説明

樹脂付き基材の製造方法

【課題】安全性や作業環境への影響が軽減され、有機溶剤を処理するための燃焼装置等が不要であり、さらに電気的特性や機械的特性等に優れた樹脂付き基材を得ることの可能な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂付き基材の製造方法は、略真球状の金属酸化物微粒子と、該金属酸化物微粒子表面の金属酸化物と親水性シランカップリング剤とを反応させることで形成された表面処理層とを備えるフィラー、および水を含有するスラリー組成物を調製する工程と、前記スラリー組成物、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂100質量部に対して16質量部以上30質量部以下の乳化剤、硬化剤および水を含有する塗布液を調製する工程と、基材に前記塗布液を付着させる工程と、前記塗布液が付着した基材を乾燥する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に塗布液を付着、乾燥させてなる樹脂付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プリント回路板に用いられる樹脂付き基材としては、プリプレグや樹脂付き銅箔(RCC:Resin Coated Copper foil)等が挙げられる。
プリプレグは、熱硬化性樹脂等の樹脂成分を有機溶剤に溶解した塗布液をガラスクロスなどの繊維基材に含浸させ、加熱乾燥することにより得られる。また、樹脂付き銅箔は、前記塗布液を銅箔の表面に塗布し、加熱乾燥することにより得られる。従来、このような塗布液には、多量の有機溶剤が用いられてきた。これは、塗布液の調製やその後の取り扱いが容易であり、基材への塗布・含浸が均一に行えるという利点があるためである。
【0003】
しかし、有機溶剤は樹脂付き基材を製造する際の乾燥工程で蒸発させ、その多くは燃焼装置等で処理されるか、あるいは、そのまま大気中に放出される。そのため、安全性や作業環境への影響が問題となり、さらに地球温暖化や大気汚染の一因となることが指摘されるようになった。また、有機溶剤を処理するための燃焼装置等が別途必要であった。そのため、近年では、水分散タイプの塗布液等を用いることにより、樹脂付き基材製造時の有機溶剤の使用量を削減する試みが種々検討されている。
【0004】
特許文献1には、ガラス基材、およびエポキシ樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤と、前記エポキシ樹脂100質量部に対して0〜30質量部の有機溶媒と、前記エポキシ樹脂100質量部に対して1.0〜15質量部の乳化剤と、水とを含有する、水系の塗布液の乾燥物を含むプリプレグの製造方法が記載されている。
特許文献2には、略真球状の酸化物微粒子であるフィラーを有機溶媒に分散してなるスラリー組成物が記載されている。特許文献2に記載のスラリー組成物は、塗布液にフィラーを添加する際に用いるものである。当該文献には、略真球状のフィラーを含有するスラリー組成物はフィラーの濃度が高くても低粘度であることから、成形体中にフィラーを均一に分散させることができると記載されている。
【特許文献1】特開平9−316219号公報
【特許文献2】特開2002−285003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の水系の塗布液は有機溶媒を含む場合があり、有機溶媒の使用に伴う安全性および作業環境への影響が依然として解決されておらず、さらに燃焼装置等の設備が必要であるとの問題もあった。また、特許文献1に記載の水系の塗布液においては、乳化粒子の分散性が不安定になる場合があった。そのため、基材に均一な組成で樹脂組成物を付着させることができない場合があり、この塗布液から得られる樹脂付き基材は電気的特性に解決すべき点があった。
【0006】
また、特許文献2に記載のスラリー組成物は有機溶媒を含むものであり、塗布液を調製する際に用いた場合には上記と同様な有機溶媒の使用に伴う問題があった。また、特許文献2に記載のフィラーを有機溶剤に分散させたスラリーとせず、塗布液を調製する際に直接添加した場合、水系の塗布液中でフィラーが凝集することがあり、この塗布液から得られる樹脂付き基材は電気的特性や機械的特性に解決すべき点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]略真球状の金属酸化物微粒子と、該金属酸化物微粒子表面の金属酸化物と親水性シランカップリング剤とを反応させることで形成された表面処理層とを備えるフィラー、および水を含有するスラリー組成物を調製する工程と、
前記スラリー組成物、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂100質量部に対して16質量部以上30質量部以下の乳化剤、硬化剤および水を含有する塗布液を調製する工程と、
基材に前記塗布液を付着させる工程と、
前記塗布液が付着した基材を乾燥する工程と、
を含むことを特徴とする樹脂付き基材の製造方法。
【0008】
[2]前記スラリー組成物を調製する前記工程が、
金属粉末に酸素を反応させて前記金属酸化物微粒子を調製する工程を含むことを特徴とする[1]に記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0009】
[3]前記スラリー組成物を調製する前記工程が、
VMC(Vaporized Metal Combustion)法により前記金属酸化物微粒子を調製する工程を含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0010】
[4]前記金属酸化物微粒子の真球度が0.8以上であることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0011】
[5]前記金属酸化物は、シリカ、アルミナ、チタニア内包シリカ、ジルコニア内包シリカ、ムライト、スピネル及びチタニアからなる群から1種以上選択されることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0012】
[6]前記スラリー組成物を調製する前記工程が、
前記親水性シランカップリング剤を前記金属酸化物微粒子の質量を基準として、0.1質量%以上、5質量%以下の量で反応させて前記表面処理層を形成する工程を含むことを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0013】
[7]前記親水性シランカップリング剤はエポキシシランカップリング剤であることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0014】
[8]前記親水性シランカップリング剤はグリシジル基を有することを特徴とする[1]乃至[7]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0015】
[9]前記フィラーは、前記スラリー組成物全体の質量を基準として30質量%以上95質量%以下の割合で含有されることを特徴とする[1]乃至[8]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0016】
[10]前記塗布液を調製する前記工程が、
乳化剤によりシアネート樹脂およびエポキシ樹脂を水中に乳化させてエマルションを調製する工程と、
前記スラリー組成物および硬化剤を混合撹拌して分散液を調製する工程と、
前記エマルションと前記分散液とを混合撹拌して前記塗布液を調製する工程と、
を含むことを特徴とする[1]乃至[9]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0017】
[11]前記エマルションを調製する前記工程が、
シアネート樹脂とエポキシ樹脂と乳化剤とを溶融混合する工程と、
前記工程により得られた溶融混合物に水を添加して転相乳化するとともに、さらに水を添加して前記エマルションを調製する工程と、
を含むことを特徴とする[1]乃至[10]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0018】
[12]前記硬化剤は、難水溶性であることを特徴とする[1]乃至[11]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0019】
[13]前記シアネート樹脂および前記エポキシ樹脂の合計量100質量部に対して、前記乳化剤を1質量部以上、10質量部以下含むことを特徴とする[1]乃至[12]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0020】
[14]前記シアネート樹脂100質量部に対して、前記エポキシ樹脂を20質量部以上、200質量部以下含むことを特徴とする[1]乃至[13]のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【0021】
[15]略真球状の金属酸化物微粒子と、該金属酸化物微粒子表面の金属酸化物と親水性シランカップリング剤とを反応させることで形成された表面処理層とを備えるフィラー、および水を含有するスラリー組成物を調製する工程と、
前記スラリー組成物、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂100質量部に対して16質量部以上30質量部以下の乳化剤、硬化剤および水を含有する塗布液を調製する工程と、
繊維基材に前記塗布液を含浸させる工程と、
前記塗布液が含浸した前記繊維基材を乾燥する工程と、
を含むことを特徴とするプリプレグの製造方法。
【0022】
[16]略真球状の金属酸化物微粒子と、該金属酸化物微粒子表面の金属酸化物と親水性シランカップリング剤とを反応させることで形成された表面処理層とを備えるフィラー、および水を含有するスラリー組成物を調製する工程と、
前記スラリー組成物、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂100質量部に対して16質量部以上30質量部以下の乳化剤、硬化剤および水を含有する塗布液を調製する工程と、
金属箔表面に前記塗布液を付着させる工程と、
前記塗布液が付着した前記金属箔を乾燥する工程と、
を含むことを特徴とする樹脂付き金属箔の製造方法。
なお、本発明において、基材に塗布液を付着させるとは、基材表面に塗布液を付着させる態様、基材に塗布液を含浸させる態様のいずれの態様も含むものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、安全性および作業環境への影響が軽減され、有機溶媒を処理するための特殊な設備が不要であり、さらに略真球状の酸化物微粒子であるフィラーを水系樹脂組成物中に高濃度かつ均一に分散させることができるため、電気的特性や機械的特性に優れる樹脂付き基材を得ることができる製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の樹脂付き基材の製造方法は以下の工程を含む。
(a)略真球状の金属酸化物微粒子と、該金属酸化物微粒子表面の金属酸化物と親水性シランカップリング剤とを反応させることで形成された表面処理層とを備えるフィラー、および水を含有するスラリー組成物を調製する工程
(b)スラリー組成物、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂100質量部に対して16質量部以上30質量部以下の乳化剤、無機フィラー、硬化剤および水を含有する塗布液を調製する工程
(c)基材に塗布液を付着させる工程
(d)塗布液が付着した基材を乾燥する工程
【0025】
このような製造方法においては、塗布液中に有機溶媒が実質的に含まれていない。そのため、安全性および作業環境への影響が軽減され、有機溶媒を処理するための特殊な設備が不要である。なお、本実施形態において溶媒として水のみを含むが、有機溶媒好ましくは親水性有機溶媒を微量添加してもよい。
【0026】
本実施形態の樹脂付き基材としては、プリプレグや樹脂付き金属箔、樹脂付フィルム等を挙げることができる。樹脂付き金属箔としては、樹脂付き銅箔(RCC:Resin Coated Copper foil)等を挙げることができる。また、金属箔の代わりにフィルムを用いた樹脂付きフィルム(RCF:Resin Coated Film)等を用いることもできる。
シアネート樹脂としては、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等やこれらのプレポリマーなどを用いることができる。
【0027】
前記シアネート樹脂またはそのプレポリマーの重量平均分子量は、150〜4,500、好ましくは300〜3,000とすることができる。
【0028】
重量平均分子量が150未満であると樹脂付き基材にタック性が生じ、樹脂付き基材同士が接触したとき互いに付着したり、樹脂の転写が生じたりする場合がある。また、4,500を超えると反応が速くなりすぎ、積層板とした場合に、成形不良を生じたり、層間ピール強度が低下したりする場合がある。そのため、上記数値範囲であれば、上記特性の何れにも優れた樹脂付き基材および積層板を得ることができる。
【0029】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂等やこれらのプレポリマーなどを用いることができる。
【0030】
前記エポキシ樹脂の重量平均分子量は、300〜15,000、好ましくは500〜10,000とすることができる。
重量平均分子量が前記下限値未満であると樹脂付き基材にタック性が生じるなどの問題が起こる場合が有り、前記上限値を超えると樹脂付き基材作製時、基材への含浸性が低下し、均一な製品が得られないなどの問題が起こる場合がある。そのため、上記数値範囲であれば、上記特性の何れにも優れた樹脂付き基材および積層板を得ることができる。
【0031】
このようなシアネート樹脂およびエポキシ樹脂を用いることにより、樹脂付き基材及び積層板として基本的に必要とされる耐燃性、低線膨張性、耐熱性、機械的特性、電気的特性を付与することができる。本実施形態においては、上記のシアネート樹脂および上記のエポキシ樹脂を含み、これらを加熱溶融混合することにより、樹脂の溶融粘度が低下し、その後のエマルション化が容易となる。
【0032】
上記のシアネート樹脂およびエポキシ樹脂は、軟化点が100℃以下であることが好ましい。これにより、樹脂を溶融した後、エマルション化する操作を通常の方法にて容易に行うことができ、得られたエマルションが安定しており、かつ、含浸乾燥工程において、樹脂を繊維基材内に容易に浸透させることができる。また、シアネート樹脂およびエポキシ樹脂は、その少なくとも1種が軟化点40℃以下であることが好ましい。これにより、樹脂の加熱溶融混合およびエマルション化が容易となり、加えて、樹脂を繊維基材のモノフィラメント間に十分に浸透させることができる。従って、本発明に用いるシアネート樹脂およびエポキシ樹脂は、その少なくとも1種が軟化点40℃以下であることがより好ましい。
【0033】
本実施形態における乳化剤としては、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、ノニオン系乳化剤、水溶性高分子を用いることができる。
【0034】
アニオン性乳化剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等を挙げることができる。
【0035】
カチオン性乳化剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルピリジウムブロマイド等を挙げることができる。
【0036】
ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル型、ポリオキシアルキレンアリールエーテル型あるいはポリオキシエチレン脂肪酸エステル型などが挙げられる。
【0037】
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等を挙げることができる。
【0038】
本実施形態においては、乳化粒子の分散安定性の観点からノニオン系乳化剤を用いることができる。
【0039】
以下、各工程に沿って順に説明する。
(a)スラリー組成物を調製する工程
本実施形態において塗布液を調製する工程(a)は、以下の工程を含むことができる。
(a1)金属粉末に酸素を反応させて前記金属酸化物微粒子を調製する工程
(a2)親水性シランカップリング剤を金属酸化物微粒子の表面の金属酸化物と反応させて表面処理層を形成し、フィラーを調製する工程
(a3)フィラーを水に分散させてスラリー組成物を調製する工程
【0040】
以下、工程(a1)〜(a3)の各工程を説明する。
(a1)金属粉末に酸素を反応させて前記金属酸化物微粒子を調製する工程
略真球状の酸化物微粒子は、金属粉末に酸素を反応させて前記金属酸化物微粒子を得ることができ、具体的にはVMC(Vaporized Metal Combustion)法によって合成することができる。
【0041】
VMC法とは、酸素を含む雰囲気内においてバーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中に目的とする酸化物微粒子の原料となる金属粉末を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こさせて酸化物微粒子を合成する方法である。
【0042】
VMC法の作用について説明すれば以下のようになる。まず容器中に酸素を含有するガスを充満させ、この反応ガス中で化学炎を形成する。次いでこの化学炎に、Si,Al,Zr等の金属粉末を投入し高濃度(500g/m以上)の粉塵雲を形成する。すると、化学炎により金属粉末表面に熱エネルギーが与えられ、金属粉末の表面温度が上昇し、金属粉末表面から金属の蒸気が周囲に広がる。この金属蒸気が酸素ガスと反応して発火し火炎を生じる。この火炎により生じた熱は、さらに金属粉末の気化を促進し、生じた金属蒸気と反応ガスが混合され、連鎖的に発火伝播する。このとき金属粉末自体も破壊して飛散し、火炎伝播を促す。燃焼後に生成ガスが自然冷却されることにより、酸化物微粒子の雲ができる。得られた酸化物微粒子は、電気集塵器等により帯電させて捕獲することができる。
【0043】
VMC法は粉塵爆発の原理を利用するものであり、瞬時に大量の酸化物微粒子が得られ、その微粒子は、略真球の形状をなす。例えば、SiO微粒子を得る場合にはSi粉末を投入、Al微粒子を得る場合にはAl粉末を投入すればよい。投入する粉末の粒子径、投入量、火炎温度等を調整することにより、微粒子の粒径を調整することが可能である。0.001〜0.1μmというサブミクロンオーダーの粒径を持つ超微粒子をも容易に合成可能である。
【0044】
工程(a)により得られた金属酸化物微粒子は、略真球状の粒子である。例えば、真球度が0.8以上、望ましくは0.9以上のものである。ここで、本明細書における真球度とは、SEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(真球度)={4π×(面積)÷(周囲長)}で算出される値として算出する。酸化物微粒子の形状は、真球度が1に近づくほど真球に近い。真球度の測定は、具体的には画像処理装置を用いて100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0045】
酸化物微粒子の真球度が上記範囲にあることにより、水系樹脂組成物におけるフィラーの流動性が向上する。そのため、フィラーを水系樹脂組成物中に高濃度かつ均一に分散させることができる。
【0046】
(a2)フィラーを調製する工程
工程(a2)においては、親水性シランカップリング剤を金属酸化物微粒子の表面の金属酸化物と反応させて表面処理層を形成し、フィラーを調製する。
【0047】
金属酸化物微粒子の表面に親水性シランカップリング剤を反応させる方法としては特に限定されない。例えば、乾燥した金属酸化物微粒子に直接親水性シランカップリング剤を接触させる方法や親水性シランカップリング剤を後述する水系溶媒中に予め分散させた後に、その溶液中に金属酸化物微粒子を混合する方法が挙げられる。親水性シランカップリング剤を水系溶媒中に分散させる場合には親水性シランカップリング剤が分散した後であって、その分解が進行して凝集する前に金属酸化物微粒子を混合することが望ましい。
【0048】
親水性シランカップリング剤とは、アルコキシ基を有する末端の他方末端側にエポキシ基、アミノ基、脂環式エポキシ基、これらの誘導体等の親水性基を有するシランカップリング剤である。本実施形態においては、エポキシシランカップリング剤が好ましく、グリシジル基を有するシランカップリング剤がより好ましい。このような親水性シランカップリング剤を用いて金属酸化物微粒子に表面処理層を形成すると、長時間にわたり安定してフィラーを分散させることが可能になる。
【0049】
具体的に望ましい親水性シランカップリング剤としては(CHO)SiCOCHCHOCH、(CHO)SiCNHC、(CHO)SiCOが挙げられ、特に(CHO)SiCOCHCHOCHが好ましい。
表面処理層を形成する目的で反応させる親水性シランカップリング剤の量は、フィラー原料中の金属酸化物微粒子の質量を基準として0.1質量%以上、5質量%以下にすることが望ましく、0.3質量%以上、3質量%以下にすることが更に望ましい。
【0050】
本工程により得られるフィラーは、略真球状の金属酸化物微粒子と、金属酸化物微粒子表面に形成された表面処理層とからなる。表面処理層は、金属酸化物微粒子表面の金属酸化物と親水性シランカップリング剤とを反応させることで表面に形成されるものである。
このような表面処理層を有することにより、略真球状の酸化物微粒子であるフィラーを水系樹脂組成物中に高濃度かつ均一に分散させることができる。そのため、電気的特性や機械的特性に優れる樹脂付き基材を提供することができる。
【0051】
フィラーの粒子径は、目的とする樹脂成形物の特性に応じて選択され、種々の平均粒子径の酸化物微粒子粉末を採用することができる。一般的には、平均粒子径において、0.005μm以上20μm以下にすればよい。特に平均粒子径が0.1μm以上の酸化物微粒子粉末を用いるとより好適である。水系樹脂組成物中にフィラーを均一に分散させる観点から、0.1μm以上5μm以下の平均粒子径を有するフィラーを採用することが望ましい。
本発明のフィラーの粒度分布は、レーザー回折散乱法による粒度分布測定に基づく値である。
【0052】
金属酸化物微粒子としては、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)、TiO(チタニア)、ZrO(ジルコニア)等の単一金属の酸化物を始めとして、SiO−Al(ムライトなど)、SiO−TiO、SiO−ZrO、スピネル等の複合酸化物、チタニア内包シリカ、ジルコニア内包シリカなどを用いることができる。また、フィラーを、一種の酸化物微粒子で構成するだけでなく、二種以上の酸化物微粒子を混合した混合物として構成してもよい。
【0053】
樹脂成形物の機械的強度、耐熱性の向上といった目的でフィラーを使用する場合、比較的安価なことを考慮すれば、SiO、Al、あるいはこれらの複合酸化物を用いることが望ましい。特に、樹脂成形物の耐摩耗性を向上させることを考慮した場合には、フィラーはAlの微粒子とすることが望ましい。また、最も安価であり、酸およびアルカリによる腐食に強く化学的に安定であり、さらに電子部品等の用途に供される場合に要求される低誘電率であること等を考慮すれば、フィラーはSiOの微粒子とすることが望ましい。
【0054】
フィラーの配合により、樹脂付き基材及び積層板の特性を実質的に低下させることなく、積層板の熱膨張率の低下や耐熱性の向上とともに、樹脂付き基材からの粉落ちを防止することができる。フィラーの配合量は、樹脂およびフィラーを含む組成物全体100質量%(固形分)に対して、30〜80質量%であることが好ましく、更に好ましくは40〜75質量%である。
【0055】
配合量が前記下限値未満の場合は、耐燃性や熱膨張率を小さくするという効果が不十分となることがある。特に、積層板に搭載される部品の熱膨張との差が大きいと、熱サイクル試験等の信頼性に問題が発生することがある。一方、前記上限値を越えると、樹脂液のチクソ性も大きくなり、含浸性の低下や樹脂付き基材あるいは積層板の外観が低下することがあり、積層板のドリル加工等の加工性が低下する傾向にある。また、相対的に樹脂の不足から耐熱性の低下などがみられることがある。そのため、耐燃性や熱膨張率の向上や、含浸性や樹脂付き基材あるいは積層板の外観の向上、さらに積層板の加工性の観点から、上記数値範囲にあることが好ましい。
【0056】
(a3)フィラーを水に分散させてスラリー組成物を調製する工程
工程(a2)において得られたフィラーは、通常の方法により水系溶媒に分散させてスラリー組成物として用いることができる。水系溶媒としては水を含有するものであれば用いることができる。水以外の成分としては、アルコールなどが挙げられる。特に水を主成分として含有することが望ましく、水を単独で用いることが更に望ましい。水系溶媒にフィラーを分散することは、フィラーの分散性を向上させ、粗粒子を除去する観点から好ましい。
【0057】
フィラーは、スラリー組成物全体の質量を基準として30質量%以上95質量%以下の割合で含有することができる。30質量%未満であるとフィラーの沈降などが発生し、95質量%を超えるとスラリー化が困難になる傾向がある。つまり、上記数値範囲であれば、分散安定性および生産効率に優れたスラリー組成物とすることができる。
【0058】
フィラーを含有する水スラリー組成物は、粒子径5μm以上の粒子を実質的に含有しない組成物とすることができる。
【0059】
(b)塗布液を調製する工程
本実施形態において塗布液を調製する工程(b)は、以下の工程を含むことができる。
(b1)シアネート樹脂とエポキシ樹脂と乳化剤とを溶融混合する工程
(b2)工程(b1)により得られた溶融混合物に水を添加して転相乳化するとともに、さらに水を添加してエマルションを調製する工程
(b3)スラリー組成物および硬化剤を混合撹拌して分散液を調製する工程
(b4)エマルションと分散液とを混合撹拌して塗布液を調製する工程
【0060】
以下、工程(b1)〜(b4)の各工程を説明する。
【0061】
(b1)シアネート樹脂とエポキシ樹脂と乳化剤とを溶融混合する工程
本工程においては、シアネート樹脂とエポキシ樹脂と乳化剤とを加熱溶融混合する。
【0062】
本実施形態においてシアネート樹脂とエポキシ樹脂と乳化剤とを溶融混合する際の温度は、通常、樹脂および乳化剤の混合が容易に行える程度の溶融粘度となる温度とする。また、加熱溶融混合する方法については、特に限定されず公知の方法で行うことができる。
【0063】
従来方法では、軟化点が常温よりかなり高い樹脂ではエマルション化することが難しく、粉砕して微粒子化し水に分散してスラリーとしていた。また、複数の樹脂を用いる処方においては、エマルション化とスラリー化が必要な場合があり、エマルション化のための設備とスラリー化のための設備の両方が必要となり、設備投資の負担が増大し、水分散樹脂液を調製する工程も煩雑になる。本実施形態においては、シアネート樹脂およびエポキシ樹脂を乳化剤とともに加熱溶融混合しエマルション化するので、上記の問題点は解消される。
【0064】
本工程においては、シアネート樹脂100質量部に対して、エポキシ樹脂を20質量部以上、200質量部以下、好ましくは30質量部以上、150質量部以下の量で用いることができる。前記下限値未満では、シアネート樹脂の反応性が低下したり、得られる製品の耐湿性が低下する場合がある。一方、前記上限値を超えると耐熱性が低下する場合がある。したがって、シアネート樹脂の反応性、得られる製品の耐湿性および耐熱性の観点から上記数値範囲であることが好ましい。
【0065】
乳化剤は、エポキシ樹脂100質量部に対して16質量部以上、30質量部以下、好ましくは16質量部以上、25質量部以下で用いることができる。上記下限値未満では塗布液中の乳化粒子が不安定で、一度エマルション化した樹脂が再凝集してしまうなど分散安定性に問題がある。そのため、ガラス基材に均一な組成で含浸させたり、金属箔表面に均一な組成で付着させることができないため、このエマルションから得られる樹脂付き基材は電気的特性に問題があった。一方、上記上限値を超えると乳化剤量が過剰であり、積層板の耐熱性や引き剥がし特性に悪影響を与えることがある。したがって、これらの数値範囲内であれば、エマルションの分散安定性に優れ、電気的特性に優れた樹脂付き基材や、耐熱性や引き剥がし特性に優れた積層板を得ることができる。
【0066】
また、前記乳化剤は、シアネート樹脂およびエポキシ樹脂の合計量100質量部に対して、1質量部以上、10質量部以下、好ましくは3質量部以上、8質量部以下の量で用いることができる。
【0067】
上記数値範囲内であれば、エマルションの分散安定性に特に優れ、電気的特性により優れた樹脂付き基材を得ることができ、さらに耐熱性や引き剥がし特性により優れた積層板を得ることができる
【0068】
(b2)工程(b1)により得られた溶融混合物に水を添加して転相乳化するとともに、さらに水を添加してエマルションを調製する工程
本工程においては、上記工程(b1)のようにシアネート樹脂とエポキシ樹脂と乳化剤とを溶融混合した後、この溶融混合物に所定量の水を徐々に添加混合することによりW/O型からO/Wへの転相乳化を行う。なお、添加される水も溶融した樹脂と同程度に加熱されていることが好ましい。
【0069】
上記転相乳化の方法は、例えば、予め加熱溶融混合した溶融混合物に水(好ましくは、加熱水)を逐次添加しつつ、ホモジザイザー、ディスパーザー、クレアミックス等の公知の攪拌混合装置を用いて分散する方法を採用する。
【0070】
転相乳化を確認したら、残量の水を添加してエマルションを調製する。なお、エマルションを調製する際に添加される水も溶融した樹脂と同程度に加熱されていることが好ましい。
【0071】
エマルション粒子の平均粒径は0.1μm以上、30μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1μm以上、10μm以下である。この範囲であることより、エマルション化した樹脂液を、高濃度で低粘度とすることができ、かつ樹脂粒子が基材の繊維間へ侵入しやすくなり、塗布含浸性に優れたものとすることができる。さらに、金属箔表面に均一に樹脂粒子を付着させることができ塗布性に優れたものとすることができる。水性エマルション樹脂液の樹脂濃度が高いので、乾燥に費やすエネルギーを低減することができる。したがって、有機溶剤を実質的に使用しないことによる利点と共に、環境負荷の少ない処方を提供することができる。エマルション粒子の平均粒径が上記上限値より大きいと、分散したエマルション粒子が再凝集して分離沈殿することがある。
【0072】
上記のように、シアネート樹脂とエポキシ樹脂と乳化剤とを加熱溶融混合したものを水性エマルション樹脂液とすることにより、大きな設備投資が必要なく、樹脂液のハンドリング性に優れ、かつ繊維基材への含浸性に優れているので、有機溶剤を実質的に使用しない処方として極めて有用である。
【0073】
(b3)スラリー組成物および硬化剤を混合撹拌して分散液を調製する工程
本工程においては、工程(b2)において調製されるエマルションとは別に、前記工程(a3)において得られたスラリー組成物および硬化剤を混合撹拌して分散液を調製する。
【0074】
硬化剤としては、水に難溶性である硬化剤を用いることができる。このような硬化剤を用いることにより、加熱乾燥工程まで樹脂の硬化を抑制することができ、塗布液の保存安定性を向上させることができる。
【0075】
また、水に難溶性である硬化剤を用いた場合、水に易溶性の硬化剤と比較して、プリプレグの耐熱性及び電気特性がさらに向上する傾向が認められた。これは、以下の理由によると考えられる。
水に易溶性の硬化剤を用いた場合、プリプレグ作成に際して、塗布液中に溶解した硬化剤のみがガラスクロスの間隙を通過し、乳化粒子やフィラー等が通過しないことがある。つまり、ガラスクロス中において、硬化剤のみが分布する領域と、硬化剤と乳化粒子やフィラーとが共存する領域とが併存し、この共存する領域においては、樹脂に対する硬化剤の量が低下することがある。そのため、このようなガラスクロスから得られたプリプレグは、樹脂に対する硬化剤の量が低下している領域が存在するため樹脂組成物の硬化性が充分ではなく、その耐熱性及び電気特性に改善すべき点があった。例えば、ジシアンジアミド(水温15℃の水100gに対する溶解度が2.56g(14906の化学商品 化学工業日報社))を用いた場合、そのような現象が認められた。
【0076】
これに対して、前記のような水に難溶性の硬化剤として、水温15℃の水100gに対する溶解度が2g以下である硬化剤を用いた場合、硬化剤が塗布液中にほとんど溶解しておらず、硬化剤のみがガラスクロスの間隙を通過することがない。つまり、ガラスクロス中において、硬化剤と樹脂等とが所定の量比で存在するため充分な硬化性が得られ、プリプレグの耐熱性及び電気特性がさらに向上する。このような水に難溶性の硬化剤としては、酸無水物化合物、アミン化合物、イミダゾール化合物、及びノボラック型フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0077】
また、硬化促進剤を用いることもでき、そのようなものとして、イミダゾール化合物、第3級アミン化合物等を挙げることができる。硬化剤および硬化促進剤は、微粉砕したものをスラリー組成物に添加し撹拌混合することにより分散液を得ることができる。
【0078】
(b4)エマルションと分散液とを混合撹拌して塗布液を調製する工程
本工程においては、工程(b2)で調製されたエマルションと、工程(b3)で調製された分散液とを混合撹拌して塗布液を調製する。
【0079】
このように、本実施形態においては、エマルションと分散液とを別々に調製するため、一括して塗布液を調製する場合に比べ、温度や調製時間のような調製条件の自由度が向上し、調製条件を最適化することができる。これにより、塗布液中におけるシアネート樹脂、エポキシ樹脂、無機フィラーおよび硬化剤等の分散安定性を向上させることができ、塗布液を均一な組成で基材に付着させることができる。そのため、塗布液から得られる樹脂付き基材は電気的特性に優れる。
【0080】
なお、本実施形態において、塗布液には、必要に応じて、消泡剤やレベリング剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤、カップリング剤等の添加剤を配合することができる。以上のようにして、本実施形態の樹脂付き基材を得るために用いられる塗布液を得ることができる。
【0081】
(c)基材に塗布液を付着させる工程
以下、工程(c)を、プリプレグを調製する場合、樹脂付き金属箔を調製する場合において説明する。
本工程において、プリプレグを調製する場合、上記の塗布液を繊維基材に含浸させる。その方法としては、例えば、この塗布液をスプレーノズルなどの噴射装置を用いて基材に噴射して塗工する方法、樹脂液中に基材を浸漬する方法、ナイフコーター、コンマコーター等の各種コーターにより樹脂液を基材に塗工する方法、あるいは、転写ロールにより樹脂液を基材に転写する方法、などが挙げられる。
【0082】
これらの中でも、樹脂液を噴射装置により基材に噴射して塗工する方法では、噴射装置から噴射された樹脂液がエネルギーをもって基材に衝突するので、基材内への含浸性が向上して好ましい。
【0083】
なお、噴射装置を用いて樹脂液を基材に噴射して塗工する方法や、樹脂液中に基材を浸漬する方法などを適用する場合は、その方法のみによって行ってもよいし、担持する樹脂組成物量の調整やプリプレグ表面の平滑性を向上させるために、コンマコーター、ナイフコーター、スクイズロールなどを併せて用いることもできる。
【0084】
本発明のプリプレグの製造方法において使用される繊維基材としては、例えば、ガラス繊維、フッ素樹脂繊維、アラミド繊維等の織布あるいは不織布、紙、ガラス繊維不織布などがあり、これらの繊維チョップからなるマットなども使用することができる。
一方、本工程において、樹脂付き金属箔を調製する場合、例えば、前記塗布液をスプレーノズルなどの噴射装置を用いて金属箔に噴射して塗工する方法、ナイフコーター、コンマコーター等の各種コーターにより樹脂液を基材に塗工する方法、あるいは、転写ロールにより樹脂液を基材に転写する方法、などが挙げられる。
【0085】
(d)塗布液が付着した基材を乾燥する工程
本工程においては、以上のようにして塗布液を基材に付着させた後、これを加熱乾燥する。これにより、水が実質的に全て蒸発するとともに、樹脂成分等が溶融して低粘度化し、基材に均一に付着させることができる。なお、必要に応じて樹脂成分が半硬化状態になるまでさらに熱を加えてもよい。加熱乾燥は、通常100〜220℃、好ましくは120〜190℃で2〜10分間行う。
【0086】
また、樹脂付き基材に担持させる樹脂組成物の量(固形分)は、通常、樹脂付き基材(基材+樹脂組成物)全体に対して、40〜60質量%程度である。
【0087】
このような製造方法により得られた樹脂付き基材を加熱加圧成形することにより、積層板を製造することができる。加熱加圧成形は、従来の有機溶剤を使用した樹脂ワニスからのプリプレグを成形する場合と同様の条件で行うことができ、例えば、温度170〜200℃、圧力20〜40kg/cmにて100〜200分間加熱加圧する。このようにして、従来のものと同等の、ボイドのない耐熱性に優れた積層板を得ることができる。
【0088】
本実施形態の製造方法においては、有機溶剤を実質的に使用しないことから、省資源化、省エネルギー化、及び低コスト化が図られ、さらには作業環境の改善や大気汚染の低減にも寄与することができるものである。
【0089】
[実施例]
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、真球状シリカ粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱測定装置(堀場製作所製、「LA−750」)により測定した。
【0090】
[実施例1]
エポキシ樹脂としてビフェニル型エポキシ樹脂(NC−3000H、日本化薬株式会社製、軟化点70℃)を使用し、シアネート樹脂としてノボラック型シアネート樹脂(Primaset、PT−30、ロンザジャパン株式会社製、軟化点30℃)を使用した。さらに、乳化剤としてポリオキシエチレンアリールエーテル型界面活性剤(エマルゲンA−500、花王株式会社製)を使用した。
【0091】
エポキシ樹脂56.5gとシアネート樹脂100gとを、乳化剤10gとともに90℃に加熱し溶融混合した。ディスパーザーを用い、上記加熱溶融した樹脂を40mm攪拌羽根にて6000rpmで攪拌しつつ、90℃に加熱したイオン交換水20gを少量ずつ10分間かけて添加し、さらに40分間攪拌混合して転相乳化させた。さらに、90℃に加熱したイオン交換水40gを少量ずつ10分間かけて添加し、平均粒径0.7μmの水性エマルション樹脂液を調製した。
【0092】
また、平均粒径が0.5μmである乾燥した真球状シリカ粒子(SO−C2、アドマテックス社製、真球度0.99)169gに対して、真球状シリカ粒子の質量を基準として0.1質量%の親水性シランカップリング剤(KBM−403、信越化学工業社製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.169gを混合することで処理を行い、表面に表面処理層を形成し表面処理済みシリカ粒子とした。その後、イオン交換水73gに撹拌しながら、表面処理済みシリカ粒子を徐々に加えた。その後、ビーズミルにて処理を行って分散させた。更に5μmのフィルターを通過させて粗大粒子を除去したフィラー含有水スラリーを作成した。
【0093】
さらに、作成したフィラー含有水スラリーにフェノール樹脂(カヤハードGPH−103、日本化薬株式会社製)ジェットミルでの微粉砕品17.5gと、硬化促進剤(P−200K、ジャパンエポキシレジン株式会社製)0.06gとを撹拌混合して分散液を調製した。
【0094】
上述のようにして得られた水性エマルション樹脂液に、上記分散液を混合し含浸用塗布液を得た。得られた塗布液の安定性について評価した結果を表1に示す。
この含浸用樹脂液をガラスクロス(日東紡績株式会社製、WE116E−S136、厚み100μm)に含浸塗布し、170℃で5分間加熱乾燥してプリプレグを得た。プリプレグ中の樹脂液固形分は50質量%であった。
得られたプリプレグを用いて、両面に12μm銅箔を配置して200℃60分間加圧成形して積層板を成形した。成形した積層板の成形性と耐熱性、電気特性を表1に示す。
【0095】
[実施例2]
平均粒径が0.5μmである乾燥した真球状シリカ粒子(SO−C2、アドマテックス社製、真球度0.99)169gに対して、真球状シリカ粒子の質量を基準として1.0質量%の親水性シランカップリング剤(KBM−403、信越化学工業社製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)1.69gを混合することで処理を行い、表面に表面処理層を形成し表面処理済みシリカ粒子とした。その後、イオン交換水73gに撹拌しながら、表面処理済みシリカ粒子を徐々に加えた。その後、ビーズミルにて処理を行って分散させた。更に5μmのフィルターを通過させて粗大粒子を除去したフィラー含有水スラリーを作成した。
【0096】
フィラー含有水スラリーの調製以外は実施例1と同様にして、分散液を調製し、さらに塗布液を調製した。さらに、このようにして得られた塗布液を用い、実施例1と同様にしてプリプレグ、積層板を製造した。結果を表1に示す。
【0097】
[実施例3]
平均粒径が0.5μmである乾燥した真球状シリカ粒子(SO−C2、アドマテックス社製、真球度0.99)169gに対して、真球状シリカ粒子の質量を基準として3.0質量%の親水性シランカップリング剤(KBM−403、信越化学工業社製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)5.07gを混合することで処理を行い、表面に表面処理層を形成し表面処理済みシリカ粒子とした。その後、イオン交換水73gに撹拌しながら、表面処理済みシリカ粒子を徐々に加えた。その後、ビーズミルにて処理を行って分散させた。更に5μmのフィルターを通過させて粗大粒子を除去したフィラー含有水スラリーを作成した。
【0098】
フィラー含有水スラリーの調製以外は実施例1と同様にして、分散液を調製し、さらに塗布液を調製した。さらに、このようにして得られた塗布液を用い、実施例1と同様にしてプリプレグ、積層板を製造した。結果を表1に示す。
【0099】
[実施例4]
平均粒径が0.5μmである乾燥した真球状シリカ粒子(SO−C2、アドマテックス社製、真球度0.99)169gに対して、真球状シリカ粒子の質量を基準として3.0質量%の親水性シランカップリング剤(KBM−303、信越化学工業社製、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン:(CHO)SiCO)5.07gを混合することで処理を行い、表面に表面処理層を形成し表面処理済みシリカ粒子とした。その後、イオン交換水73gに撹拌しながら、表面処理済みシリカ粒子を徐々に加えた。その後、ビーズミルにて処理を行って分散させた。更に5μmのフィルターを通過させて粗大粒子を除去したフィラー含有水スラリーを作成した。
【0100】
フィラー含有水スラリーの調製以外は実施例1と同様にして、分散液を調製し、さらに塗布液を調製した。さらに、このようにして得られた塗布液を用い、実施例1と同様にしてプリプレグ、積層板を製造した。結果を表1に示す。
【0101】
[実施例5]
イオン交換水73gに親水性シランカップリング剤(KBM−403、信越化学工業社製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)5.07gを混合し透明になるまで攪拌した。得られた液に平均粒径が0.5μmである乾燥した真球状シリカ粒子(SO−C2、アドマテックス社製、真球度0.99)169gを徐々に投入攪拌した。その後、ビーズミルにて処理を行って分散させた。更に5μmのフィルターを通過させて粗大粒子を除去したフィラー含有水スラリーを作成した。
【0102】
フィラー含有水スラリーの調製以外は実施例1と同様にして、分散液を調製し、さらに塗布液を調製した。さらに、このようにして得られた塗布液を用い、実施例1と同様にしてプリプレグ、積層板を製造した。結果を表1に示す。
【0103】
[実施例6]
平均粒径が0.7μmである乾燥した真球状アルミナ粒子(AO−502、アドマテックス社製)169gに対して、真球状アルミナ粒子の質量を基準として3.0質量%の親水性シランカップリング剤(KBM−403、信越化学工業社製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)5.07gを混合することで処理を行い、表面に表面処理層を形成し表面処理済みアルミナ粒子とした。その後、イオン交換水73gに撹拌しながら、表面処理済みシリカ粒子を徐々に加えた。その後、ビーズミルにて処理を行って分散させた。更に5μmのフィルターを通過させて粗大粒子を除去したフィラー含有水スラリーを作成した。
【0104】
フィラー含有水スラリーの調製以外は実施例1と同様にして、分散液を調製し、さらに塗布液を調製した。さらに、このようにして得られた塗布液を用い、実施例1と同様にしてプリプレグ、積層板を製造した。結果を表1に示す。
【0105】
[比較例1]
イオン交換水73gに撹拌しながら、平均粒径が0.5μmである乾燥した真球状シリカ粒子(SO−C2、アドマテックス社製、真球度0.99)169gを粒子表面未処理のまま徐々に加えた。その後、ビーズミルにて処理を行おうとしたが、スラリーの凝集がひどく分散させることが出来なかった。結果を表2に示す。
【0106】
[比較例2]
平均粒径が0.5μmである乾燥した真球状シリカ粒子(SO−C2、アドマテックス社製、真球度0.99)169gに対して、真球状シリカ粒子の質量を基準として3.0質量%の疎水性シランカップリング剤(KBM−103、信越化学工業社製、フェニルトリメトキシシラン:CSi(OCH)5.07gを混合することで処理を行い、表面に表面処理層を形成し表面処理済みシリカ粒子とした。その後、イオン交換水73gに撹拌しながら、表面処理済みシリカ粒子を徐々に加えた。その後、ビーズミルにて処を行おうとしたが、スラリーがペースト状であり分散させることができなかった。ろ過もできなかった。結果を表2に示す。
【0107】
[比較例3]
平均粒径が0.5μmである乾燥した真球状シリカ粒子(SO−C2、アドマテックス社製、真球度0.99)169gに対して、真球状シリカ粒子の質量を基準として3.0質量%の疎水性シランカップリング剤(KBM−503、信越化学工業社製、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン:(MeO)SiCCOC(CH)=CH)5.07gを混合することで処理を行い、表面に表面処理層を形成し表面処理済みシリカ粒子とした。その後、イオン交換水73gに撹拌しながら、表面処理済みシリカ粒子を徐々に加えた。その後、ビーズミルにて処理を行おうとしたが、スラリーがペースト状であり分散させることができなかった。ろ過もできなかった。結果を表2に示す。
【0108】
[比較例4]
平均粒径が2.9μmである乾燥した破砕シリカ粒子(FS−3DC、電気化学工業社製)169gに対して、破砕シリカ粒子の質量を基準として3.0質量%の親水性シランカップリング剤(KBM−403、信越化学工業社製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)5.07gを混合することで処理を行い、表面に表面処理層を形成し表面処理済みシリカ粒子とした。その後、イオン交換水73gに撹拌しながら、表面処理済みシリカ粒子を徐々に加えた。その後、ビーズミルにて処理を行って分散させたようとしたが、スラリーがペースト状となり分散させることが出来なかった。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
また、この結果から、本発明の製造方法により成形性、耐熱性および電気特性に優れた樹脂付き金属箔および積層板が得られることがわかる。
【0112】
(評価方法)
(1)スラリー安定性:以下の基準にて評価を行った。
◎ 5℃保管2ヶ月後において変化が認められず使用することができた。
○ 5℃保管1ヵ月後において変化が認められず使用することができた。
× スラリー作成時においてペースト状となり使用することができなかった。
【0113】
(2)塗布液安定性:以下の基準にて評価を行った。
◎ 5℃保管2ヶ月後において変化が認められず使用することができた。
○ 5℃保管1ヵ月後において変化が認められず使用することができた。
× 塗布液作成時において凝集が発生し使用することができなかった。
【0114】
(3)成形性:以下の基準にて評価を行った。
○ 成形後にボイドが認められなかった。
× 成形後にボイドが認められた。
【0115】
(4)電気特性:JIS C 6481に準じて絶縁抵抗を測定し、以下の基準にて評価を行った。
○ 絶縁抵抗値が10Ω以上であった。
× 絶縁抵抗値が10Ω未満であった。
【0116】
(5)耐熱性:JIS C 6481に準じて測定し、以下の基準にて評価を行った。
○ 外観で膨れ・剥がれが認められなかった。
× 外観で膨れ・剥がれが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略真球状の金属酸化物微粒子と、該金属酸化物微粒子表面の金属酸化物と親水性シランカップリング剤とを反応させることで形成された表面処理層とを備えるフィラー、および水を含有するスラリー組成物を調製する工程と、
前記スラリー組成物、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂100質量部に対して16質量部以上30質量部以下の乳化剤、硬化剤および水を含有する塗布液を調製する工程と、
基材に前記塗布液を付着させる工程と、
前記塗布液が付着した基材を乾燥する工程と、
を含むことを特徴とする樹脂付き基材の製造方法。
【請求項2】
前記スラリー組成物を調製する前記工程が、
金属粉末に酸素を反応させて前記金属酸化物微粒子を調製する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項3】
前記スラリー組成物を調製する前記工程が、
VMC(Vaporized Metal Combustion)法により前記金属酸化物微粒子を調製する工程を含むことを特徴とする請求項1または2記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物微粒子の真球度が0.8以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物は、シリカ、アルミナ、チタニア内包シリカ、ジルコニア内包シリカ、ムライト、スピネル及びチタニアからなる群から1種以上選択されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項6】
前記スラリー組成物を調製する前記工程が、
前記親水性シランカップリング剤を前記金属酸化物微粒子の質量を基準として、0.1質量%以上、5質量%以下の量で反応させて前記表面処理層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項7】
前記親水性シランカップリング剤はエポキシシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項8】
前記親水性シランカップリング剤はグリシジル基を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項9】
前記フィラーは、前記スラリー組成物全体の質量を基準として30質量%以上95質量%以下の割合で含有されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項10】
前記塗布液を調製する前記工程が、
乳化剤によりシアネート樹脂およびエポキシ樹脂を水中に乳化させてエマルションを調製する工程と、
前記スラリー組成物および硬化剤を混合撹拌して分散液を調製する工程と、
前記エマルションと前記分散液とを混合撹拌して前記塗布液を調製する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項11】
前記エマルションを調製する前記工程が、
シアネート樹脂とエポキシ樹脂と乳化剤とを溶融混合する工程と、
前記工程により得られた溶融混合物に水を添加して転相乳化するとともに、さらに水を添加して前記エマルションを調製する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項12】
前記硬化剤は、難水溶性であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項13】
前記シアネート樹脂および前記エポキシ樹脂の合計量100質量部に対して、前記乳化剤を1質量部以上、10質量部以下含むことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項14】
前記シアネート樹脂100質量部に対して、前記エポキシ樹脂を20質量部以上、200質量部以下含むことを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の樹脂付き基材の製造方法。
【請求項15】
略真球状の金属酸化物微粒子と、該金属酸化物微粒子表面の金属酸化物と親水性シランカップリング剤とを反応させることで形成された表面処理層とを備えるフィラー、および水を含有するスラリー組成物を調製する工程と、
前記スラリー組成物、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂100質量部に対して16質量部以上30質量部以下の乳化剤、硬化剤および水を含有する塗布液を調製する工程と、
繊維基材に前記塗布液を含浸させる工程と、
前記塗布液が含浸した前記繊維基材を乾燥する工程と、
を含むことを特徴とするプリプレグの製造方法。
【請求項16】
略真球状の金属酸化物微粒子と、該金属酸化物微粒子表面の金属酸化物と親水性シランカップリング剤とを反応させることで形成された表面処理層とを備えるフィラー、および水を含有するスラリー組成物を調製する工程と、
前記スラリー組成物、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂100質量部に対して16質量部以上30質量部以下の乳化剤、硬化剤および水を含有する塗布液を調製する工程と、
金属箔表面に前記塗布液を付着させる工程と、
前記塗布液が付着した前記金属箔を乾燥する工程と、
を含むことを特徴とする樹脂付き金属箔の製造方法。

【公開番号】特開2008−184472(P2008−184472A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16277(P2007−16277)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】