導電性複合酸化物層の製造方法、強誘電体層を有する積層体の製造方法
【課題】結晶性の良好な導電性複合酸化物層が得られる導電性複合酸化物層の製造方法を提供すること。
【解決手段】導電性複合酸化物層の製造方法は、基体の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、を含む。
【解決手段】導電性複合酸化物層の製造方法は、基体の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性複合酸化物層の製造方法、および当該製造方法を適用した、強誘電体層を有する積層体の製造方法ならびにデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式ABO3で表される導電性複合酸化物層の成膜方法のひとつとして、スパッタ法が知られている。かかるスパッタ法では、通常、放電ガスとしての不活性ガスと、酸化性ガスとしての酸素とが共存した雰囲気を用いる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、結晶性の良好な導電性複合酸化物層が得られる導電性複合酸化物層の製造方法を提供することにある。
【0004】
本発明の他の目的は、本発明に係る導電性複合酸化物層の製造方法を適用した、強誘電体層を有する積層体の製造方法を提供することにある。
【0005】
本発明のさらに他の目的は、本発明にかかる積層体の製造方法を含む、デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る導電性複合酸化物層の製造方法は、
基体の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を含む。
【0007】
本発明に係る導電性複合酸化物層の製造方法によれば、導電性複合酸化物層をスパッタリングによって形成する際に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリング工程と、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリング工程を有することにより、結晶性および表面モフォロジーなどに優れた導電性複合酸化物層を形成することができる。
【0008】
本発明において、特定のA層(以下、「A層」という。)の上方に設けられた特定のB層(以下、「B層」という。)というとき、A層の上に直接B層が設けられた場合と、A層の上に他の層を介してB層が設けられた場合とを含む意味である。
【0009】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記第1スパッタリングは、不活性ガスと酸素との共存下において行われることができる。
【0010】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記第1導電性複合酸化物層と前記第2導電性複合酸化物層とは、同じ化合物であることができる。
【0011】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記第2スパッタリングは、酸素を含まない雰囲気下で行われることができる。
【0012】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記第2導電性複合酸化物層を形成した後に、熱処理を行う工程を有することができる。
【0013】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記A元素は、La、Ca、Sr、Mn、BaおよびReから選択される少なくとも一つであり、
前記B元素は、Ti、V、Sr、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Ir、PbおよびNdから選択される少なくとも一つであることができる。
【0014】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記A元素はLaであり、前記B元素はNiであることができる。
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記スパッタリングは、RFスパッタリングであることができる。
【0015】
本発明に係る強誘電体層を有する積層体の製造方法は、
基体の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第2導電性複合酸化物層の上方に、強誘電体層を形成する工程と、
を含む。
【0016】
本発明に係る積層体の製造方法によれば、良好な特性を有する導電性複合酸化物層を得ることができるので、ヒステリシス特性や圧電特性の優れた積層体を得ることができる。
【0017】
本発明に係る強誘電体層を有する積層体の製造方法において、
前記強誘電体層の上方に、スパッタリングによって、一般式ABO3で表される導電性複合酸化物層を形成する工程を有することができる。
【0018】
本発明に係る強誘電体層を有する積層体の製造方法において、
前記導電性複合酸化物層は、第1酸素濃度で行われる第3スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第3導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第3導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第4スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第4導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を有することができる。
【0019】
本発明に係る強誘電体層を有する積層体の製造方法は、
基体の上方に、強誘電体層を形成する工程と、
前記強誘電体層の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を含む。
【0020】
本発明に係る積層体の製造方法によれば、良好な特性を有する導電性複合酸化物層を得ることができるので、圧電特性の優れた積層体を得ることができる。
【0021】
本発明に係るデバイスの製造方法は、本発明に係る積層体の製造方法を含む。
【0022】
本発明に係る製造方法が適用されるデバイスについては、後述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
1.強誘電体層を有する第1の積層体の製造方法
本実施形態に係る第1の積層体の製造方法について、図1ないし図5を参照しながら説明する。図1ないし図3は、本実施形態に係る導電性複合酸化物層の製造方法を模式的に示す断面図である。
【0025】
(1) まず、図1に示すように、基体1を準備する。基体1は、図示の例では、シリコン基板10上に、酸化シリコン層12、酸化チタン層14および白金層16が順に形成されたものである。かかる基体1は、たとえば、以下のようにして形成される。
【0026】
シリコン基板10上に、酸化シリコン層12を形成する。ついで、酸化シリコン層12上に、DC(直流)スパッタなどによって酸化チタン層14を形成する。この酸化チタン層14は、酸化シリコン層12と白金層16との密着性を向上させることができる。酸化チタン層14は、たとえば10〜40nmの膜厚を有することができる。酸化チタン層14のかわりにチタン層などを用いることもできる。ついで、酸化チタン層14上に、DC(直流)スパッタなどによって白金層16を形成する。白金層16は、たとえば50〜200nmの膜厚を有することができる。白金層16の代わりに他の白金族金属を用いることもできる。
【0027】
基体1は、導電性複合酸化物層の用途によって選択され、その構成は特に限定されず、絶縁性基板、半導体基板等を用いることができる。絶縁性基板としては、たとえばサファイア基板、プラスチック基板、ガラス基板などを用いることができ、半導体基板としてはシリコン基板、ゲルマニウム基板、TiO2基板、ZnO基板、NiOx基板などを用いることができる。また、基体1は、基板単体あるいは基板上に他の層が積層された積層体であってもよい。
【0028】
(2) 図2に示すように、基体1上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第1導電性複合酸化物層20を形成する。
【0029】
前記一般式において、A元素は、La、Ca、Sr、Mn、BaおよびReから選択される少なくとも一つであり、B元素は、Ti、V、Sr、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Ir、PbおよびNdから選択される少なくとも一つであることができる。また、本実施形態おける導電性複合酸化物膜としては、LaCoO3、SrCoO3、La1−xSrxCoO3[ここで、xおよびyは0〜1の有理数を表す。以下の化学式においても同様である。]等のLa(Sr)CoO3[ここで、( )内の金属は置換金属を意味する。以下の化学式においても同様である。]、LaMnO3、SrMnO3、La1−xSrxMnO3等のLa(Sr)MnO3、LaNiO3、SrNiO3、La(Sr)NiO3、CaCoO3、La(Ca)CoO3、LaFeO3、SrFeO3、La(Sr)FeO3、La1−xSrxCo1−yFeyO3等のLa(Sr)Co(Fe)O3、あるいは、La1−xSrxVO3、La1−xCaxFeO3、LaBaO3、LaMnO3、LaCuO3、LaTiO3、BaCeO3、BaTiO3、BaSnO3、BaPbO3、BaPb1−xO3、CaCrO3、CaVO3、CaRuO3、SrIrO3、SrFeO3、SrVO3、SrRuO3、Sr(Pt)RuO3、SrTiO3、SrReO3、SrCeO3、SrCrO3、BaReO3、BaPb1−xBixO3、CaTiO3、CaZrO3、CaRuO3、CaTi1−xAlxO3、などを例示できる。
【0030】
第1導電性複合酸化物層20の材質としては、上記の中でも、LaNiO3を好ましく用いることができる。第1導電性複合酸化物層20は、少なくとも層を形成していればよく、その膜厚は特に限定されないが、たとえば40〜100nmであることができきる。
【0031】
第1導電性複合酸化物層20は、RFスパッタリング(Radio Frequency Sputtering)(以下、「第1スパッタリング」ともいう)によって形成することができる。第1スパッタリングは、不活性ガスと酸素との共存下で行われる。不活性ガスとしては、アルゴンを用いることができる。アルゴンと酸素との流量の比率は特に限定されないが、たとえば、アルゴン/酸素=49/1〜40/10とすることができる。また、基体1の温度は、200〜500℃とすることができる。パワーは、スパッタ装置のタイプなどによって適宜選択されるが、たとえば1000〜1500Wとすることができる。
【0032】
第1スパッタリングでは、不活性ガスと酸素の他に、必要に応じて他のガス、たとえば反応性ガスを含む雰囲気を用いることができる。
【0033】
(3) 図3に示すように、第1導電性複合酸化物層20上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第2導電性複合酸化物層22を形成する。第2導電性複合酸化物層22としては、第1導電性複合酸化物層20として例示したものと同じものを例示することができる。第2導電性複合酸化物層22は、第1導電性複合酸化物層20と同じ化合物であることができる。第2導電性複合酸化物層22の材質としては、LaNiO3を好ましく用いることができる。第2導電性複合酸化物層22の膜厚は、特に限定されず、最終的に得たい導電性複合酸化物層2の膜厚に依存して選択される。
【0034】
第2導電性複合酸化物層22は、第1導電性複合酸化物層20と同様に、RFスパッタリング(以下、「第2スパッタリング」ともいう)によって形成することができる。この工程では、RFスパッタリングは、不活性ガスと、前記第1スパッタリングより少なくとも低濃度の酸素との共存下において行われる。また、この工程では、RFスパッタリングで用いられるガスは、酸素を含まず、不活性ガスだけでもよい。また、第2スパッタリングでは、不活性ガスと酸素の他に、必要に応じて他のガス、たとえば反応性ガスを含む雰囲気を用いることができる。
【0035】
不活性ガスとしては、アルゴンを用いることができる。アルゴンと酸素との流量の比率は、上記の条件を満たす限り特に限定されないが、たとえば、アルゴン/酸素=50/0〜45/5とすることができる。また、基体1の温度は、200〜500℃とすることができる。パワーは、スパッタ装置のタイプなどによって適宜選択されるが、たとえば1000〜1500Wとすることができる。
【0036】
(4) 次いで、第1、第2導電性複合酸化物層20,22の結晶性を上げるために、熱処理を行う。この熱処理は、導電性複合酸化物層の材質等によって異なるが、たとえば500ないし800℃で行うことができる。熱処理は、アルゴンおよび酸素の少なくとも一方を含む雰囲気で行うことができる。
【0037】
このように、導電性複合酸化物層2をRFスパッタリングによって形成する際に、不活性ガスたとえばアルゴン雰囲気の酸素濃度が高い第1スパッタリング工程と、第1スパッタリングより酸素濃度が低いかもしくは酸素を含まない第2スパッタリング工程を有することにより、後述する実施例からも明らかなように、結晶性および表面モフォロジーに優れた導電性複合酸化物層を形成することができる。
【0038】
以上の工程で形成された、第1および第2導電性複合酸化物層20,22を有する導電性複合酸化物層2は、導電層や電極として用いることができる。たとえば、キャパシタを得たい場合には、引き続いて以下の工程(5)ないし(8)を行うことによりキャパシタを得ることができる。
【0039】
(5) 図4に示すように、第2導電性複合酸化物層22上に、強誘電体層3を形成する。強誘電体層3は、特に限定されず、デバイスによって適宜選択される。強誘電体層3の強誘電体としては、ペロブスカイト型強誘電体、たとえばPZT(Pb(Zr,Ti)O3)、PZTN(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)、SBT(SrBi2Ta2O9)、BST((Ba,Sr)TiO3)、KN(KNbO3)などを例示できる。
【0040】
強誘電体層3の形成方法は特に限定されず、ゾル・ゲル法などの液相法、CVD法、MOCVD法、スパッタ法などの気相法など、公知の方法を用いることができる。
【0041】
(6) 図5に示すように、強誘電体層3上に導電性複合酸化物層4を形成する。図示の例では、導電性複合酸化物層4は、第3導電性複合酸化物層40と第4導電性複合酸化物層42とを有する。第3導電性複合酸化物層40は、前述した第1導電性複合酸化物層20と同様の方法で形成することができる。また、第4導電性複合酸化物層42は、第2導電性複合酸化物層22と同様の方法で形成することができる。
【0042】
すなわち、図5に示すように、強誘電体層3上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第3導電性複合酸化物層40を形成する。第3導電性複合酸化物層40は、少なくとも層を形成していればよく、その膜厚は特に限定されないが、たとえば40〜100nmであることができる。
【0043】
第3導電性複合酸化物層40は、RFスパッタリング(以下、「第3スパッタリング」ともいう)によって形成することができる。このスパッタリングの条件等は、第1導電性複合酸化物層20の成膜条件等と同様であるので、詳細は省略する。
【0044】
(7) 次いで、図5に示すように、第3導電性複合酸化物層40上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第4導電性複合酸化物層42を形成する。第4導電性複合酸化物層42の膜厚は、特に限定されず、最終的に得たい導電性複合酸化物層4の膜厚に依存して選択される。
【0045】
第4導電性複合酸化物層42は、第2導電性複合酸化物層22と同様に、RFスパッタリングによって形成することができる。このスパッタリングの条件等は、第2導電性複合酸化物層22の成膜条件等と同様であるので、詳細は省略する。
【0046】
第3導電性複合酸化物層40,第4導電性複合酸化物層42の材質としては、第1導電性複合酸化物層20と同様のものを例示できる。また、第3導電性複合酸化物層40と第4導電性複合酸化物層42とは同じ物質から構成されることができる。
【0047】
(8) 次いで、第3、第4導電性複合酸化物層40,42の結晶性を上げるために、熱処理を行う。この熱処理は、導電性複合酸化物層の材質等によって異なるが、たとえば500ないし800℃で行うことができる。熱処理は、アルゴンおよび酸素の少なくとも一方を含む雰囲気で行うことができる。
【0048】
以上の工程で形成された、第3および第4導電性複合酸化物層40,42を有する導電性複合酸化物層4は、第1および第2導電性複合酸化物層20,22と同様の特徴を有し、導電層や電極として用いることができる。また、上部電極としての導電性複合酸化物層4を下部電極としての導電性複合酸化物層2と同様の構成とすることにより、上下の電極と強誘電体層との界面のバンドギャップを合わせることができ、より優れたキャパシタ特性、ヒステリシス特性ならびに圧電特性を得ることができる。
【0049】
導電性複合酸化物層4は、第3および第4導電性複合酸化物層40,42の積層体に限定されず、1層の導電性複合酸化物層であってもよい。また、導電性複合酸化物層4は、導電性複合酸化物層2と異なる材質のものでもよい。
【0050】
以上の工程により、基体1上に、下部電極としての導電性複合酸化物層2,強誘電体層3および上部電極としての導電性複合酸化物層4からなるキャパシタを形成することができる。
【0051】
本実施形態によれば、以下のような特徴を有する。
【0052】
少なくとも導電性複合酸化物層2をRFスパッタリングによって形成する際に、不活性ガスたとえばアルゴン雰囲気の酸素濃度が高い第1スパッタリング工程と、第1スパッタリングよりアルゴン雰囲気の酸素濃度が低いかもしくは酸素を含まない第2スパッタリング工程を有することにより、後述する実施例からも明らかなように、結晶性および表面モフォロジーに優れた導電性複合酸化物層を形成することができる。
【0053】
また、上記導電性複合酸化物層2を有するキャパシタは、優れたヒステリシス特性、圧電特性を有し、後述するように、半導体メモリ装置、圧電素子等の各種用途に用いることができる。
【0054】
2.強誘電体層を有する第2の積層体の製造方法
本実施形態に係る導電性複合酸化物層を含む第2の積層体の製造方法について、図6を参照しながら説明する。図6は、第2の積層体の製造方法を模式的に示す断面図である。本実施形態では、基体1上に、強誘電体層3および導電性複合酸化物層1が順次形成されている点で、上記第1の積層体と相違する。
【0055】
(1) 図6に示すように、基体1を準備する。基体1は、図示の例では、シリコン基板10上に、酸化シリコン層12、酸化チタン層14および白金層16が順に形成されたものである。基体1は、第1の積層体で述べたと同様の構成を有するので、詳細な説明を省略する。また、基体1は、導電性複合酸化物層および強誘電体層の用途によって選択される。基体1の構成は特に限定されず、絶縁性基板、半導体基板等を用いることができる。絶縁性基板としては、たとえばサファイア基板、単結晶基板(LiTaO3、LiNbO3、Li2B4O7)、プラスチック基板、ガラス基板などを用いることができ、半導体基板としてはシリコン基板などを用いることができる。また、基体1は、基板単体あるいは基板上に他の層が積層された積層体であってもよい。
【0056】
(2) 図6に示すように、基体1上に、強誘電体層3を形成する。強誘電体層3は、特に限定されず、デバイスによって適宜選択される。強誘電体層3の強誘電体としては、ペロブスカイト型強誘電体、たとえばPZT(Pb(Zr,Ti)O3)、PZTN(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)、SBT、BST、KN(KNbO3)などを例示できる。
【0057】
強誘電体層3の形成方法は特に限定されず、ゾル・ゲル法などの液相法、CVD法、スパッタ法などの気相法など、公知の方法を用いることができる。
【0058】
(3) 図6に示すように、強誘電体層3上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第1導電性複合酸化物層20を形成する。第1導電性複合酸化物層20としては、図2ないし図5に示す第1導電性複合酸化物層20で用いたと同様のものを用いることができる。第1導電性複合酸化物層20は、少なくとも層を形成していればよく、その膜厚は特に限定されないが、たとえば40〜100nmであることができきる。
【0059】
第1導電性複合酸化物層20は、RFスパッタリング(以下、「第1スパッタリング」ともいう)によって形成することができる。第1スパッタリングは、不活性ガスと酸素との共存下で行われる。不活性ガスとしては、アルゴンを用いることができる。アルゴンと酸素との比率は特に限定されないが、たとえば、アルゴン/酸素=49/1〜40/10とすることができる。また、基体1の温度は、200〜500℃とすることができる。パワーは、スパッタ装置のタイプなどによって適宜選択されるが、たとえば1000〜1400Wとすることができる。
【0060】
(4) 図6に示すように、第1導電性複合酸化物層20上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第2導電性複合酸化物層22を形成する。第2導電性複合酸化物層22としては、図3ないし図5に示す第2導電性複合酸化物層22で用いたと同様のものを用いることができる。第2導電性複合酸化物層22の膜厚は、特に限定されず、最終的に得たい複合酸化物層2の膜厚に依存して選択される。
【0061】
第2導電性複合酸化物層22は、第1導電性複合酸化物層20と同様に、RFスパッタリング(以下、「第2スパッタリング」ともいう)によって形成することができる。この工程では、RFスパッタリングは、不活性ガスと、前記第1スパッタリングより少なくとも低濃度の酸素との共存下において行われる。また、この工程では、RFスパッタリングで用いられるガスは、酸素を含まず、不活性ガスだけでもよい。
【0062】
不活性ガスとしては、アルゴンを用いることができる。アルゴンと酸素との流量の比率は、上記の条件を満たす限り特に限定されないが、たとえば、アルゴン/酸素=50/0〜40/10とすることができる。また、基体1の温度は、200〜500℃とすることができる。パワーは、スパッタ装置のタイプなどによって適宜選択されるが、たとえば1000〜1400Wとすることができる。
【0063】
(5) 次いで、第1、第2導電性複合酸化物層20,22の結晶性を上げるために、熱処理を行う。この熱処理は、導電性複合酸化物層の材質等によって異なるが、たとえば500ないし800℃で行うことができる。熱処理は、アルゴンおよび酸素の少なくとも一方を含む雰囲気で行うことができる。
【0064】
この工程で形成された、第1および第2導電性複合酸化物層20,22を有する導電性複合酸化物層2は、導電層や電極として用いることができる。
【0065】
以上の工程により、基体1上に、強誘電体層3および導電性複合酸化物層2が順次形成された積層体を得ることができる。
【0066】
本実施形態においても、導電性複合酸化物層2をRFスパッタリングによって形成する際に、不活性ガスたとえばアルゴン雰囲気の酸素濃度が高い第1スパッタリング工程と、第1スパッタリングよりアルゴン雰囲気の酸素濃度が低いかもしくは酸素を含まない第2スパッタリング工程を有することにより、後述する実施例からも明らかなように、結晶性、表面モフォロジーが優れた導電性複合酸化物層を形成することができる。また、かかる導電性複合酸化物層2と、強誘電体層3とを有する積層体は、後述するように、表面弾性波素子、発振器等の弾性表面波を利用した各種用途に用いることができる。
【0067】
3.実施例
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されない。
【0068】
(a) 本実施例のサンプルとして、図3に示す積層体を形成した。すなわち、基体1上に第1導電性複合酸化物層20として第1LaNiO3層と、第2導電性複合酸化物層22として第2LaNiO3層を形成した。
【0069】
基体1としては、シリコン基板10上に、酸化シリコン層12,酸化チタン層14,白金層14を前述した方法で形成したものを用いた。第1LaNiO3層としては、RFスパッタ法により、パワーが1500W、ガスの流量比がアルゴン/酸素=40/10、基板温度が400℃の条件で成膜を行って得られた、膜厚40nmのLaNiO3層を用いた。スパッタターゲットとしては、LaNiO3(組成:ストイキオメトリー)を用いた。第2LaNiO3層としては、RFスパッタ法により、パワーが1500W、ガスの流量比がアルゴン/酸素=50/0、基板温度が400℃の条件で成膜を行って得られた、膜厚40nmのLaNiO3層を用いた。スパッタターゲットとしては、LaNiO3(組成:ストイキオメトリー)を用いた。
【0070】
また、比較用サンプルとして、基体1上に、第3LaNiO3層を形成したものを用いた。第3LaNiO3層としては、第1LaNiO3層の成膜条件と同じ条件(パワーが1500W、ガスの流量比がアルゴン/酸素=40/10、基板温度が400℃の条件)で成膜を行って得られた、膜厚80nmのLaNiO3層を用いた。
【0071】
このようにして得られたサンプルおよび比較用サンプルについて、X線回折(2θ測定)および電子顕微鏡による表面の観察を行った。それらの結果について、図7〜図9に示す。図7は、X線回折結果を示す。図7において、実施例のサンプルの結果を符号aで示し、比較例のサンプルの結果を符号bで示す。図8は、実施例のサンプルのモフォロジーを示し、図9は、比較例のサンプルのモフォロジーを示す。
【0072】
以上の結果から、実施例のサンプルでは、(100)配向が顕著で、かつ表面モフォロジーが良好なLaNiO3層が得られることが確認された。また、比較例のサンプルでは、(100)配向が実施例に比べて非常に弱く、さらに表面モフォロジーが実施例に比べて良好でないLaNiO3層が得られることが確認された。
【0073】
(b)次いで、上記実施例のサンプルをアルゴンまたは酸素雰囲気中で熱処理したサンプルについて、X線回折を行った。熱処理は、800℃で5分間行った。その結果を図10に示す。図10において、符号aは、熱処理を行う前の実施例のサンプル、符号bは酸素雰囲気中で熱処理を行ったサンプル、符号cはアルゴン雰囲気中で熱処理を行ったサンプルの結果を示す。図10から、熱処理によって、(100)配向がより顕著になったことが確認された。また、酸素雰囲気およびアルゴン雰囲気の両者で、ほぼ同様の結果が得られた。
【0074】
(c)本実施例の上記(b)で得られた熱処理後のサンプルを用いキャパシタを形成した。具体的には、LaNiO3層上に、強誘電体層としてPZT層を形成し、さらにPZT層上に白金層を形成した。PZT層は、ゾルゲル法によって形成した。このサンプルをキャパシタサンプルという。また、比較用のサンプルとして、LaNiO3層を形成しない他は本実施例のサンプルと同様にして、比較用のキャパシタサンプルを得た。これらのキャパシタサンプルについてヒステリシス特性を求めた。その結果を図11に示す。図11において、実施例のキャパシタサンプルのヒステリシスを符号aで示し、比較例のキャパシタサンプルのヒステリシスを符号bで示す。
【0075】
図11から、本実施例のサンプルは、比較例のサンプルに比べて良好なヒステリシス特性を有することが確認された。
【0076】
4.デバイス
本発明のデバイスは、本発明の強誘電体層を有する積層体の製造方法によって得られた積層体を有する部品、およびこの部品を有する電子機器を含む。以下に、本発明のデバイスの製造方法が適用されるデバイスの例を記載する。
【0077】
4.1.半導体素子
次に、本発明の製造方法によって得られた積層体を含む半導体素子について説明する。本実施形態では、半導体素子の一例である強誘電体キャパシタを含む強誘電体メモリ装置を例に挙げて説明する。
【0078】
図12(A)および図12(B)は、本発明の製造方法によって得られた積層体を有する強誘電体メモリ装置1000を模式的に示す図である。なお、図12(A)は、強誘電体メモリ装置1000の平面的形状を示すものであり、図12(B)は、図12(A)におけるI−I断面を示すものである。
【0079】
強誘電体メモリ装置1000は、図12(A)に示すように、メモリセルアレイ200と、周辺回路部300とを有する。そして、メモリセルアレイ200は、行選択のための下部電極210(ワード線)と、列選択のための上部電極220(ビット線)とが交叉するように配列されている。また、下部電極210および上部電極220は、複数のライン状の信号電極から成るストライプ形状を有する。なお、信号電極は、下部電極210がビット線、上部電極220がワード線となるように形成することができる。また、周辺回路部300は、前記メモリセルアレイ200に対して選択的に情報の書き込み若しくは読出しを行うための各種回路を含み、例えば、下部電極210を選択的に制御するための第1の駆動回路310と、上部電極220を選択的に制御するための第2の駆動回路320と、その他にセンスアンプなどの信号検出回路(図示省略)とを含んで構成される。
【0080】
図12(B)に示すように、下部電極210と上部電極220との間には、強誘電体層215が配置されている。メモリセルアレイ200では、この下部電極210と上部電極220との交叉する領域において、強誘電体キャパシタ230として機能するメモリセルが構成されている。
【0081】
強誘電体キャパシタ230は、本発明の積層体の製造方法によって形成されることができる。すなわち、少なくとも下部電極210と強誘電体層215とは、本発明の製造方法、たとえば第1の積層体の製造方法によって形成されることができる。下部電極210は、図2〜図5に示す導電性複合酸化物層2(第1導電性複合酸化物層20,第2導電性複合酸化物層22)からなり、強誘電体層215は、図5に示す強誘電体層3からなる。また、上部電極220は、図5に示す導電性複合酸化物層4からなることができる。また、第1の層間絶縁層420は、図5に示す基体1に相当する。層間絶縁層420には、最上層にバリア層(図示省略)を有することができる。
【0082】
強誘電体層215は、少なくとも下部電極210と上部電極220との交叉する領域の間に配置されていればよい。
【0083】
また、周辺回路部300は、図12(B)に示すように、半導体基板400上に形成されたMOSトランジスタ330を含む。MOSトランジスタ330は、ゲート絶縁膜332、ゲート電極334、およびソース/ドレイン領域336を有する。各MOSトランジスタ330間は、素子分離領域410によって分離されている。このMOSトランジスタ330が形成された半導体基板400上には、第1の層間絶縁膜420が形成されている。そして、周辺回路部300とメモリセルアレイ200とは、配線層450によって電気的に接続されている。さらに、強誘電体メモリ装置1000は、第2の層間絶縁膜430および絶縁性の保護層440が形成されている。
【0084】
図13には、半導体装置の他の例として1T1C型強誘電体メモリ装置500の構造図を示す。図14は、強誘電体メモリ装置500の等価回路図である。
【0085】
強誘電体メモリ装置500は、図13に示すように、下部電極501、プレート線に接続される上部電極502、および強誘電体層503からなるキャパシタ504(1C)と、ソース/ドレイン電極の一方がデータ線505に接続され、ワード線に接続されるゲート電極506を有するスイッチ用のトランジスタ素子507(1T)からなるDRAMに良く似た構造のメモリ素子である。1T1C型のメモリは、書き込みおよび読み出しが100ns以下と高速で行うことができ、かつ書き込んだデータは不揮発であるため、SRAMの置き換え等に有望である。
【0086】
この強誘電体メモリ装置500の少なくとも下部電極501および強誘電体層503、さらに必要に応じて上部電極502を本発明における第1の積層体の製造方法によって形成することができる。下部電極501は、図2〜図5に示す導電性複合酸化物層2(第1導電性複合酸化物層20,第2導電性複合酸化物層22)からなり、強誘電体層503は、図5に示す強誘電体層3からなる。また、上部電極502は、図5に示す導電性複合酸化物層4からなることができる。
【0087】
本実施形態の半導体装置は、上述したものに限定されず、2T2C型強誘電体メモリ装置などにも適用できる。
【0088】
4.2.圧電素子
次に、本発明の積層体の製造方法を圧電素子の製造方法に適用した例について説明する。
【0089】
図15は、本発明の製造方法によって形成された積層体(第1の積層体)を有する圧電素子を示す断面図である。この圧電素子は、基体1と、基体1の上に形成された下部電極2と、下部電極2の上に形成された圧電体層3と、圧電体層3の上に形成された上部電極4と、を含んでいる。図15は、図5に相当する。
【0090】
すなわち、図15に示す圧電素子の少なくとも下部電極2および圧電体層(強誘電体層)3、さらに必要に応じて上部電極4は、本発明における第1の積層体の製造方法によって形成することができる。下部電極2は、図2〜図5に示す導電性複合酸化物層2(第1導電性複合酸化物層20,第2導電性複合酸化物層22)からなり、圧電体層3は、図5に示す強誘電体層3からなる。また、上部電極4は、図5に示す導電性複合酸化物層4からなることができる。
【0091】
基体1は、(110)配向の単結晶シリコン基板と当該単結晶シリコン基板の表面に熱酸化膜を形成したものとから構成される。基体1は加工されることにより、後述するようにインクジェット式記録ヘッド50においてインクキャビティー521を形成するものとなる(図16参照)。
【0092】
4.3.インクジェット式記録ヘッド
次に、上述の圧電素子が圧電アクチュエータとして機能しているインクジェット式記録ヘッドおよびこのインクジェット式記録ヘッドを有するインクジェットプリンタについて説明する。図16は、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す側断面図であり、図17は、このインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、通常使用される状態とは上下逆に示したものである。なお、図18には、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを有するインクジェットプリンタ700を示す。
【0093】
図16および図17に示すように、インクジェット式記録ヘッド50は、ヘッド本体(基体)57と、ヘッド本体57上に形成される圧電部54と、を含む。圧電部54には図15に示す圧電素子が設けられ、圧電素子は、下部電極2、圧電体層(強誘電体層)3および上部電極4が順に積層して構成されている。インクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電部54は、圧電アクチュエータとして機能する。
【0094】
ヘッド本体(基体)57は、ノズル板51と、インク室基板52と、弾性膜55と、から構成されている。そして、これらが筐体56に収納されて、インクジェット式記録ヘッド50が構成されている。
【0095】
各圧電素部は、圧電素子駆動回路(図示しない)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。すなわち、各圧電部54はそれぞれ振動源(ヘッドアクチュエータ)として機能する。弾性膜55は、圧電部54の振動(たわみ)によって振動し、キャビティ521の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
【0096】
なお、上述では、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、本実施形態は、圧電素子を用いた液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【0097】
4.4.表面弾性波素子
次に、本発明の積層体の製造方法(第2の積層体の製造方法)を適用した表面弾性波素子の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0098】
図19は、本実施形態に係る表面弾性波素子400を模式的に示す断面図である。
【0099】
表面弾性波素子400は、基板11と、基板11上に形成された圧電体層12と、圧電体層12上に形成されたインターディジタル型電極(以下、「IDT電極」という)18,19と、を含む。IDT電極18,19は、所定のパターンを有する。
【0100】
本実施形態に係る表面弾性波素子400は、本発明に係る積層体の製造方法(第2の積層体の製造方法)を用いて、例えば以下のようにして形成される。
【0101】
まず、図16に示す基板11(図6に示す基体1)上に、圧電体層12(図6に示す強誘電体層3)を形成する。次いで、圧電体層12上に、図6に示す第1,第2導電性複合酸化物層20,22を形成して導電層(導電性複合酸化物層2)を形成する。次に、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いて導電層(導電性複合酸化物層2)をパターニングすることにより、圧電体層12上にIDT電極18,19を形成する。
【0102】
4.5.周波数フィルタ
次に、本発明の積層体の製造方法(第2の積層体の製造方法)を適用した周波数フィルタの一例について、図面を参照しながら説明する。図20は、本実施形態の周波数フィルタを模式的に示す図である。
【0103】
図20に示すように、周波数フィルタは積層体140を有する。この基体140としては、上述した表面弾性波素子400と同様の積層体(図19参照)を用いることができる。すなわち、積層体140は、図19に示すように、基体11と、基体11上に形成された圧電体層12を有する。
【0104】
基体140の上面には、IDT電極141、142が形成されている。また、IDT電極141、142を挟むように、基体140の上面には吸音部143、144が形成されている。吸音部143、144は、基体140の表面を伝播する表面弾性波を吸収するものである。一方のIDT電極141には高周波信号源145が接続されており、他方のIDT電極142には信号線が接続されている。積層体140およびIDT電極141、142は、上述した表面弾性波素子400と同様にして形成することができる。
【0105】
4.6.発振器
次に、本発明の積層体の製造方法(第2の積層体の製造方法)を適用した発振器の一例について、図面を参照しながら説明する。図21は、本実施形態の発振器を模式的に示す図である。
【0106】
図21に示すように、発振器は積層体150を有する。この積層体150としては、上述した表面弾性波素子400と同様の積層体(図19参照)を用いることができる。すなわち、積層体150は、図19に示すように、基体11と、基体11上に形成された圧電体層12を有する。
【0107】
基体150の上面には、IDT電極151が形成されており、さらに、IDT電極151を挟むように、IDT電極152、153が形成されている。IDT電極151を構成する一方の櫛歯状電極151aには、高周波信号源154が接続されており、他方の櫛歯状電極151bには、信号線が接続されている。なお、IDT電極151は、電気信号印加用電極に相当し、IDT電極152、153は、IDT電極151によって発生される表面弾性波の特定の周波数成分または特定の帯域の周波数成分を共振させる共振用電極に相当する。ここで、積層体150およびIDT電極152、153は、上述した表面弾性波素子400と同様にして形成することができる。
【0108】
また、前述した発振器をVCSO(Voltage Controlled SAW Oscillator:電圧制御SAW発振器)に応用することもできる。
【0109】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(たとえば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】実施形態に係る第1の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図2】実施形態に係る第1の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図3】実施形態に係る第1の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図4】実施形態に係る第1の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図5】実施形態に係る第1の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図6】実施形態に係る第2の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図7】実施例および比較例に係る積層体のX線解析結果を示す図。
【図8】実施例に係る積層体の表面モフォロジーを示す図。
【図9】比較例に係る積層体の表面モフォロジーを示す図。
【図10】実施例に係る積層体のX線解析結果を示す図。
【図11】実施例および比較例に係るキャパシタのヒステリシス特性を示す図。
【図12】(A),(B)は本実施形態にかかる半導体装置を示す図。
【図13】実施形態に係る1T1C型強誘電体メモリを模式的に示す断面図。
【図14】図10に示す強誘電体メモリの等価回路を示す図。
【図15】実施形態の適用例に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図16】実施形態の適用例に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成図。
【図17】実施形態の適用例に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図。
【図18】実施形態の適用例に係るインクジェットプリンタの概略構成図。
【図19】実施形態の適用例に係る表面弾性波素子を示す断面図。
【図20】実施形態の適用例に係る周波数フィルタを示す斜視図。
【図21】実施形態の適用例に係る発振器を示す斜視図。
【符号の説明】
【0111】
1 基体、2 導電性複合酸化物層、3 強誘電体層、4 導電性複合酸化物層、10 シリコン基板、12 酸化シリコン層、14 酸化チタン層、16 白金層、20 第1導電性複合酸化物層、22 第2導電性複合酸化物層、40 第3導電性複合酸化物層、42 第4導電性複合酸化物層
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性複合酸化物層の製造方法、および当該製造方法を適用した、強誘電体層を有する積層体の製造方法ならびにデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式ABO3で表される導電性複合酸化物層の成膜方法のひとつとして、スパッタ法が知られている。かかるスパッタ法では、通常、放電ガスとしての不活性ガスと、酸化性ガスとしての酸素とが共存した雰囲気を用いる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、結晶性の良好な導電性複合酸化物層が得られる導電性複合酸化物層の製造方法を提供することにある。
【0004】
本発明の他の目的は、本発明に係る導電性複合酸化物層の製造方法を適用した、強誘電体層を有する積層体の製造方法を提供することにある。
【0005】
本発明のさらに他の目的は、本発明にかかる積層体の製造方法を含む、デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る導電性複合酸化物層の製造方法は、
基体の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を含む。
【0007】
本発明に係る導電性複合酸化物層の製造方法によれば、導電性複合酸化物層をスパッタリングによって形成する際に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリング工程と、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリング工程を有することにより、結晶性および表面モフォロジーなどに優れた導電性複合酸化物層を形成することができる。
【0008】
本発明において、特定のA層(以下、「A層」という。)の上方に設けられた特定のB層(以下、「B層」という。)というとき、A層の上に直接B層が設けられた場合と、A層の上に他の層を介してB層が設けられた場合とを含む意味である。
【0009】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記第1スパッタリングは、不活性ガスと酸素との共存下において行われることができる。
【0010】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記第1導電性複合酸化物層と前記第2導電性複合酸化物層とは、同じ化合物であることができる。
【0011】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記第2スパッタリングは、酸素を含まない雰囲気下で行われることができる。
【0012】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記第2導電性複合酸化物層を形成した後に、熱処理を行う工程を有することができる。
【0013】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記A元素は、La、Ca、Sr、Mn、BaおよびReから選択される少なくとも一つであり、
前記B元素は、Ti、V、Sr、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Ir、PbおよびNdから選択される少なくとも一つであることができる。
【0014】
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記A元素はLaであり、前記B元素はNiであることができる。
本発明の導電性複合酸化物層の製造方法において、
前記スパッタリングは、RFスパッタリングであることができる。
【0015】
本発明に係る強誘電体層を有する積層体の製造方法は、
基体の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第2導電性複合酸化物層の上方に、強誘電体層を形成する工程と、
を含む。
【0016】
本発明に係る積層体の製造方法によれば、良好な特性を有する導電性複合酸化物層を得ることができるので、ヒステリシス特性や圧電特性の優れた積層体を得ることができる。
【0017】
本発明に係る強誘電体層を有する積層体の製造方法において、
前記強誘電体層の上方に、スパッタリングによって、一般式ABO3で表される導電性複合酸化物層を形成する工程を有することができる。
【0018】
本発明に係る強誘電体層を有する積層体の製造方法において、
前記導電性複合酸化物層は、第1酸素濃度で行われる第3スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第3導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第3導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第4スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第4導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を有することができる。
【0019】
本発明に係る強誘電体層を有する積層体の製造方法は、
基体の上方に、強誘電体層を形成する工程と、
前記強誘電体層の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を含む。
【0020】
本発明に係る積層体の製造方法によれば、良好な特性を有する導電性複合酸化物層を得ることができるので、圧電特性の優れた積層体を得ることができる。
【0021】
本発明に係るデバイスの製造方法は、本発明に係る積層体の製造方法を含む。
【0022】
本発明に係る製造方法が適用されるデバイスについては、後述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
1.強誘電体層を有する第1の積層体の製造方法
本実施形態に係る第1の積層体の製造方法について、図1ないし図5を参照しながら説明する。図1ないし図3は、本実施形態に係る導電性複合酸化物層の製造方法を模式的に示す断面図である。
【0025】
(1) まず、図1に示すように、基体1を準備する。基体1は、図示の例では、シリコン基板10上に、酸化シリコン層12、酸化チタン層14および白金層16が順に形成されたものである。かかる基体1は、たとえば、以下のようにして形成される。
【0026】
シリコン基板10上に、酸化シリコン層12を形成する。ついで、酸化シリコン層12上に、DC(直流)スパッタなどによって酸化チタン層14を形成する。この酸化チタン層14は、酸化シリコン層12と白金層16との密着性を向上させることができる。酸化チタン層14は、たとえば10〜40nmの膜厚を有することができる。酸化チタン層14のかわりにチタン層などを用いることもできる。ついで、酸化チタン層14上に、DC(直流)スパッタなどによって白金層16を形成する。白金層16は、たとえば50〜200nmの膜厚を有することができる。白金層16の代わりに他の白金族金属を用いることもできる。
【0027】
基体1は、導電性複合酸化物層の用途によって選択され、その構成は特に限定されず、絶縁性基板、半導体基板等を用いることができる。絶縁性基板としては、たとえばサファイア基板、プラスチック基板、ガラス基板などを用いることができ、半導体基板としてはシリコン基板、ゲルマニウム基板、TiO2基板、ZnO基板、NiOx基板などを用いることができる。また、基体1は、基板単体あるいは基板上に他の層が積層された積層体であってもよい。
【0028】
(2) 図2に示すように、基体1上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第1導電性複合酸化物層20を形成する。
【0029】
前記一般式において、A元素は、La、Ca、Sr、Mn、BaおよびReから選択される少なくとも一つであり、B元素は、Ti、V、Sr、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Ir、PbおよびNdから選択される少なくとも一つであることができる。また、本実施形態おける導電性複合酸化物膜としては、LaCoO3、SrCoO3、La1−xSrxCoO3[ここで、xおよびyは0〜1の有理数を表す。以下の化学式においても同様である。]等のLa(Sr)CoO3[ここで、( )内の金属は置換金属を意味する。以下の化学式においても同様である。]、LaMnO3、SrMnO3、La1−xSrxMnO3等のLa(Sr)MnO3、LaNiO3、SrNiO3、La(Sr)NiO3、CaCoO3、La(Ca)CoO3、LaFeO3、SrFeO3、La(Sr)FeO3、La1−xSrxCo1−yFeyO3等のLa(Sr)Co(Fe)O3、あるいは、La1−xSrxVO3、La1−xCaxFeO3、LaBaO3、LaMnO3、LaCuO3、LaTiO3、BaCeO3、BaTiO3、BaSnO3、BaPbO3、BaPb1−xO3、CaCrO3、CaVO3、CaRuO3、SrIrO3、SrFeO3、SrVO3、SrRuO3、Sr(Pt)RuO3、SrTiO3、SrReO3、SrCeO3、SrCrO3、BaReO3、BaPb1−xBixO3、CaTiO3、CaZrO3、CaRuO3、CaTi1−xAlxO3、などを例示できる。
【0030】
第1導電性複合酸化物層20の材質としては、上記の中でも、LaNiO3を好ましく用いることができる。第1導電性複合酸化物層20は、少なくとも層を形成していればよく、その膜厚は特に限定されないが、たとえば40〜100nmであることができきる。
【0031】
第1導電性複合酸化物層20は、RFスパッタリング(Radio Frequency Sputtering)(以下、「第1スパッタリング」ともいう)によって形成することができる。第1スパッタリングは、不活性ガスと酸素との共存下で行われる。不活性ガスとしては、アルゴンを用いることができる。アルゴンと酸素との流量の比率は特に限定されないが、たとえば、アルゴン/酸素=49/1〜40/10とすることができる。また、基体1の温度は、200〜500℃とすることができる。パワーは、スパッタ装置のタイプなどによって適宜選択されるが、たとえば1000〜1500Wとすることができる。
【0032】
第1スパッタリングでは、不活性ガスと酸素の他に、必要に応じて他のガス、たとえば反応性ガスを含む雰囲気を用いることができる。
【0033】
(3) 図3に示すように、第1導電性複合酸化物層20上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第2導電性複合酸化物層22を形成する。第2導電性複合酸化物層22としては、第1導電性複合酸化物層20として例示したものと同じものを例示することができる。第2導電性複合酸化物層22は、第1導電性複合酸化物層20と同じ化合物であることができる。第2導電性複合酸化物層22の材質としては、LaNiO3を好ましく用いることができる。第2導電性複合酸化物層22の膜厚は、特に限定されず、最終的に得たい導電性複合酸化物層2の膜厚に依存して選択される。
【0034】
第2導電性複合酸化物層22は、第1導電性複合酸化物層20と同様に、RFスパッタリング(以下、「第2スパッタリング」ともいう)によって形成することができる。この工程では、RFスパッタリングは、不活性ガスと、前記第1スパッタリングより少なくとも低濃度の酸素との共存下において行われる。また、この工程では、RFスパッタリングで用いられるガスは、酸素を含まず、不活性ガスだけでもよい。また、第2スパッタリングでは、不活性ガスと酸素の他に、必要に応じて他のガス、たとえば反応性ガスを含む雰囲気を用いることができる。
【0035】
不活性ガスとしては、アルゴンを用いることができる。アルゴンと酸素との流量の比率は、上記の条件を満たす限り特に限定されないが、たとえば、アルゴン/酸素=50/0〜45/5とすることができる。また、基体1の温度は、200〜500℃とすることができる。パワーは、スパッタ装置のタイプなどによって適宜選択されるが、たとえば1000〜1500Wとすることができる。
【0036】
(4) 次いで、第1、第2導電性複合酸化物層20,22の結晶性を上げるために、熱処理を行う。この熱処理は、導電性複合酸化物層の材質等によって異なるが、たとえば500ないし800℃で行うことができる。熱処理は、アルゴンおよび酸素の少なくとも一方を含む雰囲気で行うことができる。
【0037】
このように、導電性複合酸化物層2をRFスパッタリングによって形成する際に、不活性ガスたとえばアルゴン雰囲気の酸素濃度が高い第1スパッタリング工程と、第1スパッタリングより酸素濃度が低いかもしくは酸素を含まない第2スパッタリング工程を有することにより、後述する実施例からも明らかなように、結晶性および表面モフォロジーに優れた導電性複合酸化物層を形成することができる。
【0038】
以上の工程で形成された、第1および第2導電性複合酸化物層20,22を有する導電性複合酸化物層2は、導電層や電極として用いることができる。たとえば、キャパシタを得たい場合には、引き続いて以下の工程(5)ないし(8)を行うことによりキャパシタを得ることができる。
【0039】
(5) 図4に示すように、第2導電性複合酸化物層22上に、強誘電体層3を形成する。強誘電体層3は、特に限定されず、デバイスによって適宜選択される。強誘電体層3の強誘電体としては、ペロブスカイト型強誘電体、たとえばPZT(Pb(Zr,Ti)O3)、PZTN(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)、SBT(SrBi2Ta2O9)、BST((Ba,Sr)TiO3)、KN(KNbO3)などを例示できる。
【0040】
強誘電体層3の形成方法は特に限定されず、ゾル・ゲル法などの液相法、CVD法、MOCVD法、スパッタ法などの気相法など、公知の方法を用いることができる。
【0041】
(6) 図5に示すように、強誘電体層3上に導電性複合酸化物層4を形成する。図示の例では、導電性複合酸化物層4は、第3導電性複合酸化物層40と第4導電性複合酸化物層42とを有する。第3導電性複合酸化物層40は、前述した第1導電性複合酸化物層20と同様の方法で形成することができる。また、第4導電性複合酸化物層42は、第2導電性複合酸化物層22と同様の方法で形成することができる。
【0042】
すなわち、図5に示すように、強誘電体層3上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第3導電性複合酸化物層40を形成する。第3導電性複合酸化物層40は、少なくとも層を形成していればよく、その膜厚は特に限定されないが、たとえば40〜100nmであることができる。
【0043】
第3導電性複合酸化物層40は、RFスパッタリング(以下、「第3スパッタリング」ともいう)によって形成することができる。このスパッタリングの条件等は、第1導電性複合酸化物層20の成膜条件等と同様であるので、詳細は省略する。
【0044】
(7) 次いで、図5に示すように、第3導電性複合酸化物層40上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第4導電性複合酸化物層42を形成する。第4導電性複合酸化物層42の膜厚は、特に限定されず、最終的に得たい導電性複合酸化物層4の膜厚に依存して選択される。
【0045】
第4導電性複合酸化物層42は、第2導電性複合酸化物層22と同様に、RFスパッタリングによって形成することができる。このスパッタリングの条件等は、第2導電性複合酸化物層22の成膜条件等と同様であるので、詳細は省略する。
【0046】
第3導電性複合酸化物層40,第4導電性複合酸化物層42の材質としては、第1導電性複合酸化物層20と同様のものを例示できる。また、第3導電性複合酸化物層40と第4導電性複合酸化物層42とは同じ物質から構成されることができる。
【0047】
(8) 次いで、第3、第4導電性複合酸化物層40,42の結晶性を上げるために、熱処理を行う。この熱処理は、導電性複合酸化物層の材質等によって異なるが、たとえば500ないし800℃で行うことができる。熱処理は、アルゴンおよび酸素の少なくとも一方を含む雰囲気で行うことができる。
【0048】
以上の工程で形成された、第3および第4導電性複合酸化物層40,42を有する導電性複合酸化物層4は、第1および第2導電性複合酸化物層20,22と同様の特徴を有し、導電層や電極として用いることができる。また、上部電極としての導電性複合酸化物層4を下部電極としての導電性複合酸化物層2と同様の構成とすることにより、上下の電極と強誘電体層との界面のバンドギャップを合わせることができ、より優れたキャパシタ特性、ヒステリシス特性ならびに圧電特性を得ることができる。
【0049】
導電性複合酸化物層4は、第3および第4導電性複合酸化物層40,42の積層体に限定されず、1層の導電性複合酸化物層であってもよい。また、導電性複合酸化物層4は、導電性複合酸化物層2と異なる材質のものでもよい。
【0050】
以上の工程により、基体1上に、下部電極としての導電性複合酸化物層2,強誘電体層3および上部電極としての導電性複合酸化物層4からなるキャパシタを形成することができる。
【0051】
本実施形態によれば、以下のような特徴を有する。
【0052】
少なくとも導電性複合酸化物層2をRFスパッタリングによって形成する際に、不活性ガスたとえばアルゴン雰囲気の酸素濃度が高い第1スパッタリング工程と、第1スパッタリングよりアルゴン雰囲気の酸素濃度が低いかもしくは酸素を含まない第2スパッタリング工程を有することにより、後述する実施例からも明らかなように、結晶性および表面モフォロジーに優れた導電性複合酸化物層を形成することができる。
【0053】
また、上記導電性複合酸化物層2を有するキャパシタは、優れたヒステリシス特性、圧電特性を有し、後述するように、半導体メモリ装置、圧電素子等の各種用途に用いることができる。
【0054】
2.強誘電体層を有する第2の積層体の製造方法
本実施形態に係る導電性複合酸化物層を含む第2の積層体の製造方法について、図6を参照しながら説明する。図6は、第2の積層体の製造方法を模式的に示す断面図である。本実施形態では、基体1上に、強誘電体層3および導電性複合酸化物層1が順次形成されている点で、上記第1の積層体と相違する。
【0055】
(1) 図6に示すように、基体1を準備する。基体1は、図示の例では、シリコン基板10上に、酸化シリコン層12、酸化チタン層14および白金層16が順に形成されたものである。基体1は、第1の積層体で述べたと同様の構成を有するので、詳細な説明を省略する。また、基体1は、導電性複合酸化物層および強誘電体層の用途によって選択される。基体1の構成は特に限定されず、絶縁性基板、半導体基板等を用いることができる。絶縁性基板としては、たとえばサファイア基板、単結晶基板(LiTaO3、LiNbO3、Li2B4O7)、プラスチック基板、ガラス基板などを用いることができ、半導体基板としてはシリコン基板などを用いることができる。また、基体1は、基板単体あるいは基板上に他の層が積層された積層体であってもよい。
【0056】
(2) 図6に示すように、基体1上に、強誘電体層3を形成する。強誘電体層3は、特に限定されず、デバイスによって適宜選択される。強誘電体層3の強誘電体としては、ペロブスカイト型強誘電体、たとえばPZT(Pb(Zr,Ti)O3)、PZTN(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)、SBT、BST、KN(KNbO3)などを例示できる。
【0057】
強誘電体層3の形成方法は特に限定されず、ゾル・ゲル法などの液相法、CVD法、スパッタ法などの気相法など、公知の方法を用いることができる。
【0058】
(3) 図6に示すように、強誘電体層3上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第1導電性複合酸化物層20を形成する。第1導電性複合酸化物層20としては、図2ないし図5に示す第1導電性複合酸化物層20で用いたと同様のものを用いることができる。第1導電性複合酸化物層20は、少なくとも層を形成していればよく、その膜厚は特に限定されないが、たとえば40〜100nmであることができきる。
【0059】
第1導電性複合酸化物層20は、RFスパッタリング(以下、「第1スパッタリング」ともいう)によって形成することができる。第1スパッタリングは、不活性ガスと酸素との共存下で行われる。不活性ガスとしては、アルゴンを用いることができる。アルゴンと酸素との比率は特に限定されないが、たとえば、アルゴン/酸素=49/1〜40/10とすることができる。また、基体1の温度は、200〜500℃とすることができる。パワーは、スパッタ装置のタイプなどによって適宜選択されるが、たとえば1000〜1400Wとすることができる。
【0060】
(4) 図6に示すように、第1導電性複合酸化物層20上に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型の第2導電性複合酸化物層22を形成する。第2導電性複合酸化物層22としては、図3ないし図5に示す第2導電性複合酸化物層22で用いたと同様のものを用いることができる。第2導電性複合酸化物層22の膜厚は、特に限定されず、最終的に得たい複合酸化物層2の膜厚に依存して選択される。
【0061】
第2導電性複合酸化物層22は、第1導電性複合酸化物層20と同様に、RFスパッタリング(以下、「第2スパッタリング」ともいう)によって形成することができる。この工程では、RFスパッタリングは、不活性ガスと、前記第1スパッタリングより少なくとも低濃度の酸素との共存下において行われる。また、この工程では、RFスパッタリングで用いられるガスは、酸素を含まず、不活性ガスだけでもよい。
【0062】
不活性ガスとしては、アルゴンを用いることができる。アルゴンと酸素との流量の比率は、上記の条件を満たす限り特に限定されないが、たとえば、アルゴン/酸素=50/0〜40/10とすることができる。また、基体1の温度は、200〜500℃とすることができる。パワーは、スパッタ装置のタイプなどによって適宜選択されるが、たとえば1000〜1400Wとすることができる。
【0063】
(5) 次いで、第1、第2導電性複合酸化物層20,22の結晶性を上げるために、熱処理を行う。この熱処理は、導電性複合酸化物層の材質等によって異なるが、たとえば500ないし800℃で行うことができる。熱処理は、アルゴンおよび酸素の少なくとも一方を含む雰囲気で行うことができる。
【0064】
この工程で形成された、第1および第2導電性複合酸化物層20,22を有する導電性複合酸化物層2は、導電層や電極として用いることができる。
【0065】
以上の工程により、基体1上に、強誘電体層3および導電性複合酸化物層2が順次形成された積層体を得ることができる。
【0066】
本実施形態においても、導電性複合酸化物層2をRFスパッタリングによって形成する際に、不活性ガスたとえばアルゴン雰囲気の酸素濃度が高い第1スパッタリング工程と、第1スパッタリングよりアルゴン雰囲気の酸素濃度が低いかもしくは酸素を含まない第2スパッタリング工程を有することにより、後述する実施例からも明らかなように、結晶性、表面モフォロジーが優れた導電性複合酸化物層を形成することができる。また、かかる導電性複合酸化物層2と、強誘電体層3とを有する積層体は、後述するように、表面弾性波素子、発振器等の弾性表面波を利用した各種用途に用いることができる。
【0067】
3.実施例
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されない。
【0068】
(a) 本実施例のサンプルとして、図3に示す積層体を形成した。すなわち、基体1上に第1導電性複合酸化物層20として第1LaNiO3層と、第2導電性複合酸化物層22として第2LaNiO3層を形成した。
【0069】
基体1としては、シリコン基板10上に、酸化シリコン層12,酸化チタン層14,白金層14を前述した方法で形成したものを用いた。第1LaNiO3層としては、RFスパッタ法により、パワーが1500W、ガスの流量比がアルゴン/酸素=40/10、基板温度が400℃の条件で成膜を行って得られた、膜厚40nmのLaNiO3層を用いた。スパッタターゲットとしては、LaNiO3(組成:ストイキオメトリー)を用いた。第2LaNiO3層としては、RFスパッタ法により、パワーが1500W、ガスの流量比がアルゴン/酸素=50/0、基板温度が400℃の条件で成膜を行って得られた、膜厚40nmのLaNiO3層を用いた。スパッタターゲットとしては、LaNiO3(組成:ストイキオメトリー)を用いた。
【0070】
また、比較用サンプルとして、基体1上に、第3LaNiO3層を形成したものを用いた。第3LaNiO3層としては、第1LaNiO3層の成膜条件と同じ条件(パワーが1500W、ガスの流量比がアルゴン/酸素=40/10、基板温度が400℃の条件)で成膜を行って得られた、膜厚80nmのLaNiO3層を用いた。
【0071】
このようにして得られたサンプルおよび比較用サンプルについて、X線回折(2θ測定)および電子顕微鏡による表面の観察を行った。それらの結果について、図7〜図9に示す。図7は、X線回折結果を示す。図7において、実施例のサンプルの結果を符号aで示し、比較例のサンプルの結果を符号bで示す。図8は、実施例のサンプルのモフォロジーを示し、図9は、比較例のサンプルのモフォロジーを示す。
【0072】
以上の結果から、実施例のサンプルでは、(100)配向が顕著で、かつ表面モフォロジーが良好なLaNiO3層が得られることが確認された。また、比較例のサンプルでは、(100)配向が実施例に比べて非常に弱く、さらに表面モフォロジーが実施例に比べて良好でないLaNiO3層が得られることが確認された。
【0073】
(b)次いで、上記実施例のサンプルをアルゴンまたは酸素雰囲気中で熱処理したサンプルについて、X線回折を行った。熱処理は、800℃で5分間行った。その結果を図10に示す。図10において、符号aは、熱処理を行う前の実施例のサンプル、符号bは酸素雰囲気中で熱処理を行ったサンプル、符号cはアルゴン雰囲気中で熱処理を行ったサンプルの結果を示す。図10から、熱処理によって、(100)配向がより顕著になったことが確認された。また、酸素雰囲気およびアルゴン雰囲気の両者で、ほぼ同様の結果が得られた。
【0074】
(c)本実施例の上記(b)で得られた熱処理後のサンプルを用いキャパシタを形成した。具体的には、LaNiO3層上に、強誘電体層としてPZT層を形成し、さらにPZT層上に白金層を形成した。PZT層は、ゾルゲル法によって形成した。このサンプルをキャパシタサンプルという。また、比較用のサンプルとして、LaNiO3層を形成しない他は本実施例のサンプルと同様にして、比較用のキャパシタサンプルを得た。これらのキャパシタサンプルについてヒステリシス特性を求めた。その結果を図11に示す。図11において、実施例のキャパシタサンプルのヒステリシスを符号aで示し、比較例のキャパシタサンプルのヒステリシスを符号bで示す。
【0075】
図11から、本実施例のサンプルは、比較例のサンプルに比べて良好なヒステリシス特性を有することが確認された。
【0076】
4.デバイス
本発明のデバイスは、本発明の強誘電体層を有する積層体の製造方法によって得られた積層体を有する部品、およびこの部品を有する電子機器を含む。以下に、本発明のデバイスの製造方法が適用されるデバイスの例を記載する。
【0077】
4.1.半導体素子
次に、本発明の製造方法によって得られた積層体を含む半導体素子について説明する。本実施形態では、半導体素子の一例である強誘電体キャパシタを含む強誘電体メモリ装置を例に挙げて説明する。
【0078】
図12(A)および図12(B)は、本発明の製造方法によって得られた積層体を有する強誘電体メモリ装置1000を模式的に示す図である。なお、図12(A)は、強誘電体メモリ装置1000の平面的形状を示すものであり、図12(B)は、図12(A)におけるI−I断面を示すものである。
【0079】
強誘電体メモリ装置1000は、図12(A)に示すように、メモリセルアレイ200と、周辺回路部300とを有する。そして、メモリセルアレイ200は、行選択のための下部電極210(ワード線)と、列選択のための上部電極220(ビット線)とが交叉するように配列されている。また、下部電極210および上部電極220は、複数のライン状の信号電極から成るストライプ形状を有する。なお、信号電極は、下部電極210がビット線、上部電極220がワード線となるように形成することができる。また、周辺回路部300は、前記メモリセルアレイ200に対して選択的に情報の書き込み若しくは読出しを行うための各種回路を含み、例えば、下部電極210を選択的に制御するための第1の駆動回路310と、上部電極220を選択的に制御するための第2の駆動回路320と、その他にセンスアンプなどの信号検出回路(図示省略)とを含んで構成される。
【0080】
図12(B)に示すように、下部電極210と上部電極220との間には、強誘電体層215が配置されている。メモリセルアレイ200では、この下部電極210と上部電極220との交叉する領域において、強誘電体キャパシタ230として機能するメモリセルが構成されている。
【0081】
強誘電体キャパシタ230は、本発明の積層体の製造方法によって形成されることができる。すなわち、少なくとも下部電極210と強誘電体層215とは、本発明の製造方法、たとえば第1の積層体の製造方法によって形成されることができる。下部電極210は、図2〜図5に示す導電性複合酸化物層2(第1導電性複合酸化物層20,第2導電性複合酸化物層22)からなり、強誘電体層215は、図5に示す強誘電体層3からなる。また、上部電極220は、図5に示す導電性複合酸化物層4からなることができる。また、第1の層間絶縁層420は、図5に示す基体1に相当する。層間絶縁層420には、最上層にバリア層(図示省略)を有することができる。
【0082】
強誘電体層215は、少なくとも下部電極210と上部電極220との交叉する領域の間に配置されていればよい。
【0083】
また、周辺回路部300は、図12(B)に示すように、半導体基板400上に形成されたMOSトランジスタ330を含む。MOSトランジスタ330は、ゲート絶縁膜332、ゲート電極334、およびソース/ドレイン領域336を有する。各MOSトランジスタ330間は、素子分離領域410によって分離されている。このMOSトランジスタ330が形成された半導体基板400上には、第1の層間絶縁膜420が形成されている。そして、周辺回路部300とメモリセルアレイ200とは、配線層450によって電気的に接続されている。さらに、強誘電体メモリ装置1000は、第2の層間絶縁膜430および絶縁性の保護層440が形成されている。
【0084】
図13には、半導体装置の他の例として1T1C型強誘電体メモリ装置500の構造図を示す。図14は、強誘電体メモリ装置500の等価回路図である。
【0085】
強誘電体メモリ装置500は、図13に示すように、下部電極501、プレート線に接続される上部電極502、および強誘電体層503からなるキャパシタ504(1C)と、ソース/ドレイン電極の一方がデータ線505に接続され、ワード線に接続されるゲート電極506を有するスイッチ用のトランジスタ素子507(1T)からなるDRAMに良く似た構造のメモリ素子である。1T1C型のメモリは、書き込みおよび読み出しが100ns以下と高速で行うことができ、かつ書き込んだデータは不揮発であるため、SRAMの置き換え等に有望である。
【0086】
この強誘電体メモリ装置500の少なくとも下部電極501および強誘電体層503、さらに必要に応じて上部電極502を本発明における第1の積層体の製造方法によって形成することができる。下部電極501は、図2〜図5に示す導電性複合酸化物層2(第1導電性複合酸化物層20,第2導電性複合酸化物層22)からなり、強誘電体層503は、図5に示す強誘電体層3からなる。また、上部電極502は、図5に示す導電性複合酸化物層4からなることができる。
【0087】
本実施形態の半導体装置は、上述したものに限定されず、2T2C型強誘電体メモリ装置などにも適用できる。
【0088】
4.2.圧電素子
次に、本発明の積層体の製造方法を圧電素子の製造方法に適用した例について説明する。
【0089】
図15は、本発明の製造方法によって形成された積層体(第1の積層体)を有する圧電素子を示す断面図である。この圧電素子は、基体1と、基体1の上に形成された下部電極2と、下部電極2の上に形成された圧電体層3と、圧電体層3の上に形成された上部電極4と、を含んでいる。図15は、図5に相当する。
【0090】
すなわち、図15に示す圧電素子の少なくとも下部電極2および圧電体層(強誘電体層)3、さらに必要に応じて上部電極4は、本発明における第1の積層体の製造方法によって形成することができる。下部電極2は、図2〜図5に示す導電性複合酸化物層2(第1導電性複合酸化物層20,第2導電性複合酸化物層22)からなり、圧電体層3は、図5に示す強誘電体層3からなる。また、上部電極4は、図5に示す導電性複合酸化物層4からなることができる。
【0091】
基体1は、(110)配向の単結晶シリコン基板と当該単結晶シリコン基板の表面に熱酸化膜を形成したものとから構成される。基体1は加工されることにより、後述するようにインクジェット式記録ヘッド50においてインクキャビティー521を形成するものとなる(図16参照)。
【0092】
4.3.インクジェット式記録ヘッド
次に、上述の圧電素子が圧電アクチュエータとして機能しているインクジェット式記録ヘッドおよびこのインクジェット式記録ヘッドを有するインクジェットプリンタについて説明する。図16は、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す側断面図であり、図17は、このインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、通常使用される状態とは上下逆に示したものである。なお、図18には、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを有するインクジェットプリンタ700を示す。
【0093】
図16および図17に示すように、インクジェット式記録ヘッド50は、ヘッド本体(基体)57と、ヘッド本体57上に形成される圧電部54と、を含む。圧電部54には図15に示す圧電素子が設けられ、圧電素子は、下部電極2、圧電体層(強誘電体層)3および上部電極4が順に積層して構成されている。インクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電部54は、圧電アクチュエータとして機能する。
【0094】
ヘッド本体(基体)57は、ノズル板51と、インク室基板52と、弾性膜55と、から構成されている。そして、これらが筐体56に収納されて、インクジェット式記録ヘッド50が構成されている。
【0095】
各圧電素部は、圧電素子駆動回路(図示しない)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。すなわち、各圧電部54はそれぞれ振動源(ヘッドアクチュエータ)として機能する。弾性膜55は、圧電部54の振動(たわみ)によって振動し、キャビティ521の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
【0096】
なお、上述では、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、本実施形態は、圧電素子を用いた液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【0097】
4.4.表面弾性波素子
次に、本発明の積層体の製造方法(第2の積層体の製造方法)を適用した表面弾性波素子の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0098】
図19は、本実施形態に係る表面弾性波素子400を模式的に示す断面図である。
【0099】
表面弾性波素子400は、基板11と、基板11上に形成された圧電体層12と、圧電体層12上に形成されたインターディジタル型電極(以下、「IDT電極」という)18,19と、を含む。IDT電極18,19は、所定のパターンを有する。
【0100】
本実施形態に係る表面弾性波素子400は、本発明に係る積層体の製造方法(第2の積層体の製造方法)を用いて、例えば以下のようにして形成される。
【0101】
まず、図16に示す基板11(図6に示す基体1)上に、圧電体層12(図6に示す強誘電体層3)を形成する。次いで、圧電体層12上に、図6に示す第1,第2導電性複合酸化物層20,22を形成して導電層(導電性複合酸化物層2)を形成する。次に、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いて導電層(導電性複合酸化物層2)をパターニングすることにより、圧電体層12上にIDT電極18,19を形成する。
【0102】
4.5.周波数フィルタ
次に、本発明の積層体の製造方法(第2の積層体の製造方法)を適用した周波数フィルタの一例について、図面を参照しながら説明する。図20は、本実施形態の周波数フィルタを模式的に示す図である。
【0103】
図20に示すように、周波数フィルタは積層体140を有する。この基体140としては、上述した表面弾性波素子400と同様の積層体(図19参照)を用いることができる。すなわち、積層体140は、図19に示すように、基体11と、基体11上に形成された圧電体層12を有する。
【0104】
基体140の上面には、IDT電極141、142が形成されている。また、IDT電極141、142を挟むように、基体140の上面には吸音部143、144が形成されている。吸音部143、144は、基体140の表面を伝播する表面弾性波を吸収するものである。一方のIDT電極141には高周波信号源145が接続されており、他方のIDT電極142には信号線が接続されている。積層体140およびIDT電極141、142は、上述した表面弾性波素子400と同様にして形成することができる。
【0105】
4.6.発振器
次に、本発明の積層体の製造方法(第2の積層体の製造方法)を適用した発振器の一例について、図面を参照しながら説明する。図21は、本実施形態の発振器を模式的に示す図である。
【0106】
図21に示すように、発振器は積層体150を有する。この積層体150としては、上述した表面弾性波素子400と同様の積層体(図19参照)を用いることができる。すなわち、積層体150は、図19に示すように、基体11と、基体11上に形成された圧電体層12を有する。
【0107】
基体150の上面には、IDT電極151が形成されており、さらに、IDT電極151を挟むように、IDT電極152、153が形成されている。IDT電極151を構成する一方の櫛歯状電極151aには、高周波信号源154が接続されており、他方の櫛歯状電極151bには、信号線が接続されている。なお、IDT電極151は、電気信号印加用電極に相当し、IDT電極152、153は、IDT電極151によって発生される表面弾性波の特定の周波数成分または特定の帯域の周波数成分を共振させる共振用電極に相当する。ここで、積層体150およびIDT電極152、153は、上述した表面弾性波素子400と同様にして形成することができる。
【0108】
また、前述した発振器をVCSO(Voltage Controlled SAW Oscillator:電圧制御SAW発振器)に応用することもできる。
【0109】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(たとえば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】実施形態に係る第1の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図2】実施形態に係る第1の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図3】実施形態に係る第1の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図4】実施形態に係る第1の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図5】実施形態に係る第1の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図6】実施形態に係る第2の積層体の製造方法における工程を模式的に示す図。
【図7】実施例および比較例に係る積層体のX線解析結果を示す図。
【図8】実施例に係る積層体の表面モフォロジーを示す図。
【図9】比較例に係る積層体の表面モフォロジーを示す図。
【図10】実施例に係る積層体のX線解析結果を示す図。
【図11】実施例および比較例に係るキャパシタのヒステリシス特性を示す図。
【図12】(A),(B)は本実施形態にかかる半導体装置を示す図。
【図13】実施形態に係る1T1C型強誘電体メモリを模式的に示す断面図。
【図14】図10に示す強誘電体メモリの等価回路を示す図。
【図15】実施形態の適用例に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図16】実施形態の適用例に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成図。
【図17】実施形態の適用例に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図。
【図18】実施形態の適用例に係るインクジェットプリンタの概略構成図。
【図19】実施形態の適用例に係る表面弾性波素子を示す断面図。
【図20】実施形態の適用例に係る周波数フィルタを示す斜視図。
【図21】実施形態の適用例に係る発振器を示す斜視図。
【符号の説明】
【0111】
1 基体、2 導電性複合酸化物層、3 強誘電体層、4 導電性複合酸化物層、10 シリコン基板、12 酸化シリコン層、14 酸化チタン層、16 白金層、20 第1導電性複合酸化物層、22 第2導電性複合酸化物層、40 第3導電性複合酸化物層、42 第4導電性複合酸化物層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を含む、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1スパッタリングは、不活性ガスと酸素との共存下において行われる、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1導電性複合酸化物層と前記第2導電性複合酸化物層とは、同じ化合物である、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記第2スパッタリングは、酸素を含まない雰囲気下で行われる、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記第2導電性複合酸化物層を形成した後に、熱処理を行う工程を有する、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のずれかにおいて、
前記A元素は、La、Ca、Sr、Mn、BaおよびReから選択される少なくとも一つであり、
前記B元素は、Ti、V、Sr、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Ir、PbおよびNdから選択される少なくとも一つである、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記A元素はLaであり、前記B元素はNiである、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記スパッタリングは、RFスパッタリングである、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項9】
基体の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第2導電性複合酸化物層の上方に、強誘電体層を形成する工程と、
を含む、強誘電体層を有する積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記強誘電体層の上方に、スパッタリングによって、一般式ABO3で表される導電性複合酸化物層を形成する工程を有する、強誘電体層を有する積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記導電性複合酸化物層は、第1酸素濃度で行われる第3スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第3導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第3導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第4スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第4導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を有する、強誘電体層を有する積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれかに記載の積層体の製造方法を含む、デバイスの製造方法。
【請求項13】
基体の上方に、強誘電体層を形成する工程と、
前記強誘電体層の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を含む、強誘電体層を有する積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法を含む、デバイスの製造方法。
【請求項1】
基体の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を含む、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1スパッタリングは、不活性ガスと酸素との共存下において行われる、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1導電性複合酸化物層と前記第2導電性複合酸化物層とは、同じ化合物である、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記第2スパッタリングは、酸素を含まない雰囲気下で行われる、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記第2導電性複合酸化物層を形成した後に、熱処理を行う工程を有する、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のずれかにおいて、
前記A元素は、La、Ca、Sr、Mn、BaおよびReから選択される少なくとも一つであり、
前記B元素は、Ti、V、Sr、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Ir、PbおよびNdから選択される少なくとも一つである、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記A元素はLaであり、前記B元素はNiである、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記スパッタリングは、RFスパッタリングである、導電性複合酸化物層の製造方法。
【請求項9】
基体の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第2導電性複合酸化物層の上方に、強誘電体層を形成する工程と、
を含む、強誘電体層を有する積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記強誘電体層の上方に、スパッタリングによって、一般式ABO3で表される導電性複合酸化物層を形成する工程を有する、強誘電体層を有する積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記導電性複合酸化物層は、第1酸素濃度で行われる第3スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第3導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第3導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第4スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第4導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を有する、強誘電体層を有する積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれかに記載の積層体の製造方法を含む、デバイスの製造方法。
【請求項13】
基体の上方に、強誘電体層を形成する工程と、
前記強誘電体層の上方に、第1酸素濃度で行われる第1スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第1導電性複合酸化物層を形成する工程と、
前記第1導電性複合酸化物層の上方に、少なくとも第1酸素濃度よりも酸素濃度が低い第2酸素濃度で行われる第2スパッタリングによって、一般式ABO3で表される第2導電性複合酸化物層を形成する工程と、
を含む、強誘電体層を有する積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法を含む、デバイスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−119892(P2007−119892A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316968(P2005−316968)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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