説明

外力検出が可能な防振装置

【課題】入力荷重の高精度な検出を、充分な耐久性および実用性をもって実現することが可能とされた、新規な構造の外力検出が可能な防振装置を提供すること。
【解決手段】誘電性の弾性材からなる誘電体層20の両面に対して導電性の弾性材からなる一対の電極膜22,22を設けた静電容量型センサ18が、第1の取付部材12と第2の取付部材14の間への外力作用に際しての本体ゴム弾性体16への引張力の作用方向に伸びる状態で配設されて、本体ゴム弾性体16に固着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のサスペンションブッシュ等に適用される防振装置に係り、特に入力された外力の検出を可能とされた防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結する防振装置が知られており、サスペンションブッシュやメンバマウント等に適用されている。この防振装置は、一般的に、第1の取付部材と第2の取付部材を本体ゴム弾性体で弾性連結した構造を有しており、例えば、第1の取付部材が車両ボデーに取り付けられると共に、第2の取付部材がサスペンションアームやサブフレームに取り付けられることによって、サスペンションアームやサブフレームを車両ボデーに防振連結するようになっている。
【0003】
ところで、昨今では、車両の走行状態をセンシングして、そのセンシング結果を車両の制御に利用することで、走行時の横滑り防止や加速時の適切なトルクコントロール、効率的なブレーキング等の実現に役立てる研究がなされており、防振装置に走行状態をセンシングするためのセンサを取り付けることも提案されている。例えば、特許第4347784号公報(特許文献1)には、インナ軸部材とアウタ筒部材の少なくとも一方に歪み検出手段を設ける構造が開示されている。また、特許第4415390号公報(特許文献2)には、複数のゴムセンサをリング状の固定部材を介して装着した筒形防振装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の構造では、他部材への取付部であるインナ軸部材とアウタ筒部材の何れかの歪みを検出するようになっており、それらインナ軸部材とアウタ筒部材が耐荷重性に優れた高剛性の部材とされていることから、微小な入力では充分な歪みが生じ難く、高精度な検出は難しかった。一方、特許文献2の構造では、防振装置側にセンサを取り付けるための特別な構造が必要となるおそれがあると共に、センサ側にも特別な固定部材が必要となって、部品点数の増加や構造の複雑化が問題となる場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4347784号公報
【特許文献2】特許第4415390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、入力荷重の高精度な検出を、充分な耐久性および実用性をもって実現することが可能とされた、新規な構造の外力検出が可能な防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1の態様は、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体で連結された外力検出が可能な防振装置において、誘電性の弾性材からなる誘電体層の両面に対して導電性の弾性材からなる一対の電極膜を設けた静電容量型センサを用いて、前記第1の取付部材と前記第2の取付部材の間への外力作用に際しての前記本体ゴム弾性体への引張力の作用方向に延びる状態で該静電容量型センサを配し、該静電容量型センサを該本体ゴム弾性体に固着したことを特徴とする。
【0008】
このような本態様に従う構造とされた防振装置では、静電容量型センサの誘電体層および電極膜が何れも弾性材で形成されていることによって、外力の作用時に本体ゴム弾性体の弾性変形に伴って静電容量型センサの誘電体層および電極膜が弾性的に伸縮変形する。その結果、伸縮変形に伴う誘電体層の厚さ変化及び電極膜の面積変化に応じて、静電容量型センサの静電容量の変化(ΔC)が惹起される。この静電容量の変化量は、本体ゴム弾性体の弾性変形量に対応することから、本体ゴム弾性体の弾性変形特性に基づいて、かかる静電容量の変化量から本体ゴム弾性体に作用する外力を求めることができる。
【0009】
特に、本発明では、静電容量型センサを構成する誘電体層と電極膜とが何れも弾性材で形成されており、且つ、静電容量型センサが本体ゴム弾性体に固着されていることから、静電容量型センサが本体ゴム弾性体と一体的に弾性変形することとなる。これにより、本体ゴム弾性体の弾性変形量が直接的に静電容量型センサの弾性変形量として現出され得ることから、外力の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0010】
また、静電容量型センサを本体ゴム弾性体に固着せしめたことにより、防振装置が大型化するのを防ぎつつ静電容量型センサを装着できると共に、静電容量型センサに対する本体ゴム弾性体による保護効果も期待できる。即ち、本体ゴム弾性体の表面に固着されている場合には、誘電体層や電極膜の局所的な変形が本体ゴム弾性体で防止されて、耐久性の向上が図られる等の効果が期待される。更に、静電容量型センサを本体ゴム弾性体の内部に埋設状態で固着したり、本体ゴム弾性体の表面に配した静電容量型センサを接着剤層等で被覆して固着すれば、静電容量型センサに対する他部材の当接等に起因する損傷も防止され得る。
【0011】
なお、検出したい外力に対して本体ゴム弾性体に惹起される弾性変形の主方向に延びるように静電容量型センサを配設することで、直接に検出可能である。また、検出したい外力の方向が複数あり、それらが同時に(相互干渉的に)入力される場合には、本体ゴム弾性体に惹起される複数の引張力の作用方向に延びるように複数のセンサを配設することで、外力と静電容量型センサの静電容量の変化との関係を連立方程式で表して、その連立方程式を解くことで各方向の外力を求めることができる。その際、複数の方向の外力を特定できるように(連立方程式の解が得られるように)センサの配置の位置及び方向と数を設定すれば良い。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された外力検出が可能な防振装置において、前記第1の取付部材としてのインナ軸部材に前記第2の取付部材としてのアウタ筒部材が外挿されており、それらインナ軸部材とアウタ筒部材の間に前記本体ゴム弾性体が配設されていると共に、それらインナ軸部材とアウタ筒部材の対向方向に伸びる状態で前記静電容量型センサが配設されているものである。
【0013】
筒形防振装置では、軸直角方向の入力や軸方向の入力、或いは軸傾斜方向(こじり方向)の入力や軸回り周方向(ねじり方向)の入力に際しても、本体ゴム弾性体にはインナ軸部材とアウタ筒部材の対向方向での引張力が作用する。それ故、第2の態様によれば、インナ軸部材とアウタ筒部材の対向方向に伸びるように配設した静電容量センサにより、軸直角方向の外力や軸方向の外力を検出することが可能となる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載された外力検出が可能な防振装置において、前記静電容量型センサが前記本体ゴム弾性体の軸方向端面に固着されているものである。
【0015】
第3の態様によれば、静電容量型センサを本体ゴム弾性体の表面に固着することで、センサの装着が容易になる。また、本体ゴム弾性体の変形量が表面では中間部分よりも大きくなることから、こじり方向の入力に対して高精度なセンシングが可能になる。
【0016】
なお、静電容量型センサの本体ゴム弾性体の表面への装着は、本体ゴム弾性体の成形キャビティの内面に貼着しておいて本体ゴム弾性体の加硫成形と同時に外周面に加硫接着したり、本体ゴム弾性体の加硫成形後に本体ゴム弾性体の表面に接着したり等で実現される。
【0017】
本発明の第4の態様は、第2又は第3の態様に記載された外力検出が可能な防振装置であって、前記本体ゴム弾性体の軸方向両側の端面において、前記インナ軸部材を径方向に挟んで配置された一対の前記静電容量型センサと、該インナ軸部材を他の径方向で挟んで配置された他の一対の該静電容量型センサとが、配設されているものである。
【0018】
第4の態様によれば、筒形防振装置において、少ないセンサ数で効率的に外力を検知することができる。なお、好適には、一対のセンサと他の一対のセンサとの各対向する径方向線が直交する態様が採用され、それによって検出精度の向上が図られる。
【0019】
本発明の第5の態様は、第2〜第4の何れか1つの態様に記載された外力検出が可能な防振装置において、前記本体ゴム弾性体における軸方向で所定距離を隔てた位置に、それぞれ、こじり方向の外力の入力に伴う引張変形側と圧縮変形側とで対となるように前記静電容量型センサが配設されているものである。
【0020】
第5の態様によれば、筒型防振装置において、検出すべき外力がこじり方向の場合に対応(検出)できる。なお、検出すべきこじり方向で対向位置するように、対となる静電容量型センサを配することが望ましく、検出精度の向上が図られる。また、対となる静電容量型センサを軸方向で出来るだけ大きく離隔させて配することが、検出精度の向上に好適である。
【0021】
本発明の第6の態様は、第2〜第5の何れか1つの態様に記載された外力検出が可能な防振装置であって、前記本体ゴム弾性体において、前記インナ軸部材の中心軸をとおる径方向線に対して周方向一方の側に偏倚させた位置と周方向他方の側に偏倚させた位置とで対となるように前記静電容量型センサが配設されているものである。
【0022】
第6の態様によれば、筒型防振装置において、検出すべき外力がねじり方向の場合に対応(検出)できる。即ち、入力されるねじり方向(周方向の向き)に応じて、対を為す静電容量型センサの静電容量の変化量に差が生じることから、ねじり入力の向きを特定することが可能となる。
【0023】
また、静電容量型センサの配置を工夫するだけで実現されることから、構造の複雑化や大型化、部品点数の増加等も回避される。
【0024】
本発明の第7の態様は、第2〜第5の何れか1つの態様に記載された外力検出が可能な防振装置において、前記静電容量型センサが、前記インナ軸部材の中心軸に直交する平面に対して該インナ軸部材の中心軸回りの周方向における傾斜角を有しているものである。
【0025】
第7の態様によれば、静電容量型センサ(電極膜)の軸方向の投影面積が増大することに伴う検出精度の低下を抑えつつ、静電容量型センサ(電極膜)の面積を大きくすることができることから、検出精度の向上が図られる。
【0026】
本発明の第8の態様は、第1〜第7の何れか1つの態様に記載された外力検出が可能な防振装置において、前記本体ゴム弾性体の表面に対して前記静電容量型センサが固着されていると共に、該静電容量型センサを被覆する保護層が絶縁性の弾性材で形成されているものである。
【0027】
第8の態様によれば、本体ゴム弾性体の表面にセンサを密着状態で配設することで、本体ゴム弾性体の特性に悪影響を及ぼすことなく容易にセンサを装着することが可能になる。なお、保護層は、絶縁性のゴム弾性体や樹脂エラストマでも良く、好適には、静電容量型センサの周囲において本体ゴム弾性体と固着されたり一体化される。これにより、保護層を利用してセンサの本体ゴム弾性体への固着力の向上も図られ得る。
【0028】
本発明の第9の態様は、第1〜第8の何れか1つの態様に記載された外力検出が可能な防振装置において、前記一対の電極膜がゴム系導電インクによって形成されているものである。
【0029】
第9の態様によれば、本体ゴム弾性体の大変形に追従し得る弾性的な電極膜を簡単に実現することが可能である。しかも、薄肉の電極膜を容易に形成することができて、小型且つ軽量の静電容量型センサが実現される。
【0030】
本発明の第10の態様は、第1〜第9の何れか1つの態様に記載された外力検出が可能な防振装置において、前記誘電体層と前記一対の電極膜が何れも10%以上の伸縮変形を許容される弾性材によって形成されているものである。
【0031】
第10の態様によれば、誘電体層と一対の電極膜が、何れも、外力の非作用時に対して10%以上という充分に大きな伸縮性を有していることから、本体ゴム弾性体の大変形に追従し得る伸縮性に優れた静電容量型センサが実現される。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、本体ゴム弾性体の弾性変形特性に基づいて、静電容量の変化量(ΔC)から本体ゴム弾性体に作用する外力を求めることができる。しかも、静電容量型センサを構成する誘電体層と電極膜とが何れも弾性材で形成されて、本体ゴム弾性体に固着されていることから、防振装置の大型化が回避されると共に、静電容量型センサの耐久性が確保される。加えて、本体ゴム弾性体の弾性変形量が直接的に静電容量型センサの弾性変形量とされることから、高精度なセンシングも実現される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態としてのサスペンションブッシュを示す正面図。
【図2】図1に示されたサスペンションブッシュの背面図。
【図3】図1のIII−III断面図。
【図4】図1のIV−IV断面図。
【図5】図1に示されたサスペンションブッシュを構成する静電容量型センサの正面図。
【図6】図5に示された静電容量型センサの背面図。
【図7】図5のVII−VII断面図。
【図8】図1に示されたサスペンションブッシュにおける静電容量の変化を示すグラフであって、(a)がサスペンションブッシュに加振試験を行って得られた実測値を、(b)がシミュレーションによる算出値を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0035】
図1〜図4には、本発明に従う構造の外力検出が可能な防振装置の1実施形態として、自動車用のサスペンションブッシュ10が示されている。サスペンションブッシュ10は、第1の取付部材としてのインナ軸部材12と、第2の取付部材としてのアウタ筒部材14が、本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。そして、インナ軸部材12が図示しない車両ボデーにボルト固定されると共に、アウタ筒部材14が同じく図示しないサスペンションアームのアームアイに圧入固定されることにより、サスペンションアームを車両ボデーに対して防振連結するようになっている。
【0036】
より詳細には、インナ軸部材12は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材であって、厚肉小径で直線的に延びる略円筒形状を有している。一方、アウタ筒部材14は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、インナ軸部材12と同様の材料で形成された高剛性の部材とされている。
【0037】
そして、インナ軸部材12とアウタ筒部材14は、径方向に所定の距離を隔てた内外挿状態で配設されており、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14の間に本体ゴム弾性体16が介装されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円筒形状を有しており、内周面がインナ軸部材12の外周面に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材14の内周面に加硫接着されている。
【0038】
また、本体ゴム弾性体16の軸方向端面には、静電容量型センサ18が取り付けられている。静電容量型センサ18は、図5〜図7に示されているように、誘電体層20の両面に電極膜22a,22bが固着された構造を有している。なお、サスペンションブッシュ10の静電容量型センサ18としては、特開2010−43880号公報に記載されたものが、好適に採用される。
【0039】
すなわち、誘電体層20は、ゴムや熱可塑性エラストマといった誘電性の弾性材によって形成されており、略矩形膜状の電極固着部24と、電極固着部24から延び出す電線支持部26とを一体的に備えた帯状とされている。なお、誘電体層20の形成材料は、誘電性の弾性材であれば特に限定されるものではないが、静電容量型センサ18のキャパシタンスを大きくするために、比誘電率が高いものが望ましく、例えば、常温での比誘電率が3以上、より好適には5以上のものが採用される。
【0040】
誘電体層20の形成材料としては、例えば、エステル基,カルボキシル基,水酸基,ハロゲン基,アミド基,スルホン基,ウレタン基,ニトリル基等の極性官能基を有するエラストマや、これらの極性官能基を有する極性低分子量化合物を添加したエラストマが好適に採用される。更に、エラストマのヤング率を小さく設定することで、微小な外力を検出し得る静電容量型センサ18を実現する等、求められる検出感度や検出レンジに応じて、エラストマのヤング率は適当に設定される。
【0041】
より具体的には、誘電体層20の形成材料として、例えば、シリコーンゴム,アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム,アクリルゴム,エピクロロヒドリンゴム,クロロスルホン化ポリエチレン,塩素化ポリエチレン,ウレタンゴム等が好適に採用される。本実施形態の誘電体層20は、ウレタンゴムによって形成されている。
【0042】
さらに、誘電体層20の厚さは、特に限定されるものではないが、静電容量型センサ18の小型化と検出感度の向上を実現するために薄肉であることが望ましく、好適には1μm以上且つ5000μm以下、より好適には20μm以上且つ500μm以下とされる。なお、誘電体層20が薄過ぎると、製造が困難になると共に、リーク電流が大きくなって検出精度が低下することから、誘電体層20の厚さが上記の範囲に設定されることが望ましい。
【0043】
また、膜状とされた誘電体層20の電極固着部24には、一対の電極膜22,22が重ね合わされている。電極膜22は、導電性フィラーを充填されたエラストマ等の導電性を有する弾性材によって形成されており、平面視で長方形を呈する薄膜とされている。更に、電極膜22は、誘電体層20と同一のエラストマによって形成されていることが望ましく、これによって誘電体層20の変形に対する追従性が向上すると共に、誘電体層20に対する密着性の向上によって、繰返し変形しても誘電体層20からの剥離が回避されて信頼性の向上が図られ得る。
【0044】
この電極膜22は、製造の容易さ,誘電体層20の変形に対する追従性および静電容量型センサ18全体の小型化等を考慮して、1μm以上且つ100μm以下の厚さで形成されることが望ましい。更に、誘電体層20の変形に対する優れた追従性を実現するために、好適には、電極膜22のヤング率が0.1MPa以上且つ200MPa以下とされている。加えて、電極膜22は、弾性変形時に10%以上の長さの変化を許容し得るだけの伸縮率を有することが望ましく、より好適には電極膜22の引張り試験(JIS K6251)における切断時伸びが30%以上とされることによって、充分な変形追従性が確保される。
【0045】
また、電極膜22の電気抵抗は、厚さ方向および面方向において、100kΩ以下であることが望ましく、より好適には10kΩ以下とされる。更に、電極膜22は、伸縮変形による導電性の変化が小さいことが望ましい。
【0046】
電極膜22を形成するエラストマ組成物としては、エラストマと導電性フィラーの混合物を調製した場合に、パーコレーションカーブにおける臨界体積分率(φc)が25vol%以下となるものを用いることが望ましい。これによれば、導電性フィラーの配合量が比較的に少ない場合にも、導電性の高い電極膜を得ることができる。
【0047】
また、電極膜22を形成するエラストマは特に限定されるものではないが、例えば、シリコーンゴム,エチレン−プロピレン共重合ゴム,天然ゴム,スチレン−ブタジエン共重合ゴム,アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム,アクリルゴム,エピクロロヒドリンゴム,クロロスルホン化ポリエチレン,塩素化ポリエチレン,ウレタンゴム等が好適に採用される。
【0048】
上記エラストマに混合される導電性フィラーとしては、導電性を有する粒子であれば良く、炭素材料や金属等の微粒子が、単体で或いは複数種類の微粒子を混合した混合物の状態で採用される。例えば、導電性フィラーとしては、比較的に安価で且つ導電パスの形成が容易であるといった理由から、炭素材料が好適に用いられ、特に粒子径が小さく凝集性に優れたケッチェンブラック等のカーボンブラックが、優れた導電性を実現するために好適に採用される。
【0049】
また、導電性フィラーの微粒子形状は、球状や錐状,柱状等の各種形状が任意に採用され得るものであって、特に限定されるものではない。尤も、少量で効率的に導電性を確保すると共に、電極膜22の変形による導電性の変化を抑えるために、導電性フィラーのアスペクト比(短辺の長さに対する長辺の長さの比)は大きいことが望ましく、好適にはアスペクト比が1以上に設定される。
【0050】
また、導電性フィラーの平均粒子径は、0.01μm以上且つ0.5μm以下であることが望ましく、より好適には、0.03μm以上且つ0.1μm以下とされる。蓋し、導電性フィラーの平均粒子径が小さすぎると、粒子の凝集性が高くなりすぎて、電極膜22を構成するエラストマ中に均一に分散させることが難しくなる。一方、導電性フィラーの平均粒子径が大きすぎると、粒子の凝集性が低くなりすぎて、導電ネットワークの形成が不十分になり易いからである。
【0051】
また、導電性フィラーのエラストマへの混合のし易さを考慮すると、電極膜22の体積に対する導電性フィラーの体積比は、30vol%以下であることが望ましく、電極膜22において優れた導電性と伸縮性を確保するためには、25vol%以下であることがより好適で、更に望ましくは15vol%以下とされる。なお、導電性フィラーは、電極膜22において電気抵抗が急激に低下して絶縁体−導電体転移が生じる体積比率(臨界体積分率)以上の割合で配合されている。
【0052】
なお、電極膜22は、上述の如きエラストマに導電性フィラーを混合して形成されるが、それらに加えて各種の添加剤が混合されていても良い。添加剤としては、例えば、架橋剤や加硫促進剤,加硫助剤,老化防止剤,可塑剤,軟化剤,着色剤等が挙げられる。
【0053】
そして、電極膜22は、誘電体層20の電極固着部24に対して厚さ方向の両面に固着されている。なお、電極膜22は、予め薄膜状に成形されて、誘電体層20の表面に固着されても良いが、本実施形態では、導電性フィラーを液状のゴム材料に混合したゴム系導電インクが、例えば、スクリーン印刷やインクジェット印刷,フレキソ印刷,グラビア印刷,パッド印刷,リソグラフィー等の方法で、誘電体層20の表面に対して印刷されることによって形成されている。
【0054】
また、電極膜22には、電線28が接続されている。電線28は、伸縮可能とされていることが望ましく、例えば、エラストマに導電性フィラーを分散させた導電体等が採用され得る。なお、電線28のエラストマおよび導電性フィラーとしては、電極膜22と同様のものを採用することが可能であるが、電極膜22とは異なる材料で形成されていても良い。本実施形態では、電線28が電極膜22と同じ材料で一体的に形成されており、それら電極膜22および電線28の表面が絶縁性のエラストマで形成された絶縁被膜30によって被覆されている。そして、電線28は、誘電体層20の電線支持部26の両面に電極膜22と同様の印刷や接着によって固着されており、一対の電線28,28が誘電体層20によって相互に絶縁されている。なお、図5,図6では、静電容量型センサ18の構造を容易に理解できるように、絶縁被膜30が透視された状態で図示されており、符号が省略されている。
【0055】
このような構造とされた静電容量型センサ18は、本体ゴム弾性体16の軸方向端面に重ね合わされていると共に、本体ゴム弾性体16の軸方向端面上に形成される保護層32によって本体ゴム弾性体16に固着されている。保護層32は、電気絶縁性を有する弾性材で形成されており、静電容量型センサ18の変形を阻害しないように、静電容量型センサ18の誘電体層20を形成するエラストマと同様の低弾性エラストマが好適に採用されることから、本実施形態ではウレタンゴムによって形成されている。この保護層32は、本体ゴム弾性体16の軸方向端面上に静電容量型センサ18が配設された状態で成形されることによって、静電容量型センサ18を本体ゴム弾性体16に固着せしめる接着剤とされていると共に、静電容量型センサ18の表面を覆って保護している。なお、保護層32は、静電容量型センサ18が本体ゴム弾性体16に対して接着剤で予め接着されている場合等には、静電容量型センサ18を本体ゴム弾性体16に固着する接着剤としての機能を有していなくても良い。この場合には、保護層32の形成材料として、静電容量型センサ18の表面を外部に対して絶縁すると共に、他部材の当接等に際して緩衝作用を発揮し得るものを、適宜に選択して採用することができる。
【0056】
また、本体ゴム弾性体16の軸方向一方の端面には、4つの静電容量型センサ18a,18b,18c,18dが周方向で相互に離隔して略等間隔に配設されていると共に、本体ゴム弾性体16の軸方向他方の端面には、4つの静電容量型センサ18e,18f,18g,18hが周方向で相互に離隔して配設されており、それぞれ径方向に延びている。これらの静電容量型センサ18a〜18hは、何れも、電極膜22の長辺方向がインナ軸部材12とアウタ筒部材14の対向方向(径方向)と略一致するように配設されており、径方向の入力に対する伸縮変形が周方向や軸方向の入力に対する伸縮変形に比して充分に大きくなる状態で配設されている。
【0057】
より詳細には、本体ゴム弾性体16の軸方向一方の端面上では、静電容量型センサ18a,18cが、軸直角方向でインナ軸部材12を挟んで対向配置されていると共に、静電容量型センサ18b,18dが、静電容量型センサ18a,18cの対向方向と直交する軸直角方向でインナ軸部材12を挟んで対向配置されている。このように静電容量型センサ18a〜18dが配置されることにより、静電容量型センサ18aと静電容量型センサ18cが径方向一方向(対向方向)において外力の作用に対する圧縮変形側と引張変形側で対になっていると共に、静電容量型センサ18bと静電容量型センサ18dが他の径方向一方向(対向方向)において外力の作用に対する圧縮変形側と引張変形側で対になっている。なお、図1に示されているように、静電容量型センサ18a,18b,18c,18dが順に周方向右回りに配設されている。
【0058】
さらに、本体ゴム弾性体16の軸方向他方の端面上では、静電容量型センサ18e,18gが、軸直角方向でインナ軸部材12を挟んで対向配置されていると共に、静電容量型センサ18f,18hが、静電容量型センサ18e,18gの対向方向と直交する軸直角方向でインナ軸部材12を挟んで対向配置されている。このように静電容量型センサ18e〜18hが配置されることにより、静電容量型センサ18eと静電容量型センサ18gが径方向一方向(対向方向)において外力の作用に対する圧縮変形側と引張変形側で対になっていると共に、静電容量型センサ18fと静電容量型センサ18hが他の径方向一方向(対向方向)において外力の作用に対する圧縮変形側と引張変形側で対になっている。なお、図2に示されているように、静電容量型センサ18e,18f,18g,18hが順に周方向右回りに配設されている。
【0059】
また、静電容量型センサ18aと静電容量型センサ18eが周上で対応する位置に配置されて略軸方向で対向しており、静電容量型センサ18aと静電容量型センサ18eがこじり方向の外力入力に伴う引張変形側と圧縮変形側とで対となるように配設されている。同様に、静電容量型センサ18bと静電容量型センサ18f,静電容量型センサ18cと静電容量型センサ18g,静電容量型センサ18dと静電容量型センサ18hも、それぞれ周上で対応する位置に配置されて略軸方向で互いに対向しており、それらがそれぞれこじり方向の外力入力に伴う引張変形側と圧縮変形側とで対となるように配設されている。
【0060】
さらに、静電容量型センサ18a,18b,18c,18dに対して、静電容量型センサ18e,18f,18g,18hは、周方向で僅かにずれた位置に配置されている。即ち、インナ軸部材12の中心軸をとおる径方向線(図2中の左右に延びる径方向線)に対して周方向一方の側(周方向で左回りに進んだ側)に偏倚して位置する静電容量型センサ18e,18gと、インナ軸部材12の中心軸をとおる径方向線(図2中の上下に延びる径方向線)に対して周方向他方の側(周方向で右回りに進んだ側)に偏倚して位置する静電容量型センサ18f,18hが、対となるように本体ゴム弾性体16の軸方向端面上に配設されている。換言すれば、図2に示されているように、静電容量型センサ18eと静電容量型センサ18fの周方向での離隔距離と、静電容量型センサ18gと静電容量型センサ18hの周方向での離隔距離が大きくされると共に、静電容量型センサ18eと静電容量型センサ18hの周方向での離隔距離と、静電容量型センサ18fと静電容量型センサ18gの周方向での離隔距離が小さくされるように、各静電容量型センサ18e〜18hが配設されている。
【0061】
また、静電容量型センサ18e,18f,18g,18hは、インナ軸部材12の中心軸に対して直交する方向に広がる仮想的な平面に対して、それぞれ所定の角度で周方向に傾斜している。換言すれば、静電容量型センサ18e,18f,18g,18hは、上述のインナ軸部材12の中心軸をとおる径方向線側の周方向端部が、他方の周方向端部に比して軸方向外側に突出している。この傾斜角度は、本体ゴム弾性体16の軸方向端面に突出形成された突部34の斜面に静電容量型センサ18e,18f,18g,18hが固着されることによって設定されている。突部34は、インナ軸部材12の中心軸をとおる径方向線を稜線とする山形状とされており、周上で4つの突部34が形成されている。そして、突部34の周方向何れかの斜面に対して静電容量型センサ18が固着されることによって、静電容量型センサ18e,18f,18g,18hが所定の傾斜角度で配設されている。なお、静電容量型センサ18e,18f,18g,18hの傾斜角度は、0度から90度までの範囲で任意に設定され、好適には5度以上45度以下、より好適には10度以上30度以下に設定される。
【0062】
本体ゴム弾性体16の軸方向端面上に上記の如き態様で配置された各静電容量型センサ18において、外周側に延び出した電線28が保護層32から露出して外部の図示しない処理装置に接続されている。これにより、外力の入力によって本体ゴム弾性体16が弾性変形させられると、静電容量型センサ18の静電容量の変化に基づいた出力信号が、電線28を通じて処理装置に入力されるようになっている。
【0063】
そして、処理装置では、静電容量型センサ18から送信された信号に基づいて、入力振動の大きさと方向が特定されるようになっている。より詳細には、[数1]に示された数式に基づく演算処理によって、入力された外力の大きさと方向が特定される。なお、[数1]において、ΔCは、各静電容量型センサ18a〜18hによって検出される静電容量の変化量であり、括弧内に何れのセンサであるかが示されている。更に、Fxはx軸方向(図1中、左右方向)に作用する外力(軸直角方向の外力)を、Fyはy軸方向(図1中、上下方向)に作用する外力(別の軸直角方向の外力)を、Fzはz軸方向(図1中、紙面直交方向)に作用する外力(軸方向の外力)を、それぞれ示していると共に、Mxはx軸回りのモーメント(こじり方向の回転力)を、Myはy軸回りのモーメント(別のこじり方向の回転力)を、Mzはz軸回りのモーメント(ねじり方向の回転力)を、それぞれ示している。x軸とy軸が図1に一点鎖線で示されていると共に、z軸が図3に一点鎖線で示されている。
【0064】
【数1】

【0065】
そこで、[数1]に示された数式の行列:Aを求めるために、[数2]に示された数式の行列:A’を予め算出する。この行列:A’は、[数3]に示されているように、8行6列の行列であって、i−j成分がaijとされている。なお、A’はAの逆行列である。即ち,A=A’-1
【0066】
【数2】

【0067】
【数3】

【0068】
[数2],[数3]によれば、静電容量型センサ18aの静電容量の変化量:ΔC(a) は、ΔC(a) =a11Fx+a12Fy+a13Fz+a14Mx+a15My+a16 Mzとなる。そこにおいて、x軸方向の入力(Fx)のみに限定すれば、ΔC(a) =a11Fxとなると共に、y軸方向の入力(Fy)のみに限定すれば、ΔC(a) =a12Fyとなる。
【0069】
ここで、静電容量型センサ18aは、図1に示されているように、x軸方向が長手となるように配設されており、入力が同じであれば、x軸方向での変形量がy軸方向での変形量よりも大きくなることから、x軸方向の入力に対する静電容量の変化量が、y軸方向の入力に対する静電容量の変化量よりも充分に大きくなる(a11>>a12)。本実施形態では、入力が同じ(Fx=Fy)であれば、y軸方向の入力に対する静電容量の変化量は、x軸方向の入力に対する静電容量の変化量に比して、無視できるほどに小さいことから、y軸方向の入力に対する静電容量の変化量が0に近似される(a12Fy≒0)。更に、前提としてFy≠0であることから、a12が実質的に0とされる。
【0070】
他の各静電容量型センサ18b〜18hについても同様の計算をすることによって、a21=0,a22=a11,a31=a11,a32=0,a41=0,a42=a11,a52 =0,a61=0,a62=a51,a71=a51,a72=0,a81=0,a82=a51を、それぞれ得る。そして、静電容量型センサ18a〜18hの配置を考慮して符号を調節することにより、a31=−a11,a42=−a11,a71=−a51,a82=−a51とされる。
【0071】
次に、z軸方向の入力のみに限定すれば、軸方向一方の端面に固着された静電容量型センサ18a〜18dの静電容量の変化量が互いに同じになることから、a13=a23=a33=a43となる。一方、軸方向他方の端面に固着された静電容量型センサ18e〜18hの静電容量の変化量が互いに同じになることから、a53=a63=a73=a83となる。なお、本実施形態では、静電容量型センサ18a〜18dに対して静電容量型センサ18e〜18hが傾斜していることから、a13≠a53とされている。これらによって、[数4]に示された行列:A’を得る。
【0072】
【数4】

【0073】
また、x軸回りのモーメント:Mxのみが入力されたと仮定した場合の静電容量型センサ18a〜18hの静電容量の変化量:ΔC(a) 〜ΔC(h) が[数5]のように得られる。一方、y軸回りのモーメント:Myのみが入力されたと仮定した場合の静電容量型センサ18a〜18hの静電容量の変化量:ΔC(a) 〜ΔC(h) が[数6]のように得られる。
【0074】
【数5】

【0075】
【数6】

【0076】
[数5]において、静電容量型センサ18a〜18dの配置と、モーメントの作用方向とを考慮すれば、静電容量型センサ18a,18cの静電容量の変化量は静電容量型センサ18b,18dの静電容量の変化量に比して充分に小さく、ΔC(a) およびΔC(C) を何れも略0とみなすことができる。加えて、前提としてMx≠0であることから、a14=a34≒0となる。一方、静電容量型センサ18eと静電容量型センサ18gは、x軸を外れて各一方の側に配設されていることから、Mxの作用時に静電容量の変化が検出される。更に、静電容量型センサ18a〜18hの配置を考慮すれば、ΔC(d) =−ΔC(b) ,ΔC(g) =−ΔC(e) ,ΔC(h) =−ΔC(f) であることから、a44=−a24,a74=−a54,a84=−a64となる。
【0077】
さらに、[数6]において、静電容量型センサ18a〜18dの配置と、モーメントの作用方向とを考慮すれば、静電容量型センサ18b,18dの静電容量の変化量は静電容量型センサ18a,18cの静電容量の変化量に比して充分に小さく、ΔC(b) およびΔC(d) を何れも略0とみなすことができる。加えて、前提としてMy≠0であることから、a25=a45≒0となる。一方、静電容量型センサ18fと静電容量型センサ18hは、y軸を外れて各一方の側に配設されていることから、Myの作用時に静電容量の変化が検出される。更に、静電容量型センサ18a〜18hの配置を考慮すれば、ΔC(C) =−ΔC(a) ,ΔC(g) =−ΔC(e) ,ΔC(h) =−ΔC(f) であることから、a35=−a15,a75=−a55,a85=−a65となる。
【0078】
更にまた、[数5]と[数6]において、外力の作用方向に対する静電容量型センサ18a〜18hの配置を考慮すると、Mx入力時のΔC(a) とMy入力時のΔC(b) はMxとMyの大きさが同じであれば等しくなることから、a24=a15となる。同様にして、a54=a65,a64=a55となる。そして、外力の作用方向に対する静電容量型センサ18a〜18hの変形態様を考慮して各項の符号を調節することにより、[数7]の行列を得る。
【0079】
【数7】

【0080】
また、z軸回りのモーメント:Mzのみが入力されたと仮定した場合における静電容量型センサ18a〜18hの静電容量の変化量:ΔC(a) 〜ΔC(h) は、[数8]のように得られる。[数8]において、静電容量型センサ18a〜18dが周方向で等間隔に配されていることに着目すれば、z軸回りのモーメント入力に対して、モーメントの方向に関わらず出力が同じになる(a16=a26=a36=a46)。一方、静電容量型センサ18e〜18hは、静電容量型センサ18eと静電容量型センサ18gが周方向の同じ側(一方側)に位置する突部34の斜面に固着されていると共に、静電容量型センサ18fと静電容量型センサ18hが周方向の同じ側(他方側)に位置する突部34の斜面に固着されている。このようなセンサの配置によって、z軸回りのモーメント入力に対する静電容量型センサ18e,18gの静電容量の変化量(a56Mz)と静電容量型センサ18f,18hの静電容量の変化量(a66Mz)が異なっており、a56とa66が互いに異なる数値とされている。かかる静電容量型センサ18e,18gの静電容量の変化量と静電容量型センサ18f,18hの静電容量の変化量との違いに基づいて、z軸回りのモーメントの方向が特定されるようになっている。
【0081】
【数8】

【0082】
なお、このような静電容量の変化量の違いは、以下の如き理由で生じるものと考えられる。即ち、周方向一方向のモーメント:Mzが入力される際、静電容量型センサ18e,18gと静電容量型センサ18f,18hの何れか一方では、x軸方向とy軸方向の何れにおいても伸長されることから、静電容量の変化量が大きくなる。一方、静電容量型センサ18e,18gと静電容量型センサ18f,18hの何れか他方では、x軸方向とy軸方向の何れか一方で伸長されると同時に、x軸方向とy軸方向の何れか他方では収縮されることから、静電容量の変化量が相殺されて小さくなる。本実施形態では、静電容量型センサ18e,18gの出力と静電容量型センサ18f.18hの出力を比較することにより、入力されたz軸回りのモーメント:Mzの方向が特定されると共に、静電容量の変化量が大きい何れか一方の出力からMzの大きさが算出されるようになっている。
【0083】
以上によって、行列:A’が[数9]のように求められて、A’に基づいて行列:Aが算出される。そして、[数1]の数式によって、各静電容量型センサ18a〜18hの検出値(静電容量の変化)に基づいて、入力された振動の6方向分力(Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mz)が求められるようになっている。なお、行列:A’において、a11,a13,a15,a16,a51,a53,a54,a55,a56,a66の具体的な数値は、サスペンションブッシュ10が装着される車両の特性に応じて決定されるものであって、加振試験等の結果に基づいて設定される。
【0084】
【数9】

【0085】
かかる演算式を用いて振動の分力が算出されることは、例えば、サスペンションブッシュ10にMxおよびMyを及ぼして、各静電容量型センサ18a〜18dの静電容量の変化量を実測し、かかる実測値に対して[数2]の演算式に基づいて静電容量の変化量をシミュレーションした結果を比較することでも確認される。即ち、サスペンションブッシュ10において、図8(a)に示されたMxおよびMyの合成入力に対する静電容量型センサ18a〜18dの静電容量の変化の実測値に対して、図8(b)に示されたシミュレーションによる理論値が近似している。従って、[数2]の行列:A’に基づいて行列:Aを算出すれば、[数1]の演算式に基づいて静電容量型センサ18a〜18hの静電容量の変化量から入力振動の6分力を算出することで、入力振動の大きさと入力方向を充分な精度で測定することが可能であると言える。なお、図8中では、静電容量型センサ18aの静電容量の変化が実線で、静電容量型センサ18bの静電容量の変化が破線で、静電容量型センサ18cの静電容量の変化が一点鎖線で、静電容量型センサ18dの静電容量の変化が二点鎖線で、それぞれ示されている。
【0086】
かくの如きセンシング機構を備えた本実施形態のサスペンションブッシュ10では、本体ゴム弾性体16に入力される外力が静電容量型センサ18によって検出されるようになっている。即ち、静電容量型センサ18は、外力の作用によって本体ゴム弾性体16が弾性変形すると、静電容量型センサ18が追従して弾性変形することから、静電容量型センサ18の静電容量が伸縮変形に伴う誘電体層20の厚さ変化および電極膜22の面積変化に基づいて変化する。この静電容量の変化量は、本体ゴム弾性体16の弾性変形量に対応することから、静電容量型センサ18の静電容量の変化に基づいて本体ゴム弾性体16に作用した外力を求めることができる。そして、サスペンションブッシュ10が装着される車両において、静電容量型センサ18の検出結果から求められた外力に応じてアクセルやブレーキが制御されることにより、横滑りの防止(走行安定性の向上)や効率的な加速および減速等が実現される。
【0087】
また、サスペンションブッシュ10の静電容量型センサ18は、誘電体層20と電極膜22が何れも弾性材で形成されており、本体ゴム弾性体16の弾性変形に追従し得る伸縮性を有している。それ故、大きく変形する本体ゴム弾性体16に固着されても、変形によって損傷することなく充分な耐久性が確保される。特に、静電容量型センサ18を構成する誘電体層20と電極膜22が、何れも長辺方向で初期状態に対して10%という大きな伸縮変形を許容される弾性材で形成されていることから、本体ゴム弾性体16の弾性変形に対して充分な追従性が発揮されて、破断等の不具合が回避される。
【0088】
さらに、電極膜22が導電性フィラーを散在させた導電性インクによって印刷形成されていることにより、弾性的な電極膜22が容易に形成され得る。
【0089】
また、静電容量型センサ18が本体ゴム弾性体16の軸方向端面に重ね合わされて固着されていることによって、静電容量型センサ18の折れ曲がり等の局所的な変形が本体ゴム弾性体16によって防止されて、耐久性の向上が図られる。しかも、静電容量型センサ18が本体ゴム弾性体16の軸方向端面に固着されていることによって、静電容量型センサ18の配設も容易である。
【0090】
また、本体ゴム弾性体16の軸方向端面に加硫接着された静電容量型センサ18が弾性材で形成された保護層32によって被覆されており、静電容量型センサ18の外部への露出が防止されている。それ故、他部材の当接等による静電容量型センサ18の損傷が回避されている。
【0091】
また、静電容量型センサ18は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の対向方向が長辺となるように配設されており、本体ゴム弾性体16に対してインナ軸部材12とアウタ筒部材14の対向方向で引張力が作用した際に、静電容量型センサ18の静電容量が変化するようになっている。これにより、軸直角方向に作用する外力(Fx,Fy)と、軸方向に作用する外力(Fz)と、こじり方向に作用する外力(Mx,My)と、ねじり方向に作用する外力(Mz)の何れが入力される場合であっても、本体ゴム弾性体16にインナ軸部材12とアウタ筒部材14の対向方向での引張力が作用する筒形のサスペンションブッシュ10において、少ない静電容量型センサ18の配設数で6方向の外力を有効に検出することができる。
【0092】
また、静電容量型センサ18aと静電容量型センサ18b、静電容量型センサ18cと静電容量型センサ18d、静電容量型センサ18eと静電容量型センサ18f、静電容量型センサ18gと静電容量型センサ18hが、それぞれインナ軸部材12を径方向に挟んで配置されており、少ないセンサ数で効率的に外力を検出することができる。更に、静電容量型センサ18a,18bと静電容量型センサ18c,18d、静電容量型センサ18e,18fと静電容量型センサ18g,18hは、それぞれ対向する径方向線が直交するように配置されていることによって、検出精度の向上も図られている。
【0093】
また、静電容量型センサ18aと静電容量型センサ18g、静電容量型センサ18bと静電容量型センサ18h、静電容量型センサ18cと静電容量型センサ18e、静電容量型センサ18dと静電容量型センサ18fは、それぞれこじり方向の外力の入力に伴う引張変形側と圧縮変形側とで対になるように配置されている。これにより、静電容量型センサ18の静電容量の変化によって、こじり方向の外力を検出することができる。しかも、静電容量型センサ18が本体ゴム弾性体16の軸方向端面に固着されていることから、静電容量型センサ18によるこじり方向の外力の検出が高い精度で実現される。
【0094】
また、静電容量型センサ18e,18gがインナ軸部材12の中心軸をとおる径方向線(図2中、左右方向に延びる径方向線)に対して周方向一方の側に変位させた位置に配設されていると共に、静電容量型センサ18f,18hがインナ軸部材12の中心軸をとおる径方向線(図2中、上下方向に延びる径方向線)に対して周方向他方の側に変位させた位置に配設されている。これにより、周方向の外力の入力時に、入力された外力が右回りか左回りかによって、静電容量型センサ18e,18gと静電容量型センサ18f,18hの間で静電容量の変化量に差が生じることから、周方向の外力を検出することが可能になる。
【0095】
また、静電容量型センサ18e〜18hは、軸方向に直交する平面に対して周方向における傾斜角を有している。それ故、静電容量型センサ18e〜18hにおいて、電極膜22の面積を充分に大きく確保して検出精度の向上を図りつつ、電極膜22の軸方向での投影面積の増大に伴う検出精度の低下が抑えられている。即ち、静電容量型センサ18は、軸方向での投影面積が増大して、長辺(径方向)と短辺(周方向)の長さの差が小さくなるに従って、演算式による算出結果の精度が低下し、外力の検出精度が低下する。そこにおいて、周方向に傾斜するように配設されていることによって、電極膜22の面積を低減することなく検出感度の異方性が実現されており、検出精度の向上が図られている。
【0096】
また、静電容量型センサ18が本体ゴム弾性体16に対して直接的に重ね合わされて固着されていることにより、本体ゴム弾性体16の弾性変形量がリニアに静電容量型センサ18の弾性変形量として現出され得て、外力の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0097】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、8つの静電容量型センサ18a〜18hによって、2つの軸直角方向と、軸方向と、2つのこじり方向と、ねじり方向の6つの方向で外力が検出されるようになっていたが、必要に応じて検出可能な外力の数を変化させることも可能であり、その場合には、外力を特定できるように静電容量型センサの数や配置の位置および方向を変更すれば良い。
【0098】
また、前記実施形態では、静電容量型センサ18が本体ゴム弾性体16の軸方向端面に固着されていたが、静電容量型センサ18は、本体ゴム弾性体16の軸方向中間部分に埋設されていても良い。これによれば、特別な保護層32を設けることなく、静電容量型センサ18の表面が絶縁体で被覆されると共に、外部への露出も防止されることから耐久性の向上が図られる。
【0099】
さらに、保護層32が省略されて、静電容量型センサ18が外部に露出した態様で本体ゴム弾性体16の軸方向端面に固着されていても良い。この場合にも、本体ゴム弾性体16によって静電容量型センサ18の折れ曲がり等の局所的な変形が抑えられることから、静電容量型センサ18の耐久性が確保される。
【0100】
また、前記実施形態では、本発明をサスペンションブッシュに適用した例が示されているが、本発明は、エンジンマウントやボデーマウント,サブフレームマウント等にも適用可能である。更に、本発明は、円筒形の防振装置にのみ適用されるものではなく、例えば、略円錐台形状の本体ゴム弾性体の小径側端部に第1の取付部材が固着されていると共に、大径側端部に第2の取付部材が固着された構造を有するお椀形の防振装置も適用可能である。また、本発明の適用範囲は、自動車用の防振装置に限定されるものではなく、自動二輪車や鉄道用車両,産業用車両等に用いられる防振装置にも好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0101】
10:サスペンションブッシュ(外力検出が可能な防振装置)、12:インナ軸部材(第1の取付部材)、14:アウタ筒部材(第2の取付部材)、16:本体ゴム弾性体、18:静電容量型センサ、20:誘電体層、22:電極膜、32:保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体で連結された防振装置において、
誘電性の弾性材からなる誘電体層の両面に対して導電性の弾性材からなる一対の電極膜を設けた静電容量型センサを用いて、前記第1の取付部材と前記第2の取付部材の間への外力作用に際しての前記本体ゴム弾性体への引張力の作用方向に伸びる状態で該静電容量型センサを配し、該静電容量型センサを該本体ゴム弾性体に固着したことを特徴とする外力検出が可能な防振装置。
【請求項2】
前記第1の取付部材としてのインナ軸部材に前記第2の取付部材としてのアウタ筒部材が外挿されており、それらインナ軸部材とアウタ筒部材の間に前記本体ゴム弾性体が配設されていると共に、それらインナ軸部材とアウタ筒部材の対向方向に伸びる状態で前記静電容量型センサが配設されている請求項1に記載の外力検出が可能な防振装置。
【請求項3】
前記静電容量型センサが前記本体ゴム弾性体の軸方向端面に固着されている請求項2に記載の外力検出が可能な防振装置。
【請求項4】
前記本体ゴム弾性体の軸方向両側の端面において、前記インナ軸部材を径方向に挟んで配置された一対の前記静電容量型センサと、該インナ軸部材を他の径方向で挟んで配置された他の一対の該静電容量型センサとが、配設されている請求項2又は3に記載の外力検出が可能な防振装置。
【請求項5】
前記本体ゴム弾性体における軸方向で所定距離を隔てた位置に、それぞれ、こじり方向の外力の入力に伴う引張変形側と圧縮変形側とで対となるように前記静電容量型センサが配設されている請求項2〜4の何れか1項に記載の外力検出が可能な防振装置。
【請求項6】
前記本体ゴム弾性体において、前記インナ軸部材の中心軸をとおる径方向線に対して周方向一方の側に偏倚させた位置と周方向他方の側に偏倚させた位置とで対となるように前記静電容量型センサが配設されている請求項2〜5の何れか1項に記載の外力検出が可能な防振装置。
【請求項7】
前記静電容量型センサが、前記インナ軸部材の中心軸に直交する平面に対して該インナ軸部材の中心軸回りの周方向における傾斜角を有している請求項2〜5の何れか1項に記載の外力検出が可能な防振装置。
【請求項8】
前記本体ゴム弾性体の表面に対して前記静電容量型センサが固着されていると共に、該静電容量型センサを被覆する保護層が絶縁性の弾性材で形成されている請求項1〜7の何れか1項に記載の外力検出が可能な防振装置。
【請求項9】
前記一対の電極膜がゴム系導電インクによって形成されている請求項1〜8の何れか1項に記載の外力検出が可能な防振装置。
【請求項10】
前記誘電体層と一対の電極膜が何れも10%以上の伸縮変形を許容される弾性材によって形成されている請求項1〜9の何れか1項に記載の外力検出が可能な防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−159109(P2012−159109A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17619(P2011−17619)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】