説明

基板処理装置

【課題】基板の周端面への処理液の回り込みを制御することができる基板処理装置を提供する。
【解決手段】基板処理装置は、基板Wを水平姿勢で保持して鉛直な回転軸線Cまわりに回転するスピンチャック1と、基板Wの上面に処理液を供給する処理液ノズル2,3と、リング部材10とを含む。リング部材10は、基板Wの周端面に回転半径外方から隙間を開けて対向する対向面を有し、この対向面に気体吐出口110を有している。スピンチャック1には、基板Wの周縁部下面に密接し、かつ気体吐出口110よりも下方においてリング部材10に密接する周縁シール部材21を有している。スピンチャック1は、センターチャック7と、回転ベース8とを有している。回転ベース8に形成された不活性ガス経路68空、気体吐出口110への不活性ガスが供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を水平姿勢で回転させ、その基板に処理液を供給する基板処理装置に関する。処理の対象となる基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
基板を一枚ずつ処理する枚葉型の基板処理装置は、たとえば、基板を水平姿勢で保持して回転させるスピンチャックと、このスピンチャックに保持された基板に対して処理液(薬液またはリンス液)を供給する処理液ノズルとを備えている。このような基板処理装置を用いた基板処理は、たとえば、薬液処理工程、リンス工程および乾燥工程を含む。薬液処理工程では、スピンチャックに保持された基板に薬液が供給される。薬液は、基板上で遠心力を受けて基板表面の全域に広がる。リンス工程では、スピンチャックに保持された基板に純水(脱イオン水)などのリンス液が供給される。リンス液は、基板上で遠心力を受けて基板表面の全域に広がる。これにより、基板表面の薬液がリンス液に置換される。乾燥工程では、スピンチャックが高速(たとえば3000rpm〜4000rpm)で回転される。これにより、基板表面のリンス液が遠心力によって振り切られる。
【0003】
薬液処理工程では、基板表面に供給された薬液が、基板の周端面を伝って基板の裏面(下面)回り込む場合がある。たとえば、酸性薬液のように強い腐食性の薬液が用いられると、基板の下面が腐食されるおそれがある。そこで、特許文献1の先行技術では、基板の下面周縁部とスピンチャックの回転ベースの上面との間にリップパッキンを配置し、このリップパッキンによって基板下面の中央部への処理液の進入を防止している。また、特許文献2の先行技術では、基板の下面に対向するステージからガスを吹き出して、基板下面とステージとの間に形成されるガス流によって基板下面へのエッチング液の進入を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−206485号公報
【特許文献2】特開2008−282938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2の先行技術では、処理液は基板の周端面に至るので、周端面の腐食が望ましくない場合には、適用することができない。
たとえば、シリコンウエハ等を薬液(とくにエッチング液)によって薄型化する処理では、シリコンウエハと支持基板(たとえばガラス基板)とを貼り合わせた貼合せ基板が処理対象の基板となる。このような貼合せ基板の処理に特許文献1,2の先行技術を適用すると、シリコンウエハだけでなく支持基板の周端面に薬液が及ぶから、支持基板が周端面から腐食されて縮小するおそれがある。そのため、コスト削減のために支持基板を複数枚のシリコンウエハに対して繰り返し用いると、その大きさが徐々に小さくなり、ついには使用不可能なほど小さくなってしまう。したがって、支持基板の使用回数が少なくなるから、生産コストの削減効果が制限される。
【0006】
そこで、この発明の目的は、基板の周端面への処理液の回り込みを制御することができる基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、基板(W)を水平姿勢で保持する基板保持手段(1)と、前記基板保持手段を鉛直な回転軸線まわりに回転させる基板回転手段(5)と、前記基板保持手段に保持された基板の上面に処理液を供給する処理液ノズル(2,3)と、前記基板保持手段に保持された基板の周端面に回転半径外方から隙間(107)を開けて対向する対向面(106)を有し、この対向面に気体吐出口(110)を有するリング部材(10)と、前記基板保持手段に備えられ、当該基板保持手段に保持された基板の周縁部下面に密接し、かつ前記気体吐出口よりも下方において前記リング部材に密接する周縁シール部材(21)と、前記気体吐出口へと気体を供給する気体供給手段(67,68)とを含む、基板処理装置である。なお、括弧内の英数字は後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。以下、この項において同じ。
【0008】
この構成によれば、基板の周端面、リング部材の対向面および周縁シール部材によって囲まれた空間に、前記対向面に形成された気体吐出口から気体が導入される。これにより、この空間を加圧できるので、基板の上面に供給された処理液が入り込み難くなる。その結果、基板の周端面への処理液の回り込みを制御できる。
前記気体吐出口は、基板よりも下方において、前記対向面に開口していることが好ましい。これにより、基板の周端面への処理液の回り込みをより確実に制御できる。
【0009】
前記基板は、処理液によって上面を処理すべきウエハと、このウエハの下面に貼り合わされた支持基板とを含む貼合せ基板であってもよい。この場合、処理液が支持基板の周端面に達することを抑制または防止できるので、支持基板が処理液による腐食を受けることを回避できる。したがって、複数枚のウエハに対して支持基板を繰り返し用いることによって、基板処理のコストを低減することができる。また、ウエハと支持基板とを接着剤層で貼り合わせている場合に、接着剤層が処理液によって腐食されることを併せて回避できる。
【0010】
前記処理液は、基板の上面(たとえば、前記貼合せ基板におけるシリコンウエハの上面)をエッチングするためのエッチング液であってもよい。
また、前記気体供給手段は、不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段(67,68)を含んでいてもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス、乾燥空気等を例示できる。
請求項2記載の発明は、前記リング部材の対向面が、前記基板の上面に供給された処理液の液膜が前記基板の上面から前記対向面まで繋がるように設定された前記隙間を開けて前記基板保持手段に保持された基板の周端面に対向するように配置されている、請求項1に記載の基板処理装置である。この構成によれば、基板の周端面、リング部材の対向面および周縁シール部材に加えて処理液の液膜によって囲まれた空間に、前記対向面に形成された気体吐出口から気体が導入される。これにより、当該空間内の圧力を高めて、処理液に働く重力に抗して、当該処理液の基板周端面への回り込みを抑制または防止できる。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記気体供給手段が、前記基板保持手段に保持された基板の周端面、前記対向面および前記周縁シール部材によって囲まれた空間内の気圧が大気圧よりも大きくなるように前記気体吐出口に気体を供給する、請求項1または2に記載の基板処理装置である。これにより、基板の周端面とリング部材の対向面との隙間への処理液の進入を効果的に抑制または防止できる。とくに、請求項2の発明の特徴と組み合わせられる場合に、加圧された気体によって、液膜を重力に抗して支持することができるので、基板周端面への処理液の回り込みを抑制または防止できる。
【0012】
前記気体供給手段は、前記空間内の気圧が、大気圧よりも予め定めた微差圧(たとえば、100Pa〜300Pa)だけ大きくなるように前記気体吐出口に気体を供給するように構成されていることが好ましい。さらに、具体的には、前記気体供給手段は、前記空間内の気圧が、前記処理液の液膜が破れず、かつ、重力に抗して当該液膜が支持されるように調節された圧力となるように、前記気体吐出口に気体を供給するように構成されていることが好ましい。これにより、安定な液膜によって基板の上面を周縁領域まで均一に処理することができ、かつ、基板の周端面への処理液の回り込みを制御できる。
【0013】
請求項4記載の発明は、前記リング部材の表面が疎水性表面である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板処理装置である。この構成により、基板周端面とリング部材の対向面との間の隙間への処理液の進入を、リング部材の表面の物理的特性によっても制御することができる。
請求項5記載の発明は、前記気体吐出口が、前記基板保持手段に保持された基板の周端面の全周に渡って連続するように開口したスリット状開口である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板処理装置である。この構成により、基板の周端面の全周から気体を供給できるから、基板の周端面とリング部材の対向面との隙間への処理液の入り込みをより一層効果的に抑制または防止できる。
【0014】
請求項6記載の発明は、前記リング部材が、前記基板保持手段に固定されており、当該基板保持手段と一体的に回転するように構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板処理装置である。この構成により、基板の回転中であっても、基板の周端面とリング部材の対向面との隙間を安定に保持できる。したがって、この隙間への気体の導入によって、基板の周端面への処理液の回り込みをより一層確実に制御できる。
【0015】
前記リング部材は、前記基板保持手段に保持された基板の上面よりも高い上面を有していてもよい。これにより、遠心力による処理液の流れをリング部材によって規制できるので、処理液による基板上面の処理を促進できる。その一方で、基板周端面への処理液の回り込みを制御できる。
請求項7記載の発明は、前記基板保持手段が、基板の下面に対向する吸着面(11a)を有する吸着保持部材(11)を含み、前記吸着保持部材の前記吸着面と基板との間の空気を吸引することによって、基板を当該吸着面に吸着させて保持するように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の基板処理装置である。この構成によれば、基板の下面を吸着保持部材で吸着して保持できるので、基板の周端面の全域をリング部材の対向面に対向させることができ、したがって、それらの間の隙間を基板の全周に渡って一様にできる。これにより、当該隙間への気体の導入によって、基板周端面への処理液の回り込みを一層効果的に制御できる。
【0016】
請求項8記載の発明は、前記基板保持手段が、前記リング部材を保持した回転ベース(8)をさらに含み、前記吸着保持部材を前記回転ベースに対して上下動させる昇降手段(35)をさらに含む、請求項7に記載の基板処理装置である。この構成により、吸着保持部材をリング部材に対して上下動させることができるので、未処理基板を基板搬送ロボットから吸着保持部材に搬入したり、処理済み基板を吸着保持部材から基板搬送ロボットによって搬出したりすることができる。処理液によって基板を処理するときには、基板の周端面がリング部材の対向面に対向する高さに基板を配置することによって、基板の周端面への処理液の回り込みを制御できる。
【0017】
前記回転ベースに気体経路(68)が形成されており、この気体経路が前記気体吐出口に結合されていてもよい。このような気体経路は、途中で、吸着保持部材と回転ベースとの間の隙間(64)に分岐していてもよい。この場合、回転ベースと吸着保持部材とが接近したときに、それらの間をシールするベースシール部材(18)がさらに備えられていることが好ましい。この構成では、回転ベースと吸着保持部材とが離間しているときは、それらの間の隙間に気体経路からの気体が吹き出すことで、回転駆動機構その他の機構部内への処理液の進入を防ぐことができる。また、回転ベースと吸着保持部材とが接近したときには、それらの間の隙間が狭められ、かつ前記ベースシール部材によって当該隙間が閉空間となる。したがって、リング部材の気体吐出口へと加圧された気体を供給できる。
【0018】
前記気体経路の途中には、蓄圧空間を提供するバッファ部(66,69,111)が設けられていてもよい。このようなバッファ部は、リング部材の内部に形成されていてもよい。リング部材の内部に形成されるバッファ部の容積は、バッファ部から気体吐出口までの気体経路(109)の容積よりも大きいことが好ましい。たとえば、気体吐出口がスロット状である場合、バッファ部から気体吐出口までの気体経路は、リング部材の全周に渡って連続していてもよい。この場合、バッファ部が全周に渡って連続していてもよく、その周方向横断面積(たとえば、周方向のいたるところで一様)は、当該連続状の気体経路の周方向横断面積(たとえば、周方向のいたるところで一様)よりも大きいことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】この発明の一実施形態に係る基板処理装置の構成を説明するための図解的な縦断面図であり、前記基板処理装置の上方部分を示す。
【図1B】前記実施形態に係る基板処理装置の構成を説明するための図解的な縦断面図であり、図1Aに示された構成の下方に連なる下方部分を示す。
【図2】リング部材の近傍の構成を拡大して示す断面図である。
【図3】前記基板処理装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図4A】前記基板処理装置による基板の処理工程を示す図解的な断面図である。
【図4B】図4Aの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図4C】図4Bの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図4D】図4Cの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図4E】図4Dの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図4F】図4Eの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図4G】図4Fの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図4H】図4Gの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図4I】図4Hの次の工程を示す図解的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1Aおよび図1Bは、この発明の一実施形態に係る基板処理装置の構成を説明するための図解的な縦断面図であり、図1Aは上方部分を示し、図1Bは図1Aに示された構成の下方に連なる下方部分を示す。この基板処理装置は、シリコンウエハにおけるデバイス形成面(表面)とは反対側の主面(裏面)からのエッチングによって、シリコンウエハを薄型化(シンニング)する用途に用いることができる。処理対象の基板は、この実施形態では、シリコンウエハと支持基板とを貼り合わせた貼合せ基板である。より具体的には、シリコンウエハのデバイス形成面(表面)が接着剤によって支持基板の主面に貼り付けられることによって、貼合せ基板が作製されている。支持基板は、たとえば、ガラス基板からなり、シリコンウエハと実質的に同等の半径を有する円形基板である。支持基板を用いることによって、シリコンウエハの変形および破損を抑制または防止しながら、その吸着保持および搬送を行うことができる。シリコンウエハの薄型化のために用いられるエッチング液は、たとえば、フッ硝酸(フッ酸硝酸混合液)であってもよいし、バッファードフッ酸であってもよい。以下の説明では、一例として、フッ硝酸をエッチング液として用いたウエハ薄型化処理について説明する。
【0021】
基板処理装置は、スピンチャック1と、薬液ノズル2と、第1リンス液ノズル3と、第2リンス液ノズル4と、回転駆動機構5を含む。スピンチャック1は、前述の貼合せ基板である基板Wを水平姿勢で保持して、基板Wの中心を通る鉛直な回転軸線Cまわりに回転可能な基板保持手段である。スピンチャック1は、この実施形態では、シリコンウエハが上方に位置し、支持基板が下方に位置する姿勢で貼合せ基板を保持する。すなわち、基板Wの上面は、シリコンウエハの裏面である。回転駆動機構5は、スピンチャック1に対して回転力を与えて回転軸線Cまわりに回転させるものであり、この実施形態では、電動モータを含む。薬液ノズル2は、スピンチャック1に保持された基板Wの上面(シリコンウエハの裏面)にエッチング液を供給するもので、この実施形態では、スリット状のエッチング液吐出口を有するスリットノズルで構成されている。第2リンス液ノズル3は、スピンチャック1に保持された基板Wの上面に向けてリンス液を供給するように構成されている。第2リンス液ノズル4は、スピンチャック1に保持された基板Wの下面周縁部に向けてリンス液を供給するように構成されている。典型的なリンス液は、純水(脱イオン水)である。
【0022】
スピンチャック1は、基板Wの下面中央部を吸着して基板Wを水平姿勢で保持するセンターチャック7(吸着保持部材)と、基板Wの下面周縁部を支持する回転ベース8とを含む。回転ベース8の周縁部には、リング部材10が固定されている。センターチャック7は、基板Wの下面中央部(支持基板の下面中央部)を吸着して保持する吸着ヘッド11と、吸着ヘッド11の下面中央に一体的に結合され、スピンチャック1の回転軸線Cに沿って鉛直下方に延びた円筒軸12とを含む。
【0023】
吸着ヘッド11は、円筒軸12の回転中心と同心の円板状に形成されており、その半径は、基板Wの半径よりも小さく、たとえば、基板Wの半径の4/5程度である。吸着ヘッド11の表面には、吸引溝13が形成されている。この吸引溝13は、吸着ヘッド11の中心から円筒軸12の内部に延びて形成された吸引路14に連通している。したがって、基板Wが吸着ヘッド11上に置かれた状態で吸引路14内を吸引することにより、基板Wを吸着ヘッド11の上面11aに吸着して保持することができる。吸着ヘッド11は、回転ベース8と一体的に回転するとともに、回転ベース8に対して上下動可能であるように構成されている。すなわち、吸着ヘッド11は、図1に示されている上面処理位置と、この上面処理位置よりも上方の下面周縁リンス位置と、この下面周縁リンス位置よりもさらに上方の受渡位置との間で昇降変位可能である。
【0024】
回転ベース8は、ほぼ円板状に形成されており、中央部の上面には、吸着ヘッド11を収容するための凹部15が形成されている。この凹部15は、吸着ヘッド11の平面視形状に整合する形状を有しており、たとえば吸着ヘッド11の平面視形状が円形であれば、凹部15は吸着ヘッド11よりも若干大きな半径の円形の平面視形状を有している。凹部15の底面15aには、環状の堰部材16が一体的に立設されている。吸着ヘッド11の下面11bには、堰部材16を収容できるように、堰部材16に整合した環状の溝17が形成されている。この環状の溝17の外側、すなわち、堰部材16の外側に対向する位置には、吸着ヘッド11の下面11bにベースシール部材18が取り付けられている。ベースシール部材18は、溝17を取り囲む環状に形成されており、吸着ヘッド11と回転ベース8とが接近した状態(図1の状態)において、堰部材16の外側で、凹部15の底面15aと吸着ヘッド11の下面11bとの間をシールし、その内外を液密および気密に区画する。
【0025】
回転ベース8は、凹部15の外側に環状に立ち上がった基板周縁保持部19を有し、さらにその外側の周縁部にリング保持部20を有している。基板周縁保持部19は、基板Wの下面周縁部に対向する対向面19aを有しており、この対向面19aの外側に周縁シール部材21を保持している。
基板Wを保持した吸着ヘッド11が図1に示す下位置にあるとき、基板Wの下面周縁部が周縁シール部材21を押し潰し、周縁シール部材21は、その復元力(弾性力)によって、基板Wの下面周縁部に押し付けられる。これにより、周縁シール部材21は、基板Wの下面に密接して、周縁シール部材21の内外の空間を液密および気密に区画する。リング保持部20には、リング部材10が保持されている。リング部材10は、ボルト22を用いてリング保持部20に固定されている。リング部材10の表面は、疎水性表面となっている。より具体的には、リング部材10は、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)等の疎水性の樹脂で構成されていてもよいし、フッ素樹脂コートされた疎水性表面を有する金属材料で構成されていてもよい。
【0026】
回転ベース8の下面には、回転軸25が一体的に結合されている。回転軸25は、スピンチャック1の回転軸線Cに沿って鉛直下方に延びている。回転軸25の上方部には、センターチャック7の円筒軸12を受け容れる円筒状の凹部24が形成されている。この凹部24の側壁には、キー23と係合するキー溝が鉛直方向に沿って形成されている。キー23は、センターチャック7の円筒軸12の外周面に固定されている。このように、回転ベース8とセンターチャック7とは、スプライン結合されている。
【0027】
回転軸25の途中部にフランジ26が形成されており、このフランジ26は、回転駆動機構5を構成する電動モータ27のロータ28に結合されている。電動モータ27は、ロータ28と、その外側に配置されたステータ29とを含む。ロータ28は、中空軸であり、その内側に回転軸25が挿通している。電動モータ27は、ケース30に収容されている。ケース30は、当該基板処理装置のベース部31によって支持されている。
【0028】
回転軸25の外側には、吸着ヘッド11を上下動させるための昇降駆動機構35が配置されている。昇降駆動機構35は、回転軸25を取り囲むように配置された昇降筒36と、昇降筒36を上下動させる複数のボールねじ機構37と、ボールねじ機構37を作動させるためのギヤ機構38と、駆動源としての電動モータ39とを含む。昇降筒36は、ボルト等の結合部材40によって円筒軸12(センターチャック7)と結合されており、円筒軸12と一体的に上下動する。回転軸25には、上下方向に延びる長穴41が上方部の側壁に形成されており、この長穴を結合部材40が挿通している。昇降筒36は、当該昇降軸36を取り囲むように配置された軸受け42の内輪に結合されている。軸受け42の外輪は、ボールねじ機構37のボールナット43に結合された筒状の連結部材44に固定されている。
【0029】
ボールねじ機構37は、ボールナット43と、鉛直方向に延びたねじ軸45とを含む。ねじ軸45が回転するとボールナット43が上下動し、この上下動が連結部材44および軸受け42を介して昇降筒36に伝達され、センターチャック7の上下動を引き起こす。ギヤ機構38は、ねじ軸45の下端に結合された歯車46と、この歯車46と噛合したリング歯車47と、これらを収容したギヤケース48とを含む。ギヤケース48は、ケース30の上面に固定されている。このギヤケース48には、ねじ軸45を回転自在に支持する軸受け49が固定されている。ギヤケース48は、平面視において回転軸25を取り囲む環状に形成されている。リング歯車47は、平面視において回転軸25を取り囲むリング状に形成されており、複数のボールねじ機構37のねじ軸45の下端に結合された歯車46の全てと噛合している。ギヤケース48上には、電動モータ39が支持されている。電動モータ39の駆動軸にはプーリ(図示せず)が固定されており、このプーリがリング歯車47に噛合している。したがって、電動モータ39を正転または逆転すると、リング歯車47が回転軸25のまわりで時計回り回転または反時計回り回転し、複数のボールねじ機構37のねじ軸45の同期回転を引き起こす。
【0030】
回転軸25は中空軸であり、その内部には、吸引管53が挿通されている。吸引管53の上端は、円筒軸12の下端部に形成された環状溝12aに入り込んでいる。環状溝12aは、センターチャック7の上下動ストローク以上の深さを有している。したがって、センターチャック7の上下動によらずに、円筒軸12内の吸引路14と吸引管53内の吸引路54との結合が維持されるようになっている。吸引管53の下端部は、ベース部31に固定されている。すなわち、吸引管53は、この実施形態では、回転も上下動もしない。吸引管53の下端は、ベース部31内に形成された吸引室55に開放している。この吸引室55内の空気は、吸引路56を介して真空装置57によって吸引されるようになっている。吸引路56には、吸引バルブ58が介装されている。
【0031】
ベース部31には、吸引管53の下端部近傍において開口した不活性ガス供給口60に連通する不活性ガス導入路61が形成されている。この不活性ガス導入路61には、不活性ガス供給源62からの不活性ガスが供給されるようになっている。不活性ガス供給源62と不活性ガス導入路61との間の不活性ガス経路には、不活性ガスバルブ63が介装されている。
【0032】
不活性ガス供給口60の上方には、回転軸25の下端部が位置している。回転軸25の下端部には、内径が拡大された大内径部65が設けられている。この大内径部65と吸引管53の外周面との間に、不活性ガスを蓄えて蓄圧するためのバッファ66(蓄圧室)が形成されている。このバッファ66は、上方に向けて断面積が狭まり、回転軸25の内周面と吸引管53の外周面との間に形成された不活性ガス経路67に連通している。この不活性ガス経路67は、鉛直上方に向かって延びており、円筒軸12に対向する位置で、この円筒軸12と回転ベース8との間の隙間に形成された不活性ガス経路64へと分岐し、さらに、回転ベース8内に形成された不活性ガス経路68へと連通している。
【0033】
薬液ノズル2は、水平方向に沿って延びる直方体状のノズル本体70を備えている。ノズル本体70の下面には、水平方向に沿って直線状に開口するスリット吐出口71が形成されている。スリット吐出口71の長さ(長手方向の大きさ)は、基板Wの直径よりも大きい。スリット吐出口71は、ノズル本体70の長手方向に沿う帯状にエッチング液を吐出する。
【0034】
ノズル本体70の一方側側面(図1Aに示す左面)には、長方形状の可撓性の第1シート72が鉛直姿勢で取り付けられている。また、ノズル本体70の他方側側面(図1Aに示す右面)には、長方形状の可撓性の第2シート73が鉛直姿勢で取り付けられている。第1および第2シート72,73のシート幅(基板Wの法線方向の長さ)は、その下端縁が吸着ヘッド11に支持された基板Wの上面(または、基板Wの上面に形成された処理液の液膜)に当接して、第1および第2シート72,73が撓む程度の値に設定されている。
【0035】
薬液ノズル2は、ほぼ水平に延びる第1アーム74に取り付けられている。この第1アーム74は、スピンチャック1の側方でほぼ鉛直に延びた第1アーム支持軸75に支持されている。第1アーム支持軸75には、第1揺動機構76が結合されており、この第1揺動機構76の駆動力によって、第1アーム支持軸75を回動させて、第1アーム74を揺動させることができるようになっている。これにより、薬液ノズル2から吐出される帯状のエッチング液の液膜が基板Wの上面を走査し、さらに、基板W上のエッチング液の液膜上を第1および第2シート72,73が走査する。
【0036】
薬液ノズル2には、スリット吐出口71に連通するエッチング液供給管77が接続されている。エッチング液供給管77には、エッチング液供給源からのエッチング液(たとえば、フッ硝酸)が供給されるようになっている。エッチング液供給管77の途中部には、エッチング液供給管77の流路を開閉するためのエッチング液バルブ78が介装されている。
【0037】
第1リンス液ノズル3は、たとえば連続流の状態でリンス液を吐出するストレートノズルであり、スピンチャック1の上方でほぼ水平に延びる第2アーム80の先端に下方を向けて取り付けられている。この第2アーム80は、スピンチャック1の側方でほぼ鉛直に延びた第2アーム支持軸81に支持されている。第2アーム支持軸81には、モータなどの第2揺動機構82が結合されており、この第2揺動機構82の駆動力によって、第2アーム支持軸81を回転させて、第2アーム80を揺動させることができるようになっている。第1リンス液ノズル3には、第1リンス液供給管83が接続されている。第1リンス液供給管83を通して第1リンス液ノズル3にリンス液供給源からリンス液(たとえば純水)が供給されるようになっている。第1リンス液供給管83の途中部には、第1リンス液供給管83の流路を開閉するための第1リンス液バルブ84が介装されている。
【0038】
第2リンス液ノズル4は、たとえば連続流の状態でリンス液を吐出するストレートノズルであり、スピンチャック1の上方でほぼ水平に延びる第3アーム86の先端に鉛直上方に対してたとえば約0〜30°傾斜した方向に向けて取り付けられている。この第3アーム86は、スピンチャック1の側方でほぼ鉛直に延びた第3アーム支持軸87に支持されている。第3アーム支持軸87には、モータなどの第3揺動機構88が結合されており、この第3揺動機構88の駆動力によって、第3アーム支持軸87を回転させて、第3アーム86を揺動させることができるようになっている。第2リンス液ノズル4は、基板Wの下面周縁部のリンス処理のときに、基板Wの下面周縁部に向けてリンス液を吐出する。
【0039】
第2リンス液ノズル4には、第2リンス液供給管89が接続されている。第2リンス液供給管89を通して第2リンス液ノズル4にリンス液供給源からリンス液が供給されるようになっている。第2リンス液供給管89の途中部には、第2リンス液供給管89の流路を開閉するための第2リンス液バルブ90が介装されている。
図2は、リング部材10の近傍の構成を拡大して示す断面図である。基板Wは、支持基板91とシリコンウエハ92とを接着剤層93で接着して構成されている。回転ベース8は、基板周縁保持部19の回転半径外方にリング保持部20を有しており、リング保持部20の表面は、基板周縁保持部19の表面(対向面19a)よりも低い。基板周縁保持部19とリング保持部20との間には、下方に向かうに従って回転半径内方に向かって傾斜する第1段差面95が形成されている。第1段差面95の下端は、水平な第1底面96に連なっている。第1底面96は、第1段差面95の下端から回転半径外方に向かって水平に延びている。この第1底面96の外側には、第2底面97が配置されている。第2底面97は第1底面96よりも低く、第1および第2底面96,97の間には、第2段差面98が形成されている。第2段差面98は、回転半径外方に向かって下り勾配の傾斜面となっている。第2底面97のさらに外方には、位置決めリング99が、リング保持部20の外周縁に沿って全周にわたって形成されている。位置決めリング99は、第2底面97から上方に突出している。
【0040】
第1段差面95と第1底面96とで囲まれた空間に周縁シール部材21が嵌め込まれており、第1段差面95および第1底面96に接している。周縁シール部材21は、たとえば、シリコンゴム等の弾性材料で一体的に形成されたリング状のリップパッキンからなり、本体101と、本体101の上部内縁に結合された環状リップ102とを有している。環状リップ102は、本体101の上部内縁から立ち上がり、さらに回転半径外方に向かって延びている。これにより、環状リップ102は、本体101の上方に、回転半径外方に向かって開放された空間103を区画している。環状リップ102は、基板Wが押し付けられることによって本体101に向かって弾性変形する。この変形した環状リップ102の復元力によって、環状リップ102の先端縁部が基板Wの下面周縁部に弾性的に当接し、これによって、周縁シール部材21の内方と外方とが液密および気密に区画(シール)される。環状リップ102は、基板Wが押し付けられて弾性変形したときに、その先端縁が平面視において基板Wの周端とほぼ一致するように設計されている。
【0041】
リング部材10は、その底面が第2底面97上に当接し、回転半径内方の下縁部が第2段差面98に当接し、回転半径外方の下縁部が位置決めリング99の内周面に当接している。そして、リング部材10は、周方向の複数箇所に配置されたボルト22によって、リング保持部20に固定されている。リング部材10は、回転半径内方に、対向面106を有している。対向面106は、内向きのほぼ円筒面に形成されており、基板Wの周端面に対して、隙間107を空けて対向するように設計されている。隙間107は、たとえば、0.5mm程度である。
【0042】
対向面106は、その上方領域において基板Wの周端面に隙間107を開けて対向し、その下方領域においては周縁シール部材21の本体101に対向し、この本体101に当接している。リング部材10の上面108は、保持された基板Wの上面よりも微小高さだけ上方に位置しており、それに応じて、対向面106の上方領域は、基板Wの上面よりも上方にまで延びている。また、対向面106の下方領域は、第2段差面98の傾斜と整合するように傾斜して、内方に向かってせり出した傾斜面となっており、周縁シール部材21の本体101を押し潰して弾性変形させている。したがって、リング部材10の対向面106と周縁シール部材21の本体101とは、本体101の復元力によって、液密および気密に密接している。
【0043】
対向面106において、基板Wの下面よりも下方に対応する位置には、気体吐出口110が形成されている。この実施形態では、気体吐出口110は、全周に亘って連続したスロット状(スリット状)に形成されており、周方向に直交する横断面が至るところで一様な開口である。気体吐出口110の内方には、リング部材10の内部にバッファ111(蓄圧室)が形成されている。バッファ111は、この実施形態では、リング部材10の全周に亘って連続した空間であり、かつ、周方向に直交する横断面が至るところで一様な空間である。周方向に直交する横断面において、バッファ111の断面積は、バッファ111から気体吐出口110に至る気体経路109の断面積よりも大きい。これにより、バッファ111に蓄えられて蓄圧された気体を気体吐出口110から安定に流出させることができる。バッファ111には、リング部材10に形成された気体流入路112が連通している。気体流入路112は、バッファ111の下方の底壁113を貫通し、回転ベース8に形成された不活性ガス経路68に連通している。これにより、不活性ガス経路68からバッファ111へと不活性ガスを供給できる。不活性ガス経路68の途中には、基板周縁保持部19の下方において、屈曲部が形成されており、この屈曲部にバッファ69(蓄圧室)が形成されている。
【0044】
吸着ヘッド11を上面処理位置(図1Aおよび図2に示す位置)としてスピンチャック1を回転させ、スピンチャック1に保持されている基板Wの上面に処理液(たとえば薬液。この実施形態ではフッ硝酸)を供給すると、この処理液は遠心力を受けて回転半径外方へと広がる。このとき、処理液の液膜120は、基板Wの周端面に至り、さらに隙間107を乗り越えて、リング部材10の上面108にまで連続する。このとき、気体吐出口110から気体を吐出させると、処理液の液膜120、基板Wの周端面、リング部材10の対向面106、および周縁シール部材21によって囲まれた空間121が加圧され、液膜120を重力に抗して支持する。これにより、液膜120は、シリコンウエハ92の半分程度の厚さの高さ位置に留まり、それよりも下方へは進入しない。すなわち、液膜120は、接着剤層93に達せず、したがって、その下方の支持基板91の周端面にも達しない。また、空間121に供給される気体によって、隙間107上の液膜120が破られることもない。このような状態は、たとえば、空間121の気圧が大気圧よりも微差圧(たとえば100Pa〜300Pa)程度高くなるように不活性ガスの供給を制御することによって実現される。
【0045】
図3は、前記基板処理装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この基板処理装置は、マイクロコンピュータを含む制御装置130を備えている。制御装置130は、回転駆動機構5、昇降駆動機構35(とくに駆動源である電動モータ39)、第1〜第3揺動駆動機構76,82,88、および真空装置57などの動作を制御する。また、制御装置130は、バルブ58,63,78,84,90の開閉を制御する。
【0046】
図4A〜4Iは、前記基板処理装置による基板Wの処理工程を順に示す図解的な断面図である。処理対象の基板Wが搬入される前の初期状態では、薬液ノズル2、第1リンス液ノズル3および第2リンス液ノズル4は、スピンチャック1の側方の退避位置に退避させられている。また、バルブ58,63,78,84,90は、いずれも閉じられている。また、真空装置57が作動状態にある。そして、図4Aに示すように、吸着ヘッド11(センターチャック7)は、中間位置である下面周縁リンス位置で基板Wの搬入を待機している。この状態で、搬送ロボット140は、未処理の基板Wを保持したハンドを、吸着ヘッド11の上方に進出させる。
【0047】
次いで、図4Bに示すように、制御装置130は、昇降駆動機構35の電動モータ39を駆動してセンターチャック7を上位置である受渡位置まで上昇させる。これにより、搬送ロボット140のハンドから吸着ヘッド11に基板Wが渡され、吸着ヘッド11の上面11aに基板Wが載置される。その後、制御装置130は吸引バルブ58を開いて吸着ヘッド11の吸引溝13内を吸引する。これにより、基板Wの下面中央部が、吸着ヘッド11の上面11aに吸着され、吸着ヘッド11上に基板Wが吸着保持される。
【0048】
次いで、図4Cに示すように、制御装置130は昇降駆動機構35の電動モータ39を駆動して、吸着ヘッド11(センターチャック7)を下位置である上面処理位置まで下降させる。
吸着ヘッド11が図4Cに示す上面処理位置に達する過程で、周縁シール部材21の環状リップ102に基板Wの下面周縁部が当接し、さらに上面処理位置に達するまでに、基板Wの下面周縁部は環状リップ102を圧縮して弾性変形させる。これにより、基板Wの下面周縁部と回転ベース8との間が気密および液密にシールされる。また、基板Wの下面周縁部に環状リップ102が密接するので、基板Wの下面周縁部も同時にシール(被覆)され、この領域が処理液等から保護された状態となる。
【0049】
また、吸着ヘッド11が上面処理位置に達する過程で、吸着ヘッド11の下面11bに配置されたベースシール部材18は、回転ベース8の凹部15の底面に接触し、さらに吸着ヘッド11が下位置に達するまでに、圧縮されて弾性変形する。これにより、吸着ヘッド11の下面11bと回転ベース8との間が液密および気密にシールされる。したがって、ベースシール部材18の内側において、回転ベース8と吸着ヘッド11との間の空間は、ベースシール部材18によって封止される。
【0050】
吸着ヘッド11が下位置まで達した後、制御装置130は回転駆動機構5を制御して、スピンチャック1(吸着ヘッド11および回転ベース8)を低速度(たとえば10rpm)で等速回転させる。また、制御装置130は不活性ガスバルブ63を開く。これにより、回転軸25と吸引管53との間の不活性ガス経路67を通り、さらに、回転ベース8内に形成された不活性ガス経路68を通って、リング部材10へと不活性ガスが送り込まれる。このとき、回転ベース8と吸着ヘッド11との間がベースシール部材18によって封止されているので、回転ベース8およびセンターチャック7の間の隙間に形成された不活性ガス経路64への不活性ガスの流れはほとんど形成されない。なお、図示は省略するが、回転軸25に形成された長穴41は、シールパッキン(Oリングなど)等を用いた封止手段によって適切に封止されており、この長穴41を通る不活性ガスの流れは生じないようになっている。
【0051】
さらに、図4Dに示すように、制御装置130は、第1揺動機構76を駆動して、薬液ノズル2を基板Wの上方へと導く。薬液ノズル2が基板Wの上方に到達すると、制御装置130は、エッチング液バルブ78を開き、スリット吐出口71から帯状のプロファイルでエッチング液を吐出させる。制御装置130は第1揺動機構76を駆動して、薬液ノズル2を、基板Wの上方で往復揺動(往復スキャン)させる。これにより、基板Wの上面全域にエッチング液の液膜が形成される。薬液ノズル2とともに揺動される第1および第2シート72,73(図1A参照)は、基板W上の失活したエッチング液を掻き取る機能と、基板W上のエッチング液を均す機能とを有している。すなわち、シート72,73のうち薬液ノズル2よりも先行するシートは、失活したエッチング液を掻き取り、薬液ノズル2に後行するシートは、基板W上のエッチング液を均す。このようにして、シリコンウエハ92(図2参照)の上面をエッチング液の液膜によって均一にエッチングして、シリコンウエハ92の薄型化(シンニング)処理を行うことができる。
【0052】
また、基板Wの周縁部においては、図2を参照して前述したとおり、リング部材10の対向面106が隙間107を開けて基板Wの周端面に対向しており、その隙間107を跨いで連続する液膜120の下方の空間は、対向面106に開口された気体吐出口110から導入される気体(不活性ガス)によって、大気圧よりも微差圧だけ気圧の高い正圧空間となっている。これにより、エッチング液の液膜120は、シリコンウエハ92の周端面の上側領域に留まり、基板Wの接着剤層93や支持基板91の周端面に至らない。したがって、支持基板91からシリコンウエハ92が剥がれを回避し、かつ支持基板91の周端面の意図しないエッチングを回避しつつ、シリコンウエハ92の薄型化を行える。
【0053】
エッチング処理の開始(エッチング液の吐出開始)から予め定めるエッチング液処理時間(たとえば30分間)が経過すると、制御装置130は、エッチング液バルブ78を閉じ、薬液ノズル2からのエッチング液の吐出を停止させる。また、制御装置130は、第1揺動機構76を駆動して、薬液ノズル2をスピンチャック1の側方の退避位置に退避させる。
【0054】
次いで、制御装置130は、第2揺動機構82を駆動して、第1リンス液ノズル3を基板Wの周縁部の上方へと導く。そして、制御装置130は、図4Eに示すように、スピンチャック1(吸着ヘッド11および回転ベース8)の回転速度を低速度(たとえば10rpm)に維持したまま、第1リンス液バルブ84を開いて、第1リンス液ノズル3から基板Wの上面の周縁部に向けてリンス液を吐出させる。吐出されたリンス液は、基板Wの上面全域に行き渡り、これによって、基板W上のエッチング液がリンス液に置換される(リンス処理)。このときも、基板Wの周端面とリング部材10との間の隙間107に跨がってリンス液の液膜が形成され、この液膜は、その下方の加圧された空間によって支持され、接着剤層93や支持基板91(図2参照)には至らない。
【0055】
リンス処理の開始から予め定めるリンス時間(たとえば60秒間)が経過すると、制御装置130は、第1リンス液バルブ84を閉じ、第1リンス液ノズル3からのリンス液の吐出を停止する。また、制御装置130は、第2揺動機構82を駆動して、第1リンス液ノズル3をスピンチャック1の側方の退避位置に退避させる。
次いで、図4Fに示すように、スピンドライ処理(1回目のスピンドライ処理)が実行される。具体的には、制御装置130は、回転駆動機構5を制御して、スピンチャック1(吸着ヘッド11および回転ベース8)の回転速度を第1乾燥速度(3000rpm〜4000rpm程度)まで加速する。これによって、基板Wの上面に付着していたリンス液が遠心力によって振り切られる。スピンドライ処理の開始から予め定める第1乾燥処理時間(たとえば60秒間)が経過すると、制御装置130は、回転駆動機構5を制御して、スピンチャック1の回転を停止させる。スピンドライ処理の間も、不活性ガス経路68に不活性ガスを供給し、気体吐出口110からの不活性ガス吐出を継続することが好ましい。
【0056】
次に、図4Gに示すように、制御装置130は昇降駆動機構35の電動モータ39を駆動して、センターチャック7を中間位置である下面周縁リンス位置まで上昇させる。さらに、制御装置130は、回転駆動機構5を制御して、スピンチャック1(吸着ヘッド11および回転ベース8)を下面リンス速度(たとえば200rpm)で等速回転させる。また、制御装置130は、第3揺動機構88を駆動して、第2リンス液ノズル4を所定の処理位置まで移動させる。次いで、制御装置130は第2リンス液バルブ90を開き、第2リンス液ノズル4から基板Wの下面周縁部に向けてリンス液を吐出する。リンス液は、平面視において基板Wの回転方向に平行な方向(基板W下面のリンス液着液点を通る円周の接線方向)に向けて吐出されることが好ましい。基板Wの下面周縁部に供給されたリンス液は、基板Wの下面周縁部から基板Wの周端面および上面周縁部にまで回り込み、それらの部分を洗い流す(下面周縁リンス処理)。
【0057】
基板Wの下面周縁部に供給されたリンス液は、基板Wの下面周縁部を伝って回転方向に向けて移動しつつ、基板Wの下面周縁部から側方に向けて飛散する。したがって、第2リンス液ノズル4から基板Wに供給されたリンス液は、基板Wの回転半径内方にはほとんど向かわない。しかも、センターチャック7が下面周縁リンス位置にあるので、ベースシール部材18は、回転ベース8から離間している。そのため、吸着ヘッド11と回転ベース8との間の隙間に形成された不活性ガス経路64を通った不活性ガスが、吸着ヘッド11の円筒軸12から凹部15内に吹き出される。これにより、回転半径内方に液滴が向かうことを確実に抑制または防止できる。また、堰部材16は、回転ベース8の表面を伝って、リンス液が円筒軸12へと向かうことを阻止する。このようにして、回転駆動機構5やその他の機構部内への液体の浸入を抑制または防止できる。
【0058】
下面周縁リンス処理の開始から予め定める下面リンス時間(たとえば15秒〜30秒間)が経過すると、制御装置130は、第2リンス液バルブ90を閉じ、第2リンス液ノズル4からのリンス液の吐出を停止する。また、制御装置130は、第3揺動機構88を駆動して、第2リンス液ノズル4をスピンチャック1の側方の退避位置に退避させる。
次いで、制御装置130は回転駆動機構5を制御して、スピンチャック1(吸着ヘッド11および回転ベース8)の回転速度を第2乾燥速度(たとえば1500rpm程度)まで加速する。これにより、基板Wの下面周縁部に付着しているリンス液が遠心力によって振り切られ、基板Wがスピンドライ処理される(2回目のスピンドライ処理)。
【0059】
2回目のスピンドライ処理の開始から予め定める第2乾燥処理時間(たとえば30秒間)が経過すると、制御装置130は、回転駆動機構5を制御して、スピンチャック1の回転を停止させる。また、制御装置130は不活性ガスバルブ63を閉じる。さらに、制御装置130は、図4Hに示すように、昇降駆動機構35の電動モータ39を制御して、センターチャック7を受渡位置まで上昇させる。その後、制御装置130は、吸引バルブ58を閉じて、吸着ヘッド11の吸引溝13の吸引を停止させる。これにより、基板Wの吸着が解除される。その後、搬送ロボット140のハンドが、基板Wの下方に進出される。
【0060】
次いで、図4Iに示すように、制御装置130は、昇降駆動機構35を駆動して、センターチャック7を下面周縁リンス位置まで下降させる。これにより、吸着ヘッド11から搬送ロボット140のハンドに基板Wが引き渡される。その後、処理済みの基板Wが搬送ロボット140によって搬出され、基板Wに対する一連の処理が終了する。
以上のように、この実施形態によれば、処理液の液膜120、基板Wの周端面、リング部材10の対向面106および周縁シール部材21によって囲まれた空間121に、気体吐出口110から気体が導入される。これにより、この空間121を加圧できるので、基板Wの上面に供給された処理液(とくに薬液)が入り込み難くなる。その結果、基板Wの周端面への処理液の回り込みを制御できる。また、気体吐出口110は、スピンチャック1に保持された基板Wよりも下方において、対向面106に開口しているので、基板Wの周端面への処理液の回り込みを確実に制御できる。
【0061】
このように、基板Wの周端面への回り込みを制御できることにより、処理液(とくに薬液)が支持基板91の周端面に達することを抑制または防止できるので、支持基板91が処理液による腐食を受けることを回避できる。したがって、複数枚のシリコンウエハ92に対して支持基板91を繰り返し用いることによって、基板処理のコストを低減することができる。また、支持基板91とシリコンウエハ92とを接着する接着剤層93が処理液によって腐食されることを併せて回避できる。これにより、シリコンウエハ92が支持基板91から剥がれたり、接着剤層によって基板Wおよび基板処理装置が汚染されたりすることを回避できる。
【0062】
また、この実施形態で、リング部材10の対向面106と基板Wの周端面との間の隙間107の上方において、処理液の液膜120が繋がるように、隙間107が設計され、空間121の気圧が調整されている。これにより、処理液の液膜120を、重力に抗して支持でき、かつ液膜120が供給された気体によって破れることを抑制または防止できる。これにより、基板Wの上面をその周縁部分まで均一に処理することができ、かつ、基板Wの周端面への処理液の回り込みを制御できる。
【0063】
さらにまた、リング部材10の表面は疎水性表面であるので、リング部材10の表面の物理的特性によっても、リング部材の周端面への処理液の回り込みを制御できる。
また、気体吐出口110は、リング部材10の対向面106の全周にわたって連続するように開口したスリット状開口であるから、基板Wの周端面の全周に対応する一から連続した気体流を供給できる。これにより、基板Wの周端面とリング部材10の対向面106との隙間107への処理液の入り込みを効果的に抑制または防止できる。
【0064】
また、この実施形態では、リング部材10は回転ベース8に支持されていて、回転ベース8とセンターチャック7とはスプライン結合している。したがって、基板Wとリング部材10とは一体的に回転するから、基板Wの回転中であっても、基板Wの周端面とリング部材10の対向面106との隙間107を安定に保持できる。これにより、基板Wの周端面への処理液の回り込みを確実に制御できる。
【0065】
さらに、この実施形態においては、リング部材10は、スピンチャック1に保持された基板Wの上面よりも高い上面108を有している。これにより、遠心力による処理液の流れをリング部材10によって規制できるので、処理液による基板Wの上面の処理を促進できる。
また、基板Wは、吸着ヘッド11によって吸着して保持されるので、その周端面の全域をリング部材10の対向面106に対向させることができ、したがって、それらの間の隙間107を基板Wの全周に渡って一様にできる。これにより、当該隙間107への気体の導入によって、基板周端面への処理液の回り込みを一層効果的に制御できる。
【0066】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、不活性ガスの供給経路にバッファ66,69,111が配置されているが、これらのうちの一つまたは二つが省かれてもよく、また、全てのバッファが省かれてもよい。むろん、さらに別のバッファを不活性ガスの供給経路に追加してもよい。さらに、前述の実施形態では、下面周縁リンス処理を行う例を示したが、基板Wの周端面への処理液の回り込みを制御できるので、下面周縁リンス処理は必ずしも必要ではなく、省かれてもよい。したがって、下面周縁リンス処理のための第2リンス液ノズル4およびそれに関連する構成を省いてもよい。また、前述の実施形態では、センターチャック7が、上面処理位置、下面周縁リンス位置および受渡位置の3つの高さ位置の間で変化する例を示したが、下面周縁リンス処理を省く場合には、センターチャック7は、上面処理位置と受渡位置との2つの位置の間での上下動するように制御されてもよい。また、必要に応じて、4つ以上の高さ位置で停止するようにセンターチャック7を制御してもよい。また、前述の実施形態では、吸着ヘッド11の下面と回転ベース8の上面との間をシールするベースシール部材18が備えられているが、このベースシール部材18は省かれてもよい。さらに、前述の実施形態では、シリコンウエハの薄型化処理(シンニング)を例示したが、この発明は、他の処理を行う基板処理装置にも適用できる。したがって、処理対象の基板は、貼合せ基板である必要はなく、単一固体の基板であってもよい。また、処理液を供給するノズルは、処理の種類に応じて選択されればよく、前述の薬液ノズル2のようなスリット吐出口71を有するものに限らず、処理液の連続流を棒状に吐出する通常のストレートノズルであってもよい。
【0067】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0068】
W 基板
C 回転軸線
1 スピンチャック
2 薬液ノズル
3 第1リンス液ノズル
4 第2リンス液ノズル
5 回転駆動機構
7 センターチャック
8 回転ベース
10 リング部材
11 吸着ヘッド
11a 上面
11b 下面
12 円筒軸
12a 環状溝
13 吸引溝
14 吸引路
15 凹部
15a 底面
16 堰部材
17 環状の溝
18 ベースシール部材
19 基板周縁保持部
19a 対向面
20 リング保持部
21 周縁シール部材
22 ボルト
23 キー
24 凹部
25 回転軸
26 フランジ
27 電動モータ
28 ロータ
29 ステータ
30 ケース
31 ベース部
35 昇降駆動機構
36 昇降筒
37 ボールねじ機構
38 ギヤ機構
39 電動モータ
40 結合部材
41 長穴
42 軸受け
43 ボールナット
44 連結部材
45 ねじ軸
46 歯車
47 リング歯車
48 ギヤケース
49 軸受け
53 吸引管
54 吸引路
55 吸引室
56 吸引路
57 真空装置
58 吸引バルブ
60 不活性ガス供給口
61 不活性ガス導入路
62 不活性ガス供給源
63 不活性ガスバルブ
64 不活性ガス経路
65 大内径部
66 バッファ
67 不活性ガス経路
68 不活性ガス経路
69 バッファ
70 ノズル本体
71 スリット吐出口
72 第1シート
73 第2シート
74 第1アーム
75 第1アーム支持軸
76 第1揺動機構
77 エッチング液供給管
78 エッチング液バルブ
80 第2アーム
81 第2アーム支持軸
82 第2揺動機構
83 第1リンス液供給管
84 第1リンス液バルブ
86 第3アーム
87 第3アーム支持軸
88 第3揺動機構
89 第2リンス液供給管
90 第2リンス液バルブ
91 支持基板
92 シリコンウエハ
93 接着剤層
95 第1段差面
96 第1底面
97 第2底面
98 第2段差面
99 位置決めリング
101 本体
102 環状リップ
103 空間
106 対向面
107 隙間
108 上面
109 気体経路
110 気体吐出口
111 バッファ
112 気体流入路
113 底壁
120 処理液の液膜
121 空間
130 制御装置
140 搬送ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を水平姿勢で保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段を鉛直な回転軸線まわりに回転させる基板回転手段と、
前記基板保持手段に保持された基板の上面に処理液を供給する処理液ノズルと、
前記基板保持手段に保持された基板の周端面に回転半径外方から隙間を開けて対向する対向面を有し、この対向面に気体吐出口を有するリング部材と、
前記基板保持手段に備えられ、当該基板保持手段に保持された基板の周縁部下面に密接し、かつ前記気体吐出口よりも下方において前記リング部材に密接する周縁シール部材と、
前記気体吐出口へと気体を供給する気体供給手段とを含む、基板処理装置。
【請求項2】
前記リング部材の対向面が、前記基板の上面に供給された処理液の液膜が前記基板の上面から前記対向面まで繋がるように設定された前記隙間を開けて前記基板保持手段に保持された基板の周端面に対向するように配置されている、請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記気体供給手段が、前記基板保持手段に保持された基板の周端面、前記対向面および前記周縁シール部材によって囲まれた空間内の気圧が大気圧よりも大きくなるように前記気体吐出口に気体を供給する、請求項1または2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記リング部材の表面が疎水性表面である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記気体吐出口が、前記基板保持手段に保持された基板の周端面の全周に渡って連続するように開口したスリット状開口である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記リング部材が、前記基板保持手段に固定されており、当該基板保持手段と一体的に回転するように構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記基板保持手段が、基板の下面に対向する吸着面を有する吸着保持部材を含み、前記吸着保持部材の前記吸着面と基板との間の空気を吸引することによって、基板を当該吸着面に吸着させて保持するように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記基板保持手段が、前記リング部材を保持した回転ベースをさらに含み、前記吸着保持部材を前記回転ベースに対して上下動させる昇降手段をさらに含む、請求項7に記載の基板処理装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図4H】
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【図4I】
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【公開番号】特開2012−199408(P2012−199408A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62946(P2011−62946)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】