説明

搬送機構

【課題】加工後の被加工物表面の乾燥を防ぐことができ、洗浄工程においてコンタミネーションを充分良好に除去することができる搬送機構を提供する。
【解決手段】加工後の被加工物Wを含む被搬送物19をチャック手段(26)から洗浄及び乾燥域(14)へ搬送する搬送機構(52)に被加工物Wを覆う洗浄水貯留部材(44)を装備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状支持フレーム、支持フレーム内側開口部を覆うように支持フレームの裏面に貼着された装着テープ、及び支持フレームの内側開口部内において装着テープの上面に貼着された、切削の如き加工が施された被加工物から成る被搬送物、を搬送するための搬送機構に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等の被加工物の切削においては、高速回転する切削ブレードと被加工物との間の潤滑及び冷却のために、切削水をブレードに、冷却水をブレード及び被加工物の切削部に噴射しながら実施している。このような切削においては、汚水(切断加工中に発生する切り粉等の所謂コンタミネーションを含む汚れた切削水、冷却水)で加工後のチップが汚れると、この汚れが製品不良の原因となるため、切削工程の後に被加工物は2流体スピンナー装置(特許文献1参照)等に搬送されて洗浄工程が遂行される。
【0003】
ところで、チップの表面に汚水が残留した状態で乾燥してしまうと、コンタミネーションがチップの表面にこびりついてしまい、その後に洗浄を行っても除去し難くなってしまうという問題がある。そのため、切削加工中においては、被加工物表面に向けて洗浄水を噴射し被加工物表面の全面が洗浄水で覆われるようにする(特許文献2参照)等の、乾燥防止及び汚水除去の対策が施されている。
【特許文献1】特許3410385号公報
【特許文献2】特開2007-188974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切削後の被加工物は、搬送機構により切削手段から洗浄手段へ搬送される。その間は僅かであるため、従来はそれほど注意を払われていなかったが、この間においても、切削中に洗浄水で除去できなかった汚水が残留し所々で乾燥し、その結果、洗浄工程においてコンタミネーションを充分に除去することができなくなる虞がある。
【0005】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、切削の如き加工後の被加工物表面の乾燥を防ぐことができ、従って洗浄工程においてコンタミネーションを充分良好に除去することを可能にする新規且つ改良された搬送機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記主たる技術的課題を達成する搬送機構として、環状支持フレーム、該支持フレームの内側開口部を覆うように該支持フレームの裏面に貼着された装着テープ、及び該支持フレームの該内側開口部内において該装着テープの上面に貼着された、加工が施された被加工物から成る被搬送物を搬送するための搬送機構であって、
吸引保持機構と該吸引保持機構を移動せしめるための移動機構とから構成され、
該吸引保持機構は、該支持フレームを保持する支持フレーム保持部材と該被加工物の表面上を洗浄水で覆うための洗浄水貯留部材とから構成され、
該支持フレーム保持部材は支持部材及び該支持部材に装着され且つ該支持フレームの上面に吸着される複数個の吸引パッドを含み、
該洗浄水貯留部材は断面形状が円形で且つ下面が開放された洗浄水貯留室を規定する環状側壁及び上壁を有し、該環状側壁の下縁は該被加工物の外周縁と該支持フレームの内周縁の間で該保持テープの上面に接触される、
ことを特徴とする搬送機構が提供される。
【0007】
該洗浄水貯留室には洗浄水供給手段が接続されているのが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の搬送機構においては、加工が施された被加工物の表面を洗浄水で覆った状態で搬送を行うことができるため、加工後の被加工物表面の乾燥を防ぐことができ、従って洗浄工程においてコンタミネーションを充分良好に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に従って構成された加工機の好適実施形態を図示している添付図面を参照して更に詳述する。
【0010】
図1には、本発明に従って構成された加工機の典型例である切削機が図示されている。図示の切削機はハウジング2を具備しており、このハウジング2上には装填域4、待機域6、チャッキング域8、アライメント域10、切削域12並びに洗浄及び乾燥域14が規定されている。装填域4には昇降テーブル16が配設されており、この昇降テーブル16上にはカセット18が装填される。このカセット18内には上下方向に間隔をおいて複数個の被搬送物19が収納されている。
【0011】
カセット18に収納されている被搬送物19は被加工物Wが装着テープTを介して支持フレームFに装着されているものである。金属或いは合成樹脂から形成することができる支持フレームFは中央部に比較的大きな円形開口20を有し、装着テープTは円形開口20を跨いで延在せしめられており、支持フレームFの裏面に貼着されている。被加工物Wは円形開口20内に位置せしめられ、その裏面が装着テープTに貼着されている。被加工物Wの表面にはストリートが格子状に配列されており、かかるストリートによって複数個の矩形領域が区画されている。矩形領域の各々には半導体回路が配設されている。
【0012】
図1を参照して説明を続けると、装填域4及び待機域6に関連せしめて第一の搬送手段22が配設されている。昇降テーブル16の昇降に応じて第一の搬送手段22が作動せしめられ、切断すべき被加工物Wが装着されている支持フレームF(被搬送物19)をカセット18から順次に待機域6に搬出する(そしてまた、後に更に言及する如く、切断され、洗浄及び乾燥された被搬送物19を待機域6からカセット18に搬入する)。待機域6、チャッキング域8並びに洗浄及び乾燥域14に関連せしめて第二の搬送手段24が配設されている。カセット18から待機域6に搬出された被搬送物19は、第二の搬送手段24によってチャッキング域8に搬送される。チャッキング域8においては、支持フレームF及びこれに装着された被加工物Wがチャック手段26に保持される。更に詳述すると、チャック手段26は実質上水平な吸着表面を有するチャック板28を有し、このチャック板28には複数個の吸引孔乃至溝が形成されている。被搬送物19の被加工物Wはチャック板28上に載置され、チャック板28上に真空吸着される。チャック手段26にはチャック板28の径方向外側に二対の把持手段30も配設されており、支持フレームFはかかる二対の把持手段30によって把持される。また、チャック手段26の下側には図示しない回転駆動源によりチャック手段26が回転可能に配設されている。
【0013】
チャック手段26は実質上水平であるX軸方向に後述するX軸駆動機構により移動せしめられ、チャック手段26に保持されている被搬送物19はチャック手段26の移動に付随して移動せしめられて、アライメント域10及び切削域12に順次に搬送せしめられる。図示の実施形態においては、X軸方向に見てチャック手段26の両側(即ち下流側及び上流側)にはチャック手段26の移動に応じて伸縮せしめられる蛇腹手段32が配設されている。蛇腹手段32の下側に図示しないX軸駆動機構が配設されている。かかるX軸駆動機構は例えばボールねじとこのボールねじを回転させるパルスモータとを備え、X軸方向に配設されたガイドレールに沿ってチャック手段26を移動させる周知構造のものであり詳細説明は省略する。
【0014】
アライメント域10に関連せしめてアライメント手段34が配設されている。アライメント域10においてはチャック板28上に載置されている被加工物Wの表面の画像がアライメント手段34により撮像され、かかる画像に応じて被加工物Wが所要とおりに充分精密に位置づけられる。アライメント手段34は、CCDカメラ等を搭載した電子顕微鏡構造のものである。さらに切削機には、アライメント手段34で撮像された画像等を表示させる表示ディスプレイ33と、切削機の各種条件を入力する入力パネル35を備える。
【0015】
ここで図1を参照して切削手段36の概略構造を説明する。切削手段36は、切削ブレード38が着脱自在に装着されたスピンドル40と、このスピンドル40を回転可能に支持するとともに回転駆動させる図示しない回転駆動源を含むハウジング42とを備えている。ハウジング42の先端部には切削ブレード38を囲繞するようにブレードカバー44が装着され、ブレードカバー44には切削ブレード38の両側面に向けて洗浄水及び冷却水を噴射する洗浄ノズル46が装着されている。また、切削手段36をチャック板28に対して相対的にY軸方向に割り出し送りする図示しない割り出し送り手段や、切削手段36をチャック板28に載置された被加工物Wに対して相対的にZ軸方向に切り込み送りする図示しない切り込み送り手段が配設されている。割り出し送り手段及び切り込み送り手段は、例えばボールねじとこのボールねじを回転させるパルスモータとを備え、それぞれ所望の方向に切削手段36を移動させる周知構造のものであり、詳細説明を省略する。
【0016】
また、かかる切削においては、チャック手段26よりもX軸方向上流側に洗浄水噴射手段48が配設されている。洗浄水噴射手段48は、支持フレームFの幅よりも幅広なサイズの円弧形状のノズルハウジング50を備えている。ノズルハウジング50の内周側壁には多数の孔がノズルハウジング50の延在方向に小間隔をおいて形成されており、図示しない供給配管を通してノズルハウジング50に供給される洗浄水が多数の孔から噴射され、チャック板28に載置された被加工物Wの表面全体を覆うように洗浄水が供給される。
【0017】
以上のように切削時にはブレードカバー44から切削水及び洗浄水が、また、洗浄水噴射手段48からは洗浄水が供給され、加工中において被加工物Wの表面の洗浄及び冷却を行い切削時の切削粉および熱を除去し、被加工物Wの表面の乾燥を防いでいる。このようにして、切削域12において被加工物Wが所要とおりに切削された後、チャック手段26はチャッキング域8に戻される。その後チャッキング域8並びに洗浄及び乾燥域14に関連せしめて第三の搬送手段即ち本発明の搬送機構52が配設されており、この搬送機構52によって被搬送物19が洗浄及び乾燥域14に搬入される。
【0018】
ここで、本発明の実施の形態である搬送機構52について図2を参照して詳細を説明する。搬送機構52は作動アーム54を備えている。この作動アーム54は、その一端部が従来から用いられている往復可能な図示しない移動機構に連結されている。従って、作動アーム52の他端部に装着される後述する吸引保持機構56が水平面内において、上記チャッキング域8と上記洗浄及び乾燥域14との間を移動する。上記作動アーム54の他端部に装着される吸引保持機構56は、支持フレームFを保持する支持フレーム保持部材58と支持フレーム保持部材58の下側に配設された被加工物Wの表面上を洗浄水で覆うための洗浄水貯留部材60とから構成される。
【0019】
支持フレーム保持部材58は、H字状に形成された支持部材62と、支持部材62のH字状の各端部に配設され支持フレームFの上面を吸引保持するための複数の吸引パッド64と、支持部材62の中央上面に配設されたバキューム分配器66を含んでいる。吸引パッド64は支持部材62のH字形状の各端部に上下方向に摺動可能に配設された支持ロッド63の下端に取付けられており、支持部材62の各端部との間に配設されたコイルばね65によって下方に押圧すべく付勢されている。また、吸引パッド64それぞれにはフレキシブルパイプ68が連結されている。それぞれのフレキシブルパイプ68はバキューム分配器66及び吸引連通パイプ70を介し図示しない吸引手段に接続されており、従って、吸引パッド64は図示しない吸引源と適宜連通するようになっている。支持部材62に配設されたバキューム分配器66と上記作動アーム54との間には昇降手段72が配設されている。この昇降手段72は例えばエアピストン等からなり吸引保持機構56を上下方向に移動させる。
【0020】
上記H字状に形成された支持部材62の下側で且つ、吸引パッド64の径方向内側には洗浄水貯留部材60が配設されている。洗浄水貯留部材60は支持部材62のH字形状の中央部両側に配設された2つの取付部74(図2には片方のみ図示されている)に上下方向に摺動可能に支持された支持ロッド63の下端に後述する上壁78が取り付けられている。支持ロッド63は大径頭部を有し、取付部74の下面と上壁78との間に配設されたコイルばねによって下方に押圧すべく付勢されている。洗浄水貯留部材60は図2に示すように断面形状が円形で且つ下面が開放された洗浄水貯留室80を規定する環状側壁76と上壁78とから形成されている。上壁78は樹脂、金属等の剛性材料からなり、環状側壁76はゴム等の弾性材料から形成されている。該環状側壁の下縁は被加工物Wの外周縁と支持フレームFの円形開口20の外周縁との間で保持テープTの上面に接触し、上記上壁78、環状側壁76及び保持テープTで閉じられた洗浄水貯留室80が形成される。必要に応じて洗浄水貯留室80へ洗浄水を供給するために、上壁78に洗浄水供給用の配管からなる洗浄水供給手段82を配設しても良い。洗浄水供給手段82は図示しない洗浄水源から洗浄水供給手段82を介して適宜のタイミングで洗浄水貯留室80へ洗浄水が供給される。
【0021】
以上のように構成された搬送機構52の作動について図3を参照して詳細を説明する。切削動作が終了後、チャック手段26はチャッキング域8に戻される。その際には、洗浄水噴射手段48の洗浄水49は常時供給されているため被加工物Wの表面が乾燥することなく被加工物Wはチャッキング域8に位置づけられる。チャック手段26がチャッキング域8に位置づけられると搬送機構52の図示しない移動機構がチャッキング域8に位置づけられた被加工物Wの上方に移動せしめられる(図3(a))。
【0022】
次いで、搬送機構52の昇降手段72により吸引保持機構56が下降し支持フレーム保持部材58の複数の吸引パッド64が支持フレームFの上面に接触し吸引保持するとともに、洗浄水貯留部材60の環状側壁76の下縁は被加工物Wの外周縁と支持フレームFの内周縁の間で保持テープTの上面に接触する(図3(b))。洗浄水噴射手段48の洗浄水は継続して供給されているため、上壁78、環状側壁76及び保持テープTで規定された洗浄水貯留室80には洗浄水で満たされ、分割されたチップは洗浄水で満たされた状態で保持されている。環状側壁76は弾性材料で形成されているため保持テープTを適度に押圧し、吸引保持機構56が上昇すると保持テープTと環状側壁76が適度に追従して変形して密着するため洗浄水が漏れることはない。この段階で、必要に応じて洗浄水供給手段82により適宜洗浄水を供給し、常に洗浄水貯留室80内に洗浄水で満たされた状態を維持するようにする。
【0023】
吸引パッド64の吸引が開始され図示しないセンサ等により保持に適した吸引力に達したことが確認されたら洗浄水噴射手段48の洗浄水の供給は停止される(図3(c))。この結果、洗浄水貯留室80内は洗浄水で満たされた状態で、被搬送物19は搬送機構52に吸引保持される。その後昇降手段72により被加工物Wは上昇し移動機構により洗浄及び乾燥域14へ搬送される。
【0024】
上記のようにして洗浄及び乾燥域14に搬送された被加工物Wは洗浄及び乾燥域14によって洗浄及び乾燥され、洗浄水噴射手段48においても取りきれなかったコンタミネーションが洗浄除去される。このとき、切削加工時から洗浄及び乾燥域14に搬送されるまでの間、被加工物Wの表面が常に洗浄水で満たされた状態を維持できるのでコンタミネーションが乾燥により被加工物Wの表面へこびり付く等により洗浄不能になることが無く、従って被加工物Wの表面からコンタミネーションを充分良好に除去することができる。洗浄及び乾燥域14に搬送された際に、必要に応じて洗浄水供給手段82により洗浄水を噴射させて洗浄が開始されるまで被加工物Wの表面を洗浄水で覆われるようにしても良い。このようにして洗浄及び乾燥域14において洗浄された被搬送物19は搬送手段24によって待機域6に戻され、次いで第一の搬送手段22によってカセット18の所定位置に収納される。
【0025】
本実施の形態の搬送機構52においては支持フレーム保持部材58と洗浄水貯留部材60が一体となった構造を示したが、支持フレーム保持部材58と洗浄水貯留部材60が別個の昇降機構を備えた構造にしても良い。その際は、最初に洗浄水貯留部材60が下降し洗浄水貯留部材60の環状側壁76を被加工物Wの外周縁と支持フレームFの内周縁の間で保持テープTの上面に接触させ洗浄水噴射手段48の洗浄水の供給を停止した後に、支持フレーム保持部材58が支持フレームFを吸引保持するようにできる。洗浄水に洗浄液を混入させる際には洗浄液の影響により支持フレーム保持部材44が支持フレームFを吸引保持する機能が低下してしまう場合等に適用させると良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の搬送機構の好適実施形態を備える切削装置の一例を示す外観斜視図。
【図2】本発明の搬送機構の好適実施形態を示す斜視図。
【図3】本発明の搬送機構の好適実施形態における搬送フローを示す概略模式図。
【符号の説明】
【0027】
12 切削域
14 洗浄及び乾燥域
19 被搬送物
26 チャック手段
48 洗浄水噴射手段
52 搬送機構
56 吸引保持機構
58 支持フレーム保持部材
60 洗浄水貯留部材
76 環状側壁
78 上壁
W 被加工物
T 装着テープ
F 支持フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状支持フレーム、該支持フレームの内側開口部を覆うように該支持フレームの裏面に貼着された装着テープ、及び該支持フレームの該内側開口部内において該装着テープの上面に貼着された、加工が施された被加工物から成る被搬送物を搬送するための搬送機構であって、
吸引保持機構と該吸引保持機構を移動せしめるための移動機構とから構成され、
該吸引保持機構は、該支持フレームを保持するフレーム保持部材と該被加工物の表面上を洗浄水で覆うための洗浄水貯留部材とから構成され、
該フレーム保持部材は支持部材及び該支持部材に装着され且つ該支持フレームの上面に吸着される複数個の吸引パッドを含み、
該洗浄水貯留部材は断面形状が円形で且つ下面が開放された洗浄水貯留室を規定する環状側壁及び上壁を有し、該環状側壁の下縁は該被加工物の外周縁と該支持フレームの内周縁の間で該保持テープの上面に接触される、
ことを特徴とする搬送機構。
【請求項2】
該洗浄水貯留室には洗浄水供給手段が接続されている、請求項1記載の搬送装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−87443(P2010−87443A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258108(P2008−258108)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】