説明

微結晶半導体薄膜製造装置および微結晶半導体薄膜製造方法

【課題】結晶質半導体薄膜を大面積基板上に均一に高速で形成すること。
【解決手段】真空容器10と、基板100に対向して設けられる電極12と、真空容器10に水素を主成分に含むガスを一定量で連続的に供給するガス供給手段22a、22b、22cと、基板100と電極12との間を基板100の面内において複数に分割した分割領域に対して半導体材料ガスを分割領域毎に個別に且つ周期的に供給するガス供給手段22d、22e、22fと、半導体材料ガスの供給と同期して電極12における半導体材料ガスが供給された分割領域に対応する領域に個別に高周波電圧を印加する高周波電源40a、40b、40cと、分割領域への半導体材料ガスの供給のオン/オフを制御するとともに半導体材料ガスの供給に同期させて電極12に印加する高周波電圧に振幅変調を加える制御手段60と、真空容器10内のガスを排気する排気手段20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微結晶半導体薄膜製造装置および微結晶半導体薄膜製造方法に関し、特に、シリコン薄膜太陽電池に用いられる微結晶シリコン薄膜の製造に好適な微結晶半導体薄膜製造装置および微結晶半導体薄膜製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン薄膜太陽電池の光電変換層として、真性(i型)の微結晶シリコン薄膜が広く用いられている。この微結晶シリコン薄膜の製造方法としては、シラン(SiH4)と水素(H2)の混合ガスを用いたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により基板上に堆積させるのが一般的である。
【0003】
一般的に、このプラズマCVD法で微結晶シリコン薄膜を堆積するには、「高圧枯渇法」と呼ばれる成膜手法が広く用いられている(たとえば、特許文献1参照)。具体的には、高圧力下で、SiH4ガス流量[SiH4]を充分小さくし(言い換えれば、H2ガス流量[H2]を充分大きくし)、SiH4流量比を[SiH4]/([SiH4]+[H2])=1〜5%程度にまで下げ、プラズマ中のSiH4を枯渇させることによって、微結晶シリコン薄膜の堆積が可能になる(逆に、SiH4流量比が大きいと、堆積した膜は非晶質になる)。この方法によって得られた微結晶シリコン薄膜を太陽電池の光電変換層に適用し、太陽電池セルを試作評価した結果、光電変換効率〜9%程度の実用的な特性が得られている。
【0004】
また、微結晶シリコン薄膜を形成する別の手法として、レイヤ・バイ・レイヤ法と呼ばれる成膜手法が知られている(たとえば、非特許文献1参照)。このレイヤ・バイ・レイヤ法では、プラズマCVD装置を用いて、SiH4プラズマを10秒〜100秒の範囲で生成させ、H2プラズマを100秒〜600秒の範囲で生成させることを交互に多数回繰り返してシリコン薄膜の堆積を行うことによって、たとえ堆積した時点では非晶質の薄膜であっても、引き続きH2プラズマに曝すことで、薄膜を結晶化させている。また、特許文献2では、レイヤ・バイ・レイヤ法を用いて微結晶シリコン薄膜が高速に成膜される技術が開示されている。
【0005】
シリコン薄膜太陽電池においては、低コスト化のために大面積基板上に高速で成膜することが重要である。特に微結晶シリコン薄膜では数1μm程度の膜厚を必要とするため、成膜速度と膜質とを両立させることが重要であり、シリコン薄膜製造方法に関してさまざまな提案がなされている。例えば、プラズマの密度を増加させて成膜の高速化を図るために、30MHz〜150MHzの周波数、すなわちVHF(Very High Frequency)帯を用いた成膜が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−237187号公報
【特許文献2】国際公開第2009/145068号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N. Layadi, P. R. Cabarrocas, B. Drevillon, I. Solomon, “Real-timespectroscopic ellipsometry study of the growth of amorphous andmicrocrystalline silicon thin films prepared by alternating silicon depositionand hydrogen plasma teatment”, Phys. Rev. B, vol.52, pp.5136-5143(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載のプラズマCVD法による微結晶シリコン薄膜の堆積方法では、SiH4流量比、すなわち[SiH4]/([SiH4]+[H2])を調整することによって、結晶性を制御しようとするため、膜の結晶性と堆積レートとはトレードオフの関係にある。つまり、非晶質膜の場合には大きい堆積レートが容易に得られるが、結晶化させるためにSiH4流量比を下げると堆積レートが大きく低下し、通常、〜1nm/秒程度になるという問題があった。このため、たとえば2.5μmの厚みの微結晶シリコン薄膜を堆積しようとすると、40分以上の処理時間を要する。
【0009】
さらに、特許文献1や非特許文献1に記載の微結晶シリコン薄膜の形成方法は、たとえば寸法が1.4m×1.1mのメートル級の大面積の基板に微結晶シリコン薄膜を均一に成膜する技術については考慮されていなかった。
【0010】
また、特許文献2のように、高周波電力の周波数が30MHz〜150MHzのVHF帯の場合、高周波電力の周波数の増加により、高周波電力の「波」としての性質が顕著に表れ、成膜特性が電極面内で不均一になる。すなわち、電極面内で高周波電力が干渉を起こし、定在波を形成することで電界強度分布が不均一になり、その結果プラズマ密度が不均一となる。ここで、定在波の腹と節、すなわち電力の最大点と最小点は電力の波長の1/4間隔で現れる。そして、周波数が高くなると定在波の腹と節との距離は短くなり、メートル級の電極サイズでは電極上に定在波の腹と節(電力の最大点と最小点)が現れ、電界強度分布が不均一になる。したがって、大面積全体にわたって均一なプラズマを形成し、均一な微結晶薄膜を成膜することが難しかった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、微結晶半導体薄膜を大面積基板上に均一に高速で形成することが可能な微結晶半導体薄膜製造装置および微結晶半導体薄膜製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる微結晶半導体薄膜製造装置は、プラズマCVD法により微結晶半導体薄膜を製造する微結晶半導体薄膜製造装置であって、基板を保持する基板保持手段を有する真空容器と、前記真空容器内において前記基板に対向して設けられるプラズマ電極と、前記真空容器に水素を主成分に含むガスを一定量で連続的に供給する第1のガス供給手段と、前記基板保持手段に保持された前記基板と前記プラズマ電極との間のプラズマ生成空間を前記基板の面内において複数に分割した分割領域に対して、少なくともシリコンまたはゲルマニウムを含む半導体材料ガスを前記分割領域毎に個別に且つ周期的に供給する第2のガス供給手段と、前記半導体材料ガスの供給と同期して前記プラズマ電極における前記半導体材料ガスが供給された前記分割領域に対応する領域に個別に高周波電圧を印加する高周波電源と、前記分割領域への前記半導体材料ガスの供給のオン/オフを制御するとともに前記半導体材料ガスの供給に同期させて前記プラズマ電極に印加する高周波電圧に振幅変調を加える制御手段と、前記真空容器内のガスを排気する第1排気手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の技術では非晶質のシリコン膜しか得られなかった高SiH4流量比の条件においても、微結晶半導体薄膜を高速で且つ均一に形成することができ、また大面積基板上においても微結晶半導体薄膜を高速で且つ均一に形成することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1による薄膜形成装置の構成の一例を模式的に示す図である。
【図2−1】図2−1は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜形成装置のプラズマ電極の断面構造の一例を示す断面図である。
【図2−2】図2−2は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜形成装置のプラズマ電極の断面構造の一例を示す断面図である。
【図3−1】図3−1は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜形成装置による薄膜形成中におけるH2ガスの流量と、ガスバルブへの開閉信号と、プラズマ電極に印加される高周波電圧の時間に対する変化の様子の一例を示す図である。
【図3−2】図3−2は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜形成装置による薄膜形成中におけるH2ガスの流量と、ガスバルブへの開閉信号と、プラズマ電極に印加される高周波電圧の時間に対する変化の様子の他の例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜形成装置の概略構成を示す模式的に示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜形成装置による微結晶シリコン薄膜形成中におけるH2ガスの流量と、プラズマ電極に印加される高周波電圧と、バルブへの開閉信号と、ガスバルブへの開閉信号の時間に対する変化の一例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態3にかかる薄膜形成装置の概略構成を示す模式的に示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態3にかかる薄膜形成装置においてプラズマ電極に高周波電圧を印加した場合のプラズマ生成空間における電界分布を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態3にかかる薄膜形成装置による微結晶シリコン薄膜形成中のH2ガスの流量と、ガスバルブへの開閉信号と、領域A、領域B、領域Cにおける電界強度の時間に対する変化の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明にかかる微結晶半導体薄膜製造装置および微結晶半導体薄膜製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合がある。各図面間においても同様である。
【0016】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置の構成の一例を模式的に示す図である。この微結晶半導体薄膜製造装置は、従来のプラズマCVD装置を基本とするものであり、薄膜を形成する雰囲気を内部に形成する真空容器10内に、基板ステージ11と、複数に分割(図1では3つに分割)されたプラズマ電極12a、12b、12cを有するプラズマ電極12とを備え、プラズマ電極12a、12b、12cと基板ステージ11の対向する面が互いに平行となるように設置されている。真空容器10にはガス排気管20が設けられており、このガス排気管20に接続された図示しない真空ポンプによって、真空容器10内のガスが排気され、真空容器10内が所定の真空度に設定される。
【0017】
基板ステージ11は、電気的に接地されており、成膜処理を施す基板100が載置される構造となっている。また、この基板ステージ11の内部には、加熱ヒータが内蔵されており、成膜処理時には、基板温度が所定の温度、たとえば150〜250℃程度の値に設定される。なお、ここでは、基板ステージ11は、真空容器10の下部側に設けられている。
【0018】
互いに電気的に分離されたプラズマ電極12a、12b、12cはそれぞれ略直方体形状とされ、それぞれの底面には複数の貫通孔が形成されたガスシャワーヘッド13a、13b、13cを備える。また、プラズマ電極12a、12b、12cは、ガスシャワーヘッド13a、13b、13cが基板ステージ11の基板載置面と平行になるように、基板ステージ11の基板載置面から所定の距離だけ上方に配置されるように、真空容器10内に固定される。分割されたガスシャワーヘッド13a、13b、13cから個別にガスを真空容器10内に供給することにより、ガスの分布を均一にすることができ、均一な製膜ができる。
【0019】
さらに、プラズマ電極12a、12b、12c上面部は、図示しないインピーダンス整合器を介して、高周波電源部40a、40b、40cと電気的に接続されている。これによって、プラズマ電極12a、12b、12cには、プラズマ電極中央部に設けた給電点41a、41b、41cから高周波電圧が印加され、プラズマ電極12a、12b、12cと基板100との間のプラズマ生成空間に高周波電力が供給される。高周波電源部40a、40b、40cの発振周波数は、13.56MHzや27.12MHz、すなわちRF(Radio Frequency)帯が好適である。
【0020】
プラズマ電極12a、12b、12cの上面部には、SiH4ガスとH2ガスとを供給するためのH2ガス供給口22a、22b、22cとSiH4ガス供給口22d、22e、22fとが別個に設けられており、これらはH2やSiH4ガスを供給するH2ガス供給管23aやSiH4ガス供給管23bに、それぞれ接続されている。また、プラズマ電極12の内部には、壁で区切られたガス導入室30a、30b、30cが設けられている。
【0021】
図2−1は、実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置のプラズマ電極12の断面構造の例を示す断面図である。図2−1は、実施の形態1にかかるプラズマ電極12の断面構造を示す断面図であり、図1におけるA−A’断面図を示している。本実施の形態ではプラズマ電極12として、図1におけるA−A’方向において3つの領域に分割した例を示したが、プラズマ電極12の分割数は3つに限定されない。すなわち、プラズマ電極12は、複数であれば幾つに分割してもよく、より多くの数に分割してもよい。
【0022】
たとえば図2−2に示すように、6つの領域に分割してもよい。図2−2に示す例では、プラズマ電極12が図1におけるA−A’方向において3つの領域に分割され、さらにプラズマ電極12の底面においてA−A’方向と直交する方向に2つの領域に分割されている。これにより、プラズマ電極12は、プラズマ電極12d、12e、12f、12g、12h、12iの6つの領域に分割されている。また、プラズマ電極12の内部には、壁で区切られたガス導入室30d、30e、30f、30g、30h、30iが設けられている。そして、プラズマ電極12d、12e、12f、12g、12h、12iには、プラズマ電極中央部に設けた給電点41d、41e、41f、41g、41h、41iがそれぞれ設けられている。
【0023】
2ガス供給管23a上には、図示しないH2ガスを供給するH2ガス供給部からのH2ガスの流れをオン/オフするエア駆動式あるいは電磁式のガスバルブ25aと、H2ガスの流量をコントロールするマスフローコントローラ24aと、を備える。
【0024】
SiH4ガス供給管23b上には図示しないSiH4ガスを供給するSiH4ガス供給部からのSiH4ガスの流れをオン/オフするエア駆動式あるいは電磁式のガスバルブ25bと、SiH4ガスの流量をコントロールするマスフローコントローラ24bと、薄膜形成中に真空容器10へのSiH4ガスの供給のオン/オフを行うエア駆動式あるいは電磁式のガスバルブ25c、25d、25eと、を備える。ガスバルブ25c、25d、25eは、それぞれ応答速度が速くなるようSiH4ガス供給口22d、22e、22fに近い位置に配置されることが好ましい。
【0025】
また、この微結晶半導体薄膜製造装置は、ガスバルブ25c、25d、25eの開閉と、高周波電源部40a、40b、40cとを制御する制御部60を備える。この制御部60は、所定の周期でSiH4ガスの真空容器10内への導入のオン/オフを切換えるバルブ開閉信号をガスバルブ25c、25d、25eのそれぞれに供給する。また、制御部60は、SiH4ガスの供給のオン/オフに同期してプラズマ電極12に供給される高周波電圧の出力を変調させるように、高周波電源部40a、40b、40cに変調信号を供給する。
【0026】
つぎに、以上のように構成される微結晶半導体薄膜製造装置における微結晶半導体薄膜製造方法について説明する。真空容器10内の基板ステージ11上に基板100を設置した後、ガス排気管20を通じて真空容器10内を真空排気し、真空容器10内を所定の真空度にする。また、基板ステージ11内に内蔵された加熱ヒータにより、基板100が所定の温度となるように加熱する。この状態で、H2ガス供給管23a上に設けられるガスバルブ25aを開け、H2ガス供給口22a、22b、22cから真空容器10内にH2ガスが所定の流量で供給される。このとき、H2ガス供給口22a、22b、22cから真空容器10内に流入したH2ガスは、それぞれガス導入室30a、30b、30cを流れ、プラズマ電極12a、12b、12cのそれぞれに設けられたガスシャワーヘッド13a、13b、13cを通じて、プラズマ生成空間に供給される。
【0027】
一方、SiH4ガスに関しては、SiH4ガス供給管23b上に設けられるガスバルブ25bを開け、絶えず開いた状態にしておくが、ガスバルブ25c、25d、25eを所定の周期で繰り返し開閉させて、真空容器10内へのSiH4ガスの供給をオン/オフさせる。具体的には、制御部60からのバルブ開信号を受けて、ガスバルブ25cが動作して開状態となり、SiH4ガスがガス導入室30aとガスシャワーヘッド13aとを通じて真空容器10内のプラズマ生成空間である領域Aに供給される。また、制御部60からのバルブ閉信号を受けて、ガスバルブ25cが動作して閉状態となり、SiH4ガスの供給が止まる。
【0028】
つぎに、制御部60からのバルブ開信号を受けて、ガスバルブ25dが動作して開状態となり、SiH4ガスがガス導入室30bとガスシャワーヘッド13bとを通じて真空容器10内のプラズマ生成空間である領域Bに供給される。また、制御部60からのバルブ閉信号を受けて、ガスバルブ25dが動作して閉状態となり、SiH4ガスの供給が止まる。
【0029】
つぎに、制御部60からのバルブ開信号を受けて、ガスバルブ25eが動作して開状態となり、SiH4ガスがガス導入室30cとガスシャワーヘッド13cとを通じて真空容器10内のプラズマ生成空間である領域Cに供給される。また、制御部60からのバルブ閉信号を受けて、ガスバルブ25eが動作して閉状態となり、SiH4ガスの供給が止まる。
【0030】
図3−1は、実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置による微結晶シリコン薄膜形成中におけるH2ガスの流量と、ガスバルブ25c、25d、25eへの開閉信号と、プラズマ電極12a、12b、12cに印加される高周波電圧の時間に対する変化の様子の一例を示す図である。この図に示されるように、H2ガスは時間によらず真空容器10内に常に所定の流量で供給されるが、SiH4ガスは、TON(TAon、TBon、TCon)の期間中に真空容器10内の特定の領域付近に供給され、Toff(TAoff、TBoff、TCoff)の期間中には真空容器10内に供給されない。また、高周波電圧は、TON(TAon、TBon、TCon)の期間中、すなわちSiH4ガスのオン中にPonの出力でプラズマ電極12a、12b、12cに印加され、Toff(TAoff、TBoff、TCoff)の期間中、すなわちSiH4ガスのオフ中にPoff(>Pon)の出力でプラズマ電極12に印加される。
【0031】
領域Aについては、期間TAonにガスバルブ25cが制御部60からバルブ開信号を受けて開状態となり、SiH4ガスがプラズマ電極12aに設けられたガスシャワーヘッド13aを通じて真空容器10内のプラズマ生成空間である領域Aに供給される。また、高周波電圧は、TAon 期間中、すなわちSiH4ガスのオン中にPonの出力でプラズマ電極12aに印加され、TAoffの期間中、すなわちSiH4ガスのオフ中にPoff(>Pon)の出力でプラズマ電極12aに印加される。これにより、領域AにSiH4ガスが供給されるのと同期して、領域AにSiH4/H2混合プラズマが形成され、基板ステージ11上の基板100の表面における領域Aに対応した領域に非晶質シリコンが堆積して非晶質シリコン薄膜が形成される。
【0032】
そして、期間TAonが終了して期間TAoffになると、ガスバルブ25cが制御部60からバルブ閉信号を受けて閉状態となりSiH4ガスの供給が停止し、H2ガスのみが領域Aに供給される。そして、高周波電圧Poff(>Pon)によって電子密度の高い高密度H2プラズマが生成され、基板100上に形成された非晶質シリコン薄膜に照射される。非晶質シリコン薄膜をH2プラズマに曝すことによって、膜を結晶化させることができる。したがって、基板100上に形成された非晶質シリコン薄膜に高密度H2プラズマが照射されることにより、非晶質シリコン薄膜の結晶化が促進され、微結晶シリコン薄膜が得られる。
【0033】
領域Bについては、期間TBonにガスバルブ25dが制御部60からバルブ開信号を受けて開状態となり、SiH4ガスがプラズマ電極12bに設けられたガスシャワーヘッド13bを通じて真空容器10内のプラズマ生成空間である領域Bに供給される。また、高周波電圧は、TBon 期間中、すなわちSiH4ガスのオン中にPonの出力でプラズマ電極12bに印加され、TBoffの期間中、すなわちSiH4ガスのオフ中にPoff(>Pon)の出力でプラズマ電極12bに印加される。これにより、領域BにSiH4ガスが供給されるのと同期して、領域BにSiH4/H2混合プラズマが形成され、基板ステージ11上の基板100の表面における領域Bに対応した領域に非晶質シリコンが堆積して非晶質シリコン薄膜が形成される。
【0034】
そして、期間TBonが終了して期間TBoffになると、ガスバルブ25dが制御部60からバルブ閉信号を受けて閉状態となりSiH4ガスの供給が停止し、H2ガスのみが領域Bに供給される。そして、高周波電圧Poff(>Pon)によって電子密度の高い高密度H2プラズマが生成され、基板100上に形成された非晶質シリコン薄膜に照射されることにより非晶質シリコン薄膜の結晶化が促進され、微結晶シリコン薄膜が得られる。
【0035】
領域Cについては、期間TConにガスバルブ25eが制御部60からバルブ開信号を受けて開状態となり、SiH4ガスがプラズマ電極12cに設けられたガスシャワーヘッド13cを通じて真空容器10内のプラズマ生成空間である領域Cに供給される。また、高周波電圧は、TCon 期間中、すなわちSiH4ガスのオン中にPonの出力でプラズマ電極12cに印加され、TCoffの期間中、すなわちSiH4ガスのオフ中にPoff(>Pon)の出力でプラズマ電極12cに印加される。これにより、領域CにSiH4ガスが供給されるのと同期して、領域CにSiH4/H2混合プラズマが形成され、基板ステージ11上の基板100の表面における領域Cに対応した領域に非晶質シリコンが堆積して非晶質シリコン薄膜が形成される。
【0036】
そして、期間TConが終了して期間TCoffになると、ガスバルブ25eが制御部60からバルブ閉信号を受けて閉状態となりSiH4ガスの供給が停止し、H2ガスのみが領域Cに供給される。そして、高周波電圧Poff(>Pon)によって電子密度の高い高密度H2プラズマが生成され、基板100上に形成された非晶質シリコン薄膜に照射されることにより非晶質シリコン薄膜の結晶化が促進され、微結晶シリコン薄膜が得られる。
【0037】
そして、制御部60は、期間TAonから期間TConを1サイクルとし、期間TAonと期間TBonと期間TConとがそれぞれ重ならないように、ガスバルブ25c、25d、25eに対するバルブ開閉信号を制御する。図3−1に示した例では、期間TAonと期間TBonと期間TConとが1単位時間ずつずれるようにガスバルブ25c、25d、25eに対するバルブ開閉信号が制御されている。また、期間TAoffと期間TBon、期間TBoffと期間TCon、期間TCoffと期間TAonとが重なるようにガスバルブ25c、25d、25eに対するバルブ開閉信号が制御されている。そして、期間TAoffと期間TBoffと期間TCoffとが、それぞれ期間TAonと期間TBonと期間TConとの直後になるように制御されている。
【0038】
図3−2は、実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置による微結晶シリコン薄膜形成中におけるH2ガスの流量と、ガスバルブ25c、25d、25eへの開閉信号と、プラズマ電極12a、12b、12cに印加される高周波電圧の時間に対する変化の様子の他の例を示す図である。この図に示されるように、H2ガスは時間によらず真空容器10内に常に所定の流量で供給されるが、SiH4ガスは、Ton(TAon、TBon、TCon)の期間中に真空容器10内の特定の領域付近に供給され、Toff(TAoff、TBoff、TCoff)の期間中には真空容器10内に供給されない。
【0039】
そして、図3−2に示した例では、期間TAonと期間TBonと期間TConとが1単位時間ずつずれるようにガスバルブ25c、25d、25eに対するバルブ開閉信号が制御されている。また、期間TAonと期間TBoffと、期間TBonと期間TCoff、期間TConと期間TAoffとが重なるようにガスバルブ25c、25d、25eに対するバルブ開閉信号が制御されている。そして、期間TAonと期間TBonと期間TConとが、それぞれ期間TAoffと期間TBoffと期間TCoffとの直後になるように制御されている。
【0040】
以上の処理が繰り返されることにより、単位領域毎、すなわち領域A、領域B、領域C毎に非晶質シリコン薄膜が形成され、さらにこの非晶質シリコン薄膜の結晶化が促進され、微結晶シリコン薄膜が得られる。これにより、基板100上の全体にわたって微結晶シリコン薄膜が形成される。そして、以上の処理を所望の回数繰り返すことで、所望の膜厚の微結晶シリコン薄膜を得ることが可能となる。
【0041】
上記のような成膜方法においては、SiH4ガスが供給される期間TONにおけるSiH4ガスの流量を大きくし、期間TAonから期間TCoffのサイクルの繰り返し周波数(変調周波数)を大きくすることで微結晶シリコン薄膜を高速に成膜することが可能となる。なお、本実施の形態では3つに分割された電極を用いて領域A、領域B、領域Cの順番に成膜する例を示したが、電極の分割数および製膜の順序はこれに限定されるものではない。
【0042】
なお、非晶質のシリコン薄膜が曝されるプラズマ中のH原子の密度の増加に伴い、非晶質のシリコン薄膜の結晶化がより促進されることが知られている。プラズマ中のH原子の密度を増加させるには、印加される高周波電圧を高く設定すればよい。したがって、期間Toff においてプラズマ電極12a、12b、12cに印加される高周波電圧を高く設定することが好ましい。
【0043】
また、期間TAonから期間TCoffのサイクルの繰り返し周波数を大きくした場合は、真空ポンプの排気能力により、期間ToffまでSiH4ガスがプラズマ生成空間(領域A、領域B、領域C)に残留し、得られる微結晶シリコン薄膜の結晶性が低下する。このため、繰り返し周波数は、0.1Hz〜10Hz程度が好ましい。
【0044】
この実施の形態1によれば、プラズマCVD法による膜形成中において、真空容器10内へH2ガスを一定流量で供給し、分割されたプラズマ生成空間(領域A、領域B、領域C)に対して異なるタイミングでSiH4ガスを供給するとともにSiH4ガスのオン/オフに同期して高周波電力を供給するようにしたので、SiH4ガスの供給された領域では非晶質シリコン薄膜が高速に基板100上に形成され、SiH4ガスが供給されていない領域では形成された非晶質シリコン薄膜が高速に結晶化される。これを繰り返し行うことによって、従来の微結晶シリコン薄膜の形成方法に比べて結晶性を低下させずに、高速で且つ均一に微結晶シリコン薄膜を大面積に形成することができるという効果を有する。その結果、微結晶シリコン薄膜の製造工程のスループットを向上させることができ、例えば光電変換層として用いる太陽電池の製造工程のスループットを向上させることができるという効果を有する。
【0045】
この実施の形態1では、結晶化促進ガスとしてH2、材料ガスとしてSiH4を用いた微結晶シリコン膜の製造方法について述べたが、H2ガスにHe,Ne,Arなどの不活性ガスなどを添加していてもよい。また、材料ガスとしてはSiH4に限定されるものではなく、SiやGeを含む他のガス、例えばSi26などの四族水素化物でもよい。また、ジボラン(B26)、ホスフィン(PH3)、アルシン(AsH3)に代表されるドーパントガスを添加してもよい。
【0046】
また、微結晶シリコン以外に微結晶シリコンゲルマニウム(SixGe1-x)の成膜においても同様の効果があり、高い結晶性を維持しつつ高速成膜が可能になる。この場合には、材料ガスとしてはSiH4とGeH4との混合ガスを用いればよい。
【0047】
実施の形態2.
実施の形態1の方法によりメートル級基板(たとえば、寸法が1.4m×1.1mの基板)上に微結晶シリコン薄膜を形成する場合には、たとえば図3−1や図3−2に示した様に、真空容器10内へのSiH4ガスの供給をオン/オフする複数個のガスバルブ25c、25d、25eと、分割されたプラズマ電極12a、12b、12cに印加する高周波電圧を個別に変調制御することで、均一な成膜が可能である。さらに高速で微結晶シリコンを成膜する場合には、微結晶シリコンの製膜が可能な繰り返し周波数の範囲内で、可能な限り大きい繰り返し周波数を用いる必要がある。しかし、繰り返し周波数が大きくなるに従って真空容器10内を排気する排気速度が不足し、SiH4ガスが期間Toffまで残留して結晶化率を著しく低下させる。そこで、実施の形態2では、メートル級の大面積基板上に微結晶シリコン薄膜をさらに高速でしかも均一に成膜することができる微結晶半導体薄膜製造装置および微結晶半導体薄膜製造方法について説明する。
【0048】
図4は、実施の形態2にかかる微結晶半導体薄膜製造装置の概略構成を示す模式的に示す図である。実施の形態2にかかる微結晶半導体薄膜製造装置は基本的に実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置と同じ構成を有する。実施の形態2にかかる微結晶半導体薄膜製造装置が実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置と異なる点は、真空容器10内の排気方法である。したがって、実施の形態2にかかる微結晶半導体薄膜製造装置において、高周波電源部などの高周波電圧の発生・給電部やガス供給管については実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置と同一の構成を有するので、その図示および説明を一部省略する。
【0049】
ガス導入室30a、30b、30cにはそれぞれガス排気管20a、20b、20cが設けられている。そして、このガス排気管20a、20b、20cにそれぞれ接続された図示しない真空ポンプによって、真空容器10内のガスが排気可能とされ、真空容器10内が所定の真空度に設定される。また、ガス排気管20a、20b、20cのそれぞれには、ガス排気管20a、20b、20cによる排気のオン/オフを切り替えるエア駆動式あるいは電磁式のガスバルブ26a、26b、26cが設けられている。これらのガスバルブ26a、26b、26cは、制御部60によりそれぞれ別々に開閉または開度を調整することが可能である。なお、ガス排気管20を介した真空容器10内のガスの排気は、実施の形態1の場合と同様に行われる。
【0050】
プラズマ電極12a、12b、12cの内部には、それぞれガス導入室30a、30b、30cとは区切られたガス導入室31a、31b、31cが設けられている。H2ガス供給口22a、22b、22cから真空容器10内に流入したH2ガスは、それぞれガス導入室31a、31b、31cを流れ、プラズマ電極12a、12b、12cのそれぞれに設けられたガスシャワーヘッド13a、13b、13cを通じて、プラズマ生成空間に供給される。SiH4ガスについては、実施の形態1の場合と同様にSiH4ガス供給口22d、22e、22fから真空容器10内に流入したSiH4ガスは、それぞれガス導入室30a、30b、30cを流れ、プラズマ電極12a、12b、12cのそれぞれに設けられたガスシャワーヘッド13a、13b、13cを通じて、プラズマ生成空間に供給される。
【0051】
つぎに、以上のように構成される微結晶半導体薄膜製造装置における微結晶半導体薄膜製造方法について説明する。実施の形態2にかかる微結晶半導体薄膜製造装置における微結晶半導体薄膜製造方法は基本的に実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置の場合と同様である。以下では、実施の形態2にかかる微結晶半導体薄膜製造方法における真空容器10内のガスの排気方法について説明する。
【0052】
図5は、実施の形態2にかかる微結晶半導体薄膜製造装置による微結晶シリコン薄膜形成中におけるH2ガスの流量とプラズマ電極12aに印加される高周波電圧とガスバルブ25cへの開閉信号とガスバルブ26a、26b、26cへの開閉信号の時間に対する変化の一例を示す図である。H2ガスは実施の形態1の場合と同様に時間によらず真空容器10内に常に所定の流量で供給されるが、SiH4ガスは、TONの期間中に真空容器10内の特定の領域付近に供給され、Toffの期間中には真空容器10内に供給されない。また、高周波電圧は、TONの期間中、すなわちSiH4ガスのオン中にPonの出力でプラズマ電極12a、12b、12cに印加され、Toffの期間中、すなわちSiH4ガスのオフ中にはプラズマ電極12に印加されない。
【0053】
領域Aでは、期間TAonにガスバルブ25cが制御部60からバルブ開信号を受けて開状態となり、SiH4ガスがプラズマ電極12aに設けられたガス導入室30aおよびガスシャワーヘッド13aを通じて真空容器10内のプラズマ生成空間である領域Aに供給される。また、高周波電圧は、TAon 期間中、すなわちSiH4ガスのオン中にPonの出力でプラズマ電極12aに印加される。これにより、領域AにSiH4ガスが供給されるのと同期して、領域AにSiH4/H2混合プラズマが形成され、基板ステージ11上の基板100の表面に非晶質シリコンが堆積して非晶質シリコン薄膜が形成される。
【0054】
このとき、プラズマ電極12aに設けられたガス排気管20aのガスバルブ26aは閉とされる。また、プラズマ電極12bに設けられたガス排気管20bのガスバルブ26bおよびプラズマ電極12cに設けられたガス排気管20cのガスバルブ26cは、開または所定の圧力になるよう調整された開度とされる。すなわち、領域AにSiH4ガスが供給される期間TAonにおいてはガス排気管20aのガスバルブ26aは閉とされる。
【0055】
一方、期間TAoffでは、プラズマ電極12aに高周波電圧が印加され、高密度水素プラズマが照射され、結晶化が促進される。また、期間TAon以外の期間(期間TAoffを含む)においては、領域Aに設けられたガス排気管20aのガスバルブ26aは開または所定の圧力になるよう調整された開度とされる。
【0056】
そして、領域Bおよび領域Cにおいても、領域Aの場合と同様の成膜処理が行われる。なお、この例では期間TAonと期間TBonと期間TConとが1単位時間ずつずれるようにガスバルブ25c、25d、25eに対するバルブ開閉信号が制御される。また、期間TAonと期間TBonと期間TConとの終了後に期間TAoffが来るようにガスバルブ25c、25d、25eに対するバルブ開閉信号が制御される。すなわち、期間TAoff、期間TBoff、期間TCoffは、それぞれ期間TAon、期間TBon、期間TConから1単位時間ずつずれるように制御される。そして、期間Tonにおいては、SiH4ガスが供給される領域に対応したガス排気管20のガスバルブ26は閉とされ、他の領域に対応したガス排気管20のガスバルブ26は開または所定の圧力になるよう調整された開度とされる。
【0057】
この実施の形態2によれば、実施の形態1の場合と同様にプラズマCVD法による膜形成中において、真空容器10内へH2ガスを一定流量で供給し、分割されたプラズマ生成空間(領域A、領域B、領域C)に対して異なるタイミングでSiH4ガスを供給するとともにSiH4ガスのオン/オフに同期して高周波電力を供給するようにしたので、SiH4ガスの供給された領域では非晶質シリコン薄膜が高速に基板100上に形成され、SiH4ガスが供給されていない領域では形成された非晶質シリコン薄膜が高速に結晶化される。これを繰り返し行うことによって、従来の微結晶シリコン薄膜の形成方法に比べて結晶性を低下させずに、高速で且つ均一に微結晶シリコン薄膜を大面積に形成することができるという効果を有する。その結果、微結晶シリコン薄膜の製造工程のスループットを向上させることができ、例えば光電変換層として用いる太陽電池の製造工程のスループットを向上させることができるという効果を有する。
【0058】
また、実施の形態2では、期間Tonにおいては、SiH4ガスが供給される領域に対応したガス排気管20のガスバルブ26は閉とされ、他の領域に対応したガス排気管20のガスバルブ26は開または所定の圧力になるよう調整された開度とされる。これにより、期間Toff時に真空容器10内に残留するSiH4ガスの主な供給源であるガス導入室30内のSiH4ガスを素早く排気することができるため、期間Toffにおいて結晶化処理が行われる領域へのSiH4ガスの供給を抑制・防止することができ、微結晶シリコン薄膜の結晶化率の低下を抑制することが可能となる。
【0059】
したがって、実施の形態2によれば、メートル級の大面積基板上に微結晶シリコン薄膜をより高速で成膜することができる。また、領域毎にガス流量を調節することも可能であるため、より均一性が向上するという効果も有する。
【0060】
実施の形態3.
実施の形態2では、成膜の高速化について説明したが、さらなる成膜の高速化を実現するためには、プラズマ電極12に印加する高周波電圧として、周波数が30〜150MHzのVHF帯を用いることが好ましい。しかしながら、VHF帯の高周波電圧を用いる場合、高周波電圧の周波数の増加により、高周波電圧の「波」としての性質が顕著に表れ、成膜特性が電極面内で不均一になる。すなわち、電極面内で高周波電圧が干渉を起こし、定在波を形成することで電界強度分布が不均一になり、その結果プラズマ密度が不均一となり、最終的に成膜速度や膜質そのものが不均一になってしまう。また、実施の形態1のように分割されたプラズマ電極12を用いた場合でも、高周波電圧に対して電気的に分離することは難しく、均一なプラズマを形成することが難しい。そこで、実施の形態3では、印加する高周波電圧に30〜150MHzのVHF帯を用いて高速に且つ均一に微結晶薄膜を成膜する実施の形態について説明する。
【0061】
図6は、実施の形態3にかかる微結晶半導体薄膜製造装置の概略構成を示す模式的に示す図である。実施の形態3にかかる微結晶半導体薄膜製造装置は基本的に実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置と同じ構成を有する。実施の形態3にかかる微結晶半導体薄膜製造装置が実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置と異なる点は、電極の形状、高周波電源部の構成および給電方法である。したがって、実施の形態3にかかる微結晶半導体薄膜製造装置において、ガス供給管については実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置と同一の構成を有するので、その図示および説明を一部省略する。
【0062】
実施の形態3においてプラズマ電極12は、下部に一枚の板状のガスシャワーヘッド13を有し、その上部には分離されたガス導入室30a、30b、30cを有する。さらに、プラズマ電極12の上面部は、インピーダンス整合器70a、70bと位相変調器80a、80bとを介して、高周波電源部40a、40bと電気的に接続されている。これによって、プラズマ電極12には、プラズマ電極下面部における対向する1組の辺上付近に設けた給電点41d、41eから高周波電圧が印加される。高周波電源部40a、40bの発振周波数は、30〜150MHzのVHF帯である。なお、図6では対向する1組の辺上中央部付近に2つの給電点41c、41dを設けたが、給電点の位置、数はこれに限定されるものではない。
【0063】
つぎに、以上のように構成される微結晶半導体薄膜製造装置における微結晶半導体薄膜製造方法について説明する。実施の形態3にかかる微結晶半導体薄膜製造装置における微結晶半導体薄膜製造方法は基本的に実施の形態1にかかる微結晶半導体薄膜製造装置の場合と同様である。以下では、実施の形態3にかかる微結晶半導体薄膜製造方法における特徴について説明する。
【0064】
まず、高周波電圧について説明する。図7は、実施の形態3にかかる微結晶半導体薄膜製造装置においてプラズマ電極12に高周波電圧を印加した場合のプラズマ生成空間における電界分布を示す図である。実施の形態3では、高周波電源部40a、40bから供給される高周波電圧は、それぞれインピーダンス整合器70a、70bにより給電時のインピーダンスが整合され、位相変調器80a、80bにより給電時の位相が2つの給電点41a、41bに関して互いに変調されて給電点41d、41eからプラズマ電極12に供給される。これにより、図7に示すように対向する1組の辺と平行な尾根または谷状の電界分布、つまり局在化したプラズマを形成することができる。
【0065】
また、給電点41d、41eから供給する2つの高周波電圧の互いの位相を変化させることで、局在化したプラズマを所望の位置に形成することが可能となり、例えば図7に示すように領域Aと領域C、領域Bの2領域に局在化したプラズマが形成される電界分布が形成される。このとき、時間平均した場合にプラズマ形成領域全体にわたって均一である電界分布が望ましい。図7では、横軸(位置)は、図6における左右方向に対応しており、横軸(位置)の左端が給電点41dの位置に対応し、横軸(位置)の右端が給電点41eの位置に対応している。
【0066】
図8は、実施の形態3にかかる微結晶半導体薄膜製造装置による微結晶シリコン薄膜形成中のH2ガスの流量と、ガスバルブ25c、25d、25eへの開閉信号と、領域A、領域B、領域Cにおける電界強度の時間に対する変化の様子を示す図である。図8に示されるように、H2ガスは時間によらず真空容器10内に常に所定の流量で供給されるが、SiH4ガスは、Tonの期間中に真空容器10内の特定の領域付近に供給され、Toffの期間中には真空容器10内に供給されない。すなわち、期間TAon(期間TCon)においてはSiH4ガスは真空容器10内の領域Aおよび領域C付近に供給され、期間TBonにおいてはSiH4ガスは真空容器10内の領域B付近に供給される。
【0067】
すなわち、期間TAon=期間TConにおいては、制御部60からのバルブ開信号を受けてガスバルブ25c、25eが動作して開状態となり、SiH4ガスがプラズマ電極12に設けられたガスシャワーヘッド13を通じて真空容器10内のプラズマ生成空間である領域A、領域Cに供給される。また、SiH4ガスが供給されるのと同期して、高周波電源部40a、40bから30〜150MHzのVHF帯の高周波電圧がPonの出力でプラズマ電極12に印加され、領域A、領域Cに局在化したプラズマが形成される。高周波電源部40a、40bから供給される高周波電圧は、それぞれインピーダンス整合器70a、70bにより給電時のインピーダンスが整合され、位相変調器80a、80bにより給電時の位相が2つの給電点41d、41eに関して互いに変調されて給電点41d、41eからプラズマ電極12に供給される。これにより、領域A、領域CにSiH4ガスが供給されるのと同期して、領域A、領域CにSiH4/H2混合プラズマが形成され、基板ステージ11上の基板100の表面に非晶質シリコンが堆積して非晶質シリコン薄膜が形成される。
【0068】
一方、期間TAoff=期間TCoffにおいては、制御部60からのバルブ閉信号を受けてガスバルブ25c、25eが動作して閉状態となり、SiH4ガスの供給は停止し、H2ガスのみが領域A、領域Cに供給される。そして、高周波電圧は、期間TAoff=期間TCoffの期間中、すなわちSiH4ガスのオフ中にPoff(>Pon)の出力でプラズマ電極12に印加される。これにより、基板100上において領域A、領域Cに対応する領域に形成された非晶質シリコン薄膜に照射されて非晶質シリコン薄膜の結晶化が促進され、微結晶シリコン薄膜が得られる。また、基板100上において領域Bに対応する領域についても同様にして微結晶シリコン薄膜を得ることができ、基板100上の全体にわたって、微結晶シリコン薄膜が形成される。
【0069】
以上の処理が繰り返されることにより、単位領域毎、すなわち領域A、領域B、領域C毎に非晶質シリコン薄膜が形成され、さらにこの非晶質シリコン薄膜の結晶化が促進され、微結晶シリコン薄膜が得られる。これにより、基板100上の全体にわたって微結晶シリコン薄膜が形成される。そして、以上の処理を所望の回数繰り返すことで、所望の膜厚の微結晶シリコン薄膜を得ることが可能となる。
【0070】
この実施の形態3によれば、実施の形態1の場合と同様にプラズマCVD法による膜形成中において、真空容器10内へH2ガスを一定流量で供給し、分割されたプラズマ生成空間(領域A、領域B、領域C)に対して異なるタイミングでSiH4ガスを供給するとともにSiH4ガスのオン/オフに同期して高周波電力を供給するようにしたので、SiH4ガスの供給された領域では非晶質シリコン薄膜が高速に基板100上に形成され、SiH4ガスが供給されていない領域では形成された非晶質シリコン薄膜が高速に結晶化される。これを繰り返し行うことによって、従来の微結晶シリコン薄膜の形成方法に比べて結晶性を低下させずに、高速で且つ均一に微結晶シリコン薄膜を大面積に形成することができるという効果を有する。その結果、微結晶シリコン薄膜の製造工程のスループットを向上させることができ、例えば光電変換層として用いる太陽電池の製造工程のスループットを向上させることができるという効果を有する。
【0071】
また、実施の形態3では、分割されたプラズマ生成空間(領域A、領域B、領域C)に、局在化したプラズマを形成して成膜を行う。これにより、たとえば領域Aと領域C、領域Bの2領域にVHF帯の高周波電圧を印加することで局在化した均一なプラズマを形成して成膜する。これにより、高周波電圧の干渉に起因したプラズマ密度の不均一を防止して、高速に且つ均一に微結晶シリコン薄膜を得ることができる。
【0072】
また、実施の形態3では、局所的なプラズマの強度分布を調製すればよいので、装置の構成や制御が簡便である。また、プラズマ電極として一体型電極を使用できるので、装置の構成が簡便である。
【0073】
したがって、実施の形態3によれば、メートル級の大面積基板上に微結晶シリコン薄膜をより高速で成膜することができる。また、領域毎にガス流量を調節することも可能であるため、より均一性が向上するという効果も有する。
【0074】
なお、上記においてはガス供給領域を3領域に分けて、領域Aと領域C、領域Bの2領域に局在化したプラズマを形成して成膜する方法を示したが、ガス供給領域はこれに限定されるものではない。すなわち、ガス供給領域を複数の領域に分け、その領域に対応して局在化したプラズマを形成して成膜することにより、上記と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上のように、本発明にかかる微結晶半導体薄膜製造装置は、微結晶質半導体薄膜を大面積基板上に均一に高速で形成する場合に有用であり、特に、シリコン薄膜太陽電池に用いられる微結晶シリコン薄膜の製造に適している。
【符号の説明】
【0076】
10 真空容器
11 基板ステージ
12、12a、12b、12c、12d プラズマ電極
13、13a、13b、13c ガスシャワーヘッド
20、20a、20b、20c ガス排気管
22a、22b、22c H2ガス供給口
22d、22e、22f SiH4ガス供給口
23a H2ガス供給管
23b SiH4ガス供給管
24a マスフローコントローラ
24b マスフローコントローラ
25a、25b、25c、25d、25e ガスバルブ
26a、26b、26c ガスバルブ
30、30a〜30i ガス導入室
40a、40b、40c 高周波電源部
41a〜41i 給電点
60 制御部
70a、70b インピーダンス整合器
80a、80b 位相変調器
100 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマCVD法により微結晶半導体薄膜を製造する微結晶半導体薄膜製造装置であって、
基板を保持する基板保持手段を有する真空容器と、
前記真空容器内において前記基板に対向して設けられるプラズマ電極と、
前記真空容器に水素を主成分に含むガスを一定量で連続的に供給する第1のガス供給手段と、
前記基板保持手段に保持された前記基板と前記プラズマ電極との間のプラズマ生成空間を前記基板の面内において複数に分割した分割領域に対して、少なくともシリコンまたはゲルマニウムを含む半導体材料ガスを前記分割領域毎に個別に且つ周期的に供給する第2のガス供給手段と、
前記半導体材料ガスの供給と同期して前記プラズマ電極における前記半導体材料ガスが供給された前記分割領域に対応する領域に個別に高周波電圧を印加する高周波電源と、
前記分割領域への前記半導体材料ガスの供給のオン/オフを制御するとともに前記半導体材料ガスの供給に同期させて前記プラズマ電極に印加する高周波電圧に振幅変調を加える制御手段と、
前記真空容器内のガスを排気する第1排気手段と、
を備えることを特徴とする微結晶半導体薄膜製造装置。
【請求項2】
前記プラズマ電極は、
前記分割領域毎に対応して設けられて前記水素を主成分に含むガスおよび前記半導体材料ガスが供給される複数のガス供給室と、
前記プラズマ電極の前記基板保持手段側に前記分割領域毎に対応して設けられて前記ガス供給室に供給された前記水素を主成分に含むガスおよび前記半導体材料ガスを対応する前記分割領域に複数の孔を介して供給する複数のシャワーヘッドと、
を備え、
前記半導体材料ガスが供給された前記ガス供給室に対応する領域に個別に高周波電圧が印加されること、
を特徴とする請求項1に記載の微結晶半導体薄膜製造装置。
【請求項3】
前記ガス供給室を介して前記真空容器内のガスを排気する第2排気手段を有すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の微結晶半導体薄膜製造装置。
【請求項4】
前記ガス供給室が、前記水素を主成分に含むガスが供給される第1のガス供給室と、前記半導体材料ガスが供給される第2のガス供給室と、に分離され、
前記第2排気手段が、前記第2のガス供給室を介して前記真空容器内のガスを排気すること、
を特徴とする請求項3に記載の微結晶半導体薄膜製造装置。
【請求項5】
前記プラズマ電極と前記基板との間に局在化したプラズマを形成すること、
を特徴とする請求項1に記載の微結晶半導体薄膜製造装置。
【請求項6】
前記分割領域毎に対応して設けられて前記水素を主成分に含むガスおよび前記半導体材料ガスが個別に供給される複数のガス供給室と、
前記プラズマ電極の前記基板保持手段側に前記複数のガス供給室を覆って設けられて前記ガス供給室に供給された前記水素を主成分に含むガスおよび前記半導体材料ガスを複数の孔を介して供給する一体型のシャワーヘッドと、
を備え、
前記半導体材料ガスが供給された前記ガス供給室に対応する領域に個別に高周波電圧が印加されること、
を特徴とする請求項5に記載の微結晶半導体薄膜製造装置。
【請求項7】
前記高周波電圧は、前記複数のガス供給室の外縁部における少なくとも2点の給電点から、時間的に位相を変調して印加されること、
を特徴とする請求項6に記載の微結晶半導体薄膜製造装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記半導体材料ガスの供給をオンにしているときの前記高周波電圧を前記半導体材料ガスの供給をオフにしているときの前記高周波電圧よりも小さくなるように前記高周波電圧に振幅変調を加えること、
を特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の微結晶半導体薄膜製造装置。
【請求項9】
プラズマCVD法により微結晶半導体薄膜を製造する微結晶半導体薄膜製造方法であって、
プラズマ電極を有する真空容器を備えた微結晶薄膜形成装置の前記真空容器内で、前記プラズマ電極に対向するように基板を保持する基板保持工程と、
前記真空容器に水素を主成分に含むガスを一定量で連続的に供給しながら、少なくともシリコンまたはゲルマニウムを含む半導体材料ガスを断続的に供給するとともに、前記半導体材料ガスが供給される期間と供給されない期間とに同期させて異なる高周波電圧を前記プラズマ電極に印加して前記プラズマ電極と前記基板との間のプラズマ生成空間にプラズマを生成して微結晶半導体薄膜を形成する微結晶半導体薄膜形成工程と、
を含み、
前記微結晶半導体薄膜形成工程では、
前記基板と前記プラズマ電極との間のプラズマ生成空間を前記基板の面内において複数に分割した分割領域に対して、前記半導体材料ガスを前記分割領域毎に個別に且つ周期的に供給し、
前記半導体材料ガスの供給と同期して前記プラズマ電極における前記半導体材料ガスが供給された前記分割領域に対応する領域に個別に高周波電圧を印加し、
前記半導体材料ガスが供給されない期間では、前記真空容器内のガスを排気すること、
を特徴とする微結晶半導体薄膜製造方法。
【請求項10】
前記半導体材料ガスは、前記分割領域毎に対応して設けられて前記水素を主成分に含むガスおよび前記半導体材料ガスが供給される複数のガス供給室と、前記プラズマ電極の前記基板保持手段側に前記分割領域毎に対応して設けられて前記ガス供給室に供給された前記水素を主成分に含むガスおよび前記半導体材料ガスを対応する前記分割領域に複数の孔を介して供給する複数のシャワーヘッドと、を介して前記分割領域毎に供給されること、
を特徴とする請求項9に記載の微結晶半導体薄膜製造方法。
【請求項11】
前記半導体材料ガスが供給されない期間では、前記真空容器の側壁部および前記ガス供給室を介して前記真空容器内のガスを排気すること、
を特徴とする請求項9に記載の微結晶半導体薄膜製造方法。
【請求項12】
前記ガス供給室内に設けられた第1のガス供給室に前記水素を主成分に含むガスを供給し、前記ガス供給室内に設けられた第2のガス供給室に前記半導体材料ガスを供給し、
前記半導体材料ガスが供給されない期間では、前記真空容器の側壁部および前記第2のガス供給室を介して前記真空容器内のガスを排気すること、
を特徴とする請求項11に記載の微結晶半導体薄膜製造方法。
【請求項13】
前記プラズマ電極と前記基板との間に局在化したプラズマを形成すること、
を特徴とする請求項9に記載の微結晶半導体薄膜製造方法。
【請求項14】
前記高周波電圧を前記複数のガス供給室の外縁部における少なくとも2点の給電点から、時間的に位相を変調して印加すること、
を特徴とする請求項13に記載の微結晶半導体薄膜製造方法。
【請求項15】
前記半導体材料ガスの供給をオンにしているときの前記高周波電圧を前記半導体材料ガスの供給をオフにしているときの前記高周波電圧よりも小さくなるように前記高周波電圧に振幅変調を加えること、
を特徴とする請求項9〜14のいずれか1つに記載の微結晶半導体薄膜製造方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−134320(P2012−134320A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284982(P2010−284982)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】