説明

塗布装置および塗布方法

【課題】複数の吐出口のうち副走査方向における基板の相対移動方向後側に位置する吐出口から吐出された流動性材料の乾燥速度を副走査方向において均一とする。
【解決手段】塗布装置1では、3本の第1ノズル141および第1ノズル141の副走査方向における基板9の相対移動方向後側(以下、単に「後側」という。)の第2ノズル142からそれぞれ吐出された有機EL液および溶媒が、基板9の塗布領域91にストライプ状に塗布される。そして、後側の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインの後側の領域において、第2ノズル142により塗布された溶媒が蒸発することにより、当該有機EL液のラインの両側における溶媒成分の濃度の差が小さくされる。その結果、後側の第1ノズル141から吐出された有機EL液の乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができ、塗布ムラの発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に揮発性の溶媒を含む流動性材料を塗布する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体基板(以下、単に「基板」という。)上にレジスト液等の流動性材料を塗布する装置として、特許文献1および2に開示されているように、流動性材料を連続的に吐出するノズルを基板上で走査することにより、基板の主面全域に対して互いに接触する複数の平行線状に流動性材料を塗布する塗布装置が知られている。
【0003】
このような塗布装置では、流動性材料の膜厚の均一性を向上するための様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1では、レジスト塗布装置により塗布液が塗布された基板を、レジスト塗布装置とは別に設けられた溶剤雰囲気装置において塗布液の溶剤雰囲気に曝すことにより、溶剤を塗布液表面に付着させて塗布液表面の粘性を低下させ、その後、基板が収容されている容器内に気流を形成して当該気流により塗布液の表面を平坦化する技術が開示されている。特許文献1では、また、塗布液が塗布された基板が収容されている容器内を加圧することにより塗布液の揮発を抑制する技術も開示されている。
【0004】
特許文献2の塗布成膜装置では、基板の上方2mm以内の位置に基板のほぼ全体を覆う乾燥防止板を設け、当該乾燥防止板に形成された直線状の隙間において、絶縁膜用の塗布液を吐出するノズルを基板に対して走査することにより、基板上に一様に塗布液が塗布される。これにより、基板と乾燥防止板との間に高濃度の溶剤雰囲気が形成され、基板に塗布された塗布液の乾燥が抑制される。また、特許文献2の塗布成膜装置では、溶剤をしみ込ませたスポンジ部材を乾燥防止板上に設け、スポンジ部材から蒸発する溶剤蒸気を乾燥防止板に形成された供給孔から基板と乾燥防止板との間に供給することにより、基板と乾燥防止板との間の溶剤濃度がより高くされる。
【特許文献1】特開2003−17402号公報
【特許文献2】特開2005−13787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、流動性材料を吐出するノズルを走査することにより基板に流動性材料を塗布する塗布装置は、平面表示装置用の基板に対して画素形成材料を含む流動性材料を塗布する際にも利用されている。このような装置では、例えば、所定のピッチにて配列された複数のノズルの走査、および、走査方向に垂直な方向への基板のステップ移動が繰り返されることにより、基板上に形成された隔壁間の複数の溝に流動性材料がストライプ状に塗布される。
【0006】
基板上では、流動性材料の各ラインから溶媒成分が蒸発することにより、画素形成材料が基板上に定着して画素形成材料の膜が形成され、溶媒が蒸発するまでの間に、画素形成材料が流動性材料の各ライン内において十分に分散することにより、画素形成材料の膜厚が均一となる。
【0007】
しかしながら、複数のノズルにより流動性材料を塗布する場合、基板のステップ移動方向の後側には流動性材料が塗布されていないため、複数のノズルのうち、ステップ移動方向に関して最も後側に位置するノズルにより塗布された流動性材料のラインの周囲では、当該ラインのステップ移動方向に関する後側における雰囲気中の溶媒成分の濃度が前側における濃度よりも低くなっている。
【0008】
このため、当該ノズルにより塗布された流動性材料のラインのステップ移動方向に関する後側の部位が、前側の部位よりも早く乾燥してしまい、基板上に形成される画素形成材料の膜において、後側の部位の膜厚が前側の部位の膜厚よりも大きくなってしまう。その結果、基板全体としてみた場合に塗布ムラが発生してしまい、製品となった後の平面表示装置における表示の質が低下してしまう恐れがある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、複数の吐出口のうち副走査方向における基板の相対移動方向後側に位置する吐出口から吐出された流動性材料の乾燥速度を副走査方向において均一とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、基板に流動性材料を塗布する塗布装置であって、基板を保持する基板保持部と、前記基板に向けて流動性材料を吐出する吐出機構と、前記吐出機構を前記基板の主面に平行な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動するとともに、前記主走査方向への移動が行われる毎に前記基板を前記吐出機構に対して前記主面に平行かつ前記主走査方向に垂直な副走査方向に相対的に移動する移動機構とを備え、前記吐出機構が、前記副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から揮発性の溶媒および前記基板上に付与する材料を含む第1流動性材料を吐出することにより前記基板上の塗布領域に前記第1流動性材料を塗布する第1吐出部と、前記第1吐出部に対して前記副走査方向における前記基板の相対移動方向後側に配置され、前記第1流動性材料の前記溶媒または前記溶媒と同等の揮発性材料である第2流動性材料を吐出することにより、前記基板上の前記塗布領域に前記第2流動性材料を塗布する第2吐出部とを備える。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の塗布装置であって、前記吐出機構において、前記第1吐出部に対する前記第2吐出部の相対位置が固定されている。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の塗布装置であって、前記第1吐出部が、前記第1流動性材料を連続的に吐出し、前記第2吐出部が、前記第2流動性材料を連続的に吐出する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の塗布装置であって、前記第2吐出部が、前記副走査方向に関して位置が異なる複数の吐出口から前記第2流動性材料を吐出する。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の塗布装置であって、前記吐出機構が、前記第1吐出部に対して前記副走査方向における前記基板の相対移動方向前側に配置されて前記第2流動性材料を吐出するもう1つの第2吐出部をさらに備え、前記第1吐出部による前記第1流動性材料の塗布開始時に、前記もう1つの第2吐出部が前記主走査方向に移動しつつ前記第2流動性材料を吐出することにより、前記基板の前記塗布領域の外側の非塗布領域に前記第2流動性材料が塗布される。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の塗布装置であって、前記基板の前記副走査方向における相対移動方向前側において前記基板に対して相対的に固定され、前記第1流動性材料の前記溶媒または前記溶媒と同等の揮発性材料のガスを供給するガス供給部をさらに備える。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の塗布装置であって、前記第1流動性材料が平面表示装置用の画素形成材料を含む。
【0017】
請求項8に記載の発明は、基板に流動性材料を塗布する塗布装置であって、基板を保持する基板保持部と、前記基板の主面に平行な副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から前記基板上の塗布領域に向けて揮発性の溶媒および前記基板上に付与する材料を含む流動性材料を吐出する吐出機構と、前記吐出機構を前記副走査方向に垂直かつ前記主面に平行な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動するとともに、前記主走査方向への移動が行われる毎に前記基板を前記吐出機構に対して前記副走査方向に相対的に移動する移動機構と、前記吐出機構の前記副走査方向における前記基板の相対移動方向後側において前記吐出機構に対する前記副走査方向の相対位置が固定されるとともに、前記流動性材料の前記溶媒または前記溶媒と同等の揮発性材料のガスを供給するガス供給部とを備える。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の塗布装置であって、前記ガス供給部が、前記塗布領域の前記主走査方向の全長に亘って前記基板の前記主面に対向するとともに前記主面に向けて前記ガスを噴出する噴出口を有する。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項8または9に記載の塗布装置であって、前記基板の前記副走査方向における相対移動方向前側において前記基板に対して相対的に固定され、前記流動性材料の前記溶媒または前記溶媒と同等の揮発性材料のガスを供給するもう1つのガス供給部をさらに備える。
【0020】
請求項11に記載の発明は、請求項8ないし10のいずれかに記載の塗布装置であって、前記流動性材料が平面表示装置用の画素形成材料を含む。
【0021】
請求項12に記載の発明は、基板に流動性材料を塗布する塗布方法であって、a)吐出機構から基板に向けて流動性材料を吐出しつつ前記吐出機構を前記基板の主面に平行な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動する工程と、b)前記基板の前記主面に平行かつ前記主走査方向に垂直な副走査方向に前記基板を前記吐出機構に対して相対的に移動する工程と、c)前記a)工程および前記b)工程を繰り返す工程とを備え、前記a)工程が、d)前記吐出機構の第1吐出部において前記副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から、揮発性の溶媒および前記基板上に付与する材料を含む第1流動性材料を吐出することにより前記基板上の塗布領域に前記第1流動性材料を塗布する工程と、e)前記d)工程と並行して、または、前記d)工程よりも前に、前記d)工程にて塗布される前記第1流動性材料に対して前記副走査方向における前記基板の相対移動方向後側において、前記第1流動性材料の前記溶媒または前記溶媒と同等の揮発性材料である第2流動性材料を第2吐出部から吐出することにより前記塗布領域に前記第2流動性材料を塗布する工程とを備える。
【0022】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の塗布方法であって、前記d)工程において、前記第1流動性材料が連続的に吐出され、前記e)工程において、前記第2流動性材料が連続的に吐出される。
【0023】
請求項14に記載の発明は、請求項12または13に記載の塗布方法であって、前記a)工程よりも前に、f)前記基板の前記副走査方向における相対移動方向前側において、前記複数の吐出口から前記第1流動性材料を吐出しつつ前記第1吐出部を前記主走査方向に相対的に移動することにより、前記基板の前記塗布領域の外側の非塗布領域に前記第1流動性材料を塗布する工程、または、g)前記基板の前記副走査方向における相対移動方向前側において、前記第2吐出部から前記第2流動性材料を吐出しつつ前記第2吐出部を前記主走査方向に相対的に移動することにより、前記非塗布領域に前記第2流動性材料を塗布する工程を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、複数の吐出口のうち副走査方向における基板の相対移動方向後側に位置する吐出口から吐出された第1流動性材料の乾燥速度を副走査方向においてほぼ均一とすることができる。請求項2の発明では、吐出機構および移動機構の構造を簡素化することができる。請求項5,6,10および14の発明では、塗布領域の相対移動方向前側に塗布される第1流動性材料の乾燥速度を副走査方向においてほぼ均一とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る塗布装置1を示す平面図であり、図2は塗布装置1の右側面図である。塗布装置1は、平面表示装置用のガラス基板9(以下、単に「基板9」という。)に、平面表示装置用の画素形成材料を含む流動性材料を塗布する装置である。本実施の形態では、塗布装置1において、アクティブマトリックス駆動方式の有機EL(Electro Luminescence)表示装置用の基板9に、揮発性の溶媒(例えば、芳香族の有機溶媒の1つであるメシチレン(1,3,5−トリメチルベンゼン))および基板9上に付与される有機EL材料を含む流動性材料(以下、「有機EL液」という。)が塗布される。
【0026】
塗布装置1は、図2に示すように、基板9を保持する基板保持部11を備え、図1および図2に示すように、基板保持部11を基板9の主面に平行な所定の方向(すなわち、図1中のY方向であり、以下、「副走査方向」という。)に水平移動するとともに垂直方向(すなわち、Z方向)に向く軸を中心として回転する基板移動機構12を備える。基板保持部11は、内部にヒータによる加熱機構(図示省略)を備える。
【0027】
塗布装置1は、また、基板9上に形成されたアライメントマーク(図示省略)を撮像して検出するアライメントマーク検出部13、基板保持部11(図2参照)上の基板9に向けて流動性材料を吐出する吐出機構である塗布ヘッド14、塗布ヘッド14を基板9の主面に平行かつ副走査方向に垂直な方向(すなわち、図1中のX方向であり、以下、「主走査方向」という。)に水平移動するヘッド移動機構15、塗布ヘッド14の移動方向(すなわち、X方向)に関して基板保持部11の両側に設けられるとともに塗布ヘッド14からの有機EL液を受ける2つの受液部16、および、塗布ヘッド14に流動性材料を供給する流動性材料供給部18を備え、図1に示すように、これらの構成を制御する制御部2を備える。
【0028】
塗布装置1では、ヘッド移動機構15および基板移動機構12が、塗布ヘッド14を基板9に対して主走査方向に相対的に移動するとともに基板9を塗布ヘッド14に対して副走査方向に相対的に移動する移動機構となる。後述するように、塗布装置1では、基板9に対する有機EL液の塗布時に、基板9が基板保持部11と共に副走査方向において図1中の(−Y)側から(+Y)側に向けて移動する。すなわち、図1中の(+Y)側が副走査方向における基板9の相対移動方向前側となり、(−Y)側が副走査方向における基板9の相対移動方向後側となる。換言すれば、図1中の(+Y)側は、基板9の副走査方向における移動の下流側であり、(−Y)側が基板9の移動の上流側である。
【0029】
塗布ヘッド14は、同一種類の有機EL液を連続的に吐出する複数(本実施の形態では、3本)の第1ノズル141、複数の第1ノズル141に対して(−Y)側および(+Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側および前側)にそれぞれ1本ずつ配置されて有機EL液の溶媒(以下、単に「溶媒」という。)を連続的に吐出する第2ノズル142、および、3本の第1ノズル141および2本の第2ノズル142を共に保持する吐出部保持部であるノズルホルダ143を備える。
【0030】
塗布装置1では、ノズルホルダ143により、第1ノズル141に対する第2ノズル142の相対位置が固定されており、ヘッド移動機構15および基板移動機構12により、塗布ヘッド14が基板9に対して主走査方向および副走査方向に相対移動することにより、2本の第2ノズル142が3本の第1ノズル141と共に基板9に対して主走査方向および副走査方向に相対移動する。
【0031】
5本のノズル(すなわち、第1ノズル141および第2ノズル142)は、図1中のX方向(すなわち、主走査方向)に略直線状に配列されるとともに図1中のY方向(すなわち、副走査方向)に僅かにずれて配置される。5本のノズルの吐出口は、副走査方向に関して等間隔にて配列されており、隣接する2本のノズルの吐出口の間の副走査方向に関する距離は、基板9の塗布領域91(図1中において破線で囲んで示す。)上に予め形成されている主走査方向に伸びる隔壁間のピッチ(以下、「隔壁ピッチ」という。)の3倍に等しくされる。
【0032】
塗布装置1では、3本の第1ノズル141から塗布領域91の隔壁間に形成される3本の溝に有機EL液が吐出されて塗布される。塗布装置1により有機EL液が塗布される2本の溝の間には、他の塗布装置等により他の種類の有機EL液が塗布される2本の溝が挟まれている。基板9では、塗布領域91の外側の領域92は、ドライバ回路の組み込みや後工程における絶縁膜による封止等に利用されるため、有機EL液が塗布されるべきではない領域であり、以下、「非塗布領域92」という。なお、非塗布領域92には隔壁は形成されていない。
【0033】
次に、塗布装置1による有機EL液の塗布について説明する。図3は、有機EL液の塗布の流れを示す図である。塗布装置1により有機EL液の塗布が行われる際には、まず、基板9が基板保持部11に載置されて保持され、アライメントマーク検出部13からの出力に基づいて基板移動機構12が駆動されて基板9が移動および回転し、図1中に実線にて示す塗布開始位置に位置する(ステップS11)。換言すれば、塗布ヘッド14が、基板9に対する副走査方向における相対移動の開始端に位置する。
【0034】
塗布ヘッド14は、図1および図2中に実線にて示す待機位置(すなわち、図1中の(−X)側の受液部16の上方)に予め位置している。このとき、基板9の塗布領域91の図1中における(+Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向前側)のエッジは、塗布ヘッド14の(+Y)側の第2ノズル142と当該第2ノズル142に隣接する第1ノズル141との間に位置する。
【0035】
続いて、制御部2により塗布ヘッド14が制御されて3本の第1ノズル141から有機EL液の吐出が開始され、第1ノズル141の副走査方向の両側(すなわち、(+Y)側および(−Y)側)の第2ノズル142から溶媒の吐出が開始されるとともに、ヘッド移動機構15が制御されて塗布ヘッド14の主走査方向の移動(すなわち、図1中の(−X)側から(+X)側への移動)が開始される。
【0036】
塗布装置1では、塗布ヘッド14の主走査方向への相対移動時に、第1ノズル141および第2ノズル142からそれぞれ有機EL液および溶媒を基板9に向けて連続的に吐出することにより、基板9の塗布領域91の3本の溝に有機EL液がストライプ状に塗布され、有機EL液の塗布と並行して、当該3本の溝に塗布される有機EL液の(−Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側)において、塗布領域91の1本の溝に溶媒が塗布される。
【0037】
また、塗布領域91に対する有機EL液および溶媒の塗布と並行して、有機EL液が塗布される3本の溝の(+Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向前側)において、塗布領域91の(+Y)側の非塗布領域92に溶媒がライン状に塗布される(ステップS12)。このとき、基板9上において隣接する有機EL液の2本のラインの間の距離、および、隣接する有機EL液のラインと溶媒のラインとの間の距離は、隔壁ピッチの3倍に等しくされる。なお、図1中における塗布領域91の(+X)側および(−X)側の非塗布領域92は図示省略のマスクにより覆われているため有機EL液および溶媒は塗布されない。
【0038】
ここで、有機EL液および溶媒をそれぞれ第1流動性材料および第2流動性材料とすると、塗布ヘッド14は、第1流動性材料および第2流動性材料を連続的に吐出する吐出機構であり、複数の第1ノズル141は、副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から第1流動性材料を吐出して塗布領域91に塗布する第1吐出部となっている。また、複数の第1ノズル141(すなわち、第1吐出部)の(−Y)側に配置される第2ノズル142は、第2流動性材料を吐出して塗布領域91に塗布する第2吐出部となっており、複数の第1ノズル141の(+Y)側に配置される第2ノズル142は、第2流動性材料を吐出して非塗布領域92に塗布するもう1つの第2吐出部となっている。
【0039】
塗布ヘッド14が図1および図2中に二点鎖線にて示す待機位置(すなわち、図1中の(+X)側の受液部16の上方)まで移動して塗布ヘッド14の主走査方向における移動が終了すると、塗布ヘッド14が制御部2により制御され、(+Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向前側)の第2ノズル142からの溶媒の吐出が停止される(ステップS13)。そして、基板移動機構12が駆動され、基板9が基板保持部11と共に図1中の(+Y)側に(すなわち、副走査方向に)隔壁ピッチの9倍に等しい距離だけ移動する(ステップS14)。このとき、塗布ヘッド14では、3本の第1ノズル141および(−Y)側の第2ノズル142から受液部16に向けて有機EL液および溶媒が連続的に吐出されている。
【0040】
塗布装置1では、有機EL液の溶媒として速乾性のものが利用されているため、第1ノズル141により塗布領域91に塗布された有機EL液は、塗布された直後からステップS14における基板9の副走査方向への移動の間に迅速に乾燥し(すなわち、有機EL液から溶媒が蒸発し)、有機EL材料が半乾燥状態で基板9上に残置されて(すなわち、付与されて)有機EL材料の膜が形成される。また、第2ノズル142から塗布領域91および非塗布領域92に塗布された溶媒は、全て(あるいは、ごく微量を除いてほぼ全て)蒸発し、塗布領域91および非塗布領域92上には残らない。
【0041】
副走査方向における基板9の移動が終了すると、塗布ヘッド14が、3本の第1ノズル141および(−Y)側の第2ノズル142からそれぞれ有機EL液および溶媒を連続的に吐出しつつ図1中において(+X)側から(−X)側へと(すなわち、主走査方向に)移動することにより、基板9の塗布領域91の溝に有機EL液および溶媒が塗布される(ステップS15)。このとき、3本の第1ノズル141のうち、(+Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向前側)の第1ノズル141から吐出された有機EL液は、ステップS12において(−Y)側の第2ノズル142により溶媒が塗布された溝に塗布されるが、上述のように、第2ノズル142により塗布された溶媒は既に蒸発しているため、当該溝において有機EL液と先に塗布された溶媒とが混ざることはない。
【0042】
主走査方向における塗布ヘッド14の移動が終了すると、基板9が図1中の(+Y)側に(すなわち、副走査方向に)隔壁ピッチの9倍に等しい距離だけ移動する(ステップS16)。そして、基板保持部11および基板9が図1中に二点鎖線にて示す塗布終了位置まで移動したか否かが制御部2により確認され(ステップS17)、塗布終了位置まで移動していない場合には、ステップS15に戻って塗布ヘッド14が、3本の第1ノズル141および(−Y)側の第2ノズル142からそれぞれ有機EL液および溶媒を吐出しつつ主走査方向に移動することにより、基板9の塗布領域91の溝に有機EL液および溶媒が塗布される(ステップS15)。その後、基板9が副走査方向に移動し、塗布終了位置まで移動したか否かの確認が行われる(ステップS16,S17)。
【0043】
塗布装置1では、基板保持部11および基板9が塗布終了位置に位置するまで、塗布ヘッド14の主走査方向における移動、および、基板9の(+Y)側へのステップ移動が繰り返され(すなわち、塗布ヘッド14の基板9に対する主走査方向における相対移動が行われる毎に、基板9が塗布ヘッド14に対して副走査方向に相対的に移動され)、これにより、基板9の塗布領域91において、有機EL液が所定のピッチ(すなわち、隔壁ピッチの3倍に等しいピッチ)にて配列されたストライプ状に塗布される(ステップS15〜S17)。塗布装置1では、副走査方向に関し、基板9上において有機EL液の塗布が進行する方向(すなわち、塗布ヘッド14の基板9に対する相対移動方向)は、基板移動機構12による基板9の移動方向とは反対向きとなっている。
【0044】
そして、基板9が塗布終了位置まで移動すると、3本の第1ノズル141および(−Y)側の第2ノズル142からの有機EL液および溶媒の吐出が停止されて塗布装置1による基板9に対する有機EL液の塗布が終了する。なお、1枚の基板9に対する塗布ヘッド14の最後の主走査では、(−Y)側の第2ノズル142から吐出された溶媒は、図1中における塗布領域91の(−Y)側の非塗布領域92に塗布される。塗布装置1による塗布が終了した基板9は、他の塗布装置等へと搬送され、塗布装置1により塗布された有機EL液以外の他の2色の有機EL液が塗布される。
【0045】
以上に説明したように、塗布装置1では、塗布ヘッド14が主走査方向に移動することにより、3本の第1ノズル141および(−Y)側の第2ノズル142からそれぞれ吐出された有機EL液および溶媒が、基板9の塗布領域91にストライプ状に塗布される。このとき、3本の第1ノズル141のうち、(−Y)側の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインは、中央の第1ノズル141により並行して塗布された有機EL液のライン、および、(−Y)側の第2ノズル142により並行して塗布された溶媒のラインにより挟まれている。このため、(−Y)側の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインの周囲では、両側のラインから蒸発した溶媒により、雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くなっている。
【0046】
また、中央の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインは、(+Y)側および(−Y)側の第1ノズル141により並行して塗布された有機EL液のラインにより挟まれており、(+Y)側の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインは、中央の第1ノズル141により並行して塗布された有機EL液のライン、および、先に塗布された有機EL液のライン群により挟まれている。このため、中央および(+Y)側の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインの周囲でも、(−Y)側の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインと同様に、雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くなっている。
【0047】
ここで、有機EL液を吐出する3本の第1ノズルのみが塗布ヘッドに設けられている塗布装置を比較例とすると、比較例の塗布装置において(+Y)側(すなわち、副走査方向における基板の相対移動方向前側)の第1ノズル、および、中央の第1ノズルにより塗布された有機EL液のラインの周囲では、上記と同様に、雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くなっている。しかしながら、(−Y)側(すなわち、副走査方向における基板の相対移動方向後側)の第1ノズルにより塗布された有機EL液のラインの(−Y)側には、他の有機EL液および溶媒のラインは塗布されておらず、(+Y)側にのみ、中央の第1ノズルにより並行して塗布された有機EL液のラインが配置されることとなる。
【0048】
このため、(−Y)側の第1ノズルにより塗布された有機EL液のラインの周囲では、(+Y)側および中央の第1ノズルにより塗布された有機EL液のラインの周囲と比べて有機EL液の溶媒成分の濃度が低くなってしまい、(−Y)側の有機EL液のラインの乾燥速度が、(+Y)側の2本の有機EL液のラインよりも大きくなってしまう。また、(−Y)側の有機EL液のラインの周囲では、当該ラインの(−Y)側における雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が、ラインの(+Y)側における濃度よりも低くなってしまい、ラインの(−Y)側の部位が(+Y)側の部位よりも早く乾燥してしまう。
【0049】
図4.Aは、比較例の塗布装置の3本の第1ノズルにより塗布された有機EL液から溶媒が蒸発することにより、基板9a上の塗布領域91aに形成された有機EL材料の3本の膜93aを示す断面図である。図4.Aでは、図示の都合上、基板9aの塗布領域91aに形成されている隔壁の図示を省略しており、また、膜93aの高さを実際よりも大きく描いている(図4.Bにおいても同様)。
【0050】
比較例の塗布装置では、上述のように、(−Y)側の有機EL液のラインの(−Y)側の部位が(+Y)側の部位よりも早く乾燥してしまうため、図4.Aに示すように、(−Y)側の膜93において、(−Y)側の部位の膜厚が(+Y)側の部位の膜厚よりも大きくなってしまう。そして、このように厚さに偏りがある有機EL材料の膜93aが、塗布領域91aに周期的に(すなわち、3本毎に)形成されて塗布ムラが発生することにより、製品となった後の平面表示装置における表示の質が低下してしまう恐れがある。
【0051】
これに対し、本実施の形態に係る塗布装置1では、上述のように、3本の第1ノズル141により塗布された3本の有機EL液のラインの周囲において、雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くされる。また、3本の第1ノズル141のうち(−Y)側の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインの(−Y)側の領域(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側の領域であり、有機EL液がまだ塗布されていない領域)において、第2ノズル142により塗布された溶媒が蒸発することにより、当該有機EL液のラインの(+Y)側および(−Y)側における雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度の差が小さくされる。
【0052】
これにより、3本の第1ノズル141の吐出口から吐出された有機EL液の乾燥速度を均一化することができるとともに、(−Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側)の第1ノズル141の吐出口から吐出された有機EL液の乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができる。その結果、図4.Bに示すように、隣接する有機EL材料の3本の膜93の断面をほぼ同形状とすることができ、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生を防止することができる。
【0053】
ところで、平面表示装置用の画素形成材料を含む流動性材料の基板に対する塗布では、塗布ムラが発生すると、製品となった後の平面表示装置の表示の質が低下する恐れがある。本実施の形態に係る塗布装置1では、上述のように、塗布ムラの発生を防止することができるため、塗布装置1は、平面表示装置用の画素形成材料を含む流動性材料の塗布に特に適しているといえる。
【0054】
塗布装置1では、塗布ヘッド14の第1ノズル141による有機EL液の吐出開始時に、(+Y)側の第2ノズル142から塗布開始位置に位置する基板9に対して(すなわち、副走査方向における塗布ヘッド14の相対移動の開始端側において)吐出された溶媒が、塗布領域91(+Y)側の非塗布領域92(すなわち、塗布領域91の基板9の相対移動方向前側の領域であり、有機EL液が塗布されない領域)において蒸発する。これにより、塗布領域91の(+Y)側の非塗布領域92上における雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くなり、塗布領域91の最も(+Y)側に塗布された有機EL液のラインの(+Y)側および(−Y)側における雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度の差が小さくされる。その結果、塗布領域91の最も(+Y)側の有機EL液のラインの乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができ、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生をより確実に防止することができる。
【0055】
塗布ヘッド14では、一のノズルホルダ143により3本の第1ノズル141および2本の第2ノズル142が共に保持されることにより、第1ノズル141に対する第2ノズル142の相対位置が固定されるため、塗布ヘッド14、および、塗布ヘッド14を基板9に対して相対的に移動する移動機構の一部であるヘッド移動機構15の構造を簡素化することができる。なお、副走査方向に関して、(−Y)側の第2ノズル142と当該第2ノズル142に隣接する第1ノズル141との間の距離は、必ずしも第1ノズル141のピッチ(本実施の形態では、隔壁ピッチの3倍に等しい。)と等しくされる必要はない(第2および第3の実施の形態においても同様)。また、(+Y)側の第2ノズル142と当該第2ノズル142に隣接する第1ノズル141との間の副走査方向に関する距離も、必ずしも第1ノズル141のピッチと等しくされる必要はない。
【0056】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る塗布装置について説明する。図5は、第2の実施の形態に係る塗布装置1aの平面図である。図5に示すように、塗布装置1aの塗布ヘッド14では、有機EL液を吐出する3本の第1ノズル141の(−Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側)に、溶媒を吐出する2本の第2ノズル142が設けられており、(+Y)側には第2ノズル142は設けられない。また、塗布装置1aは、基板9の(+Y)側において基板保持部11の上面に固定され、有機EL液の溶媒成分を含むガス(本実施の形態では、有機EL液の溶媒を気化したものであり、以下、「溶媒ガス」という。)を基板9に対して供給するガス供給部19を備える。その他の構成は、図1および図2に示す塗布装置1と同様であり、以下の説明において同符号を付す。
【0057】
図5に示すように、塗布ヘッド14の5本のノズル(すなわち、第1ノズル141および第2ノズル142)は、図5中のX方向(すなわち、主走査方向)に略直線状に配列されるとともに図5中のY方向(すなわち、副走査方向)に僅かにずれて配置される。
【0058】
塗布装置1aでは、第1の実施の形態と同様に、第1吐出部である3本の第1ノズル141が、副走査方向に関して等間隔(すなわち、隔壁ピッチの3倍のピッチ)にて配列された3つの吐出口を有し、3つの吐出口から基板9に向けて第1流動性材料である有機EL液が吐出される。また、第2吐出部である2本の第2ノズル142は、副走査方向に関して隔壁ピッチの3倍の距離をあけて配置された2つの吐出口を有し、2つの吐出口から第2流動性材料である有機EL液の溶媒が吐出される。また、(−Y)側の第1ノズル141と(+Y)側の第2ノズル142との間の副走査方向に関する距離も、隔壁ピッチの3倍とされる。
【0059】
ガス供給部19は、有機EL液の溶媒を含浸させた棒状の多孔性樹脂(例えば、スポンジ等)であり、基板9の塗布領域91のX方向(すなわち、主走査方向)の全長に亘って基板保持部11の主面上に取り付けられる。したがって、基板移動機構12により基板保持部11が移動されると、ガス供給部19は、基板9に対して相対的に固定された状態で、基板9と共に副走査方向に移動することとなる。そして、ガス供給部19に含浸された溶媒が蒸発することにより、基板9の塗布領域91の(+Y)側の部位に溶媒ガスが供給される。
【0060】
次に、塗布装置1aによる有機EL液の塗布について説明する。図6は、塗布装置1aによる有機EL液の塗布の流れを示す図である。塗布装置1aにより有機EL液の塗布が行われる際には、まず、基板9が基板保持部11に保持されて塗布開始位置に位置する(ステップS21)。続いて、塗布ヘッド14が、第1ノズル141および第2ノズル142からそれぞれ有機EL液および溶媒を連続的に吐出しつつ図5中の(−X)側から(+X)側へと(すなわち、主走査方向に)移動されることにより、基板9の塗布領域91の3本の溝に有機EL液がストライプ状に塗布されるとともに、当該3本の溝の(−Y)側において、塗布領域91の2本の溝に溶媒が塗布される(ステップS22)。このとき、塗布領域91の(+Y)側の部位(すなわち、塗布領域91の(+Y)側のエッジ近傍の部位)には、ガス供給部19により溶媒ガスが供給されている。
【0061】
次に、基板移動機構12により基板9が図5中の(+Y)側に(すなわち、副走査方向に)移動する(ステップS23)。基板9上では、第1の実施の形態と同様に、第1ノズル141により塗布領域91に塗布された有機EL液から溶媒が蒸発し、有機EL材料が半乾燥状態で基板9上に付与されて有機EL材料の膜が形成される。また、第2ノズル142から塗布領域91に塗布された溶媒は、全て(あるいは、ごく微量を除いてほぼ全て)蒸発し、塗布領域91上には残らない。
【0062】
副走査方向における基板9の移動が終了すると、基板保持部11および基板9が図5中に二点鎖線にて示す塗布終了位置まで移動したか否かが制御部2により確認され(ステップS24)、塗布終了位置まで移動していない場合には、ステップS22に戻って塗布ヘッド14の主走査方向への移動、基板9の副走査方向への移動、および、基板9の位置の確認が行われる(ステップS22〜S24)。
【0063】
塗布装置1aでは、基板保持部11および基板9が塗布終了位置に位置するまで、塗布ヘッド14の主走査方向への移動が行われる毎に基板9が副走査方向へとステップ移動され、これにより、基板9の塗布領域91において、有機EL液が所定のピッチ(すなわち、隔壁ピッチの3倍に等しいピッチ)にて配列されたストライプ状に塗布される(ステップS22〜S24)。そして、基板9が塗布終了位置まで移動すると、3本の第1ノズル141および2本の第2ノズル142からの有機EL液および溶媒の吐出が停止されて基板9に対する有機EL液の塗布が終了する。
【0064】
以上に説明したように、塗布装置1aでは、第1の実施の形態と同様に、3本の第1ノズル141により塗布された3本の有機EL液のラインの周囲において、雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くされており、また、(−Y)側の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインの周囲において、当該ラインの(+Y)側および(−Y)側における雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度の差が小さくされる。これにより、3本の第1ノズル141の吐出口から吐出された有機EL液の乾燥速度を均一化することができるとともに、(−Y)側の第1ノズル141の吐出口から吐出された有機EL液の乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができる。その結果、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生を防止することができる。
【0065】
第2の実施の形態に係る塗布装置1aでは、特に、第1ノズル141の(−Y)側に2本の第2ノズル142を設けることにより、各第2ノズル142から吐出されて塗布領域91に塗布される溶媒の量を低減しつつ、(−Y)側の第1ノズル141から吐出された有機EL液のラインの(+Y)側および(−Y)側における雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度の差を小さくすることができる。その結果、各第2ノズル142により塗布領域91に塗布された溶媒のラインの蒸発に要する時間を短縮することができ、後から塗布される有機EL液が先に塗布された溶媒と混ざってしまうことをより確実に防止することができる。
【0066】
なお、2本の第2ノズル142の吐出口は、副走査方向に関して必ずしも隔壁ピッチの3倍の距離をあけて配置される必要はなく、副走査方向に関して位置が異なるように配置されていればよい。これにより、上記と同様に、各第2ノズル142により塗布領域91に塗布された溶媒のラインの蒸発に要する時間を短縮することができ、後から塗布される有機EL液が先に塗布された溶媒と混ざってしまうことをより確実に防止することができる。
【0067】
また、塗布装置1aでは、基板9の(+Y)側にガス供給部19が設けられることにより、塗布領域91の(+Y)側の非塗布領域92上における雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くされる。その結果、第1の実施の形態と同様に、塗布領域91の最も(+Y)側の有機EL液のラインの乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができ、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生をより確実に防止することができる。なお、ガス供給部19からのガスの噴出は、塗布ヘッド14の1回目の主走査終了後に停止されてもよい。
【0068】
塗布装置1aによる有機EL液の塗布では、ガス供給部19により溶媒ガスを供給することにより、第1ノズル141の(+Y)側に第2ノズル142を設ける場合に比べて、有機EL液の塗布作業中における(+Y)側の第2ノズル142からの吐出停止動作を省略することができ、有機EL液の塗布を簡素化することができる。また、2本の第2ノズル142の吐出開始および停止を同時に行うことができるため、塗布ヘッド14の構造を簡素化することができる。一方、第1の実施の形態に係る塗布装置1では、基板保持部11上にガス供給部19(図5参照)を設ける必要がないため、基板保持部11の構造を簡素化することができる。
【0069】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る塗布装置について説明する。図7は、第3の実施の形態に係る塗布装置1bを示す平面図である。図7に示すように、塗布装置1bの塗布ヘッド14では、有機EL液を吐出する3本の第1ノズル141の(−Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側)に溶媒を吐出する第2ノズル142が1本のみ設けられており、(+Y)側には第2ノズル142は設けられない。その他の構成は、図1および図2に示す塗布装置1と同様であり、以下の説明において同符号を付す。
【0070】
図8は、塗布装置1bによる有機EL液の塗布の流れを示す図である。塗布装置1bにより有機EL液の塗布が行われる際には、まず、基板9が基板保持部11(図2参照)に保持されて塗布開始位置に位置する(ステップS31)。このとき、塗布ヘッド14の4本のノズル(すなわち、3本の第1ノズル141および1本の第2ノズル142)は、図7中のY方向(すなわち、副走査方向)に関し、基板9の(+Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向前側)のエッジと、基板9の塗布領域91の(+Y)側のエッジとの間、すなわち、塗布領域91の(+Y)側の非塗布領域92に対応する位置に位置する。
【0071】
続いて、制御部2によりヘッド移動機構15が制御されることにより、塗布ヘッド14が、第1ノズル141および第2ノズル142からそれぞれ有機EL液および溶媒を連続的に吐出しつつ図7中の(−X)側から(+X)側へと(すなわち、主走査方向に)移動する。これにより、基板9の塗布領域91の(+Y)側(すなわち、外側)の非塗布領域92に有機EL液および溶媒がストライプ状に塗布される(ステップS32)。次に、制御部2により基板移動機構12が制御されることにより、基板9が基板保持部11と共に図7中の(+Y)側に(すなわち、副走査方向に)移動する(ステップS33)。
【0072】
基板9上では、第1ノズル141により非塗布領域92に塗布された有機EL液から溶媒が蒸発し、有機EL材料が半乾燥状態で非塗布領域92上に残置される。また、第2ノズル142から非塗布領域92に塗布された溶媒は、全て(あるいは、ごく微量を除いてほぼ全て)蒸発し、非塗布領域92上には残らない。塗布装置1bでは、ステップS33における基板9の副走査方向への移動により、塗布ヘッド14の図7中の(+Y)側の第1ノズル141は、塗布領域91の(+Y)側のエッジの(−Y)側に位置する。換言すれば、塗布ヘッド14の4本のノズルが、副走査方向に関して塗布領域91の(+Y)側の部位に対応する位置に位置する。
【0073】
副走査方向における基板9の移動が終了すると、制御部2によりヘッド移動機構15および基板移動機構12が制御され、塗布ヘッド14が図7中において(+X)側から(−X)側へと(すなわち、主走査方向に)移動することにより、基板9の塗布領域91の溝に有機EL液および溶媒が塗布され、その後、基板9が(+Y)側に(すなわち、副走査方向に)移動する(ステップS34,S35)。
【0074】
副走査方向における基板9の移動が終了すると、基板保持部11および基板9が図7中に二点鎖線にて示す塗布終了位置まで移動したか否かが制御部2により確認され(ステップS36)、塗布終了位置まで移動していない場合には、ステップS34に戻って塗布ヘッド14の主走査方向への移動、基板9の副走査方向への移動、および、基板9の位置の確認が行われる(ステップS34〜S36)。
【0075】
塗布装置1bでは、基板保持部11および基板9が塗布終了位置に位置するまで、塗布ヘッド14の主走査方向への移動が行われる毎に基板9が副走査方向へとステップ移動され、これにより、基板9の塗布領域91において、有機EL液が所定のピッチ(すなわち、隔壁ピッチの3倍に等しいピッチ)にて配列されたストライプ状に塗布される(ステップS34〜S36)。そして、基板9が塗布終了位置まで移動すると、3本の第1ノズル141および1本の第2ノズル142からの有機EL液および溶媒の吐出が停止されて基板9に対する有機EL液の塗布が終了する。
【0076】
以上に説明したように、塗布装置1bでは、第1の実施の形態と同様に、3本の第1ノズル141により塗布された3本の有機EL液のラインの周囲において、雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くされており、また、(−Y)側の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインの周囲において、当該ラインの(+Y)側および(−Y)側における雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度の差が小さくされる。これにより、3本の第1ノズル141の吐出口から吐出された有機EL液の乾燥速度を均一化することができるとともに、(−Y)側の第1ノズル141の吐出口から吐出された有機EL液の乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができる。その結果、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生を防止することができる。
【0077】
塗布装置1bでは、特に、塗布領域91の(+Y)側の非塗布領域92に有機EL液および溶媒が塗布され、これらの有機EL液および溶媒のラインから溶媒が蒸発することにより、塗布領域91の(+Y)側の非塗布領域92上における雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くなる。その結果、第1および第2の実施の形態と同様に、塗布領域91の最も(+Y)側の有機EL液のラインの乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができ、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生をより確実に防止することができる。なお、非塗布領域92に塗布された有機EL液により形成された有機EL材料の膜は、基板9に対する有機EL液の塗布終了後に除去される。
【0078】
塗布装置1bでは、塗布ヘッド14において第1ノズル141の(+Y)側に第2ノズル142を設ける必要がなく、また、基板保持部11上にガス供給部19を設ける必要もないため、塗布装置の構造を簡素化することができる。一方、第1および第2の実施の形態に係る塗布装置では、非塗布領域92からの有機EL材料の除去作業を行う必要がないため、有機EL液の塗布を簡素化することができる。
【0079】
次に、本発明の第4の実施の形態に係る塗布装置について説明する。図9および図10は、第4の実施の形態に係る塗布装置1cを示す平面図および右側面図である。図9および図10に示すように、塗布装置1cの塗布ヘッド14には、有機EL液を吐出する3本の第1ノズル141が設けられており、溶媒を吐出する第2ノズルは設けられていない。また、塗布装置1cは、塗布ヘッド14の(−Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側)において基板保持部11および基板移動機構12を跨いで設けられるとともに基板9に対して溶媒ガスを連続的に供給するガス供給部19aを備える。さらに、図5に示す塗布装置1aと同様に、図9に示す基板9の(+Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向前側)において基板保持部11の上面に固定されるとともに基板9に対して溶媒ガスを供給するもう1つのガス供給部19bを備える。その他の構成は、図1および図2に示す塗布装置1と同様であり、以下の説明において同符号を付す。また、以下の説明では、ガス供給部19a,19bを区別するために、それぞれ、「第1ガス供給部19a」および「第2ガス供給部19b」という。
【0080】
図9および図10に示す第1ガス供給部19aは、噴出口191から基板9の主面に向けて溶媒ガスを連続的に噴出するガス噴出機構であり、基板移動機構12およびヘッド移動機構15と共に図示省略の基台に固定されているため、第1ガス供給部19aの塗布ヘッド14に対する主走査方向および副走査方向の相対位置は固定されている。第1ガス供給部19aの噴出口191は、X方向の全長が基板9の塗布領域91(図9参照)のX方向の全長よりも長いスリット状であり、塗布領域91のX方向(すなわち、主走査方向)の全長に亘って基板9の主面に対向する。
【0081】
また、図9に示す第2ガス供給部19bは、第2の実施の形態に係る塗布装置1aのガス供給部19(図5参照)と同様に、有機EL液の溶媒を含浸させた棒状の多孔性樹脂(例えば、スポンジ等)であり、基板9の塗布領域91のX方向の全長に亘って基板保持部11の主面上に取り付けられて基板9に対して相対的に固定される。塗布装置1cでも、塗布装置1aと同様に、第2ガス供給部19bに含浸された溶媒が蒸発することにより、基板9の塗布領域91の(+Y)側の部位に溶媒ガスが供給される。
【0082】
図11は、塗布装置1cによる有機EL液の塗布の流れを示す図である。塗布装置1cにより有機EL液の塗布が行われる際には、まず、基板9が基板保持部11に保持されて塗布開始位置に位置する(ステップS41)。続いて、塗布ヘッド14が、第1ノズル141から有機EL液を連続的に吐出しつつ図9中の(−X)側から(+X)側へと(すなわち、主走査方向に)移動されることにより、基板9の塗布領域91の3本の溝に有機EL液がストライプ状に塗布される(ステップS42)。このとき、第1ガス供給部19aから基板9の塗布領域91に向けて噴出された溶媒ガスは、有機EL液が塗布される3本の溝の(−Y)側において塗布領域91に供給される。また、塗布領域91の(+Y)側の部位には、第2ガス供給部19bにより溶媒ガスが供給されている。
【0083】
次に、基板移動機構12により基板9が図9中の(+Y)側に(すなわち、副走査方向に)移動された後、基板保持部11および基板9が図9中に二点鎖線にて示す塗布終了位置まで移動したか否かが制御部2により確認される(ステップS43,S44)。そして、基板保持部11および基板9が塗布終了位置まで移動していない場合には、ステップS42に戻って塗布ヘッド14の主走査方向への移動、基板9の副走査方向への移動、および、基板9の位置の確認が行われる(ステップS42〜S44)。
【0084】
塗布装置1cでは、基板保持部11および基板9が塗布終了位置に位置するまで、塗布ヘッド14の主走査方向への移動が行われる毎に基板9が副走査方向へとステップ移動され、これにより、基板9の塗布領域91において、有機EL液が所定のピッチ(すなわち、隔壁ピッチの3倍に等しいピッチ)にて配列されたストライプ状に塗布される(ステップS42〜S44)。そして、基板9が塗布終了位置まで移動すると、3本の第1ノズル141からの有機EL液の吐出が停止されて基板9に対する有機EL液の塗布が終了する。
【0085】
以上に説明したように、塗布装置1cでは、塗布ヘッド14の(−Y)側に第1ガス供給部19aが設けられ、副走査方向において塗布ヘッド14と共に基板9に対して相対的に移動しつつ基板9の塗布領域91に溶媒ガスを供給することにより、塗布ヘッド14の(−Y)側の第1ノズル141により塗布された有機EL液のラインの(−Y)側の領域(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側の領域であり、有機EL液がまだ塗布されていない領域)における有機EL液の溶媒成分の濃度が高くされる。その結果、第1の実施の形態と同様に、塗布ヘッド14の(−Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側)の第1ノズル141の吐出口から吐出された有機EL液の乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができ、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生を防止することができる。
【0086】
塗布装置1cでは、第1ガス供給部19aの噴出口191が、塗布領域91の主走査方向の全長に亘って設けられることにより、塗布ヘッド14の(−Y)側の第1ノズル141により塗布された有機EL液の副走査方向における乾燥速度の均一性を、主走査方向に伸びる当該有機EL液のラインの全長に亘って向上することができる。これにより、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生をより確実に防止することができる。
【0087】
また、基板9の(+Y)側に第2ガス供給部19bが設けられることにより、第2の実施の形態と同様に、塗布領域91の最も(+Y)側の有機EL液のラインの乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができ、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生をより確実に防止することができる。
【0088】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0089】
例えば、第1の実施の形態に係る塗布装置1では、第1ノズル141の(+Y)側に設けられる第2ノズル142に代えて、塗布領域91の(+Y)側の非塗布領域92の上方において基板保持部11に取り付けられるとともに溶媒を連続的に吐出しつつ主走査方向に移動可能とされる(すなわち、副走査方向において基板9に対して相対的に固定された)溶媒ノズルが設けられてもよい。この場合、塗布ヘッド14の1回目の主走査方向への移動と並行して、基板保持部11に取り付けられた溶媒ノズルが、塗布ヘッド14の移動方向と同じ方向へと移動することにより、塗布領域91の(+Y)側の非塗布領域92に溶媒が塗布され、塗布領域91の最も(+Y)側の有機EL液のラインの乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができる。また、塗布装置1による有機EL液の塗布では、(+Y)側の第2ノズル142からの有機EL液の吐出停止(ステップS13)と基板9の(+Y)方向への移動(ステップS14)とは並行して行われてもよく、ステップS14がステップS13よりも前に行われてもよい。
【0090】
第2の実施の形態に係る塗布装置1aでは、2本の第2ノズル142が、第1ノズル141を備える塗布ヘッド14とは独立して主走査方向に移動可能な他の塗布ヘッドに設けられてもよい。この場合、第2ノズル142による溶媒の塗布は、必ずしも第1ノズル141による有機EL液の塗布と並行して行われる必要はなく、第1ノズル141による有機EL液の塗布よりも前に(好ましくは、有機EL液の塗布の直前に)、有機EL液が塗布される予定の溝の(−Y)側に溶媒が塗布されてもよい。
【0091】
また、塗布装置1aでは、ガス供給部19として、必ずしも有機EL液の溶媒を含浸させた多孔質樹脂が用いられる必要はなく、例えば、溶媒を含浸させた脱脂綿等の繊維が利用されてもよい。あるいは、第4の実施の形態に係る塗布装置1cの第1ガス供給部19aと同様のガス噴出機構が、ガス供給部19として基板9の(+Y)側において基板保持部11に固定されてもよく、また、基板9の(+Y)側において基板保持部11の上面に形成された主走査方向に伸びる溝部に溶媒が貯溜され、当該溶媒が蒸発することにより基板9の(+Y)側の部位に溶媒ガスが供給されてもよい。さらには、主走査方向に移動可能な溶媒ガスを噴出するガスノズルが基板保持部11に取り付けられ(すなわち、基板9に対する相対位置が固定され)、ガスノズルが溶媒ガスを噴出しつつ主走査方向に移動することにより、基板9の(+Y)側の部位に溶媒ガスが供給されてもよい(塗布装置1cにおいても同様)。
【0092】
第3の実施の形態に係る塗布装置1bでは、第1ノズル141からの有機EL液の吐出が開始されておらず、第2ノズル142からの溶媒の吐出のみが行われている状態で、塗布ヘッド14の1回目の主走査方向への移動が行われることにより、塗布領域91の(+Y)側の非塗布領域92に溶媒のみが塗布されてもよい。また、塗布開始位置において第2ノズル142が塗布領域91に対応する位置に位置するように基板9の位置が調整されることにより、塗布ヘッド14の1回目の主走査方向への移動において、塗布領域91の(+Y)側の非塗布領域92に有機EL液のみが塗布されてもよい。さらには、(+Y)側の1本の第1ノズル141のみが非塗布領域92上を走査されることにより、非塗布領域92に1本の有機EL液のラインが塗布されてもよい。いずれの場合であっても、塗布領域91の最も(+Y)側の有機EL液のラインの乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができ、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生をより確実に防止することができる。
【0093】
第4の実施の形態に係る塗布装置1cでは、第1ガス供給部19aの噴出口191から、溶媒ガスが断続的に噴出されてもよい。また、第1ガス供給部19aの噴出口191は、必ずしも塗布領域91の主走査方向の全長に亘って伸びるスリット状である必要はなく、例えば、塗布領域91の主走査方向の全長に亘って配列された複数の小さな噴出口が第1ガス供給部19aに設けられてもよい。
【0094】
さらには、主走査方向に移動可能な溶媒ガスを噴出するガスノズルが、塗布ヘッド14の(−Y)側において基板9および基板保持部11を跨いで設けられ(すなわち、副走査方向における塗布ヘッド14に対する相対位置が固定された状態で設けられ)、ガスノズルが溶媒ガスを噴出しつつ主走査方向に移動することにより、塗布ヘッド14の(−Y)側において基板9に対して溶媒ガスが供給されてもよい。
【0095】
塗布装置1cでは、ガス噴出機構である第1ガス供給部19aに代えて、例えば、有機EL液の溶媒を含浸させた多孔質樹脂や繊維が、副走査方向において塗布ヘッド14に対する相対位置を固定された状態で塗布ヘッド14の(−Y)側に設けられてもよい。このとき、多孔質樹脂等は、好ましくは塗布領域91の主走査方向の全長に亘って設けられる。
【0096】
第1ないし第3の実施の形態に係る塗布装置では、第2ノズル142から吐出される溶媒は、必ずしも有機EL液の溶媒である必要はなく、有機EL液の溶媒と同等の揮発性材料である流動性材料であればよい。第4の実施の形態に係る塗布装置1cでも同様に、第1ガス供給部19aから有機EL液の溶媒と同等の揮発性材料のガスが噴出され、基板9に対して供給されてよい。有機EL液の溶媒と同等の揮発性材料とは、有機EL液の乾燥を遅延させることができる揮発性材料であり、好ましくは、有機EL液の溶媒と共通する成分、あるいは、類似の成分を含むものを意味する。上記実施の形態のように、有機EL液の溶媒としてメシチレンが使用されている場合には、有機EL液の溶媒と同等の揮発性材料として、アニソール(メトキシベンゼン)、トルエン、キシレン等の芳香族の有機溶媒が利用される。
【0097】
また、第2および第4の実施の形態に係る塗布装置では、基板9の(+Y)側において基板保持部11に固定されるガス供給部19および第2ガス供給部19bにより、有機EL液の溶媒と同等の揮発性材料のガスが供給されてもよい。なお、第2の実施の形態に係る塗布装置1aでは、ガス供給部19から供給されるガスが、第2ノズル142から吐出される流動性材料とは異なる種類の揮発性材料のガスであってもよい。第4の実施の形態に係る塗布装置1cでも同様に、第1ガス供給部19aから供給されるガスと第2ガス供給部19bから供給されるガスとが異なる種類とされてもよい。
【0098】
上記実施の形態に係る塗布装置では、基板移動機構12による基板9および基板保持部11の移動に代えて、塗布ヘッド14が副走査方向に移動することにより、副走査方向における基板9の塗布ヘッド14に対する相対移動が行われてもよい。また、ヘッド移動機構15による塗布ヘッド14の移動に代えて、基板9および基板保持部11が主走査方向に移動することにより、主走査方向における塗布ヘッド14の基板9に対する相対移動が行われてもよい。
【0099】
上記塗布装置では、塗布ヘッド14の3本の第1ノズル141から、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)と互いに色が異なる3種類の有機EL材料をそれぞれ含む3種類の有機EL液が同時に吐出されて基板9に塗布されてもよい。この場合、塗布ヘッド14では、隣接する2本の第1ノズル141の間の副走査方向に関する距離が隔壁ピッチと等しくされる。また、塗布ヘッド14では、有機EL液を吐出する第1ノズル141の本数は必ずしも3本には限定されず、2本、あるいは、4本以上の第1ノズル141が塗布ヘッド14に設けられてもよい。さらには、これらの第1ノズル141から吐出される有機EL液は、隔壁が設けられていない塗布領域91にストライプ状に塗布されてもよい。
【0100】
ところで、基板9上に連続的に吐出された有機EL液のラインでは、有機EL液中の有機EL材料が主走査方向において比較的移動しやすいため、乾燥時間の差により有機EL材料の偏り大きくなって図4.Aに示すように膜厚の差が生じやすい。上記実施の形態に係る塗布装置は、上述のように、有機EL液の乾燥時間の均一性を向上することできるため、有機EL液を連続的に吐出して基板に塗布する装置に特に適しているが、インクジェット方式のように断続的に流動性材料を吐出して基板上に塗布する装置にも適用することができる。
【0101】
上記実施の形態に係る塗布装置では、揮発性の溶媒(例えば、水)および正孔輸送材料を含む流動性材料が基板9に塗布されてもよい。ここで、「正孔輸送材料」とは、有機EL表示装置の正孔輸送層を形成する材料であり、「正孔輸送層」とは、有機EL材料により形成された有機EL層へと正孔を輸送する狭義の正孔輸送層のみを意味するのではなく、正孔の注入を行う正孔注入層も含む。
【0102】
塗布装置は、1枚の基板から複数の有機EL表示装置を製造する(いわゆる、多面取りを行う)場合にも利用できる。また、上記塗布装置は、必ずしも有機EL表示装置用の有機EL材料または正孔輸送材料を含む流動性材料の塗布のみに利用されるわけではなく、例えば、液晶表示装置やプラズマ表示装置等の平面表示装置用の基板に対し、着色材料や蛍光材料等の他の種類の画素形成材料を含む流動性材料を塗布する場合に利用されてもよい。
【0103】
上述のように、塗布装置は、基板9上の塗布領域91における塗布ムラの発生を防止することができるため、製品となった際の表示の質の低下として塗布ムラが感得されやすい平面表示装置用の画素形成材料(上記実施の形態では、有機EL表示装置用の有機EL材料)を含む流動性材料の塗布に特に適しているが、上記塗布装置は、平面表示装置用の基板や半導体基板等の様々な基板に対する様々な種類の流動性材料の塗布に利用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】第1の実施の形態に係る塗布装置を示す平面図である。
【図2】塗布装置の右側面図である。
【図3】有機EL液の塗布の流れを示す図である。
【図4.A】比較例の塗布装置により基板上に形成された有機EL材料の膜を示す断面図である。
【図4.B】本実施の形態に係る塗布装置により基板上に形成された有機EL材料の膜を示す断面図である。
【図5】第2の実施の形態に係る塗布装置の平面図である。
【図6】有機EL液の塗布の流れを示す図である。
【図7】第3の実施の形態に係る塗布装置の平面図である。
【図8】有機EL液の塗布の流れを示す図である。
【図9】第4の実施の形態に係る塗布装置の平面図である。
【図10】塗布装置の右側面図である。
【図11】有機EL液の塗布の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1,1a〜1c 塗布装置
9 基板
11 基板保持部
12 基板移動機構
14 塗布ヘッド
15 ヘッド移動機構
19 ガス供給部
19a 第1ガス供給部
19b 第2ガス供給部
91 塗布領域
92 非塗布領域
141 第1ノズル
142 第2ノズル
191 噴出口
S11〜S17,S21〜S24,S31〜S36,S41〜S44 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に流動性材料を塗布する塗布装置であって、
基板を保持する基板保持部と、
前記基板に向けて流動性材料を吐出する吐出機構と、
前記吐出機構を前記基板の主面に平行な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動するとともに、前記主走査方向への移動が行われる毎に前記基板を前記吐出機構に対して前記主面に平行かつ前記主走査方向に垂直な副走査方向に相対的に移動する移動機構と、
を備え、
前記吐出機構が、
前記副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から揮発性の溶媒および前記基板上に付与する材料を含む第1流動性材料を吐出することにより前記基板上の塗布領域に前記第1流動性材料を塗布する第1吐出部と、
前記第1吐出部に対して前記副走査方向における前記基板の相対移動方向後側に配置され、前記第1流動性材料の前記溶媒または前記溶媒と同等の揮発性材料である第2流動性材料を吐出することにより、前記基板上の前記塗布領域に前記第2流動性材料を塗布する第2吐出部と、
を備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布装置であって、
前記吐出機構において、前記第1吐出部に対する前記第2吐出部の相対位置が固定されていることを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗布装置であって、
前記第1吐出部が、前記第1流動性材料を連続的に吐出し、
前記第2吐出部が、前記第2流動性材料を連続的に吐出することを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記第2吐出部が、前記副走査方向に関して位置が異なる複数の吐出口から前記第2流動性材料を吐出することを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記吐出機構が、前記第1吐出部に対して前記副走査方向における前記基板の相対移動方向前側に配置されて前記第2流動性材料を吐出するもう1つの第2吐出部をさらに備え、
前記第1吐出部による前記第1流動性材料の塗布開始時に、前記もう1つの第2吐出部が前記主走査方向に移動しつつ前記第2流動性材料を吐出することにより、前記基板の前記塗布領域の外側の非塗布領域に前記第2流動性材料が塗布されることを特徴とする塗布装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記基板の前記副走査方向における相対移動方向前側において前記基板に対して相対的に固定され、前記第1流動性材料の前記溶媒または前記溶媒と同等の揮発性材料のガスを供給するガス供給部をさらに備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記第1流動性材料が平面表示装置用の画素形成材料を含むことを特徴とする塗布装置。
【請求項8】
基板に流動性材料を塗布する塗布装置であって、
基板を保持する基板保持部と、
前記基板の主面に平行な副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から前記基板上の塗布領域に向けて揮発性の溶媒および前記基板上に付与する材料を含む流動性材料を吐出する吐出機構と、
前記吐出機構を前記副走査方向に垂直かつ前記主面に平行な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動するとともに、前記主走査方向への移動が行われる毎に前記基板を前記吐出機構に対して前記副走査方向に相対的に移動する移動機構と、
前記吐出機構の前記副走査方向における前記基板の相対移動方向後側において前記吐出機構に対する前記副走査方向の相対位置が固定されるとともに、前記流動性材料の前記溶媒または前記溶媒と同等の揮発性材料のガスを供給するガス供給部と、
を備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項9】
請求項8に記載の塗布装置であって、
前記ガス供給部が、前記塗布領域の前記主走査方向の全長に亘って前記基板の前記主面に対向するとともに前記主面に向けて前記ガスを噴出する噴出口を有することを特徴とする塗布装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の塗布装置であって、
前記基板の前記副走査方向における相対移動方向前側において前記基板に対して相対的に固定され、前記流動性材料の前記溶媒または前記溶媒と同等の揮発性材料のガスを供給するもう1つのガス供給部をさらに備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記流動性材料が平面表示装置用の画素形成材料を含むことを特徴とする塗布装置。
【請求項12】
基板に流動性材料を塗布する塗布方法であって、
a)吐出機構から基板に向けて流動性材料を吐出しつつ前記吐出機構を前記基板の主面に平行な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動する工程と、
b)前記基板の前記主面に平行かつ前記主走査方向に垂直な副走査方向に前記基板を前記吐出機構に対して相対的に移動する工程と、
c)前記a)工程および前記b)工程を繰り返す工程と、
を備え、
前記a)工程が、
d)前記吐出機構の第1吐出部において前記副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から、揮発性の溶媒および前記基板上に付与する材料を含む第1流動性材料を吐出することにより前記基板上の塗布領域に前記第1流動性材料を塗布する工程と、
e)前記d)工程と並行して、または、前記d)工程よりも前に、前記d)工程にて塗布される前記第1流動性材料に対して前記副走査方向における前記基板の相対移動方向後側において、前記第1流動性材料の前記溶媒または前記溶媒と同等の揮発性材料である第2流動性材料を第2吐出部から吐出することにより前記塗布領域に前記第2流動性材料を塗布する工程と、
を備えることを特徴とする塗布方法。
【請求項13】
請求項12に記載の塗布方法であって、
前記d)工程において、前記第1流動性材料が連続的に吐出され、
前記e)工程において、前記第2流動性材料が連続的に吐出されることを特徴とする塗布方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の塗布方法であって、
前記a)工程よりも前に、
f)前記基板の前記副走査方向における相対移動方向前側において、前記複数の吐出口から前記第1流動性材料を吐出しつつ前記第1吐出部を前記主走査方向に相対的に移動することにより、前記基板の前記塗布領域の外側の非塗布領域に前記第1流動性材料を塗布する工程、
または、
g)前記基板の前記副走査方向における相対移動方向前側において、前記第2吐出部から前記第2流動性材料を吐出しつつ前記第2吐出部を前記主走査方向に相対的に移動することにより、前記非塗布領域に前記第2流動性材料を塗布する工程を備えることを特徴とする塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4.A】
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【図4.B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−207084(P2008−207084A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44986(P2007−44986)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】