説明

成膜装置および成膜方法

【課題】駆動機構の複雑化やフットプリントの増加を最小限に抑えつつ、防着板によって構成されたシールド空間の排気コンダクタンスを向上し、残留ガスを効果的に減少させた成膜装置を提供する。
【解決手段】シールド空間に開口部を設け、真空ポンプと真空チャンバとの間の排気口を封止可能な可動板を、成膜時に前記開口部を塞ぎ前記排気口を開く第1のポジションと、被処理基板搬送時に前記開口部と前記排気口の両方を開く第2のポジションと、前記排気口を封止する第3のポジションと、に移動可能なように構成された成膜装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理蒸着成長(PVD)など、真空ポンプ及び真空チャンバを用いた減圧環境下で基板上に成膜処理を行なう成膜装置および成膜方法に関し、特に真空チャンバ内に防着板(シールド)を備えた成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、真空室内で基板上に薄膜を堆積させる成膜装置は、様々な産業分野において薄膜形成に古くから用いられている。また最近は半導体デバイス産業に代表されるように、ナノメーターオーダーという極薄膜の需要が高まっており、これに伴って形成される膜質もより高純度なものが要求されるようになっている。こうした要求に応えるため、スパッタに代表される物理蒸着(Physical Vapor Deposition ;PVD)(以下、「PVD」という。)を用いて、高真空下で成膜を行なう技術が注目されている。
【0003】
図3は従来用いられてきたPVD装置の一例を示す模式図である(特許文献1参照)。図3において、301は真空容器、302はターゲット、303はマグネット、304はガスリザーバー、305は直流電源、307は基板、308は基板ホルダー、309はホルダー支持台、310はベローズ、311はゲートバルブ、312はポンプ、313はギア、314は駆動モーター、316はシールド固定部品、330は固定金具、340は絶縁リングである。
【0004】
真空室の内壁面に沿って配置されている防着シールドは、真空容器301の内壁に固定されている円筒状の上部防着シールド306a1と、可動の基板ホルダー308に固定されていてその下端部の内周側に折り返し構造を備えている円筒状の下部防着シールド306a2とに分割されている。 上部防着シールド306a1と下部防着シールド306a2とは、分割されている部分において、互いに間隔を開けて重なり合うように配置されている。
【0005】
また、可動の基板ホルダー308に、下部防着シールド306a2の内周側に位置する円筒状の第三の防着シールド306bが固定されていて、第三の防着シールド306bの下端側と下部防着シールド306a2の下端部の折り返し構造部分とが互いに間隔を開けて重なり合っている。
【0006】
上部防着シールド306a1、下部防着シールド306a2、第三の防着シールド306bは、スパッタされた膜が基板307のみならず真空容器301内全域へ飛散・堆積するため、成膜工程においてパーティクルを発生させないため、飛散した膜をトラップし、容易に剥離しないようにするため必要となる。
【0007】
この上部防着シールド306a1、下部防着シールド306a2、第三の防着シールド306bは、ブラスト加工等により表面粗さが母材より増加するよう処理されており(例えば、中心線粗さRaが数μm以上)、付着した膜が容易に剥離しないように構成され、なおかつ一定量の膜が堆積した場合には交換可能となるよう構成されている。
【0008】
上部防着シールド306a1と下部防着シールド306a2は、ターゲット303から放出されたスパッタ粒子の飛翔方向を制限すると同時に、膜が上部防着シールド306a1と下部防着シールド306a2空間の外部に付着することを防止している。
【0009】
図3のPVD装置においては、真空容器301が所定のガス圧となるようにガスリザーバー304よりスパッタ用ガスを導入し、直流電源305よりターゲット302が負電圧となるよう電力を投入することで、マグネット303によってマグネトロン放電が発生する。
【0010】
マグネトロン放電によってターゲット302の近傍にてスパッタガスがプラズマ化され、このプラズマ中の陽イオンが負電圧のターゲット302に加速されて衝突する。この陽イオンの衝突によりターゲット302から原子・分子等が放出され、放出された原子が対向する基板の表面に達し、所望の膜が堆積される。
【0011】
また、上述のようなスパッタガスに加えて反応ガスを使用する、いわゆる反応性スパッタと呼ばれる技術も知られている。これは、真空容器301内にスパッタガスと共に、例えば酸素・窒素といった反応ガスを導入し、この反応ガスの分子とスパッタリング時にターゲットから放出される原子とを反応させ、生成された反応化合物の薄膜を基板上に形成するものである。例えば、ターゲット302をチタン(Ti)で形成し、反応ガスとして窒素(N)ガスを用いることにより、基板上にチタンナイトライド(TiN)膜を形成することができる。
【0012】
しかしながら、特許文献1に開示されているような装置においては、上部防着シールド306a1と下部防着シールド306a2のシールド空間は、上部防着シールド306a1と下部防着シールド306a2の外部へのコンダクタンスを大きく制限する場合が多く、基板307からの脱ガスや メンテナンスを行なった際の空気中の水分など残留ガス成分が上部防着シールド306a1と下部防着シールド306a2と第三の防着シールド306bとのシールド空間内に滞留しやすい。
【0013】
その結果、装置のメンテナンス時に真空容器301を開放すると、空気中の水分が上部防着シールド306a1と下部防着シールド306a2と第三の防着シールド306bとに付着し、シールド空間内の圧力が低下するまでに時間がかかるため、装置の稼働率が低下する問題を生じる
【0014】
また、反応性スパッタを連続して行なった場合に上部防着シールド306a1と下部防着シールド306a2と第三の防着シールド306bに反応ガスが吸着され、シールド空間内の圧力が徐々に上昇する場合があり、さらには シールド空間内へ放出されるガスの量・成分が変動することにより成膜された膜質が安定しないといった問題が有った。
【0015】
この特許文献1の課題への改善策として、図4に示すような装置が開示されている(特許文献2参照)。図4において、401は半導体ウエハ、410は真空容器、410aは排気口、410bは真空容器上面、410cは真空容器上面、412は試料台、412aはウエハ加熱機構、414はスパッタリングソース、416はシールドリング、416aは開口、418はスパッタガス導入口、418aはバルブ、418bはマスフローコントローラ、420は反応ガス導入口、420aはバルブ、420bはマスフローコントローラ、422はコンダクタンスリング、422aは隙間、424は支持アーム、426はベローズ、428は支持アーム駆動手段である。
【0016】
図4に示す装置は、スパッタされた粒子の飛翔方向を制御するためのシールドリング416の外周面を囲むように、コンダクタンスリング422を設け、このコンダクタンスリング422を移動させることにより、シールドリング416の排気コンダクタンスを可変にするよう構成されている。図4に示す装置は、このような構成により、シールドリング416の内部を所定ガス圧とし、外部を高真空状態で維持したまま、シールドリング416内でスパッタリングを行うようにしている。このため図4に示す装置においては、成膜時は、コンダクタンスリング422が下降することで、試料台412周囲からシールド空間外に漏れたスパッタ粒子が真空容器410の内壁や、真空ポンプに付着することを抑制し、基板搬出入の際には、前記コンダクタンスリング422が上昇し、シールド空間の排気コンダクタンスを向上させることで、シールド空間内の残留ガスを効果的に排気することが可能になるとされている。
【0017】
また、真空チャンバ内に防着板(シールド)を備えた成膜装置として図5記載のものがある(特許文献3参照)。図5において、510はスパッタリング装置、512はチャンバ、514はハウジング、516はターゲット、518は蓋体、520は昇降機構、521はウエハ支持ペディスタル、521aはガス流路、521bは開口部、521cは環状溝、522はウエハ、524は上部部材、524aは上部フランジ、524bは下部フランジ、526は駆動伝達部材、528は駆動機構、530はベローズ、532はガス導管、534はカバーリング、536はシールド、538は排気口、540は高真空ポンプ、542はスパッタリング領域である。
【0018】
図5に示す装置は、内部にチャンバ512を有するハウジング514と、このハウジングの上部に配置されたターゲット516と、ウエハ522を支持すると共に昇降させる昇降機構520と、ターゲットと昇降機構との間に設けられたシールド536とを備え、少なくともターゲット、昇降機構及びシールドによりチャンバ内に形成されるスパッタリング領域542にプロセスガスを供給するガス流路521a,532を昇降機構に備えたスパッタリング装置である。
【0019】
図5に示す装置によれば、昇降機構520に備えられたガス流路を介して直接スパッタリング領域にプロセスガスが供給されるため、チャンバ512の全体にプロセスガスを供給する必要が無くなり、プロセスガスを無駄に消費することなく、少量のプロセスガスで少量のプロセスガスで所望のプロセスガスの分圧を得ることができる。
【0020】
また、真空チャンバ内に防着板(シールド)を備えた成膜装置として図6記載のものがある(特許文献4参照)。図6において、601は可動シールド筒、602は固定シールド筒、603はロッド、604はモータ、605は制御部、606はガス導入口、607は排気口、608はクライポンプ、609はターゲット、610はカソード、611は載置台、612はチャック、613は開口、614はチャンバ、614aは真空計、615はウェハである。
【0021】
図6に示す装置は、ウェハ615を囲む可動シールド筒601を上下動させ、固定シールド筒602との開口の開度をチャンバ614内の圧力に応じて調節できるようにしチャンバ614内の圧力を一定に維持することによって、ウェハ615のスパッタ膜の特性(シート抵抗,膜厚等)のばらつきの経時的な変動を抑制できるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2004−18885号公報
【特許文献2】特開平04−350929号公報
【特許文献3】特開平09−176848号公報
【特許文献4】特開平10−64850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかし、上記特許文献2記載の装置において、コンダクタンスリング322が昇降しても試料台312の周囲に形成された狭窄部を通じて排気されることは変わりがないため、シールドリング316とコンダクタンスリング322との間の空間の排気コンダクタンスは充分拡大されるとは言えない。
【0024】
さらに、コンダクタンスリング322シを昇降するための昇降手段をコンダクタンスリング322の外側に新たに設けているために、機構の複雑化及び装置の大型化を招く恐れもある。
【0025】
また、上記特許文献3記載の装置においては、ウエハ522の成膜を行う場合には、駆動機構528によりウエハ支持ペディスタル521を二点鎖線で示す位置まで上昇させ、ウエハ522を搬送する場合には、駆動機構528によりウエハ支持ペディスタル521を実線で示す位置まで下降させ、行うことが可能である。しかし、上記特許文献3記載の装置においてペデスタルが搬送位置にある時にしかシールド内の残留ガスを効率よく排気することができない。
【0026】
また、上記特許文献4記載の装置においては、ウエハ615の搬送をする場合には、可動シールド筒601を再下端の状態し、ウエハ615の成膜を行う場合には、可動シールド筒601を所定の位置まで上昇させ行うことが可能である。しかし、上記特許文献4記載の装置においては、可動シールド筒601を昇降するためのモータ604を真空チャンバ614の外側に新たに設けているために、機構の複雑化及び装置の大型化を招く恐れがある。
【0027】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、複雑な機構を追加することなくシールド空間内の排気コンダクタンスを向上させ、防着板からの脱ガスの滞留を低減することができる成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この目的を達成するため、本発明の請求項1に記載の発明は、真空容器と、該真空容器内に設けられ、被処理基板を保持する基板保持手段と、該処理基板上に成膜処理を行う成膜処理手段と、前記真空容器外に設けられ、該真空容器内を減圧可能に排気する排気手段と、前記真空容器の内壁面に沿って配置されたシールドと、を備えた成膜装置であって、前記シールドの一部に開口部を設け、該開口部と対向しかつ該開口部と所定の間隔を有するように排気口を前記真空容器に形成し、前記排気口に前記排気手段を取り付け、前記開口部の幅以上の幅を有する可動板が、前記開口部を塞ぐ第1の位置と、該開口部を開口する第2の位置と、前記排気口を封止する第3の位置と、にそれぞれ移動可能な駆動機構を前記真空容器に設けたことを特徴とする成膜装置である。
【0029】
この目的を達成するため、本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記駆動機構は、前記第1の位置と前記第2の位置と前記第3の位置に上下動可能な昇降機構であることを特徴とする成膜装置である。
【0030】
この目的を達成するため、本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記駆動機構は、前記第1の位置と前記第2の位置と前記第3の位置にそれぞれ回転可能な回転移動手段であることを特徴とする成膜装置である。
【0031】
この目的を達成するため、本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記シールドは、前記真空容器の内壁面に沿って配置された第1のシールド部と、前記基板保持手段に固定され該基板保持手段の周囲に設けられた第2のシールド部と、からなり、前記開口部は、前記第1のシールド部と前記第2のシールド部の一方の一部に設けられていることを特徴とする成膜装置である。
【0032】
この目的を達成するため、本発明の請求項5に記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記第1のシールド部に、該第1のシールド部の内周側に折り返す第1の折り返し構造部を設け、前記第2のシールド部に、前記第1のシールド部の第1の折り返し構造部と互いに間隔を開けて重なり合う第2の折り返し構造部を設けたことを特徴とする成膜装置である。
【0033】
この目的を達成するため、本発明の請求項6に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記成膜処理手段が、前記被処理基板と対向して真空容器内に設けられたターゲットと、該ターゲットの上側に設けられたマグネットと、該ターゲットに接続された電源と、からなることを特徴とする成膜装置である。
【0034】
この目的を達成するため、本発明の請求項7に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記可動板が着脱可能な防着板を備えることを特徴とする成膜装置である。
【0035】
この目的を達成するため、本発明の請求項8に記載の発明は、真空容器と、該真空容器内に設けられ、被処理基板を保持する基板保持手段と、該処理基板上に成膜処理を行う成膜処理手段と、前記真空容器外に設けられ、該真空容器内を減圧可能に排気する排気手段と、前記真空容器の内壁面に沿って配置されたシールドと、を備えた成膜装置であって、前記シールドの一部に開口部を設け、該開口部と対向しかつ該開口部と所定の間隔を有するように排気口を前記真空容器に形成し、前記排気口に前記排気手段を取り付け、前記開口部の幅以上の幅を有する可動板が、駆動機構により、前記開口部を塞ぐ第1の位置にある時に被処理基板上に成膜処理を行い、前記可動板が、該開口部を開口する第2の位置にある時に被処理基板の真空容器内への搬入・搬出を行い、前記可動板が、前記排気口を封止する第3の位置にある時に前記成膜装置のメンテナンスを行うことを特徴とする成膜方法である。
【0036】
この目的を達成するため、本発明の請求項9に記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記駆動機構は、前記第1の位置と前記第2の位置と前記第3の位置に上下動可能な昇降機構であることを特徴とする成膜方法である。
【0037】
この目的を達成するため、本発明の請求項10に記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記駆動機構は、前記第1の位置と前記第2の位置と前記第3の位置にそれぞれ回転可能な回転移動手段であることを特徴とする成膜方法である。
【0038】
この目的を達成するため、本発明の請求項11に記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記成膜処理手段が、前記被処理基板と対向して真空容器内に設けられたターゲットと、該ターゲットの上側に設けられたマグネットと、該ターゲットに接続された電源と、からなることを特徴とする成膜方法である。
【0039】
この目的を達成するため、本発明の請求項12に記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記可動板が着脱可能な防着板を備えることを特徴とする成膜方法である。
【発明の効果】
【0040】
本発明により、駆動機構の複雑化を招くことなく、成膜チャンバ内に構成されたシールド空間内の排気コンダクタンスを向上することが可能となり、該シールド空間内の残留ガスを効果的に排気し、メンテナンス時間の短縮や成膜品質の向上、安定性の向上などの効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1A】本発明の第一の実施形態であるマグネトロンスパッタ装置の構造を示す模式図である。
【図1B】本発明の第一の実施形態であるマグネトロンスパッタ装置の構造を示す模式図である。
【図1C】本発明の第一の実施形態であるマグネトロンスパッタ装置の構造を示す模式図である。
【図2A】本発明の第二の実施形態であるマグネトロンスパッタ装置の構造を示す模式図である。
【図2B】本発明の第二の実施形態であるマグネトロンスパッタ装置の構造を示す模式図である。
【図2C】本発明の第二の実施形態であるマグネトロンスパッタ装置の構造を示す模式図である。
【図2D】本発明の第二の実施形態であるマグネトロンスパッタ装置の構造を示す模式図である。
【図2E】本発明の第二の実施形態であるマグネトロンスパッタ装置の構造を示す模式図である。
【図2F】本発明の第二の実施形態であるマグネトロンスパッタ装置の構造を示す模式図である。
【図3】従来技術(特許文献1)の一例である成膜装置の構造を示す模式図である。
【図4】従来技術(特許文献2)の別の一例である成膜装置の構造を示す模式図である。
【図5】従来技術(特許文献3)の別の一例である成膜装置の構造を示す模式図である。
【図6】従来技術(特許文献4)の別の一例である成膜装置の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0042】
図1Aから図1Cは、本発明の第1の実施形態の一例である、半導体装置製造に用いるスパッタ装置の模式図である。
【0043】
本発明の第1の実施形態の特徴点は、シールド(防着板)105の一部に開口部113を設け、開口部113と対向しかつ開口部113と所定の間隔を有するように排気口114を真空容器(真空チャンバ)101に形成し、排気口114に排気手段(ターボ分子ポンプ)104を取り付け、開口部113の幅以上の幅を有する可動板103が、開口部113を塞ぐ第1の位置(第1のポジション)と、開口部113を開口する第2の位置(第2のポジション)と、排気口114を封止する第3の位置(第3のポジション)と、にそれぞれに上下動可能な昇降機構112を真空容器(真空チャンバ)101外に設けた点である。
【0044】
真空チャンバ101内に、排気口114を通じてターボ分子ポンプ104が設けられ、該チャンバ内を1×10−8Torr未満の高真空に減圧可能となっている。真空チャンバ101内には、ターゲット108が設けられ、接続されたDC電源109と、近傍に設けられたマグネット107とによりマグネトロン放電が可能となっている。さらに真空チャンバ101内には、ガス導入手段110が設けられており、該ガス導入手段110によって例えばアルゴン等のスパッタガスが導入され、前述したマグネトロン放電によりプラズマを発生させ、ターゲット108をスパッタリングすることが可能となっている。
【0045】
本装置では、防着板105によって構成されるシールド空間が、ターゲット108及び被処理基板Wを戴置するステージ102を取り囲みかつ導入されたガスをステージ102の周囲より排気可能な成膜空間111と、可動板103を収納可能な可動板収納空間115とを備えており、可動板収納空間115には前記排気口114に対向した開口113が設けられている。
【0046】
可動板103は、例えばサーボモーター及びベローズ等の直線運動導入機構から成る昇降機構112により可動板103に対して垂直方向に昇降が可能となっており、可動板103が排気口を封止する第3のポジションへ移動し、下降時には図1Aに示すように排気口114を封止することで所謂ゲートバルブと同じ役割を果たし、真空チャンバ101のベント、メンテナンスを可能とする。
【0047】
その一方で成膜時には、図1Bに示すようにシールド空間の開口113を塞ぐような第1のポジションへ移動することで、排気口114を開き高真空下での成膜を可能とし、さらにシールド空間の外へスパッタされた粒子が漏れることを防止する防着板の役割を果たす。
【0048】
ここで、可動板103のシールド空間に面する側には、例えばブラスト処理や溶射処理といった公知の技術により表面粗度を通常より大きくする加工が施された防着板が取り付けられており、可動板103に堆積したスパッタ膜が容易に剥離しないようにすると共に、一定量の膜厚が堆積した場合には交換が可能となるよう構成されている。
【0049】
さらに、可動板103の第1のポジションでは、開口113の排気コンダクタンスを著しく制限するように可動板103周囲と防着板105とのクリアランスが例えば2mm程度まで狭められている。これによりシールド空間内へ導入されたガスは、ステージ102周囲に設けられた開口より主に排気されることとなり被処理基板W面内において均一な成膜プロセスを行なうことが出来る。
【0050】
さらに可動板103は、被処理基板Wの搬出入時において、図1Cに示す前記可動板収納空間115内の第2のポジションへ移動可能となっている。この第2のポジションにおいて可動板103と防着板105とのクリアランスは例えば10mm以上に拡大させることで、シールド空間の開口113のコンダクタンスを可動板103が前記第1のポジションに有った場合と比べて大幅に向上される。同時に、排気口114のコンダクタンスはほとんど変化しないため、成膜の際の第1のポジションに比べシールド空間内の排気コンダクタンスを上昇させ 残留ガスを効果的に排気することで、メンテナンスから成膜工程実施への復帰時間短縮や 膜質の安定化、高品質化といった効果が得られる。
【0051】
さらに、可動板103と昇降機構112は、従来の装置で設けられていた真空ポンプのゲートバルブとそのまま置換えることが可能であるため、機構の複雑化も最小限に抑えることができる。
【0052】
なお、第1の実施形態においては、シールド(防着板)105は、第1のシールド部105aと第2のシールド部105bとからなり、開口部113は第1のシールド部105aに形成されているが、第2のシールド部105bに形成してもよい。また、第1のシールド部105aと第2のシールド部105bとを一体で形成してもよい。また、第1の実施形態においては、図1Aから図1Cに示す第1のシールド部105aに、第1のシールド部105aの内周側に折り返す第1の折り返し構造部105a1を設け、第2のシールド部105bに、第1のシールド部105aの第1の折り返し返し構造部105a1と互いに間隔を開けて重なり合う第2の折り返し構造部105b2を設けてもよい。
【実施例2】
【0053】
図2Aから図2Fは第一の実施形態と同様に、本発明の別の実施形態の一例である半導体ウェハ用スパッタ装置の模式図である。
【0054】
本発明の第2の実施形態の特徴点は、シールド(防着板)205の一部に開口部213を設け、開口部213と対向しかつ開口部213と所定の間隔を有するように排気口214を真空容器(真空チャンバ)201に形成し、排気口214に排気手段(ターボ分子ポンプ)204を取り付け、開口部213の幅以上の幅を有する可動板203が、開口部213を塞ぐ第1の位置(第1のポジション)と、開口部213を開口する第2の位置(第2のポジション)と、排気口214を封止する第3の位置(第3のポジション)と、にそれぞれに回転可能な回転機構212を真空容器(真空チャンバ)201内に設けた点である。
【0055】
本装置において真空チャンバ201内にターゲット208、ステージ202、ターボ分子ポンプ204、スパッタ用ガスの動入手段210が設けられ、ターゲット208にはマグネトロン放電を行なうためにDC電源209が接続され、マグネット207が設けられている。
【0056】
本装置では、可動板203が防着板205上に設けられた回転機構212によって角度を変えられるよう取り付けられており、成膜時には図2Bに示すようにシールド空間211の開口213を塞ぐ第1のポジションに位置し、ターゲット208と被処理基板Wを取り囲む筒状の防着板205の一部として機能すると共にターボ分子ポンプ204の導入部214を開放する。この際、可動板203はターゲット208から飛来するスパッタ粒子がシールド空間211から外へ漏れるのを防止すると共にシールド空間の開口213のコンダクタンスを制限し、導入されたスパッタ用ガスの主たる排気路がステージ周囲に形成されるようにする。
【0057】
さらに可動板203は、図2Cに示すように、被処理基板Wの搬出入時にシールド空間211内部の第2のポジションへ移動する。この動作により、排気口214のコンダクタンスを維持したまま開口213のコンダクタンスを成膜時に比べて大きく増加させ、シールド空間211内に残留したガス成分を効率よく除去することが可能となる。
【0058】
さらに可動板203は、図2Aに示すように、排気口214を封止する第3のポジションへも移動可能であるため、本発明の可動板303を従来のゲートバルブと置換えることで、機構の複雑化を最小限とすることが出来る。本装置により目的の効果を奏することができる。
【0059】
本発明の装置形態はこれらに限る物ではなく、真空ポンプの種類、配置など適宜変更することができる。また、基板の形状・大きさ・材質も変更が可能であることは言うまでもない。
【0060】
上記実施形態としてはスパッタ装置を挙げているが、本発明の用途は当然ながらこれに限られる物ではなく、防着板を備えた真空成膜装置全般に適用することが可能である。具体的には、電子ビーム等を用いた他の物理蒸着装置や、化学気相堆積(CVD)、原子層堆積(ALD)装置等に適用することができる。
【0061】
なお、第2の実施形態においては、シールド(防着板)205は、第1のシールド部205aと第2のシールド部205bとからなり、開口部213は第1のシールド部205aに形成されているが、第2のシールド部205bに形成してもよい。また、第2の実施形態においては、図2Aから図2Cに示すように、第1のシールド部205aに、第1のシールド部205aの内周側に折り返す第1の折り返し構造部205a1を設け、第2のシールド部205bに、第1のシールド部205aの第1の折り返し返し構造部205a1と互いに間隔を開けて重なり合う第2の折り返し構造部205b2を設けてよい。また、図2Dから図2Fに示すように、第1のシールド部205aと第2のシールド部205bとを一体で形成してもよい。
【符号の説明】
【0062】
101、201 真空容器(真空チャンバ)
102、202 ステージ
103、203 可動板
104、204 排気手段(ターボ分子ポンプ)
105、205 シールド(防着板)
105a、205a 第1のシールド部
105a1、205a1 第1の折り返し構造部
105b、205b 第2のシールド部
105b2、205b2 第2の折り返し構造部
106、206 シールド(防着板)固定部材
107、207 マグネット
108、208 ターゲット
109、209 DC電源
110、210 ガス導入手段
111、211 成膜空間
112、212 駆動機構
113、213 開口部
114、214 排気口
W 被処理基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、該真空容器内に設けられ、被処理基板を保持する基板保持手段と、該処理基板上に成膜処理を行う成膜処理手段と、前記真空容器外に設けられ、該真空容器内を減圧可能に排気する排気手段と、前記真空容器の内壁面に沿って配置されたシールドと、を備えた成膜装置であって、
前記シールドの一部に開口部を設け、該開口部と対向しかつ該開口部と所定の間隔を有するように排気口を前記真空容器に形成し、前記排気口に前記排気手段を取り付け、前記開口部の幅以上の幅を有する可動板が、前記開口部を塞ぐ第1の位置と、該開口部を開口する第2の位置と、前記排気口を封止する第3の位置と、にそれぞれ移動可能な駆動機構を前記真空容器に設けたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記第1の位置と前記第2の位置と前記第3の位置に上下動可能な昇降機構であることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記駆動機構は、前記第1の位置と前記第2の位置と前記第3の位置にそれぞれ回転可能な回転移動手段であることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項4】
前記シールドは、前記真空容器の内壁面に沿って配置された第1のシールド部と、前記基板保持手段に固定され該基板保持手段の周囲に設けられた第2のシールド部と、からなり、前記開口部は、前記第1のシールド部と前記第2のシールド部の一方の一部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記第1のシールド部に、該第1のシールド部の内周側に折り返す第1の折り返し構造部を設け、前記第2のシールド部に、前記第1のシールド部の第1の折り返し構造部と互いに間隔を開けて重なり合う第2の折り返し構造部を設けたことを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記成膜処理手段が、前記被処理基板と対向して真空容器内に設けられたターゲットと、該ターゲットの上側に設けられたマグネットと、該ターゲットに接続された電源と、からなることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項7】
前記可動板が着脱可能な防着板を備えることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項8】
真空容器と、該真空容器内に設けられ、被処理基板を保持する基板保持手段と、該処理基板上に成膜処理を行う成膜処理手段と、前記真空容器外に設けられ、該真空容器内を減圧可能に排気する排気手段と、前記真空容器の内壁面に沿って配置されたシールドと、を備えた成膜装置であって、
前記シールドの一部に開口部を設け、該開口部と対向しかつ該開口部と所定の間隔を有するように排気口を前記真空容器に形成し、前記排気口に前記排気手段を取り付け、前記開口部の幅以上の幅を有する可動板が、駆動機構により、前記開口部を塞ぐ第1の位置にある時に被処理基板上に成膜処理を行い、前記可動板が、該開口部を開口する第2の位置にある時に被処理基板の真空容器内への搬入・搬出を行い、前記可動板が、前記排気口を封止する第3の位置にある時に前記成膜装置のメンテナンスを行うことを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
前記駆動機構は、前記第1の位置と前記第2の位置と前記第3の位置に上下動可能な昇降機構であることを特徴とする請求項8記載の成膜方法。
【請求項10】
前記駆動機構は、前記第1の位置と前記第2の位置と前記第3の位置にそれぞれ回転可能な回転移動手段であることを特徴とする請求項8記載の成膜方法。
【請求項11】
前記成膜処理手段が、前記被処理基板と対向して真空容器内に設けられたターゲットと、該ターゲットの上側に設けられたマグネットと、該ターゲットに接続された電源と、からなることを特徴とする請求項8記載の成膜方法。
【請求項12】
前記可動板が着脱可能な防着板を備えることを特徴とする請求項8記載の成膜方法。


【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図2E】
image rotate

【図2F】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−132580(P2011−132580A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294295(P2009−294295)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】