説明

変速装置、その変速装置を備えた車両、およびその変速装置を備えた自動二輪車

【課題】異常発生時に空走状態を回避するフェールセーフ動作を異常の発生箇所および内容に応じて実行可能な変速装置を提供する。
【解決手段】変速装置7は、第1アクチュエータ77または第1クラッチ74等の異常を検出する第1異常検出装置91と、第2アクチュエータ78または第2クラッチ75等の異常を検出する第2異常検出装置92と、フェールセーフ装置93とを備える。フェールセーフ装置93は、第1異常検出装置91が異常を検出すると、第2クラッチ75を介してドライブ軸73にトルクを伝達するように第2アクチュエータ78および第3アクチュエータ79を制御し、第2異常検出装置92が異常を検出すると、第1クラッチ74を介してドライブ軸73にトルクを伝達するように第1アクチュエータ77および第3アクチュエータ79を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ独立したトルク伝達経路に設けられた第1クラッチおよび第2クラッチを備えた変速装置、その変速装置を備えた車両、およびその変速装置を備えた自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、それぞれ独立したトルク伝達経路に設けられた第1クラッチおよび第2クラッチを備えた変速装置が知られている。特許文献1には、その種の変速装置を備えた自動二輪車が開示されている。上記変速装置には、クランク軸のトルクをドライブ軸に伝達する第1伝達経路および第2伝達経路が設けられている。第1伝達経路は、第1クラッチ、第1メインシャフト、奇数段の変速ギア機構からなっている。第2伝達経路は、第2クラッチ、第2メインシャフト、偶数段の変速ギア機構からなっている。上記変速装置では、一方のクラッチを接続させた状態のまま他方のクラッチを遮断し、両変速ギア機構のギアポジションを変更する。この変速装置によれば、トルク伝達を遮断することなく変速を行うことが可能である。
【0003】
ところで、例えばクラッチを駆動するアクチュエータに異常が発生し、第1伝達経路および第2伝達経路のいずれもトルクを伝達しない状態になると、エンジンの駆動力はドライブ軸に伝達されなくなる。この場合、クランク軸には負荷が掛からなくなり、自動二輪車はいわゆる空走状態となる。
【0004】
特許文献1の変速装置では、アクチュエータに異常が発生しても空走状態にならないように、第1クラッチおよび第2クラッチは、いずれもノーマルクローズタイプのクラッチで構成されている。ノーマルクローズタイプのクラッチとは、外部から力を受けない限り遮断状態とはならないタイプのクラッチである。上記変速装置では、変速中に異常が発生すると、両アクチュエータの制御を停止する。これにより、両クラッチは自動的に接続する。そのため、一方のクラッチに異常が発生したとしても、他方のクラッチを介してエンジンの駆動力をドライブ軸に伝達することが可能となり、空走状態を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−133555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記変速装置によれば、変速中に異常が発生すると、異常の発生箇所および内容とは無関係に、一律に両アクチュエータの制御を停止する。しかし、異常の発生箇所および内容に応じたフェールセーフ動作が可能であれば、より好ましい。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、第1クラッチおよび第2クラッチを備え、異常発生時に空走状態を回避するフェールセーフ動作を異常の発生箇所および内容に応じて実行可能な変速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る変速装置は、クランク軸のトルクがそれぞれ伝達される第1クラッチおよび第2クラッチと、前記第1クラッチ、前記第2クラッチをそれぞれ断続する第1アクチュエータ、第2アクチュエータと、前記第1クラッチ、前記第2クラッチを介して前記クランク軸のトルクがそれぞれ伝達される第1入力軸、第2入力軸と、トルクを出力するための出力軸と、前記第1入力軸に設けられた入力ギアと前記出力軸に設けられ且つ前記入力ギアと係合可能な出力ギアとを有する奇数段の変速ギア機構と、前記第2入力軸に設けられた入力ギアと前記出力軸に設けられ且つ前記入力ギアと係合可能な出力ギアとを有する偶数段の変速ギア機構と、前記奇数段および前記偶数段の変速ギア機構のギアポジションを変更する第3アクチュエータと、前記第1アクチュエータの異常、または、前記クランク軸のトルクを前記第1クラッチ、前記第1入力軸、および前記奇数段の変速ギア機構を経由して前記出力軸に伝達する第1伝達経路の異常を検出する第1異常検出装置と、前記第2アクチュエータの異常、または、前記クランク軸のトルクを前記第2クラッチ、前記第2入力軸、および前記偶数段の変速ギア機構を経由して前記出力軸に伝達する第2伝達経路の異常を検出する第2異常検出装置と、前記第1異常検出装置が異常を検出すると、前記第2伝達経路を経由して前記クランク軸のトルクを前記出力軸に伝達するように前記第2アクチュエータおよび前記第3アクチュエータを制御し、前記第2異常検出装置が異常を検出すると、前記第1伝達経路を経由して前記クランク軸のトルクを前記出力軸に伝達するように前記第1アクチュエータおよび前記第3アクチュエータを制御するフェールセーフ装置と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、それぞれ独立したトルク伝達経路に設けられた第1クラッチおよび第2クラッチを備えた変速装置において、異常発生時に空走状態を回避するフェールセーフ動作を、異常の発生箇所および内容に応じて実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】自動二輪車の側面図である。
【図2】駆動ユニットの断面図である。
【図3】駆動ユニットの主要要素の概念図である。
【図4】ギアポジションが1速の場合の変速装置の状態およびトルクの伝達を説明する図である。
【図5】ギアポジションが2速の場合の変速装置の状態およびトルクの伝達を説明する図である。
【図6】ギアポジションが3速の場合の変速装置の状態およびトルクの伝達を説明する図である。
【図7】ギアポジションが4速の場合の変速装置の状態およびトルクの伝達を説明する図である。
【図8】ギアポジションが5速の場合の変速装置の状態およびトルクの伝達を説明する図である。
【図9】ギアポジションが6速の場合の変速装置の状態およびトルクの伝達を説明する図である。
【図10】第1クラッチの一部を右方から見た図である。
【図11】図10のE−F−G線部分断面図である。
【図12】(a)は第1クラッチのセンターハブのボス部を右方から見た図であり、(b)は(a)のR−R線部分断面図である。
【図13】(a)は第1クラッチのプレートを右方から見た図であり、(b)は(a)のS−S線断面図である。
【図14】(a)は順方向のトルクが加わったときの第1カムおよび第2カムを表す図、(b)は逆方向のトルクが加わったときの第1カムおよび第2カムを表す図、(c)は上限値を超える逆方向のトルクが加わったときの第1カムおよび第2カムを表す図である。
【図15】基本的な変速動作の一例を表すタイムチャートである。
【図16】2速から3速への変速動作途中における変速装置の状態およびトルクの伝達を説明する図である。
【図17】2速から3速への変速動作途中における変速装置の状態およびトルクの伝達を説明する図である。
【図18】2速から3速への変速動作途中における変速装置の状態およびトルクの伝達を説明する図である。
【図19】2速から3速への変速動作途中における変速装置の状態およびトルクの伝達を説明する図である。
【図20】変速動作の他の一例を表すタイムチャートである。
【図21】フェールセーフ装置が行う処理の概要を示すフローチャートである。
【図22】第1フェールセーフ動作のタイムチャートである。
【図23】エンジンのスロットル弁、点火装置、および燃料噴射弁を示す図である。
【図24】第2フェールセーフ動作のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。本実施形態に係る変速装置は、図1に示すような自動二輪車100に搭載されるものである。ただし、本発明に係る変速装置は、自動二輪車100以外の車両に搭載されるものであってもよい。本発明に係る変速装置は、車両以外のものに搭載されてもよい。以下の説明において、前、後、左、右とは、自動二輪車100のシート9に着座した乗員から見た場合の前、後、左、右をそれぞれ意味するものとする。図中の符号F、Re、L、Rは、それぞれ前方、後方、左方、右方を表す。
【0012】
<自動二輪車の構成>
図1に示すように、自動二輪車100は、メインフレーム1と、メインフレーム1の前端部に設けられたヘッドパイプ2とを備えている。メインフレーム1には駆動ユニット20が支持されている。ヘッドパイプ2には、フロントフォーク3が回転可能に取り付けられている。フロントフォーク3の上部にはハンドル5が取り付けられている。フロントフォーク3の下部には前輪4が支持されている。
【0013】
ハンドル5にはシフトスイッチ15が設けられている。シフトスイッチ15は、変速装置7を作動させる入力装置であり、乗員によって操作される。シフトスイッチ15は、図示しないシフトアップボタンおよびシフトダウンボタンを有する。乗員がシフトアップボタンを押すと、変速装置7はシフトアップ動作を行い、変速装置7のギアポジションは1段高くなる。乗員がシフトダウンボタンを押すと、変速装置7はシフトダウン動作を行い、変速装置7のギアポジションは1段低くなる。
【0014】
メインフレーム1は後方斜め下向きに延びている。メインフレーム1の後部には、リアアーム11が設けられている。リアアーム11には後輪12が支持されている。
【0015】
駆動ユニット20の上方には、シート9および燃料タンク9aが配置されている。燃料タンク9aと駆動ユニット20との間には、ECU(Electronic Control Unit;電子制御ユニット)10が配置されている。ECU10は、自動二輪車100の各部の動作を制御する制御装置である。ECU10は、変速装置7の制御装置としての役割も果たす。なお、ECU10の設置箇所は何ら限定される訳ではない。
【0016】
<駆動ユニットの構成>
図2は駆動ユニット20の断面図、図3は駆動ユニット20の主要要素の概念図である。図2に示すように、駆動ユニット20は、クランク軸60を有するエンジン6と、変速装置7とを備えている。以下、駆動ユニット20の構成について説明するが、駆動ユニット20の構成として特開2010−133555号公報に開示された構成を利用することができる。上記公報の開示内容は本明細書に含まれる。
【0017】
<変速装置の構成>
図2に示すように、変速装置7は、クランク軸60のトルクがそれぞれ伝達される第1クラッチ74および第2クラッチ75と、第1クラッチ74に接続された第1メイン軸71と、第2クラッチ75に接続された第2メイン軸72と、トルクを出力するためのドライブ軸73とを備えている。第1メイン軸71とドライブ軸73との間には、奇数段の変速ギア機構51が介在している。第2メイン軸72とドライブ軸73との間には、偶数段の変速ギア機構52が介在している。
【0018】
第1クラッチ74が接続されると、クランク軸60のトルクは第1クラッチ74、第1メイン軸71、および奇数段の変速ギア機構51を介して、ドライブ軸73に伝達される。第2クラッチ75が接続されると、クランク軸60のトルクは第2クラッチ75、第2メイン軸72、および偶数段の変速ギア機構52を介して、ドライブ軸73に伝達される。第1クラッチ74、第1メイン軸71、および奇数段の変速ギア機構51は、クランク軸60のトルクをドライブ軸73に伝達する第1の伝達経路を構成している。第2クラッチ75、第2メイン軸72、および偶数段の変速ギア機構52は、クランク軸60のトルクをドライブ軸73に伝達する第2の伝達経路を構成している。
【0019】
ドライブ軸73にはスプロケット76が固定されている。スプロケット76には、ドライブチェーン13(図1参照)が巻かれている。ドライブチェーン13は、後輪12の回転軸(図示せず)に固定されたギアに巻かれている。ドライブ軸73のトルクは、スプロケット76、ドライブチェーン13および上記ギアを介して、後輪12に伝達される。
【0020】
図3に示すように、変速装置7は、第1クラッチ74を駆動する第1アクチュエータ77と、第2クラッチ75を駆動する第2アクチュエータ78とを備えている。ECU10は、第1アクチュエータ77を制御することにより第1クラッチ74を断続させ、第2アクチュエータ78を制御することにより第2クラッチ75を断続させる。
【0021】
奇数段の変速ギア機構51は、第1メイン軸71に設けられた入力ギア81a,83a,85aと、ドライブ軸73に設けられた出力ギア81b,83b,85bとを有している。偶数段の変速ギア機構52は、第2メイン軸72に設けられた入力ギア82a,84a,86aと、ドライブ軸73に設けられた出力ギア82b,84b,86bとを有している。
【0022】
入力ギア81aおよび出力ギア81b、入力ギア82aおよび出力ギア82b、入力ギア83aおよび出力ギア83b、入力ギア84aおよび出力ギア84b、入力ギア85aおよび出力ギア85b、入力ギア86aおよび出力ギア86bは、それぞれ1速、2速、3速、4速、5速、6速のギア群を構成している。1速、3速、および5速の各ギア群は、当該ギア群を介して第1メイン軸71からドライブ軸73にトルクを伝達可能な状態と、トルクを伝達できない状態とに切り換え自在である。2速、4速、および6速の各ギア群は、当該ギア群を介して第2メイン軸72からドライブ軸73にトルクを伝達可能な状態と、トルクを伝達できない状態とに切り換え自在である。以下では、トルクを伝達可能な状態を「係合状態」といい、トルクを伝達できない状態を「非係合状態」という。係合状態は、入力ギアがメイン軸と共に回転し且つ出力ギアがドライブ軸と共に回転する状態である。非係合状態は、入力ギアがメイン軸に対して空転するか、あるいは出力ギアがドライブ軸に対して空転する状態である。1〜6速のギア群から係合状態とするギア群を適宜に選択することにより、第1メイン軸71または第2メイン軸72からドライブ軸73に対し、所定の変速比でトルクを伝達することができる。
【0023】
入力ギア81aは、第1メイン軸71と共に回転するように構成されている。出力ギア81bは、ドライブ軸73に対して相対回転するように構成されている。入力ギア82aは、第2メイン軸72と共に回転するように構成されている。出力ギア82bは、ドライブ軸73に対して相対回転するように構成されている。入力ギア83aは、第1メイン軸71と共に回転するように構成されている。出力ギア83bは、ドライブ軸73に対して相対回転するように構成されている。入力ギア84aは、第2メイン軸72と共に回転するように構成されている。出力ギア84bは、ドライブ軸73に対して相対回転するように構成されている。入力ギア85aは、第1メイン軸71に対して相対回転するように構成されている。出力ギア85bは、ドライブ軸73と共に回転するように構成されている。入力ギア86aは、第2メイン軸72に対して相対回転するように構成されている。出力ギア86bは、ドライブ軸73と共に回転するように構成されている。
【0024】
変速装置7は、シフトカム14と、シフトカム14の回転に伴って左方または右方に移動するシフトフォーク141,142,143,144とを有している。シフトカム14は、第3アクチュエータ79によって駆動される。
【0025】
入力ギア83aは、シフトフォーク142に案内されることにより、左方および右方に移動可能である。入力ギア83aは右方に移動することにより、入力ギア85aと係合可能である。入力ギア83aおよび入力ギア85aは、互いに係合することによって一体となって回転する。入力ギア84aは、シフトフォーク143に案内されることにより、左方および右方に移動可能である。入力ギア84aは左方に移動することにより、入力ギア86aと係合可能である。入力ギア84aおよび入力ギア86aは、互いに係合することによって一体となって回転する。出力ギア85bは、シフトフォーク141に案内されることにより、左方および右方に移動可能である。出力ギア85bは右方に移動することにより、出力ギア81bと係合可能である、出力ギア85bと出力ギア81bとは、互いに係合することによって一体となって回転する。出力ギア85bは左方に移動することにより、出力ギア83bと係合可能である。出力ギア85bと出力ギア83bとは、互いに係合することによって一体となって回転する。出力ギア86bは、シフトフォーク144に案内されることにより、左方および右方に移動可能である。出力ギア86bは、左方に移動することにより、出力ギア82bと係合可能である。出力ギア86bと出力ギア82bとは、互いに係合することによって一体となって回転する。出力ギア86bは、右方に移動することにより、出力ギア84bと係合可能である。出力ギア86bと出力ギア84bとは、互いに係合することによって一体となって回転する。
【0026】
ECU10は、第3アクチュエータ79を制御することにより、シフトカム14を適宜に回転させる。シフトカム14の回転に伴って、シフトフォーク141〜144は適宜に移動し、入力ギア83a、入力ギア84a、出力ギア85b、または出力ギア86bの位置を変更する。これにより、変速ギア機構51,52のギアポジションが変更される。図4、図5、図6、図7、図8、図9は、変速装置7の状態およびトルクの伝達を説明する図であり、それぞれ変速装置7のギアポジションが1速、2速、3速、4速、5速、6速の場合を示している。
【0027】
<クラッチの構成>
図2に示すように、第1メイン軸71と第2メイン軸72とは同一直線上に並んでいる。第1メイン軸71は右側に配置され、第2メイン軸72は左側に配置されている。第1クラッチ74は、第1メイン軸71の右端部分に設けられている。第2クラッチ75は、第2メイン軸72の左端部分に設けられている。第1クラッチ74と第2クラッチ75とは同様の構成を有している。以下では、第1クラッチ74の詳細について説明し、第2クラッチ75の説明は省略する。
【0028】
図10は、第1クラッチ74から、後述するクラッチスプリング21およびプレッシャプレート22を取り外した状態を右方から見た図である。図11は、図10のD−F−G線断面図である。図11中の符号mは、第1クラッチ74の中心線を表している。
【0029】
図11に示すように、第1クラッチ74は、ドリブンギア40、クラッチハウジング23、複数のフリクションプレート24、複数のクラッチプレート25、クラッチボス26、プレッシャプレート22、およびクラッチスプリング21を有している。
【0030】
第1メイン軸71の周囲にはカラー40aが嵌め込まれている。ドリブンギア40は、ニードルベアリング40bを介してカラー40aに支持されている。ドリブンギア40は、第1メイン軸71に対して回転可能である。ドリブンギア40はクランク軸60と噛み合っており(図2参照)、クランク軸60と共に回転する。クラッチハウジング23はドリブンギア40と共に回転するように構成されている。そのため、クラッチハウジング23はクランク軸60と共に回転する。
【0031】
フリクションプレート24は環状に形成されている。フリクションプレート24の外周部とクラッチハウジング23の内周部とには、それぞれスプラインが形成されている。両スプラインが噛み合うことにより、フリクションプレート24はクラッチハウジング23に支持されている。フリクションプレート24はクラッチハウジング23に対して左方および右方に移動可能であるが、クラッチハウジング23と一体となって回転する。
【0032】
クラッチボス26は、プレート27と、プレート27に組み立てられたセンターハブ28とを備えている。プレート27はボス部27bを有し、ボス部27bには第1メイン軸71が貫通している。プレート27は第1メイン軸71に固定されている。プレート27は第1メイン軸71と共に回転する。センターハブ28はプレート27の右方に配置され、ボス部27bに組み立てられている。
【0033】
クラッチプレート25は環状に形成されている。センターハブ28は、ボス部28aと、ボス部28aの外周部に設けられた円筒部28bとを有している。クラッチプレート25の内周部とセンターハブ28の円筒部28bの外周部とには、それぞれスプラインが形成されている。両スプラインが噛み合うことにより、クラッチプレート25はセンターハブ28に支持されている。クラッチプレート25はセンターハブ28に対して左方および右方に移動可能であるが、センターハブ28と一体となって回転する。各クラッチプレート25は、隣り合うフリクションプレート24の間に配置されている。フリクションプレート24とクラッチプレート25とは、左方に向かって交互に配置されている。
【0034】
センターハブ28は、プレート27に対して左方および右方に移動可能なように組み立てられている。第1メイン軸71の右端部には、リーフスプリング29を介してナット30が取り付けられている。センターハブ28は、リーフスプリング29によって左方に付勢されている。すなわち、センターハブ28はプレート27側に付勢されている。
【0035】
センターハブ28のボス部28aには、周方向に沿って開口した長穴31(図10参照)と、左方に突出する凸状の第1カム32とが設けられている。長穴31には、プレート27から右方に延びるスタッド33が貫通している。プレート27には、左方に窪んだ凹状の第2カム34が形成されている。第1カム32は第2カム34と係脱自在に係合する。第1カム32および第2カム34は、周方向に沿って所定間隔毎に複数配置されている。図10に示すように、長穴31も周方向に沿って所定間隔毎に複数形成されている。
【0036】
プレッシャプレート22はクラッチスプリング21によって左方に付勢されている。プレッシャプレート22は、ベアリング70aを介してプルロッド70に支持されている。プルロッド70を右方に引っ張ると、プレッシャプレート22は右方に移動する。これにより、プレッシャプレート22がフリクションプレート24およびクラッチプレート25を互いに押し付ける力がなくなり、第1クラッチ74は遮断される。プルロッド70を左方に移動させると、プレッシャプレート22は左方に移動する。プレッシャプレート22はクラッチスプリング21の付勢力を受け、フリクションプレート24およびクラッチプレート25を互いに押し付ける。その結果、第1クラッチ74は接続される。
【0037】
プレッシャプレート22の左側部分にはスプライン35が形成され、センターハブ28の円筒部28bには、上記スプライン35と噛み合うスプライン36が形成されている。プレッシャプレート22は、センターハブ28に対して左方および右方に移動可能であるが、センターハブ28と一体となって回転する。
【0038】
クラッチスプリング21は、プレッシャプレート22を左方に向かって常時付勢している。そのため、プルロッド70を右方に引っ張る力がなくなると、プレッシャプレート22は左方に移動し、フリクションプレート24およびクラッチプレート25を互いに押し付ける。第1クラッチ74は、いわゆるノーマルクローズタイプのクラッチであり、外部から力を加えなければ接続状態となるタイプのクラッチである。例えば第1アクチュエータ77の通電を停止すると、第1クラッチ74は接続状態となる。なお、第2クラッチ75も同様にノーマルクローズタイプのクラッチである。
【0039】
<バックトルク制限装置>
第1クラッチ74は、クラッチハウジング23からクラッチボス26にトルクを伝達する。このトルクは、後輪12を駆動するトルクである。以下、このトルクを順方向のトルクと言う。一方、第1の伝達経路および第2の伝達経路の両方がトルクを伝達する状態になった場合に、第1クラッチ74には順方向と逆の方向のトルクが掛かる場合がある。逆方向のトルクは、クラッチボス26からクラッチハウジング23に伝達されるトルクである。第1クラッチ74は、逆方向のトルクを制限するバックトルク制限装置37を有する。なお、第2クラッチ75にも同様のバックトルク制限装置が設けられている。
【0040】
バックトルク制限装置37は、主として、プレート27、センターハブ28、およびリーフスプリング29によって構成されている。図12(a)はセンターハブ28のボス部28aを右方から見た図であり、図12(b)は図12(a)のR−R線部分断面図である。図12(a)および(b)に示すように、センターハブ28の第1カム32は、順方向の前側に位置する垂直面32aと、順方向の後側に位置する傾斜面32bとを有している。図13(a)はプレート27を右方から見た図であり、図13(b)は図13(a)のS−S線部分断面図である。図13(a)および(b)に示すように、プレート27の第2カム34は、順方向の前側に位置する垂直面34aと、順方向の後側に位置する傾斜面34bとを有する。
【0041】
図14(a)に示すように、第1クラッチ74に順方向のトルクが加えられると、センターハブ28のボス部28aからプレート27にトルクが伝達される。この場合、ボス部28aの第1カム32が駆動側、プレート27の第2カム34が従動側となる。第1カム32は第2カム34内に入り込んでおり、第1カム32の垂直面32aと第2カム34の垂直面34aとが接触し、第1カム32から第2カム34に力が伝達される。そのため、センターハブ28とプレート27とは一体となって回転する。
【0042】
図14(b)に示すように、第1クラッチ74に逆方向のトルクが加えられると、プレート27からセンターハブ28のボス部28aにトルクが伝達される。この場合、プレート27の第2カム34が駆動側、ボス部28aの第1カム32が従動側となる。第1カム32の傾斜面32bと第2カム34の傾斜面34bとが接触するので、第1カム32には両傾斜面32b,34bを介して逆方向の力が作用する。一方、ボス部28aはリーフスプリング29によってプレート27に向かう方向(図14(b)の下方)の力を受けているので、第1カム32は順方向の力も受けている。そのため、第1カム32に作用する逆方向の力が順方向の力よりも小さい場合には、第1カム32は第2カム34に対して相対移動しない。
【0043】
一方、第1カム32に作用する逆方向の力が順方向の力よりも大きい場合には、図14(c)に示すように、第1カム32は第2カム34の傾斜面34bに沿って逆方向に移動する。これにより、センターハブ28のボス部28aは、プレート27から離れる方向(図14(c)の上方)、言い換えると右方に移動する。その結果、センターハブ28の円筒部28bがプレッシャプレート22と接触し、円筒部28bがプレッシャプレート22を右方に押し出す(図11参照)。すると、プレッシャプレート22がフリクションプレート24およびクラッチプレート25を互いに押し付ける力は弱まり、あるいは消失する。それにより、クラッチプレート25からフリクションプレート24に伝わるトルクが減少または消失し、逆方向のトルクの伝達は制限される。なお、両傾斜面32b,34bの傾斜角度またはリーフスプリング29のばね定数等を調整することにより、逆トルクの上限値は適宜に設定することができる。
【0044】
<変速動作>
次に、2速から3速への変速を例に挙げ、変速動作について説明する。図15は変速動作のタイムチャートであり、図16、図17、図18、図19は、時間t1、t2、t3、t4における変速装置7の状態およびトルクの伝達を示す概念図である。
【0045】
以下の説明では、入力されたトルクの一部を伝達するクラッチの状態のことを「半クラッチ状態」と言う。フリクションプレート24がクラッチプレート25に対して滑りながらトルクを伝達する状態は、半クラッチ状態である。トルクを全く伝達しない状態は「遮断状態」、入力されたトルクの全部を伝達する状態は「接続状態」と称することとする。
【0046】
t0では、変速装置7は図5に示すような2速の状態にある。図5に示すように、奇数段の変速ギア機構51のギアポジションがニュートラルであり、偶数段の変速ギア機構52のギアポジションが2速である場合、変速装置7のギアポジションは2速となる。乗員がt0においてシフトアップボタンを押すと、変速動作が開始され、第1クラッチ74は遮断側に駆動される。t1において、第1クラッチ74は遮断状態となっており、変速ギア機構51のギアポジションはニュートラルから3速に切り換えられる(図16参照)。図16に示すように、t1では、変速ギア機構51のギアポジションは3速であり、変速ギア機構52のギアポジションは2速であり、変速ギア機構51および変速ギア機構52はいずれも係合状態となる。
【0047】
次に、第1クラッチ74が接続側に駆動されると共に、第2クラッチ75が遮断側に駆動される。t2において、第1クラッチ74および第2クラッチ75は、半クラッチ状態となる(図17参照)。
【0048】
その後、第1クラッチ74は接続側に更に駆動されると共に、第2クラッチ75は遮断側に更に駆動され、やがて遮断される。t3において、第1クラッチ74は半クラッチ状態であるが、第2クラッチ75は遮断状態となる(図18参照)。
【0049】
第2クラッチ75が遮断された後、t4において、変速ギア機構52のギアポジションは2速からニュートラルに切り換えられる(図19参照)。その後、第2クラッチ75は接続される。t5では、変速装置7は図6に示すような3速の状態となる。図6に示すように、奇数段の変速ギア機構51のギアポジションが3速であり、偶数段の変速ギア機構52のギアポジションがニュートラルの場合、変速装置7のギアポジションは3速となる。
【0050】
以上の動作は変速装置7の基本的な変速動作である。変速装置7の変速動作は上記動作に限られず、例えば図20に示すような変速動作も可能である。この変速動作では、奇数段の変速ギア機構51のギアポジションをニュートラルから3速にする前に、第2クラッチ75の遮断側への駆動を開始する(t10参照)。また、第1クラッチ74を接続側に駆動した後、エンジン回転速度が下がり始めると、第1クラッチ74はトルクを伝達する状態になったものと見なし、偶数段の変速ギア機構52のギアポジションを2速からニュートラルへ変更し、第2クラッチ75の接続側への駆動を開始する(t12参照)。このような変速動作を行うことにより、変速に要する時間を短縮することができる。
【0051】
なお、上記動作は2速から3速への変速動作であるが、他のギアポジションの変速動作も同様に行うことができる。
【0052】
上記変速動作によれば、第1クラッチ74を遮断し且つ奇数段の変速ギア機構51のギアポジションを3速にするまで、第2クラッチ75は接続状態を維持するように制御される(図20のt11参照)。奇数段の変速ギア機構51および偶数段の変速ギア機構52の両方が係合状態となるまで、第2クラッチ75は接続状態に維持される。第1クラッチ74を接続側に駆動すると共に第2クラッチ75を遮断側に駆動する際には、奇数段の変速ギア機構51および偶数段の変速ギア機構52は、いずれも係合状態に維持される。そのため、この状態でいずれか一方のクラッチに異常が生じたとしても、他方のクラッチを接続することによって、クランク軸60のトルクをドライブ軸73に伝達することができる。したがって、空走状態を防止することができる。
【0053】
また、上記変速動作によれば、第1クラッチ74がトルクを伝達する状態になってから、偶数段の変速ギア機構52のギアポジションをニュートラルに変更する(図20のt12参照)。第1クラッチ74が少なくとも半クラッチ状態になるまでは、奇数段の変速ギア機構51および偶数段の変速ギア機構52の両方を係合状態に維持する。そのため、この状態でいずれか一方のクラッチに異常が生じたとしても、他方のクラッチを接続することによってクランク軸60のトルクをドライブ軸73に伝達することができるので、空走状態を防止することができる。
【0054】
<異常検出装置>
図3に示すように、変速装置7は、第1アクチュエータ77の異常または第1伝達経路の異常を検出する第1異常検出装置91と、第2アクチュエータ78の異常または第2伝達経路の異常を検出する第2異常検出装置92とを有している。ここで、アクチュエータの異常とは、アクチュエータが正常に作動しないことを意味する。アクチュエータの異常には、アクチュエータ自体の異常の他、アクチュエータに信号を供給する電線の断線等も含まれる。伝達経路の異常とは、伝達経路が正常にトルクを伝達しないことを意味する。伝達経路の異常には、クラッチの異常、入力ギアの異常、出力ギアの異常等が含まれる。例えば、第1メイン軸71、第2メイン軸72、またはドライブ軸73の回転速度または伝達トルクがギアポジションに応じた所定の回転速度または伝達トルクでない場合、異常が発生したと見なすことができる。
【0055】
<フェールセーフ装置>
変速装置7は、フェールセーフ装置93を有している。ここではフェールセーフ装置93はECU10によって構成されているが、フェールセーフ装置93はECU10と別体であってもよい。フェールセーフ装置93は、第1異常検出装置91が異常を検出すると、第2伝達経路を経由してクランク軸60のトルクをドライブ軸73に伝達するように第2アクチュエータ78および第3アクチュエータ79を制御する。また、フェールセーフ装置93は、第2異常検出装置92が異常を検出すると、第1伝達経路を経由してクランク軸60のトルクをドライブ軸73に伝達するように第1アクチュエータ77および第3アクチュエータ79を制御する。
【0056】
図21に、フェールセーフ装置93が行う処理の流れを示す。フェールセーフ装置93は、ステップS1において、第1異常検出装置91または第2異常検出装置92により異常が検出されたか否かを判定する。異常が検出された場合はステップS2に進み、異常が検出されない場合は処理を終了する。ステップS2では、フェールセーフ装置93は異常部位の判定を行う。ステップS3では、フェールセーフ装置93はシフトフェーズの判定を行う。すなわち、フェールセーフ装置93は、変速動作中か否かを判定し、また、変速動作中の場合にはどの段階まで動作が進んでいるかを判定する。フェールセーフ装置93には、シフトフェーズに応じて予め定められた複数の異常対応処理が記憶されている。ステップS4では、フェールセーフ装置93は、シフトフェーズに応じて異常対応処理を選択する。フェールセーフ装置93は、変速動作中でない場合には、それ以降の変速動作を禁止するという処理を選択する。フェールセーフ装置93は、変速動作中の場合には、変速動作の段階に応じて予め定められたフェールセーフ動作を選択する。ステップS5では、フェールセーフ装置93は、ステップS4において選択された処理を実行する。すなわち、フェールセーフ装置93は、所定のフェールセーフ動作を実行する。
【0057】
<第1フェールセーフ動作例>
次に、フェールセーフ装置93の動作例を説明する。図22は、2速から3速への変速の際に、第2クラッチ75に異常が発生して第2クラッチ75が遮断された状態となった場合を示す図である。図22に示すように本例では、t11の時に、第2クラッチ75が本来は半クラッチ状態となるべきところ(図20参照)、遮断状態となっている。この場合、奇数段の変速ギア機構51のギアポジションは、まだニュートラルである。しかし、奇数段の変速ギア機構51のギアポジションをニュートラルから3速に変更することにより、第1伝達経路を経由してクランク軸60のトルクをドライブ軸73に伝達することができる。そこで、t10の時に第2異常検出装置92が第2クラッチ75の異常を検出すると、フェールセーフ装置93は第1クラッチ74を遮断し、奇数段の変速ギア機構51のギアポジションをニュートラルから3速にする。その後、フェールセーフ装置93は、第1クラッチ74を接続する。これにより、クランク軸60とドライブ軸73とは、第1伝達経路を介して連結される。ドライブ軸73の空転は防止され、空走状態は回避される。
【0058】
なお、ECU10は、フェールセーフ装置93が上記フェールセーフ動作を行う際に、このフェールセーフ動作に合うようにクランク軸60のトルクを変更してもよい。上記フェールセーフ動作では、第2クラッチ75に異常が生じた後、第1クラッチ74および第2クラッチ75の両方が遮断状態となることがある(例えばt11参照)。クランク軸60のトルクが大きい場合、言い換えるとクランク軸60の回転速度が大きい場合、エンジン6が吹き上がってしまうおそれがある。また、その後に第1クラッチ74を接続する際に、大きな接続ショックが発生してしまうおそれがある。そこでECU10は、第1クラッチ74および第2クラッチ75の両方が遮断状態となったときに、クランク軸60のトルクを低減させてもよい。また、ECU10は、第1クラッチ74を接続する際に、クランク軸60のトルクがその接続に応じた大きさのトルクとなるようにしてもよい。例えば、図23に示すように、ECU10は、エンジン6のスロットル弁96の開度、点火装置97の点火時期、または燃料噴射弁98の噴射量等を適宜変更することにより、クランク軸60のトルクを変更してもよい。この場合、スロットル弁96、点火装置97、燃料噴射弁98等はクランク軸60のトルクを変更するトルク変更装置として機能し、ECU10は上記トルク変更装置を制御するトルク制御装置として機能する。
【0059】
<第2フェールセーフ動作>
図24は、2速から3速への変速の際に、t13において第1クラッチ74に異常が発生し、第1クラッチ74が半クラッチ状態のまま動かなくなった場合を示す図である。この場合、偶数段の変速ギア機構52のギアポジションはニュートラルとなっているので、そのまま第2クラッチ75を接続しても、第2伝達経路を介してトルクを伝達することはできない。そこで、t13の時に第1異常検出装置91が第1クラッチ74の異常を検出すると、フェールセーフ装置93は、第2クラッチ75を遮断状態に維持しつつ、偶数段の変速ギア機構52のギアポジションをニュートラルから2速に戻す。その後、フェールセーフ装置93は、第2クラッチ75を接続する。これにより、クランク軸60とドライブ軸73とは、第2伝達経路を介して連結される。ドライブ軸73の空転は防止され、空走状態は回避される。
【0060】
本フェールセーフ動作においても、ECU10がスロットル弁96等を制御することにより、そのフェールセーフ動作に合うようにクランク軸60のトルクを変更するようにしてもよい。
【0061】
上記の例は、2速から3速へ変速する際のフェールセーフ動作の例であるが、他の偶数段のギアポジションから他の奇数段のギアポジションに変更する際にも、同様のフェールセーフ動作を実行することができる。上記の例のフェールセーフ動作は、シフトアップ時に限らず、シフトダウン時にも同様に行うことができる。また、偶数段のギアポジションから奇数段のギアポジションに変更する場合に限らず、奇数段のギアポジションから偶数段のギアポジションに変更する場合にも、同様のフェールセーフ動作を実行することができる。
【0062】
前述の動作例では、第1伝達経路に異常が生じた場合には、第1クラッチ74の状態を異常発生時の状態に維持し、第2伝達経路に異常が生じた場合には、第2クラッチ75の状態を異常発生時の状態に維持する。すなわち、異常が発生した方の伝達経路のクラッチは、接続側または遮断側に駆動しないようにしている。しかし、第1クラッチ74および第2クラッチ75はノーマルクローズタイプのクラッチであるので、第1アクチュエータ77、第2アクチュエータ78の通電を停止することにより、第1クラッチ74、第2クラッチ75をそれぞれ自動的に接続することができる。フェールセーフ装置93は、奇数段の変速ギア機構51および偶数段の変速ギア機構52の両方が係合状態にあるときには、第1伝達経路に異常が生じた場合に第1アクチュエータ77の通電を停止してもよく、第2伝達経路に異常が生じた場合に第2アクチュエータ78の通電を停止してもよい。この場合、第1クラッチ74および第2クラッチ75の両方が接続状態となり、第1伝達経路および第2伝達経路の少なくとも一方を介して、ドライブ軸にトルクを伝達することが可能となる。また、第1アクチュエータ77または第2アクチュエータ78に断線が生じた場合にも、第1クラッチ74および第2クラッチ75の両方が接続状態となり、第1伝達経路および第2伝達経路の少なくとも一方を介して、ドライブ軸にトルクを伝達することが可能となる。したがって、ドライブ軸73の空転は防止され、空走状態を回避することができる。
【0063】
なお、第1伝達経路および第2伝達経路の両方がトルクを伝達する状態になると、伝達トルクの小さい方の伝達経路のクラッチでは、逆方向のトルクが発生することになる。しかし、第1クラッチ74および第2クラッチ75には、バックトルク制限装置37が設けられている。そのため、逆方向のトルクは所定の上限値以下に抑えられる。したがって、両伝達経路がトルクを伝達する状態であっても、駆動ユニット20の正常な動作が妨げられることはない。
【0064】
以上のように、フェールセーフ装置93は、第1アクチュエータ77または第1伝達経路に異常が生じると、偶数段の変速ギア機構52を係合状態にすると共に、第2クラッチ75を接続状態にする。これにより、少なくとも第2伝達経路を介してクランク軸60のトルクをドライブ軸73に伝達することができる。また、フェールセーフ装置93は、第2アクチュエータ78または第2伝達経路に異常が生じると、奇数段の変速ギア機構51を係合状態にすると共に、第1クラッチ74を接続状態にする。これにより、少なくとも第1伝達経路を介してクランク軸60のトルクをドライブ軸73に伝達することができる。フェールセーフ装置93によれば、異常時には正常な方の伝達経路を用いて、ドライブ軸73にトルクが伝達される状態を維持することができる。したがって、自動二輪車100の空走状態を防止することができる。本実施形態の変速装置7によれば、異常時に第1アクチュエータ77および第2アクチュエータ78の通電を停止することによって第1クラッチ74および第2クラッチ75の両方を接続状態にする場合に比べて、異常の発生箇所および内容に応じたフェール動作が可能となる。
【0065】
前記第2フェールセーフ動作のように、フェールセーフ装置93は、第1異常検出装置91が異常を検出すると、第1クラッチ74の状態を異常検出時の第1クラッチ74の状態に維持することができる。すなわち、フェールセーフ装置93は、第1異常検出装置91が異常を検出すると、第1クラッチ74を直ちに停止させ、それ以上動作しないようにすることができる。また、前記第1フェールセーフ動作のように、フェールセーフ装置93は、第2異常検出装置92が異常を検出すると、第2クラッチ75の状態を異常検出時の第2クラッチ75の状態に維持することができる。すなわち、フェールセーフ装置93は、第2異常検出装置92が異常を検出すると、第2クラッチ75を停止させ、それ以上動作しないようにすることができる。これにより、異常が発生した方の伝達経路のクラッチはそのままの状態で保持されるので、当該クラッチを動作させた場合に生じ得る急激な挙動変化を回避することができる。例えば、異常が発生した方のクラッチを接続させた場合に生じ得る接続ショック等を回避することができる。
【0066】
ECU10は、奇数段のギアポジションから偶数段のギアポジションに変更する際には、まず、第2クラッチ75を遮断し、その後、偶数段の変速ギア機構52を非係合状態から係合状態とする。次に、ECU10は、クランク軸60のトルクの少なくとも一部が第2メイン軸72に伝達されるように第2クラッチ75を接続すると共に第1クラッチ74を遮断する。次に、ECU10は、奇数段の変速ギア機構51を係合状態から非係合状態とし、その後、第1クラッチ74を接続する。このような変速動作によれば、第2クラッチ75を接続すると共に第1クラッチ74を遮断する際に、奇数段の変速ギア機構51および偶数段の変速ギア機構52は、いずれも係合状態となる。そのため、このときに異常が発生した場合、異常が発生していない方の伝達経路のクラッチを接続するだけで、空走状態を防止することができる。
【0067】
偶数段のギアポジションから奇数段のギアポジションに変更する場合も同様である。すなわち、ECU10は、偶数段のギアポジションから奇数段のギアポジションに変更する際には、まず、第1クラッチ74を遮断し、その後、奇数段の変速ギア機構51を非係合状態から係合状態とする。次に、ECU10は、クランク軸60のトルクの少なくとも一部が第1メイン軸71に伝達されるように第1クラッチ74を接続すると共に第2クラッチ75を遮断する。次に、ECU10は、偶数段の変速ギア機構52を係合状態から非係合状態とし、その後、第2クラッチ75を接続する。これにより、第1クラッチ74を接続すると共に第2クラッチ75を遮断する際に、奇数段の変速ギア機構51および偶数段の変速ギア機構52は、いずれも係合状態となる。そのため、このときに異常が発生した場合、異常が発生していない方の伝達経路のクラッチを接続するだけで、空走状態を防止することができる。
【0068】
ECU10は、フェールセーフ装置93がフェールセーフ動作を行う際に、クランク軸60のトルクを適宜変更することができる。したがって、エンジン6の吹き上がりの防止、クラッチ74,75の円滑な接続等を実現することができる。
【符号の説明】
【0069】
10 ECU(制御装置、トルク制御装置)
51 奇数段の変速ギア機構
52 偶数段の変速ギア機構
60 クランク軸
71 第1メイン軸(第1入力軸)
72 第2メイン軸(第2入力軸)
73 ドライブ軸(出力軸)
74 第1クラッチ
75 第2クラッチ
77 第1アクチュエータ
78 第2アクチュエータ
79 第3アクチュエータ
81a,83a,85a 奇数段の変速ギア機構の入力ギア
81b,83b,85b 奇数段の変速ギア機構の出力ギア
82a,84a,86a 偶数段の変速ギア機構の入力ギア
82b,84b,86b 偶数段の変速ギア機構の出力ギア
91 第1異常検出装置
92 第2異常検出装置
93 フェールセーフ装置
100 自動二輪車(車両)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸のトルクがそれぞれ伝達される第1クラッチおよび第2クラッチと、
前記第1クラッチ、前記第2クラッチをそれぞれ断続する第1アクチュエータ、第2アクチュエータと、
前記第1クラッチ、前記第2クラッチを介して前記クランク軸のトルクがそれぞれ伝達される第1入力軸、第2入力軸と、
トルクを出力するための出力軸と、
前記第1入力軸に設けられた入力ギアと前記出力軸に設けられ且つ前記入力ギアと係合可能な出力ギアとを有する奇数段の変速ギア機構と、
前記第2入力軸に設けられた入力ギアと前記出力軸に設けられ且つ前記入力ギアと係合可能な出力ギアとを有する偶数段の変速ギア機構と、
前記奇数段および前記偶数段の変速ギア機構のギアポジションを変更する第3アクチュエータと、
前記第1アクチュエータの異常、または、前記クランク軸のトルクを前記第1クラッチ、前記第1入力軸、および前記奇数段の変速ギア機構を経由して前記出力軸に伝達する第1伝達経路の異常を検出する第1異常検出装置と、
前記第2アクチュエータの異常、または、前記クランク軸のトルクを前記第2クラッチ、前記第2入力軸、および前記偶数段の変速ギア機構を経由して前記出力軸に伝達する第2伝達経路の異常を検出する第2異常検出装置と、
前記第1異常検出装置が異常を検出すると、前記第2伝達経路を経由して前記クランク軸のトルクを前記出力軸に伝達するように前記第2アクチュエータおよび前記第3アクチュエータを制御し、前記第2異常検出装置が異常を検出すると、前記第1伝達経路を経由して前記クランク軸のトルクを前記出力軸に伝達するように前記第1アクチュエータおよび前記第3アクチュエータを制御するフェールセーフ装置と、
を備えた変速装置。
【請求項2】
前記フェールセーフ装置は、前記第1異常検出装置が異常を検出すると、前記第1クラッチの状態を異常検出時の前記第1クラッチの状態に維持し、前記第2異常検出装置が異常を検出すると、前記第2クラッチの状態を異常検出時の前記第2クラッチの状態に維持する、請求項1に記載の変速装置。
【請求項3】
前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータと前記第3アクチュエータとを制御する制御装置を更に備え、前記制御装置は、
奇数段のギアポジションから偶数段のギアポジションに変更する際に、前記第2クラッチを遮断し、前記偶数段の変速ギア機構を非係合状態から係合状態とし、前記クランク軸のトルクの少なくとも一部が前記第2入力軸に伝達されるように前記第2クラッチを接続すると共に前記第1クラッチを遮断し、前記奇数段の変速ギア機構を係合状態から非係合状態とし、前記第1クラッチを接続する、請求項2に記載の変速装置。
【請求項4】
前記フェールセーフ装置は、奇数段のギアポジションから偶数段のギアポジションに変更する際に、前記偶数段の変速ギア機構が非係合状態のときに前記第1伝達経路がトルクを伝達しないという異常が前記第1異常検出装置により検出されると、前記偶数段の変速ギア機構を非係合状態から係合状態とし、前記第2クラッチを接続する、請求項3に記載の変速装置。
【請求項5】
前記フェールセーフ装置は、奇数段のギアポジションから偶数段のギアポジションに変更する際に、前記偶数段の変速ギア機構が非係合状態から係合状態になり且つ前記奇数段の変速ギア機構が係合状態から非係合状態になった後に、前記第2クラッチが前記クランク軸のトルクの一部を前記第2入力軸に伝達する状態のまま動かなくなるという異常が前記第2異常検出装置により検出されると、前記奇数段の変速ギア機構を非係合状態から係合状態とし、前記第1クラッチを接続する、請求項3に記載の変速装置。
【請求項6】
前記第1伝達経路および前記第2伝達経路に配設され、前記クランク軸の回転方向とは逆方向のトルクが掛かる際に当該トルクの伝達を制限する逆トルク制限装置を更に備えた、請求項5に記載の変速装置。
【請求項7】
前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータと前記第3アクチュエータとを制御する制御装置を更に備え、前記制御装置は、
偶数段のギアポジションから奇数段のギアポジションに変更する際に、前記第1クラッチを遮断し、前記奇数段の変速ギア機構を非係合状態から係合状態とし、前記クランク軸のトルクの少なくとも一部が前記第1入力軸に伝達されるように前記第1クラッチを接続すると共に前記第2クラッチを遮断し、前記偶数段の変速ギア機構を係合状態から非係合状態とし、前記第2クラッチを接続する、請求項2に記載の変速装置。
【請求項8】
前記フェールセーフ装置は、偶数段のギアポジションから奇数段のギアポジションに変更する際に、前記奇数段の変速ギア機構が非係合状態のときに前記第2伝達経路がトルクを伝達しないという異常が前記第2異常検出装置により検出されると、前記奇数段の変速ギア機構を非係合状態から係合状態とし、前記第1クラッチを接続する、請求項7に記載の変速装置。
【請求項9】
前記フェールセーフ装置は、偶数段のギアポジションから奇数段のギアポジションに変更する際に、前記奇数段の変速ギア機構が非係合状態から係合状態になり且つ前記偶数段の変速ギア機構が係合状態から非係合状態になった後に、前記第1クラッチが前記クランク軸のトルクの一部を前記第1入力軸に伝達する状態のまま動かなくなるという異常が前記第1異常検出装置により検出されると、前記偶数段の変速ギア機構を非係合状態から係合状態とし、前記第2クラッチを接続する、請求項7に記載の変速装置。
【請求項10】
前記第1伝達経路および前記第2伝達経路に配設され、前記クランク軸の回転方向とは逆方向のトルクが掛かる際に当該トルクの伝達を制限する逆トルク制限装置を更に備えた、請求項9に記載の変速装置。
【請求項11】
前記クランク軸のトルクを変更するトルク変更装置と、
前記フェールセーフ装置が前記制御を行う際に、前記クランク軸のトルクが変更されるように前記トルク変更装置を制御するトルク制御装置と、
を更に備えた、請求項1に記載の変速装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一つに記載の変速装置を備えた車両。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一つに記載の変速装置を備えた自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−167758(P2012−167758A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29817(P2011−29817)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】