変速機の制御装置
【課題】変速ガード処理の実行期間を適切に設定することにより、内燃機関の燃費を向上させることのできる変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置200は、エンジン10の冷間始動時において、変速機30での低速段から高速段への変速を制限する変速ガード処理を実行する。そして、変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量と、変速ガード処理の実行による変速機30の動力伝達効率の上昇により向上する燃費向上量とを算出し、燃費向上量が燃費損失量を超えている間は変速ガード処理を実行する。
【解決手段】制御装置200は、エンジン10の冷間始動時において、変速機30での低速段から高速段への変速を制限する変速ガード処理を実行する。そして、変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量と、変速ガード処理の実行による変速機30の動力伝達効率の上昇により向上する燃費向上量とを算出し、燃費向上量が燃費損失量を超えている間は変速ガード処理を実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に接続された変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関にあっては、排気浄化性能の早期確保を図るために、冷間始動後の機関暖機を促進させる処理が種々行われている。
例えば、特許文献1に記載の装置では、機関始動時における変速機内の潤滑油の油温に基づき設定される時間の間は最高速変速段への変速を禁止する処理を実行することで、機関回転速度を比較的高い状態に維持し、機関暖機を促進させるようにしている。
【特許文献1】特開平5−332446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記文献1に記載のものでは、上述したような変速制限、すなわち変速機の低速段から高速段への変速を制限する変速ガード処理を、機関暖機の促進を目的として実行するようにしており、機関暖機が完了すれば変速ガード処理は終了される。
【0004】
ところで、変速機内の潤滑油の油温が低いときには、潤滑油の粘度が高く、変速機の動力伝達効率は低くなるため、燃費の点で不利になる。従って、変速機の暖機を行って潤滑油の油温上昇を促進させるようにすれば、潤滑油の粘度はより早期に理想的な状態になり、変速機の動力伝達効率も早期に上昇するようになって燃費が向上するようになる。
【0005】
ここで、上記変速ガード処理の実行中は機関回転速度が比較的高い状態に維持されるため、変速機内の潤滑油の攪拌が促進されて油温は上昇しやすくなる。従って、変速ガード処理の実行中には、内燃機関のみならず変速機の暖機も促進されるのであるが、こうした変速機の暖機完了時期は、機関の暖機完了時期に比べて遅くなる傾向がある。
【0006】
そのため、上記文献1に記載される装置のように、機関暖機が完了した時点で変速ガード処理を終了するようにしてしまうと、変速機の暖機が完了する前に変速ガード処理は終了されてしまう。従って、変速ガード処理の実行を通じた動力伝達効率の上昇による燃費向上効果を十分に得ることができない。このように従来の装置においては、変速ガード処理を利用して内燃機関の燃費を向上させるといった点において更なる改善の余地を残すものとなっている。
【0007】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、変速ガード処理の実行期間を適切に設定することにより、内燃機関の燃費を向上させることのできる変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関に接続された変速機の変速に際して車両の運転状態に応じた変速指令値を出力するとともに、機関の冷間始動時には低速段から高速段への変速を制限する変速ガード処理を実行する変速機の制御装置において、前記変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量と、前記変速ガード処理の実行による前記変速機の動力伝達効率の上昇により向上する燃費向上量とを算出し、前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えている間は前記変速ガード処理を実行することをその要旨とする。
【0009】
低速段から高速段への変速を制限する変速ガード処理が実行されると、その非実行時と比較して機関回転速度は高くなりやすく燃費は低下する。他方、変速ガード処理の実行により機関回転速度が比較的高い状態に維持されると、変速機内の潤滑油の攪拌が促進されてその油温上昇が促進される。従って、潤滑油の粘度低下も早期に進行し、変速機の動力伝達効率の上昇は、変速ガード処理の非実行時と比較して高くなる。このように動力伝達効率が高くなると、変速機内での機関出力の損失が少なくなり、燃費が向上する。
【0010】
このように、変速ガード処理は、機関回転速度を増大させるといった点からみれば燃費を悪化させる処理であり、変速機の動力伝達効率を早期に上昇させるといった点からみれば燃費を向上させる処理である。
【0011】
そこで、同構成では、変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量と、変速ガード処理の実行による前記変速機の動力伝達効率の上昇により向上する燃費向上量とをそれぞれ算出し、燃費向上量が燃費損失量を超えている間は変速ガード処理を実行するようにしている。これにより、変速ガード処理の実行によって得られる燃費向上効果が、変速ガード処理の実行による燃費の低下を上回っている間は変速ガード処理が実行される。従って、変速ガード処理の実行期間は、燃費を向上させる点において適切な期間に設定され、内燃機関の燃費を向上させることができるようになる。ちなみに変速ガード処理が実行される機関の冷間始動は、吸気温や冷却水温等に基づいて判断することができる。
【0012】
上記燃費損失量を算出するには、請求項2に記載の発明によるように、前記変速ガード処理の実行中における燃料消費量と前記変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定燃料消費量との差を算出する、といった構成を採用することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の変速機の制御装置において、前記推定燃料消費量は、車速と、アクセル操作量と、前記変速ガード処理の非実行時に選択される変速段とに基づいて算出されることをその要旨とする。
【0014】
変速ガード処理の実行中において、変速ガード処理の非実行時に選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、この変速段及び車速に基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの機関回転速度は推定することができる。また、アクセル操作量に基づいて燃料噴射量は推定可能であり、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定機関回転速度と、アクセル操作量から推定された燃料噴射量とに基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの上記推定燃料消費量は算出することができる。従って、同構成によれば、上記推定燃料消費量を算出することが可能になる。
【0015】
上記燃費向上量を算出するには、請求項4に記載の発明によるように、前記燃費向上量は、前記変速ガード処理の実行中における前記変速機内の潤滑油の油温に基づいて算出される変速機の動力伝達効率と、前記変速ガード処理が非実行であると仮定したときの前記油温に基づいて算出される前記動力伝達効率との差に応じた燃料消費量の抑制分を算出することにより算出される、といった構成を採用することができる。
【0016】
なお、変速機内の潤滑油の油温は、機関始動後における車両の走行時間が長くなるにつれて高くなり、その油温の上昇速度は機関回転速度が高いほど速くなる。従って、請求項5に記載の発明によるように、前記油温は、機関回転速度及び走行時間に基づいて推定される、といった構成を採用することが可能である。ちなみに、変速ガード処理の実行中における上記油温は、実際の機関回転速度及び走行時間に基づいて推定可能である。また、変速ガード処理の非実行時に選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、この変速段及び車速に基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの機関回転速度は推定可能である。従って、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの上記油温は、その推定された機関回転速度と走行時間とに基づいて推定することができる。
【0017】
また、変速段が低速段側に設定されるほど機関回転速度は高くなるため、請求項6に記載の発明によるように、前記油温は、変速段及び走行時間に基づいて推定される、といった構成を採用することも可能である。ちなみに、同構成では、変速ガード処理の実行中における上記油温は、実際に選択されている変速段及び走行時間に基づいて推定可能である。また、変速ガード処理の非実行時に選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、変速ガード処理が非実行であると仮定したときに選択される変速段は推定可能である。従って、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの上記油温は、その推定された変速段と走行時間とに基づいて推定することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の変速機の制御装置において、前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えているか否かの判定処理は、内燃機関の暖機が完了したと判定された後に行われることをその要旨とする。
【0019】
上述したように、変速機の暖機完了時期は、機関の暖機完了時期に比べて遅くなる傾向があり、少なくとも内燃機関の暖機が完了したと判定されるまでは上記変速ガード処理を実行した方がよい。従って、同構成によるように、燃費向上量が燃費損失量を超えているか否かの判定処理を、内燃機関の暖機が完了したと判定された後に行うことにより、そうした判定処理を効率よく行うことができるようになる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の変速機の制御装置において、前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えていると判定されている間は、前記変速機の暖機を促す運転モード中であることを示す表示装置を備えることをその要旨とする。
【0021】
同構成によれば、変速機の暖機を促す運転モード中であることを車両の運転者等に知らせることができるようになる。
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の変速機の制御装置において、前記変速機は手動変速機であって、車両の運転状態に対応した変速段への変速指示を表示する変速指示装置を備え、前記変速指令値が前記変速指示装置に入力される指令値であることをその要旨とする。
【0022】
同構成によれば、車両の運転者に適切な変速段を指示する変速指示装置に対し、燃費の点で有利となる変速段を適切に表示することができるようになる。
なお、請求項10に記載の発明によるように、前記手動変速機と前記内燃機関との間にはクラッチが設けられており、そのクラッチの係合操作及び解放操作を自動で行うアクチュエータを備える、といった構成を採用することもできる。
【0023】
また、請求項11に記載の発明によるように、前記手動変速機は、変速段の切替を行うシフトフォークの操作を変速レバーの操作に合わせて行うアクチュエータを備える、といった構成を採用することもできる。ちなみに、請求項10及び請求項11に記載の構成を備える手動変速機にあっては、クラッチの操作及び変速段の切替をアクチュエータで行うことができるため、変速を自動的に行うことも可能になる。
【0024】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の変速機の制御装置において、前記変速機は自動変速機であって、前記変速指令値が、前記自動変速機の変速機構に入力される指令値であることをその要旨とする。
【0025】
同構成によれば、車両の運転状態に応じて変速段が自動的に切り替えられる自動変速機において、燃費の点で有利となる変速段を適切に選択することができるようになる。
なお、上記変速ガード処理による低速段から高速段への変速制限の態様としては、請求項13に記載の発明によるように、前記変速ガード処理は、同変速ガード処理の非実行時に比して変速可能な最高速変速段を低くする処理である、といった構成を採用することができる。この場合には、変速ガード処理の実行中において高速段への変速が規制されることにより、機関回転速度を高めることができるようになる。
【0026】
また、上記変速ガード処理による低速段から高速段への変速制限の態様としては、請求項14に記載の発明によるように、前記変速ガード処理は、同変速ガード処理の非実行時に比して各変速段に対応した変速線を高車速側にずらす処理である、といった構成を採用することもできる。この場合には、同一の車速であっても、変速ガード処理の実行中には、非実行時と比較してより低速側の変速段が選択されるようになり、これにより機関回転速度を高めることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明にかかる変速機の制御装置を具体化した一実施形態について、図1〜図12を参照して説明する。
図1に、本実施形態の変速機の制御装置が適用された車両の構成を示す。
【0028】
この図1に示すように、車両100には、エンジン10が搭載されており、その吸気通路11には、吸入空気量を調量するスロットルバルブ12が設けられている。エンジン10では、吸入空気量に応じた燃料が燃料噴射弁から噴射されることにより、機関出力が調整される。また、エンジン10の排気通路13には、排気成分を浄化する触媒14が設けられている。
【0029】
エンジン10のクランクシャフトは、クラッチ20の入力軸に接続されており、クラッチ20の出力軸は、複数の変速段を有する変速機30の入力軸に接続されている。この変速機30は、手動式の変速機と同一の歯車構造を有しており、その内部に設けられたシフトフォークの操作を通じて変速段が切り替えられる。変速機30の出力軸は、デファレンシャルギヤ50に接続されている。デファレンシャルギヤ50の出力軸は、車両の駆動輪60に接続されている。
【0030】
上記クラッチ20には、その係合操作及び解放操作を行うクラッチ用アクチュエータ21が設けられている。また、変速機30には、上記シフトフォークを操作する変速用アクチュエータ31が設けられている。
【0031】
車両の車室内には、変速機30の変速態様を選択する変速レバー装置32が設けられている。この変速レバー装置32には、図2に示すように、「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」及び「M(マニュアル)」の各シフト位置が設けられている。そして、変速レバー装置32からは、変速レバー32Aの操作位置がそれらシフト位置のいずれにされているか示すシフト位置信号が出力される。また、シフト位置「M」では、変速レバー32Aを車両後方に傾動させることで、変速段をアップシフトさせる「アップ信号(+)」が出力され、変速レバー32Aを車両前方に傾動させることで、変速段をダウンシフトさせる「ダウン信号(−)」が出力される。
【0032】
また、運転席のメータパネル90内には、各種の情報を表示する表示装置91が設けられており、その表示装置91内には、シフトアップ操作やシフトダウン操作といった変速操作を運転者に対して指示するシフトインジケータ92が設けられている。このシフトインジケータ92には、上下に表示部が設けられており、シフトアップ操作を指示するときには上部のシフトアップ表示部92uが点灯し、シフトダウン操作を指示するときには下部のシフトダウン表示部92dが点灯する。
【0033】
車両100の状態は、各種センサ等によって検出される。例えば、クランク角センサ300によって機関回転速度NEが検出され、吸入空気量センサ310によって吸入空気量GAが検出され、スロットル開度センサ320によってスロットルバルブ12の開度であるスロットル開度TAが検出される。また、水温センサ330によってエンジン10の冷却水温THWが検出され、車速センサ340によって車両の車速SPが検出され、アクセルセンサ350によってアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量ACCPが検出される。そして、吸気温センサ360によってエンジン10に吸入される空気の温度である吸気温THAが検出される。
【0034】
上述したシフト位置信号や各種センサ等の信号は、制御装置200に入力され、同制御装置200は、そうした信号に基づき、エンジン10の燃料噴射制御や点火時期制御といった各種のエンジン制御や変速機30の変速制御等を行う。
【0035】
変速機30の変速制御に際しては、車両の運転状態に応じた変速指令値が変速マップに基づいて設定され、その設定された変速指令値に応じた変速制御が行われる。図4に示すように、変速マップは、アクセル操作量ACCP及び車速SPに基づいて変速指令値を設定するマップであって、変速段を高速段に変更するシフトアップ用変速線と、変速段を低速段に変更するシフトダウン用変速線とが用意されている。そして、それらシフトアップ用及びシフトダウン用変速線は、変速機30の変速段に対応してそれぞれ設定されている。シフトアップ用変速線としては、実線にて示すように、2速アップ用変速線、3速アップ用変速線、4速アップ用変速線、5速アップ用変速線、6速アップ用変速線が設定されている。また、シフトダウン用変速線としては、一点鎖線にて示すように、5速ダウン用変速線、4速ダウン用変速線、3速ダウン用変速線、2速ダウン用変速線、1速ダウン用変速線が設定されている。そして、例えば、アクセル操作量ACCPが一定であっても、車速SPが3速アップ用変速線U3を超えたときには、変速段を2速段から3速段にシフトアップさせるための変速指令値が設定される。また、車速が一定であっても、アクセル操作量ACCPが3速アップ用変速線U3を下回ったときには、変速段を2速段から3速段にシフトアップさせるための変速指令値が設定される。逆に、例えばアクセル操作量ACCPが一定であっても、車速SPが2速ダウン用変速線D2を下回ったときには、変速段を3速段から2速段にシフトダウンさせるための変速指令値が設定される。また、車速が一定であっても、アクセル操作量ACCPが2速ダウン用変速線D2を超えたときには、3速段から2速段にシフトダウンさせるための変速指令値が設定される。
【0036】
シフト位置「D」では、現在の変速段を他の変速段に切り替える変速要求がある場合、まず、クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が解放状態にされる。そして、変速指令値に対応した変速段が選択されるようにシフトフォークが変速用アクチュエータ31にて操作された後、クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が係合状態にされる。このようにシフト位置「D」では、変速機30の変速機構を構成する変速用アクチュエータ31に変速指令値が入力される。そして、このシフト位置「D」では、クラッチ20及びシフトフォークの操作、並びに変速段の選択が自動的に行われる自動変速モードになる。
【0037】
一方、シフト位置「M」では、運転者によって変速レバー32Aが車両後方に傾動されると変速レバー装置32から「アップ信号(+)」が出力される。この「アップ信号(+)」が出力されると、クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が解放状態にされ、現在の変速段よりも1段分高速側の高速段が選択されるようにシフトフォークが変速用アクチュエータ31にて操作され、その後クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が係合状態にされる。同様に、運転者によって変速レバー32Aが車両前方に傾動されると変速レバー装置32から「ダウン信号(−)」が出力される。この「ダウン信号(−)」が出力されると、クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が解放状態にされ、現在の変速段よりも1段分低速側の低速段が選択されるようにシフトフォークが変速用アクチュエータ31にて操作され、その後クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が係合状態にされる。このように、シフト位置「M」では、クラッチ20及びシフトフォークの操作については自動的に行われるものの、変速段の選択については運転者が任意に選択可能な手動変速モードになる。
【0038】
このように、シフト位置「M」では、運転者によって変速段を任意に選択することができる。一方、燃費等の観点から、車両の運転状態に応じた適切な変速段を運転者が選択できるように、上記変速マップに基づき設定される変速指令値が上記シフトインジケータ92に入力されて、その変速指令値に応じてシフトアップ表示部92uやシフトダウン表示部92dが点灯される。例えば、現在の変速段よりも1段分高速側の高速段に切り替える変速指令値が制御装置200から出力されたときには、シフトアップ表示部92uが点灯され、現在の変速段よりも1段分低速側の低速段に切り替える変速指令値が制御装置200から出力されたときには、シフトダウン表示部92dが点灯される。このようにシフトインジケータ92は、車両の運転状態に応じた変速段への変速指示を表示する変速指示装置として機能し、シフトアップ表示部92uやシフトダウン表示部92dの点灯に合わせて運転者が変速レバー32Aを操作した場合には、手動変速モードであっても、自動変速モードと同様な変速段の選択が可能になる。
【0039】
ところで、エンジン10では、触媒14の昇温を促進させて排気浄化性能の早期確保を図るために、冷間始動後の機関暖機を促進させる変速ガード処理が実行される。この変速ガード処理は、変速機30において低速段から高速段への変速を制限する処理であり、より具体的には、そうした変速ガード処理の非実行時に比して、変速可能な最高速変速段を低くする、例えば変速可能な最高速変速段を4速段などに制限するべく、上記変速指令値の最高速変速段を制限する処理である。このように最高速変速段が低くなるように変速段が制限されると、非制限時と比較して機関回転速度が比較的高い状態に維持されやすくなり、機関暖機が促進されるようになる。ちなみに、変速ガード処理の実行により制限される最高速変速段が低すぎると車速を高くすることができず、同最高速変速段が高すぎると変速ガード処理による上記効果が少なくなる。こうした点を考慮して、変速ガード処理の実行時における最高速変速段は適宜設定されている。なお、自動変速モードにおいて変速ガード処理が実行されると、上記変速指令値が制限されることにより、制限された最高速変速段と1速段との間で変速が行われるように自動変速が実施される。また、手動変速モードにおいて変速ガード処理が実行されると、上記変速指令値が制限されることにより、シフトインジケータ92では、制限された最高速変速段よりも高速段側に変速を指示するシフトアップ表示が行われなくなる。また、運転者によって選択されている変速段が、制限された最高速変速段よりも高速段側の変速段になっている場合には、制限された最高速変速段以下の低速段に変速されるまで、シフトインジケータ92ではシフトダウン表示が行われる。
【0040】
上記変速ガード処理が実行されると、その非実行時と比較して機関回転速度は高くなりやすく、燃費は低下する。他方、変速ガード処理の実行により機関回転速度が比較的高い状態に維持されると、変速機30内の潤滑油の攪拌が促進されてその油温上昇が促進される。このように変速機30の暖機が促進されると、潤滑油の粘度低下も早期に進行し、変速機30の動力伝達効率の上昇は、変速ガード処理の非実行時と比較して高くなる。こうして動力伝達効率が早期に高くなると、変速機30内での機関出力の損失が少なくなり、燃費が向上する。
【0041】
このように、変速ガード処理は、機関回転速度を増大させるといった点からみれば燃費を悪化させる処理であり、変速機30の動力伝達効率を早期に上昇させるといった点からみれば燃費を向上させる処理である。
【0042】
そこで、本実施形態では、変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量FDと、変速ガード処理の実行による変速機30での動力伝達効率の上昇によって向上する燃費向上量FUとをそれぞれ算出し、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えている間は変速ガード処理を実行するようにしている。これにより、変速ガード処理の実行によって得られる燃費向上効果が、変速ガード処理の実行による燃費の低下を上回っている間は変速ガード処理が実行されることになり、変速ガード処理の実行期間は、燃費を向上させる点において適切な期間に設定され、エンジン10の燃費が向上するようになる。
【0043】
図5に、上記変速ガード処理を開始する処理についてその手順を示す。なお、本処理は、機関始動時にあって制御装置200により実行される。
本処理が開始されるとまず、冷却水温THWが第1判定温度T1以下であるか否かが判定される(S100)。この第1判定温度T1には、今回の機関始動が冷間始動であるか否かを判定することのできる値が適宜設定されている。そして、冷却水温THWが第1判定温度T1を超えている場合には(S100:NO)、今回の機関始動が冷間始動ではないと判断されて本処理は終了される。
【0044】
一方、冷却水温THWが第1判定温度T1以下である場合には(S100:YES)、今回の機関始動が冷間始動であると判断され、次に、変速機30内の潤滑油の油温Ttmが油温判定温度TS以下であるか否かが判定される(S110)。この油温判定温度TSは、変速機30の動力伝達効率EFが十分に高くなっているか否かを判定するために設定されている値であり、動力伝達効率EFが十分に高くなっているときの潤滑油の粘度に対応する油温が適宜設定されている。また、機関始動直後の油温Ttmは、機関始動直後の吸気温THAと相関があるため、そうした吸気温THAに基づいて推定される。ちなみに、変速機30に油温センサを設けて油温Ttmを直接検出するようにしてもよい。そして、油温Ttmが油温判定温度TSを超えている場合には(S110:NO)、今回の機関始動において動力伝達効率EFが十分に高くなっており、変速機30は暖機完了状態にあると判断されて、本処理は終了される。
【0045】
一方、油温Ttmが油温判定温度TS以下である場合には(S110:YES)、今回の機関始動において動力伝達効率EFが低くなっており、変速機30を暖機させる必要があると判断されて、変速指令値を制限する変速ガード処理が実行され(S120)、本処理は終了される。
【0046】
こうした変速ガードの開始処理が実行されることにより、エンジン10及び変速機30の暖機が必要なときに変速ガード処理が実行される。
次に、変速ガード処理を終了させる処理について説明する。
【0047】
図6に、変速ガードの終了処理についてその手順を示す。なお、本処理も、制御装置200によって所定周期毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されるとまず、変速ガード処理の実行中であるか否かが判定される(S200)。そして、変速ガード処理が実行されていない場合には(S200:NO)、本処理は一旦終了される。
【0048】
一方、変速ガード処理が実行されている場合には(S200:YES)、車速SPが判定速度SPA以上であるか否かが判定される(S210)。この判定速度SPAと車速SPとの比較は、次の理由により行われる。すなわち、変速ガード処理が実行されているときには最高速変速段が制限されるため、場合によっては、次のような不都合が生じる。まず、変速ガード処理の非実行時と比較して、機関回転速度が高くなるため、車速SPがある程度高くなると、車両の運転者等に不快感等を与える程度に機関回転速度が高くなるおそれがある。また、制限された最高速変速段及び機関の許容回転速度で決まる最高速度以上に車速を高くすることができない。そこで、現在の車速SPが、そうした不都合の発生する可能性のある車速であるか否かを判定するために、上記判定速度SPAと車速SPとの比較が行われる。
【0049】
そして、車速SPが判定速度SPA未満である場合には(S210:NO)、変速ガード処理の実行を継続しても上記不都合は発生しないと判断されて、次に、冷却水温THWが第2判定温度T2以上であるか否かが判定される(S220)。この第2判定温度T2には、エンジン10の暖機が完了したか否かを判定することのできる値が適宜設定されている。そして、冷却水温THWが第2判定温度T2未満である場合には(S220:NO)、本処理は一旦終了され、変速ガード処理の実行が継続される。
【0050】
一方、冷却水温THWが第2判定温度T2以上である場合には(S220:YES)、エンジン10の暖機が完了したと判断される。ここで、変速機30の暖機完了時期は、エンジン10の暖機完了時期よりも遅くなる傾向があり、エンジン10の暖機完了をもって変速ガード処理を終了させてしまうと、変速機30の暖機促進による上述したような燃費向上効果を十分に得ることができない。そこで、本処理では、引き続きステップS250以降の処理が実行される。
【0051】
ステップS250では、現在の変速段による燃費向上量FUが算出される(S230)。この燃費向上量FUは、次のようにして算出される。
まず、機関始動直後の油温Ttmは、上述したように機関始動直後の吸気温THAから推定可能である。さらに、図7に示すように、機関始動後の油温Ttmは、機関始動後における車両の走行時間が長くなるにつれて高くなり、その温度上昇過程での油温Ttmの上昇速度は、図8に示すように、機関回転速度が高いほど速くなるため、機関始動後の油温Ttmの上昇量は、走行時間及び機関回転速度に基づいて推定可能である。従って、機関始動直後の吸気温THAに基づいて機関始動後の油温Ttmを算出し、機関回転速度及び車両の走行時間に基づいて油温Ttmの上昇量を算出するようにすれば、車両の走行が開始されてからの油温Ttmを推定することができる。ここで、変速機30の変速段が低速段側に設定されるほど機関回転速度は高くなるため、図9に示すように変速段及び走行時間に基づいて油温Ttmの上昇量を算出することも可能である。そこで、本実施形態では、機関始動直後の吸気温THAに基づいて機関始動後の油温Ttmを算出し、変速段及び車両の走行時間に基づいて油温Ttmの上昇量を算出することで、車両の走行が開始されてからの油温Ttmを推定するようにしている。
【0052】
また、図10に示すように、変速機30の動力伝達効率EFは、油温Ttmが高くなるほど高くなるため、上記態様にて推定される油温Ttmに基づいて動力伝達効率EFを推定するようにしている。
【0053】
そして、変速ガード処理の実行中における動力伝達効率EFと、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの動力伝達効率EFとの差を求め、そうした動力伝達効率EFの差によって抑制される燃料消費量を算出することで上記燃費向上量FUを求めることができる。
【0054】
そこで、本実施形態では、図11(A)に示すように、上記ステップS220にて、冷却水温THWが第2判定温度T2以上であると判定された時点(時刻t1)からの走行時間と実際に選択されている変速段とに基づき、変速ガード処理の実行中における油温Ttmを所定周期毎に算出するようにしている。そして、その算出された油温Ttmに基づき、先の図10に示した油温Ttm及び動力伝達効率EFの関係を参照して変速ガード処理の実行中における実動力伝達効率EFrを算出するようにしている。
【0055】
また、変速ガード処理の非実行時に選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、変速ガード処理が非実行であると仮定したときに選択される変速段は推定可能である。そこで、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定変速段と時刻t1からの走行時間とに基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの油温Ttmを所定周期毎に算出するようにしている。そして、その算出された油温Ttmに基づいて変速ガード処理が非実行であると仮定したとき、換言すれば時刻t1において変速ガード処理が解除されたと仮定したときの仮想動力伝達効率EFbを、先の図10に示した油温Ttm及び動力伝達効率EFの関係に基づいて算出するようにしている(図11(A)に示す二点鎖線)。
【0056】
さらに、実動力伝達効率EFr及び仮想動力伝達効率EFbの算出周期毎に、それら実動力伝達効率EFr及び仮想動力伝達効率EFbの差である効率差ΔEFを算出し、その効率差ΔEFに応じた燃料抑制量を予め設定されたマップ等に基づいて算出する。こうした燃料抑制量の算出を所定周期毎に繰り返し行い、その算出された燃料抑制量を積算していくことにより現在の変速段における燃費向上量FUが算出される(図11(A)に示す斜線部の面積に相当)。
【0057】
次に、現在の変速段による燃費損失量FDが算出される(S240)。この燃費損失量FDは、変速ガード処理の実行中における実燃料消費量FSrと変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定燃料消費量FSbとの差として算出される。
【0058】
より具体的には、変速ガード処理の実行中における実燃料消費量FSrは、燃料噴射弁から噴射された燃料噴射量に基づいて算出される。また、推定燃料消費量FSbは次のようにして算出される。
【0059】
まず、変速ガード処理の実行中において、変速ガード処理が非実行であると仮定したときに選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、その変速段及び車速に基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの機関回転速度は推定することができる。また、アクセル操作量に基づいて燃料噴射量は推定可能であり、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定機関回転速度と、アクセル操作量から推定された燃料噴射量とに基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定燃料消費量FSbは算出することができる。
【0060】
そこで、本実施形態では、図11(B)に示すように、上記ステップS220にて、冷却水温THWが第2判定温度T2以上であると判定された時点(時刻t1)からの実燃料消費量FSrを所定周期毎に算出するようにしている。
【0061】
また、時刻t1以降において、変速ガード処理が非実行であると仮定したときに選択される推定変速段と車速SPとアクセル操作量ACCPとに基づき、図12に示す推定燃料消費量算出マップを参照して上記推定燃料消費量FSbを所定周期毎に算出するようにしている(図11(B)に示す二点鎖線)。なお、図12に示すように、推定燃料消費量算出マップは変速段毎に設定されており、上記推定変速段に対応するマップが選択される。また、各マップにおいては車速SP及びアクセル操作量ACCPに基づいて推定燃料消費量FSbが算出される。この推定燃料消費量FSbは、車速SPが高いほど、あるいはアクセル操作量ACCPが大きいほど、大きな値が設定される。また、車速SP及びアクセル操作量ACCPが同一であっても、上記推定変速段が低速段側の変速段であるほど、推定燃料消費量FSbには大きな値が設定される。
【0062】
そして、実燃料消費量FSr及び推定燃料消費量FSbの算出周期毎に、それら実燃料消費量FSr及び推定燃料消費量FSbの差である消費量差ΔFSを算出し、その算出された消費量差ΔFSを積算していくことにより現在の変速段における燃費損失量FDが算出される(図11(B)に示す斜線部の面積に相当)。
【0063】
こうして燃費向上量FU及び燃費損失量FDが所定周期毎に算出されると、ステップS250にて、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えているか否かが判定される。そして、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えている場合には(S250:YES)、変速機30の暖機モード中であることが表示装置91に表示されて(S260)、本処理は一旦終了される。このように、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えている間は、エンジン10の暖機が完了していても、変速ガード処理は継続して実行される。
【0064】
一方、ステップS250にて、燃費向上量FUが燃費損失量FD以下になっていると判定される場合(S250:NO、先の図11に示す時刻t2)、あるいは先のステップS210にて車速SPが判定速度SPA以上であると判定される場合には(S210:YES)、変速ガード処理が終了されて(S270)、変速指令値の制限が解除される。この変速指令値の解除により、自動変速モードであれば、変速段は車両の運転状態に応じた変速段に変速される。また手動変速モードであれば、車両の運転状態に応じた変速段に変速されるようにシフトインジケータ92の表示が制御される。
【0065】
こうして変速ガード処理が終了されると、表示装置91にあって変速機30の暖機モード中であることが表示されているか否かが判定され(S280)、暖機モード中であることが表示されていない場合には(S280:NO)、本処理は一旦終了される。
【0066】
一方、暖機モード中であることが表示されている場合には(S280:YES)、変速機30の暖機モード中であるといった表示が非表示にされて(S290)、本処理は一旦終了される。
【0067】
以上説明した本実施形態によれば、次の作用効果を得ることができる。
(1)変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量FDと、変速ガード処理の実行による変速機30の動力伝達効率EFの早期上昇により向上する燃費向上量FUとを算出し、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えている間は変速ガード処理を実行するようにしている。従って、変速ガード処理の実行による変速機30の早期暖機による効果、すなわち実動力伝達効率EFrが早期に上昇することにより得られる燃費向上効果が、変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大に起因する燃費の損失を上回っている間は、エンジン10の暖機が完了していても、変速ガード処理は継続して実行される。これにより、変速ガード処理の実行期間は、燃費を向上させる点において適切な期間に設定され、エンジン10の燃費が向上するようになる。
【0068】
(2)変速ガード処理の実行中における実燃料消費量FSrと変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定燃料消費量FSbとの差である消費量差ΔFSを算出することで上記燃費損失量FDを算出するようにしている。そして、推定燃料消費量FSbについては、車速SPと、アクセル操作量ACCPと、変速ガード処理の非実行時に選択される推定変速段とに基づいて算出するようにしており、これにより上記推定燃料消費量FSbの算出及び燃費損失量FDの算出を行うことができるようになる。
【0069】
(3)変速ガード処理の実行中における変速機30内の潤滑油の油温Ttmに基づいて算出される実動力伝達効率EFrと、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの油温Ttmに基づいて算出される仮想動力伝達効率EFbとの差である効率差ΔEFを算出するようにしている。そして、その効率差ΔEFに応じた燃料抑制量を算出することにより上記燃費向上量FUを算出するようにしており、これにより同燃費向上量FUを適切に算出することができるようになる。
【0070】
(4)変速ガード処理の実行中の油温Ttmを、実際に選択されている変速段及び車両の走行時間に基づいて算出するようにしている。また、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの油温Ttmを、変速ガード処理が非実行であると仮定したときに選択される推定変速段及び車両の走行時間に基づいて算出するようにしている。これにより、燃費向上量FUの算出に必要な油温Ttmを適切に推定することができるようになる。
【0071】
(5)変速機30の暖機完了時期は、エンジン10の暖機完了時期に比べて遅くなる傾向があり、少なくともエンジン10の暖機が完了したと判定されるまでは変速ガード処理を実行した方がよい。そこで、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えているか否かの判定処理(図6におけるステップS250の処理)を、エンジン10の暖機が完了したと判定された後(図6におけるステップS220で肯定判定された後)に行うようにしている。従って、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えているか否かの判定処理が、エンジン10の暖機が完了したと判定された後に行われるようになり、そうした判定処理を効率よく行うことができるようになる。
【0072】
(6)燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えていると判定されている間は、変速機30の暖機を促す運転モード中であることを示す表示装置91を備えるようにしている。そのため、変速機30の暖機を促す運転モード中であることを車両の運転者等に知らせることができるようになる。
【0073】
(7)手動変速機の構造を有した変速機30にあって、車両の運転状態に対応した変速段への変速指示を表示するシフトインジケータ92を備えるようにしており、車両の運転状態に応じて制御装置200から出力される変速指令値をシフトインジケータ92に入力するようにしている。従って、車両の運転者に適切な変速段を指示するシフトインジケータ92に対し、燃費の点で有利となる変速段を適切に表示することができるようになる。
【0074】
(8)変速機30とエンジン10との間に設けられたクラッチ20の係合操作及び解放操作を自動で行うクラッチ用アクチュエータ21を備えるようにしている。また、変速機30には、変速段の切替を行うシフトフォークの操作を変速レバー32Aの操作に合わせて行う変速用アクチュエータ31を備えるようにしている。このようにクラッチの操作及び変速段の切替をアクチュエータで行うことができるため、手動変速機の構造を有した変速機30は、車両の運転状態に応じて変速段が自動的に切り替えられる自動変速機として使用することが可能になっている。そして、変速機30を自動変速機として使用する自動変速モードにおいては、上記変速指令値が変速機30の変速機構を構成する変速用アクチュエータ31に入力される。従って、車両の運転状態に応じて変速段が自動的に切り替えられる自動変速機として変速機30が使用されるときにも、燃費の点で有利となる変速段を適切に選択することができるようになる。
【0075】
(9)変速ガード処理の実行時には、変速ガード処理の非実行時に比して、変速可能な最高速変速段を低くするようにしている。そのため、変速ガード処理の実行時には、非実行時よりも機関回転速度を高めることができるようになり、エンジン10の早期暖機や変速機30の早期暖機を図ることができる。
【0076】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・機関の冷間始動を冷却水温THWに基づいて判定するようにしたが、吸気温THAに基づいて判定するようにしてもよい。
【0077】
・変速ガード処理の実行中における油温Ttmや、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの油温Ttmを変速段及び車両の走行時間に基づいて推定するようにした。この他、油温Ttmの上昇速度は機関回転速度が高いほど速くなるため、そうした油温Ttmを、機関回転速度及び車両の走行時間に基づいて推定するようにしてもよい。この場合、変速ガード処理の実行中における油温Ttmは、実際の機関回転速度及び走行時間に基づいて推定可能である。また、変速ガード処理の非実行時に選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、この変速段及び車速に基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの機関回転速度は推定可能である。従って、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの油温Ttmは、その推定された機関回転速度と走行時間とに基づいて推定することができる。
【0078】
・油温Ttmの推定に用いる車両の走行時間を、機関の稼働時間に変更してもよい。
・油温Ttmを他のパラメータで推定するようにしてもよい。
・実際の油温Ttmについては、温度センサで検出するようにしてもよい。
【0079】
・図13に示すように、変速ガード処理の実行時には、変速ガード処理の非実行時(通常時)に比して各変速段に対応した変速線をシフト量SHの分だけ高車速側にずらすようにしてもよい。この場合には、同一の車速であっても、変速ガード処理の実行中には、非実行時と比較してより低速側の変速段が選択されるようになり、これにより機関回転速度を高めることができるようになる。例えば、図13に示すように、変速ガード処理の非実行時(通常時)にあって、ある車速SP1においては4速段が選択される場合に、変速ガード処理の実行により変速線が高速側にずらされると、同一の車速SP1であっても3速段が選択されるようになる。従って、この場合には、機関回転速度が高くなる。
【0080】
・燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えているか否かの判定処理(図6におけるステップS250の処理)を、エンジン10の暖機が完了したと判定された後(図6におけるステップS220で肯定判定された後)に行うようにしたが、エンジン10の暖機が完了したと判定される前から行うようにしてもよい。例えば、機関始動直後から行うようにしてもよい。
【0081】
・変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量FDや、変速ガード処理の実行による動力伝達効率EFの上昇により向上する燃費向上量FUを他の態様で算出するようにしてもよい。
【0082】
・手動変速モードのときにのみ、あるいは自動変速モードのときにのみ、上述したような変速ガード処理を行うようにしてもよい。
・上記変速レバー装置32では、変速レバー32Aをシフト位置「M」に移動させることで手動変速モードになり、そのシフト位置「M」でシフトレバーを前後に傾動させることで変速段を運転者が選択できるようになっていた。この他、例えば、変速レバー装置に「P」、「R」、「N」、「D」、「3」、「2」、及び「L」といったレバー操作位置が設けられており、シフトレバーをシフト位置「3」、「2」、及び「L」のうちのいずれかに移動させることで、手動変速モードによる変速段の選択を運転者が行える変速レバー装置であってもよい。このように、変速レバー装置32のシフト位置に関する配置は適宜変更することができる。
【0083】
・上述した手動変速モードは、運転者が直接、変速段の昇降操作を行う変速モード、例えば「3速」を選択したときには変速機30の変速段が3速段に固定される、いわゆるギヤ段ホールドタイプの変速モードであった。この他、変速段の変更範囲内にあって最高速段を定めるシフトレンジを任意に選択可能とすることで運転者がある程度任意に変速段を選択することができる変速モード、いわゆるレンジホールドタイプの変速モードを採用するようにしてもよい。
【0084】
・上記クラッチ用アクチュエータ21及び変速用アクチュエータ31のうちのいずれか一方のみを備える、あるいはそうしたクラッチ用アクチュエータ21及び変速用アクチュエータ31を備えていない手動変速機であっても本発明は同様に適用することができる。
【0085】
・上記変速機30は6段式の変速機であったが、5段以下の変速機、あるいは7段以上の変速機であってもよい。
・上記変速機30は、クラッチ20の操作やシフトフォークの操作をアクチュエータで行うことにより、手動変速機の構造を有した変速機であっても自動変速が可能になっていた。この他、遊星歯車等を有した多段式の自動変速機や、プーリ及びベルト等により構成される無段式の自動変速機にも本発明は同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明にかかる変速機の制御装置を具体化した一実施形態にあって、これが適用される車両の構成を説明する断面図。
【図2】同実施形態におけるシフト位置の配置を示す模式図。
【図3】同実施形態におけるシフトインジケータの模式図。
【図4】同実施形態における変速マップの概念図。
【図5】同実施形態における変速ガードの開始処理についてその手順を示すフローチャート。
【図6】同実施形態における変速ガードの終了処理についてその手順を示すフローチャート。
【図7】車両の走行時間と油温との関係を示すグラフ。
【図8】機関回転速度と油温の上昇速度との関係を示すグラフ。
【図9】変速段及び車両の走行時間と油温の上昇速度との関係を示すグラフ。
【図10】油温と動力伝達効率との関係を示すグラフ。
【図11】(A)は、燃費向上量の算出態様を示すタイミングチャート。(B)は、燃費損失量の算出態様を示すタイミングチャート。
【図12】推定燃料消費量算出マップの設定態様を示す模式図。
【図13】同実施形態の変形例における変速ガード処理が実行されるときの変速マップの概念図。
【符号の説明】
【0087】
10…エンジン、11…吸気通路、12…スロットルバルブ、13…排気通路、14…触媒、20…クラッチ、21…クラッチ用アクチュエータ、30…変速機、31…変速用アクチュエータ、32…変速レバー装置、32A…変速レバー、50…デファレンシャルギヤ、60…駆動輪、90…メータパネル、91…表示装置、92…シフトインジケータ、92d…シフトダウン表示部、92u…シフトアップ表示部、100…車両、200…制御装置、300…クランク角センサ、310…吸入空気量センサ、320…スロットル開度センサ、330…水温センサ、340…車速センサ、350…アクセルセンサ、360…吸気温センサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に接続された変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関にあっては、排気浄化性能の早期確保を図るために、冷間始動後の機関暖機を促進させる処理が種々行われている。
例えば、特許文献1に記載の装置では、機関始動時における変速機内の潤滑油の油温に基づき設定される時間の間は最高速変速段への変速を禁止する処理を実行することで、機関回転速度を比較的高い状態に維持し、機関暖機を促進させるようにしている。
【特許文献1】特開平5−332446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記文献1に記載のものでは、上述したような変速制限、すなわち変速機の低速段から高速段への変速を制限する変速ガード処理を、機関暖機の促進を目的として実行するようにしており、機関暖機が完了すれば変速ガード処理は終了される。
【0004】
ところで、変速機内の潤滑油の油温が低いときには、潤滑油の粘度が高く、変速機の動力伝達効率は低くなるため、燃費の点で不利になる。従って、変速機の暖機を行って潤滑油の油温上昇を促進させるようにすれば、潤滑油の粘度はより早期に理想的な状態になり、変速機の動力伝達効率も早期に上昇するようになって燃費が向上するようになる。
【0005】
ここで、上記変速ガード処理の実行中は機関回転速度が比較的高い状態に維持されるため、変速機内の潤滑油の攪拌が促進されて油温は上昇しやすくなる。従って、変速ガード処理の実行中には、内燃機関のみならず変速機の暖機も促進されるのであるが、こうした変速機の暖機完了時期は、機関の暖機完了時期に比べて遅くなる傾向がある。
【0006】
そのため、上記文献1に記載される装置のように、機関暖機が完了した時点で変速ガード処理を終了するようにしてしまうと、変速機の暖機が完了する前に変速ガード処理は終了されてしまう。従って、変速ガード処理の実行を通じた動力伝達効率の上昇による燃費向上効果を十分に得ることができない。このように従来の装置においては、変速ガード処理を利用して内燃機関の燃費を向上させるといった点において更なる改善の余地を残すものとなっている。
【0007】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、変速ガード処理の実行期間を適切に設定することにより、内燃機関の燃費を向上させることのできる変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関に接続された変速機の変速に際して車両の運転状態に応じた変速指令値を出力するとともに、機関の冷間始動時には低速段から高速段への変速を制限する変速ガード処理を実行する変速機の制御装置において、前記変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量と、前記変速ガード処理の実行による前記変速機の動力伝達効率の上昇により向上する燃費向上量とを算出し、前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えている間は前記変速ガード処理を実行することをその要旨とする。
【0009】
低速段から高速段への変速を制限する変速ガード処理が実行されると、その非実行時と比較して機関回転速度は高くなりやすく燃費は低下する。他方、変速ガード処理の実行により機関回転速度が比較的高い状態に維持されると、変速機内の潤滑油の攪拌が促進されてその油温上昇が促進される。従って、潤滑油の粘度低下も早期に進行し、変速機の動力伝達効率の上昇は、変速ガード処理の非実行時と比較して高くなる。このように動力伝達効率が高くなると、変速機内での機関出力の損失が少なくなり、燃費が向上する。
【0010】
このように、変速ガード処理は、機関回転速度を増大させるといった点からみれば燃費を悪化させる処理であり、変速機の動力伝達効率を早期に上昇させるといった点からみれば燃費を向上させる処理である。
【0011】
そこで、同構成では、変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量と、変速ガード処理の実行による前記変速機の動力伝達効率の上昇により向上する燃費向上量とをそれぞれ算出し、燃費向上量が燃費損失量を超えている間は変速ガード処理を実行するようにしている。これにより、変速ガード処理の実行によって得られる燃費向上効果が、変速ガード処理の実行による燃費の低下を上回っている間は変速ガード処理が実行される。従って、変速ガード処理の実行期間は、燃費を向上させる点において適切な期間に設定され、内燃機関の燃費を向上させることができるようになる。ちなみに変速ガード処理が実行される機関の冷間始動は、吸気温や冷却水温等に基づいて判断することができる。
【0012】
上記燃費損失量を算出するには、請求項2に記載の発明によるように、前記変速ガード処理の実行中における燃料消費量と前記変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定燃料消費量との差を算出する、といった構成を採用することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の変速機の制御装置において、前記推定燃料消費量は、車速と、アクセル操作量と、前記変速ガード処理の非実行時に選択される変速段とに基づいて算出されることをその要旨とする。
【0014】
変速ガード処理の実行中において、変速ガード処理の非実行時に選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、この変速段及び車速に基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの機関回転速度は推定することができる。また、アクセル操作量に基づいて燃料噴射量は推定可能であり、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定機関回転速度と、アクセル操作量から推定された燃料噴射量とに基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの上記推定燃料消費量は算出することができる。従って、同構成によれば、上記推定燃料消費量を算出することが可能になる。
【0015】
上記燃費向上量を算出するには、請求項4に記載の発明によるように、前記燃費向上量は、前記変速ガード処理の実行中における前記変速機内の潤滑油の油温に基づいて算出される変速機の動力伝達効率と、前記変速ガード処理が非実行であると仮定したときの前記油温に基づいて算出される前記動力伝達効率との差に応じた燃料消費量の抑制分を算出することにより算出される、といった構成を採用することができる。
【0016】
なお、変速機内の潤滑油の油温は、機関始動後における車両の走行時間が長くなるにつれて高くなり、その油温の上昇速度は機関回転速度が高いほど速くなる。従って、請求項5に記載の発明によるように、前記油温は、機関回転速度及び走行時間に基づいて推定される、といった構成を採用することが可能である。ちなみに、変速ガード処理の実行中における上記油温は、実際の機関回転速度及び走行時間に基づいて推定可能である。また、変速ガード処理の非実行時に選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、この変速段及び車速に基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの機関回転速度は推定可能である。従って、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの上記油温は、その推定された機関回転速度と走行時間とに基づいて推定することができる。
【0017】
また、変速段が低速段側に設定されるほど機関回転速度は高くなるため、請求項6に記載の発明によるように、前記油温は、変速段及び走行時間に基づいて推定される、といった構成を採用することも可能である。ちなみに、同構成では、変速ガード処理の実行中における上記油温は、実際に選択されている変速段及び走行時間に基づいて推定可能である。また、変速ガード処理の非実行時に選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、変速ガード処理が非実行であると仮定したときに選択される変速段は推定可能である。従って、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの上記油温は、その推定された変速段と走行時間とに基づいて推定することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の変速機の制御装置において、前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えているか否かの判定処理は、内燃機関の暖機が完了したと判定された後に行われることをその要旨とする。
【0019】
上述したように、変速機の暖機完了時期は、機関の暖機完了時期に比べて遅くなる傾向があり、少なくとも内燃機関の暖機が完了したと判定されるまでは上記変速ガード処理を実行した方がよい。従って、同構成によるように、燃費向上量が燃費損失量を超えているか否かの判定処理を、内燃機関の暖機が完了したと判定された後に行うことにより、そうした判定処理を効率よく行うことができるようになる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の変速機の制御装置において、前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えていると判定されている間は、前記変速機の暖機を促す運転モード中であることを示す表示装置を備えることをその要旨とする。
【0021】
同構成によれば、変速機の暖機を促す運転モード中であることを車両の運転者等に知らせることができるようになる。
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の変速機の制御装置において、前記変速機は手動変速機であって、車両の運転状態に対応した変速段への変速指示を表示する変速指示装置を備え、前記変速指令値が前記変速指示装置に入力される指令値であることをその要旨とする。
【0022】
同構成によれば、車両の運転者に適切な変速段を指示する変速指示装置に対し、燃費の点で有利となる変速段を適切に表示することができるようになる。
なお、請求項10に記載の発明によるように、前記手動変速機と前記内燃機関との間にはクラッチが設けられており、そのクラッチの係合操作及び解放操作を自動で行うアクチュエータを備える、といった構成を採用することもできる。
【0023】
また、請求項11に記載の発明によるように、前記手動変速機は、変速段の切替を行うシフトフォークの操作を変速レバーの操作に合わせて行うアクチュエータを備える、といった構成を採用することもできる。ちなみに、請求項10及び請求項11に記載の構成を備える手動変速機にあっては、クラッチの操作及び変速段の切替をアクチュエータで行うことができるため、変速を自動的に行うことも可能になる。
【0024】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の変速機の制御装置において、前記変速機は自動変速機であって、前記変速指令値が、前記自動変速機の変速機構に入力される指令値であることをその要旨とする。
【0025】
同構成によれば、車両の運転状態に応じて変速段が自動的に切り替えられる自動変速機において、燃費の点で有利となる変速段を適切に選択することができるようになる。
なお、上記変速ガード処理による低速段から高速段への変速制限の態様としては、請求項13に記載の発明によるように、前記変速ガード処理は、同変速ガード処理の非実行時に比して変速可能な最高速変速段を低くする処理である、といった構成を採用することができる。この場合には、変速ガード処理の実行中において高速段への変速が規制されることにより、機関回転速度を高めることができるようになる。
【0026】
また、上記変速ガード処理による低速段から高速段への変速制限の態様としては、請求項14に記載の発明によるように、前記変速ガード処理は、同変速ガード処理の非実行時に比して各変速段に対応した変速線を高車速側にずらす処理である、といった構成を採用することもできる。この場合には、同一の車速であっても、変速ガード処理の実行中には、非実行時と比較してより低速側の変速段が選択されるようになり、これにより機関回転速度を高めることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明にかかる変速機の制御装置を具体化した一実施形態について、図1〜図12を参照して説明する。
図1に、本実施形態の変速機の制御装置が適用された車両の構成を示す。
【0028】
この図1に示すように、車両100には、エンジン10が搭載されており、その吸気通路11には、吸入空気量を調量するスロットルバルブ12が設けられている。エンジン10では、吸入空気量に応じた燃料が燃料噴射弁から噴射されることにより、機関出力が調整される。また、エンジン10の排気通路13には、排気成分を浄化する触媒14が設けられている。
【0029】
エンジン10のクランクシャフトは、クラッチ20の入力軸に接続されており、クラッチ20の出力軸は、複数の変速段を有する変速機30の入力軸に接続されている。この変速機30は、手動式の変速機と同一の歯車構造を有しており、その内部に設けられたシフトフォークの操作を通じて変速段が切り替えられる。変速機30の出力軸は、デファレンシャルギヤ50に接続されている。デファレンシャルギヤ50の出力軸は、車両の駆動輪60に接続されている。
【0030】
上記クラッチ20には、その係合操作及び解放操作を行うクラッチ用アクチュエータ21が設けられている。また、変速機30には、上記シフトフォークを操作する変速用アクチュエータ31が設けられている。
【0031】
車両の車室内には、変速機30の変速態様を選択する変速レバー装置32が設けられている。この変速レバー装置32には、図2に示すように、「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」及び「M(マニュアル)」の各シフト位置が設けられている。そして、変速レバー装置32からは、変速レバー32Aの操作位置がそれらシフト位置のいずれにされているか示すシフト位置信号が出力される。また、シフト位置「M」では、変速レバー32Aを車両後方に傾動させることで、変速段をアップシフトさせる「アップ信号(+)」が出力され、変速レバー32Aを車両前方に傾動させることで、変速段をダウンシフトさせる「ダウン信号(−)」が出力される。
【0032】
また、運転席のメータパネル90内には、各種の情報を表示する表示装置91が設けられており、その表示装置91内には、シフトアップ操作やシフトダウン操作といった変速操作を運転者に対して指示するシフトインジケータ92が設けられている。このシフトインジケータ92には、上下に表示部が設けられており、シフトアップ操作を指示するときには上部のシフトアップ表示部92uが点灯し、シフトダウン操作を指示するときには下部のシフトダウン表示部92dが点灯する。
【0033】
車両100の状態は、各種センサ等によって検出される。例えば、クランク角センサ300によって機関回転速度NEが検出され、吸入空気量センサ310によって吸入空気量GAが検出され、スロットル開度センサ320によってスロットルバルブ12の開度であるスロットル開度TAが検出される。また、水温センサ330によってエンジン10の冷却水温THWが検出され、車速センサ340によって車両の車速SPが検出され、アクセルセンサ350によってアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量ACCPが検出される。そして、吸気温センサ360によってエンジン10に吸入される空気の温度である吸気温THAが検出される。
【0034】
上述したシフト位置信号や各種センサ等の信号は、制御装置200に入力され、同制御装置200は、そうした信号に基づき、エンジン10の燃料噴射制御や点火時期制御といった各種のエンジン制御や変速機30の変速制御等を行う。
【0035】
変速機30の変速制御に際しては、車両の運転状態に応じた変速指令値が変速マップに基づいて設定され、その設定された変速指令値に応じた変速制御が行われる。図4に示すように、変速マップは、アクセル操作量ACCP及び車速SPに基づいて変速指令値を設定するマップであって、変速段を高速段に変更するシフトアップ用変速線と、変速段を低速段に変更するシフトダウン用変速線とが用意されている。そして、それらシフトアップ用及びシフトダウン用変速線は、変速機30の変速段に対応してそれぞれ設定されている。シフトアップ用変速線としては、実線にて示すように、2速アップ用変速線、3速アップ用変速線、4速アップ用変速線、5速アップ用変速線、6速アップ用変速線が設定されている。また、シフトダウン用変速線としては、一点鎖線にて示すように、5速ダウン用変速線、4速ダウン用変速線、3速ダウン用変速線、2速ダウン用変速線、1速ダウン用変速線が設定されている。そして、例えば、アクセル操作量ACCPが一定であっても、車速SPが3速アップ用変速線U3を超えたときには、変速段を2速段から3速段にシフトアップさせるための変速指令値が設定される。また、車速が一定であっても、アクセル操作量ACCPが3速アップ用変速線U3を下回ったときには、変速段を2速段から3速段にシフトアップさせるための変速指令値が設定される。逆に、例えばアクセル操作量ACCPが一定であっても、車速SPが2速ダウン用変速線D2を下回ったときには、変速段を3速段から2速段にシフトダウンさせるための変速指令値が設定される。また、車速が一定であっても、アクセル操作量ACCPが2速ダウン用変速線D2を超えたときには、3速段から2速段にシフトダウンさせるための変速指令値が設定される。
【0036】
シフト位置「D」では、現在の変速段を他の変速段に切り替える変速要求がある場合、まず、クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が解放状態にされる。そして、変速指令値に対応した変速段が選択されるようにシフトフォークが変速用アクチュエータ31にて操作された後、クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が係合状態にされる。このようにシフト位置「D」では、変速機30の変速機構を構成する変速用アクチュエータ31に変速指令値が入力される。そして、このシフト位置「D」では、クラッチ20及びシフトフォークの操作、並びに変速段の選択が自動的に行われる自動変速モードになる。
【0037】
一方、シフト位置「M」では、運転者によって変速レバー32Aが車両後方に傾動されると変速レバー装置32から「アップ信号(+)」が出力される。この「アップ信号(+)」が出力されると、クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が解放状態にされ、現在の変速段よりも1段分高速側の高速段が選択されるようにシフトフォークが変速用アクチュエータ31にて操作され、その後クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が係合状態にされる。同様に、運転者によって変速レバー32Aが車両前方に傾動されると変速レバー装置32から「ダウン信号(−)」が出力される。この「ダウン信号(−)」が出力されると、クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が解放状態にされ、現在の変速段よりも1段分低速側の低速段が選択されるようにシフトフォークが変速用アクチュエータ31にて操作され、その後クラッチ用アクチュエータ21によってクラッチ20が係合状態にされる。このように、シフト位置「M」では、クラッチ20及びシフトフォークの操作については自動的に行われるものの、変速段の選択については運転者が任意に選択可能な手動変速モードになる。
【0038】
このように、シフト位置「M」では、運転者によって変速段を任意に選択することができる。一方、燃費等の観点から、車両の運転状態に応じた適切な変速段を運転者が選択できるように、上記変速マップに基づき設定される変速指令値が上記シフトインジケータ92に入力されて、その変速指令値に応じてシフトアップ表示部92uやシフトダウン表示部92dが点灯される。例えば、現在の変速段よりも1段分高速側の高速段に切り替える変速指令値が制御装置200から出力されたときには、シフトアップ表示部92uが点灯され、現在の変速段よりも1段分低速側の低速段に切り替える変速指令値が制御装置200から出力されたときには、シフトダウン表示部92dが点灯される。このようにシフトインジケータ92は、車両の運転状態に応じた変速段への変速指示を表示する変速指示装置として機能し、シフトアップ表示部92uやシフトダウン表示部92dの点灯に合わせて運転者が変速レバー32Aを操作した場合には、手動変速モードであっても、自動変速モードと同様な変速段の選択が可能になる。
【0039】
ところで、エンジン10では、触媒14の昇温を促進させて排気浄化性能の早期確保を図るために、冷間始動後の機関暖機を促進させる変速ガード処理が実行される。この変速ガード処理は、変速機30において低速段から高速段への変速を制限する処理であり、より具体的には、そうした変速ガード処理の非実行時に比して、変速可能な最高速変速段を低くする、例えば変速可能な最高速変速段を4速段などに制限するべく、上記変速指令値の最高速変速段を制限する処理である。このように最高速変速段が低くなるように変速段が制限されると、非制限時と比較して機関回転速度が比較的高い状態に維持されやすくなり、機関暖機が促進されるようになる。ちなみに、変速ガード処理の実行により制限される最高速変速段が低すぎると車速を高くすることができず、同最高速変速段が高すぎると変速ガード処理による上記効果が少なくなる。こうした点を考慮して、変速ガード処理の実行時における最高速変速段は適宜設定されている。なお、自動変速モードにおいて変速ガード処理が実行されると、上記変速指令値が制限されることにより、制限された最高速変速段と1速段との間で変速が行われるように自動変速が実施される。また、手動変速モードにおいて変速ガード処理が実行されると、上記変速指令値が制限されることにより、シフトインジケータ92では、制限された最高速変速段よりも高速段側に変速を指示するシフトアップ表示が行われなくなる。また、運転者によって選択されている変速段が、制限された最高速変速段よりも高速段側の変速段になっている場合には、制限された最高速変速段以下の低速段に変速されるまで、シフトインジケータ92ではシフトダウン表示が行われる。
【0040】
上記変速ガード処理が実行されると、その非実行時と比較して機関回転速度は高くなりやすく、燃費は低下する。他方、変速ガード処理の実行により機関回転速度が比較的高い状態に維持されると、変速機30内の潤滑油の攪拌が促進されてその油温上昇が促進される。このように変速機30の暖機が促進されると、潤滑油の粘度低下も早期に進行し、変速機30の動力伝達効率の上昇は、変速ガード処理の非実行時と比較して高くなる。こうして動力伝達効率が早期に高くなると、変速機30内での機関出力の損失が少なくなり、燃費が向上する。
【0041】
このように、変速ガード処理は、機関回転速度を増大させるといった点からみれば燃費を悪化させる処理であり、変速機30の動力伝達効率を早期に上昇させるといった点からみれば燃費を向上させる処理である。
【0042】
そこで、本実施形態では、変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量FDと、変速ガード処理の実行による変速機30での動力伝達効率の上昇によって向上する燃費向上量FUとをそれぞれ算出し、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えている間は変速ガード処理を実行するようにしている。これにより、変速ガード処理の実行によって得られる燃費向上効果が、変速ガード処理の実行による燃費の低下を上回っている間は変速ガード処理が実行されることになり、変速ガード処理の実行期間は、燃費を向上させる点において適切な期間に設定され、エンジン10の燃費が向上するようになる。
【0043】
図5に、上記変速ガード処理を開始する処理についてその手順を示す。なお、本処理は、機関始動時にあって制御装置200により実行される。
本処理が開始されるとまず、冷却水温THWが第1判定温度T1以下であるか否かが判定される(S100)。この第1判定温度T1には、今回の機関始動が冷間始動であるか否かを判定することのできる値が適宜設定されている。そして、冷却水温THWが第1判定温度T1を超えている場合には(S100:NO)、今回の機関始動が冷間始動ではないと判断されて本処理は終了される。
【0044】
一方、冷却水温THWが第1判定温度T1以下である場合には(S100:YES)、今回の機関始動が冷間始動であると判断され、次に、変速機30内の潤滑油の油温Ttmが油温判定温度TS以下であるか否かが判定される(S110)。この油温判定温度TSは、変速機30の動力伝達効率EFが十分に高くなっているか否かを判定するために設定されている値であり、動力伝達効率EFが十分に高くなっているときの潤滑油の粘度に対応する油温が適宜設定されている。また、機関始動直後の油温Ttmは、機関始動直後の吸気温THAと相関があるため、そうした吸気温THAに基づいて推定される。ちなみに、変速機30に油温センサを設けて油温Ttmを直接検出するようにしてもよい。そして、油温Ttmが油温判定温度TSを超えている場合には(S110:NO)、今回の機関始動において動力伝達効率EFが十分に高くなっており、変速機30は暖機完了状態にあると判断されて、本処理は終了される。
【0045】
一方、油温Ttmが油温判定温度TS以下である場合には(S110:YES)、今回の機関始動において動力伝達効率EFが低くなっており、変速機30を暖機させる必要があると判断されて、変速指令値を制限する変速ガード処理が実行され(S120)、本処理は終了される。
【0046】
こうした変速ガードの開始処理が実行されることにより、エンジン10及び変速機30の暖機が必要なときに変速ガード処理が実行される。
次に、変速ガード処理を終了させる処理について説明する。
【0047】
図6に、変速ガードの終了処理についてその手順を示す。なお、本処理も、制御装置200によって所定周期毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されるとまず、変速ガード処理の実行中であるか否かが判定される(S200)。そして、変速ガード処理が実行されていない場合には(S200:NO)、本処理は一旦終了される。
【0048】
一方、変速ガード処理が実行されている場合には(S200:YES)、車速SPが判定速度SPA以上であるか否かが判定される(S210)。この判定速度SPAと車速SPとの比較は、次の理由により行われる。すなわち、変速ガード処理が実行されているときには最高速変速段が制限されるため、場合によっては、次のような不都合が生じる。まず、変速ガード処理の非実行時と比較して、機関回転速度が高くなるため、車速SPがある程度高くなると、車両の運転者等に不快感等を与える程度に機関回転速度が高くなるおそれがある。また、制限された最高速変速段及び機関の許容回転速度で決まる最高速度以上に車速を高くすることができない。そこで、現在の車速SPが、そうした不都合の発生する可能性のある車速であるか否かを判定するために、上記判定速度SPAと車速SPとの比較が行われる。
【0049】
そして、車速SPが判定速度SPA未満である場合には(S210:NO)、変速ガード処理の実行を継続しても上記不都合は発生しないと判断されて、次に、冷却水温THWが第2判定温度T2以上であるか否かが判定される(S220)。この第2判定温度T2には、エンジン10の暖機が完了したか否かを判定することのできる値が適宜設定されている。そして、冷却水温THWが第2判定温度T2未満である場合には(S220:NO)、本処理は一旦終了され、変速ガード処理の実行が継続される。
【0050】
一方、冷却水温THWが第2判定温度T2以上である場合には(S220:YES)、エンジン10の暖機が完了したと判断される。ここで、変速機30の暖機完了時期は、エンジン10の暖機完了時期よりも遅くなる傾向があり、エンジン10の暖機完了をもって変速ガード処理を終了させてしまうと、変速機30の暖機促進による上述したような燃費向上効果を十分に得ることができない。そこで、本処理では、引き続きステップS250以降の処理が実行される。
【0051】
ステップS250では、現在の変速段による燃費向上量FUが算出される(S230)。この燃費向上量FUは、次のようにして算出される。
まず、機関始動直後の油温Ttmは、上述したように機関始動直後の吸気温THAから推定可能である。さらに、図7に示すように、機関始動後の油温Ttmは、機関始動後における車両の走行時間が長くなるにつれて高くなり、その温度上昇過程での油温Ttmの上昇速度は、図8に示すように、機関回転速度が高いほど速くなるため、機関始動後の油温Ttmの上昇量は、走行時間及び機関回転速度に基づいて推定可能である。従って、機関始動直後の吸気温THAに基づいて機関始動後の油温Ttmを算出し、機関回転速度及び車両の走行時間に基づいて油温Ttmの上昇量を算出するようにすれば、車両の走行が開始されてからの油温Ttmを推定することができる。ここで、変速機30の変速段が低速段側に設定されるほど機関回転速度は高くなるため、図9に示すように変速段及び走行時間に基づいて油温Ttmの上昇量を算出することも可能である。そこで、本実施形態では、機関始動直後の吸気温THAに基づいて機関始動後の油温Ttmを算出し、変速段及び車両の走行時間に基づいて油温Ttmの上昇量を算出することで、車両の走行が開始されてからの油温Ttmを推定するようにしている。
【0052】
また、図10に示すように、変速機30の動力伝達効率EFは、油温Ttmが高くなるほど高くなるため、上記態様にて推定される油温Ttmに基づいて動力伝達効率EFを推定するようにしている。
【0053】
そして、変速ガード処理の実行中における動力伝達効率EFと、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの動力伝達効率EFとの差を求め、そうした動力伝達効率EFの差によって抑制される燃料消費量を算出することで上記燃費向上量FUを求めることができる。
【0054】
そこで、本実施形態では、図11(A)に示すように、上記ステップS220にて、冷却水温THWが第2判定温度T2以上であると判定された時点(時刻t1)からの走行時間と実際に選択されている変速段とに基づき、変速ガード処理の実行中における油温Ttmを所定周期毎に算出するようにしている。そして、その算出された油温Ttmに基づき、先の図10に示した油温Ttm及び動力伝達効率EFの関係を参照して変速ガード処理の実行中における実動力伝達効率EFrを算出するようにしている。
【0055】
また、変速ガード処理の非実行時に選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、変速ガード処理が非実行であると仮定したときに選択される変速段は推定可能である。そこで、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定変速段と時刻t1からの走行時間とに基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの油温Ttmを所定周期毎に算出するようにしている。そして、その算出された油温Ttmに基づいて変速ガード処理が非実行であると仮定したとき、換言すれば時刻t1において変速ガード処理が解除されたと仮定したときの仮想動力伝達効率EFbを、先の図10に示した油温Ttm及び動力伝達効率EFの関係に基づいて算出するようにしている(図11(A)に示す二点鎖線)。
【0056】
さらに、実動力伝達効率EFr及び仮想動力伝達効率EFbの算出周期毎に、それら実動力伝達効率EFr及び仮想動力伝達効率EFbの差である効率差ΔEFを算出し、その効率差ΔEFに応じた燃料抑制量を予め設定されたマップ等に基づいて算出する。こうした燃料抑制量の算出を所定周期毎に繰り返し行い、その算出された燃料抑制量を積算していくことにより現在の変速段における燃費向上量FUが算出される(図11(A)に示す斜線部の面積に相当)。
【0057】
次に、現在の変速段による燃費損失量FDが算出される(S240)。この燃費損失量FDは、変速ガード処理の実行中における実燃料消費量FSrと変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定燃料消費量FSbとの差として算出される。
【0058】
より具体的には、変速ガード処理の実行中における実燃料消費量FSrは、燃料噴射弁から噴射された燃料噴射量に基づいて算出される。また、推定燃料消費量FSbは次のようにして算出される。
【0059】
まず、変速ガード処理の実行中において、変速ガード処理が非実行であると仮定したときに選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、その変速段及び車速に基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの機関回転速度は推定することができる。また、アクセル操作量に基づいて燃料噴射量は推定可能であり、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定機関回転速度と、アクセル操作量から推定された燃料噴射量とに基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定燃料消費量FSbは算出することができる。
【0060】
そこで、本実施形態では、図11(B)に示すように、上記ステップS220にて、冷却水温THWが第2判定温度T2以上であると判定された時点(時刻t1)からの実燃料消費量FSrを所定周期毎に算出するようにしている。
【0061】
また、時刻t1以降において、変速ガード処理が非実行であると仮定したときに選択される推定変速段と車速SPとアクセル操作量ACCPとに基づき、図12に示す推定燃料消費量算出マップを参照して上記推定燃料消費量FSbを所定周期毎に算出するようにしている(図11(B)に示す二点鎖線)。なお、図12に示すように、推定燃料消費量算出マップは変速段毎に設定されており、上記推定変速段に対応するマップが選択される。また、各マップにおいては車速SP及びアクセル操作量ACCPに基づいて推定燃料消費量FSbが算出される。この推定燃料消費量FSbは、車速SPが高いほど、あるいはアクセル操作量ACCPが大きいほど、大きな値が設定される。また、車速SP及びアクセル操作量ACCPが同一であっても、上記推定変速段が低速段側の変速段であるほど、推定燃料消費量FSbには大きな値が設定される。
【0062】
そして、実燃料消費量FSr及び推定燃料消費量FSbの算出周期毎に、それら実燃料消費量FSr及び推定燃料消費量FSbの差である消費量差ΔFSを算出し、その算出された消費量差ΔFSを積算していくことにより現在の変速段における燃費損失量FDが算出される(図11(B)に示す斜線部の面積に相当)。
【0063】
こうして燃費向上量FU及び燃費損失量FDが所定周期毎に算出されると、ステップS250にて、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えているか否かが判定される。そして、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えている場合には(S250:YES)、変速機30の暖機モード中であることが表示装置91に表示されて(S260)、本処理は一旦終了される。このように、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えている間は、エンジン10の暖機が完了していても、変速ガード処理は継続して実行される。
【0064】
一方、ステップS250にて、燃費向上量FUが燃費損失量FD以下になっていると判定される場合(S250:NO、先の図11に示す時刻t2)、あるいは先のステップS210にて車速SPが判定速度SPA以上であると判定される場合には(S210:YES)、変速ガード処理が終了されて(S270)、変速指令値の制限が解除される。この変速指令値の解除により、自動変速モードであれば、変速段は車両の運転状態に応じた変速段に変速される。また手動変速モードであれば、車両の運転状態に応じた変速段に変速されるようにシフトインジケータ92の表示が制御される。
【0065】
こうして変速ガード処理が終了されると、表示装置91にあって変速機30の暖機モード中であることが表示されているか否かが判定され(S280)、暖機モード中であることが表示されていない場合には(S280:NO)、本処理は一旦終了される。
【0066】
一方、暖機モード中であることが表示されている場合には(S280:YES)、変速機30の暖機モード中であるといった表示が非表示にされて(S290)、本処理は一旦終了される。
【0067】
以上説明した本実施形態によれば、次の作用効果を得ることができる。
(1)変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量FDと、変速ガード処理の実行による変速機30の動力伝達効率EFの早期上昇により向上する燃費向上量FUとを算出し、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えている間は変速ガード処理を実行するようにしている。従って、変速ガード処理の実行による変速機30の早期暖機による効果、すなわち実動力伝達効率EFrが早期に上昇することにより得られる燃費向上効果が、変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大に起因する燃費の損失を上回っている間は、エンジン10の暖機が完了していても、変速ガード処理は継続して実行される。これにより、変速ガード処理の実行期間は、燃費を向上させる点において適切な期間に設定され、エンジン10の燃費が向上するようになる。
【0068】
(2)変速ガード処理の実行中における実燃料消費量FSrと変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定燃料消費量FSbとの差である消費量差ΔFSを算出することで上記燃費損失量FDを算出するようにしている。そして、推定燃料消費量FSbについては、車速SPと、アクセル操作量ACCPと、変速ガード処理の非実行時に選択される推定変速段とに基づいて算出するようにしており、これにより上記推定燃料消費量FSbの算出及び燃費損失量FDの算出を行うことができるようになる。
【0069】
(3)変速ガード処理の実行中における変速機30内の潤滑油の油温Ttmに基づいて算出される実動力伝達効率EFrと、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの油温Ttmに基づいて算出される仮想動力伝達効率EFbとの差である効率差ΔEFを算出するようにしている。そして、その効率差ΔEFに応じた燃料抑制量を算出することにより上記燃費向上量FUを算出するようにしており、これにより同燃費向上量FUを適切に算出することができるようになる。
【0070】
(4)変速ガード処理の実行中の油温Ttmを、実際に選択されている変速段及び車両の走行時間に基づいて算出するようにしている。また、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの油温Ttmを、変速ガード処理が非実行であると仮定したときに選択される推定変速段及び車両の走行時間に基づいて算出するようにしている。これにより、燃費向上量FUの算出に必要な油温Ttmを適切に推定することができるようになる。
【0071】
(5)変速機30の暖機完了時期は、エンジン10の暖機完了時期に比べて遅くなる傾向があり、少なくともエンジン10の暖機が完了したと判定されるまでは変速ガード処理を実行した方がよい。そこで、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えているか否かの判定処理(図6におけるステップS250の処理)を、エンジン10の暖機が完了したと判定された後(図6におけるステップS220で肯定判定された後)に行うようにしている。従って、燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えているか否かの判定処理が、エンジン10の暖機が完了したと判定された後に行われるようになり、そうした判定処理を効率よく行うことができるようになる。
【0072】
(6)燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えていると判定されている間は、変速機30の暖機を促す運転モード中であることを示す表示装置91を備えるようにしている。そのため、変速機30の暖機を促す運転モード中であることを車両の運転者等に知らせることができるようになる。
【0073】
(7)手動変速機の構造を有した変速機30にあって、車両の運転状態に対応した変速段への変速指示を表示するシフトインジケータ92を備えるようにしており、車両の運転状態に応じて制御装置200から出力される変速指令値をシフトインジケータ92に入力するようにしている。従って、車両の運転者に適切な変速段を指示するシフトインジケータ92に対し、燃費の点で有利となる変速段を適切に表示することができるようになる。
【0074】
(8)変速機30とエンジン10との間に設けられたクラッチ20の係合操作及び解放操作を自動で行うクラッチ用アクチュエータ21を備えるようにしている。また、変速機30には、変速段の切替を行うシフトフォークの操作を変速レバー32Aの操作に合わせて行う変速用アクチュエータ31を備えるようにしている。このようにクラッチの操作及び変速段の切替をアクチュエータで行うことができるため、手動変速機の構造を有した変速機30は、車両の運転状態に応じて変速段が自動的に切り替えられる自動変速機として使用することが可能になっている。そして、変速機30を自動変速機として使用する自動変速モードにおいては、上記変速指令値が変速機30の変速機構を構成する変速用アクチュエータ31に入力される。従って、車両の運転状態に応じて変速段が自動的に切り替えられる自動変速機として変速機30が使用されるときにも、燃費の点で有利となる変速段を適切に選択することができるようになる。
【0075】
(9)変速ガード処理の実行時には、変速ガード処理の非実行時に比して、変速可能な最高速変速段を低くするようにしている。そのため、変速ガード処理の実行時には、非実行時よりも機関回転速度を高めることができるようになり、エンジン10の早期暖機や変速機30の早期暖機を図ることができる。
【0076】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・機関の冷間始動を冷却水温THWに基づいて判定するようにしたが、吸気温THAに基づいて判定するようにしてもよい。
【0077】
・変速ガード処理の実行中における油温Ttmや、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの油温Ttmを変速段及び車両の走行時間に基づいて推定するようにした。この他、油温Ttmの上昇速度は機関回転速度が高いほど速くなるため、そうした油温Ttmを、機関回転速度及び車両の走行時間に基づいて推定するようにしてもよい。この場合、変速ガード処理の実行中における油温Ttmは、実際の機関回転速度及び走行時間に基づいて推定可能である。また、変速ガード処理の非実行時に選択される変速段、すなわち車両の運転状態に応じた変速指令値に基づき選択される変速段は把握可能であり、この変速段及び車速に基づき、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの機関回転速度は推定可能である。従って、変速ガード処理が非実行であると仮定したときの油温Ttmは、その推定された機関回転速度と走行時間とに基づいて推定することができる。
【0078】
・油温Ttmの推定に用いる車両の走行時間を、機関の稼働時間に変更してもよい。
・油温Ttmを他のパラメータで推定するようにしてもよい。
・実際の油温Ttmについては、温度センサで検出するようにしてもよい。
【0079】
・図13に示すように、変速ガード処理の実行時には、変速ガード処理の非実行時(通常時)に比して各変速段に対応した変速線をシフト量SHの分だけ高車速側にずらすようにしてもよい。この場合には、同一の車速であっても、変速ガード処理の実行中には、非実行時と比較してより低速側の変速段が選択されるようになり、これにより機関回転速度を高めることができるようになる。例えば、図13に示すように、変速ガード処理の非実行時(通常時)にあって、ある車速SP1においては4速段が選択される場合に、変速ガード処理の実行により変速線が高速側にずらされると、同一の車速SP1であっても3速段が選択されるようになる。従って、この場合には、機関回転速度が高くなる。
【0080】
・燃費向上量FUが燃費損失量FDを超えているか否かの判定処理(図6におけるステップS250の処理)を、エンジン10の暖機が完了したと判定された後(図6におけるステップS220で肯定判定された後)に行うようにしたが、エンジン10の暖機が完了したと判定される前から行うようにしてもよい。例えば、機関始動直後から行うようにしてもよい。
【0081】
・変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量FDや、変速ガード処理の実行による動力伝達効率EFの上昇により向上する燃費向上量FUを他の態様で算出するようにしてもよい。
【0082】
・手動変速モードのときにのみ、あるいは自動変速モードのときにのみ、上述したような変速ガード処理を行うようにしてもよい。
・上記変速レバー装置32では、変速レバー32Aをシフト位置「M」に移動させることで手動変速モードになり、そのシフト位置「M」でシフトレバーを前後に傾動させることで変速段を運転者が選択できるようになっていた。この他、例えば、変速レバー装置に「P」、「R」、「N」、「D」、「3」、「2」、及び「L」といったレバー操作位置が設けられており、シフトレバーをシフト位置「3」、「2」、及び「L」のうちのいずれかに移動させることで、手動変速モードによる変速段の選択を運転者が行える変速レバー装置であってもよい。このように、変速レバー装置32のシフト位置に関する配置は適宜変更することができる。
【0083】
・上述した手動変速モードは、運転者が直接、変速段の昇降操作を行う変速モード、例えば「3速」を選択したときには変速機30の変速段が3速段に固定される、いわゆるギヤ段ホールドタイプの変速モードであった。この他、変速段の変更範囲内にあって最高速段を定めるシフトレンジを任意に選択可能とすることで運転者がある程度任意に変速段を選択することができる変速モード、いわゆるレンジホールドタイプの変速モードを採用するようにしてもよい。
【0084】
・上記クラッチ用アクチュエータ21及び変速用アクチュエータ31のうちのいずれか一方のみを備える、あるいはそうしたクラッチ用アクチュエータ21及び変速用アクチュエータ31を備えていない手動変速機であっても本発明は同様に適用することができる。
【0085】
・上記変速機30は6段式の変速機であったが、5段以下の変速機、あるいは7段以上の変速機であってもよい。
・上記変速機30は、クラッチ20の操作やシフトフォークの操作をアクチュエータで行うことにより、手動変速機の構造を有した変速機であっても自動変速が可能になっていた。この他、遊星歯車等を有した多段式の自動変速機や、プーリ及びベルト等により構成される無段式の自動変速機にも本発明は同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明にかかる変速機の制御装置を具体化した一実施形態にあって、これが適用される車両の構成を説明する断面図。
【図2】同実施形態におけるシフト位置の配置を示す模式図。
【図3】同実施形態におけるシフトインジケータの模式図。
【図4】同実施形態における変速マップの概念図。
【図5】同実施形態における変速ガードの開始処理についてその手順を示すフローチャート。
【図6】同実施形態における変速ガードの終了処理についてその手順を示すフローチャート。
【図7】車両の走行時間と油温との関係を示すグラフ。
【図8】機関回転速度と油温の上昇速度との関係を示すグラフ。
【図9】変速段及び車両の走行時間と油温の上昇速度との関係を示すグラフ。
【図10】油温と動力伝達効率との関係を示すグラフ。
【図11】(A)は、燃費向上量の算出態様を示すタイミングチャート。(B)は、燃費損失量の算出態様を示すタイミングチャート。
【図12】推定燃料消費量算出マップの設定態様を示す模式図。
【図13】同実施形態の変形例における変速ガード処理が実行されるときの変速マップの概念図。
【符号の説明】
【0087】
10…エンジン、11…吸気通路、12…スロットルバルブ、13…排気通路、14…触媒、20…クラッチ、21…クラッチ用アクチュエータ、30…変速機、31…変速用アクチュエータ、32…変速レバー装置、32A…変速レバー、50…デファレンシャルギヤ、60…駆動輪、90…メータパネル、91…表示装置、92…シフトインジケータ、92d…シフトダウン表示部、92u…シフトアップ表示部、100…車両、200…制御装置、300…クランク角センサ、310…吸入空気量センサ、320…スロットル開度センサ、330…水温センサ、340…車速センサ、350…アクセルセンサ、360…吸気温センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に接続された変速機の変速に際して車両の運転状態に応じた変速指令値を出力するとともに、機関の冷間始動時には低速段から高速段への変速を制限する変速ガード処理を実行する変速機の制御装置において、
前記変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量と、前記変速ガード処理の実行による前記変速機の動力伝達効率の上昇により向上する燃費向上量とを算出し、前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えている間は前記変速ガード処理を実行する
ことを特徴とする変速機の制御装置。
【請求項2】
前記燃費損失量は、前記変速ガード処理の実行中における燃料消費量と前記変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定燃料消費量との差を算出することにより算出される
請求項1に記載の変速機の制御装置。
【請求項3】
前記推定燃料消費量は、車速と、アクセル操作量と、前記変速ガード処理の非実行時に選択される変速段とに基づいて算出される
請求項2に記載の変速機の制御装置。
【請求項4】
前記燃費向上量は、前記変速ガード処理の実行中における前記変速機内の潤滑油の油温に基づいて算出される変速機の動力伝達効率と、前記変速ガード処理が非実行であると仮定したときの前記油温に基づいて算出される前記動力伝達効率との差に応じた燃料消費量の抑制分を算出することにより算出される
請求項1〜3のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項5】
前記油温は、機関回転速度及び走行時間に基づいて推定される
請求項4に記載の変速機の制御装置。
【請求項6】
前記油温は、変速段及び走行時間に基づいて推定される
請求項4に記載の変速機の制御装置。
【請求項7】
前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えているか否かの判定処理は、内燃機関の暖機が完了したと判定された後に行われる
請求項1〜6のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項8】
前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えていると判定されている間は、前記変速機の暖機を促す運転モード中であることを示す表示装置を備える
請求項7に記載の変速機の制御装置。
【請求項9】
前記変速機は手動変速機であって、車両の運転状態に対応した変速段への変速指示を表示する変速指示装置を備え、前記変速指令値が前記変速指示装置に入力される指令値である
請求項1〜8のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項10】
前記手動変速機と前記内燃機関との間にはクラッチが設けられており、そのクラッチの係合操作及び解放操作を自動で行うアクチュエータを備える
請求項9に記載の変速機の制御装置。
【請求項11】
前記手動変速機は、変速段の切替を行うシフトフォークの操作を変速レバーの操作に合わせて行うアクチュエータを備える
請求項9または10に記載の変速機の制御装置。
【請求項12】
前記変速機は自動変速機であって、前記変速指令値が、前記自動変速機の変速機構に入力される指令値である
請求項1〜8のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項13】
前記変速ガード処理は、同変速ガード処理の非実行時に比して変速可能な最高速変速段を低くする処理である
請求項1〜12のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項14】
前記変速ガード処理は、同変速ガード処理の非実行時に比して各変速段に対応した変速線を高車速側にずらす処理である
請求項1〜12のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項1】
内燃機関に接続された変速機の変速に際して車両の運転状態に応じた変速指令値を出力するとともに、機関の冷間始動時には低速段から高速段への変速を制限する変速ガード処理を実行する変速機の制御装置において、
前記変速ガード処理の実行による機関回転速度の増大により損失する燃費損失量と、前記変速ガード処理の実行による前記変速機の動力伝達効率の上昇により向上する燃費向上量とを算出し、前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えている間は前記変速ガード処理を実行する
ことを特徴とする変速機の制御装置。
【請求項2】
前記燃費損失量は、前記変速ガード処理の実行中における燃料消費量と前記変速ガード処理が非実行であると仮定したときの推定燃料消費量との差を算出することにより算出される
請求項1に記載の変速機の制御装置。
【請求項3】
前記推定燃料消費量は、車速と、アクセル操作量と、前記変速ガード処理の非実行時に選択される変速段とに基づいて算出される
請求項2に記載の変速機の制御装置。
【請求項4】
前記燃費向上量は、前記変速ガード処理の実行中における前記変速機内の潤滑油の油温に基づいて算出される変速機の動力伝達効率と、前記変速ガード処理が非実行であると仮定したときの前記油温に基づいて算出される前記動力伝達効率との差に応じた燃料消費量の抑制分を算出することにより算出される
請求項1〜3のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項5】
前記油温は、機関回転速度及び走行時間に基づいて推定される
請求項4に記載の変速機の制御装置。
【請求項6】
前記油温は、変速段及び走行時間に基づいて推定される
請求項4に記載の変速機の制御装置。
【請求項7】
前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えているか否かの判定処理は、内燃機関の暖機が完了したと判定された後に行われる
請求項1〜6のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項8】
前記燃費向上量が前記燃費損失量を超えていると判定されている間は、前記変速機の暖機を促す運転モード中であることを示す表示装置を備える
請求項7に記載の変速機の制御装置。
【請求項9】
前記変速機は手動変速機であって、車両の運転状態に対応した変速段への変速指示を表示する変速指示装置を備え、前記変速指令値が前記変速指示装置に入力される指令値である
請求項1〜8のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項10】
前記手動変速機と前記内燃機関との間にはクラッチが設けられており、そのクラッチの係合操作及び解放操作を自動で行うアクチュエータを備える
請求項9に記載の変速機の制御装置。
【請求項11】
前記手動変速機は、変速段の切替を行うシフトフォークの操作を変速レバーの操作に合わせて行うアクチュエータを備える
請求項9または10に記載の変速機の制御装置。
【請求項12】
前記変速機は自動変速機であって、前記変速指令値が、前記自動変速機の変速機構に入力される指令値である
請求項1〜8のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項13】
前記変速ガード処理は、同変速ガード処理の非実行時に比して変速可能な最高速変速段を低くする処理である
請求項1〜12のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【請求項14】
前記変速ガード処理は、同変速ガード処理の非実行時に比して各変速段に対応した変速線を高車速側にずらす処理である
請求項1〜12のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−250324(P2009−250324A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97949(P2008−97949)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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