説明

接着フィルム保持機構

【課題】保持面に形成した吸着溝に保持面の外周から負圧を伝達して接着フィルムを保持する場合においても、接着フィルムに支持されるチップ同士の間隔に影響を与えることなく接着フィルムを保持すること。
【解決手段】環状フレームの開口部にテープ103を介して支持されて互いに所定の間隔をもった複数のチップ104が貼着された接着フィルム105をテープ103を介して保持する保持面34と、この保持面34に形成された吸着溝341と、保持面34の外周側に形成された吸着溝341に連通する吸引口332とを有する接着フィルム保持機構において、吸引口332は、保持面34の外周の片側に偏在して形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着フィルム保持機構に関し、特に、半導体ウェーハ等のワークに貼着される接着フィルムをレーザー加工する加工装置等に用いられる接着フィルム保持機構に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等のデバイスが分離予定ラインによって区画されて形成された半導体ウェーハは、分離予定ラインを切削ブレードにより切削することにより個々のデバイスに分割される。しかしながら、例えば、サファイア基板のようにモース硬度の高い材質によって半導体ウェーハが形成されている場合、切削ブレードによるダイシングでは個々のデバイスに分割することが困難である。そこで、近年は、半導体ウェーハの分離予定ラインにパルスレーザー光を照射し、当該分離予定ラインに溝を形成して個々のデバイスに分割する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、携帯電話やパソコン等の電気機器は、より軽量化、小型化が求められており、より薄い半導体チップが要求されている。より薄く半導体チップを分割する技術として、所謂先ダイシング法と称する分割技術が実用化されている。この先ダイシング法においては、半導体ウェーハの表面から分離予定ラインに沿って所定の深さ(半導体チップの仕上がり厚さに相当する深さ)の分割溝を形成し、その後、表面に分割溝が形成された半導体ウェーハの裏面を研削して裏面に分割溝を表出させ個々の半導体チップに分離する技術である。この先ダイシング法によれば、半導体チップの厚さを50μm以下に加工することが可能である。
【0004】
また、先ダイシング法によって個々に分割された半導体チップの裏面にダイボンディング用の接着フィルムを貼着し、この接着フィルムを介して半導体チップをダイシングテープに貼着した後、各半導体チップ間の間隙に露出された接着フィルムの部分にレーザー光線を照射し、接着フィルムの上記間隙に露出された部分を除去する半導体チップの製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、本出願人においては、上述のようにレーザー光を用いて半導体ウェーハを加工する場合において、負圧によって半導体ウェーハを適切に保持し、この半導体ウェーハに貼着された接着フィルムのアライメントと、接着フィルムに対する加工とを円滑に行うための半導体ウェーハの保持テーブルを提案している(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−305420号公報
【特許文献2】特開2002−118081号公報
【特許文献3】特開2006−281434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3記載の保持テーブルを用いる場合において、保持テーブルの保持面に形成した吸着溝に保持面の外周から負圧を伝達して接着フィルムを保持する場合には、接着フィルムに支持されるチップ(半導体チップ)同士の間隔が狭くなってしまい、当該箇所における接着フィルムに対する加工が困難になるという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、保持面に形成した吸着溝に保持面の外周から負圧を伝達して接着フィルムを保持する場合においても、接着フィルムに支持されるチップ同士の間隔に影響を与えることなく接着フィルムを保持することができる接着フィルム保持機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の接着フィルム保持機構は、環状フレームの開口部にテープを介して支持されて互いに所定の間隔をもった複数のチップが貼着された接着フィルムを前記テープを介して保持する保持面と、前記保持面に形成された吸着溝と、前記保持面の外周側に形成された前記吸着溝に連通する吸引口とを有する接着フィルム保持機構であって、前記吸引口は、前記保持面の外周の片側に偏在して形成されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、保持面に形成された吸着溝に連通する吸引口を保持面の外周の片側に偏在して形成していることから、保持面の外周の両側に形成した場合のように、テープの中央近傍が歪んで保持面に吸着される事態を防止することができるので、保持面に形成した吸着溝に保持面の外周から負圧を伝達して接着フィルムを保持する場合においても、接着フィルムに支持されるチップ同士の間隔に影響を与えることなく接着フィルムを保持することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保持面に形成された吸着溝に連通する吸引口を保持面の外周の片側に偏在して形成していることから、保持面の外周の両側に形成した場合のように、テープの中央近傍が歪んで保持面に吸着される事態を防止することができるので、保持面に形成した吸着溝に保持面の外周から負圧を伝達して接着フィルムを保持する場合においても、接着フィルムに支持されるチップ同士の間隔に影響を与えることなく接着フィルムを保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る接着フィルム保持機構が適用されるレーザー加工装置の外観斜視図である。
【図2】上記実施の形態に係るレーザー加工装置が有するワーク保持ユニット及びこのワーク保持ユニットに保持されるワークユニットの構成を説明するための模式図である。
【図3】上記実施の形態に係るレーザー加工装置が有するワーク保持ユニットに複数の吸引部を備えた場合の模式図である。
【図4】上記実施の形態に係るレーザー加工装置が有するワーク保持ユニットでワークユニットを保持した状態の模式図である。
【図5】上記実施の形態に係るレーザー加工装置が有するワーク保持部に形成される吸引口の配置を説明するための模式図である。
【図6】上記実施の形態に係るレーザー加工装置が有するワーク保持部内における負圧の進行方向を説明するための模式図である。
【図7】上記実施の形態に係るレーザー加工装置が有するワーク保持部に形成される吸引口の配置の変形例を説明するための模式図である。
【図8】参照例に係るレーザー加工装置が有するワーク保持部に形成される吸引口の配置例を説明するための模式図である。
【図9】参照例に係るレーザー加工装置が有するワーク保持部に形成される吸引口の配置例を説明するための模式図である。
【図10】参照例に係るレーザー加工装置が有するワーク保持部内における負圧の進行方向を説明するための模式図である。
【図11】上記実施の形態に係るレーザー加工装置が有するワーク保持ユニットでワークユニットが適切に保持されていない状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る接着フィルム保持機構が適用されるレーザー加工装置1の外観斜視図である。なお、以下においては、説明の便宜上、図1に左下方側をレーザー加工装置1の前方側と呼び、同図に示す右上方側をレーザー加工装置1の後方側と呼ぶものとする。
【0014】
図1に示すように、レーザー加工装置1は、被加工物(ワーク)Wにレーザービームを照射するレーザー加工ユニット(加工ユニット)2と、ワークWを保持する保持テーブル3とを相対移動させて、ワークWを加工するように構成されている。レーザー加工装置1は、直方体状の土台部41と、この土台部41の上面後方に立設された壁部42とからなる基台4を有している。壁部42の前面には、前方に突出したアーム部5が設けられ、アーム部5の先端側にはレーザー加工ユニット2の加工ヘッド21及びアライメント手段22が設けられている。また、土台部41の上面には、保持テーブル3を図1に示すX軸方向及びY軸方向に移動させる保持テーブル移動機構6が設けられている。
【0015】
ワークWは、環状フレーム101の開口部102を塞ぐように環状フレーム101の裏面(下面)側から貼着されたテープ103の粘着面に貼着されている。レーザー加工装置1において、ワークWは、半導体ウェーハが先ダイシング法によって個々に分割され、所定の間隔を挟んでダイボンディング用の接着フィルム(図1に不図示、図2参照)に貼着された複数のチップ(半導体チップ)で構成される。このようにテープ103によりワークWが環状フレーム101に貼着されてなるワークユニット10が、図1に示す矢印Aのように保持テーブル3に載置され、保持される。なお、このワークユニット10の構成については後述する。
【0016】
なお、本実施の形態においては、シリコンウェーハ、ガリウムヒソ等の半導体ウェーハを分割して構成される複数のチップと、これらのチップを支持する接着フィルムとをワークの一例に挙げて説明するが、この構成に限定されるものではない。例えば、半導体製品のパッケージ、セラミック、ガラス、サファイア(Al2O3)系の無機材料基板、LCDドライバー等の各種電気部品やミクロンオーダーの加工位置精度が要求される各種加工材料をワークとしてもよい。
【0017】
保持テーブル移動機構6は、保持テーブル3をX軸方向に移動するX軸移動機構61と、保持テーブル3をY軸方向に移動するY軸移動機構62とを備えている。X軸移動機構61は、土台部41の上面に配置されたX軸方向に平行な一対のガイドレール611と、一対のガイドレール611にスライド可能に支持された移動基台612とを有している。Y軸移動機構62は、移動基台612の上面に配置されたY軸方向に平行な一対のガイドレール621と、一対のガイドレール621にスライド可能に支持された移動基台622を有している。保持テーブル3は、この移動基台622の上面に設けられている。
【0018】
移動基台612、622の背面(下面)側には、それぞれ図示しないナット部が形成され、これらのナット部にそれぞれX軸方向、Y軸方向に平行に配設されたボールねじ613、623が螺合されている。これらのボールねじ613、623の一端部には、それぞれ駆動モータ614、624が連結され、この駆動モータ614、624によりボールねじ613、623が回転駆動される。これらのボールねじ613、623の回転に伴い、移動基台612、622がガイドレール611、621にガイドされてX軸方向、Y軸方向に移動し、保持テーブル3も同方向に移動する構成となっている。
【0019】
また、保持テーブル移動機構6には、例えば、リニアエンコーダ等で構成される移動基台612、622の移動位置検出部が設けられている。これらの移動位置検出部は、不図示の検出器で土台部41又は移動基台612上のリニアスケール615、625を読み取ることで移動基台612、622の移動位置を検出する。これらの移動位置検出部は、検出した移動基台612、622の移動位置を、基台2内に配設される制御部7に出力する。制御部7は、これらの移動位置に基づいて移動基台612、622を制御することにより、保持テーブル3をX軸方向及びY軸方向に移動させる。
【0020】
保持テーブル3は、移動基台622の上面においてZ軸回りに回転可能な支持台31と、支持台31の上部に設けられ、ワークWを吸着保持する保持部としてのワーク保持ユニット32とを有している。ワーク保持ユニット32の上面には、負圧によりワークWを保持するワーク保持部33が設けられている。このワーク保持部33の上面には、格子状に吸着溝が形成された保持面34が設けられている。ワーク保持部33においては、後述する吸引部323によって発生される負圧が保持面34の吸着溝に伝達され、ワークWを吸着する構成となっている。なお、このワーク保持ユニット32の構成については後述する。
【0021】
また、ワーク保持ユニット32の周囲には、支持台31の四方から径方向外側に延びる支持アームを介して4つのクランプ部35が設けられている。これらの4つのクランプ部35は、例えば、エアーアクチュエータにより駆動され、ワークユニット10の環状フレーム101を四方から挟持して固定する。
【0022】
レーザー加工ユニット2は、アーム部5の先端に設けられ、ワークWにレーザービームを照射する加工ヘッド21と、ワークWに配列されたチップ間の間隙を検出するアライメント手段22を有している。アーム部5内には、レーザービームを発振する発振器23が設けられ、アーム部5内及び加工ヘッド21内には、図示しないレーザー光学系が設けられている。加工ヘッド21は、発振器23から発振されたレーザービームを集光し、保持テーブル3上に保持されたワークWに照射する。アライメント手段22には、ワークWを撮像する撮像部24を備えており、撮像部24によって取得した画像に基づき、予め記憶させておいた画像とのパターンマッチング等の処理によって、切断や穴開けをすべき位置を検出(アライメント)することができる。
【0023】
制御部7は、レーザー加工装置1の各構成部分を統括制御するものであり、各種処理を実行するプロセッサや、メモリが設けられている。例えば、制御部7は、移動基台612、622の移動位置検出部により検出された移動基台612、622の移動位置に基づいて移動基台612、622の移動量を制御する。なお、制御部7内のメモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の一つ又は複数の記憶媒体で構成される。また、メモリには、レーザー加工装置1を統括制御する制御プログラム等が記憶されている。
【0024】
ここで、本実施の形態に係るレーザー加工装置1が有するワーク保持ユニット32及びこのワーク保持ユニット32に保持されるワークユニット10の構成について図2を参照しながら説明する。図2は、本実施の形態に係るレーザー加工装置1が有するワーク保持ユニット32及びこのワーク保持ユニット32に保持されるワークユニット10の構成を説明するための模式図である。図2においては、ワーク保持ユニット32及びワークユニット10の一部の断面を示すと共に、当該断面の一部を拡大して示している。なお、図2に示すワークユニット10においては環状フレーム101を省略している。
【0025】
図2に示すように、ワークユニット10に支持されるワークWにおいては、円盤形状を有する半導体ウェーハが格子状に配列された分離予定ラインLに沿って複数のチップ104に分割され、それぞれのチップ104が所定の間隔をもって配列されている。これらのチップ104の表面には、IC、LSI等のデバイスが形成される。また、これらのチップ104は、その裏面(下面)にて接着フィルム105に貼着され、この接着フィルム105を介してテープ103に貼着されている。なお、接着フィルム105は、チップ104に分割される前の半導体ウェーハの外周形状に応じた一枚のフィルムで構成され、それぞれのチップ104間の間隙にも残存した状態となっている(点線内に示す拡大図参照)。
【0026】
ワーク保持ユニット32は、接着フィルム保持機構を構成するものであり、上面視にて円形状を有する枠体321を有している。枠体321の径は、ワークユニット10に支持されるワークWの外周形状の径よりも大きく、環状フレーム101の内径よりも小さく設計されている。ワーク保持部33は、枠体321の上面中央に配置されており、枠体321の上面と面一に構成されている。ワーク保持部33は、例えば、石英やSIO2で構成されるガラス基板、サファイア(Al2O3)系の無機材料基板、透明波長領領域270〜5,500nmを有するリチウムタンタレイトやタンタル酸リチウム(LT、LiTaO3)を材料とする基板で構成される。ワーク保持部33は、概して円盤形状を有しており、その上面中央に保持面34が設けられている。
【0027】
保持面34の表面には、格子状に配列された吸着溝341が形成されている。例えば、この吸着溝341は、1mm間隔で格子状に配列され、幅が0.15mm、深さが0.15mmに形成される。また、保持面34の外側に配置されるワーク保持部33の上面には、吸着溝341を囲むように形成された環状のリーク検出溝331が設けられている。例えば、このリーク検出溝331は、幅が4mm、深さが1mmに形成される。リーク検出溝331の寸法は、これに限定されるものではないが、少なくとも吸着溝341の断面積よりも大きな断面積を有することが好ましく、特に、吸着溝341の幅よりも広い幅を有することが好ましい。さらに、ワーク保持部33における所定位置には、それぞれ保持面34の吸着溝341及びリーク検出溝331に連通される吸引口332、333が設けられている。なお、吸着溝341に連通する吸引口332の配置については後述する。
【0028】
枠体321には、ワーク保持部33に設けられた吸引口332、333に連通する連通路322が形成されている。この連通路322の他端には、吸着溝341及びリーク検出溝331に負圧を発生させる吸引部323が接続されている。吸引部323は、例えば、枠体321、支持台31又は基台4の内部に配設される。また、連通路322における吸引部323と吸引口333との間には、圧力検知部としての圧力センサ324が設けられている。圧力センサ324は、吸引部323により発生させた負圧により減圧されたワーク保持部32内の圧力を検知し、ワークユニット10の保持状態を検出する。なお、この圧力センサ324によるワークユニット10の保持状態の検出処理については後述する。
【0029】
なお、吸引部323は、吸着溝341に負圧を発生させる第1の吸引部、並びに、リーク検出溝331に負圧を発生させる第2の吸引部として機能する。ここでは、単一の吸引部323にこれらの第1、第2の吸引部の機能を備える場合について示すが、第1、第2の吸引部の構成については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、図3に示すように、吸着溝341に負圧を発生させる第1の吸引部としての吸引部323aを備えると共に、リーク検出溝331に負圧を発生させる第2の吸引部としての吸引部323bを備えるようにしても良い。このように第1の吸引部(吸引部323a)と独立した第2の吸引部(吸引部323b)を備える場合においては、圧力センサ324は、リーク検出溝331と第2の吸引部(吸引部323b)とを連通する連通路322上に設けることが好ましい。
【0030】
また、枠体321の内部であって、ワーク保持部32の内側には、一定の空間325が設けられている。この空間325内には、発光部材326が配設されている。この発光部材326は、レーザー加工ユニット2における加工処理時に発光し、ワーク保持部32、保持面33及びテープ103及び接着フィルム105を介して、チップ104間の間隙を照光可能に構成されている。レーザー加工ユニット2のアライメント手段22は、発光部材326により照光されたチップ104間の間隙を撮像部24で取得した画像から認識し、その認識結果に応じて間隙に沿ってレーザー加工を行う。ワークユニット10は、図2中に矢印で示す様にワーク保持ユニット32上に保持される。
【0031】
図4は、本実施の形態に係るレーザー加工装置1が有するワーク保持ユニット32でワークユニット10を保持した状態の模式図である。なお、図4においては、図2と同様に、ワーク保持ユニット32及びワークユニット10の一部の断面を示している。また、図4においては、ワークユニット10の環状フレーム101、並びに、ワーク保持ユニット32の吸引部323及び圧力検知部324を省略している。
【0032】
ワークユニット10は、保持テーブル3のクランプ部35により環状フレーム101を挟持された状態で位置決めされる。そして、ワーク保持ユニット32の吸引部323で負圧を発生することでワーク保持部33内が減圧されることでテープ103を介してワークWがワーク保持ユニット32に保持された状態とされる。この場合、ワークユニット10は、図4に示すように、枠体321の上面全域を環状フレーム101に貼着されたテープ103で覆うように保持される。このため、ワーク保持部33に形成された保持面34及びこの保持面34の外側に形成されたリーク検出溝331も、テープ103の下面で覆われた状態となる。チップ104が貼着された接着フィルム105は、ワーク保持部33の保持面34の内側の一定領域内に配置される。すなわち、保持面34の外周側の一部には、テープ103を挟んで接着フィルム105が配置されていない領域が存在する(点線部B参照)。
【0033】
ここで、本実施の形態に係るレーザー加工装置1が有するワーク保持部33に形成される吸引口332の配置について図5を参照しながら説明する。図5は、本実施の形態に係るレーザー加工装置1が有するワーク保持部33に形成される吸引口332の配置を説明するための模式図である。なお、図5においては、説明の便宜上、吸引口332を保持面34上に示している。
【0034】
図5に示すように、ワーク保持部33においては、吸引口332を保持面34の外周の片側部分に偏在して形成している。具体的には、図5に示すように、保持面34の外周側の一部であって、その中心部Oから同図に示す右方側の位置に一つの吸引口332を形成している。この場合において、吸引部323により負圧を発生させると、負圧は、吸引口332から、例えば、図5に示す矢印C1〜C3の方向に向かって保持面34に形成された吸着溝341を伝達される。すなわち、吸引口332が形成された、図5に示す右方側部分から同図に示す左方側部分に向かって伝達されていく。
【0035】
このように吸着溝341を伝達される負圧は、ワーク保持部33の内部において、チップ104を支持する接着フィルム105が貼着されたテープ103の下方領域を、図6(a)の矢印Dに示すように、吸引口332に最も近いチップ104aから、伝達方向の最も遠いチップ104dに向かって進んでいく。このため、テープ103においては、チップ104a、104b、104c、104dに対応する部分の順に保持面34に吸着されていくこととなる。
【0036】
なお、ここでは、保持面34の外周の片側部分に一つの吸引口332を形成する場合について説明しているが、吸引口332の配置については、これに限定されるものではない。例えば、図7に示すように、保持面34の外周の片側部分に偏在して複数(ここでは五つ)の吸引口332を形成することも可能である。この場合、吸引部323で発生した負圧は、吸引口332から、例えば、図7に示す矢印E1〜E5の方向に向かって保持面34の吸着溝341を伝達される。すなわち、吸引口332が形成された、図7に示す右方側部分から同図に示す左方側部分に向かって負圧が伝達されていく。このため、テープ103においては、一つの吸引口332が形成される場合と同様に、吸引口332に最も近いチップ104aに対応する部分から、伝達方向の最も遠いチップ104dに対応する部分の順に吸着されていくこととなる。
【0037】
一方、吸引口332の配置については、保持面34の外周の片側部分に偏在させるのではなく、保持面34の外周の両側部分に形成することも考えられる。例えば、図8に示すように、保持面34の中心部Oから同図に示す左右両側の位置に一つずつ吸引口332a、332bを形成する場合や、図9に示すように、保持面34の中心部Oから図9に示す左右両側及び上下両側の位置に一つずつ吸引口332a〜332dを形成する場合が該当する。
【0038】
このように吸引口332(332a〜332d)が形成された状態において、吸引部323で発生した負圧は、図8に示す例においては、例えば、吸引口332aから同図に示す矢印F1〜F3の方向に向かって保持面34の吸着溝341を伝達され、吸引口332bから同図に示す矢印G1〜G3の方向に向かって保持面34の吸着溝341を伝達される。一方、図9に示す例においては、例えば、吸引口332aから図9に示す矢印H1の方向に向かって吸着溝341を伝達され、吸引口332bから図9に示す矢印H2の方向に向かって吸着溝341を伝達され、吸引口332cから図9に示す矢印H3の方向に向かって吸着溝341を伝達され、吸引口332dから図9に示す矢印H4の方向に向かって吸着溝341を伝達される。さらに、吸引部323で発生した負圧は、例えば、隣接する吸引口332(例えば、吸引口332a、332c)からの負圧により矢印H5〜H8の方向に向かって吸着溝341を伝達される。
【0039】
これらのように吸着溝341を伝達される負圧は、ワーク保持部33の内部において、チップ104を支持する接着フィルム105が貼着されたテープ103の下方領域を、図10(a)に示す矢印Iに示すように、吸引口332aに最も近いチップ104aから、伝達方向の最も遠いチップ104dに向かって進んでいく一方、吸引口332bに最も近いチップ104dから、伝達方向の最も遠いチップ104aに向かって進んでいく。このため、テープ103においては、外周の両側(すなわち、チップ104aに対応する部分側と、チップ104dに対応する部分側)から同時に吸着されていくこととなる。
【0040】
テープ103が負圧により保持面34に吸着されていく場合においては、図6(a)、図10(a)に示すようなテープ103(接着フィルム105)の弛みが引き延ばされていく。この際、テープ103の弛みは、その吸着に従って負圧の伝達方向に押し出されるようにして引き延ばされる。したがって、図8及び図9に示すように、保持面34の外周の両側から負圧が伝達される場合には、その弛み部分がテープ103の中央付近に集められてしまい、歪みSとなって現れる(図10(b)参照)。例えば、このような歪みSは、図8及び図9の点線で示す領域SAに発生し易い。
【0041】
図10(b)に示すように、中央付近に歪みSが発生した状態でテープ103が吸着された場合には、本来的に予定されていたチップ104間の間隙の幅L1が、歪みSの影響で幅L2に圧縮されてしまう。このため、例えば、レーザー加工ユニット2からのレーザー光を接着フィルム105に照射することが困難となり、接着フィルム105を適切に除去することができないという不具合が増加する。
【0042】
これに対し、本実施の形態に係るレーザー加工装置1が有するワーク保持ユニット32においては、吸引口332を保持面34の外周の片側部分に偏在して形成していることから、負圧は、保持面34の外周の片側から一方向に向かって伝達される。このため、テープ103の弛みは、中央付近に集められることなく、保持面34の外部(例えば、図4のBで示す領域)に押し出される。このため、テープ103においては、歪みSがチップ104間の間隙内に発生することなく保持面34に吸着される(図6(b)参照)。したがって、保持面34に形成した吸着溝341に保持面34の外周から負圧を伝達して接着フィルム105を保持する場合においても、接着フィルム105に支持されるチップ104同士の間隔に影響を与えることなく接着フィルム105を保持することが可能となる。
【0043】
次に、本実施の形態に係るレーザー加工装置1が有するワーク保持ユニット32におけるワークユニット10の保持状態の検出処理について説明する。上述のように、ワーク保持ユニット32においては、ワーク保持部33の吸引口332、333と、吸引部323との間を連通する連通路322上に圧力センサ324が設けられている。この圧力センサ324は、吸引部323により発生させた負圧により減圧されたワーク保持部32内の圧力(気圧)を検知し、ワークユニット10の保持状態を検出する。
【0044】
以下、ワーク保持ユニット32によりワークユニット10が適切に保持されている状態及び保持されていない状態における圧力センサ324の検知結果について、図4及び図11を参照しながら説明する。図11は、本実施の形態に係るレーザー加工装置1が有するワーク保持ユニット32でワークユニット10が適切に保持されていない状態の模式図である。図11においては、ワーク保持ユニット32及びワークユニット10の一部の断面を示すと共に、当該断面の一部を拡大して示している。
【0045】
図4に示すように、ワーク保持ユニット32によりワークユニット10が適切に保持されている状態においては、保持面34の吸着溝341及びリーク検出溝331がテープ103で覆われているため、吸引部323から負圧を発生させると、ワーク保持部33内の圧力が所望の減圧状態まで減圧されることとなる。
【0046】
図11においては、ワーク保持ユニット32でワークユニット10が適切に保持されていない状態として、リーク検出溝331に対応するテープ103の一部がワーク保持部33の表面から浮き上がった状態について示している。図11に示すように、テープ103一部が浮き上がってリーク検出溝331がテープ103に覆われていない場合には、吸引部323から負圧を発生させた場合においても、ワーク保持部33内に外部の空気が浸入することとなり、ワーク保持部33内の圧力を所望の減圧状態に減圧することができない。
【0047】
圧力センサ324は、テープ103の吸着後に測定されるワーク保持部33内の圧力が、予め定めた基準値よりも小さいか否かを判定することでワークユニット10の保持状態を検出する。例えば、基準値は、図4に示すように適切にワークユニット10が保持された状態におけるワーク保持部33内の圧力より僅かに大きく設定される。図11に示すように適切にワークユニット10が保持されていない状態においては、ワーク保持部33内の圧力が基準値よりも大きくなる。このため、圧力センサ324においては、ワークユニット10が適切に保持されていない状態を検出することができる。
【0048】
このようにワーク保持ユニット32においては、保持面34の外側に設けたリーク検出溝331と、これに負圧を発生される吸引部323との間に圧力センサ324を設けたことから、リーク検出溝331からワーク保持部33内に外気が浸入していることを検知でき、保持面34に保持されるワークWの外縁部が保持面34から浮き上がる事態を事前に予測することができる。これにより、保持面34に形成した吸着溝341により伝達される負圧によってワークWを保持する場合においても、ワークWが適切に保持されていない状態となるのを事前に検出することが可能となる。
【0049】
また、ワーク保持ユニット32においては、保持面34に形成される吸着溝341の幅、深さよりもリーク検出溝331の幅、深さを大きく構成し、リーク検出溝331の断面積を、吸着溝341の断面積よりも大きくしていることから、リーク検出溝331から外気が浸入していない状態と、外気が浸入している状態とのワーク保持部33内の減圧状態に明確な差異を設けることができるので、リーク検出溝331から外気が浸入している事態を確実に検出することが可能となる。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態に係るレーザー加工装置1が有するワーク保持ユニット32(接着フィルム保持機構)によれば、ワークWを保持する保持面34に形成された吸着溝341に連通する吸引口332を保持面34の外周の片側に偏在して形成していることから、保持面34の外周の両側に形成した場合のように、テープ103の中央近傍が歪んで保持面34に吸着される事態を防止することができる。これにより、保持面34に形成した吸着溝341に保持面34の外周から負圧を伝達して接着フィルム105を保持する場合においても、接着フィルム105に支持されるチップ104同士の間隔に影響を与えることなく接着フィルム105を保持することが可能となる。
【0051】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上説明したように、本発明は、接着フィルム105に支持されるチップ104同士の間隔に影響を与えることなく接着フィルム105を保持することができるという効果を有し、特に、先ダイシング法により所定間隔をもった複数のチップ104が貼着された接着フィルム105を被加工物(ワーク)とするレーザー加工装置に有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 レーザー加工装置
2 レーザー加工ユニット
21 加工ヘッド
22 アライメント手段
23 発振器
24 撮像部
3 保持テーブル
31 支持台
32 ワーク保持ユニット
321 枠体
322 連通路
323 吸引部
324 圧力センサ
325 空間
326 発光部材
33 ワーク保持部
331 リーク検出溝
332、333 吸引口
34 保持面
341 吸着溝
35 クランプ部
4 基台
41 土台部
42 壁部
5 アーム部
6 保護テーブル移動機構
61 X軸移動機構
611 ガイドレール
612 移動基台
613 ボールねじ
614 駆動モータ
62 Y軸移動機構
621 ガイドレール
622 移動基台
623 ボールねじ
624 駆動モータ
7 制御部
10 ワークユニット
101 環状フレーム
102 開口部
103 テープ
104 チップ
105 接着フィルム
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状フレームの開口部にテープを介して支持されて互いに所定の間隔をもった複数のチップが貼着された接着フィルムを前記テープを介して保持する保持面と、前記保持面に形成された吸着溝と、前記保持面の外周側に形成された前記吸着溝に連通する吸引口と、を有する接着フィルム保持機構であって、
前記吸引口は、前記保持面の外周の片側に偏在して形成されていることを特徴とする接着フィルム保持機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−165828(P2011−165828A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25792(P2010−25792)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】