説明

排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化触媒

【課題】強度の低下を抑制しPMの捕集率を維持しつつ幾何表面積を増大させるとともに、圧損の増大を抑制しつつ触媒層を多く形成する。
【解決手段】少なくとも一つのセルの少なくとも一つのコーナ部に、軸方向に延びる凹部13を形成した。
凹部をもたない従来のフィルタに比べてガス通路の幾何表面積が増大し、セル開口面積も増大するため、圧損が低下する。また触媒層のコート量もその分多くなり、触媒金属をその分多く担持できるため浄化率が向上する。そして凹部を充填した触媒層によってコーナ部の強度が向上し、従来と同等以上の強度を維持することができる。さらに凹部に形成された厚い触媒層によって、NOx 吸蔵材の担持量を多くすることができる。またコーナ部はPMの捕集にほとんど寄与しないので、PMの捕集率は従来と同等に維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンからの排ガスなど、パティキュレートを含む排ガスを浄化する排ガスを浄化できる排ガス浄化フィルタと、その排ガス浄化フィルタを用いた排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンについては、排ガスの厳しい規制とそれに対処できる技術の進歩とにより、排ガス中の有害成分は確実に減少している。一方、ディーゼルエンジンについては、有害成分がパティキュレート(粒子状物質:炭素微粒子、サルフェート等の硫黄系微粒子、高分子量炭化水素微粒子( SOF)等、以下PMという)として排出されるという特異な事情から、ガソリンエンジンの場合より排ガスの浄化が難しい。
【0003】
現在までに開発されているディーゼルエンジン用排ガス浄化装置としては、大きく分けてトラップ型の排ガス浄化装置(ウォールフロー)と、オープン型の排ガス浄化装置(ストレートフロー)とが知られている。このうちトラップ型の排ガス浄化装置としては、セラミック製の目封じタイプのハニカム体(ディーゼルPMフィルタ(以下 DPFという))が知られている。この DPFは、セラミックハニカム構造体のセルの開口部の両端を例えば交互に市松状に目封じしてなるものであり、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、流入側セルと流出側セルを区画するフィルタ隔壁とよりなり、フィルタ隔壁の空孔で排ガスを濾過してPMを捕集することで排出を抑制するものである。
【0004】
しかし DPFでは、PMの堆積によって圧力損失(以下、圧損という)が上昇するため、何らかの手段で堆積したPMを定期的に除去して再生する必要がある。そこで従来は、圧損が上昇した場合に高温の排ガスを流してPMを燃焼させることで DPFを再生することが行われている。しかしながらこの場合には、PMの堆積量が多いほど燃焼時の温度が上昇し、 DPFが溶損したり、熱応力で DPFが破損する場合もある。
【0005】
そこで近年では、例えば特公平07−106290号公報に記載されているように、 DPFのセル隔壁の表面にアルミナなどからコート層を形成し、そのコート層に白金(Pt)などの触媒金属を担持した連続再生式 DPFが開発されている。この連続再生式 DPFによれば、捕集されたPMが触媒金属の触媒反応によって酸化燃焼するため、捕集と同時にあるいは捕集に連続して燃焼させることで DPFを再生することができる。そして触媒反応は比較的低温で生じること、及び捕集量が少ないうちに燃焼できることから、 DPFに作用する熱応力が小さく破損が防止されるという利点がある。
【0006】
また特開平09−094434号公報には、セル隔壁のみならず、セル隔壁の細孔内にも触媒金属を担持したコート層を形成した連続再生式 DPFが記載されている。細孔内にも触媒金属を担持することで、PMと触媒金属との接触確率が高まり、細孔内に捕集されたPMも酸化燃焼させることができる。また同公報には、コート層にさらにNOx 吸蔵材を担持することも記載されている。このようにすればNOx 吸蔵材に吸収されたNOx が高温時にNO2 として放出されるので、そのNO2 によってPMの酸化をさらに促進することができる。
【0007】
ところでハニカム構造は、ガス通路の幾何表面積が大きいので、排ガス浄化用触媒に適している。そしてストレートフロー構造のハニカム基材の場合には、セル隔壁の厚さを薄くしたり、セル数を増すことで、幾何表面積をさらに増大させることができる。しかし DPFの場合は、セル隔壁(フィルタ隔壁)でPMを捕集するものであるため、セル隔壁は約40%以上の気孔率を有する多孔質であり、ストレートフロー構造のハニカム基材に比べて強度が小さい。そのためフィルタ隔壁の厚さを薄くすると、強度を維持するには気孔率を小さくせざるを得ず、そうすると圧損が増大してしまう。さらにフィルタ隔壁の厚さが薄くなると、PMの捕集率が低下する。またセル数を増すと、端面の開口面積が減少するとともにガスの通過抵抗が増大するため、圧損が増大しPMによる開口の閉塞が生じるようになる。
【0008】
したがって従来の DPF及び連続再生式 DPFにおいては、フィルタ隔壁の厚さを薄くしたり、セル数を増すという手段を採用することが困難であり、ガス通路の幾何表面積のさらなる増大が困難となっている。
【0009】
また貴金属とNOx 吸蔵材とを担持してなるNOx 吸蔵還元触媒においては、NOx 吸蔵材の担持量を多くしてNOx 吸蔵量の増大を図るためには、触媒層の面積を大きくする、あるいは触媒層を厚く形成することが有効である。しかし連続再生式 DPFにおいて触媒層の厚さを厚くすると、セル通路の開口断面積が小さくなるとともに、フィルタ隔壁中の細孔が触媒層によって閉塞されるようになり、二次曲線的に圧損が増大してしまう。したがってNOx 吸蔵量の増大には限界があった。
【特許文献1】特公平07−106290号
【特許文献2】特開平09−094434号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、強度の低下を抑制しPMの捕集率を維持しつつ幾何表面積を増大させるとともに、圧損の増大を抑制しつつ触媒層を多く形成することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の排ガス浄化フィルタの特徴は、内燃機関から排出されたパティキュレートを含む排ガスを浄化する排ガス浄化フィルタであって、多孔質のフィルタ隔壁で区画された多数のセルをもつハニカム基材からなり、少なくとも一つのセルの少なくとも一つのコーナ部には、軸方向に延びる凹部を有することにある。
【0012】
セルは、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルとを有し、凹部は、少なくとも流入側セルの少なくとも一つのコーナ部に形成されていることが好ましい。
【0013】
凹部は、少なくとも外周部の流入側セルに設けられていることが好ましい。
【0014】
また本発明の排ガス浄化用触媒の特徴は、本発明の排ガス浄化フィルタと、多孔質酸化物に触媒金属を担持してなりフィルタ隔壁に形成された触媒層と、からなることにある。
【0015】
触媒層には、貴金属とNOx 吸蔵材とが担持されていることが望ましい。
【0016】
また触媒層は、凹部の部位の厚さが凹部以外の部位の厚さより大きいことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の排ガス浄化フィルタによれば、少なくとも一つのセルあるいは少なくとも流入側セルの少なくとも一つのコーナ部に凹部を形成している。したがって凹部をもたない従来のフィルタに比べてガス通路の幾何表面積が増大し、セル開口面積も増大するため、圧損が低下する。そして外周部の流入側セルに凹部を形成すれば、外周部のセル開口面積が増大するとともに熱容量が小さくなるので、外周部が速やかに昇温されるようになり、外周部におけるPMの堆積が抑制されるとともに、再生時の損傷が防止される。
【0018】
そして本発明の排ガス浄化用触媒によれば、凹部によってコーナ部の表面積が大きくなっているため、触媒層のコート量もその分多くなり、触媒金属をその分多く担持できるため浄化率が向上する。そして凹部を充填した触媒層によってコーナ部の強度が向上し、従来と同等以上の強度を維持することができる。さらに凹部に形成された厚い触媒層によって、NOx 吸蔵材の担持量を多くすることができ、NOx 吸蔵量が増大するためNOx 浄化性能が向上する。またコーナ部はPMの捕集にほとんど寄与しないので、PMの捕集率は従来と同等に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の排ガス浄化フィルタでは、少なくとも一つのセル又は少なくとも流入側セルの少なくとも一つのコーナ部に、軸方向に延びる凹部が形成されている。軸方向に垂直な断面において、凹部の径はフィルタ隔壁の一辺の長さの50%以内とすることが望ましい。凹部の径がフィルタ隔壁の一辺の長さの50%を超えると、凹部がフィルタ隔壁に占める面積が大きくなり、結果的にフィルタ隔壁が薄くなってPM捕集率が低下するようになる。凹部の径は、フィルタ隔壁の一辺の長さの20%程度とするのが最適である。この凹部の存在により、セル開口面積が増大し圧損が低下する。
【0020】
凹部は、少なくとも流入側セルの全部のコーナ部に形成することが好ましい。また流出側セルの少なくとも一つのコーナ部に形成することも好ましく、流出側セルの全部のコーナ部に形成してもよい。なお凹部の断面形状は特に制限されないが、強度あるいは破損の面からはエッジの無い断面円弧状とするのが好ましい。また凹部は、軸方向にフィルタ隔壁の長さ分だけ連続しているのが望ましいが、分断されていてもよいし、フィルタ隔壁の軸方向に部分的に形成されていてもよい。
【0021】
本発明の排ガス浄化フィルタは、多孔質のフィルタ隔壁で区画された多数のセルをもつハニカム基材からなるストレートフロー構造のものとしてもよいし、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、流入側セルと流出側セルを区画するフィルタ隔壁と、からなるウォールフロー構造とすることも好ましい。この排ガス浄化フィルタは、コーディエライト、炭化ケイ素などの耐熱性セラミックスから製造することができる。例えばコーディエライト粉末を主成分とする粘土状のスラリーを調製し、それを押出成形などで成形し、焼成する。凹部は、この押出成形と同時に形成するのが好ましい。コーディエライト粉末に代えて、アルミナ、マグネシア及びシリカの各粉末をコーディエライト組成となるように配合することもできる。ウォールフロー構造のフィルタの場合は、その後、一端面のセル開口を同様の粘土状のスラリーなどで市松状などに目封じし、他端面では一端面で目封じされたセルに隣接するセルのセル開口を目封じする。その後焼成などで目封じ材を固定することでハニカム構造の排ガス浄化フィルタを製造することができる。
【0022】
なおセル形状あるいは流入側セル及び流出側セルの形状は、断面三角、断面四角、断面六画などの断面多角形状とされる。例えば断面四角形状あるいは断面六画形状のセル形状の場合には、凹部は少なくとも互いに対向するコーナ部にそれぞれ形成することが望ましい。これにより押出成形時あるいは焼成時に作用する応力が均等になり、歪みが残留するのを抑制することができる。
【0023】
またフィルタ隔壁に空孔を形成するには、上記したスラリー中にカーボン粉末、木粉、澱粉、樹脂粉末などの可燃物粉末などを混合しておき、可燃物粉末が焼成時に消失することで空孔を形成することができ、可燃物粉末の粒径及び添加量を調整することで空孔の粒径と気孔率を制御することができる。この空孔によりセルどうしあるいは流入側セルと流出側セルは互いに連通し、PMは空孔内に捕集されるが気体は隣接するセルへ、あるいは流入側セルから流出側セルへと空孔を通過可能となる。
【0024】
フィルタ隔壁の気孔率は、50〜70%であることが望ましい。気孔率がこの範囲にあることで、触媒層を 100〜 200g/L形成しても圧損の上昇を抑制することができ、強度の低下もさらに抑制することができる。そしてPMをさらに効率よく捕集することができる。
【0025】
本発明の排ガス浄化用触媒は、本発明の排ガス浄化フィルタのフィルタ隔壁に触媒層を形成してなるものである。触媒層は、フィルタ隔壁表面のみでもよいが、フィルタ隔壁の内部の空孔表面にも形成することが望ましい。フィルタ隔壁表面に形成することで、凹部表面にも触媒層が形成される。凹部の存在によって、凹部をもたない従来のフィルタに比べてフィルタ隔壁の表面積が増大しているので、触媒層の表面積も従来より増大し、浄化活性が向上する。
【0026】
この触媒層は、多孔質酸化物に触媒金属を担持してなるものである。多孔質酸化物は触媒金属の担体として機能するものであり、 Al2O3、ZrO2、CeO2、TiO2、SiO2などの酸化物の少なくとも一種、あるいはこれらの複数種からなる複合酸化物を用いることができる。
【0027】
触媒層を形成するには、多孔質酸化物粉末をアルミナゾルなどのバインダ成分及び水とともにスラリーとし、そのスラリーをセル隔壁に付着させた後に焼成してコート層を形成し、そのコート層に触媒金属を担持すればよい。また多孔質酸化物粉末に予め触媒金属を担持した触媒粉末からスラリーを調製し、それを用いてコート層を形成することもできる。スラリーをフィルタ隔壁に付着させるには通常の浸漬法を用いることができるが、エアブローあるいは吸引によって、フィルタ隔壁の空孔に強制的にスラリーを充填するとともに、空孔内に入ったスラリーの余分なものを除去することが望ましい。
【0028】
この場合のコート層あるいは触媒層の形成量は、排ガス浄化フィルタ1Lあたり 100〜 200gとすることが好ましい。コート層あるいは触媒層が 100g/L未満では、触媒金属の耐久性の低下が避けられず、 200g/Lを超えると圧損が高くなりすぎて実用的ではない。
【0029】
触媒層に含まれる触媒金属は、例えば触媒反応によってPMの酸化を促進するものを用いることができる。このような触媒金属としては、少なくともPt、Rh、Pdなどの白金族の貴金属から選ばれた一種あるいは複数種を用いることが好ましい。貴金属の担持量は、排ガス浄化フィルタ1リットルあたり1〜5gの範囲とすることが好ましい。担持量がこれより少ないと活性が低すぎて実用的でなく、この範囲より多く担持しても活性が飽和するとともにコストアップとなってしまう。また貴金属を担持するには、貴金属の硝酸塩などを溶解した溶液を用い、吸着担持法、含浸担持法などによって担持させることができる。
【0030】
触媒層は、アルカリ金属,アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれるNOx 吸蔵材を含むことが好ましい。触媒層にNOx 吸蔵材を含めば、触媒金属による酸化によって生成したNOx をNOx 吸蔵材に吸蔵できるので、NOx の浄化活性が向上する。このNOx 吸蔵材としては、K,Na,Cs,Liなどのアルカリ金属、Ba,Ca,Mg,Srなどのアルカリ土類金属、あるいはSc,Y,Pr,Ndなどの希土類元素から選択して用いることができる。中でもNOx 吸蔵能に長けたアルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一種を用いることが望ましい。
【0031】
このNOx 吸蔵材の担持量は、排ガス浄化フィルタ1リットルあたり0.15〜0.45モルの範囲とすることが好ましい。担持量がこれより少ないと活性が低すぎて実用的でなく、この範囲より多く担持すると貴金属を覆って活性が低下するようになる。またNOx 吸蔵材を担持するには、酢酸塩、硝酸塩などを溶解した溶液を用い、含浸担持法などによってコート層に担持すればよい。また多孔質酸化物粉末に予めNOx 吸蔵材を担持しておき、その粉末を用いて触媒層を形成することもできる。
【0032】
また触媒層は、低温でNOx を吸着し高温でNOx を放出するNOx 吸着材を含むことも好ましい。低温域では排ガス中のNOはNO2 としてNOx 吸着材に吸着され、高温域ではNOx 吸着材からNO2 が脱離し、脱離したNO2 によってPMの酸化浄化が促進される。このNOx 吸着材としては、ジルコニアに貴金属を担持した粉末、あるいはCeO2に貴金属を担持した粉末などを用いることができる。
【0033】
触媒層は、凹部の部位の厚さが凹部以外の部位の厚さより厚くなるように形成することが望ましい。これにより触媒層によってコーナ部を補強することができ、従来と同等以上の強度を維持することができる。さらに凹部に形成された厚い触媒層によって、NOx 吸蔵材の担持量を多くすることができ、NOx 吸蔵量が増大するためNOx 浄化性能が向上する。
【0034】
凹部の部位の厚さが凹部以外の部位の厚さより厚くなるように触媒層を形成するには、通常のウォッシュコート法でもコーナ部の肉厚が大きくなる傾向にはあるが、粒径の細かい多孔質酸化物を用いて触媒層を形成した後に、粒径の大きな多孔質酸化物を用いてコーナ部のみに触媒層を形成する方法を用いることも好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0036】
(実施例1)
図1に本実施例のフィルタ触媒を示す。このフィルタ触媒1は、図2(a) に示すように、排ガス下流側で目詰めされた流入側セル10と、流入側セル10に隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セル11と、流入側セル10と流出側セル11を区画するフィルタ隔壁12と、からなる市販の DPFを用いている。この DPFは、体積2リットル、セル数 300cell/inch2(46.5cell/cm2)、フィルタ隔壁12の厚さ 0.3mm、気孔率60%であり、流入側セル10及び流出側セル11の断面形状は一辺1.17mmの正方形である。
【0037】
この DPFの流入側セル10及び流出側セル11のコーナ部を切削し、図2(b) に示すように幅 0.2mm、深さ0.07mmの断面円弧状の凹部13を形成した。
【0038】
次に Al2O3粉末、TiO2粉末、ZrO2粉末、CeO2粉末、アルミナゾル及びイオン交換水からなるスラリーを調製し、固形分粒子の平均粒径が1μm以下となるようにミリングした。そして凹部13が形成された DPFをこのスラリーに浸漬してセル内部にスラリーを流し込み、引き上げて浸漬側と反対側の端面から吸引することで余分なスラリーを除去し、通風乾燥後 450℃で2時間焼成した。この操作は2回行われ、流入側セル10及び流出側セル11にほぼ同量のコート層が形成されるように調整した。コート量は、フィルタ1の1リットルあたり75gである。コート層は、流入側セル10及び流出側セル11の表面及び細孔内に形成されている。
【0039】
その後、所定濃度のジニトロジアンミン白金硝酸塩の水溶液の所定量を含浸させ、乾燥・焼成して、コート層にPtを担持し、図2(c) に示すように触媒層2を形成した。触媒層2は、流入側セル10及び流出側セル11と同様に、凹部13にも形成されている。Ptの担持量は、フィルタ触媒1の1リットルあたり2gである。
【0040】
(実施例2)
実施例1と同様の凹部13が形成された DPFを用い、コート量を 200g/Lとしたこと以外は実施例1と同様にしてコート層を形成した。
【0041】
そして実施例1と同様にPtを担持した後、Li、Ba及びKの各硝酸塩を用いて、コート層にさらにNOx 吸蔵材を担持した。Liは 0.3モル/L、Baは0.05モル/L、Kは 0.025モル/L担持された。
【0042】
(実施例3)
実施例1と同様の凹部13が形成された DPFを用い、同様にしてコート層20を形成した。次に Al2O3粉末、TiO2粉末、ZrO2粉末、CeO2粉末、アルミナゾル及びイオン交換水からなり、固形分粒子の平均粒径が3〜4μmとなるようにミリングされたスラリーを用い、コート層20が形成された DPFをこのスラリーに浸漬し引き上げて余分なスラリーを浸漬側端面から吸引除去した後、通風乾燥後 450℃で2時間焼成した。この操作は2回行われ、流入側セル10及び流出側セル11にほぼ同量のコート層が形成されるように調整した。2回目のコート量は、フィルタ触媒1の1リットルあたり30gである。2回目のコート層3は、図3に示すように、主に凹部13の表面に形成された。
【0043】
次いで実施例2と同様にして、Pt、Li、Ba及びKを担持した。
【0044】
(比較例1)
凹部13を形成しないこと以外は実施例1と同様の DPFを用い、コート層を形成せず、触媒金属も担持しなかった。
【0045】
(比較例2)
凹部13を形成しないこと以外は実施例1と同様の DPFを用い、実施例1と同様にしてコート層を形成しPtを担持した。
【0046】
(比較例3)
凹部13を形成しないこと以外は実施例1と同様の DPFを用い、実施例2と同様にしてコート層を形成しPt、Li、Ba及びKを同様に担持した。
【0047】
<試験・評価>
各実施例及び各比較例のフィルタ触媒を大気中にて 650℃で50時間保持する耐久試験を行い、その後ディーゼルエンジンの排気管にそれぞれ装着した。そしてエンジン回転数2450rpm×35Nm、リーン定常入りガス温度 250℃の条件にて運転し、スートの捕集率と圧損を測定した。また入りガス温度を 350℃に設定し、1時間運転後のスート残存量を測定してスート酸化率を算出した。
【0048】
また実施例2〜3及び比較例3のフィルタ触媒について、入りガス温度を 300℃に設定し、軽油を10秒毎に 0.1秒、 A/Fが14.2になるようにスパイク的に排ガス中に噴射し、その条件下でのNOx 浄化率をそれぞれ測定した。
【0049】
さらに、各フィルタ触媒から10mm×10mm× 100mmの角柱を切り出し、4点曲げ試験により曲げ強度を測定した。
【0050】
それぞれの結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1のフィルタ触媒は、凹部13を形成したことにより、比較例2のフィルタ触媒に比べて端面開口率が約7%増大し、セル表面積が約17%増大している。そのため表1に示すように、比較例2のフィルタ触媒に比べて圧損が低下するとともに、スート酸化率が向上している。また実施例1〜3のフィルタ触媒におけるスートの捕集率は、比較例1〜3と同等であり、高率を維持している。すなわち凹部13の存在は、スートの捕集率に影響しないことがわかる。
【0053】
また凹部13の存在により、触媒層を形成しない場合には比較例1のフィルタ触媒に比べて曲げ強度が低下することは自明であり、触媒層をもつ実施例1と比較例2とを比較しても、凹部13の存在によって曲げ強度が低下していることがわかる。しかし、実施例1のフィルタ触媒は比較例1より曲げ強度が増大していることから、触媒層を形成することで曲げ強度が増大していることが明らかであり、使用上の問題は無い。
【0054】
さらに触媒層が厚い実施例2と比較例2を比較しても、実施例2のフィルタ触媒は比較例2のフィルタ触媒に比べて圧損が低くスート酸化率が高い。これは、凹部13を形成したことによる効果であることが明らかである。
【0055】
そして実施例2〜3のフィルタ触媒は比較例3のフィルタ触媒に比べて高いNOx 浄化性能を示し、これは凹部13によって触媒層の面積及び体積が増大したことによる効果である。また実施例3のフィルタ触媒は、実施例2のフィルタ触媒に比べて圧損が低い。これは、実施例3は実施例2に比べてフィルタ隔壁12の触媒層の量が少ないためであるが、スート酸化率は実施例2のフィルタ触媒に比べて向上していることから、フィルタ隔壁12の触媒層の量が少ないことによる性能低下分を凹部13に形成された厚肉の触媒層が補っていることがわかる。また凹部13の触媒層をさらに厚くすることで、曲げ強度がさらに増大していることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化用触媒は、ウォールフロー構造のハニカム基材を用いる場合に特に有効である。しかしストレーロフロー構造のハニカム基材であっても、高気孔率のセル壁を用いてセル壁内も反応場に用いるものであれば、本発明を利用することが可能である。
【0057】
さらに通常のハニカム基材においても、セル格子のコーナ部でコート層が厚くなるのを防止する場合に本発明を利用すれば、強度を確保しつつ圧損低減と浄化性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施例の排ガス浄化用触媒(フィルタ触媒)の斜視図である。
【図2】本発明の一実施例の排ガス浄化用触媒(フィルタ触媒)を製造する方法を示し、図1のA−A断面に相当する断面で示す説明図である。
【図3】本発明の第3の実施例の排ガス浄化用触媒(フィルタ触媒)を示し、図1のA−A断面に相当する断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1:フィルタ触媒 2:触媒層 3:第2のコート層
10:流入側セル 11:流出側セル 12:フィルタ隔壁
13:凹部 20:第1のコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出されたパティキュレートを含む排ガスを浄化する排ガス浄化フィルタであって、
多孔質のフィルタ隔壁で区画された多数のセルをもつハニカム基材からなり、少なくとも一つの該セルの少なくとも一つのコーナ部には、軸方向に延びる凹部を有することを特徴とする排ガス浄化フィルタ。
【請求項2】
前記セルは、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、該流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルとを有し、前記凹部は、少なくとも該流入側セルの少なくとも一つのコーナ部に形成されている請求項1に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項3】
前記凹部は、少なくとも外周部の前記流入側セルに設けられている請求項2に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の排ガス浄化フィルタと、多孔質酸化物に触媒金属を担持してなり前記フィルタ隔壁に形成された触媒層と、からなることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記触媒層には、貴金属とNOx 吸蔵材とが担持されている請求項4に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記触媒層は、前記凹部の部位の厚さが前記凹部以外の部位の厚さより大きい請求項4又は請求項5に記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−159020(P2006−159020A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351271(P2004−351271)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】