説明

撥水性保護膜形成用薬液

【課題】表面に凹凸パターンが形成されたウェハのパターン倒れを防止する洗浄方法を提供する。
【解決手段】ウエハ1の表面に凸部3及び凹部4からなる凹凸パターンを形成し、該凹凸パターンの少なくとも凹部4に液体9が保持された状態で、ジアルキルシリル化合物を含有しかつ酸及び塩基を含有しない撥水性保護膜形成用薬液を表面に保持させて、撥水性保護膜10を形成し、該撥水性保護膜10がウェハ1の表面に保持されている状態で、液体9を凹部4から除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造などにおいて、特に微細でアスペクト比の高い回路パターン化されたデバイスの製造歩留まりの向上を目的としたウェハの洗浄技術に関する。特に、表面に凹凸パターンを有するウェハの凹凸パターン倒れを防止するための保護膜形成用薬液に関する。
【背景技術】
【0002】
ネットワークやデジタル家電用の半導体デバイスにおいて、さらなる高性能・高機能化や低消費電力化が要求されている。そのため回路パターンの微細化が進行しており、それに伴い製造歩留まりの低下を引き起こすパーティクルサイズも微小化している。その結果、微小化したパーティクル等の汚染物質の除去を目的とした洗浄工程が多用されており、その結果、半導体製造工程全体の3〜4割にまで洗浄工程が占めている。
【0003】
その一方で、従来行われていたアンモニアの混合洗浄剤による洗浄では、回路パターンの微細化に伴い、その塩基性によるウェハへのダメージが問題となっている。そのため、よりダメージの少ない例えば希フッ酸系洗浄剤への代替が進んでいる。
【0004】
これにより、洗浄によるウェハへのダメージの問題は改善されたが、半導体デバイスの微細化に伴うパターンのアスペクト比が高くなることによる問題が顕在化している。すなわち洗浄またはリンス後、気液界面がパターンを通過する時にパターンが倒れる現象を引き起こし、歩留まりが大幅に低下することが大きな問題となっている。
【0005】
このパターン倒れは、ウェハを洗浄液またはリンス液から引き上げるときに生じる。これは、パターンのアスペクト比が高い部分と低い部分との間において、残液高さの差ができ、それによってパターンに作用する毛細管力に差が生じることが原因と言われている。
【0006】
このため、毛細管力を小さくすれば、残液高さの違いによる毛細管力の差が低減し、パターン倒れが解消すると期待できる。毛細管力の大きさは、以下に示される式で求められるPの絶対値であり、この式からγ、もしくは、cosθを小さくすれば、毛細管力を低減できると期待される。
【0007】
P=2×γ×cosθ/S
(式中、γは凹部に保持されている液体の表面張力、θは凹部表面と凹部に保持されている液体のなす接触角、Sは凹部の幅である。)
特許文献1には、γを小さくしてパターン倒れを抑制する手法として気液界面を通過する前に洗浄液を水から2−プロパノールへ置換する技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、cosθを小さくしてパターン倒れを抑制する手法として、レジストパターンを対象とする技術が開示されている。この手法は接触角を90°付近とすることで、cosθを0に近づけ毛細管力を極限まで下げることによって、パターン倒れを抑制する手法である。
【0009】
また、特許文献3には、ケイ素を含む膜により凹凸形状パターンを形成したウェハ表面を酸化等により表面改質し、該表面に水溶性界面活性剤又はシランカップリング剤を用いて撥水性保護膜を形成し、毛細管力を低減させることで、パターンの倒壊を防止する洗浄方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−198958号公報
【特許文献2】特開平5−299336号公報
【特許文献3】特許第4403202号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3には、撥水性保護膜を形成するシランカップリング剤として、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルシリルジエチルアミンが開示されている。本発明は、表面に凹凸パターンを形成されたウェハにおいて該凹凸パターンの少なくとも凹部表面にケイ素元素を含むウェハを洗浄する際に、パターンの倒壊を防止するのに良好な撥水性能を生じうる保護膜を形成する剤としてケイ素化合物を含む保護膜形成用薬液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行い、パターンの倒壊(以下、本文中で「パターン倒れ」と記載)の防止のために、パターンに作用する毛細管力を低減させる撥水性保護膜の形成剤として(以降「撥水性保護膜形成剤」もしくは「保護膜形成剤」と記載する)、一般式[1]で表されるような、1つの水素原子との結合を持つケイ素化合物(以下、本文中で「ジアルキルシリル化合物」と記載する)
【化1】

【0013】
[式中、Rは、それぞれ互いに独立して、炭素数が1〜18の炭化水素基を含む1価の有機基、および、炭素数が1〜8のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基から選ばれる少なくとも1つの基であり、Xは、ハロゲン原子、またはケイ素元素と結合する元素が窒素である1価の有機基から選ばれる少なくとも1つの基である]
を含有する保護膜形成用薬液を用いると、形成された保護膜は、例えば、ヘキサメチルジシラザン等のようなトリアルキルシリル化合物を用いて形成された場合に比べて、良好な撥水性を生じうることを見出した(実施例3 vs 比較例1、実施例6 vs 比較例2参照)。また、本発明者らは、特定の構造を有するケイ素化合物と触媒としての酸とを含む薬液を用いることで撥水性に優れた保護膜を形成できることを見出し、すでに出願している(特願2011−091952号)が、本発明のジアルキルシリル化合物を用いると、触媒として酸や塩基を共存させることなく良好な撥水性を有する保護膜を得られるという知見を得た(実施例1〜6参照)。
【0014】
すなわち、本発明は以下の[発明1]〜[発明5]に記載する発明を提供する。
【0015】
[発明1]
表面に凹凸パターンを有し該凹凸パターンの少なくとも一部がケイ素元素を含むウェハの洗浄時に該凹凸パターンの少なくとも凹部表面に保護膜を形成するための撥水性保護膜形成用薬液であり、下記一般式[1]で表されるジアルキルシリル化合物を含有し、酸及び塩基を含有しないことを特徴とするウェハパターン保護膜形成用薬液。
【化2】

【0016】
[式中、Rは、それぞれ互いに独立して、炭素数が1〜18の炭化水素基を含む1価の有機基、および、炭素数が1〜8のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基から選ばれる少なくとも1つの基であり、Xは、ハロゲン原子、またはケイ素元素と結合する元素が窒素である1価の有機基から選ばれる少なくとも1つの基である]
[発明2]
上記一般式[1]のXがハロゲン原子であることを特徴とする発明1に記載の薬液。
【0017】
[発明3]
上記一般式[1]のXがケイ素元素と結合する元素が窒素である1価の有機基であることを特徴とする発明1に記載の薬液。
【0018】
[発明4]
一般式[1]で表されるジアルキルシリル化合物が下記一般式[2]で表されることを特徴とする発明1に記載の薬液。
【化3】

【0019】
[式中、Rは一般式[1]と同様である。]
[発明5]
表面に凹凸パターンを形成されたウェハにおいて該凹凸パターンの少なくとも凹部表面にケイ素元素を含むウェハの洗浄方法であって、
前記ウェハ表面を水系洗浄液で洗浄する、水系洗浄液洗浄工程、
前記ウェハの少なくとも凹部に撥水性保護膜形成用薬液を保持し、該凹部表面に撥水性保護膜を形成する、撥水性保護膜形成工程、
ウェハ表面の液体を除去する、液体除去工程、
前記凹部表面から撥水性保護膜を除去する、撥水性保護膜除去工程、
を含み、撥水性保護膜形成工程において発明1乃至発明3のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液を用いることを特徴とする、ウェハの洗浄方法。
【0020】
特許文献3では、凹凸パターン表面に形成された水酸基とトリアルキルシリル基とが結合することで、撥水性の保護膜を形成させている。炭化水素基は疎水性を有することから、炭化水素基が最大量結合したトリアルキルシリル化合物を使用して撥水性の保護膜を形成することは効果的に思えるが、意外にも、ケイ素に結合する炭化水素基の数が2個であるジアルキルシリル化合物を使用して撥水性の保護膜を形成すると、トリアルキルシリル化合物の場合と比べて、撥水性が向上することを見出した。
【発明の効果】
【0021】
本発明のウェハパターン保護膜形成用薬液を用いることで、表面にケイ素元素を含む凹凸パターンが形成されたウェハの洗浄において、良好な撥水性を示す保護膜の形成に奏功する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】表面が凹凸パターン2を有する面とされたウェハ1を斜視したときの模式図を示す図である。
【図2】図1中のa−a’断面の一部を示したものである。
【図3】凹部4が撥水性保護膜形成用薬液8を保持した状態の模式図を示している。
【図4】撥水性保護膜10が形成された凹部4に液体9が保持された状態の模式図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。
【0024】
[ジアルキルシリル化合物について]
まず、本発明で提供するパターン倒れを防止するための撥水性保護膜形成用薬液(以降「撥水性保護膜形成用薬液」、「保護膜形成用薬液」、又は単に「薬液」と記載する)の特徴である一般式[1]で表されるジアルキルシリル化合物について説明する。
【0025】
一般式[1]で表されるジアルキルシリル化合物において、Rは、それぞれ互いに独立した、炭素数が1〜18の炭化水素基を含む1価の有機基、および、炭素数が1〜8のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基から選ばれる少なくとも1つの基であり、Xは、ハロゲン原子、またはケイ素元素と結合する元素が窒素である1価の有機基から選ばれる少なくとも1つの基を示す。 一般式[1]において、Xとしてのケイ素元素に結合する元素が窒素である1価の有機基には、水素、炭素、窒素、酸素だけでなく、ケイ素、硫黄、ハロゲン元素などが含まれていても良い。
【0026】
このうち、Xで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子が挙げられる。例えばXが塩素原子の場合、(CH(H)Si−Cl、C(CH)(H)Si−Cl、(C(H)Si−Cl、C(CH)(H)Si−Cl、(C(H)Si−Cl、C(CH)(H)Si−Cl、(C(H)Si−Cl、C11(CH)(H)Si−Cl、(C11(H)Si−Cl、C13(CH)(H)Si−Cl、(C13(H)Si−Cl、C15(CH)(H)Si−Cl、(C15(H)Si−Cl、C17(CH)(H)Si−Cl、(C17(H)Si−Cl、C19(CH)(H)Si−Cl、(C19(H)Si−Cl、C1021(CH)(H)Si−Cl、(C1021(H)Si−Cl、C1123(CH)(H)Si−Cl、(C1123(H)Si−Cl、C12(CH25)(H)Si−Cl、(C1225(H)Si−Cl、C1327(CH)(H)Si−Cl、(C1327(H)Si−Cl、C1429(CH)(H)Si−Cl、(C1429(H)Si−Cl、C1531(CH)(H)Si−Cl、(C1531(H)Si−Cl、C1633(CH)(H)Si−Cl、(C1633(H)Si−Cl、C1735(CH)(H)Si−Cl、(C1735(H)Si−Cl、C1837(CH)(H)Si−Cl、(C1837(H)Si−Cl、CF(CH)(H)Si−Cl、C(CH)(H)Si−Cl、C(CH)(H)Si−Cl、C(CH)(H)Si−Cl、C11(CH)(H)Si−Cl、C13(CH)(H)Si−Cl、C15(CH)(H)Si−Cl、C17(CH)(H)Si−Cl等が挙げられる。
【0027】
また、一般式[1]のXで表される、ケイ素元素と結合する元素が窒素である1価の有機基としては、イソシアネート基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、アジド基、アセトアミド基、イミダゾール基、−NH−Si(H)R基(Rは一般式[1]と同様)等が挙げられる。例えば、Xが−NH−Si(H)R基の場合は、(CH(H)Si−NH−Si(H)(CH、C(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C、(C(H)Si−NH−Si(H)(C、C(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C、(C(H)Si−NH−Si(H)(C、C(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C、(C(H)Si−NH−Si(H)(C、C11(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C11、(C11(H)Si−NH−Si(H)(C11、C13(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C13、(C13(H)Si−NH−Si(H)(C13、C15(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C15、(C15(H)Si−NH−Si(H)(C15、C17(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C17、(C17(H)Si−NH−Si(H)(C17、C19(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C19、(C19(H)Si−NH−Si(H)(C19、C1021(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C1021、(C1021(H)Si−NH−Si(H)(C1021、C1123(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C1123、(C1123(H)Si−NH−Si(H)(C1123、C1225(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C1225、(C1225(H)Si−NH−Si(H)(C1225、C1327(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C1327、(C1327(H)Si−NH−Si(H)(C1327、C1429(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C1429、(C1429(H)Si−NH−Si(H)(C1429、C1531(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C1531、(C1531(H)Si−NH−Si(H)(C1531、C1633(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C1633、(C1633(H)Si−NH−Si(H)(C1633、C1735(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C1735、(C1735(H)Si−NH−Si(H)(C1735、C1837(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C1837、(C1837(H)Si−NH−Si(H)(C1837、CF(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)CF、C(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C、C(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C、C(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C、C11(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C11、C13(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C13、C15(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C15、C17(CH)(H)Si−NH−Si(H)(CH)C17等が挙げられる。
【0028】
一般式[1]で表されるジアルキルシリル化合物のうち、Rの炭素数が1〜8であると、前記保護膜を短時間で形成できるため好ましい。
【0029】
また、Xで表されるハロゲン原子としては塩素原子が好ましい。さらに、Xで表される、ケイ素元素と結合する元素が窒素である1価の有機基のうち、−NH−Si(H)R基が好ましい。
【0030】
さらに、入手の容易さなどを考慮すると、前述した一般式[1]で示されるケイ素化合物の中でも特に好ましい化合物としては、ジメチルクロロシラン、テトラメチルジシラザンが挙げられる。
【0031】
[保護膜形成用薬液について]
続いて、一般式[1]で表されるジアルキルシリル化合物を含有する撥水性保護膜形成用薬液について説明する。本発明の薬液には、少なくとも撥水性保護膜形成剤が含有されていればよい。
【0032】
前記薬液には溶媒として有機溶媒を用いることができる。該有機溶媒は、前記保護膜形成剤を溶解するものであれば良く、例えば、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、含ハロゲン溶媒、スルホキシド系溶媒、水酸基を持たない多価アルコールの誘導体、含窒素化合物溶媒などが好適に使用される。
【0033】
前記炭化水素類の例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどがあり、前記エステル類の例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチルなどがあり、前記エーテル類の例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどがあり、前記ケトン類の例としては、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノンなどがあり、前記含ハロゲン溶媒の例としては、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロシクロペンタン、パーフルオロシクロヘキサン、ヘキサフルオロベンゼンなどのパーフルオロカーボン、1、1、1、3、3−ペンタフルオロブタン、オクタフルオロシクロペンタン、2,3−ジハイドロデカフルオロペンタン、ゼオローラH(日本ゼオン株式会社製)などのハイドロフルオロカーボン、メチルパーフルオロイソブチルエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテル、アサヒクリンAE−3000(旭硝子株式会社製)、Novec HFE−7100、Novec HFE−7200、Novec7300、Novec7600(いずれもスリーエム社製)などのハイドロフルオロエーテル、テトラクロロメタンなどのクロロカーボン、クロロホルムなどのハイドロクロロカーボン、ジクロロジフルオロメタンなどのクロロフルオロカーボン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンなどのハイドロクロロフルオロカーボン、パーフルオロエーテル、パーフルオロポリエーテルなどがあり、前記スルホキシド系溶媒の例としては、ジメチルスルホキシドなどがあり、前記水酸基を持たない多価アルコール誘導体の例としては、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどがあり、含窒素化合物溶媒の例としては、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ピリジンなどがある。これらの溶媒でも、特にNovec HFE−7100などのハイドロフルオロエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの水酸基を持たない多価アルコールの誘導体を好適に使用することができる。
【0034】
さらにまた、前記有機溶媒に不燃性のものを使うと、撥水性保護膜形成用薬液が不燃性になる、あるいは、引火点が高くなるので好ましい。含ハロゲン溶媒は不燃性のものが多く、不燃性含ハロゲン溶媒は不燃性有機溶媒として好適に使用できる。
【0035】
また、有機溶媒には、微量の水分であれば存在してもよい。ただし、この水分が溶媒に大量に含まれると、ジアルキルシリル化合物は該水分によって加水分解して反応性が低下することがある。このため、溶媒中の水分量は低くすることが好ましく、該水分量は、100質量ppm以下が好ましく、さらには50質量ppm以下が特に好ましい。
【0036】
また、本発明の撥水性保護膜形成用薬液は、触媒として酸や塩基を含むことなく撥水性能を有する保護膜を形成することができるが、ここでの「酸及び塩基を含まない」とは、具体的には該薬液総量に対して、酸、または塩基が100質量ppm以下であることを意味する。
【0037】
さらに、該ジアルキルシリル化合物は、前記薬液の総量100質量%に対して0.1〜50質量%となるように混合されていれば好ましく、より好適には該薬液の総量100質量%に対して0.3〜20質量%である。ジアルキルシリル化合物が0.1質量%未満では、有機溶媒中に微量に含まれる水分などと反応して失活してしまうため、撥水性保護膜を形成する能力が乏しく、ウェハ表面を充分に撥水化することができない。一方、50質量%より多い場合、ウェハ表面に不純物として残留する懸念があること、またコスト的な観点から見ても好ましくない。
【0038】
[洗浄方法について]
続いて、本発明のウェハの洗浄方法について説明する。本発明の薬液を用いて洗浄するウェハは、一般的には、ウェハ表面を凹凸パターンを有する面とする前処理工程を経たものを用いることが多い。
【0039】
前記前処理工程において、ウェハ表面にパターンを形成できるのであればその方法は限定されないが、一般的方法としては、ウェハ表面にレジストを塗布したのち、レジストマスクを介してレジストに露光し、露光されたレジスト、または、露光されなかったレジストをエッチング除去することによって所望の凹凸パターンを有するレジストを作製する。また、レジストにパターンを有するモールドを押し当てることでも、凹凸パターンを有するレジストを得ることができる。次に、ウェハをエッチングする。このとき、レジストパターンの凹の部分が選択的にエッチングされる。最後に、レジストを剥離すると、凹凸パターンを有するウェハが得られる。
【0040】
なお、前記ウェハとしては、シリコンウェハや、シリコンウェハ表面に酸化ケイ素(以下、SiO2と表記することがある)、窒化ケイ素(以下、SiNと表記することがある)などケイ素元素を含む膜が形成されたもの、あるいは、上記凹凸パターンを形成したときに、該凹凸パターンの表面にシリコン、または酸化ケイ素、窒化ケイ素などのケイ素元素を含むものが含まれる。
【0041】
また、シリコン、酸化ケイ素、および、窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1つを含む複数の成分から構成されたウェハに対しても、ケイ素元素が存在する部分の表面に撥水性保護膜を形成することができる。該複数の成分から構成されたウェハとしては、シリコン、酸化ケイ素、および、窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1つがウェハ表面に形成したもの、あるいは、凹凸パターンを形成したときに、該凹凸パターンの少なくとも凹部表面にシリコン、酸化ケイ素、および、窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1つとなるものも含まれる。さらには、サファイアウェハ、各種化合物半導体ウェハ、プラスチックウェハなどシリコンを含まないウェハ上に、シリコンを含む各種膜が形成されたものであっても良い。
【0042】
本発明は、表面に凹凸パターンを形成されたウェハにおいて該凹凸パターンの少なくとも凹部表面にケイ素元素を含むウェハの洗浄方法であって、
前記ウェハ表面を水系洗浄液で洗浄する、水系洗浄液洗浄工程、
前記ウェハの少なくとも凹部に撥水性保護膜形成用薬液を、保持し、該凹部表面に撥水性保護膜を形成する、撥水性保護膜形成工程、
ウェハ表面の液体を除去する、液体除去工程、
前記凹部表面から撥水性保護膜を除去する、撥水性保護膜除去工程、
を有する。
【0043】
前記水系洗浄液の例としては、水、あるいは、水に有機溶媒、酸、アルカリのうち少なくとも1種以上が混合された水を主成分(例えば、水の含有率が50質量%以上)とするものが挙げられる。
【0044】
前記水系洗浄において、レジストを除去し、ウェハ表面のパーティクル等を除去した後に、乾燥等により水系洗浄液を除去する際に、凹部の幅が小さく、凸部のアスペクト比が大きいと、パターン倒れが生じやすくなる。該凹凸パターンは、図1及び図2に記すように定義される。図1は、表面が凹凸パターン2を有する面とされたウェハ1を斜視したときの模式図を示し、図2は図1中のa−a’断面の一部を示したものである。凹部の幅5は、図2に示すように凸部3と凸部3の間隔で示され、凸部のアスペクト比は、凸部の高さ6を凸部の幅7で割ったもので表される。洗浄工程でのパターン倒れは、凹部の幅が70nm以下、特には45nm以下、アスペクト比が4以上、特には6以上のときに生じやすくなる。
【0045】
本発明のウェハの洗浄方法において、パターン倒れを発生させずに効率的に洗浄するためには、前記水系洗浄液洗浄工程から撥水性保護膜形成工程を、ウェハの少なくとも凹部に常に液体が保持された状態で行うことが好ましい。また、撥水性保護膜形成工程の後で、ウェハの凹部に保持された撥水性保護膜形成用薬液をその他の液体に置換する場合も、上記と同様にウェハの少なくとも凹部に常に液体が保持された状態で行うことが好ましい。なお、本発明において、ウェハの凹凸パターンの少なくとも凹部に前記水系洗浄液、前記薬液やその他の液体を保持できるのであれば、該ウェハの洗浄方式は特に限定されない。ウェハの洗浄方式としては、ウェハをほぼ水平に保持して回転させながら回転中心付近に液体を供給してウェハを1枚ずつ洗浄するスピン洗浄に代表される枚葉方式や、洗浄槽内で複数枚のウェハを浸漬し洗浄するバッチ方式が挙げられる。なお、ウェハの凹凸パターンの少なくとも凹部に前記水系洗浄液、前記薬液やその他の液体を供給するときの該薬液や洗浄液の形態としては、該凹部に保持された時に液体になるものであれば特に限定されず、たとえば、液体、蒸気などがある。
【0046】
次に、撥水性保護膜形成工程について説明する。前記水系洗浄液洗浄工程から撥水性保護膜形成工程への移行は、水系洗浄工程においてウェハの凹凸パターンの少なくとも凹部に保持されていた水系洗浄液から、撥水性保護膜形成用薬液に置換されることで行われる。この水系洗浄液から撥水性保護膜形成用薬液への置換においては、直接置換されても良いし、異なる洗浄液A(以降、単に「洗浄液A」と記載する場合がある)に一度以上置換された後に、撥水性保護膜形成用薬液に置換されても良い。前記洗浄液Aの好ましい例としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒の混合物、または、それらに酸、アルカリ、界面活性剤のうち少なくとも1種以上が混合されたもの等が挙げられる。また、前記洗浄液Aの好ましい例の一つである有機溶媒の例としては、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、含ハロゲン溶媒、スルホキシド系溶媒、アルコール類、多価アルコールの誘導体、含窒素化合物溶媒等が挙げられる。
【0047】
前記撥水性保護膜形成工程における撥水性保護膜の形成は、ウェハの凹凸パターンの少なくとも凹部に撥水性保護膜形成用薬液を保持することにより行われる。図3は、凹部4が撥水性保護膜形成用薬液8を保持した状態の模式図を示している。図3の模式図のウェハは、図1のa−a’断面の一部を示すものである。この撥水性保護膜形成工程の際に、撥水性保護膜形成用薬液が、凹凸パターン2が形成されたウェハ1に供される。この際、撥水性保護膜形成用薬液は図3に示したように少なくとも凹部4に保持された状態となり、凹部4の表面が撥水化される。なお、本発明の保護膜は、必ずしも連続的に形成されていなくてもよく、また、必ずしも均一に形成されていなくてもよいが、より優れた撥水性を付与できるため、連続的に、また、均一に形成されていることがより好ましい。
【0048】
また、保護膜形成工程では、薬液の温度を高くすると、より短時間で前記保護膜を形成しやすいが、撥水性保護膜形成用薬液の沸騰や蒸発などにより該薬液の安定性が損なわれる恐れがあるため、前記薬液は10〜160℃で保持されることが好ましく、特には15〜120℃が好ましい。
【0049】
撥水性保護膜形成剤により撥水化された凹部4に液体9が保持された場合の模式図を図4に示す。図4の模式図のウェハは、図1のa−a’断面の一部を示すものである。凹部4の表面には撥水性保護膜形成剤により撥水性保護膜10が形成されている。このとき凹部4に保持されている液体9は、前記薬液、該薬液から異なる洗浄液B(以降、単に「洗浄液B」と記載する場合がある)に置換した後の液体(洗浄液B)でもよいし、置換途中の液体(薬液と洗浄液の混合液)であってもよい。前記撥水性保護膜10は、液体9が凹部4から除去されるときもウェハ表面に保持されている。
【0050】
前記洗浄液Bの好ましい例としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒の混合物、または、それらに酸、アルカリ、界面活性剤のうち少なくとも1種以上が混合されたもの等が挙げられる。また、前記洗浄液Bの好ましい例の一つである有機溶媒の例としては、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、含ハロゲン溶媒、スルホキシド系溶媒、アルコール類、多価アルコール類、多価アルコール類の誘導体、含窒素化合物溶媒等が挙げられる。
【0051】
前記凹凸パターンを有するウェハの凹部に液体が保持されると、該凹部に毛細管力が働く。この毛細管力の大きさは、以下に示される式で求められるPの絶対値である。
【0052】
P=2×γ×cosθ/S
(式中、γは凹部に保持されている液体の表面張力、θは凹部表面と凹部に保持されている液体のなす接触角、Sは凹部の幅である。)
図4の凹部4のように凹部表面に撥水性保護膜が存在すると、θが増大され、Pの絶対値が低減される。パターン倒れの抑制の観点から、Pの絶対値は小さいほど好ましく、除去される液体との接触角を90°付近に調整して毛細管力を限りなく0.0MN/mに近づけることが理想的である。図4のように、凹部表面に保護膜10が形成されたとき、該表面に水が保持されたと仮定したときの接触角は60〜120°であると、パターン倒れが発生し難いため好ましい。接触角は90°に近いほど該凹部に働く毛細管力が小さくなり、パターン倒れが更に発生し難くなるため、70〜110°が特に好ましい。
【0053】
続いて、前記液体除去工程について説明する。なお、凹部に保持されている液体は、前記薬液、洗浄液B、または、該薬液と洗浄液Bの混合液である。前記液体を除去する方法として、自然乾燥、エアー乾燥、Nガス乾燥、スピン乾燥法、IPA(2−プロパノール)蒸気乾燥、マランゴニ乾燥、加熱乾燥、温風乾燥、真空乾燥などの周知の乾燥方法によって行うことが好ましい。前記液体を効率よく除去するために、保持された液体を排液して除去した後に、残った液体を乾燥させても良い。
【0054】
最後に、撥水性保護膜除去工程について説明する。前記撥水性保護膜を除去する場合、該保護膜中のC−C結合、C−F結合を切断することが有効である。その方法としては、前記結合を切断できるものであれば特に限定されないが、例えば、ウェハ表面を光照射すること、ウェハを加熱すること、ウェハをオゾン曝露すること、ウェハ表面にプラズマ照射すること、ウェハ表面にコロナ放電すること等が挙げられる。
【0055】
光照射で前記保護膜を除去する場合、該保護膜中のC−C結合、C−F結合の結合エネルギーである83kcal/mol、116kcal/molに相当するエネルギーである340nm、240nmよりも短い波長を含む紫外線を照射することが好ましい。この光源としては、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマランプ、カーボンアークなどが用いられる。
【0056】
また、光照射で前記保護膜を除去する場合、紫外線で前記保護膜の構成成分を分解すると同時にオゾンを発生させ、該オゾンによって前記保護膜の構成成分を酸化揮発させると、処理時間が短くなるので特に好ましい。この光源として、低圧水銀ランプやエキシマランプなどを用いてもよい。また、光照射しながらウェハを加熱してもよい。
【0057】
ウェハを加熱する場合、400〜700℃、好ましくは、500〜700℃でウェハの加熱を行うのが好ましい。この加熱時間は、1〜60分間、好ましくは10〜30分間の保持で行うことが好ましい。また、当該工程では、オゾン曝露、プラズマ照射、コロナ放電などを併用してもよい。また、ウェハを加熱しながら光照射を行ってもよい。
【0058】
加熱により前記保護膜を除去する方法は、ウェハを熱源に接触させる方法、熱処理炉などの加熱された雰囲気にウェハを置く方法などがある。なお、加熱された雰囲気にウェハを置く方法は、複数枚のウェハを処理する場合であっても、ウェハ表面に前記保護膜を除去するためのエネルギーを均質に付与しやすいことから、操作が簡便で処理が短時間で済み処理能力が高いという工業的に有利な方法である。
【0059】
ウェハをオゾン曝露する場合、低圧水銀灯などによる紫外線照射や高電圧による低温放電等で発生させたオゾンをウェハ表面に供しても良い。ウェハをオゾン曝露しながら光照射してもよいし、加熱してもよい。
【0060】
前記の光照射、加熱、オゾン曝露、プラズマ照射、コロナ放電を組み合わせることによって、効率的にウェハ表面の保護膜を除去することができる。
【実施例】
【0061】
ウェハの表面を凹凸パターンを有する面とすること、凹凸パターンの少なくとも凹部に保持された洗浄液を他の洗浄液で置換することは、他の文献等にて種々の検討がなされ、既に確立された技術であるので、本実施例では、前記保護膜形成用薬液の評価を中心に行った。また、背景技術等で述べた式
P=2×γ×cosθ/S
(式中、γは凹部に保持されている液体の表面張力、θは凹部表面と凹部に保持されている液体のなす接触角、Sは凹部の幅である。)
から明らかなようにパターン倒れは、洗浄液のウェハ表面への接触角、すなわち液滴の接触角と、洗浄液の表面張力に大きく依存する。凹凸パターン2の凹部4に保持された洗浄液の場合、液滴の接触角と、パターン倒れと等価なものとして考えてよい該凹部に働く毛細管力とは相関性があるので、前記式と保護膜10の液滴の接触角の評価から毛細管力を導き出すことができる。
【0062】
水滴の接触角の評価は、JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」にもあるように、サンプル(基材)表面に数μlの水滴を滴下し、水滴と基材表面のなす角度の測定によりなされる。しかし、パターンを有するウェハの場合、接触角が非常に大きくなる。これは、Wenzel効果やCassie効果が生じるからで、接触角が基材の表面形状(ラフネス)に影響され、見かけ上の水滴の接触角が増大するためである。そのため、表面に凹凸パターンを有するウェハの場合、該凹凸パターン表面に形成された前記保護膜10自体の接触角を正確に評価できない。
【0063】
そこで、本実施例では前記薬液を表面が平滑なウェハに供して、ウェハ表面に保護膜を形成して、該保護膜を表面に凹凸パターン2が形成されたウェハ1の表面に形成された保護膜10とみなし、種々評価を行った。なお、本実施例では、表面が平滑なシリコンウェハ上に酸化ケイ素層を有する「SiO膜付きシリコンウェハ」(表中でSiOと表記)を用いた。
【0064】
詳細を下記に述べる。以下では、保護膜形成用薬液が供されたウェハの評価方法、該保護膜形成用薬液の調製、そして、ウェハに該保護膜形成用薬液を供した後の評価結果が述べられる。
【0065】
〔保護膜形成用薬液が供されたウェハの評価方法〕
保護膜形成用薬液が供されたウェハの評価方法として、以下の(1)〜(3)の評価を行った。
【0066】
(1)ウェハ表面に形成された保護膜の接触角評価
保護膜が形成されたウェハ表面上に純水約2μlを置き、水滴とウェハ表面とのなす角(接触角)を接触角計(協和界面科学製:CA−X型)で測定した。保護膜の接触角が90°に近いほど(毛細感触が限りなく0.0MN/mに近づくほど)効果的であるが、ここでは保護膜の接触角が60〜120°の範囲であったものを合格とした。
【0067】
(2)保護膜の除去性
以下の条件で低圧水銀灯のUV光をサンプルに1分間照射し、撥水性保護膜除去工程における保護膜の除去性を評価した。照射後に水滴の接触角が10°以下となったものを合格(表中で○と表記)とした。
【0068】
・ランプ:セン特殊光源製PL2003N−10
・照度:15mW/cm(光源からサンプルまでの距離は10mm)
(3)保護膜除去後のウェハの表面平滑性評価
原子間力電子顕微鏡(セイコ−電子製:SPI3700、2.5μm四方スキャン)によって表面観察し、中心線平均面粗さ:Ra(nm)を求めた。なお、Raは、JIS B 0601で定義されている中心線平均粗さを測定面に対し適用して三次元に拡張したものであり、「基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値」として次式で算出した。保護膜を除去した後のウェハ表面のRa値が1nm以下であれば、洗浄によってウェハ表面が浸食されていない、および、前記保護膜の残渣がウェハ表面にないとし、合格(表中で○と表記)とした。
【式】
【0069】

ここで、X、X、Y、Yは、それぞれ、X座標、Y座標の測定範囲を示す。Sは、測定面が理想的にフラットであるとした時の面積であり、(X−X)×(Y−Y)の値とした。また、F(X,Y)は、測定点(X,Y)における高さ、Zは、測定面内の平均高さを表す。
【0070】
[実施例1]
(1)保護膜形成用薬液の調製
ジアルキルシリル化合物としてテトラメチルジシラザン〔(CH(H)Si-NH-Si(H)(CH〕;3g、有機溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA);97gを混合し、約5分間撹拌して、保護膜形成用薬液の総量に対する保護膜形成剤の濃度(以降「保護膜形成剤濃度」と記載する)が3質量%の保護膜形成用薬液を得た。
【0071】
(2)ウェハの洗浄
平滑なSiO膜付きシリコンウェハ(表面に厚さ1μmの熱酸化膜層を有するシリコンウェハ)を1質量%のフッ酸水溶液に2分間浸漬し、次いで純水に1分間、2−プロパノールに1分間浸漬した。
【0072】
(3)ウェハ表面への保護膜形成用薬液による表面処理
シリコンウェハを、上記「(1)保護膜形成用薬液の調製」で調製した保護膜形成用薬液に20℃で1分間浸漬させた。その後、シリコンウェハを2−プロパノールに1分間浸漬し、次いで、純水に1分間浸漬した。最後に、シリコンウェハを純水から取出し、エアーを吹き付けて、表面の純水を除去した。
【0073】
得られたウェハを上記「保護膜形成用薬液が供されたウェハの評価方法」に記載した要領で評価したところ、表に示すとおり、表面処理前の初期接触角が10°未満であったものが、表面処理後の接触角は66°となり、撥水性付与効果を示した。また、UV照射後の接触角は10°未満であり保護膜は除去できた。さらに、UV照射後のウェハのRa値は0.5nm未満であり、洗浄時にウェハは侵食されず、さらにUV照射後に保護膜の残渣は残らないことが確認できた。
【0074】
[実施例2〜6]
実施例1で用いた保護膜形成剤、保護膜形成剤濃度、有機溶媒を適宜変更して、ウェハの表面処理を行い、さらにその評価を行った。結果を表1に示す。なお、表1中で、HFE−7100とはハイドロフルオロエーテル(住友スリーエム社製Novec HFE−7100)を意味し、(CH(H)Si-Clはジメチルクロロシランを意味する。
【0075】
[比較例1]
保護膜形成剤としてヘキサメチルジシラザン〔(CHSi-NH-Si(CH〕を用いた以外は、すべて実施例3と同じとした。評価結果は表に示すとおり、表面処理後の接触角は30°であり、撥水性付与効果が不十分であった。
【0076】
[比較例2]
保護膜形成剤としてトリメチルクロロシラン〔(CHSi-Cl〕を用いた以外は、すべて実施例6と同じとした。評価結果は表に示すとおり、表面処理後の接触角は50°であり、撥水性付与効果が不十分であった。
【0077】
実施例3と比較例1は、用いたケイ素化合物がジメチルシリル化合物(実施例3)か、トリメチルシリル化合物(比較例1)かという点以外は同様の条件であるが、実施例3では表面処理後の接触角が81°と非常に良好な撥水性付与効果があるのに対し、比較例1では表面処理後の接触角が30°と撥水性付与効果は不十分であり、疎水基であるメチル基の数が少ないジメチルシリル化合物のほうが撥水性付与効果が大きかった。実施例6と比較例2の結果も同様であり、ジメチルクロロシランが良好な撥水性付与効果があるのに対しトリメチルクロロシランでは充分な撥水性能が得られなかった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の保護膜形成用薬液及び該薬液を用いたウェハの洗浄方法は、電子産業の集積回路分野において、デバイスの製造効率の向上や、製造歩留まりの向上に貢献する。
【符号の説明】
【0079】
1 ウェハ
2 ウェハ表面の凹凸パターン
3 パターンの凸部
4 パターンの凹部
5 凹部の幅
6 凸部の高さ
7 凸部の幅
8 凹部4に保持された撥水性保護膜形成用薬液
9 凹部4に保持された液体
10 撥水性保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸パターンを有し該凹凸パターンの少なくとも凹部表面にケイ素元素を含むウェハの洗浄時に該凹凸パターンの少なくとも凹部表面に保護膜を形成するための撥水性保護膜形成用薬液であり、下記一般式[1]で表されるジアルキルシリル化合物を含有し、酸及び塩基を含有しないことを特徴とするウェハパターン保護膜形成用薬液。
【化1】

[式中、Rは、それぞれ互いに独立して、炭素数が1〜18の炭化水素基を含む1価の有機基、および、炭素数が1〜8のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基から選ばれる少なくとも1つの基であり、Xは、ハロゲン原子、またはケイ素元素と結合する元素が窒素である1価の有機基から選ばれる少なくとも1つの基である]
【請求項2】
上記一般式[1]のXがハロゲン原子であることを特徴とする請求項1に記載の薬液。
【請求項3】
上記一般式[1]のXがケイ素元素と結合する元素が窒素である1価の有機基であることを特徴とする請求項1に記載の薬液。
【請求項4】
一般式[1]で表されるジアルキルシリル化合物が下記一般式[2]で表されることを特徴とする請求項1に記載の薬液。
【化2】

[式中、Rは一般式[1]と同様である。]
【請求項5】
表面に凹凸パターンを形成されたウェハにおいて該凹凸パターンの少なくとも凹部表面にケイ素元素を含むウェハの洗浄方法であって、
前記ウェハ表面を水系洗浄液で洗浄する、水系洗浄液洗浄工程、
前記ウェハの少なくとも凹部に撥水性保護膜形成用薬液を保持し、該凹部表面に撥水性保護膜を形成する、撥水性保護膜形成工程、
ウェハ表面の液体を除去する、液体除去工程、
前記凹部表面から撥水性保護膜を除去する、撥水性保護膜除去工程、
を含み、撥水性保護膜形成工程において請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液を用いることを特徴とする、ウェハの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−33880(P2012−33880A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108323(P2011−108323)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】