排ガス浄化用触媒、排ガス浄化装置および内燃機関を備えるシステム
【課題】 排ガス浄化において酸素吸放出材を用いる場合に、排ガス温度に関わらず効率良く排ガス浄化を行なう。
【解決手段】 貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属から成る活性成分と、周囲の窒素酸化物濃度に応じて窒素酸化物を吸放出するNOx吸蔵材と、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物とを備える排ガス浄化用触媒を用いる。
【解決手段】 貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属から成る活性成分と、周囲の窒素酸化物濃度に応じて窒素酸化物を吸放出するNOx吸蔵材と、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物とを備える排ガス浄化用触媒を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排ガス浄化用触媒、排ガス浄化装置および内燃機関を備えるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンなどの内燃機関から排出される排ガスを浄化する技術として、NOx、COおよびHCの浄化を同時に行なう三元触媒を、排ガスの浄化触媒として用いる技術が知られている。三元触媒を用いて排ガス浄化を行なう場合には、NOx、COおよびHCを同時に浄化するために、内燃機関における燃焼反応をストイキ(理論空燃比)に制御する必要がある。このような三元触媒を用いる技術において、さらに酸素吸放出材を用いる構成が知られている。酸素吸放出材は、酸素過剰な環境下では酸素を吸収し、酸素濃度が低い環境下では酸素を放出する。三元触媒に加えて酸素吸放出材を用いることで、ストイキで燃焼反応を行なう制御の際に、制御遅れなどにより空燃比が多少ストイキからずれることがあっても、触媒環境を実質的にストイキの状態に維持して、三元触媒を良好に働かせることが可能になる。
【0003】
また、内燃機関の燃費を向上させる目的で、内燃機関においてストイキで運転するモードに加えて、リーン(空気過剰)な状態で燃焼反応させるモードをさらに設ける技術が知られている。ここで、リーンな燃焼反応を行なって排ガスが空気過剰となっているときには、一般に三元触媒は、NOxを充分に浄化できなくなるという性質を有している。そのため、三元触媒中にさらにNOx吸蔵材を加え、このNOx吸蔵材にリーン運転時に生じるNOxを吸蔵させる構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。排ガス浄化装置においてこのようにNOx吸蔵材を設ける場合には、NOx吸蔵材におけるNOx吸蔵量が所定量を超えたと判断されたときに、リーン運転を一旦中断して、燃料過剰なリッチ運転を短時間だけ行なう(いわゆる、リッチスパイク)。これにより、NOx吸蔵材に吸蔵されたNOxが放出され、上記リッチスパイク時の燃焼反応で生じたHCやCOを還元剤としてNOxの浄化が行なわれる。なお、三元触媒と共にNOx吸蔵材を用いる場合にも、さらに酸素吸放出材を備えることにより、ストイキで運転するモードにおける排ガス浄化の性能を安定化させることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平7−213902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
三元触媒と共に用いる上記酸素吸放出材としては、従来セリア(CeO2)等が用いられてきた。しかしながら、CeO2等の従来知られる酸素吸放出材は、酸素の吸放出を行なう温度範囲が約400℃以下であるため、高負荷時(例えばエンジン回転数が高いとき)等に排ガス温度が上昇すると、充分に酸素の吸放出ができなくなってしまう。このような場合には、内燃機関の燃焼反応をストイキで行なう際に制御遅れ等があると、酸素吸放出材を設けることで三元触媒の性能を維持する効果が不十分となる可能性があった。
【0006】
また、既述したように三元触媒にNOx吸蔵材を加えた排ガス浄化装置を用いてリーン運転を行なう場合には、従来知られるアルカリ金属等のNOx吸蔵材ではNOxを吸放出する温度範囲が約300〜600℃程度であるため、上記酸素吸放出材が酸素を放出する温度と重なってしまう。そのため、リーン運転の途中でNOx浄化のためにリッチスパイクを行なうと、NOx吸蔵材からNOxが放出されると共に、酸素吸放出材からは酸素が放出される。リッチスパイクで生じたCOやHCなどの還元剤は、NOx吸蔵材から放出されたNOxだけでなく、酸素吸放出材から放出された酸素とも反応してしまうことになる。したがって、NOx吸蔵材に吸蔵させたNOxを充分に処理するためには、より多くのHCおよびCOを得るために、リッチスパイク時により多くの燃料を消費する必要があった。このように、酸素吸放出材を設ける場合には、酸素吸放出材から放出される酸素に起因して、リーン運転中に実行されるリッチスパイク時において燃費が低下する可能性があった。以上のことより、排ガス浄化において酸素吸放出材を用いる場合に、酸素吸放出材の酸素吸放出温度に起因して生じる不都合を防止することが望まれていた。
【0007】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、排ガス浄化において酸素吸放出材を用いる場合に、排ガス温度に関わらず効率よく排ガス浄化を行なうことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の排ガス浄化用触媒は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、
周囲の窒素酸化物濃度に応じて窒素酸化物を吸放出するNOx吸蔵材と、
A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物と
を備えることを要旨とする。
【0009】
以上のように構成された本発明の第1の排ガス浄化用触媒によれば、NOx吸蔵材がNOxを吸蔵する程度が充分ではない温度範囲において、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物によって、酸素過剰な雰囲気下では酸素を吸収し、酸素が不足する雰囲気下では酸素を放出することが可能となる。したがって、このような排ガス浄化用触媒を用いることで、NOx吸蔵材がNOxを吸蔵する程度が充分ではない温度範囲において、理論空燃比に近い状態の燃焼反応で生じた排ガスを、安定して浄化することができる。また、NOx吸蔵材がNOxを充分に吸蔵できる温度範囲では、上記化合物は、吸収した酸素をほとんど放出しない。そのため、NOx吸蔵材が吸蔵しているNOxを放出させて、放出したNOxを還元浄化する際に、上記化合物から酸素が放出されてNOxの還元浄化の効率を低下させることがない。
【0010】
本発明の第1の排ガス浄化用触媒において、前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含むこととしても良い。
【0011】
このような場合には、温度が約600℃以上であって、理論空燃比に近い状態の燃焼反応で生じた排ガスを、酸化還元反応を利用して安定して浄化することができる。また、排ガス温度が300〜600℃程度のときには、COおよびHCは酸化還元反応を利用することによって浄化し、また、NOxはNOx吸蔵材に吸蔵させることによって浄化することができる。
【0012】
本発明の第1の排ガス浄化装置は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
請求項1または2記載の排ガス浄化用触媒を備えることを要旨とする。
【0013】
このような排ガス浄化装置によれば、排ガスを浄化する際に、上記本発明の第1の排ガス浄化用触媒を用いることによる既述した効果を得ることができる。
【0014】
本発明の第2の排ガス浄化装置は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、周囲の窒素酸化物濃度に応じて窒素酸化物を吸放出するNOx吸蔵材と、を備える触媒部と、
A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物を備える酸素吸放出部と
を備え、
浄化すべき前記排ガスが、前記酸素吸放出部を通過した後に前記触媒部に供給されるように、前記酸素吸放出部と前記触媒部とが直列に接続されていることを要旨とする。
【0015】
このような本発明の第2の排ガス浄化装置において、前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含むこととしても良い。
【0016】
上記のように、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物を備える酸素吸放出部が、貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属、および、NOx吸蔵材を備える触媒部と、離れて設けられていても、本発明の第1の排ガス浄化装置と同様の効果を得ることができる。
【0017】
本発明のシステムは、内燃機関を備えるシステムであって、
前記内燃機関から排出される排ガスが導入される請求項3ないし5いずれか記載の排ガス浄化装置を備え、
前記内燃機関の運転モードとして、該内燃機関における燃焼反応の空燃比がストイキとなるように制御する第1のモードと、前記内燃機関における燃焼反応の空燃比が酸素過剰となるように制御する第2のモードとを有することを要旨とする。
【0018】
燃焼反応の空燃比がストイキとなる第1のモードと、燃焼反応の空燃比が酸素過剰となる第2のモードとを運転モードとして有する内燃機関では、一般に、第1のモードで排出される排ガスの方が、酸素過剰な第2のモードで排出される排ガスよりも高温となる。このような第1のモードにおける排ガスの温度条件下では、排ガス浄化用触媒が備えるA2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物によって、酸素の吸放出が行なわれる。したがって、本発明の排ガス浄化用装置が備える排ガス浄化触媒が三元触媒として働く際に、排ガス中の酸素濃度が、ストイキで燃焼反応が行なわれるときの理想的な状態に近づけらて、高い効率で排ガスを浄化することができる。また、排ガス温度がより低温となる第2のモードでの運転時には、酸素過剰となる燃焼反応を行なうことで燃費が向上する。このとき、第2のモードにおける排ガスの温度条件下では、酸化還元反応によって処理されないNOxがNOx吸蔵材に吸蔵されるため、排ガス浄化のレベルを高く維持することができる。さらに、このような温度条件下では、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物では酸素を放出する活性が低くなるため、NOx吸蔵材からNOxを放出させてNOxを還元浄化する際に、上記化合物が放出した酸素に起因するNOx浄化効率の低下を防止することができる。
【0019】
本発明の第2の排ガス浄化用触媒は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、
比較的高温の条件下において酸素の吸放出を行なう第1の酸素吸放出材と、該第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度よりも低温の条件下において酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材と、
を備えることを要旨とする。
【0020】
以上のように構成された本発明の第2の排ガス浄化用触媒によれば、より広い温度範囲で酸素の吸放出を行なうことができるため、より広い温度範囲で三元触媒の性能を高め、排ガス温度に関わらず、安定して排ガス浄化を行なうことが可能となる。
【0021】
本発明の第2の排ガス浄化用触媒において、前記第1の酸素吸放出材は、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物であることとしても良い。このような構成とすれば、排ガス温度が約500℃以上の時には、過剰の酸素を吸収すると共に不足する酸素を放出する動作を、第1の酸素吸放出材によって行なわせることができる。
【0022】
また、本発明の第2の排ガス浄化用触媒において、前記第2の酸素吸放出材は、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物であることとしても良い。このような構成とすれば、排ガス温度が約500℃以下のときには、過剰の酸素を吸収すると共に不足する酸素を放出する動作を、第2の酸素吸放出材によって行なわせることができる。
【0023】
本発明の第3の排ガス浄化装置は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
請求項7ないし9いずれか記載の排ガス浄化用触媒を備えることを要旨とする。
【0024】
このような排ガス浄化装置によれば、排ガスを浄化する際に、上記本発明の第2の排ガス浄化用触媒を用いることによる既述した効果を得ることができる。
【0025】
本発明の第4の排ガス浄化装置は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属を備える触媒部と、
比較的高温の条件下において酸素の吸放出を行なう第1の酸素吸放出材を備える第1の酸素吸放出部と、
前記第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度よりも低温の条件下において酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材を備える第2の酸素吸放出部と
を備え、
浄化すべき前記排ガスの流れに対して前記触媒部の上流側に、前記第1および第2の酸素吸放出部が配設されていることを要旨とする。
【0026】
上記本発明の第4の排ガス浄化装置において、前記第1の酸素吸放出材は、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物であることとしても良い。また、本発明の第4の排ガス浄化装置において、前記第2の酸素吸放出材は、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物であることとしても良い。
【0027】
このように、第1の酸素吸放出材と第2の酸素吸放出材とが、貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属とは離れて設けられた本発明の第4の排ガス浄化装置によっても、本発明の第3の排ガス浄化装置と同様の効果を得ることができる。
【0028】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、排ガス浄化触媒の製造方法や、本発明の排ガス浄化システムを搭載した移動体などの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.第1の排ガス浄化用触媒:
B.第1の排ガス浄化装置:
C.第1の排ガス浄化用触媒および排ガス浄化装置の変形例:
D.第2の排ガス浄化用触媒:
E.第2の排ガス浄化装置:
F.第2の排ガス浄化用触媒および排ガス浄化装置の変形例:
【0030】
A.第1の排ガス浄化用触媒:
本発明の実施の形態としての第1の排ガス浄化用触媒は、酸化還元反応に関わる触媒活性を示す活性成分と、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材と、NOx吸蔵材とを備えている。図1は、第1の排ガス浄化用触媒の構成の概略を模式的に現わす説明図である。図1に示すように、第1の排ガス浄化用触媒では、微粒子状の酸素吸放出材上に、活性成分と、NOx吸蔵材とが担持されている。なお、酸素吸放出材は、実際には多数の微細孔を備えており、その表面に、活性成分およびNOx吸蔵材が分散担持されている。
【0031】
このような第1の排ガス浄化用触媒においては、所定の温度条件下では、上記した酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう。すなわち、上記酸素吸放出材は、酸素濃度が高い所定の温度条件下では酸素を吸収し、酸素濃度が低い所定の温度条件下では吸収した酸素を放出する。なお、上記酸素吸放出材は、酸素を放出する際にはA2O2Sに変化し、酸素を吸収する際には再びA2O2SO4に変化する。ここで、上記酸素吸放出材が酸素を吸放出する所定の温度条件は、上記Aで表わした希土類元素によって多少異なるが、およそ500〜600℃を超える温度範囲である。
【0032】
また、このような排ガス浄化用触媒においては、所定の温度条件下では、上記したNOx吸蔵材がNOxの吸蔵および放出を行なう。NOx吸蔵材は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含んでいる。NOx吸蔵材が上記元素の炭酸塩として存在するときに、NOx吸蔵材がNOx濃度の高い雰囲気下に晒されると、雰囲気中のNOxは、活性成分によって酸化されてNOx吸蔵材と結合し、硝酸塩として吸蔵される。このようにNOx吸蔵材がNOxを吸蔵する状態で還元雰囲気下に晒されると、NOx吸蔵材では硝酸塩が分解されて、分解物は活性成分上で雰囲気中の還元剤によって窒素に還元される。また、硝酸塩が分解されることで、NOx吸蔵材はNOx吸蔵性能を回復する。ここで、NOx吸蔵材がNOxの吸蔵および放出を行なう温度条件は、約550℃以下である。上記温度を超える温度条件下では、NOx吸蔵材は酸化物となり(例えば、NOx吸蔵材が含む上記元素がBaの場合にはBaOとなる)、NOx吸放出能を失う。
【0033】
したがって、上記酸素吸放出材およびNOx吸蔵材を備える第1の排ガス浄化用触媒を用いると、浄化すべき排ガスの温度がおよそ500℃〜600℃を超える温度範囲のときには、酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なうことにより、排ガス浄化用触媒の周囲の酸素濃度を一定の範囲に保つことが可能となる。したがって、排ガス浄化用触媒が備える活性成分において進行する排ガス浄化のための酸化還元反応の状態を、安定して維持することができる。また、浄化すべき排ガスの温度が約550℃以下の場合には、NOx吸蔵材がNOxを吸収することにより、排ガス浄化用触媒が排ガス中のNOx濃度を低減する効果を高めることができる。
【0034】
図2は、第1の排ガス浄化用触媒の製造工程を表わす説明図である。第1の排ガス浄化用触媒を製造するには、まず、希土類元素の硫酸塩を用意する(ステップS100)。ここで、硫酸塩を構成する希土類元素は、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、サマリウム(Sm)等のランタノイドや、さらにイットリウム(Y)を含む群から選択することが好ましい。また、用いる硫酸塩は、水和物であっても無水物であっても良い。希土類元素の硫酸塩の水和物は、A2(SO4)3・nH2O(Aは希土類元素)と表わされる。
【0035】
次に、上記希土類元素の硫酸塩を、空気中で加熱して、硫酸基の一部を分解し、希土類元素の酸化硫酸塩(酸硫酸塩)であるA2O2SO4(Aは希土類元素)を得る(ステップS110)。ステップS110において希土類元素の硫酸塩を加熱する際の温度は、硫酸基の一部が分解される範囲で適宜設定すればよく、例えば800℃以上とすることで、比表面積が15m2/g程度以上であるA2O2SO4(Aは希土類元素)を作製することができる。ステップS110で得られる希土類元素の酸化硫酸塩は、酸素吸放出材として機能するものであり、この酸化硫酸塩の微粒子を、以下、触媒担体として用いる。
【0036】
次に、上記希土類元素の酸化硫酸塩上に、活性成分として、貴金属および遷移金属のうちの少なくとも1種の金属を担持させる(ステップS120)。活性成分として貴金属を担持させる場合には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが望ましい。活性成分として遷移金属を用いる場合には、例えば、ニッケル(Ni)や銅(Cu)を選択することができる。これらの活性成分の担持は、まず、活性成分として用いる金属の金属塩溶液中に、ステップS110で得られた触媒担体を浸漬することによって行なう。ステップS120で用いる金属塩溶液は、例えば、活性成分として用いる既述した金属の硝酸塩溶液などの、水溶性の溶液を用いることができる。金属塩溶液中に上記触媒担体の微粒子を浸漬することで、イオン交換法、あるいは吸着(含浸法)や蒸発乾固によって、触媒担体上に上記金属を担持させることができる。金属塩溶液中に触媒担体を浸漬した後、この触媒担体を乾燥・焼成させることで、触媒担体上に活性成分が担持される。
【0037】
活性成分を担持させると、次に、この活性成分を担持した触媒担体上に、さらにアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含むNOx吸蔵材を担持させる(ステップS130)。アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素から選択されるNOx吸蔵材を構成する元素としては、例えば、バリウム(Ba)、カリウム(K)、リチウム(Li)を用いることができる。この場合には、上記元素の塩溶液中に、ステップS120で得られた触媒担体を浸漬する。用いる塩溶液としては、酢酸塩溶液などの水溶性の溶液を用いることができる。触媒担体に酢酸塩溶液を含浸させた後、乾燥・焼成を行ない、酢酸塩を炭酸塩(炭酸バリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等)とすることで、触媒担体上へのNOx吸蔵材の担持を行なうことができる。
【0038】
上記焼成の工程によって、触媒担体上に活性成分およびNOx吸蔵材を担持させた粉体状の触媒粉体が得られ、これをさらに成形することで、排ガス浄化用触媒が完成される(ステップS140)。ステップS140で触媒を成形する方法としては、例えば、上記触媒粉体に所定のバインダを加えてスラリ化し、これを、ハニカム等の触媒基材上に塗布する方法がある。触媒基材として用いるハニカムは、コージェライトなどのセラミックス材料や、ステンレス鋼などにより形成することができる。なお、これらのハニカム表面に触媒スラリを塗布する際には、触媒スラリの塗布に先立って、ハニカム表面をアルミナ等の金属酸化物でコートして、触媒基材と触媒スラリとの間の密着性を高めることとしても良い。あるいは、ステップS140における触媒の成形の工程は、焼成した触媒粉体を圧縮し、さらにこれを粉砕して、ペレット状にする工程としても良い。
【0039】
なお、図2では、触媒担体上に、活性成分を担持させた後にNOx吸蔵材を担持させているが、ステップS120とS130とを逆の順序で行なっても良く、あるいは、活性成分の担持とNOx吸蔵材の担持とを同時に行なうこととしても良い。
【0040】
B.第1の排ガス浄化装置:
図3は、第1の排ガス浄化用触媒を備える第1の排ガス浄化装置15と、内燃機関であるエンジン20とを備えるシステム10の構成を表わす概略図である。システム10は、さらに、エンジン20の駆動制御を行なう制御部28を備えている。このようなシステム10を、例えば車両に搭載すれば、エンジン20によって車両の駆動力を発生させると共に、エンジン20から排出される排ガスを排ガス浄化装置15によって浄化することができる。
【0041】
エンジン20のシリンダヘッドには、燃焼室内に空気を吸入するための吸気弁22と、燃焼室内から排気ガスを排出するための排気弁21と、点火プラグ23と、燃料を噴射するためのインジェクタ25が設けられている。インジェクタ25から噴射された燃料は燃焼室内で蒸発し、吸気弁22を介して導入される空気と混合して混合気を形成する。また、シリンダヘッドには、燃焼室に空気を導くための吸気マニホールド30と、燃焼室から排出された排気ガスを導くための排気マニホールド32とが取り付けられている。
【0042】
吸気マニホールド30内には、燃焼室に流入する空気量を調整するためのスロットルバルブ34が設けられている。このスロットルバルブ34は、所定のスロットルモータによって開閉駆動され、エンジン20において所望の吸入空気量を実現する。また、排気マニホールド32は、排ガス浄化装置15に接続している。
【0043】
制御部(ECU)25は、燃料噴射制御や、点火時期制御などの、エンジン20の全体の動作を制御する。この制御部28は、中央処理装置(以下、CPU)、ROM、RAM、入出力回路などがバスによって相互に接続されて構成された論理演算回路である。制御部28によるこうした制御は、運転者の操作したアクセル開度や、エンジンの回転速度、吸入空気量などの各種運転条件に関わる情報を制御部28が取得し、ROMに格納されている各種プログラムに従って、スロットルモータ、点火プラグ23、インジェクタ25などを駆動することによって行われる。
【0044】
このようなシステム10は、エンジン20の運転モードとして、エンジン20における燃焼反応の空燃比がストイキとなるように制御する第1のモードと、エンジン20における燃焼反応の空燃比がリーンとなるように制御する第2のモードと、を有している。燃焼反応における空燃比は、主として、スロットルモータによって調節される吸入空気量と、インジェクタ25によって調節される燃料噴射量とによって定まる。運転モードの切り替えは、例えばエンジン回転速度とエンジントルク(負荷)とに応じて、制御部25によって実行される。
【0045】
空燃比がストイキとなるように制御する第1のモードは、エンジン回転速度およびエンジントルクの値がより大きいときに選択される運転モードである。制御部25が第1の運転モードを選択して運転制御するときには、第1の排ガス浄化装置15が備える第1の排ガス浄化用触媒は、三元触媒として機能する。すなわち、NOxとCOとHCの浄化が、同時に行なわれる。このように燃焼反応がストイキとなるように制御する第1のモードでは、エンジン20から排出される排ガスの温度はより高温となり、通常は550℃以上となる。このような温度範囲は、既述したように、第1の排ガス浄化用触媒が備える酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なうことができる温度範囲である。したがって、第1の運転モードにおいては、制御遅れなどの理由によりエンジン20での燃焼反応の状態がストイキからはずれた場合には、第1の排ガス浄化用触媒が備える酸素吸放出材によって過剰の酸素が吸収され、あるいは不足する酸素が放出される。これにより、排ガス浄化装置15内では、常にストイキ運転時の状態が維持され、排ガス浄化が安定して行なわれる。なお、第1のモードにおける上記した排ガスの温度条件下では、既述したように、第1の排ガス浄化用触媒が備えるNOx吸蔵材は酸化物となり、NOx吸放出能を失った状態となっている。
【0046】
空燃比がリーンとなるように制御する第2のモードは、エンジン回転速度およびエンジントルクの値がより小さいときに選択される運転モードである。制御部25が第2の運転モードを選択して運転制御するときには、排ガスが酸素過剰な状態となるため、排ガス浄化用触媒の活性成分は、三元触媒としてNOxを浄化する通常の反応を充分に進行させることができない。また、第2のモードでは、エンジン20から排出される排ガスの温度はより低温となり、通常は550℃以下となる。すなわち、NOx吸蔵材がNOxを吸放出可能な温度範囲となる。そのため、第2の運転モードが選択されたときには、第1の排ガス浄化装置15が備える第1の排ガス浄化用触媒は、いわゆるNOx吸蔵還元型触媒として機能する。これにより、第2の運転モードにおいては、排ガス中のHCおよびCOは、活性成分による浄化が行なわれると共に、排ガス中のNOxは、NOx吸蔵材によって吸蔵される。
【0047】
なお、制御部28は、リーン運転時にNOx吸蔵材へのNOx吸蔵量が所定量を超えたと判断されると、ごく短い時間だけリッチ運転を行なうリッチスパイク時を実行する。リッチスパイクが行なわれると、排ガスは、HCやCO等の還元剤が豊富な還元雰囲気となり、NOx吸蔵材からNOxが放出されて還元されると共に、NOx吸蔵材はNOx吸蔵能を回復する。制御部28は、例えば排ガス中のNOx量を検出してこれを積算することによってリッチスパイクのタイミングを判断しても良いし、所定の時間間隔でリッチスパイクを行なっても良い。このように、第2の運転モードでは、排ガス浄化用触媒の活性成分によって処理できないNOxを、NOx吸蔵材に吸蔵させることによって、排ガス浄化が安定して行なわれる。
【0048】
なお、燃焼反応がリーンとなるように制御する第2のモードにおける排ガス温度(約550℃以下)では、既述したように、排ガス浄化装置15が備える酸素吸放出材であるA2O2SO4(Aは希土類元素)は、酸素の吸放出をほとんど行なわない。そのため、排ガス中に酸素が過剰となるリーン運転時に、酸素吸放出材が酸素を吸収することはほとんどない。また、酸素濃度が低くなるリッチスパイク時にも、酸素を放出することがほとんどない。
【0049】
以上のように構成された排ガス浄化用触媒を備える排ガス浄化装置15、あるいは排ガス浄化装置15を備えるシステム10によれば、第2のモードが選択されて、排ガス温度が、NOx吸蔵材がNOx吸蔵を行なう比較的低い温度範囲となるときには、酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なうことがないため、リッチスパイク時に、酸素吸放出材から放出された酸素によってHCやCO等の還元剤が消費されることがない。すなわち、NOx吸蔵材から放出されるNOxを充分に処理するために、リッチスパイク時に過剰の燃料をエンジン20に供給する必要がない。したがって、燃費を低下させることなくリッチスパイクを行なうことができ、リーン運転による燃費向上の効果を高めることができる。
【0050】
また、第1のモードが選択されて、排ガス温度が、NOx吸蔵材がNOx吸蔵を行なわない比較的高い温度範囲となるときには、酸素吸放出材は高い酸素吸放出性能を示すため、ストイキ運転制御を行ないつつ、高い排ガス浄化率を安定して維持することができる。
【0051】
C.第1の排ガス浄化用触媒および排ガス浄化装置の変形例:
上記第1の排ガス浄化用触媒では、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材を触媒担体として、この触媒担体上に、活性成分である金属とNOx吸蔵材とを担持させているが、異なる構成としても良い。例えば、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材に加えて、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)等の多孔質酸化物をさらに触媒担体として用いても良い。このような場合には、図2に示した活性成分を担持させるステップS120に先だって、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)の微粒子に、上記した多孔質酸化物の微粒子を混合し、混合した微粒子を触媒担体として、排ガス浄化用触媒を製造すればよい。
【0052】
あるいは、触媒担体としては、上記したアルミナ等の酸化物だけを用い、酸素吸放出材は、触媒担体としては用いずに、別途、浄化用触媒に添加することとしても良い。例えば、酸素吸放出材に代えてアルミナ等の酸化物を触媒担体として用いて活性成分およびNOx吸蔵材を担持させ、成形の際に、上記触媒担持酸化物と酸素吸放出材とを混合してもよい。
【0053】
また、活性成分およびNOx吸蔵材をアルミナ等に担持させた触媒担持酸化物を備える触媒部と、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材を備える酸素吸放出部とを、別体で設けることとしても良い。例えば、触媒担持酸化物を含むペーストを塗布したハニカムから成る触媒部を製造すると共に、酸素吸放出材を含むペーストを塗布したハニカムから成る酸素吸放出部をこれとは別に製造する。そして、図3と同様のシステムにおいて、排ガスの流れに対して酸素吸放出部が触媒部の上流となるように、排気マニホールド32において両者を直列に接続すればよい。酸素吸放出材が、酸素過剰時には排ガス中の酸素を吸収すると共に、酸素不足時には排ガス中に酸素を放出し、浄化用触媒の活性成分においてストイキの環境が維持されるならば、同様の効果が得られる。
【0054】
D.第2の排ガス浄化用触媒:
第2の排ガス浄化用触媒は、第1の排ガス浄化用触媒と同様にA2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材を第1の酸素吸放出材として備え、この第1の酸素吸放出材を触媒担体として、触媒担体上に活性成分である金属を担持している。さらに、第2の排ガス浄化用触媒では、上記第1の酸素吸放出材に加えて、第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度よりも低温の条件下で酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材を備えている。
【0055】
したがって、上記第1および第2の酸素吸放出材を備える第2の排ガス浄化用触媒を用いると、第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度範囲と第2の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度範囲とを合わせた広い温度範囲で、排ガス浄化用触媒の周囲の酸素濃度を一定に保つことが可能となる。そのため、排ガス浄化用触媒が備える活性成分において進行する排ガス浄化のための酸化還元反応の状態を、上記広い温度範囲で安定して維持することができる。
【0056】
図4は、第2の排ガス浄化用触媒の製造工程を表わす説明図である。図4において、ステップS200〜S220までは、図2におけるステップS100〜S120と同様の工程である。これにより、A2O2SO4(Aは希土類元素)と表わされる第1の酸素吸放出材を触媒担体として、この触媒担体上に、第1の排ガス浄化用触媒と同様の活性成分を担持させることができる。その後、第1の酸素吸放出材よりも酸素吸放出時の温度が低い第2の酸素吸放出材を用意する(ステップS230)。A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる第1の酸素吸放出材は、通常は約500℃以上で酸素の吸放出を行なう。そのため、これよりも、低い温度範囲で酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材としては、例えば、CeO2−ZrO2複合酸化物(CeO2−ZrO2固溶体)やCeO2等の、Ceを含有する酸化物を用いることができる。これらCeを含有する酸化物は、酸素吸放出材として従来知られている物質であり、100〜500℃程度の温度範囲において、酸素の吸放出を行なう。
【0057】
CeO2−ZrO2複合酸化物を得るには、例えば、ZrO(NO3)2・2H2OとCe(NO3)3・6H2Oの水溶液をそれぞれ用意し、両水溶液を所定の割合で混合する。この水溶液を中和することで、ZrとCeを含む水酸化物凝集体が沈殿物として得られ、回収した水酸化物凝集体を焼成することで、CeO2−ZrO2複合酸化物が得られる。その後、この第2の酸素吸放出材と、活性成分を担持した第1の酸素吸放出材とを混合する(ステップS240)。
【0058】
活性成分を担持した第1の酸素吸放出材と第2の酸素吸放出材とを混合すると、これをさらに成形することで、第2の排ガス浄化用触媒が完成される(ステップS250)。ステップS250で触媒を成形する方法としては、図2のステップS140と同様に、ハニカム等の触媒基材上に担持させる、あるいはペレット状に成形するなど、種々の態様が可能である。
【0059】
E.第2の排ガス浄化装置:
上記第2の排ガス浄化用触媒を備える第2の排ガス浄化装置は、図3に示したシステム10において、第1の排ガス浄化装置15に代えて用いることができる。このような第2の排ガス浄化装置を備えるシステムでは、制御部28は、排ガスの温度に関わらず、常にストイキ運転制御を行なう。第2の排ガス浄化装置では、排ガス温度が約500℃以下のときには、第2の酸素吸放出材が、過剰な酸素の吸収および不足する酸素の放出を行なう。また、排ガス温度が約500℃を超えるときには、第1の酸素吸放出材が、過剰な酸素の吸収および不足する酸素の放出を行なう。
【0060】
以上のように構成された第2の排ガス浄化用触媒を備える第2の排ガス浄化装置、あるいは第2の排ガス浄化装置を備えるシステムによれば、酸素の吸放出を行なう温度範囲が異なる複数種の酸素吸放出材を備えるため、排ガス浄化を良好に行なうことができる排ガスの温度範囲をより広くすることができる。したがって、負荷が変動して排ガス温度が変化する場合にも、ストイキ運転制御を行なうことにより、NOx、CO、HCの浄化をより安定して行なうことができる。特に、第1の酸素吸放出材としてA2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材を用い、第2の酸素吸放出材としてCeO2−ZrO2複合酸化物やCeO2等のCeを含有する酸化物を用いているため、第2排ガス浄化用触媒では、それぞれの酸素吸放出材が実質的に酸素の吸放出を行なう温度範囲が重ならない。したがって、排ガス浄化を良好に行なうことができる排ガスの温度範囲をより広くする効果を、効率良く高めることができる。
【0061】
なお、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる第1の酸素吸放出材は、CeO2−ZrO2複合酸化物等の第2の酸素吸放出材に比べて、酸素の吸放出量が多いという性質を有している。ここで、第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう排ガス温度が高いときとは、一般に高負荷時であり、排ガス量も多くなるときである。第2の排ガス浄化用触媒によれば、第1の酸素吸放出材を備えることで、処理すべき排ガス量が多い高温時に、より多くの酸素を吸放出することが可能となるため、三元触媒を用いた排ガス浄化の効率向上の効果を、より高めることができる。
【0062】
F.第2の排ガス浄化用触媒および排ガス浄化装置の変形例:
上記第2の排ガス浄化用触媒では、活性成分を担持した第1の酸素吸放出材と第2の酸素吸放出材とが混合されているが、異なる構成としても良い。例えば、触媒担体である第1の酸素吸放出材上に、活性成分に加えて第2の酸素吸放出材を担持させることとしても良い。また、第1の酸素吸放出材に加えて、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)等の多孔質酸化物をさらに触媒担体として用いても良い。
【0063】
あるいは、活性成分は第1の酸素吸放出材上に担持させると共に、第2の酸素吸放出材はアルミナなどの酸化物上に担持させて、両者を混合することとしても良い。また、活性成分を担持させる触媒担体としてはアルミナなどの酸化物を用い、第1及び第2の酸素吸放出材を、この活性成分を担持した触媒担体と混合することとしても良い。
【0064】
あるいは、活性成分をアルミナ等に担持した触媒担持酸化物を備える触媒部を設けると共に、第1の酸素吸放出材と第2の酸素吸放出材とのうちの少なくとも一方は、上記触媒部内に配設することなく、別途設けた酸素吸放出部内に配設することとしても良い。この場合には、排ガスの流れに対して酸素吸放出部が触媒部の上流となるように、排気マニホールドにおいて酸素吸放出部および触媒部を接続すればよい。
【0065】
また、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる第1の酸素吸放出材と、Ceを含有する酸化物からなる第2の酸素吸放出材以外の組み合わせであっても良い。酸素の吸放出を行なう温度範囲が異なる複数の酸素吸放出材を組み合わせて用いるならば、広い温度範囲において排ガス浄化の性能を高く維持することができるという同様の効果が得られる。
【実施例】
【0066】
実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材と、比較例(1)の酸素吸放出材とを製造し、各々の酸素吸放出能を比較した。なお、ここでは、本発明の第1および第2の排ガス浄化触媒そのものではなく、これらの触媒に用いたA2O2SO4(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材を実施例の酸素吸放出材とし、これら実施例の酸素吸放出材に活性成分を担持させたものを実施例の触媒としている。また、Ceを含有する酸素吸放出材を比較例の酸素吸放出材とし、この比較例の酸素吸放出材に活性成分を担持させたものを比較例の触媒としている。
【0067】
(A)酸素吸放出材の製造:
(A−1)実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材:
実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材は、それぞれ、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)を備え、A2O2SO4(Aは上記各元素)と表される。実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材を製造する際には、上記各元素の硫酸塩(A2(SO4)3・nH2O)を用い、この硫酸塩を窒素気流中、900℃で5時間焼成し、上記実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材の粉末を得た。この実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材は、本発明の実施の態様としての第1の排ガス浄化触媒における酸素吸放出材、あるいは、本発明の実施の態様としての第2の排ガス浄化触媒における第1の酸素吸放出材に対応する。
【0068】
(A−2)比較例(1)の酸素吸放出材:
比較例(1)の酸素吸放出材は、CeO2−ZrO2複合酸化物であり、硝酸二アンモニウムセリウム、オキシ硝酸ジルコニウムを用いた溶液合成法により作製した。すなわち、上記試薬の水溶液の混合液を中和して水酸化物の沈殿を得て、この水酸化物を焼成することによって複合酸化物を作製した。ここでは、CeとZrのモル比が1:1となるように上記試薬を混合した。CeO2−ZrO2複合酸化物は、三元触媒において酸素吸放出能を高める助触媒として従来用いられてきたCeO2よりも酸素吸放出量が多い酸化物として知られている。このような比較例(1)の酸素吸放出材は、本発明の実施の態様としての第2の排ガス浄化触媒における第2の酸素吸放出材に対応する。
【0069】
(A−3)実施例(1)〜(4)の触媒:
実施例(1)〜(4)の触媒は、それぞれ、上記実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材を触媒担体として、この触媒担体上に活性成分であるPdを担持させたものである。実施例(1)〜(4)の触媒を作製するには、上記実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材の粉末を、触媒担体量の1wt%に相当するPdを含有する硝酸パラジウム溶液中に分散させて攪拌・乾燥し、蒸発乾固によりPdを触媒担体上に担持させた。このとき、400℃で2時間焼成を行なった。さらに、この焼成物を圧縮後に粉砕し、粉砕物をふるいにかけて、粒径が0.5mm〜1mmであるペレット状に成形して、実施例(1)〜(4)の触媒を完成した。これら実施例(1)〜(4)の触媒に、さらにNOx吸蔵材を加えることで、本発明の実施の態様としての第1の排ガス浄化触媒が得られる。また、実施例(1)〜(4)の触媒に、さらにCeを含有する第2の酸素吸放出材を加えることで、本発明の実施の態様としての第2の排ガス浄化触媒が得られる。
【0070】
(A−4)比較例(1)の触媒:
比較例(1)の触媒は、上記比較例(1)の酸素吸放出材を触媒担体として、この触媒担体上に活性成分であるPtを担持させたものである。比較例(1)の触媒を作製するには、上記比較例(1)の酸素吸放出材の粉末を、触媒担体量の1wt%に相当するPtを含有する硝酸白金溶液中に分散させて攪拌・乾燥し、蒸発乾固によりPtを触媒担体上に担持させた。このとき、400℃で2時間焼成を行なった。さらに、この焼成物を圧縮後に粉砕し、粉砕物をふるいにかけて、粒径が0.5mm〜1mmであるペレット状に成形して、比較例(1)の触媒を完成した。
【0071】
(B)酸素吸放出性能の評価:
図5は、実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材について、酸素放出能を調べた結果を表わす説明図である。酸素放出能を調べるには、実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材のそれぞれを、4重極型質量分析器のリアクター部に1gずつ充填し、試験ガス(10%H2、Heバランス)を供給しつつ、1分間あたり10℃ずつ、900℃まで昇温させた。このように水素を含有する試験ガスを供給すると、酸素吸放出材から酸素が放出されたときには、放出された酸素は試験ガス中の水素と反応して水を生じる。したがって、触媒から放出される酸素量が多いほど試験ガス中の水素が多く消費されて、出ガス中の水素量は減少する。図5において、横軸はリアクター温度を示し、縦軸はイオン強度から算出される出ガス中の水素量を示す。
【0072】
図5に示すように、実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材はいずれも、600〜700℃よりも高い温度範囲において、良好な酸素放出能を示した。上記還元雰囲気下で処理した際の、実施例(1)の酸素吸放出材における変化を、以下の(1)式に示す。他の実施例(2)〜(4)の酸素吸放出材も、同様に変化する。
【0073】
La2O2SO4 → La2O2S+2O2 …(1)
【0074】
同様の条件で、実施例(1)〜(4)の触媒について酸素放出能を調べた結果を図6に示す。実施例(1)〜(4)の触媒はいずれも、550〜650℃よりも高い温度範囲において、良好な酸素放出能を示した。なお、図5と図6とを比較して分かるように、貴金属であるPdを備える実施例(1)〜(4)の触媒は、貴金属を備えない実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材に比べて、より低温側から、良好な酸素放出能を示した。
【0075】
図5、図6では、酸素放出が充分に行なわれない550℃以下の温度範囲における検出値が試料ごとに異なっており、このような温度範囲ではグラフが互いに平行になっている。これは、酸素放出量の検出を行なう毎に、検出値のベース値が変動するためである。したがって、各試料における酸素放出量は、各々のベース値と出ガス中水素量との差として把握することができる。
【0076】
図7は、実施例(1)の触媒と比較例(1)の触媒の酸素放出能を比較した結果を表わす説明図である。酸素放出能の測定方法は、図5および図6に結果を示した測定方法と同様である。また、図7に示した実施例(1)の触媒についての結果は、図6に示した実施例(1)の触媒についての結果と同一である。図7に示すように、比較例(1)の触媒は、実施例(1)の触媒に比べてより低い温度範囲である200〜400℃の範囲で、酸素放出能を示した。ここで、図7中、領域(A)の面積は、比較例(1)の触媒から放出されたおよその酸素量を表わし、領域(B)の面積は、実施例(1)の触媒から放出されたおよその酸素量を表わすといえる。したがって、領域(A)の面積と領域(B)の面積との比較により、実施例(1)の触媒が放出した酸素量は、比較例(1)の触媒が放出した酸素量の約8倍であるといえる。
【0077】
なお、比較例(1)の酸素吸放出材についての酸素放出能を調べた結果は記載を省略しているが、貴金属を備えない比較例(1)の酸素吸放出材は、貴金属であるPtを備える比較例(1)の触媒に比べて、さらに酸素放出能が低くなる。
【0078】
また、上記還元雰囲気下で処理した際の、比較例(1)の酸素吸放出材における変化を、CeO2−ZrO2複合酸化物として(CeZr)O2を例に挙げて、以下の(2)式に示す。
【0079】
(CeZr)O2 → (CeZr)O1.5 + 1/4O2 …(2)
【0080】
図8は、上記還元雰囲気下での処理により得られた実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材について、酸素吸収能を調べた結果を表わす説明図である。酸素吸収能を調べるには、実施例の酸素吸放出材のそれぞれを、4重極型質量分析器のリアクター部に1gずつ充填し(実際には、図5に結果を示した実験の後、室温に降温するまでそのまま冷却した)、試験ガス(5%O2、Heバランス)を供給しつつ、1分間あたり10℃ずつ、900℃まで昇温させた。図8において、横軸はリアクター温度を示し、縦軸はイオン強度から算出される出ガス中の酸素量を示す。酸素吸放出材に吸収された酸素量が多いほど、出ガス中の酸素量は減少する。
【0081】
図8に示すように、実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材はいずれも、500〜600℃よりも高い温度範囲において、良好な酸素吸収能を示した。なお、このような酸化雰囲気下に晒すことで、既述した還元雰囲気下とは逆の反応が進行する。例えば、実施例(1)の酸素吸放出材は、(1)式と逆の反応が進行する。
【0082】
同様の条件で、実施例(1)〜(4)の触媒について酸素吸収能を調べた結果を図9に示す。実施例(1)〜(4)の触媒はいずれも、500〜600℃よりも高い温度範囲において、良好な酸素吸収能を示した。ここで、図8と図9とを比較して分かるように、貴金属であるPdを備える実施例(1)〜(4)の触媒は、貴金属を備えない実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材に比べて、より低温側から、良好な酸素吸収能を示した。なお、図8,図9に示す実施例の酸素吸放出材および触媒における酸素吸収量は、各々のベース値と出ガス中酸素量との差として把握することができる。
【0083】
図10は、実施例(1)の触媒と比較例(1)の触媒の酸素吸収能を比較した結果を表わす説明図である。酸素吸収能の測定方法は、図8および10に結果を示した測定方法と同様であり、図10に示した実施例(1)の触媒についての結果は、図8に示した実施例(1)の触媒についての結果と同一である。図10に示すように、比較例(1)の触媒は、より低い温度範囲である100〜500℃の範囲で、酸素吸収能を示した。ここで、図10中、領域(A)の面積は、比較例(1)の触媒が吸収したおよその酸素量を表わし、領域(B)の面積は、実施例(1)の触媒が吸収したおよその酸素量を表わすといえる。したがって、領域(A)の面積と領域(B)の面積との比較により、実施例(1)の触媒が吸収した酸素量は、比較例(1)の触媒が吸収した酸素量の約8倍であるといえる。
【0084】
なお、比較例(1)の酸素吸放出材についての酸素吸収能を調べた結果は記載を省略しているが、貴金属を備えない比較例(1)の酸素吸放出材は、貴金属であるPtを備える比較例(1)の触媒に比べて、さらに酸素吸収能が低くなる。ここで、上記酸素吸収時には、比較例(1)の酸素吸放出材では、(2)式とは逆の反応が進行する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1の排ガス浄化用触媒の構成の概略を模式的に現わす説明図である。
【図2】第1の排ガス浄化用触媒の製造工程を表わす説明図である。
【図3】第1の排ガス浄化装置15を備えるシステムの構成を表わす概略図である。
【図4】第2の排ガス浄化用触媒の製造工程を表わす説明図である。
【図5】実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材について、酸素放出能を調べた結果を表わす説明図である。
【図6】実施例(1)〜(4)の触媒について酸素放出能を調べた結果を表わす説明図である。
【図7】実施例(1)の触媒と比較例(1)の触媒の酸素放出能を比較した結果を表わす説明図である。
【図8】実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材について、酸素吸収能を調べた結果を表わす説明図である。
【図9】実施例(1)〜(4)の触媒について酸素吸収能を調べた結果を表わす説明図である。
【図10】実施例(1)の触媒と比較例(1)の触媒の酸素吸収能を比較した結果を表わす説明図である。
【符号の説明】
【0086】
10…システム
15…第1の排ガス浄化装置
20…エンジン
21…排気弁
22…吸気弁
23…点火プラグ
25…インジェクタ
28…制御部
30…吸気マニホールド
32…排気マニホールド
34…スロットルバルブ
【技術分野】
【0001】
この発明は、排ガス浄化用触媒、排ガス浄化装置および内燃機関を備えるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンなどの内燃機関から排出される排ガスを浄化する技術として、NOx、COおよびHCの浄化を同時に行なう三元触媒を、排ガスの浄化触媒として用いる技術が知られている。三元触媒を用いて排ガス浄化を行なう場合には、NOx、COおよびHCを同時に浄化するために、内燃機関における燃焼反応をストイキ(理論空燃比)に制御する必要がある。このような三元触媒を用いる技術において、さらに酸素吸放出材を用いる構成が知られている。酸素吸放出材は、酸素過剰な環境下では酸素を吸収し、酸素濃度が低い環境下では酸素を放出する。三元触媒に加えて酸素吸放出材を用いることで、ストイキで燃焼反応を行なう制御の際に、制御遅れなどにより空燃比が多少ストイキからずれることがあっても、触媒環境を実質的にストイキの状態に維持して、三元触媒を良好に働かせることが可能になる。
【0003】
また、内燃機関の燃費を向上させる目的で、内燃機関においてストイキで運転するモードに加えて、リーン(空気過剰)な状態で燃焼反応させるモードをさらに設ける技術が知られている。ここで、リーンな燃焼反応を行なって排ガスが空気過剰となっているときには、一般に三元触媒は、NOxを充分に浄化できなくなるという性質を有している。そのため、三元触媒中にさらにNOx吸蔵材を加え、このNOx吸蔵材にリーン運転時に生じるNOxを吸蔵させる構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。排ガス浄化装置においてこのようにNOx吸蔵材を設ける場合には、NOx吸蔵材におけるNOx吸蔵量が所定量を超えたと判断されたときに、リーン運転を一旦中断して、燃料過剰なリッチ運転を短時間だけ行なう(いわゆる、リッチスパイク)。これにより、NOx吸蔵材に吸蔵されたNOxが放出され、上記リッチスパイク時の燃焼反応で生じたHCやCOを還元剤としてNOxの浄化が行なわれる。なお、三元触媒と共にNOx吸蔵材を用いる場合にも、さらに酸素吸放出材を備えることにより、ストイキで運転するモードにおける排ガス浄化の性能を安定化させることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平7−213902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
三元触媒と共に用いる上記酸素吸放出材としては、従来セリア(CeO2)等が用いられてきた。しかしながら、CeO2等の従来知られる酸素吸放出材は、酸素の吸放出を行なう温度範囲が約400℃以下であるため、高負荷時(例えばエンジン回転数が高いとき)等に排ガス温度が上昇すると、充分に酸素の吸放出ができなくなってしまう。このような場合には、内燃機関の燃焼反応をストイキで行なう際に制御遅れ等があると、酸素吸放出材を設けることで三元触媒の性能を維持する効果が不十分となる可能性があった。
【0006】
また、既述したように三元触媒にNOx吸蔵材を加えた排ガス浄化装置を用いてリーン運転を行なう場合には、従来知られるアルカリ金属等のNOx吸蔵材ではNOxを吸放出する温度範囲が約300〜600℃程度であるため、上記酸素吸放出材が酸素を放出する温度と重なってしまう。そのため、リーン運転の途中でNOx浄化のためにリッチスパイクを行なうと、NOx吸蔵材からNOxが放出されると共に、酸素吸放出材からは酸素が放出される。リッチスパイクで生じたCOやHCなどの還元剤は、NOx吸蔵材から放出されたNOxだけでなく、酸素吸放出材から放出された酸素とも反応してしまうことになる。したがって、NOx吸蔵材に吸蔵させたNOxを充分に処理するためには、より多くのHCおよびCOを得るために、リッチスパイク時により多くの燃料を消費する必要があった。このように、酸素吸放出材を設ける場合には、酸素吸放出材から放出される酸素に起因して、リーン運転中に実行されるリッチスパイク時において燃費が低下する可能性があった。以上のことより、排ガス浄化において酸素吸放出材を用いる場合に、酸素吸放出材の酸素吸放出温度に起因して生じる不都合を防止することが望まれていた。
【0007】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、排ガス浄化において酸素吸放出材を用いる場合に、排ガス温度に関わらず効率よく排ガス浄化を行なうことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の排ガス浄化用触媒は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、
周囲の窒素酸化物濃度に応じて窒素酸化物を吸放出するNOx吸蔵材と、
A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物と
を備えることを要旨とする。
【0009】
以上のように構成された本発明の第1の排ガス浄化用触媒によれば、NOx吸蔵材がNOxを吸蔵する程度が充分ではない温度範囲において、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物によって、酸素過剰な雰囲気下では酸素を吸収し、酸素が不足する雰囲気下では酸素を放出することが可能となる。したがって、このような排ガス浄化用触媒を用いることで、NOx吸蔵材がNOxを吸蔵する程度が充分ではない温度範囲において、理論空燃比に近い状態の燃焼反応で生じた排ガスを、安定して浄化することができる。また、NOx吸蔵材がNOxを充分に吸蔵できる温度範囲では、上記化合物は、吸収した酸素をほとんど放出しない。そのため、NOx吸蔵材が吸蔵しているNOxを放出させて、放出したNOxを還元浄化する際に、上記化合物から酸素が放出されてNOxの還元浄化の効率を低下させることがない。
【0010】
本発明の第1の排ガス浄化用触媒において、前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含むこととしても良い。
【0011】
このような場合には、温度が約600℃以上であって、理論空燃比に近い状態の燃焼反応で生じた排ガスを、酸化還元反応を利用して安定して浄化することができる。また、排ガス温度が300〜600℃程度のときには、COおよびHCは酸化還元反応を利用することによって浄化し、また、NOxはNOx吸蔵材に吸蔵させることによって浄化することができる。
【0012】
本発明の第1の排ガス浄化装置は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
請求項1または2記載の排ガス浄化用触媒を備えることを要旨とする。
【0013】
このような排ガス浄化装置によれば、排ガスを浄化する際に、上記本発明の第1の排ガス浄化用触媒を用いることによる既述した効果を得ることができる。
【0014】
本発明の第2の排ガス浄化装置は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、周囲の窒素酸化物濃度に応じて窒素酸化物を吸放出するNOx吸蔵材と、を備える触媒部と、
A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物を備える酸素吸放出部と
を備え、
浄化すべき前記排ガスが、前記酸素吸放出部を通過した後に前記触媒部に供給されるように、前記酸素吸放出部と前記触媒部とが直列に接続されていることを要旨とする。
【0015】
このような本発明の第2の排ガス浄化装置において、前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含むこととしても良い。
【0016】
上記のように、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物を備える酸素吸放出部が、貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属、および、NOx吸蔵材を備える触媒部と、離れて設けられていても、本発明の第1の排ガス浄化装置と同様の効果を得ることができる。
【0017】
本発明のシステムは、内燃機関を備えるシステムであって、
前記内燃機関から排出される排ガスが導入される請求項3ないし5いずれか記載の排ガス浄化装置を備え、
前記内燃機関の運転モードとして、該内燃機関における燃焼反応の空燃比がストイキとなるように制御する第1のモードと、前記内燃機関における燃焼反応の空燃比が酸素過剰となるように制御する第2のモードとを有することを要旨とする。
【0018】
燃焼反応の空燃比がストイキとなる第1のモードと、燃焼反応の空燃比が酸素過剰となる第2のモードとを運転モードとして有する内燃機関では、一般に、第1のモードで排出される排ガスの方が、酸素過剰な第2のモードで排出される排ガスよりも高温となる。このような第1のモードにおける排ガスの温度条件下では、排ガス浄化用触媒が備えるA2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物によって、酸素の吸放出が行なわれる。したがって、本発明の排ガス浄化用装置が備える排ガス浄化触媒が三元触媒として働く際に、排ガス中の酸素濃度が、ストイキで燃焼反応が行なわれるときの理想的な状態に近づけらて、高い効率で排ガスを浄化することができる。また、排ガス温度がより低温となる第2のモードでの運転時には、酸素過剰となる燃焼反応を行なうことで燃費が向上する。このとき、第2のモードにおける排ガスの温度条件下では、酸化還元反応によって処理されないNOxがNOx吸蔵材に吸蔵されるため、排ガス浄化のレベルを高く維持することができる。さらに、このような温度条件下では、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物では酸素を放出する活性が低くなるため、NOx吸蔵材からNOxを放出させてNOxを還元浄化する際に、上記化合物が放出した酸素に起因するNOx浄化効率の低下を防止することができる。
【0019】
本発明の第2の排ガス浄化用触媒は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、
比較的高温の条件下において酸素の吸放出を行なう第1の酸素吸放出材と、該第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度よりも低温の条件下において酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材と、
を備えることを要旨とする。
【0020】
以上のように構成された本発明の第2の排ガス浄化用触媒によれば、より広い温度範囲で酸素の吸放出を行なうことができるため、より広い温度範囲で三元触媒の性能を高め、排ガス温度に関わらず、安定して排ガス浄化を行なうことが可能となる。
【0021】
本発明の第2の排ガス浄化用触媒において、前記第1の酸素吸放出材は、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物であることとしても良い。このような構成とすれば、排ガス温度が約500℃以上の時には、過剰の酸素を吸収すると共に不足する酸素を放出する動作を、第1の酸素吸放出材によって行なわせることができる。
【0022】
また、本発明の第2の排ガス浄化用触媒において、前記第2の酸素吸放出材は、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物であることとしても良い。このような構成とすれば、排ガス温度が約500℃以下のときには、過剰の酸素を吸収すると共に不足する酸素を放出する動作を、第2の酸素吸放出材によって行なわせることができる。
【0023】
本発明の第3の排ガス浄化装置は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
請求項7ないし9いずれか記載の排ガス浄化用触媒を備えることを要旨とする。
【0024】
このような排ガス浄化装置によれば、排ガスを浄化する際に、上記本発明の第2の排ガス浄化用触媒を用いることによる既述した効果を得ることができる。
【0025】
本発明の第4の排ガス浄化装置は、酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属を備える触媒部と、
比較的高温の条件下において酸素の吸放出を行なう第1の酸素吸放出材を備える第1の酸素吸放出部と、
前記第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度よりも低温の条件下において酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材を備える第2の酸素吸放出部と
を備え、
浄化すべき前記排ガスの流れに対して前記触媒部の上流側に、前記第1および第2の酸素吸放出部が配設されていることを要旨とする。
【0026】
上記本発明の第4の排ガス浄化装置において、前記第1の酸素吸放出材は、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物であることとしても良い。また、本発明の第4の排ガス浄化装置において、前記第2の酸素吸放出材は、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物であることとしても良い。
【0027】
このように、第1の酸素吸放出材と第2の酸素吸放出材とが、貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属とは離れて設けられた本発明の第4の排ガス浄化装置によっても、本発明の第3の排ガス浄化装置と同様の効果を得ることができる。
【0028】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、排ガス浄化触媒の製造方法や、本発明の排ガス浄化システムを搭載した移動体などの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.第1の排ガス浄化用触媒:
B.第1の排ガス浄化装置:
C.第1の排ガス浄化用触媒および排ガス浄化装置の変形例:
D.第2の排ガス浄化用触媒:
E.第2の排ガス浄化装置:
F.第2の排ガス浄化用触媒および排ガス浄化装置の変形例:
【0030】
A.第1の排ガス浄化用触媒:
本発明の実施の形態としての第1の排ガス浄化用触媒は、酸化還元反応に関わる触媒活性を示す活性成分と、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材と、NOx吸蔵材とを備えている。図1は、第1の排ガス浄化用触媒の構成の概略を模式的に現わす説明図である。図1に示すように、第1の排ガス浄化用触媒では、微粒子状の酸素吸放出材上に、活性成分と、NOx吸蔵材とが担持されている。なお、酸素吸放出材は、実際には多数の微細孔を備えており、その表面に、活性成分およびNOx吸蔵材が分散担持されている。
【0031】
このような第1の排ガス浄化用触媒においては、所定の温度条件下では、上記した酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう。すなわち、上記酸素吸放出材は、酸素濃度が高い所定の温度条件下では酸素を吸収し、酸素濃度が低い所定の温度条件下では吸収した酸素を放出する。なお、上記酸素吸放出材は、酸素を放出する際にはA2O2Sに変化し、酸素を吸収する際には再びA2O2SO4に変化する。ここで、上記酸素吸放出材が酸素を吸放出する所定の温度条件は、上記Aで表わした希土類元素によって多少異なるが、およそ500〜600℃を超える温度範囲である。
【0032】
また、このような排ガス浄化用触媒においては、所定の温度条件下では、上記したNOx吸蔵材がNOxの吸蔵および放出を行なう。NOx吸蔵材は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含んでいる。NOx吸蔵材が上記元素の炭酸塩として存在するときに、NOx吸蔵材がNOx濃度の高い雰囲気下に晒されると、雰囲気中のNOxは、活性成分によって酸化されてNOx吸蔵材と結合し、硝酸塩として吸蔵される。このようにNOx吸蔵材がNOxを吸蔵する状態で還元雰囲気下に晒されると、NOx吸蔵材では硝酸塩が分解されて、分解物は活性成分上で雰囲気中の還元剤によって窒素に還元される。また、硝酸塩が分解されることで、NOx吸蔵材はNOx吸蔵性能を回復する。ここで、NOx吸蔵材がNOxの吸蔵および放出を行なう温度条件は、約550℃以下である。上記温度を超える温度条件下では、NOx吸蔵材は酸化物となり(例えば、NOx吸蔵材が含む上記元素がBaの場合にはBaOとなる)、NOx吸放出能を失う。
【0033】
したがって、上記酸素吸放出材およびNOx吸蔵材を備える第1の排ガス浄化用触媒を用いると、浄化すべき排ガスの温度がおよそ500℃〜600℃を超える温度範囲のときには、酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なうことにより、排ガス浄化用触媒の周囲の酸素濃度を一定の範囲に保つことが可能となる。したがって、排ガス浄化用触媒が備える活性成分において進行する排ガス浄化のための酸化還元反応の状態を、安定して維持することができる。また、浄化すべき排ガスの温度が約550℃以下の場合には、NOx吸蔵材がNOxを吸収することにより、排ガス浄化用触媒が排ガス中のNOx濃度を低減する効果を高めることができる。
【0034】
図2は、第1の排ガス浄化用触媒の製造工程を表わす説明図である。第1の排ガス浄化用触媒を製造するには、まず、希土類元素の硫酸塩を用意する(ステップS100)。ここで、硫酸塩を構成する希土類元素は、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、サマリウム(Sm)等のランタノイドや、さらにイットリウム(Y)を含む群から選択することが好ましい。また、用いる硫酸塩は、水和物であっても無水物であっても良い。希土類元素の硫酸塩の水和物は、A2(SO4)3・nH2O(Aは希土類元素)と表わされる。
【0035】
次に、上記希土類元素の硫酸塩を、空気中で加熱して、硫酸基の一部を分解し、希土類元素の酸化硫酸塩(酸硫酸塩)であるA2O2SO4(Aは希土類元素)を得る(ステップS110)。ステップS110において希土類元素の硫酸塩を加熱する際の温度は、硫酸基の一部が分解される範囲で適宜設定すればよく、例えば800℃以上とすることで、比表面積が15m2/g程度以上であるA2O2SO4(Aは希土類元素)を作製することができる。ステップS110で得られる希土類元素の酸化硫酸塩は、酸素吸放出材として機能するものであり、この酸化硫酸塩の微粒子を、以下、触媒担体として用いる。
【0036】
次に、上記希土類元素の酸化硫酸塩上に、活性成分として、貴金属および遷移金属のうちの少なくとも1種の金属を担持させる(ステップS120)。活性成分として貴金属を担持させる場合には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが望ましい。活性成分として遷移金属を用いる場合には、例えば、ニッケル(Ni)や銅(Cu)を選択することができる。これらの活性成分の担持は、まず、活性成分として用いる金属の金属塩溶液中に、ステップS110で得られた触媒担体を浸漬することによって行なう。ステップS120で用いる金属塩溶液は、例えば、活性成分として用いる既述した金属の硝酸塩溶液などの、水溶性の溶液を用いることができる。金属塩溶液中に上記触媒担体の微粒子を浸漬することで、イオン交換法、あるいは吸着(含浸法)や蒸発乾固によって、触媒担体上に上記金属を担持させることができる。金属塩溶液中に触媒担体を浸漬した後、この触媒担体を乾燥・焼成させることで、触媒担体上に活性成分が担持される。
【0037】
活性成分を担持させると、次に、この活性成分を担持した触媒担体上に、さらにアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含むNOx吸蔵材を担持させる(ステップS130)。アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素から選択されるNOx吸蔵材を構成する元素としては、例えば、バリウム(Ba)、カリウム(K)、リチウム(Li)を用いることができる。この場合には、上記元素の塩溶液中に、ステップS120で得られた触媒担体を浸漬する。用いる塩溶液としては、酢酸塩溶液などの水溶性の溶液を用いることができる。触媒担体に酢酸塩溶液を含浸させた後、乾燥・焼成を行ない、酢酸塩を炭酸塩(炭酸バリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等)とすることで、触媒担体上へのNOx吸蔵材の担持を行なうことができる。
【0038】
上記焼成の工程によって、触媒担体上に活性成分およびNOx吸蔵材を担持させた粉体状の触媒粉体が得られ、これをさらに成形することで、排ガス浄化用触媒が完成される(ステップS140)。ステップS140で触媒を成形する方法としては、例えば、上記触媒粉体に所定のバインダを加えてスラリ化し、これを、ハニカム等の触媒基材上に塗布する方法がある。触媒基材として用いるハニカムは、コージェライトなどのセラミックス材料や、ステンレス鋼などにより形成することができる。なお、これらのハニカム表面に触媒スラリを塗布する際には、触媒スラリの塗布に先立って、ハニカム表面をアルミナ等の金属酸化物でコートして、触媒基材と触媒スラリとの間の密着性を高めることとしても良い。あるいは、ステップS140における触媒の成形の工程は、焼成した触媒粉体を圧縮し、さらにこれを粉砕して、ペレット状にする工程としても良い。
【0039】
なお、図2では、触媒担体上に、活性成分を担持させた後にNOx吸蔵材を担持させているが、ステップS120とS130とを逆の順序で行なっても良く、あるいは、活性成分の担持とNOx吸蔵材の担持とを同時に行なうこととしても良い。
【0040】
B.第1の排ガス浄化装置:
図3は、第1の排ガス浄化用触媒を備える第1の排ガス浄化装置15と、内燃機関であるエンジン20とを備えるシステム10の構成を表わす概略図である。システム10は、さらに、エンジン20の駆動制御を行なう制御部28を備えている。このようなシステム10を、例えば車両に搭載すれば、エンジン20によって車両の駆動力を発生させると共に、エンジン20から排出される排ガスを排ガス浄化装置15によって浄化することができる。
【0041】
エンジン20のシリンダヘッドには、燃焼室内に空気を吸入するための吸気弁22と、燃焼室内から排気ガスを排出するための排気弁21と、点火プラグ23と、燃料を噴射するためのインジェクタ25が設けられている。インジェクタ25から噴射された燃料は燃焼室内で蒸発し、吸気弁22を介して導入される空気と混合して混合気を形成する。また、シリンダヘッドには、燃焼室に空気を導くための吸気マニホールド30と、燃焼室から排出された排気ガスを導くための排気マニホールド32とが取り付けられている。
【0042】
吸気マニホールド30内には、燃焼室に流入する空気量を調整するためのスロットルバルブ34が設けられている。このスロットルバルブ34は、所定のスロットルモータによって開閉駆動され、エンジン20において所望の吸入空気量を実現する。また、排気マニホールド32は、排ガス浄化装置15に接続している。
【0043】
制御部(ECU)25は、燃料噴射制御や、点火時期制御などの、エンジン20の全体の動作を制御する。この制御部28は、中央処理装置(以下、CPU)、ROM、RAM、入出力回路などがバスによって相互に接続されて構成された論理演算回路である。制御部28によるこうした制御は、運転者の操作したアクセル開度や、エンジンの回転速度、吸入空気量などの各種運転条件に関わる情報を制御部28が取得し、ROMに格納されている各種プログラムに従って、スロットルモータ、点火プラグ23、インジェクタ25などを駆動することによって行われる。
【0044】
このようなシステム10は、エンジン20の運転モードとして、エンジン20における燃焼反応の空燃比がストイキとなるように制御する第1のモードと、エンジン20における燃焼反応の空燃比がリーンとなるように制御する第2のモードと、を有している。燃焼反応における空燃比は、主として、スロットルモータによって調節される吸入空気量と、インジェクタ25によって調節される燃料噴射量とによって定まる。運転モードの切り替えは、例えばエンジン回転速度とエンジントルク(負荷)とに応じて、制御部25によって実行される。
【0045】
空燃比がストイキとなるように制御する第1のモードは、エンジン回転速度およびエンジントルクの値がより大きいときに選択される運転モードである。制御部25が第1の運転モードを選択して運転制御するときには、第1の排ガス浄化装置15が備える第1の排ガス浄化用触媒は、三元触媒として機能する。すなわち、NOxとCOとHCの浄化が、同時に行なわれる。このように燃焼反応がストイキとなるように制御する第1のモードでは、エンジン20から排出される排ガスの温度はより高温となり、通常は550℃以上となる。このような温度範囲は、既述したように、第1の排ガス浄化用触媒が備える酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なうことができる温度範囲である。したがって、第1の運転モードにおいては、制御遅れなどの理由によりエンジン20での燃焼反応の状態がストイキからはずれた場合には、第1の排ガス浄化用触媒が備える酸素吸放出材によって過剰の酸素が吸収され、あるいは不足する酸素が放出される。これにより、排ガス浄化装置15内では、常にストイキ運転時の状態が維持され、排ガス浄化が安定して行なわれる。なお、第1のモードにおける上記した排ガスの温度条件下では、既述したように、第1の排ガス浄化用触媒が備えるNOx吸蔵材は酸化物となり、NOx吸放出能を失った状態となっている。
【0046】
空燃比がリーンとなるように制御する第2のモードは、エンジン回転速度およびエンジントルクの値がより小さいときに選択される運転モードである。制御部25が第2の運転モードを選択して運転制御するときには、排ガスが酸素過剰な状態となるため、排ガス浄化用触媒の活性成分は、三元触媒としてNOxを浄化する通常の反応を充分に進行させることができない。また、第2のモードでは、エンジン20から排出される排ガスの温度はより低温となり、通常は550℃以下となる。すなわち、NOx吸蔵材がNOxを吸放出可能な温度範囲となる。そのため、第2の運転モードが選択されたときには、第1の排ガス浄化装置15が備える第1の排ガス浄化用触媒は、いわゆるNOx吸蔵還元型触媒として機能する。これにより、第2の運転モードにおいては、排ガス中のHCおよびCOは、活性成分による浄化が行なわれると共に、排ガス中のNOxは、NOx吸蔵材によって吸蔵される。
【0047】
なお、制御部28は、リーン運転時にNOx吸蔵材へのNOx吸蔵量が所定量を超えたと判断されると、ごく短い時間だけリッチ運転を行なうリッチスパイク時を実行する。リッチスパイクが行なわれると、排ガスは、HCやCO等の還元剤が豊富な還元雰囲気となり、NOx吸蔵材からNOxが放出されて還元されると共に、NOx吸蔵材はNOx吸蔵能を回復する。制御部28は、例えば排ガス中のNOx量を検出してこれを積算することによってリッチスパイクのタイミングを判断しても良いし、所定の時間間隔でリッチスパイクを行なっても良い。このように、第2の運転モードでは、排ガス浄化用触媒の活性成分によって処理できないNOxを、NOx吸蔵材に吸蔵させることによって、排ガス浄化が安定して行なわれる。
【0048】
なお、燃焼反応がリーンとなるように制御する第2のモードにおける排ガス温度(約550℃以下)では、既述したように、排ガス浄化装置15が備える酸素吸放出材であるA2O2SO4(Aは希土類元素)は、酸素の吸放出をほとんど行なわない。そのため、排ガス中に酸素が過剰となるリーン運転時に、酸素吸放出材が酸素を吸収することはほとんどない。また、酸素濃度が低くなるリッチスパイク時にも、酸素を放出することがほとんどない。
【0049】
以上のように構成された排ガス浄化用触媒を備える排ガス浄化装置15、あるいは排ガス浄化装置15を備えるシステム10によれば、第2のモードが選択されて、排ガス温度が、NOx吸蔵材がNOx吸蔵を行なう比較的低い温度範囲となるときには、酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なうことがないため、リッチスパイク時に、酸素吸放出材から放出された酸素によってHCやCO等の還元剤が消費されることがない。すなわち、NOx吸蔵材から放出されるNOxを充分に処理するために、リッチスパイク時に過剰の燃料をエンジン20に供給する必要がない。したがって、燃費を低下させることなくリッチスパイクを行なうことができ、リーン運転による燃費向上の効果を高めることができる。
【0050】
また、第1のモードが選択されて、排ガス温度が、NOx吸蔵材がNOx吸蔵を行なわない比較的高い温度範囲となるときには、酸素吸放出材は高い酸素吸放出性能を示すため、ストイキ運転制御を行ないつつ、高い排ガス浄化率を安定して維持することができる。
【0051】
C.第1の排ガス浄化用触媒および排ガス浄化装置の変形例:
上記第1の排ガス浄化用触媒では、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材を触媒担体として、この触媒担体上に、活性成分である金属とNOx吸蔵材とを担持させているが、異なる構成としても良い。例えば、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材に加えて、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)等の多孔質酸化物をさらに触媒担体として用いても良い。このような場合には、図2に示した活性成分を担持させるステップS120に先だって、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)の微粒子に、上記した多孔質酸化物の微粒子を混合し、混合した微粒子を触媒担体として、排ガス浄化用触媒を製造すればよい。
【0052】
あるいは、触媒担体としては、上記したアルミナ等の酸化物だけを用い、酸素吸放出材は、触媒担体としては用いずに、別途、浄化用触媒に添加することとしても良い。例えば、酸素吸放出材に代えてアルミナ等の酸化物を触媒担体として用いて活性成分およびNOx吸蔵材を担持させ、成形の際に、上記触媒担持酸化物と酸素吸放出材とを混合してもよい。
【0053】
また、活性成分およびNOx吸蔵材をアルミナ等に担持させた触媒担持酸化物を備える触媒部と、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材を備える酸素吸放出部とを、別体で設けることとしても良い。例えば、触媒担持酸化物を含むペーストを塗布したハニカムから成る触媒部を製造すると共に、酸素吸放出材を含むペーストを塗布したハニカムから成る酸素吸放出部をこれとは別に製造する。そして、図3と同様のシステムにおいて、排ガスの流れに対して酸素吸放出部が触媒部の上流となるように、排気マニホールド32において両者を直列に接続すればよい。酸素吸放出材が、酸素過剰時には排ガス中の酸素を吸収すると共に、酸素不足時には排ガス中に酸素を放出し、浄化用触媒の活性成分においてストイキの環境が維持されるならば、同様の効果が得られる。
【0054】
D.第2の排ガス浄化用触媒:
第2の排ガス浄化用触媒は、第1の排ガス浄化用触媒と同様にA2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材を第1の酸素吸放出材として備え、この第1の酸素吸放出材を触媒担体として、触媒担体上に活性成分である金属を担持している。さらに、第2の排ガス浄化用触媒では、上記第1の酸素吸放出材に加えて、第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度よりも低温の条件下で酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材を備えている。
【0055】
したがって、上記第1および第2の酸素吸放出材を備える第2の排ガス浄化用触媒を用いると、第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度範囲と第2の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度範囲とを合わせた広い温度範囲で、排ガス浄化用触媒の周囲の酸素濃度を一定に保つことが可能となる。そのため、排ガス浄化用触媒が備える活性成分において進行する排ガス浄化のための酸化還元反応の状態を、上記広い温度範囲で安定して維持することができる。
【0056】
図4は、第2の排ガス浄化用触媒の製造工程を表わす説明図である。図4において、ステップS200〜S220までは、図2におけるステップS100〜S120と同様の工程である。これにより、A2O2SO4(Aは希土類元素)と表わされる第1の酸素吸放出材を触媒担体として、この触媒担体上に、第1の排ガス浄化用触媒と同様の活性成分を担持させることができる。その後、第1の酸素吸放出材よりも酸素吸放出時の温度が低い第2の酸素吸放出材を用意する(ステップS230)。A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる第1の酸素吸放出材は、通常は約500℃以上で酸素の吸放出を行なう。そのため、これよりも、低い温度範囲で酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材としては、例えば、CeO2−ZrO2複合酸化物(CeO2−ZrO2固溶体)やCeO2等の、Ceを含有する酸化物を用いることができる。これらCeを含有する酸化物は、酸素吸放出材として従来知られている物質であり、100〜500℃程度の温度範囲において、酸素の吸放出を行なう。
【0057】
CeO2−ZrO2複合酸化物を得るには、例えば、ZrO(NO3)2・2H2OとCe(NO3)3・6H2Oの水溶液をそれぞれ用意し、両水溶液を所定の割合で混合する。この水溶液を中和することで、ZrとCeを含む水酸化物凝集体が沈殿物として得られ、回収した水酸化物凝集体を焼成することで、CeO2−ZrO2複合酸化物が得られる。その後、この第2の酸素吸放出材と、活性成分を担持した第1の酸素吸放出材とを混合する(ステップS240)。
【0058】
活性成分を担持した第1の酸素吸放出材と第2の酸素吸放出材とを混合すると、これをさらに成形することで、第2の排ガス浄化用触媒が完成される(ステップS250)。ステップS250で触媒を成形する方法としては、図2のステップS140と同様に、ハニカム等の触媒基材上に担持させる、あるいはペレット状に成形するなど、種々の態様が可能である。
【0059】
E.第2の排ガス浄化装置:
上記第2の排ガス浄化用触媒を備える第2の排ガス浄化装置は、図3に示したシステム10において、第1の排ガス浄化装置15に代えて用いることができる。このような第2の排ガス浄化装置を備えるシステムでは、制御部28は、排ガスの温度に関わらず、常にストイキ運転制御を行なう。第2の排ガス浄化装置では、排ガス温度が約500℃以下のときには、第2の酸素吸放出材が、過剰な酸素の吸収および不足する酸素の放出を行なう。また、排ガス温度が約500℃を超えるときには、第1の酸素吸放出材が、過剰な酸素の吸収および不足する酸素の放出を行なう。
【0060】
以上のように構成された第2の排ガス浄化用触媒を備える第2の排ガス浄化装置、あるいは第2の排ガス浄化装置を備えるシステムによれば、酸素の吸放出を行なう温度範囲が異なる複数種の酸素吸放出材を備えるため、排ガス浄化を良好に行なうことができる排ガスの温度範囲をより広くすることができる。したがって、負荷が変動して排ガス温度が変化する場合にも、ストイキ運転制御を行なうことにより、NOx、CO、HCの浄化をより安定して行なうことができる。特に、第1の酸素吸放出材としてA2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材を用い、第2の酸素吸放出材としてCeO2−ZrO2複合酸化物やCeO2等のCeを含有する酸化物を用いているため、第2排ガス浄化用触媒では、それぞれの酸素吸放出材が実質的に酸素の吸放出を行なう温度範囲が重ならない。したがって、排ガス浄化を良好に行なうことができる排ガスの温度範囲をより広くする効果を、効率良く高めることができる。
【0061】
なお、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる第1の酸素吸放出材は、CeO2−ZrO2複合酸化物等の第2の酸素吸放出材に比べて、酸素の吸放出量が多いという性質を有している。ここで、第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう排ガス温度が高いときとは、一般に高負荷時であり、排ガス量も多くなるときである。第2の排ガス浄化用触媒によれば、第1の酸素吸放出材を備えることで、処理すべき排ガス量が多い高温時に、より多くの酸素を吸放出することが可能となるため、三元触媒を用いた排ガス浄化の効率向上の効果を、より高めることができる。
【0062】
F.第2の排ガス浄化用触媒および排ガス浄化装置の変形例:
上記第2の排ガス浄化用触媒では、活性成分を担持した第1の酸素吸放出材と第2の酸素吸放出材とが混合されているが、異なる構成としても良い。例えば、触媒担体である第1の酸素吸放出材上に、活性成分に加えて第2の酸素吸放出材を担持させることとしても良い。また、第1の酸素吸放出材に加えて、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)等の多孔質酸化物をさらに触媒担体として用いても良い。
【0063】
あるいは、活性成分は第1の酸素吸放出材上に担持させると共に、第2の酸素吸放出材はアルミナなどの酸化物上に担持させて、両者を混合することとしても良い。また、活性成分を担持させる触媒担体としてはアルミナなどの酸化物を用い、第1及び第2の酸素吸放出材を、この活性成分を担持した触媒担体と混合することとしても良い。
【0064】
あるいは、活性成分をアルミナ等に担持した触媒担持酸化物を備える触媒部を設けると共に、第1の酸素吸放出材と第2の酸素吸放出材とのうちの少なくとも一方は、上記触媒部内に配設することなく、別途設けた酸素吸放出部内に配設することとしても良い。この場合には、排ガスの流れに対して酸素吸放出部が触媒部の上流となるように、排気マニホールドにおいて酸素吸放出部および触媒部を接続すればよい。
【0065】
また、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる第1の酸素吸放出材と、Ceを含有する酸化物からなる第2の酸素吸放出材以外の組み合わせであっても良い。酸素の吸放出を行なう温度範囲が異なる複数の酸素吸放出材を組み合わせて用いるならば、広い温度範囲において排ガス浄化の性能を高く維持することができるという同様の効果が得られる。
【実施例】
【0066】
実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材と、比較例(1)の酸素吸放出材とを製造し、各々の酸素吸放出能を比較した。なお、ここでは、本発明の第1および第2の排ガス浄化触媒そのものではなく、これらの触媒に用いたA2O2SO4(Aは希土類元素)と表わされる酸素吸放出材を実施例の酸素吸放出材とし、これら実施例の酸素吸放出材に活性成分を担持させたものを実施例の触媒としている。また、Ceを含有する酸素吸放出材を比較例の酸素吸放出材とし、この比較例の酸素吸放出材に活性成分を担持させたものを比較例の触媒としている。
【0067】
(A)酸素吸放出材の製造:
(A−1)実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材:
実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材は、それぞれ、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)を備え、A2O2SO4(Aは上記各元素)と表される。実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材を製造する際には、上記各元素の硫酸塩(A2(SO4)3・nH2O)を用い、この硫酸塩を窒素気流中、900℃で5時間焼成し、上記実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材の粉末を得た。この実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材は、本発明の実施の態様としての第1の排ガス浄化触媒における酸素吸放出材、あるいは、本発明の実施の態様としての第2の排ガス浄化触媒における第1の酸素吸放出材に対応する。
【0068】
(A−2)比較例(1)の酸素吸放出材:
比較例(1)の酸素吸放出材は、CeO2−ZrO2複合酸化物であり、硝酸二アンモニウムセリウム、オキシ硝酸ジルコニウムを用いた溶液合成法により作製した。すなわち、上記試薬の水溶液の混合液を中和して水酸化物の沈殿を得て、この水酸化物を焼成することによって複合酸化物を作製した。ここでは、CeとZrのモル比が1:1となるように上記試薬を混合した。CeO2−ZrO2複合酸化物は、三元触媒において酸素吸放出能を高める助触媒として従来用いられてきたCeO2よりも酸素吸放出量が多い酸化物として知られている。このような比較例(1)の酸素吸放出材は、本発明の実施の態様としての第2の排ガス浄化触媒における第2の酸素吸放出材に対応する。
【0069】
(A−3)実施例(1)〜(4)の触媒:
実施例(1)〜(4)の触媒は、それぞれ、上記実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材を触媒担体として、この触媒担体上に活性成分であるPdを担持させたものである。実施例(1)〜(4)の触媒を作製するには、上記実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材の粉末を、触媒担体量の1wt%に相当するPdを含有する硝酸パラジウム溶液中に分散させて攪拌・乾燥し、蒸発乾固によりPdを触媒担体上に担持させた。このとき、400℃で2時間焼成を行なった。さらに、この焼成物を圧縮後に粉砕し、粉砕物をふるいにかけて、粒径が0.5mm〜1mmであるペレット状に成形して、実施例(1)〜(4)の触媒を完成した。これら実施例(1)〜(4)の触媒に、さらにNOx吸蔵材を加えることで、本発明の実施の態様としての第1の排ガス浄化触媒が得られる。また、実施例(1)〜(4)の触媒に、さらにCeを含有する第2の酸素吸放出材を加えることで、本発明の実施の態様としての第2の排ガス浄化触媒が得られる。
【0070】
(A−4)比較例(1)の触媒:
比較例(1)の触媒は、上記比較例(1)の酸素吸放出材を触媒担体として、この触媒担体上に活性成分であるPtを担持させたものである。比較例(1)の触媒を作製するには、上記比較例(1)の酸素吸放出材の粉末を、触媒担体量の1wt%に相当するPtを含有する硝酸白金溶液中に分散させて攪拌・乾燥し、蒸発乾固によりPtを触媒担体上に担持させた。このとき、400℃で2時間焼成を行なった。さらに、この焼成物を圧縮後に粉砕し、粉砕物をふるいにかけて、粒径が0.5mm〜1mmであるペレット状に成形して、比較例(1)の触媒を完成した。
【0071】
(B)酸素吸放出性能の評価:
図5は、実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材について、酸素放出能を調べた結果を表わす説明図である。酸素放出能を調べるには、実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材のそれぞれを、4重極型質量分析器のリアクター部に1gずつ充填し、試験ガス(10%H2、Heバランス)を供給しつつ、1分間あたり10℃ずつ、900℃まで昇温させた。このように水素を含有する試験ガスを供給すると、酸素吸放出材から酸素が放出されたときには、放出された酸素は試験ガス中の水素と反応して水を生じる。したがって、触媒から放出される酸素量が多いほど試験ガス中の水素が多く消費されて、出ガス中の水素量は減少する。図5において、横軸はリアクター温度を示し、縦軸はイオン強度から算出される出ガス中の水素量を示す。
【0072】
図5に示すように、実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材はいずれも、600〜700℃よりも高い温度範囲において、良好な酸素放出能を示した。上記還元雰囲気下で処理した際の、実施例(1)の酸素吸放出材における変化を、以下の(1)式に示す。他の実施例(2)〜(4)の酸素吸放出材も、同様に変化する。
【0073】
La2O2SO4 → La2O2S+2O2 …(1)
【0074】
同様の条件で、実施例(1)〜(4)の触媒について酸素放出能を調べた結果を図6に示す。実施例(1)〜(4)の触媒はいずれも、550〜650℃よりも高い温度範囲において、良好な酸素放出能を示した。なお、図5と図6とを比較して分かるように、貴金属であるPdを備える実施例(1)〜(4)の触媒は、貴金属を備えない実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材に比べて、より低温側から、良好な酸素放出能を示した。
【0075】
図5、図6では、酸素放出が充分に行なわれない550℃以下の温度範囲における検出値が試料ごとに異なっており、このような温度範囲ではグラフが互いに平行になっている。これは、酸素放出量の検出を行なう毎に、検出値のベース値が変動するためである。したがって、各試料における酸素放出量は、各々のベース値と出ガス中水素量との差として把握することができる。
【0076】
図7は、実施例(1)の触媒と比較例(1)の触媒の酸素放出能を比較した結果を表わす説明図である。酸素放出能の測定方法は、図5および図6に結果を示した測定方法と同様である。また、図7に示した実施例(1)の触媒についての結果は、図6に示した実施例(1)の触媒についての結果と同一である。図7に示すように、比較例(1)の触媒は、実施例(1)の触媒に比べてより低い温度範囲である200〜400℃の範囲で、酸素放出能を示した。ここで、図7中、領域(A)の面積は、比較例(1)の触媒から放出されたおよその酸素量を表わし、領域(B)の面積は、実施例(1)の触媒から放出されたおよその酸素量を表わすといえる。したがって、領域(A)の面積と領域(B)の面積との比較により、実施例(1)の触媒が放出した酸素量は、比較例(1)の触媒が放出した酸素量の約8倍であるといえる。
【0077】
なお、比較例(1)の酸素吸放出材についての酸素放出能を調べた結果は記載を省略しているが、貴金属を備えない比較例(1)の酸素吸放出材は、貴金属であるPtを備える比較例(1)の触媒に比べて、さらに酸素放出能が低くなる。
【0078】
また、上記還元雰囲気下で処理した際の、比較例(1)の酸素吸放出材における変化を、CeO2−ZrO2複合酸化物として(CeZr)O2を例に挙げて、以下の(2)式に示す。
【0079】
(CeZr)O2 → (CeZr)O1.5 + 1/4O2 …(2)
【0080】
図8は、上記還元雰囲気下での処理により得られた実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材について、酸素吸収能を調べた結果を表わす説明図である。酸素吸収能を調べるには、実施例の酸素吸放出材のそれぞれを、4重極型質量分析器のリアクター部に1gずつ充填し(実際には、図5に結果を示した実験の後、室温に降温するまでそのまま冷却した)、試験ガス(5%O2、Heバランス)を供給しつつ、1分間あたり10℃ずつ、900℃まで昇温させた。図8において、横軸はリアクター温度を示し、縦軸はイオン強度から算出される出ガス中の酸素量を示す。酸素吸放出材に吸収された酸素量が多いほど、出ガス中の酸素量は減少する。
【0081】
図8に示すように、実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材はいずれも、500〜600℃よりも高い温度範囲において、良好な酸素吸収能を示した。なお、このような酸化雰囲気下に晒すことで、既述した還元雰囲気下とは逆の反応が進行する。例えば、実施例(1)の酸素吸放出材は、(1)式と逆の反応が進行する。
【0082】
同様の条件で、実施例(1)〜(4)の触媒について酸素吸収能を調べた結果を図9に示す。実施例(1)〜(4)の触媒はいずれも、500〜600℃よりも高い温度範囲において、良好な酸素吸収能を示した。ここで、図8と図9とを比較して分かるように、貴金属であるPdを備える実施例(1)〜(4)の触媒は、貴金属を備えない実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材に比べて、より低温側から、良好な酸素吸収能を示した。なお、図8,図9に示す実施例の酸素吸放出材および触媒における酸素吸収量は、各々のベース値と出ガス中酸素量との差として把握することができる。
【0083】
図10は、実施例(1)の触媒と比較例(1)の触媒の酸素吸収能を比較した結果を表わす説明図である。酸素吸収能の測定方法は、図8および10に結果を示した測定方法と同様であり、図10に示した実施例(1)の触媒についての結果は、図8に示した実施例(1)の触媒についての結果と同一である。図10に示すように、比較例(1)の触媒は、より低い温度範囲である100〜500℃の範囲で、酸素吸収能を示した。ここで、図10中、領域(A)の面積は、比較例(1)の触媒が吸収したおよその酸素量を表わし、領域(B)の面積は、実施例(1)の触媒が吸収したおよその酸素量を表わすといえる。したがって、領域(A)の面積と領域(B)の面積との比較により、実施例(1)の触媒が吸収した酸素量は、比較例(1)の触媒が吸収した酸素量の約8倍であるといえる。
【0084】
なお、比較例(1)の酸素吸放出材についての酸素吸収能を調べた結果は記載を省略しているが、貴金属を備えない比較例(1)の酸素吸放出材は、貴金属であるPtを備える比較例(1)の触媒に比べて、さらに酸素吸収能が低くなる。ここで、上記酸素吸収時には、比較例(1)の酸素吸放出材では、(2)式とは逆の反応が進行する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1の排ガス浄化用触媒の構成の概略を模式的に現わす説明図である。
【図2】第1の排ガス浄化用触媒の製造工程を表わす説明図である。
【図3】第1の排ガス浄化装置15を備えるシステムの構成を表わす概略図である。
【図4】第2の排ガス浄化用触媒の製造工程を表わす説明図である。
【図5】実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材について、酸素放出能を調べた結果を表わす説明図である。
【図6】実施例(1)〜(4)の触媒について酸素放出能を調べた結果を表わす説明図である。
【図7】実施例(1)の触媒と比較例(1)の触媒の酸素放出能を比較した結果を表わす説明図である。
【図8】実施例(1)〜(4)の酸素吸放出材について、酸素吸収能を調べた結果を表わす説明図である。
【図9】実施例(1)〜(4)の触媒について酸素吸収能を調べた結果を表わす説明図である。
【図10】実施例(1)の触媒と比較例(1)の触媒の酸素吸収能を比較した結果を表わす説明図である。
【符号の説明】
【0086】
10…システム
15…第1の排ガス浄化装置
20…エンジン
21…排気弁
22…吸気弁
23…点火プラグ
25…インジェクタ
28…制御部
30…吸気マニホールド
32…排気マニホールド
34…スロットルバルブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、
周囲の窒素酸化物濃度に応じて窒素酸化物を吸放出するNOx吸蔵材と、
A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物と
を備える排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1記載の排ガス浄化用触媒であって、
前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含む
排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
請求項1または2記載の排ガス浄化用触媒を備える
排ガス浄化装置。
【請求項4】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、周囲の窒素酸化物濃度に応じて窒素酸化物を吸放出するNOx吸蔵材と、を備える触媒部と、
A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物を備える酸素吸放出部と
を備え、
浄化すべき前記排ガスが、前記酸素吸放出部を通過した後に前記触媒部に供給されるように、前記酸素吸放出部と前記触媒部とが直列に接続されている
排ガス浄化装置。
【請求項5】
請求項4記載の排ガス浄化装置であって、
前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含む
排ガス浄化装置。
【請求項6】
内燃機関を備えるシステムであって、
前記内燃機関から排出される排ガスが導入される請求項3ないし5いずれか記載の排ガス浄化装置を備え、
前記内燃機関の運転モードとして、該内燃機関における燃焼反応の空燃比がストイキとなるように制御する第1のモードと、前記内燃機関における燃焼反応の空燃比が酸素過剰となるように制御する第2のモードとを有する
システム。
【請求項7】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、
比較的高温の条件下において酸素の吸放出を行なう第1の酸素吸放出材と、該第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度よりも低温の条件下において酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材と、
を備える排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
請求項7記載の排ガス浄化用触媒であって、
前記第1の酸素吸放出材は、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物である
排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
請求項7または8記載の排ガス浄化用触媒であって、
前記第2の酸素吸放出材は、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物である
排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
請求項7ないし9いずれか記載の排ガス浄化用触媒を備える
排ガス浄化装置。
【請求項11】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属を備える触媒部と、
比較的高温の条件下において酸素の吸放出を行なう第1の酸素吸放出材を備える第1の酸素吸放出部と、
前記第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度よりも低温の条件下において酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材を備える第2の酸素吸放出部と
を備え、
浄化すべき前記排ガスの流れに対して前記触媒部の上流側に、前記第1および第2の酸素吸放出部が配設されている
排ガス浄化装置。
【請求項12】
請求項11記載の排ガス浄化装置であって、
前記第1の酸素吸放出材は、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物である
排ガス浄化装置。
【請求項13】
請求項11または12記載の排ガス浄化装置であって、
前記第2の酸素吸放出材は、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物である
排ガス浄化装置。
【請求項1】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、
周囲の窒素酸化物濃度に応じて窒素酸化物を吸放出するNOx吸蔵材と、
A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物と
を備える排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1記載の排ガス浄化用触媒であって、
前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含む
排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
請求項1または2記載の排ガス浄化用触媒を備える
排ガス浄化装置。
【請求項4】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、周囲の窒素酸化物濃度に応じて窒素酸化物を吸放出するNOx吸蔵材と、を備える触媒部と、
A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物を備える酸素吸放出部と
を備え、
浄化すべき前記排ガスが、前記酸素吸放出部を通過した後に前記触媒部に供給されるように、前記酸素吸放出部と前記触媒部とが直列に接続されている
排ガス浄化装置。
【請求項5】
請求項4記載の排ガス浄化装置であって、
前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を含む
排ガス浄化装置。
【請求項6】
内燃機関を備えるシステムであって、
前記内燃機関から排出される排ガスが導入される請求項3ないし5いずれか記載の排ガス浄化装置を備え、
前記内燃機関の運転モードとして、該内燃機関における燃焼反応の空燃比がストイキとなるように制御する第1のモードと、前記内燃機関における燃焼反応の空燃比が酸素過剰となるように制御する第2のモードとを有する
システム。
【請求項7】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属と、
比較的高温の条件下において酸素の吸放出を行なう第1の酸素吸放出材と、該第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度よりも低温の条件下において酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材と、
を備える排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
請求項7記載の排ガス浄化用触媒であって、
前記第1の酸素吸放出材は、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物である
排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
請求項7または8記載の排ガス浄化用触媒であって、
前記第2の酸素吸放出材は、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物である
排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
請求項7ないし9いずれか記載の排ガス浄化用触媒を備える
排ガス浄化装置。
【請求項11】
酸化還元反応を利用して排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
貴金属および遷移金属のうちの少なくとも一種の金属を備える触媒部と、
比較的高温の条件下において酸素の吸放出を行なう第1の酸素吸放出材を備える第1の酸素吸放出部と、
前記第1の酸素吸放出材が酸素の吸放出を行なう温度よりも低温の条件下において酸素の吸放出を行なう第2の酸素吸放出材を備える第2の酸素吸放出部と
を備え、
浄化すべき前記排ガスの流れに対して前記触媒部の上流側に、前記第1および第2の酸素吸放出部が配設されている
排ガス浄化装置。
【請求項12】
請求項11記載の排ガス浄化装置であって、
前記第1の酸素吸放出材は、A2O2SO4および/またはA2O2S(Aは希土類元素)と表わされる化合物である
排ガス浄化装置。
【請求項13】
請求項11または12記載の排ガス浄化装置であって、
前記第2の酸素吸放出材は、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物である
排ガス浄化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−75716(P2006−75716A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262066(P2004−262066)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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