説明

枚葉式エッチング装置及び方法

【課題】簡単な装置構成で、ウェーハの表面全体において良好な平坦度が得られるようにした、枚葉式エッチング装置及び方法を提供する。
【解決手段】回転しているウェーハ2の表面にノズル21からエッチング液を供給してウェーハ2の表面を1枚ずつエッチングする枚葉式エッチング装置において、ノズル21をウェーハ2の回転中心Oを通る揺動軌跡Lでウェーハ2の表面に沿って揺動させるノズル揺動装置24を備えるとともに、ノズル21が揺動方向に対して直交する方向に延びたスリット形状の吐出口21aを有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用シリコンウェーハ等のウェーハを回転させた状態でその表面にエッチング液を供給してウェーハの表面を1枚ずつエッチングする枚葉式エッチング装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体用シリコン単結晶ウェーハ等のウェーハは、単結晶インゴットをスライスして得たウェーハを、面取り工程、ラッピング工程または研削工程、エッチング工程及び研磨工程を経てその表面を高精度に平坦化することによって製造される。エッチング工程は、スライス工程、ラッピング工程または研削工程等の機械加工プロセスによってウェーハ表面に形成された加工変質層(ダメージ層)を除去する目的で行なわれる。エッチング工程としては、浸漬式エッチングまたは特許文献1に開示されているような枚葉式エッチングが採用されている。
【0003】
枚葉式エッチングは、ウェーハの表面粗さとテクスチャーサイズの制御を行なうことができるため、大口径のウェーハに最適なエッチング方法として検討されている。枚葉式エッチング工程では、ラッピング工程または研削工程によって平坦化したウェーハの表面上にエッチング液供給ノズル(以下、単に「ノズル」という)からエッチング液を供給し、ウェーハを回転(スピン)させることにより、供給したエッチング液をウェーハ表面の全面に拡げてウェーハの表面を1枚ずつエッチングする。ウェーハの表面上に供給されたエッチング液は、ウェーハを回転させることにより生じる遠心力により、供給した箇所からウェーハ表面の全面に拡がり、ウェーハのエッジ部に至るため、ウェーハの表面と同時にウェーハのエッジ部もエッチングされる。そして、供給されたエッチング液の大部分は、遠心力によりウェーハのエッジ部から吹き飛んで、エッチング装置に設けられたエッチング液回収カップ等により回収される。また、ノズルからウェーハの表面上にエッチング液を供給する際には、ノズルをウェーハ表面の上方で水平方向に揺動させることにより、ウェーハ表面の平坦度を向上させるようにしている。枚葉式エッチングでは、一般的に、円形の吐出口を有するノズル(以下、「円形ノズル」という)が採用されている。
【0004】
従来の枚葉式エッチングでは、エッチング中に、1個の円形ノズルから一定量のエッチング液が供給される。ウェーハの表面上に供給されるエッチング液が受ける遠心力はウェーハ表面の径方向において異なるため、ウェーハ表面の径方向において、エッチング液の滞留時間が不均一になる。この結果、ノズルの揺動幅、揺動速度及びウェーハ回転数といったパラメータの最適化を行なっても、ウェーハの表面に、図6に示すようなリング状の凹凸が発生して、ラッピング工程または研削工程によって平坦化したウェーハ表面の平坦度が逆に悪化するという課題がある。
【0005】
また、特許文献2には、枚葉エッチングにおいて複数の円形ノズルを採用することで、エッチングされたウェーハ表面の高平坦化を達成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第07/083656号パンフレット
【特許文献2】特開2007−207810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示された技術では複数のノズルを必要とするので、装置の構造が複雑になるという課題がある。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、簡単な装置構成で、ウェーハの表面全体において良好な平坦度が得られるようにした、枚葉式エッチング装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、円形ノズルを用いた枚葉式エッチングによってウェーハの表面にリング状の凹凸が発生する原因を究明した結果、以下(a)〜(c)の知見を得た。
(a)リング状の凹凸は、ウェーハの表面上において中心部近傍に顕著に発生する。
(b)上記(a)の原因は、ウェーハ表面上におけるエッチング液の滞留時間が中心部近傍において不均一になるためと考えられる。
(c)ウェーハ表面上の中心部近傍におけるエッチング液の滞留時間を均一にすることにより、リング状の凹凸を抑制することができる。
【0009】
上記知見に基づき、ノズルの揺動方向に対して直交する方向に延びたスリット形状の吐出口を有するノズル(以下、「スリットノズル」という)を採用すれば、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
上記目的を達成するため、請求項1記載の本発明の枚葉式エッチング装置は、回転しているウェーハの表面にノズルからエッチング液を供給して該ウェーハの表面を1枚ずつエッチングする枚葉式エッチング装置であって、該ウェーハを回転させるウェーハ回転装置と、該ノズルを該ウェーハの回転中心を通る揺動軌跡で該ウェーハの表面の上方で揺動させるノズル揺動装置とを備えるとともに、該ノズルが、揺動方向に対して直交する方向に延びたスリット形状の吐出口を有していることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の本発明の枚葉式エッチング装置は、請求項1記載の本発明の枚葉式エッチング装置において、該ウェーハの回転速度、該ノズルの揺動速度及び該ノズルの揺動幅を予め記憶し、かつ、該ウェーハが該記憶した回転速度で回転するように該ウェーハ回転装置を制御するとともに該ノズルが該記憶した揺動速度及び該記憶した揺動幅で揺動するように該ノズル揺動装置を制御する制御装置を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の本発明の枚葉式エッチング装置は、請求項2記載の本発明の枚葉式エッチング装置において、該ウェーハの回転速度は450rpm以上650rpm以下であり、該ノズルの揺動速度は75mm/sec以上100mm/sec以下であり、該ノズルの揺動幅は該ウェーハの中心部に対して該ウェーハの直径の±13%以上±35%以下に相当する距離であることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の本発明の枚葉式エッチング装置は、請求項1〜3の何れか1項に記載の本発明の枚葉式エッチング装置において、該ノズル揺動装置は、モータと該モータのモータシャフトに連結されたアームとを備え、該ノズルを円弧状の該揺動軌跡で揺動させることを特徴とする。
請求項5記載の本発明の枚葉式エッチング方法は、回転しているウェーハの表面にエッチング液供給ノズルからエッチング液を供給して該ウェーハの表面を1枚ずつエッチングする枚葉式エッチング方法であって、該ノズルを該ウェーハの回転中心を通る揺動軌跡で該ウェーハの表面の上方で揺動させながら、該ノズルの揺動方向に対して直交する方向に延びたスリット形状の吐出口から該エッチング液を供給することを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の本発明の枚葉式エッチング方法は、請求項5記載の本発明の枚葉式エッチング方法において、該ウェーハが予め記憶された回転速度で回転するとともに該ノズルが予め記憶された揺動速度及び予め記憶された揺動幅で揺動することを特徴とする。
請求項7記載の本発明の枚葉式エッチング方法は、請求項6記載の本発明の枚葉式エッチング方法において、該ウェーハの回転速度は450rpm以上650rpm以下であり、該ノズルの揺動速度は75mm/sec以上100mm/sec以下であり、該ノズルの揺動幅は該ウェーハの中心部に対して該ウェーハの直径の±13%以上±35%以下に相当する距離であることを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の本発明の枚葉式エッチング方法は、請求項5〜7の何れか1項に記載の本発明の枚葉式エッチング方法において、該ノズルを円弧状の該揺動軌跡で揺動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の枚葉式エッチング装置または方法によれば、エッチング液供給ノズルとして、揺動方向に対して直交する方向に延びたスリット形状の吐出口を有するものを採用するので、ウェーハ表面の中心部近傍における凹凸を減少させ、その結果、簡単な装置構成で、ウェーハの表面全体において良好な平坦度を得ることができる。
また、ウェーハ回転速度、ノズル揺動速度及びノズル揺動幅の設定値を予め記憶し、かつ、その記憶した設定値を達成するようにウェーハ回転装置及びノズル揺動装置を制御すれば、ウェーハの表面全体においてより良好な平坦度を得ることができる。
【0016】
また、ノズルが円弧状の揺動軌跡で揺動する場合には、ノズル揺動装置の構成を簡単にすることができる。
そして、ウェーハを製造する際には、本発明により良好な平坦度のウェーハを作製することができるので、エッチング後における鏡面研磨での研磨代を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る枚葉式エッチング装置のノズルの吐出口及び揺動について説明するための模式的な平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る枚葉式エッチング装置の全体構成を示す模式的な側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る枚葉式エッチング装置に関する実施例を示す図であって、スリットノズルを使用して、ウェーハ回転速度を550rpm、ノズル揺動速度を87.5mm/sec、ノズル揺動幅をウェーハ中心部に対して±60mmに設定して枚葉式エッチングを行なった直径300mmのウェーハの表面形状を示す縦断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る枚葉式エッチング装置に関する比較例を示す図であって、スリットノズルを使用して、ウェーハ回転速度を550rpm、ノズル揺動速度を87.5mm/sec、ノズル揺動幅をウェーハ中心部に対して±30mmに設定して直径300mmのウェーハに対して枚葉エッチングを行なった場合に、ウェーハ外周部からウェーハ中心部に向かうに従ってウェーハ厚みが減少する(ウェーハ中心部が凹型になる)ウェーハの表面形状を模式的に示す縦断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る枚葉式エッチング装置に関する比較例を示す図であって、スリットノズルを使用して、ウェーハ回転速度を550rpm、ノズル揺動速度を87.5mm/sec、ノズル揺動幅をウェーハ中心部に対して±120mmに設定して直径300mmのウェーハに対して枚葉エッチングを行なった場合に、ウェーハ中心部からウェーハ外周部に向かうに従ってウェーハ厚みが減少した後に再び増加する(ウェーハ中心部とウェーハ外周部との間が凹型になる)ウェーハの表面形状を模式的に示す縦断面図である。
【図6】従来の円形ノズルを使用して、ウェーハ回転速度を550rpm、ノズル揺動速度を87.5mm/sec、ノズル揺動幅をウェーハ中心部に対して±60mmに設定して直径300mmのウェーハに対して枚葉エッチングを行なった場合に、ウェーハ中心部近傍にリング状の凹凸が発生したウェーハの表面形状を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
図1及び図2を参照して、本発明の一実施形態の枚葉式エッチング装置について説明する。本実施形態においては、ウェーハとしてシリコン単結晶ウェーハを用いる。
図2に示すように、枚葉式エッチング装置1は、ウェーハ2を回転させるウェーハ回転装置10と、ウェーハ2の表面にエッチング液を供給するエッチング液供給装置20と、ウェーハ回転装置10及びエッチング液供給装置20を制御する制御装置30とを備えている。
【0019】
ウェーハ回転装置10は、ウェーハ2を支持するチャック11と、チャック11の中心部分に接続された回転シャフト12と、回転シャフト12に接続され回転シャフト12を介してチャック11を回転駆動するモータ等の回転駆動装置13とを有している。ウェーハ2の回転速度は制御装置30によって予め設定されている。なお、チャック11はウェーハ2の形状に沿った円板状に形成されるのが好ましいが、ウェーハ2を安定して支持できればその形状は特に限定されない。
【0020】
エッチング液供給装置20は、チャック11に支持されたウェーハ2に臨み、ウェーハ2の表面上にエッチング液を供給するノズル21と、エッチング液を貯留するタンク22と、ノズル21とタンク22とを接続する供給管を内蔵したアーム23と、タンク22に貯留されたエッチング液をアーム23内の供給管内を通してノズル21に供給するポンプ(図示略)と、ノズル21を揺動させるモータ(ノズル揺動装置)24とを有している。
【0021】
ノズル21は、図1に示すように、スリット形状に形成された吐出口21aを有している。吐出口21aは、例えば巾3mm、長さ50mmのサイズであり、吐出口21aの長手方向が後述するノズル21の揺動方向に対して直交するように設置されている。
吐出口21aの巾は、狭い場合はウェーハ表面をエッチングするために必要なエッチング液の流量を確保できず、逆に広い場合はエッチング液の供給量が多くなって液面のうねり(リングパターン)が生じ易くなるので、2mm〜6mmの範囲に設定することが望ましい。吐出口21aの長さは、短い場合は、ウェーハ中心部近傍に凹部が発生することが防止できず、逆に長い場合はエッチング液の供給量が多くなり不経済となるので、40mm〜80mmの範囲に設定することが望ましい。また、吐出口21aの形状も矩形に限らず、矩形の4つの角部に丸みを付けた形状または細長い楕円形状であっても良い。さらに、吐出口21aの4辺が直線ではなく波線等であっても良い。
【0022】
吐出口21aの長手方向がノズル21の揺動方向に対して平行になるように吐出口21aを設置して枚葉式エッチングを行なった場合は、吐出口21aから供給されるエッチング液の量がウェーハ表面上の径方向において不均一となるためにエッチング取り代が不均一となり、その結果、エッチング後のウェーハ表面の平坦度が悪化する。従って、吐出口21aは、その長手方向がノズル21の揺動方向に対して直交するように設置される。
【0023】
タンク22に貯留されたエッチング液は、例えばHF(フッ酸)とHNO(硝酸)とHPO(リン酸)とを混合した混酸液であり、その混合比は、重量%で、例えばHF:HNO:HPO=3:8:6に設定されている。
アーム23は、モータ24のモータシャフト24aに連結されている。
ポンプは、ノズル21から供給されるエッチング液の流量(供給量)が単位時間当たりで一定となるように、制御装置30によってその駆動が制御されている。
【0024】
モータ24は、ノズル21をウェーハ2の半径方向に、ウェーハ2の表面に沿って揺動させるようになっている。ノズル21の揺動軌跡Lは、ウェーハ2の上方に位置しかつ鉛直方向に延在するモータシャフト24aの軸線を揺動中心O2とした、ウェーハ2の回転中心O1を通る円弧状の軌跡となっている。このとき、モータ24は、アーム23を揺動させることでノズル21を揺動させている。また、ノズル揺動速度S及びノズル揺動幅Wは、制御装置30によって設定されている。
【0025】
本実施形態では、ノズル揺動幅Wを、ウェーハ中心部に対して、例えば、±60mm、または、ウェーハ2の直径の±20%に相当する距離と言った表記法で表す。
ノズル揺動幅Wがウェーハ中心部に対して±60mmに設定された場合、ノズル21は、ウェーハ2の回転中心O1からウェーハ2の外周部に向かう揺動方向の一方向において回転中心O1から60mm離れた位置及びこれとは反対の方向において回転中心O1から60mm離れた位置の2点の間を結ぶ円弧状の揺動軌跡Lで揺動する。または、ノズル揺動幅Wがウェーハ中心部に対してウェーハ2の直径の±20%に相当する距離に設定された場合、ノズル21は、ウェーハ2の回転中心O1からウェーハ2の外周部に向かう揺動方向の一方向において回転中心O1からウェーハ2の直径の20%に相当する距離だけ離れた位置及びこれとは反対の方向において回転中心O1からウェーハ2の直径の20%に相当する距離だけ離れた位置の2点の間を結ぶ円弧状の揺動軌跡Lで揺動する。また、ノズル揺動速度Sが87.5mm/secに設定された場合、ノズル21は揺動軌跡Lの一端から他端までを87.5mm/secの一定速度で揺動するようになっている。
【0026】
本実施形態では、モータ24によってノズル21を円弧状の揺動軌跡Lで揺動させるように構成されているが、ウェーハ2の回転中心O1を通る直線の揺動軌跡でノズル21を揺動させるように構成されていても良い。
制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)やメモリを有するECU(Electronic Control Unit)で構成されており、直径300mmのウェーハ2を対象に、ウェーハ2の表面形状に影響を与えるパラメータであるウェーハ回転速度N、ノズル揺動速度S及びノズル揺動幅Wの設定値を記憶している。そして、上記記憶した設定値でウェーハ2が回転するとともにノズル21が揺動するように、回転駆動装置13及びモータ24を制御するようになっている。
ノズル揺動速度Sは、例えば、制御装置30がモータ24に入力する信号のパルス周波数を設定することにより設定することができる。
【0027】
ウェーハ回転速度Nは、450rpm以上650rpm以下であることが好ましい。ウェーハ回転速度Nが450rpm未満である場合は、遠心力が小さいので、エッチング液がウェーハ中心部近傍に滞留する時間が長くなってウェーハ中心部近傍におけるエッチングの取り代が大きくなり、その結果、ウェーハ外周部からウェーハ中心部に向かうに従ってウェーハ厚みが減少する(ウェーハ中心部が凹型になる)表面形状となり、平坦度が悪化する。逆に、ウェーハ回転速度Nが650rpmを超える場合は、遠心力が増大してエッチング液がウェーハ外周部に流れ易くなり、ウェーハ中心部近傍にエッチング液が十分に流れ込まなくなってウェーハ中心部近傍においてエッチング取り代が減少し、また、ウェーハ外周部においてエッチング液の流れが速すぎてエッチング液がウェーハ外周部に滞留する時間が短くなってエッチング取り代が減少し、その結果、ウェーハ中心部からウェーハ外周部に向かうに従ってウェーハ厚みが減少した後に再び増加する(ウェーハ中心部とウェーハ外周部との間が凹型になる)表面形状となり、平坦度が悪化する。
なお、ウェーハ回転速度Nが500rpm以上600rpm以下であれば、ウェーハ表面の平坦度を確実に向上させることができ、より好ましい。
【0028】
ノズル揺動速度Sは、75mm/sec以上100mm/sec以下であることが好ましい。ノズル揺動速度Sが75mm/sec未満である場合は、エッチング液がウェーハ中心部近傍に滞留する時間が長くなってウェーハ中心部近傍におけるエッチング取り代が大きくなり、その結果、ウェーハ外周部からウェーハ中心部に向かうに従ってウェーハ厚みが減少する(ウェーハ中心部が凹型になる)表面形状となり、平坦度が悪化する。逆に、ノズル揺動速度Sが100mm/secを超える場合は、ノズル揺動速度Sが速すぎるため、エッチング液がウェーハ外周部に流れ易くなり、ウェーハ中心部近傍にエッチング液が十分に流れ込まなくなってウェーハ中心部近傍においてエッチング取り代が減少し、また、ウェーハ外周部においてエッチング液の流れが速すぎてエッチング液がウェーハ外周部に滞留する時間が短くなってエッチング取り代が減少し、その結果、ウェーハ中心部からウェーハ外周部に向かうに従ってウェーハ厚みが減少した後に再び増加する(ウェーハ中心部とウェーハ外周部との間が凹型になる)表面形状となり、平坦度が悪化する。
なお、ノズル揺動速度Sが80mm/sec以上95mm/sec以下であれば、ウェーハ表面の平坦度を確実に向上させることができ、より好ましい。
【0029】
ノズル揺動幅Wは、ウェーハ中心部に対してウェーハ2の直径の±13%以上±35%以下に相当する距離(直径300mmのウェーハの場合、ウェーハ中心部に対して±39mm以上±105mm以下)であることが好ましい。ノズル揺動幅Wがウェーハ中心部に対してウェーハ2の直径の±13%未満である場合は、エッチング液がウェーハ中心部近傍に滞留する時間が長くなってウェーハ中心部近傍におけるエッチング取り代が大きくなり、その結果、ウェーハ外周部からウェーハ中心部に向かうに従ってウェーハ厚みが減少する(ウェーハ中心部が凹型となる)表面形状となり、平坦度が悪化する。逆に、ノズル揺動幅Wがウェーハ中心部に対してウェーハ2の直径の±35%を超える場合は、エッチング液がウェーハ中心部からウェーハ外周部近傍までの広範囲に供給され、ウェーハ外周部近傍に供給されるエッチング液には、ウェーハ中心部に供給されるエッチング液に対して大きい遠心力が作用してエッチング液がウェーハ外周部に流れ易くなり、ウェーハ中心部近傍にエッチング液が十分に流れ込まなくなるためにウェーハ中心部近傍においてエッチング取り代が減少し、また、ウェーハ外周部においてエッチング液の流れが速すぎてエッチング液がウェーハ外周部に滞留する時間が短くなってエッチング取り代が減少し、その結果、ウェーハ中心部からウェーハ外周部に向かうに従ってウェーハ厚みが減少した後に再び増加する(ウェーハ中心部とウェーハ外周部との間が凹型になる)表面形状となり、平坦度が悪化する。さらに、エッチング液の供給量が増加して不経済になる。
【0030】
なお、ノズル揺動幅Wがウェーハ中心部に対してウェーハ2の直径の±16%以上±24%以下に相当する距離(直径300mmのウェーハの場合は、ウェーハ中心部に対して±48mm以上±72mm以下)であれば、ウェーハ表面の平坦度を確実に向上させることができ、より好ましい。
上記のウェーハ回転速度N、ノズル揺動速度S及びノズル揺動幅Wの範囲は、予め実験により求められた範囲である。本発明の発明者らは、上記のウェーハ回転速度N、ノズル揺動速度S及びノズル揺動幅Wの範囲を把握するために、上記3つのパラメータの設定値を変化させてウェーハ2の表面形状を測定する実験を行なった。
【0031】
詳述すると、本発明の発明者らは、表1に示すように、ウェーハ回転速度N、ノズル揺動速度S及びノズル揺動幅Wの値を変化させて、ウェーハ2の表面形状を測定する実験を行なった。実験に際しては、吐出口21aのサイズが巾3mmかつ長さ50mmのスリットノズル21を用いた。そして、実験結果に基いて、ウェーハ2の表面形状がほぼ平坦となる、具体的には、図4〜図6に示す表面形状にはならないようなウェーハ回転速度N、ノズル揺動速度S及びノズル揺動幅Wの範囲を求めた。
【0032】
このとき、表面形状の平坦度の指標としてGBIR(Global Backside Ideal Range)を用いた。GBIRとは、ウェーハ裏面を平面に矯正した状態で、ウェーハ面内に1つの基準面を持ち、この基準面に対する最大、最小の位置変位の差であり、ウェーハ2の平坦性を示す指標となる。測定したGBIRが3μm未満でかつウェーハ2の表面形状がほぼ平坦となるようなウェーハ回転速度N、ノズル揺動速度S及びノズル揺動幅Wの範囲を求めた。
【0033】
【表1】

【0034】
このように、表1の各パラメータの値を変化させてウェーハ2の表面形状を測定し、この測定結果から、GBIRが3μm未満でかつウェーハ2の表面形状がほぼ平坦となるようなウェーハ回転速度N、ノズル揺動速度S及びノズル揺動幅Wの範囲を求めた。この結果、本実施形態における吐出口21aのサイズが巾3mmかつ長さ50mmのスリットノズルを用いた場合は、ウェーハ2の回転速度Nが450rpm以上650rpm以下、ノズル揺動速度Sが75mm/sec以上100mm/sec以下、かつ、ノズル揺動幅Wがウェーハ中心部に対してウェーハ2の直径の±13%以上±35%以下に相当する距離の条件で、GBIRが3μm未満でかつ表面形状がほぼ平坦となるウェーハ2が得られることを確認した。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
ウェーハ2の直径を300mm、スリットノズル21の吐出口21aのサイズを巾3mmかつ長さ50mm、ノズル揺動速度Sを87.5mm/sec、ノズル揺動幅Wをウェーハ中心部に対して±60mm(ウェーハ中心部に対してウェーハ2の直径の±20%に相当する距離)、ウェーハ回転速度Nを550rpmの一定値として、図1及び図2と同じ構成を有する枚葉式エッチング装置を用いて枚葉式エッチングを行ない、ウェーハ2の表面上におけるリングパターンの有無及びGBIRを測定した。
[比較例1]
円形ノズルの吐出口の形状を直径3mmの円とした以外は、実施例1と同じ条件で枚葉式エッチングを行ない、ウェーハ2の表面上におけるリングパターンの有無及びGBIRを測定した。
【0036】
【表2】

【0037】
実施例1においては、図3及び表2に示すように、ウェーハ表面上にリングパターンが観察されず、ウェーハ2の表面形状はほぼ平坦となった。一方、比較例1においては、図6及び表2に示すように、GBIRは実施例1と同等であるが、ウェーハ表面上の中心部近傍にリングパターンが観察された。
【0038】
上記の結果から、揺動方向に対して直交する方向に延びたスリット形状の吐出口を有するエッチング液供給ノズルを使用し、ウェーハ回転速度を450rpm以上650rpm以下、ノズル揺動速度を75mm/sec以上100mm/sec以下、かつ、ノズル揺動幅をウェーハ中心部に対してウェーハの直径の±13%以上±35%以下に相当する距離に設定してウェーハの枚葉式エッチングを行なうことにより、枚葉式エッチング後におけるウェーハ表面の平坦度が良好になることが確認された。
【0039】
<作用・効果>
本発明の一実施形態に係る枚葉式エッチング装置は上記のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。
ノズル21として揺動方向に対して直交する方向に延びたスリット形状の吐出口21aを有するものを採用するとともに、ウェーハ回転速度N、ノズル揺動速度S及びノズル揺動幅Wのパラメータを適正な範囲の値で組み合わせたので、簡単な装置構成で、ウェーハ中心部近傍のリング状の凹凸を減少させ、ウェーハ表面の平坦度を良好にすることができる。この結果、エッチング後の鏡面研磨での研磨代を低減することができる。
【0040】
これは、ノズル21の吐出口21aの形状がスリット形状であるために、リングパターンが発生し易いウェーハ中心部近傍においてエッチング液が均一に供給されるためと考えられる。
つまり、円形ノズルの場合、エッチング液が一箇所に集中して供給されるが、供給されたエッチング液が受ける遠心力は、ウェーハ表面上の径方向において異なる。具体的には、ウェーハの中心部近傍に供給されるエッチング液が受ける遠心力よりも、ウェーハの外周部近傍に供給されるエッチング液が受ける遠心力の方が大きい。このため、ウェーハの中心部近傍のエッチング液よりもウェーハの外周部近傍のエッチング液の方がウェーハ外周部に向かって移動し易く、逆に言えば、ウェーハの中心部近傍のエッチング液はウェーハの外周部近傍のエッチング液よりもウェーハ表面上で滞留時間が長くなる。このため、ウェーハ中心部近傍においてエッチング液の量(つまりエッチングの取り代)が不均一になり、結果としてリングパターンがウェーハ中心部近傍に発生すると考えられる。これに対し、スリットノズルを用いる場合は、エッチング液の量(つまりエッチングの取り代)が不均一になり易いウェーハ中心部近傍においてエッチング液が均一に供給される(つまりエッチングの取り代が均一になる)結果、リングパターンが抑制されると考えられる。そして、その上で、吐出口のスリットの寸法、ウェーハの回転状態及びノズルの揺動状態を調整することにより、ウェーハ面内の良好な平坦度が得られるような、リングパターンの発生が抑制されたエッチング液の供給状態を実現することが可能になると考えられる。
【0041】
また、エッチング液の供給管をアーム23内に設置してモータ24によりノズル21を円弧状の揺動軌跡Lで揺動させるので、ノズル21の揺動に関わる装置の構成を簡素にすることができる。
そして、ウェーハ2を製造する際には、本発明により良好な平坦度のウェーハ2を作製することができるので、エッチング後における鏡面研磨での研磨代を低減することができる。
【0042】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
例えば、上記実施例では直径300mmのウェーハ2を対象として、ノズル21の吐出口21aのサイズを3mm×50mmの矩形状に設定するとともに、ノズル揺動幅Wをウェーハ中心部に対して±60mmに設定したが、直径450mmのウェーハ2を対象にした場合には、ノズル21の吐出口21aのサイズを4.5mm×75mmと設定し、ノズル揺動幅Wをウェーハ中心部に対して±90mmに設定すると良い。つまり、吐出口21aのサイズをウェーハ2の直径の1%×(50/3)%に設定し、ノズル揺動幅Wをウェーハ中心部に対してウェーハ2の直径の±20%に相当する距離に設定すると良い。また、この数値は厳密に限定されるものではなく、上述のようにある程度の範囲が許容されるものであり、例えば吐出口21aのサイズを(2mm〜6mm)×(40mm〜80mm)の範囲で設定しても良いし、ノズル揺動幅Wをウェーハ中心部に対してウェーハ2の直径の±16%以上±24%以下に相当する距離の範囲で設定しても良い。また、上述のように、吐出口21aのスリット形状も完全な矩形状に限らず、矩形の角部に丸みを付けても良いし、矩形をなす辺が直線ではなくギザギザ線や波線であっても良いし、細長い楕円状であっても良い。
【0043】
また、上記実施例1では、ウェーハ回転速度Nを550rpmに設定し、ノズル揺動速度Sは87.5mm/secに設定したが、これらの数値にも上述のようにある程度の範囲が許容されるものである。つまり、例えば、ウェーハ回転速度Nを500rpm以上600rpm以下の範囲で設定し、ノズル揺動速度Sを80mm/sec以上95mm/sec以下の範囲で設定して、ウェーハ回転速度N、ノズル揺動速度S及びノズル揺動幅Wの設定値は、これらの範囲内にある数値を適宜組み合わせると良い。
【0044】
また、上記実施形態では、ノズル揺動装置24はノズル21を円弧状の揺動軌跡Lで揺動させるように構成されているが、上述のようにノズル21をウェーハ2の回転中心O1を通る直線状の揺動軌跡で揺動させるように構成されていても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 枚葉式エッチング装置
2 ウェーハ
10 ウェーハ回転装置
11 チャック
12 回転シャフト
13 モータ(回転駆動装置)
20 エッチング液供給装置
21 エッチング液供給ノズル(ノズル)
21a 吐出口
22 タンク
23 アーム
24 モータ(ノズル揺動装置)
24a モータシャフト(揺動軸)
30 制御装置
L 揺動軌跡
1 ウェーハの回転中心
揺動軌跡の揺動の中心
ウェーハ回転速度
ノズル揺動速度
ノズル揺動幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転しているウェーハの表面にノズルからエッチング液を供給して該ウェーハの表面を1枚ずつエッチングする枚葉式エッチング装置であって、
該ウェーハを回転させるウェーハ回転装置と、
該ノズルを該ウェーハの回転中心を通る揺動軌跡で該ウェーハの表面の上方で揺動させるノズル揺動装置とを備えるとともに、
該ノズルが、揺動方向に対して直交する方向に延びたスリット形状の吐出口を有している
ことを特徴とする、枚葉式エッチング装置。
【請求項2】
該ウェーハの回転速度、該ノズルの揺動速度及び該ノズルの揺動幅を予め記憶し、かつ、該ウェーハが該記憶した回転速度で回転するように該ウェーハ回転装置を制御するとともに該ノズルが該記憶した揺動速度及び該記憶した揺動幅で揺動するように該ノズル揺動装置を制御する制御装置を備えた
ことを特徴とする、請求項1記載の枚葉式エッチング装置。
【請求項3】
該ウェーハの回転速度は450rpm以上650rpm以下であり、
該ノズルの揺動速度は75mm/sec以上100mm/sec以下であり、
該ノズルの揺動幅は該ウェーハの中心部に対して該ウェーハの直径の±13%以上±35%以下に相当する距離である
ことを特徴とする、請求項2記載の枚葉式エッチング装置。
【請求項4】
該ノズル揺動装置は、モータと該モータのモータシャフトに連結されたアームとを備え、該ノズルを円弧状の該揺動軌跡で揺動させる
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の枚葉式エッチング装置。
【請求項5】
回転しているウェーハの表面にエッチング液供給ノズルからエッチング液を供給して該ウェーハの表面を1枚ずつエッチングする枚葉式エッチング方法であって、
該ノズルを該ウェーハの回転中心を通る揺動軌跡で該ウェーハの表面の上方で揺動させながら、該ノズルの揺動方向に対して直交する方向に延びたスリット形状の吐出口から該エッチング液を供給する
ことを特徴とする、枚葉式エッチング方法。
【請求項6】
該ウェーハが予め記憶された回転速度で回転するとともに該ノズルが予め記憶された揺動速度及び予め記憶された揺動幅で揺動する
ことを特徴とする、請求項5記載の枚葉式エッチング方法。
【請求項7】
該ウェーハの回転速度は450rpm以上650rpm以下であり、
該ノズルの揺動速度は75mm/sec以上100mm/sec以下であり、
該ノズルの揺動幅は該ウェーハの中心部に対して該ウェーハの直径の±13%以上±35%以下に相当する距離である
ことを特徴とする、請求項6記載の枚葉式エッチング方法。
【請求項8】
該ノズルを円弧状の該揺動軌跡で揺動させる
ことを特徴とする、請求項5〜7の何れか1項に記載の枚葉式エッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−134797(P2011−134797A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291150(P2009−291150)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】