説明

操舵角検出装置

【課題】 ステアリングシャフトを静止したままで絶対操舵角が検出でき、多回転でも操舵角が検出できる操舵角検出装置を提供する。
【解決手段】 ステアリングシャフト1と一体的に回転する径Rの主ローラ2と、主ローラ2に外接し径r1の第一差動ローラ3と、主ローラ2に外接し径r2(r1<r2<R)の第二差動ローラ4と、第一差動ローラ3の回転角θ1を±180°の範囲で検出する第一回転角センサ5と、第二差動ローラ4の回転角θ2を±180°の範囲で検出する第二回転角センサ6と、2つの回転角θ1,θ2で定義される位相差αに基づいてステアリングシャフト1の操舵角Φを演算する演算回路とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数回転されるステアリングシャフトの絶対操舵角を検出する操舵角検出装置に係り、ステアリングシャフトを静止したままで絶対操舵角が検出でき、多回転でも操舵角が検出できる操舵角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリングシャフトの操舵角を検出する操舵角検出装置として、インクリメント式の光エンコーダを利用したものが知られている。この種の操舵角検出装置ではパルス信号の数をカウントすることで、もとの操舵角からの増減分を検出し、もとの操舵角に増減分を加えることで絶対操舵角を得ている。しかし、この種の操舵角検出装置は、電源を常に通電しておかないと、もとの操舵角の情報が失われてしまう。このため自動車では、操舵角検出が必要ない状況でもバッテリの電力が消費され、いわゆるバッテリあがりを招くおそれがあった。
【0003】
また、操舵角はステアリングシャフトの複数回転分の角度として検出する必要があることから、1回転分だけの回転角度センサでは足りない。そこで、互いに回転比が異なる2つの回転角度センサを使用し、両回転角度センサの出力の組み合わせから操舵角を検出するようになっている。この種の操舵角検出装置のなかでも、特許文献1に開示されている操舵角検出装置は、ステアリングシャフトを動かさなくても絶対操舵角が検出できる。以下、アブソリュート型光エンコーダと磁気式回転センサを利用した従来の操舵角検出装置の要点を説明する。
【0004】
図7に示されるように、主センサ101は、ステアリングシャフト6に外嵌された光エンコーダ板102と、この光エンコーダ板102を挟むように配置された8組の発光器及び受光器(まとめて光センサ群103とする)とからなるアブソリュート型の光エンコーダで構成されている。光エンコーダ板102には、その円周角をグレイコードまたはビットコードからなるコード値で表すスリットが設けられている。光エンコーダ板102がステアリングシャフト6と一体的に回転するのに対し光センサ群103は車体に固定されている。光エンコーダ板102が回転すると、発光器からの光がスリットを通して受光器で受光され、光が遮られたときには受光されない。発光器及び受光器を8組用いることにより、360°を256段階で表現することができる。ステアリングシャフト6が複数回転すれば同じ回数だけ光エンコーダ板102も回転する。よって、主センサ101の読み取り値は、360°おきに同じ値が繰り返される。
【0005】
副センサ104は、ステアリングシャフト6に外嵌された主歯車105に対して増速の関係となるよう歯数を少なくした副歯車106の中に棒磁石107を内蔵し、NSの磁極がこの副歯車106の径方向に向くようにし、この副歯車106に対して軸方向より磁気センサ(図示せず)を臨ませたものである。副センサ104は、副歯車106の1回転ごとに副歯車106の回転角に対して正弦波状に変化をする波形を繰り返す。
【0006】
特許文献1の段落0020〜0052に記載された操舵角検出装置もほぼ図10の構成に従うものである。特許文献1の場合、360°をC0〜C13の14段階で表現するようになっている。また、特許文献1によれば、増速比は1.75倍、つまり、主歯車の歯数対副歯車の歯数は7:4であるから、主歯車が4回転(=ステアリングシャフトが4回転)するごとに副歯車は7回転する。
【0007】
この操舵角検出装置の場合、ステアリングシャフトの操舵角−720°〜+720°の間に、主センサから読み取れる回転角と副センサの出力電圧との組み合わせが同一となる操舵角が複数存在するので、主センサから読み取れる回転角の変化状態と副センサの出力電圧の変化状態とを加味することで、操舵角を一つに絞って推定することができる。
【0008】
特許文献1の段落0054以降に記載された別の形態では、副センサにポテンショメータを用いることにより、副歯車の1回転ごとに副歯車の回転角に対して直線的に変化をする波形を繰り返すようにすることができ、この場合、ステアリングシャフトの操舵角−720°〜+720°の間に、主センサから読み取れる回転角と副センサから読み取れる回転角との組み合わせが同一となる2つの操舵角が存在しないので、主センサから読み取れる回転角と副センサから読み取れる回転角との組み合わせで操舵角を特定することができる。
【0009】
【特許文献1】特開2002−98522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
インクリメント式の光エンコーダを利用した操舵角検出装置は、常時通電の必要があるため、電力が無駄に消費された。
【0011】
特許文献1の操舵角検出装置は、主センサが光エンコーダ方式であるため、主センサの分解能が25.7°と粗い。この主センサの分解能によって操舵角の分解能が規定されてしまう。
【0012】
また、特許文献1の1つ目の形態の操舵角検出装置は、主センサから読み取れる回転角と副センサの出力電圧との組み合わせが同一となる操舵角が複数存在するので、主センサから読み取れる回転角の変化状態と副センサの出力電圧の変化状態とを加味しなければ、操舵角を一つに絞ることができない。つまり、ステアリングシャフトを静止したままでは操舵角が検出できない。
【0013】
一方、特許文献1の2つ目の形態の操舵角検出装置は、ステアリングシャフトを静止したままで絶対操舵角が検出できる。しかし、主歯車と副歯車のギア比が7:4と簡単な整数比であるため主歯車が4回転(前後に2回転)すると副歯車が7回転して両歯車の回転角が共に0°に戻って両センサの出力電圧が元の組み合わせに戻るため、ステアリングシャフトが4回転を越えると操舵角が一つに定まらず、2つのセンサの回転角のみでは操舵角を検出することができない。
【0014】
さらに、特許文献1の操舵角検出装置や図7のものは、主歯車105に副歯車106を噛合させて回転を伝えることで副センサの回転を得ている。しかし、歯車には必ずがた(あそび)がある。このがたのために操舵角の測定精度が向上できない。また、主歯車105あるいは副歯車106に歯欠けが生じると、副センサが間違った出力を出すようになり、操舵角検出不能になる。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、ステアリングシャフトを静止したままで絶対操舵角が検出でき、多回転でも操舵角が検出できる操舵角検出装置を提供することにある。さらに、この目的以外にも、前述した諸問題を解決する目的も有する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明(請求項1)は、ステアリングシャフトに外嵌されて該ステアリングシャフトと一体的に回転して径Rを有する主ローラと、この主ローラに外接して回転されて該主ローラの径Rより小さい径r1を有する第一差動ローラと、前記主ローラに外接して回転されて前記主ローラの径Rより小さく前記第一差動ローラの径r1より大きい径r2を有する第二差動ローラと、前記第一差動ローラの回転角θ1を±180°の範囲で検出する第一回転角センサと、前記第二差動ローラの回転角θ2を±180°の範囲で検出する第二回転角センサと、前記検出された2つの回転角θ1,θ2で定義される位相差αに基づいて上記ステアリングシャフトの操舵角Φを演算する演算回路とを備え、
上記位相差αは、
|θ1−θ2|≦180°のとき、 α=θ1−θ2
|θ1−θ2|>180°のとき、
θ1<0であれば、 α=θ1+360−θ2
θ1>0であれば、 α=θ1−360−θ2
で定義されるものである。
【0017】
また、本発明(請求項2)は、ステアリングシャフトに外嵌されて該ステアリングシャフトと一体的に回転して径Rを有する主ローラと、この主ローラにより循環駆動されるベルトと、このベルトに接して回転されて該主ローラの径Rより小さい径r1を有する第一差動ローラと、前記ベルトに接して回転されて前記主ローラの径Rより小さく前記第一差動ローラの径r1より大きい径r2を有する第二差動ローラと、前記第一差動ローラの回転角θ1を±180°の範囲で検出する第一回転角センサと、前記第二差動ローラの回転角θ2を±180°の範囲で検出する第二回転角センサと、前記検出された2つの回転角θ1,θ2で定義される位相差αに基づいて上記ステアリングシャフトの操舵角Φを演算する演算回路とを備え、
上記位相差αは、
|θ1−θ2|≦180°のとき、 α=θ1−θ2
|θ1−θ2|>180°のとき、
θ1<0であれば、 α=θ1+360−θ2
θ1>0であれば、 α=θ1−360−θ2
で定義されるものである。
【0018】
上記演算回路は、上記位相差αを操舵角演算式に代入して上記ステアリングシャフトの操舵角Φを演算し、その操舵角演算式は、
【0019】
【数1】

【0020】
で与えられてもよい。
【0021】
上記演算回路は、上記位相差αを予め記憶している操舵角対位相差特性に当てはめて操舵角Φを特定してもよい。
【0022】
前記第一、第二差動ローラにそれぞれ磁極が当該差動ローラの中心を挟んで位置するよう磁石を取り付け、これら前記第一、第二差動ローラに対してそれぞれ軸方向より磁気センサを臨ませて第一、第二回転角センサを構成してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0024】
(1)ステアリングシャフトを静止したままで絶対操舵角が検出できる。
【0025】
(2)多回転でも操舵角が検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0027】
図1に示されるように、本発明に係る操舵角検出装置は、ステアリングシャフト1に外嵌されてステアリングシャフト1と一体的に回転して径Rを有する主ローラ2と、この主ローラ2に外接して回転されて該ローラ2の径Rより小さい径r1を有する第一差動ローラ3と、主ローラ2に外接して回転されて主ローラ2の径Rより小さく第一差動ローラ3の径r1より大きい径r2を有する第二差動ローラ4と、第一差動ローラ3の回転角θ1を±180°の範囲で検出する第一回転角センサ5と、第二差動ローラ4の回転角θ2を±180°の範囲で検出する第二回転角センサ6と、前記検出された2つの回転角θ1,θ2で定義される位相差αに基づいてステアリングシャフト1の操舵角Φを演算する演算回路(図示せず)とを備える。
【0028】
第一、第二回転角センサ5,6に使用する回転角センサは、回転角に比例した信号を出力するものであれば何でもよいが、ここでは、差動ローラに対して非接触で角度を検出できる磁気式の回転角センサを使用してある。すなわち、 第一、第二差動ローラ3,4にそれぞれ磁極が当該差動ローラ3,4の中心を挟んで位置するよう磁石7,8を取り付け、これら第一、第二差動ローラ3,4に対してそれぞれ軸方向より磁気抵抗素子からなる磁気センサ9,10を臨ませて第一、第二回転角センサ5,6を構成してある。磁石7,8は、直径を境に片側がN極、反対側がS極となっている円形磁石(環状磁石ともいう)である。磁石7,8は、この磁石7,8の径の中心を第一、第二差動ローラ3,4の径の中心に合わせ、第一、第二差動ローラ3,4の内部に収容されている。これにより、N極とS極は互いに径方向反対側に位置する。磁気センサ9,10は、第一、第二差動ローラ3,4の径の中心に配置され、非回転系(図示せず)に固定されている。
【0029】
第一、第二回転角センサ5,6の回転角検出原理は同じであるから、第一回転角センサ5についてのみ説明する。磁気センサ9の磁束感知面は第一差動ローラ3の軸方向に向けてある。磁石7のN極からS極へ向かう磁束が磁気センサ9の磁束感知面を通ることにより、磁束に比例した電圧が磁気センサ9から出力される。なお、磁気センサ9は、Philips社のMRセンサ等の回転角検出用MRセンサであり、MR素子からなる2個のブリッジ回路を45度ずらした形で配置したものである。これにより、sinθ波形とcosθ波形の出力が得られ、これら2つの出力からatanθ(=sinθ/cosθ)を求めた信号が磁気センサ9の出力となる。
【0030】
いま、図示のように磁石7のN極側が0°の方向を向いており(これをθ=0とする)、N極S極の境界線が±90°の方向を向いているとする。このとき磁気センサ9の電圧は0である。第一差動ローラ3が回転すると、磁石7が回転してN極S極の位置が変わるので、磁気センサ9の磁束感知面を通る磁束が変化する。よって、磁気センサ9の電圧は増加する。その後、第一差動ローラ3が90°まで回転すると磁気センサ9の電圧は最大値から符号が逆転して最低値となる。180°まで回転すると、図示とは逆に磁石7のS極側が0°の方向を向くことになる。このとき磁気センサ9の電圧は0となる。さらに第一差動ローラ3が回転すると、磁気センサ9の電圧は再び増加して270°で最大値から最低値に逆転し、第一差動ローラ3が360°回転したところで、磁気センサ9の電圧はもとの0へ戻る。つまり、360°回転内に2周期の変化が生じる。
【0031】
第一差動ローラ3が360°を越えて何回転しても、1回転における磁気センサ9の電圧変化は同じ経過をたどる。ここでは、0°を基準とし、±180°で回転角を表すものとする。つまり、第一差動ローラ3が200°回転したとすると、そのときの回転角は−160°と表現される。いいかえると、磁気センサ9は、回転角−160°に換算される電圧を出力する。
【0032】
前述した磁石7と磁気センサ9の位置関係が変化することにより、回転角が0°のとき磁気センサ9の電圧が0となり、回転角0°から+方向に180°回転するまでは磁気センサ9の電圧が正の値でしだいに高くなり、回転角0°から−方向に180°回転するまでは磁気センサ9の電圧が負の値でしだいに低くなることになる。このように、回転角とセンサ出力電圧とは、リニアな関係にあり、符号も揃っている。以下では、磁気センサ9の電圧を第一回転角センサ5が検出した第一差動ローラ3の回転角θ1と等価と考える。
主ローラ2が多回転すると、それに随伴して第一、第二差動ローラ3,4はそれよりも多回転する。これにともなう、第一、第二回転角センサ5,6の出力変化を図2に示す。横軸は操舵角である。縦軸は磁気センサ9,10の電圧であるが、回転角θ1,θ2に読み替え可能であり、例えば、電圧Vhは回転角+180°、電圧Vlは−180°と読める。破線は第一回転角センサ5の出力、実線は第二回転角センサ6の出力を表す。この図を参照しながら、以下の説明を行う。
【0033】
図1の操舵角検出装置は、主ローラ2が例えば時計回りに回転すると、第一、第二差動ローラ3,4は反時計回りに回転する。しかし、以下では、操舵角(=主ローラ2の回転角を複数回転分の角度範囲で表したもの)が正に増える方向(主ローラ2の正回転方向)を第一、第二差動ローラ3,4の正回転方向と定義する。
【0034】
この操舵角検出装置において、それぞれのローラ径の違い(r1<r2<R)から、主ローラ2が操舵角Φ回転したとき、第一、第二差動ローラ3,4の回転角θ1,θ2は式(1),(2)のようになる。
【0035】
θ1=Φ×R/r1 (1)
θ2=Φ×R/r2 (2)
このとき、回転角θ1,θ2は±180°以下(±180°の範囲を越えないの意、つまり−180°≦θ1,θ2≦+180°)であるから、式(1)で求めることのできる操舵角Φの範囲、あるいは式(2)で求めることのできる操舵角Φの範囲は、いずれも±180°未満(−180°<θ1,θ2<+180°)に限られる。
【0036】
次に、式(1)と式(2)の差を求めると、
θ1− θ2=Φ×R×(r2−r1)/(r1×r2) (3)
となる。この式(3)より、
【0037】
【数2】

【0038】
が得られる。つまり、回転角θ1,θ2の組み合わせから操舵角Φを計算することができる。この式(4)において、主ローラ2の径Rを一定とすると、第一、第二差動ローラ3,4の径の差(r2−r1)を小さくすることにより、分母が小さくなるので、操舵角Φは大きくなる。つまり、第一、第二回転角センサ5,6が出力する回転角θ1,θ2が±180°以下であっても、±180°以上の操舵角Φを算出できる。
【0039】
次に、その演算方法を説明する。
【0040】
まず、位相差αを次式(5)のように定義する。
【0041】
α=θ1− θ2 (5)
主ローラ2が正回転するとき、第一差動ローラ3が第二差動ローラ4よりも速く回転するため、回転角θ1が180°以下のとき、θ1> θ2となり、位相差αは正の値となる。しかし、第一差動ローラ3がさらに回転して回転角θ1が180°を越える瞬間、回転角θ1は不連続的に−180°になる。この不連続点Pを超えると式(5)で位相差αを定義することができない。
【0042】
不連続点Pを超えた状態では、|θ1−θ2|>180°となってしまう。しかし、このとき回転角θ1に360°を加算してやると、位相差αの正確な値を求めることが可能となる。
【0043】
続いて回転角θ2が不連続点Qを超えると、|θ1−θ2|≦180°に戻るので、回転角θ1に360°を加算する必要はなくなる。
【0044】
一方、主ローラ2が逆正回転するとき、やはり第一差動ローラ3が第二差動ローラ4よりも速く回転する。ただし、回転角θ1の符号は負であるから、θ1<θ2となり、位相差αは負の値となる。しかし、第一差動ローラ3がさらに回転して回転角θ1が−180°を越える瞬間、回転角θ1は不連続的に180°になる。この不連続点Rを超えると式(5)で位相差αを定義することができない。
【0045】
ここでも不連続点Rを超えた状態では、|θ1−θ2|>180°となってしまう。しかし、このとき回転角θ1から360°を減算してやると、位相差αの正確な値を求めることが可能となる。
【0046】
続いて回転角θ2が不連続点Sを超えると、|θ1−θ2|≦180°に戻るので、回転角θ1に360°を加算する必要はなくなる。
【0047】
まとめると、|θ1−θ2|≦180°のときであれば、式(5)で位相差αを定義してよい。|θ1−θ2|>180°のときは、式(5)に対して360°の加算又は減算の項を追加すればよい。360°を加算するか減算するかは、回転角θ1の符号よって判断できる。よって、
θ1<0であれば、α=θ1+360−θ2 (5’)
θ1>0であれば、α=θ1−360−θ2 (5”)
と定義できる。
【0048】
以上により、回転角θ1,θ2の全ての値の組み合わせに対して位相差αが定義できた。また、式(4)は、
【0049】
【数3】

【0050】
で表すことができる。この式(6)を操舵角演算式と呼ぶ。位相差αを操舵角演算式(6)に代入すれば操舵角Φを得ることができる。図2には、どの式(5)、(5’)、(5”)で位相差αを表すことになるか示してある。
【0051】
図3に操舵角対位相差特性を示す。図示のように、操舵角Φ=0°のとき位相差α=0であり、操舵角Φ=−1080°から+1080°まで位相差αは直線的に変化する。
【0052】
演算回路は、位相差αを操舵角演算式(6)に代入する代わりに、図3の操舵角対位相差特性を予めテーブルに記憶しておき、この操舵角対位相差特性に位相差αを当てはめて操舵角Φを特定することができる。
【0053】
ところで、操舵角演算式(6)において、位相差αの絶対値が180°未満であれば操舵角Φを算出することが可能である。ステアリングシャフト1の回転数をnとすると、操舵角Φがn×360°まで算出可能なためには、
R×(r2−r1)(n×360°)/(r1×r2)<180°
であればよい。
【0054】
これより、
2R×(r2−r1)×n<r1×r2 (7)
となり、nについての式、
n<(r1×r2)/{2R×(r2−r1)} (8)
が得られる。
【0055】
たとえば、R=25mm、r2=13mm、r1=12mmの場合、
n<3.12
となるから、±3回転分の操舵角Φが算出できる。
【0056】
本発明の操舵角検出装置は、2つの差動ローラ間の位相差αに基づいて操舵角Φを演算するようにしたので、ステアリングシャフトを静止したままで絶対操舵角が検出でき、電源を投入した時点からただちに検出を行うことができる。
【0057】
また、2つの差動ローラ3,4の回転角θ1,θ2に応じて位相差αを定義したので、多回転でも操舵角が検出できる。
【0058】
また、本発明の操舵角検出装置は、歯車を使用せず、ローラを使用しているので、がたがなく操舵角の測定精度が向上する。また、歯欠けによる不具合が発生しない。
【0059】
次に、本発明の操舵角検出装置を車両に搭載した実施形態を説明する。
【0060】
図4に示されるように、車両にはラック41とピニオン42が組み合わせて設けられ、ラック41の両端にはそれぞれ継ぎ手43を介してタイヤ44が水平方向に回動可能に取り付けられている。一方、ピニオン42には継ぎ手45を介してステアリングシャフト1が連結されている。ステアリングハンドル48によりステアリングシャフト1を回転させるとラック41が直線運動して両タイヤ44の向きを変える仕組みになっている。
【0061】
このステアリングシャフト1に本発明の操舵角検出装置が設置されている。この操舵角検出装置内の第一、第二回転角センサ5,6のの出力は、既に説明した操舵角検出の演算を行う演算用プロセッサ46に入力され、演算用プロセッサ46が出力する操舵角情報は上位の運動制御コントローラ47へ伝送されるようになっている。
【0062】
運動制御コントローラ47が例えば自動操縦機能を有する場合、演算用プロセッサ46が出力する操舵角情報を利用することができる。さらに、運動制御コントローラ47がカーナビゲーションシステムからの地図情報に従って自立航法を実施する場合も演算用プロセッサ46が出力する操舵角情報を利用することができる。
【0063】
図5に示されるように、本発明の操舵角検出装置は、ステアリングシャフト1を囲むように設けられて車体に固定された筐体51を有し、その筐体51内に既に述べた主ローラ2、第一、第二差動ローラ3,4等の構成部材が収容されている。主ローラ2はステアリングシャフト1に固定されてステアリングシャフト1と一体的に回転するようになっている。また、第一、第二差動ローラ3,4は図示しないローラ軸が筐体51に軸承され、主歯車5に随伴して回転するようになっている。
【0064】
さらに、この実施形態では、筐体51内に基板52が設けられ、その基板52上に、第一、第二回転角センサ5,6としての磁気センサ9,10、演算用プロセッサ46が実装されている。このように、磁気センサ9,10や演算用プロセッサ46の電気系部材を同一の基板52に実装したので、操舵角検出装置が占有するスペースを小さくすることができる。
【0065】
図1の実施形態では、 第一、第二差動ローラ3,4は、それぞれ主ローラ2に接することで主ローラ2から回転力を得て回転するようにした。しかし、回転力の伝達方法はこれに限らない。図6に併記した形態では、主ローラ2にベルト61が掛けられており、主ローラ2の回転によりベルト61が循環駆動されるようになっている。第一、第二差動ローラ3,4は主ローラ2に外接せず、ベルト61に接する。これにより、主ローラ2が時計回りに回転すると、第一、第二差動ローラ3,4も時計回りに回転する。図1の形態と第一、第二差動ローラ3,4の回転方向が逆になるが、操舵角が正に増える方向を第一、第二差動ローラ3,4の正回転方向と定義しておけば問題なく、これまで説明した位相差αを操舵角演算式(6)に代入すれば操舵角Φが算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態を示す操舵角検出装置の断面図である。
【図2】本発明における回転角センサの操舵角対電圧特性図である。
【図3】本発明における操舵角対位相差特性図である。
【図4】本発明の操舵角検出装置を搭載した車両のステアリング構造図である。
【図5】図4の操舵角検出装置の内部構造断面図である。
【図6】本発明の一実施形態を示す操舵角検出装置の断面図である。
【図7】従来の操舵角検出装置の平面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 ステアリングシャフト
2 主ローラ
3 第一差動ローラ
4 第二差動ローラ
5 第一回転角センサ
6 第二回転角センサ
7、8 磁石
9、10 磁気センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトに外嵌されて該ステアリングシャフトと一体的に回転して径Rを有する主ローラと、この主ローラに外接して回転されて該主ローラの径Rより小さい径r1を有する第一差動ローラと、前記主ローラに外接して回転されて前記主ローラの径Rより小さく前記第一差動ローラの径r1より大きい径r2を有する第二差動ローラと、前記第一差動ローラの回転角θ1を±180°の範囲で検出する第一回転角センサと、前記第二差動ローラの回転角θ2を±180°の範囲で検出する第二回転角センサと、前記検出された2つの回転角θ1,θ2で定義される位相差αに基づいて上記ステアリングシャフトの操舵角Φを演算する演算回路とを備え、
上記位相差αは、
|θ1−θ2|≦180°のとき、 α=θ1−θ2
|θ1−θ2|>180°のとき、
θ1<0であれば、 α=θ1+360−θ2
θ1>0であれば、 α=θ1−360−θ2
で定義されることを特徴とする操舵角検出装置。
【請求項2】
ステアリングシャフトに外嵌されて該ステアリングシャフトと一体的に回転して径Rを有する主ローラと、この主ローラにより循環駆動されるベルトと、このベルトに接して回転されて該主ローラの径Rより小さい径r1を有する第一差動ローラと、前記ベルトに接して回転されて前記主ローラの径Rより小さく前記第一差動ローラの径r1より大きい径r2を有する第二差動ローラと、前記第一差動ローラの回転角θ1を±180°の範囲で検出する第一回転角センサと、前記第二差動ローラの回転角θ2を±180°の範囲で検出する第二回転角センサと、前記検出された2つの回転角θ1,θ2で定義される位相差αに基づいて上記ステアリングシャフトの操舵角Φを演算する演算回路とを備え、
上記位相差αは、
|θ1−θ2|≦180°のとき、 α=θ1−θ2
|θ1−θ2|>180°のとき、
θ1<0であれば、 α=θ1+360−θ2
θ1>0であれば、 α=θ1−360−θ2
で定義されることを特徴とする操舵角検出装置。
【請求項3】
上記演算回路は、上記位相差αを操舵角演算式に代入して上記ステアリングシャフトの操舵角Φを演算し、その操舵角演算式は、
【数1】

で与えられることを特徴とする請求項1又は2記載の操舵角検出装置。
【請求項4】
上記演算回路は、上記位相差αを予め記憶している操舵角対位相差特性に当てはめて操舵角Φを特定することを特徴とする請求項1又は2記載の操舵角検出装置。
【請求項5】
前記第一、第二差動ローラにそれぞれ磁極が当該差動ローラの中心を挟んで位置するよう磁石を取り付け、これら前記第一、第二差動ローラに対してそれぞれ軸方向より磁気センサを臨ませて第一、第二回転角センサを構成することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の操舵角検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−119082(P2006−119082A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309508(P2004−309508)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】