塗膜形成装置、その塗膜形成装置により塗膜が形成された電子写真用定着部材、その電子写真用定着部材を有した画像形成装置
【課題】被塗装物の塗膜を沸騰させることなく、急激に加熱することを可能とする塗膜形成装置を提供する。
【解決手段】塗膜形成装置1は基体4を保持する保持部18と基体4の外周面4cに塗料7を塗布する塗布ノズル19と塗布ノズル19を移動させる移動部20と加熱ユニット12を有する。保持部18が磁性金属で構成されかつキュリー温度が塗料7を加熱する温度に応じて定められた外筒部材42と低抵抗金属で構成された内筒部材43を有する。加熱ユニット12交流電圧が印加されることで保持部18を誘導加熱方式で加熱するコイル36と外筒部材42の温度が前記キュリー温度に達するまでコイルが生じる磁束が外筒部材42内のみに流れかつ外筒部材42の温度が前記キュリー温度に達すると磁束が内筒部材43にも流れるようにコイルに交流電圧を印加する交流電源34を有する。
【解決手段】塗膜形成装置1は基体4を保持する保持部18と基体4の外周面4cに塗料7を塗布する塗布ノズル19と塗布ノズル19を移動させる移動部20と加熱ユニット12を有する。保持部18が磁性金属で構成されかつキュリー温度が塗料7を加熱する温度に応じて定められた外筒部材42と低抵抗金属で構成された内筒部材43を有する。加熱ユニット12交流電圧が印加されることで保持部18を誘導加熱方式で加熱するコイル36と外筒部材42の温度が前記キュリー温度に達するまでコイルが生じる磁束が外筒部材42内のみに流れかつ外筒部材42の温度が前記キュリー温度に達すると磁束が内筒部材43にも流れるようにコイルに交流電圧を印加する交流電源34を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物の円筒面状の外周面に塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置に関し、例えば、PPC(普通紙複写機)、LBP(レーザビームプリンタ)、ファクシミリなどの電子写真方式を採用した画像形成装置において、記録紙上の未定着トナー像を加熱、加圧により定着させる定着部材(定着ベルト、定着ローラ)の弾性層を形成するのに好適な塗膜形成装置に関する。また、その塗膜形成装置により塗膜が形成された電子写真用定着部材、及び、その電子写真用定着部材を有した画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の原理に基づく複写機およびプリンタなどの画像形成装置では、加熱された定着部材とこの定着部材に圧接する加圧部材との間に、トナー像が転写された記録紙を通して、前記トナー像のトナーを溶融するとともに前記記録紙に定着させる定着プロセスを行う。この定着プロセスで用いられる定着ローラあるいは定着ベルトなどの定着部材は、アルミ、鉄などで構成される円筒形状の芯金や、ポリイミドなどの樹脂あるいはNiなどの金属で構成される無端状の基体など、の外周面にプライマ(接着剤)を塗布するとともに、その上からシリコーンゴムなどの耐熱性ゴムを含んだ塗料を塗布して、厚みが100〜300μm程度の弾性層を形成するなどして得られる(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
上記弾性層は、上述した定着プロセスにおいて、トナーを記録紙に押圧する圧力を均一にして画像の粒状度を向上させることが一般的に知られている。また、この弾性層の厚みが定着画像品質に影響を及ぼすとともに、前記定着部材の立ち上がり時間(所定の温度に達する時間)などに影響を及ぼすので、上記弾性層の厚みは均一にすることが求められている。
【0004】
そして、上述した弾性層を形成する方法として、従来、浸漬塗布法、ブレード塗布法、浸漬塗布法とブレード塗布法を組み合わせた方法、あるいは、環状カーテン塗布法(例えば、特許文献2参照)、スプレー塗布法やロール塗布法等の種々の方法が用いられていた。
【0005】
特に、前述した定着部材などの弾性層に用いられる高粘度な塗料を、高精度の膜厚で塗布するためには、上述した環状カーテン塗布法などのエクストルージョン型塗布方式が採用される。この環状カーテン塗布法は、軸芯が鉛直となるように被塗装部材を保持し、環状の塗布ノズルを用いて塗料のカーテン膜を形成して、当該塗料のカーテン膜を被塗装部材の外周面に付着されて、塗膜を形成する方法である。塗布ノズルに備わる塗布スリットより塗料を被塗装部材に向けて吐出させることで塗膜形成を開始し、塗料の吐出を完全に停止させることで塗膜形成を終了させる。塗膜の初端部と終端部の膜厚は,塗料吐出弁の開閉タイミングと環状塗布ノズルの移動速度により制御することが可能であることから、被塗装部材両端にマスクをすることなく塗膜を間欠的に形成することができる。塗膜形成後の被塗装部材(ワーク)は、環状カーテン塗布法により塗料を塗布する環状塗膜形成装置内の保持部としてのマンドレルより排出され、塗膜を加熱硬化するための加熱工程へと送られる。
【0006】
一般的に、電子写真用定着部材の弾性層として用いられる液状シリコーンゴムの場合、一次加熱(5分から15分間、100℃〜150℃の範囲内で加熱)、二次加熱(4時間、200℃程度に加熱)を経て、望ましい物性値を得る。一次加熱は、主に塗膜形成後の形を維持するために実施されるものであり、二次加熱をバッチ処理できるなど工程内の生産能力向上を目的としている。
【0007】
被塗装部材への塗膜形成直後から以後の塗膜の安定性は、主に塗料粘度の影響をうける。塗膜形成直後から一次加熱するまでの時間が長くなれば、塗膜形成後の塗料の自重により塗料がたれてしまい、塗膜の下端部近傍の膜厚が相対的に増大するなど鉛直方向の膜厚不均一を生じてしまう。特に比較的低粘度の塗料を用いた場合、この現象は顕著である。
【0008】
また、一次加熱する炉に被塗装部材を投入後、被塗装部材が炉内の温度雰囲気に到達するまでに塗料粘度の低下が生じ、塗膜中のウェルドラインなどに存在する残留応力が緩和して鉛直方向の塗料だれを生じることもある。これら塗膜の膜厚不均一や鉛直方向の塗料だれは、塗布膜厚の不良や次工程に離型層などの塗膜を形成させる場合に、次工程の塗膜に液ダレなどの塗布不良を誘発し塗装品質を悪化させる。また,塗膜端部は最終的にカットすることになるため、これら塗料だれなどの部位を避けたとしても、被塗装部材の材料歩留まりの面からみて好ましくない。
【0009】
上記と同様の課題を解決するため、塗料の高粘度化やチキソ性を増大させるなどの塗料側からの解決策の他、被塗装部材を外部から加熱した気体を吹き付ける手段を設けたもの(例えば、特許文献3参照)、また、浸漬塗布法においては、塗料槽に加熱手段を設けたもの(例えば、特許文献4参照)や、被塗装部材の上端の温度を下端側よりも高くするよう加熱手段を設けたもの(例えば、特許文献5参照)が提案されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した特許文献3に示された塗膜の加熱方法は、吹き付ける気体そのものによる塗膜の乱れを誘発するという不具合を生じる。また、特許文献4に示された塗膜の加熱方法は、シリコーンゴムなどの熱硬化型塗料の場合、塗布ノズル内にて材料硬化を生じてしまう。また、特許文献5に示されたように、被塗装部材の上側の温度を高くしたとしても、下側への塗料のたれは抑制できない。
【0011】
このため、本発明の出願人は、環状カーテン塗布法により塗料を塗布する環状塗膜形成装置において、前述したマンドレルを金属で構成し、かつコイルに交流電圧を印加することで当該マンドレルを誘導加熱させる方法を提案している。このコイルによるマンドレルを誘導加熱させる方法では、当該誘導加熱は発熱効率が高く、局所過熱が可能という特徴を持つ。すなわち、塗料を裏側から加熱できるために、塗料に含まれる揮発分が当該塗料から抜けやすく、揮発分の残留による気泡の発生を抑制することができる。
【0012】
しかしながら、コイルによるマンドレルを誘導加熱させる方法では、発熱効率が高いために、塗膜の温度を制御する手段を設けても、当該塗膜を加熱しすぎて、当該塗膜の塗料が沸騰することが懸念される、特に、塗料のたれを抑制するためには、急激な加熱が必要となるが、急激な加熱を行おうとするほど、塗膜の塗料が沸騰する可能性が増大する。
【0013】
また、塗膜を均一に形成しても、当該塗膜を加熱する際の温度分布が一様でなければ、塗膜内に内部応力を生じさせて、ひずみを生じさせて、当該塗膜の厚みを一様にすることができなくなる。このために、塗膜の温度分布が一様な状態で加熱できることが必要となる。
【0014】
本発明は上記問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、被塗装物の塗膜を沸騰させることなく、急激に加熱することを可能とする塗膜形成装置を提供し、そして、その塗膜形成装置により塗膜が形成された電子写真用定着部材、及び、その電子写真用定着部材を有した画像形成装置を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載された本発明の塗膜形成装置は、外周面に塗料が塗布される円筒状の被塗装物内に通されて当該被塗装物を保持する保持部と、内側に前記被塗装物を通して当該被塗装物の外周面に前記塗料を塗布する塗布ノズルと、前記塗布ノズルと前記被塗装物とを当該被塗装物の軸芯に沿って相対的に移動させる移動手段と、前記被塗装物の外周面に塗布された前記塗料を加熱する加熱手段と、を有する塗膜形成装置において、前記保持部が、磁性金属で構成されかつ前記被塗装物の内周面と相対するとともにキュリー温度が前記塗料を加熱する温度に応じて定められた第1層と、低抵抗金属で構成されかつ前記第1層の内側に設けられた第2層と、を有し、前記加熱手段が、交流電圧が印加されることで前記保持部を誘導加熱方式で加熱する励磁手段と、前記第1層の温度が前記キュリー温度に達するまで前記励磁手段が生じる磁束が第1層内のみに流れかつ前記第1層の温度が前記キュリー温度に達すると前記磁束が前記第2層内に流れるように前記励磁手段に交流電圧を印加する印加手段と、を有したことを特徴としている。
【0016】
請求項2に記載された本発明の塗膜形成装置は、請求項1に記載された塗膜形成装置において、前記励磁手段が、前記塗布ノズルに取り付けられていることを特徴としている。
【0017】
請求項3に記載された本発明の塗膜形成装置は、請求項1または請求項2に記載された塗膜形成装置において、前記キュリー温度が100℃から350℃の範囲内に含まれていることを特徴としている。
【0018】
請求項4に記載された本発明の電子写真用定着部材は、請求項1〜3のいずれか一項に記載された塗膜形成装置により塗膜が形成されたことを特徴としている。
【0019】
請求項5に記載された本発明の画像形成装置は、請求項4に記載された電子写真用定着部材を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載された本発明によれば、被塗装物内に通される保持部を加熱手段が誘導加熱方式により加熱するので、塗膜の内側から当該塗膜を加熱することとなって、塗料に含まれる揮発分が当該塗料から抜けやすく、揮発分の残留による気泡の発生を抑制することができる。また、励磁手段に交流電圧を印加して、保持部の第1層を誘導加熱方式により加熱するので、急激に第1層すなわち塗膜を加熱でき、塗料の液だれを防止できる。
【0021】
また、印加手段が、第1層の温度がキュリー温度に達するまで第1層内のみに磁束が流れ、第1層の温度がキュリー温度に達すると第2層に磁束が流れるように、励磁手段に交流電圧を印加するので、キュリー温度に達するまでは、第1層の外表面付近に集中して磁束が流れるために当該第1層が急激に発熱し、キュリー温度に達すると、第2層にも磁束が流れるために保持部の温度が上昇することを抑制する。このため、保持部の第1層が急激にキュリー温度すなわち塗料を加熱する温度により定められる温度までは上昇し、その後、保持部の第1層の温度がキュリー温度に保たれる。よって、塗料の塗膜を沸騰させることなく、急激に加熱することができる。
【0022】
請求項2に記載された本発明によれば、励磁手段が塗布ノズルに取り付けられているので、励磁手段と被塗装物即ち塗膜とを同軸に保つことができ、塗膜を加熱する際の温度分布を一様にすることができ、内部応力や歪みを生じさせることなく、塗膜を加熱することができる。
【0023】
請求項3に記載された本発明によれば、第1層のキュリー温度が100℃から350℃までの範囲内に含まれているので、塗料の塗膜を沸騰させることなく加熱することができる。
【0024】
請求項4に記載された本発明によれば、塗膜終端部において塗膜の連続性を確保した即ち液だれすることなく塗膜が加熱された電子写真用定着部材を安価に提供できる。
【0025】
請求項5に記載された本発明によれば、均一な塗膜を備え且つ塗膜終端部において塗膜の連続性を確保した安価な電子写真用定着部材を有しているので、定着画像品質が良好で且つ電子写真用定着部材の立ち上がり時間を短縮でき省エネルギー化に貢献することができる画像形成装置を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗膜形成装置の概略の構成を示す斜視図である。
【図2】図1中のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1に示された塗膜形成装置の保持部の外筒部材内のみに磁束が流れる状態を示す要部の断面図である。
【図4】図1に示された塗膜形成装置の保持部の内筒部材にも磁束が流れる状態を示す要部の断面図である。
【図5】図1に示された塗膜形成装置によって塗膜が形成されて得られる定着ローラの斜視図である。
【図6】図5中のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】図5に示された定着ローラを備えた画像形成装置を示す断面図である。
【図8】本発明品1と比較例1において、塗膜の膜圧の変化を示す説明図である。
【図9】本発明品1と比較例2において、塗膜のうねりの変化を示す説明図である。
【図10】第3の実験において用いられた発熱体とコイルを示す斜視図である。
【図11】本発明品2と比較例3において、発熱体の温度の変化を示す説明図である。
【図12】(a)は本発明品2のキュリー温度を下回る場合の磁束の浸透深さなどを示す発熱体など断面図であり、(b)は本発明品2のキュリー温度に達した場合の磁束の浸透深さなどを示す発熱体など断面図であり、(c)は比較例3のキュリー温度を下回る場合の磁束の浸透深さなどを示す発熱体など断面図であり、(d)は比較例3のキュリー温度に達した場合の磁束の浸透深さなどを示す発熱体など断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の一実施形態にかかる塗膜形成装置の概略の構成を示す斜視図である。図2は、図1中のII−II線に沿う断面図である。図3及び図4は図1に示す塗膜形成装置が動作した際の要部の断面図である。図5は、図1に示された塗膜形成装置によって弾性層 が形成されて得られる定着ローラ(定着部材)の斜視図である。図6は、図5中のVI−VI線に沿う断面図である。
【0028】
図1に示す塗膜形成装置1は、コピー機などの画像形成装置101(図7に示す)を構成する電子写真用定着部材としての定着ローラ2の基体4に、弾性層5を構成する塗料7を塗布して塗膜8を形成する装置である。
【0029】
定着ローラ2は、記録紙107(図7に示す)にトナー像を定着させる電子写真用定着部材として用いられるものであり、図5に示すように、円筒状に形成されている。定着ローラ2は、図6に示すように、ポリイミドなどの合成樹脂で構成されかつ円筒状に形成された基体4と、プライマ(接着剤)層3と、シリコーンゴムなどの耐熱性ゴムで構成された弾性層5と、プライマ層3と、フッ素樹脂で構成された離型層6とが順に積層されている。弾性層5の厚みWは100〜300μm程度に形成されている。
【0030】
また、弾性層5は、基体4の軸芯方向の一端部(塗膜形成装置1によって塗料7が塗布される際には下端部)4aから、基体4の軸芯方向の他端部(塗膜形成装置1によって塗料7が塗布される際には上端部)4bに亘って形成されている。定着ローラ2は、加熱された状態で、トナー像を該記録紙107に押圧して、このトナー像を記録紙107に定着させる。
【0031】
塗料7は、シリコーンゴムと周知の溶媒とを混合して得られ、その粘度は、前述したプライマ層3や離型層6を形成する際に用いられる塗料の粘度より十分に大きくされている。そして、この塗料7は、塗膜形成装置1によって、表面にプライマ層3が形成された基体4(特許請求の範囲の被塗装物に相当)の外表面、即ち、前述したプライマ層3上に塗布されて、前述した弾性層5を形成する。
【0032】
塗膜形成装置1は、図1に示すように、塗料供給部としての塗料供給ユニット10と、塗布ユニット11と、加熱手段としての加熱ユニット12と、制御部としての制御装置41とを備えている。この塗料供給ユニット10は、工場のフロア上などに設置されるユニット本体13と、複数の原液タンク14と、複数の汲み上げポンプ15と、混合機16と、図示しないサックバック弁と、を備えている。また、2本の配管40によって、混合機16と塗布ユニット11が備える後述する塗布ノズル19とが互いに連結されている。
【0033】
ユニット本体13は、箱状に形成されている。原液タンク14と汲み上げポンプ15とが、ユニット本体13内に収容されている。原液タンク14は、前述した塗料7の元となる液体を収容している。原液タンク14は、図示例では、二つ設けられている。汲み上げポンプ15は、原液タンク14内の液体を汲み上げて混合機16に供給する。汲み上げポンプ15は、一つの原液タンク14に対して一つ設けられている。
【0034】
混合機16は、ユニット本体13の上面に設置され、かつ複数の原液タンク14から汲み上げポンプ15を介して前述した液体が供給される。混合機16は、複数の原液タンク14からの液体を混合して、前述した塗料7を生成する。そして、混合機16は、ボールネジを用いた定量吐出装置を備えており、配管40を介して塗布ノズル19に向けて塗料7を送り出す。この定量吐出装置には、塗料7を定量的に吐出させるための遅延弁が設けられており、該遅延弁により塗料7は吐出前に加圧され、所定の圧力を得た後に遅延弁が開放される。遅延弁の開放と同時に、後述する塗布スリット19bから塗料7の吐出が開始される。実際に塗布ノズル19の塗布スリット19bから塗料7が吐出され始める遅延弁開放動作と、それに同期する塗布ノズル19の移動開始動作と、の差分時間Tdは、各構成において、実測などにより最適値を設定する。本実施形態では、実測により、1000≦Td≦3000[msec]の間にて設定している。これにより、塗膜始端部において、塗布スリット19bから吐出された塗料7が形成するカーテン状の塗料膜の先端部が、基体4の外周面の周方向に亘って均一に接触した後、ビードを形成することなく且つ該塗料膜を崩すことなく、塗布ノズル19の移動が開始され、均一な塗膜を形成することができる。
【0035】
サックバック弁は、配管40上に設けられ、混合機16による塗料7の送り出し停止に応じて、配管40内を減圧して、塗布ノズル19の塗布スリット19bから吐出された余剰な塗料7を塗布ノズル19内に引き戻すとともに、惰性によって塗布ノズル19から塗料7が吐出されないようにする。なお、サックバック弁による減圧効果が必要以上に大きいと、減圧に伴い塗布スリット19内に過剰に外気が流入し、この流入した外気によって、次の塗装動作開始時点の塗料7の吐出に乱れが生じて、塗膜始端部にスジ欠陥を誘発して、塗装品質が悪化するという問題がある。よって、サックバック弁による減圧においては、塗布スリット19b内に空気が侵入しないように、その圧力が調整されている。なお、本実施形態のようにサックバック弁を設けることが好ましいが、それを設けない構成も可能である。また、サックバック弁を設ける代わりに、吐出停止時に定量吐出装置における塗料7の流動方向を逆転するなどしても良い。
【0036】
塗布ユニット11は、フレーム17と、保持部18と、塗布ノズル19と、移動手段としての移動部20とを備えている。フレーム17は、工場のフロア上などに設置される台部21と、この台部21から上方に向かって延在した板状の延在板部22と、この延在板部22の上端部から水平方向に沿って延在した板状の上方板23とを備えている。この上方板23は、平板状に形成され、台部21と鉛直方向に沿って間隔をあけて相対している。
【0037】
保持部18は、立設柱24と、上チャック25とを備えている。立設柱24は、外観が円柱状に形成されかつ台部21の上面から上方に向かって立設して、その軸芯が鉛直方向と平行となっている。立設柱24は、図2に示すように、互いに同軸の円筒状に形成された第1層としての外筒部材42と、第2層としての内筒部材43とを備えている。
【0038】
外筒部材42は、磁性を有する金属(即ち磁性金属)で構成されている。なお、磁性金属とは、本発明では、所望のキュリー温度を有する金属でかつ、後述する式1中の常温時の比透磁率μが1でない金属をいう。図示例では、外筒部材42は、鉄とニッケルの合金で構成されている。また、外筒部材42は、そのキュリー温度が、前記塗料7を塗布した際に、当該塗料7により形成される塗膜8を加熱する温度に応じて定められた温度となっている。外筒部材42のキュリー温度は、前記塗料7の粘度などに応じて適宜定められるが、例えば、100℃から350℃の範囲内に含まれている。外筒部材42のキュリー温度は、例えば、前記塗膜8を加熱する際の温度が150℃である場合には、150℃であるように、前記塗膜8を加熱する際の温度と等しくてもよく、また、塗膜8などの熱容量を加味して、前記塗膜8を加熱する際の温度と若干異ならせてもよい。なお、外筒部材42のキュリー温度は、鉄とニッケルの含有率を変更することで、適宜調整することができる。なお、外筒部材42のキュリー温度が100℃を下回ると、塗料7の1次硬化時間が長くなり、当該塗料7が垂れて塗膜8の厚みにばらつきが生じるなどの不都合が生じる。また、外筒部材42のキュリー温度が350℃を上回ると、塗料7が硬化して得られる塗膜8の融点を上回って、当該塗料7を沸騰させてしまい塗膜8を硬化できない不都合が生じる。
【0039】
内筒部材43は、外径が外筒部材42の内径よりも十分に小さな円筒状に形成されている。内筒部材43は、低抵抗金属で構成されている。なお、磁性金属とは、本発明では、アルミニウム以下の抵抗率を有する非磁性金属をいう。図示例では、内筒部材43は、アルミニウム合金で構成されている。
【0040】
また、本実施形態では、外筒部材42の厚みが、非磁性体時に想定される浸透深さよりも薄く、内筒部材43の厚みが、浸透深さより厚く、外筒部材42の厚みが、磁性体時に想定される浸透深さより厚くなっている。
【0041】
前述した立設柱24は、基体4内に通されて、この基体4を保持する。また、立設柱24が基体4を保持すると、この立設柱24の外周面すなわち外筒部材42の外周面と基体4の内周面とが互いに密着して基体4の内周面と相対する。このため、立設柱24が基体4を保持すると、該基体4の軸芯P(図1中に一点鎖線で示す)が鉛直方向と平行になる。このように、立設柱24即ち保持部18は、軸芯Pが鉛直方向と平行になるように基体4を保持する。なお、前述した図示例では、外筒部材42と内筒部材43との間に空隙を設けているが、内筒部材43の外周面に磁性金属を鍍金することで外筒部材42を構成してもよい。
【0042】
上チャック25は、チャックシリンダ26と、押さえ部材27とを有している。チャックシリンダ26は、シリンダ本体28と、このシリンダ本体28から突没自在なロッド29とを有している。このシリンダ本体28は、鉛直方向に沿って下方に向かってロッド29が伸長する状態で、上述した上方板23に取り付けられている。また、押さえ部材27は、厚手の円盤状に形成され、ロッド29の先端に取り付けられているとともに、立設柱24と同軸に配置されている。上チャック25は、チャックシリンダ26のロッド29が伸長すると、押さえ部材27が立設柱24に保持された基体4の上端部4bと当接して、立設柱24に対して基体4を位置決めする。また、上チャック25は、チャックシリンダ26のロッド29が縮小すると、押さえ部材27が基体4の上端部4bから離れて、基体4を立設柱24から着脱自在とする。
【0043】
塗布ノズル19は、図2に示すように、中空の円環状に形成されている。塗布ノズル19には、配管40が接続されており、その内側の空間に当該配管40即ち前述した塗料供給ユニット10から塗料7が供給される。配管40は、塗布ノズル19内部への塗料7供給による圧力分布の不均一性を低減させるために、複数本(本実施形態では2本)が、塗布ノズル19に互いに間隔をあけて接続されることが望ましい。塗布ノズル19は、移動部20によって、立設柱24と該立設柱24に保持された基体4などと同軸に配置されているとともに、前述した軸芯Pに沿って移動自在に支持されている。また、塗布ノズル19の内径は、立設柱24に保持された基体4の外径よりも大きい。即ち、塗布ノズル19の内周面30は、基体4の外周面4c(プライマ層3の外表面)と間隔CGをあけて相対しているとともに、保持部18に保持された基体4と同軸に配置されている。
【0044】
また、塗布ノズル19の内周面30には、当該塗布ノズル19の内外を連通する塗布スリット19bが、該塗布ノズル19の全周に亘って形成されている。塗布ノズル19は、塗料供給ユニット10から供給された塗料7を、塗布スリット19bを通して、保持部18の立設柱24などに保持された基体4の外周面4cに向かって水平方向に吐出する。この際、塗料7は塗布スリット19b全周から均一に吐出され、該吐出された塗料7が円錐状の塗料膜を形成する。また、本明細書では、この塗布スリット19bから吐出されて基体4の外周面4cに付着するまでの円錐状の塗料膜を「カーテン膜」と呼ぶ。
【0045】
移動部20は、塗布ノズル支持板32と、リニアガイドと、モータと、リニアエンコーダと、を備えている。塗布ノズル支持板32は、環状に形成されている。塗布ノズル支持板32は、その上面に後述する加熱用コイル33を介して塗布ノズル19を設置している。塗布ノズル支持板32は、内側に立設柱24を通して、台部21と上方板23との間に配置されている。また、リニアガイドは、塗布ノズル支持板32を鉛直方向に沿って移動自在に支持している。また、モータは、塗布ノズル支持板32を鉛直方向に沿って移動させる。即ち、モータは、塗布ノズル支持板32を鉛直方向に沿って昇降させる。また、リニアエンコーダは、塗布ノズル支持板32の位置を検出する。リニアエンコーダは、検出した塗布ノズル支持板32の位置を、制御装置41に向かって出力する。
【0046】
このように、移動部20は、塗布ノズル支持板32を昇降させることで、立設柱24に保持された基体4と塗布ノズル19とを該基体4の軸芯Pに沿って相対的に移動させる。
【0047】
加熱ユニット12は、図2に示すように、加熱用コイル33と、印加手段としての交流電源34と、図示しない冷却ユニットを備えている。加熱用コイル33は、図2に示すように、内径が立設柱24に保持された基体4の外径よりも大きい円環状のケース35と、このケース35内に収容された励磁手段としてのコイル36とを備えている。ケース35は、合成樹脂で構成されている。ケース35は、コイル36を保持するためと絶縁するために用いられ、図示例では、ガラス繊維入りのPET樹脂で構成されている。ケース35は、保持部18の立設柱24などと同軸に配置されかつ前記塗布ノズル支持板32に重ねられている。また、ケース35即ち加熱用コイル33の後述するコイル36は、塗布ノズル支持板32と塗布ノズル19との双方に取り付けられている。
【0048】
コイル36は、ケース35内に収容されている。コイル36は、導電性の線条材37が前記軸芯P回りに巻かれて構成されている。線条材37として、外径が5mm〜20mm程度の中空銅線が用いられる。コイル36は、交流電圧が印加されると、図3及び図4の矢印で示すように、その回りに磁束Gを生じて、当該磁束Gを前記外筒部材42及び内筒部材43内に流して、前記立設柱24を加熱する。即ち、コイル36は、交流電圧が印加されることで、保持部18の立設柱24を誘導加熱方式で加熱する。
【0049】
交流電源34は、コイル36に20kHzから500kHzの交流電圧を印加する。交流電源がコイル36に交流電圧を印加すると、勿論、コイル36の回りに磁束Gが生じて、当該磁束Gが立設柱24の外筒部材42及び内筒部材43内を流れる。このときの磁束Gが外筒部材42及び内筒部材43内で流れる磁束Gの外周面からの深さを浸透深さといいδで示し、外筒部材42及び内筒部材43の体積抵抗率をρとし、外筒部材42及び内筒部材43の比透磁率をμとし、交流電源の周波数をfとすると、これらの間には、以下の式1で示す関係が成立している。
【0050】
【数1】
【0051】
交流電源34は、コイル36に、外筒部材42の温度が当該外筒部材42のキュリー温度を下回る状態では、図3に示すように前記磁束Gが外筒部材42内のみを流れ、外筒部材42の温度が当該外筒部材42のキュリー温度に達すると、図4に示すように前記磁束Gが内筒部材43と外筒部材42との双方内を流れる、一定の周波数の交流電圧を印加する。このように、交流電源34は、外筒部材42の温度が前記キュリー温度に達するまでコイル36が生じる磁束Gが外筒部材42内のみに流れかつ前記外筒部材42の温度が前記キュリー温度に達すると前記磁束Gが前記内筒部材43内にも流れるようにコイル36に交流電圧を印加する。
【0052】
冷却ユニットは、ケース35内で冷却水を循環させる配管などを備え、当該配管内に冷却水を循環させることで、コイル36を冷却する。
【0053】
制御装置41は、特許請求の範囲に記載した制御部に相当し、周知のRAM、ROM、CPUなどを有したコンピュータである。この制御装置41は、塗料供給ユニット10と、塗布ユニット11と、加熱ユニット12とに接続しており、これらを制御して、塗膜形成装置1全体の制御を司る。即ち、制御装置41には、移動部20のリニアエンコーダからの情報が入力されるとともに、リニアエンコーダからの塗布ノズル19の位置に応じた情報に基づいて、チャックシリンダ26と、移動部20のモータと、塗料供給ユニット10の汲み上げポンプ15,混合機16及びサックバック弁と、加熱ユニット12の交流電源34などの動作を制御して、塗布ノズル19を軸芯Pに沿って移動させながら基体4の外周面4cに塗料7を塗布して、塗膜8即ち弾性層5を形成する。そして、制御装置41は、塗布ノズル19を軸芯Pに沿って移動させながら基体4の外周面4cに塗料7を塗布する間に、交流電源34にコイル36に交流電圧を印加させて、誘導加熱方式により立設柱24を加熱させ、当該立設柱24の熱により塗膜8を順次加熱し、当該塗膜8の外表面を固める。
【0054】
なお、この際、外筒部材42の温度がキュリー温度を下回っていると、当該外筒部材42を構成する磁性金属が磁性を有していることから磁束Gが外表面付近に集中し、磁束Gにより発生する渦電流も外表面付近に集中して流れる。このため、外筒部材42の渦電流が流れる外表面付近の見かけの抵抗値が大きくなり、当該外筒部材42は急激に発熱する。そして、外筒部材42の温度が上昇して、キュリー温度に達して、当該外筒部材42が磁性を失うと、当該外筒部材42の外表面に集中していた磁束Gが内筒部材43まで達する。内筒部材43は低抵抗金属で構成されているために、当該内筒部材43の発熱量が小さく、外筒部材42の温度が上昇しない。このように、立設柱24即ち外筒部材42の温度がキュリー温度付近に保たれる。
【0055】
前述したように弾性層5が形成された定着ローラ2は、図7に示される画像形成装置101を構成する。画像形成装置101は、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色の画像則ちカラー画像を、一枚の転写材としての記録紙107に形成する。なお、イエロー、マゼンダ、シアン、黒の各色に対応するユニットなどを、以下、符号の末尾に各々Y、M、C、Kを付けて示す。
【0056】
画像形成装置101は、図7に示すように、装置本体102と、給紙ユニット103と、レジストローラ対110と、転写ユニット104と、定着ユニット105と、複数のレーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kと、複数のプロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kとを少なくとも備えている。
【0057】
装置本体102は、例えば、箱状に形成され、フロア上などに設置される。装置本体102は、給紙ユニット103と、レジストローラ対110と、転写ユニット104と、定着ユニット105と、複数のレーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kと、複数のプロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kを収容している。
【0058】
給紙ユニット103は、装置本体102の下部に複数設けられている。給紙ユニット103は、前述した記録紙107を重ねて収容するとともに装置本体102に出し入れ自在な給紙カセット123と、給紙ローラ124とを備えている。給紙ローラ124は、給紙カセット123内の一番上の記録紙107に押し当てられている。給紙ローラ124は、前述した一番上の記録紙107を、転写ユニット104の後述する搬送ベルト129と、プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kが備える感光体ドラムとの間に送り出す。
【0059】
レジストローラ対110は、給紙ユニット103から転写ユニット104に搬送される記録紙107の搬送経路に設けられており、一対のローラ110a、110bを備えている。レジストローラ対110は、一対のローラ110a、110b間に記録紙107を挟み込み、該挟み込んだ記録紙107を、トナー像を重ね合わせ得るタイミングで、転写ユニット104とプロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kとの間に送り出す。
【0060】
転写ユニット104は、給紙ユニット103の上方に設けられている。転写ユニット104は、駆動ローラ127と、従動ローラ128と、搬送ベルト129と、転写ローラ130Y、130M、130C、130Kとを備えている。駆動ローラ127は、記録紙107の搬送方向の下流側に配置されており、駆動源としてのモータなどによって回転駆動される。従動ローラ128は、装置本体102に回転自在に支持されており、記録紙107の搬送方向の上流側に配置されている。搬送ベルト129は、無端環状に形成されており、前述した駆動ローラ127と従動ローラ128との双方に掛け渡されている。搬送ベルト129は、駆動ローラ127が回転駆動されることで、前述した駆動ローラ127と従動ローラ128との回りを図中半時計回りに循環(無端走行)する。
【0061】
転写ローラ130Y、130M、130C、130Kは、それぞれ、プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kの感光体ドラムとの間に搬送ベルト129と該搬送ベルト129上の記録紙107とを挟む。転写ユニット104は、転写ローラ130Y、130M、130C、130Kが、給紙ユニット103から送り出された記録紙107を各プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kの感光体ドラムの外表面に押し付けて、感光体ドラム上のトナー像を記録紙107に転写する。転写ユニット104は、トナー像を転写した記録紙107を定着ユニット105に向けて送り出す。
【0062】
定着ユニット105は、転写ユニット104の記録紙107の搬送方向下流に設けられ、互いの間に記録紙107を挟む一対のローラ2、2aを備えている。このローラ2が前述した定着ローラ2でありかつ特許請求の範囲の電子写真用定着部材をなしている。ローラ2aが定着ローラ2に対して圧接する加圧ローラ(加圧部材)2aである。定着ユニット105は、一対のローラ2、2a間に転写ユニット104から送り出されてきた記録紙107を挟み込んで、押圧加熱することで、感光体ドラム108から記録紙107上に転写されたトナー像を、該記録紙107に定着させる。
【0063】
レーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kは、それぞれ、装置本体102の上部に取り付けられている。レーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kは、それぞれ一つのプロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kに対応している。レーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kは、プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kが備える帯電ローラにより一様に帯電された感光体ドラムの外表面にレーザ光を照射して、静電潜像を形成する。
【0064】
プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kは、それぞれ、転写ユニット104と、レーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kとの間に設けられている。プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kは、装置本体102に着脱自在である。プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kは、記録紙107の搬送方向に沿って、互いに並設されている。プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kは、帯電装置としての帯電ローラと、静電潜像担持体としての感光体ドラムと、クリーニング装置としてのクリーニングブレードと、現像装置と、を備えている。このため、画像形成装置101は、帯電ローラと、感光体ドラムと、クリーニングブレードと、現像装置と、を少なくとも備えている。
【0065】
画像形成装置101は、以下に示すように、記録紙107に画像を形成する。まず、画像形成装置101は、感光体ドラムを回転して、この感光体ドラムの外表面を一様に帯電ローラにより帯電する。感光体ドラムの外表面にレーザ光を照射して、該感光体ドラムの外表面に静電潜像を形成する。そして、静電潜像が現像領域に位置付けられると、現像装置の備える現像スリーブの外表面に吸着した現像剤が感光体ドラムの外表面に吸着して、静電潜像を現像し、トナー像を感光体ドラムの外表面に形成する。
【0066】
そして、画像形成装置101は、給紙ユニット103の給紙ローラ124などにより搬送されてきた記録紙107が、プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kの感光体ドラムと転写ユニット104の搬送ベルト129との間に位置して、感光体ドラムの外表面上に形成されたトナー像を記録紙107に転写する。画像形成装置101は、定着ユニット105で、記録紙107にトナー像を定着する。こうして、画像形成装置101は、記録紙107にカラー画像を形成する。
【0067】
本実施形態によれば、基体4内に通される保持部18の立設柱24を、加熱ユニット12が誘導加熱方式により加熱するので、塗膜8の内側から当該塗膜8を加熱することとなって、塗料7に含まれる揮発分が当該塗料7から抜けやすく、揮発分の残留による気泡の発生を抑制することができる。また、コイル36に交流電圧を印加して、保持部18の外筒部材42を誘導加熱方式により加熱するので、急激に外筒部材42すなわち塗膜8を加熱でき、塗料7の液だれを防止できる。
【0068】
また、交流電源34が、外筒部材42の温度がキュリー温度に達するまで外筒部材42内のみに磁束Gが流れ、外筒部材42の温度がキュリー温度に達すると内筒部材43に磁束Gが流れるように、コイル36に交流電圧を印加するので、キュリー温度に達するまでは、外筒部材42の外表面付近に集中して磁束が流れるために当該外筒部材42が急激に発熱し、キュリー温度に達すると、内筒部材43にも磁束が流れるために保持部18の立設柱24の外筒部材42の温度が上昇することを抑制する。このため、保持部18の外筒部材42が急激にキュリー温度すなわち塗料7を加熱する温度により定められる温度までは上昇し、その後、保持部18の外筒部材42の温度がキュリー温度に保たれる。よって、塗料7の塗膜8を沸騰させることなく、急激に加熱して液だれを防止することができる。
【0069】
コイル36が塗布ノズル19に取り付けられているので、コイル36と基体4即ち塗膜8とを同軸に保つことができ、塗膜8を加熱する際の温度分布を一様にすることができ、内部応力や歪みを生じさせることなく、塗膜8を加熱することができる。
【0070】
また、外筒部材42のキュリー温度が100℃から350℃までの範囲内に含まれているので、塗料7の塗膜8を沸騰させることなく加熱することができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、塗膜終端部において塗膜8の連続性を確保した即ち液だれと沸騰することなく塗膜8が加熱された定着ローラ2を安価に提供できる。
【0072】
さらに、画像形成装置101は、均一な塗膜を備え且つ塗膜終端部において塗膜の連続性を確保した安価な定着ローラ2を有しているので、定着画像品質が良好で且つ電子写真用定着部材の立ち上がり時間を短縮でき省エネルギー化に貢献することができる。
【0073】
また、前述した実施形態では、定着ローラ2の弾性層5を形成する場合を示しているが、本発明は、定着ローラ2に限ることなく、定着ベルトなどの種々の被塗装物に塗膜を形成しても良いことは勿論である。
【0074】
また、前述した実施形態では、基体4を固定して、塗布ノズル19を移動させている。しかしながら、本発明では、塗布ノズル19を固定して、基体4を移動させても良く、塗布ノズル19と基体4との双方を移動させても良い。
【0075】
次に本発明の発明者らは、本発明の塗膜形成装置1の効果を確認した。まず、図8に結果を示す第1の実験では、以下の本発明品1及び比較例1において、それぞれ、ポリイミドで構成され、内径が60.0mm、厚みが70μm、軸芯P方向の長さが370mmの基体4に、粘度が20Pa・s(パスカル秒)の2液性高温硬化型のシリコーンゴム(信越シリコーン(株)製 KE−1353)を塗料7として塗布した。厚み200μmとなるように、塗膜8を形成した。
【0076】
本発明品1では、立設柱24が、キュリー温度が150℃とされた外筒部材42と、アルミニウム合金で構成された内筒部材43とで構成されている。外筒部材42の厚みが0.4mmとされ、内筒部材43の厚みが3.0mmとされている。また、外筒部材42と内筒部材43との間には、幅が0.5mmの空隙を設けている。また、コイル36を構成する線条材37として、外径が8mmの中空銅線を用い、交流電源34は、周波数が20kHzの交流電圧をコイル36に印加する。比較例1では、上記本発明品1において加熱ユニット12を設けない塗膜形成装置を用いた。
【0077】
図8の横軸は、塗膜形成装置1により塗膜8が形成されてからの放置時間を示し、図8の縦軸は、塗膜8の下端部4aの厚みを示している。図8によれは、本発明品1が、比較例1よりも塗膜8の厚みの偏差が少ないことが明らかとなった。塗膜8を形成してから当該塗膜が硬化するまでの時間が短縮されることで、塗膜8の塗料7の液だれを抑制したことにより、当該効果が生じたものと思慮される。
【0078】
次に、図9に結果を示す第2の実験では、前述した本発明品1及び比較例2において、それぞれ、ポリイミドで構成され、内径が60.0mm、厚みが70μm、軸芯P方向の長さが370mmの基体4に、粘度が20Pa・s(パスカル秒)の2液性高温硬化型のシリコーンゴム(信越シリコーン(株)製 KE−1353)を塗料7として塗布した。厚み200μmとなるように、塗膜8を形成した。なお、比較例2では、上記本発明品1において、外筒部材42をSUS420で構成した塗膜形成装置を用いた。
【0079】
図9の横軸は、塗膜8の下端を0とした当該塗膜8の軸芯P方向の位置を示し、縦軸は、軸芯P方向の長さ25mm内における塗膜8の外表面のうねりを示している。図9によれば、本発明品1が、比較例1よりも軸芯P方向の塗膜8の外表面のうねりが少ないことが明らかとなった。塗膜8を一様に内部応力を生じることなく加熱して、うねりが少ないという効果が生じたものと思慮される。
【0080】
次に、図11、表3及び表4に結果の一部を示す第3の実験では、本発明品2と、比較例3、比較例4及び比較例5において、磁性金属で構成される第1部材51のキュリー温度付近で、発熱体52の温度が一定となるか否かを確認した。
【0081】
本実験では、図10に示すU字型のコイル53を、低抵抗金属としてアルミニウム合金で構成されかつ内筒部材43に相当し第2層としての第2部材54と、磁性金属で構成されかつ外筒部材42に相当し第1層としての第1部材51とが順に重ねられた発熱体52上に重ね、コイル36に周波数が36kHzと130kHzの交流電圧を印加した。
【0082】
なお、以下の表1に示すように、本発明品2は、第1部材51の厚みを0.4mm、第2部材54の厚みを0.8mmとし、比較例3は、第1部材51の厚みを0.4mm、第2部材54の厚みを0.3mmとし、比較例4は、第1部材51の厚みを1.5mm、第2部材54の厚みを0.3mmとし、比較例5は、第1部材51の厚みを1.5mm、第2部材54の厚みを0.8mmとした。
【0083】
【表1】
【0084】
また、前記第1部材51と、第2部材54へのコイル53が生じる磁束Gの浸透深さをδとし、体積抵抗率をρとし、比透磁率をμとし、交流電圧の周波数をfとすると、前記式1に基づいて求めることができ、その結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
図11には、周波数が36kHzの交流電圧を印加してからの経過時間に対する発熱体52の温度の変化を示している。本発明品2では、温度が150℃で一定となるが、比較例3では、150℃を超えても温度が上昇することが明らかとなった。
【0087】
また、上記本発明品2、比較例3ないし比較例5において、周波数が36kHzの交流電圧を印加してから発熱体52の温度が一定となるか否かを表3に示し、周波数が130kHzの交流電圧を印加してから発熱体52の温度が一定となるか否かを表4に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
表3によれば、第2部材54の厚みが浸透深さδよりも小さい場合には、発熱体52の温度が一定となることがないことが明らかとなった。表4によれば、第1部材51の厚みが、キュリー温度を超えて非磁性体となったときの浸透深さδよりも大きい場合には、発熱体52の温度が一定となることがないことが明らかとなった。
【0091】
この現象は、図12に示すように、説明することができる。まず、発熱体52の温度がキュリー温度を下回るとき、第1部材51が磁性を有することから磁束Gが表層付近に集中し、磁束により発生する渦電流も表層に集中して流れる。これを示すのが浸透深さであり、例えば36kHzとしたとき、表2から0.07mmとなる。つまり、図12(a)に平行斜線で示す第1部材51の表層付近に電流が集中して流れるため、その流域の厚みと金属の抵抗率から算出する見かけの抵抗が大きくなり高発熱効率を示す。
【0092】
発熱体52の温度が上昇して、キュリー温度に達すると、第1部材51が磁性を失い、表層に集中していた磁束Gが、図12(b)に平行斜線で示す第2部材54まで達する。第2部材54が、低抵抗金属としてのアルミニウム合金で構成されているために、抵抗が小さく渦電流が流れても発熱が小さい。また、第1部材51でも全域にわたり渦電流が流れることから見かけの抵抗が、磁性を有するときより小さくなり、キュリー温度に達したところで全体の発熱効率が落ちて自己温度制御が働くものである。
【0093】
キュリー温度に達することなく、第2部材54に渦電流が流れるほどに第1部材51の厚みが薄い場合即ち磁性を有する第1部材51への浸透深さが第1部材51の厚みを超えている場合には、第1部材51が磁性・非磁性である場合によらず、図12(c)に平行斜線で示す全域で渦電流が流れることになる。このとき、キュリー温度に達しても、図12(d)に平行斜線で示す第2部材54に流れる渦電流量が変わるものの、元々第2部材54での発熱は小さいため発熱量の変化も小さく、急峻な立上げと目標温度への安定した制御を両立する自己温度制御特性は発現しない。
【0094】
このように、(1)第1部材51即ち外筒部材42の厚みが、非磁性体時に想定される浸透深さよりも薄いこと、(2)第2部材54即ち内筒部材43の厚みが、浸透深さより厚いこと、(3)第1部材51即ち外筒部材42の厚みが、磁性体時に想定される浸透深さより厚いこと、という三つの条件を満たす場合に、発熱体52即ち立設柱24の温度が第1部材51即ち外筒部材42のキュリー温度で一定となることが明らかとなった。
【0095】
なお、前述した実施例は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施例に
限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施する
ことができる。本発明の塗膜形成装置は、例えば、複写機やファクシミリ、LBP等の画
像形成装置において、定着、加圧、帯電、現像などに使用される円筒状部材(ベルトやチ
ューブ)、円柱部材の塗装に応用可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 塗膜形成装置
2 定着ローラ(電子写真用定着部材)
4 基体(被塗装物)
4c 外周面
7 塗料
8 塗膜
12 加熱ユニット
18 保持部
19 塗布ノズル
20 移動部(移動手段)
34 交流電源(印加手段)
36 コイル(励磁手段)
42 外筒部材(第1層)
43 内筒部材(第2層)
101 画像形成装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0097】
【特許文献1】特開2002−14557号公報
【特許文献2】特開2007−245072号公報
【特許文献3】特開平5−289370号公報
【特許文献4】特開昭61−178064号公報
【特許文献5】特開昭63−305964号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物の円筒面状の外周面に塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置に関し、例えば、PPC(普通紙複写機)、LBP(レーザビームプリンタ)、ファクシミリなどの電子写真方式を採用した画像形成装置において、記録紙上の未定着トナー像を加熱、加圧により定着させる定着部材(定着ベルト、定着ローラ)の弾性層を形成するのに好適な塗膜形成装置に関する。また、その塗膜形成装置により塗膜が形成された電子写真用定着部材、及び、その電子写真用定着部材を有した画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の原理に基づく複写機およびプリンタなどの画像形成装置では、加熱された定着部材とこの定着部材に圧接する加圧部材との間に、トナー像が転写された記録紙を通して、前記トナー像のトナーを溶融するとともに前記記録紙に定着させる定着プロセスを行う。この定着プロセスで用いられる定着ローラあるいは定着ベルトなどの定着部材は、アルミ、鉄などで構成される円筒形状の芯金や、ポリイミドなどの樹脂あるいはNiなどの金属で構成される無端状の基体など、の外周面にプライマ(接着剤)を塗布するとともに、その上からシリコーンゴムなどの耐熱性ゴムを含んだ塗料を塗布して、厚みが100〜300μm程度の弾性層を形成するなどして得られる(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
上記弾性層は、上述した定着プロセスにおいて、トナーを記録紙に押圧する圧力を均一にして画像の粒状度を向上させることが一般的に知られている。また、この弾性層の厚みが定着画像品質に影響を及ぼすとともに、前記定着部材の立ち上がり時間(所定の温度に達する時間)などに影響を及ぼすので、上記弾性層の厚みは均一にすることが求められている。
【0004】
そして、上述した弾性層を形成する方法として、従来、浸漬塗布法、ブレード塗布法、浸漬塗布法とブレード塗布法を組み合わせた方法、あるいは、環状カーテン塗布法(例えば、特許文献2参照)、スプレー塗布法やロール塗布法等の種々の方法が用いられていた。
【0005】
特に、前述した定着部材などの弾性層に用いられる高粘度な塗料を、高精度の膜厚で塗布するためには、上述した環状カーテン塗布法などのエクストルージョン型塗布方式が採用される。この環状カーテン塗布法は、軸芯が鉛直となるように被塗装部材を保持し、環状の塗布ノズルを用いて塗料のカーテン膜を形成して、当該塗料のカーテン膜を被塗装部材の外周面に付着されて、塗膜を形成する方法である。塗布ノズルに備わる塗布スリットより塗料を被塗装部材に向けて吐出させることで塗膜形成を開始し、塗料の吐出を完全に停止させることで塗膜形成を終了させる。塗膜の初端部と終端部の膜厚は,塗料吐出弁の開閉タイミングと環状塗布ノズルの移動速度により制御することが可能であることから、被塗装部材両端にマスクをすることなく塗膜を間欠的に形成することができる。塗膜形成後の被塗装部材(ワーク)は、環状カーテン塗布法により塗料を塗布する環状塗膜形成装置内の保持部としてのマンドレルより排出され、塗膜を加熱硬化するための加熱工程へと送られる。
【0006】
一般的に、電子写真用定着部材の弾性層として用いられる液状シリコーンゴムの場合、一次加熱(5分から15分間、100℃〜150℃の範囲内で加熱)、二次加熱(4時間、200℃程度に加熱)を経て、望ましい物性値を得る。一次加熱は、主に塗膜形成後の形を維持するために実施されるものであり、二次加熱をバッチ処理できるなど工程内の生産能力向上を目的としている。
【0007】
被塗装部材への塗膜形成直後から以後の塗膜の安定性は、主に塗料粘度の影響をうける。塗膜形成直後から一次加熱するまでの時間が長くなれば、塗膜形成後の塗料の自重により塗料がたれてしまい、塗膜の下端部近傍の膜厚が相対的に増大するなど鉛直方向の膜厚不均一を生じてしまう。特に比較的低粘度の塗料を用いた場合、この現象は顕著である。
【0008】
また、一次加熱する炉に被塗装部材を投入後、被塗装部材が炉内の温度雰囲気に到達するまでに塗料粘度の低下が生じ、塗膜中のウェルドラインなどに存在する残留応力が緩和して鉛直方向の塗料だれを生じることもある。これら塗膜の膜厚不均一や鉛直方向の塗料だれは、塗布膜厚の不良や次工程に離型層などの塗膜を形成させる場合に、次工程の塗膜に液ダレなどの塗布不良を誘発し塗装品質を悪化させる。また,塗膜端部は最終的にカットすることになるため、これら塗料だれなどの部位を避けたとしても、被塗装部材の材料歩留まりの面からみて好ましくない。
【0009】
上記と同様の課題を解決するため、塗料の高粘度化やチキソ性を増大させるなどの塗料側からの解決策の他、被塗装部材を外部から加熱した気体を吹き付ける手段を設けたもの(例えば、特許文献3参照)、また、浸漬塗布法においては、塗料槽に加熱手段を設けたもの(例えば、特許文献4参照)や、被塗装部材の上端の温度を下端側よりも高くするよう加熱手段を設けたもの(例えば、特許文献5参照)が提案されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した特許文献3に示された塗膜の加熱方法は、吹き付ける気体そのものによる塗膜の乱れを誘発するという不具合を生じる。また、特許文献4に示された塗膜の加熱方法は、シリコーンゴムなどの熱硬化型塗料の場合、塗布ノズル内にて材料硬化を生じてしまう。また、特許文献5に示されたように、被塗装部材の上側の温度を高くしたとしても、下側への塗料のたれは抑制できない。
【0011】
このため、本発明の出願人は、環状カーテン塗布法により塗料を塗布する環状塗膜形成装置において、前述したマンドレルを金属で構成し、かつコイルに交流電圧を印加することで当該マンドレルを誘導加熱させる方法を提案している。このコイルによるマンドレルを誘導加熱させる方法では、当該誘導加熱は発熱効率が高く、局所過熱が可能という特徴を持つ。すなわち、塗料を裏側から加熱できるために、塗料に含まれる揮発分が当該塗料から抜けやすく、揮発分の残留による気泡の発生を抑制することができる。
【0012】
しかしながら、コイルによるマンドレルを誘導加熱させる方法では、発熱効率が高いために、塗膜の温度を制御する手段を設けても、当該塗膜を加熱しすぎて、当該塗膜の塗料が沸騰することが懸念される、特に、塗料のたれを抑制するためには、急激な加熱が必要となるが、急激な加熱を行おうとするほど、塗膜の塗料が沸騰する可能性が増大する。
【0013】
また、塗膜を均一に形成しても、当該塗膜を加熱する際の温度分布が一様でなければ、塗膜内に内部応力を生じさせて、ひずみを生じさせて、当該塗膜の厚みを一様にすることができなくなる。このために、塗膜の温度分布が一様な状態で加熱できることが必要となる。
【0014】
本発明は上記問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、被塗装物の塗膜を沸騰させることなく、急激に加熱することを可能とする塗膜形成装置を提供し、そして、その塗膜形成装置により塗膜が形成された電子写真用定着部材、及び、その電子写真用定着部材を有した画像形成装置を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載された本発明の塗膜形成装置は、外周面に塗料が塗布される円筒状の被塗装物内に通されて当該被塗装物を保持する保持部と、内側に前記被塗装物を通して当該被塗装物の外周面に前記塗料を塗布する塗布ノズルと、前記塗布ノズルと前記被塗装物とを当該被塗装物の軸芯に沿って相対的に移動させる移動手段と、前記被塗装物の外周面に塗布された前記塗料を加熱する加熱手段と、を有する塗膜形成装置において、前記保持部が、磁性金属で構成されかつ前記被塗装物の内周面と相対するとともにキュリー温度が前記塗料を加熱する温度に応じて定められた第1層と、低抵抗金属で構成されかつ前記第1層の内側に設けられた第2層と、を有し、前記加熱手段が、交流電圧が印加されることで前記保持部を誘導加熱方式で加熱する励磁手段と、前記第1層の温度が前記キュリー温度に達するまで前記励磁手段が生じる磁束が第1層内のみに流れかつ前記第1層の温度が前記キュリー温度に達すると前記磁束が前記第2層内に流れるように前記励磁手段に交流電圧を印加する印加手段と、を有したことを特徴としている。
【0016】
請求項2に記載された本発明の塗膜形成装置は、請求項1に記載された塗膜形成装置において、前記励磁手段が、前記塗布ノズルに取り付けられていることを特徴としている。
【0017】
請求項3に記載された本発明の塗膜形成装置は、請求項1または請求項2に記載された塗膜形成装置において、前記キュリー温度が100℃から350℃の範囲内に含まれていることを特徴としている。
【0018】
請求項4に記載された本発明の電子写真用定着部材は、請求項1〜3のいずれか一項に記載された塗膜形成装置により塗膜が形成されたことを特徴としている。
【0019】
請求項5に記載された本発明の画像形成装置は、請求項4に記載された電子写真用定着部材を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載された本発明によれば、被塗装物内に通される保持部を加熱手段が誘導加熱方式により加熱するので、塗膜の内側から当該塗膜を加熱することとなって、塗料に含まれる揮発分が当該塗料から抜けやすく、揮発分の残留による気泡の発生を抑制することができる。また、励磁手段に交流電圧を印加して、保持部の第1層を誘導加熱方式により加熱するので、急激に第1層すなわち塗膜を加熱でき、塗料の液だれを防止できる。
【0021】
また、印加手段が、第1層の温度がキュリー温度に達するまで第1層内のみに磁束が流れ、第1層の温度がキュリー温度に達すると第2層に磁束が流れるように、励磁手段に交流電圧を印加するので、キュリー温度に達するまでは、第1層の外表面付近に集中して磁束が流れるために当該第1層が急激に発熱し、キュリー温度に達すると、第2層にも磁束が流れるために保持部の温度が上昇することを抑制する。このため、保持部の第1層が急激にキュリー温度すなわち塗料を加熱する温度により定められる温度までは上昇し、その後、保持部の第1層の温度がキュリー温度に保たれる。よって、塗料の塗膜を沸騰させることなく、急激に加熱することができる。
【0022】
請求項2に記載された本発明によれば、励磁手段が塗布ノズルに取り付けられているので、励磁手段と被塗装物即ち塗膜とを同軸に保つことができ、塗膜を加熱する際の温度分布を一様にすることができ、内部応力や歪みを生じさせることなく、塗膜を加熱することができる。
【0023】
請求項3に記載された本発明によれば、第1層のキュリー温度が100℃から350℃までの範囲内に含まれているので、塗料の塗膜を沸騰させることなく加熱することができる。
【0024】
請求項4に記載された本発明によれば、塗膜終端部において塗膜の連続性を確保した即ち液だれすることなく塗膜が加熱された電子写真用定着部材を安価に提供できる。
【0025】
請求項5に記載された本発明によれば、均一な塗膜を備え且つ塗膜終端部において塗膜の連続性を確保した安価な電子写真用定着部材を有しているので、定着画像品質が良好で且つ電子写真用定着部材の立ち上がり時間を短縮でき省エネルギー化に貢献することができる画像形成装置を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗膜形成装置の概略の構成を示す斜視図である。
【図2】図1中のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1に示された塗膜形成装置の保持部の外筒部材内のみに磁束が流れる状態を示す要部の断面図である。
【図4】図1に示された塗膜形成装置の保持部の内筒部材にも磁束が流れる状態を示す要部の断面図である。
【図5】図1に示された塗膜形成装置によって塗膜が形成されて得られる定着ローラの斜視図である。
【図6】図5中のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】図5に示された定着ローラを備えた画像形成装置を示す断面図である。
【図8】本発明品1と比較例1において、塗膜の膜圧の変化を示す説明図である。
【図9】本発明品1と比較例2において、塗膜のうねりの変化を示す説明図である。
【図10】第3の実験において用いられた発熱体とコイルを示す斜視図である。
【図11】本発明品2と比較例3において、発熱体の温度の変化を示す説明図である。
【図12】(a)は本発明品2のキュリー温度を下回る場合の磁束の浸透深さなどを示す発熱体など断面図であり、(b)は本発明品2のキュリー温度に達した場合の磁束の浸透深さなどを示す発熱体など断面図であり、(c)は比較例3のキュリー温度を下回る場合の磁束の浸透深さなどを示す発熱体など断面図であり、(d)は比較例3のキュリー温度に達した場合の磁束の浸透深さなどを示す発熱体など断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の一実施形態にかかる塗膜形成装置の概略の構成を示す斜視図である。図2は、図1中のII−II線に沿う断面図である。図3及び図4は図1に示す塗膜形成装置が動作した際の要部の断面図である。図5は、図1に示された塗膜形成装置によって弾性層 が形成されて得られる定着ローラ(定着部材)の斜視図である。図6は、図5中のVI−VI線に沿う断面図である。
【0028】
図1に示す塗膜形成装置1は、コピー機などの画像形成装置101(図7に示す)を構成する電子写真用定着部材としての定着ローラ2の基体4に、弾性層5を構成する塗料7を塗布して塗膜8を形成する装置である。
【0029】
定着ローラ2は、記録紙107(図7に示す)にトナー像を定着させる電子写真用定着部材として用いられるものであり、図5に示すように、円筒状に形成されている。定着ローラ2は、図6に示すように、ポリイミドなどの合成樹脂で構成されかつ円筒状に形成された基体4と、プライマ(接着剤)層3と、シリコーンゴムなどの耐熱性ゴムで構成された弾性層5と、プライマ層3と、フッ素樹脂で構成された離型層6とが順に積層されている。弾性層5の厚みWは100〜300μm程度に形成されている。
【0030】
また、弾性層5は、基体4の軸芯方向の一端部(塗膜形成装置1によって塗料7が塗布される際には下端部)4aから、基体4の軸芯方向の他端部(塗膜形成装置1によって塗料7が塗布される際には上端部)4bに亘って形成されている。定着ローラ2は、加熱された状態で、トナー像を該記録紙107に押圧して、このトナー像を記録紙107に定着させる。
【0031】
塗料7は、シリコーンゴムと周知の溶媒とを混合して得られ、その粘度は、前述したプライマ層3や離型層6を形成する際に用いられる塗料の粘度より十分に大きくされている。そして、この塗料7は、塗膜形成装置1によって、表面にプライマ層3が形成された基体4(特許請求の範囲の被塗装物に相当)の外表面、即ち、前述したプライマ層3上に塗布されて、前述した弾性層5を形成する。
【0032】
塗膜形成装置1は、図1に示すように、塗料供給部としての塗料供給ユニット10と、塗布ユニット11と、加熱手段としての加熱ユニット12と、制御部としての制御装置41とを備えている。この塗料供給ユニット10は、工場のフロア上などに設置されるユニット本体13と、複数の原液タンク14と、複数の汲み上げポンプ15と、混合機16と、図示しないサックバック弁と、を備えている。また、2本の配管40によって、混合機16と塗布ユニット11が備える後述する塗布ノズル19とが互いに連結されている。
【0033】
ユニット本体13は、箱状に形成されている。原液タンク14と汲み上げポンプ15とが、ユニット本体13内に収容されている。原液タンク14は、前述した塗料7の元となる液体を収容している。原液タンク14は、図示例では、二つ設けられている。汲み上げポンプ15は、原液タンク14内の液体を汲み上げて混合機16に供給する。汲み上げポンプ15は、一つの原液タンク14に対して一つ設けられている。
【0034】
混合機16は、ユニット本体13の上面に設置され、かつ複数の原液タンク14から汲み上げポンプ15を介して前述した液体が供給される。混合機16は、複数の原液タンク14からの液体を混合して、前述した塗料7を生成する。そして、混合機16は、ボールネジを用いた定量吐出装置を備えており、配管40を介して塗布ノズル19に向けて塗料7を送り出す。この定量吐出装置には、塗料7を定量的に吐出させるための遅延弁が設けられており、該遅延弁により塗料7は吐出前に加圧され、所定の圧力を得た後に遅延弁が開放される。遅延弁の開放と同時に、後述する塗布スリット19bから塗料7の吐出が開始される。実際に塗布ノズル19の塗布スリット19bから塗料7が吐出され始める遅延弁開放動作と、それに同期する塗布ノズル19の移動開始動作と、の差分時間Tdは、各構成において、実測などにより最適値を設定する。本実施形態では、実測により、1000≦Td≦3000[msec]の間にて設定している。これにより、塗膜始端部において、塗布スリット19bから吐出された塗料7が形成するカーテン状の塗料膜の先端部が、基体4の外周面の周方向に亘って均一に接触した後、ビードを形成することなく且つ該塗料膜を崩すことなく、塗布ノズル19の移動が開始され、均一な塗膜を形成することができる。
【0035】
サックバック弁は、配管40上に設けられ、混合機16による塗料7の送り出し停止に応じて、配管40内を減圧して、塗布ノズル19の塗布スリット19bから吐出された余剰な塗料7を塗布ノズル19内に引き戻すとともに、惰性によって塗布ノズル19から塗料7が吐出されないようにする。なお、サックバック弁による減圧効果が必要以上に大きいと、減圧に伴い塗布スリット19内に過剰に外気が流入し、この流入した外気によって、次の塗装動作開始時点の塗料7の吐出に乱れが生じて、塗膜始端部にスジ欠陥を誘発して、塗装品質が悪化するという問題がある。よって、サックバック弁による減圧においては、塗布スリット19b内に空気が侵入しないように、その圧力が調整されている。なお、本実施形態のようにサックバック弁を設けることが好ましいが、それを設けない構成も可能である。また、サックバック弁を設ける代わりに、吐出停止時に定量吐出装置における塗料7の流動方向を逆転するなどしても良い。
【0036】
塗布ユニット11は、フレーム17と、保持部18と、塗布ノズル19と、移動手段としての移動部20とを備えている。フレーム17は、工場のフロア上などに設置される台部21と、この台部21から上方に向かって延在した板状の延在板部22と、この延在板部22の上端部から水平方向に沿って延在した板状の上方板23とを備えている。この上方板23は、平板状に形成され、台部21と鉛直方向に沿って間隔をあけて相対している。
【0037】
保持部18は、立設柱24と、上チャック25とを備えている。立設柱24は、外観が円柱状に形成されかつ台部21の上面から上方に向かって立設して、その軸芯が鉛直方向と平行となっている。立設柱24は、図2に示すように、互いに同軸の円筒状に形成された第1層としての外筒部材42と、第2層としての内筒部材43とを備えている。
【0038】
外筒部材42は、磁性を有する金属(即ち磁性金属)で構成されている。なお、磁性金属とは、本発明では、所望のキュリー温度を有する金属でかつ、後述する式1中の常温時の比透磁率μが1でない金属をいう。図示例では、外筒部材42は、鉄とニッケルの合金で構成されている。また、外筒部材42は、そのキュリー温度が、前記塗料7を塗布した際に、当該塗料7により形成される塗膜8を加熱する温度に応じて定められた温度となっている。外筒部材42のキュリー温度は、前記塗料7の粘度などに応じて適宜定められるが、例えば、100℃から350℃の範囲内に含まれている。外筒部材42のキュリー温度は、例えば、前記塗膜8を加熱する際の温度が150℃である場合には、150℃であるように、前記塗膜8を加熱する際の温度と等しくてもよく、また、塗膜8などの熱容量を加味して、前記塗膜8を加熱する際の温度と若干異ならせてもよい。なお、外筒部材42のキュリー温度は、鉄とニッケルの含有率を変更することで、適宜調整することができる。なお、外筒部材42のキュリー温度が100℃を下回ると、塗料7の1次硬化時間が長くなり、当該塗料7が垂れて塗膜8の厚みにばらつきが生じるなどの不都合が生じる。また、外筒部材42のキュリー温度が350℃を上回ると、塗料7が硬化して得られる塗膜8の融点を上回って、当該塗料7を沸騰させてしまい塗膜8を硬化できない不都合が生じる。
【0039】
内筒部材43は、外径が外筒部材42の内径よりも十分に小さな円筒状に形成されている。内筒部材43は、低抵抗金属で構成されている。なお、磁性金属とは、本発明では、アルミニウム以下の抵抗率を有する非磁性金属をいう。図示例では、内筒部材43は、アルミニウム合金で構成されている。
【0040】
また、本実施形態では、外筒部材42の厚みが、非磁性体時に想定される浸透深さよりも薄く、内筒部材43の厚みが、浸透深さより厚く、外筒部材42の厚みが、磁性体時に想定される浸透深さより厚くなっている。
【0041】
前述した立設柱24は、基体4内に通されて、この基体4を保持する。また、立設柱24が基体4を保持すると、この立設柱24の外周面すなわち外筒部材42の外周面と基体4の内周面とが互いに密着して基体4の内周面と相対する。このため、立設柱24が基体4を保持すると、該基体4の軸芯P(図1中に一点鎖線で示す)が鉛直方向と平行になる。このように、立設柱24即ち保持部18は、軸芯Pが鉛直方向と平行になるように基体4を保持する。なお、前述した図示例では、外筒部材42と内筒部材43との間に空隙を設けているが、内筒部材43の外周面に磁性金属を鍍金することで外筒部材42を構成してもよい。
【0042】
上チャック25は、チャックシリンダ26と、押さえ部材27とを有している。チャックシリンダ26は、シリンダ本体28と、このシリンダ本体28から突没自在なロッド29とを有している。このシリンダ本体28は、鉛直方向に沿って下方に向かってロッド29が伸長する状態で、上述した上方板23に取り付けられている。また、押さえ部材27は、厚手の円盤状に形成され、ロッド29の先端に取り付けられているとともに、立設柱24と同軸に配置されている。上チャック25は、チャックシリンダ26のロッド29が伸長すると、押さえ部材27が立設柱24に保持された基体4の上端部4bと当接して、立設柱24に対して基体4を位置決めする。また、上チャック25は、チャックシリンダ26のロッド29が縮小すると、押さえ部材27が基体4の上端部4bから離れて、基体4を立設柱24から着脱自在とする。
【0043】
塗布ノズル19は、図2に示すように、中空の円環状に形成されている。塗布ノズル19には、配管40が接続されており、その内側の空間に当該配管40即ち前述した塗料供給ユニット10から塗料7が供給される。配管40は、塗布ノズル19内部への塗料7供給による圧力分布の不均一性を低減させるために、複数本(本実施形態では2本)が、塗布ノズル19に互いに間隔をあけて接続されることが望ましい。塗布ノズル19は、移動部20によって、立設柱24と該立設柱24に保持された基体4などと同軸に配置されているとともに、前述した軸芯Pに沿って移動自在に支持されている。また、塗布ノズル19の内径は、立設柱24に保持された基体4の外径よりも大きい。即ち、塗布ノズル19の内周面30は、基体4の外周面4c(プライマ層3の外表面)と間隔CGをあけて相対しているとともに、保持部18に保持された基体4と同軸に配置されている。
【0044】
また、塗布ノズル19の内周面30には、当該塗布ノズル19の内外を連通する塗布スリット19bが、該塗布ノズル19の全周に亘って形成されている。塗布ノズル19は、塗料供給ユニット10から供給された塗料7を、塗布スリット19bを通して、保持部18の立設柱24などに保持された基体4の外周面4cに向かって水平方向に吐出する。この際、塗料7は塗布スリット19b全周から均一に吐出され、該吐出された塗料7が円錐状の塗料膜を形成する。また、本明細書では、この塗布スリット19bから吐出されて基体4の外周面4cに付着するまでの円錐状の塗料膜を「カーテン膜」と呼ぶ。
【0045】
移動部20は、塗布ノズル支持板32と、リニアガイドと、モータと、リニアエンコーダと、を備えている。塗布ノズル支持板32は、環状に形成されている。塗布ノズル支持板32は、その上面に後述する加熱用コイル33を介して塗布ノズル19を設置している。塗布ノズル支持板32は、内側に立設柱24を通して、台部21と上方板23との間に配置されている。また、リニアガイドは、塗布ノズル支持板32を鉛直方向に沿って移動自在に支持している。また、モータは、塗布ノズル支持板32を鉛直方向に沿って移動させる。即ち、モータは、塗布ノズル支持板32を鉛直方向に沿って昇降させる。また、リニアエンコーダは、塗布ノズル支持板32の位置を検出する。リニアエンコーダは、検出した塗布ノズル支持板32の位置を、制御装置41に向かって出力する。
【0046】
このように、移動部20は、塗布ノズル支持板32を昇降させることで、立設柱24に保持された基体4と塗布ノズル19とを該基体4の軸芯Pに沿って相対的に移動させる。
【0047】
加熱ユニット12は、図2に示すように、加熱用コイル33と、印加手段としての交流電源34と、図示しない冷却ユニットを備えている。加熱用コイル33は、図2に示すように、内径が立設柱24に保持された基体4の外径よりも大きい円環状のケース35と、このケース35内に収容された励磁手段としてのコイル36とを備えている。ケース35は、合成樹脂で構成されている。ケース35は、コイル36を保持するためと絶縁するために用いられ、図示例では、ガラス繊維入りのPET樹脂で構成されている。ケース35は、保持部18の立設柱24などと同軸に配置されかつ前記塗布ノズル支持板32に重ねられている。また、ケース35即ち加熱用コイル33の後述するコイル36は、塗布ノズル支持板32と塗布ノズル19との双方に取り付けられている。
【0048】
コイル36は、ケース35内に収容されている。コイル36は、導電性の線条材37が前記軸芯P回りに巻かれて構成されている。線条材37として、外径が5mm〜20mm程度の中空銅線が用いられる。コイル36は、交流電圧が印加されると、図3及び図4の矢印で示すように、その回りに磁束Gを生じて、当該磁束Gを前記外筒部材42及び内筒部材43内に流して、前記立設柱24を加熱する。即ち、コイル36は、交流電圧が印加されることで、保持部18の立設柱24を誘導加熱方式で加熱する。
【0049】
交流電源34は、コイル36に20kHzから500kHzの交流電圧を印加する。交流電源がコイル36に交流電圧を印加すると、勿論、コイル36の回りに磁束Gが生じて、当該磁束Gが立設柱24の外筒部材42及び内筒部材43内を流れる。このときの磁束Gが外筒部材42及び内筒部材43内で流れる磁束Gの外周面からの深さを浸透深さといいδで示し、外筒部材42及び内筒部材43の体積抵抗率をρとし、外筒部材42及び内筒部材43の比透磁率をμとし、交流電源の周波数をfとすると、これらの間には、以下の式1で示す関係が成立している。
【0050】
【数1】
【0051】
交流電源34は、コイル36に、外筒部材42の温度が当該外筒部材42のキュリー温度を下回る状態では、図3に示すように前記磁束Gが外筒部材42内のみを流れ、外筒部材42の温度が当該外筒部材42のキュリー温度に達すると、図4に示すように前記磁束Gが内筒部材43と外筒部材42との双方内を流れる、一定の周波数の交流電圧を印加する。このように、交流電源34は、外筒部材42の温度が前記キュリー温度に達するまでコイル36が生じる磁束Gが外筒部材42内のみに流れかつ前記外筒部材42の温度が前記キュリー温度に達すると前記磁束Gが前記内筒部材43内にも流れるようにコイル36に交流電圧を印加する。
【0052】
冷却ユニットは、ケース35内で冷却水を循環させる配管などを備え、当該配管内に冷却水を循環させることで、コイル36を冷却する。
【0053】
制御装置41は、特許請求の範囲に記載した制御部に相当し、周知のRAM、ROM、CPUなどを有したコンピュータである。この制御装置41は、塗料供給ユニット10と、塗布ユニット11と、加熱ユニット12とに接続しており、これらを制御して、塗膜形成装置1全体の制御を司る。即ち、制御装置41には、移動部20のリニアエンコーダからの情報が入力されるとともに、リニアエンコーダからの塗布ノズル19の位置に応じた情報に基づいて、チャックシリンダ26と、移動部20のモータと、塗料供給ユニット10の汲み上げポンプ15,混合機16及びサックバック弁と、加熱ユニット12の交流電源34などの動作を制御して、塗布ノズル19を軸芯Pに沿って移動させながら基体4の外周面4cに塗料7を塗布して、塗膜8即ち弾性層5を形成する。そして、制御装置41は、塗布ノズル19を軸芯Pに沿って移動させながら基体4の外周面4cに塗料7を塗布する間に、交流電源34にコイル36に交流電圧を印加させて、誘導加熱方式により立設柱24を加熱させ、当該立設柱24の熱により塗膜8を順次加熱し、当該塗膜8の外表面を固める。
【0054】
なお、この際、外筒部材42の温度がキュリー温度を下回っていると、当該外筒部材42を構成する磁性金属が磁性を有していることから磁束Gが外表面付近に集中し、磁束Gにより発生する渦電流も外表面付近に集中して流れる。このため、外筒部材42の渦電流が流れる外表面付近の見かけの抵抗値が大きくなり、当該外筒部材42は急激に発熱する。そして、外筒部材42の温度が上昇して、キュリー温度に達して、当該外筒部材42が磁性を失うと、当該外筒部材42の外表面に集中していた磁束Gが内筒部材43まで達する。内筒部材43は低抵抗金属で構成されているために、当該内筒部材43の発熱量が小さく、外筒部材42の温度が上昇しない。このように、立設柱24即ち外筒部材42の温度がキュリー温度付近に保たれる。
【0055】
前述したように弾性層5が形成された定着ローラ2は、図7に示される画像形成装置101を構成する。画像形成装置101は、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色の画像則ちカラー画像を、一枚の転写材としての記録紙107に形成する。なお、イエロー、マゼンダ、シアン、黒の各色に対応するユニットなどを、以下、符号の末尾に各々Y、M、C、Kを付けて示す。
【0056】
画像形成装置101は、図7に示すように、装置本体102と、給紙ユニット103と、レジストローラ対110と、転写ユニット104と、定着ユニット105と、複数のレーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kと、複数のプロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kとを少なくとも備えている。
【0057】
装置本体102は、例えば、箱状に形成され、フロア上などに設置される。装置本体102は、給紙ユニット103と、レジストローラ対110と、転写ユニット104と、定着ユニット105と、複数のレーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kと、複数のプロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kを収容している。
【0058】
給紙ユニット103は、装置本体102の下部に複数設けられている。給紙ユニット103は、前述した記録紙107を重ねて収容するとともに装置本体102に出し入れ自在な給紙カセット123と、給紙ローラ124とを備えている。給紙ローラ124は、給紙カセット123内の一番上の記録紙107に押し当てられている。給紙ローラ124は、前述した一番上の記録紙107を、転写ユニット104の後述する搬送ベルト129と、プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kが備える感光体ドラムとの間に送り出す。
【0059】
レジストローラ対110は、給紙ユニット103から転写ユニット104に搬送される記録紙107の搬送経路に設けられており、一対のローラ110a、110bを備えている。レジストローラ対110は、一対のローラ110a、110b間に記録紙107を挟み込み、該挟み込んだ記録紙107を、トナー像を重ね合わせ得るタイミングで、転写ユニット104とプロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kとの間に送り出す。
【0060】
転写ユニット104は、給紙ユニット103の上方に設けられている。転写ユニット104は、駆動ローラ127と、従動ローラ128と、搬送ベルト129と、転写ローラ130Y、130M、130C、130Kとを備えている。駆動ローラ127は、記録紙107の搬送方向の下流側に配置されており、駆動源としてのモータなどによって回転駆動される。従動ローラ128は、装置本体102に回転自在に支持されており、記録紙107の搬送方向の上流側に配置されている。搬送ベルト129は、無端環状に形成されており、前述した駆動ローラ127と従動ローラ128との双方に掛け渡されている。搬送ベルト129は、駆動ローラ127が回転駆動されることで、前述した駆動ローラ127と従動ローラ128との回りを図中半時計回りに循環(無端走行)する。
【0061】
転写ローラ130Y、130M、130C、130Kは、それぞれ、プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kの感光体ドラムとの間に搬送ベルト129と該搬送ベルト129上の記録紙107とを挟む。転写ユニット104は、転写ローラ130Y、130M、130C、130Kが、給紙ユニット103から送り出された記録紙107を各プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kの感光体ドラムの外表面に押し付けて、感光体ドラム上のトナー像を記録紙107に転写する。転写ユニット104は、トナー像を転写した記録紙107を定着ユニット105に向けて送り出す。
【0062】
定着ユニット105は、転写ユニット104の記録紙107の搬送方向下流に設けられ、互いの間に記録紙107を挟む一対のローラ2、2aを備えている。このローラ2が前述した定着ローラ2でありかつ特許請求の範囲の電子写真用定着部材をなしている。ローラ2aが定着ローラ2に対して圧接する加圧ローラ(加圧部材)2aである。定着ユニット105は、一対のローラ2、2a間に転写ユニット104から送り出されてきた記録紙107を挟み込んで、押圧加熱することで、感光体ドラム108から記録紙107上に転写されたトナー像を、該記録紙107に定着させる。
【0063】
レーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kは、それぞれ、装置本体102の上部に取り付けられている。レーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kは、それぞれ一つのプロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kに対応している。レーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kは、プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kが備える帯電ローラにより一様に帯電された感光体ドラムの外表面にレーザ光を照射して、静電潜像を形成する。
【0064】
プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kは、それぞれ、転写ユニット104と、レーザ書き込みユニット122Y、122M、122C、122Kとの間に設けられている。プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kは、装置本体102に着脱自在である。プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kは、記録紙107の搬送方向に沿って、互いに並設されている。プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kは、帯電装置としての帯電ローラと、静電潜像担持体としての感光体ドラムと、クリーニング装置としてのクリーニングブレードと、現像装置と、を備えている。このため、画像形成装置101は、帯電ローラと、感光体ドラムと、クリーニングブレードと、現像装置と、を少なくとも備えている。
【0065】
画像形成装置101は、以下に示すように、記録紙107に画像を形成する。まず、画像形成装置101は、感光体ドラムを回転して、この感光体ドラムの外表面を一様に帯電ローラにより帯電する。感光体ドラムの外表面にレーザ光を照射して、該感光体ドラムの外表面に静電潜像を形成する。そして、静電潜像が現像領域に位置付けられると、現像装置の備える現像スリーブの外表面に吸着した現像剤が感光体ドラムの外表面に吸着して、静電潜像を現像し、トナー像を感光体ドラムの外表面に形成する。
【0066】
そして、画像形成装置101は、給紙ユニット103の給紙ローラ124などにより搬送されてきた記録紙107が、プロセスカートリッジ106Y、106M、106C、106Kの感光体ドラムと転写ユニット104の搬送ベルト129との間に位置して、感光体ドラムの外表面上に形成されたトナー像を記録紙107に転写する。画像形成装置101は、定着ユニット105で、記録紙107にトナー像を定着する。こうして、画像形成装置101は、記録紙107にカラー画像を形成する。
【0067】
本実施形態によれば、基体4内に通される保持部18の立設柱24を、加熱ユニット12が誘導加熱方式により加熱するので、塗膜8の内側から当該塗膜8を加熱することとなって、塗料7に含まれる揮発分が当該塗料7から抜けやすく、揮発分の残留による気泡の発生を抑制することができる。また、コイル36に交流電圧を印加して、保持部18の外筒部材42を誘導加熱方式により加熱するので、急激に外筒部材42すなわち塗膜8を加熱でき、塗料7の液だれを防止できる。
【0068】
また、交流電源34が、外筒部材42の温度がキュリー温度に達するまで外筒部材42内のみに磁束Gが流れ、外筒部材42の温度がキュリー温度に達すると内筒部材43に磁束Gが流れるように、コイル36に交流電圧を印加するので、キュリー温度に達するまでは、外筒部材42の外表面付近に集中して磁束が流れるために当該外筒部材42が急激に発熱し、キュリー温度に達すると、内筒部材43にも磁束が流れるために保持部18の立設柱24の外筒部材42の温度が上昇することを抑制する。このため、保持部18の外筒部材42が急激にキュリー温度すなわち塗料7を加熱する温度により定められる温度までは上昇し、その後、保持部18の外筒部材42の温度がキュリー温度に保たれる。よって、塗料7の塗膜8を沸騰させることなく、急激に加熱して液だれを防止することができる。
【0069】
コイル36が塗布ノズル19に取り付けられているので、コイル36と基体4即ち塗膜8とを同軸に保つことができ、塗膜8を加熱する際の温度分布を一様にすることができ、内部応力や歪みを生じさせることなく、塗膜8を加熱することができる。
【0070】
また、外筒部材42のキュリー温度が100℃から350℃までの範囲内に含まれているので、塗料7の塗膜8を沸騰させることなく加熱することができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、塗膜終端部において塗膜8の連続性を確保した即ち液だれと沸騰することなく塗膜8が加熱された定着ローラ2を安価に提供できる。
【0072】
さらに、画像形成装置101は、均一な塗膜を備え且つ塗膜終端部において塗膜の連続性を確保した安価な定着ローラ2を有しているので、定着画像品質が良好で且つ電子写真用定着部材の立ち上がり時間を短縮でき省エネルギー化に貢献することができる。
【0073】
また、前述した実施形態では、定着ローラ2の弾性層5を形成する場合を示しているが、本発明は、定着ローラ2に限ることなく、定着ベルトなどの種々の被塗装物に塗膜を形成しても良いことは勿論である。
【0074】
また、前述した実施形態では、基体4を固定して、塗布ノズル19を移動させている。しかしながら、本発明では、塗布ノズル19を固定して、基体4を移動させても良く、塗布ノズル19と基体4との双方を移動させても良い。
【0075】
次に本発明の発明者らは、本発明の塗膜形成装置1の効果を確認した。まず、図8に結果を示す第1の実験では、以下の本発明品1及び比較例1において、それぞれ、ポリイミドで構成され、内径が60.0mm、厚みが70μm、軸芯P方向の長さが370mmの基体4に、粘度が20Pa・s(パスカル秒)の2液性高温硬化型のシリコーンゴム(信越シリコーン(株)製 KE−1353)を塗料7として塗布した。厚み200μmとなるように、塗膜8を形成した。
【0076】
本発明品1では、立設柱24が、キュリー温度が150℃とされた外筒部材42と、アルミニウム合金で構成された内筒部材43とで構成されている。外筒部材42の厚みが0.4mmとされ、内筒部材43の厚みが3.0mmとされている。また、外筒部材42と内筒部材43との間には、幅が0.5mmの空隙を設けている。また、コイル36を構成する線条材37として、外径が8mmの中空銅線を用い、交流電源34は、周波数が20kHzの交流電圧をコイル36に印加する。比較例1では、上記本発明品1において加熱ユニット12を設けない塗膜形成装置を用いた。
【0077】
図8の横軸は、塗膜形成装置1により塗膜8が形成されてからの放置時間を示し、図8の縦軸は、塗膜8の下端部4aの厚みを示している。図8によれは、本発明品1が、比較例1よりも塗膜8の厚みの偏差が少ないことが明らかとなった。塗膜8を形成してから当該塗膜が硬化するまでの時間が短縮されることで、塗膜8の塗料7の液だれを抑制したことにより、当該効果が生じたものと思慮される。
【0078】
次に、図9に結果を示す第2の実験では、前述した本発明品1及び比較例2において、それぞれ、ポリイミドで構成され、内径が60.0mm、厚みが70μm、軸芯P方向の長さが370mmの基体4に、粘度が20Pa・s(パスカル秒)の2液性高温硬化型のシリコーンゴム(信越シリコーン(株)製 KE−1353)を塗料7として塗布した。厚み200μmとなるように、塗膜8を形成した。なお、比較例2では、上記本発明品1において、外筒部材42をSUS420で構成した塗膜形成装置を用いた。
【0079】
図9の横軸は、塗膜8の下端を0とした当該塗膜8の軸芯P方向の位置を示し、縦軸は、軸芯P方向の長さ25mm内における塗膜8の外表面のうねりを示している。図9によれば、本発明品1が、比較例1よりも軸芯P方向の塗膜8の外表面のうねりが少ないことが明らかとなった。塗膜8を一様に内部応力を生じることなく加熱して、うねりが少ないという効果が生じたものと思慮される。
【0080】
次に、図11、表3及び表4に結果の一部を示す第3の実験では、本発明品2と、比較例3、比較例4及び比較例5において、磁性金属で構成される第1部材51のキュリー温度付近で、発熱体52の温度が一定となるか否かを確認した。
【0081】
本実験では、図10に示すU字型のコイル53を、低抵抗金属としてアルミニウム合金で構成されかつ内筒部材43に相当し第2層としての第2部材54と、磁性金属で構成されかつ外筒部材42に相当し第1層としての第1部材51とが順に重ねられた発熱体52上に重ね、コイル36に周波数が36kHzと130kHzの交流電圧を印加した。
【0082】
なお、以下の表1に示すように、本発明品2は、第1部材51の厚みを0.4mm、第2部材54の厚みを0.8mmとし、比較例3は、第1部材51の厚みを0.4mm、第2部材54の厚みを0.3mmとし、比較例4は、第1部材51の厚みを1.5mm、第2部材54の厚みを0.3mmとし、比較例5は、第1部材51の厚みを1.5mm、第2部材54の厚みを0.8mmとした。
【0083】
【表1】
【0084】
また、前記第1部材51と、第2部材54へのコイル53が生じる磁束Gの浸透深さをδとし、体積抵抗率をρとし、比透磁率をμとし、交流電圧の周波数をfとすると、前記式1に基づいて求めることができ、その結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
図11には、周波数が36kHzの交流電圧を印加してからの経過時間に対する発熱体52の温度の変化を示している。本発明品2では、温度が150℃で一定となるが、比較例3では、150℃を超えても温度が上昇することが明らかとなった。
【0087】
また、上記本発明品2、比較例3ないし比較例5において、周波数が36kHzの交流電圧を印加してから発熱体52の温度が一定となるか否かを表3に示し、周波数が130kHzの交流電圧を印加してから発熱体52の温度が一定となるか否かを表4に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
表3によれば、第2部材54の厚みが浸透深さδよりも小さい場合には、発熱体52の温度が一定となることがないことが明らかとなった。表4によれば、第1部材51の厚みが、キュリー温度を超えて非磁性体となったときの浸透深さδよりも大きい場合には、発熱体52の温度が一定となることがないことが明らかとなった。
【0091】
この現象は、図12に示すように、説明することができる。まず、発熱体52の温度がキュリー温度を下回るとき、第1部材51が磁性を有することから磁束Gが表層付近に集中し、磁束により発生する渦電流も表層に集中して流れる。これを示すのが浸透深さであり、例えば36kHzとしたとき、表2から0.07mmとなる。つまり、図12(a)に平行斜線で示す第1部材51の表層付近に電流が集中して流れるため、その流域の厚みと金属の抵抗率から算出する見かけの抵抗が大きくなり高発熱効率を示す。
【0092】
発熱体52の温度が上昇して、キュリー温度に達すると、第1部材51が磁性を失い、表層に集中していた磁束Gが、図12(b)に平行斜線で示す第2部材54まで達する。第2部材54が、低抵抗金属としてのアルミニウム合金で構成されているために、抵抗が小さく渦電流が流れても発熱が小さい。また、第1部材51でも全域にわたり渦電流が流れることから見かけの抵抗が、磁性を有するときより小さくなり、キュリー温度に達したところで全体の発熱効率が落ちて自己温度制御が働くものである。
【0093】
キュリー温度に達することなく、第2部材54に渦電流が流れるほどに第1部材51の厚みが薄い場合即ち磁性を有する第1部材51への浸透深さが第1部材51の厚みを超えている場合には、第1部材51が磁性・非磁性である場合によらず、図12(c)に平行斜線で示す全域で渦電流が流れることになる。このとき、キュリー温度に達しても、図12(d)に平行斜線で示す第2部材54に流れる渦電流量が変わるものの、元々第2部材54での発熱は小さいため発熱量の変化も小さく、急峻な立上げと目標温度への安定した制御を両立する自己温度制御特性は発現しない。
【0094】
このように、(1)第1部材51即ち外筒部材42の厚みが、非磁性体時に想定される浸透深さよりも薄いこと、(2)第2部材54即ち内筒部材43の厚みが、浸透深さより厚いこと、(3)第1部材51即ち外筒部材42の厚みが、磁性体時に想定される浸透深さより厚いこと、という三つの条件を満たす場合に、発熱体52即ち立設柱24の温度が第1部材51即ち外筒部材42のキュリー温度で一定となることが明らかとなった。
【0095】
なお、前述した実施例は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施例に
限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施する
ことができる。本発明の塗膜形成装置は、例えば、複写機やファクシミリ、LBP等の画
像形成装置において、定着、加圧、帯電、現像などに使用される円筒状部材(ベルトやチ
ューブ)、円柱部材の塗装に応用可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 塗膜形成装置
2 定着ローラ(電子写真用定着部材)
4 基体(被塗装物)
4c 外周面
7 塗料
8 塗膜
12 加熱ユニット
18 保持部
19 塗布ノズル
20 移動部(移動手段)
34 交流電源(印加手段)
36 コイル(励磁手段)
42 外筒部材(第1層)
43 内筒部材(第2層)
101 画像形成装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0097】
【特許文献1】特開2002−14557号公報
【特許文献2】特開2007−245072号公報
【特許文献3】特開平5−289370号公報
【特許文献4】特開昭61−178064号公報
【特許文献5】特開昭63−305964号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に塗料が塗布される円筒状の被塗装物内に通されて当該被塗装物を保持する保持部と、内側に前記被塗装物を通して当該被塗装物の外周面に前記塗料を塗布する塗布ノズルと、前記塗布ノズルと前記被塗装物とを当該被塗装物の軸芯に沿って相対的に移動させる移動手段と、前記被塗装物の外周面に塗布された前記塗料を加熱する加熱手段と、を有する塗膜形成装置において、
前記保持部が、磁性金属で構成されかつ前記被塗装物の内周面と相対するとともにキュリー温度が前記塗料を加熱する温度に応じて定められた第1層と、低抵抗金属で構成されかつ前記第1層の内側に設けられた第2層と、を有し、
前記加熱手段が、交流電圧が印加されることで前記保持部を誘導加熱方式で加熱する励磁手段と、前記第1層の温度が前記キュリー温度に達するまで前記励磁手段が生じる磁束が第1層内のみに流れかつ前記第1層の温度が前記キュリー温度に達すると前記磁束が前記第2層内に流れるように前記励磁手段に交流電圧を印加する印加手段と、を有した
ことを特徴とする塗膜形成装置。
【請求項2】
前記励磁手段が、前記塗布ノズルに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成装置。
【請求項3】
前記キュリー温度が100℃から350℃の範囲内に含まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の塗膜形成装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された塗膜形成装置により塗膜が形成されたことを特徴とする電子写真用定着部材。
【請求項5】
請求項4に記載された電子写真用定着部材を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
外周面に塗料が塗布される円筒状の被塗装物内に通されて当該被塗装物を保持する保持部と、内側に前記被塗装物を通して当該被塗装物の外周面に前記塗料を塗布する塗布ノズルと、前記塗布ノズルと前記被塗装物とを当該被塗装物の軸芯に沿って相対的に移動させる移動手段と、前記被塗装物の外周面に塗布された前記塗料を加熱する加熱手段と、を有する塗膜形成装置において、
前記保持部が、磁性金属で構成されかつ前記被塗装物の内周面と相対するとともにキュリー温度が前記塗料を加熱する温度に応じて定められた第1層と、低抵抗金属で構成されかつ前記第1層の内側に設けられた第2層と、を有し、
前記加熱手段が、交流電圧が印加されることで前記保持部を誘導加熱方式で加熱する励磁手段と、前記第1層の温度が前記キュリー温度に達するまで前記励磁手段が生じる磁束が第1層内のみに流れかつ前記第1層の温度が前記キュリー温度に達すると前記磁束が前記第2層内に流れるように前記励磁手段に交流電圧を印加する印加手段と、を有した
ことを特徴とする塗膜形成装置。
【請求項2】
前記励磁手段が、前記塗布ノズルに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成装置。
【請求項3】
前記キュリー温度が100℃から350℃の範囲内に含まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の塗膜形成装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された塗膜形成装置により塗膜が形成されたことを特徴とする電子写真用定着部材。
【請求項5】
請求項4に記載された電子写真用定着部材を有することを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−529(P2012−529A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134844(P2010−134844)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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