説明

振動片、振動子、発振器、および電子機器

【課題】振動部の熱弾性損失を抑制しつつ、同相モードの振動も抑制し、高精度で信頼性の高い振動片を提供する。
【解決手段】基部14と、基部14から延設された連結部15と、互いに平行に延びる複数の第1軸上に、連結部15を基端として延設され、第1面と該第1面に対向する第2面と前記第1面および前記第2面を連結する側面とを有し、前記第1面および前記第2面に対して法線方向に屈曲する複数の振動腕16(16a,16b,16c)とを備え、複数の振動腕16は、駆動時に互いに隣り合う振動腕16が反対方向に屈曲振動し、屈曲方向が相反する前記振動腕16のうちのいずれか一方の根元付近の連結部15に配置される矯正部18を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動片、振動子、発振器、および電子機器に係り、特に屈曲振動を励振する振動片、並びにこの振動片を搭載した振動子、ならびに発振器、およびこれらの振動子や発振器を搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
屈曲振動を励起する振動片では、振動部の表裏面に生ずる局部的な圧縮と引張によって生ずる熱弾性損失を考慮した設計が必要となってくる。例えば特許文献1に開示されている技術によれば、水晶振動子の腕部分に溝を設けることで、共振の安定度を示すQ値を向上させることができることが解る。
【0003】
しかし、電子デバイスの小型化や薄型化に伴い、振動片の小型化や薄型化が進むと、振動部に精度良く溝を形成することは非常に困難となる。
このような問題点を回避する手段として、図13(A)に示すように振動部を薄型化し、この振動部に圧電体層を形成することが考案されている(特許文献2−4)。このような構成の振動片では、圧電体層の表裏に、電位の異なる電界を印加することで、圧電体層の形成面と交差する方向(法線方向)の振動を励起させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−32229号公報
【特許文献2】特開2009−5022号公報
【特許文献3】特開2009−5023号公報
【特許文献4】特開2009−5024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2−4に開示されているような構成の振動片であれば確かに、振動部の屈曲に伴う熱弾性損失を抑制することができる。特許文献2−4に開示されている振動片は、振動部としての振動腕を複数、具体的には奇数本備えると共に、この複数の振動腕の基端に基部を形成して成る。
【0006】
このような構成の振動片では、振動腕が同相、あるいは特定の位相をもって振動するモードを利用して振動を励起している。また、このような構成の振動片では主に、実装のために肉厚化された基部と、熱弾性損失を抑制するために肉薄化された振動腕との間に、結晶構造の異方性によるエッチングレートや、屈曲振動時における応力の集中を避けることを目的として、振動腕と同様に肉薄化された連結部が設けられている。
【0007】
肉薄化された連結部は、振動腕による法線方向の振動の影響を受け易い。このため、肉薄化された連結部を有する振動片では、各々の振動腕が約180度の位相差を持って振幅するウォークモード振動の他に、全ての振動腕が同相で振幅するような振動モードを生ずることがある(図13(B)参照)。
【0008】
例えば3本の振動腕を有する振動子では、図14に示すようなインピーダンス特性を示すこととなる。ここで、所望するウォークモードの振動周波数をfとすると、同相モードの振動が、寄生的振動モードとして、その周波数近傍に現れる。このような寄生的振動モードが生ずると、振動片を発振回路と組み合わせて発振器を構成した場合に、所望する発振周波数を得ることができなくなることがある。
【0009】
そこで本発明では、上記問題点を解消し、振動部の熱弾性損失を抑制しつつ、同相モードの振動も抑制し、高精度で信頼性の高い振動片、振動子、発振器、および電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]基部と、前記基部から延設された連結部と、互いに平行に延びる複数の第1軸上に、前記連結部を基端として延設され、第1面と該第1面に対向する第2面と前記第1面および前記第2面を連結する側面とを有し、前記第1面および前記第2面に対して法線方向に屈曲する複数の振動腕とを備え、前記複数の振動腕は、駆動時に互いに隣り合う前記振動腕が反対方向に屈曲振動し、屈曲方向が相反する前記振動腕のうちのいずれか一方の根元付近の連結部に配置される矯正部を有することを特徴とする振動片。
このような構成とすることにより、振動部における熱弾性損失を抑制しつつ、同相モードの振動も抑制し、高精度で信頼性の高い振動片を構成することができる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の振動片であって、前記振動腕は、3本以上の奇数本設けることを特徴とする振動片。
このような構成とすることで、第1面に対して法線方向に屈曲する複数の振動腕が、安定したウォークモードで動作することとなる。
【0012】
[適用例3]適用例2に記載の振動片であって、前記矯正部は、前記基部の幅方向中心を基点として前記連結部の延設方向へ軸線を定めた中心軸を基点として線対称に設けることを特徴とする振動片。
このような構成とすることで、連結部のねじれを抑制し、寄生振動モードの発生を抑制する効果を高めることができる。
【0013】
[適用例4]適用例1乃至適用例3のいずれか1例に記載の振動片であって、前記基部は、前記連結部、および前記振動腕よりも肉厚であることを特徴とする振動片。
このような構成とすることにより、実装時の強度を確保しつつ、熱弾性損失を抑制することができる。
【0014】
[適用例5]適用例1乃至適用例4のいずれか1例に記載の振動片と、前記振動片を内部に実装したパッケージを有したことを特徴とする振動子。
このような構成とすることにより、小型化した場合であっても、高精度で、信頼性の高い振動子とすることができる。
【0015】
[適用例6]適用例1乃至適用例4のいずれか1例に記載の振動片と、前記振動片の発振を制御する電子部品と、前記振動片を駆動する電子部品と、を有することを特徴とする発振器。
このような構成とすることにより、小型化した場合であっても、高精度で信頼性の高い発振器とすることができる。
【0016】
[適用例7]適用例1乃至適用例4のいずれか1例に記載の振動片を搭載したことを特徴とする電子機器。
このような構成とすることにより、電子機器の小型化にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る振動片の構成を示す3面図である。
【図2】実施形態に係る振動片の構成を示す分解斜視図である。
【図3】実施形態に係る振動片のインピーダンス特性を示すグラフである。
【図4】実施形態に係る振動片における基板の製造工程を説明するための図である。
【図5】実施形態に係る振動片における第1の変形例を示す図である。
【図6】実施形態に係る振動片における第2の変形例を示す図である。
【図7】実施形態に係る振動片における第3の変形例を示す図である。
【図8】実施形態に係る振動片における第4の変形例を示す図である。
【図9】実施形態に係る振動片を実装した振動子の構成を示す図である。
【図10】実施形態に係る振動片と、この振動片を発振させる回路を備えた電子部品を実装した発振器の構成を示す図である。
【図11】実施形態に係る振動子、または発振器のうちの少なくとも一方を搭載する電子機器の一例としての携帯電話を示す図である。
【図12】実施形態に係る振動子、または発振器のうちの少なくとも一方を搭載する電子機器の一例としてのパーソナルコンピュータを示す図である。
【図13】従来の振動片の構成と同相振動モードの様子を示す図である。
【図14】従来の振動片のインピーダンス特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の振動片、振動子、発振器、および電子機器に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、図1、図2を参照して、第1の実施形態に係る振動片について説明する。なお、図1において、図1(A)は振動片の平面図であり、図1(B)は同図(A)におけるA−A矢視を示す図であり、図1(C)は振動片の裏面図である。また、図2は、振動片の分解斜視図である。本実施形態に係る振動片10は、基板12と、圧電体層28、および第1電極20ならびに第2電極38とを有する。
【0019】
基板12は、例えば水晶やシリコン等の単結晶材料により構成され、基部14と、この基部14から延設された連結部15、および連結部15を基端として延設された複数(図1、2に示す形態においては3つ)の振動腕16(16a〜16c)とから成る。実施形態に係る例の場合、基部14は、連結部15、および振動腕16に比べて肉厚に形成され、実装時の機械的強度を保つことが可能な形態とされている。一方振動腕16は、基部14に比べて肉薄に形成され、振動時における熱弾性損失の抑制が図られている。また、振動腕16は、基部14を基点として連結部15の延設方向へ軸線を定めた中心軸に平行に定められた第1軸上に設けられる。本実施形態の場合、3つの振動腕16a〜16cは、中心軸を基点として線対称に設けられる。なお、連結部15は、形状形成時における基板12の特性や、段差部に集中する応力の緩和を考慮して設けられている。基部14と連結部15、および振動腕16との間で厚みを異ならせる構成とされる実施形態に係る基板12は、基部14と連結部15、および振動腕16とを平坦に連続させた第1面と、基部14と連結部15との間に段差を形成した第2面とを有する。このように形成される第1面は、振動腕16の屈曲方向と交差(直交)する方向に沿った面であり、第2面は、当該第1面に対向する面となる。なお、基板12を水晶により構成する場合、基板12を形成する際の素板12a(図4参照)のカット角はZカットとすることが望ましいが、XカットやATカットによるものであっても良い。実施形態に係る基板12は、直接的に電圧が印加される対象とはならないため、基本的にはカット角が振動特性に影響を及ぼすことは無い。但し、Zカットで切り出された素板12aを用いた場合には、水晶の異方性エッチング特性を利用することで加工が容易になるといった利点がある。
【0020】
第1電極20、圧電体層28、および第2電極38は、基板12における第1面に積層形成される。なおここで、第1電極20とは圧電体層28を形成する前に形成される電極であり、第2電極38とは圧電体層28を形成した後に形成される電極とする。よって、第1電極20と第2電極38といった表現と、各電極における電位とは関係が無い。また、各電極の電位については、図2の分解斜視図に示す第1電極20、第2電極38におけるハッチングの向きに依存するものとする。第1電極20、第2電極38の形成材料としては、基板12である水晶との密着性が良く、圧電体層28の配向性を促しやすいものとすると良い。電極部材として汎用性のある材料としては、Au、Pt、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Nb、W、Ni、Fe、Ti、Co、Zn、Zrなどを挙げることができる。本実施形態では、第1電極20、第2電極38共に、下層にCr、上層にAuとした2層構造の金属層により形成することとする。また、圧電体層28としては、ZnOやAlN、PZT、LiNbO、KNbOなどを挙げることができ、本実施形態では主にAlNを採用することとする。
【0021】
第1電極20は例えば、第1層励振電極22a,22b,22cと、第1層引出電極24,26とより構成される。ここで、第1層励振電極22aと第1層励振電極22cとは同電位であり、第1層引出電極24により接続されている。一方、第1層励振電極22bは電気的に浮いた状態となり、詳細を後述する第2電極38との接続のための第1層引出電極26と接続されている。
【0022】
圧電体層28は、上述した第1電極20を覆うように形成される。具体的には、振動腕16a,16b,16cに形成される励振電極被覆部30a,30b,30cと、基部14および連結部15に形成される引出電極被覆部32とより成る。引出電極被覆部32には、上述した第1電極20と、詳細を後述する第2電極38とを電気的に接続するための開口部34,36が設けられている。なお、圧電体層28は、その表裏面に対して電位の異なる電圧を印加されることで、法線方向(圧電体層28形成面と交差する方向)へと屈曲する特性を持つ。
【0023】
第2電極38は例えば、第2層励振電極40a,40b,40cと、第2層引出電極46,48、および入出力電極42,44とより構成される。ここで、第2層励振電極40bと、入出力電極42とは同電位であり、第2層引出電極46により接続されている。また、第2層引出電極46は、上述した圧電体層28に形成した開口部34を介して、第1層引出電極24と電気的に接続されることとなる。よって、第1層励振電極22a,22cと第2層励振電極40bとは、同電位の電圧が印加されることとなる。一方、第2層励振電極40a,40cと入出力電極44とは同電位であるが、第2層引出電極48は、第2層引出電極46を介して寸断されており、直接的には接続されていない。しかし、第2層引出電極48は、上述した圧電体層28に形成した開口部36を介して第1層引出電極26と電気的に接続されており、第1層引出電極26と第2層引出電極48を介して第2層励振電極40a,40c、および第1層励振電極22bと、入出力電極44とが電気的に接続されることとなる。なお、図1、図2においては、電位の異なることとなる第1層引出電極24,26の一部と第2層引出電極46,48の一部とが重複する形態として示されているが、実際には電位の異なる引出電極は、圧電体層28の表裏面において重複しないように設計する。振動腕16以外の箇所での励振を抑制するためである。
【0024】
このような基本構成を有する本実施形態に係る振動片10では、基板12における連結部15に矯正部18が形成されている。矯正部18は、連結部15の一部の厚みを厚くすることにより構成され、形成部分の剛性を向上させる役割を担う。矯正部18は、屈曲振動時の屈曲方向が相反することとなる振動腕16のうちのいずれか一方、すなわち屈曲時の位相が異なることとなる振動腕16のうちのいずれか一方(本実施形態においては、振動腕16a,16cの組、または振動腕16b)の基端側にあたる連結部15に設けられる。また、矯正部18は、各振動腕16毎に定められた第1軸に掛かる位置に設けられる。
【0025】
3つの振動腕16を有する本実施形態に係る振動片10においては、両端に位置する振動腕16a,16cの第1軸に掛かる位置であって、連結部15上に矯正部18を設けている。このような構成とすることで、両端に位置する振動腕16a,16cの基端側に位置する連結部15の撓みが抑制される。このため、中心の振動腕16bと、この振動腕16bとの間の位相差を180度とする両端に位置する振動腕16a,16cとによって励起されるウォークモードの振動に、連結部15の撓みに起因して生ずる同相モードの振動が重畳することを防ぐことができる。
【0026】
なお、矯正部18は、振動片10の中心軸を基点として線対称な形態となるように設けるようにする。このような構成とすることにより、振動片10に捻れ方向の力が生ずることが無くなり、センサー等に使用した場合には、検出感度の劣化を防ぐことができる。
【0027】
このような構成とすることにより、振動片10のインピーダンス特性は、図3のように改善されることとなる。すなわち、同相モードの振動に起因して、ウォークモード振動周波数f近傍に生じていた寄生振動モードが、大きく抑制され、その結果、寄生振動モードが振動周波数fから離間し、しかも共振ピークが小さくなる。これにより、振動片10は、所望する良好な共振特性を得ることが可能となり、高精度で信頼性の高いものとすることができる。
【0028】
次に、図4を参照して、本実施形態に係る振動片10の製造工程について説明する。まず、振動片10の基礎となる素板12aを用意する。本実施形態では、素板12aとして水晶を採用する。素板12aを水晶とした場合における厚みは、50〜100μm程度とすることが望ましい(図4(A)参照)。
【0029】
次に、素板12aの表裏面をレジスト膜12b,12cで覆う(図4(B)参照)。素板12aの表裏を覆ったレジスト膜12b,12cのうち、裏面側(基板形成後に第2面となる側)を覆うレジスト膜12cを、所望形状にパターニングする。レジスト膜12cのパターニングは、パターニング形状に合わせたマスクを用いた露光と現像によるフォトリソグラフィー法によれば良い。ここで、パターニングされたレジスト膜12cは、肉厚に形成される基部14(図1参照)と、括れ状に形成される折り取り部(図4(F)参照)の他、矯正部18(図1参照)を形成する部位を覆う形状とすると良い(図4(C)参照)。
【0030】
レジスト膜12cのパターニングを終えた後、パターニングされたレジスト膜12cをマスクとして、エッチングを行い、素板12aの一部を肉薄化する。肉薄化される部位の厚みは、2〜10μm程度とする。これにより、基部14の厚み確保と矯正部18の形成が成される。なお、実施形態に係る例の場合エッチングは、バッファー度フッ酸(BHF)等を用いて行なうようにすれば良い(図4(D)参照)。更に、上記パターニングを確実に行なうために、レジストだけでなく金属膜を用いたメタルマスクを併用しても良い。
【0031】
次に、基板12の外形形成を行う。基板12の外形形成は、基板12の表面側、すなわち第1面となる側から行なうことが望ましい。外形形成を行う場合も、素板12aの肉薄化と同様に、素板12aの表裏面に対するレジスト膜12d,12eの形成と、パターニングを行なう。ここで、素板12aの裏面側は凹凸形状となっているため、レジスト膜12eの形成には、スプレイ方式のレジスト塗布を採用することが望ましい。レジスト膜12d,12eを形成した後、素板12aの表面側に、基板12の外形形状を得るためのパターニングを施す。レジスト膜12dは、少なくとも基部14と連結部15(図1参照)、および振動腕16(図1参照)を覆う形態とする。なお、本実施形態では折り取り部も覆うようにレジスト膜12dを形成した(図4(E)参照)。
【0032】
次に、パターニングされたレジスト膜12d,12eをマスクとして、BHF等を用いて素板12aのエッチングを行う。これにより、基板12の外形形成が完了し、折り取り部からの折り取りにより、基板12を得ることが可能な状態となる。なお、実際には詳細を後述する第1電極20(図2参照)、圧電体層28(図2参照)、および第2電極38(図2参照)等を形成した後、振動片10として折り取りが行なわれる(図4(F)参照)。
【0033】
基板12の外形形成を終了した後、第1面に第1電極20を形成する。第1電極20の形成はまず、第1面の全面に金属層を形成する。金属層の形成は、マグネトロンスパッタリング等の手法を用いれば良い。金属層を形成した後、レジストを全面に塗布する。その後、フォトリソグラフィー法により、金属層をエッチングし、第1電極20の形状に沿った金属パターンを得る。
【0034】
第1電極20を形成した後、所望箇所に対する圧電体層28の形成を行う。まず、第1電極20を含む基板の第1面の全面に、圧電体層を形成する。圧電体層の形成は、反応性RFマグネトロンスパッタリング法を用いて行なうようにする。圧電体層をAlNとする場合、圧電体層の膜厚は、2000Å〜10000Å程度の範囲とすると良い。
【0035】
次に、フォトリソグラフィー法によるレジストのパターニングとウエットエッチングにより、圧電体層を所望のパターンに形成する。圧電体層をAlNとする場合には、ウエットエッチングのエッチング液には、強アルカリ水溶液を用いるようにする。強アルカリ水溶液の例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液などがある。また、酸系では、リン酸を加熱したものなどでもエッチングすることができる。
【0036】
圧電体層28の形状形成が終了した後、第2電極38の形成を行う。第2電極38の形成は、第1電極20の形成と同様に、第1面の全面に金属層を形成し、フォトリソグラフィー法によるレジストのパターニング、およびウエットエッチングによる形状形成を行えば良い。
【0037】
上記実施形態では、基板12を水晶により構成する旨記載した。しかしながら本実施形態に係る振動片10は、圧電体層28により面外方向の振動を励起することとしている。このため、基板12の材料としては水晶以外の部材であっても良い。具体的には、水晶以外の圧電体材料であっても良いし、シリコン等の半導体材料であっても良い。
【0038】
また、上記実施形態においては、圧電体層28の上面に直接第2電極38を形成していた。しかしながら、本実施形態に係る振動片10は、圧電体層28と第2電極38との間に絶縁体層(絶縁膜)を形成するようにしても良い(不図示)。このような構成とすることにより、圧電体層28に貫通孔が形成されていた場合であっても、第1電極20と第2電極38との間における短絡を防止することが可能となる。なお、絶縁体層の膜厚としては、短絡防止の観点からは50nm以上とすることが望ましい。一方、圧電体層28の特性低下を抑制する観点からは、500nm以下とすることが望ましい。ここで、絶縁体層は、二酸化シリコンSiOや窒化シリコンSiNにより構成すれば良い。
【0039】
さらに、上記実施形態に係る振動片10における振動腕16の第2面に対し、絶縁体層(無機膜)を形成するようにしても良い(不図示)。SiOやSiNにより構成される絶縁体層を設けることにより、周波数温度特性を補正することができる。特に、熱酸化による二酸化シリコンは負の温度特性を持つことが知られており、周波数温度特性を調整するには好適である。
【0040】
また、上記実施形態では、3本の振動腕16のうち、両端にあたる部分に形成された振動腕16a,16cの基端側の連結部15に矯正部18を形成する旨記載した。しかしながら本発明に係る振動片は、図5に示す振動片10aのように、中心に位置する振動腕16bの基端側の連結部15のみに矯正部18を形成するようにしても良い。
【0041】
また、上記実施形態に係る振動片10は、振動腕を3本としていた。しかしながら本発明に係る振動片は、振動腕の数を3本以上の奇数本とすることができる。例えば図6に示す振動片10bのように、振動腕を5本(振動腕16a〜16e)とした場合、両端に位置する振動腕16a,16eと、中心に位置する振動腕16cの振動時における位相が一致することとなる。このため、矯正部18は図6に示すように、振動腕16a,16c,16eの基端側に位置する連結部15に設けるか、図示はしないが、振動腕16b,16dの基端側に位置する連結部15に設けるようにすると良い。
【0042】
また、上記実施形態では、矯正部18を基板12の構成材料により一体形成するように説明した。しかしながら、矯正部18は、振動腕16駆動時における連結部15の剛性を変える(高める)ことを目的として設けられるものである。このため、矯正部18は基板12の形状形成とは別に設けるようにしても良く、基板12の構成材料とは異なる材料により構成しても良い。例えば図7に示す振動片10cのように、矯正部18aを金属膜により構成しても良い。矯正部形成部位に、金属膜を形成することにより、金属膜形成部分における連結部の剛性に変化を生じさせることができるからである。また、金属膜の他に、図8に示す振動片10dのように、矯正部18bを樹脂などのポッティング材により構成するようにしても良い。このような構成とした場合であっても、上記実施形態と同様な効果を奏することができるからである。なお、図7において、図7(A)は振動片の裏面図であり、図7(B)は振動片の側面図である。また、図8においても、図8(A)は振動片の裏面図であり、図8(B)は振動片の側面図である。
【0043】
ここで、矯正部18と基板12の構成材料を同一とすることによれば、製造工程の短縮、および矯正部形成材料の確保が不要となるといった効果を奏することができ、製造コストの高騰を抑制することができる。
【0044】
次に、本発明の振動子に係る実施の形態について、図9を参照して説明する。本実施形態に係る振動子50は、振動片10と、この振動片10を内部に実装するパッケージ52とより構成される。
【0045】
振動片10は、上記実施形態に係る振動片10(10a〜10dを含む)を採用する。パッケージ52は、パッケージベース54と蓋体56とを基本として構成される。パッケージベース54は、箱型形状を成し、内部に振動片実装端子60を備えるようにする。一方、パッケージベース54の外部底面には、振動片実装端子60と電気的に接続された外部実装端子62を備えるようにする。
【0046】
このような構成のパッケージベース54は、絶縁部材により構成すれば良く、例えば、平板、および枠状のセラミックグリーンシートを積層し、これを焼成することで、形成することができる。なお、振動片実装端子60、および外部実装端子62は、セラミックグリーンシート上へのスクリーン印刷により形成することができる。
【0047】
蓋体56は、金属またはガラス等により構成される平板であれば良い。蓋体56の構成材料としては、パッケージベース54の構成材料と、線膨張率が近似するものが望ましい。温度変化によるクラックや剥離の発生を抑制するためである。パッケージベース54をセラミックにより構成した場合には、コバール(合金)や、ソーダガラスなどとすると良い。
【0048】
パッケージベース54と蓋体56との接合には、ロウ材58を用いた溶接を行なう。蓋体56を金属とした場合には、ロウ材58を低融点金属、蓋体56をガラスとした場合には、ロウ材58を低融点ガラスとすれば良い。
【0049】
このような構成部材から成る本実施形態に係る振動子50の製造は、まず、パッケージベース54の内部に振動片10を搭載する。振動片10の搭載は、接着剤64によれば良い。振動片10をパッケージベース54に搭載した後、金線66などを用いてワイヤボンディングを行い、振動片実装端子60と振動片10における入出力電極42,44(図1参照)とを電気的に接続する。このようにして振動片10の実装を終了した後、パッケージベース54に蓋体56を接合し、開口部を封止する。
【0050】
このような構成の振動子50によれば、振動片10における同相モードの振動(寄生振動)が抑制されるため、所望する発振周波数に対する精度、および信頼性を向上させることができる。なお、本実施形態に係る振動子50では、パッケージベース54を箱型、蓋体56を平板状としていたが、パッケージベースを平板状とし、蓋体をキャップ形状としても良い。
【0051】
次に、本発明の発振器に係る実施の形態について、図10を参照して説明する。本実施形態に係る発振器70は、振動片10(10a〜10dを含む)と、この振動片10を発振させるための電子部品82、および振動片10と電子部品82を内部に実装するパッケージ72とを基本として構成される。
【0052】
振動片10は、上記実施形態に係る振動片10を採用する。パッケージ72は、パッケージベース74と蓋体76とを基本として構成される。本実施形態に係るパッケージベース74は、実装用のセンター基板74aを基点として、その上下にキャビティを備え、上部キャビティを振動片実装領域75a、下部キャビティを電子部品実装領域75bとしている。
【0053】
センター基板74における振動片実装領域75a側には、振動片実装端子60が設けられ、電子部品実装領域75b側には、電子部品実装端子80が設けられている。また、パッケージベース74の底面に当たる部位には、電子部品実装端子80と電気的に接続された外部実装端子86が設けられている。なお、構成部材、および製造方法については、上述した振動子50におけるパッケージベース54と同様である。また、蓋体76についても、本実施形態では、金属またはガラスにより構成される平板であれば良く、ロウ材78を用いてパッケージベース74における振動片実装領域75を封止する構成とする。
【0054】
電子部品82としては、例えば集積回路を備えたICなどであれば良く、電子部品実装端子80に対しては、バンプ84を用いたフリップチップボンディングなどで実装すると良い。
【0055】
このような構成の発振器70も、振動子50と同様に、振動片10における同相モードの振動(寄生振動)が抑制されるため、所望する発振周波数に対する精度、および信頼性を向上させることができる。
【0056】
本発明に係る電子機器の一例として、図11に示す携帯電話100や、図12に示すパーソナルコンピュータ200等を挙げることができる。いずれも上記実施形態に示した振動子50や発振器70のうちの少なくとも一方を、クロック源や信号の変調や復調に用いる局部発振器として搭載していることを特徴とする。このような特徴を有することにより、電子機器の小型化、薄型化に対応することができる。また、小型化を行なった場合であっても、電子機器の機能に合わせた通信等の高精度化を図ることができる。
【符号の説明】
【0057】
10………振動片、12………基板、14………基部、15………連結部、16(16a〜16c)………振動腕、18………矯正部、20………第1電極、22(22a〜22c)………第1層励振電極、24………第1層引出電極、26………第1層引出電極、28………圧電体層、30(30a〜30c)………励振電極被覆部、32………引出電極被覆部、34………開口部、36………開口部、38………第2電極、40(40a〜40c)………第2層励振電極、42………入出力電極、44………入出力電極、46………第2層引出電極、48………第2層引出電極、50………振動子、70………発振器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
前記基部から延設された連結部と、
互いに平行に延びる複数の第1軸上に、前記連結部を基端として延設され、第1面と該第1面に対向する第2面と前記第1面および前記第2面を連結する側面とを有し、前記第1面および前記第2面に対して法線方向に屈曲する複数の振動腕とを備え、
前記複数の振動腕は、駆動時に互いに隣り合う前記振動腕が反対方向に屈曲振動し、
屈曲方向が相反する前記振動腕のうちのいずれか一方の根元付近の連結部に配置される矯正部を有することを特徴とする振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の振動片であって、
前記振動腕は、3本以上の奇数本設けることを特徴とする振動片。
【請求項3】
請求項2に記載の振動片であって、
前記矯正部は、前記基部の幅方向中心を基点として前記連結部の延設方向へ軸線を定めた中心軸を基点として線対称に設けることを特徴とする振動片。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の振動片であって、
前記基部は、前記連結部、および前記振動腕よりも肉厚であることを特徴とする振動片。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の振動片と、
前記振動片を内部に実装したパッケージを有したことを特徴とする振動子。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の振動片と、
前記振動片の発振を制御する電子部品と、
前記振動片を駆動する電子部品と、
を有することを特徴とする発振器。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の振動片を搭載したことを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−34171(P2012−34171A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171617(P2010−171617)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】