説明

振動片、振動子、発振器

【課題】小型で、低周波数化および高Q値化が図られた振動片を提供する。
【解決手段】振動片20は、一対の切り込み31が形成された基部21と、基部21の第1の部分の一端側から互いに平行に延出された一対の振動腕22と、を有している。各振動腕22は、主要な振動部である一般部23と、振動腕22の基部21との付け根とは反対側の先端側に、一般部23よりも幅が広い錘部29と、を有している。また、各振動腕22の両主面のうち少なくとも一方の主面に沿って開口部を有する有底の長溝と、前記振動腕の前記基部との付け根とは反対側の先端側に、前記基部との前記付け根側よりも幅が広い錘部29が形成されている。錘部29は、振動腕22の長手方向において、基部21との付け根から先端側までの長さに占める錘部29の長さ割合が35%〜41%の範囲となるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、屈曲振動モードで振動する屈曲振動片などの振動片、および、それを用いた振動子、あるいは発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、屈曲振動モードで振動する振動片には、例えば、水晶のような圧電材料からなる基材の基部から一対の振動腕を平行に延出させて、且つ、水平方向に互いに接近または離反する向きに振動させる音叉型の屈曲振動片が広く使用されている。この音叉型屈曲振動片の振動腕を励振させたとき、その振動エネルギーに損失が生じると、CI(Crystal Impedance)値の増大やQ値の低下など、振動片の性能を低下させる原因となる。そこで、そのような振動エネルギーの損失を防止または低減するために、従来から様々な工夫がなされている。
【0003】
例えば、振動腕が延出する基部の両側部に切込み部または所定の深さの切り込み(切り込み溝)を形成した音叉型の水晶振動片が知られている(例えば特許文献1、特許文献2を参照)。この音叉型水晶振動片は、振動腕の振動が垂直方向の成分をも含む場合に、振動が基部から漏れるのを切り込みにより緩和することによって、振動エネルギーの閉じ込め効果を高めてQ値を制御し、且つ、振動片間でのQ値のばらつきを防止している。
【0004】
また、振動片においては、上記のような機械的な振動エネルギーの損失だけでなく、屈曲運動する振動腕の圧縮応力が作用する圧縮部と引張応力が作用する伸張部との間で発生する温度差による熱伝導によっても発生する。この熱伝導によって生じるQ値の低下は熱弾性損失効果と呼ばれている。
熱弾性損失効果によるQ値の低下を防止または抑制するために、矩形断面を有する振動腕(振動梁)の中心線上に溝、または孔を形成した音叉型の振動片が、例えば特許文献3に紹介されている。
【0005】
ところで、振動片を備えた振動デバイスが取り付けられる種々の製品、例えば、HDD(ハード・ディスク・ドライブ)、モバイルコンピューター、あるいはICカード等の小型の情報機器や、携帯電話、自動車電話、またはページングシステム等の移動体通信機器や振動ジャイロセンサー等の小型化が、近年ますます進展している。これに伴って、それらの製品に取り付けられる振動デバイス、および、その振動デバイスに収容される振動片の小型化の要求がより一層高まってきている。
このような振動片の小型化への要求のなかでは、特に、振動腕の長さを短くすることが寄与率が高く、また、それに伴い、振動腕の断面積を小さくすることが要求される。このため、振動片の低周波数化を図ることが困難になり、また、高次振動モードが発生するなどして振動片の振動特性が不安定になりやすくなることが知られている。このような高次振動モードの発生を抑えたり、低周波数化や振動特性の安定化を図り得る振動片として、振動腕の先端部に、振動腕の一般部(腕部)よりも幅の大きい錘部を形成した振動片が、例えば特許文献4に紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−261575号公報
【特許文献2】特開2004−260718号公報
【特許文献3】実開平2−32229号公報
【特許文献4】実開2005−5896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、長溝と錘部とを兼ね備えた振動腕を有する構成とした場合、振動腕の長手方向の全長に対する錘部の長さの占有率が小さ過ぎたり、あるいは大き過ぎたりすると、錘部による低周波数化や長溝による熱弾性損失の抑制効果を所望のレベルで図ることはできないことを発明者は見出した。また、発明者は、振動腕の長手方向の全長に対する錘部の長さの占有率が或る範囲にある場合に、所望の低周波数化、および、熱弾性損失の抑制効果による所望のQ値の確保ができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
〔適用例1〕本適用例にかかる振動片は、基部と、前記基部から延出された振動腕と、を有し、前記振動腕には、前記振動腕の両主面のうち少なくとも一方の主面に沿って開口部を有する有底の長溝と、前記振動腕の前記基部との付け根とは反対側の先端側に、前記振動腕の前記基部との付け根側よりも幅が広い錘部と、が設けられ、前記振動腕の長手方向において、前記基部との付け根から前記先端側までの長さに占める前記錘部の長さ割合が35%〜41%の範囲にあることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、振動腕に設けられた長溝によって振動効率が向上しCI値が低減されるとともに、振動腕の先端部分の錘部が錘の機能を果たすことにより振動腕の長さを増大させることなく周波数を十分に低く抑えられる効果が得られ、さらに、熱弾性損失が小さくなってQ値の低下が十分に抑えられる効果が得られることを発明者は見出した。したがって、小型化を実現しながら、低周波数化が図られるとともに、Q値の低下が抑えられ、優れた振動特性を備えた振動片を提供することができる。
【0011】
〔適用例2〕上記適用例にかかる振動片において、前記基部から互いに平行に延出された2つの前記振動腕が備えられ、前記基部の2つの前記振動腕の間から支持腕が前記振動腕と平行に延出して設けられていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、支持腕が一対の振動腕間に設けられていることにより、各振動腕が振動した際に、特に、各振動腕が互いに接近する向きに振動したときに、各振動腕間の空気がかき乱されることによって起こる振動片の動作パラメーターの変化を抑制することができる。
また、基部を支持部としてパッケージなどに支持・固定させた場合に起こる様々な不具合、例えば、振動片の先端が下方に傾いてパッケージなどに接触することを防止できたり、パッケージへの衝撃が基部を介してダイレクトに振動腕に伝わることによって起こり得る動作異常などを回避したりすることが可能になり、振動特性の安定した振動片を提供することができる。
【0013】
〔適用例3〕上記適用例にかかる振動片において、水晶により形成された水晶振動片であることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、耐衝撃性が高いとともに、熱弾性損失によるQ値の低下が抑えられ優れた振動特性を備えた水晶振動片を提供することができる。
【0015】
〔適用例4〕上記適用例にかかる振動片において、屈曲振動モードを呈する屈曲振動片であることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、屈曲振動モードを呈する屈曲振動片において、低周波数化と同時にQ値の低下を抑える効果をより顕著に奏することを発明者は見出した。
【0017】
〔適用例5〕本適用例にかかる振動子は、上記適用例のいずれかに記載の振動片と、前記振動片を収容するパッケージと、を含むことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、上記適用例の振動片を備えているので、長溝によって振動効率が向上してCI値の低減が図られるとともに、錘部によって低周波数化が図られ、さらに、熱弾性損失によるQ値の低下が抑えられ優れた振動特性を備えた小型の振動子を提供することができる。
【0019】
〔適用例6〕本適用例にかかる発振器は、上記適用例にかかる振動片と、前記振動片を発振させる発振回路を含む回路素子と、前記振動片および前記回路素子を収容するパッケージと、を含むこと特徴とする。
【0020】
この構成によれば、上記適用例の振動片を備えているので、長溝によって振動効率が向上してCI値の低減が図られるとともに、錘部によって低周波数化が図られ、さらに、熱弾性損失によるQ値の低下が抑えられた、優れた発振特性を備えた発振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は、振動片の一実施形態を模式的に説明する一方の主面側の平面図、(b)は、(a)のA−A断面を示す断面拡大図。
【図2】は、振動片の錘部占有率と高性能化指数との関係を示すグラフ。
【図3】(a)は、上記振動片を備えた振動子の一実施形態を上からみて説明する概略平面図、(b)は、(a)のB−B線断面図。
【図4】(a)は、上記振動片を備えた発振器の一実施形態を上からみて説明する概略平面図、(b)は、(a)のC−C線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の振動片、および、その振動片を用いた振動子、あるいは発振器の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0023】
〔振動片〕
まず、本発明の振動片について説明する。
図1は、本実施形態の振動片を模式的に説明するものであり、(a)は、一方の主面側の平面図、(b)は、(a)のA−A線断面を示す断面拡大図である。
図1(a)において、本実施形態の振動片20は、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムなどの圧電材料からなる屈曲振動モードを呈する振動片である。振動片20を水晶から構成する場合、水晶ウェハは、X軸、Y軸、およびZ軸からなる直交座標系において、Z軸を中心に時計回りに0度〜5度の範囲で回転させて切り出した水晶Z板を所定の厚みに切断研磨加工して得られるものを用いる。本実施形態の振動片20は、その水晶Z板を加工することにより形成された基部21と、この基部21の一端側(図において上端側)から二股に別れて互いに平行に延出する一対の振動腕22とからなる所謂音叉型の外形を有して形成されている。
【0024】
基部21には、その両主面に括れた形状が表れるように1つの直線に沿って対向方向に一対の切り込み31が形成されている。基部21は、一対の切り込み31を挟んで両側に位置する第1の部分21aおよび第2の部分21bと、一対の切り込み31間で第1の部分21aおよび第2の部分21bを接続する接続部分21cとを含む。本実施形態の振動片20においては、この切り込み31によって、各振動腕22の振動の伝達が遮断されるので、振動が基部21や支持腕30を介して外部に伝わる所謂振動漏れを抑制し、CI値の上昇を防止することができる。
なお、各切り込み31は、振動片20の落下に対する強度の確保をした上で、最適な幅や長さに調整して振動漏れを最小にするのが望ましい。
【0025】
図1(a)に示すように、一対の振動腕22は、基部21の第1の部分21aから両主面(紙面上手前と奥の面)に平行に延出されている。また、各振動腕22は、前記両主面と、その両主面を両側で接続する両側面とを有する。
各振動腕22は、その中央部に、振動腕22において主要な振動部である一般部23を有している。また、各振動腕22は、基部21に接続される根元部において、一般部23から基部21側に向けて前記両側面間の幅が徐徐に広げられ基部21との付け根部で最も幅広となる幅広部24を有している。このように、各振動腕22が幅広部24を有することにより、広い幅で基部21に接続されるので剛性が高くなり、耐衝撃性などが向上する。
【0026】
また、各振動腕22の基部21の付け根とは反対側の先端側には、一般部23よりも幅が広い錘部29がそれぞれ形成されている。このように、各振動腕22の先端部分に錘部29が設けられていることにより、先端部分が錘の機能を果たすので、振動腕22の長さを増大させることなく周波数を低くすることができる。
また、振動片20の各振動腕22の長手方向(本例では、基部21の第1の部分21aから各振動腕22が延出される方向)において、基部21との付け根から先端側までの長さLに占める錘部29の長さlの割合が35%〜41%の範囲に調整されて設けられている。このような構成とすることにより、振動片20は、各振動腕22の先端部分の錘部29が錘の機能を果たすことにより、振動腕22の長さを増大させることなく周波数を十分に低く抑えられる効果が得られるとともに、熱弾性損失が小さくなってQ値の低下が十分に抑えられる効果が得られることを発明者は見出した(詳細は後述する)。
【0027】
各振動腕22の一方の主面には、それぞれの長手方向に沿って一本の有底の長溝26aが設けられている。また、図1(b)に示すように、一方の(図1(a)の紙面上左側の)振動腕22の他方の主面にも、振動腕22の長手方向に沿って一本の長溝26bが設けられている。同様に、図示はしないが、他方の振動腕22(紙面上右側の振動腕)の他方の主面にも、1本の有底の溝26bが設けられている。
このように、各振動腕22に設けられた長溝26a,26bによって、剛性が小さくなって振動しやすくなり、振動腕22が効率よく振動して良好な振動特性を示すことが可能になる。また、長溝26a,26bは、各振動腕22の基部21との付け根部近傍において、振動に伴なう歪により振動腕22の両側面の突堤部25で発生する温度上昇および温度低下に起因する熱の流路を狭めているので、熱の移動を抑制して熱弾性損失を低減する効果を奏し、この結果、CI値の増大やQ値の低下などの熱弾性損失による悪影響を抑制できる。
【0028】
本実施形態の振動片20は、基部21の第2の部分21bから延びる一対の支持腕30を有している。一対の支持腕30は、基部21から一対の振動腕22が延びる方向とは交差方向であって、それぞれ相互に反対方向に延出されてから、屈曲部32で略直角に屈曲され、一対の振動腕22の延出方向と平行な方向に延びている。このように屈曲させることにより、支持腕30を有する振動片20の小型化を図ることができる。支持腕30は、屈曲部32よりも先端側(振動腕22の錘部29側)に、後述するようにパッケージなどに取り付けられる固定領域を含み、この支持腕30の固定領域で振動片20を支持するように取り付けることによって、振動腕22および基部21を振動片20の固定面から浮いた状態にすることができる。
【0029】
各振動腕22の各長溝26a,26b、および各両側面を含む表面には励振電極33,34が形成されている(図1(b)を参照)。一方の振動腕22において、励振電極33,34間に電圧を印加して、振動腕22の両側面を伸縮させることで振動腕22を振動させる。励振電極33,34は、水晶をエッチングして振動片20の長溝26a,26bを含む外形を形成した後で、例えば、ニッケル(Ni)またはクロム(Cr)を下地層として、その上に、蒸着またはスパッタリングにより例えば金(Au)による電極層を成膜し、その後フォトリソグラフィを用いてパターニングすることにより形成することができる。ここで、クロムは水晶との密着性が高く、また、金は、電気抵抗が低く酸化し難いことで知られている。
【0030】
ここで、本実施形態の振動片20の効果について述べる。
発明者は、まず、振動腕22の基部21との付け根から先端部までの長さLに対する錘部29の長さlの占有率を変化させた時に、低周波数化が効率よく図れる占有率と、周波数一定に換算したQ値の低下を効率よく軽減できる占有率とをシミュレーションにより個別に求めた。その結果、低周波数化が効率よく図れる占有率と、Q値の低下を効率よく軽減できる占有率とは、一致しなかった。
次に、そのような、振動腕22の基部21との付け根から先端までの長さに対する錘部29の長さの占有率により、振動片20の低周波数化の効率が良くなる要素と、熱弾性損失がより小さくなる要素とを掛け合わせ、さらに、等価モデルでシミュレーションすることによって求めた最適値と合うように補正した結果、図2のグラフに示すような結果を得た。
図2において、横軸は、振動腕22の基部21との付け根から先端までの長手方向の長さLに対して錘部29の長さlが占める錘部占有率(%)であり、縦軸は、低周波数化指数と高Q値化指数とを掛けた値として定義する(補正後)高性能化指数である。
図2のグラフに示すように、補正後の高性能化指数は、錘部占有率38%を中心として錘部占有率35%〜41%のときに最も高いことを発明者は見出した。
【0031】
したがって、上記実施形態の振動片20によれば、各振動腕22に設けられた長溝26a,26bによって振動効率が向上しCI値が低減されるとともに、各振動腕22の先端部分に形成された錘部29の長手方向の長さlが、振動腕22の全長Lに対して35〜41%の占有率になるように形成されているので、振動腕22の長さを増大させることなく周波数を十分に低く抑えられるとともに、熱弾性損失が小さくなってQ値の低下を十分に抑える効果が得られる。
【0032】
〔振動子〕
次に、上記の振動片20を用いた振動子について説明する。
図3は、上記の振動片20を搭載する振動子の一実施形態を説明するものであり、(a)は上側からみた概略平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。なお、図3(a)では、振動子の内部の構造を説明する便宜上、振動子200の上方に設けられるリッド119(図3(b)を参照)を取り外した状態を図示している。
【0033】
図3において、振動子200は、段差を有する凹部が設けられたパッケージ110を有している。パッケージ110の凹部の凹底部分には、振動片20が接合され、パッケージ110の開放された上端には蓋体としてのリッド119が接合されている。
【0034】
パッケージ110は、平板状の第1層基板111上に、開口部の大きさが異なる矩形環状の第2層基板112および第3層基板113がこの順に積層されて構成されることにより、上面側に開口部を有し内部に段差が設けられた凹部が形成されている。パッケージ110の材質としては、例えば、セラミック、ガラスなどを用いることができる。
【0035】
パッケージ110の凹部において、第2層基板112により形成される段差上には、振動片20が接合される複数の振動片接続端子115が設けられている。また、図示はしないが、パッケージ110の外底面となる第1層基板111の外底面には、外部基板との接合に供する外部実装端子が設けられている。
このようにパッケージ110に設けられた上記の各種端子は、対応する端子どうしが、図示しない引き回し配線やスルーホールなどの層内配線により接続されている。
【0036】
パッケージ110の凹部には、振動片20が接合されている。具体的には、振動片20の支持腕30の一部に設けられた図示しない外部接続電極と、パッケージ110の凹部において第2層基板112の突部112aにより形成された段差上に設けられた振動片接続端子115とが位置合わせされ、例えば銀ペーストなどの導電性の接合部材96により接合されるとともに、電気的に接続されている。これにより、振動片20が、パッケージ110内において、凹部の凹底部分となる第1層基板111との間に隙間を空けながら、振動腕22を自由端として固定される。
【0037】
図3(b)に示すように、振動片20が凹部内に接合されたパッケージ110の上端には、蓋体としてのリッド119が配置され、パッケージ110の開口を封鎖している。リッド119の材質としては、例えば、42アロイ(鉄にニッケルが42%含有された合金)やコバール(鉄、ニッケルおよびコバルトの合金)等の金属、セラミックス、あるいはガラスなどを用いることができる。例えば、金属からなるリッド119は、コバール合金などを矩形環状に型抜きして形成されたシールリング118を介してシーム溶接することによりパッケージ110と接合される。パッケージ110内に形成される内部空間は、振動片20が動作するための空間となる。また、この内部空間は、減圧空間または不活性ガス雰囲気に密閉・封止されている。
【0038】
上記構成の振動子200によれば、上記した構成の振動片20を備えているので、振動腕22に設けられた長溝26a,26bによって、振動効率が向上されてCI値の低減が図られるとともに、錘部29による低周波数化および高Q値化が図られた優れた振動特性を備えた振動子200を提供することができる。
【0039】
〔発振器〕
次に、上記の振動片20を用いた発振器について説明する。
図4は、上記の振動片20を搭載する発振器の一実施形態を説明するものであり、(a)は上側からみた概略平面図、(b)は(a)のC−C線断面図である。なお、図4(a)では、発振器の内部の構造を説明する便宜上、発振器300の上方に設けられるリッド219を取り外した状態を図示している。
【0040】
図4において、発振器300は、段差を有する凹部が設けられたパッケージ210を有している。パッケージ210の凹部の凹底部分には、ICチップ150と、ICチップ150の上方に配置された振動片20とが接合され、パッケージ210の開放された上端には蓋体としてのリッド219が接合されている。
【0041】
パッケージ210は、平板状の第1層基板211上に、開口部の大きさが異なる矩形環状の第2層基板212、第3層基板213、および第4層基板214がこの順に積層されて構成されることにより、上面側に開口部を有し内部に段差が設けられた凹部が形成されている。パッケージ210の材質としては、例えば、セラミック、ガラスなどを用いることができる。
【0042】
パッケージ210の凹部の凹底部分となる第1層基板211上には、ICチップ150が配置されるダイパッド215が設けられている。なお、図示はしないが、パッケージ210の外底面となる第1層基板211の外底面(ダイパッド215が設けられた面と異なる面)には、外部基板との接合に供する外部実装端子が設けられている。
また、パッケージ210の凹部において、第2層基板212により形成される段差上には、ICチップ150との電気的な接続に供する複数のIC接続端子216が設けられている。
さらに、パッケージ210の凹部において、第3層基板213により形成される段差上には、振動片20が接合される複数の振動片接続端子217が設けられている。
このようにパッケージ210に設けられた上記の各種端子は、対応する端子どうしが、図示しない引き回し配線やスルーホールなどの層内配線により接続されている。
【0043】
ICチップ150は、振動片20を発振させる発振回路や、温度補償回路などを含む半導体回路素子である。ICチップ150は、パッケージ210の凹部の凹底部分に設けられたダイパッド215上に、例えばろう材95によって接着・固定されている。また、ICチップ150とパッケージ210とは、本実施形態では、ワイヤーボンディング法を用いて電気的に接続されている。具体的には、ICチップ150に設けられた複数の電極パッド155と、パッケージ210の対応するIC接続端子216とが、ボンディングワイヤー97により接続されている。
【0044】
パッケージ210の凹部において、ICチップ150の上方には、振動片20が接合されている。具体的には、振動片20の支持腕30の一部に設けられた図示しない外部接続電極と、パッケージ210の凹部において第3層基板213の突部213aにより形成された段差上に設けられた振動片接続端子217とが位置合わせされ、例えば銀ペーストなどの導電性の接合部材96により接合されるとともに、電気的に接続されている。これにより、振動片20が、パッケージ210内において、下方に接合されたICチップ150との間に隙間を空けながら、振動腕22を自由端として固定される。
【0045】
図4(b)に示すように、ICチップ150および振動片20が凹部内に接合されたパッケージ210の上端にはリッド219が配置され、パッケージ210の開口を封鎖している。例えば、金属からなるリッド219を用いた場合には、コバール合金などを矩形環状に型抜きして形成されたシールリング218を介してシーム溶接することによりパッケージ210と接合される。パッケージ210内において振動片20が動作するための空間となる内部空間は、減圧空間または不活性ガス雰囲気に密閉・封止されている。
【0046】
上記構成の発振器300によれば、上記した構成の振動片20を備えているので、振動腕22に設けられた長溝26a,26bによって、振動効率が向上されてCI値の低減が図られるとともに、錘部29による低周波数化および高Q値化が図られ優れた発振特性を備えた発振器300を提供することができる。
【0047】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0048】
例えば、上記実施形態では、屈曲振動モードの振動片20を例にとって、本発明の熱弾性損失の抑制効果について説明した。これに限らず、ねじり振動モードや剪断モードなどの屈曲振動モード以外の振動モードの振動片においても、本発明の特徴的な構成を具備させることにより上記実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0049】
また、上記実施形態では、基部21から延出された支持専用の支持腕30を有するとともに、基部21から2本の振動腕22が平行に延出されて形成された所謂音叉型の振動片20における本発明の一実施形態について説明した。これに限らず、支持腕30が無い構成の振動片であってもよく、また、固定端となる基部を有する1本の振動腕のみにより構成されるビーム型振動片などであっても、あるいは、3本以上の振動腕を有する振動片であっても、上記実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0050】
また、上記実施形態では、水晶などの圧電材料からなる振動片20について説明した。これに限らず、例えば、シリコンからなる振動片であっても、上記実施形態と同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0051】
20…振動片、21…基部、21a…(基部の)第1の部分、21b…(基部の)第2の部分、21c…(基部の)接続部分、22…振動腕、23…一般部、24…幅広部、25…突堤部、26a,26b…長溝、29…錘部、30…支持腕、32…屈曲部、33,34…励振電極、95…ろう材、96…導電性の接合部材、97…ボンディングワイヤー、110,210…パッケージ、111,211…第1層基板、112,212…第2層基板、112a…突部、113,213…第3層基板、115,217…振動片接続端子、118,218…シールリング、119,219…リッド、150…ICチップ、155…電極パッド、200…振動子、214…第4層基板、215…ダイパッド、300…発振器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
前記基部から延出された振動腕と、を有し、
前記振動腕には、前記振動腕の両主面のうち少なくとも一方の主面に沿って開口部を有する有底の長溝と、
前記振動腕の前記基部との付け根とは反対側の先端側に、前記振動腕の前記基部との付け根側よりも幅が広い錘部と、が設けられ、
前記振動腕の長手方向において、前記基部との付け根から前記先端側までの長さに占める前記錘部の長さ割合が35%〜41%の範囲にあることを特徴とする振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の振動片において、
前記基部から互いに平行に延出された2つの前記振動腕が備えられ、
前記基部の2つの前記振動腕の間から支持腕が前記振動腕と平行に延出して設けられていることを特徴とする振動片。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動片において、
水晶により形成された水晶振動片であることを特徴とする振動片。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の振動片において、
屈曲振動モードを呈する屈曲振動片であることを特徴とする振動片。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の振動片と、
前記振動片を収容するパッケージと、を含むことを特徴とする振動子。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の振動片と、
前記振動片を発振させる発振回路を含む回路素子と、
前記振動片および前記回路素子を収容するパッケージと、を含むこと特徴とする発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−199331(P2011−199331A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60325(P2010−60325)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】