさらに効果的に抑制でき、また、検出器と被検出部との接触のおそれもさらに低減できる。
【0062】
さらに、検出器による回転角度の検出精度低下を抑制できる分、被検出部であるセンサプレートの直径を小さくできるので、内燃機関においては、潤滑油の攪拌が低減でき、また、気筒間において潤滑油を連通させるための連通孔面積を大きくとることができる。その結果、内燃機関の内部摩擦を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明に係る回転軸の回転角度検出装置は、回転軸の回転角度を検出することに有用であり、特に、熱の影響、及び検出器やその取付部分と被検出部との線膨張係数の違いに起因する検出器と被検出部との間隔の変化を抑制することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施形態1に係る回転軸の回転角度検出装置を備える内燃機関を示す説明図である。
【図2】実施形態1に係る回転軸の回転角度検出装置を示す拡大図である。
【図3】実施形態2に係る回転軸の回転角度検出装置を備える内燃機関を示す説明図である。
【図4】実施形態2に係る回転軸の回転角度検出装置を示す拡大図である。
【図5】実施形態2に係る他の回転軸の回転角度検出装置を示す拡大図である。
【図6】実施形態2に係る内燃機関が備える温度調整媒体供給系の構成の一例を示す説明図である。
【図7】実施形態2に係る熱膨張の制御装置の構成を示す説明図である。
【図8】実施形態2に係る熱膨張の制御の手順例を示すフローチャートである。
【図9−1】実施形態2に係る熱膨張の制御に用いる制御マップの一例を示す説明図である。
【図9−2】実施形態2に係る熱膨張の制御に用いる制御マップの一例を示す説明図である。
【図10】実施形態3に係る回転軸の回転角度検出装置の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1、1a 内燃機関
2 シリンダ
3 ピストン
4 クランク軸
5 センサプレート
6 シリンダブロック
9a 第1潤滑油噴射ノズル
9b 第2潤滑油噴射ノズル
10、10a、10b、10c ポジションセンサ
10ap、10bp 検出部
12 異材部
13 異材部
20 機関ECU
30 制御装置
31 処理部
32 記憶部
33 判定部
34 噴射制御部
50 開閉弁
71 ヘッドカバー
71A 第1ヘッドカバー
72B 第2ヘッドカバー
100、100a、100b、100c 回転軸の回転角度検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に設けられる被検出部と、
前記被検出部とは非接触で前記披検知部の位置を検出することにより、前記回転軸の回転角度を判別するための信号を出力する検出器と、
前記被検出部又は前記検出器又は前記検出器が取り付けられる部分のうち少なくとも一つに対して温度調整媒体を噴射して、前記検出器と前記被検出部との間隔を所定値に調整する、温度調整媒体噴射手段と、
を備えることを特徴とする回転軸の回転角度検出装置。
【請求項2】
前記温度調整媒体の噴射時間を調整することによって、前記検出器と前記被検出部との間隔を所定の値に調整することを特徴とする請求項1に記載の回転軸の回転角度検出装置。
【請求項3】
前記検出器の検出部と、前記検出器が取り付けられる部分との間には、前記検出器の検出部よりも線膨張係数の大きい異材部を設け、
前記温度調整媒体噴射手段は、前記異材部に前記温度調整媒体を噴射することを特徴とする請求項1又は2に記載の回転軸の回転角度検出装置。
【請求項4】
少なくとも前記検出器が取り付けられる部分は、前記被検出部と熱膨張係数が同じ材料で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転軸の回転角度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−218703(P2007−218703A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38640(P2006−38640)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】