説明

基板処理装置

【課題】膜厚分布を均一化するとともに、放電電極における反射電力を抑制することを目的とする。
【解決手段】所定の周波数の高周波電力を位相変調して出力する高周波電源部17a,17bと、基板を支持する対向電極3と、高周波電源部から出力された高周波電力が供給され、高周波電力により対向電極との間にプラズマを形成する放電電極と、夫々が異なるインピーダンスに設定された複数の整合回路20a〜20dを有し、高周波電源部側のインピーダンスに放電電極側のインピーダンスを整合させる整合器13と、高周波電力の供給時に、複数の前記整合回路のうち、位相変調により変動する放電電極側のインピーダンスが高周波電源部側のインピーダンスに整合する整合回路を選択する選択手段22とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板処理装置に関し、特に、プラズマを用いて基板に処理を行う基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池パネルに用いられるシリコン薄膜の生産効率向上の要請に伴い、高品質なシリコン薄膜を高速且つ大面積で製膜するようになりつつある。このような大面積(例えば、基板面積が1m以上の大きさ)の基板に対して、プラズマ化学蒸着(Plasma enhanced Chemical Vapor Deposition:PCVD)によりシリコン薄膜を製膜する装置として、プラズマCVD装置が知られている。
【0003】
プラズマCVD装置は、例えば、図10に示すように、その真空室内に、製膜対象であるガラス基板97が設置される対向電極90、対向電極90に向い合うように配設される放電電極94を備え、真空室内又は外に放電電極94に対して所定の高周波電力を供給する高周波電源98を備えている。そして、高周波電源98から超高周波数の高周波電力を放電電極94に供給することで、真空室内部に供給したガスをプラズマ化して各種反応種を生成し、膜形成主要ラジカル種を対向電極90側に移動したものが基板97上に薄膜を形成する(例えば、特許文献1参照)。
このようなプラズマCVD装置では、高周波電源98と放電電極94とのインピーダンスが整合しないと、放電電極94の高周波電力給電端部で反射される反射電力が大きく、放電電極94に供給される実効パワーが低下して高周波電力の利用効率が低下したり、急に反射電力が大きくなる場合には高周波電源98を破損する等の不具合が生じる。このため、放電電極94と高周波電源98との間には、これらのインピーダンスを極力整合するようにする整合器93が設けられている。一般に、この種の整合器は、可変容量コンデンサ又は可変容量コイル等の可変リアクタンス素子を備え、サーボモータ等により可変リアクタンス素子の容量やインダクタンスを調節することで整合器のインピーダンスの値を調節して反射電力を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−286306号公報
【特許文献2】特開2001−257098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したプラズマCVD装置で、基板面積が1m以上の大きさに対応するには、図示しないフェーズシフターにより位相変調しながら放電電極に高周波電力を供給することで、放電電極発生する定在波による電圧分布を時間平均化して均一化することが好ましい(特許文献2:特開2001−257098号公報参照)。このプラズマCVD装置における整合器では、高周波電源から放電電極に対して位相変調しつつ高周波電力を供給した際に、その位相変調の周波数によっては、容量やインダクタンスを位相変調に追従させて調節することが出来ない。このため、例えば、高周波電力の位相がゼロとなる点をインピーダンスの整合点と定め、この整合点において、放電電極と高周波電源とのインピーダンスが整合するように、すなわち、放電電極での反射電力が最小となるように整合器の可変素子の容量を調節し、調節された値を固定している。容量が固定されると、整合点においてはインピーダンスが整合して反射電力が最小となるが、高周波電力の位相がゼロ以外の点においては反射電力が大きくなるという問題がある。換言すると、特定の位相の高周波電力が供給された場合には反射電力が小さくなるが、その他の位相の高周波電力が供給された場合には反射電力が大きくなるという問題があり、反射電力が大きい位相においては、高周波電力の利用効率が低下するだけでなく、反射波が急に増加すると高周波電源が破損する虞がある。また、放電電極の位置によって位相に対応した反射電力が異なるため、放電電極内の各位置において入力電力と反射電力との差である実効パワーが異なり、膜厚分布にばらつきを生じるという問題もある。
【0006】
ここで、「整合」とは、放電電極からの高周波反射電力が最小もしくは最小と見なせる十分に小さい状態をいう。また「最小もしくは最小とみなせる十分に小さい状態」とは、反射電力が進行電力の数%以下の状態であり、好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下となる状況を示している。すなわち、整合するとは、放電電極のインピーダンスに完全に一致させて、反射電力をゼロにする状態のみならず、反射電力が最小もしくは最小とみなせる十分に小さい状態(整合に近い状態)をも含む。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、膜厚分布を均一化するとともに、放電電極における反射電力を抑制することができる基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、所定の周波数の高周波電力を位相変調して出力する高周波電源部と、基板を支持する対向電極と、前記高周波電源部から出力された高周波電力が供給され、該高周波電力により前記対向電極との間にプラズマを形成する放電電極と、夫々が異なるインピーダンスに設定された複数の整合回路を有し、前記高周波電源部側のインピーダンスに前記放電電極側のインピーダンスを整合させる整合器と、前記高周波電力の供給時に、複数の前記整合回路のうち、前記位相変調の複数の位相に対して変動する前記放電電極側のインピーダンスが前記高周波電源部側のインピーダンスに整合する整合回路を選択する選択手段と、を備えた基板処理装置を提供する。
【0009】
本発明によれば、放電電極への高周波電力の供給時に複数の位相に対して、夫々が異なるインピーダンスに設定された複数の整合回路から少なくとも1つの整合回路を選択して適切な整合回路へ切り替えるので、供給される高周波電力が位相変調されることによって放電電極側のインピーダンスが時々刻々と変動しても、放電電極側のインピーダンス変動に追従させて、即ち、高周波電力の位相に応じて、高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスを整合させることができる。これにより、例えば、特定の位相ではインピーダンスが整合しない等の不具合が抑制され、高周波電力の位相等に拘わらず、反射電力を抑制することができる。また、プラズマ分布のより均一化が行なわれ膜厚分布や膜質分布が改善される。
【0010】
なお、整合回路の選択は、複数の整合回路から高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとが最も整合する1つの整合回路を選択することができる他、いくつかの整合回路を組み合わせることにより、高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとを整合させることとしてもよい。
【0011】
本発明は、所定の周波数の高周波電力を異なる位相に切り替えて出力する高周波電源部と、基板を支持する対向電極と、前記高周波電源部から出力された高周波電力が供給され、該高周波電力により前記対向電極との間にプラズマを形成する放電電極と、夫々が異なるインピーダンスに設定された複数の整合回路を有し、前記高周波電源部側のインピーダンスに前記放電電極側のインピーダンスを整合させる整合器と、前記高周波電力の複数の位相に応じて、複数の前記整合回路のうち、前記放電電極側のインピーダンスが前記高周波電源部側のインピーダンスに整合する整合回路を選択する選択手段と、を備えた基板処理装置を提供する。
【0012】
本発明によれば、夫々が異なるインピーダンスに設定された複数の整合回路から少なくとも1つの整合回路を選択して適切な整合回路へ切り替えるので、供給される高周波電力の位相に応じて放電電極側のインピーダンスが変動しても、高周波電力の複数の位相に応じて高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスを整合させることができる。これにより、例えば、特定の位相ではインピーダンスが整合しない等の不具合が抑制され、高周波電力の位相等に拘わらず、反射電力を抑制することができる。また、プラズマ分布のより均一化が行なわれ膜厚分布や膜質分布が改善される。
【0013】
上記した本発明の基板処理装置において、前記高周波電源部と前記整合器との間の電圧、電流及び電圧電流間の位相差を検出する検出器、または一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相差を検出する検出器を備え、前記選択手段が、前記検出器による検出結果に基づいて前記整合回路を選択することが好ましい。
【0014】
このようにすることで、前記高周波電源部と前記整合器間の検出器で検出した電圧、電流及び電圧電流間の位相差から、即時に整合器と放電電極の合成インピーダンスを演算し、前記合成インピーダンスから選択している前記整合回路のインピーダンスを引くことで放電電極側のインピーダンスを演算又は予測することができ、演算又は予測結果に基づいて、複数の整合器から高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとを整合させる整合回路を選択することができる。または前記高周波電源部と前記整合器間の検出器で検出した、一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相差から、予め取得しておいた高周波電力位相差−放電電極インピーダンスの関係に基づいて、複数の整合器から高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとを整合させる整合回路を選択することができる。これにより、高周波電力に応じて高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとを整合させることができるので、高周波電力の位相等に拘わらず、反射電力を抑制することができる。
【0015】
本発明は、所定の周波数の高周波電力を位相変調して出力する高周波電源と、基板を支持する対向電極と、前記高周波電源から出力された高周波電力が供給され、該高周波電力により前記対向電極との間にプラズマを形成する放電電極と、インピーダンスが可変であり、前記高周波電源側のインピーダンスに前記放電電極側のインピーダンスを整合させる可変整合器と、前記高周波電力の供給時に、前記位相変調により変動する前記放電電極側のインピーダンスが前記高周波電源側のインピーダンスに整合するように前記可変整合器のインピーダンスを可変制御する制御手段と、を備えた基板処理装置を提供する。
【0016】
本発明によれば、放電電極への高周波電力の供給時に、放電電極側のインピーダンスが高周波電源側のインピーダンスに整合するように可変整合器のンピーダンスを可変制御するので、供給される高周波電力が位相変調されることによって放電電極側のインピーダンスが時々刻々と変動しても、放電電極側のインピーダンス変動に追従させて、高周波電力の位相に応じて、高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスを整合させることができる。これにより、例えば、特定の位相ではインピーダンスが整合しない等の不具合が抑制され、高周波電力の位相等に拘わらず、反射電力を抑制することができる。
【0017】
本発明は、所定の周波数の高周波電力を異なる位相に切り替えて出力する高周波電源部と、基板を支持する対向電極と、前記高周波電源部から出力された高周波電力が供給され、該高周波電力により前記対向電極との間にプラズマを形成する放電電極と、インピーダンスが可変であり、前記高周波電源部側のインピーダンスに前記放電電極側のインピーダンスを整合させる可変整合器と、前記高周波電力の位相に応じて、前記放電電極側のインピーダンスが前記高周波電源部側のインピーダンスに整合するように前記可変整合器のインピーダンスを可変制御する制御手段と、を備えた基板処理装置を提供する。
【0018】
本発明によれば、放電電極側のインピーダンスが高周波電源部側のインピーダンスに整合するように可変整合器のンピーダンスを可変制御するので、供給される高周波電力の位相に応じて放電電極側のインピーダンスが変動しても、高周波電力の位相に応じて高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスを整合させることができる。これにより、例えば、特定の位相ではインピーダンスが整合しない等の不具合が抑制され、高周波電力の位相等に拘わらず、反射電力を抑制することができる。
【0019】
上記した本発明の基板処理装置において、前記高周波電源部と前記整合器との間の電圧、電流及び電圧電流間の位相差を検出する検出器、または一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相差を検出する検出器を備え、前記制御手段が、前記検出器による検出結果に基づいて前記整合器を可変制御することが好ましい。
【0020】
このようにすることで、前記高周波電源部と前記整合器間の検出器で検出した電圧電流及び電圧電流間の位相差から、即時に整合器と放電電極の合成インピーダンスを演算し、前記合成インピーダンスから選択している前記整合回路のインピーダンスを引くことで放電電極側のインピーダンスを演算又は予測することができ、演算又は予測結果に基づいて、高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとが整合するように可変整合器のインピーダンスを可変制御することができる。または前記高周波電源部と前記整合器間の検出器で検出した、一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相差から、予め取得しておいた高周波電力位相差−放電電極インピーダンスの関係に基づいて、高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとが整合するように可変整合器のインピーダンスを可変制御することができる。これにより、高周波電力に応じて高周波電源部側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとを整合させることができるので、高周波電力の位相等に拘わらず、反射電力を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、膜厚分布や膜質分布を均一化するとともに、放電電極における反射電力を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる薄膜製造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態にかかる薄膜製造装置の一部を示す部分斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態にかかる放電電極に対する電力の供給等を説明する概略図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に適用される整合器の概略構成を説明する概略図である。
【図5】本発明の第1の実施形態において、高周波電源から出力された高周波電力が位相変調されて供給されたときに、放電電極側のインピーダンスが変動し得る範囲を示したスミスチャートである。
【図6】本発明の第1の実施形態の変形例において、高周波電源から出力された高周波電力が位相変調されて供給されたときに、放電電極側のインピーダンスが変動し得る範囲を示したスミスチャートである。
【図7】本発明の第1の実施形態及び第1の実施形態の変形例にかかる薄膜製造装置において、整合器に長さの異なる複数の給電線路を設けた場合の参考図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に適用される整合器の概略構成を説明する概略図である。
【図9】本発明の第2の実施形態及び第2の実施形態の変形例にかかる薄膜製造装置において、整合器に長さの異なる複数の給電線路を設けた場合の参考図である。
【図10】従来の薄膜製造装置にかかる概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
基板処理装置として、アモルファス太陽電池や微結晶太陽電池や液晶ディスプレイ用TFT(Thin Film Transistor)などに用いられる非晶質シリコン、微結晶シリコン、窒化シリコン等からなる膜の高速製膜処理を行うことが可能な薄膜製造装置、基板の表面処理を行うプラズマ装置の他、大面積のプラズマ処理が必要な表面改質装置やオゾナイザ等、真空から大気圧の広い圧力領域でのプラズマ生成装置などが挙げられる。本実施形態においては、基板処理装置の一例として、薄膜製造装置、特にプラズマCVD製膜装置について説明する。
【0025】
図1乃至図4に示すように、薄膜製造装置1は、製膜室6、対向電極2、均熱板5、均熱板保持機構11、放電電極3、防着板4、支持部7、高周波電源部17a,17b、同軸給電部12a,12b、整合器13at〜13ht,13ab〜13hb(以下、全ての整合器を示すときは単に符号「13」を付し、各整合器を示すときは符号「13at」、「13ab」等を付す。)、モニタ21、整合回路選択部22、高真空排気部31、低真空排気部35及び台37を備えている。なお、本図において、ガス供給に関する構成は省略している。
【0026】
製膜室6は、真空容器であり、その内部で基板8に微結晶シリコン膜などを製膜する。製膜室6は、台37上で鉛直方向に対してθ=7度〜12度傾けて保持されている。このため、対向電極2の基板8の製膜処理面の法線が、水平方向に対して7度〜12度上に向く。基板8を鉛直方向から僅かに傾けることは、装置の設置スペースの増加を抑えながら基板8の自重を利用して少ない手間で基板8を保持し、更に基板8と対向電極2の密着性を向上して基板8の温度分布と電位分布を均一化することが出来て好ましい。
【0027】
対向電極2は、基板8を保持可能な保持手段(図示せず)を有する非磁性材料の導電性の板である。セルフクリーニングを行う場合は耐フッ素ラジカル性を備えることが好ましく、ニッケル合金やアルミやアルミ合金の板を使用することが望ましい。対向電極2は、放電電極3に対向する電極(例えば、接地側電極)となる。対向電極2は、一方の面が均熱板5の表面に密接し、製膜時に他方の面が基板8の表面と密接するようになっている。
【0028】
均熱板5は、内部に温度制御された熱媒体を循環したり、または温度制御されたヒーターを組み込むことで、自身の温度を制御して、全体を概ね均一な温度とし、接触している対向電極2の温度を所定温度に均一化する機能を有する。ここで、熱媒体は、非導電性媒体であり、水素やヘリウムなどの高熱伝導性ガス、フッ素系不活性液体、不活性オイル、及び純水等が使用でき、特に、150℃〜250℃の範囲でも圧力が上がらずに制御が容易であることから、フッ素系不活性液体(例えば商品名:ガルデン、F05など)の使用が好適である。
【0029】
均熱板保持機構11は、均熱板5及び対向電極2を製膜室6の側面(図1の右側)に対して略平行となるように保持するとともに、均熱板5、対向電極2および基板8を、放電電極3に接近離間可能に保持する。また、均熱板保持機構11は、製膜時に均熱板5等を放電電極3に接近させて、基板8を放電電極3から、例えば3mmから20mmの範囲内に位置させることができる。
【0030】
防着板4は、接地されプラズマの広がる範囲を抑えることにより、膜が製膜される範囲を制限するものであり、電極3における対向電極2と反対側の空間を覆うように支持部7で保持されている。本実施形態の場合、図1に示すように、製膜室6の内側における防着板4の後ろ側(基板8と反対の側)の壁に膜が製膜されないようにしている。
【0031】
支持部7は、製膜室6の側面(図1における左側の側面)から内側へ垂直に延びる部材であり、支持部7は防着板4と結合され、放電電極3における対向電極2と反対側の空間を覆うように防着板4を保持している。また、支持部7は放電電極3と絶縁的に結合され、放電電極3を製膜室6の側面(図1における左側の側面)に対して略平行に保持している。
【0032】
高真空排気部31は、粗引き排気された製膜室6内の気体をさらに排気して、製膜室6内を高真空とする高真空排気用の真空ポンプである。弁32は、高真空排気部31と製膜室6との経路を開閉する弁である。低真空排気部35は、初めに製膜室6内の気体を排気して、製膜室6内を低真空とする粗引き排気用の真空ポンプである。弁34は、低真空排気部35と製膜室6との経路を開閉する。台37は、上面に配置された保持部36を介して製膜室6を保持するものである。台37の内部には低真空排気部35が配置される領域が形成されている。低真空排気部35は必ずしも台37の内部にある必要は無く、機側に設けても良く、さらに排気口は高真空排気部31と同様に製膜室6の上部から排気してもよい。
【0033】
図2に示すように、放電電極3は、二本の横電極の間に設けられた各棒状の縦電極を略平行に組み合わせて構成されている。なお、放電電極3を、更に複数の電極単位に分割構成しても良い。放電電極3を分割構成する場合は、好ましくは給電点の数に合わせて分割形成する。放電電極3は、本実施の形態では、例えば、8個の放電電極3a〜3hを備えており、各放電電極3a〜3hは、互いに略平行にY方向へ伸びる二本の横電極と、二本の横電極20の間に設けられ互いに略平行にX方向へ伸びる複数の棒状の縦電極とを備えている(図示せず)。ただし、放電電極の数は必ずしも8個ではなく、これよりも多い場合と少ない場合があり、特に限定されるものではない。
【0034】
放電電極3aの両端には給電点53,54が設けられ、給電点53側には、整合器13atと、高周波給電伝送路14aと、同軸給電部12aと、熱媒体供給管15aおよび原料ガス配管16aが設けられている。また、また、給電点54側には、整合器13abと、高周波給電伝送路14bと、同軸給電部12bと、熱媒体供給管15bおよび原料ガス配管16bが設けられている。
【0035】
同様に、放電電極3b〜3hのそれぞれに対して、その両端に給電点53,54が設けられ、各放電電極3b〜3hの給電点53側には、整合器13at〜13htと、高周波給電伝送路14aと、同軸給電部12aと、熱媒体供給管15aおよび原料ガス配管16aがそれぞれ設けられている。また、給電点54側には、整合器13ab〜13hbと、高周波給電伝送路14aと、同軸給電部12bと、熱媒体供給管15bおよび原料ガス配管16bがそれぞれ設けられている。なお図2においては、図を見やすくするために整合器13at,13ab,13htのみを表示し、他の整合器の表示を省略している。
【0036】
図3に示すように、同軸給電部12a,12bは、整合器13から供給される高周波電力を放電電極3へ供給するものである。同軸給電部12a,12bは、一方を放電電極3a〜3hに電気的に接続され、他方を整合器13に電気的に接続されている。
【0037】
熱媒体供給管15bは、図2に示すように、整合器13ab〜13hbに対して熱媒体供給装置(図示せず)から熱媒体を供給する。供給された熱媒体は同軸給電部12bを介して放電電極3a〜3hへ供給される。そして、熱媒体は放電電極3a〜3hから同軸給電部12aを介して整合器13at〜13htに流入し、整合器13at〜13htから熱媒体供給管15aを介して熱媒体供給装置(図示せず)へ送出される。熱媒体は上述のように、下側の整合器13ab〜13hbから上側の整合器13at〜13htへ向って流されることが好ましい。このように流すことで滞留箇所や未到達の箇所が発生することなく、熱媒体を放電電極3内に行き渡らせることができるからである。
【0038】
放電電極3a〜3hの温度調節を行う場合、同軸給電部12a,12bは、例えば、その円管の中心部分に設けた細管を用いて熱媒体を通し、その周辺部を用いて電力を給電することが可能である。放電電極3の給電点54(後述)側へ熱媒体を供給し、放電電極3の給電点53(後述)側から熱媒体供給装置へ熱媒体を送出する。熱媒体の温度を熱媒体供給装置で制御することで、放電電極3の温度を所望の温度に制御して製膜室6内のヒートバランスを適切に保つことができる。これにより、基板8の表裏温度差に伴うソリ変形を抑制することができる。
【0039】
整合器13は、何れも出力側のインピーダンスを調節することにより、後述する高周波電源17a,17bのインピーダンスと放電電極3のインピーダンスとを整合するものであり、高周波電源17a,17bから供給された高周波電力に対してインピーダンスを整合して、高周波給電伝送路14a,14b、同軸給電部12a,12bを介して高周波電力を放電電極3へ送電する。
【0040】
以下、整合器13について図3〜図5を参照して説明する。
図4に示すように、整合器13は、夫々が異なるインピーダンスに設定された複数の整合回路を備えている。以下、本実施の形態においては、整合器13が4つの整合回路20a〜20dを備えているものとして説明する。なお、整合器13は4つに限定したものでなく、4つ以上でも以下でもよい。整合器13が取りうるインピーダンスの範囲の大きい場合には特定インピーダンスを多く、逆に整合器13が取りうるインピーダンスの範囲が小さい場合には特定インピーダンスを少なくできる。本実施形態では、整合器13が取りうるインピーダンスの範囲を4つに特定のインピーダンスに振り分けている。
【0041】
整合回路20a〜20dは、例えば、コンデンサやインダクタ等を備え、高周波電源17a,17bから高周波電力が位相変調されつつ出力された場合に、変動する放電電極側のインピーダンスのうち、特定のインピーダンス4つを整合させて放電電極に対する反射電力が最小となるように、予め夫々が互いに異なるインピーダンスに設定されている。
【0042】
整合回路20a〜20dのインピーダンスの設定は、例えば、以下のように行うことができる。まず、図5に示すように、高周波電力の位相が0度である場合に反射電力が0となる、もしくは反射電力が進行電力の5%以下、さらに好ましくは3%以下で反射電力が0とみなせるような場合を基準として、高周波電源17a,17bから出力された高周波電力が位相変調されて供給されたときに、放電電極側のインピーダンスが変動し得る範囲を予め把握する。続いて、この範囲から整合点としてインピーダンスの代表値を整合回路20a〜20dと同数、即ち4つ定め、この代表値を中心に夫々が重複しないように、放電電極側のインピーダンスが変動し得る範囲を4つの範囲に分割し、各範囲を整合回路20a〜20dのそれぞれに割り当てる。更に、各整合回路20a〜20dが、整合点として定めた4つの放電電極側のインピーダンスと高周波電源側のインピーダンスとが最も整合するように、即ち、反射電力が最小、もしくは最小と見なせる反射電力が十分に小さい状態となるように、そのコンデンサ又はインダクタの容量又はインピーダンスを設定する。これにより、反射電力が進行電力の5%以下、さらに好ましくは3%以下となる。
尚、整合回路20a〜20dの内部構成は特に限定されるものでなく、可変コンデンサ、可変インダクタ等を組み合わせることにより、整合回路20a〜20dが、整合点として定めた4つの放電電極側のインピーダンスと高周波電源側のインピーダンスとが最も整合するように設定されればよい。
【0043】
図5に示す例では、高周波電源17a,17bと整合器13との間の検出器21で検出した電圧電流及び電圧電流間の位相差から、整合器と放電電極の合成インピーダンスを演算し、合成インピーダンスから選択している整合回路のインピーダンスを引くことで放電電極側のインピーダンスを演算する。検出により導出した放電電極側のインピーダンスをスミスチャートにプロットすることで放電電極側のインピーダンスが変動し得る範囲を予め把握し、把握した範囲を(1)〜(4)の4つの範囲に分割し、このうち(1)の範囲を整合回路20aに、(2)の範囲を整合回路20bに、(3)の範囲を整合回路20cに、(4)の範囲を整合回路20dに夫々割り当てる。各整合回路20a〜20dに対して割り当てられる放電電極のインピーダンスの範囲は、インピーダンスをZ=R+jXとした場合に、Rの範囲とXの範囲とで定義することができ、以下の表1のようになる。
【0044】
【表1】

【0045】
モニタ21は、整合器13と後述する高周波電源17a,17bとの間に設けられ、整合器13と高周波電源17a,17bとの間の、位相変調によって変動する電圧V、電流I及び電圧電流間の位相差θを検出し、検出した電圧V、電流I及び電圧電流間の位相差θを整合回路選択部22に出力する。
【0046】
整合回路選択部22は、高周波電力の供給時に、整合回路20a〜20dのうち、高周波電力が位相変調されることにより変動する放電電極側のインピーダンスが定めたインピーダンス(RおよびX)範囲に該当する整合回路を選択する。即ち、整合回路選択部22は、モニタ21で検出した電圧V、電流I及び電圧電流間の位相差θに基づいて、以下の数1式により整合器と放電電極の合成インピーダンスを演算し、合成インピーダンスから選択している整合回路のインピーダンスを引くことで放電電極側のインピーダンスを演算し、演算された放電電極側のインピーダンスが定めたインピーダンスの範囲(1)〜(4)の何れの範囲に最も該当するかを判定する。そして、判定結果から、該当する範囲に割り当てられた整合回路を選択する。整合器13では、選択された整合回路が、高速に瞬時に整合回路を切り替えて、高周波給電伝送路14a,14b及び同軸給電部12a,12bと接続される。
【0047】
【数1】

【0048】
なお、整合回路の切り替えは、整合回路選択部22によって行ってもよく、また別途デジタルリレーなどのスイッチング回路を設け、整合回路選択部22から何れの整合回路を選択したかに係る信号を、スイッチング回路に出力することで行ってもよい。高速に瞬時に整合回路を切り替えるにあたり、切り替え時間は位相変調の周期の1/10以下が好ましく、例えば10μS以下が好ましい。
【0049】
高周波電源17a,17bは高周波電力、例えばVHF(Very High Frequency:30MHzから300MHz)の周波数帯域の高周波電力、より好ましくは40MHzから100MHz程度の周波数を有する高周波電力を供給するものである。また、高周波電源17a,17bは、供給する高周波電力の周波数を変動可能に、例えば、60MHzの高周波電源においては、周波数を58.5MHzから59.9MHz、または、60.1MHzから61.5MHzのように変動可能に構成されている。
【0050】
放電電極3a〜3hの給電点53には、図3に示すように、高周波電源17aから高周波電力が供給され、給電点54には、高周波電源17bから高周波電力が供給される。図1に示すように、電極3a〜3hと平行な位置には、基板8を乗せる対向電極2が配置され、電極3a〜3hと対向電極2との間には、高周波電力が給電されることによりプラズマが生成される。
【0051】
具体的には、高周波電源17aから、高周波給電伝送路14a、整合器13at〜13ht、同軸給電部12aを介して放電電極3a〜3hの給電点53にそれぞれ高周波電力が供給される。同様に、高周波電源17bから高周波給電伝送路14b、整合器13ab〜13hb、同軸給電部12bを介して放電電極3a〜3hの給電点54にそれぞれ高周波電力が供給される。さらに、給電点53と給電点54の近傍に接続された原料ガス配管16aと16bから原料ガスが供給される。そして、各放電電極3a〜3hは、図2中の矢印に示す方向(対向電極側)へ略均一に原料ガスを放出し、プラズマで分解して膜形成主要ラジカル種を生成することで、基板8に膜を製膜する。
【0052】
さらに、高周波電源17aと高周波電源17bは、図示しないフェーズシフター等の位相変調器が電気的に接続されており、一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を可変とすることで位相変調を行いつつ所定の周波数を有する高周波電力を供給する。これにより、放電電極3a〜3h上に生成される定在波が動き、高周波電力を供給している間の時間平均的に電圧を平均化させることができる。従って、放電電極3a〜3から放出される膜形成主要ラジカル種も平均化され、製膜された膜厚と膜質が均一化される。
【0053】
次に、上記の構成からなる薄膜製造装置1において、高周波電源17a,17bから高周波電力を出力した場合について説明する。薄膜製造装置1が起動すると、高周波電源17a,17bにより所定の周波数の高周波電力が位相変調されつつ出力される。出力された高周波電力の電圧V、電流I及び電圧電流間の位相差θは、モニタ21により検出され、検出結果が整合回路選択部22に出力される。
【0054】
整合回路選択部22では、電圧V、電流I及び電圧電流間の位相差θに基づいて即時に放電電極側のインピーダンスを演算し、演算結果から何れの整合回路20a〜20dが最適であるかを判定する。すなわち、演算したインピーダンスが、各整合回路20a〜20dに設定されたインピーダンスの範囲に該当するかを判断することで、最適な整合回路を選択する。選択された整合回路は、デジタルリレーによる高速スイッチング回路などにより高周波給電伝送路14a,14b、及び同軸給電部12a,12bと接続され、これにより、高周波電源17a,17bからの高周波電力は、高周波給電伝送路14a,14b、整合器13、及び同軸給電部12a,12bを介して放電電極3a〜3hへ供給される。
【0055】
このように、整合器13に複数の整合回路20a〜20dを設け、整合回路20a〜20dの夫々に対して異なるインピーダンス選定範囲を設定することで、高周波電力が位相変調されることにより放電電極側のインピーダンスが変動しても、この変動に追従させて反射波を低く抑えることができる整合回路を選択することができる。これにより、各整合回路では、高周波電力の位相によらず、高周波電源側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとを整合させることができる。従って、インピーダンスを整合させた位相では反射電力が小さいだけでなく、少し変動した位相においても反射電力が大きくなる前に別の整合点に切り替える。放電電極に対して位相変調しながら高周波電力を供給した場合においても、高周波電力の位相によって反射電力が急増することがなく、全ての位相に対して反射波電力を低く抑えるとともに、時間平均的に反射電力を低減させることができる。
【0056】
尚、本実施形態においては、モニタ21によって電圧V、電流I及び電圧電流間の位相差θを検出し、これらの値に基づいて即時に放電電極側のインピーダンスを演算し、整合回路を選択する構成としたが、このような構成に限られることはない。例えば、一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相差Δθを検出する位相モニタを設ける、又は、高周波電源の変調信号外部出力などにより位相差Δθを検出し、整合回路選択部においては、検出した位相差Δθに基づいて、複数の整合回路から位相差Δθに追従させて最も適切な整合回路を選択する構成とすることができる。この場合、各整合回路に対しては、例えば、以下の表2のように代表する位相θを選定し,その代表値を含めた位相θの適用範囲を予め取得した高周波電力位相差-放電電極インピーダンスの関係より定めることができ、整合回路を構成する各素子は、高周波電力がこの代表値の位相に該当するときに反射電力が最も小さくなる、もしくは最も小さくなると見なせる十分に小さい状態となり、反射電力が進行電力の5%以下、さらに好ましくは3%以下となるような容量又はインピーダンスに設定する。
【0057】
【表2】

【0058】
〔第1の実施形態の変形例〕
次に、上記した本発明の第1の実施形態に対する変形例について説明する。本変形例は、高周波電源から高周波電力を供給する場合に、位相変調を行わず、異なる位相の高周波電力を段階的に切り替えて供給するものであり、整合回路を複数備えている点で上記した第1の実施形態と共通する。このため、上記第1の実施形態の説明に用いた図面を参照して説明する。
【0059】
本変形例の場合、整合回路のインピーダンスは以下のように設定する。即ち、まず、第1の実施形態と同様に、高周波電源17a,17bのうち一方から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相差を段階的に切り替えて供給されたときに、各位相差高周波電力出力時の放電電極側のインピーダンスを予め把握する(図5、図6参照)。続いて、各位相において反射電力が最小となる整合点、もしくは最も小さくなると見なせる十分に反射電力が小さい状態の整合点を整合回路20a〜20dのそれぞれに割り当てる。これにより、整合点では反射電力が進行電力の5%以下、さらに好ましくは3%以下となる。
【0060】
本実施形態においては、例えば、図6のように、高周波電力の位相が180度のときは整合回路20aが、位相が90度のときは整合回路20bが、位相が0度の時は整合回路20cが、位相が−90度のときは整合回路20aが夫々高周波電源側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとを整合させるようになっている。
【0061】
また、整合器13と後述する高周波電源17a,17bとの間に、モニタ21に代えて一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相差Δθを検出する位相モニタを設け、検出した位相差Δθを整合回路選択部22に出力する。整合回路選択部22では、位相モニタからの出力である位相差Δθに基づいて、その位相において何れの整合回路が最適であるかを判断し、選択する。そして、選択した整合回路への切替信号を整合器13へ直接出力することで整合回路を切り替える。なお、切替信号を整合器13へ直接出力せずに、別途デジタルリレーなどのスイッチング手段を設けることで素早く整合回路の切替を行ってもよい。
【0062】
薄膜製造装置1が起動すると、高周波電源17a,17bにより所定の周波数の高周波電力が一方の高周波電力位相を基準として所定の位相差Δθで出力される。出力された高周波電力の位相差Δθは、位相モニタにより検出され、検出結果が整合回路選択部22に出力される。整合回路選択部22では、位相差Δθに基づいて即時に何れの整合回路20a〜20dが最適であるかを判定する。すなわち、検出された位相差Δθが、各整合回路20a〜20dに割り当てられた位相の何れに該当するかを判断することで、最適な整合回路を選択する。選択された整合回路は高周波給電伝送路14a,14b、及び同軸給電部12a,12bと切り替えて接続され、これにより、高周波電源17a,17bからの高周波電力は、高周波給電伝送路14a,14b、整合器13、及び同軸給電部12a,12bを介して放電電極3a〜3hへ供給される。
【0063】
なお、基板への製膜は、その膜質を均一に保つために、異なる位相差の高周波電力の供給と供給停止を繰り返して行うことが好ましい。例えば、位相差180度の高周波電力を供給して供給を停止、位相差90度の高周波電力を供給して供給を停止、位相差0度の高周波電力を供給して供給停止、最後に位相差−90度の高周波電力を供給して供給停止というパターンを繰り返し行うことが好ましい。そして、高周波電力の供給の際に、位相差に応じて整合回路20a〜20dを選択して切り替える。
【0064】
このように、整合器13に複数の整合回路20a〜20dを設け、整合回路20a〜20dの夫々に対して異なるインピーダンスを設定することで、高周波電力が位相差を段階的に切り替えて供給されることにより放電電極側のインピーダンスが変動しても、この変動に追従させて整合回路を選択することができる。これにより、各整合回路では、高周波電力の位相によらず、高周波電源側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとを整合、もしくは整合に近い状態にさせることができる。従って、放電電極に対して位相を切り替えて高周波電力を供給した場合においても、高周波電力の位相によって反射電力が急増することがなく、切り替えて供給する全ての位相差に対して反射波電力を低く抑えるとともに、時間平均的に反射電力を低減させることができる。
【0065】
尚、本実施形態に対して、例えば、図7のように、整合器に長さの異なる複数の給電線路を設け、給電線路によって変動する放電電極側のインピーダンスを整合させるようなインピーダンスに設定された複数の整合回路を接続する。高周波電源から供給する高周波電力の位相差を固定しても、給電線路の長さが切り替えられることにより、位相差を調整することができるため、何れの給電線路を選択するかに応じて最も適切な整合回路を選択することで、放電電極側のインピーダンスと高周波電源側のインピーダンスとを整合、もしくは整合に近い状態にさせることができる。
【0066】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について図8を参照して説明する。
本実施形態の薄膜製造装置が第1の実施形態と異なる点は、整合器13が複数の整合回路20a〜20dに代えてインピーダンスが可変である可変整合回路24を備えると共に、可変整合回路24が設けられたことに伴って整合回路選択部22に代えて可変整合回路24を可変制御する可変制御部25を備える点である。以下、本実施形態の薄膜製造装置ついて、第1の実施形態及びその変形例と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0067】
図8に示すように、本実施形態の整合器13は、可変整合回路24を備えている。可変整合回路24は、例えば、可変コンデンサ、可変インダクタ等の可変リアクタンス素子を少なくとも一つ備え、そのインピーダンスが可変であり、高周波電源部側のインピーダンスに放電電極側のインピーダンスを整合させる。可変制御部25は、高周波電力の供給時に、位相変調により変動する放電電極3側のインピーダンスが高周波電源部17a,17b側のインピーダンスに整合するように可変整合回路24のインピーダンスを可変制御する。
【0068】
このように構成された薄膜製造装置において、薄膜製造装置1が起動すると、高周波電源17a,17bにより所定の周波数の高周波電力が位相変調されつつ出力される。出力された高周波電力の電圧V、電流Iおよび電圧電流間の位相差Δθは、モニタ21により検出され、検出結果が可変制御部25に出力される。
【0069】
可変制御部25では、電圧V、電流Iおよび電圧電流間の位相差Δθに基づいて即時に整合器と放電電極の合成インピーダンスを演算し、合成インピーダンスから整合回路のインピーダンスを引くことで放電電極側のインピーダンスを演算し、演算したインピーダンスに可変制御するための制御信号を整合回路24に出力する。可変整合回路24は、制御信号を受けて可変制御部25で演算されたインピーダンスとなるように、可変容量リアクタンス素子を駆動する。これにより、高周波電源17a,17b側のインピーダンスと放電電極3側のインピーダンスが整合する。
【0070】
このように、整合器13にインピーダンスが可変である可変整合回路24を設けることで、高周波電力が位相変調されることにより放電電極側のインピーダンスが変動しても、この位相差の変動に対して整合回路のインピーダンスを演算から算出した値へ可変制御することができるので、放電電極側のインピーダンスに変動追従させることができる。これにより、各整合回路では、高周波電力の位相によらず、高周波電源側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとを整合、もしくは整合に近い状態にさせることができる。従って、放電電極に対して位相変調しながら高周波電力を供給した場合においても、高周波電力の位相によって反射電力が急増することがなく、時間平均的に反射電力を低減させることができる。
特に、整合回路に設けられる可変リアクタンス素子の応答が遅い場合であっても、例えば、セルフクリーニング時など位相変調を低速(低周波数)で行う場合には、放電電極側のインピーダンスの変動に追従できるよう整合回路のインピーダンスを可変制御することができる。
【0071】
〔第2の実施形態の変形例〕
次に、上記した本発明の第2の実施形態に対する変形例について説明する。本変形例は、高周波電源から高周波電力を供給する場合に、位相変調を行わず、異なる位相の高周波電力を段階的に切り替えて供給するものであり、整合回路を複数備えている点で上記した第1の実施形態と共通する。このため、上記第2の実施形態の説明に用いた図面を参照して説明する。
【0072】
本変形例では、整合器13と後述する高周波電源17a,17bとの間に、モニタ21に代えて一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相差Δθを検出する位相モニタを設けている。薄膜製造装置1が起動すると、高周波電源17a,17bにより所定の周波数の高周波電力が一方の高周波電力位相を基準として所定の位相差Δθで出力される。出力された高周波電力の位相差Δθは、位相モニタにより検出され、検出結果が可変制御部25に出力される。可変制御部25では、位相モニタからの出力である位相差Δθに基づいて、その位相差に対して最適なインピーダンスを判定し、整合回路24をそのインピーダンスに可変制御するための制御信号を整合回路24に出力する。可変整合回路24は、制御信号を受けて可変制御部25で演算されたインピーダンスとなるように、可変容量リアクタンス素子を駆動する。これにより、高周波電源17a,17b側のインピーダンスと放電電極3側のインピーダンスが整合する。
【0073】
このように、整合器13にインピーダンスが可変である可変整合回路24を設けることで、高周波電力が位相差を段階的に切り替えて供給されることにより放電電極側のインピーダンスが変動しても、この変動に追従させて整合回路のインピーダンスを可変制御することができる。これにより、可変整合回路では、高周波電力の位相によらず、高周波電源側のインピーダンスと放電電極側のインピーダンスとを整合、もしくは整合に近い状態にさせることができる。従って、放電電極に対して位相を切り替えて高周波電力を供給した場合においても、高周波電力の位相によって反射電力が急増することがなく、時間平均的に反射電力を低減させることができる。
特に、整合回路に設けられる可変リアクタンス素子の応答が遅い場合であっても、例えば、セルフクリーニング時など位相変調を低速(低周波数)で行う場合には、放電電極側のインピーダンスの変動に追従できるよう、整合回路のインピーダンスを可変制御することができる。
【0074】
なお、基板への製膜は、その膜質を均一に保つために、異なる位相差の高周波電力の供給と供給停止を繰り返して行うことが好ましい。例えば、位相差180度の高周波電力を供給して供給を停止、位相差90度の高周波電力を供給して供給を停止、位相差0度の高周波電力を供給して供給停止、最後に位相差−90度の高周波電力を供給して供給停止というパターンを繰り返し行うことが好ましい。そして、高周波電力の供給の際に、位相差に応じて整合回路24を可変制御する。
【0075】
尚、本実施形態に対して、例えば、図9のように、整合器内に長さの異なる複数の給電線路を設け、給電線路によって変動する放電電極側のインピーダンスを整合させるように可変制御される可変整合回路に接続する。高周波電源から供給する高周波電力の位相を固定しても、給電線路の長さが切り替えられることにより、位相を調整することができるため、何れの給電線路を選択するかに応じて可変整合器を可変制御することで、放電電極側のインピーダンスと高周波電源側のインピーダンスとを整合、もしくは整合に近い状態にさせることができる。
【符号の説明】
【0076】
2 対向電極
3a〜3h 放電電極
13at〜13ht,13ab〜13hb 整合器
17a,17b 高周波電源
20a〜20d 整合回路
21 モニタ
22 整合回路選択部
24 可変整合回路
25 可変制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数の高周波電力を位相変調して出力する高周波電源部と、
基板を支持する対向電極と、
前記高周波電源部から出力された高周波電力が供給され、該高周波電力により前記対向電極との間にプラズマを形成する放電電極と、
夫々が異なるインピーダンスに設定された複数の整合回路を有し、前記高周波電源部側のインピーダンスに前記放電電極側のインピーダンスを整合させる整合器と、
前記高周波電力の供給時に、複数の前記整合回路のうち、前記位相変調の複数の位相に対して変動する前記放電電極側のインピーダンスが前記高周波電源部側のインピーダンスに整合する前記整合回路を選択する選択手段と、
を備えた基板処理装置。
【請求項2】
所定の周波数の高周波電力を異なる位相に切り替えて出力する高周波電源部と、
基板を支持する対向電極と、
前記高周波電源部から出力された高周波電力が供給され、該高周波電力により前記対向電極との間にプラズマを形成する放電電極と、
夫々が異なるインピーダンスに設定された複数の整合回路を有し、前記高周波電源部側のインピーダンスに前記放電電極側のインピーダンスを整合させる整合器と、
前記高周波電力の複数の位相に応じて、複数の前記整合回路のうち、前記放電電極側のインピーダンスが前記高周波電源部側のインピーダンスに整合する前記整合回路を選択する選択手段と、
を備えた基板処理装置。
【請求項3】
前記高周波電源部と前記整合器との間の、電圧、電流及び電圧電流間の位相差を検出する検出器、または一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相差を検出する検出器を備え、
前記選択手段が、前記検出器による検出結果に基づいて前記整合回路を選択する請求項1又は請求項2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
所定の周波数の高周波電力を位相変調して出力する高周波電源部と、
基板を支持する対向電極と、
前記高周波電源部から出力された高周波電力が供給され、該高周波電力により前記対向電極との間にプラズマを形成する放電電極と、
インピーダンスが可変であり、前記高周波電源部側のインピーダンスに前記放電電極側のインピーダンスを整合させる可変整合器と、
前記高周波電力の供給時に、前記位相変調により変動する前記放電電極側のインピーダンスが前記高周波電源部側のインピーダンスに整合するように前記可変整合器のインピーダンスを可変制御する制御手段と、
を備えた基板処理装置。
【請求項5】
所定の周波数の高周波電力を異なる位相に切り替えて出力する高周波電源部と、
基板を支持する対向電極と、
前記高周波電源部から出力された高周波電力が供給され、該高周波電力により前記対向電極との間にプラズマを形成する放電電極と、
インピーダンスが可変であり、前記高周波電源部側のインピーダンスに前記放電電極側のインピーダンスを整合させる可変整合器と、
前記高周波電力の位相に応じて、前記放電電極側のインピーダンスが前記高周波電源部側のインピーダンスに整合するように前記可変整合器のインピーダンスを可変制御する制御手段と、
を備えた基板処理装置。
【請求項6】
前記高周波電源部と前記整合器との間の、電圧、電流及び電圧電流間の位相差を検出する検出器、または一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相差を検出する検出器を備え、
前記制御手段が、前記検出器による検出結果に基づいて前記整合器を可変制御する請求項4又は請求項5に記載の基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−38123(P2011−38123A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183534(P2009−183534)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】