説明

導電性成形体及びその製造方法

【課題】極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物を通常の成形方法、成形条件で成形しても、良好な表面抵抗率を有する導電性成形体と製造方法を提供する。
【解決手段】成形体に形成された極細導電繊維含有導電層1は、成形体が加熱され、極細導電繊維2を表面に露出させたり、表面から突出させたり、表面から100nm未満の内部に含有させたりして形成される。この加熱は、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度の温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲にするか、粘度が5.0×103Pa・s以上1.0×107Pa・s未満の範囲となる温度範囲で加熱することでなされる。成形体は射出成形、押出し成形、プレス成形、転写成形、ラミネート成形などの公知の方法で得られたものが全て使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体にカーボンナノチューブなどの極細導電繊維を含有する導電層を形成した導電性成形体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ICチップ、ハードディスクなどの電子部品やシリコンウェハや半導体などを搬送するトレー、ICソケット、コネクタ、ウェハピンセットなどは、静電気を帯びると電気破壊を起こすことが問題となっている。この静電気による電気破壊を防止するために、カーボンブラックやケッチェンブラックやアセチレンブラックなどを添加した樹脂組成物を用いた制電性成形体を用いている。
また、最近はカーボンナノチューブを用いて制電性ないし導電性を付与した成形体も開発されていて、カーボンナノチューブと熱可塑性樹脂との混合組成物を射出成形して101〜109Ω/□の表面抵抗値を有する導電性材料も知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−100147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記カーボンブラックなどを含有する成形体は、導電性を得るためにはカーボンブラックなどを多量に含有させる必要があるし、その分散性が悪くて均一な導電機能を発揮させることができなかった。また、カーボンブラックなどが脱落する恐れがあり、この脱落したカーボンブラックなどが付着して電子部品などが損傷するという問題もあった。
一方、上記特許文献1の導電性材料は、その成形前の混合組成物を通常の加熱温度よりも20〜100℃高く加熱して低速度で射出することで導電性を得ることは可能であるが、導電性を充分に発揮させることができず、また過熱により樹脂が劣化・分解するという問題があった。
【0004】
本発明は上記の問題に対処するためになされたもので、その目的とするところは、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて、充分導電性を発揮させた導電性成形体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る第1の導電性成形体は、成形体の表面に少なくとも極細導電繊維を含有する導電層が形成されてなる成形体であって、該導電層が、加熱されて該表面に極細導電繊維を露出させるか、又は該表面から突出させ、表面抵抗率を低下させて形成されたことを特徴とするものである。
【0006】
本発明の第2の導電性成形体は、成形体の表面に少なくとも極細導電繊維を含有する導電層が形成されてなる成形体であって、該導電層が、加熱されて該表面から100nm未満の内部に極細導電繊維を含有させ、表面抵抗率を低下させて形成されたことを特徴とするものである。
【0007】
上記の各導電性成形体において、成形体が、極細導電繊維を含有しない基材層と、極細導電繊維を含有する導電層とからなることが好ましい。更に、導電層が、加熱前は1012Ω/□以上の表面抵抗率を有し、加熱後は1012Ω/□未満の表面抵抗率を有することが好ましい。また、極細導電繊維がカーボンナノチューブであって、該カーボンナノチューブが導電層に0.01〜12.0質量%含有され、成形体の表面抵抗率が101Ω/□以上1012Ω/□未満であることも好ましい。
【0008】
本発明に係る第1の導電性成形体の製造方法は、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物を溶融成形して溶融成形体を作製し、該溶融成形体の少なくとも表面を加熱し、極細導電繊維を溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の第2の導電性成形体の製造方法は、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物を溶融成形して溶融成形体を作製し、該溶融成形体を切削などの二次加工を施して二次加工成形体となし、該二次加工成形体の少なくとも表面を加熱し、極細導電繊維を二次加工成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とするものである。
【0010】
これらの製造方法において、溶融成形が、押出成形、射出成形、プレス成形のいずれかにより行なわれることが好ましい。
【0011】
本発明の第3の導電性成形体の製造方法は、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物と熱可塑性樹脂とを共押出し成形して、熱可塑性樹脂よりなる基材層の片面又は両面又は全表面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物よりなる表面層を積層した溶融成形体を作製し、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱し、極細導電繊維を溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第4の導電性成形体の製造方法は、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物を射出成形金型内に射出した後に、さらに合成樹脂を前記金型内に射出し、合成樹脂よりなる基材層の表面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂よりなる表面層を積層した溶融成形体又は前記基材層の周りを前記表面層で覆った溶融成形体を作製し、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱し、極細導電繊維を溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第5の導電性成形体の製造方法は、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物よりなる表面シートを作製すると共に熱可塑性合成樹脂組成物よりなる基材シートを作製し、該基材シートの片面若しくは両面に表面シートを重ねた後に熱圧して、熱可塑性合成樹脂組成物よりなる基材層の表面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物よりなる表面層を積層した溶融成形体を作製し、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱し、極細導電繊維を該溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第6の導電性成形体の製造方法は、極細導電繊維を含有する表面層が形成された転写フィルムを予め作製し、当該転写フィルムを射出成形金型内に配置し、その金型内に合成樹脂を射出して、合成樹脂よりなる基材層の表面に極細導電繊維含有表面層を転写した溶融成形体を作製した後に、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱して、極細導電繊維を該溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の第7の導電性成形体の製造方法は、極細導電繊維を含有するラミネート用フィルム又はフィルム基材に極細導電繊維を含有する表面層が形成されたラミネート用フィルムを予め作製し、当該ラミネート用フィルムを射出成形金型内に配置した後に、その金型内に合成樹脂を射出して、合成樹脂よりなる基材層の表面にラミネート用フィルムをラミネートした溶融成形体を作製した後に、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱して、極細導電繊維を成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の第8の導電性成形体の製造方法は、合成樹脂を溶融成形して得た成形体の表面に極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂塗液を塗布・固化して、成形体の表面に極細導電繊維含有樹脂塗膜を有する溶融成形体を作製した後に、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱して、極細導電繊維を溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とするものである。
【0017】
上記の各製造方法において、溶融成形体の加熱が、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度の温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲で行なわれることが好ましい。また、溶融成形体の加熱が、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上1.0×107Pa・s未満の範囲で行われることも好ましい。また、溶融成形体の加熱が、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度の温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲に加熱された加熱室にて行われることも好ましい。更に、溶融成形体の加熱が、熱風、炎、加熱ニクロム線、熱媒体、熱プレス、赤外線のいずれかの熱源、又はマイクロ波を用いて行なわれることも好ましい。
【0018】
本発明において、「表面抵抗率を低下させた導電層」又は「表面抵抗率が低下した導電層」とは、溶融成形体の表面抵抗率が1012Ω/□以上であれば、これを1012Ω/□未満の表面抵抗率に低下させることを意味し、溶融成形体の表面抵抗率が1012Ω/□未満であれば、これをさらに低下させた表面抵抗率となすことを意味する。
また、極細導電繊維は、溶融成形体の表面全体に露出した状態、又は表面から突出した状態、又は表面から100nm未満の内部に含有されている状態になっている場合の他に、溶融成形体の表面の部位により上記の状態が異なり上記2つ又は3つの状態が混在した状態になっている場合も含まれる。
さらに、加熱により、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物が上記ガラス転移温度の温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲になされると、その粘度は上記範囲内になる場合が多く該場合は両範囲が一部で一致するが、異なる場合はいずれの範囲となるように加熱すればよい。
【0019】
なお、上記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度と融点は、該組成物の示差走査熱量を測定することにより求めることができ、ガラス転移温度は、転移前の基線の直線部分と転移領域の変曲点の接線を外挿して得られる交点の温度を示し、融点は、融解ピークの両側の最大傾斜の点で引いた接線の交点の温度を示す。
また、上記粘度は、動的粘弾性測定装置にて剪断速度1sec-1の剪断速度で得られた粘度を示す。
上記の融点は、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物に使用される樹脂が結晶性であれば上記示差走査熱量を測定することで求めることができるが、非晶性であれば示差走査熱量で測定することができないので、上記粘度となるように加熱すればよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の導電性成形体は、導電層の表面に露出又は表面から突出する極細導電繊維により導電路が良好に形成されて表面抵抗率が低下させられていて、制電ないし導電機能を発揮させることができる。この極細導電繊維が、加熱により表面に露出又は表面から突出する理由は、現時点では定かではないが、極細導電繊維を含む溶融成形体の表面を加熱することで、該成形体を形成する組成物の少なくとも表面が軟化して粘度が低下し、表面近傍に含有され且つ歪を有していた極細導電繊維が歪をなくすために軟化樹脂組成物に抗してランダムな三次元方向に動いて無配向状態となり、近接して含有されていた極細導電繊維同士がお互いに接触する機会が増加すると共に、特に動きを抑制する軟化樹脂組成物が少ない表面側に動いて露出又は突出するものと思われる。
また、特開2004−339484などにも知られるように極細導電繊維は、非晶性樹脂の結晶促進剤ともなり得る。これらの結晶は、極細導電繊維の近傍から発生することが知られており、この微結晶成長に伴い、極細導電繊維が動き導電性を向上させるとも思われる。
【0021】
このようにして、極細導電繊維が露出又は突出されることにより表面抵抗率を低下させた導電層が形成され、また該極細導電繊維が導電層内部に存在する極細導電繊維とも接触して、導電路を良好に形成できる。そのため、例え加熱前は1012Ω/□以上の表面抵抗率を示していても、加熱することにより1012Ω/□未満の表面抵抗率に低下した導電層が形成された導電性成形体とすることができる。また、加熱前に1012Ω/□未満の表面抵抗率を示すものは、加熱することにより、これより更に表面抵抗率を低下させた導電層が形成された導電性成形体とすることができる。このような表面抵抗率の低下は、加熱前の表面抵抗率により異なるが、該表面抵抗率が1桁乃至12桁の範囲で低下する。そして、極細導電繊維であるカーボンナノチューブが導電層内に0.01〜12.0質量%含有されていれば、該カーボンナノチューブが長くて細いので、加熱による動きも良好に行なわれてお互いの接触が容易に行なわれ、その表面抵抗率を101Ω/□以上1012Ω/□未満にすることができる。
【0022】
本発明の第2の導電性成形体は、該成形体表面に静電気が発生したり、通電により印加されると、トンネル効果によりその表面から100nm未満の内部に含有されている極細導電繊維にまで静電気や印加電荷が達して、極細導電繊維が露出又は突出する場合と同様な作用をなし、前記の導電層と同様に表面抵抗率を低下させる効果が発揮される。しかし、極細導電繊維がその表面から100nm未満の内部に含有されていないと、トンネル効果が良好に発揮できずに、制電ないし導電機能を有さなくなる。極細導電繊維を含む成形体の表面が加熱されることで、極細導電繊維を表面から100nm未満の内部に含有させて表面抵抗率を低下させた導電層を形成できる理由は、前記の通り、軟化した組成物内を極細導電繊維がランダムに動くが、歪が小さくて表面に露出又は表面から突出するまでは動かず、歪がなくなった場所に留まって、表面から100nm未満の内部にまで動いて固定されて形成されるものと思われる。
【0023】
導電性成形体全体が極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物で形成されていると、加熱により、表面は勿論のこと、成形体内部の極細導電繊維もランダムに三次元方向に動いてお互いが接触するようになり、表面抵抗率と共に体積抵抗率も向上させることができる。
また、該導電性成形体に切削などを施し表面部分を除去しても、該切削面に極細導電繊維が露出又は突出するので、表面抵抗率を101Ω/□以上1012Ω/□未満とすることができる。
【0024】
また、導電性成形体が極細導電繊維を含有しない基材層と極細導電繊維を含有する表面抵抗率を低下させた導電層とからなると、該成形体の内部まで加熱する必要がなくて、少なくとも表面部分を加熱するだけで、前記の如くして表面抵抗率を低下させた導電層が形成され、制電乃至導電機能を発揮させることができる。そして、基材層に成形体に必要な機械的強度などの諸機能を付与できるし、極細導電繊維の含有量を少なくできるので安価な導電性成形体を提供することもできる。
【0025】
本発明の第1の導電性成形体の製造方法は、極細導電繊維を含有する溶融成形体の少なくとも表面を加熱することで、極細導電繊維を表面に露出させたり、表面から突出させたり、表面から100nm未満の内部に含有させたりすることができるので、該表面部分に表面抵抗率を低下させた導電層を形成することができる。このように、表面を加熱することで、極細導電繊維を上記状態になさしめる理由は、現時点では定かではないが、出願人はつぎのように推測している。
【0026】
溶融成形体の少なくとも表面近傍に含まれている極細導電繊維は、溶融成形時に金型などからの剪断力を受けて成形流れに沿って強制的に配向させられて歪を有した状態で含有されている。そのため、極細導電繊維の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと、該繊維同士の接触が余り得られず1012Ω/□以上の表面抵抗率を示す。しかし、極細導電繊維の含有量が多いか又は/及び分散が良好であると、歪を有した状態で配列・配向しても該繊維同士の接触がある程度得られて、1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す。そして、この極細導電繊維が、表面が加熱されることにより軟化して粘度が低下した組成物の内部でランダムに3次元方向に動いて無配向状態となり、近接して含有されていた極細導電繊維同士がお互いに接触する機会が著しく増加すると共に、軟化樹脂組成物量が少なくて動きを抑制することが少ない表面方向に動いて、表面に露出するか、更に動いて表面から突出するか、又は露出乃至突出するまでの歪がなくて表面から100nm未満の内部にまで動いて固定された状態となって、表面抵抗率を低下させた導電層が形成される、と推測している。
【0027】
このようにして、該表面及び/又は表面部分に、溶融成形体が加熱前は1012Ω/□以上の表面抵抗率であれば1012Ω/□未満の表面抵抗率の、加熱前に1012Ω/□未満の表面抵抗率であれば更に低下した表面抵抗率の導電層が形成されて、制電乃至導電機能を発揮する導電性成形体を得ることができる。
【0028】
本発明の第2の導電性成形体の製造方法は、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を溶融成形した溶融成形体を切削などして得た二次加工成形体の少なくとも表面を加熱することで、前記と同様にして、極細導電繊維を切削表面に露出又は切削表面から突出させたり、切削表面から100nm未満の内部に含有させることで、該部分に表面抵抗率を低下させた導電層を形成することができる。
溶融成形体は、その内部においても成形時の成形流れ方向に配向して歪を有していて、切削して得た二次加工成形体の表面の極細導電繊維も配向しているので、切削された表面を加熱することにより、上記と同様の理由で、該表面及び/又は表面部分に表面抵抗率を低下させた導電層が形成されて、制電乃至導電機能を発揮する導電性成形体を得ることができる。
【0029】
上記製造方法において、溶融成形が射出成形で行なわれると、射出成形装置の狭いノズルやスプルー流路やランナーやゲートなどを高速で通過し、さらに射出成形金型内の比較的狭い成形通路を比較的高速で流動して充填されるので、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物に含まれる極細導電繊維はノズル面やスプルー流路面やランナー面やゲート面や成形通路面からの強い剪断力を受けて成形流れ方向に強制的に配列・配向する。
そのため、上記のように、極細導電繊維の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと1012Ω/□以上の表面抵抗率を示し、極細導電繊維の含有量が多いか又は/及び分散が良好であると1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す溶融成形体となる。そして、この溶融成形体を加熱することで、少なくとも表面近傍に存在していた極細導電繊維がランダムに3次元方向に動いて無配向状態となってお互いが接触して、上記のように表面抵抗率が低下した導電層が形成され、制電乃至導電機能を発揮するようになる。また、内部まで加熱されると、内部の極細導電繊維も同様に動いてお互いが接触するので、体積抵抗率も向上させることができる。
【0030】
また、溶融成形が押出成形で行なわれると、射出成形よりも低速ではあるが押出成形金型内を早く流動するので、極細導電繊維が押出成形金型面からの剪断力を受けて成形流れ方向に強制的に配列・配向し、上記のような表面抵抗率を示す溶融成形体となる。そして、この溶融成形体を加熱することで、上記に記載したように、極細導電繊維がランダムに3次元方向に動いて無配向状態となってお互いが接触して、上記のように表面抵抗率が低下した導電層が形成され、制電乃至導電機能を発揮するようになる。また内部まで加熱されると体積抵抗率も向上させることもできる。
【0031】
また、溶融成形がプレス成形で行なわれると、プレス成形時に上下から軟化したシートに圧力が加えられるので、シートが四周に動いて延展し、極細導電繊維も四周方向に強制的に配列・配向させられ、上記のような表面抵抗率を示す歪を有した溶融成形体が得られる。そこで、この溶融成形体を加熱することで、上記に記載したように、極細導電繊維がランダムに3次元方向に動いて無配向状態となってお互いが接触して、上記のように表面抵抗率が低下した導電層が形成することができるし、また内部まで加熱されると体積抵抗率も向上させることもできる。
【0032】
本発明の第3の導電性成形体の製造方法であると、熱可塑性樹脂よりなる基材層の片面又は両面又は全表面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂よりなる表面層を積層した溶融成形体を共押出成形で容易に作製できる。そして、この溶融成形体は、表面層を形成する極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物は共押出金型からの剪断力を受けて押出し方向に配列・配向し、極細導電繊維の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと1012Ω/□以上の表面抵抗率を示し、極細導電繊維の含有量が多いか又は/及び分散が良好であると1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す溶融成形体となる。そして、この溶融成形体を加熱することで、上記に記載したように、表面層に含有される極細導電繊維がランダムに3次元方向に動いて無配向状態となってお互いが接触して、表面抵抗率を低下させた導電層が形成され、制電ないし導電機能を発揮する導電性成形体を得ることができる。
【0033】
また、本発明の第4の導電性成形体の製造方法であると、合成樹脂よりなる基材層の表面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂の表面層を積層した溶融成形体を射出成形で作製できるし、また基材層の周りを前記表面層で覆った溶融成形体も射出成形で作製できる。そして、これらの溶融成形体は、表面層を形成する極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物は高速で射出・充填されるので、前記と同様な強い剪断力を受けて成形流れ方向に強制的に配列・配向し、極細導電繊維の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと1012Ω/□以上の表面抵抗率を示し、極細導電繊維の含有量が多いか又は/及び分散が良好であると1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す溶融成形体となる。そして、この溶融成形体を加熱することで、上記に記載したように、表面層に含有される極細導電繊維がランダムに3次元方向に動いて無配向状態となってお互いが接触して、表面抵抗率を低下させた導電層が形成され、制電ないし導電機能を発揮する導電性成形体を得ることができる。
【0034】
本発明の第5の導電性成形体の製造方法であると、熱可塑性合成樹脂組成物よりなる基材層の表面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物の表面層を積層した溶融成形体をプレス成形で容易に作製できる。そして、この溶融成形体の表面層を形成する表面シートは、プレス成形時に軟化し且つ上下から圧力が加えられるので、表面シートが四周に動いて延展し、極細導電繊維も四周方向に強制的に配列・配向させられ、上記のような表面抵抗率を示す歪を有した溶融成形体が得られる。そこで、この溶融成形体の表面層を加熱することで、上記に記載したように、極細導電繊維がランダムに3次元方向に動いて無配向状態となってお互いが接触して、上記のように表面抵抗率が低下した導電層が形成され、制電ないし導電機能を発揮する導電性成形体を得ることができる。
【0035】
本発明の第6の導電性成形体の製造方法であると、射出成形された射出成形体からなる基材層の表面に極細導電繊維含有表面層が転写された溶融成形体を射出成形で作製することができ、1つの転写フィルムを作製しておくだけで種々の射出成形体に容易に対応することができる。そして、この転写フィルムの表面層の極細導電繊維は、塗布する際に塗布方向に力を受けて、その方向に配列・配向して歪を有した状態で含有されており、極細導電繊維の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと1012Ω/□以上の表面抵抗率を示し、極細導電繊維の含有量が多いか又は/及び分散が良好であると1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す溶融成形体となる。そして、この溶融成形体を加熱することで、上記に記載したように、表面層に含有される極細導電繊維がランダムに3次元方向に動いて無配向状態となってお互いが接触して表面抵抗率を低下させた導電層が形成されて、制電ないし導電機能を発揮する導電性成形体を得ることができる。
【0036】
本発明の第7の導電性成形体の製造方法であると、射出成形された射出成形体からなる基材層の表面に極細導電繊維含有表面層を有するラミネート用フィルム又は極細導電繊維含有ラミネート用フィルムがラミネートされた溶融成形体を射出成形で作製することができ、1つのラミネート用フィルムを作製しておくだけで種々の射出成形体に容易に対応することができる。そして、このラミネート用フィルムの表面層の極細導電繊維は転写フィルムと同様に塗布する際に塗布方向に力を受けて該方向に配列・配向して歪を有した状態で含有されているし、ラミネート用フィルムに含有される極細導電繊維は押出成形やブロー成形などの作製時に押出方向などに力を受けて配列・配向して歪を有した状態で含有されて、押出成形体や転写フィルムと同様の表面抵抗率を有するラミネート用フィルムとなる。そして、この溶融成形体を加熱することで、上記に記載したように、表面層に含有される極細導電繊維がランダムに3次元方向に動いて無配向状態となってお互いが接触して表面抵抗率を低下させた導電層が形成されて、制電ないし導電機能を発揮する導電性成形体を得ることができる。
【0037】
本発明の第8の導電性成形体の製造方法であると、射出成形された成形体の表面に極細導電繊維含有樹脂塗膜を塗布形成するだけで塗膜付きの溶融成形体を作製することができ、塗液の塗布という簡単な方法で得ることができるし、複雑な形状の射出成形体にも対応できるし、さらに多品種少量であっても対応することができる。そして、該溶融成形体の塗膜は、塗布する際に塗布方向又は塗液噴射圧などの力を受けて、その方向に配列・配向して歪を有した状態で含有され、極細導電繊維の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと1012Ω/□以上の表面抵抗率を示し、極細導電繊維の含有量が多いか又は/及び分散が良好であると1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す溶融成形体となる。そして、この溶融成形体を加熱することで、上記に記載したように、塗膜に含有されている極細導電繊維がランダムに3次元方に向動いて無配向状態となってお互いが接触して、表面抵抗率を低下させた導電層が形成されて、制電ないし導電機能を発揮する導電性成形体を得ることができる。
【0038】
上記の各製造方法において、各溶融成形体の加熱が極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度の温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲で行なわれると、溶融成形体の少なくとも表面を軟化させる温度まで加熱することができて、樹脂組成物を充分軟化させて極細導電繊維の動きを可能ならしめることができる。また、上記加熱を、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上1.0×107Pa・s未満の範囲となる温度範囲で行っても、極細導電繊維が該低粘度の組成物中を動くことができるようになる。特に、融点より30℃低い温度から融点温度より30℃高い温度の温度範囲、又は前記組成物の粘度が1.0×104Pa・s以上5.0×106Pa・s未満の範囲となる温度範囲で行うと、極細導電繊維の動きを更に良好に行なわせることができるので、該極細導電繊維が表面に露出、又は表面から突出、又は表面から100nm未満の内部に含有され易くなって表面抵抗率を低下させた導電層を形成できて、確実に表面抵抗率を低下させて、制電機能や導電機能を発揮する導電性成形体とすることができる。
【0039】
また、各溶融成形体の加熱が、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度の温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲に加熱された加熱室にて行なわれると、各溶融成形体を均一に加熱できて、溶融成形体の表面を加熱することもできるし、溶融成形体全体を加熱することもできる。また、連続的に加熱することができるので、生産効率を高めることもできる。
【0040】
さらに、各溶融成形体の加熱が、熱風、炎、加熱ニクロム線、熱媒体、熱プレス、赤外線のいずれかの熱源でなされると、1つ1つの溶融成形体毎に加熱条件などを変えて加熱を行なうことができて、品質の安定した制電性ないし導電性を付与できる。さらに、表面を急激に加熱することができるので、内部がガラス転移温度以上の温度まで上昇するのを抑えることができて、各溶融成形体の変形を防止できる。
また、マイクロ波を用いてなされると、マイクロ波により極細導電繊維が加熱され、これが周囲の組成物にまで及んで加熱・軟化するので、極細導電繊維の動きが充分に可能な状態を作ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
図1は本発明の導電性成形体の一実施形態を示す断面図、図2はその拡大断面図である。
【0043】
図1に示す導電性成形体Aは、溶融成形法により成形された電子部品などを搬送する導電性トレーであって、該導電性成形体Aは極細導電繊維を含有する樹脂組成物の単一層からなり、略矩形形状をなして、その中央部を凹ませて電子部品などを収容する収納部A1となすと共に、周囲を鍔A2となしたものである。この導電性トレー成形体Aの肉厚は0.3〜3.0mmで、大きさは500×500mmとなされる。
【0044】
なお、A3は樹脂フィルムからなる蓋体であるが、この蓋体A3も本発明の導電性成形体で作製することもできる。
また、導電性成形体Aの形状や厚みは限定されないことは言うまでもないが、厚みは通常は0.1〜30.0mm程度になされて使用される。
【0045】
この導電性成形体Aは、熱可塑性合成樹脂に、溶融成形に必要な公知の添加剤を加えると共に極細導電繊維2を添加した極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を用いて、射出成形や押出成形やプレス成形などの溶融成形法にて成形された導電層1からなるものである。
【0046】
上記熱可塑性合成樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセテート、ポリスチレン等のビニル系樹脂、ポリカーボネート、結晶性/非晶質ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレート、芳香族ポリエステル等のエステル系樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリアセタール、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ボリスチレン、ポリアミド、液晶ポリマー、トリアセチルセルロース、これらの樹脂の共重合体樹脂などの熱可塑性樹脂、これらの樹脂が混合された混合樹脂などが用いられる。また、これらの樹脂に加えられる添加剤としては、抗酸化剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、抗菌剤、難燃剤、顔料 、染料などの各樹脂に一般に使用されるものが使用される。
【0047】
上記極細導電繊維2としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤー、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリルなどの極細長炭素繊維、白金、金、銀、ニッケル、シリコンなどの金属ナノチューブ、金属ナノワイヤーなどの極細長金属繊維、酸化亜鉛などの金属酸化物ナノチューブ、金属酸化物ナノワイヤーなどの金属酸化物などの極細長金属酸化物繊維などの、直径が0.3〜100nmで、長さが0.1〜20μm、好ましくは長さが0.1〜10μmの各繊維が用いられる。これらの極細導電繊維は均一に凝集することなく分散されて、お互いに接触して導電層1のなかに含まれていることが好ましい。
【0048】
これらの極細導電繊維2のなかで、極細長炭素繊維が好ましく、特にカーボンナノチューブが最も好ましく用いられる。該カーボンナノチューブは繊維直径が0.3〜80nmと細いので、凝集することなく分散して互いに接触させることができるので望ましいのである。このカーボンナノチューブには、中心軸線の周りに直径が異なり円筒状に閉じた複数のカーボン壁を同心的に備えた多層カーボンナノチューブや、中心軸線の周りに単層の円筒状に閉じたカーボン壁を備えた単層カーボンナノチューブがあり、いずれのカーボンナノチューブも好ましく用いられる。そして、多層カーボンナノチューブは1本ずつ分散させることができるが、単層カーボンナノチューブは複数本が集まって束になったものを1束ずつ分散させることができ、このように分散させることが最も好ましい。なお、単層カーボンナノチューブが1本ずつ分離して分散したものを除外するものではない。
【0049】
これらの極細導電繊維2は、導電層1の中に0.01〜20質量%、好ましくは0.01〜12.0質量%、更に好ましくは0.1〜5.0質量%含有されて、均一に分散されている。極細導電繊維2の含有量が多くなると、成形性や機械的強度が悪くなり、またコストも高くなる。そのため、出来るだけ分散を良くして、少ない含有量で表面抵抗率を良好にすることが好ましく、極細導電繊維2がカーボンナノチューブであれば0.01〜12.0質量%含有させることが望ましい。特に、上記単層カーボンナノチューブであれば0.01〜8.0質量%、多層カーボンナノチューブであれば0.01〜12.0質量%含有させることが望ましい。
【0050】
この極細導電繊維2の1つの分散状態は、図2(1)(2)(3)の拡大断面図で示すように、導電層1の内部ではランダムに均一に分散してお互いが3次元的方向に向いて接触して表面抵抗率を低下させていると共に、導電層1の表面近傍では、図2(1)に示すように、導電層1の表面にランダムに露出し且つ内部の極細導電繊維2と接触しているか、図2(2)に示すように導電層1の表面からランダムに突出し且つ内部の極細導電繊維2と接触しているか、図2(3)に示すように、導電層1の表面に露出も突出もしていないが表面から100nm未満の内部に含有され、換言すれば表面から100nm未満の深さtには極細導電繊維2が含有されずに樹脂層となって且つ内部の極細導電繊維2と接触しているかの、何れかの状態で分散して表面抵抗率を低下させた導電層1が全厚さ方向に形成されている。即ち、極細導電繊維2の端部又は中間部が配列・配向することなくランダムに湾曲して、それらの一部分が表面に露出又は表面から突出又は表面から100nm未満の内部に含有され、他の部分が導電層1の内部に埋没して固定されていると共に、内部の極細導電繊維2と接触している。この分散状態であると、表面抵抗率を低下させた導電層1が全厚さに形成される。
【0051】
また、極細導電繊維2の他の分散状態は、図2(4)(5)(6)の拡大断面図で示すように、導電層1の内部では配列・配向して接触が少なく、1012Ω/□以上の表面抵抗率しか有していないが、導電層1の表面近傍では、図2(4)に示すように導電層1の表面にランダムに露出し且つお互いに接触しているか、図2(5)に示すように導電層1の表面からランダムに突出し且つ且つお互いに接触しているか、図2(6)に示すように導電層1の表面に露出も突出もしていないが表面から100nm未満の内部に含有され且つお互いに接触しているかの、何れかの状態で分散している。この分散状態であると、表面抵抗率を低下させた導電層1が表面若しくは表面近傍に形成される。
【0052】
さらに、極細導電繊維2のさらに他の分散状態は、図2(7)(8)(9)の拡大断面図で示すように、導電層1の内部では配列・配向していても或る程度接触が得られて1012Ω/□未満の表面抵抗率を有しているが、導電層1の表面近傍では、図2(7)に示すように導電層1の表面にランダムに露出し且つお互いに接触しているか、図2(8)に示すように導電層1の表面からランダムに突出し且つ且つお互いに接触しているか、図2(9)に示すように導電層1の表面に露出も突出もしていないが表面から100nm未満の内部に含有され且つお互いに接触しているかの、何れかの状態で分散して、内部よりも表面抵抗率の低下した導電層1が形成されている。この分散状態であると、表面は表面抵抗率の低下した導電層1が形成され、内部は溶融成形体の抵抗率を有したものとなる。
【0053】
そして、このように極細導電繊維2を分散させて良好な導電路を形成させるためには、その分散度を高め、接触頻度を高めることが好ましい。そのために、各極細導電繊維2が絡み合うことなく1本ずつ分離した状態で、又は、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で導電層1に分散させることが望ましく、このように分散させると、少ない含有量であっても、広い範囲に極細導電繊維2が分散して存在し、お互いが接触し易くなる。そのために、極細導電繊維2の含有量を0.01〜20.0質量%、好ましくは0.1〜12.0質量%とすることで、お互いが接触して充分な導電路が形成された導電層1を形成できる。
【0054】
この導電性成形体Aのように、極細導電繊維2が導電層1の表面にランダムな状態で露出したり、又はランダムな状態で突出したり、又は表面から100nm未満の内部にランダムな状態で含有されていると、その表面抵抗率を低下させて101Ω/□以上1012Ω/□未満とした導電層1を形成することができる。表面抵抗率が105Ω/□以上1012Ω/□未満であると制電機能を発揮し、表面に帯電した静電気は露出又は突出している極細導電繊維2に接触し、表面及び内部の極細導電繊維同士が接触して形成された導電路を流れて導電層1の端部にまで達し、該端部で放電して除電することができる。また、表面抵抗率が101Ω/□以上105Ω/□未満であると導電体としての作用をなし、導電機能を発揮し電気を流すことができるようになる。一方、極細導電繊維2が表面から100nm未満の内部に含有されていると、トンネル効果により表面に帯電した静電気が表面内部の該極細導電繊維2にまで達して制電機能を発揮するし、電気が通電されるとトンネル効果で同様に内部の該極細導電繊維2にまで通電して導電層1を流れて、導電体として作用して導電機能を発揮する。
【0055】
このような導電性成形体Aは、例えば、図3の製造方法の説明図で示す方法により製造することができる。
まず、予め、上記の熱可塑性樹脂と極細導電繊維2と、必要なら溶融成形加工に必要な上記添加剤とを、均一に混合して極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を作製する。
【0056】
そして、図3に示すように、該極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を公知の射出成形法により射出して溶融成形体4を作製する。即ち、図3(1)に示すように、射出成形機41に該極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を供し、スクリュー42で可塑化・溶融し、ノズル431、スプルー流路432、ゲート433を通して射出成形金型44の成形空間45に射出して該空間45に充填させた後、冷却し、成形金型44から取り出すことで、図3(2)に示す射出溶融成形体4を作製する。
【0057】
このように、溶融成形体4が射出成形で作製されると、上記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物が射出成形機41の狭いノズル431、射出成形金型44の狭いスプルー流路432、ゲート433を高速で通過するし、射出成形金型44の比較的狭い成形空間45を流れて充填されるので、ノズル面、スプルー流路面、ゲート面、成形空間面から強い剪断力を受けて成形流れ方向に力を受け、極細導電繊維2も成形流れ方向に強制的に配列・配向し、大きな歪を有することとなる。そのため、極細導電繊維2の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと、図3(2)に拡大して示すように、極細導電繊維2同士の接触が得られず、極細導電繊維2を含有していても表面抵抗率は1012Ω/□以上の高い値を示す。しかし、極細導電繊維2の含有量が多いか又は/及び分散がよいと、極細導電繊維2が例え成形流れ方向に強制的に配列・配向させられても、該繊維2同士の接触がある程度得られて、1012Ω/□未満の表面抵抗率を示すこととなる(図2(7)の内部の繊維状態を参照)。
【0058】
続いて、この射出溶融成形体4を、図3(3)に示すように、加熱室46に搬送する。この加熱室46は、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度の温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲に加熱・保温されるか、又は前記組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上1.0×107Pa・s未満の範囲となされるような温度範囲に加熱・保温されている。そのため、該加熱室46に搬入され、ベルトコンベア47で搬送されている間に、射出溶融成形体4の少なくとも表面が加熱されて、上記のガラス転移温度の温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲に、又は/及び組成物が上記粘度範囲となり、極細導電繊維2が上記に記載した理由により、表面に露出したり、図2(4)で示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるようになる。
また、48はニクロム線やランプなどの熱源である。
【0059】
極細導電繊維2が、このような状態になると、極細導電繊維2同士がお互いに接触するので、導通路が形成されて表面抵抗率が低下した導電層1が形成される。そのため、加熱前に1012Ω/□以上の表面抵抗率を示した射出溶融成形体4は、加熱により1012Ω/□未満の表面抵抗率とすることができるし、一方、加熱前に1012Ω/□未満の表面抵抗率を示した射出溶融成形体4は、加熱により、これより表面抵抗率を低下させることが可能となる。この加熱による表面抵抗率の低下は、加熱前の表面抵抗率より1桁乃至12桁低下した表面抵抗率とすることができる。具体的には、例えば、表面抵抗率が加熱前に1013Ω/□であるとすれば、加熱後には1012Ω/□乃至101Ω/□の範囲となるように低下する。
【0060】
このように、射出溶融成形体4の表面を、極細導電繊維2が可能な限り抵抗なく動くことができるようにするために、前記加熱を前記組成物の融点温度より30℃低い温度から融点温度より30℃高い温度の温度範囲になるように加熱するか、又は/及び、前記組成物の粘度が1.0×104Pa・s以上5.0×106Pa・s未満の範囲となるような温度に加熱することが好ましい。
【0061】
続いて、加熱室46から搬出された射出溶融成形体4を冷却して、極細導電繊維2を上記状態で固定すると、表面抵抗率が101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた導電層1が形成され、本発明の極細導電繊維を含有する導電性成形体Aを得ることができる。
【0062】
上記の加熱は、射出溶融成形体4の大きさ、形状、樹脂の種類、搬送速度、加熱温度などにより異なるが、概ね1〜20分間上記温度範囲又は上記粘度範囲に曝していることが好ましい。例えば該射出溶融成形体4の厚さが約5mmで、加熱温度が融点温度より30℃低い温度から融点温度より30℃高い温度の温度範囲であると、該温度範囲で1〜20分間、好ましくは5〜20分間、加熱室46にて加熱することが好ましい。なお、上記加熱時間は、射出溶融成形体4の表面温度が上記温度範囲に又は/及び上記粘度範囲になってからの時間であることが好ましい。
【0063】
また、上記の加熱は、射出溶融成形体4の表面部分のみが上記温度範囲になされることが好ましく、射出溶融成形体4の内部まで加熱されると該溶融成形体4の形状が保たれない恐れがあるからである。この場合の極細導電繊維2の分散状態は図2(4)(5)(6)(7)(8)(9)に示す状態となり、表面にのみ表面抵抗率が低下した導電層1が形成でされる。しかし、射出溶融成形体4の内部まで加熱されると、上記のように、内部の極細導電繊維2も同様にランダムに三次元方向に動いてお互いに接触するので、表面も内部も表面抵抗率が低下した導電層1が形成されて、体積抵抗率も向上させることができる。この場合の極細導電繊維2の分散状態は図2(1)(2)(3)に示す状態となる。
【0064】
また、上記の加熱は、上記加熱室46による加熱に限定されるものではなく、公知のいかなる方法を用いても良い。例えば、熱風、炎、加熱ニクロム線、赤外線、シリコンオイルなどの熱媒体、熱プレスなどの熱源を使用し、その表面を急速に加熱することも好ましく使用される。さらに、マイクロ波を用いて加熱することもでき、マイクロ波が極細導電繊維2に作用して加熱され、これが周囲の樹脂に及んで加熱する方法も使用できる。
【0065】
図4は本発明の導電性成形体Aの他の製造方法を示す説明図である。
該製造方法は、前記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を公知の押出成形法により押出成形して溶融成形体5を作製する。即ち、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を、図4(1)に示すように、公知の押出機51に供してスクリュー52で可塑化・溶融し、押出成形金型53により一定厚みを有する板状体に押出成形し、ポリシングロール54、54にて厚みが微調整され、引き続き、搬送ロール55上を引き取られつつ冷却され、一定長さに切断されて、図4(2)に示す押出溶融成形体5を作製する。
【0066】
このように押出成形されると、押出速度が射出成形より遅くても、押出成形金型53の成形流路内面からの剪断力を受けて、極細導電繊維2も押出し方向に配列・配向する。そのため、極細導電繊維2の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと、図4(2)に拡大して示すように、極細導電繊維2同士の接触が得られず、極細導電繊維2を含有していても表面抵抗率は1012Ω/□以上の高い値を示す。しかし、極細導電繊維2の含有量が多いか又は/及び分散がよいと、極細導電繊維2が例え成形流れ方向に強制的に配列・配向させられても、該繊維2同士の接触がある程度得られて、1012Ω/□未満の表面抵抗率を示すこととなる。また、極細導電繊維2は押出成形時に押出方向に強制的に配列・配向させられるが、この傾向は押出成形金型53の成形流路内面に近い押出溶融成形体5の表面ほど大きく配向させられて、大きな歪を有している。
【0067】
続いて、この押出溶融成形体5を、前述の図3(3)に示す加熱室46に搬入し、同様に加熱すると、極細導電繊維2が表面に露出したり、図4(3)に示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるような状態となり、表面抵抗率が低下した導電層1を形成する。続いて、加熱室46から搬出された押出溶融成形体5を冷却して極細導電繊維2を上記状態で固定した導電層1にすると、表面抵抗率が101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた本発明の導電性成形体Aを得ることができる。
【0068】
図5は本発明の導電性成形体Aのさらに他の製造方法を示す説明図である。
該製造方法は、まず、前記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を公知のカレンダープレス成形法によりプレス溶融成形体6を作製する。即ち、該極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を用いて、カレンダーロールにより薄いカレンダーシート61を作製し、続いて、図5(1)に示すように、該シート61を複数枚重ねて、上下の加熱されたプレス艶板62、62にて加熱、加圧して、図5(2)に示す一定厚みを有するプレス溶融成形体6を作製する。
【0069】
このようにカレンダーシート61が加熱、加圧されると、カレンダーシート61が溶融して積層一体化する際に、四周に流れて延展し、極細導電繊維2の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと、図5(2)の拡大図に示すように、極細導電繊維2も四周方向に強制的に配列・配向させられて1012Ω/□以上の表面抵抗率を示す歪を有したプレス溶融成形体6となる。また、極細導電繊維2の含有量が多いか又は/及び分散がよいと、この延展はそれ程の距離で行なわれないので大きな剪断力を受けることはないことと相まって、該繊維2同士の接触がある程度得られて、1012Ω/□未満の表面抵抗率を示すものとなる。
【0070】
続いて、このプレス溶融成形体6を、前述の図3(3)に示す加熱室46に搬入し、同様に加熱すると、極細導電繊維2が表面に露出したり、図4(3)に示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるような状態となり、表面抵抗率が低下した導電層1を形成する。続いて、加熱室46から搬出されたプレス溶融成形体6を冷却して極細導電繊維2を上記状態で固定した導電層1にすると、表面抵抗率が101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた本発明の導電性成形体Aを得ることができる。
【0071】
図6は切削された極細導電繊維成形体Aの製造方法を示す説明図である。
該製造方法は、前記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を、図3の射出成形法、又は図4の押出し成形法、又は図5のプレス成形法、その他の公知の溶融成形法に供することにより、図6(1)に示す、切削可能な一定厚さを有する溶融成形体71を作製する。この溶融成形体71に含有されている極細導電繊維2は、上記のように、射出成形金型や押出成形金型やプレス艶板などから剪断力を受けて、射出成形方向や押出成形方向や加圧方向に配列・配向し、歪を有している。
【0072】
該一定厚さを有する溶融成形体71は、切削、研磨などの公知の方法を用いて二次加工を施して表面部分を除去した二次加工成形体7となされる。図6においては、薄い円盤状に切削し、さらに中心を穿孔して、ワッシャー7(二次加工成形体7)を作製している。このワッシャー7においても、図6(2)の拡大図に示すように、極細導電繊維2は歪を有して配列・配向して、該繊維の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと1012Ω/□以上の表面抵抗率を示し、繊維2の含有量が多いか又は/及び分散が良いと1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す。
【0073】
続いて、該ワッシャー7を、前述の図3(3)に示す加熱室46に搬入し、同様に加熱すると、極細導電繊維2が表面に露出したり、図6(3)に示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるような状態となり、表面抵抗率が低下した導電層1を形成する。続いて、加熱室46から搬出されたワッシャー7(二次加工成形体7)を冷却して極細導電繊維2を上記状態で固定した導電層1にすると、表面抵抗率を101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた、本発明の切削された導電性成形体A(ワッシャー)を得ることができる。
【0074】
図6においては、円盤状ワッシャー7に切削加工したが、ねじ切り加工などの他の公知の二次加工を施して必要とする形状、例えばネジ、ナット、ポルト、ギアなどの形状に加工した二次加工成形体であっても、1012Ω/□以上又は1012Ω/□未満の表面抵抗率を示すが、これを同様に加熱して表面抵抗率を低下させることにより、表面抵抗率を101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲になした導電性成形体Aを得ることができる。
なお、切削加工は、溶融成形体4を加熱して導電層1を形成した導電性成形体となした後に行うこともでき、この場合は極細導電繊維2が表面に露出した状態で固定された導電層1が形成される。
【0075】
図7は本発明の他の導電性成形体の一実施形態を示す拡大断面図である。
【0076】
図7に示す導電性成形体Bは、熱可塑性合成樹脂又は熱や紫外線や電子線などで硬化する硬化性合成樹脂からなり且つ極細導電繊維を含有しない基材層3と、その両面に積層された極細導電繊維2を含有する熱可塑性樹脂からなる表面抵抗率を低下させた導電層1、1とからなる3層構造の導電性成形体である。なお、導電層1は基材層3の片面のみに形成されてもよい。また、導電層1は基材層3の周りの全表面に形成されていてもよい。
【0077】
上記基材層3は、熱可塑性合成樹脂又は硬化性合成樹脂を、必要なら該合成樹脂の成形に必要な添加剤が添加された組成物を成形して得られた層であり、極細導電繊維は含有されていない。
該基材層3に用いられる熱可塑性樹脂としては、前記導電性成形体Aに使用された樹脂が用いられる。また、硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが使用され、射出成形、圧縮成形、注型成形、トランスファー成形などの公知成形法にて成形される。しかし、導電層1と積層一体化させる必要があるので、導電層1に使用される熱可塑性樹脂と同一系、又は相溶性のある熱可塑性樹脂が相互の密着接合性を高めるうえで好ましい。これらの樹脂には、抗酸化剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、抗菌剤、難燃剤、顔料、染料などの、各樹脂に一般に使用される添加剤が適宜添加されて成形されている。この基材層3の厚さは0.1〜30.0mm程度にされることが好ましい。
【0078】
また、上記導電層1、1は、前記導電性成形体Aの導電層1と同じであり、これに含有されている極細導電繊維2、その分散状態、表面への露出、表面からの突出、表面から100nm未満の内部に含有されて表面抵抗率を低下させたことも同じであるので、同一符号を付して詳細な説明は省略する。しかし、導電層1の厚さは、表面に積層され制電ないし導電機能を発揮させるためのものであるので、0.01〜5.0mm程度になされるのが好ましい。
【0079】
そして、導電層1は、前記導電性成形体Aと同様に、射出成形や押出し成形やプレス成形などの公知の製法により得られた3層構造の溶融成形体の少なくとも表面の表面層や塗膜などを加熱して、極細導電繊維2を表面層などの表面に露出させたり、表面から突出させたり、表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層1を形成したものであり、制電ないし導電機能を発揮させることができる。そのため、導電層1は表面層や塗膜などの全厚さが極細導電繊維の分散状態が変化して形成されたものである。しかし、表面層や塗膜などの表面部分のみで導電層1を形成することを除外するものではない。
極細導電繊維2が、加熱により上記状態になる詳細な理由は、前記前記導電性成形体Aの導電層1と同様であるので説明を省略する。
【0080】
このような導電性成形体Bは、基材層3が熱可塑性樹脂でも硬化性樹脂で形成されていてもよいし、絶縁性を有しても導電性を有してもよいし、また、機械的強度を高めた組成物で形成されてもよいし、樹脂再生品を使用して形成されてもよいし、更にはガラス補強材を添加した組成物で形成されてもよいし、基材層を多層にしてもよいし、その他の如何なる構成にしてもよいので、該基材層3により導電性成形体Bに必要な導電性以外の性能を付与することができる。また、導電層1は導電性成形体Bに制電ないし導電機能を付与するためであるので、必要以上に厚くする必要はなく、薄くなった分、極細導電繊維2の含有量を少なくでき、安価な導電性成形体Bにすることができる。
【0081】
この導電性成形体Bは、例えば、図8の製造方法の説明図に示す方法により製造される。
まず予め、熱可塑性樹脂と極細導電繊維2と、必要なら樹脂の溶融成形加工に必要な上記添加剤とを、均一に混合して極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物を作製する。一方、熱可塑性樹脂に、必要なら上記添加剤を均一に混合した熱可塑性樹脂組成物を作製する。
【0082】
そして、図8(1)に示すように、一方の押出機82に熱可塑性樹脂組成物を供すると共に他方の押出機83に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を供し、これを三層共押出金型84から共押出成形して、図8(2)に示す、熱可塑性樹脂からなる基材層3の上下両面に極細導電繊維含有樹脂組成物からなる表面層81,81が積層された、3層構造の共押出溶融成形体8を作製する。なお、85はポリシングロールを、86は搬送ロールを示す。
【0083】
このように共押出成形されると、共押出金型84の成形流路内面からの剪断力を受け、表面層81,81に含有されている極細導電繊維2も押出し方向に力を受けて、押出し方向に配列・配向し、特に、表面に近い表面層81,81は共押出金型84の成形流路に接しながら共押出されるので、極細導電繊維2の配列・配向はより強制的になされていて大きな歪を有している。そのため、表面層81に含有された極細導電繊維2の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと、図8(2)に拡大して示すように、極細導電繊維2同士の接触が得られず、極細導電繊維2を含有していても表面抵抗率は1012Ω/□以上の高い値を示す。しかし、極細導電繊維2の含有量が多いか又は/及び分散がよいと、極細導電繊維2が例え成形流れ方向に強制的に配列・配向させられても、該繊維2同士の接触がある程度得られて、1012Ω/□未満の表面抵抗率を示すこととなる。
【0084】
続いて、この共押出溶融成形体8を、前述の図3(3)に示す加熱室46に搬入して、同様に加熱すると、極細導電繊維2が表面層81の表面に露出したり、図8(3)に示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるような状態となり、表面抵抗率を低下させた導電層1,1が形成される。そのため、加熱前に1012Ω/□以上の表面抵抗率を示した共押出溶融成形体8は、加熱により1012Ω/□未満の表面抵抗率とすることができるし、一方、加熱前に1012Ω/□未満の表面抵抗率を示した共押出溶融成形体8は、加熱により、これより表面抵抗率を低下させることが可能となる。この加熱による表面抵抗率の低下は、加熱前の表面抵抗率より1桁乃至12桁低下した表面抵抗率とすることができる。具体的には、例えば、表面抵抗率が加熱前に1013Ω/□であるとすれば、加熱後には1012Ω/□乃至101Ω/□の範囲となるように低下する。
【0085】
続いて、共押出溶融成形体8を加熱室46から搬出し、冷却して極細導電繊維2の上記状態を固定した導電層1を形成すると、表面抵抗率が101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた、本発明の3層構造の導電性成形体Bを製造することができる。
なお、共押出溶融成形体8が基材層3の片面に表面層81が形成されていたり、又は基材層3の全表面に表面層81が形成されていていてもよく、この場合は、片面のみに又は全表面が導電層1となされた本発明の導電性成形体Bとなる。
【0086】
図9は本発明の導電性成形体Bの他の製造方法を示す説明図である。
まず予め、前記記載の極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物を作製すると共に、熱可塑性若しくは硬化性樹脂に、必要なら上記添加剤を均一に混合した合成樹脂組成物を作製する。
【0087】
次に、図9(1)に示すように、射出成形金型92内に、まず、上記極細導電繊維含有樹脂組成物を一方の射出成形機94から射出し、続いて、該極細導電繊維含有樹脂組成物が溶融状態の時に上記合成樹脂組成物を他の射出成形機93から射出することにより、極細導電繊維含有樹脂組成物の中心に合成樹脂組成物を充填して、図9(2)に示すように、合成樹脂組成物からなる基材層3の周りの全表面に極細導電繊維含有樹脂組成物からなる表面層91が被覆された溶融成形体9を作製する。
【0088】
このように射出成形された被覆溶融成形体9の表面層91に含有されている極細導電繊維2は、成形方向に配列・配向し、特に、表面に近い表面層91は射出成形金型92に接しながら成形されるので、極細導電繊維2の配列・配向はより強制的になされていて大きな歪を有している。そのため、極細導電繊維2の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと1012Ω/□以上の表面抵抗率を示し、極細導電繊維2の含有量が多いか又は/及び分散が良好であると1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す被覆溶融成形体9となる。
【0089】
続いて、該被覆溶融成形体9を、前述の図3(3)に示す加熱室46に搬入して、同様に加熱すると、表面層91の極細導電繊維2が表面に露出したり、図9(3)に示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるような状態となり、表面抵抗率が低下した導電層1が形成される。続いて、被覆溶融成形体9を加熱室46から搬出し、冷却して極細導電繊維2の上記状態を固定した導電層1を形成すると、全表面の表面抵抗率を101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた本発明の導電性成形体Bを製造することができる。
【0090】
図10は本発明の導電性成形体Bの他の製造方法を示す説明図である。この製造方法は、成形体の片面にのみ導電層1が積層された2層構造の導電性成形体Bの方法である。
この製造方法に用いる射出成形金型102は、図10(1)に示すように、固定金型103と可動金型104に、一次側金型105と二次側金型106とが固定されている。
【0091】
このような射出成形金型102を用いて射出成形するには、まず、一次側金型105に上記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を射出成形する。続いて、可動金型104を移動させて型開きするが成形品を取出さずに保持したまま、可動金型104を回転させて二次側金型106側に移動させ、その後、型締めして成形品と二次側金型106の雌型との間に成形空間を形成して、該成形空間に、上記合成樹脂組成物を射出成形することにより、図10(2)に示すように、合成樹脂組成物よりなる基材層3の内面に極細導電繊維含有熱可塑性合成組成物よりなる表面層101が積層された二層射出溶融成形体10を作製する。
【0092】
このように射出成形された二層射出溶融成形体10の表面層101に含有されている極細導電繊維2は、一次側金型105に射出する際に成形方向に剪断力を受けて、強制的に配列・配向し大きな歪を有している。そのため、極細導電繊維2の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと1012Ω/□以上の表面抵抗率を示し、極細導電繊維2の含有量が多いか又は/及び分散が良好であると1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す二層射出溶融成形体10となる。
【0093】
続いて、二層射出溶融成形体10を、前述の図3(3)に示す加熱室46に搬入して、同様に加熱すると、表面層101の極細導電繊維2が表面に露出したり、図10(3)に示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるような状態となり、表面抵抗率が低下した導電層1が形成される。続いて、二層射出溶融成形体10を加熱室46から搬出し、冷却して極細導電繊維2の上記状態を固定した導電層1を形成すると、表面抵抗率を101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた本発明の導電性成形体Bを製造することができる。
なお、導電性成形体Bの内外いずれの側を導電層1とするかは、必要とされる用塗により異なり、基材層3の外面に導電層1を形成するには、先に合成樹脂組成物を射出成形した後で極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を射出成形すればよい。
【0094】
図11は本発明の導電性成形体Bのさらに他の製造方法を示す説明図である。
該製造方法は、まず、前記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を公知のカレンダーロールにより薄いカレンダーシートとなして表面シート111を作製する。一方、熱可塑性合成樹脂組成物も同様にして薄いカレンダーシートとなして基材シート112を作製する。続いて、図11(1)に示すように、重ねられた複数の基材シート112の上下面に表面シート111、111を重ね、加熱されたプレス艶板113、113にて加熱、加圧して、図11(2)に示すように、熱可塑性合成樹脂組成物よりなる基材層3の上下両面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物よりなる表面層114を積層した多層プレス溶融成形体11を作製する。
【0095】
このように表面シート111が基材シート112と共に加熱、加圧されると、表面シート111が溶融して積層する際に、四周に流れて延展し、極細導電繊維2の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと、図11(2)の拡大図に示すように、極細導電繊維2も四周方向に強制的に配列・配向させられて1012Ω/□以上の表面抵抗率を示す歪を有した多層プレス溶融成形体11となる。また、極細導電繊維2の含有量が多いか又は/及び分散がよいと、この延展はそれ程の距離で行なわれないので大きな剪断力を受けることはないことと相まって、該繊維2同士の接触がある程度得られて、1012Ω/□未満の表面抵抗率を示すこととなる。
【0096】
続いて、この多層プレス溶融成形体11を、前述の図3(3)に示す加熱室46に搬入し、同様に加熱すると、極細導電繊維2が表面に露出したり、図11(3)に示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるような状態となり、表面抵抗率が低下した導電層1を形成する。続いて、加熱室46から搬出された多層プレス溶融成形体11を冷却して極細導電繊維2を上記状態で固定した導電層1にすると、表面抵抗率が101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた本発明の導電性成形体Bを得ることができる。
【0097】
図12は本発明の二層構造の導電性成形体Bの他の製造方法を示す説明図である。
まず、ポリエチレンテレフタレートなどの剥離フィルム122に、上記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を溶剤に溶解して得た塗液を塗布固化して極細導電繊維2を含有する表面層121を形成することにより、図12(1)に拡大して示すように、転写フィルム123を作製する。必要なら、接着性樹脂を溶剤に溶解して得た接着塗液を作製し、上記表面層の表面に塗布固化して接着層が形成された転写フィルムを作製する。
【0098】
この転写フィルム123の表面層121に含有されている極細導電繊維2は、塗布する際に、ロールコーター、グラビアロールなどにおいては塗布方向の、スプレーなどにおいては塗布圧の圧力方向の力を受けて、その方向に配列・配向して歪を有した状態で含有されている。そのために、極細導電繊維2の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと、図12(2)に拡大して示すように、極細導電繊維2も塗布・圧力方向に配列・配向させられて1012Ω/□以上となり、極細導電繊維2の含有量が多いか又は/及び分散がよいと、塗布・圧力方向への剪断力が小さいことと相まって、該繊維2同士の接触がある程度得られて、1012Ω/□未満の表面抵抗率を示すこととなる。
【0099】
そして、当該転写フィルム123を、図12(1)に示すように、剥離フィルム122が雄金型側となるように射出成形金型124の内部に配置する。続いて、図12(2)に示すように、該金型124に上記合成樹脂組成物を射出することにより、表面に転写フィルム123が一体化した成形体を得た後、剥離フィルム122を剥離することにより、図12(3)に示す合成樹脂組成物からなる基材層3の表面に極細導電繊維含有樹脂組成物からなる表面層121が転写された転写溶融成形体12を作製する。この転写溶融成形体12に転写された表面層121も、極細導電繊維2が転写フィルム123の時と同じ状態で分散し同様の表面抵抗率を有している。
【0100】
続いて、上記転写溶融成形体12を、前述した図3(3)に示す加熱室46に搬入して、同様に加熱すると、表面層121に含有されている極細導電繊維2が表面に露出したり、図12(4)に示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるような状態となり、表面層121の表面抵抗率が低下した導電層1が形成される。続いて、転写溶融成形体12を加熱室46から搬出し冷却して極細導電繊維2の上記状態を固定した導電層1を形成すると、表面抵抗率を101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた本発明の導電性成形体Bを製造することができる。
【0101】
図13は本発明の二層構造の導電性成形体Bの他の製造方法を示す説明図である。
まず、アクリルフィルムなどよりなる接着性フィルム基材132に、上記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を溶剤に溶解して得た塗液を塗布固化して極細導電繊維2を含有する表面層131を形成することにより、図13(1)に拡大して示すように、ラミネート用フィルム133を作製する。
【0102】
このラミネート用フィルム133の表面層131に含有されている極細導電繊維2は、前記転写フィルム123と同様に、塗液を塗布する際に塗布方向などの力を受けて、その方向に配列・配向して歪を有した状態で含有されている。このラミネート用フィルム133も、極細導電繊維2の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと1012Ω/□以上の、極細導電繊維2の含有量が多いか又は/及び分散がよいと1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す。
【0103】
そして、図13(1)に示すように、当該ラミネート用フィルム133を表面層131が雄金型側となるように射出成形金型134の内部に配置した後に、図13(2)に示すように該金型134に上記合成樹脂組成物を射出することにより、図13(3)に示すように、合成樹脂組成物からなる基材層3の表面にラミネート用フィルム133がラミネート一体化した溶融成形体13を作製する。
【0104】
続いて、上記ラミネート溶融成形体13を、前述の図3(3)に示す加熱室46に搬入して、同様に加熱すると、表面層131に含有されている極細導電繊維2が表面に露出したり、図13(4)に示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるような状態となり、表面層131の表面抵抗率が低下して導電層1が形成される。続いて、ラミネート溶融成形体13を加熱室46から搬出し冷却して極細導電繊維2の上記状態を固定した導電層1を形成すると、表面抵抗率を101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた本発明の導電性成形体Bを製造することができる。
【0105】
上記のラミネート用フィルム133は、接着性フィルム基材132に極細導電繊維を含有する表面層131を形成させてなるものであるが、これに代えて、上記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物からなるラミネート用フィルムを押出成形やブロー成形などの溶融成形法にて予め作製し、これを同様に用いてラミネートしても、加熱することにより極細導電繊維が動いて表面抵抗率が低下した導電層1を有する導電性成形体Bを製造することができる。この場合、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物の樹脂と基材層との樹脂とは同一化相溶性のある樹脂を選択することが好ましい。
【0106】
図14に、本発明の二層構造の導電性成形体Bの他の製造方法を示す。
まず、図14(1)に示すように、公知の方法を用いて、上記合成樹脂組成物を射出成形金型142に射出成形して成形体143(基材層3)を作製する。そして、図14(2)に示すように、該成形体143の片面に、上記極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を溶剤に溶解して得た塗液を刷毛やスプレーなどにより塗布、固化して、図14(3)に示すように、成形体143からなる基材層3の表面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂塗膜141を形成した溶融成形体14を作製する。
【0107】
この塗膜溶融成形体14の塗膜141に含有されている極細導電繊維2は、前記転写フィルム123と同様に、塗液を塗布する際に塗布方向などの力を受けて、その方向に配列・配向して歪を有した状態で含有されている。この塗膜141は、前述の転写フィルム又はラミネートフィルムと同様に塗布されて形成されるので、極細導電繊維2の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと1012Ω/□以上の、極細導電繊維2の含有量が多いか又は/及び分散がよいと1012Ω/□未満の表面抵抗率を示す。
【0108】
続いて、塗膜溶融成形体14を、前述の図3(3)に示す加熱室46に搬入して、同様に加熱すると、塗膜141に含有されていた極細導電繊維2が表面に露出したり、図14(4)に示すように表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されるような状態となされ、塗膜141の表面抵抗率が低下した導電層1が形成される。続いて、塗膜溶融成形体14を加熱室46から搬出し冷却して極細導電繊維2の上記状態を固定した導電層1を形成すると、表面抵抗率を101Ω/□以上1012Ω/□未満の範囲となされた本発明の導電性成形体Bを製造することができる。
なお、塗液を成形体143の両面又は全表面に塗布すれば、これを加熱することで両面又は全表面に導電層1を形成した導電性成形体Bを製造することができる。
【0109】
その他、本発明を逸脱しない範囲で種々の導電性成形体の製造方法が採用され得る。
例えば、上記各製造方法において、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を射出成形金型内に射出成形した後に、溶融成形品を取出さないで金型を成形機から外し、続いて、該成形品保持金型を上記と同様に加熱すると、溶融成形体の少なくとも表面の極細導電繊維が上記と同様の理由で動き、極細導電繊維が表面に露出したり、表面から100nm未満の内部に存在するようになり、表面抵抗率が低下した導電層を形成する。しかる後に、該成形体を射出成形金型から取り外すことにより、表面抵抗率が101Ω/□以上1012Ω/□未満である導電性成形体を製造することができる。
【0110】
さらに、上記の導電性成形体Bに使用した極細導電繊維を含有する表面層が形成された転写フィルム又は極細導電繊維を含有するラミネート用フィルム又は接着性フィルム基材に極細導電繊維を含有する表面層が形成されたラミネート用フィルムを、押出成形中の成形体に公知の転写技術やラミネート技術を用いて、転写又はラミネートして積層溶融成形体を成形し、続いて、該積層溶融成形体を上記と同様に加熱すると、積層溶融成形体の少なくとも表面の極細導電繊維が上記と同様の理由で動き、極細導電繊維が表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に存在するようになり、表面抵抗率が低下した導電層を形成して、表面抵抗率が101Ω/□以上1012Ω/□未満である導電性成形体Bを製造することができる。
【0111】
次に、本発明の更に具体的な実施例を説明する。
【0112】
[実施例1]
市販のポリカーボネート樹脂と、直径が10〜20nmである多層カーボンナノチューブ(シンセンナノテクポート社製)とを均一に混合して、多層カーボンナノチューブが2.5質量%含有された多層カーボンナノチューブ含有ポリカーボネート樹脂組成物を作製した。このポリカーボネート樹脂は非晶質で融点を有さないが、5.0×104Pa・sの粘度を示す樹脂温度は220℃であった。
この組成物を、射出成形機にて、大きさが30×500mm、厚さが2mmの板状の射出溶融成形体を得た。
続いて、該射出溶融成形体を、230℃に加熱されたギヤオーブン中に15分間放置して加熱し、その後、取出して冷却し、実施例1の導電性成形体を得た。
【0113】
加熱前後の射出溶融成形体と導電性成形体とについて、表面抵抗率を測定した。その結果、射出溶融成形体は9.5×1013Ω/□の表面抵抗率しか示さずに制電機能も導電機能も示さなかったが、導電性成形体は4.5×103Ω/□の表面抵抗率を示して導電機能を発揮した。この結果より、導電性を有さないポリカーボネート樹脂射出溶融成形体を加熱するだけで表面抵抗率が低下することがわかった。
【0114】
尚、表面抵抗率は三菱化学(株)製の低抵抗測定器とロレスタGPと高抵抗測定器ハイレスタUPで測定した値である。ロレスタGPは10-2〜107Ω/□の、ハイレスタUPは106〜1014の範囲の表面抵抗率の測定に用いる測定器であり、それぞれの表面抵抗率に応じて使い分けた。
また、多層カーボンナノチューブ含有ポリカーボネート樹脂組成物の230℃における粘度を、動的粘弾性測定装置(Pear社製Modular Compact Rheameter MCR300)にて測定したところ、剪断速度1sec-1のときの粘度は3.0×104Pa・sであった。
【0115】
[実施例2]
市販の非晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂と、実施例1で使用した多層カーボンナノチューブを4質量%添加し均一に混合した多層カーボンナノチューブ含有ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を作製した。この非晶質ポリエチレンテレフタレート樹脂は融点を有さないが、1.0×104Pa・sの粘度を示す樹脂温度は190℃であった。
この組成物を、実施例1と同様に射出成形し、同じ形状の射出溶融成形体を得た。続いて、該射出溶融成形体を、200℃に加熱されたギヤオーブン中に、15分間放置して加熱し、その後、取出して冷却して、実施例2の導電性成形体を得た。
【0116】
この加熱前後の射出溶融成形体と導電性成形体とについて、実施例1と同様にして表面抵抗率を測定した。その結果、射出溶融成形体は9.0×1013Ω/□の表面抵抗率しか示さなかったが、導電性成形体は8.5×102Ω/□の表面抵抗率を示して導電機能を示した。この結果より、導電性を有さないポリエチレンテレフタレート樹脂射出溶融成形体を加熱するだけで表面抵抗率が低下することがわかった。
また、多層カーボンナノチューブ含有ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の200℃における粘度を、実施例1と同様に測定したところ、9.7×103Pa・sであった。
【0117】
[実施例3]
市販のポリプロピレン樹脂と、直径が10〜20nmである多層カーボンナノチューブ(CNT社製)とを均一に混合して、多層カーボンナノチューブが3.5質量%含有された多層カーボンナノチューブ含有ポリプロピレン樹脂組成物を作製した。このポリプロピレン樹脂の融点温度は172℃であった。
この組成物を、実施例1と同様に射出成形し、同じ形状の射出溶融成形体を得た。続いて、該射出溶融成形体を、融点温度より28℃高い200℃に加熱されたギヤオーブン中に、15分間放置して加熱し、その後、取出して冷却して、実施例3の導電性成形体を得た。
この多層カーボンナノチューブ含有ポリプロピレン樹脂組成物の200℃における粘度を、実施例1と同様に測定したところ、5.5×103Pa・sであった。
【0118】
この加熱前後の射出溶融成形体と導電性成形体とについて、実施例1と同様にして表面抵抗率を測定した。その結果、射出溶融成形体は1.1×1012Ω/□の表面抵抗率しか示さなかったが、導電性成形体は7.8×102Ω/□の表面抵抗率を示して導電機能を示した。この結果より、導電性を有さないポリフロピレン樹脂射出溶融成形体を加熱するだけで表面抵抗率が低下することがわかった。
【0119】
[実施例4]
実施例1で使用したポリカーボネート樹脂と、単層カーボンナノチューブ[文献Chemical Physics Letters,323(2000),P580−585に基づいて合成したもの、直径1.3〜1.8nm]とを均一に混合して、単層カーボンナノチューブが1質量%含有された単層カーボンナノチューブ含有ポリカーボネート樹脂組成物を作製した。
この組成物を、実施例1と同様に射出成形して、同じ形状の射出溶融成形体を得た。続いて、該射出溶融成形体を、230℃に加熱されたギヤオーブン中に15分間放置して加熱し、その後、取出して冷却して実施例4の導電性成形体を得た。この単層カーボンナノチューブ含有ポリカーボネート樹脂組成物の230℃における粘度を、実施例1と同様に測定したところ、3.5×104Pa・sであった。
【0120】
加熱前後の射出溶融成形体と導電性成形体とについて、表面抵抗率を測定した。その結果、射出溶融成形体は1.0×109Ω/□の表面抵抗率を示したが、導電性成形体は6.5×104Ω/□の表面抵抗率を示した。この結果より、カーボンナノチューブが多層であろうと単層であろうと、ポリカーボネート樹脂射出溶融成形体を加熱するだけで表面抵抗率が低下することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明に係る導電性成形体の一実施形態を示す断面図である。
【図2】導電性成形体の拡大断面図である。
【図3】本発明に係る導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【図4】本発明に係る他の導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【図5】本発明に係るさらに他の導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【図6】本発明に係るさらに他の導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【図7】本発明に係るさらに他の導電性成形体の実施形態を示す拡大断面図である。
【図8】本発明に係るさらに他の導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【図9】本発明に係るさらに他の導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【図10】本発明に係るさらに他の導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【図11】本発明に係るさらに他の導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【図12】本発明に係るさらに他の導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【図13】本発明に係るさらに他の導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【図14】本発明に係るさらに他の導電性成形体の製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0122】
1 導電層
2 極細導電繊維
3 基材層
4 射出溶融成形体
46 加熱室
5 押出溶融成形体
6 プレス溶融成形体
7 切削用成形体
8 共押出溶融成形体
9 被覆溶融成形体
10 二層射出溶融成形体
11 多層プレス溶融成形体
12 転写溶融成形体
13 ラミネート溶融成形体
14 塗膜溶融成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体の表面に少なくとも極細導電繊維を含有する導電層が形成されてなる成形体であって、該導電層が、加熱されて該表面に極細導電繊維を露出させるか、又は該表面から突出させ、表面抵抗率を低下させて形成されたことを特徴とする導電性成形体。
【請求項2】
成形体の表面に少なくとも極細導電繊維を含有する導電層が形成されてなる成形体であって、該導電層が、加熱されて該表面から100nm未満の内部に極細導電繊維を含有させ、表面抵抗率を低下させて形成されたことを特徴とする導電性成形体。
【請求項3】
成形体が、極細導電繊維を含有しない基材層と、極細導電繊維を含有する導電層とからなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性成形体。
【請求項4】
導電層が、加熱前は1012Ω/□以上の表面抵抗率を有し、加熱後は1012Ω/□未満の表面抵抗率を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の導電性成形体。
【請求項5】
極細導電繊維がカーボンナノチューブであって、該カーボンナノチューブが導電層に0.01〜12.0質量%含有され、成形体の表面抵抗率が101Ω/□以上1012Ω/□未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の導電性成形体。
【請求項6】
極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物を溶融成形して溶融成形体を作製し、該溶融成形体の少なくとも表面を加熱し、極細導電繊維を溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とする導電性成形体の製造方法。
【請求項7】
極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物を溶融成形して溶融成形体を作製し、該溶融成形体を切削などの二次加工を施して二次加工成形体となし、該二次加工成形体の少なくとも表面を加熱し、極細導電繊維を二次加工成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とする導電性成形体の製造方法。
【請求項8】
溶融成形が、押出成形、射出成形、プレス成形のいずれかにより行なわれることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項9】
極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物と熱可塑性樹脂とを共押出成形して、熱可塑性樹脂よりなる基材層の片面、又は両面、又は全表面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物よりなる表面層を積層した溶融成形体を作製し、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱し、極細導電繊維を該溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とする導電性成形体の製造方法。
【請求項10】
極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物を射出成形金型内に射出した後に、さらに合成樹脂を前記金型内に射出し、合成樹脂よりなる基材層の表面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂よりなる表面層を積層した溶融成形体又は前記基材層の周りを前記表面層で覆った溶融成形体を作製し、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱し、極細導電繊維を該溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とする導電性成形体の製造方法。
【請求項11】
極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物よりなる表面シートを作製すると共に熱可塑性合成樹脂組成物よりなる基材シートを作製し、該基材シートの片面又は両面に表面シートを重ねた後に熱圧して、熱可塑性合成樹脂組成物よりなる基材層の表面に極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物よりなる表面層を積層した溶融成形体を作製し、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱し、極細導電繊維を該溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とする導電性成形体の製造方法。
【請求項12】
極細導電繊維を含有する表面層が形成された転写フィルムを予め作製し、該転写フィルムを射出成形金型内に配置し、その金型内に合成樹脂を射出して、合成樹脂よりなる基材層の表面に極細導電繊維含有表面層を転写した溶融成形体を作製した後に、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱して、極細導電繊維を該溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とする導電性成形体の製造方法。
【請求項13】
極細導電繊維を含有するラミネート用フィルム又はフィルム基材に極細導電繊維を含有する表面層が形成されたラミネート用フィルムを予め作製し、該ラミネート用フィルムを射出成形金型内に配置した後に、その金型内に合成樹脂を射出して、合成樹脂よりなる基材層の表面にラミネート用フィルムをラミネートした溶融成形体を作製した後に、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱して、極細導電繊維を該溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とする導電性成形体の製造方法。
【請求項14】
合成樹脂を溶融成形して得た成形体の表面に極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂塗液を塗布・固化して、成形体の表面に極細導電繊維含有樹脂塗膜を有する溶融成形体を作製した後に、その溶融成形体の少なくとも表面を加熱して、極細導電繊維を該溶融成形体の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて、表面抵抗率を低下させた導電層を形成することを特徴とする導電性成形体の製造方法。
【請求項15】
前記溶融成形体の加熱が、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度の温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲で行なわれることを特徴とする請求項6ないし請求項14のいずれかに記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項16】
前記溶融成形体の加熱が、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上1.0×107Pa・s未満の範囲で行われることを特徴とする請求項6ないし請求項14のいずれかに記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項17】
前記溶融成形体の加熱が、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度の温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲に加熱された加熱室にて行なわれることを特徴とする請求項6ないし請求項16のいずれかに記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項18】
前記溶融成形体の加熱が、熱風、炎、加熱ニクロム線、熱媒体、熱プレス、赤外線のいずれかの熱源、又はマイクロ波を用いて行なわれることを特徴とする請求項6ないし請求項17のいずれかに記載の導電性成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−297501(P2007−297501A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126044(P2006−126044)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】