説明

攪拌装置、攪拌方法、反応容器及び攪拌装置を備えた分析装置

【課題】振動子が一つであっても液体に出射する音波の出射位置を変化させて効率良く攪拌することができ、構成が簡単で安価、かつ、小型な攪拌装置、攪拌方法、反応容器及び攪拌装置を備えた分析装置を提供すること。
【解決手段】容器7に保持された液体を音波によって攪拌する攪拌装置、攪拌方法、反応容器及び攪拌装置を備えた分析装置。攪拌装置20は、音波を発生する少なくとも一つの発音部21bを有する音波発生素子21と、音波発生素子の駆動信号の周波数を制御する制御部23を有する駆動回路22とを備え、制御部によって駆動信号の周波数を制御することにより、同一の発音部が発生した音波が液体中へ出射する出射位置を変化させて攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌装置、攪拌方法、反応容器及び攪拌装置を備えた分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
容器に保持した液体を音波によって攪拌する場合、一定の音圧を有する音波を一定方向から液体に照射しても容器内面から液体に出射する音波の出射位置が変化せず、液体が同じ位置を循環することから攪拌に時間がかかるという問題があった。このため、例えば、一つの容器に対して複数の振動子を設けると共に、複数の振動子の動作を切り替える切替機構を用いることにより、容器内面から液体に出射する音波の出射位置を変化させ、液体の攪拌を可能とした攪拌装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−204939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1は、一つの容器に対して複数の振動子を設けると共に、複数の振動子の動作を切替機構によって切り替えることで容器に保持した液体を攪拌している。このため、特許文献1の攪拌装置は、構成が複雑になり、振動子を複数必要とすることから設計上の自由度が制限されるうえ、製造コストの増加や小型化が困難になるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、振動子が一つであっても液体に出射する音波の出射位置を変化させて効率良く攪拌することができ、構成が簡単で安価、かつ、小型な攪拌装置、攪拌方法、反応容器及び攪拌装置を備えた分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に係る攪拌装置は、液体の保持手段に保持された液体を音波によって攪拌する攪拌装置であって、前記音波を発生する少なくとも一つの発音部を有する音波発生素子と、前記音波発生素子の駆動信号の周波数を制御する制御部を有する駆動手段と、を備え、前記制御部によって前記駆動信号の周波数を制御することにより、前記同一の発音部が発生した前記音波が前記液体中へ出射する出射位置を変化させて前記液体を攪拌することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記制御部は、前記駆動信号の交流成分の周波数を所定範囲内において変化させる制御を行うことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記周波数の所定範囲は、共振周波数から反共振周波数までの範囲の少なくとも一部を含むことを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記制御部は、前記交流成分の周波数を所定のタイミングで異なる周波数に切り替えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記制御部は、前記交流成分の周波数を所定の範囲で変調させることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生素子は、表面弾性波発生素子であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生素子は、前記液体の保持手段に保持される液体と非接触に設けられることを特徴とする。
【0013】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項8に係る攪拌方法は、液体の保持手段に保持された液体を音波によって攪拌する攪拌方法であって、前記音波を発生する音波発生手段の駆動信号の周波数を制御することにより、前記音波が前記液体中へ出射する出射位置を変化させて前記液体を攪拌することを特徴とする。
【0014】
また、請求項9に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記音波発生手段は、圧電基板上に櫛歯電極が形成された表面弾性波素子であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項10に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記駆動信号の交流成分の周波数を共振周波数から反共振周波数までの範囲内において変化するように制御することを特徴とする。
【0016】
また、請求項11に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記駆動信号の交流成分の周波数を所定のタイミングで異なる周波数に切り替えるように制御することを特徴とする。
【0017】
また、請求項12に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記駆動信号に含まれる交流成分の周波数を前記共振周波数から前記反共振周波数までの範囲内において変調するように制御することを特徴とする。
【0018】
また、請求項13に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記周波数は、前記音波発生手段の共振周波数と反共振周波数の中間の周波数を第1の駆動周波数とし、前記共振周波数又は前記反共振周波数を第2の駆動周波数として前記第1の駆動周波数と前記第2の駆動周波数との範囲内においてランダム、もしくは、断続的に切り替えることを特徴とする。
【0019】
また、請求項14に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記周波数は、前記音波発生手段の共振周波数と反共振周波数の中間の周波数を第1の駆動周波数とし、前記共振周波数又は前記反共振周波数を第2の駆動周波数として前記第1の駆動周波数と前記第2の駆動周波数との間で変調することを特徴とする。
【0020】
また、請求項15に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記周波数変調の変動周期は、2〜20Hzとすることを特徴とする。
【0021】
また、請求項16に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記駆動周波数と前記中心周波数との差に応じて前記音波発生手段の駆動電力を増加させることを特徴とする。
【0022】
また、請求項17に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記音波発生手段を駆動する周波数を前記音波が前記液体中へ出射する範囲内となるように制御することを特徴とする。
【0023】
また、請求項18に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記音波発生手段を駆動する駆動周波数は、前記液体中へ出射された音波の交差位置が当該液体の液面よりも上方となる周波数を使用することを特徴とする。
【0024】
また、請求項19に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記音波発生手段の駆動周波数は、前記液体の液面が高い場合の前記駆動周波数と前記中心周波数との差を、前記液体の液面が低い場合よりも大きく設定することを特徴とする。
【0025】
また、請求項20に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記音波発生手段の駆動周波数は、前記液体の液面が高い場合の前記音波発生手段の駆動電力を、前記液体の液面が低い場合よりも大きく設定することを特徴とする。
【0026】
また、請求項21に係る攪拌方法は、上記の発明において、更に、振幅を変調させることを特徴とする。
【0027】
また、請求項22に係る攪拌方法は、上記の発明において、前記液体の保持手段に保持された液体を、当該液体と非接触に設けた前記表面弾性波素子により攪拌することを特徴とする。
【0028】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項23に係る反応容器は、圧電基板上に櫛歯電極が形成された表面弾性波素子が取り付けられ、前記攪拌方法によって前記表面弾性波素子が駆動されることを特徴とする。
【0029】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項24に係る反応容器は、櫛歯電極が形成された表面弾性波素子が取り付けられ、前記攪拌方法によって前記表面弾性波素子が駆動され、少なくとも複数の液体を攪拌して反応させる反応部と測定センサとが設けられたことを特徴とする。
【0030】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項25に係る分析装置は、複数の液体を攪拌して反応させ、反応液を分析する分析装置であって、前記攪拌装置を用いて前記複数の液体を攪拌して反応させ、反応液を分析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかる攪拌装置、攪拌方法、反応容器及び攪拌装置を備えた分析装置は、制御部によって駆動信号を制御することにより、同一の発音部が発生した音波が液体中へ出射する出射位置を変化させて液体を攪拌するので、振動子が一つであっても液体に出射する音波の出射位置を変化させて効率良く攪拌することができ、構成が簡単で安価、かつ、小型になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(実施の形態1)
以下、本発明の攪拌装置、攪拌方法、反応容器及び攪拌装置を備えた分析装置にかかる実施の形態1について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明の分析装置の実施の形態1を示す自動分析装置の概略構成図である。図2は、図1の自動分析装置で用いる本発明の反応容器を示す斜視図である。図3は、表面弾性波素子を取り付けた図2の反応容器を示す平面図である。図4は、図1の自動分析装置で用いる本発明の攪拌装置の概略構成を示す図である。
【0033】
自動分析装置1は、図1に示すように、作業テーブル2上に検体テーブル3、反応テーブル6及び試薬テーブル13が互いに離間してそれぞれ周方向に沿って回転、かつ、位置決め自在に設けられている。また、自動分析装置1は、検体テーブル3と反応テーブル6との間に検体分注機構5が設けられ、反応テーブル6と試薬テーブル13との間には試薬分注機構12が設けられている。
【0034】
検体テーブル3は、図1に示すように、駆動手段(図示せず)によって矢印で示す方向に回転され、外周には周方向に沿って等間隔で配置される収納室3aが複数設けられている。各収納室3aは、検体を収容した検体容器4が着脱自在に収納される。
【0035】
検体分注機構5は、検体を後述する反応容器7に分注する手段であり、検体テーブル3の複数の検体容器4から検体を順次後述する反応容器7に分注する。
【0036】
反応テーブル6は、図1に示すように、駆動手段(図示せず)によって矢印で示す方向に回転され、外周には周方向に沿って等間隔で配置される収納室6aが複数設けられている。各収納室6aは、攪拌容器として検体を試薬と反応させる反応容器7が着脱自在に収納される。また、反応テーブル6には、光源8及び排出装置11が設けられている。光源8は、試薬と検体とが反応した反応容器7内の液体試料を分析するための分析光(340〜800nm)を出射する。光源8から出射された分析用の光ビームは、反応容器7内の液体試料を透過し、光源8と対向する位置に設けた受光素子9によって受光される。一方、排出装置11は、図示しない排出ノズルを備えており、反応容器7から反応終了後の液体試料を前記排出ノズルによって吸引し、排出容器(図示せず)に排出する。ここで、排出装置11を通過した反応容器7は、図示しない洗浄装置に移送されて洗浄された後、再度、新たな検体の分析に使用される。
【0037】
試薬分注機構12は、試薬を反応容器7に分注する手段であり、後述する試薬テーブル13の所定の試薬容器14から試薬を順次反応容器7に分注する。
【0038】
試薬テーブル13は、図1に示すように、図示しない駆動手段によって矢印で示す方向に回転され、扇形に成形された収納室13aが周方向に沿って複数設けられている。各収納室13aは、試薬容器14が着脱自在に収納される。複数の試薬容器14は、それぞれ検査項目に応じた所定の試薬が満たされ、外面には収容した試薬に関する情報を表示するバーコードラベル(図示せず)が貼付されている。
【0039】
ここで、試薬テーブル13の外周には、試薬容器14に貼付した前記バーコードラベルに記録された試薬の種類,ロット及び有効期限等の情報を読み取り、制御部16へ出力する読取装置15が設置されている。制御部16は、受光素子9、排出装置11、読取装置15、分析部17、入力部18及び表示部19と接続され、例えば、分析結果を記憶する記憶機能を備えたマイクロコンピュータ等が使用される。制御部16は、自動分析装置1の各部の作動を制御すると共に、前記バーコードラベルの記録から読み取った情報に基づき、試薬のロットや有効期限等が設置範囲外の場合、分析作業を規制するように自動分析装置1を制御し、或いはオペレータに警告を発する。
【0040】
分析部17は、制御部16を介して受光素子9に接続され、受光素子9が受光した光量に基づく反応容器7内の液体試料の吸光度から検体の成分や濃度等を分析し、分析結果を制御部16に出力する。入力部18は、制御部16へ検査項目等を入力する操作を行う部分であり、例えば、キーボードやマウス等が使用される。表示部19は、分析内容や警報等を表示するもので、ディスプレイパネル等が使用される。
【0041】
以上のように構成される自動分析装置1は、回転する反応テーブル6によって周方向に沿って搬送されてくる反応容器7に検体分注機構5が検体テーブル3の複数の検体容器4から検体を順次分注する。検体が分注された反応容器7は、反応テーブル6によって試薬分注機構12の近傍へ搬送されて所定の試薬容器14から試薬が分注される。そして、試薬が分注された反応容器7は、反応テーブル6によって周方向に沿って搬送される間に試薬と検体とが攪拌されて反応し、光源8と受光素子9との間を通過する。このとき、反応容器7内の液体試料は、受光素子9によって測光され、分析部17によって成分や濃度等が分析される。そして、分析が終了した反応容器7は、排出装置11によって反応終了後の液体試料が排出されて図示しない洗浄装置によって洗浄された後、再度検体の分析に使用される。
【0042】
このとき、自動分析装置1は、反応テーブル6によって周方向に沿って搬送される反応容器7内の液体試料を攪拌装置によって攪拌し、試薬と検体とを反応させる。この液体試料の攪拌に用いる反応容器7と攪拌装置20を攪拌方法と共に以下に説明する。
【0043】
反応容器7は、図2に示すように、側壁7aと底壁7b(図4参照)とによって上部に開口7cを有する四角筒状に成形され、内面の側壁7aと底壁7bとが接する部分は湾曲面に成形されている。反応容器7は、後述する表面弾性波素子21が発する超音波の位相整合条件及び振幅整合条件を満たし、光源8から出射された分析光(340〜800nm)に含まれる光の80%以上を透過する素材、例えば、耐熱ガラスを含むガラス,環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂が使用される。反応容器7は、互いに平行な一組の側壁7bの下部が、光源8から出射された分析用の光ビームが透過し、液体試料を光学測定する測光部として利用される。反応容器7は、図3及び図4に示すように、底壁7bの下面に表面弾性波素子21が取り付けられている。反応容器7は、自動分析装置1に組み込まれた図4に示す攪拌装置20によって保持した液体試料が攪拌される。
【0044】
攪拌装置20は、試薬分注機構12が反応容器7に試薬を分注する位置と互いに対向配置される光源8,受光素子9との間の収納室6a下部に配置されており、図4に示すように、表面弾性波素子21と駆動回路22とを備えている。
【0045】
表面弾性波素子21は、図3に示すように、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等の圧電基板21aの表面に金等の櫛型電極(IDT)からなる振動子21bを設けた音波発生素子である。振動子21bは、櫛歯状に形成された複数の電極指を有し、駆動回路22から送信された駆動信号を表面弾性波(音波)に変換する発音部である。振動子21bは、電気端子21cとの間が共通電極であるバスバー21dによって接続されている。表面弾性波素子21は、図4に示すように、振動子21bを底壁7bの中央に配置し、音響整合層27を介して底壁7bの下面に取り付けられている。
【0046】
駆動回路22は、表面弾性波素子21に駆動信号を供給して駆動する駆動手段であり、図4に示すように、攪拌制御部23、発振部24及び増幅部25を備え、電気端子21cとの間が配線26によって接続されている。
【0047】
攪拌制御部23は、メモリとタイマを内蔵した電子制御手段(ECU)が使用され、表面弾性波素子21の駆動信号を制御する。攪拌制御部23は、発振部24を制御し、例えば、表面弾性波素子21が発する音波の特性(周波数,強度,位相,波の特性)、波形(正弦波,三角波,矩形波,バースト波等)或いは変調(振幅変調,周波数変調)等を制御する。また、攪拌制御部23は、内蔵したタイマに従って発振部24が発振する発振信号の周波数を切り替えることができる。例えば、攪拌制御部23は、表面弾性波素子21の共振周波数と反共振周波数の間の周波数を第1の駆動周波数とし、前記共振周波数又は反共振周波数を第2の駆動周波数として切り替えるように発振部24を制御することができる。
【0048】
発振部24は、攪拌制御部23からの制御信号に基づいて発振周波数をプログラマブルに変更可能な発振回路を有しており、数十MHz〜数百MHz程度の高周波の発振信号を増幅部25へ出力する。
【0049】
増幅部25は、発振部24から入力される発振信号を増幅し、駆動信号として表面弾性波素子21に出力する他、攪拌制御部23からの制御信号に基づいて駆動信号の駆動周波数を段階的に切り替えることができる。この場合、増幅部25が出力する駆動信号は、脈流を含む場合もある。
【0050】
ここで、駆動回路22は、発振部24に代えて信号発生器と電圧制御発振器(VCO)を使用し、信号発生器の発振信号を電圧制御発振器に入力することにより、周波数の切り替えや周波数の変調等の操作を行ってもよい。この場合、電圧制御発振器による周波数変調に加えて増幅部25の出力を切り替えることにより、表面弾性波素子21に出力する駆動信号の振幅を変動させれば、反応容器7に保持した液体試料に脈動を生じさせることができる。
【0051】
音響整合層27は、反応容器7と表面弾性波素子21との間の音響インピーダンスを最適化するもので、エポキシ樹脂等の接着剤やシェラック等の他、ジェルや液体等を使用することができる。音響整合層27は、音波の伝達効率を上げるため、表面弾性波素子21が発する周波数の波長λに対して厚みは、n・λ/4(nは奇数)となるように、または、できるだけ薄くなるように調整する。
【0052】
本発明の自動分析装置1、反応容器7及び攪拌装置20は、以上のように構成され、反応容器7に保持された液体試料を以下に説明する攪拌方法によって攪拌する。先ず、攪拌装置20は、攪拌制御部23による制御の下に駆動回路22から供給される駆動信号によって表面弾性波素子21を駆動する。これにより、振動子21bが、複数の電極指の配列方向に沿った両側へ音波を出射し、音波は圧電基板21aの表面を振動子21bの両側へ伝搬する。振動子21bの両側へ伝搬した音波は、音響整合層27を通って反応容器7の底壁7b内を伝搬した後、音響インピーダンスが近い液体試料Ls中へ音波が漏れ出し、図4に示すように、振動子21bの中心から等距離の位置にある底壁7bの内面から斜め上方に音波Waが出射される。
【0053】
この結果、反応容器7には、底壁7bの内面から斜め上方に出射する音波Waによって液体試料Lsを巻き上げる音響流が生じる。このため、液体試料Lsは、音響流によって底部から液面に至る広範囲に亘って非接触の下に攪拌される。このとき、表面弾性波素子21の駆動信号を制御して周波数を変化させると、同一の振動子21bが発生した音波が底壁7bの内面から液体試料Ls中へ出射する出射位置が変化する。
【0054】
例えば、振動子21bが図5に実線で示すインピーダンスの周波数特性を有する攪拌装置20において、振動子21bの駆動周波数を変化させ、そのときの底壁7bの内面から液体試料Ls中へ出射する音波の出射位置を測定すると、図6に示す結果が得られる。図6は、音波の出射位置を出射点間隔として測定した結果であり、振動子21bの駆動周波数が中心周波数fcの場合に最も出射点間隔が広く、駆動周波数が中心周波数fcから外れて共振周波数frや反共振周波数faに向かうのに伴って出射点間隔が狭くなってゆく。なお、図5において、一点鎖線は、位相の周波数特性を示しており、実線で示すインピーダンスの周波数特性より、共振周波数frは94.3MHz、反共振周波数faは101.5MHzであり、中心周波数fc(=(fr+fa)/2)は97.9MHzと算出される。
【0055】
ここで、音波の出射位置は、反応容器7に保持した蒸留水10μLに青色色素(エバンスブルー)液(比重>1)を1μL滴下して攪拌し、そのときの色素液を伴った蒸留水の流れをビデオ撮影した映像から測定した。
【0056】
このようにしてビデオ撮影した反応容器7における液体の流れの実測図の一例を図7,8に示す。図7は、振動子21bを共振周波数frで駆動した場合、図8は、振動子21bを共振周波数frと反共振周波数faの中間の周波数で駆動した場合である。この測定に用いた反応容器7は、内法が2×3×5(縦×横×高さ)mmであり、底壁7bの厚さ0.5mm、内面の側壁7aと底壁7bとが接する部分は半径R=0.5mmの湾曲面に成形されている。一方、表面弾性波素子21は、振動子21bを形成する櫛型電極(IDT)の交差幅が2.15mm、対数が19対、隣接する電極指の間隔(=λ/2)が9.9μmであり、振動子21bを0.25Wで駆動した。
【0057】
このとき、図7,8において、反応容器7は、蒸留水に滴下した青色の色素液が底部に沈んだ状態で攪拌を開始し、直線で示す2つの矢印Aが音波によって蒸留水を巻き上げる音響流を示しており、大小2つの矢印Bが各音響流の両側に生ずる色素液の渦を示している。この場合、図7,8に示すように、同一の周波数であれば、振動子21bは同じ出射点間隔で音波を出射することから、矢印Bで示す渦が生ずる位置は変化せず、各渦がそれぞれ独立した4つの閉鎖領域を形成する。このため、反応容器7は、渦の発生による閉鎖領域によって保持した蒸留水と色素液とが攪拌され難く、攪拌に時間がかかってしまう。ここで、図6における出射点間隔は、2つの矢印Aの底壁7b内面における距離をビデオ映像から測定したものである。
【0058】
ここで、駆動周波数を変化、即ち、駆動周波数を、例えば、2つの駆動周波数の間で切り替え、或いは2つの駆動周波数の間で変調させると、音波の底壁7b内面における出射点間隔、即ち、出射位置が変化する。このため、前記閉鎖領域は、出射位置が変化する矢印Aで示す音響流が流れ込むことによって破壊されるので、同一の周波数のみで駆動する場合に比べて反応容器7に保持した液体を迅速に攪拌することができる。
【0059】
また、このような周波数の相違による出射点間隔の広狭の差は、周波数の相違による液体の攪拌効率の差を生ずることを示唆している。そこで、振動子21bを単一の周波数で駆動した場合の駆動周波数と液体の攪拌に要する攪拌時間との関係を測定したところ、図9に示す結果が得られた。ここで、この測定に当たっては、上述のビデオ撮影した反応容器7内の色素水を画像処理し、攪拌開始から色素液の色の分布が均一になるまでに要した時間(秒)を攪拌時間とした。
【0060】
図9に示すように、中心周波数fcでは攪拌時間が最短の約15秒であり、中心周波数fcから外れて共振周波数frや反共振周波数faに向かうのに従って攪拌効率が低下し、攪拌時間が長くなることが分かる。例えば、共振周波数fr又は反共振周波数faの場合の攪拌時間は、約40秒であった。従って、ある程度の攪拌効率を保持しつつ、反応容器7の内面から液体試料Ls中へ出射する音波の出射位置を変化させるには、振動子21bは、共振周波数frから反共振周波数faの範囲内の周波数を駆動周波数として使用する必要がある。
【0061】
この場合、駆動周波数が中心周波数fcから外れると、攪拌効率は低下する。このため、振動子21bは、制御する周波数ごとに、駆動周波数と中心周波数fcとの差に応じて電力を増加させるとよい。例えば、駆動周波数をfd、中心周波数fcにおける駆動電力をPc、駆動周波数fdにおける駆動電力をPdとすると、駆動電力Pdは、次式に示す2次の電力補充式によって補充できる。このため、表面弾性波素子21は、予め、図10に示す振動子21bについて周波数と駆動電力との関係を示す図を作成すると共に、次式に示す2次の電力補充式を定めておく。そして、攪拌制御部23は、この電力補充式に基づいて発振部24を制御する。
Pd=α(fd−fc)2+Pc
【0062】
このとき、攪拌制御部23は、中心周波数fc、駆動電力Pc、駆動周波数fdを上述の電力補充式を代入して駆動周波数fdを算出し、算出した駆動周波数fdに基づいて発振部24を制御する。但し、振動子21bの中心周波数fcと駆動電力Pcは既知であるので、攪拌制御部23は、上述の電力補充式に基づいて予め表1に示す駆動周波数fdと駆動電力Pdと対応表を作成し、この対応表を攪拌制御部23のメモリに記憶させておいてもよい。ここで、表1においては、電力補充式の係数αをα=0.01w/(MHz)2としている。
【0063】
【表1】

【0064】
ここで、駆動周波数を変化させる場合、繰返し周波数が同じであれば、例えば、図11に示す波形aのように、2つの駆動周波数f1,f2を等しい周期で切り替えることができる。また、図11に示す波形bのように、2つの駆動周波数f1,f2の間で一方向にスイープさせ、或いは、図11に示す波形cのように、2つの駆動周波数f1,f2の間を往復させてスイープさせることで周期的に変調させてもよい。更に、図11に示す波形dのように、2つの駆動周波数f1,f2の間をステップ状に切り替えて周期的に変調させるか、或いは図11に示す波形eのように、2つの駆動周波数f1,f2間をサイン波によって周期的に周波数変調させることも可能である。
【0065】
そこで、変調波形をサイン波とし、振動子21bの駆動電力を0.1Wとして、駆動周波数102MHzを基準として駆動周波数98MHzとの間で繰返し周波数を0〜30Hzの間で11通りに変化させて反応容器7に保持した液体の攪拌時間を測定した。このときの測定条件は、音波の出射位置を測定した図7,8の場合と同じであり、攪拌時間は図9の場合と同じである。この結果を図12に示す。図12より、98MHzと102MHzの間で駆動周波数を変調する場合、繰返し周波数は、1〜20Hzが好ましく、より好ましくは、2〜10Hz、最も好ましくは、5〜8Hzであった。この場合、繰返し周波数が小さいと、繰り返しの回数が少なくなって変調する効果が薄くなり、繰返し周波数が大きいと、液体の流れが繰返し周波数に追随できず、エネルギー損失が大きくなる。
【0066】
攪拌装置20は、以上のように駆動周波数を変化させて反応容器7における音波の出射位置を変化させると、中心周波数fcだけで駆動した場合には攪拌時間が約40秒(図12において0Hzのとき)であったが、最短で約7.5秒になった。このように、攪拌装置20は、反応容器7に保持した液体を非接触の下に効率良く攪拌することができる。ここで、駆動周波数を変化させる場合、攪拌装置20は、攪拌制御部23の制御の下に周波数変調によって周波数を連続的に変調させると、図13に示すように、振動子21bが発生する周波数が異なる音波Waによって巻き上げられる液体試料Lsの流線SLが1つにまとまった連続的な軌跡となり、渦流が緩やかに変動する。このため、攪拌効率の向上の点で限界がある。
【0067】
そこで、攪拌装置20は、攪拌制御部23の制御の下に周波数をランダム、かつ、断続的に切り替える。すると、図14に示すように、周波数が異なる音波Waによって巻き上げられる液体試料Lsの流線SLは、周波数ごとにばらけた断続的な軌跡となり、渦流の界面が多数発生して渦流の拡散を促進させることができる。このため、攪拌装置20は、液体試料Lsの攪拌効率を向上させるうえでは、周波数を連続的に変調させる場合よりも、周波数をランダム、かつ、断続的に切り替える方が好ましい。この場合、攪拌装置20は、攪拌制御部23の制御の下に周波数をランダム、もしくは、断続的に切り替えても周波数が異なる音波Waによって巻き上げられる液体試料Lsの流線SLは、周波数ごとにばらけた断続的な軌跡となり、渦流の界面が多数発生して渦流の拡散を促進させることができた。
【0068】
ここで、本発明の攪拌装置20及び攪拌方法は、振動子21bを駆動する際の周波数を変化させることにより反応容器7の内面から液体中へ出射する音波の出射位置を変化させている。このため、図15に示すように、側壁7aの内面が1点鎖線で示す位置にある反応容器7の場合、音波Wa1,Wa2は内部の液体を攪拌することができる。これに対し、側壁7aの内面が点線で示す位置にある反応容器7の場合、音波Wa2は液体中に漏れ出すことができなくなり、内部の液体を攪拌することができなくなる。このため、攪拌装置20は、反応容器7の大きさに応じて音波が反応容器7の内面から液体中へ出射する範囲である所定の出射点間隔となるように振動子21bの駆動周波数を制御する。
【0069】
また、図16は、振動子21bを中心周波数fcで駆動した場合に底壁7a内面から出射される音波Wac、共振周波数fr又は反共振周波数faで駆動した場合に底壁7a内面から出射される音波Wae、中心周波数fcと共振周波数fr又は中心周波数fcと反共振周波数fの中間の周波数fmで駆動した場合に底壁7a内面から出射される音波Wamを示しており、L1〜L3は液体試料Lsの液面を示している。このとき、音波Wae〜Wacが側壁7aの内面で反射することによって音響流Fe〜Fcも側壁7a内面で反射する。この結果、反射した音響流、例えば、音響流Feが液体試料Ls中で衝突し、液体試料Ls中には、図16に示すように、見掛け上、流速がゼロになって攪拌できない領域Zが生ずる。
【0070】
このため、本発明の攪拌装置20及び攪拌方法においては、液体試料Ls中へ出射された音波の交差位置Ie〜Icが液面L1〜L3よりも上方となる周波数を振動子21bの駆動周波数として使用する。即ち、攪拌装置20は、反応容器7に保持された液体試料Lsが多く、液面位置が高い場合、駆動周波数と中心周波数fcとの差を、液体試料Lsが少なく、液面位置が低い場合よりも大きく設定し、駆動周波数を共振周波数fr又は反共振周波数fに近づける。このように設定すると、攪拌装置20は、反応容器7に保持された液体試料Lsの液面位置が高い程、出射点間隔が狭くなり、側壁7a内面で反射後の音波の交差位置が高くなる。
【0071】
ここで、図9で説明したように、周波数を変更して出射点間隔を狭めると、液体の攪拌効率が変化する。このため、反応容器7に保持された液体試料Lsの液面位置に応じて周波数を変更する場合、自動分析装置1は、攪拌効率を補うため、検査項目毎に決まる液体試料Lsの液量V(μL)に基づき、予め駆動周波数fd(MHz)と駆動電力Pd(W)とに関する分析条件表を作成し(表2参照)、制御部16に記憶させておくとよい。
【0072】
【表2】

【0073】
自動分析装置1は、入力部18から検査項目が入力されると、制御部16が各検査項目によって決まる液体試料Lsの液量(μL)に基づいてこの分析条件表から駆動周波数(MHz)と駆動電力Pd(W)とを読み出して攪拌制御部23にこの情報を出力し、攪拌制御部23の制御の下に振動子21bをこの駆動周波数(MHz)と駆動電力Pd(W)で駆動する。例えば、液体試料Lsの液量が130μLの場合、表2から、振動子21bは94MHz、0.41Wで駆動する。
【0074】
このようにすると、自動分析装置1は、液体試料Ls中へ出射された音波の交差位置が液面上方となるように周波数を変更しても、攪拌効率を一定に保持することができる。ここで、攪拌装置20は、反応容器7に保持された液体試料Lsの液量を検知する検知手段として、反応容器7の上部に液面までの距離を測定する超音波センサ又はフォトセンサを設け、これらのセンサが検出した液面までの距離から攪拌制御部23が液量を演算するようにしてもよい。
【0075】
ここで、振動子21bを駆動する際の周波数を変化させる場合、上述のように98MHzと102MHzの間で周波数を変調したが、更に振幅変調を併せて施すことにより、例えば、図17に示す被変調波で振動子21bを駆動してもよい。この場合、図17に示す被変調波Wmは、点線で示すサイン波Sによって振幅変調を施しているが、矩形波のオン,オフによる振幅変調を行ってもよい。このとき、最大出力レベルを一定にして振幅変調を施すと、出力電力を低減できるので、省エネルギーを図れるという効果も得られる。
【0076】
ここで、実施の形態1の攪拌装置20は、振動子21bを底壁7bの中央に配置して表面弾性波素子21を反応容器7の底壁7b下面に取り付けた。しかし、表面弾性波素子21は、使用態様によっては、図18に示すように、振動子21bを底壁7bの一方に変位させて設けることにより、振動子21bから双方向に出射する音波の一方の音波Waのみを液体試料Lsの攪拌に使用するようにしてもよい。また、表面弾性波素子21は、図19に示すように、側壁7aの外面に設けてもよい。また、表面弾性波素子21は、図20に示すように、振動子21bを外側に向け、音響整合層となる接着剤によって圧電基板21aを底壁7bの外面に接着してもよい。更に、攪拌装置20は、図21に示すように、振動子21bを底壁7bの一方に変位させて隣り合う2つの反応容器7の底壁7b下面に表面弾性波素子21を取り付け、1つの振動子21bが発する音波Waを2つの反応容器7で共用してもよい。このような種々の配置を採ることによって、攪拌装置20は、表面弾性波素子21を配置する設計上の自由度を高めることができる。
【0077】
(実施の形態2)
次に、本発明の攪拌装置、攪拌方法及び反応容器にかかる実施の形態2について、図面を参照しつつ詳細に説明する。実施の形態1は、いわゆるキュベットを反応容器として使用したが、実施の形態2はマイクロリアクタを反応容器として使用している。図22は、実施の形態2の攪拌装置とマイクロリアクタを示す概略構成図である。
【0078】
実施の形態2の攪拌装置30は、駆動回路32によってマイクロリアクタ37に設けた表面弾性波素子31を駆動する。
【0079】
マイクロリアクタ37は、図22に示すように、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等の圧電素材からなる基板37a上に試薬を導入する試薬導入凹部37bと、試料を導入する試料導入凹部37cと、反応凹部37dと、排出凹部37fが形成され、試薬導入凹部37bと反応凹部37dとの間、試料導入凹部37cと反応凹部37dとの間、反応凹部37dと排出凹部37fとの間は、直径が数十μm〜数百μmのマイクロチャンネル37gによって接続されている。マイクロリアクタ37は、反応凹部37d直下の基板37a底面に音波発生素子である表面弾性波素子31が設けられている。
【0080】
表面弾性波素子31は、櫛歯状に形成された複数の電極指を有する金等の櫛型電極(IDT)からなる振動子31aと、電気端子31bと、振動子31bと電気端子31bとの間を接続する共通電極であるバスバー31cとを有し、基板37aの底面に形成されている。表面弾性波素子31は、実施の形態1の駆動回路22と同様に構成される駆動回路32と配線36によって接続されている。
【0081】
攪拌装置30は、マイクロリアクタ37の試料導入凹部37cに導入された試料と試薬導入凹部37bに導入された試薬を、それぞれマイクロチャンネル37gによって反応凹部37dに導き、振動子31bが発生する音波によって攪拌する。このとき、攪拌装置30は、駆動回路32の攪拌制御部によって振動子31aを駆動する際の周波数を変化させることにより反応凹部37dの内面から液体中へ出射する音波の出射位置を変化させ、試料と試薬とを非接触で効率良く攪拌して反応させる。そして、攪拌装置30は、反応した反応液の吸光度等の物理量を反応凹部37dに設けた測定センサ37eによって測定し、測定後の反応液を排出凹部37fから排出手段によって排出している。
【0082】
攪拌装置30は、以上のようにして試料を試薬と反応させて反応液の物理量を測定センサ37eによって測定している。このとき、攪拌装置30は、反応容器としてマイクロリアクタ37を用いることにより、試料の量を飛躍的に低減することができ、試料を採取する患者等の肉体的精神的負担を軽減できるうえ、試薬の量の低減により検査コストも飛躍的に低減させることができる。
【0083】
本発明の攪拌装置、攪拌方法、反応容器及び攪拌装置を備えた分析装置は、駆動信号の周波数を制御することにより、同一の発音部が発生した音波が容器内面から液体中へ出射する出射位置を変化させて液体を攪拌するので、振動子が一つであっても液体を効率良く攪拌することができるうえ、構成が簡単であるので、安価に提供することができる。
【0084】
尚、上述の各実施の形態は、発音部となる振動子21bが1つの場合について説明したが、振動子21bは複数設けてあってもよい。また、振動子21bは、駆動回路22と接続した配線26から供給される電力によって駆動したが、アンテナを用いることにより無線駆動としてもよい。
【0085】
なお、本発明の攪拌装置の使用対象となる液体の保持手段は、複数の液体を攪拌することができれば特に限定はなく、壁面と底面とを有した容器であれば、攪拌対象の液体を保持し、或いは所望の位置に移送することができるので好ましい。このため、上述の実施の形態1,2は、液体の保持手段として反応容器、即ち、反応容器(キュベット)7とマイクロリアクタ37を用いた場合について説明したが、この他に、例えば、試験管,マイクロプレート,ビーカー等を使用してもよい。この場合、図23に示す容器40のように、壁を形成する四角筒状の筒体41の下部に表面弾性波素子42を液密に取り付けることにより、表面弾性波素子42を容器40の一部として用いてもよい。このとき、表面弾性波素子42は、圧電基板42a上に振動子42bが設けられ、振動子42bを外側に向けて筒体41の下部に取り付ける。このように構成すると、容器40は、振動子42bが出射する音波が音響整合層を介することなく直接液体Lへ作用し、エネルギー損失が非常に少なくなると共に、攪拌効率が高くなるので好ましい。但し、表面弾性波素子42は、振動子42bを内側に向けて筒体41の下部に取り付けてもよいし、図24に示す表面弾性波素子44のような配置とすることもできる。このようにすると、振動子と液体とが直接接触するので、表面弾性波素子からの音波は、図23や図25に示す構成の表面弾性波素子42,47よりも、更に、直接液体に作用し、エネルギー損失の低減や攪拌効率の向上の点でより好ましい。ここで、表面弾性波素子44は、圧電基板44aの上面に振動子44bが設けられている。
【0086】
また、容器は、必ずしも反応容器に限られるものではなく、保持した複数の液体を攪拌することができれば、図25に示す容器46のように、底壁46aの下面に表面弾性波素子47を取り付けてもよい。このとき、表面弾性波素子47は、圧電基板47aの下面に振動子47bが設けられている。このように構成すると、容器46は、図4に示す反応容器7と同様に、容器46それ自体が液密であることから、表面弾性波素子47を液密に取り付ける必要がなくなるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の分析装置の実施の形態1を示す自動分析装置の概略構成図である。
【図2】図1の自動分析装置で用いる本発明の反応容器を示す斜視図である。
【図3】表面弾性波素子を取り付けた図2の反応容器を示す平面図である。
【図4】図1の自動分析装置で用いる本発明の攪拌装置の概略構成を示す図である。
【図5】振動子が有するインピーダンスの周波数特性の一例と、共振周波数、反共振周波数及び中心周波数を示す図である。
【図6】振動子を駆動する駆動信号の周波数を変化させたときの底壁内面から液体試料中へ出射する音波の出射点間隔との関係を示す図である。
【図7】振動子を共振周波数で駆動したときの反応容器における液体の流れの実測図である。
【図8】振動子を共振周波数と反共振周波数の中間の周波数で駆動したときの反応容器における液体の流れの実測図である。
【図9】駆動周波数と液体の攪拌に要する攪拌時間との関係を示す図である。
【図10】振動子の周波数と駆動電力との関係を示す図である。
【図11】振動子の駆動周波数の変化のさせ方を示す波形図である。
【図12】振動子を駆動する周波数を変調する場合の変調する周波数と攪拌時間との関係を示す図である。
【図13】周波数変調によって周波数を連続的に変調させた場合に、反応容器における液体試料の流線が示す1つにまとまった連続的な軌跡を示す図である。
【図14】周波数をランダム、かつ、断続的に切り替えた場合に、反応容器における液体試料の流線が示す周波数ごとにばらけた断続的な軌跡を示す図である。
【図15】振動子を駆動する周波数を音波が反応容器の内面から液体中へ出射する範囲となるように制御することを説明する図である。
【図16】液体試料中へ出射された音波の交差位置が液面よりも上方となる周波数を振動子の駆動周波数として使用することを説明する図である。
【図17】周波数変調に振幅変調を併せて施した被変調波の一例を示す波形図である。
【図18】反応容器に対する振動子の配置の第1の変形例を示す図である。
【図19】反応容器に対する振動子の配置の第2の変形例を示す図である。
【図20】反応容器に対する振動子の配置の第3の変形例を示す図である。
【図21】反応容器に対する振動子の配置の第4の変形例を示す図である。
【図22】本発明の攪拌装置、攪拌方法及び反応容器にかかる実施の形態2を示すもので、攪拌装置とマイクロリアクタを示す概略構成図である。
【図23】液体の保持手段である容器の第一の変形例を示す断面図である。
【図24】液体の保持手段である容器の第二の変形例を示す断面図である。
【図25】液体の保持手段である表面弾性波素子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 自動分析装置
2 作業テーブル
3 検体テーブル
4 検体容器
5 検体分注機構
6 反応テーブル
7 反応容器
7a 側壁
7b 底壁
7c 開口
8 光源
9 受光素子
11 排出装置
12 試薬分注機構
13 試薬テーブル
14 試薬容器
15 読取装置
16 制御部
17 分析部
18 入力部
19 表示部
20 攪拌装置
21 表面弾性波素子
21a 圧電基板
21b 振動子
21c 電気端子
21d バスバー
22 駆動回路
23 攪拌制御部
24 発振部
25 増幅部
26 配線
27 音響整合層
30 攪拌装置
32 駆動回路
37 マイクロリアクタ
37a 基板
37b 試薬導入凹部
37c 試料導入凹部
37d 反応凹部
37f 排出凹部
37g マイクロチャンネル
31 表面弾性波素子
31a 振動子
31b 電気端子
31c バスバー
40 容器
41 筒体
42,44 表面弾性波素子
42a,44a 圧電基板
42b,44b 振動子
46 容器
46a 底壁
47 表面弾性波素子
47a 圧電基板
47b 振動子
fa 反共振周波数
fc 中心周波数
fr 共振周波数
fm 周波数
Fc,Fe,Fm 音響流
Ic,Ie,Im 交差位置
L 液体
L1〜L3 液面
Ls 液体試料
SL 流線
Wa,Wa1,Wa2 音波
Wac,Wae,Wam 音波
Wm 被変調波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の保持手段に保持された液体を音波によって攪拌する攪拌装置であって、
前記音波を発生する少なくとも一つの発音部を有する音波発生素子と、
前記音波発生素子の駆動信号の周波数を制御する制御部を有する駆動手段と、
を備え、前記制御部によって前記駆動信号の周波数を制御することにより、前記同一の発音部が発生した前記音波が前記液体中へ出射する出射位置を変化させて前記液体を攪拌することを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記駆動信号の交流成分の周波数を所定範囲内において変化させる制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記周波数の所定範囲は、共振周波数から反共振周波数までの範囲の少なくとも一部を含むことを特徴とする請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記交流成分の周波数を所定のタイミングで異なる周波数に切り替えることを特徴とする請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記交流成分の周波数を所定の範囲で変調させることを特徴とする請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項6】
前記音波発生素子は、表面弾性波発生素子であることを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項7】
前記音波発生素子は、前記液体の保持手段に保持される液体と非接触に設けられることを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項8】
液体の保持手段に保持された液体を音波によって攪拌する攪拌方法であって、
前記音波を発生する音波発生手段の駆動信号の周波数を制御することにより、前記音波が前記液体中へ出射する出射位置を変化させて前記液体を攪拌することを特徴とする攪拌方法。
【請求項9】
前記音波発生手段は、圧電基板上に櫛歯電極が形成された表面弾性波素子であることを特徴とする請求項8に記載の攪拌方法。
【請求項10】
前記駆動信号の交流成分の周波数を共振周波数から反共振周波数までの範囲内において変化するように制御することを特徴とする請求項8又は9に記載の攪拌方法。
【請求項11】
前記駆動信号の交流成分の周波数を所定のタイミングで異なる周波数に切り替えるように制御することを特徴とする請求項8又は9に記載の攪拌方法。
【請求項12】
前記駆動信号に含まれる交流成分の周波数を前記共振周波数から前記反共振周波数までの範囲内において変調するように制御することを特徴とする請求項8又は9に記載の攪拌方法。
【請求項13】
前記周波数は、前記音波発生手段の共振周波数と反共振周波数の中間の周波数を第1の駆動周波数とし、前記共振周波数又は前記反共振周波数を第2の駆動周波数として前記第1の駆動周波数と前記第2の駆動周波数との範囲内においてランダム、もしくは、断続的に切り替えることを特徴とする請求項11に記載の攪拌方法。
【請求項14】
前記周波数は、前記音波発生手段の共振周波数と反共振周波数の中間の周波数を第1の駆動周波数とし、前記共振周波数又は前記反共振周波数を第2の駆動周波数として前記第1の駆動周波数と前記第2の駆動周波数との間で変調することを特徴とする請求項12に記載の攪拌方法。
【請求項15】
前記周波数変調の変動周期は、2〜20Hzとすることを特徴とする請求項14に記載の攪拌方法。
【請求項16】
前記駆動周波数と前記中心周波数との差に応じて前記音波発生手段の駆動電力を増加させることを特徴とする請求項13又は14に記載の攪拌方法。
【請求項17】
前記音波発生手段を駆動する周波数を前記音波が前記液体中へ出射する範囲内となるように制御することを特徴とする請求項8に記載の攪拌方法。
【請求項18】
前記液体の保持手段として容器を用い、前記音波発生手段を駆動する駆動周波数として前記液体中へ出射された音波の交差位置が当該液体の液面よりも上方となる周波数を使用することを特徴とする請求項8に記載の攪拌方法。
【請求項19】
前記音波発生手段の駆動周波数は、前記液体の液面が高い場合の前記駆動周波数と前記中心周波数との差を、前記液体の液面が低い場合よりも大きく設定することを特徴とする請求項18に記載の攪拌方法。
【請求項20】
前記音波発生手段の駆動周波数は、前記液体の液面が高い場合の前記音波発生手段の駆動電力を、前記液体の液面が低い場合よりも大きく設定することを特徴とする請求項18に記載の攪拌方法。
【請求項21】
更に、振幅を変調させることを特徴とする請求項12に記載の攪拌方法。
【請求項22】
前記液体の保持手段に保持された液体を、当該液体と非接触に設けた前記表面弾性波素子により攪拌することを特徴とする請求項9に記載の攪拌方法。
【請求項23】
圧電基板上に櫛歯電極が形成された表面弾性波素子が取り付けられ、請求項8〜22のいずれか一つに記載の攪拌方法によって前記表面弾性波素子が駆動されることを特徴とする反応容器。
【請求項24】
櫛歯電極が形成された表面弾性波素子が取り付けられ、請求項8〜22のいずれか一つに記載の攪拌方法によって前記表面弾性波素子が駆動され、複数の液体を攪拌して反応させる反応部と測定センサとが設けられたことを特徴とする反応容器。
【請求項25】
複数の液体を攪拌して反応させ、反応液を分析する分析装置であって、請求項1〜7のいずれか一つに記載の攪拌装置を用いて前記複数の液体を攪拌して反応させ、反応液を分析することを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2006−349380(P2006−349380A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172765(P2005−172765)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】