説明

構造体の製造方法、液滴吐出ヘッド

【課題】ガラス基板に3次元の微小構造を形成させる構造体において、その構造を効率的に形成することができる技術を提供する。
【解決手段】この発明は、ガラス基板からなりそのガラス基板の厚さ方向に形成される貫通孔を有する構造体の製造方法であって、以下の2つの工程からなる。第1工程では、ガラス基板1の貫通孔2の内周面の形成が予定される内周面予定領域3にレーザ光4を照射してそのレーザ光4の焦点を内周面予定領域3内において走査することにより、内周面予定領域3に変質領域5を形成する。第2工程では、ガラス基板1に対してエッチングを行い、変質領域5に係る部位を除去することにより変質領域5で囲まれていた中子6を抜き落として貫通孔2を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板に3次元の微小構造を形成する構造体に関し、その微小構造を効率的に形成する構造体の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の構造体の製造方法として、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。この製造方法は、以下の3つの工程からなる。
(1)ガラス基板の凹部(溝)を形成すべき領域の表面近傍にレーザ光を照射して、そのレーザ光の焦点をガラス基板の面方向に走査することにより、ガラス基板の表面近傍に第1の変質領域を作成する。
(2)ガラス基板の貫通孔を形成すべき領域にレーザ光を照射して、そのレーザ光の焦点をガラス基板の厚さ方向に走査することにより、ガラス基板の厚さ方向に延びる第2の変質領域を作成する。
(3)ガラス基板に対してエッチングを行い、第1の変質領域に沿った部位を除去して上記の凹部を形成するとともに、第2の変質領域に沿った部位を除去して上記の貫通孔を形成する。
【0003】
しかし、従来の製造方法では、凹部の形成において、凹部の開口面積が大きくレーザ光で変質させる領域の体積が大きくなる場合には、レーザ光の照射に相当の時間が必要となって、その形成を効率的に行えない。
また、貫通孔の形成において、貫通孔の孔径が大きくレーザ光で変質させる領域の体積が大きくなる場合には、レーザ光の照射に相当の時間が必要となり、その形成を効率的に行えない。
【特許文献1】特開2005−152693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、ガラス基板に3次元の微小構造を形成する構造体において、その構造を効率的に形成することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決し本発明の目的を達成するために、各発明は、以下のような構成からなる。
第1の発明は、ガラス基板からなり当該ガラス基板の厚さ方向に形成される貫通孔を有する構造体の製造方法であって、ガラス基板の貫通孔の内周面の形成が予定される内周面予定領域にレーザ光を照射して当該レーザ光の焦点を当該内周面予定領域内において走査することにより、内周面予定領域に変質領域を形成する第1工程と、ガラス基板に対してエッチングを行い、変質領域に係る部位を除去することにより変質領域で囲まれていた中子を抜き落として貫通孔を形成する第2工程と、を有する。
【0006】
第2の発明は、ガラス基板からなり、当該ガラス基板の厚さ方向に形成される貫通孔、およびガラス基板内であって当該ガラス基板の面方向に延びる連通孔を有する構造体の製造方法であって、ガラス基板の連通孔が形成される領域にレーザ光を照射して当該レーザ光の焦点をガラス基板の面方向に走査することにより、面方向に第1変質領域を形成する第1工程と、ガラス基板の貫通孔の内周面の形成が予定される内周面予定領域にレーザ光を照射して当該レーザ光の焦点を当該内周面予定領域内において走査することにより、内周面予定領域に第2変質領域を形成する第2工程と、ガラス基板に対してエッチングを行い、第1変質領域に沿った部位を除去して連通孔を形成するとともに、第2変質領域に係る部位を除去することにより第2変質領域で囲まれていた中子を抜き落として貫通孔を形成する第3工程と、を有する。
ここで、第2発明において、第1工程と第2工程は順序が逆でも良い。
【0007】
第3の発明は、ガラス基板からなり、当該ガラス基板の厚さ方向に形成される貫通孔と凹部、およびガラス基板内であって当該ガラス基板の面方向に延びる連通孔を有する構造体の製造方法であって、ガラス基板に凹部を形成する第1工程と、ガラス基板の連通孔が形成される領域にレーザ光を照射して当該レーザ光の焦点をガラス基板の面方向に走査することにより、面方向に第1変質領域を形成する第2工程と、ガラス基板の貫通孔の内周面の形成が予定される内周面予定領域にレーザ光を照射して当該レーザ光の焦点を当該内周面予定領域内において走査することにより、内周面予定領域に第2変質領域を形成する第3工程と、ガラス基板に対してエッチングを行い、第1変質領域に沿った部位を除去して連通孔を形成するとともに、第2変質領域に係る部位を除去することにより第2変質領域で囲まれていた中子を抜き落として貫通孔を形成する第4工程と、を有する。
ここで、第3発明において、第2工程と第3工程は順序が逆でも良い。
【0008】
第4の発明は、第3の発明において、第1工程は、ガラス基板の所定領域に加熱プレスによる型転写によって凹部を形成する。
第5の発明は、第1〜第4の発明において、レーザ光の焦点の内周面予定領域内における走査は、内周面予定領域の周方向に行い、かつ当該走査は内周面予定領域の深さ方向に所定間隔毎に順に行う。
第6の発明は、第1〜第4の発明において、レーザ光の焦点の内周面予定領域内における走査は、内周面予定領域の周方向に向けて行うとともに、当該周方向と交差する方向にジグザグ動作を繰り返しながら行う。
【0009】
第7の発明は、第1〜第4の発明において、レーザ光の焦点の内周面予定領域内における走査は、内周面予定領域に沿って螺旋を描くように行う。
第8の発明は、第1〜第7の製造方法によって製造される構造体を用いた液滴吐出ヘッドである。
本発明によれば、ガラス基板に凹部、貫通孔、連通孔などの複雑な構造を形成する場合に、高効率、高精度、高品質な加工が可能となる。特に、その凹部の開口面積が大きくその貫通孔の孔径が大きな場合には、それらを効率的に加工することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
(構造体の製造方法の第1実施形態)
第1実施形態に係る構造体の製造方法について、図1を参照して説明する。
この製造方法は、ガラス基板からなる構造体に対して、その厚さ方向に貫通孔を形成する場合である。
まず、図1(A)に示すように、ガラス基板1の貫通孔の形成が予定される領域であって、その貫通孔の内周面(内周壁)の形成が予定される内周面予定領域3にレーザ光4を照射する。このとき、そのレーザ光4の焦点を内周面予定領域3内において走査することにより、内周面予定領域3に変質領域を形成する。
【0011】
ガラス基板1に形成される貫通孔2は、図1(C)に示すように所定の径からなるほぼ円筒状の孔である。この場合に、レーザ光4の焦点の内周面予定領域3内における走査は、例えば図1(A)に示すように、内周面予定領域3の同一高さ(X−Y平面内)において周方向に例えば一回行い、かつその走査を内周面予定領域3の深さ方向(Z方向)に所定間隔ごとに順に複数回行う。この複数回の走査は、例えばガラス基板1の表面側から裏面側に向けて順に行う。
その後、レーザ光4による走査が終了すると、図1(B)に示すように、内周面予定領域3に変質領域5が形成され、ガラス基板1内にはその変質領域5で囲まれた中子6が形成される。
ここで、ガラス基板1としては、ソーダガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラスなどの種々のガラスからなる基板が採用可能である。
【0012】
また、ガラス基板1内に形成される変質領域とは、例えば密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいい、微小なクラックが生じる場合も含まれる。このような変質領域の意味は、後述の他の実施形態で述べる変質領域においても同様である。
このような変質領域をガラス基板1内に形成し得る限り、レーザ光4としては種々のものを採用し得る。上記のレーザ光4の好適な一例としては、パルスレーザ光であってそのパルス幅がフェムト秒オーダ(例えば、数10〜数100フェムト秒)であるフェムト秒レーザ光を用いる。
次に、図1(C)に示すように、ガラス基板1に対してエッチングを行い、変質領域5に係る部位を除去することにより変質領域5で囲まれていた中子6を抜き落としまたはくり抜いて貫通孔2を形成する。これにより、第1実施形態に係る構造体が完成する。
【0013】
ここで、上記のエッチングとしては、フッ酸溶液を用いたウェットエッチングや、フッ素化合物ガスを用いたドライエッチングを採用することが可能である。ガラス基板1の変質領域5の部分では、それ以外の部分に比べてエッチング速度が速くなり、その変質領域5に沿った領域が優先的に除去されるようになる。このようなエッチングの具体的な内容やその意義については、後述の他の実施形態で実施される変質領域に対するエッチングにおいても同様である。
図2および図3は、上記のように形成された貫通孔の一例を示す電子顕微鏡による写真である。この例は、貫通孔の孔径が200μmの場合であり、図2が貫通孔の全体を示す写真、図3がその一部を拡大した写真である。
【0014】
次に、ガラス基板1の内周面予定領域3内におけるレーザ光4の焦点の走査方法の他の例について、図4および図5を参照して説明する。
図4は、レーザ光4の焦点の内周面予定領域3内における走査が、図示のように、その内周面予定領域3に沿って螺旋を描くように行う場合である。
図5は、レーザ光4の焦点の内周面予定領域3内における走査が、図示のように、内周面予定領域3の周方向に向けて行うとともに、その周方向と交差する方向にジグザグ動作を繰り返しながら行う場合である。
【0015】
例えば、内周面予定領域3の上端から下端に向けて上下方向(Z方向)にレーザ光4の焦点を走査する(図5の直線41を参照)。その下端まで走査が終了したら、その下端に沿って内周面予定領域3の周方向に所定距離だけ走査する(曲線42を参照)。その走査が終了したら、下端から上端に向けて上下方向に走査する(直線43を参照)。その上端まで走査が終了したら、その上端に沿って内周面予定領域3の周方向に所定距離だけ走査する(曲線44を参照)。以後、これらの走査を繰り返して行う。
以上説明した製造方法によれば、ガラス基板に貫通孔を形成させる構造体であって、その貫通孔の孔径が大きな場合には効率的に加工(形成)することができる。
なお、上記の例では、ガラス基板1に形成する貫通孔の横断面が円形の場合について説明した。しかし、その貫通孔の横断面の形状は、円形のみならず四角形のような多角形や楕円などの各種の形状でも良く、この場合に上記のレーザ光の焦点の走査方法のいずれもが適用可能である。この点は、以下の各実施形態においても同様である。
【0016】
(構造体の製造方法の第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る構造体の製造方法について、図6を参照して説明する。
この製造方法は、ガラス基板からなる構造体に対して、その厚さ方向に貫通孔のみならず所定の深さの凹部(溝)を形成するとともに、ガラス基板の内部であってその面方向(板面に沿う方向)に延びて凹部同士を連通する連通孔を形成する場合である。
まず、図6(A)に示すように、ガラス基板1の一方の面側の所定領域において厚さ方向に所定深さの凹部(溝)7、8を形成する。この凹部7、8の形成は、エッチング法、加熱プレス法、ブラスト法、またはLIBWE法のうちのいずれかで行う。この例では、例えば加熱プレス法が使用される。
【0017】
ここで、エッチング法は、ガラス基板1にエッチングを行って凹凸部を形成する加工法であり、フッ酸溶液を用いたウェットエッチングや、フッ素化合物ガスを用いたドライエッチングを採用することが可能である。加熱プレス法は、ガラス基板1に加熱プレスによる型転写によって凹凸部を形成する加工法である。また、ブラスト法は、ガラス基板1の表面に研掃材を叩きつけて凹凸部を形成する加工法である。さらに、LIBWE法は、レーザ背面湿式加工法(Laser−Induced Backside Wet Etching法)のことである(特許第3012926号公報参照)。
【0018】
次に、図6(B)に示すように、ガラス基板1内であって凹部7と凹部8との間を連通する連通孔9が形成される領域に、レーザ光4を照射する。このとき、そのレーザ光4の焦点をその領域内において面方向に沿って走査することにより、その領域に変質領域10を形成する。
引き続き、図6(C)に示すように、ガラス基板1の貫通孔2の形成が予定される領域であって、その貫通孔の内周面(内周壁)の形成が予定される内周面予定領域3にレーザ光4を照射する。このとき、そのレーザ光4の焦点を内周面予定領域3内において走査することにより、内周面予定領域3に変質領域5を形成する。内周面予定領域3内におけるレーザ光4の焦点の走査は、上記の第1実施形態の各例が適用可能である。
【0019】
レーザ光4による走査が終了すると、内周面予定領域3内の全域に変質領域5が形成され、ガラス基板1内にはその変質領域5で囲まれた中子6が形成される。
次に、図6(D)に示すように、ガラス基板1に対してエッチングを行い、変質領域10に係る部位を除去することにより凹部7と凹部8を連通する連通孔9を形成するとともに、変質領域5に係る部位を除去することにより変質領域5で囲まれていた中子6を抜き落としまたはくり抜いて貫通孔2を形成する。これにより、第2実施形態に係る構造体が完成する。
【0020】
以上説明した製造方法によれば、ガラス基板に凹部や貫通孔などの複雑な構造を形成する場合に、高精度、高品質、高効率な加工が可能となる。特に、その凹部の開口面積が大きくその貫通孔の孔径が大きな場合には、それらを効率的に加工(形成)できる。
なお、上記の例では、レーザ光4の照射を連通孔9が形成される領域に先に行い、その後に貫通孔2に係る内周面予定領域3に行うようにしたが、そのレーザ光4の照射の順序は問わない。
また、上記の連通孔9は、ガラス基板1内であって凹部7と凹部8との間を連通する連通孔とした場合について説明した。しかし、連通孔には、その連通孔以外に貫通孔同士を連通する連通孔、および凹部と連通孔を連通する連通孔も含まれ、これらの連通孔も上記と同様の手法で形成することができる。
【0021】
(構造体の製造方法の第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る構造体の製造方法は、本発明に係るガラス基板からなる構造体としてインクジェットプリンタのような液滴吐出装置の構成要素の一部に適用した場合である。
具体的には、液滴吐出装置の液滴吐出ヘッド(インク吐出ヘッド)に適用した場合の例である。液滴吐出ヘッドは、ノズルプレート、アクチュエータ基板、および封止基板などから構成され、その各基板はそれぞれ複数区画形成されるとともに、接着結合したものである。
そして、この製造方法は、液滴吐出ヘッドの構成要素である封止基板を構造体とし、その封止基板の製造に係るものであるので、その封止基板の構造について図7および図8を参照して説明する。
【0022】
図7は封止基板の平面図である。図8(A)は図7のA−A線視の断面図、図8(B)は図7のB−B線視の断面図、図8(C)は図7のC−C線視の断面図、図8(D)は封止基板の表面および裏面に形成される微小ピットの断面図である。
封止基板20は、上述したガラス基板からなり、図7および図8に示すように、貫通孔21a、21bと、段差部23a、23bを含む貫通孔22a、22bと、段差部23a、23b内に形成される島部(凸部)24a、24bと、凹部25a、25bと、貼り合わせアライメント用の貫通孔26a〜26cと、を備えている。
貫通孔21a、21bは、封止基板20の中央であって封止基板20の長手方向に形成され、実装配線に使用される。貫通孔22a、22bは、封止基板20の貫通孔21a、21bが形成される外側の位置であって貫通孔21a、21bに沿う方向に形成され、インクキャビティに使用される。段差部23a、23bは、貫通孔22a、22bの近傍側であって貫通孔22a、22bの上部側の長手方向に形成される。
【0023】
島部24a、24bは、段差部23a、23b内に形成される。また、島部24a、24bには、封止基板20の面方向に向けてトンネル状の連通孔27a、27bが形成されている(図8(B)参照)。連通孔27a、27bはインク整流構造を構成する。
凹部25a、25bは、封止基板20の裏面側であって、貫通孔21a、21bと貫通孔22a、22bが配置される間の領域において、貫通孔21a、21bの長手方向に沿う方向に所定深さで形成される(図8(A)(B)参照)。
貼り合わせアライメント用の貫通孔26a〜26cは、封止基板20の3つの隅部に形成される。また、封止基板20の表面および裏面のほぼ全体には、接着剤を逃がすための多数の微細ピット28が規則的に形成される(図8(D)参照)。このため、封止基板20を他の基板と接着剤を用いて接着結合して液滴吐出ヘッドを組み立てるときには、3つの貫通孔26a〜26cが位置合わせに使用され、多数の微細ピット28は接着剤を逃がすために使用される。
【0024】
次に、このような構造からなる封止基板20の製造方法について、図9を参照して説明する。この製造方法は、第1実施形態および第2実施形態の製造方法を適用したものであるので、重複する説明は省略する。
まず、図9(A)に示すように、ガラス基板からなる封止基板20の表面側に段差部23a、23bおよび貫通孔22a、22bの上部側をそれぞれ形成し、このとき段差部23a、23b内には島部24a、24bのそれぞれが残るようにする。また、封止基板20の裏面側に凹部25a、25bをそれぞれ形成する。
これらの形成は、上述のエッチング法、加熱プレス法、ブラスト法、またはLIBWE法のうちのいずれかの加工法で行う。この例では、エッチング法または加熱プレス法が最適である。
【0025】
次に、図9(B)に示すように、島部24a、24b内であって、連通孔27a、27bが形成される領域に、レーザ光4を照射する。このとき、レーザ光4の焦点をその領域内において封止基板20の面方向に沿って走査することにより、その領域に変質領域30a、30bをそれぞれ形成する。また、貫通孔26a〜26cが形成される領域に、レーザ光4を照射する(図7および図8(C)参照)。このとき、レーザ光4の焦点をその領域内において封止基板20の厚さ方向に沿って走査することにより、その領域に変質領域(図示せず)をそれぞれ形成する。
【0026】
引き続き、図9(B)に示すように、封止基板20の貫通孔21a、21bの形成が予定される領域および貫通孔22a、22bのうちの残りの部分の形成が予定される領域であって、それらの貫通孔の内周面(内周壁)の形成が予定される内周面予定領域31a、31b、32a、32bにレーザ光4を照射する。このとき、レーザ光4の焦点を内周面予定領域31a、31b、32a、32b内において走査することにより、内周面予定領域31a、31b、32a、32bに変質領域51a、51b、52a、52bを形成する。内周面予定領域31a、31b、32a、32b内におけるレーザ光4の焦点の走査は、上記の第1実施形態の各例が適用可能である。
【0027】
レーザ光4による走査が終了すると、図9(c)に示すように、連通孔27a、27bが形成される領域に変質領域30a、30bがそれぞれ形成され、連通孔26a〜26cが形成される領域に変質領域(図示せず)がそれぞれ形成される。また、内周面予定領域31a、31b、32a、32bに変質領域51a、51b、52a、52bがそれぞれ形成される。さらに、封止基板20内には、変質領域51a、51b、52a、52bのそれぞれで囲まれた中子61a、61b、62a、62bが形成される。
次に、図9(D)に示すように、封止基板20に対してエッチングを行い、変質領域30a、30bに係る部位を除去することにより連通孔27a、27bをそれぞれ形成し、同様に連通孔26a〜26cをそれぞれ形成する。また、変質領域51a、51b、52a、52bに係る部位を除去することにより変質領域51a、51b、52a、52bで囲まれていた中子61a、61b、62a、62bを抜き落としまたはくり抜いて貫通孔21a、21b、22a、22bをそれぞれ形成する。
【0028】
さらに、封止基板20の表裏の両面のほぼ全域に、多数の微細ピット28を例えば規則的に形成する。これにより、第3実施形態に係る封止基板20が完成する。
以上説明した製造方法によれば、ガラス基板に凹部、貫通孔、連通孔などの複雑な構造を有する構造体を形成する場合に、高精度、高品質、高効率な加工が可能となる。特に、その凹部の開口面積が大きくその貫通孔の横断面積(孔径)が大きな場合には、それらを効率的に加工できる。
なお、上記の例では、レーザ光4の照射を連通孔27a、27bが形成される領域に先に行い、その後に貫通孔21a、21bなどに係る内周面予定領域に行うようにしたが、そのレーザ光4の照射の順序は問わない。
【0029】
(構造体の製造方法の第4実施形態)
この第4実施形態は、第3実施形態と同様に、液滴吐出ヘッドの構成要素である封止基板20の製造方法の他の例であり、図10を参照して説明する。
まず、図10(A)に示すように、ガラス基板からなる封止基板20の表面側に段差部23a、23bおよび貫通孔22a、22bの上部側をそれぞれ形成し、このとき段差部23a、23b内には島部24a、24bのそれぞれが残るようにする。また、封止基板20の裏面側に凹部25a、25bをそれぞれ形成する。
これらの形成は、上述のエッチング法、加熱プレス法、ブラスト法、またはLIBWE法のうちのいずれかの加工法で行う。この例では、エッチング法または加熱プレス法が最適である。
【0030】
次に、図10(B)に示すように、島部24a、24b内であって、連通孔27a、27bが形成される領域に、レーザ光4を照射する。このとき、レーザ光4の焦点をその領域内において封止基板20の面方向に沿って走査することにより、その領域に変質領域30a、30bをそれぞれ形成する。また、貫通孔26a〜26cが形成される領域に、レーザ光4を照射する(図7および図8(C)参照)。このとき、レーザ光4の焦点をその領域内において封止基板20の厚さ方向に沿って走査することにより、その領域に変質領域(図示せず)をそれぞれ形成する。
引き続き、図10(B)に示すように、封止基板20の貫通孔21a、21bの形成が予定される領域および貫通孔22a、22bのうちの残りの部分の形成が予定される領域にレーザ光4を照射する。このとき、レーザ光4の焦点をその領域内において封止基板20の厚さ方向に沿って走査することにより、その各領域に変質領域71a、71b、72a、72bを形成する。
【0031】
次に、図10(C)に示すように、封止基板20に対してエッチングを行い、変質領域30a、30bに係る各部位を除去することにより連通孔27a、27bをそれぞれ形成し、同様に連通孔26a〜26cをそれぞれ形成する。また、変質領域71a、71b、72a、72bに係る部位を除去することにより貫通孔21a、21b、22a、22bをそれぞれ形成する。
さらに、封止基板20の表裏の両面のほぼ全域に、多数の微細ピット28を例えば規則的に形成する。これにより、第4実施形態に係る封止基板20が完成する。
以上説明した製造方法によれば、第3実施形態に係る製造方法と同様の効果を実現できる。
【0032】
(その他)
上記の実施形態では、本発明に係るガラス基板からなる構造体をインクジェットプリンタのような液滴吐出装置、およびその液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドに適用した場合について説明した。
しかし、本発明に係るガラス基板からなる構造体は、上記以外にガラスを用いた各種のMEMSデバイス(Micro Electro Mechanical Systemsデバイス)などに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態の製造方法の工程を説明する図である。
【図2】本発明の第1実施形態の製造方法で得られた貫通孔の一例の全体を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】その同じ貫通孔の電子顕微鏡写真の拡大部分を示すものである。
【図4】第1実施形態の製造方法におけるレーザ光の焦点の走査方法の他の例を説明する説明図である。
【図5】第1実施形態の製造方法におけるレーザ光の焦点の走査方法のさらに他の例を説明する説明図である。
【図6】本発明の第2実施形態の製造方法の工程を説明する図である。
【図7】本発明の第3実施形態の製造方法で製造される構造体の一例である、液滴吐出ヘッドの封止基板の構成を示す平面図である。
【図8】図7に示す封止基板の各部の断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の製造方法の工程を説明する図である。
【図10】本発明の第4実施形態の製造方法の工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
1・・・ガラス基板、2・・・貫通孔、3・・・内周面予定領域、4・・・レーザ光、5、10・・・変質領域、6・・・中子、7、8・・・凹部(溝)、9・・・連通孔、20・・・封止基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板からなり当該ガラス基板の厚さ方向に形成される貫通孔を有する構造体の製造方法であって、
前記ガラス基板の前記貫通孔の内周面の形成が予定される内周面予定領域にレーザ光を照射して当該レーザ光の焦点を当該内周面予定領域内において走査することにより、前記内周面予定領域に変質領域を形成する第1工程と、
前記ガラス基板に対してエッチングを行い、前記変質領域に係る部位を除去することにより前記変質領域で囲まれていた中子を抜き落として前記貫通孔を形成する第2工程と、
を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項2】
ガラス基板からなり、当該ガラス基板の厚さ方向に形成される貫通孔、および前記ガラス基板内であって当該ガラス基板の面方向に延びる連通孔を有する構造体の製造方法であって、
前記ガラス基板の前記連通孔が形成される領域にレーザ光を照射して当該レーザ光の焦点を前記ガラス基板の面方向に走査することにより、前記面方向に第1変質領域を形成する第1工程と、
前記ガラス基板の前記貫通孔の内周面の形成が予定される内周面予定領域にレーザ光を照射して当該レーザ光の焦点を当該内周面予定領域内において走査することにより、前記内周面予定領域に第2変質領域を形成する第2工程と、
前記ガラス基板に対してエッチングを行い、前記第1変質領域に沿った部位を除去して前記連通孔を形成するとともに、前記第2変質領域に係る部位を除去することにより前記第2変質領域で囲まれていた中子を抜き落として前記貫通孔を形成する第3工程と、
を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項3】
ガラス基板からなり、当該ガラス基板の厚さ方向に形成される貫通孔と凹部、および前記ガラス基板内であって当該ガラス基板の面方向に延びる連通孔を有する構造体の製造方法であって、
前記ガラス基板に前記凹部を形成する第1工程と、
前記ガラス基板の前記連通孔が形成される領域にレーザ光を照射して当該レーザ光の焦点を前記ガラス基板の面方向に走査することにより、前記面方向に第1変質領域を形成する第2工程と、
前記ガラス基板の前記貫通孔の内周面の形成が予定される内周面予定領域にレーザ光を照射して当該レーザ光の焦点を当該内周面予定領域内において走査することにより、前記内周面予定領域に第2変質領域を形成する第3工程と、
前記ガラス基板に対してエッチングを行い、前記第1変質領域に沿った部位を除去して前記連通孔を形成するとともに、前記第2変質領域に係る部位を除去することにより前記第2変質領域で囲まれていた中子を抜き落として前記貫通孔を形成する第4工程と、
を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程は、前記ガラス基板の所定領域に加熱プレスによる型転写によって前記凹部を形成することを特徴とする請求項3に記載の構造体の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光の焦点の前記内周面予定領域内における走査は、前記内周面予定領域の周方向に行い、かつ当該走査は前記内周面予定領域の深さ方向に所定間隔毎に順に行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の構造体の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ光の焦点の前記内周面予定領域内における走査は、前記内周面予定領域の周方向に向けて行うとともに、当該周方向と交差する方向にジグザグ動作を繰り返しながら行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の構造体の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ光の焦点の前記内周面予定領域内における走査は、前記内周面予定領域に沿って螺旋を描くように行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のうちの何れかに記載の製造方法によって製造される構造体を用いたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−24064(P2010−24064A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183982(P2008−183982)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】